JP5204593B2 - 高強度非調質熱間鍛造鋼の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明に係る高強度非調質熱間鍛造鋼の製造方法は、C:0.2〜0.8質量%、Si:0.5質量%以下、Mn:0.4〜1.0質量%、V:0.2〜0.8質量%、S:0.05質量%以下、P:0.05質量%以下、N:0.01質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を、熱間鍛造するものである。したがって、本発明に係る高強度非調質熱間鍛造鋼の製造方法で製造された高強度非調質熱間鍛造鋼、すなわち本発明に係る高強度非調質熱間鍛造鋼は、前記成分の鋼で構成される。
Cは、Fe炭化物(セメンタイト:Fe3C)を形成することで熱間鍛造鋼にパーライトを形成させて、熱間鍛造鋼の引張強度を向上させる。また、Cは、Vと炭化物、炭窒化物(VC,V(C,N))を形成してフェライト中に微細に析出することでフェライトおよびパーライトを析出強化する作用を有し、熱間鍛造鋼の硬さ(降伏強度)を向上させる。C含有量が0.2質量%未満では、この効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.8質量%を超えると、熱間鍛造後の冷却時に、フェライト変態やパーライト変態が抑制されてベイナイトが形成されるようになり、降伏強度が低下し、降伏比が低下する。したがって、C含有量は、0.2〜0.8質量%とし、好ましくは0.3〜0.6質量%、さらに好ましくは0.4〜0.5質量%である。
Siは、固溶強化によりフェライトおよびパーライトの降伏強度を向上させ、また脱酸効果を有し、熱間鍛造鋼の内部品質を向上させる。一方、Si含有量が0.5質量%を超えると、ベイナイトが形成されるようになり、降伏比が低下する。したがって、Si含有量は0.5質量%以下とする。
Mnは、固溶強化によりフェライトおよびパーライトの降伏強度を向上させる。Mn含有量が0.4質量%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が1.0質量%を超えると、ベイナイトが形成されるようになり、降伏比が低下する。したがって、Mn含有量は0.4〜1.0質量%とする。
Vは、フェライトおよびパーライト中のラメラフェライトに微細なV炭化物、V炭窒化物として析出することでフェライトおよびパーライトを強化し、降伏強度向上に寄与する。V含有量が0.2質量%未満では、この効果が十分に得られないため0.2質量%以上とし、好ましくは0.35質量%以上、さらに好ましくは0.45質量%以上である。一方、V含有量が0.8質量%を超えると、熱間鍛造後の冷却時に、フェライト変態やパーライト変態が抑制されてベイナイトが形成されるようになり、降伏強度が低下し、降伏比が低下する。あるいは、さらにフェライト変態点、パーライト変態点が上昇するのでフェライト中のV炭化物の相界面析出が起こり難くなり、逆に降伏強度の低下を招く。したがって、V含有量は0.8質量%以下とする。
Sは、鋼に不可避的に含まれ、Mnと反応してMnS介在物を形成して被削性を向上させる効果を有するが、一方で、延性および靭性を低下させる。したがって、S含有量は0.05質量%以下とする。
Pは、鋼に不可避的に含まれるが、鋼を脆化させるので可能な限り低減されることが好ましく、P含有量は0.05質量%以下とする。
N(窒素)は鋼の溶融工程で不可避的に混入する元素である。Nは、Vと結合してV炭窒化物を形成し、析出強化に寄与する。一方、N含有量が0.01質量%を超えると、加熱時に鋼に溶解しないNが生じ、粗大なV窒化物を形成する。このV窒化物の近傍領域でVが不足して、V炭化物、V炭窒化物の析出強化が低下し、降伏強度が低下する。
熱間鍛造前の加熱では、鋼(オーステナイト)に、Mn等の添加元素やV炭化物を完全に固溶する必要がある。特に本発明における鋼はV含有量が多く、V炭化物が完全固溶する温度(VC完全固溶温度)Tvcが高いため、この温度を鋼のC,V各含有量(質量%)[C] ,[V]から算出して、それに応じて加熱温度を設定する。VC完全固溶温度Tvc(℃)は、『日本鉄鋼協会,鉄鋼便覧第3版,第I巻基礎,1981年,p.412』の図7・43に表されたC,Vの溶解度積とVC完全固溶温度Tvcとの相関より導出した下式(1’ )を、式変形した下式(1)を用いて算出することができる。さらに、加熱時間(保持時間)によらずすべてのV炭化物を確実に固溶させるため、VC完全固溶温度Tvcに50℃を加算して加熱温度の下限とする。加熱温度の上限は特に規定されないが、鋼の溶融温度未満とするため、また設備の能力等から、1300℃程度とすることが好ましい。このような加熱時間であれば保持時間は特に規定されないが、10時間以下保持してもよい。
log([C]×[V])=−9500/(Tvc+273)+6.72 ・・・式(1’)
Tvc=−9500/(log([C]×[V])−6.72)−273 ・・・式(1)
熱間鍛造において温度が低下すると組織が微細化するが、850℃未満まで低下するとV炭化物がオーステナイト中に析出する。V炭化物がオーステナイト中に析出すると、その後のフェライト変態時にフェライト中に微細に相界面析出するV炭化物が減少するため、降伏強度を確保できなくなる。したがって、熱間鍛造温度は850℃以上とする。また、本発明に係る鋼はV含有量が多いため、熱間鍛造における歪量を10%以上とすることが、フェライト変態が促進されるために好ましく、20%以上がさらに好ましい。一方、歪量を95%を超えて大きくすると熱間変形抵抗が過剰になるため、95%以下が好ましく、90%以下がさらに好ましい。
