JP5201787B2 - 成形用アルミニウム合金板及びその製造方法、並びに成形用アルミニウム合金板の加工方法 - Google Patents
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Description
このように、アルミニウム板材のプレス成形性を、後工程の洗浄工程に負荷をかけることなく向上させるには工業的にはかなり困難な状態にあった。
上記水和酸化物皮膜は、フーリエ変換赤外分光分析測定(FT−IR)において、波数1100cm-1近傍及び波数1350cm-1近傍に吸収スペクトルのピークを示し、1100cm-1近傍における上記吸収スペクトルのピークにおける吸光度の最大値をA1、1350cm-1近傍における上記吸収スペクトルのピークにおける吸光度の最大値をA2とすると、A2/A1≧1という関係を満足し、
上記水和酸化物皮膜上に、潤滑油、固体潤滑剤、及びワックスから選ばれる1種以上からなる潤滑性皮膜を有し、該潤滑性皮膜の付着量は0.1〜10g/m 2 であることを特徴とする成形用アルミニウム合金板にある(請求項1)。
アルミニウム合金板の表面にアルカリ性水溶液よりなるアルカリ処理液を接触させて自然酸化皮膜を除去すると共にスマットを生成させるアルカリ処理工程と、
該アルカリ処理工程において上記アルミニウム合金板の表面に生成した上記スマットを除去するデスマット処理を行わずに、上記アルミニウム合金板に温度50℃以上の水又はアルカリ性水溶液よりなる熱水処理液を接触させて、上記アルミニウム合金板の表面に上記水和酸化物皮膜を形成させる熱水処理工程と、
上記水和酸化物皮膜上に、潤滑油、固体潤滑剤、及びワックスから選ばれる1種以上からなる潤滑性皮膜形成剤を塗布し、0.1〜10g/m 2 の潤滑性皮膜を形成する潤滑性皮膜形成工程とを有することを特徴とする成形用アルミニウム合金板の製造方法にある(請求項7)。
このようにして形成した上記水和酸化物は、上記アルミニウム合金板の表面の摩擦係数を低くすることができる。そのため、上記成形用アルミニウム合金板は、潤滑油を用いなくても、例えばプレス成形等における成形性を向上させることができる。また、潤滑油を用いなくても成形性を向上できるため、成形後に洗浄により潤滑油を除去する必要がなくなる。
本発明の成形用アルミニウム合金板は、アルミニウム合金板と、該アルミニウム合金板の表面に形成されたAlの水和酸化物皮膜とを有する。アルミニウム合金板は、所定の厚みまで圧延することにより得ることができる。
上記波数1100cm-1近傍は、波数1100±50cm-1を意味する。また、上記波数1350cm1近傍は、波数1350±50cm1を意味する。
上記特定波数に吸収スペクトルのピークを示さない場合又はA2/A1<0.1の場合には、上記水和酸化物皮膜が上記アルミニウム合金板の表面の摩擦係数を充分に低減できなくなるおそれがある。またこの場合には、上記水和酸化物皮膜と潤滑油との親和性を充分に向上させることができなくなるおそれがある。その結果、成形性を充分に向上させることが困難になるおそれがある。より好ましくは、A2/A1≧1以上がよく、さらに好ましくはA2/A1≧1.5がよい。
上記アルカリ処理工程においては、上記アルミニウム合金板の表面にアルカリ性水溶液よりなるアルカリ処理液を接触させて自然酸化皮膜を除去すると共にスマットを生成させる。
上記アルカリ処理工程は、例えばアルミニウム合金板の製造工程に連続して行うことができる。この場合には、上記アルミニウム合金板の表面には、圧延油等の潤滑油が存在するが、上記アルカリ処理工程を行うことにより、上述のごとく自然酸化皮膜を除去できると共に、これらの油成分を脱脂することができる。もちろん、上記アルミニウム合金板としては、例えば市販のアルミニウム合金板のように、油成分が予め除去された合金板を用いることもできる。
また、上記アルカリ処理液としては、pHが8以上のアルカリ水溶液を用いることが好ましい。この場合には、上記アルカリ処理工程において、上記アルカリ処理液を用いて上記自然酸化皮膜を除去し、スマットを生成させることがより容易になる。
上記のごとく上記熱水処理工程においては、上記デスマット処理を行わずに上記水和酸化物皮膜を形成しているため、上記水和酸化物皮膜は、スマットを含有することができる。上記スマットは、連続的又は不連続的な層(スマット層)を形成することができる。上記水和酸化物皮膜は該スマット層上に形成されていてもよいし、上記水和酸化物皮膜とスマット層とが入り交じった状態で形成されていてもよい。また、スマットは層状でなく、上記水和酸化物皮膜に分散して存在していてもよい。
上記熱水処理液の温度が50℃未満の場合には、水和酸化物皮膜を充分に形成させることが困難になるおそれがある。より好ましくは、温度80℃以上の水又はアルカリ性水溶液を用いることがよい。
