ハイブリッド車両では、内燃機関の他に電動機等の他の動力源を備えるため、減速時に燃料カットを行う場合に、例えばフリクションロスの低減等による燃費の向上を図るべく、当該他の動力源からの動力供給等により内燃機関を低回転状態に制御することが可能である。ところが、このように内燃機関を低回転状態に維持すると、排気系に供給される空気が減少するため触媒装置の冷却効率が低下し、触媒装置が高温である場合等には特に触媒装置の冷却が不十分となり易い。また、このように内燃機関を低回転状態に維持すると、燃料カットからの復帰時において加速性が低下し易く、加速要求が伴う場合等には特に、ドライバビリティの悪化が顕在化し易い。即ち、従来の技術には、場合によっては燃料カット時における不具合の発生が回避され難いという技術的な問題点がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、燃料カット制御を好適に実行することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置は、燃料を噴射可能な噴射手段を備える内燃機関、触媒装置、差動回転可能な複数の回転要素に前記内燃機関の機関出力軸、車軸の回転に伴って回転可能な駆動軸、及び回転速度を連続変化させることにより前記機関出力軸と前記駆動軸との回転速度比を連続変化させることが可能な第1の電動機の回転軸が連結されてなる動力分配手段、前記駆動軸に動力を出力可能な第2の電動機、並びに前記回転速度比を連続変化させる無段変速モードと、前記複数の回転要素のうち一の回転要素の回転を阻止することにより前記回転速度比を所定値に固定する固定変速モードとの間で変速モードを切り替え可能な切り替え手段を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、前記ハイブリッド車両の減速期間の少なくとも一部において、前記燃料の噴射が停止されるように前記噴射手段を制御することにより所定の燃料カット制御を実行する噴射制御手段と、前記触媒装置が所定の高温状態にあるか否かを判別する判別手段と、前記触媒装置が前記高温状態にある旨が判別された場合、且つ前記変速モードを前記固定変速モードとした場合の前記内燃機関の機関回転速度が、前記燃料カット制御の実行時において前記変速モードを前記無段変速モードとした場合の前記内燃機関の機関回転速度として予め設定されてなる基準値よりも高くなる場合に、前記燃料カット制御の実行時における前記変速モードが前記固定変速モードとなるように前記切り替え手段を制御する切り替え制御手段とを具備することを特徴とする。
本発明に係るハイブリッド車両は、好適な一形態として例えばクラッチ装置又はブレーキ装置及びそれらを駆動する油圧駆動式、電磁駆動式又は電子制御式の駆動装置等を適宜含み得る概念としての各種係合装置の形態を採り得る切り替え手段を備え、当該ハイブリッド車両の変速モードを、無段変速モードと固定変速モードとの間で適宜に切り替え可能に構成される。
ここで、「変速モード」とは、内燃機関の機関出力軸(例えば、クランクシャフト等)、例えばドライブシャフト又はアクスルシャフト等の形態を採り得る車軸に例えばデファレンシャル及び各種減速機構等を適宜介して連結され、当該車軸に連動して回転可能な駆動軸、並びにその回転速度の変化が当該機関出力軸に対応する軸(機関出力軸を好適に含む)と駆動軸に対応する軸(駆動軸を好適に含む)との間の回転速度比(以下、当該回転速度比を適宜「変速比」と称する)の変化を生じさせ得る変速比制御手段としての機能を少なくとも有する第1の電動機の回転軸が夫々連結されてなる差動回転可能な複数の回転要素を少なくとも含む、動力分配手段の複数の回転要素(即ち、機関出力軸、駆動軸及び第1の電動機の回転軸が夫々連結される回転要素は、動力分配手段の有する回転要素の少なくとも一部であり、必ずしも全てではない)各々の、或いは当該各々相互間の物理的、機械的、機構的又は電気的な状態或いは関係により決定される変速比、その採り得る範囲、或いはその変化態様等を包括する概念である。
このような概念により規定される無段変速モードとは、上述した変速比を例えば予め物理的、機械的、機構的又は電気的に規定される範囲内で連続的に(実践上連続的であるのと同等に多段階である旨を含む)変化させることが可能な変速モードであり、また、固定変速モードとは、変速比が、前述した回転要素のうち一の回転要素の回転が阻止されることにより予め設定された値に一義的に固定される変速モードを指す。
通常時における変速モードの切り替え態様は、いずれの変速モードが選択されようともハイブリッド車両が走行可能であることに鑑みれば無論、如何に設定されてもよいが、好適な一形態としては、通常時におけるハイブリッド車両の変速モードは、内燃機関の燃料消費率(以下、適宜「燃費」と称する)が最小となるように、言い換えればエネルギ資源の利用効率が最大となるように、或いはハイブリッド車両全体としてのエネルギ資源の利用効率が最大となるように選択され実制御に供される。尚、ここで述べられる「燃費」とは、一般的に「燃費」と称されるような、単位燃料消費量当たりの走行距離数(以下、区別するため「走行燃費」と称する)ではなく、単位出力当たりの消費燃料量を指す。即ち、燃費が最小であることは、走行燃費が最大となることと概ね等価に対応する。
本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置によれば、その動作時には、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る噴射制御手段により、ハイブリッド車両の減速期間の少なくとも一部において燃料カット制御が実行される。ここで、「燃料カット制御」とは、例えば電子制御式インジェクタ装置等の形態を採り得る噴射手段に対し、少なくとも駆動力として供される動力を発生させる程度の燃料噴射が行われないように、好適には燃料の噴射が物理的に停止されるようになされる制御を包括する概念であり、当該燃料カット制御の実行により、内燃機関における燃料消費は軽減され、理想的にはゼロとなる。元より当該減速期間においては、実質的にみて内燃機関に動力が要求されることはないから、このように燃料消費が軽減されることにより、実践上の利益は大となる。
ここで、燃料噴射(即ち、好適には動力の生成)が伴わない内燃機関が、高回転側程フリクションロスを増加させる単なる慣性物体に過ぎないことに鑑みれば、また、駆動軸を介して逆入力される駆動力によってなされる第2の電動機を介したエネルギ回生を効率的に行う点に鑑みれば、燃料カット制御の実行期間(以下、適宜「燃料カット期間」と称する)における内燃機関の機関回転速度は、可及的に低い方が望ましい。その点、本発明に係るハイブリッド車両は、上述した動力分配手段により実現される変速モードの一部である無段変速モードによって、変速比を連続変化させることが可能であり、燃料カット期間における内燃機関の機関回転速度は、好適な一形態として、無段変速モードにより、第1の電動機の回転速度制御を介して、例えば物理的な、実質的な又は何らかの制約を受けた結果としての現実的な最低回転速度(自立回転の可否を規定する速度であってもよいが、好適な一形態としては、それより高回転領域に属する、例えば少なくとも機関回転速度が低過ぎることによる回転変動、振動、或いはドライブフィールの低下等を実践上顕在化させない下限値としての機関回転速度、又は例えば通常アイドル回転制御に使用されるアイドル回転速度等)に維持される。
一方、本発明に係るハイブリッド車両の排気系には、例えば三元触媒(S/C触媒やU/F触媒等と呼称されるものを含む)やNSR(NOx吸蔵還元)触媒等の形態と採り得る各種触媒装置が設置されている。これら触媒装置は、好適には触媒活性温度以上の温度領域で期待された性能を発揮するが、過剰な熱負荷に晒される条件では、触媒温度が過度に高温となって、かえって溶損や熱劣化等の物理的、機械的、電気的又は化学的な各種不具合が発生する可能性がある。従って、触媒装置の温度は、予め期待される排気浄化効果、或いはそれと遜色ない程度の排気浄化効果が得られる温度範囲に維持されるのが、或いは少なくともそのような熱負荷による不具合の発生と関連付けられた上限値以下に維持されるのが望ましい。
