次に、図面を参照して、本発明の第1〜第7の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
先ず、以下に示す第1〜第7の実施の形態に例示した発明の説明の前に、本発明者の一人は、特願2007−080291号(以下において「先願」という。)において提案した、図42に示すような単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)を備えるプラズマ処理装置を説明する。
この先願に係るプラズマ処理装置は、図42に示すような複数の板状(ブレード状)のアノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eを並列配置して、単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)を構成し、この単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)をカソードメタル24に対向して配置した電極構造より、ストリーマ放電を実現する。詳細な構造の図示は省略するが、図43に示すプラズマ処理装置の複数のアノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eは、それぞれ板状のアノード誘電体と、アノード誘電体の内部にそれぞれ埋め込まれた板状(薄膜状)のアノードメタルから構成されている。アノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの断面形状は、例えば、それぞれカソードに対向する側の端部が両刃のくさび型をなしている。そして、アノードメタルは、それぞれ、アノード誘電体の厚さ方向における中央部に埋め込まれている。更に、アノードメタルは、それぞれ、アノード誘電体のカソードメタル24に近い端面の側に偏在(局在)して埋め込まれている。
先願において説明したように、このプラズマ処理装置は、例えば、箱形のケースとケースの下方に位置する底板とで、バッチ式の反応容器(チャンバ)を構成している。ケースの上部には、処理ガスを導入する給気配管が接続されている。一方、ケースの下方には、ケースの内部を真空に排気する真空排気系が接続、若しくは、スリット状の開口部(隙間)を設け、上面の給気配管から給気された処理ガスが排気可能なようになっており、プラズマ処理装置のプラズマ処理リアクタの処理圧力は大気圧、若しくは大気圧に近い減圧状態の圧力である。処理ガスは、プラズマ処理リアクタの処理の内容に応じて、適宜選択可能であるが、従来、解離エネルギが他のガス分子に比して大きく、これまで安定なプラズマ生成が難しかった窒素(N2)分子を処理ガスとして採用可能である。単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)とカソードメタル24との間のプラズマ放電ギャップにプラズマを発生させるために、プラズマ処理リアクタの外部にはパルス電源26が配置されている。パルス電源26と単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)とは陽極配線31Aで接続され、パルス電源26とカソードメタル24とは陰極配線31Kで接続されている。
先願において提案したように、図43に示したプラズマ処理装置のプラズマ放電空間の大きさは、処理対象物(サンプル)に応じて適宜設計すれば良い事項であるが、典型的な例では、アノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの配列のピッチは5mm〜50mm程度、好ましくは、10mm〜40mm程度に選べば良い。プラズマ放電ギャップの大きさも処理対象物(サンプル)の大きさやプラズマ処理の内容に応じて設計すれば良いが、例えば、前後方向に0mm、左右方向に0mmの拡がりを有するプラズマ放電空間であれば、3mm〜40mm程度のプラズマ放電ギャップが設定可能である。
先願において提案したように、図43に示したプラズマ処理装置のパルス電源26は、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす電気パルスを、カソードメタル24と単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)との間に繰り返し印加する。具体的には、パルス電源26は、パルス幅が半値幅で50〜0nsの電気パルスをカソードメタル24と単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)との間に繰り返し印加する。図43に示したプラズマ処理装置の放電空間の電界は、約2kV/mmであり、平行平板構造の約5kV/mmよりも低減できる。図43に示したプラズマ処理装置のような単系列分割型アノード電極を用いれば、大気圧において、窒素中の放電が容易であり、プラズマ放電ギャップも広いことが確認できた。又、単系列分割型アノード電極にすることにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、陽極と陰極との間にパルス幅の短いパルスが印加できることになったので、対象物に低ダメージの処理ができることが確認できた。
しかしながら、図43に示した単系列分割型アノード電極によるプラズマ放電空間には、アノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの配列の周期性に対応した電界強度の分布が存在する。即ち、アノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの先端の直下の電界強度は強いが、それぞれのアノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの配列の中央部の電界強度が弱いという強度分布が存在する。このため、アノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの先端の直下には、プラズマストリーマが直接照射されるホットスポット(ゾーン)が生じ、それぞれのアノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの配列の中央部の直下には、プラズマストリーマが弱い若しくは、直接照射されないコールドスポット(ゾーン)が生じるため、均一な表面処理ができないという問題が生じることが分かった。
図43に示したような、プラズマ処理装置において、プラズマ放電空間の全体に渡り安定放電させるためには、それぞれのアノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの先端に電界集中が起こるようにする必要があり、アノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの相互の間の距離が必要である。アノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの配列のピッチを短くすると、アノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの先端の電界集中による電界強度が低くなるために部分的に放電できなくからである。そのため、それぞれのアノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eと対向するサンプル(処理対象)には、ホットスポット(ゾーン)とコールドスポット(ゾーン)が周期的に交互配置されようなプラズマ照射のムラができる。ホットスポット(ゾーン)とコールドスポット(ゾーン)が周期的に交互配置されるようなプラズマ照射下で、サンプル(処理対象)に対する表面処理を均一に実施するためには、サンプル(処理対象)をアノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eの先端に対機械的に対的移動する必要があり、プラズマ処理リアクタの構造が複雑化し、製造コストが高くなる。
説明の単純化のため、図43に示したそれぞれのアノードセグメント10a,10b,10c,10d,10eを、半径r0の円柱状の金属からなるアノード線10a,10b,10c,10d,10eで近似し、その等電位線を図44−46に示す。図44は、それぞれのアノード線10a,10b,…とカソードメタル24との距離h1を一定にし、アノード線10a,10b,…が線間隔w1で連続に並んでいる場合の等電位線を示す。アノード線10a,10bの直下の電界強度が強く、アノード線10a,10bの直下にプラズマストリーマが直接照射されるホットスポット(ゾーン)が生じ、アノード線10a,10bの配列の中央部の直下の電界強度が弱く、アノード線10a,10bの配列の中央部の直下には、プラズマストリーマが弱い若しくは、直接照射されないコールドスポット(ゾーン)が生じることが分かる。
図45は、それぞれのアノード線10a,10b,10c,10d,10eとカソードメタル24との距離h2=h1を一定にし、アノード線10a,10b,10c,10d,10eが図44の線間隔w1より狭い線間隔w2(w1>w2)で、連続に並べた場合の等電位線であり、アノード線10a,10b,10c,10d,10eの配列のピッチを小さくして、アノード線10a,10b,10c,10d,10eの相互の間隔を近づけると等電位線分布は円形成分より波状曲線成分が多い分布になり、更に配列のピッチを小さくすると、カソードメタル24の表面に平行な直線成分が多い分布になる。
