以下、添付図面に従って、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
(本発明の原理)
処理液およびインクを記録媒体に付与することで記録媒体に画像を形成する場合について、本発明の原理を説明する。ここで、処理液は、インクが不溶化または凝集する反応(以下「2液反応」ということもある)を生じさせる液体である。
ここでは、説明の便宜上、3色のインクを記録媒体に付与する場合を例に説明するが、本発明はこのような場合には限定されない。インクは何種類でもよい。インクを1色(例えば黒)のみ打滴する場合でも、本発明を適用できる。また、説明の便宜上、1種類の処理液を記録媒体に付与する場合を例に説明するが、本発明はこのような場合には限定されない。処理液を2種類以上付与してもよい。また、処理液の付与方法は、特に限定されない。例えば、打滴により処理液を付与してもよい。
例えば、まず、インクを凝集させる処理液を記録媒体に塗布し、次に、第1色としてシアン(C)色のインクを記録媒体に向けて打滴し、次に、第2色としてマゼンタ(M)色のインクを記録媒体に向けて打滴し、次に、第3色としてイエロー(Y)色のインクを記録媒体に向けて打滴することにより、記録媒体上に画像を形成する。このように、少なくとも処理液およびインクを含む2液以上の液体を用いて行う画像形成を、本明細書では、2液反応型の画像形成という。
図1(A)は、下層網40%の場合について、各色ごとに、環境温度変動に対するドット径の変動を示す。符号911は第1次色、符号912は第2次色、符号913は第3次色について、それぞれドット径変動を示す。図1(B)は、下層網60%の場合について、各色ごとに、環境温度変動に対するドット径の変動を示す。符号921は第1次色、符号922は第2次色、符号923は第3次色について、それぞれドット径変動を示す。なお、処理液を記録媒体上に一様の厚さで塗布した後、第1次色、第2次色、第3次色の順にインクを打滴した。下層網%は、先行して打滴された単位面積あたりのインク量(濃度)を示す。
2液反応が化学反応であるため、環境温度が高いほどインクの反応が促進され、記録媒体に着弾したインクは小さなドットを作る。また、環境温度変動に伴うインク粘度の変化よりも化学反応変化の影響が大きい。
図1(A)にて、符号911の線よりも符号912の線の方が上であり且つ傾きが大きい。また、符号912の線よりも符号913の線の方が上であり且つ傾きが大きい。図1(B)にて、符号921の線よりも符号922の線の方が上であり且つ傾きが大きい。また符号922の線よりも符号923の線の方が上であり且つ傾きが大きい。この様に、第1次、第2次、第3次という打滴順に因り、ドット径の変動特性が異なってくる。2液反応型の画像形成にて、先行して打滴されるインクには、記録媒体に付与された処理液が十分に供給されるので、2液反応は進み、その結果、小さなドットが形成される。これに対して、後続して打滴されるインクには、下層のインクによる処理液の消費が行われた後であること、および、下層インクにより処理液の移動が阻害されることにより、処理液が十分に供給されず、2液反応は遅れ、その結果、大きなドットが形成されることを示している。高次色になるほど、環境温度変動量に伴うインクの反応速度の変動に因り、ドット径変動量の比|Δd/ΔT|(ドット径の温度依存係数の絶対値)が大きくなる。
図2(A)は、第2次色のインクについて、下層(第1次色インクからなる第1層)の網%の変動に対するドット径の変動を示す(符号931)。図2(B)は、第3次色のインクについて、下層(第1次色インクからなる第1層および第2次色インクからなる第2層)の網%の変動に対するドット径の変動を示す(符号941)。なお、処理液を記録媒体上に一様の厚さで塗布した後、第1次色、第2次色、第3次色の順にインクを打滴した。
2液反応型の画像形成では、先行打滴の単位面積あたりのインク量(または画像濃度)により、処理液の消費量と移動量が異なり、その結果として色変動が生じる。
また、図2(A)の符号932の線および図2(B)の符号942の線に示されるように、下層網%が大きくなるほど、環境温度変動量に対するドット径の変動量の比|Δd/ΔT|(ドット径の温度依存係数の絶対値)が大きくなる。
図3は、単位面積あたりの処理液量の変動に対するドット径の変動を示す。図3に示すように、単位面積あたりの処理液量が大きくなるほど、ドット径が小さくなる。なお、処理液付与量は、記録媒体の種類により異なってくる。例えば、マットコート紙は、グロスコート紙よりも、処理液の付与量が大きくなり、ドット径は小さくなる。
以上説明したように、2液反応型の画像形成では、インクの反応速度の変動に因り色変動が生じる。第1に、環境温度が大きいほど、ドット径が小さくなる。第2に、高次色ほど、すなわち記録媒体に付与される順番が後であるインクの色ほど、ドット径が大きくなる。また、高次色ほど、環境温度の変動量に対するドット径変動量の比|Δd/ΔT|が大きくなる。第3に、インクの下層網%が大きいほど、すなわち記録媒体上で先に付与された単位面積あたりのインク量が大きい領域ほど、ドット径は大きくなる。また、インクの下層網%が大きいほど、環境温度の変動量に対するドット径変動量の比|Δd/ΔT|が大きくなる。第4に、記録媒体に付与された単位面積あたりの処理液量が大きいほど、ドット径は小さくなる。また、単位面積あたりの処理液量が小さいほど、環境温度変動量に対するドット径変動量の比|Δd/ΔT|が大きくなる。
そこで、本発明では、画像形成時の環境条件に基づいて画像データの色の濃度を変えることで、インクの反応速度の変動に因る画像形成時の色変動を補正する。
補正処理では、第1に、環境温度が大きいほど、画像データの各色ごとの濃度値を大きくする。第2に、記録媒体上で異なる色のインク同士が重なる場合、記録媒体に付与される順番が後であるインクの色(高次色)ほど、画像データの各色ごとの濃度値を小さくする。また、高次色ほど、環境温度の変動量に対する画像データの各色ごとの濃度値の変化量の比を大きくする。第3に、記録媒体に先に付与されるインクの単位面積あたりのインク量(下層網%)が大きい領域ほど、画像データの各色ごとの濃度値を小さくする。また、インクの下層網%が大きいほど、環境温度の変動量に対する画像データの各色ごとの濃度値の変化量の比を大きくする。第4に、記録媒体に付与される単位面積あたりの処理液量が大きいほど、画像データの各色ごとの濃度値を大きくする。また、記録媒体に付与される単位面積あたりの処理液量が小さいほど、環境温度の変動量に対する画像データの各色ごとの濃度値の変化量の比を大きくする。記録媒体の種別に基づいて、画像データの各色ごとの濃度値を補正してもよい。
なお、「色変動」は、本明細書にて、時間的な色変動および空間的な色変動の両方を含む。例えば、同一の画像データに基づいて複数枚の記録媒体に画像を形成した場合に記録媒体間で色が変化することや、同一の画像データにて同一の濃度値を有する複数の画素を含む画像を形成した場合に同一の記録媒体上で色が変化することを含む。
(第1実施形態)
図4は、第1実施形態に係る画像形成システムの一例を示すブロック図である。