ここで特に、上述した燃料カット期間において内燃機関の機関回転速度が低回転領域で維持された場合、気筒内に吸入される空気の量(以下、適宜「吸入空気量」と称する)は必然的に低下し、排気バルブの開弁時に排出される空気も同様に低下する。即ち、燃料カット期間においては、排気系に供給される空気が減少し、触媒装置は冷却され難い状態となり易い。従って、例えば触媒装置の温度上昇を促進させ得る程度の高負荷領域でハイブリッド車両が走行をしている場合等、触媒装置が比較的高温である状況下で燃料カット制御がなされると、過剰な熱負荷による触媒装置の上述した不具合が顕在化しかねない。
このような問題を解消すべく、燃料カット期間中の機関回転速度を上昇させ、排気系への空気量を増量せしめようとした場合、第1の電動機においてこの機関回転速度の上昇分に相当する動力供給を行う必要があり、少なからず電力消費が行われるため、エネルギの利用効率は著しく低下する。また、触媒高温時に燃料カット制御そのものを禁止すれば、或いは触媒の温度上昇を防止する目的から内燃機関が稼働している時に燃料の噴射量を予め増量する等の措置を講じれば、自明的に燃費の悪化が避け難い。そこで、本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置では、燃料カット期間に発生し得る各種の不具合の少なくとも一つとして、このような熱負荷による触媒装置の不具合の発生が抑制され、燃料カット制御を好適に実行することが可能となっている。
即ち、本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置には、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る判別手段が備わり、触媒装置が所定の高温状態にあるか否かが判別される。
ここで、「所定の高温状態」とは、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、そのような状態が継続した場合に熱負荷に起因する各種の不具合が実践上看過し得ない規模で顕在化し得る旨の判断を下し得るものとして定められてなる温度状態を包括する概念である。触媒装置がこのような高温状態にあるか否かに係る判別はどのようになされてもよく、例えば、触媒装置の温度状態を高精度に代替し得る、触媒装置の温度、触媒前後の温度或いは触媒床温等の各種温度指標値に基づいて当該判別がなされてもよいし、このような温度指標値に限らず触媒装置の温度状態を幾らかなり表し得るその他の指標値に基づいて当該判別がなされてもよい。或いはこれら温度指標値及びその他の指標値のうち少なくとも一方をパラメータとして、その都度然るべきアルゴリズム、数値演算式又は論理演算式に従った数値演算や論理演算が行われることにより当該判別がなされてもよい。例えば、機関回転速度及び吸入空気量等、触媒装置の温度状態を規定し得る内燃機関の運転条件を表す各種の指標値を例えば積算処理した結果と、触媒装置の温度状態との相関が、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて明らかである場合等には、当該積算処理やその他の演算処理の結果に基づいて当該判別がなされてもよい。
一方、触媒装置がこのような高温状態である旨が判別された場合、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る切り替え制御手段によって、燃料カット制御期間におけるハイブリッド車両の変速モードが、固定変速モードとなるように切り替え手段が制御される。
固定変速モードが選択された場合、動力分配手段の回転要素の一つが固定され(即ち、回転速度がゼロとなり)、且つ駆動軸に対応する回転要素の回転速度は車速と一義であるから、内燃機関の機関回転速度は、車速に応じて一義的に定まる。従って、高車速領域からの減速であれば特に、機関回転速度は比較的高回転側に維持される、或いはその減少速度が幾らかなり緩慢となる。
ここで、ハイブリッド車両において反力を受け持つユニットは、無段変速モードにおいて第1の電動機(或いはそれに加えて、対応する動力分配手段の回転要素)であるのに対し、固定変速モードでは切り替え手段(或いはそれに加えて、対応する回転要素)となる。従って、燃料カット期間に機関回転速度を比較的高回転側に維持或いは高回転側から車速なりに減少させたとして、電力資源等エネルギ資源の不要な消費は全く生じないか、或いは実践上無視し得る程度に抑制される。一方で、機関回転速度が恒久的に或いは一時的にしろ高回転領域に維持されれば、少なくともその期間については、排気系に供給される空気の量が、少なくとも無段変速モードにおいて機関回転速度を低回転領域に維持した場合よりも多くなる。このため、触媒装置を幾らかなり冷却することが可能となり、熱負荷に起因して燃料カット制御に生じ得る触媒装置の不具合の発生が抑制される。即ち、本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置によれば、好適に燃料カット制御を行うことが可能となるのである。
本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置の一の態様では、前記判別手段は、前記ハイブリッド車両の過去の走行履歴に基づいて前記触媒装置が高温状態にあるか否かを判別する。
この態様によれば、判別手段は、例えば上述したような、触媒装置の温度状態と相関する内燃機関の運転条件等を含む概念としての、ハイブリッド車両の過去の走行履歴に基づいて触媒装置が高温状態にあるか否かを判別するから、触媒装置の温度状態を、各種の温度指標として取得するための特別な検出手段を必要としない。従って、コストの上昇を抑制しつつ燃料カット制御の実行を可能とする点において実践上有益である。
本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記切り替え制御手段は更に、前記ハイブリッド車両において経済性能に比して動力性能を重視すべき旨の入力がなされた場合、且つ前記変速モードを前記固定変速モードとした場合の前記内燃機関の機関回転速度が前記基準値よりも高くなる場合に、前記燃料カット制御の実行時における前記変速モードを前記固定変速モードに制御する。
燃料カット制御が実行された場合、上述した如く、通常、内燃機関の機関回転速度は無段変速モードにより低回転領域の値に維持される。然るに、例えばハイブリッド車両が頻繁に加減速を繰り返している状況、或いはそのような状況ではないにしろ再加速が要求される状況等において、燃料カット制御から通常の燃料噴射制御に復帰した場合には、内燃機関は低回転領域からの上昇を余儀なくされるため、加速性能が不十分となる可能性がある。
この態様によれば、切り替え制御手段は、上述した触媒装置の温度状態による判断に加え、経済性能に比して動力性能を重視すべき旨の入力がなされた場合においても、固定変速モード選択時の機関回転速度が上述した基準値よりも高くなる場合には、燃料カット制御の実行時における変速モードを固定変速モードに制御する(即ち、切り替え手段を固定変速モードに対応する物理的、機械的、機構的又は電気的状態に制御する)。
