JP5206882B2 - 塩味調節物質のスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
塩分摂取量を減少させる技術として、例えば、従来から、塩化カリウムを塩化ナトリウムの代替物として用いた減塩調味料、減塩食品が開発されているが、塩化カリウムには苦味、及び刺激味があり、呈味は著しく劣るという問題がある。これを改善するために、塩化カリウムに塩化アンモニウム、乳酸カルシウム、L-アスパラギン酸ナトリウム、L-グルタミン酸塩及び/又は核酸系呈味物質を特定の割合で混合してなる調味料組成物(特許文献1)、アスコルビン酸を添加した低ナトリウム塩味調味料(特許文献2)、カラギーナンを用いた脱苦味方法(特許文献3)などが開発されている。しかし、今もなお食塩味以外の不快な呈味を除き、かつ塩化ナトリウムと同等の塩味強度を呈するほどの減塩技術には到達していない。
(1)Kv3.2タンパク質を発現する細胞に被検物質を接触させ、同細胞内への陽イオン流入を、被検物質を接触させないときの前記細胞内への陽イオン流入と比較する工程を含む、塩味調節物質のスクリーニング方法。
(2)ナトリウムイオン存在下での前記細胞の細胞膜電流を測定することにより、前記陽イオン流入を測定する、(1)に記載の方法。
(3)ナトリウムイオン非存在下での前記細胞の細胞膜電流を測定することにより、前記陽イオン流入を測定する、(1)に記載の方法。
(4)塩味調節物質が、塩味増強物質、又は塩味阻害物質である、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(5)塩味調節物質が、塩味代替物質である前記(1)又は(3)に記載の方法。
(6)Kv3.2タンパク質が、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、40,47,49,51、又は53のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するタンパク質である、前記方法。
(7)Kv3.2タンパク質が、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、40,47,49,51、又は53のいずれかと少なくとも78%以上の配列同一性を有し、かつ、細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化する陽イオンチャネルを構成し得るタンパク質である、前記方法。
(8)Kv3.2タンパク質が、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、40,47,49,51、又は53のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化する陽イオンチャネルを構成し得るタンパク質である、前記方法。
(9)Kv3.2タンパク質が、下記(a)又は(b)のDNAによってコードされる、前記方法。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、39、46、48、50、又は52のいずれかの塩基配列を有するDNA、
(b)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、39、46、48、50、又は52のいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列、又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化する陽イオンチャネルを構成し得るタンパク質をコードするDNA。
(10)Kv3.2タンパク質が、ヒト、マウス、ラット、ゼノパス属のカエル、イヌ、ウマ、チンパンジー、アカゲザル、ニワトリ、オポッサム、ブタ若しくはウシに由来するKv3.2タンパク質ホモログ、又は、これらの変異体から選択される、前記方法。
(11)前記細胞が、Kv3.2タンパク質をコードするポリヌクレオチドが発現可能な形態で導入された卵母細胞である、前記方法。
(12)前記細胞が、味細胞、舌上皮、副腎、松果体、甲状腺、メラノサイト、および、腎臓から選択される組織から単離されたKv3.2遺伝子を発現する細胞である、前記方法。
(13)Kv3.2タンパク質バリアントであって、下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質:
(a)配列番号47、49、51、又は53のいずれかの配列を有するタンパク質;
(b)配列番号47、49、51、又は53のいずれかと少なくとも78%以上の配列同一性を有し、かつ、細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化する陽イオンチャネルを構成し得るタンパク質;
(c)配列番号47、49、51、又は53のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化する陽イオンチャネルを構成し得るタンパク質。
(14)Kv3.2タンパク質バリアントをコードする、下記(a)又は(b)のいずれかのDNA:
(a)配列番号46、48、50、又は52のいずれかの塩基配列を有するDNA;