図46に示すように、アノード線10a,10b,10c,10d,10eの配列のピッチを小さくした場合には、両端のアノード線10a,10e近傍の等電位線の曲率半径r3よりも、中央のアノード線10b,10c,10d近傍の等電位線の曲率半径r2の方が大きい(r3<r2)。曲率半径が大きくなることは、電界集中の度合いが小さくなることを意味し、つまり電界強度が小さくなることを意味する。したがって、単純に、アノード線10a,10b,10c,10d,10eの配列のピッチを小さくした場合には、中央の電位分布の方が、両端の電位分布に比し、放電しづらくなる。つまり、両端のアノード線10a,10eは強く放電するが、中3本のアノード線10b,10c,10dの放電は弱いことになる。極端な場合は、中3本のアノード線10b,10c,10dは放電しなくなる。例えば大気圧下の場合、間隔wと高さhの比が1.5以下になると図46のような現象が起こる。
なお、説明の簡単化のため、図44−46では、半径r0の円柱状の金属からなるアノード線10a,10b,10c,10d,10eで近似し、その等電位線を示したが、アノード電極形状が円柱状以外のブレード形状等他の形状であっても、図44−46と同様な電位分布となる。したがって、どのようなアノード電極形状であっても、アノード電極の配列のピッチを単純に小さくした場合には、両端のアノード電極は強く放電するが、両端以外の中央部側のアノード電極の放電は弱くなり、極端な場合は、中央部側のアノード電極が放電しなくなることは同様であり、サンプル(処理対象)の表面処理を均一に実施することができないことが分かった。
このため、本発明者らは、多くの実験と検討を加え、以下に示す第1〜第7の実施の形態に例示したような、新たな分割型アノード電極(以下において「複系列分割型アノード電極」という。)を実現したものである。
なお、以下に示す第1〜第7の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置のプラズマ処理リアクタは、箱形のケース22とケース22の下方に位置する底板23とで、バッチ式の反応容器(チャンバ)を構成している。ケース22の上部には、処理ガスを導入する給気配管27が接続され、ケース22の側面の下部には、処理ガスを排気する排気配管28が接続され、上面の給気配管27から処理ガスを給気し、下面の排気配管28から処理ガスを排気することができるようになっている。プラズマ処理リアクタは、前面に設けられたドアが開かれた状態においては、内部への処理対象物(サンプル)30の収容及び内部からの処理対象物(サンプル)30の取り出しが可能な状態となり、ドアが閉じられた状態においては、内部が密閉された減圧状態を維持できるようになっている。
反応容器(チャンバ)を構成している底板23の上には、断熱材32が配置され、この断熱材32の上に、電気的に絶縁されたヒータ33が設けられている。カソード(24,25)を構成するカソードメタル24とは、電気的に絶縁されたヒータ33の上に配置され、ヒータ33によりカソードメタル24を加熱することが可能になっている。そして、カソードメタル24に接してカソードメタル24の上には、カソード誘電体25が配置され、カソード誘電体25の上には、処理対象物(サンプル)30が搭載される。処理対象物(サンプル)30は、ヒータ33により所望の温度まで加熱されることが可能である。
図1に示すように、プラズマ処理リアクタの内部には、整流板21が水平に設置されている。整流板21には、複数の細管からなる貫通孔がマトリクス状に配置されている。そして、図2の鳥瞰図が詳細に示すように、プラズマ処理リアクタの内部において、図1に示した整流板21の下方には、2系列アノードセグメントの周期的並列配置を組み合わせた複系列分割型アノード電極(2系列分割型アノード電極)が配置されている。
即ち、複数の板状(ブレード状)の第1系列アノードセグメントの周期的並列配置からなる第1系列アノードユニット(11a,11b,11c,11d,11e)と、この第1系列アノードセグメントの周期的並列配置と同一空間周波数で1/2周期ずれた位置に交互に挿入された複数の板状(ブレード状)の第2系列アノードセグメントの周期的並列配置からなる第2系列アノードユニット(12a,12b,12c,12d,12e)とで、第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタの2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)が構成されている。図1及び図2では、第1系列アノードセグメント11a,11b,11c,11d,11eとして、5枚の板状の第1系列アノードセグメントが並列に等間隔で配置された構造が、第2系列アノードセグメント12a,12b,12c,12d,12eとして、5枚の板状の第2系列アノードセグメントが並列に等間隔で配置された構造が示されているが、例示であり、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置の第1系列及び第2系列アノードセグメントの枚数がそれぞれ5枚に限定される理由はなく、4枚以下、又は6枚以上等、互いに1/2周期ずれた位置に交互に挿入されるトポロジーを維持して、アノードセグメントの枚数を適宜増減することが可能である。
第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタでは、処理ガスのタンク(図示省略)から整流板21を経由してプラズマ処理リアクタの内部へ処理ガスが均一なフローとしてシャワー状に給気され、排気配管28に接続された排気ポンプ29によって、プラズマ処理リアクタの内部から排気配管28を経由して処理ガスが排気される。プラズマ処理リアクタの内部の圧力は圧力ゲージ(図示省略)によって測定することができる。図1では図示を省略しているが、詳細には圧力ゲージ及び排気コンダクタンスを調整するバリアブルコンダクタンスバルブ等を排気ポンプ29の上流側に設ければ良いことは、当業者に容易に理解できるであろう。例えば、圧力ゲージ及び流量を制御するマスフローコントローラを図1に示す給気配管27に設け、排気コンダクタンスを調整するバリアブルコンダクタンスバルブを図1に示す排気配管28に設けるようにしても良い。又、圧力ゲージを排気配管28側に設けても良い。
本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタでは,反応容器の内部の気体圧力を、大気圧(101kPa)、若しくは80〜70kPa程度の大気圧よりも極く僅か低い値に下げるような条件でも安定した放電が可能であるが、排気ポンプ29によって反応容器の内部を10kPa〜50kPa(大気圧の1/10〜1/2)、より望ましくは、20kPa〜40kPaまで減圧することによって、カソードメタル24と2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)との間の間隔を拡げ(典型的には、大気圧の場合の5倍以上)、立体的な処理対象物(サンプル)30に付着した毒素も不活化することができることも可能になる。このように減圧下でファインストリーマ放電を引き起こすことは、ラジカルの寿命を延ばし(典型的には、大気圧下の場合の10倍以上)、処理対象物(サンプル)30に付着した毒素を効率的に不活化することにも寄与している。なお、反応容器の内部を大気圧(101kPa)とする場合には、排気ポンプ29を省略し、シャワー状に給気された処理ガスが、プラズマ処理リアクタの内部と外部の圧力差によってプラズマ処理リアクタの内部からスリット状の開口部(隙間)を経由して、プラズマ処理リアクタの外部へ排気されるような構成としても構わない。
「処理ガス」は、プラズマ処理リアクタの処理の内容に応じて、適宜選択可能である。表1に示したように、窒素(N2)分子の解離エネルギが他のガス分子に比して大きく、窒素(N2)プラズマは、これまで安定なプラズマ生成が難しかったが、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置においては、処理ガスとして高純度窒素ガスを使用することが可能である。但し、「処理ガス」は必ずしも窒素ガスに限定されるものではない。例えば、処理対象物(サンプル)30の殺菌、滅菌等の目的のためには、塩素(Cl2)若しくは塩素を含む化合物のガス、より一般的にはこのような塩化物に限られず、フッ化物、臭化物、沃化物等の他のハロゲン系の化合物ガス等の種々の活性なガス若しくは、これらの活性なガスのいずれかと窒素ガスや希ガス等の混合ガス等他のガスでも構わない。この他のガスには、その表面処理の目的に応じて、酸素(O2)若しくは酸素を含む化合物のガス等でも良い。処理ガスの純度や露点等は、表面処理の目的に応じて適宜選択すれば良い。
図3及び図5は、第1系列アノードセグメント11a,11b,…11eに第1陽極配線31A1を、第2系列アノードセグメント12a,12b,…12eに第2陽極配線31A2を接続する構造の具体例を示す。図5に示すように、アノードセグメント11eのアノード誘電体の上部中央部には、第1系列のアノードメタル7eへの電気的接続を可能にするように、アノード誘電体に矩形のコンタクトホール51eが開口され、第1系列のアノードメタル7eの一部が露出している。このコンタクトホール51eに銅(Cu)からなるコネクタ52eがロウ付けされる。コネクタ52eの表面は金(Au)鍍金しておくのが好ましい。そして、このコネクタ52eに先端を露出した絶縁被覆電線からなる第1陽極配線31A1が半田付けされる。このコネクタ52eと絶縁被覆電線からなる第1陽極配線31A1との半田付けの箇所は、絶縁カバー53eにより、被覆される。
