JP5205532B1 - 履帯式作業車両 - Google Patents

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Abstract

【課題】ステアリングクラッチに滑りが生じたことを正確に判定して、ステアリングクラッチを保護する。
【解決手段】この履帯式作業車両は、左右のステアリングクラッチ12L,12R及び左右のステアリングブレーキ13L,13Rを有するとともに、回転数差検出手段と、クラッチ油圧取得手段と、クラッチ保護手段と、を備えている。回転数差検出手段は各ステアリングクラッチ12L、12Rの入出力の回転数差を検出する。クラッチ油圧取得手段は各ステアリングクラッチ12L、12Rに供給されるクラッチ油圧を取得する。クラッチ保護手段は、回転数差及びクラッチ油圧を参照してステアリングクラッチ12L、12Rの発熱率を演算し、演算された発熱率を予め設定されているしきい値と比較してステアリングクラッチの保護処理を実行する。
【選択図】図2

Description

本発明は、作業車両、特に、履帯により走行するとともに、ステアリングクラッチ及びステアリングブレーキによって操舵される履帯式作業車両に関する。
履帯式作業車両の一例であるブルドーザにおいては、エンジンの動力がトランスミッションを介して左右の駆動輪に伝達され、この駆動輪によって左右の履帯が駆動される。このようなブルドーザでは、左右の駆動輪に対応して、ステアリングクラッチ及びステアリングブレーキが設けられている。そして、左右のステアリングクラッチ及びステアリングブレーキを油圧によって制御することにより、左右の旋回が実行される(例えば、特許文献1参照)。
例えば、左旋回の場合は、左側のステアリングブレーキが係合(ブレーキオン=制動状態)されるとともに、左側のステアリングクラッチが係合解除(クラッチオフ=動力遮断状態)され、右側のステアリングクラッチが係合されるとともに、右側のステアリングブレーキが係合解除される。
以上のようにクラッチ及びブレーキが制御されて、エンジンからの動力は右のステアリングクラッチを介して右側の履帯に伝達され、車両は左に旋回する。
特公平8−18573号公報
以上のようなステアリングクラッチ及びステアリングブレーキを有するブルドーザにおいては、以下のような状況においてステアリングクラッチに滑りが生じる。
<状況1>
例えば、左旋回の場合は、前述のように、右側の伝達系においては、ステアリングクラッチはオン、ステアリングブレーキはオフとなっている。このような状態で、すなわち左旋回中に、オペレータがフットブレーキを操作すると、左右のステアリングブレーキがオンになる。すると、右側の伝達系においては、ステアリングクラッチで動力を伝達しながら、一方で、ステアリングブレーキでその回転を制動することになり、矛盾した動作が実行されることになる。
以上のような状況においては、エンジン出力はトルクコンバータに吸収され、ステアリングクラッチに過負荷が作用するのを抑えられる。したがって、ステアリングクラッチが滑るのが防止される。しかし、特に前進1速のようにトルクが大きい場合は、トルクコンバータでは吸収できず、右のステアリングクラッチが滑ることになる。
<状況2>
ブルドーザでは、以下のような転石起こし作業を行う場合がある。
転石起こし作業の初期においては、ブレードの左端によって、履帯より下方の転石が引っ掛けられる。ブレード位置をそのままにして、車両を前方へけん引する。すると、左履帯の後方に負荷がかかり、車体前方が浮き上がる。車体前方が浮き上がると、履帯の接地面積が前後で異なり、平均接地面圧が下がるために、左履帯がスリップする。
以上のように、履帯がスリップするような状態では、ステアリングクラッチが滑ることはない。
