次に、図面を参照して、本発明の第1及び第2の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
以下に示す第1及び第2の実施の形態に例示した発明に到達するまでに、本発明者は、複数の金属線(裸線)を並列配置した分割型アノード電極と、1枚の誘電体埋込陰極からなるプラズマ処理リアクタを検討した。このプラズマ処理リアクタの放電空間の電界は、約2kV/mmであり、平行平板構造の約5kV/mmよりも低減できる。金属線を並列配置した分割型アノード電極を用いれば、大気圧において、窒素中の放電が容易であり、プラズマ放電ギャップも広いことが確認できた。又、分割型アノード電極にすることにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、陽極と陰極との間にパルス幅の短いパルスが印加できることになったので、対象物に低ダメージの処理ができることが確認できた。
しかしながら、このように検討した分割型アノード電極は、裸線状態の複数の金属線を並列配置した構造であるため、アーク放電すると分割型アノード電極に用いる金属線が劣化する問題が判明した。又、ストリーマ放電を長時間続けた場合にも分割型アノード電極に用いる金属線が劣化する問題が判明した。特に、酸素混合雰囲気では、分割型アノード電極に用いる金属線の金属劣化が著しく進むことが判明した。
このため、以下に示す第1及び第2の実施の形態に例示したような、複数の板状(ブレード状)の誘電体中にアノードメタルを埋め込んだアノード埋込ブレードを並列配置した分割型アノード電極を実現したものである。
なお、以下に示す第1及び第2の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置のプラズマ処理リアクタは、箱形のケース22とケース22の下方に位置する底板23とで、バッチ式の反応容器(チャンバ)を構成している。ケース22の上部には、処理ガスを導入する給気配管27が接続されている。一方、ケース22の下方の底板23の近傍にはスリット状の開口部(隙間)を備え、上面の給気配管27から処理ガスが給気され、下面の隙間から処理ガスが排気することができるようになっており、プラズマ処理リアクタの処理圧力は大気圧である。
反応容器(チャンバ)を構成している底板23の上には、カソード(24,25)が設けられている。このカソード(24,25)は、カソードメタル24と、カソードメタル24に接してカソードメタル24の上に設けられたカソード誘電体25からなる。カソード誘電体25の上には、処理対象物(サンプル)30が搭載される。プラズマ処理リアクタは、前面に設けられたドアが開かれた状態においては、内部への処理対象物(サンプル)30の収容及び内部からの処理対象物(サンプル)30の取り出しが可能な状態となり、ドアが閉じられた状態においては、内部は、底板23の近傍のスリット状の開口部を除き、ほぼ密閉された状態となる。
図1に示すように、プラズマ処理リアクタの内部の上部には、処理ガスの整流板21が水平に設置されている。整流板21には、複数の細管からなる貫通孔がマトリクス状に配置されている。プラズマ処理リアクタでは、処理ガスのタンク(図示省略)から給気配管27を介してケース22の上部に供給された処理ガスが、整流板21を経由してプラズマ処理リアクタの内部へ均一なフローとしてシャワー状に給気される。シャワー状に給気された処理ガスは、プラズマ処理リアクタの内部と外部の圧力差によってプラズマ処理リアクタの内部からスリット状の開口部(隙間)を経由して、プラズマ処理リアクタの外部へ排気される。処理ガスは、プラズマ処理リアクタの処理の内容に応じて、適宜選択可能である。表1に示したように、窒素(N2)分子の解離エネルギが他のガス分子に比して大きく、窒素(N2)プラズマは、これまで安定なプラズマ生成が難しかったが、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置においては、処理ガスとして高純度窒素ガスを使用することが可能である。但し、「処理ガス」は必ずしも窒素ガスに限定されるものではない。例えば、処理対象物(サンプル)30の殺菌、滅菌等の目的のためには、塩素(Cl2)若しくは塩素を含む化合物のガス、より一般的にはこのような塩化物に限られず、フッ化物、臭化物、沃化物等の他のハロゲン系の化合物ガス等の種々の活性なガス若しくは、これらの活性なガスのいずれかと窒素ガスや希ガス等の混合ガス等他のガスでも構わない。この他のガスには、その表面処理の目的に応じて、酸素(O2)若しくは酸素を含む化合物のガス等でも良い。処理ガスの純度や露点等は、表面処理の目的に応じて適宜選択すれば良い。
プラズマ処理リアクタの内部において、整流板21の下方には、複数の板状(ブレード状)のアノード埋込ブレードの並列配置からなる分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)が配置されている。図1では、第1のアノード埋込ブレード(9l-1,;11l-1)、 第2のアノード埋込ブレード(9l-2,;11l-2)及び第3のアノード埋込ブレード(9l-3,;11l-3)の3枚の板状のアノード埋込ブレードが並列に等間隔で配置された構造が示されているが、例示であり、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置のアノード埋込ブレードの枚数が3枚に限定される理由はなく、4枚以上等、適宜増やすことが可能である。
図2及び図3に詳細に示すように、第1のアノード埋込ブレード(9l-1,;11l-1)は板状の第1のアノード誘電体11l-1と、第1のアノード誘電体11l-1の内部に埋め込まれた板状(薄膜状)の第1のアノードメタル9l-1から構成されている。第2のアノード埋込ブレード(9l-2,;11l-2)は板状の第2のアノード誘電体11l-2と、第2のアノード誘電体11l-2の内部に埋め込まれた板状(薄膜状)の第2のアノードメタル9l-2から構成されている。第3のアノード埋込ブレード(9l-3,;11l-3)は板状の第3のアノード誘電体11l-3と、第3のアノード誘電体11l-3の内部に埋め込まれた板状(薄膜状)の第3のアノードメタル9l-3から構成されている。図1、図2及び図3(a)から分かるように、第1のアノード誘電体11l-と、第2のアノード誘電体11l-2及び第3のアノード誘電体11l-3の断面形状は、それぞれカソードに対向する側の端部が両刃のくさび型をなしている。そして、第1のアノードメタル9l-1、第2のアノードメタル9l-2、及び第3のアノードメタル9l-3は、それぞれ、第1のアノード誘電体11l-1、第2のアノード誘電体11l-2及び第3のアノード誘電体11l-3の厚さ方向における中央部に埋め込まれている。更に、第1のアノードメタル9l-1、第2のアノードメタル9l-2、及び第3のアノードメタル9l-3は、それぞれ、第1のアノード誘電体11l-1、第2のアノード誘電体11l-2及び第3のアノード誘電体11l-3のカソードに近い端面の側に偏在(局在)して埋め込まれている。
プラズマ処理リアクタの内部のカソード(24,25)と分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)に電気パルスを印加してカソード(24,25)と分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)の間のプラズマ放電ギャップにプラズマを発生させるために、プラズマ処理リアクタの外部にはパルス電源26が配置されている。パルス電源26と分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)とは陽極配線31Aで接続され、パルス電源26とカソード(24,25)とは陰極配線31Kで接続されている。
カソード(24,25)と分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)の間に発生したプラズマに処理対象物(サンプル)30を曝すことにより、処理対象物(サンプル)30の表面が処理される。
アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の材質には、プラズマ耐久性に優れた種々の耐熱金属(高融点金属)や耐熱合金が使用可能である。耐熱金属(高融点金属)としては、タングステン(W),モリブデン(Mo),チタン(Ti),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),白金(Pt),パラジウム(Pd),ハフニウム(Hf),タンタル(Ta),ルテニウム(Ru)等が代表的である。耐熱合金としてはニッケル・クロム(Ni−Cr)合金が代表的であるが、Ni−Crをベースとして、更に所定量の鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、シリコン(Si)等の少なくともいずれかが含まれる耐熱合金でも良い。更に、W,Mo,Mn,Ti,Cr,Zr,Fe,Pt,Pd,銀(Ag),銅(Cu)等から選ばれる2種類以上の金属からなる周知の耐熱合金等が使用可能である。
アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の厚さは、例えば約5〜800μm程度、更には約6〜200μm程度の範囲において、なるべく薄い値に選ぶのが好ましい。アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の厚さが薄い方が電界が集中するので、放電が容易になり、且つ放電の安定性や一一様性が得られるからである。アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の厚さの下限は、現実には、アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の製造技術に依存する。このため、工業的な見地からは、アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の厚さは、8〜50μm程度、更には8〜20μmの範囲の厚さがより好ましい。
アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の長さ、即ち図1の紙面に垂直方向に測った長さは、例えば200mm〜500mm程度に設定できるが、これは、基本的にはプラズマ処理するサンプルの大きさにより決めれば良い。したがって、アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の長さを500mm以上にしても構わない。アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の長さが長くなった場合は、アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の厚さをそれに比例して薄くすれば、アノード・カソード間の容量の増大が防げる。アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の高さ、即ち図1に示した断面図において、上下方向に測った長さは、例えば10mm〜50mm程度に設定できるが、これは、特に制限はない。但しあまり高さを大きくするのは、プラズマ処理リアクタの大きさが大きくなるので好ましくない。図1〜図3に示すような、第1のアノードメタル9l-1、第2のアノードメタル9l-2、及び第3のアノードメタル9l-3が、それぞれ、第1のアノード誘電体11l-1、第2のアノード誘電体11l-2及び第3のアノード誘電体11l-3のカソードに近い側に偏在して埋め込まれている構造であれば、アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の高さを10mm〜35mm程度に設定するのがより現実的であろう。
板状(ブレード状)のアノード誘電体11l-1,11l-2,11l-3の材質には、有機系の種々な合成樹脂、セラミック、ガラス等の無機系の材料が使用可能である。有機系の樹脂材料としては、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等が、使用可能である。無機系の基板材料として一般的なものはセラミック又はガラスが用いられる。セラミック基板の素材としてはアルミナ(Al2O3)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、ベリリア(BeO)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)、コーディエライト(Mg2Al3(AlSi5O18))、マグネシア(MgO)、スピネル(MgAl2O4)、シリカ(SiO2)等が使用可能である。典型的には、板状のアノード誘電体11l-1,11l-2,11l-3の厚さはアノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の厚さにも依存するが、例えば約0.5〜2mm程度、好ましくは約0.8〜1.5mm程度の範囲においてアノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の厚さよりも厚い値に選べば良い。具体的には、アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の厚さが9〜150μm程度であれば、アノード誘電体11l-1,11l-2,11l-3の厚さは、0.9〜1.2mm程度の値に選ぶことが可能である。
板状のアノード誘電体11l-1,11l-2,11l-3の長さ、即ち図1の紙面に垂直方向に測った長さは、アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3が埋め込める長さであれば良く、アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の長さが、例えば200mm〜500mm程度であれば、アノード誘電体11l-1,11l-2,11l-3の長さは、例えば220mm〜520mm程度に設定できる。同様に、アノード誘電体11l-1,11l-2,11l-3の高さ、即ち図1に示した断面図において、上下方向に測った長さは、アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3が埋め込める高さであれば良い。図1〜図3に示すような、第1のアノードメタル9l-1、第2のアノードメタル9l-2、及び第3のアノードメタル9l-3が、それぞれ、第1のアノード誘電体11l-1、第2のアノード誘電体11l-2及び第3のアノード誘電体11l-3のカソードに近い側に偏在して埋め込まれている構造で、アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の高さが10mm〜35mm程度であれば、アノード誘電体11l-1,11l-2,11l-3の高さは、例えば、25mm〜75mm程度に設定すれば良い。
プラズマ放電空間の大きさは、処理対象物(サンプル)30に応じて適宜設計すれば良い事項である。アノードメタル9l-1,9l-2,9l-3の長さ、即ち図1の紙面に垂直方向に測った長さにより、図1に示したプラズマ処理リアクタの放電空間の奥行きが決まる。図1では、第1のアノード埋込ブレード(9l-1,;11l-1)、 第2のアノード埋込ブレード(9l-2,;11l-2)及び第3のアノード埋込ブレード(9l-3,;11l-3)の3枚の板状のアノード埋込ブレードが並列に等間隔で配置された構造が示されているが、板状のアノード埋込ブレードの配列のピッチ、及び配列の枚数により、図1の紙面の左右方向に測ったプラズマ処理リアクタの放電空間の幅が決まる。典型的な例では、アノード埋込ブレードの配列のピッチは5mm〜50mm程度、好ましくは、10mm〜40mm程度に選べば良い。プラズマ放電ギャップの大きさも処理対象物(サンプル)30の大きさやプラズマ処理の内容に応じて設計すれば良いが、例えば、前後方向に300mm、左右方向に300mmの拡がりを有するプラズマ放電空間であれば、3mm〜40mm程度のプラズマ放電ギャップが設定可能である。