また、上記水和酸化物皮膜をより早く成長させるために、上記熱水処理工程においては、アルカリ性水溶液からなる熱水処理液を用いることが好ましい。該アルカリ性水溶液としては、例えばトリエタノールアミン水溶液、アンモニア水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液等を用いることができる。また、上記熱水処理液として用いるアルカリ水溶液としては、pHが8以下であることが好ましい。
また、上記熱水処理工程においては、厚み0.6〜10μmの上記水和酸化物皮膜を形成させることが好ましい(請求項8)。
上記水和酸化物皮膜の厚みが0.6μm未満の場合には、該水和酸化物皮膜による上述の成形性の向上効果が充分に得られないおそれがある。一方、厚み10μmを越えて上記水和酸化物皮膜を形成しても成形性等の向上効果はもはやほとんど得られず、上記熱水処理を行う時間が必要以上に長くなり、生産能率が低下するおそれがある。
上記のごとく、潤滑性皮膜形成したり、成形時に潤滑油を用いると、上記成形用アルミニウム合金板の上記水和酸化物皮膜が潤滑成分を強固に吸着できるため、より一層成形性を向上させることができる。上記水和酸化物皮膜は、表面にμオーダーでの凹凸を有している(図4参照)ため、潤滑油、固形潤滑剤、ワックス等をトラップしやすく、成形時の潤滑性を向上できるからである。また、上記水和酸化物皮膜の水酸基が潤滑油、固形潤滑剤、ワックス中に含まれる極性の強い潤滑成分を強固に吸着し、過酷な成形条件においても潤滑性分が脱離し難く、優れた潤滑性を維持できるからである。
潤滑性皮膜の付着量が0.1g/m2未満の場合には、潤滑性皮膜を形成することによるメリットが充分に発揮されなくなるおそれがある。一方10g/m2を越える場合には、成形後の洗浄等により、潤滑性皮膜を除去することが困難になるおそれがある。
また、上記潤滑油は、極圧剤として、硫黄系化合物又は/及びリン系化合物を含有することが好ましい(請求項4及び請求項10)。
上記潤滑油が上記油性剤又は/及び上記極圧剤を含有する場合には、極性を有する上記油性剤又は/及び上記極圧剤が上記水和酸化物皮膜の水酸基と強い吸着力で吸着し、境界潤滑性に優れた強固な上記潤滑性皮膜を形成することができる。その結果、上記成形用アルミニウム合金板の成形性をより向上させることができる。また、成形時におけるアルミニウム磨耗粉の凝着を抑制することができる。
脂肪酸エステルとしては、例えば一般式R3−COO−R4(ただし、R3は炭素数7〜17のアルキル基、R4は炭素数1〜4のアルキル基)により示される脂肪酸エステルを用いることができる。
R3の炭素数が7未満の場合には,潤滑性を充分に向上させることが困難になるおそれがある。また、アルミニウム磨耗粉の凝着を充分に抑制することができなくなるおそれがある。さらに、臭気がきつくなり、作業環境を悪化させるおそれがある。一方,R3の炭素数が17を超える場合には,乾燥性が悪化して乾燥し難くくなり、かつ融点が高くなって常温で固化し易くなり、作業性が悪化するおそれがある。最も好ましくはR3の炭素数は17がよい。
なお、これらの合成エステルを構成する脂肪酸は直鎖のものであっても、分枝を有するものであってもよい。また、合成エステルはフルエステルあるいは部分エステルのどちらでもよい。
炭素数が11未満の場合には、潤滑性が低下するおそれがある。
一方、炭素数が17を越える場合には、冬季等にはさらに粘度が上昇し、場合によっては固化してしまうおそれがあるため混合時に加温して溶解させる必要が生じるおそれがある。
上記アミン誘導体は、アルミ磨耗粉の分散性を向上させる効果を有すると共に、金型へのアルミ磨耗粉の凝着を抑制する効果を有する。そのため、上述のごとく上記潤滑油が上記アミン誘導体を含有する場合には、アルミ磨耗粉を金型から除去したりする金型の手入れ作業の頻度を減らすことができ、生産能率を向上できる。
、ジエチレントリアミン 、トリエチレンテトラアミン、ヘキサメチレンジアミン、硬化牛脂プロピレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、アニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリンなどの芳香族アミン、N−シクロヘキシルアミン、N,N−ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチル−シクロヘキシルアミン、N,N−ジエチル−シクロヘキシルアミン、N,N−ジ(3−メチル−シクロヘキシル)アミン、N,N−ジ(2−メトキシ−シクロヘキシル)アミン、N,N−ジ(4−ブロモーシクロヘキシル)アミン等の脂環式アミン、ピロリジン、ピペリジン、2−ピペコリン、3−ピペコリン、4−ピペコリン、2,4−ピペコリン、2,6−ピペコリン、3,5−ルペチジン、ピペラジン、ホモピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N−プロピルピペラジン、N−メチルホモピペラジン、N−アセチルピペラジン、N−アセチルホモピペラジン、1−(クロロフェニル)ピペラジン、N−アミノエチルピペリジン、N−アミノプロピルピペリジン、N−アミノエチルピペラジン、N−アミノプロピルピペラジン、N−アミノエチルモルホリン、N−アミノプロピルモルホリン、N−アミノプロピル−2−ピペコリン、N−アミノプロピル−4−ピペコリン、1,4−ビス(アミノプロピル)ピペラジン等の複素環アミンなどが挙げられる。