図示を省略しているが、他のアノードセグメント11a,11b,…11d;12a,12b,…12eのアノード誘電体の上部中央部にも、同様に、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7d、第2系列のアノードメタル8a,8b,…8eへの電気的接続を可能にするように、アノード誘電体に矩形のコンタクトホールが開口され、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7d、第2系列のアノードメタル8a,8b,…8eの一部が露出している。このコンタクトホールにアノードセグメント11eと同様に、コネクタ(図示省略)がロウ付けされる。そして、このコネクタに先端を露出した絶縁被覆電線からなる第1陽極配線31A1及び第2陽極配線31A2がそれぞれ半田付けされる。このコネクタと絶縁被覆電線からなる第1陽極配線31A1及び第2陽極配線31A2との半田付けの箇所は、図3に示すように、絶縁カバーにより、被覆される。第1陽極配線31A1及び第2陽極配線31A2を剛性のある分岐配線で構成すれば、この第1陽極配線31A1及び第2陽極配線31A2を介して、第1系列アノードセグメント11a,11b,…11e及び第2系列アノードセグメント12a,12b,…12eが、互いに1/2周期ずれたトポロジーで、等間隔で並列に固定され、図3に示すような、2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)が組み立てられる。
図3及び図4に詳細に示すように、2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)を構成する第1系列アノードセグメント11a,11b,…,11eは、第1系列アノードセグメント11a,11b,…,11eの外形をそれぞれ決定する板状のアノード誘電体と、アノード誘電体の内部に埋め込まれた板状(薄膜状)の第1系列のアノードメタル7a,7b,…7eから構成されている。第2系列アノードセグメント12a,12b,…,12eは、第2系列アノードセグメント12a,12b,…,12eの外形をそれぞれ決定する板状のアノード誘電体と、アノード誘電体の内部に埋め込まれた板状(薄膜状)の第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eから構成されている。
図3から分かるように、第1系列アノードセグメント11a,11b,…,11e及び第2系列アノードセグメント12a,12b,…,12eの断面形状は、それぞれカソードに対向する側の端部が両刃のくさび型をなしている。そして、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eは、それぞれ、第1系列アノードセグメント11a,11b,…,11eの外形を決定しているアノード誘電体の厚さ方向における中央部に埋め込まれている。その際、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eは、それぞれ、対応するアノード誘電体のカソードに近い端面の側に偏在(局在)して埋め込まれている。同様に、第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eは、それぞれ、第2系列アノードセグメント12a,12b,…,12eの外形を決定しているアノード誘電体の厚さ方向における中央部に埋め込まれ、第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eは、それぞれ、対応するアノード誘電体のカソードに近い端面の側に偏在(局在)して埋め込まれている。
図1及び図2に示したように、プラズマ処理リアクタの外部にはパルス電源26が配置され、パルス電源26と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)とは第1陽極配線31A1で接続され、パルス電源26と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)とは第2陽極配線31A2で接続され、パルス電源26とカソードメタル24とは陰極配線31Kで接続されている。図1及び図2に示したような2系列のアノード側配線をすることにより、図6及び図7にその一部を模式的に示すように、プラズマ処理リアクタの内部のカソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)に第1の電気パルスを印加してカソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)の間のプラズマ放電ギャップにプラズマを発生させ、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)に、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第2の電気パルスを印加してカソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)の間のプラズマ放電ギャップにプラズマを発生させることができる。
図6では、図44−46と同様に、説明の単純化のため、図1−3に示したそれぞれのアノードメタル7a,8a,7b,8b,7c,…を、紙面の奥に紙面に対し垂直に延伸する円柱状の金属からなるアノード線7a,8a,7b,8b,7c,…で近似している。図6に示すように、アノード線7a,8a,7b,8b,7c,…の間隔を、図44−46に示した参考例に係るプラズマリアクタの間隔まで近づけても、図1−3のように結線し、第1系列のアノード電極(7a,7b,7c,…)に第1の電気パルスを印加し、第2系列アノードユニット(8a,8b,…)に、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第2の電気パルスを印加することで、電界分布の不均一を解消し、放電空間の全体を均一にプラズマ照射できることが分かる。なお、図6では、アノード電極を円柱状の金属で近似したが、図7に示すような断面が長方形となる平板状のアノード電極でも同様なことは勿論である。図6及び図7に示すように、位相の異なる2系列のパルスを用いて、カソード(24,25)と2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)の間にプラズマを発生させ、発生したプラズマに処理対象物(サンプル)30を曝すことにより、処理対象物(サンプル)30の表面を均一に処理できる。
プラズマ放電空間の大きさは、処理対象物(サンプル)30に応じて適宜設計すれば良い事項である。第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの長さ、即ち図1の紙面に垂直方向に測った長さにより、図1に示したプラズマ処理リアクタの放電空間の奥行きが決まる。図1では、第1系列アノードセグメント11a,11b,…,11e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eがそれぞれ5枚ずつ交互に並列に等間隔で配置された構造が示されているが、1/2周期ずれた相互関係を維持して、2系列アノードセグメントの配列のピッチ、及び配列の枚数により、図1の紙面の左右方向に測ったプラズマ処理リアクタの放電空間の幅が決まる。典型的な例では、アノードセグメントの配列のピッチは5mm〜50mm程度、好ましくは、10mm〜40mm程度に選べば良い。プラズマ放電ギャップの大きさも処理対象物(サンプル)30の大きさやプラズマ処理の内容に応じて設計すれば良いが、例えば、前後方向に300mm、左右方向に300mmの拡がりを有するプラズマ放電空間であれば、3mm〜40mm程度のプラズマ放電ギャップが設定可能である。
図8(a)に示すように、パルス電源26は、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第1の電気パルスを、カソードメタル24と第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7dとの間に繰り返し印加する。更に、図8(b)に示すように、パルス電源26は、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相が1/2周期異なり、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第2の電気パルスを、カソードメタル24と第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8dとの間に繰り返し印加する。図8(a)及び(b)において、第1の電気パルス及び第2の電気パルスのパルス幅は、半値幅で50〜300ns程度である。
第1の電気パルスと第2の電気パルスとの位相のずれは、1/2周期に限定されない。図9に示すように、1/2周期以下の短い位相のずれでも、図6−7に示したような電位分布の重畳が可能となるので、図44−46に示した参考例に係るプラズマリアクタのアノード電極間隔以下に、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eと第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eとを近づけても、電界分布の不均一が生じず、放電空間の全体を均一にプラズマ照射できる。図9(a)は、カソードメタル24と第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7dとの間に印加する第1の電気パルスの波形を示す。図9(b)では、図9(a)に示した第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相が1/2周期より小さな位相ずれの第2の電気パルスを、カソードメタル24と第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8dとの間に繰り返し印加することを示している。図9(a)及び(b)においても、第1の電気パルス及び第2の電気パルスのパルス幅は、半値幅で50〜300ns程度である。図9のようなパルス制御をし、第1の電気パルスと第2の電気パルスとの位相のずれ(遅延時間)が、第1の電気パルスで生成されたプラズマの活性種の寿命よりも短いタイミングになるように選べば、放電電圧を図8の場合より低くしても放電できるため、処理対象物(サンプル)30に対して同じ効果を少ない電力で達成できる。