ここで、「入力」とは、例えばドライバ等ハイブリッド車両に搭乗する操作者が、動力性能を経済性能に優先させるべき旨の意思を有する場合等に、例えば、ボタン、レバー、ツマミ、スイッチ或いは操作ダイアル等の各種操作手段を人為的に操作すること等により生じる物理的、機械的又は電気的な信号等を含み、更には、このような人為的な操作とは無関係に、例えば車速、負荷、要求出力、或いはハイブリッド車両の過去の走行履歴等、ハイブリッド車両の各種運転条件、環境条件又は走行条件等に応じて、何らかの制御装置、コントローラ又はコンピュータシステム等による制御下で自動的に生成される信号等を含む概念であり、「入力がなされる」とは、これら信号が制御信号又は参照すべき信号として切り替え制御手段に対し直接的に又は間接的に出力されることを包括する概念である。
従って、この態様によれば、燃料カット制御からの復帰時に再加速が要求される場合等において、出力動力の不足による加速性能の低下を招くことなく、ハイブリッド車両を走行させることが可能となる。従って、少なくとも何らの対策も施されない場合と較べれば幾らかなり、ドライバの積極的な意思或いは潜在的な意思に沿った変速制御が可能となり、ドライバビリティの悪化が抑制される。即ち、燃料カット制御を好適に実行することが可能となるのである。
上述した課題を解決するため、本発明に係る第2のハイブリッド車両の制御装置は、燃料を噴射可能な噴射手段を備える内燃機関、触媒装置、差動回転可能な複数の回転要素に前記内燃機関の機関出力軸、車軸の回転に伴って回転可能な駆動軸、及び回転速度を連続変化させることにより前記機関出力軸と前記駆動軸との回転速度比を連続変化させることが可能な第1の電動機の回転軸が連結されてなる動力分配手段、前記駆動軸に動力を出力可能な第2の電動機、並びに前記回転速度比を連続変化させる無段変速モードと、前記複数の回転要素のうち一の回転要素の回転を阻止することにより前記回転速度比を所定値に固定する固定変速モードとの間で変速モードを切り替え可能な切り替え手段を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、前記ハイブリッド車両の減速期間の少なくとも一部において、前記燃料の噴射が停止されるように前記噴射手段を制御することにより所定の燃料カット制御を実行する噴射制御手段と、前記ハイブリッド車両において経済性能に比して動力性能を重視すべき旨の入力がなされた場合、且つ前記変速モードを前記固定変速モードとした場合の前記内燃機関の機関回転速度が、前記燃料カット制御の実行時において前記変速モードを前記無段変速モードとした場合の前記内燃機関速度として予め設定されてなる基準値よりも高くなる場合に、前記燃料カット制御の実行時における前記変速モードが前記固定変速モードとなるように前記切り替え手段を制御する切り替え制御手段とを具備することを特徴とする。
本発明に係る第2のハイブリッド車両の制御装置によれば、上述した第1のハイブリッド車両の制御装置における一態様である、動力性能を優先すべき旨の入力に応じて固定変速モードが選択される旨の制御が、触媒装置が高温状態にある場合に固定変速モードが選択されるか否かによらず実現される。本来、触媒装置の温度状態と、動力性能と経済性能との間の優先順位とは、これら相互間に何らかの優先順位が付与されるにした所で無関係であって、上述した入力がなされた場合において機関回転速度の上昇が見込める場合に燃料カット期間における変速モードが固定変速モードに制御されることのみによっても、燃料カット制御を好適に行わしめるといった本発明に特有の利益は何ら変わり無く享受される。
本発明に係る第1及び第2のハイブリッド車両の制御装置(以下、「本発明に係るハイブリッド車両の制御装置」と称する)の一の態様では、前記噴射制御手段は、前記ハイブリッド車両の車速が基準値以上である場合に前記燃料カット制御を実行する。
ハイブリッド車両の車速が比較的低車速領域にある場合、ハイブリッド車両において頻繁に加減速が繰り返される可能性は高く、燃料カット制御による燃費への寄与は総体的にみて低い。従って、車速が基準以上である場合に燃料カット制御が実行されることにより、制御上の負荷を軽減し且つドライバビリティへの悪影響を伴うことなく燃費を向上させることが可能となるといった、実践上極めて高い利益が提供される。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記切り替え制御手段は、前記燃料カット制御の実行時に前記変速モードが前記固定変速モードに制御される期間において前記内燃機関の機関回転速度が前記基準値以下となる場合に、前記変速モードが前記無段変速モードに切り替わるように前記切り替え手段を制御する。
この態様によれば、触媒装置の温度条件により、或いは動力性能を優先すべき旨の入力により、燃料カット期間における変速モードが固定変速モードに制御されている場合において、内燃機関の機関回転速度が、例えばハイブリッド車両のNV(Noise and Vibration:騒音と振動)性能或いはドライバビリティが実践上看過し得ない程に悪化する低回転領域まで低下するような場合には、変速モードが無段変速モードに切り替えられる。従って、燃料カット期間において機関回転速度が必要以上に低下する事態が防止され、好適である。機関回転速度の基準値とは、内燃機関の機関回転速度がこのように理論的、実質的又は現実的にみて必要以上に低い回転領域にあるか否かを規定し得る値を包括する概念であり、例えば、内燃機関の上述した物理的な、実質的な又は現実的な最低回転速度であってもよい。
尚、この場合、固定変速モードによってもたらされる利益は、少なくとも無段変速モードに対し明確な優位性を有していないから(即ち、無段変速モードで機関回転速度を低回転に維持していることと実践上の利益は略相違しないから)、変速モードが無段変速モードに制御される方が、上述したNV性能或いはドライバビリティを担保し得る点において、且つ変速比が広範囲に制御され得る点において比較的有利である。尚、変速モードが固定変速モードから無段変速モードに切り替えられて以降、燃料カット制御は、少なくとも減速状態が継続されている限りにおいて継続されてもよいし、中断(即ち、通常の噴射制御に復帰)されてもよい。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様において、前記噴射制御手段は、前記燃料カット制御の実行時に前記変速モードが前記固定変速モードに制御される期間において前記内燃機関の機関回転速度が前記基準値以下となる場合に、前記燃料の噴射が再開されるように前記噴射手段を制御する。
この態様によれば、機関回転速度が基準値以下となる場合には、燃料の噴射が再開されるため、例えばハイブリッド車両が再加速する場合等に動力性能の低下を抑制することが可能となる。また、特に触媒装置の冷却が不十分である場合には、燃料噴射の再開により幾らかなり触媒装置の冷却を図り得るため好適である。
尚、燃料カット期間中且つ変速モードが固定変速モードに制御される期間に機関回転速度が基準値以下となる場合に適用される態様では、前記基準値は、前記内燃機関のアイドル回転速度に基づいて設定されてもよい。
内燃機関のアイドル回転速度は、一般的に燃料カット期間における変速モードの切り替え有無とは無関係に設定されており、基準値の設定如何によっては、機関回転速度が基準値以下となった場合且つ、燃料噴射が再開され機関回転速度がアイドル回転速度に制御される場合に、或いは、燃料噴射が再開されないにしても変速モードが無段変速モードに制御され、機関回転速度が当該アイドル回転速度に制御される場合に、機関回転速度が不連続となり、短時間であるにせよ機関回転速度の急激な変化が生じ得る。