図4において、コンピュータからなるホスト1(「ホストコンピュータ」ともいう)と、画像形成装置としてのプリンタ10を含んで、画像形成システムが構成されている。
家庭用と違って業務用のプリンタの場合、画像データを作る部署(製版部門)と、記録媒体への画像形成を行う部署(印刷部門)とが異なることが多い。例えば、都心に製版部門があり、郊外あるいは地方に印刷部門があって、製版部門のホスト1と印刷部門のプリンタ10とは、高速通信回線を介して接続されている。
本実施形態にて、ホスト1は、プリンタ10に対して送信する画像データ(「送信画像データ」ともいう)を作成する画像データ作成部2と、画像データ作成部2にて作成された画像データをプリンタ10に対して送信する通信部4を含んで、構成されている。
本例にて、送信画像データは、ラスタ形式の画像データである。プリンタ10がC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の4色インク機である場合、送信画像データは、C、M、Y、Kの各色ごとの濃度値(例えば8bitの多階調値)を有する画素(ドット)の集合によって構成されている。
ホスト1の画像データ作成部2では、例えば、ラスタライズ処理、色変換処理、階調変換処理などの各画像処理を行う。本例にて、画像データ作成部2は、CPU(Central Processing Unit)およびRIP(Raster Image Processor)を含んで構成されている。ラスタライズ処理では、ラスタ形式以外のデータをラスタ形式の画像データに変換する。色変換処理では、色座標(例えば、RGB座標、CMYK座標、L*a*b*座標)間の変換、プリンタ10の種類の違いに因るデバイス間の色再現域の違いを補正する色変換などを行う。階調変換処理では、例えばユーザの好みに従って、各色(例えばC、M、Y、K)の濃度値(多階調値)を変換する処理等を行う。
また、ホスト1の画像データ作成部2は、標準の環境条件(例えば温度25℃の環境条件)に最適化する画像処理(例えば色変換処理、階調変換処理)を行う。
ホスト1の画像データ作成部2により作成された送信画像データは、通信部4によりプリンタ10に対して送信される。また、ホスト1は、画像データの送信後、画像出力指示を示す制御信号をプリンタ10に対して送信する。
また、ホスト1は、インクの反応速度の変動に因る色変動を補正する色補正用の補正データを、必要に応じて、プリンタ10に対して送信する機能を有する。
本実施形態にて、プリンタ10は、通信部12、データ保存部14、色補正部16、出力データ作成部18、データキャッシュ20、ヘッドドライバ22、ヘッド24、環境条件検出部26、環境変動判断部28、および、コントローラ30を含んで構成されている。
通信部12は、ホスト1から送信される各種データを受信する。
データ保存部14は、例えばRAM(Random Access Memory)によって構成されており、ホスト1から受信したデータを保存する。
第1に、データ保存部14は、画像データの各色(例えばC、M、Y、K)ごとの濃度値の補正に用いる補正データを記憶する。本例のデータ保存部14は、画像形成時に可能性がある範囲内の環境条件に対応する補正データを記憶する。例えば、許容下限温度から許容上限温度までの許容範囲内にて、一定の温度間隔(例えば2.5℃)ごとの環境温度にそれぞれ対応した複数の補正データ(例えば20℃用、22.5℃用、25℃用、27.5℃用、30℃用の補正データ)を記憶する。基準環境温度(例えば25℃)と他の環境温度との差分に応じた差分補正データ、または、隣接する環境温度同士の差分に応じた差分補正データを記憶するようにしてもよい。
第2に、データ保存部14は、ホスト1から送信された画像データを記憶する。本例のデータ保存部14は、後述の色補正部16による色補正処理前の画像データを記憶する。
色補正部16は、ホスト1から送信されてプリンタ10のデータ保存部14に保存されている画像データに対して、後述の環境条件検出部26にて検出された環境条件に基づいて画像データの色の濃度を補正する色変換処理を行うことで、環境変動に伴うインクの反応速度の差異に因る記録媒体上の画像の色変動を補正する色補正処理を施す。
第1に、色補正部16は、環境温度が大きいほど、画像データの各色ごとの濃度値(本例では多階調値)を大きくする。第2に、色補正部16は、記録媒体上で異なるインク同士(例えばCとM、MとY、CとY)が重なる場合、記録媒体に打滴される順番が後であるインクの色ほど、画像データの各色ごとの濃度値を小さくする。また、高次色ほど、環境温度の変動量ΔTに対する画像データの各色ごとの濃度値の変化量Δdの比|Δd/ΔT|を大きくする。第3に、色補正部16は、記録媒体に先に打滴されたインクの単位面積あたりのインク量(下層網%)が大きい領域ほど、後に打滴されたインクの色の濃度値を小さくする。また、インクの下層網%が大きいほど、環境温度の変動量ΔTに対する各色ごとの濃度値の変化量Δdの比|Δd/ΔT|を大きくする。第4に、色補正部16は、記録媒体に付与される単位面積あたりの処理液量が大きいほど、画像データの各色ごとの濃度値を大きくする。また、記録媒体に付与される単位面積あたりの処理液量が小さいほど、環境温度の変動量ΔTに対する各色ごとの濃度値の変化量Δdの比|Δd/ΔT|を大きくする。記録媒体の種別に基づいて、画像データの各色ごとの濃度値を補正してもよい。
本例の色補正部16は、データ保存部14に記憶されている補正データのうちから、後述の環境条件検出部26にて検出された環境条件に対応する補正データを選択する。例えば、標準環条件と検出された環境条件(画像形成開始時の環境条件)とを比較し、この比較結果に基づいて、補正データを選択する。本例の補正データは、画像データの各色ごとの濃度値を変換する入出力特性(色変換特性)を示す。選択された補正データを用いて、画像データの各色ごとの濃度値を変える色変換処理を実行する。
出力データ作成部18は、通信部12にて受信した画像データであって色補正部16にて補正処理が施された画像データから、ヘッドドライバ22に与える打滴用の画像データ(「出力データ」という)を作成する。
本例の出力データ作成部18は、γ補正部182、ムラ補正部184およびハーフトーン処理部186を含んで構成されている。γ補正部182では、電子回路部品の性能の相違や劣化等に因る出力機(プリンタ10)の階調変動を補正する。例えば、各色ごとの1D−LUT(1次元ルックアップテーブル)を用いて階調値補正を行う。ムラ補正部184では、ヘッド24の吐出性能ばらつきを補正することで、記録媒体上の色ムラを補正する。例えば、ヘッド24のノズル(後述する図17のノズル51)毎に、1D−LUTを用いて色ムラ補正を行う。ハーフトーン処理部186では、多階調値(例えば8bit)からなる画像データを、ヘッド24のノズル51で吐出可能な階調数(例えば2ビット)の画像データに変換するハーフトーニング処理を行う。例えば、誤差拡散法あるいは閾値マトリクス法などを用いて、ハーフトーニング処理が実行される。