上記ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム及び上記含酸素化合物は、上記アミン誘導体と同様に、アルミ磨耗粉の分散性を向上させる効果を有すると共に、金型へのアルミ磨耗粉の凝着を抑制する効果を有する。そのため、上記潤滑油が、上述のごとくジオクチルスルホコハク酸ナトリウム又は/及び分子内に四級炭素を一つ以上有する含酸素化合物を含有する場合には、アルミ磨耗粉を金型から除去したりする金型の手入れ作業の頻度を減らすことができ、生産能率を向上できる。
また、分子内に四級炭素を一つ以上有する含酸素化合物としては、例えば多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物、またはそのハイドロカルビルエーテル等がある。また、上記含酸素化合物としては、これらの中から選ばれる1種の含酸素化合物を単独で用いても良いし、異なる構造を有する2種以上の含酸素化合物の混合物を用いても良い。
このような多価アルコールとしては、具体的には例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、2−ブチル−2−エチル−1.3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等がある。
炭素数7〜18のアルキルアリール基としては、トリル基(全ての構造異性体を含む)、キシリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝のプロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝のブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝のペンチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝のヘキシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝のヘプチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝のオクチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝のノニルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝のデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝のウンデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝のドデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)等がある。
この場合には、上記水和酸化物被膜と上記潤滑性皮膜との吸着をより強固にすることができ、上記アルミニウム合金板の境界潤滑性をより向上させることができる。特に、上記潤滑性皮膜が上記油性剤又は/及び極圧剤を含有する場合に、上述の境界潤滑性の向上効果をより顕著に発揮させることができる。上記加熱工程における加熱温度が100℃未満の場合には、上記水和酸化物皮膜と上記潤滑性被膜との吸着力を向上させる効果が充分に得られないおそれがある。一方、加熱温度が300℃以上になると上記潤滑性皮膜に含まれる油性剤等が分解し始めるおそれがある。
上記成形用アルミニウム合金板のプレス成形の際には、上記成形用アルミニウム合金板に潤滑油を供給しながらプレス成形を行うことができる。上記成形用アルミニウム合金板として、上記水和酸化物皮膜上に上記潤滑性皮膜を有する合金板を用いる場合には、上記成形用アルミニウム合金板に潤滑油を供給することなくプレス成形を行うことができる。
次に、本発明の成形用アルミニウム合金板の製造方法について、図1〜図5を用いて説明する。