しかし、以上のような状況下では、オペレータは履帯がスリップしないように、ブレードを上げることになる。これにより、左履帯は全面が接地することになり、結果的に左側のステアリングクラッチに過負荷が作用する。前述のように、トルクコンバータでこの過負荷を吸収できる場合はステアリングクラッチが滑ることはないが、トルクコンバータで吸収できない場合は、ステアリングクラッチに滑りが生じる。
以上のように、走行状態によっては、あるいは作業の形態によっては、ステアリングクラッチが滑る場合がある。このようなステアリングクラッチの滑りが長時間続くと、クラッチが焼けて損傷されることになる
そこで従来の車両においては、ステアリングクラッチに滑りが生じるような種々のケース(前述の状況1及び2等)を想定し、そのような走行状態や作業形態の条件が満たされた場合に、エンジンの出力を下げる等によってステアリングクラッチを保護するようにしている。
しかし、ステアリングクラッチが滑るすべての状況を想定して条件を設定することは困難であり、ステアリングクラッチを十分に保護することはできない。また、ステアリングクラッチに滑りが生じたときにエンジン出力を急に低下させると、オペレータに違和感を生じさせ、スムーズな作業等を行うことができない。
本発明の課題は、ステアリングクラッチに滑りが生じたことを正確に判定して、ステアリングクラッチを保護することにある。
本発明の別の課題は、オペレータの違和感を抑えてステアリングクラッチの保護処理を実行することにある。
本発明の第1側面に係る履帯式作業車両は、エンジンと、左右の走行装置と、動力伝達装置と、左右のステアリングクラッチと、左右のステアリングブレーキと、回転数差検出手段と、クラッチ油圧取得手段と、クラッチ保護手段と、を備えている。左右の走行装置は、それぞれが、履帯及び履帯を駆動するための駆動輪を有する。動力伝達装置はエンジンの動力を左右の走行装置の駆動輪に伝達する。左右のステアリングクラッチは、動力伝達装置と左右の駆動輪のそれぞれとの間に配置され、動力を伝達又は遮断する。左右のステアリングブレーキは、左右のステアリングクラッチと左右の駆動輪との間に配置され、左右の駆動輪への回転を制動する。回転数差検出手段は各ステアリングクラッチの入出力の回転数差を検出する。クラッチ油圧取得手段は各ステアリングクラッチに供給されるクラッチ油圧を取得する。クラッチ保護手段は、回転数差及びクラッチ油圧を参照してステアリングクラッチの発熱率を演算し、演算された発熱率を予め設定されている第1しきい値と比較してステアリングクラッチの保護処理を実行する。
ここでは、エンジンからの動力は、動力伝達装置及び左右のステアリングクラッチを介して左右の走行装置に伝達される。旋回時には、一方側のステアリングクラッチが係合されるとともにステアリングブレーキが係合解除され、他方側のステアリングクラッチが係合解除されるとともにステアリングブレーキが係合される。これにより、車両は一方側に旋回する。
以上のような状況において、例えば旋回中にフットブレーキが操作されると、ステアリングクラッチが係合されている側のステアリングブレーキも係合される。すると、ステアリングクラッチに滑りが生じる場合がある。
そこで、ここでは、ステアリングクラッチの入出力回転数の差及びクラッチ油圧を参照してステアリングクラッチの発熱率が演算され、演算結果と予め設定されている第1しきい値とが比較される。この比較結果に応じてステアリングクラッチの保護処理が実行される。
ここでは、滑りが生じているステアリングクラッチの発熱率を演算し、この演算結果に基づいて保護処理が実行されるので、滑りが生じているステアリングクラッチを高い精度で確実に保護できる。
本発明の第2側面に係る履帯式作業車両は、第1側面の作業車両において、クラッチ保護手段は、発熱率が第1しきい値以上になった場合は、エンジンの出力を低下させる。
ここでは、ステアリングクラッチの発熱率が第1しきい値以上になった場合はエンジン出力を低下させているので、ステアリングクラッチを確実に保護できる。また、ステアリングクラッチ自体の発熱率を考慮してエンジンの出力を制御するので、不必要にエンジン出力を低下させたり、また必要なときにエンジン出力が低下されなかったり、といった不具合を防止できる。すなわち、精度の高い保護制御を行うことができる。