パルス電源26には、2系列の静電誘導型サイリスタ(以下、「SIサイリスタ」と言う。)を用いた2系列誘導エネルギ蓄積型電源回路(以下、「2系列IES回路」と言う。)を採用することが、高速スイッチングを実現する上で望ましい。2系列IES回路は、2系列のSIサイリスタのクロージングスイッチ機能の他、オープニングスイッチング機能を用いて2系列のターンオフを行い、2系列のSIサイリスタのターンオフによりそれぞれのSIサイリスタのゲート・アノード間に高圧を発生させている。なお、2系列IES回路の基礎となる「IES回路」の詳細は、飯田克二、佐久間健:「誘導エネルギ蓄積型パルス電源」,第15回SIデバイスシンポジウム(2002)に記載されている。
先ず、図10を参照して、2系列IES回路(パルス電源)の構成について説明する。2系列IES回路は、共通の低電圧直流電源V0を備える。低電圧直流電源V0の電圧Eは、2系列IES回路が発生させる第1及び第2の電気パルスの電圧のピーク値より著しく低いことが許容される。例えば、後述する第1のインダクタL1又は第2のインダクタL2の両端に発生させる電圧VLのピーク値VLPが数kVに達しても、低電圧直流電源V0の電圧Eは数10Vであることが許容される。電圧Eの下限は後述する第1のSIサイリスタSITh1又は第2のSIサイリスタSITh2のラッチング電圧以上で決定される。2系列IES回路は、共通の低電圧直流電源V0を電気エネルギ源として利用可能であるので、小型・低コストに構築可能である。図示を省略しているが、2系列IES回路は、共通の低電圧直流電源V0に並列接続されるコンデンサを備えるようにすることが好ましい。並列接続されるコンデンサは、低電圧直流電源V0のインピーダンスを見かけ上低下させることにより低電圧直流電源V0の放電能力を強化する。
更に、図10に示すように、2系列IES回路は、ゲート駆動回路136と、第1の電気パルスを生成する第1のインダクタL1、第1のSIサイリスタSITh1、第1のMOS電界効果トランジスタFET1、第1のダイオードD1、及び第2の電気パルスを生成する第2のインダクタL2、第2のSIサイリスタSITh2、第2のMOS電界効果トランジスタFET2、第2のダイオードD2とを備える。2系列IES回路では、第1の電気パルスを生成するために、低電圧直流電源V0の正極と第1のインダクタL1の一端とが接続され、第1のインダクタL1の他端と第1のSIサイリスタSITh1のアノードとが接続され、第1のSIサイリスタSITh1のカソードと第1のMOS電界効果トランジスタFET1のドレインとが接続され、第1のMOS電界効果トランジスタFET1のソースと低電圧直流電源V0の負極とが接続されている。又、2系列IES回路では、第1のSIサイリスタSITh1のゲートと第1のダイオードD1のアノードとが接続され、第1のダイオードD1のカソードと第1のインダクタL1の一端(低電圧直流電源V0の正極)とが接続される。第1のMOS電界効果トランジスタFET1のゲート及びソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
同様に、第2の電気パルスを生成するために、図10に示すように、低電圧直流電源V0の正極と第2のインダクタL2の一端とが接続され、第2のインダクタL2の他端と第2のSIサイリスタSITh2のアノードとが接続され、第2のSIサイリスタSITh2のカソードと第2のMOS電界効果トランジスタFET2のドレインとが接続され、第2のMOS電界効果トランジスタFET2のソースと低電圧直流電源V0の負極とが接続されている。又、2系列IES回路では、第2のSIサイリスタSITh2のゲートと第2のダイオードD2のアノードとが接続され、第2のダイオードD2のカソードと第2のインダクタL2の一端(低電圧直流電源V0の正極)とが接続される。第2のMOS電界効果トランジスタFET2のゲート及びソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
第1の電気パルスを生成する第1のSIサイリスタSITh1は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。第1のMOS電界効果トランジスタFET1は、ゲート駆動回路136から与えられる第1ゲート信号Vc1に応答してドレイン・ソース間の導通状態が変化するスイッチング素子である。第1のMOS電界効果トランジスタFET1のオン電圧又はオン抵抗は低いことが望ましい。又、第1のMOS電界効果トランジスタFET1の耐圧は低電圧直流電源V0の電圧Eより高いことを要する。第1のダイオードD1は、第1のSIサイリスタSITh1のゲートに正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、即ち、第1のSIサイリスタSITh1のゲートに正バイアスを与えた場合に第1のSIサイリスタSITh1が電流駆動とならないようにするために設けられる。第1のインダクタL1は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、第1の負荷139aが並列接続される。第1の負荷139aは、図1のカソードメタル24と第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eとの間が対応する。ゲート駆動回路136が第1ゲート信号Vc1を第1のMOS電界効果トランジスタFET1に印加することにより、図11に示すように、第1のMOS電界効果トランジスタFET1がターンオンし、これにより、第1のSIサイリスタSITh1が導通状態となり、第1のインダクタL1に電流i1が流れ、これにより第1の負荷139aに出力1のパルスが発生する。なお、昇圧トランスの1次側を第1のインダクタL1として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に第1の負荷139aを接続すれば、電圧のピーク値がより高い第1の電気パルスを得ることができる。
同様に、第2の電気パルスを生成する第2のSIサイリスタSITh2は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。第2のMOS電界効果トランジスタFET2は、ゲート駆動回路136から与えられる第2ゲート信号Vc2に応答してドレイン・ソース間の導通状態が変化するスイッチング素子である。ゲート駆動回路136は、第1のMOS電界効果トランジスタFET1に与える第1ゲート信号Vc1から一定の遅延時間を有して、第2ゲート信号Vc2を、第2のMOS電界効果トランジスタFET2に印加する。第2のMOS電界効果トランジスタFET2のオン電圧又はオン抵抗は低いことが望ましい。又、第2のMOS電界効果トランジスタFET2の耐圧は低電圧直流電源V0の電圧Eより高いことを要する。第2のダイオードD2は、第2のSIサイリスタSITh2のゲートに正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、即ち、第2のSIサイリスタSITh2のゲートに正バイアスを与えた場合に第2のSIサイリスタSITh2が電流駆動とならないようにするために設けられる。第2のインダクタL2は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、第2の負荷139bが並列接続される。第2の負荷139bは、図1のカソードメタル24と第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eとの間が対応する。ゲート駆動回路136が、第2ゲート信号Vc2を第2のMOS電界効果トランジスタFET2に印加することにより、図11に示すように、第2のMOS電界効果トランジスタFET2がターンオンし、これにより、第2のSIサイリスタSITh2が導通状態となり、第2のインダクタL2に電流i2が流れ、これにより第2の負荷139bに出力1のパルスから一定時間遅延した出力2のパルスが発生する。なお、昇圧トランスの1次側を第2のインダクタL2として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に第2の負荷139bを接続すれば、電圧のピーク値がより高い第2の電気パルスを得ることができる。
パルス電源26がカソードメタル24と第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7dとの間に印加する第1の電気パルスの電圧波形及び電流波形の一例を図12に示す。図12には、第1の電気パルスの電圧V2及び電流I2(縦軸)の時間(横軸)に対する変化が示されており、パルス幅は、半値幅で約100nsとなっている。図示を省略しているが、パルス電源26がカソードメタル24とカソードメタル24と第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8dとの間に印加する第2の電気パルスのそれぞれの電圧波形及び電流波形も、図12に示したものと同様であることは勿論である。
続いて、図13を参照して、2系列IES回路の第1の電気パルスを生成する動作について説明する。図13は、上から順に、(a)第1のMOS電界効果トランジスタFET1に与えられるゲート信号Vcの時間(横軸)に対する変化、(b)第1のSIサイリスタSITh1の導通状態の時間(横軸)に対する変化、(c)第1のインダクタL1に流れる電流ILの時間(横軸)に対する変化、(d)第1のインダクタL1の両端に発生する電圧VLの時間(横軸)に対する変化、(e)第1のSIサイリスタSITh1のアノード・ゲート間の電圧VAG(縦軸)の時間(横軸)に対する変化を示している。
