JP2009214828A - ハイブリッド車両の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】無段変速モードから固定変速モードへの変速を可及的に広範囲な条件で実現する。
【解決手段】ハイブリッド装置20では、無段変速モードに対応する変速段として1速CVTモード及び2速CVTモードを実現可能であり、これらの変速段間の変速に際しては、変速比が固定される1−2固定モードを経由する必要がある。ECU100は、変速要求が生じた際に、1−2固定モードにおいて要求出力を満たすエンジンの要求動作点が、エンジン200が安定回転可能であり、NV上の制約を満たし、且つ実質的な最大トルク以下となる動作領域aを逸脱する場合には、MG1又はMG2或いはその両方からのトルクの出力により不足する出力を満たし得る場合に限って変速を許可する。また、経済性能を優先すべき場合には、NV上の制約が緩和され、不足する出力を満たすか否かに係る判別基準が緩和される。
【選択図】図7
【解決手段】ハイブリッド装置20では、無段変速モードに対応する変速段として1速CVTモード及び2速CVTモードを実現可能であり、これらの変速段間の変速に際しては、変速比が固定される1−2固定モードを経由する必要がある。ECU100は、変速要求が生じた際に、1−2固定モードにおいて要求出力を満たすエンジンの要求動作点が、エンジン200が安定回転可能であり、NV上の制約を満たし、且つ実質的な最大トルク以下となる動作領域aを逸脱する場合には、MG1又はMG2或いはその両方からのトルクの出力により不足する出力を満たし得る場合に限って変速を許可する。また、経済性能を優先すべき場合には、NV上の制約が緩和され、不足する出力を満たすか否かに係る判別基準が緩和される。
【選択図】図7
Description
本発明は、内燃機関と電動発電機とを動力源として備えたハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
この種の装置を適用可能なものとして、二組の遊星歯車機構を組み合わせて四つの回転要素を有する歯車機構として構成された分配機構を備えたハイブリッド車の駆動装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されたハイブリッド車の駆動装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、二つの出力要素を出力部材に選択的に連結する連結機構を備えるため、複数の駆動形態の中から走行要求に適した駆動形態を選択することができ、エネルギ効率の良い走行が可能になるとされている。
尚、動力源と出力部材との回転数比をオーバードライブ状態に固定する状態と、該回転数比を連続的に変化させる状態とを採ることが可能なハイブリッド車の駆動装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この種のハイブリッド車両において、内燃機関と出力部材との回転速度比が固定される固定変速段では、出力部材の回転速度に応じて内燃機関の回転速度が一義的に規定される。このため、固定変速段へ変速が行われた後の内燃機関の動作条件によっては、ハイブリッド車両の要求駆動力を満たすことが難しい場合がある。この際、変速を強行すれば駆動力の低下による動力性能の低下が回避され難いため、少なくとも実践的にみれば、固定変速段への変速自体が困難となる。即ち、従来の技術には、固定変速段への変速が制限されるという技術的な問題点がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、固定変速段への変速が制限される事態の発生を抑制し得るハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、内燃機関、第1電動機及び第2電動機を含む動力源と、相互に差動回転可能に構成され、前記内燃機関、前記第1電動機及び前記第2電動機が夫々連結される回転要素を含む複数の回転要素を備える動力分配手段と、車軸に連結された出力部材と前記第1及び第2電動機並びに前記複数の回転要素のうち少なくとも一部との接続状態を切り替えることにより、変速モードを、前記内燃機関の機関回転速度と前記出力部材の回転速度たる出力回転速度との比たる変速比を一の値に固定する固定変速モード及び前記変速比を連続的に変化させる無段変速モードを含む複数の変速モードの中で選択的に切り替え可能な変速手段とを備えてなるハイブリッド車両の制御装置であって、前記無段変速モードから前記固定変速モードへの前記変速モードの切り替えがなされた際に前記ハイブリッド車両の要求出力を満たすための前記内燃機関の動作点たる要求動作点が所定の基準動作領域を逸脱するか否かを、前記変速モードの切り替えがなされる以前に判別する第1判別手段と、前記要求動作点が前記基準領域を逸脱する旨が判別された場合に、前記動作点が前記基準動作領域内に維持された状態で前記第1及び前記第2電動機のうち少なくとも一方における前記要求出力を満たすための動力の出力が可能であるか否かを判別する第2判別手段と、前記動力の出力が可能である旨が判別された場合に前記変速モードの切り替えがなされるように前記変速手段を制御する第1制御手段と、前記変速モードの切り替えがなされるに際して前記動作点が前記基準動作領域内に維持されるように前記内燃機関を制御する第2制御手段と、前記動作点が前記基準動作領域内に維持されるのに伴い前記要求出力を満たすための動力の出力がなされるように前記少なくとも一方を制御する第3制御手段とを具備することを特徴とする。
本発明に係る動力分配手段は、内燃機関、例えばモータジェネレータ等の電動発電機を好適な一形態として採り得る第1電動機及び例えばモータジェネレータ等の電動発電機を好適な一形態として採り得る第2電動機の各動力源と夫々接続される或いは接続可能に構成される複数の回転要素を含む、相互に差動回転可能な複数の回転要素(即ち、各動力源に対応する回転要素は、動力分配手段に備わる回転要素の少なくとも一部であって、必ずしも全てでない)を備え、好適な一形態として、例えば各々が回転要素として例えばサンギア、キャリア及びリングギア等を備えた複数のプラネタリギアを含み、各プラネタリギアにおける任意の且つ一部の回転要素同士が直接的に又は間接的に連結される等して一体の(或いは一体として扱うことが可能な)回転要素をなすプラネタリギアを包括する概念としての複合型プラネタリギア装置等の形態を採り得る。
本発明に係る変速手段は、好適な一形態として、例えば摩擦係合式或いは噛合式等各種態様を採り得る複数の係合手段(ブレーキ装置やクラッチ装置等を好適な一形態として含み、係合要素同士を相互に係合及び離間させるべく駆動することが可能な各種の駆動装置、並びに係合要素の物理状態を検出する各種検出手段等を適宜に含み得る)等として構成され、出力部材と第1及び第2電動機並びに動力分配手段が有する複数の回転要素のうち少なくとも一部との接続状態(即ち、接続可能であるか否かによらず少なくとも接続の有無を含み、概念上は、どの程度接続されているかといった定量的状態を含む)を適宜に切り替えることによって、ハイブリッド車両の変速モードを、固定変速モードと無段変速モードとを含む複数の変速モードの中で選択的に切り替えることが可能に構成される。尚、「変速モード」とは、内燃機関の機関回転速度と出力部材の回転速度(以下、適宜「出力回転速度」と称する)との比(以下、適宜「変速比」と称する)の制御態様を指し、一の変速モードに該当する変速段は単数であっても複数であってもよい趣旨である。
ここで、「無段変速モード」とは、例えばクランク軸等、内燃機関の出力軸と出力部材との間の回転速度比(即ち、変速比)を、理論的に、実質的に或いは予め物理的、機械的、機構的又は電気的に規定される範囲内で、夫々連続的に(実践上連続的であるのと同等に段階的な態様を含む)変化させることが可能な変速比の制御態様を指し、好適な一形態として、内燃機関の出力トルクの反力トルクを負担する一回転要素に接続された第1又は第2電動機を反力要素として、その回転速度を制御すること等により、例えば内燃機関の動作点(例えば、機関回転速度と出力トルクとにより規定される内燃機関の一運転条件を規定する点)は理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で自由に選択され、例えば、燃料消費率を理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で現実的に最小(単位燃料量当たりの走行距離といった意味では最大)とし得る最適燃費動作点等に制御される。
一方、「固定変速モード」とは、変速比が一の値に固定される制御態様であり、必然的に機関回転速度は、ハイブリッド車両の車速に応じて一義的に規定される。従って、無段変速モードから固定変速モードへの変速モードの切り替えがなされるに際しては、機関回転速度が固定変速モードにおいて一義的に規定される値へ同期させられる(変速手段が係合手段を備える場合、係る係合手段の構成によっては、係る回転同期に加え更に係合要素相互間の位相同期がなされてもよい)ことによって、切り替え前後の回転変動が抑制される。