データキャッシュ20は、例えばRAM(Random Access Memory)により構成され、出力データ作成部18にて作成される出力データを一時的に記憶する。
ヘッドドライバ22は、出力データを、ヘッド24に与える駆動信号に変換する。
ヘッド24に駆動信号が与えられることで、ヘッド24は、処理液およびインクを記録媒体に向けて打滴(吐出)する。これにより、記録媒体に画像が形成する。
環境条件検出部28は、環境温度、環境湿度などの環境条件を検出する。例えば、温湿度計により構成されている。
環境変動判断部28は、環境条件検出部26にて検出される環境条件の変動が、色補正部16にて色補正された画像データの許容範囲内であるか否かを判断する。
コントローラ30は、プリンタ10の各部を統括して制御する。コントローラ30は、環境変動判断部28にて環境条件の変動が色補正済みの画像データの許容範囲内であると判断されたときには、データキャッシュ20に記憶されている出力データをヘッドドライバ22に与える制御を行う。その一方で、コントローラ30は、環境変動判断部28にて環境条件の変動が色補正済みの画像データの許容範囲外であると判断されたときには、色補正部16により現在の環境条件に対応する色補正を行い、色補正された画像データに基づいて出力データ作成部18にて新たに作成された出力データを、データキャッシュ20を介してヘッドドライバ22に与える制御を行う。
なお、図4に記載のプリンタ10では、ヘッドドライバ22およびヘッド24によって、本発明における画像形成手段が構成されている。また、本例のプリンタ10にて、環境変動判断部28、およびコントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)によって構成されている。
環境条件検出部26の配設位置は、特に限定されないが、図5に示すように、インクが記録媒体上に着弾する位置の近傍が、好ましい。本例の環境条件検出部26は、ヘッド24に対向して回転する回転体36の表面層の近傍に、回転体36から離間して配設されている。すなわち、本例の環境条件検出部26は、記録媒体に着弾したインクが2液反応を生じる位置(以下「描画位置」または「反応位置」という)の近傍に配設されており、記録媒体上の画像形成時の環境温度(以下「描画温度」という)を検出する。回転体36の表面層に配設してもよい。
例えば、放射温度計で、描画温度を計測する。描画位置の周囲の空気の温度を、熱電対などの温度測定器で測定してもよい。描画位置と相関のあるプリンタ10の筐体内の他の部位の測定温度、または、プリンタ10の筐体外の測定温度を、描画温度に換算して求めてもよい。
図6は、図4に示した画像形成システムにおける画像形成処理の一例の流れを示すフローチャートである。この処理は、プリンタ10を構成するCPUによって、プログラムに従って、実行される。
ステップS1にて、プリンタ10の通信部12により、ホスト1から画像データを受信する。
ステップS2にて、プリンタ10のデータ保存部14により、ホスト1から受信した画像データを保存する。
ステップS3にて、プリンタ10の通信部12により、ホスト1から出力指示を受信すると、プリンタ10の環境条件検出部26により、環境温度などの環境条件を検出する。本例では、記録媒体上の環境温度を検出する。なお、環境条件は、温度に限定されず、湿度等、描画(画像形成)に影響を与える他の環境条件を含む。
ステップS4にて、プリンタ10の色補正部16により、現在の環境条件に基づいて、画像形成時のインクの反応速度の差異に因る色変動を補正する補正処理を施す。例えば、標準の環境条件と検出された現在の環境条件との差分を算出し、その差分に基づいて補正データを選択し、この補正データを用いて色変換処理を実行する。
ステップS5にて、プリンタ10の出力データ作成部18により、色補正部16にて補正処理が施された画像データに対して、γ補正処理、ムラ補正処理、ハーフトーン処理などの出力データ作成処理が施される。出力データは、データキャッシュ20に記憶される。
ステップS6にて、ヘッドドライバ22に出力データが与えられ、ヘッドドライバ22からヘッド24に駆動信号が与えられる。これにより、ヘッド24から、処理液が打滴された後、各色(例えばC、M、Y)のインクが記録媒体に向けて順次打滴されて、記録媒体に画像が形成される。
なお、業務用のプリンタでは、同一の画像を複数枚の記録媒体に形成するプリントジョブが多い。このようなプリントジョブの場合、図7のフローチャートに示す画像形成処理を行う。
ステップS11〜S13は、図6のステップS1〜S3と同じである。
ステップS14にて、一枚目の画像形成であるか2枚目以降の画像形成であるかを判定し、一枚目の画像形成である場合には、ステップS15〜S17を実行する。これらのステップS15〜S17は、図6のステップS4〜S6と同じである。
ステップS14にて2枚目以降の画像形成である場合には、ステップS21に進む。
ステップS21にて、現在の環境条件とデータキャッシュ20に記憶されている出力データ環境条件との差分を算出して、環境変動を判断する。
ステップS22にて、環境変動の判断結果に基づいて、現在の画像データでよいか否かを判定する。現在選択されている画像データでよいと判定された場合には、ステップS17に進み、画像データの変更が必要な場合には、ステップS15に進む。
ステップS17にて、データキャッシュ20から作成済みの出力データを取得して、画像形成を行う。
データ保存部14に保存されている複数種類の補正データのうちで、色補正済みの画像データよりも現在の環境条件に適した補正データが在る場合には、その補正データを用いて新しく色変換処理が実行され(ステップS15)、出力データが新たに作成されて(ステップS16)、画像形成が行われる(ステップS17)。
例えば、出力データが22.5℃用の補正データから作成されている場合、すなわち出力データ作成条件が22.5℃である場合、環境温度が24.5℃まで上昇したとすると、色補正済みの22.5℃用の画像データよりも25℃用の画像データを用いたほうが目的の色に近い画像が形成されると判断されて、データ保存部14から25℃用の画像データを取り出して色補正する。これにより、出力データ作成部18に25℃用の画像データが入力される。
ステップS18にて、全枚数終了したと判定された場合には、本処理を終了する。
なお、ハーフトーン処理前に色補正を行う場合を例に説明したが、本発明はこのような場合に特に限定されず、ハーフトーン処理後に色補正を行ってもよい。この場合には、例えば、一定領域を設定し、その領域毎に含まれる複数個の階調値の数を調整することで、色補正を行う。
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態に係る画像形成システムの一例を示すブロック図である。なお、図8において、図4に示した第1実施形態の画像形成システムと同じ部分は、同じ符号を付してあり、その説明を省略する。
図8において、プリンタ10は、ヒータ32(温調手段)と、記録媒体に着弾したインクが2液反応を生じるときの温度(描画温度)をヒータ32により制御する描画温度制御部34を備える。本例のヒータ32は、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する電熱器である。描画温度制御部34は、ヒータ32を駆動する駆動回路を含んで構成されている。