(イ)先ず、図13(a)に示すように、時刻t0にゲート信号VcがOFFからONに切り替わると、第1のMOS電界効果トランジスタFET1のドレイン・ソース間は導通状態となる。これにより、第1のSIサイリスタSITh1のゲートがアノードに対して正バイアスされるので、図13(b)に示すように、第1のSIサイリスタSITh1のアノード・カソード(A−K)間は導通状態となり、図13(c)に示すように、電流ILが増加し始める。
(ロ)電流ILがピーク値ILPに達するあたりの時刻t1に、図13(a)に示すように、ゲート信号VcがONからOFFに切り替わると、第1のMOS電界効果トランジスタFET1のドレイン・ソース間が非導通状態となり、図13(b)に示すように、第1のSIサイリスタSITh1のアノード・ゲート(A−G)間が導通状態となる。これにより、図13(b)に示すように、時刻t2から時刻t3にかけて、第1のSIサイリスタSITh1における空乏層の拡大に同期して、図13(c)に示すように、電流ILが減少するとともに、図13(d)に示す電圧VL及び図13(e)に示す電圧VAGが急激に上昇する。
(ハ)そして、時刻t3において図13(d)に示す電圧VL及び図13(e)に示す電圧VAGがそれぞれピーク値VLp及びピーク値VAGpに達して、図13(c)に示すように、電流ILの向きが反転する。その後は、図13(b)に示すような時刻t3から時刻t4にかけて、第1のSIサイリスタSITh1における空乏層の縮小に同期して、図13(c)に示すように、電流ILが増加するとともに、図13(d)に示す電圧VL及び図13(e)に示す電圧VAGが急激に低下する。
(ニ)そして、時刻t4において、図13(b)に示すように、第1のSIサイリスタSITh1が非導通状態となると、図13(c)に示すように、時刻t5に向かって電流ILが減少するとともに、図13(d)に示す電圧VL及び図13(e)に示す電圧VAGは0になる。
2系列IES回路を用いて、第2の電気パルスを生成する動作は、図13において、上から順に、(a)第2のMOS電界効果トランジスタFET2に与えられる第2ゲート信号Vc2の時間(横軸)に対する変化、(b)第2のSIサイリスタSITh2の導通状態の時間(横軸)に対する変化、(c)第2のインダクタL2に流れる電流ILの時間(横軸)に対する変化、(d)第2のインダクタL2の両端に発生する電圧VLの時間(横軸)に対する変化、(e)第2のSIサイリスタSITh2のアノード・ゲート間の電圧VAG(縦軸)の時間(横軸)に対する変化と読み替えれば同様である。重複した説明を省略するが、ゲート駆動回路136が、第1のMOS電界効果トランジスタFET1に与える第1ゲート信号Vc1から一定の遅延時間を有して、第2ゲート信号Vc2を、第2のMOS電界効果トランジスタFET2に印加することにより、図11に示すように、第2のMOS電界効果トランジスタFET2がターンオンし、これにより、第2のSIサイリスタSITh2が導通状態となり、出力1のパルスから一定時間遅延した出力2のパルスが発生する。
図14は、図1に示す第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7d及び第2系列アノードセグメント12a,12b,…12eのいずれかを等価的な陽極81で表し、カソードメタル24を等価的な陰極82で表した場合において、等価陽極81及び等価陰極82間への電気パルスの印加によって引き起こされる放電の状態と電気パルスの電圧概略波形(無負荷時)とを模式的に示す図である。
図14において、電気パルスの電圧概略波形は、電圧V(縦軸)の時間t(横軸)に対する変化を示すグラフによって表されている。図14に示すように、電気パルスのパルス幅Δtが概ね100nsに達すると、正イオンが等価陰極82に衝突する際に放出された2次電子が処理ガス分子を電離させて新たな正イオンを発生させるグロー放電が引き起こされる。一方、電気パルスの立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtが概ね30〜50kV/μsである場合、パルス幅Δtが概ね100nsに達すると、等価陽極81から等価陰極82へ向かうストリーマ83の成長が始まる。そして、パルス幅Δtが概ね100〜400nsである場合、ストリーマ83の成長は、等価陽極81と等価陰極82との間に短いストリーマ83が散点する初期段階で終了する。一方、パルス幅Δtが概ね500〜1000nsである場合、ストリーマ83が本格的に成長し、等価陽極81と等価陰極82との間に枝分かれした長いストリーマ83が存在する状態となる。本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置では、ストリーマ83の成長が進んで等価陽極81と等価陰極82とが導通してしまわないように、ストリーマ83の成長の初期段階で放電を停止するファインストリーマ放電を用いる。
放電の均一性に優れるファインストリーマ放電を用いれば、表面処理を均一に実施することができるからである。更に、パルス幅Δtが概ね1000nsに達すると、局部的な電流集中がおき、最終的にアーク放電が引き起こされる。
上述の説明で、パルス幅Δtや立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtの範囲について「概ね」としているのは、これらは、等価陽極81及び等価陰極82間の間隔、等価陽極81及び等価陰極82の構造ならびに窒素雰囲気の圧力等のプラズマ処理装置の具体的構成に依存して変化するためである。したがって、ファインストリーマ放電となっているか否かは、パルス幅Δtや立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtだけでなく、実際の放電を観察して判断すべきである。
又、電気パルスの電圧概略波形について「無負荷時」としているのは、同じ条件でパルス電源を動作させても、等価陽極81及び等価陰極82間の間隔ならびに等価陽極81及び等価陰極82の構造等のプラズマ処理装置の具体的構成が変化すれば、等価陽極81及び等価陰極82間に実際に印加される電気パルスの電圧概略波形が異なってくるからである。
このようにして、カソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)に第1の電気パルスを印加し、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)に、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第2の電気パルスを印加することにより、図15に示したように、カソードメタル24と2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)の間に密度の高いファインストリーマプラズマを発生させることができる。
パルス電源26は、図10に示した2系列IES回路に限定されるものではない。図16に示すような絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を用いた2系列パルス回路でも可能である。図16に示すように、この2系列パルス回路は、ゲート駆動回路136と、第1の電気パルスを生成する第1のインダクタL1、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1、第1のフリーホイールダイオードFWD1、第1のゲート抵抗Rg1、及び第2の電気パルスを生成する第2のインダクタL2、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2、第2のフリーホイールダイオードFWD2、第2のゲート抵抗Rg2とを備える。
図16に示す2系列パルス回路では、第1の電気パルスを生成するために、低電圧直流電源V0の正極と第1のインダクタL1の一端とが接続され、第1のインダクタL1の他端と第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1のコレクタとが接続され、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1のエミッタと低電圧直流電源V0の負極とが接続されている。又、2系列パルス回路では、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1のエミッタと第1のフリーホイールダイオードFWD1のアノードが接続され、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1のコレクタと第1のフリーホイールダイオードFWD1のカソードが接続され、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1のゲート及びソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