他方、この種の変速モードの切り替え前後において出力部材に供給される動力が低下すると、ハイブリッド車両の出力(一義的に駆動力)は、要求出力(一義的に要求駆動力)に対して不足することととなり、動力性能を低下させる要因となる。従って、好適には、変速モードの切り替え前後において、出力部材に供給される動力は、不変であるか或いはその低下量が実践上許容し得る旨が定められた又はその旨の判断を下し得る範囲内に収まる必要がある。
ところが、内燃機関の動作領域は、物理的、機械的、機構的又は電気的な制約によって、このような出力部材に供給すべき動力とは無関係に定まる。また、実践的な見地から言えば、内燃機関の動作領域は、ハイブリッド車両における、例えばNV(Noise and Vibration:騒音と振動)等により規定される快適性能、燃費等により規定される経済性能、エミッション等により規定される環境性能又は例えば失火やストールの可能性等により規定される信頼性能を担保すべく、更に制約を受け易い。
このため、変速モードが固定変速モードへ切り替えられるに際しては、例えば一義的に規定される機関回転速度がこのような動作領域を逸脱する、例えば一義的に規定された機関回転速度において理論的に出力し得るトルク(即ち、物理的な最大トルク)若しくは出力することが何らかの制約(上述した各種性能を勘案して規定される制約)の範囲で現実的に許可されたトルク(即ち、実質的な最大トルク)が要求トルク(ハイブリッド車両の要求出力を満たすトルク)に達さない等の事態が生じ得る。従って、固定変速モードへの変速モードの切り替え(以下、適宜「変速」と称する)は、その実行が著しい制限を受け易い。
そこで、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、その動作時には、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第1判別手段によって、無段変速モードから固定変速モードへの変速がなされた際にハイブリッド車両の要求出力を満たすための要求動作点が所定の基準動作領域を逸脱するか否かが、係る変速がなされる以前に判別される。
ここで、「基準動作領域」とは、例えば内燃機関が理論上採り得る動作領域、或いは、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、上述した快適性能、経済性能、環境性能又は信頼性能の低下を少なくとも実践上問題となる程度に顕在化させない(望ましくは、この種の性能低下を生じさせない)ものとして定められた、好適な一形態として、当該理論上採り得る動作領域よりも狭い動作領域等、基本的に動作点として選択することが許容された領域である。
一方、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、その動作時には、係る要求動作点が基準領域を逸脱する旨が判別された場合に、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第2判別手段によって、動作点が基準動作領域内に維持された状態で第1及び第2電動機のうち少なくとも一方において、出力部材に対し上述した要求出力を満たすための動力(好適には、トルク)の出力が可能であるか否かが判別される。
尚、この際、車速に応じて一義的となる機関回転速度による制約を受ける形で動作点が基準動領域を逸脱する場合(即ち、基準動作領域を低回転側又は高回転側へ逸脱する場合であって、変速に際しての回転同期自体が実質的に困難となる場合)には、係る動力の出力は実質的に意味をなさないから、第2判別手段は、好適な一形態として、要求動作点に対応する機関回転速度(即ち、車速に応じて一義的となる機関回転速度)が基準動作領域内にある場合に限ってこの種の判別を行ってもよい。但し、機関回転速度が基準動作領域外にある場合に、無条件に要求出力が満たされない旨の判別を行ってもよい。
このような第2判別手段による判別の結果、動作点が基準動作領域内に維持された状態(即ち、換言すれば、要求出力に対する出力不足が生じている状態)で、第1電動機又は第2電動機或いはその両方における、要求出力を満たすための動力の出力が可能である旨が判別された場合には、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第1制御手段によって、上述した回転同期に係る制御を含む固定変速モードへの変速がなされるように変速手段が制御される。尚、第1判別手段により要求動作点が基準動作領域内である旨が判別された場合には無論、固定変速モードへの変速がなされてよい。
一方、係る変速の実行に際しては、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第2制御手段によって、内燃機関の動作点が基準動作領域内に維持され、更に係る動作点の維持に伴う動力の不足を解消すべく、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第3制御手段によって、第1電動機又は第2電動機或いはその両方が制御される。
この第3制御手段の作用によって、固定変速モードへの変速に際して内燃機関の動作点が基準動作領域を逸脱する場合(即ち、ハイブリッド車両における上述した動力性能、快適性能、経済性能、環境性能又は信頼性能の低下が少なくとも実践上問題となる程度に顕在化し得ることに起因して、本来変速を不可とせざるを得ない場合)の少なくとも一部において好適に変速を行うことが可能となる。即ち、固定変速モードへの変速が許可される条件を可及的に拡大することが可能となるのである。尚、第1乃至第3制御手段に係る各種制御の時系列上の実行順序は、少なくとも実践的に見て上記各種問題を顕在化させない限りにおいて自由であってよい。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の一の態様では、前記変速手段は、前記無段変速モードに相当する変速段として、前記第1電動機を前記内燃機関の出力に対する反力を負担する反力要素とし且つ前記第2電動機を前記出力部材に対し動力の出力を行う出力要素とする第1変速段及び前記第2電動機を前記反力要素とし且つ前記第1電動機を前記出力要素とする第2変速段を含む複数の変速段を実現可能であると共に、前記変速段を切り替える際に前記固定変速モードを経由する構成を有する。
この態様によれば、ハイブリッド車両は、所謂マルチモードハイブリッドと称される構成を採る。この際、変速手段は、例えば好適な一形態として、湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキ或いはドグクラッチ等の各種係合手段を複数備えた構成を採り、これら複数の係合手段各々における係合要素同士(一方の係合要素は、直接的であるにせよ各種回転要素を経る等間接的であるにせよ出力部材に連結され、他方の係合要素は、直接的であるにせよ各種回転要素を経る等間接的であるにせよ第1又は第2電動機及び第2又は第1電動機に連結される)の同期係合(回転同期させつつ係合させる、即ち回転変動を回避するための係合)を適宜行うことによって第1又は第2電動機を反力要素とし、第2又は第1電動機を出力要素とすることが可能に構成されている。その結果、無段変速モードに該当する変速段として、夫々第1又は第2変速段を採ることが可能である。
ここで、反力要素を第1及び第2電動機相互間で切り替える(例えば第1変速段と第2変速段との間で変速を行う)に際しては、理論的には、過渡的な状態として、両電動機が共に出力部材に接続された状態を採ることも、両電動機が共に出力部材から切り離された状態を採ることも可能であるが、動力分配手段における回転要素相互間の差動作用に鑑みれば、後者の状態では内燃機関の動力を出力部材に伝達することは不可能であり、ハイブリッド車両の駆動力を確保するために、少なくとも実践上は前者の状態を経由せざるを得ない。
一方、このように第1電動機及び第2電動機が共に出力部材に連結された状態では、両者が共に車速に応じて一義的に回転せざるを得ないことに起因して、両電動機と差動関係にある内燃機関の機関回転速度もまた車速に応じて一義的となる。即ち、この場合、変速モードは少なくとも結果的に固定変速モードとなる。
このような、少なくとも実質的に固定変速モードを経由せずに変速を行い得ない構成においては、固定変速モードへの変速が制約されることにより生じる不利益が相対的に大となる。即ち、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、この種のハイブリッド車両に対し顕著に効果的である。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記基準動作領域は、前記内燃機関の最大トルク、前記内燃機関の最低回転速度及び前記ハイブリッド車両における騒音又は振動の度合いのうち少なくとも一部に基づいて規定される。