本発明の第3側面に係る履帯式作業車両は、第2側面の作業車両において、エンジンの回転数が予め許容されている最低回転数か否かを判断するエンジン回転数判定手段をさらに備えている。また、クラッチ保護手段は、発熱率が第1しきい値以上になった場合に、エンジンの回転数が最低回転数より低い場合は、エンジンの出力を低下させることなく警告処理を実行する。
ステアリングクラッチの発熱率が第1しきい値以上になった場合にエンジン回転数を下げる等して出力を低下させることは、ステアリングクラッチの保護にとって有効な処理である。しかし、エンジン回転数を低下させすぎると、満足な車両性能が得られないことになる。そこで、エンジン回転数が車両性能から許容される最低回転数を下回るような場合は、エンジンの出力を低下させることなく、オペレータに対して警告を発する処理が実行される。
本発明の第4側面に係る履帯式作業車両は、第2又は第3側面の作業車両において、クラッチ保護手段は、発熱率が第1しきい値より小さい第2しきい値以下になった場合はエンジンの出力を所定量増加させる。
ステアリングクラッチの発熱率が低下した場合は、エンジン出力を低下させる必要はなく、旋回性能、作業効率等を考慮した場合、エンジン出力を増加させることが好ましい。
そこで、この第4側面の車両では、発熱率が第2しきい値より低下した場合はエンジンの出力を所定量増加させるようにしている。このため、エンジン出力の低下は、ステアリングクラッチの保護に必要最小限となり、保護処理が実行された際のオペレータに対する違和感を抑えることができる。なお、第2しきい値は第1しきい値より小さい値であり、しきい値にヒステリシスを持たせて、制御がチャタリングするのを防止している。
本発明の第5側面に係る履帯式作業車両は、第1側面の作業車両において、クラッチ保護手段は、発熱が第1しきい値以上になった場合は、発熱が第1しきい値以上になったステアリングクラッチの係合を解除する。
ここでは、発熱率の高くなったステアリングクラッチについては、クラッチの係合が解除されるので、クラッチの負荷が下がり、確実に保護できる。
本発明の第6側面に係る履帯式作業車両は、第5側面の作業車両において、クラッチ保護手段は、発熱が第1しきい値以上になり、ステアリングクラッチの係合を解除した後に、警告処理を実行する。
ここでは、警告処理を実行することによって、オペレータに対応を促すことができる。
本発明の第7側面に係る履帯式作業車両は、第1から第6側面の作業車両において、動力伝達装置は、流体を介して動力を伝達するトルクコンバータを有している。
ここでは、ステアリングクラッチに過負荷が作用したときに、トルクコンバータにおいて所定の負荷を吸収できるので、ステアリングクラッチの保護が容易になる。
以上のような本発明では、ステアリングクラッチに滑りが生じたことを正確に判定して、高い精度でステアリングクラッチを保護することができる。また、ステアリングクラッチの発熱率を所定のしきい値に近づけることによって、オペレータへの違和感を抑えてステアリングクラッチを保護することができる。
本発明の一実施形態によるブルドーザの外観斜視図。 図1に示したブルドーザの概略構成を示す図。 ステアリングクラッチの保護処理のフローチャート。 別の実施形態によるステアリングクラッチの保護処理のフローチャート。 さらに別の実施形態によるステアリングクラッチの保護処理のフローチャート。
図1に、履帯式作業車両の一例であるブルドーザ1を示している。ブルドーザ1は、図1及び図2に示すように、それぞれスプロケット2L,2R及び履帯3L,3Rを有する左右の走行装置4L,4Rと、車両前部に設けられたブレード5と、車両後部に設けられたリッパ装置6と、を備えている。そして、このブルドーザ1は、ブレード5による土押し等の作業や、リッパ装置6による破砕、掘削等の作業が可能である。
[動力伝達系統の構成]