図4及び図5は、第1のアノード埋込ブレード(9l-1,;11l-1)、第2のアノード埋込ブレード(9l-2,;11l-2)及び第3のアノード埋込ブレード(9l-3,;11l-3)の3枚の板状のアノード埋込ブレードからなる分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)に陽極配線31Aを接続する構造の具体例を示す。図4に示すように、第1のアノード埋込ブレード(9l-1,;11l-1)のアノード誘電体11l-1の上部中央部には、アノードメタル9l-1への電気的接続を可能にするように、アノード誘電体11l-1に矩形のコンタクトホール51が開口され、アノードメタル9l-1の一部が露出している。このコンタクトホール51に銅(Cu)からなるコネクタ52l-1がロウ付けされる。コネクタ52l-1の表面は金(Au)鍍金しておくのが好ましい。そして、このコネクタ52l-1に先端を露出した絶縁被覆電線からなる陽極配線31Aが半田付けされる。このコネクタ52l-1と絶縁被覆電線からなる陽極配線31Aとの半田付けの箇所は、絶縁カバー53l-1により、被覆される。
図示を省略しているが、第2のアノード埋込ブレード(9l-2,;11l-2)のアノード誘電体11l-2の上部中央部には、同様に、アノードメタル9l-2への電気的接続を可能にするように、アノード誘電体11l-2に矩形のコンタクトホールが開口され、アノードメタル9l-2の一部が露出している。このコンタクトホールに第1のアノード埋込ブレード(9l-1,;11l-1)と同様に、コネクタ(図示省略)がロウ付けされる。そして、このコネクタに先端を露出した絶縁被覆電線からなる陽極配線31Aが半田付けされる。このコネクタと絶縁被覆電線からなる陽極配線31Aとの半田付けの箇所は、図5に示すように、絶縁カバー53l-2により、被覆される。更に、第3のアノード埋込ブレード(9l-2,;11l-2)のアノード誘電体11l-2の上部中央部には、アノードメタル9l-2への電気的接続を可能にするように、アノード誘電体11l-2に矩形のコンタクトホール(図示省略)が開口され、アノードメタル9l-2の一部が露出している。このコンタクトホールに第1のアノード埋込ブレード(9l-1,;11l-1)と同様に、コネクタ(図示省略)がロウ付けされる。そして、このコネクタに先端を露出した絶縁被覆電線からなる陽極配線31Aが半田付けされる。このコネクタと絶縁被覆電線からなる陽極配線31Aとの半田付けの箇所は、絶縁カバー53l-2により、図5に示すように、被覆される。陽極配線31Aを剛性のある分岐配線で構成すれば、この陽極配線31Aを介して、第1のアノード埋込ブレード(9l-1,;11l-1)、第2のアノード埋込ブレード(9l-2,;11l-2)及び第3のアノード埋込ブレード(9l-3,;11l-3)の3枚の板状のアノード埋込ブレードが並列に等間隔で固定され、図5に示すように分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)が組み立てられる。
図6は、図1に示す第1のアノードメタル9l-1、第2のアノードメタル9l-2、及び第3のアノードメタル9l-3のいずれかを等価的な陽極81で表し、カソードメタル24を等価的な陰極82で表した場合において、等価陽極81及び等価陰極82間への電気パルスの印加によって引き起こされる放電の状態と電気パルスの電圧概略波形(無負荷時)とを模式的に示す図である。
図6において、電気パルスの電圧概略波形は、電圧V(縦軸)の時間t(横軸)に対する変化を示すグラフによって表されている。図6に示すように、電気パルスのパルス幅Δtが概ね100nsに達すると、正イオンが等価陰極82に衝突する際に放出された2次電子が処理ガス分子を電離させて新たな正イオンを発生させるグロー放電が引き起こされる。一方、電気パルスの立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtが概ね30〜50kV/μsである場合、パルス幅Δtが概ね100nsに達すると、等価陽極81から等価陰極82へ向かうストリーマ83の成長が始まる。そして、パルス幅Δtが概ね100〜400nsである場合、ストリーマ83の成長は、等価陽極81と等価陰極82との間に短いストリーマ83が散点する初期段階で終了する。一方、パルス幅Δtが概ね500〜1000nsである場合、ストリーマ83が本格的に成長し、等価陽極81と等価陰極82との間に枝分かれした長いストリーマ83が存在する状態となる。本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置では、ストリーマ83の成長が進んで等価陽極81と等価陰極82とが導通してしまわないように、ストリーマ83の成長の初期段階で放電を停止するファインストリーマ放電を用いる。
放電の均一性に優れるファインストリーマ放電を用いれば、表面処理を均一に実施することができるからである。更に、パルス幅Δtが概ね1000nsに達すると、局部的な電流集中がおき、最終的にアーク放電が引き起こされる。
上述の説明で、パルス幅Δtや立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtの範囲について「概ね」としているのは、これらは、等価陽極81及び等価陰極82間の間隔、等価陽極81及び等価陰極82の構造ならびに窒素雰囲気の圧力等のプラズマ処理装置の具体的構成に依存して変化するためである。したがって、ファインストリーマ放電となっているか否かは、パルス幅Δtや立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtだけでなく、実際の放電を観察して判断すべきである。
又、電気パルスの電圧概略波形について「無負荷時」としているのは、同じ条件でパルス電源を動作させても、等価陽極81及び等価陰極82間の間隔ならびに等価陽極81及び等価陰極82の構造等のプラズマ処理装置の具体的構成が変化すれば、等価陽極81及び等価陰極82間に実際に印加される電気パルスの電圧概略波形が異なってくるからである。
パルス電源26は、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす電気パルスを、カソードメタル24とアノードメタル9l-1,9l-2,9l-3との間に繰り返し印加する。具体的には、パルス電源26は、パルス幅が半値幅で50〜300nsの電気パルスをカソードメタル24とアノードメタル9l-1,9l-2,9l-3との間に繰り返し印加する。パルス電源26がカソードメタル24とアノードメタル9l-1,9l-2,9l-3との間に印加する電気パルスの電圧波形及び電流波形の一例を図7に示す。図7には、電気パルスの電圧V2及び電流I2(縦軸)の時間(横軸)に対する変化が示されており、パルス幅は、半値幅で約100nsとなっている。
パルス電源26には、静電誘導型サイリスタ(以下、「SIサイリスタ」と言う。)を用いた誘導エネルギ蓄積型電源回路(以下、「IES回路」と言う。)を、採用することが望ましい。IES回路は、SIサイリスタのクロージングスイッチ機能の他、オープニングスイッチング機能を用いてターンオフを行い、当該ターンオフによりSIサイリスタのゲート・アノード間に高圧を発生させている。なお、IES回路の詳細は、飯田克二、佐久間健:「誘導エネルギ蓄積型パルス電源」,第15回SIデバイスシンポジウム(2002)に記載されている。
まず、図8を参照して、IES回路(パルス電源)13の構成について説明する。IES回路13は、低電圧直流電源131を備える。低電圧直流電源131の電圧Eは、IES回路13が発生させる電気パルスの電圧のピーク値より著しく低いことが許容される。例えば、後述するインダクタ133の両端に発生させる電圧VLのピーク値VLPが数kVに達しても、低電圧直流電源131の電圧Eは数10Vであることが許容される。電圧Eの下限は後述するSIサイリスタ134のラッチング電圧以上で決定される。IES回路13は、低電圧直流電源131を電気エネルギ源として利用可能であるので、小型・低コストに構築可能である。IES回路13は、低電圧直流電源131に並列接続されるコンデンサ132を備える。コンデンサ132は、低電圧直流電源131のインピーダンスを見かけ上低下させることにより低電圧直流電源131の放電能力を強化する。