この態様によれば、ハイブリッド車両における快適性能、経済性能、環境性能及び信頼性能を実践上問題なく担保し得るように基準動作領域を定めることが可能となるため、より高品質な変速が実現される。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、経済性能を優先すべき旨を表す所定の入力の有無を判別する第3判別手段を具備し、前記第1判別手段及び前記第2判別手段のうち少なくとも一方は、前記入力が有る旨が判別された場合に、前記基準動作領域を拡大する。
この態様によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第3判別手段によって、経済性能を優先すべき旨の入力の有無が判別される。ここで、「入力」とは、好適な一形態として、例えばドライバや同乗者等車両の搭乗者により、ハイブリッド車両に設置された、例えばボタン、レバー、ダイアル等各種スイッチング装置を含む各種入力手段が操作されること等を指すが、このような、ドライバ等の意思に基づいて人為的になされるもの以外であってもよく、例えば、ハイブリッド車両の走行条件が、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて経済性能を優先すべき旨の判断を下し得るものとして設定された条件に合致した場合等に、各種の制御装置やコントローラ等を介して自動的になされるものであってもよい。従って、第3判別手段は、例えば上記各種操作手段が操作された旨に相当する各種信号を検出することによって、或いは検出されたことを認識又は推定することによって、当該判別を行ってもよいし、一定又は不定の周期で取得するハイブリッド車両の走行条件が上記条件に該当するか否かを判別することにより、経済性能を優先すべき状況か否かの判別を行ってもよい。
固定変速モードは、上述したような無段変速モードに該当する複数の変速段相互間を繋ぐ過渡的な変速モードであれ、例えばオーバードライブ変速比(機関回転速度が出力回転速度に対し低くなる変速比)等、例えば高速軽負荷領域におけるエネルギ消費効率を向上させる等の目的から状況に応じて積極的に選択され得る変速モードであれ、その性質として経済性能の向上に直結する変速モードである。補足すれば、固定変速モードを一時的に経由するだけであったとして、経由後に選択された変速段(即ち、無段変速モードに該当する変速段)において動作点が最適燃費動作点に制御され得ることに鑑みれば、固定変速モードへの変速は、結局経済性能の向上に直結するのである。従って、この種の入力が生じている場合、固定変速モードへの変速が禁止される事態を可及的に回避する必要が生じる。
一方で、基準動作領域は、好適な一形態として、経済性能以外にも上述した如き各種の性能を総合的に考慮して設定され得る領域であり、この種の入力が生じている場合(即ち、少なくとも経済性能をそれ以外の性能に優先すべき場合)には、拡大する余地が生じる可能性が高い。
この態様によれば、この種の入力が有る旨が判別された場合には、第1及び第2判別手段のうち少なくとも一方が、各々に係る判別動作を行うに際して基準動作領域を拡大する。このため、要求動作点が基準領域外である旨の判別がなされる可能性が相対的に低くなり、或いは第1又は第2電動機において要求出力を満たす動力の出力が可能である旨の判別がなされる可能性が相対的に高くなる。これらは、いずれにせよ固定変速モードへの変速が許可される方向へ作用する。即ち、この態様によれば、基準動作領域が拡大されることにより固定変速モードへの変速許可条件が緩和され、積極的な変速が促されることとなって、少なくとも経済性能を効果的に向上させることが可能となるのである。
尚、この態様では、前記基準動作領域は、少なくとも前記ハイブリッド車両における騒音又は振動の度合いが許容範囲内となるように規定されており、前記第2判別手段は、前記入力が有る旨が判別された場合は、前記許容範囲を拡大することにより前記基準動作領域を拡大してもよい。
騒音又は振動は、ドライバビリティの低下を招き、快適性能を低下させる要因となり得る反面、この種の入力が生じて経済性能が優先されている旨が明らかである場合には、少なくとも幾らかなりその発生を許容し得る性質を有する。従って、この種の入力が生じて少なくとも経済性能が優先すべき旨が明らかである場合に限れば、基準動作領域を実践上の問題を生じることなく比較的簡便に拡大することが可能となる。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、経済性能を優先すべき旨の所定の入力の有無を判別する第3判別手段を具備し、前記第1判別手段及び前記第2判別手段のうち少なくとも一方は、前記入力が有る旨が判別された場合に、前記要求出力を満たすか否かに係る判別基準を緩和する。
この態様によれば、既に述べた経済性能を優先すべき旨の入力がなされた場合に、第1判別手段又は第2判別手段或いはその両方ともが、夫々の動作における、ハイブリッド車両の要求出力を満たすか否かに係る判別基準を緩和する。ここで、「判別基準を緩和する」とは、肯定的な判別結果(即ち、ここでは、要求出力が満たされる旨の判別結果)が得られ易くなる方向へ判別基準を補正することを意味し、相対的に言えば、要求出力を減少側に補正するのと同等の効果を有する。
この態様によれば、例えば、基準動作領域内に動作点を維持した状態における内燃機関の最大出力が要求出力未満であっても、例えば予め経済性能を優先すべき状況の下で限定的に許容し得る旨が規定された値以上である場合等には、要求出力を満たす要求動作点が基準動作領域内に存在している(即ち、逸脱していない)旨の判別(第1判別手段による判別)が下される可能性が高くなり、或いは、電動機によりその時点でなし得る動力の出力を伴ったハイブリッド車両の出力が要求出力未満であっても、例えば予め経済性能を優先すべき状況の下で限定的に許容し得る旨が規定された値以上である場合等には、要求出力を満たす動力の出力が可能である旨の判別(第2判別手段による判別)が下される可能性が高くなる。その結果、固定変速モードへの変速が許可される可能性は、少なくともこの種の判別基準の緩和がなされない場合と較べて高くなり、少なくとも経済性能を効果的に向上させることが可能となるのである。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
始めに、図1を参照し、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、ハイブリッド車両10は、ECU100、減速機構11、PCU(Power Control Unit)12、バッテリ13、車速センサ14及びアクセル開度センサ15並びにハイブリッド駆動装置20を備えた、本発明に係る「ハイブリッド車両」の一例である。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、ハイブリッド車両10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する変速制御を実行することが可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る「第1判別手段」、「第2判別手段」、「第3判別手段」、「第1制御手段」、「第2制御手段」及び「第3制御手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
減速機構11は、ハイブリッド駆動装置20における後述する出力軸500に連結されたカウンタ軸16と平行し、且つ当該カウンタ軸16とカウンタギア17を介して連結された、デファレンシャル等各種減速ギアを含む減速装置である。減速機構11は、ハイブリッド車両10の駆動輪たる左前輪FL及び右前輪FRに夫々連結されるドライブシャフトSFL及びSFR(即ち、本発明に係る「車軸」の一例)と連結されている。
PCU12は、バッテリ13から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ13に供給することが可能に構成されたインバータ等を含み、バッテリ13と各モータジェネレータとの間の電力の出力を、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の出力(即ち、この場合、バッテリ13を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御することが可能に構成された制御ユニットである。PCU12は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
バッテリ13は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能することが可能に構成された充電可能な蓄電手段である。
車速センサ14は、ハイブリッド車両10の車速Vを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