図9に示すように、本例のヒータ32は、ヘッド24に対向して配置され、記録媒体を保持して回転する回転体36の表面層に配設されている。ヒータ32の配設位置は、特に限定されないが、インクが記録媒体上に着弾する位置の近傍が、好ましい。すなわち、記録媒体上のインクに2液反応が生じる位置(描画位置)の近傍に配設する。回転体36から離間させて配設してもよい。
プリンタ10の筐体外の温度が大きく変化している環境にプリンタ10が設置された場合、その温度変化に応じて、プリンタ10の筐体内の描画位置の温度も変化する。その温度変化の影響を低減するために、図9に示したように、描画位置の温度を、ヒータ32を用いて温調することが、好ましい。
[補正処理]
以下では、色補正部16にて行う補正処理の具体例を詳述する。
図10(A)〜(C)を用いて、色補正部16による色補正処理の一例を説明する。
図10(A)は第1次色(例えばC)の濃度値に対する入出力特性(色変換特性)、図10(B)は第2次色(例えばM)の濃度値に対する入出力特性、図10(C)は第3次色(例えばY)の濃度値に対する入出力特性を、それぞれ模式的に示す。
図10(A)〜(C)にて、符号800、810、820は標準環境温度T0(例えば25℃)での入出力特性を示し、符号801、811、821は標準環境温度T0+2.5℃での入出力特性を示し、符号802、812、822は標準環境温度T0+5.5℃での入出力特性を示す。
なお、発明の理解を容易にするため、入出力特性を直線で描いたが、入出力特性は適宜定めてよい。
図10(A)〜(C)に示すように、環境温度が大きいほど、出力値(OUT)が大きい。例えば、図10(A)にて、符号800の線、符号801の線、符号802の線の順で、出力値(OUT)が大きい。すなわち、環境温度が大きいほど、出力濃度値を大きくする。
また、打滴される順番が後であるインクの色(高次色)ほど、出力値(OUT)が小さい。例えば、図10(A)の符号800の線、図10(B)の符号810の線、図10(C)の符号820の線の順で、出力値(OUT)が大きい。
また、打滴される順番が後であるインクの色(高次色)ほど、隣接する環境温度間での出力値(OUT)の差分が大きい。例えば、図10(A)のΔd1、図10(B)のΔd2、図10(C)のΔd3順で、大きい。
図10(A)〜(C)に示した入出力特性を有する補正データを用いることで、次のような色補正が実行される。
第1に、環境温度が大きいほど、画像データの各色ごとの濃度値(多階調値)を大きくする。第2に、記録媒体上で異なるインク同士(例えばCとM、MとY、CとY)が重なる場合、記録媒体に打滴される順番が後であるインクの色(高次色)ほど、画像データの各色ごとの濃度値を小さくする。第3に、高次色ほど、環境温度の変動量ΔT(本例では2.5℃)に対する画像データの各色ごとの濃度値の変化量Δdの比|Δd/ΔT|を大きくする。
なお、本発明の原理でも説明したように、下層網%に基づいて、各色ごとの濃度値を補正してもよい。
また、ドット径変化による色度変化は、処理液の塗布量に依存する。その処理液の塗布量は、記録媒体の種別(例えば用紙種)や環境温度、環境湿度に依存する。したがって、色補正のための補正データを、単位面積あたりの処理液量および記録媒体の種別および環境温度および環境湿度のうち少なくともひとつに依存したものとして作成すると、補正の精度が向上するので、好ましい。
以下では、補正データの各種方式について、説明する。
<多次元ルックアップテーブル方式>
全色領域にわたって高精度で色変換できる方式として、多次元ルックアップテーブルを用いる方式が挙げられる。デバイス間の色再現域の違いを補正するCMM(カラー・マネジメント・モジュール)で一般的に使用される方法である。
例えば、図11に示すように、プリンタ10にCMYK信号からなる画像データが入力された場合、多次元(本例では4次元)のルックアップテーブル(格子点データ)を用いるとともに、格子点間を補う補間処理を行って、C’M’Y‘K’信号からなる補正後の画像データを出力する。多次元ルックアップテーブルは、ICC(International Color Consortium)の標準規格であるICCプロファイルに相当する。
4D−LUT(4次元ルックアップテーブル)は、いわゆるカラーマッチングと同様の作業で、事前に作成される。すなわちターゲット色空間を標準環境条件での色再現域とし、プリンタプロファイルをある環境条件(例えば標準環境条件+10℃)の色再現域とし、デバイスリンクプロファイルを作成する。
具体的には、図12の左側に示すように、標準環境条件にてテストパターン(標準環境条件用チャート)の画像形成を行い(ステップS31)、形成された画像の色度測定を行い(ステップS32)、測定結果に基づいてCMYK信号からL*a*b*信号への変換テーブルを作成する(ステップS33)。その一方で、図12の右側に示すように、各環境条件にてテストパターン(特定環境条件用チャート)の画像形成を行い(ステップS34)、形成された画像の色度測定を行い(ステップS35)、測定結果に基づいて、L*a*b*信号からC’M’Y’K’信号への変換テーブルを作成する(ステップS36)。そして、ステップS33およびS36にて作成した2つの変換テーブルに基づいて、CMYK信号からC’M’Y’K’信号へ変換するための4D−LUTを作成する(ステップS37)。このようにして、各環境条件ごとの4D−LUTが作成される。
例えば、仮に、プリンタ10が使用される環境温度の範囲が20〜30℃であって、標準環境温度を25℃とし、色変化を認識することができない環境温度の許容変動範囲を5℃とする。また、環境温度の許容変動範囲の半分(2.5℃)の刻みで補正用の4D−LUT(4次元ルックアップテーブル)を事前に作成する。この場合、20℃、22.5℃、25℃、27.5℃、および、30℃にそれぞれ対応する5種類の4D−LUTが作成される。そして、環境変動判断部28の判断に従って4D−LUTを切り替え、画像データの補正処理を行う。
なお、環境温度の刻みを色変化視認の許容温度範囲(5℃)の半分(2.5℃)にしたのは、環境温度変動に対する画像の色合わせ精度をより高くするためであり、色合わせ精度の高さと処理の負荷との兼ね合いで、環境温度の刻みを適宜定めてよい。例えば、環境温度の刻みを色変化視認の許容温度と同じにしてもよい。
<マトリックス演算方式>
環境条件の変動量が少ないと仮定すると、より簡便な方法で色変換を実施することが可能である。このような簡便な方法として、マトリックス演算方式が挙げられる。
図13にて、マトリックス係数aij(a00〜a33)からなるマトリックスは、標準環境状態での画像データ値(C,M,Y,K)に対して、環境変動時での画像データ値(C’,M’,Y’,K’)との誤差の2乗和が最小になる変数として、求めることができる。比較的簡単な積和演算で実施可能なので、ハードウエア化も容易である。なお、色変換特性が線形マトリックス関係からずれる場合、一部の色領域で部分的な誤差が発生する場合もあるが、簡便な方法として各環境条件毎にマトリックスを作成し、環境変動判断部28の判断に従いマトリックスを切り替えて補正処理を行ってもよい。