更に、IES回路13は、インダクタ133、SIサイリスタ134、MOSFET135、ゲート駆動回路136及びダイオード137を備える。IES回路13では、低電圧直流電源131の正極とインダクタ133の一端とが接続され、インダクタ133の他端とSIサイリスタ134のアノードとが接続され、SIサイリスタ134のカソードとFET135のドレインとが接続され、FET135のソースと低電圧直流電源131の負極とが接続されている。又、IES回路13では、SIサイリスタ134のゲートとダイオード137のアノードとが接続され、ダイオード137のカソードとインダクタ133の一端(低電圧直流電源131の正極)とが接続される。FET135のゲート及びソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
SIサイリスタ134は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。FET135は、ゲート駆動回路136から与えられるゲート信号Vcに応答してドレイン・ソース間の導通状態が変化するスイッチング素子である。FET135のオン電圧又はオン抵抗は低いことが望ましい。又、FET135の耐圧は低電圧直流電源131の電圧Eより高いことを要する。ダイオード137は、SIサイリスタ134のゲートに正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、即ち、SIサイリスタ134のゲートに正バイアスを与えた場合にSIサイリスタ134が電流駆動とならないようにするために設けられる。インダクタ133は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、負荷139が並列接続される。負荷139は、図1のカソードメタル24とアノードメタル9l-1,9l-2,9l-3との間が対応する。なお、昇圧トランスの1次側をインダクタ133として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に負荷139を接続すれば、電圧のピーク値がより高い電気パルスを得ることができる。
続いて、図9を参照して、IES回路13の動作について説明する。図9は、上から順に、(a)FET135に与えられるゲート信号Vcの時間(横軸)に対する変化、(b)SIサイリスタ134の導通状態の時間(横軸)に対する変化、(c)インダクタ133に流れる電流ILの時間(横軸)に対する変化、(d)インダクタ133の両端に発生する電圧VLの時間(横軸)に対する変化、(e)SIサイリスタ134のアノード・ゲート間の電圧VAG(縦軸)の時間(横軸)に対する変化を示している。
(イ)まず、図9(a)に示すように、時刻t0にゲート信号VcがOFFからONに切り替わると、FET135のドレイン・ソース間は導通状態となる。これにより、SIサイリスタ134のゲートがアノードに対して正バイアスされるので、図9(b)に示すように、SIサイリスタ134のアノード・カソード(A−K)間は導通状態となり、図9(c)に示すように、電流ILが増加し始める。
(ロ)電流ILがピーク値ILPに達するあたりの時刻t1に、図9(a)に示すように、ゲート信号VcがONからOFFに切り替わると、FET135のドレイン・ソース間が非導通状態となり、図9(b)に示すように、SIサイリスタ134のアノード・ゲート(A−G)間が導通状態となる。これにより、図9(b)に示すように、時刻t2から時刻t3にかけて、SIサイリスタ134における空乏層の拡大に同期して、図9(c)に示すように、電流ILが減少するとともに、図9(d)に示す電圧VL及び図9(e)に示す電圧VAGが急激に上昇する。
(ハ)そして、時刻t3において図9(d)に示す電圧VL及び図9(e)に示す電圧VAGがそれぞれピーク値VLp及びピーク値VAGpに達して、図9(c)に示すように、電流ILの向きが反転する。その後は、図9(b)に示すような時刻t3から時刻t4にかけて、SIサイリスタ134における空乏層の縮小に同期して、図9(c)に示すように、電流ILが増加するとともに、図9(d)に示す電圧VL及び図9(e)に示す電圧VAGが急激に低下する。
(ニ)そして、時刻t4において、図9(b)に示すように、SIサイリスタ134が非導通状態となると、図9(c)に示すように、時刻t5に向かって電流ILが減少するとともに、図9(d)に示す電圧VL及び図9(e)に示す電圧VAGは0になる。
プラズマ放電ギャップを5mmとして、処理ガスとして窒素(N2)ガスを導入し、処理対象物(サンプル)30としてポリスチレンシートの表面改質を行った結果を図10に示す。この表面改質は、ポリスチレンシートの表面の親水性を向上させるための表面処理であるが、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理により、水の接触角が60度から20度になった。図10(a)はプラズマ処理の前のポリスチレンシートの表面の原子間力顕微鏡(AFM)像であり、図10(b)はプラズマ処理後のポリスチレンシートの表面のAFM像であるが、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理により、ナノメータオーダの凹凸表面が形成できたことが分かる。
図10にAFM像を示して説明したとおり、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置によれば、処理対象物(サンプル)30の表面改質が効率的に実現できることが分かる。第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置は、図10に示したポリスチレンシートの表面改質のように、大気圧で且つ窒素中の放電が容易である特徴を有する。更に、長時間のストリーマ放電に耐えるという有利な効果を奏するものである。又、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置は、広範囲で均一な処理ができる利点を有する。更に、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置は、分割型アノード電極にすることにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、陽極と陰極との間に短いパルス幅のパルスが印加できるので、処理対象物(サンプル)30に対し低ダメージの処理ができる利点を有する。更に、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置においては、分割型アノード電極にすることにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、パルス周波数を高くできるため、処理時間が短縮できるという有利な効果を奏するものである。
図1、図2及び図3(a)においては、第1のアノード誘電体11l-1と、第2のアノード誘電体11l-2及び第3のアノード誘電体11l-3の断面形状は、それぞれカソードに対向する側の端部が両刃のくさび型をなす構造を例示したが、アノード誘電体の断面形状は端部が両刃のくさび型をなす構造に限定されるものではなく、図11に示すような種々の断面形状であっても、分割型アノード電極を構成することにより、陽極と陰極との間の容量が低減できるので、陽極と陰極との間に短いパルス幅のパルスが印加でき、大気圧で且つ窒素中の放電が安定して一様に実現でき、処理対象物(サンプル)30に対し低ダメージの処理ができる利点を有する。更に、図11に示すような種々の断面形状であっても、分割型アノード電極の構造を採用することにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、パルス周波数を高くでき、プラズマ処理の処理時間が短縮できるという有利な効果を奏するものである。又、当然ながら、アノードメタル9a〜9rが、それぞれアノード誘電体11a〜11rに埋め込まれているため、長時間のストリーマ放電に耐えるという第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタに特有な効果を奏することができる。
表2は、処理ガスとして窒素(N