アクセル開度センサ15は、ハイブリッド車両10の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ15は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
エコノミースイッチ18は、ハイブリッド車両10の車室内に設置された、主としてドライバによる操作が可能な操作ボタンである。エコノミースイッチ18は、所定の操作がなされた際に、その旨を表す電気信号が生成される構成となっており、係る電気信号は、エコノミースイッチ18と電気的に接続されたECU100により、本発明に係る「経済性能を優先すべき旨の入力」の一例として取得される構成となっている。
ハイブリッド駆動装置20は、ハイブリッド車両10のパワートレインとして機能する動力供給ユニットである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置20の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置20の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図2において、ハイブリッド駆動装置20は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、入力軸400及び出力軸500を備える。
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両10の主たる動力源として機能するように構成されている。ここで、図3を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、エンジン200の一断面構成を例示する模式図である。尚、同図において、図1及び図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。尚、本発明における「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明に係る内燃機関の構成は、エンジン200のものに限定されず各種の態様を有してよい。
図3において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205(即ち、本発明に係る「内燃機関の出力軸」の一例である)の回転運動に変換することが可能に構成されている。
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(不図示)と電気的に接続されており、ECU100では、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、エンジン200の機関回転速度NEが算出される構成となっている。
尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図2においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。また、本発明に係る内燃機関における気筒数及び各気筒の配列形態は、上述した概念を満たす範囲でエンジン200のものに限定されず多様な態様を採り得、例えば、6気筒、8気筒或いは12気筒エンジンであってもよいし、V型、水平対向型等であってもよい。
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、インジェクタ212の燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。インジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、上述した混合気となる。
燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に供給される構成となっている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節するスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(即ち、上述したアクセル開度Ta)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能に構成されている。尚、本発明に係る触媒装置の採り得る形態は、このような三元触媒に限定されず、例えば三元触媒に代えて或いは加えて、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)或いは酸化触媒の各種触媒が設置されていてもよい。
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。これら空燃比センサ217及び水温センサ218は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
図2に戻り、モータジェネレータMG1は、本発明に係る「第1電動機」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、本発明に係る「第2電動機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有していてもよいし、他の構成を有していてもよい。
動力分割機構300は、本発明に係る「動力分配手段」の一例たる動力伝達装置である。動力分割機構300は、第1遊星歯車機構310及び第2遊星歯車機構320を有する。
第1遊星歯車機構310は、シングルピニオン型の遊星歯車機構とダブルピニオン型の遊星歯車機構とが連結された構成を有する。即ち、シングルピニオン型の遊星歯車機構は、モータジェネレータMG2の出力軸が連結されたサンギア311(即ち、サンギア311は、本発明に係る「第2電動機が連結される回転要素」の一例である)、ピニオンギア(符号省略)を自転可能且つ一体的に公転可能に支持し、且つ動力分割機構300の外郭ケースに回転不能に物理的に固定されてなるキャリア312、及びリングギア313を備え、ダブルピニオン型の遊星歯車機構は、後述するクラッチC3に連結されたサンギア314、サンギア314に噛合するインナーピニオンギア(符号省略)、エンジン200のクランクシャフト205に連結された入力軸400に連結されてなるリングギア316(即ち、リングギア316は、本発明に係る「内燃機関が連結される回転要素」の一例である)、リングギア316に噛合するアウターピニオンギア(符号省略)、並びにインナーピニオンギア及びアウターピニオンギアを自転可能且つ一体的に公転可能に支持し、且つリングギア313と連結されると共に、中間軸600に連結されてなるキャリア315を有している。
第2遊星歯車機構320は、シングルピニオン型の遊星歯車機構であり、動力分割機構300の外郭ケースに回転不能に物理的に固定されてなるサンギア321、出力軸500(即ち、本発明に係る「出力部材」の一例)に連結され、且つピニオンギア(符号省略)を自転可能且つ一体的に公転可能に支持するキャリア322及び後述するクラッチC1に連結されたリングギア323を有する。
ここで、動力分割機構300は、各々湿式多板摩擦係合式の係合手段であるクラッチC1、C2及びC3並びに湿式多板摩擦係合式の制動手段であるブレーキB1を備える。尚、各クラッチは、例えばドグクラッチ等の噛合式係合手段であってもよい。クラッチC1、C2及びC3並びにブレーキB1は、本発明に係る「変速手段」の一例である。
クラッチC1は、一方のクラッチ板が第2遊星歯車機構320のリングギア323に連結され、他方のクラッチ板が中間軸600に連結された、当該クラッチ板同士の係合及び解放が可能に構成されてなるクラッチ機構である。
クラッチC2は、一方のクラッチ板が第2遊星歯車機構320のリングギア323に連結され、他方のクラッチ板がモータジェネレータMG1の回転軸に連結された、当該クラッチ板同士の係合及び解放が可能に構成されてなるクラッチ機構である。クラッチC2においてクラッチ板同士が相互に係合した状態にある場合、モータジェネレータMG1は、第2遊星歯車機構320の一回転要素たるリングギア323と連結された状態となる。即ち、リングギア323は、本発明に係る「第1電動機が連結される回転要素」の一例である。
クラッチC3は、一方のクラッチ板が第1遊星歯車機構310のサンギア314に連結され、他方のクラッチ板がモータジェネレータMG1の出力軸に連結された、当該クラッチ板同士の係合及び解放が可能に構成されてなるクラッチ機構である。尚、第1遊星歯車機構310におけるサンギア314は、クラッチC3の係合状態に応じて間接的にモータジェネレータMG1と接続可能に構成されている。
ブレーキ機構B1は、一方のブレーキ板が第1遊星歯車のキャリア315(一義的にリングギア313)に連結され、他方のブレーキ板が物理的に固定された構成を有している。