(b)配列番号46、48、50、又は52のいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列、又は同塩基配列から調製されうるプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化する陽イオンチャネルを構成し得るタンパク質をコードするDNA。
(15)Kv3.2遺伝子発現細胞中で発現している遺伝子のうち、KV3.2遺伝子と発現プロファイルが類似している遺伝子、又はKV3.2遺伝子発現細胞中では発現が抑制されている遺伝子を同定することで、Kv3.2活性を正、もしくは負の方向に調節する機能を持つタンパク質、又は塩味受容体を構成するタンパク質を探索する方法。
(16)Kv3.2タンパク質、又はこれを発現する細胞に作用する化合物を同定することにより、塩味調節物質を探索する方法。
(17)Kv3.2タンパク質、及び、味細胞特異的発現タンパク質とから構成されるチャネル又は複合体に作用する化合物を同定することにより、呈味物質、又はフレーバー物質を探索する方法。
(18)Kv3.2タンパク質をコードするポリヌクレオチドが発現可能な形態で導入された、単離された卵母細胞又は味細胞。
また、塩味を代替又は増強する物質を含む食品は、過剰な塩分摂取を抑え、高血圧や循環器系疾患予防に有効である。
本発明者らは、元来、高頻度の発火を行う神経細胞において機能するとされ、細胞の膜電位が-20mV以上に脱分極すると電流が観察されるカリウムチャネルであるKv3ファミリーに属するイオンチャネルKv3.1、Kv3.2、Kv3.3、Kv3.4(Rudyら、Trends in Neuroscience, 24:517-526 (2001))について、マウスの味蕾を含む舌上皮組織においてこれらをコードする遺伝子の発現を確認し、またヒトKv3.2チャネル遺伝子のアフリカツメガエル卵母細胞における発現が、細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じた細胞膜電流の変動という形で塩味受容に関与しうることを見出した。この知見に基づき、Kv3.2が塩味受容体イオンチャネルとして機能し、新規の塩味調節物質のスクリーニングに用いることができることを見出した。又、Kv3.2遺伝子が味蕾において発現していることを確認し、Kv3.2チャネル遺伝子が塩味応答感度の異なる2種のマウスにおいて、感度に応じた発現量の差があることを見出し、Kv3.2が塩味受容体であることを更に確認した。又、本発明者らは、Kv3.2タンパク質の味蕾におけるスプライスバリアントを新たに見出した。
また、後記実施例に示すように、アフリカツメガエルのKv3.2タンパク質遺伝子が単離され、同タンパク質が細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化する陽イオンチャネル活性を有することが示された。この遺伝子の塩基配列を配列番号39に、同遺伝子がコードするKv3.2タンパク質のアミノ酸配列を配列番号40に示す。
さらに後記実施例に示すように、マウスの味蕾を含む舌上皮組織からマウスKv3.2遺伝子のスプライスバリアント4種類を単離した。これらスプライスバリアントの塩基配列を配列番号46、48、50、52に示す。各々の塩基配列がコードするアミノ酸配列を、配列番号47、49、51、53に示す。配列番号10,47,49、51,53のアミノ酸配列は、C末端を除いて共通している(配列番号10の1〜597位に相当する箇所)。
ば上記のヒト、マウス、ラット、アフリカツメガエルに由来する配列を有するタンパク質に加えて、イヌ、ウマ、チンパンジー、ニワトリ、オポッサム、ブタ若しくはウシに由来するKv3.2タンパク質であっても良い。これらをコードする遺伝子の配列情報は、それぞ
れ、イヌ:XM_538289(塩基配列は配列番号54、アミノ酸配列は配列番号55)、ウマ
:XM_001488185(塩基配列は配列番号56、アミノ酸配列は配列番号57)、チンパンジー:XR_20952(塩基配列は配列番号72、アミノ酸配列は配列番号73)、ニワトリ:XM_001235254(塩基配列は配列番号58、アミノ酸配列は配列番号59)、オポッサム:XM_001363374(塩基配列は配列番号60、アミノ酸配列は配列番号61)、XM_001363455(塩基配列は配列番号62、アミノ酸配列は配列番号63)、ブタ:XM_001926426(塩基配列は配列番号64、アミノ酸配列は配列番号65)、XM_001924780(塩基配列は配列番号
66、アミノ酸配列は配列番号67)、ウシ:XM_590276(塩基配列は配列番号68、ア