2)ガスを用い、図1に示したパルス電源26の出力を60W,パルスの繰り返し周波数を1kHzとした場合について、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置のリアクタの性能を比較する表である。
表2において、実施例1は、図11(k)に示すような、カソードに対向する側の端部が片刃のくさび型をなす断面構造のアノード誘電体11kを用いた「片刃埋込ブレード」の場合である。実施例1では、アノード誘電体11kには、厚さ1mmのアルミナを誘電体板として用い、厚さ0.01mmのタングステン(W)からなるアノードメタル9kがアノード誘電体11kに埋め込まれている。片刃埋込ブレードをなすアノード誘電体11kの外形は、高さ(図11に示した断面図において、上下方向に測った長さ)が30mmで、長さ(図11の紙面に垂直方向に測った長さ)が250mmであり、アノード誘電体11kの先端のくさび型をなす片刃の角度は45°である。又、実施例2は、図11(j)に示すような、カソードに対向する側の端部が平坦な矩形をなすアノード誘電体11jを用いた「矩形埋込ブレード」の場合である。実施例2では、アノード誘電体11jには、厚さ1mmのアルミナを誘電体板として用い、厚さ0.01mmのタングステン(W)からなるアノードメタル9jがアノード誘電体11jに埋め込まれている。矩形埋込ブレードをなすアノード誘電体11jの外形は、高さ(図11に示した断面図において、上下方向に測った長さ)が30mmで、長さ(図11の紙面に垂直方向に測った長さ)が250mmである。
比較例1及び2は、冒頭で述べたような本発明の第1の実施の形態の前段階として検討した複数の金属線(裸線)を並列配置した分割型アノード電極と、1枚の誘電体埋込陰極とを対向配置したプラズマ処理リアクタに用いる陽極の構造である。具体的には、比較例1は、直径0.3mmΦ、長さ250mmのタンタル(Ta)の裸線を陽極として用いた場合である。又、比較例2は、直径0.5mmΦ、長さ250mmのニッケル・クロム(Ni−Cr)合金の裸線を陽極として用いた場合である。
比較例3は、直径0.5mmΦ、長さ250mmのニッケル・クロム(Ni−Cr)合金に外径1mmΦとなるようにアルミナを被覆し、このアルミナ被覆線を陽極として用いた場合であり、比較例4は、従来技術で説明した平行平板構造のプラズマ処理リアクタに用いる平板埋込構造の陽極である。具体的には、厚さ1mmのアルミナに、厚さ0.01mmのタングステン(W)を埋め込んだ陽極であり、その外形は、長さ80mmで幅40mmである。
表1から分かるように、放電ギャップ8mmでの放電状態での電圧波形を観測したdv/dt値は、実施例1に示した片刃埋込ブレードが最も優れていることが分かる。従来技術である比較例4の平板埋込の構造は、放電ギャップ8mmでは放電しないことが分かる。又、放電ギャップ8mmでの放電に用いるパルスのパルス幅は、実施例1に示した片刃埋込ブレード、比較例1のTa裸線及び比較例2のNi−Cr裸線が、実施例2の矩形埋込ブレード及び比較例3のアルミナ被覆線よりも短くできることが分かる。
比較例4の平板埋込の構造は、放電ギャップ8mmでは放電しないので、放電ギャップを変えたところ、実施例1に示した片刃埋込ブレード、比較例1のTa裸線は20mmで放電し、最も放電ギャップが広くでき、比較例2のNi−Cr裸線が18mmであり、実施例2の矩形埋込ブレード及び比較例3のアルミナ被覆線が12mmであったが、従来技術である比較例4の平板埋込の構造では、放電ギャップを2mmにしないと、放電しないことが分かる。
耐久時間に関しては、実施例1の片刃埋込ブレード、実施例2の矩形埋込ブレード、比較例3のアルミナ被覆線及び従来技術である比較例4の平板埋込の構造が1000時間以上であるのに対し、比較例1のTa裸線及び比較例2のNi−Cr裸線が10時間以下であり、誘電体で被覆しない場合は、放電の耐久性が悪いことが分かる。
図3(a)においては、第1のアノード誘電体11l-1の横から見た平面形状は、長方形の構造を例示したが、アノード誘電体の平面形状は長方形に限定されるものではなく、図12に示すような種々の平面形状が採用可能である。図12に示すような種々の平面形状であっても、分割型アノード電極を構成することにより、陽極と陰極との間の容量が低減できるので、陽極と陰極との間に短いパルス幅のパルスが印加でき、大気圧で且つ窒素中の放電が安定して一様に実現でき、処理対象物(サンプル)30に対し低ダメージの処理ができる利点を有する。更に、図12に示すような種々の平面形状であっても、分割型アノード電極の構造を採用することにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、パルス周波数を高くでき、プラズマ処理の処理時間が短縮できるという有利な効果を奏するものである。又、当然ながら、アノードメタル(図12では図示を省略)が、それぞれアノード誘電体11aa〜11aeに埋め込まれているため、長時間のストリーマ放電に耐えるという第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタに特有な効果を奏することができる。
図1〜図5、図11及び図12においては、平坦な板状(ブレード状)のアノード埋込ブレードを説明したが、これらの平坦な板状(ブレード状)の構造は例示であり、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置のアノード埋込ブレードの構造は、平坦な板状の構造に限定されるものではなく、図13に示すような波形に周期的に(或いは繰り替えして)湾曲した構造や、図14に示すような、ある角度をなして折れ曲がった構造等種々の立体的トポロジーが採用可能である。図13及び図14に示すような種々の立体的トポロジーであっても、これらの折れ曲がったり、湾曲したりしたアノード埋込ブレードの複数枚を組み合わせて、分割型アノード電極を構成することにより、陽極と陰極との間の容量が低減できるので、陽極と陰極との間に短いパルス幅のパルスが印加でき、大気圧で且つ窒素中の放電が安定して一様に実現でき、処理対象物(サンプル)30に対し低ダメージの処理ができる利点を有する。更に、図13及び図14に示すような種々の立体的トポロジーであっても、分割型アノード電極の構造を採用することにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、パルス周波数を高くでき、プラズマ処理の処理時間が短縮できるという有利な効果を奏するものである。又、当然ながら、アノードメタル(図13及び図14では図示を省略)が、それぞれアノード誘電体11s及び11tに埋め込まれているため、長時間のストリーマ放電に耐えるという第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタに特有な効果を奏することができる。
更に、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置のアノード埋込ブレードの構造は、図15に示すような、平板の帯が卵型(繭型)に連続したリング形状や、図16に示すような、平板の帯が円形に連続したリング形状や、図17に示すような、平板の帯が矩形に連続したリング形状や、図18に示すような、平板の帯が8角形等の多角形に連続したリング形状等種々の立体的トポロジーが採用可能である。図15〜図18に示すような種々の平板の帯が周回したリング形状であっても、等価的には分割型アノード電極と同様な効果を奏するので、陽極と陰極との間の容量が低減できるので、陽極と陰極との間に短いパルス幅のパルスが印加でき、大気圧で且つ窒素中の放電が安定して一様に実現でき、処理対象物(サンプル)30に対し低ダメージの処理ができる利点を有する。更に、図15〜図18に示すような種々の平板の帯が周回したリング形状であっても、分割型アノード電極の構造と容量低減の意味からは電気的に等価であるので、陽極と陰極との間の容量が低減され、パルス周波数を高くでき、プラズマ処理の処理時間が短縮できるという有利な効果を奏するものである。又、当然ながら、アノードメタル(図15〜図18では図示を省略)が、それぞれアノード誘電体11u〜11xに埋め込まれているため、長時間のストリーマ放電に耐えるという第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタに特有な効果を奏することができる。