尚、これらクラッチC1、C2及びC3並びにブレーキB1は、夫々不図示の油圧駆動装置と接続されており、当該油圧駆動装置からの油圧の供給により各々におけるクラッチ板同士或いはブレーキ板同士の係合状態が制御される構成となっている。これら各油圧駆動装置は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその動作が上位に制御される構成となっている。即ち、これらクラッチC1、C2及びC3並びにブレーキB1の係合状態(本実施形態では、係合要素が相互に係合している状態及び離間している状態の二値状態)は、ECU100により制御される構成となっている。
<実施形態の動作>
<変速モードの詳細>
本実施形態に係るハイブリッド駆動装置20によれば、上述したクラッチC1、C2及びC3並びにブレーキB1の係合状態に応じて、複数の走行モード及び変速モードが実現される。ここで、図4を参照し、これら各係合手段の係合状態とハイブリッド駆動装置20の走行モード及び変速モードの対応関係について説明する。ここに、図4は、係合手段の係合状態と走行モード及び変速モードとの対応表である。
<変速モードの詳細>
本実施形態に係るハイブリッド駆動装置20によれば、上述したクラッチC1、C2及びC3並びにブレーキB1の係合状態に応じて、複数の走行モード及び変速モードが実現される。ここで、図4を参照し、これら各係合手段の係合状態とハイブリッド駆動装置20の走行モード及び変速モードの対応関係について説明する。ここに、図4は、係合手段の係合状態と走行モード及び変速モードとの対応表である。
図4において、「走行モード」とは、ハイブリッド駆動装置20における動力源を規定するモードであり、図示の通り、HV(ハイブリッド)モード(図示HV)及びEV走行モード(図示EV)が存在する。一方、「変速モード」とは、入力軸400と出力軸500との回転速度比の変化態様を規定するモードである。尚、図中「○」が係合している状態を、「×」が解放されている状態を夫々表すものとする。
図4において、クラッチC1及びクラッチC3が係合し、クラッチC2及びブレーキB1が解放されている場合、走行モードはHVモードとなり、変速モードは1速CVTモードとなる。即ち、この場合、キャリア315とリングギア323とが連結されるが、サンギア321は元より固定されているので、リングギア323の回転速度は、出力軸500の回転速度と一義的な関係を有する。このため、キャリア315もまた出力軸500と同期して回転し、リングギア313もまた、出力軸500と同期回転する。ここで、キャリア312は物理的に固定されているため、結局サンギア311、即ちモータジェネレータMG2の回転速度も出力軸500の回転速度と一義的な関係を有する。即ち、1速CVTモードの場合、モータジェネレータMG2は、本発明に係る「出力要素」の一例となる。
一方、クラッチC2は解放されており、モータジェネレータMG1は出力軸500から独立しているが、クラッチC3が係合しているため、その回転はサンギア314に伝達される。ここで、キャリア315の回転は既に述べたように出力軸500と一義的であり、結局サンギア314の回転速度を決めれば、リングギア316の回転速度、即ち入力軸400の回転速度は一義的に決定される。即ち、1速CVTモードにおいて、モータジェネレータMG1は、エンジン200の出力トルクの反力トルクを受け持つ反力要素として機能し、モータジェネレータMG1の回転速度制御によりエンジン200の機関回転速度を実質的に自由に制御することが可能となって、一種のCVT(Continuously Variable Transmission:連続式無段変速装置)機能が実現される。これが1速CVTモードと称される所以である。このように、1速CVTモードは、本発明に係る「第1変速段」の一例となる。
図4において、クラッチC1及びブレーキB1が解放され、クラッチC2及びC3が係合している場合、2速CVTモードが実現される。即ち、この場合、上述した1速CVTモードとは反対に、クラッチC1が解放されているため、モータジェネレータMG2は出力軸500の回転から独立している。一方クラッチC2が係合しているため、モータジェネレータMG1は出力軸500と連結された状態となり、1速CVTモードにおけるモータジェネレータMG2と同様に、本発明に係る「出力要素」の一例として機能する。
一方で、クラッチC3が係合しているため、このモータジェネレータMG1の回転は、サンギア314の回転となる。従って、2速CVTモードでは、モータジェネレータMG2の回転速度制御により、エンジン200の機関回転速度を実質的に自由に制御することが可能となり、モータジェネレータMG2が反力要素として機能することとなる。即ち、2速CVTモードは、本発明に係る「第2の変速段」の他の一例である。尚、1速CVTモード及び2速CVTモードは、夫々本発明に係る「無段変速モード」の一例であり、以下これらを総称する場合には適宜「無段変速モード」と表現することとする。
図4において、ブレーキB1を除く、クラッチC1、C2及びC3のいずれもが係合している場合、先に述べた原理に従ってモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2の双方が出力軸500に接続された状態となる。このため、第1遊星歯車機構310のリングギア316の回転は、車速に応じて一義的に規定され、入力軸400と出力軸500との回転速度の比たる変速比は、車速に応じて定まる一の値に固定される。これが、1−2固定モードである。1―2固定モードでは、機関回転速度NEが車速に応じて一義的に規定される。
尚、ここでは、詳細な説明を省略するが、図4に示すように、クラッチC3が解放された場合、反力要素が無くなるため、エンジン200は出力軸500に動力を伝達できない。逆に言えば、この場合、エンジン200を停止させることができ、クラッチC1、C2及びC3の係合状態に応じてモータジェネレータMG1又はモータジェネレータMG2或いはその両方を使用したEV走行が実現される。尚、EV走行モードでは、変速比は固定される。また、2速CVTモードが実現されている状況においてブレーキB1を係合させた場合、キャリア315の回転が阻止され、且つサンギア314の回転が出力軸500と一義的な関係を保つため、入力軸400の回転速度は出力軸500の回転速度により一義的に決定され、2速固定モードが実現される。
ここで、1速CVTモードと2速CVTモードとの間で変速モードを切り替える場合、MG1及びMG2を出力軸500から共に切り離すと、ハイブリッド駆動装置20は、一時的であれ動力源を失ってしまう。そのため、この場合、必然的に1−2固定モードを経由する必要がある。ここで、図5を参照し、1速CVTモードから2速CVTモードへの変速モードの切り替え時におけるハイブリッド駆動装置20の動作状態について説明する。ここに、図5は、係る変速時におけるハイブリッド駆動装置の共線図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図5において、縦軸は回転速度であり、横軸には、ハイブリッド駆動装置20の各構成要素のうち、左から順に、サンギア321(図示321)、出力軸500(図示500)、モータジェネレータMG1(図示MG1)、エンジン200(図示200)、モータジェネレータMG2(図示MG2)、出力軸500及びサンギア321が表されている。図5においては、エンジン200の機関回転速度NEが、図示白丸m1に相当する値であるとする。
図5(a)は、1速CVTモードに対応する図である。1速CVTモードでは、クラッチC1が係合するため、モータジェネレータMG2は出力要素となる。この際、サンギア321は固定されており(図示白丸m2参照)、残余の一回転要素であるリングギア323の回転速度が車速に応じて一義的に規定されるため、クラッチC1によりリングギア323に連結されたモータジェネレータMG2の回転速度(以下、「MG2回転速度Nmg2」と称する)もまた車速に応じて一義的となり、図示白丸m3に相当する回転速度となる。
一方、クラッチC2が解放されているため、モータジェネレータMG1は、リングギア323の回転状態(図示白丸m3)とは無関係に回転することができる。即ち、モータジェネレータMG1の回転速度(以下、適宜「MG1回転速度Nmg1」と称する)は、図示矢線方向に可変であり、例えば図示白丸m4に相当する回転速度に制御された場合には、エンジン200の機関回転速度NEは、MG2回転速度Nmg2とMG1回転速度Nmg1とにより一義的に規定される、図示白丸m5に相当する回転速度となる。即ち、MG1回転速度Nmg1の増減制御により、エンジン200の機関回転速度NEは各回転要素相互間で規定されるギア比に応じた範囲で可変となる。