<1次元ルックアップテーブル方式>
最も簡便な方式として、図14に示すような各色毎の一次元のルックアップテーブル(1D−LUT)を用いる方式が挙げられる。
例えば、特許第4061007号公報(特に図10(A)〜(C))に開示されているように、単色を重ねあわせたグレーのバランスをとる階調補正曲線を用いる。特定色相として、色変化がわかりやすいグレーに着目することが好ましいが、プリンタの特性により色変化が最も大きい色、重要色(例えば、肌、緑、青)等に着目してもよい。
例えば、図15にて、特定色相に対して複数のパッチを選び標準環境条件および特定環境条件でそれぞれチャート出力(ステップS41、S43)および色度測定(ステップS42、S46)を行い、特定色相の各濃度に対する目標色度を算出する。特定環境条件については、L*a*b*座標からC’M’Y’K’座標への変換テーブルを作成しておく(ステップS45)。そして、変換テーブル(L*a*b*→CMYK)を用いて、標準環境条件の目標色度を再現するCMYK値を算出する(ステップS46)。この処理を特定色相の複数の濃度値に対して行うことによって、1次元の階調補正曲線(1D−LUT)を得る。
〔画像形成装置の構成例〕
次に、上述したプリンタ10(画像形成装置)の例について説明する。
図16は、本発明に係る画像形成装置が適用されたインクジェット記録装置の一例を示す全体構成図である。図16に示すインクジェット記録装置100は、インク及び処理液を用いて、記録媒体114上に画像形成を行う2液反応型の画像形成装置である。
インクジェット記録装置100は、主として、記録媒体114を供給する給紙部102と、記録媒体114に対して浸透抑制剤を付与する浸透抑制剤付与部104と、記録媒体114に処理液を付与する処理液付与部106と、記録媒体114にインクを打滴するインク打滴部108と、記録媒体114上に形成された画像を定着させる定着部110と、画像が形成された記録媒体114を搬送して排出する排紙部112を備えて構成される。
給紙部102には、記録媒体114を積載する給紙台120が設けられている。給紙台120の前方(図16において左側)にはフィーダボード122が接続されており、給紙台120に積載された記録媒体114は1番上から順に1枚ずつフィーダボード122に送り出される。フィーダボード122に送り出された記録媒体114は、渡し胴124aを介して、浸透抑制剤付与部104の圧胴(浸透抑制剤剤ドラム)126aに受け渡される。
圧胴126aの表面(周面)には、記録媒体114の先端を保持する保持爪115a,115b(グリッパ)が形成されており、渡し胴124aから圧胴126aに受け渡された記録媒体114は、保持爪115a,115bによって先端を保持されながら圧胴126aの表面に密着した状態(即ち、圧胴126a上に巻きつけられた状態)で圧胴126aの回転方向(図16において反時計回り方向)に搬送される。後述する他の圧胴126b〜126dについても同様な構成が適用される。また、渡し胴124aの表面(周面)には、記録媒体114の先端を圧胴126aの保持爪115a,115bに受け渡す部材116が形成されている。後述する他の渡し胴124b〜124dについても同様な構成が適用される。
浸透抑制剤付与部104には、圧胴126aの回転方向(図16において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126aの表面に対向する位置に、用紙予熱ユニット128、浸透抑制剤吐出ヘッド130、及び浸透抑制剤乾燥ユニット132がそれぞれ設けられている。
用紙予熱ユニット128及び浸透抑制剤乾燥ユニット132には、それぞれ所定の範囲で温度や風量を制御可能な熱風乾燥器が設けられる。圧胴126aに保持された記録媒体114が、用紙予熱ユニット128や浸透抑制剤乾燥ユニット132に対向する位置を通過する際、熱風乾燥器によって加熱された空気(熱風)が記録媒体114の表面に向かって吹き付けられる構成となっている。
浸透抑制剤吐出ヘッド130は、圧胴126aに保持される記録媒体114に対して浸透抑制剤を含有した溶液(以下、単に「浸透抑制剤」ともいう。)を吐出する。本例では、記録媒体114の表面に対して浸透抑制剤を付与する手段として、打滴方式を適用したが、これに限定されず、例えば、ローラ塗布方式、スプレー方式、などの各種方式を適用することも可能である。
浸透抑制剤は、後述する処理液およびインク液に含まれる溶媒(及び親溶媒的な有機溶剤)の記録媒体114への浸透を抑制する。浸透抑制剤としては、樹脂粒子を溶液中に分散(または溶解)させたものを用いる。浸透抑制剤の溶液としては、例えば、有機溶剤または水を用いる。浸透抑制剤の有機溶剤としては、メチルエチルケトン、石油類、等が好適に用いられる。
用紙予熱ユニット128は、記録媒体114の温度T1を、浸透抑制剤の樹脂粒子の最低造膜温度Tf1よりも高くする。
温度T1の調整方法には、圧胴126aの内部に設置したヒータ等の発熱体を用いて記録媒体114を下面から加熱する方法、記録媒体114の上面に熱風を当てて加熱する方法などがあり、本例では赤外線ヒータ等を用いて記録媒体114の上面から加熱する方法を用いている。これらの方法を組み合わせてもよい。
浸透抑制剤の付与方法には、打滴、スプレー塗布、ローラ塗布等が好適に用いられる。打滴の場合には、後述するインク液の打滴箇所及びその周辺のみに、選択的に浸透抑制剤を付与することができるので、好適である。
また、カールが発生し難い記録媒体114の場合には、浸透抑制剤の付与を省略してもよい。
浸透抑制剤付与部104に続いて処理液付与部106が設けられている。浸透抑制剤付与部104の圧胴(浸透抑制剤ドラム)126aと処理液付与部106の圧胴(処理液ドラム)126bとの間には、これらに対接するようにして渡し胴124bが設けられている。これにより、浸透抑制剤付与部104の圧胴126aに保持された記録媒体114は、浸透抑制剤が付与された後、渡し胴124bを介して処理液付与部106の圧胴126bに受け渡される。
処理液付与部106には、圧胴126bの回転方向(図16において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126bの表面に対向する位置に、用紙予熱ユニット134、処理液吐出ヘッド136、及び処理液乾燥ユニット138がそれぞれ設けられている。
用紙予熱ユニット134は、浸透抑制剤付与部104の用紙予熱ユニット128と同一構成が適用されるため、ここでは説明を省略する。もちろん、異なる構成が適用されてもよい。
処理液吐出ヘッド136は、圧胴126bに保持される記録媒体114に対して処理液を打滴するものであり、後述するインク打滴部108の各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kと同一構成が適用される。