ミノ酸配列は配列番号69)として登録されている。また、アカゲザル、アノールトカゲ、マーモセット、モルモット、ナマケモノ、アルマジロ、カンガルーネズミ、ヒメハリテンレック、ハリネズミ、イトヨ、ゴリラ、ゾウ、ワラビー、キツネザル、ココウモリ、ナキウサギ、ウサギ、ガラゴ、オランウータン、ハイラックス、オオコウモリ、トガリネズミ、リス、キンカチョウ、タキフグ、メガネザル、ツパイ、イルカ、については、これらをコードする遺伝子の配列情報は、それぞれ、アカゲザル:ENSMMUG00000012362(塩基配列は配列番号70、アミノ酸配列は配列番号71)、アノールトカゲ:ENSACAG00000007691、マーモセット:ENSCJAG00000001261、モルモット:ENSCPOG00000003474、ナマケモノ:ENSCHOG00000007167、アルマジロ:ENSDNOG00000013383、カンガルーネズミ:ENSDORG00000000056、ヒメハリテンレック:ENSETEG00000010484、ハリネズミ:ENSEEUG00000002220、イトヨ:ENSGACG00000019441、ゴリラ:ENSGGOG00000003896、ゾウ:ENSLAFG00000031982、ワラビー:ENSMEUG00000007789、キツネザル:ENSMICG00000017734、ココウモリ:ENSMLUG00000010813、ナキウサギ:ENSOPRG00000017272、ウサギ:ENSOCUG00000004467、ガラゴ:ENSOGAG00000000768、オランウータン:ENSPPYG00000004780、ハイラックス:ENSPCAG00000015808、オオコウモリ:ENSPVAG00000010964、トガリネズミ:ENSSARG00000006415、リス:ENSSTOG00000004842、キンカチョウ:ENSTGUG00000007354、タキフグ:ENSTRUG00000003532、メガネザル:ENSTSYG00000010689、ツパイ:ENSTBEG00000001105、イルカ:ENSTTRG00000013226、として登録されている。
また、遺伝子の配列におけるそれぞれのコドンは、遺伝子が導入される宿主で使用しやすいコドンに置換したものでもよい。
「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いポリヌクレオチド同士、例えば78%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上のの相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS 、好ましくは、0.1×SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度、温度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
例えば、Kv3.2タンパク質には、前記のようにスプライスバリアントが存在し、それらの共通部分(例えば配列番号2の1〜538位)よりもC末端側の領域は、欠落、あるいは他の配列に置換させてもよい可能性が高い。
さらに実施例に示すように、Kv3.2タンパク質をコードする遺伝子は、味覚受容器である舌の味蕾で発現しており、その発現量は、塩味受容感度の高いマウス系統のほうが塩味受容感度の低いマウス系統よりも高いことから、Kv3.2タンパク質は塩味受容感度を調節する塩味受容体タンパク質であることが支持される。
よって、Kv3.2タンパク質、あるいはこれを発現する細胞に作用する化合物を同定することにより、塩味調節物質を探索することができる。
化合物の同定方法としては、上述のものに加えて、例えば、精製されたKv3.2タンパク質と被検物質との結合を測定することにより行うことができる。なお、Kv3.2タンパク質に作用する化合物は、関連タンパク質(例えばKv1.2、Chenら、Proc Natl Acad Sci U S A. 107:11352-11357 (2010))の立体構造情報を参考にして、その立体構造を計算機により推定し、さらにイオンチャネル活性に影響しうる箇所に親和性のある化合物を計算機的に選択することで、そのような化合物を効率的に探索することができ得る。
溶液に懸濁させ、細胞内に流入する陽イオンの量を、直接的又は間接的に測定することによって、測定することができる。
細胞内への陽イオン流入は、例えば、細胞外陽イオン存在下での前記細胞の電気生理学的性質、例えば細胞電流を測定することにより、測定することができる。例えば、Kv3.2
タンパク質を発現する細胞をナトリウムイオンの存在下で被検物質に接触させ、細胞膜電位、もしくは膜電流の増減、または細胞内陽イオン濃度を検出することにより、塩味増強物質、又は塩味阻害物質等の塩味調節物質をスクリーニングすることができる。また、Kv3.2タンパク質を発現する細胞をナトリウムイオン非存在下で被検物質に接触させ、細胞
膜電位、もしくは膜電流の増減、または細胞内陽イオン濃度を検出することにより、塩味代替物質をスクリーニングすることができる。
(5)前記(2)〜(4)記載の方法をナトリウムイオン非存在下で実施することによって、塩味代替物質を探索することができる。
マウス舌上皮組織において、配列番号10に示すアミノ酸配列を有するKv3ファミリーチャネル遺伝子の、舌上皮における発現分布を、RT-PCR法により以下の手順で解析した。
マウスの舌から上皮を単離し、さらに茸状乳頭を含む舌先端部、有郭乳頭を含む領域(舌中央後部)、葉状乳頭を含む舌両側部、および味蕾を含まない上皮をそれぞれ切除した。別途、腎臓を切除し、破砕した。