図5(b)は、1−2固定モードに対応する図である。1−2固定モードでは、クラッチC1及びC2が共に係合した状態となるため、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2はいずれもリングギア323に連結された状態となり、MG1回転速度Nmg1及びMG2回転速度Nmg2は共にリングギア323の回転速度に一致する(図示白丸m3参照)。この際、サンギア314及びキャリア315の回転速度もまたリングギア323の回転速度と一致するから、残余の一回転要素たるリングギア316に連結されたエンジン200の回転は自由度を失い、図示白丸m6に相当する回転速度で固定される。
図5(c)は、2速CVTモードに対応する図である。2速CVTモードでは、クラッチC2が係合するため、モータジェネレータMG1は出力要素となる。この際、サンギア321は固定されており(図示白丸m2参照)、残余の一回転要素であるリングギア323の回転速度が車速に応じて一義的に規定されるため、クラッチC2によりリングギア323に連結されたモータジェネレータMG1の回転速度もまた車速に応じて一義的となり、図示白丸m3に相当する回転速度となる。
一方、クラッチC1が解放されているため、モータジェネレータMG2は、リングギア323の回転状態(図示白丸m3)とは無関係に回転することができる。即ち、モータジェネレータMG2回転速度Nmg2は、図示矢線方向に可変であり、例えば図示白丸m7に相当する回転速度に制御された場合には、機関回転速度NEは変速前の図示白丸m5に相当する回転速度に戻る。即ち、MG2回転速度Nmg2の増減制御により、エンジン200の機関回転速度NEは各回転要素相互間で規定されるギア比に応じた範囲で可変となる。
ハイブリッド車両10では、走行モードがHVモードである場合には、基本的に1速CVTモードと2速CVTモードとの間で適宜変速段が切り替えられ(即ち、変速が行われ)、その都度エネルギ消費効率のより高い方の変速段が選択されるが、係る変速の際には、上述したように1−2固定モードを経由する必要がある。この際、何らの対策も講じられない場合、エンジン200の機関回転速度NEは上述したように変化し、回転変動が生じてドライバビリティの著しい低下を招きかねない。このため、本実施形態においては、その時点で反力要素にあたるモータジェネレータの回転速度が、クラッチC1又はC2に備わるクラッチ板のうち車速と一義的な回転速度で回転するリングギア323と連結されている方のクラッチ板の回転速度と、当該反力要素にあたるモータジェネレータと連結されたクラッチ板の回転速度とが相互に同期するように制御され、回転同期が図られる。また、クラッチの構成によっては(例えばドグクラッチ等噛合歯同士の位相整合が必要なクラッチである場合等を含む)、係る回転同期に加え位相同期が図られる。その結果、ドライバビリティの低下に繋がる回転変動が抑制される。ところが、1−2固定モードでは、エンジン200の機関回転速度NEが車速に応じて一義的となるため、場合によっては変速が困難となる。このことについて、図6を参照し説明する。ここに、図6は、内燃機関の動作領域を表してなる平面図である。
図6において、縦軸及び横軸には、夫々エンジントルクTE及び機関回転速度NEが表されている。即ち、図6に例示する座標平面上の一座標点は、エンジン200の一動作点に対応している。図6において、エンジン200の動作領域(実現可能であるか否かは区別されない)は、領域a、領域b、領域c、領域d及び領域eに区分される。
領域eは、機関回転速度NEが第1最低回転速度NE1未満(未満であるか以下であるかは設計事項であり本発明の本質ではない)となる領域であり、図示塗り潰しハッチング領域に相当する。第1最低回転速度NE1は、予め設定された、エンジン200が安定回転可能な機関回転速度の下限値であり、必然的に、領域eにおいて、エンジン200には、燃焼が不安定であることによるトルク変動及び回転変動等が生じ、安定回転が困難な状態となる。
領域dは、エンジン200が物理的に出力可能な最大トルク(即ち、WOTトルク)を超えた動作領域であり、係るWOTトルクに対応する図示WOT動作線PRF_WOT(破線参照)よりも高トルク側の、図示網掛けハッチング領域である。即ち、エンジン200は、領域d内で動作することが物理的に不可能である。
領域cは、領域e及び領域d以外の領域であり且つ機関回転速度NEが第2最低回転速度NE2(NE2>NE1)未満となる領域であり、図示縦線ハッチング領域に相当する。領域cは、エンジン200の動作上は支障がないものの、ハイブリッド車両10にドライバビリティの低下として顕在化し得る程度の振動が生じ得る領域である。第2最低回転速度NE2は、領域cがこの種の性質を有するように、予め実験的に定められた閾値である。
領域aは、エンジン200が物理的に動作点として採ることが可能であり且つハイブリッド車両10にNV性能の低下(例えば、NVを規定する指標値が許容値を超えた状態)を生じさせることもない安定動作領域であり、本発明に係る「基準動作領域」の一例である。エンジン200の動作点は、1速CVTモード及び2速CVTモードの各々において、反力要素となるモータジェネレータにより、基本的に係る領域a内で設定される。尚、図示基準動作線PRF_BASEは、領域aの上限トルクを規定する動作線であり、低回転領域ではWOT動作線PRF_WOTよりも低トルク側に位置し、中高回転領域においてWOT動作線PRF_WOTと一致する。
領域bは、領域a、領域c及び領域dによって挟まれた、図示横線ハッチング領域である。領域bは、エンジン200の動作上は支障がないものの、ハイブリッド車両10にドライバビリティの低下として顕在化し得る程度のこもり音が生じ得る領域である。即ち、領域b及び領域cは、ハイブリッド車両10におけるNV性能上の要件により、通常は使用されることが許可されない領域である。
ここで、機関回転速度NE4(NE4>NE2)且つエンジントルクTE1となる動作点(図示白丸)において、1速CVTモード(或いは2速CVTモード)から2速CVTモード(或いは1速CVTモード)への変速モードの切り替えが図られるとする。この際、変速過程で必然的に経由する1−2固定モードにおいて一義的に規定される(即ち、回転同期が図られた状態における)機関回転速度が図示NE3(NE3<NE4))であるとすると、エンジン出力Peを維持しつつ(即ち、車速を維持しつつ)変速を行うための動作点(即ち、本発明に係る「要求動作点」の一例)は、エンジン出力Peが等しくなる動作点を繋げることによって得られる図示等出力線EP上で規定され、機関回転速度NE3且つエンジントルクTE2(TE2>TE1)に相当する動作点(図示白角)となる。
ところが、この動作点は、領域dにあって、エンジン200の物理的な動作限界を超えており、エンジン200は、機関回転速度NE3においてエンジントルクTE2を出力することができない。このため、何らの対策も講じられることがなければ、変速過程において一時的にしろエンジン出力Peはエンジン要求出力に対して低下した状態となり、動力性能が低下してしまう。この場合、ハイブリッド車両10を変速前の変速段で走行させることに実践的に見てエネルギ消費効率の相対的な低下以外の理由がなければ、このような動力性能の低下を伴う変速は行われない。即ち、ハイブリッド駆動装置20における変速機会は、何らの対策も講じられることがなければ著しい制約を受け易い。
そのような変速に際しての制約を緩和するために、本実施形態では、ECU100によって変速制御が実行される。ここで、図7を参照し、変速制御の詳細について説明する。ここに、図7は、変速制御のフローチャートである。尚、図7においては、説明の煩雑化を防ぐ目的から、無段変速モードから固定変速モードへの変速に関する変速制御について説明することとする。
図7において、ECU100は、変速要求が有るか否かを判別する(ステップS101)。ここで、変速要求がない場合(ステップS101:NO)、ECU100は変速要求が生じるまでステップS101に係る処理を繰り返し、処理を実質的に待機状態に制御する。一方、変速要求が有る場合(ステップS101:YES)、ECU100は、固定段回転速度NE*を算出する(ステップS102)。ここで、「固定段回転速度」とは、変速過程で経由する固定変速モード(ここでは、1−2固定モード)における機関回転速度であり、出力軸500の回転速度と、ハイブリッド駆動装置20における1−2固定モードに対応するギア比との積として算出される。尚、当該ギア比は、予めROM等然るべき記憶手段に記憶されていてもよいし、各回転要素相互間のギア比が情報として与えられている場合には、その都度数値演算処理の結果として導出されてもよい。尚、固定段回転速度NE*とは、図6で言えばNE3に相当し、図5で言えば白丸m6の値に相当する。
固定段回転速度NE*が算出されると、ECU100は、最大トルク算出処理を実行する(ステップS200)。尚、最大トルク算出処理とは、固定段回転速度NE*においてエンジン200が出力することが許容された最大トルクTEmax*を算出する処理である。ここで、図8を参照し、最大トルク算出処理の詳細について説明する。ここに、図8は、最大トルク算出処理のフローチャートである。