図1に示すごとく、本例の成形用アルミニウム合金板1は、アルミニウム合金板2と、その表面に形成されたAlの水和酸化物皮膜3とを有する。水和酸化物皮膜3は、図2に示すごとく、フーリエ変換赤外分光分析測定(FT−IR)において、波数1100cm-1近傍及び波数1350cm-1近傍に吸収スペクトルのピークを示す。また、水和酸化物皮膜3のFT−IRにおいて、1100cm-1近傍のピークにおける吸光度の最大値をA1、1350cm-1近傍のピークにおける吸光度の最大値をA2とすると、A2/A1≧0.1という関係を満足する。
まず、アルミニウム合金板2として、住友軽金属工業(株)製のアルミニウム合金板GC55−O(JIS5052、板厚1.0mm、φ120mm)を準備した。このアルミニウム合金板2を、10wt%水酸化ナトリウム水溶液を用いて洗浄し、アルミニウム合金板2の表面の自然酸化皮膜を除去すると共に、スマットを生成させた(アルカリ処理工程)。次いで、アルミニウム合金板2を、温度80℃で、濃度3wt%のトリエタノールアミン水溶液に浸漬し、アルミニウム合金板2の表面に水和酸化物皮膜3を形成させた(熱水処理工程)。このようにして成形用アルミニウム合金板1を得た。これを供試材D1とする。
同図より知られるごとく、供試材D1における水和酸化物皮膜は、波数1100cm-1近傍と、波数1350cm-1近傍とにそれぞれ吸収スペクトルのピークを示した。また、1100cm-1近傍における吸収スペクトルのピークにおける吸光度の最大値をA1、1350cm-1近傍における吸収スペクトルのピークにおける吸光度の最大値をA2とすると、吸光度比A2/A1は2.8であった。
また、供試材D1の表面の水和酸化物皮膜3の膜厚をFischer製パーマスコープを用いて測定した。その結果、供試材D1においては水和酸化物が厚み2.0μmで形成されていた。
試料B1は、供試材D1の水和酸化物皮膜上に潤滑性皮膜を形成した成形用アルミニウム合金板である。
試料B1の作製にあたっては、まず、供試材D1と同様にして、アルミニウム合金板の表面に水和酸化物皮膜を形成した成形用アルミニウム合金板を作製した。次いで、潤滑油B1を準備した。潤滑油B1は、温度40℃における粘度が2.1mm2/sのパラフィン系鉱油にラウリン酸メチル10wt%を添加した潤滑油である。この潤滑油B1を成形用アルミニウム合金板の水和酸化物被膜上に、付着量が0.4g/m2となるように塗布し、潤滑性皮膜を形成した(潤滑性被膜形成工程)。このようにして、アルミニウム合金板2の表面上に形成された水和酸化物皮膜3の表面に、さらに潤滑性皮膜4が形成された成形用アルミニウム合金板1(試料B1)を作製した(図5参照)。
供試材D2の作製にあたっては、まず、上記供試材D1と同様に、住友軽金属工業(株)製のアルミニウム合金板GC55−O(JIS5052、板厚1.0mm、φ120mm)を準備し、このアルミニウム合金板を10wt%水酸化ナトリウム水溶液にて洗浄し、アルミニウム合金板2の表面の自然酸化皮膜を除去した。次いで、温度25℃、かつ濃度30wt%の硝酸水溶液を用いてアルミニウム合金板を洗浄し、表面のスマットを除去した(デスマット処理)。その後、上記供試材D1と同様に、温度80℃、かつ濃度3wt%のトリエタノールアミン水溶液にアルミニウム合金板を浸漬し、アルミニウム合金板の表面に水和酸化物皮膜を形成させた。このようにして成形用アルミニウム合金板を得た(供試材D2)。
次いで、供試材D1と同様にして供試材D2の水和酸化物皮膜3の膜厚を測定した。その結果、供試材D2においては水和酸化物が厚み2.0μmで形成されていた。
供試材D3としては、住友軽金属工業(株)製のアルミニウム合金板GC55−O(JIS5052、板厚1.0mm、φ120mm)を採用した。
「滑り性」
バウデンレーベン式摩擦試験機を用いて、各供試材に対して、3/16インチSUJ−2製鋼球を荷重3kg、摺動速度4mm/秒で摺動させた。そのときの摩擦係数を測定した。摩擦係数が0.35を上回る場合を×とし、0.35〜0.15の場合を○とし、0.15を下回る場合を◎として評価した。その結果を表1に示す。
これに対し、吸光度比A2/A1が0.05以下の供試材D2及び水和酸化物皮膜を形成していない供試材D3は、滑り性が悪く、成形に適していなかった。
次に、本例においては、上記実施例1で作製した上記試料B1と同様に、アルミニウム合金板の表面に形成した水和酸化物皮膜と、さらに該水和酸化物皮膜上に形成した潤滑性皮膜とを有する成形用アルミニウム合金板を作製し、その成形性、アルミニウム粉の凝着性、洗浄性等の評価を行う。即ち、本例は、水和酸化物皮膜を有する成形用アルミニウム合金板に潤滑性皮膜を形成したときにおける成形性等の特性を評価する例である。
各試料(試料B1〜試料B21)の成形用アルミニウム合金板は、表2及び表3に示すごとく、実施例1と同様の供試材D1、供試材D2、又は供試材D4の水和酸化物皮膜上に、各種潤滑油を塗布し、潤滑性皮膜を形成して作製した。試料B1は、実施例1において作製した試料B1と同様のものである。また、試料B14、試料B15、及び試料B17は、潤滑性皮膜の形成後に、温度100℃〜300℃で加熱する加熱工程を行って作製したものである。