ヒトの塩味受容体タンパク質をコードする全長cDNAは、例えばヒトのmRNAからクローニング可能であるが、The Mammalian Gene Collection(http://mgc.nci.nih.gov/)中の該当する完全長cDNA(MGC:120670 IMAGE:7939480)として、購入可能である(カタログ番号MHS1010-98052225、Open Biosystems社)。この購入可能なプラスミドを鋳型とし、配列番号19に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(5'末端にKpnI認識配列が付加してある)をフォワードプライマーとして、配列番号20に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(5'末端にXhoI認識配列が付加してある)をリバースプライマーとして、PCR反応を行なった。得られたDNA断片を制限酵素KpnI及びXhoIで消化した後、プラスミドpcDNA3.1(+)を用いてクローニングした。得られたクローンをpcDNA3.1-KCNC2と命名した。なお、前記プラスミドpcDNA3.1(+)は、サイトメガロウイルス由来のプロモーター配列を持っており、動物細胞にクローニング断片にコードされるポリペプチドを発現させるために使用することができる。
配列番号5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化する陽イオンチャネル活性を検出するために、前記実施例2で得られた発現ベクターpcDNA3.1-KCNC2を鋳型にしてcRNAを合成し、アフリカツメガエル卵母細胞に注入することにより、前記タンパク質を発現させた。前記発現ベクターpcDNA3.1-KCNC2を制限酵素XhoIにより1箇所で切断して線状にした後、市販のcRNA合成キットであるMegascript High Yield Transcription Kit(Ambion社)を用いて、Kv3.2タンパク質をコードするcRNAを合成した。合成したcRNAを、定法に従って調製したアフリカツメガエル卵母細胞に、ガラスキャピラリー、及びマイクロインジェクター(World Prescision Instruments社 )を用いて注入し、Kv3.2タンパク質を発現させた。また、コントロール細胞として、水を注入した卵母細胞も同様にして作製した。得られたこれらの卵母細胞を、ND96+溶液(96mM NaCl、2mM KCl、1mM MgCl2、1.8mM CaCl2、5mM HEPES、2mM ピルビン酸ナトリウム、1/100 ペニシリン−ストレプトマイシン混合液(invitrogen社15140-122)、NaOHによりpH7.4に調整)などの標準的な卵母細胞培養液中において、18℃で2〜4日保存した後、以下の実施例4で使用した。
前記実施例3で得られた各卵母細胞を、2電極電位固定法によって膜電位固定し、全細胞電流を測定した。この測定には、ND96溶液(96mmol/L-NaCl、2mmol/L-KCl、1mmol/L-MgCl2 、1.8mmol/L-CaCl2、及び5mmol/L-HEPES(pH=7.5))を使用した。
Kv3.2と同じKv3ファミリーに属するチャネルKv3.1、Kv3.3、及びKv3.4について、実施例2と同様に発現ベクターの構築を行った。それぞれ該当するタンパク質をコードする全長cDNAを購入した(Kv3.1:カタログ番号ORK11519、Promega社、Kv3.3:カタログ番号OHS4559-99848374、Open Biosystems社、Kv3.4:カタログ番号MHS1010-98052650、Open Biosystems社)。これら全長cDNAを鋳型に、表2に示すプライマーの組み合わせにてそれぞれPCRを行い、Kv3.1、Kv3.3、及びKv3.4の各タンパク質をコードする遺伝子DNA断片を作製した。得られたDNA断片の5'、3'両末端を制限酵素で消化した後(Kv3.1:XbaI及びXhoI、Kv3.3:NheI及びEcoRI、Kv3.4:NheI及びXhoI)、プラスミドpcDNA3.1(+)を用いてクローニングした。得られたクローンをそれぞれKv3.1:pcDNA3.1-KCNC1、Kv3.3:pcDNA3.1-KCNC3、Kv3.4:pcDNA3.1-KCNC4と命名した。
これまでに行動学的手法を用いてマウスの塩味閾値を測定する方法について報告されている(Ishiwatari,Y. and Bachmanov, A.A.、Chemical Senses、34: 277-293(2009))。また、塩味に対する受容感度にはマウス系統間で差があるとの報告がある(Ishiwatari,Y., and Bachmanov, A.A.、Chemical Senses, 32:A26 (2007))。この行動学手法を用いて、塩味受容感度に差のある2系統、C57BL/6J(塩味受容感度の高い系統)、A/J(塩味受容感度の低い系統)について、塩味閾値の差を測定した。その結果、両者間では約5倍の閾値差があることが確認された(表3)。そこで、両系統について、舌上皮におけるKv3.2タンパク質をコードする遺伝子の発現量を定量比較した。