図2に示すように、このブルドーザ1は、エンジン10と、エンジン10から左右のスプロケット2L,2Rに動力を伝達する動力伝達装置11と、左右のステアリングクラッチ12L,12Rと、左右のステアリングブレーキ13L,13Rと、を有している。
動力伝達装置11では、エンジン10からの動力は、ダンパ15を介してトルクコンバータ16に伝達される。トルクコンバータ16の出力軸は、トランスミッション17の入力軸に連結されており、トルクコンバータ16からトランスミッション17に動力が伝達される。トランスミッション17から出力された動力は、第1ベベルギア18及び第2ベベルギア19を介して、横軸20に伝達される。
横軸20に伝達された動力は、左ステアリングクラッチ12L及び左終減速装置22Lを介して、左スプロケット2Lに伝達される。また、横軸20に伝達された動力は、右ステアリングクラッチ12R及び右終減速装置22Rを介して、右スプロケット2Rに伝達される。各スプロケット2L,2Rには履帯3L,3Rが巻回されている。このため、スプロケットが回転駆動されると、履帯3L,3Rが駆動され、これによりブルドーザ1が走行する。
なお、トランスミッション17には、前後進切替用のクラッチ25や、複数の変速用クラッチ26が設けられている。各クラッチ25,26は、油圧によって係合状態と係合解除状態とに切替可能な油圧クラッチである。これらの各クラッチ25,26への圧油の供給及び排出は、トランスミッション用コントロールバルブ26によって制御される。
左右のステアリングクラッチ12L,12Rは、それぞれ動力伝達装置11と左右のスプロケット2L,2Rとの間に配置され、油圧によって係合状態と係合解除状態とに切替可能な油圧クラッチである。これらのステアリングクラッチ12L,12Rへの圧油の供給及び排出は、ステアリングクラッチ用コントロールバルブ27L,27Rによって制御される。なお、左右のステアリングクラッチ12L,12Rは、ネガティブタイプの油圧クラッチであり、油圧が供給されていない状態で係合状態となっており、所定値以上の油圧が供給されると、係合解除状態になる。
ここでは、左ステアリングクラッチ12Lが係合状態である場合には、第2ベベルギア19からの動力が左スプロケット2Lに伝達される。また、右ステアリングクラッチ12Rが係合状態である場合には、第2ベベルギア19からの動力が右スプロケット2Rに伝達される。
左右のステアリングブレーキ13L,13Rは、それぞれ左右のステアリングクラッチ12L,12Rと左右のスプロケット2L,2Rとの間に配置され、油圧によって制動状態と非制動状態とに切替可能な油圧式のブレーキである。これらのステアリングブレーキ13L,13Rへの圧油の供給及び排出は、ブレーキ用コントロールバルブ28L,28Rによって制御される。
ここでは、左ステアリングブレーキ13Lを制動状態にすることによって、左ステアリングクラッチ12Lの出力回転、すなわち左スプロケット2Lの回転を制動することができる。また、右ステアリングブレーキ13Rを制動状態にすることによって、右ステアリングクラッチ12Rの出力回転、すなわち右スプロケット2Rの回転を制動することができる。
以上のような構成によって、左ステアリングクラッチ12Lが係合解除状態にされ、かつ左ステアリングブレーキ13Lが制動されている状態において、右ステアリングクラッチ12Rを係合状態にして右スプロケット2Rが回転駆動されると、ブルドーザ1は左方向に旋回する。また、逆に、右ステアリングクラッチ12Rが係合解除状態にされ、かつ右ステアリングブレーキ13Rが制動されている状態において、左ステアリングクラッチ12Lを係合状態にして左スプロケット2Lが回転駆動されると、ブルドーザ1は右方向に旋回する。
[出力制御のための構成]
このブルドーザ1は制御部30を有している。制御部30は、トランスミッション17の速度段の切替、各コントロールバルブ26,27L,27R,28L,28Rの制御を行うとともに、左右のステアリングクラッチ12L,12Rの保護処理を実行する。