図1、図2及び図5等においては、カソード(24,25)が、カソードメタル24と、カソードメタル24に接してカソードメタル24の上に設けられたカソード誘電体25とからなる構造として説明したが、カソード(24,25)の構造は図1、図2及び図5に示した構造に限定されるものではなく、図19〜図22に示すような種々の構造が採用可能である。なお、図19〜図22は、図1、図2及び図5とは上下関係を逆さまにしてカソードメタル24b;24c;24d-1,24d-2,24d-3,24d-4,24d-5;24e;を見やすくして表示している。即ち、第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタに用いるカソードの構造は、図19に示すような網(メッシュ)状のカソードメタル24bを採用し、これをカソード誘電体25の上に貼り付けた構造でも良く、図20に示すような薄膜状のカソードメタル24cを採用し、これをカソード誘電体25の上に貼り付けた構造でも良く、図21に示すような複数のストライプ状(帯状)のカソードメタル24d-1,24d-2,24d-3,24d-4,24d-5を採用し、これをカソード誘電体25の上に貼り付けた構造でも良く、図22に示すようにカソードメタル24eを真ん中に挟み、上下から2枚のカソード誘電体25a及びカソード誘電体25bで挟んで埋込構造としても良い。
図19〜図22に示すような種々のカソードの構造であっても、陽極側に分割型アノード電極を構成することにより、陽極と陰極との間の容量が低減できるので、陽極と陰極との間に短いパルス幅のパルスが印加でき、大気圧で且つ窒素中の放電が安定して一様に実現でき、処理対象物(サンプル)30に対し低ダメージの処理ができる利点を有する。更に、図19〜図22に示すような種々のカソードの構造であっても、図25〜図27に示すように分割型アノード電極の構造と組み合わせて用いることにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、パルス周波数を高くでき、プラズマ処理の処理時間が短縮できるという有利な効果を奏するものである。又、当然ながら、アノードメタルは、それぞれアノード誘電体に埋め込まれているため、長時間のストリーマ放電に耐えるという第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタに特有な効果を奏することができる。
図23は、図1、図2及び図5で説明した、カソードメタル24と、カソードメタル24に接してカソードメタル24の上に設けられたカソード誘電体25からなるカソード(24,25)に対して、3枚の矩形埋込ブレードを用いて構成した分割型アノード電極とを組み合わせた場合を模式的に示す図である。3枚の矩形埋込ブレードのそれぞれは、図11(a)に示すカソードに対向する側の端部が平坦な矩形をなす3枚のアノード誘電体11a-1,11a-2,11a-3をそれぞれ用いている。図24は、図23の模式図をより具体化して実装構造を説明するものであり、図1、図2及び図5で説明した、カソードメタル24と、カソードメタル24に接してカソードメタル24の上に設けられたカソード誘電体25からなるカソード(24,25)上に、矩形ブロック状の第1の絶縁ジグ61と第2の絶縁ジグ62とを互いに対向させて配置して、第1の絶縁ジグ61と第2の絶縁ジグ62を用いて、3枚のアノード誘電体11a-1,11a-2,11a-3を固定している。第1の絶縁ジグ61及び第2の絶縁ジグ62は、アルミナ(Al2O3)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、ベリリア(BeO)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)等のセラミックが使用可能であるが、第1の絶縁ジグ61及び第2の絶縁ジグ62の上部には、3枚のアノード誘電体11a-1,11a-2,11a-3をはめ込む溝が設けられ、この溝に3枚のアノード誘電体11a-1,11a-2,11a-3を挿入して固定している。
図24に示すように、第1のアノード埋込ブレードのアノード誘電体11a-1の上部の両端部には、アノードメタル(図示省略)への電気的接続を可能にするように、アノード誘電体11a-1に矩形のコンタクトホール71a-1が開口され、アノードメタル(図示省略)の一部が露出している。このコンタクトホール71a-1に、図4と同様な銅(Cu)からなるコネクタ(図示省略)がロウ付けされる。そして、このコネクタ(図示省略)に先端を露出した絶縁被覆電線からなる陽極配線31Aが半田付けされる。同様に、第2のアノード埋込ブレードのアノード誘電体11a-2の上部の両端部には、アノード誘電体11a-2に矩形のコンタクトホール71a-2が開口され、アノードメタル(図示省略)の一部が露出している。このコンタクトホール71a-2に、コネクタ(図示省略)がロウ付けされる。そして、このコネクタ(図示省略)に陽極配線31Aが半田付けされる。更に、同様に、第3のアノード埋込ブレードのアノード誘電体11a-3の上部の両端部には、アノード誘電体11a-3にコンタクトホール71a-3が開口され、アノードメタル(図示省略)の一部が露出している。このコンタクトホール71a-3に、コネクタ(図示省略)がロウ付けされる。そして、このコネクタ(図示省略)に陽極配線31Aが半田付けされる。それぞれのコネクタ(図示省略)と絶縁被覆電線からなる陽極配線31Aとの半田付けの箇所は、例えば、絶縁体からなるカバー部材(図示省略)により、被覆される。
図25は、図1等で説明したカソード(24,25)に対して、図23及び図24の場合とは断面形状の異なる3枚の矩形埋込ブレードを用いて構成した分割型アノード電極とを組み合わせた場合を示す模式図である。3枚の矩形埋込ブレードのそれぞれは、図11(b)に示すカソードに対向する側の端部が平坦な矩形をなす3枚のアノード誘電体11b-1,11b-2,11b-3をそれぞれ用いている。図24と同様に、カソード(24,25)上に、矩形ブロック状の第1及び第2の絶縁ジグとを互いに対向させて配置して、2つの絶縁ジグを用いて、3枚のアノード誘電体11b-1,11b-2,11b-3を固定すれば良い。
図26は、図1等で説明したカソード(24,25)に対して、図23〜図25の場合とは断面形状の異なる3枚の矩形埋込ブレードを用いて構成した分割型アノード電極とを組み合わせた場合を示す模式図である。3枚の矩形埋込ブレードのそれぞれは、図11(d)に示すカソードに対向する側の端部が両刃のくさび形をなす3枚のアノード誘電体11d-1,11d-2,11d-3をそれぞれ用いている。図24と同様に、カソード(24,25)上に、矩形ブロック状の第1及び第2の絶縁ジグとを互いに対向させて配置して、2つの絶縁ジグを用いて、3枚のアノード誘電体11d-1,11d-2,11d-3を固定すれば良い。
図27は、図1等で説明した、カソード(24,25)に対して、図23〜図26の場合とは断面形状の異なる3枚の矩形埋込ブレードを用いて構成した分割型アノード電極とを組み合わせた場合を示す模式図である。3枚の矩形埋込ブレードのそれぞれは、図11(e)に示すカソードに対向する側の端部が丸い3枚のアノード誘電体11e-1,11e-2,11e-3をそれぞれ用いている。図24と同様に、カソード(24,25)上に、矩形ブロック状の第1及び第2の絶縁ジグとを互いに対向させて配置して、2つの絶縁ジグを用いて、3枚のアノード誘電体11e-1,11e-2,11e-3を固定すれば良い。
図25〜図27に示すように種々の分割型アノード電極の構造とカソード(24,25)と組み合わせて用いることにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、パルス周波数を高くでき、プラズマ処理の処理時間が短縮できるという有利な効果を奏することができる。又、当然ながら、アノードメタルは、それぞれアノード誘電体に埋め込まれているため、長時間のストリーマ放電に耐えるという第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタに特有な効果を奏することができる。