熱間鍛造後、1.5℃/s未満の冷却速度で緩やかに冷却すると、720℃を超える高温でフェライト変態が開始する。フェライト形成と並行してV炭化物がフェライト中に析出するが、このような高温下ではV炭化物が粗大になって析出強化に寄与せず、また、冷却が進行して温度が低下したときの相界面析出および微細に析出するV炭化物が減少し、あるいは相界面析出自体が起こらなくなって、局所的に析出強化の不十分なフェライトが形成される。その結果、熱間鍛造鋼の降伏強度を十分に向上させることができない。したがって、熱間鍛造終了温度から720℃以下までの急速冷却速度は1.5℃/s以上とし、好ましくは3.0℃/s以上、さらに好ましくは5.0℃/s以上である。
真空溶製された表1に示す化学成分組成の鋼を1250℃で30分間加熱した後、φ50mmの丸棒材に熱間鍛造して空冷した。この丸棒材を1250℃で30分間加熱した後、900℃以上の温度域でφ25mmの丸棒材に熱間鍛造して空冷した。この丸棒材のD/4部を中心に、φ8mm×長さ12mmの円筒形の供試材を切り出した。
この供試材に、熱間加工再現試験装置THERMECMASTOR−Z(富士電波工機株式会社製)で熱間鍛造工程を再現した。熱間鍛造工程模擬のプロセスは、10℃/sで1100℃に加熱後、10分間保持し、表1に示す条件(温度、歪量、歪速度)で熱間鍛造を行い、その後、400℃以下となるまで表1に示す冷却速度で冷却した。なお、冷却において、比較例No.1〜9は、熱間鍛造後、一定の冷却速度とし、それ以外は、表1に示す急速冷却(急冷)停止温度までは急速冷却速度10℃/sで冷却し、以降は表1に示す冷却速度に切り換えて冷却した。
熱間鍛造後の供試材について、組織を観察した。供試材の円筒形の軸に沿って切断し、軸方向の中心かつ円周方向のD/8部を観察できるように切断面を調整し、3%ナイタールで腐食させた後、腐食面を光学顕微鏡で観察して構成組織を判別した。図1に、(a)実施例No.18および(b)比較例No.10の組織写真を示す。図1(a)において、白い領域がフェライト(F)であり、黒い部分(セメンタイト)に白い部分(ラメラフェライト)が分散して混在している暗いコントラストの領域がパーライト(P)である(それぞれの組織を矢印で示す)。そして、図1(b)において、暗いコントラストの領域のうち、白い部分が針状に混在している領域(図1(b)中に矢印で示す)がベイナイト(B)である。組織解析は400倍で10枚組織写真を撮影し、各写真に対してランダムに100点を選び、各点の組織を判別した。各組織(フェライト、パーライト、ベイナイト)が存在した点数を全点数100で割ることで組織分率を求め、表1に示す。また、強度の評価として、熱間鍛造後の供試材のビッカース硬さを、ビッカース硬さ試験機を用いて荷重10kgfで5点測定し、その平均値をビッカース硬さとして表1に示す。強度の合格基準は、降伏強度900MPa以上かつ降伏比0.8超に相当するビッカース硬さ370HV以上とした。また、式(1)より算出したVC完全固溶温度Tvcを表1に併記する。
表1に示すように、実施例No.13〜23は、V含有量が本発明の範囲であるので、V炭化物の析出強化により降伏強度が向上してビッカース硬さが高かった。特にV含有量が0.50質量%である実施例No.16〜23は、V炭化物の析出量が多いため、降伏強度が大きく向上した。これに対して、比較例No.1〜3,11,12は、V含有量が不足しているためV炭化物の析出強化が不十分で、降伏強度が得られず、ビッカース硬さが低下した。
実施例No.13〜23は、熱間鍛造後の冷却条件が本発明の範囲であるので、組織がフェライトおよびパーライトとなり(図1(a)参照)、かつ微細なV炭化物が十分に析出したことにより降伏強度が向上してビッカース硬さが高かった。特にV含有量が0.50質量%であり、かつ急速冷却停止温度およびその後の冷却速度の好ましい実施例No.17〜19,21〜23は、フェライトおよびパーライト中のラメラフェライトにV炭化物が十分に析出したため、降伏強度が大きく向上した。
Claims (1)
- C:0.2〜0.8質量%、Si:0.5質量%以下、Mn:0.4〜1.0質量%、V:0.2〜0.8質量%、S:0.05質量%以下、P:0.05質量%以下、N:0.01質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を、
(Tvc+50)℃以上の加熱温度に加熱し、
前記加熱温度以下850℃以上で熱間鍛造し、
前記熱間鍛造の終了温度から720℃以下550℃以上まで1.5℃/s以上の急速冷却速度で冷却し、
720℃以下550℃以上から400℃まで0.1℃/s以上1.5℃/s未満の冷却速度で冷却することを特徴とする高強度非調質熱間鍛造鋼の製造方法。
ただし、Tvc=−9500/(log([C]×[V])−6.72)−273
([C]、[V]:前記C、前記Vの各含有量(質量%))
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