この態様によれば、機関回転速度の基準値がアイドル回転速度に基づいて、例えばアイドル回転速度そのもの、或いは体感上アイドル回転速度との不連続性が顕在化しない範囲でアイドル回転速度近傍の値に設定される。従って、機関回転速度の急変が抑制され、ドライバビリティの悪化を抑制することが可能となる。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、ハイブリッド車両10は、ECU100、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、PCU(Power Control Unit)400、バッテリ500及び車速センサ600を備えた、本発明に係る「ハイブリッド車両」の一例である。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、ハイブリッド車両10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する触媒保護機能付きF/C処理を実行することが可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る「噴射制御手段」、「判別手段」及び「切り替え制御手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両10の主たる動力源として機能するように構成されている。ここで、図2を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、エンジン200の模式図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。尚、本発明における「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する爆発力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の動力伝達手段を適宜介して動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明に係る内燃機関の構成は、エンジン200のものに限定されず各種の態様を有してよい。
図2において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205(即ち、本発明に係る「機関出力軸」の一例である)の回転運動に変換することが可能に構成されている。
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(不図示)と電気的に接続されており、ECU100では、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、エンジン200の機関回転速度NEが算出される構成となっている。
尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図2においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。また、本発明に係る内燃機関における気筒数及び各気筒の配列形態は、上述した概念を満たす範囲でエンジン200のものに限定されず多様な態様を採り得、例えば、6気筒、8気筒或いは12気筒エンジンであってもよいし、V型、水平対向型等であってもよい。
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、インジェクタ212の燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。インジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、上述した混合気となる。
燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に供給される構成となっている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節するスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(以下、適宜「アクセル開度」と称する)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能に構成された、本発明に係る「触媒装置」の一例である。尚、本発明に係る触媒装置の採り得る形態は、このような三元触媒に限定されず、例えば三元触媒に代えて或いは加えて、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)或いは酸化触媒の各種触媒が設置されていてもよい。
この三元触媒216には、三元触媒216の温度たる触媒温度Tctを検出することが可能に構成された温度センサ217が設置されている。また、排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ218が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ219が配設されている。これら温度センサ217、空燃比センサ218及び水温センサ219は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された触媒温度Tct、空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
図1に戻り、モータジェネレータMG1は、エンジン200からトルクの供給を受けて回転することにより、バッテリ500を充電するための、或いはモータジェネレータMG2に電力を供給するための発電を主として行うことが可能に構成された、本発明に係る「第1の電動機」の一例たる電動発電機であり、発電に伴う反力トルクが作用することにより、その回転速度の制御を介してエンジン200の機関回転速度NEを連続的に変化させることが可能となっている。このような無段変速機能は、動力分割機構300の差動作用に伴って生じる。尚、モータジェネレータMG1は、ハイブリッド車両10を搭載するハイブリッド車両の走行状態によっては、電動機として機能することも可能に構成されている。
モータジェネレータMG2は、本発明に係る「第2の電動機」の一例たる電動発電機であり、エンジン200の動力をアシストする電動機として、或いはバッテリ500を充電するための発電機として機能するように構成されている。より具体的には、モータジェネレータMG2は、駆動トルク或いはブレーキ力を補助(アシスト)する装置であり、駆動トルクをアシストする場合には、電力が供給されて電動機として機能し、ブレーキ力をアシストする場合には、ハイブリッド車両10の駆動輪側から伝達されるトルクによって回転させられて電力を発生する発電機として機能するようになっている。
尚、これらモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。但し、他の形式のモータジェネレータであっても構わない。モータジェネレータMG2は、ハイブリッド車両10の駆動輪たる左前輪FL及び右前輪FRに夫々連結されるドライブシャフトSFL及びSFRと、デファレンシャル等各種減速ギア装置を含む減速機構11を介して連結される、後述する出力軸320(即ち、本発明に係る「駆動軸」の一例)に対し動力を供給することが可能となるように、その出力回転軸が出力軸320に連結された構成を有している。即ち、出力軸320の回転速度は、モータジェネレータMG2の回転速度と一義的な関係を有している。
PCU400は、バッテリ500から取り出した直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ500に供給することが可能に構成されたインバータ等を含み、バッテリ500と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を制御することが可能に構成された制御ユニットである。PCU400は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
バッテリ500は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能することが可能に構成された充電可能な蓄電池である。