本例で用いられる処理液は、後段のインク打滴部108に配置される各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kから記録媒体114に向かって吐出されるインクに含有される色材を凝集させる作用を有する。
処理液乾燥ユニット138には、所定の範囲で温度や風量を制御可能な熱風乾燥器が設けられており、圧胴126bに保持された記録媒体114が処理液乾燥ユニット138の熱風乾燥器に対向する位置を通過する際、熱風乾燥器によって加熱された空気(熱風)が記録媒体114上の処理液に吹き付けられる構成となっている。
熱風乾燥器の温度や風量は、圧胴126bの回転方向上流側に配置される処理液吐出ヘッド136により記録媒体114上に付与された処理液を乾燥させて、記録媒体114の表面上に固体状又は半固溶状の凝集処理剤層(処理液が乾燥した薄膜層)が形成されるような値に設定される。
本例の如く、記録媒体114上に処理液が付与される前に、用紙予熱ユニット134によって記録媒体114を予備加熱する態様が好ましい。この場合、処理液の乾燥に要する加熱エネルギーを低く抑えることが可能となり、省エネルギー化を図ることができる。
処理液付与部106に続いてインク打滴部108が設けられている。処理液付与部106の圧胴(処理液ドラム)126bとインク打滴部(描画ドラム)108の圧胴126cとの間には、これらに対接するようにして渡し胴124cが設けられている。これにより、処理液付与部106の圧胴126bに保持された記録媒体114は、処理液が付与されて固体状又は半固溶状の凝集処理剤層が形成された後に、渡し胴124cを介してインク打滴部108の圧胴126cに受け渡される。
インク打滴部108には、圧胴126cの回転方向(図16において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126cの表面に対向する位置に、CMYKの4色のインクにそれぞれ対応したインク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kが並んで設けられており、更に、その下流側に溶媒乾燥ユニット142a、142bが設けられている。
各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kは、上述した処理液吐出ヘッド136と同様に、液体を吐出する方式の記録ヘッド(液体吐出ヘッド)が適用される。即ち、各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kは、それぞれ対応する色インクの液滴を圧胴126cに保持された記録媒体114に向かって吐出する。
インク貯蔵/装填部(不図示)は、各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kにそれぞれ供給するインクを各々貯蔵するインクタンクを含んで構成される。各インクタンクは所要の流路を介してそれぞれ対応するヘッドと連通されており、各インク打滴ヘッドに対してそれぞれ対応するインクを供給する。インク貯蔵/装填部は、タンク内の液体残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
インク貯蔵/装填部の各インクタンクから各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kにインクが供給され、画像信号に応じて各140C、140M、140Y、140Kから記録媒体114に対してそれぞれ対応する色インクが打滴される。
各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kは、それぞれ圧胴126cに保持される記録媒体114における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有し、そのインク吐出面には画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズル(図16中不図示)が複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている。各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kが圧胴126cの回転方向(記録媒体114の搬送方向)と直交する方向に延在するように固定設置される。
記録媒体114の画像形成領域の全幅をカバーするノズル列を有するフルラインヘッドがインク色毎に設けられる構成によれば、記録媒体114の搬送方向(副走査方向)について、記録媒体114と各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kを相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち1回の副走査で)、記録媒体114の画像形成領域に1次画像を記録することができる。これにより、記録媒体114の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシリアル(シャトル)型ヘッドが適用される場合に比べて高速印字が可能であり、プリント生産性を向上させることができる。
本例のインクジェット記録装置100は、例えば最大菊半サイズの記録媒体(記録用紙)までの記録が可能であり、圧胴(描画ドラム)126cとして、例えば記録媒体幅720mmに対応した直径810mmのドラムが用いられる。また、各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kのインク吐出体積は例えば2plであり、記録密度は主走査方向(記録媒体114の幅方向)及び副走査方向(記録媒体114の搬送方向)ともに例えば1200dpiである。
また、本例では、CMYKの4色の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて、R(赤)、G(緑)、B(青)インク、淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
溶媒乾燥ユニット142a、142bは、上述した用紙予熱ユニット128、134や浸透抑制剤乾燥ユニット132、処理液乾燥ユニット138と同様に、所定の範囲で温度や風量を制御可能な熱風乾燥器を含んで構成される。後述するように、記録媒体114の表面上に形成された固体状又は半固溶状の凝集処理剤層上にインク液滴が打滴されると、記録媒体114上にはインク凝集体(色材凝集体)が形成されるとともに、色材と分離されたインク溶媒が広がり、凝集処理剤が溶解した液体層が形成される。このようにして記録媒体114上に残った溶媒成分(液体成分)は、記録媒体114のカールだけでなく、画像劣化を招く要因となる。そこで、本例では、各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kからそれぞれ対応する色インクが記録媒体114上に打滴された後、溶媒乾燥ユニット142a、142bの熱風乾燥器によって、溶媒成分を蒸発させ、乾燥を行っている。