同様に、図16に示すように、2系列パルス回路では、第2の電気パルスを生成するために、低電圧直流電源V0の正極と第2のインダクタL2の一端とが接続され、第2のインダクタL2の他端と第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2のコレクタとが接続され、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2のエミッタと低電圧直流電源V0の負極とが接続されている。又、2系列パルス回路では、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2のエミッタと第2のフリーホイールダイオードFWD2のアノードが接続され、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2のコレクタと第2のフリーホイールダイオードFWD2のカソードが接続され、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2のゲートには、ゲート駆動回路136が接続される。
第1の電気パルスを生成する第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1は、ゲート駆動回路136から与えられる第1ゲート信号Vc1に応答してコレクタ・エミッタ間の導通状態が変化するスイッチング素子である。第1のインダクタL1は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、第1の負荷139aが並列接続される。第1の負荷139aは、図1のカソードメタル24と第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eとの間が対応する。ゲート駆動回路136が第1ゲート信号Vc1を第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1に印加することにより、図17に示すように、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1がターンオンし、第1のインダクタL1に電流i1が流れ、これにより第1の負荷139aに出力1のパルスが発生する。なお、昇圧トランスの1次側を第1のインダクタL1として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に第1の負荷139aを接続すれば、電圧のピーク値がより高い第1の電気パルスを得ることができる。
同様に、第2の電気パルスを生成する第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2は、ゲート駆動回路136から与えられる第2ゲート信号Vc2に応答してコレクタ・エミッタ間の導通状態が変化するスイッチング素子である。ゲート駆動回路136は、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1に与える第1ゲート信号Vc1から一定の遅延時間を有して、第2ゲート信号Vc2を、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2に印加する。第2のインダクタL2は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、第2の負荷139bが並列接続される。第2の負荷139bは、図1のカソードメタル24と第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eとの間が対応する。ゲート駆動回路136が、第2ゲート信号Vc2を第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2に印加することにより、図17に示すように、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2がターンオンし、第2のインダクタL2に電流i2が流れ、これにより第2の負荷139bに出力1のパルスから一定時間遅延した出力2のパルスが発生する。なお、昇圧トランスの1次側を第2のインダクタL2として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に第2の負荷139bを接続すれば、電圧のピーク値がより高い第2の電気パルスを得ることができる。
図1、図3及び図5等においては、アノードセグメント(アノード誘電体)の断面形状は、それぞれカソードに対向する側の端部が両刃のくさび型をなす構造を例示したが、アノードセグメント(アノード誘電体)の断面形状は端部が両刃のくさび型をなす構造に限定されるものではなく、図18に示すような種々のアノードセグメント(アノード誘電体)11j1〜11j18の断面形状であっても良い。なお、図18では、第1系列のアノードメタル7j1〜7j18についてのみ、その断面形状を図示しているが、第2系列のアノードメタルについても、図18に示した第1系列のアノードメタル7j1〜7j18と同様な種々のアノードセグメント(アノード誘電体)の断面形状が採用可能であることは勿論である。図18では、第1系列のアノードメタル7j1〜7j18のそれぞれが、対応する第1系列アノードセグメント(アノード誘電体)11j1〜11j18に埋め込まれた構造を示しているが、第2系列のアノードメタルも同様に、対応する第2系列アノードセグメント(アノード誘電体)に埋め込まれている。
図18に示した種々のアノードセグメント(アノード誘電体)11j1〜11j18のいずれかと同様な構造のアノードセグメントを周期的に配列して、2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)を構成することにより、陽極と陰極との間の容量が低減できるので、陽極と陰極との間に短いパルス幅のパルスが印加でき、大気圧、又は大気圧に近い減圧下で、窒素中の放電が安定して一様に実現でき、処理対象物(サンプル)30に対し低ダメージの処理ができる利点を有する。
図18に示すような種々のアノードセグメント(アノード誘電体)の断面形状であっても、これらのアノードセグメント(アノード誘電体)を周期的に配列し、2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)の構造を実現することにより、陽極と陰極との間の容量が低減され、パルス周波数を高くでき、プラズマ処理の処理時間が短縮できるという有利な効果を奏するものである。
又、当然ながら、図18に示すように、アノードメタル7j1〜7j18のそれぞれが、対応するアノードセグメント(アノード誘電体)11j1〜11j18に埋め込まれているため、長時間のストリーマ放電に耐えるという第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタに特有な効果を奏することができる。
第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの材質には、プラズマ耐久性に優れた種々の耐熱金属(高融点金属)や耐熱合金が使用可能である。耐熱金属(高融点金属)としては、タングステン(W),モリブデン(Mo),チタン(Ti),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr),白金(Pt),パラジウム(Pd),ハフニウム(Hf),タンタル(Ta),ルテニウム(Ru)等が代表的である。耐熱合金としてはニッケル・クロム(Ni−Cr)合金が代表的であるが、Ni−Crをベースとして、更に所定量の鉄(Fe、アルミニウム(Al、モリブデン(Mo、コバルト(Co、シリコン(Si)等の少なくともいずれかが含まれる耐熱合金でも良い。更に、W,Mo,Mn,Ti,Cr,Zr,Fe,Pt,Pd,銀(Ag),銅(Cu)等から選ばれる2種類以上の金属からなる周知の耐熱合金等が使用可能である。
第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの厚さは、例えば約5〜800μm程度、更に約6〜200μm程度の範囲において、なるべく薄い値に選ぶのが好ましい。第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの厚さが薄い方が電界が集中するので、放電が容易になり、且つ放電の安定性や一一様性が得られるからである。第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの厚さの下限は、現実には、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの製造技術に依存する。このため、工業的な見地からは、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの厚さは、8〜50μm程度、更に8〜20μmの範囲の厚さがより好ましい。
第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの長さ、即ち図1の紙面に垂直方向に測った長さは、例えば200mm〜500mm程度に設定できるが、これは、基本的にはプラズマ処理するサンプルの大きさにより決めれば良い。したがって、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの長さを500mm以上にしても構わない。第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの長さが長くなった場合は、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの厚さをそれに比例して薄くすれば、アノード・カソード間の容量の増大が防げる。第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの高さ、即ち図1に示した断面図において、上下方向に測った長さは、例えば10mm〜50mm程度に設定できるが、これは、特に制限はない。但しあまり高さを大きくするのは、プラズマ処理リアクタの大きさが大きくなるので好ましくない。図1〜図4に示すような、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eが、それぞれ、対応するアノード誘電体のカソードに近い側に偏在して埋め込まれている構造であれば、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eの高さを10mm〜35mm程度に設定するのがより現実的であろう。