車速センサ600は、ハイブリッド車両10の車速Vを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ600は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
動力分割機構300は、エンジン200、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2と、出力軸320との間の動力の入出力状態を物理的に制御することが可能に構成された、本発明に係る「動力分配手段」の一例たる複合型プラネタリギアユニットである。ここで、図3を参照して、動力分割機構300の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、動力分割機構300の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図3において、動力分割機構300は、エンジン200の出力トルク(以下、適宜「エンジントルク」と称する)を、モータジェネレータMG1と出力軸320とに分配するための機構であり、差動作用を生じるように構成されている。より具体的には、動力分割機構300は、複数組の差動機構を備え、互いに差動作用を生じる三つの回転要素のいずれかに入力軸310が連結され、かつ他の回転要素にモータジェネレータMG1の回転軸が連結され、さらに第3の回転要素に出力軸320が連結されている。入力軸310は、前述したエンジン200のクランクシャフト205と連結されており、また出力軸320は既に述べたようにモータジェネレータMG2の回転軸に連結されている。即ち、動力分割機構300には、エンジン200、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2が夫々連結されている。
動力分割機構300は、当該差動機構として、シングルピニオンギア型の第1遊星歯車機構330及びダブルピニオン型の第2遊星歯車機構340を備えた、所謂ラビニヨ型遊星歯車機構の形態を採る。
第1遊星歯車機構330は、サンギア331、キャリア332及びリングギア333、並びに軸線方向に自転し且つキャリア332の自転により公転するようにキャリア332に保持された、サンギア331及びリングギア333に噛合するピニオンギア334を備え、サンギア331にモータジェネレータMG1が、キャリア332に入力軸310が、またリングギア333に出力軸320が夫々連結された構成を有している。
第2遊星歯車機構340は、サンギア341、キャリア342及びリングギア343、並びに軸線方向に自転し且つキャリア342の自転により公転するように夫々キャリア342に保持された、サンギア341に噛合するピニオンギア345及びリングギア343に噛合するピニオンギア344を備え、サンギア341にブレーキ350が、キャリア342に第1遊星歯車機構330におけるリングギア333が、またリングギア343に第1遊星歯車機構330におけるキャリア332が夫々連結された構成を有している。
ブレーキ350は、湿式多板ブレーキ等により構成された、本発明に係る「切り替え手段」の一例たる摩擦係合装置である。ブレーキ350は、不図示の油圧駆動系統によりその接触状態が制御される構成を有しており、当該油圧駆動系統は、ECU100と電気的に接続され、ECU100により上位に制御される構成となっている。ブレーキ350は、ブレーキ板各々が相互に係合した状態(以下、適宜「係合状態」と称する)において、第2遊星歯車機構340におけるサンギア341の回転を阻止し、サンギア341を物理的に固定することが可能に構成されている。
このように、動力分割機構300は、全体として第1遊星歯車機構330のサンギア331、第2遊星歯車機構340のサンギア341、相互に連結された第1遊星歯車機構330のキャリア332と第2遊星歯車機構340のリングギア343、及び相互に連結された第1遊星歯車機構330のリングギア333と第2遊星歯車機構340のキャリア342からなる合計4個の回転要素を備えている。
また、動力分割機構300には、MG2変速部360が備わる。MG2変速部360は、モータジェネレータMG2の回転軸と出力軸320との間の動力伝達経路に設置された、複数の摩擦係合装置からなる変速装置である。MG2変速部360は、当該複数の摩擦係合装置各々の接触状態の組み合わせにより、モータジェネレータMG2の回転軸と出力軸320との回転速度比を段階的に変化させることが可能に構成されている。MG2変速部360は、モータジェネレータMG2が最高回転速度を超えないように、また、モータジェネレータMG2が可及的に高効率な回転領域で回転するように、その変速比がECU100により適宜に制御される構成となっている。
<実施形態の動作>
<変速モードの詳細>
動力分割機構300は、ハイブリッド車両10の変速装置として機能する。この際、動力分割機構300では、無段変速モードと固定変速モードの二種類の変速モードが実現される。
動力分割機構300が、ブレーキ350による、対応する回転要素(ここでは、第2遊星歯車機構340のサンギア341)の固定を行っていない状態でエンジン200を駆動すると、エンジントルクが動力分割機構300によってモータジェネレータMG1と出力軸320とに分配されて伝達される。これは、動力分割機構300の差動作用によるものであり、モータジェネレータMG1の回転速度を増減制御することにより、エンジン200の機関回転速度NEが無段階(連続的)に制御される。これが無段変速状態であり、この無段変速状態に対応する変速モードが、無段変速モードである。無段変速モードでは、実質的に第1遊星歯車機構330のみが出力軸320へのエンジントルクの伝達に寄与する。このような無段変速モードにおけるエンジン200の機関回転速度NEは、基本的には、エンジン200の動作点(機関回転速度と負荷(即ち、一義的にエンジントルク)との組み合わせとして規定される動作条件)が、エンジン200の燃費が最小となる最適燃費動作点となるように、該最適燃費動作点に対応する値を目標回転速度として制御される。
これに対して、ブレーキ350によって動力分割機構300の一回転要素たるサンギア341を物理的に固定すると、動力分割機構300の実質的な変速比は、一の変速比に固定され、固定変速モードが実現される。より具体的に言えば、遊星歯車機構では、サンギア、キャリア及びリングギアの三要素のうち、二要素の回転速度が決まれば残余の一要素の回転速度が必然的に決定される。第2遊星歯車機構340において、キャリア342の回転速度と一対一の関係にある出力軸320の回転速度は、ハイブリッド車両10の車速により一義的に定まる性質のものであり、サンギア341が固定され回転速度がゼロとなれば、必然的に残余の一要素たるリングギア343の回転速度が決定される。ここで、リングギア343は、上述したように第1遊星歯車機構330のキャリア332と連結されており、またキャリア332は入力軸310と連結されている。従って、必然的にエンジン200の機関回転速度NEも、リングギア343の回転速度と一対一の関係となる。即ち、固定変速モードにおいて、エンジン200の機関回転速度NEは、車速Vに応じて一義的にその変化特性が決定されるのである。
このように、ブレーキ350によってサンギア341が固定された状態では、動力分割機構300における反力要素が、モータジェネレータMG1からブレーキ350に移行し、出力軸320へのエンジントルクの伝達には実質的に第2遊星歯車機構340のみが寄与することになる。従って、モータジェネレータMG1を発電機及び電動機として機能させる必要がなく、モータジェネレータMG2で発電してモータジェネレータMG1に給電する、或いはバッテリ500からモータジェネレータMG1に給電する等の必要が生じない。言い換えれば、電力消費が生じない。即ち、固定変速モードにおいては、機械的エネルギと電気的エネルギとのエネルギ変換を繰り返すことによる動力損失、所謂エネルギ再循環が生じることはなく、燃費の悪化を防止もしくは抑制することが可能となる。