インク打滴部108に続いて定着部110が設けられている。インク打滴部108の圧胴(描画ドラム)126cと定着部110の圧胴(定着ドラム)126dとの間には、これらに対接するように渡し胴124dが設けられている。これにより、インク打滴部108の圧胴126cに保持された記録媒体114は、各色インクが付与された後に、渡し胴124dを介して定着部110の圧胴126dに受け渡される。
定着部110には、圧胴126dの回転方向(図16において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126dの表面に対向する位置に、インク打滴部108による印字結果を読み取る印字検出部144、加熱ローラ148a、148bがそれぞれ設けられている。
印字検出部144は、インク打滴部108の印字結果(各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kの打滴結果)を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
加熱ローラ148a、148bは、所定の範囲(例えば100℃〜180℃)で温度制御可能なローラであり、加熱ローラ148a、148bと圧胴126dとの間に挟みこまれた記録媒体114を加熱加圧しながら、記録媒体114上に形成された画像を定着させる。加熱ローラ148a、148bの加熱温度は、処理液又はインクに含有されているポリマー微粒子のガラス転移点温度などに応じて設定することが好ましい。
定着部110に続いて排紙部112が設けられている。排紙部112には、画像が定着された記録媒体114を受ける排紙胴150と、該記録媒体114を積載する排紙台152と、排紙胴150に設けられたスプロケットと排紙台152の上方に設けられたスプロケットとの間に掛け渡され、複数の排紙用グリッパを備えた排紙用チェーン154とが設けられている。
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッドの構造について説明する。各ヘッド130、136、140C、140M、140Y、140Kの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
図17(A) はヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図17(B) はその一部の拡大図である。また、図18はヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図19は記録素子単位となる1チャネル分の液滴吐出素子(1つのノズル51に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図17中のA−A線に沿う断面図)である。
記録媒体114上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図17に示したように、インク吐出口であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影(正射影)される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
記録媒体114の送り方向(矢印S方向;副走査方向)と略直交する方向(矢印M方向;主走査方向)に記録媒体114の全幅Wmに対応する長さ以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図17(A) の構成に代えて、図18に示すように、複数のノズル51が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体114の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており(図17(A)、(B) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル51への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)54が設けられている。なお、圧力室52の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
図19に示したように、ヘッド50は、ノズルプレート51P、流路板52P、及び振動板56等を積層接合した構造から成る。
ノズルプレート51Pは、ヘッド50のノズル面(インク吐出面)50Aを構成し、各圧力室52にそれぞれ連通する複数のノズル51が2次元的に形成されている。
流路板52Pは、圧力室52の側壁部を構成するとともに、共通流路55から圧力室52にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口54を形成する流路形成部材である。なお、説明の便宜上、図19では簡略的に表示しているが、流路板52Pは一枚又は複数の基板を積層した構造である。
振動板56は、圧力室52の一壁面(図19の上面)を構成するとともに、ステンレス鋼(SUS)やニッケル(Ni)導電層付きのシリコン(Si)などの導電性材料から成り、各圧力室52に対応して配置される複数のアクチュエータ(ここでは、圧電素子)58の共通電極を兼ねる。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。
振動板56の圧力室52側と反対側(図19において上側)の面には、各圧力室52に対応する位置に圧電体59が設けられており、該圧電体59の上面(共通電極を兼ねる振動板56に接する面と反対側の面)に個別電極57が形成されている。この個別電極57と、これに対向する共通電極(本例では振動板56が兼ねる)と、これら電極間に挟まれるように介在する圧電体59とによりアクチュエータ58として機能する圧電素子が構成される。圧電体59には、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウムなどの圧電材料が好適に用いられる。
各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。共通流路55はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路55を介して各圧力室52に分配供給される。
アクチュエータ58の個別電極57と共通電極間に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形して圧力室52の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル51からインクが吐出される。インク吐出後、アクチュエータ58の変位が元に戻る際に、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に再充填される。