図1等においては、カソード(24,25)が、カソードメタル24と、カソードメタル24に接してカソードメタル24の上に設けられたカソード誘電体25からなる一体構造として説明したが、図28に示すように、陰極側の構造も陽極側と同様に3つに分割して分割型カソード電極(25s-1,25s-2,25s-3)を構成しても良く、図29及び図30に示すように、陰極側の構造を4つに分割して分割型カソード電極(25s-1,25s-2,25s-3,25s-4)を構成しても良い。図28では、3枚のカソード埋込ブレードが並列に等間隔で配置された構造が示され、図29及び図30では、4枚のカソード埋込ブレードが並列に等間隔で配置された構造が示されているが、例示であり、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置のカソード埋込ブレードの枚数は、5枚以上等、適宜増やすことが可能である。
詳細な構造の図示は省略するが、第1のカソード埋込ブレードは板状の第1のカソード誘電体25s-1と、第1のカソード誘電体25s-1の内部に埋め込まれた板状(薄膜状)の第1のカソードメタルから構成されている。第2のカソード埋込ブレードは板状の第2のカソード誘電体25s-2と、第2のカソード誘電体25s-2の内部に埋め込まれた板状(薄膜状)の第2のカソードメタルから構成されている。第3のカソード埋込ブレードは板状の第3のカソード誘電体25s-3と、第3のカソード誘電体25s-3の内部に埋め込まれた板状(薄膜状)の第3のカソードメタルから構成されている。図28〜図30から分かるように、第1のカソード誘電体25s-1、第2のカソード誘電体25s-2、第3のカソード誘電体25s-3(更には第3のカソード誘電体25s-4)の断面形状は、それぞれアノードに対向する側の端部が両刃のくさび型をなしている。そして、第1のカソードメタル、第2のカソードメタル、及び第3のカソードメタルは、それぞれ、第1のカソード誘電体25s-1、第2のカソード誘電体25s-2及び第3のカソード誘電体25s-3の厚さ方向における中央部に埋め込まれている。
図28〜図30から分かるように、分割型アノード電極(11d-1,11d-2,11d-3,)と分割型カソード電極(25s-1,25s-2,25s-3,25s-4)との組み合わせは種々のトポロジーが採用可能であり、例えば、図28に示すように、3枚のカソード埋込ブレードの長手の方向と、3枚のアノード埋込ブレードの長手の方向とを共に平行にしても良く、図29に示すように、4枚のカソード埋込ブレードの長手の方向と、3枚のアノード埋込ブレードの長手の方向とを共に平行にしても良く、図30に示すように、4枚のカソード埋込ブレードの長手の方向と、3枚のアノード埋込ブレードの長手の方向とが互いに直交するようにしても良い。図28では、3枚のカソード埋込ブレードの先端部と3枚のアノード埋込ブレードの先端部とが互いに最短距離で対向しているトポロジーであるが、図29では、4枚のカソード埋込ブレードの配列の中央部に、3枚のアノード埋込ブレードの先端部が配列配列されるように先端部の位置が1/2周期ずれて交互に配列されている。
図28〜図30に示すように、分割型アノード電極(11d-1,11d-2,11d-3,)と分割型カソード電極(25s-1,25s-2,25s-3,25s-4)とを組み合わせることにより、図1等において示した平板状の1枚のカソード(24,25)と分割型アノード電極との組み合わせに比して更に、陽極と陰極との間の容量が低減できるので、陽極と陰極との間に更に短いパルス幅のパルスが印加でき、大気圧で且つ窒素中の放電が更に安定して一様に実現でき、処理対象物(サンプル)30に対し更に低ダメージの処理ができる利点を有する。
更に、図28〜図30に示すように、分割型アノード電極(11d-1,11d-2,11d-3,)と分割型カソード電極(25s-1,25s-2,25s-3,25s-4)とを組み合わせることにより、図1等において示した平板状の1枚のカソード(24,25)と分割型アノード電極とを組み合わせる場合に比して、陽極と陰極との間の容量が更に低減されるので、更にパルス周波数を高くでき、プラズマ処理の処理時間が更に短縮できるという有利な効果を奏するものである。又、当然ながら、アノードメタルは、それぞれアノード誘電体に埋め込まれており、カソードメタルは、それぞれカソード誘電体に埋め込まれているため、長時間のストリーマ放電に耐えるという第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタに特有な効果も奏することができる。
(第2の実施の形態)
図31は、本発明の第2の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタの内部構造を示す模式的な断面図である。図31に示すように、プラズマ処理リアクタは、図1と同様なバッチ式の反応容器となっており、上面の給気配管27から処理ガスを給気し、下面の排気配管28から処理ガスを排気することができるようになっている。プラズマ処理リアクタは、前面に設けられたドアが開かれた状態においては、内部への処理対象物(サンプル)30の収容及び内部からの処理対象物(サンプル)30の取り出しが可能な状態となり、ドアが閉じられた状態においては、内部が密閉された減圧状態を維持できるようになっている。
図31に示すように、プラズマ処理リアクタの内部には、整流板21が水平に設置されている。整流板21には、複数の細管からなる貫通孔がマトリクス状に配置されている。それぞれのアノードメタル9l-1,9l-2,9l-3には、パルス電源26が接続される。プラズマ処理リアクタでは、処理ガスのタンク(図示省略)から整流板21を経由してプラズマ処理リアクタの内部へ処理ガスが均一なフローとしてシャワー状に給気され、排気配管28に接続された排気ポンプ29によって、プラズマ処理リアクタの内部から排気配管28を経由して処理ガスが排気される。プラズマ処理リアクタの内部の圧力は圧力ゲージ(図示省略)によって測定することができる。図31では図示を省略しているが、詳細には圧力ゲージ及び排気コンダクタンスを調整するバリアブルコンダクタンスバルブ等を排気ポンプ29の上流側に設ければ良いことは、当業者に容易に理解できるであろう。例えば、圧力ゲージ及び流量を制御するマスフローコントローラを図31に示す給気配管27に設け、排気コンダクタンスを調整するバリアブルコンダクタンスバルブを図31に示す排気配管28に設けるようにしても良い。又、圧力ゲージを排気配管28側に設けても良い。
本発明の第2の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタでは,反応容器の内部の気体圧力を、大気圧(101kPa)と等しいか80〜90kPa程度の大気圧よりも極く僅か低い値に下げるような条件でも安定した放電が可能であるが、排気ポンプ29によって反応容器の内部を10kPa〜50kPa(大気圧の1/10〜1/2)、より望ましくは、20kPa〜40kPaまで減圧することによって、カソードメタル24とアノードメタル9l-1,9l-2,9l-3との間の間隔を拡げ(典型的には、大気圧の場合の5倍以上)、立体的な処理対象物(サンプル)30に付着した毒素も不活化することができることも可能になる。このように減圧下でファインストリーマ放電を引き起こすことは、ラジカルの寿命を延ばし(典型的には、大気圧下の場合の10倍以上)、処理対象物(サンプル)30に付着した毒素を効率的に不活化することにも寄与している。
図1に示した構造とは異なり、反応容器(チャンバ)を構成している底板23の上には、断熱材32が配置され、この断熱材32の上に、電気的に絶縁されたヒータ33が設けられている。カソード(24,25)を構成するカソードメタル24とは、電気的に絶縁されたヒータ33の上に配置され、ヒータ33によりカソードメタル24を加熱することが可能になっている。そして、カソードメタル24に接してカソードメタル24の上には、カソード誘電体25が配置され、カソード誘電体25の上には、処理対象物(サンプル)30が搭載される。処理対象物(サンプル)30は、ヒータ33により所望の温度まで加熱されることが可能である。