板状(ブレード状)のアノード誘電体の材質には、有機系の種々な合成樹脂、セラミック、ガラス等の無機系の材料が使用可能である。有機系の樹脂材料としては、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等が、使用可能である。無機系の基板材料として一般的なものはセラミック又はガラスが用いられる。セラミック基板の素材としてはアルミナ(Al2O3、ムライト(3Al2O3・2SiO2、ベリリア(BeO、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)、コーディエライト(Mg2Al3(AlSi5O18))、マグネシア(MgO)、スピネル(MgAl2O4)、シリカ(SiO2)等が使用可能である。典型的には、板状のアノード誘電体の厚さは第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの厚さにも依存するが、例えば約0.5〜2mm程度、好ましくは約0.8〜1.5mm程度の範囲において第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの厚さよりも厚い値に選べば良い。具体的には、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの厚さが7〜150μm程度であれば、アノード誘電体の厚さは、0.7〜1.2mm程度の値に選ぶことが可能である。
板状のアノード誘電体の長さ、即ち図1の紙面に垂直方向に測った長さは、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eが埋め込める長さであれば良く、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eの長さが、例えば200mm〜500mm程度であれば、アノード誘電体の長さは、例えば220mm〜520mm程度に設定できる。同様に、アノード誘電体の高さ、即ち図1に示した断面図において、上下方向に測った長さは、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eが埋め込める高さであれば良い。図3及び図4に示すような、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7e及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eが、それぞれ、対応するアノード誘電体のカソードに近い側に偏在して埋め込まれている構造で、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eの及び第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8e高さが10mm〜35mm程度であれば、アノード誘電体の高さは、例えば、25mm〜75mm程度に設定すれば良い。
<第1の実施の形態の実施例1>
プラズマ放電ギャップを共に40mmとして、処理ガスとして窒素(N2)ガスを導入し、処理対象物(サンプル)30としてポリエチレンシートの表面改質を行い、ペイント法で濡れ性を評価した結果を図19に示す。
図19(a)は、図43のように構成された単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)とパルス電源26pを用いたプラズマ処理リアクタでポリエチレンシートの表面改質した場合、図19(b)は、図1−3のように構成された第1の実施の形態に係る2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)とパルス電源26を用いたプラズマ処理リアクタでポリエチレンシートの表面改質した場合の結果を示す。図19(a)及び(b)のパルス電圧は共に20kV、パルス周波数は共に2.5kHz、処理時間は共に4分である。
電極ピッチは、図19(a)の単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)の場合は、60mm、図19(b)の2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)の場合は30mmである。
単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)及び2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)は、共に同一のアノードセグメントを用いており、厚さ1mmのアルミナをアノード誘電体として、厚さ0.01mmのタングステン板をアノードメタルとしたものである。それぞれのアノードセグメントの外形高さは30mmで、長さは250mmである。アノードセグメントの形状は、図18(k)に示した片刃型であり、片刃の先端角度は45度である。
図43のように構成された単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)とパルス電源26pで表面改質した場合、ペイント法で濡れ性を評価すると、図19(a)のように、濡れ性の分布があることが分かる。図1−3のように構成された第1の実施の形態に係る2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)とパルス電源26の場合は、図19(a)に比べ、図19(b)のように均一な分布となった。
又、図19(b)の実験に用いた2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)に対し、単系列分割型アノード電極と同様にすべてのアノードセグメントに同一位相で単一のパルス印加した場合は、真ん中の電極からは放電が起きず、結局、図19(a)のような濡れ性分布となる。
水の接触角評価で比較すると図20のようになり、2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)を用いたプラズマ処理により水の接触角が40度から30度の間に集中していることが分かり、比較例に係る単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)を用いたプラズマ処理の場合、水の接触角が90度から30度に分散しているので、単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)を用いたプラズマ処理に比して、2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)を用いたプラズマ処理の方が、表面処理の均一性が改善されたことが分かる。
<第1の実施の形態の実施例2>
図21は、表面改質と同じプラズマ処理リアクタの構成にて滅菌評価を行った結果を示す。図21(a)は、図43のように構成された単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)とパルス電源26pを用いたプラズマ処理リアクタで滅菌インジケータを滅菌した場合、図21(b)は、図1−3のように構成された第1の実施の形態に係る2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)とパルス電源26を用いたプラズマ処理リアクタで滅菌インジケータを滅菌した場合の結果を示す。
図21(a)及び(b)において、プラズマ放電ギャップを共に40mmとして、処理ガスとして窒素(N2)ガスを導入し、パルス電圧は共に20kV、パルス周波数は共に2.5kHzである。
電極ピッチは、図21(a)の単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)の場合は、60mm、図21(b)の2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)の場合は30mmである。単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)及び2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)は、共に同一のアノードセグメントを用いており、厚さ1mmのアルミナをアノード誘電体として、厚さ0.01mmのタングステン板をアノードメタルとしたものである。それぞれのアノードセグメントの外形高さは30mmで、長さは250mmである。アノードセグメントの形状は、図18(k)に示した片刃型であり、片刃の先端角度は45度である。
図21(a)のようにプラズマストリーマが直接当たるホットスポット(ゾーン)と当たらないコールドスポット(ゾーン)に滅菌インジケータ(BI)を配置し、プラズマ処理した。ホットスポット(ゾーン)では5分で死滅したが、コールドスポット(ゾーン)では10分で死滅した。故に、比較例に係る単系列分割型アノード電極(10a,10b,10c,10d,10e)を用いた場合の滅菌装置での滅菌時間は10分であった。本発明の2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)を用いた構成で、同じように滅菌インジケータを配置し、プラズマ処理した場合、どの位置でも5分で死滅し、滅菌時間は5分となり、処理時間を半減できたことが分かる。
(第2の実施の形態)