マウスの塩味受容体タンパク質全長をコードするcDNAは、配列番号9、及び遺伝子データベースに登録されている類似配列(GenBankアクセション番号BY281762)を参考にプライマー組を設計し、PCRを行うことでクローニング可能である。配列番号35に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーとして、配列番号36に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをリバースプライマーとして、実施例6で得られた、茸状乳頭を含む舌先端部から作られた第1鎖cDNAを鋳型としてPCR反応を行なった。得られたDNA断片を、プラスミドpGEM-T easy(プロメガ社)にクローニングした。得られたクローンをpGEM-T-mKcnc2と命名した。得られたクローンの塩基配列を、ジデオキシターミネーター法によりDNAシークエンサー(3130xl genetic analyzer;Applied Biosystems社)を用いて解析し、配列番号9と同一の塩基配列が得られた。さらにプラスミドpGEM-T-mKcnc2を制限酵素SphIにて1箇所で切断して線状にした後、DIG RNAラベリングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて、ジゴキシゲニン標識されたマウスKv3.2遺伝子のアンチセンスRNAを合成した。
アフリカツメガエル(雌)より取り出した成熟した卵母細胞にヒトKv3.2チャネルのcRNAを注入し、ND96+溶液(96mM NaCl、2mM KCl、1mM MgCl2、1.8mM CaCl2、5mM HEPES、2mM ピルビン酸ナトリウム、1/100 ペニシリン−ストレプトマイシン混合液(invitrogen社15140-122)、NaOHによりpH7.4に調整)などの標準的な卵母細胞培養液中において、18℃で保存した。注入から2〜4日後の卵母細胞を、アフリカツメガエル卵母細胞用パラレルクランプシステムOpusXpress 6000A(モレキュラーデバイスジャパン社)にセットした。卵母細胞をアッセイバッファー(66mM N-メチル-D-グルカミン塩酸塩、30mM NaCl、2mM KCl、1mM MgCl2、1.8mM CaCl2、5mM HEPES、KOHによりpH7.4に調整)で灌流し、膜電位を-80mVに保持した。この状態で細胞膜電流値を測定し、被検物質溶液を添加した場合に電流値の変化を検出することによるスクリーニングを実施した。電流値が内向き電流が観察された場合は化合物によりKv3.2チャネルが活性化されており、外向き電流が観察された場合はKv3.2チャネル活性が抑制されていると考えられる。また、被検物質の卵母細胞自体への影響による非特異的な電流値の変化と区別するため、cRNAの代わりに水を注入した卵母細胞にも被検物質溶液を添加し、電流値に変化がないことを確認した。例えば、スクリーニングにより得られた低分子有機化合物Aは、ヒトKv3.2チャネルを発現する卵母細胞では化合物の添加により濃度依存的に電流値を増加させたが、水を注入した卵母細胞ではこの電流値の変化は確認されなかった(図5)。
Kv3.2チャネル活性調節作用が見出された化合物について、定量的な官能評価試験を行うことにより塩味に対する影響を確認した。
アフリカツメガエル(Xenopus laevis)Kv3.2チャネルタンパク質をコードするcDNAの情報は無い。一方で、近縁種であるゼノパス・トロピカリス(Xenopus tropicalis)の遺伝子データベース(http://genome.jgi-psf.org/Xentr4/Xentr4.home.html)中に、Kv3.2をコードすると予測される塩基配列(C_scaffold_541000003)が登録されている。本配列、及びヒト、マウス、ラットのKv3.2遺伝子配列情報を元に、配列番号37に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーとして、配列番号38に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをリバースプライマーとして、アフリカツメガエル脳のcDNAを鋳型にPCR反応を行なった。得られたDNA断片を、プラスミドpGEM-T easyにクローニングした。得られたクローンをpGEM-T-xlKcnc2と命名した。得られたクローンの塩基配列を、ジデオキシターミネーター法によりDNAシークエンサー(3130xl genetic analyzer;Applied Biosystems社)を用いて解析し、配列番号31に示す塩基配列が得られた。配列番号39に示す塩基配列は、1716塩基対からなるオープンリーディングフレームを有する。前記オープンリーディングフレームから予測されるアミノ酸配列は571アミノ酸残基からなる(配列番号40)。
配列番号40に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化する陽イオンチャネル活性を検出するために、前記実施例10にて得られたクローンを鋳型にcRNAを合成し、アフリカツメガエル卵母細胞に注入することにより、前記タンパク質を発現させた。前記プラスミドpGEM-T-xlKcnc2を鋳型に、配列番号41に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーとして、配列番号42に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをリバースプライマーとしてPCR反応を行なった。得られたDNA断片を制限酵素NheI及びXhoIで消化した後、プラスミドpcDNA3.1(+)(Invitrogen社)を用いてクローニングした。