例えば、第2の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタにおいて、プラズマ放電ギャップを40mmとして、処理圧力45kPaとなるように、処理ガスとして窒素(N2)ガスを反応容器の内部に導入し、バイオロジカルインジケーターを使った滅菌処理をした結果、プラズマ処理時間8分で滅菌できた。この際、ヒータ33により75℃まで加熱したが、この加熱時間及び減圧時間を含めても12分で滅菌できた。一方、蒸気滅菌121℃の
オートクレーブでは、加熱冷却時間を込みで60分以上必要であるので、滅菌装置として極めて有効であることが分かる。
表3は、処理ガスとして窒素(N
2)ガスを用い、図31に示したパルス電源26の出力を60W,パルスの繰り返し周波数を1kHzとした場合のについて、本発明の第2の実施の形態に係るプラズマ処理装置のリアクタの性能を比較する表である。
表3において、実施例3は、本発明の第1の実施の形態で説明した実施例1に対応し、図11(k)に示すような、カソードに対向する側の端部が片刃のくさび型をなす断面構造のアノード誘電体11kを用いた「片刃埋込ブレード」の場合である。実施例3では、アノード誘電体11kには、厚さ1mmのアルミナを誘電体板として用い、厚さ0.01mmのタングステン(W)からなるアノードメタル9kがアノード誘電体11kに埋め込まれている。片刃埋込ブレードをなすアノード誘電体11kの外形は、高さが30mmで、長さが250mmであり、アノード誘電体11kの先端のくさび型をなす片刃の角度は45°である。又、実施例4は、本発明の第1の実施の形態で説明した実施例2に対応し、図11(j)に示すような、カソードに対向する側の端部が平坦な矩形をなすアノード誘電体11jを用いた「矩形埋込ブレード」の場合である。実施例4では、アノード誘電体11jには、厚さ1mmのアルミナを誘電体板として用い、厚さ0.01mmのタングステン(W)からなるアノードメタル9jがアノード誘電体11jに埋め込まれている。矩形埋込ブレードをなすアノード誘電体11jの外形は、高さが30mmで、長さが250mmである。
比較例5は、本発明の第1の実施の形態で説明した比較例1に対応し、直径0.3mmΦ、長さ250mmのタンタル(Ta)の裸線を陽極として用いた場合である。又、比較例6は、本発明の第1の実施の形態で説明した比較例2に対応し、直径0.5mmΦ、長さ250mmのニッケル・クロム(Ni−Cr)合金の裸線を陽極として用いた場合である。比較例7は、本発明の第1の実施の形態で説明した比較例3に対応し、直径0.5mmΦ、長さ250mmのニッケル・クロム(Ni−Cr)合金に外径1mmΦとなるようにアルミナを被覆し、このアルミナ被覆線を陽極として用いた場合であり、比較例8は、本発明の第1の実施の形態で説明した比較例4に対応し、厚さ1mmのアルミナに、厚さ0.01mmのタングステン(W)を埋め込んだ陽極であり、その外形は、長さ80mmで幅40mmである。
表3から分かるように、放電ギャップ40mmでの放電状態での電圧波形を観測したdv/dt値は、実施例3に示した片刃埋込ブレードが最も優れており、実施例4に示した矩形埋込ブレードがその次に優れていることが分かる。従来技術である比較例8の平板埋込の構造は、放電ギャップ40mmでは放電しないことが分かる。
このように、本発明の第2の実施の形態に係るプラズマ処理装置によれば、処理対象物(サンプル)30の表面処理や滅菌が効率的に実現できることが分かる。第2の実施の形態に係るプラズマ処理装置は、窒素中の放電が容易であり、しかも大気圧に近い圧力で安定した放電が可能である。
更に、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置と同様に、長時間のストリーマ放電に耐える利点や、広範囲で均一な処理ができる利点を有する。
更に、第2の実施の形態に係るプラズマ処理装置は、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置と同様に、分割型アノード電極にすることにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、陽極と陰極との間に短いパルス幅のパルスが印加できるので、処理対象物(サンプル)30に対し低ダメージの処理ができ、パルス周波数を高くできるため、処理時間が短縮できるという有利な効果を奏するものである。
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1及び第2の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
例えば、第1及び第2の実施の形態で説明したそれぞれの技術的思想を互いに組み合わせることも可能である。例えば、第1の実施の形態で説明した図11〜図18に示した陽極の構造や、図19〜図22に示した陰極の構造、或いは図23〜図30に示した陽極と陰極との組み合わせを第2の実施の形態に適用しても良いことは勿論である。
図1〜図5及び図11等に示したアノード誘電体の端を図32(b)に示すようにグレーズ(釉薬)処理を行い、ガラス質の膜(グレーズ膜)で表面をなめらかにすれば、プラズマ放電の集中が減少し、プラズマ処理リアクタの安定性が向上する。図32(a)は、図11(j)に示したアノード誘電体11jに対応するが、アノードメタル9jを両側からアノード誘電体11jで挟んだ構造であるので、図32(a)の下部中央に破線で示したような接合界面が存在する。例えば、バルクのアルミナの絶縁耐圧は、一般的に10kV/mm以上(例えば、実測値で14kV/mmの値が得られている)であるが、図32(a)の破線で示した接合界面では、5〜8kV/mmと絶縁破壊電圧の弱い箇所が発生する。グレーズ処理により、図32(b)に示すように、アノード誘電体11jをグレーズ膜16jで被覆することにより、絶縁破壊電圧の弱い接合界面の絶縁耐圧を向上する。
表4に示すように、グレーズ膜16jのヤング率は、セラミックス電極に比べ一桁程度小さいため、グレーズ処理により、アノード誘電体11jの先端表面がスムーズになる。図33(a)は、グレーズ処理前のアノード誘電体11jの先端表面を誇張して模式的に示したが、グレーズ処理前のアノード誘電体11jの先端表面は、通常、JISB O601-1982に規定する中心線平均粗さRa=0.3〜0.4μm、最大高さRmax=10〜12μm程度の凹凸がある。これをグレーズ処理することにより、アノード誘電体11jの先端表面は、図33(b)に示すようにスムーズになる。図33(b)は、グレーズ処理後のアノード誘電体11jの先端表面を誇張して模式的に示しているが、グレーズ処理により、アノード誘電体11jの先端表面は、Ra=0.1μm以下、Rmax=3〜5μm程度にスムーズになる。グレーズ処理は、グレーズ膜16jの熱膨張率が基材となるアノード誘電体11jに対して小さくして、焼き上がりのグレーズ膜16jに圧縮歪が残るような処理が好ましい。このため、表3から、アノード誘電体11jがアルミナの場合、グレーズ膜16jの熱膨張率が基材となるアルミナに対して小さくなり、焼き上がりのグレーズ膜16jに圧縮歪が残るようにできる。グレーズ処理に用いる釉としては、長石釉、石灰釉、石灰マグネシア釉、石灰バリウム釉、石灰亜鉛釉などの高火度釉、又は、フリット釉、鉛釉などの低火度釉が採用可能である。グレーズ処理により、アノード誘電体11jの先端表面をスムーズにすることで、プラズマ放電の集中がすること以外にも、電気的な耐久性能が向上すること、或いは、ストリーマ放電がより細かくなり、均一性が向上するという効果も奏することが可能である。
グレーズ処理を、図12〜図18に示した種々のアノード誘電体や、図25〜図27に示したカソード誘電体25s-1,25s-2,25s-3,25s-4に適用しても、同様に、
絶縁破壊電圧の弱い接合界面の絶縁耐圧を向上する、プラズマ放電の集中が減少し、安定性が向上する、電気的な耐久性能が向上する、ストリーマ放電がより細かくなり、均一性が向上する等の効果が得られることは勿論である。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。