左右のステアリングクラッチ12L,12Rの保護を行うために、制御部30は、オン・オフ判定機能と、回転数差検出機能と、ステアリングクラッチ油圧取得機能と、保護機能と、を有している。
オン・オフ判定機能は、各ステアリングクラッチ12L,12Rへの油圧指令値から各ステアリングクラッチ12L,12Rが係合状態であるか、係合解除状態であるかを判定する機能である。回転数差検出機能は、トランスミッション17の出力軸の回転数を検出する回転数検出センサ31と、各ステアリングクラッチ12L,12Rの出力部に設けられた回転数検出センサ32L,32Rとから、各ステアリングクラッチ12L,12Rの入出力の回転数差を検出する機能である。クラッチ油圧取得機能は、各ステアリングクラッチ12L,12Rへの油圧指令値から各ステアリングクラッチ12L,12Rに供給されている油圧を取得する機能である。なお、この場合の各ステアリングクラッチ12L,12Rの油圧は、各ステアリングクラッチ12L,12Rに滑りが発生しているときの油圧である。保護機能は、回転数差及びクラッチ油圧を参照して、滑りが発生しているステアリングクラッチの発熱率を演算し、演算された発熱率を予め設定されているしきい値と比較してステアリングクラッチの保護処理を実行する機能である。
なお、各ステアリングクラッチ12L,12Rへの供給油圧は、実際に油圧センサによって検出するようにしてもよい。
[保護処理]
ステアリングクラッチ12L,12Rの保護処理について、図3のフローチャートにしたがって説明する。ここでは、左ステアリングクラッチ12Lの保護処理について説明するが、右ステアリングクラッチ12Rの保護処理についても全く同様である。
まず、ステップS1では、左ステアリングクラッチ12L(以下、単に「ステアリングクラッチ」と記す)への油圧指令値I(電流値)から、ステアリングクラッチが係合状態にあるか否かを判定する。具体的には、指令電流値Iがしきい値X1よりも小さいか否かを判断する。前述のように、ステアリングクラッチはネガティブタイプの油圧クラッチであり、油圧が所定値以上になると、係合解除状態になる。したがって、指令電流値Iがしきい値X1よりも小さい場合は、ステアリングクラッチは係合状態であると判定し、ステップS2に移行する。なお、指令電流値Iがしきい値X1以上の場合は、ステアリングクラッチは係合解除状態であると判定して、保護処理は実行しない。
ステップS2では、ステアリングクラッチの入出力の回転数差を検出する。具体的には、トランスミッション17の出力軸の回転数検出センサ31の検出結果からステアリングクラッチの入力回転数Rinを演算し、この回転数Rinからステアリングクラッチの出力部の回転数検出センサ32Lの検出結果Routを減算し、回転数差R(cl)を得る。
次にステップS3では、ステップS2で得られた回転数差R(cl)がしきい値X2より大きいか否かを判定する。しきい値X2は通常は「0rpm」に設定されるが、0rpmに近い低回転数に設定してもよい。
回転数差R(cl)がしきい値X2よりも大きい場合は、ステップS3からステップS4に移行する。ステップS4では、下記の式(1)によって、ステアリングクラッチの熱負荷である発熱率qを演算する。
q=μ×P×R(cl)−−−−(1)
μ:ステアリングクラッチを構成する摩擦材の摩擦係数
P:ある時刻でのステアリングクラッチの押圧力(油圧指令値及びクラッチディスク面積から算出)
次にステップS5では、発熱率qがしきい値X3以上であるか否かを判定する。このしきい値X3は、ステアリングクラッチを構成するプレート及びプレートに固定された摩擦部材の耐久性から予め設定されているものである。
発熱率qがしきい値X3以上の場合は、ステップS5からステップS6に移行する。ステップS6では、現在のエンジン回転数R(eng)がしきい値X4より低いか否かを判定する。しきい値X4は、車両性能で許容される最低エンジン回転数であり、予め設定されている。