ここで、図4を参照し、無段変速モードと固定変速モードとの違いについて更に説明する。ここに、図4は、各々の変速モードに対応する動力分割機構300の共線図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図4において、左から順にMG1、ブレーキ350、エンジン200及び出力軸320が表され、夫々における回転速度が縦軸に表されている。
無段変速モードに対応する各々の回転速度を表す特性線が、図示PRF_CV(鎖線参照)として表される。無段変速モードでは、モータジェネレータMG1の回転速度を実線矢印で示すように大小に変化させることにより、エンジン200(一義的に、エンジン200が連結されるキャリア332)の回転速度を、出力軸320(一義的に、出力軸320が連結されるリングギア333の回転速度)よりも速い状態と遅い状態との範囲で連続的に無段階に変化させることが可能である。
一方、ブレーキ350が係合状態にあり、サンギア341の回転が抑止されると、動力分割機構300における回転速度の特性は、図示PRF_OD(実線参照)により表される状態となる。即ち、エンジン200の機関回転速度NEは、出力軸320の回転速度よりも低い値に固定される。即ち、所謂オーバードライブ状態が実現される。この状態では、サンギア341に対してブレーキ350から反力トルクを与えることになるので、モータジェネレータMG1は空転状態となり、発電機及び電動機のいずれとしても機能しない。そのため、モータジェネレータMG2からモータジェネレータMG1に電力を供給する必要がなく、動力循環を回避することができるのである。
ハイブリッド車両10の変速モードは、通常、これら二種類の変速モードのうち、その時点のハイブリッド車両10に要求される動作条件或いはハイブリッド車両10の実際の動作条件等に応じて、より良好な燃費を与える(即ち、効率の高い)変速モードに決定される。例えば、エンジン200の動作点が最適燃費線上で設定され難い、定常走行時等の高速軽負荷走行時等において、固定変速モードによるオーバードライブ走行が実現される。このような変速制御をこれ以降「通常の選択制御」と称することとする。
<燃料カット制御の詳細>
ハイブリッド車両10では、主として減速時に燃料カット制御(以下、適宜「F/C制御」と称する)が実行される。F/C制御がなされる場合、ECU100は、気筒201内部への燃料噴射がなされないようにインジェクタ212を制御する。その結果、エンジン200は、単に動力分割機構300を介して物理的に回転しているのみの状態となり、動力の出力が停止される。この際、機関回転速度NEは、上述した二種類の変速モードのうち選択されている変速モードに応じた変速比に従って制御される。
ここで、F/C期間(以下、適宜「F/C期間」と称する)では、変速モードとして基本的に無段変速モードが選択される。上述したように、無段変速モードにおいては、エンジン200の機関回転速度NEを自由に選択することが可能であり、一方で、F/C期間中におけるエンジン200の機関回転速度NEはフリクションロスを考えれば可及的に低い方が望ましい。従って、通常、F/C期間中における機関回転速度NEは、無段変速モードによって、予め設定された最低回転速度NEll(即ち、本発明に係る「基準値」の一例)に制御される。本実施形態におけるこの最低回転速度NEllは、アイドル制御時の機関回転速度に等しく、概ね1000rpm程度に設定される。尚、この最低回転速度NEllの値は、エンジン200の円滑な回転が妨げられることによるNV性能及びドライバビリティの悪化を顕在化させない範囲で自由に設定されてよく、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、エンジン200の円滑な回転が妨げられない範囲で可及的に低い値(例えば、概ね500〜600rpm程度の値)に設定されていてもよい。
一方、F/C期間中、機関回転速度NEは、最低回転速度Nellが如何に設定されるかによらず総体的にみて低回転領域に制御されるため、排気管215に排出される空気の量も少ない状態となっている。従って、場合によっては、排気管215に設置された三元触媒216の温度が過剰に上昇する可能性がある。或いは過熱状態の三元触媒216の温度が良好に低下しない可能性がある。この際、三元触媒216を過熱状態のまま放置すれば、熱負荷による故障又は溶損等の発生或いは劣化の促進等を招きかねない。そこで、ECU100は、触媒保護機能付きF/C制御処理を実行することにより、触媒冷却を図りつつF/C制御を実行することが可能となっている。
ここで、図5を参照し、触媒保護機能付きF/C制御処理の詳細について説明する。ここに、図5は、触媒保護機能付きF/C制御処理のフローチャートである。
図5において、ECU100は、F/C制御の実行条件であるか否かを判別する(ステップS101)。本実施形態において、F/C制御の実行条件は、ハイブリッド車両10が減速状態にあることに加え、車速Vが基準値以上であることと規定されている。当該車速の基準値は、特に限定されず、ハイブリッド車両10毎に設定される適合値であってよく、本実施形態では60km/hと設定されている。ECU100は、ハイブリッド車両10が減速状態にあり(減速状態にあるか否かの判別は、例えば不図示の前後加速度センサを介して検出される前後加速度の値、或いは例えば不図示の制動装置の動作状態等に基づいてなされる)、且つ車速センサ600により検出される車速Vが60km/h以上であるか否かを判別することにより、ステップS101に係る処理を実行する。
F/C制御の実行条件でない場合(ステップS101:NO)、ECU100はF/C期間中であるか否かを判別する(ステップS109)。F/C期間中でなく、F/C制御が実行されていない場合(ステップS109:NO)、ECU100は、上述した通常の選択制御を行い、一の変速モードを選択すると共に選択された変速モードに対応する動力分割機構300の状態制御(実質的には、ブレーキ350の係合の有無に係る制御)を行う(ステップS111)。ステップS111に係る処理を経ると、処理はステップS101に戻され、一連の処理が繰り返される。一方、F/C期間中であり、F/C制御が実行されている場合(ステップS109:YES)、ECU100は、インジェクタ212からの燃料噴射を再開し、F/C制御からの復帰を行った後(ステップS110)、処理をステップS111に移行する。
一方、F/C条件が満たされる場合(ステップS101:YES)、ECU100は、上述したようにF/C制御を実行する(ステップS102)。F/C制御の実行に並行して、ECU100は、温度センサ217により検出された触媒温度Tctを取得する(ステップS103)。次に、ECU100は、取得した触媒温度Tctが基準値Tctthよりも高いか否かを判別する(ステップS104)。ここで、基準値Tctthは、当該基準値に対応する温度状態が継続した場合に、熱負荷に起因する三元触媒216の各種の不具合が実践上看過し得ない規模で顕在化し得る旨の判断を下し得る温度として、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて設定されている。
尚、本実施形態では、三元触媒216の温度たる触媒温度Tctが、温度センサ217により検出されており、三元触媒216の温度状態を高精度に推定することが可能となっている。但し、三元触媒216の温度状態は、必ずしも温度センサ217の如き直接的な検出手段による検出結果に基づいて推定される必要はなく、ハイブリッド車両10の過去の走行履歴に基づいて推定されてもよい。例えば、機関回転速度NE及びAFM(Air Flow Meter)等により検出される吸入空気量(即ち、負荷)を積算処理して得られる指標値として、このような過去の走行履歴を数値化し、三元触媒216の温度状態の推定に供してもよい。この際、例えば、当該指標値を然るべき基準値と比較することにより、三元触媒216が高温状態にあるか否かの判別が行われてもよい。