表2及び表3中の記号の意味は次の通りである。
A1:1100cm-1近傍に現れる吸収スペクトルのピークにおける吸光度の最大値
A2:1350cm-1近傍に現れる吸収スペクトルのピークにおける吸光度の最大値
B1:温度40℃における粘度2.1mm2/sのパラフィン系鉱油にラウリン酸メチル10wt%を添加した潤滑油
B2:温度40℃における粘度2.1mm2/sのパラフィン系鉱油にラウリルアルコール10wt%を添加した潤滑油
B3:温度40℃における粘度2.1mm2/sのパラフィン系鉱油にオレイン酸10wt%を添加した潤滑油
下記の各種添加剤は、潤滑油に添加して用いた。
C1:ジ−2−エチルへキシルスルホコハク酸ナトリウム
C2:N−エチルイソプロパノールアミン
C3:2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールエチレンオキシド2モル付加物
D1:アルミニウム合金板上に水和酸化物皮膜(A2/A1=2.8)を形成してなる、実施例1において作製した成形用アルミニウム合金板(供試材D1)
D2:アルミニウム合金板上に水和酸化物皮膜(A2/A1=0.05以下)を形成してなる、実施例1において作製した成形用アルミニウム合金板(供試材D2)
D4:アルミニウム合金板上に水和酸化物皮膜(A2/A1=0.1)を形成してなる、実施例1において作製した成形用アルミニウム合金板(供試材D4)
「成形性」
各試料に条件に応じて、熱処理を加えた後、φ50mm、R=25の球頭ポンチを用いて、成形速度2.0mm/sで各試料の張出成形を行った。このとき各試料に割れが生じたときの高さを「成形高さ」をとした。成形性を成形高さの大小にて評価し、成形高さが18mm未満の場合を「×」とし、18.0mm〜18.5mmの場合を「△」とし、18.5mm〜19mmの場合を「○」とし、19mmを越えるの場合を「◎」として評価した。その結果を表2及び表3に示す。
上述の成形性の評価試験と同条件で、各試料の張出成形加工を行った。張出成形加工は各試料につき100枚ずつ行った。その後、ポンチ表面に凝着しているアルミニウム磨耗粉を10wt%水酸化ナトリウム水溶液を用いて溶解し、原子吸光法によって定量した。凝着量が5mg/m2未満の場合を「◎」とし、5〜20mg/m2の場合を「○」として評価し、20mg/m2を超える場合を「×」として評価した。その結果を表2及び表3に示す。
各試料をpH10.5、温度40℃のアルカリ水溶液からなる脱脂液中に浸漬し、浸漬してから10秒毎に、各試料の全面が純水に濡れるかを目視にて確認した。全面が純水に濡れた時間を脱脂完了時間とし、その大小で洗浄性を評価した。脱脂完了時間120秒以下の場合を「○」とし、120秒を超える場合を「×」として評価した。その結果を表2及び表3に示す。
また、供試材の種類を除いては同条件で潤滑性皮膜を形成してなる試料B1と試料B21とを比較すると、試料B21においては、成形性やアルミニウム磨耗粉の凝着量の点で試料B1よりも劣っていた。これは、試料B1においては供試材D1を用い、試料B21においては供試材D2を用いたことに帰因すると考えられる。そして、供試材D1と供試材D2は、FT−IRにおける吸光度比A2/A1が相違する。また、水和酸化物皮膜の吸光度比A2/A1が0.1である供試材D4を用いた試料B20も、試料B21に比べて成形性が向上し、凝着量が少なくなっていた。
よって、FT−IRにおいてA2/A1≧0.1となる水和酸化物皮膜を有する成形用アルミニウム合金板(供試材D1及び供試材D4)を用いることにより、成形性を向上でき、凝着量を低減できると考えられる。
また、潤滑皮膜形成後に熱処理を行うことにより、成形性を向上できるが、その温度は100℃以上、300℃未満が好ましいことがわかる。
2 アルミニウム合金板
3 水和酸化物皮膜
4 潤滑性皮膜
Claims (14)
- アルミニウム合金板と、該アルミニウム合金板の表面に形成されたAlの水和酸化物皮膜とを有する成形用アルミニウム合金板であって、
上記水和酸化物皮膜は、フーリエ変換赤外分光分析測定(FT−IR)において、波数1100cm-1近傍及び波数1350cm-1近傍に吸収スペクトルのピークを示し、1100cm-1近傍における上記吸収スペクトルのピークにおける吸光度の最大値をA1、1350cm-1近傍における上記吸収スペクトルのピークにおける吸光度の最大値をA2とすると、A2/A1≧1という関係を満足し、