エンジン回転数がしきい値X4以上の場合は、エンジン回転数を現状の回転数よりさらに下げる余地があるので、ステップS6からステップS7に移行する。ステップS7では、エンジン回転数を、一定の時間(ΔT)、所定回転数(ΔR)だけ低下させ、エンジン出力を低下させる。そして、ステップS1に戻り、以上の処理を繰り返し実行する。これにより、ステアリングクラッチの熱負荷が軽減される。
また、ステップS6において、エンジン回転数がしきい値X4以下になった場合は、これ以上エンジン回転数を下げるのは好ましくないので、ステップS6からステップS8に移行する。ステップS8では、警告処理を実行する。具体的には、ステアリングクラッチの熱負荷を下げるために、オペレータに対して、エンジン回転数をローアイドル回転数まで落とすように操作パネル等に表示する。
[特徴]
(1)滑りが生じているステアリングクラッチの発熱率を演算し、この演算結果に基づいて保護処理が実行される。このため、従来の装置のように、種々の滑りモードを想定して保護処理を実行する場合に比較して、高い精度で確実にステアリングクラッチを保護できる。
(2)ステアリングクラッチ自体の発熱率を考慮してエンジンの出力を制御するので、不必要にエンジン出力を低下させたり、また必要なときにエンジン出力が低下されなかったり、といった不具合を防止できる。
(3)エンジン回転数を下げて出力を制御する際に、エンジン回転数が予め許容されている最低回転数か否かを判断し、エンジン回転数が最低回転数より低い場合は、エンジンの出力を低下させることなく警告処理を実行するようにしている。このため、最低限の車両性能を維持することができる。
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
(a)前記実施形態では、ステアリングクラッチの熱負荷が大きい場合は、エンジン回転数を下げてエンジン出力を制御し、熱負荷を下げるようにしたが、保護処理についてはこの実施形態に限定されない。
他の保護処理として、熱負荷の大きいステアリングクラッチの係合を解除して熱負荷を下げることが考えられる。図4は、この場合のフローチャートを示している。
図4において、ステップS11〜ステップS15の処理は、前記実施形態におけるステップS1〜ステップS5の処理と同様である。
すなわち、ステアリングクラッチが係合状態にあるか否かを判定し、係合状態である場合は、ステアリングクラッチの入出力の回転数差を検出する。そして、回転数差R(cl)がしきい値X2よりも大きい場合は、ステアリングクラッチの発熱率qを(1)式によって演算する。発熱率qがしきい値X3以上の場合はステップS15からステップS16に移行し、発熱率qがしきい値X3以下の場合はステップS11に戻って、ステップS11〜ステップS15の処理を繰り返し実行する。
そして、ステップS16では、滑りが生じているステアリングクラッチを強制的に係合解除する。これにより、熱負荷を下げることができ、ステアリングクラッチを構成しているプレートや摩擦部材を保護することができる。次にステップS17に移行し、前記実施形態と同様の警告を操作パネル等に表示する。
このような実施形態によっても、前記実施形態と同様に、高い精度でステアリングクラッチを保護することができる。
(b)前記実施形態では、ステアリングクラッチの熱負荷が大きくなった場合、エンジン出力を下げる処理を行うようにしたが、前記実施形態の処理に加えて、熱負荷が下がった場合にはエンジン出力を上げるようにしてもよい。この場合のフローチャートを図5に示している。
図5において、ステップS1〜ステップS8までの処理は前記実施形態におけるステップS1〜ステップS8の処理と全く同様である。ここでは、ステップS9及びステップS10が追加されている。
すなわち、ステップS5でステアリングクラッチの発熱率qがしきい値X3より小さい場合は、ステップS9に移行する。ステップS9では、発熱率qがしきい値X5以下か否かを判定する。しきい値X5はしきい値X3よりは小さい値が設定されている。