図8において、ECU100は、エコノミースイッチ18がオン状態であるか否かを判別する(ステップS201)。エコノミースイッチ18がオン状態である場合(ステップS201:YES)、ECU100は、図6に示したエンジン200の動作領域のうち、領域a、領域b及び領域cを選択対象領域として、係る選択対象領域の中から固定段回転速度NE*における最大のトルク値を取得し、最大トルクTEmax*として設定する(ステップS202)。一方、エコノミースイッチ18がオン状態にない場合(ステップS201:NO)、ECU100は、図6に示したエンジン200の動作領域のうち領域aを選択対象領域として、係る選択対象領域の中から固定段回転速度NE*における最大のトルク値を取得し、最大トルクTEmax*として設定する(ステップS203)。尚、固定段回転速度NE*が各選択対象領域から逸脱している場合には、最大トルクTEmax*は一時的にゼロに設定される。最大トルクTEmax*の算出が終了すると、最大トルク算出処理は終了する。
尚、ECU100のROMには、予め図6に示す各動作領域を規定する機関回転速度NE及びエンジントルクTEの値がデータ化されマップとして格納されており、ステップS202又はステップS203に係る処理を実行するに際しては、係るマップから選択対象領域における固定段回転速度NE*に対応する最大トルクが選択的に取得される。
ここで、ステップS202とステップS203との違いについて補足すると、エンジン200の動作点は、エコノミースイッチ18がオン状態にない通常時(即ち、経済性能を優先すべき場合以外)には領域a(即ち、本発明に係る「基準動作領域」の一例)から選択されるが、エコノミースイッチ18がオン状態である場合、ドライバが経済性を優先する旨の意思を有することは明らかであり(尚、エコノミースイッチ18の如き操作手段の操作を経ることなく、経済性を優先させるべき旨の判断を下し得る場合も同様である)、領域d(物理的に使用不可な領域)及び領域e(機関回転が不安定で信頼性が低下する領域)といった、如何なる場合も使用を許可すべきでない領域はさておき、領域b及び領域cといった、通常はハイブリッド車両10のNV性能上の制約により使用が回避されるべき領域で動作点を選択することが限定的に許可されるのである。即ち、エコノミースイッチ18がオン状態にある場合になされる領域aに対する選択対象領域の拡大処理は、本発明に係る「許容範囲を拡大することにより基準動作領域を拡大する」旨の処理の一例である。
図7に戻り、最大トルク算出処理が終了すると、ECU100は、最低回転速度算出処理を実行する(ステップS300)。尚、最低回転速度算出処理とは、エンジン200が動作点として採り得る最低の機関回転速度たる最低回転速度NEminを算出する処理である。ここで、図9を参照し、最低回転速度算出処理の詳細について説明する。ここに、図9は、最低回転速度算出処理のフローチャートである。尚、同図において、図8と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図9において、ECU100は、エコノミースイッチ18がオン状態にある場合(ステップS201:YES)、上述した第1最低回転速度NE1を最低回転速度NEminとして設定し(ステップS301)、エコノミースイッチ18がオン状態にない場合(ステップS201:NO)、上述した第2最低回転速度NE2を最低回転速度NEminとして設定する(ステップS302)。最低回転速度NEminの設定が終了すると、最低回転速度算出処理は終了する。
ここで、ステップS301及びステップS302に係る処理について補足すると、エコノミースイッチ18がオン状態にある場合、先に述べた最大トルクTEmax*の場合と同様に、経済性能を優先すべき観点からNV性能上の制約は緩和され、エンジン200が安定回転可能な回転領域は全て動作点として選択することが許可され、この安定回転可能な回転領域の下限値たる第1最低回転速度NE1が最低回転速度NEminとされる。一方で、エコノミースイッチ18がオン状態にない場合には、エンジン200が安定回転可能であり且つこもり音や振動の度合いが許容値未満となる回転領域のみが動作点として選択することを許可された領域となり、係る領域の下限値たる第2最低回転速度NE2が最低回転速度NEminとされるのである。
再び図7に戻り、最低回転速度算出処理が終了すると、ECU100は、不足出力算出処理を実行する(ステップS400)。尚、不足出力算出処理とは、固定段への変速に際してハイブリッド車両の要求出力Phvに対し不足する出力たる不足出力Pstgを算出する処理である。ここで、図10を参照し、不足出力算出処理の詳細について説明する。ここに、図10は、不足出力算出処理のフローチャートである。
図10において、ECU100は、ハイブリッド車両10の要求出力Phvを算出する(ステップS401)。ここで、要求出力Phvは、出力軸500の回転速度(尚、減速機構11のギア比及びカウンタギア17のギア比が既知であるから、各ドライブシャフトの回転速度であってもよいし、カウンタ軸16の回転速度であってもよい)と、出力軸500に供給すべきトルクたる出力軸要求トルクとの積をハイブリッド駆動装置20におけるシステム伝達効率(既知)で除した値として算出される。出力軸要求トルクは、車速Vとアクセル開度Taとに基づいて、予めROMに記憶されたマップから選択的に取得される。尚、このような算出方法は一例に過ぎず、ハイブリッド車両における要求出力の算出方法としては公知の各種手法が採用されてよい。
要求出力Phvが算出されると、ECU100は、算出された要求出力Phvから固定段最大出力Pe*を減算することにより不足出力Pstgを算出する(ステップS402)。ここで、固定段最大出力Pe*とは、変速過程で経由する固定段(ここでは、1−2固定変速モードに相当する変速段)において許容される最大出力であり、ステップS102において算出された固定段回転速度NE*と、ステップS200に係る最大トルク算出処理において算出された最大トルクTEmax*との積として算出される。不足出力Pstgが算出されると、不足出力算出処理は終了する。
再び、図7に戻り、不足出力Pstgが算出されると、ECU100は、変速可否判断処理を実行する(ステップS500)。変速可否判断処理が実行されると、処理はステップS101に戻され、一連の処理が繰り返される。ここで、図11を参照し、変速可否判断処理の詳細について説明する。ここに、図11は、変速可否判断処理のフローチャートである。尚、同図において、図8と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図11において、ECU100は、固定段回転速度NE*が最低回転速度NEmin以上であるか否かを判別する(ステップS501)。固定段回転速度NE*が最低回転速度NEmin未満である場合(ステップS501:NO)、ECU100は、変速過程で経由すべき1−2固定モードにおいて、エンジン200の動作点が、選択対象領域を機関回転速度側に(即ち、図6を参照すれば、左方向に)逸脱するものとして(即ち、本発明に係る「基準動作領域を逸脱する」旨の判別がなされ、且つ「動作点が基準動作領域内に維持された状態で第1及び第2電動機のうち少なくとも一方における要求出力を満たすための動力の出力」が不可である旨(既に機関回転速度側の制約で基準動作領域を逸脱しているため、動力(トルク)の出力では対応できない)の判別がなされた状態の一例である)、変速を禁止し、現状の変速段(即ち、ここでは、1速又は2速CVTモード)を継続する(ステップS505)。
一方、固定段回転速度NE*が最低回転速度NEmin以上である場合(ステップS501:YES)、ECU100は、エコノミースイッチ18がオン状態にあるか否かを判別し(ステップS201)、エコノミースイッチ18がオフ状態にある場合には(ステップS201:NO)、先に算出された不足出力Pstgが、モータジェネレータMG1又はモータジェネレータMG2或いはその両方から出力可能なMG最大出力Pmg(尚、MG最大出力Pmgは、各MGの定格最大出力、バッテリ500SOC及び変速に要する時間(即ち、短時間であれば、必ずしも定格値に律束されずともよい)等に応じてその都度変化する可変な値である)以下であるか否かを判別する(ステップS504)。尚、1−2固定モードにおいては、既に述べたようにモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2のいずれもが出力軸500に間接的に(即ち、第2遊星歯車機構320及び各クラッチを介して)連結されており、出力軸500に対しいずれのMGからもトルクを供給することが可能である。