得られたクローンをpcDNA3.1-xlKcnc2と命名した。得られたプラスミドを制限酵素XhoIにより1箇所で切断して線状にした後、市販のcRNA合成キットであるMegascript High Yield Transcription Kit(Ambion社)を用いて、Kv3.2タンパク質をコードするcRNAを合成した。合成したcRNAを、定法に従って調製したアフリカツメガエル卵母細胞に、ガラスキャピラリー、及びマイクロインジェクター(World Prescision Instruments社 )を用いて注入し、Kv3.2タンパク質を発現させた。また、コントロール細胞として、水を注入した卵母細胞も同様にして作製した。得られたこれらの卵母細胞を、ND96+溶液(96mM NaCl、2mM KCl、1mM MgCl2、1.8mM CaCl2、5mM HEPES、2mM ピルビン酸ナトリウム、1/100 ペニシリン−ストレプトマイシン混合液(invitrogen社15140-122)、NaOHによりpH7.4に調整)などの標準的な卵母細胞培養液中において、18℃で2〜4日保存した後、以下の実施例12で使用した。
前記実施例11で得られた各卵母細胞を、2電極電位固定法によって膜電位固定し、全細胞電流を測定した。この測定には、ND96溶液(96mmol/L-NaCl、2mmol/L-KCl、1mmol/L-MgCl2 、1.8mmol/L-CaCl2、及び5mmol/L-HEPES(pH=7.5))を使用した。プラスミドpcDNA3.1-xlKcnc2を鋳型にして作製したcRNAを注入したアフリカツメガエル卵母細胞では、細胞外液中のNaCl濃度を96mMとした場合、保持電位-80mVにおいて、100nA以上の内向き電流が測定された。この電流は、細胞外液中のNaCl濃度が0mMの場合には認められず、細胞外ナトリウムイオン濃度の減少に伴って電流量の減少が観察された(図6)。一方、水を注入したコントロール卵母細胞では、細胞外液中のNaCl濃度を96mMとした場合、保持電位-80mVにおいて、前記の様な大きな内向き電流は観察されず、また細胞外液中のナトリウムイオン濃度を0mMに変化させた場合にも、電流量の変化は観測されなかった。
マウスではKv3.2遺伝子として1種類(配列番号9)が登録されている。ヒトではKv3.2遺伝子としてスプライスバリアントと考えられる4種類が遺伝子データベースに登録されており(配列番号1、3、5、7)、マウスでも同様に複数のスプライスバリアントが存在する可能性がある。そこでマウスの味蕾において発現し、機能しているKv3.2遺伝子を取得する目的で、味蕾を含む舌上皮からのマウスKv3.2遺伝子のクローニングを行なった。まずマウスの舌から上皮を単離し、味蕾を含む部分を切除し、RNA抽出キット(Absolutely RNA microprep kit;Stratagene社)を用いてRNAを抽出した。抽出したRNAを、Super Script III First Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen社)を用いて逆転写させ、第1鎖cDNAを合成した。得られた第1鎖cDNAを鋳型として、PCRによるcDNAの増幅を行なった。なおフォワードプライマーとして配列番号35に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用い、リバースプライマーとして配列番号36に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び配列番号43、44、45に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。なお、配列番号43、44、45に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、ヒトKv3.2遺伝子配列(配列番号1、3、5、7)と、マウスKv3.2遺伝子を含むマウスゲノムDNA配列(GenBankアクセション番号NC_000076)との対比から予想された、マウスKv3.2スプライスバリアントに対応するリバースプライマーとして設計した。PCRには、Phusion Hot Start High-Fidelity DNAポリメラーゼ(New England Biolabs社)を用いた。
得られたDNA断片を、プラスミドpGEM-T easyにクローニングした。得られたクローン30種類について、塩基配列を、ジデオキシターミネーター法によりDNAシークエンサー(3130xl genetic analyzer;Applied Biosystems社)を用いて解析したところ、5種類の塩基配列に大別することができた。5種類の内訳は、遺伝子データベースにマウスKv3.2遺伝子として唯一登録されている、配列番号9と同一の塩基配列に加えて、配列番号46、48、50、52に示されるオープンリーディングフレームを有する配列であった。それぞれの塩基配列の長さ、及びオープンリーディングフレームから予測されるアミノ酸配列(配列番号47、49、51、53)の長さは表6のとおりである。これらの各アミノ酸配列は、C末端を除いて共通しており(配列番号10の1〜597位に相当する箇所)、スプライスバリアントであると考えられる。味蕾からクローニングされた、これらのマウスKv3.2遺伝子のスプライスバリアントは、それぞれ単体、あるいは他のバリアントとの複合体として、塩味受容体チャネルを形成している可能性がある。