触媒温度Tctが基準値Tctth以下である場合(ステップS104:NO)、ECU100は、処理をステップS111に移行させると共に、触媒温度Tctが基準値Tctthよりも大きい場合(ステップS104:YES)、固定変速モードにおける機関回転速度NEodを算出する(ステップS105)。
ここで、固定変速モードにおける機関回転速度NEodは、変速モードとして固定変速モードが選択された場合の機関回転速度NEの値であり、固定変速モードにおける動力分割機構300の変速比が既知であれば(本実施形態では、ECU100のROMにその値が格納されている)、車速Vに応じて一義的な値を採るため、数値演算処理の結果として簡便に且つ正確に取得することが可能である。
尚、本実施形態において「算出する」とは、必ずしも数値演算或いは論理演算といった各種演算処理のみに限定されるものではなく、算出対象に相当する数値を電気的なデータとして取得する態様を含む概念である。即ち、固定変速モードにおける機関回転速度NEodの値は、車速Vに対応付けられる形で予め一の制御マップとして然るべき記憶手段に格納されていてもよい。また、後述するようにステップS107に係る処理で一旦固定変速モードが選択されれば、次回以降のステップS105に係る処理では、その時点の機関回転速度NEがそのまま固定変速モードにおける機関回転速度NEとして採用される。
固定変速モードにおける機関回転速度NEodを算出すると、ECU100は、当該NEodが上述した最低回転速度NEllよりも高いか否かを判別する(ステップS106)。NEodがNEllよりも高い場合(ステップS106:YES)、ECU100は、固定変速モードを選択し、動力分割機構300を固定変速モードに対応する状態に制御する(ステップS107)。
ここで、F/C期間において無段変速モードが選択された場合、既に述べたように機関回転速度NEは最低回転速度NEll(即ち、アイドル回転速度)に維持される。従って、ステップS107に係る処理が実行された時点で、機関回転速度NEは、車速Vに応じて定まる、少なくとも無段変速モードが選択された場合よりも高い値を採る。三元触媒216の冷却に供される排気の量は、機関回転速度NEに比例して増加するから、ステップS107に係る処理が実行された場合、三元触媒216は、少なくとも無段変速モードが選択されるよりは冷却されることになる。特に、F/C制御の実行条件には車速が含まれており、ステップS107に係る処理が実行される場合、車速は相応に高車速領域にある場合が多い。従って、固定変速モードに係る変速比により、機関回転速度NEが出力軸320の回転速度より低い値で推移したとしても、無段変速モードが選択されるよりは明らかに高い触媒冷却効果を得ることが可能となる。
補足すれば、無段変速モードであっても、機関回転速度NEをステップS107に係る処理が行われた場合と同等な高回転領域まで上昇させることは可能である。然るにこの場合、エンジン200のフリクションをモータジェネレータMG1で相殺する必要があり、モータジェネレータMG1における消費電力は無駄になる。即ち、三元触媒216の保護を図り得るとして、燃費の悪化は避け難い。その点、本実施形態によれば、固定変速モードによって、モータジェネレータMG1における電量消費を生じさせないまま機関回転速度NEを相対的に上昇させることが可能となるため、このような制御と較べれば明らかに有利である。
一方、ステップS106に係る処理において、固定変速モードにおける機関回転速度NEodが最低回転速度NEll以下である場合(ステップS106:NO)、ECU100は、無段変速モードを選択し、動力分割機構300を無段変速モードに対応する状態に制御する(ステップS108)。この場合、固定変速モードにおける、触媒冷却に係る優位性は消失しているため、固定変速モードを選択する実質的な意味が存在しない。そればかりか、この場合、車速の低下に伴い、機関回転速度NEが実質的な最低回転速度(即ち、アイドル回転速度と等価な最低回転速度NEllではなく、ハイブリッド車両10のNV性能或いはドライバビリティの悪化を顕在化させかねない程度に低い機関回転速度)未満まで低下する可能性もある。従って、このような場合には無段変速モードが選択されるのである。ステップS107又はステップS108に係る処理が実行されると、ECU100は、処理をステップS101に戻し、一連の処理を繰り返す。
尚、無段変速モードが選択された状態において、ECU100は、F/C制御を継続し、モータジェネレータMG1の回転制御により機関回転速度NEを最低回転速度NEllに維持するか、又はF/C制御からの復帰処理を行い、インジェクタ212からの燃料噴射を再開することによって、機関回転速度NEをアイドル回転速度(即ち、最低回転速度NEll)に維持する(この場合、ステップS101に係る処理において、F/C条件でない旨の判別が行われてもよい)。これらはいずれがなされてもよいが、定性的に言えば、前者は燃費を優先する制御であり、後者は触媒冷却を優先した制御である。いずれの場合にも、燃費及びドライバビリティの悪化を招くことなく可及的に触媒冷却を図り得るといった本実施形態に係る利益は変わらずに担保される。
以上説明したように、本実施形態に係る触媒保護機能付きF/C制御処理によれば、例えば高速走行中のハイブリッド車両10が減速した場合のF/C期間等、三元触媒216に対する熱負荷が過剰な場合、又は過剰となり易い場合、或いは過剰である旨の実践上の判断を下し得る場合等に、燃費の悪化やドライバビリティの悪化を招くことなく可及的に触媒冷却を図りつつ、F/C制御を実行することが可能となる。即ち、F/C制御を好適に実行することが可能となるのである。
<第2実施形態>
F/C期間には、上述したように基本的には無段変速モードによって、機関回転速度NEは最低回転速度NEllに維持される。一方、例えばF/C期間において比較的急激な再加速が要求された場合、無論ECU100は、F/C制御からの復帰処理を行い、エンジン200の動作状態を然るべく制御するのであるが、加速以前の機関回転速度が最低回転速度NEllであるため、必ずしも十分な加速性能が得られるとは限らない。このため、場合によっては、ドライバに動力性能不足に起因する不快感を与えドライバビリティの悪化が顕在化しかねない。ここで、図6を参照し、ドライバビリティの悪化を抑止しつつF/C制御を行い得る、本発明の第2実施形態に係るハイブリッド車両12について説明する。ここに、図6は、ハイブリッド車両12の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図6において、ハイブリッド車両12は、ハイブリッド車両10に対し、優先スイッチ700が付加された構成を有している。
優先スイッチ700は、ハイブリッド車両12の車室内においてドライバによる操作が可能な位置に設置されたボタンスイッチ(必ずしもボタンスイッチである必要はなく、例えばレバースイッチやダイアルスイッチ等であってもよい)である。優先スイッチ700は、ECU100と電気的に接続されており、優先スイッチ700が操作されたか否かは、ECU100によって一定又は不定の周期で把握されている。この優先スイッチ700は、ハイブリッド車両12において、経済性能よりも動力性能を優先すべき旨をECU100に対して要求するための告知手段であり、ドライバは、動力性能を優先すべき旨の意思を有する場合に優先スイッチ700を操作するよう予め促されている。従って、優先スイッチ700が操作されることによって、本発明に係る「経済性能に比して動力性能を重視すべき旨の入力がなされた」状態の一例が実現される構成となっている。