不足出力PstgがMG最大出力Pmgよりも大きい場合(ステップS504:NO)、ECU100は、要求出力Phvに対しハイブリッド駆動装置20の出力低下が避けられないものとして、動力性能を担保すべく変速を禁止する(ステップS505)。一方で、不足出力Pstgが最大出力Pmg以下である場合(ステップS504:YES)、ECU100は、変速を実行する(ステップS503)。この際、ECU100は、ハイブリッド車両10の変速モードを固定変速モードに一時的に移行させ(即ち、クラッチを係合させ、且つ上述した回転同期制御を適宜実行することを含む(尚、1速CVTモード又は2速CVTモードによる走行過程において、反力要素の回転速度が反力要素が出力軸に連結された旨の回転速度となった場合の少なくとも一部において変速要求が生じる場合には、回転同期は既に実行されたのと同様であり、必ずしもこの時点での回転同期は必要ない)、本発明に係る「変速モードの切り替えがなされるように変速手段を制御する」旨の一例)、エンジントルクが最大トルクTEmax*となるようにエンジン200を制御し(即ち、本発明に係る「動作点が基準動作領域内に維持されるように内燃機関を制御する」旨の一例)、不足出力Pstgに対応するトルクが出力軸500に付与されるように対応するモータジェネレータを制御する(即ち、本発明に係る「要求出力を満たすための動力の出力がなされるように少なくとも一方を制御する」旨の一例)。この際、無論、固定変速モードを一時的に経由しつつ、最終的にはクラッチC1及びC2の係合状態の切り替えにより変速モードは再び無段変速モード(1速CVTモード又は2速CVTモード)に移行する。
一方、エコノミースイッチ18がオン状態である場合(ステップS201:YES)、ECU100は、先に算出された不足出力Pstg(尚、この場合の不足出力Pstgは、選択対象領域が拡大されるのに伴い最大トルクTEmax*が増加し得ることに鑑みれば、必ずしもステップS504において判別に供される不足出力Pstgと一致しない)が、出力要素となるモータジェネレータから出力可能なMG最大出力Pmgに更に不足許容出力αを加算してなる値(以下、適宜「補正MG最大出力」と称する)以下であるか否かを判別する(ステップS502)。
ここで、不足許容出力αとは、要求出力Phvに対し不足することが許容された偏差であり、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、経済性能が優先されるべき場合であることを考慮すればドライバの理解が得られる(即ち、看過し得ない動力性能の低下として顕在化しない)程度の値に設定されている。即ち、このような処理は、本発明に係る「要求出力を満たすか否かに係る判別基準を緩和する」旨の一例であり、ステップS502に係る処理では、MG最大出力Pmgが不足出力Pstgに満たない場合であっても変速が許可され得る。
尚、このように不足許容出力αが設定されることに鑑みれば、不足出力算出処理(ステップS400)におけるステップS402に係る処理において不足出力Pstgが算出される際に、この不足許容出力αが考慮されてもよい。即ち、固定段最大出力Pe*に不足許容出力αを加えた値が要求出力Phv以上であれば、変速可否判断処理(ステップS500)におけるステップS502に係る処理でMG最大出力Pmgが参照される以前に、変速を許可する旨の判別が下されてもよい。
不足出力Pstgが補正MG最大出力以下である場合(ステップS502:YES)、ECU100は、ステップS503に処理を移行して先に述べた如くに変速を実行し、不足出力Pstgが補正MG最大出力よりも大きい場合(ステップS502:NO)、ECU100は、ステップS505に処理を移行して先に述べた如くに変速を禁止する。ステップS503又はステップS505に係る処理が実行されると、変速可否判断処理は終了する。
以上説明したように、本実施形態に係る変速制御によれば、固定変速モードを経由して無段変速モードに該当する複数の変速段相互間で変速段を切り替える場合に、固定変速モードにおいてエンジン200の動作点が一義的に規定され得ることに起因してエンジン出力が不足する場合であっても、出力要素となるモータジェネレータによりその不足分を可及的に補うことができる。このため、エンジン出力の不足による動力性能の低下を回避すべく変速が禁止されるといった事態(或いは、変速を強行することによる動力性能の低下)が可及的に回避される。また、エコノミースイッチ18がオン状態にある場合には、NV性能上の制約は緩和され、またMGからの出力を加えたハイブリッド駆動装置20の出力がハイブリッド車両10の要求出力を満たすか否かについての判断基準も緩和されるため、より変速制限が緩和されることとなり、可及的に固定変速モードへの変速が許可される。即ち、固定変速段への変速が制限される事態の発生を抑制することが可能となるのである。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
10…ハイブリッド車両、20…ハイブリッド駆動装置、100…ECU、200…エンジン、201…気筒、203…ピストン、205…クランクシャフト、300…動力分割機構、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ、400…入力軸、500…出力軸、600…中間軸。
Claims (6)
- 内燃機関と、
第1電動機と、
第2電動機と、
相互に差動回転可能に構成され、前記内燃機関、前記第1電動機及び前記第2電動機が夫々連結される回転要素を含む複数の回転要素を備える動力分配手段と、
車軸に連結された出力部材と前記第1及び第2電動機並びに前記複数の回転要素のうち少なくとも一部との接続状態を切り替えることにより、変速モードを、前記内燃機関の機関回転速度と前記出力部材の回転速度たる出力回転速度との比たる変速比を一の値に固定する固定変速モード及び前記変速比を連続的に変化させる無段変速モードを含む複数の変速モードの中で選択的に切り替え可能な変速手段と
を備えてなるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記無段変速モードから前記固定変速モードへの前記変速モードの切り替えがなされた際に前記ハイブリッド車両の要求出力を満たすための前記内燃機関の動作点たる要求動作点が所定の基準動作領域を逸脱するか否かを、前記変速モードの切り替えがなされる以前に判別する第1判別手段と、
前記要求動作点が前記基準領域を逸脱する旨が判別された場合に、前記動作点が前記基準動作領域内に維持された状態で前記第1及び前記第2電動機のうち少なくとも一方における前記要求出力を満たすための動力の出力が可能であるか否かを判別する第2判別手段と、
前記動力の出力が可能である旨が判別された場合に前記変速モードの切り替えがなされるように前記変速手段を制御する第1制御手段と、
前記変速モードの切り替えがなされるに際して前記動作点が前記基準動作領域内に維持されるように前記内燃機関を制御する第2制御手段と、
前記動作点が前記基準動作領域内に維持されるのに伴い前記要求出力を満たすための動力の出力がなされるように前記少なくとも一方を制御する第3制御手段と
を具備することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。 - 前記変速手段は、前記無段変速モードに相当する変速段として、前記第1電動機を前記内燃機関の出力に対する反力を負担する反力要素とし且つ前記第2電動機を前記出力部材に対し動力の出力を行う出力要素とする第1変速段及び前記第2電動機を前記反力要素とし且つ前記第1電動機を前記出力要素とする第2変速段を含む複数の変速段を実現可能であると共に、前記変速段を切り替える際に前記固定変速モードを経由する構成を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。 - 前記基準動作領域は、前記内燃機関の最大トルク、前記内燃機関の最低回転速度及び前記ハイブリッド車両における騒音又は振動の度合いのうち少なくとも一部に基づいて規定される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。 - 経済性能を優先すべき旨を表す所定の入力の有無を判別する第3判別手段を具備し、
前記第1判別手段及び前記2判別手段のうち少なくとも一方は、前記入力が有る旨が判別された場合に、前記基準動作領域を拡大する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。 - 前記基準動作領域は、少なくとも前記ハイブリッド車両における騒音又は振動の度合いが許容範囲内となるように規定されており、
前記第2判別手段は、前記入力が有る旨が判別された場合は、前記許容範囲を拡大することにより前記基準動作領域を拡大する
ことを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の制御装置。 - 経済性能を優先すべき旨の所定の入力の有無を判別する第3判別手段を具備し、
前記第1判別手段及び前記第2判別手段のうち少なくとも一方は、前記入力が有る旨が判別された場合に、前記要求出力を満たすか否かに係る判別基準を緩和する
を具備することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
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