Claims (13)
- Kv3.2タンパク質を発現する細胞に被検物質を接触させ、同細胞内へのナトリウムイオン流入を、被検物質を接触させないときの前記細胞内へのナトリウムイオン流入と比較する工程を含む、塩味調節物質のスクリーニング方法。
- ナトリウムイオン存在下での前記細胞の細胞膜電流を測定することにより、前記ナトリウムイオン流入を測定する、請求項1に記載の方法。
- ナトリウムイオン非存在下での前記細胞の細胞膜電流を測定することにより、前記ナトリウムイオン流入を測定する、請求項1に記載の方法。
- 塩味調節物質が、塩味増強物質、又は塩味阻害物質である、請求項1又は2に記載の方法。
- 塩味調節物質が、塩味代替物質である、請求項1又は3に記載の方法。
- Kv3.2タンパク質が、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、40、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71又は73のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するタンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- Kv3.2タンパク質が、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、40、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71又は73のいずれかと90%以上の配列同一性を有し、かつ、細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化するナトリウムイオンチャネルを構成し得るタンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- Kv3.2タンパク質が、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、40、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71又は73のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ、細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化するナトリウムイオンチャネルを構成し得るタンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- Kv3.2タンパク質が、下記(a)又は(b)のDNAによってコードされる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、39、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70又は72のいずれかの塩基配列を有するDNA、
(b)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、39、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70又は72のいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列と68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度、温度で洗浄する条件下でハイブリダイズし、かつ、細胞外ナトリウムイオン濃度変化に応じて活性が変化するナトリウムイオンチャネルを構成し得るタンパク質をコードするDNA。 - Kv3.2タンパク質が、ヒト、マウス、ラット、ゼノパス属のカエル、イヌ、ウマ、チンパンジー、アカゲザル、ニワトリ、オポッサム、ブタ若しくはウシに由来するKv3.2タンパク質ホモログタンパク質である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
- 前記細胞が、Kv3.2タンパク質をコードするポリヌクレオチドが発現可能な形態で導入された卵母細胞である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
- 前記細胞が、味細胞、舌上皮、副腎、松果体、甲状腺、メラノサイト、および、腎臓から選択される組織から単離されたKv3.2遺伝子を発現する細胞である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
- Kv3.2タンパク質を発現する細胞に被検物質を接触させ、同細胞内へのナトリウムイオン流入を、被検物質を接触させないときの前記細胞内へのナトリウムイオン流入と比較する工程を含む、塩味増強作用を有する、呈味物質又はフレーバー物質のスクリーニング方法。
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