上記水和酸化物皮膜上に、潤滑油、固体潤滑剤、及びワックスから選ばれる1種以上からなる潤滑性皮膜を有し、該潤滑性皮膜の付着量は0.1〜10g/m 2 であることを特徴とする成形用アルミニウム合金板。 - 請求項1において、上記水和酸化物皮膜の厚みは、0.6〜10μmであることを特徴とする成形用アルミニウム合金板。
- 請求項1又は2において、上記潤滑油は、油性剤として、エステル、脂肪酸、アルコール、油脂から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする成形用アルミニウム合金板。
- 請求項1〜3のいずれか一項において、上記潤滑油は、極圧剤として、硫黄系化合物又は/及びリン系化合物を含有することを特徴とする成形用アルミニウム合金板。
- 請求項1〜4のいずれか一項において、上記潤滑油は、アミン、アルカノールアミン、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、複素環アミン、及びそれらのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上のアミン誘導体を0.01〜2.0重量%含有することを特徴とする成形用アルミニウム合金板。
- 請求項1〜5のいずれか一項において、上記潤滑油は、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム又は/及び分子内に四級炭素を一つ以上有する含酸素化合物を0.1〜5.0重量%含有することを特徴とする成形用アルミニウム合金板。
- アルミニウム合金板と、該アルミニウム合金板の表面に形成されたAlの水和酸化物皮膜とを有する成形用アルミニウム合金板を製造する方法であって、
アルミニウム合金板の表面にアルカリ性水溶液よりなるアルカリ処理液を接触させて自然酸化皮膜を除去すると共にスマットを生成させるアルカリ処理工程と、
該アルカリ処理工程において上記アルミニウム合金板の表面に生成した上記スマットを除去するデスマット処理を行わずに、上記アルミニウム合金板に温度50℃以上の水又はアルカリ性水溶液よりなる熱水処理液を接触させて、上記アルミニウム合金板の表面に上記水和酸化物皮膜を形成させる熱水処理工程と、
上記水和酸化物皮膜上に、潤滑油、固体潤滑剤、及びワックスから選ばれる1種以上からなる潤滑性皮膜形成剤を塗布し、0.1〜10g/m 2 の潤滑性皮膜を形成する潤滑性皮膜形成工程とを有することを特徴とする成形用アルミニウム合金板の製造方法。 - 請求項7において、上記熱水処理工程においては、上記水和酸化物皮膜を厚み0.6〜10μmで形成させることを特徴とする成形用アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項7又は8において、上記潤滑油は、油性剤として、エステル、脂肪酸、アルコール、油脂から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする成形用アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項7〜9のいずれか一項において、上記潤滑油は、極圧剤として、硫黄系化合物又は/及びリン系化合物を含有することを特徴とする成形用アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項7〜10のいずれか一項において、上記潤滑油は、アミン、アルカノールアミン、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、複素環アミン、及びそれらのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上のアミン誘導体を0.01〜2.0重量%含有することを特徴とする成形用アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項7〜11のいずれか一項において、上記潤滑油は、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム又は/及び分子内に四級炭素を一つ以上有する含酸素化合物を0.1〜5.0重量%含有することを特徴とする成形用アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項7〜12のいずれか一項において、上記潤滑性皮膜形成工程後に、上記成形用アルミニウム合金板を温度100℃以上300℃未満で加熱する加熱工程を行うことを特徴とする成形用アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれか一項に記載の上記成形用アルミニウム合金板をプレス成形に供することを特徴とする成形用アルミニウム合金板の加工方法。
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