上述した構造を有するインク室ユニット53を図20に示す如く主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度ψを有する斜めの列方向とに沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
すなわち、主走査方向に対してある角度ψの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPNはd× cosψとなり、主走査方向については、実質的に各ノズル51が一定のピッチPNで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり例えば1200個(1200ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
なお、印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、用紙の幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
特に、図17に示すようなマトリクス状に配置されたノズル51を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。すなわち、ノズル51-11 、51-12 、51-13、51-14 、51-15 、51-16を1つのブロックとし(他にはノズル51-21 、…、51-26を1つのブロック、ノズル51-31 、…、51-36を1つのブロック、…として)、記録媒体114の搬送速度に応じてノズル51-11 、51-12 、…、51-16を順次駆動することで記録媒体114の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
そして、上述の主走査によって記録される1ライン(或いは帯状領域の長手方向)の示す方向を主走査方向といい、上述の副走査を行う方向を副走査方向という。すなわち、本実施形態では、記録媒体114の搬送方向が副走査方向であり、それに直交する方向が主走査方向ということになる。
本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータの変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
〔液体供給系の構成〕
図21はインクジェット記録装置100におけるインク供給系の構成を示した概要図である。なお、インク供給系について説明するが、処理液を打滴する場合には同様な供給系を設けてもよい。
インクタンク60はヘッド50にインクを供給する基タンクである。インクタンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。
図21に示したように、インクタンク60とヘッド50の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下とすることが好ましい。図21には示さないが、ヘッド50の近傍又はヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
また、インクジェット記録装置100には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面50Aの清掃手段としてのクリーニングワイパ66とが設けられている。これらキャップ64及びクリーニングワイパ66を含むメンテナンスユニット(回復手段)は、不図示の移動機構によってヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置からヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によってヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、ヘッド50に密着させることにより、ノズル面50Aをキャップ64で覆う。
クリーニングワイパ66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬワイパ移動機構によりヘッド50のノズル面50A(ノズルプレート表面)に摺動可能である。ノズルプレート表面にインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングワイパ66をノズルプレートに摺動させることでノズル面を拭き取る。
印字中又は待機中において、特定のノズルの使用頻度が低くなり、ノズル近傍のインク粘度が上昇した場合、その劣化インクを排出すべくキャップ64(インク受けとして兼用)に向かって予備吐出(空打ち)が行われる。
ヘッド50は、ある時間以上吐出しない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してノズル近傍のインクの粘度が高くなってしまい、吐出駆動用のアクチュエータ58が動作してもノズル51からインクを吐出できなくなる。したがって、この様な状態になる手前で(アクチュエータ58の動作によってインク吐出が可能な粘度の範囲内で)、アクチュエータ58を動作させ、粘度上昇したノズル近傍のインクを吐出させる「予備吐出」が行われる。
また、ノズル面50Aの清掃手段として設けられているクリーニングワイパ66等のワイパによってノズルプレート表面の汚れを清掃した後に、このワイパ摺擦動作によってノズル51内に異物が混入するのを防止するためにも予備吐出が行われる。
その一方で、ノズル51や圧力室52に気泡が混入したり、ノズル51内のインクの粘度上昇があるレベルを超えたりすると、上記空打ちではインクを吐出できなくなる。このような場合、ヘッド50のノズル面50Aに吸引手段たるキャップ64を当接させて、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク又は増粘インク)を吸引する。かかる吸引動作によって吸引除去されたインクは回収タンク68へ送られる。回収タンク68に集められたインクは、再利用してもよいし、再利用不能な場合は廃棄してもよい。
上記の吸引動作は、圧力室52内のインク全体に対して行われるためインク消費量が大きいため、粘度上昇が少ない場合はなるべく予備吐出による回復を行うことが好ましい。なお、上記の吸引動作は、ヘッド50へのインク初期装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも行われる。 なお、処理液を打滴する場合について説明したが、本発明はこのような場合に特に限定されない。処理液を周知の塗布技術により、塗布してもよい。
本発明は、本明細書において説明した例や図面に図示された例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の設計変更や改良を行ってよいのはもちろんである。
1…ホスト、2…画像データ作成部、10…プリンタ、14…データ保存部、16…色補正部、18…出力データ作成部、20…データキャッシュ、22…ヘッドドライバ、24…ヘッド、26…環境条件検出部、28…環境変動判断部、30…コントローラ、32…ヒータ、34…描画温度制御部