ハイブリッド車両12では、第1実施形態に係る触媒保護機能付きF/C制御処理に対応する処理として、動力性能優先機能付きF/C制御処理が実行される。ここで、図7を参照し、動力性能優先機能付きF/C制御処理の詳細について説明する。ここに、図7は、動力性能優先機能付きF/C制御処理のフローチャートである。尚、同図において、図5と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図7において、ステップS102に係る処理によりF/C制御を実行すると、ECU100は、優先スイッチ700が操作されたか否かを判別する(ステップS201)。優先スイッチ700が操作されていない場合(ステップS201:NO)、ECU100は、ステップS111に処理を移行し、通常の選択制御を実行すると共に、優先スイッチ700が操作されている場合(ステップS201:YES)、固定変速モードにおける機関回転速度NEodを算出する(ステップS105)。ステップS105以降は、第1実施形態と同等の処理が実行される。
このように、第2実施形態によれば、ドライバが動力性能を優先する旨の意思を有する場合等に、当該意思を反映した形で、F/C期間における変速モードが固定変速モードに制御される。第1実施形態で述べたように、固定変速モードによれば、無段変速モードによって機関回転速度が最低回転速度NEllに維持されるよりも機関回転速度NEを高回転領域に維持することが、又はその低下速度を緩慢にすることが可能であり、少なくとも車速Vの低下に伴いNEodが最低回転速度NEllに低下するまでの猶予期間においてハイブリッド車両12に加速要求が生じた場合には、エンジン200は相対的にみて高回転の領域から回転上昇を開始することが可能となる。従って、F/C制御の実行が加速性能に影響を与えることによって生じ得るハイブリッド車両12のドライバビリティの悪化を抑止することが可能となる。即ち、好適にF/C制御を実行することが可能となるのである。
尚、第1実施形態に係る触媒保護機能付きF/C制御処理と、本実施形態に係る動力性能優先機能付きF/C制御処理とは、相互に相容れない制御ではなく、一のF/C制御処理として実行することも可能である。その場合、三元触媒216が高温状態であるか、又は優先スイッチ700が操作されている場合に、固定変速モードが選択されることによって、好適にこれらを両立することが可能である。
<第3実施形態>
本発明に係る「動力分配手段」の一例として、第1及び第2実施形態ではシングルピニオン型遊星歯車機構とダブルピニオン型遊星歯車機構とを組み合わせてなる動力分割機構300が例示されているが、本発明に係る動力分配手段の採り得る構成は、無段変速モードと固定変速モードとを少なくとも実現可能である限りにおいて、動力分割機構300のものに限定されない。ここで、図8及び図9を参照し、本発明の第3実施形態として、動力分配手段の他の構成例について説明する。ここに、図8は、動力分割機構800の構成を概念的に表してなる概略構成図であり、図9は、動力分割機構900の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、これらの図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図8において、動力分割機構800では、キャリア812に、エンジン200のクランクシャフト205に連結された入力軸310が連結されている。また、サンギア811にモータジェネレータMG1が連結され、そのサンギア811と同心円状に配置される内歯歯車たるリングギア814が出力軸320に連結されている。これらサンギア811とリングギア814とに噛合する大ピニオンギ813が、その中心軸線を中心に自転し、キャリア812の自転によって公転するようにキャリア812によって保持されている。これらキャリア812、サンギア811、リングギア814及び大ピニオンギア813によって、第1遊星歯車機構810が構成されている。
一方、大ピニオンギア813は、いわゆるステップドピニオンギアとして構成されている。すなわち、大ピニオンギア813より小径の小ピニオンギア821が、同一軸線上に並べて一体化されている。その小ピニオンギア821が、サンギア811より大径のサンギア822に噛み合っている。即ち、サンギア822と、大小のピニオンギア813及び821(即ち、ステップドピニオンギア)と、これを保持しているキャリア812と、上記リングギア814とによって第2遊星歯車機構820が構成されている。このように、動力分割機構800は、歯数の異なるピニオンギアを一体に連結することによりキャリア及びリングギアを共用してなる二組の遊星歯車機構により構成される。
従って、第1遊星歯車機構810におけるサンギア811が第2遊星歯車機構820におけるサンギア822より小径であり、且つリングギア814を共用しているので、第1遊星歯車機構810におけるギア比(サンギアとリングギアとの歯数の比)ρ1が、第2遊星歯車機構820のギア比ρ2より小さくなっている。ここで、サンギア822には、サンギア822の回転を選択的に阻止する前述したブレーキ350が連結されている。このブレーキ350が係合状態にある場合、サンギア822が物理的に固定されるため、動力分割機構300の変速比が、オーバードライブ変速比(即ち、エンジン200の機関回転速度NEが出力軸320の回転速度より小さいことに相当する変速比)となる。
図9において、動力分割機構900では、第1遊星歯車機構910と第2遊星歯車機構920とを備える。第1遊星歯車機構910のキャリア912にエンジントルクを伝達する入力軸310が連結されている。その第1遊星歯車機構910におけるサンギア911にモータジェネレータMG1が連結され、そのサンギア911と同心円上に配置されている内歯歯車であるリングギア913が出力軸320に連結されている。そして、これらサンギア911とリングギア913とに噛み合っているピニオンギア914が、その中心軸線を中心に自転し、キャリア912の自転によって公転するようにキャリア912によって保持されている。
第2遊星歯車機構920は、第1遊星歯車機構910と同一軸線上に配置されており、そのサンギア921の中心部を出力軸320が貫通すると共に、サンギア921と出力軸320とが連結されている。言い換えれば、サンギア921が、第1遊星歯車機構910におけるリングギア913と一体に回転するように連結されている。また、サンギア921と同心円上に配置されたリングギア924が、第1遊星歯車機構910におけるサンギア911に連結されている。言い換えれば、第2遊星歯車機構920のリングギア924が、モータジェネレータMG1に連結されている。
また、これらサンギア921とリングギア924との間に配置されてサンギア921及びリングギア924に噛み合っているピニオンギア923が、キャリア922によって自転且つ公転可能に保持されている。ブレーキ350は、このキャリア922を選択的に固定することが可能に設置される。このように、動力分割機構900は、二組のシングルピニオン型遊星歯車機構により構成される。このような構成においても、ブレーキ350を係合状態に制御することによって、無段変速モードと固定変速モードとを好適に実現可能であり、第1及び第2実施形態に例示した各種のF/C制御処理を好適に実現可能である。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
10…ハイブリッド車両、12…ハイブリッド車両(第2実施形態)、100…ECU、200…エンジン、201…気筒、203…ピストン、205…クランクシャフト、300…動力分割機構、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ、310…入力軸、320…出力軸、350…ブレーキ、600…車速センサ、700…優先スイッチ、800…動力分割機構(第3実施形態)、900…動力分割機構(第3実施形態)。