発熱率qがしきい値X5以下の場合は、熱負荷が十分に小さくなったと判断されるので、ステップS9からステップS10に移行する。ステップS10では、エンジン回転数を、一定の時間(ΔT)、所定回転数(ΔR)だけ上昇させ、エンジン出力を増加させる。そして、ステップS1に戻り、以上の処理を繰り返し実行する。
ここでは、エンジン出力を、ステアリングクラッチの保護に必要最小限の範囲で低下させることができる。このため、ステアリングクラッチの保護による運転性能の低下を最小限に抑えることができる。
(c)前記実施形態では、ステアリングクラッチの発熱率qを演算してステアリングクラッチの保護処理を実行するようにしたが、ステアリングクラッチの総発熱量Qを求め、この総発熱量Qが所定のしきい値以上か否かによって保護処理を実行するようにしてもよい。この場合、「発熱率」を「総発熱量」と読み替えるものとする。
(d)前記実施形態では、履帯式作業車両としてブルドーザを例にとって説明したが、本発明は、他の履帯式の作業車両で、ステアリングクラッチを備えた車両に対しても同様に適用することができる。
1 ブルドーザ
2L,2R スプロケット(駆動輪)
3L,3R 履帯
4L,4R 走行装置
10 エンジン
11 動力伝達装置
12L,12R ステアリングクラッチ
13L,13R ステアリングブレーキ
16 トルクコンバータ
17 トランスミッション
30 制御部

Claims (7)

  1. エンジンと、
    それぞれが、履帯及び前記履帯を駆動するための駆動輪を有する左右の走行装置と、
    前記エンジンの動力を前記左右の走行装置の駆動輪に伝達する動力伝達装置と、
    前記動力伝達装置と前記左右の駆動輪のそれぞれとの間に配置され、動力を伝達又は遮断する左右のステアリングクラッチと、
    前記左右のステアリングクラッチと前記左右の駆動輪との間に配置され、前記左右の駆動輪への回転を制動する左右のステアリングブレーキと、
    前記各ステアリングクラッチの入出力の回転数差を検出する回転数差検出手段と、
    前記各ステアリングクラッチに供給されるクラッチ油圧を取得するクラッチ油圧取得手段と、
    前記回転数差及び前記クラッチ油圧を参照して前記ステアリングクラッチの発熱率を演算し、演算された発熱率を予め設定されている第1しきい値と比較して前記ステアリングクラッチの保護処理を実行するクラッチ保護手段と、
    を備えた履帯式作業車両。
  2. 前記クラッチ保護手段は、前記発熱率が前記第1しきい値以上になった場合は、前記エンジンの出力を低下させる、請求項1に記載の履帯式作業車両。
  3. 前記エンジンの回転数が予め許容されている最低回転数か否かを判断するエンジン回転数判定手段をさらに備え、
    前記クラッチ保護手段は、前記発熱率が前記第1しきい値以上になった場合に、前記エンジンの回転数が前記最低回転数より低い場合は、前記エンジンの出力を低下させることなく警告処理を実行する、
    請求項2に記載の履帯式作業車両。
  4. 前記クラッチ保護手段は、前記発熱率が前記第1しきい値より小さい第2しきい値以下になった場合は前記エンジンの出力を所定量増加させる、請求項2又は3に記載の履帯式作業車両。
  5. 前記クラッチ保護手段は、前記発熱が前記第1しきい値以上になった場合は、発熱が第1しきい値以上になったステアリングクラッチの係合を解除する、請求項1に記載の履帯式作業車両。
  6. 前記クラッチ保護手段は、前記発熱が前記第1しきい値以上になり、前記ステアリングクラッチの係合を解除した後に、警告処理を実行する、請求項5に記載の履帯式作業車両。
  7. 前記動力伝達装置は、流体を介して動力を伝達するトルクコンバータを有している、請求項1から6のいずれかに記載の履帯式作業車両。
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