図示を省略するが、本発明の第2の実施の形態に係るプラズマ処理装置のプラズマ処理リアクタは、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置と同様に、箱形のケースとケースの下方に位置する底板とで、バッチ式の反応容器(チャンバ)を構成している。ケースの上部には、処理ガスを導入する給気配管が接続され、ケースの側面の下部には、処理ガスを排気する排気配管が接続され、上面の給気配管から処理ガスを給気し、下面の排気配管から処理ガスを排気することができるようになっている。反応容器(チャンバ)を構成している底板の上には、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置と同様に、断熱材が配置され、この断熱材の上に、電気的に絶縁されたヒータが設けられている。カソードを構成するカソードメタル24とは、電気的に絶縁されたヒータの上に配置され、ヒータによりカソードメタル24を加熱することが可能になっている。そして、カソードメタル24に接してカソードメタル24の上には、カソード誘電体が配置され、カソード誘電体の上には、処理対象物(サンプル)が搭載される。処理対象物(サンプル)は、ヒータにより所望の温度まで加熱されることが可能である。第2の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタの内部の上部には、第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタと同様に、整流板が水平に設置されている。
そして、プラズマ処理リアクタの内部の整流板の下方には、図22の鳥瞰図に示すように、3系列アノードセグメントの周期的並列配置を組み合わせた複系列分割型アノード電極(3系列分割型アノード電極)が配置されている。即ち、複数の板状(ブレード状)の第1系列アノードセグメントの周期的並列配置からなる第1系列アノードユニット(11a,11b,11c,11d,11e)と、この第1系列アノードセグメントの周期的並列配置と同一空間周波数で1/3周期ずれた位置に交互に挿入された複数の板状(ブレード状)の第2系列アノードセグメントの周期的並列配置からなる第2系列アノードユニット(12a,12b,12c,12d,12e)と、この第2系列アノードセグメントの周期的並列配置と同一空間周波数で1/3周期ずれた位置に交互に挿入された複数の板状(ブレード状)の第3系列アノードセグメントの周期的並列配置からなる第3系列アノードユニット(13a,13b,13c,13d,13e)とで、第2の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタの3系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e;13a,13b,…,13e)が構成されている。図22では、第1系列アノードセグメント11a,11b,11c,11d,11eとして5枚の板状の第1系列アノードセグメントが、第2系列アノードセグメント12a,12b,12c,12d,12eとして5枚の板状の第2系列アノードセグメントが、第3系列アノードセグメント13a,13b,13c,13d,13eとして5枚の板状の第3系列アノードセグメントが、互いに並列に等間隔で配置された構造が示されているが、例示であり、本発明の第2の実施の形態に係るプラズマ処理装置の第1系列、第2系列及び第3系列アノードセグメントの枚数がそれぞれ5枚に限定される理由はなく、4枚以下、又は6枚以上等、互いに1/3周期ずれた位置に交互に挿入されるトポロジーを維持して、アノードセグメントの枚数を適宜増減することが可能である。
本発明の第2の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタは、第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタと同様に、反応容器の内部の気体圧力を、大気圧(101kPa)、若しくは80〜70kPa程度の大気圧よりも極く僅か低い値に下げるような条件でも安定した放電が可能であり、更に、排気ポンプによって反応容器の内部を10kPa〜50kPa(大気圧の1/10〜1/2)、より望ましくは、20kPa〜40kPaまで減圧することによって、カソードメタル24と3系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)との間の間隔を拡げ(典型的には、大気圧の場合の5倍以上)、立体的な処理対象物(サンプル)に付着した毒素も不活化することができることも可能になる。なお、反応容器の内部を大気圧(101kPa)とする場合には、排気ポンプを省略し、シャワー状に給気された処理ガスが、プラズマ処理リアクタの内部と外部の圧力差によってプラズマ処理リアクタの内部からスリット状の開口部(隙間)を経由して、プラズマ処理リアクタの外部へ排気されるような構成としても構わない。第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタと同様に用いる処理ガスは、プラズマ処理リアクタの処理の内容に応じて、適宜選択可能である。
図22に示したように、プラズマ処理リアクタの外部にはパルス電源26が配置され、パルス電源26と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)とは第1陽極配線31A1で接続され、パルス電源26と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)とは第2陽極配線31A2で接続され、パルス電源26と第3系列アノードユニット(13a,13b,…,13e)とは第3陽極配線31A3で接続され、パルス電源26とカソードメタル24とは陰極配線31Kで接続されている。
第3系列アノードセグメント13a,13b,…,13eに第3陽極配線31A3を接続する構造は、図3に示した第1系列アノードセグメント11a,11b,…11eに第1陽極配線31A1を、第2系列アノードセグメント12a,12b,…12eに第2陽極配線31A2を接続する構造と同様であり、重複した記載を省略する。又、第3系列アノードセグメント13a,13b,…,13eは、図3に示した第1系列アノードセグメント11a,11b,…,11e及び第2系列アノードセグメント12a,12b,…,12eと同様に、第3系列アノードセグメント13a,13b,…,13eの外形をそれぞれ決定する板状のアノード誘電体と、アノード誘電体の内部に埋め込まれた板状(薄膜状)の第3系列のアノードメタル9a,9b,…9eから構成されている。図3に示したのと同様に、第3系列アノードセグメント13a,13b,…,13eは、カソードに対向する側の端部が両刃のくさび型をなしている。そして、第3系列のアノードメタル9a,9b,…,9eは、それぞれ、第3系列アノードセグメント13a,13b,…,13eの外形を決定しているアノード誘電体の厚さ方向における中央部に埋め込まれている。その際、第3系列のアノードメタル9a,9b,…,9eは、それぞれ、対応するアノード誘電体のカソードに近い端面の側に偏在(局在)して埋め込まれている。
第2の実施の形態に係るプラズマ処理装置においては、3系列のアノード側配線をすることにより、図23に模式的に示すように、プラズマ処理リアクタの内部のカソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)に第1の電気パルスを印加してカソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)の間のプラズマ放電ギャップにプラズマを発生させ、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)に、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第2の電気パルスを印加してカソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)の間のプラズマ放電ギャップにプラズマを発生させ、カソードメタル24と第3系列アノードユニット(13a,13b,…,13e)に、第1及び第2の電気パルスのいずれとも位相の異なる第3の電気パルスを印加してカソードメタル24と第3系列アノードユニット(13a,13b,…,13e)の間のプラズマ放電ギャップにプラズマを発生させることができる。
図24(a)に示すように、パルス電源26は、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第1の電気パルスを、カソードメタル24と第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7dとの間に繰り返し印加する。更に、図24(b)に示すように、パルス電源26は、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相が1/3周期異なり、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第2の電気パルスを、カソードメタル24と第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8dとの間に繰り返し印加する。そして、図24(c)に示すように、パルス電源26は、第2の電気パルスとは更に位相が1/3周期異なり、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第3の電気パルスを、カソードメタル24と第3系列のアノードメタル9a,9b,…,9dとの間に繰り返し印加する。図24(a)〜(c)において、第1〜第3の電気パルスのパルス幅は、それぞれ半値幅で50〜300ns程度である。
第1の電気パルスと第2の電気パルスとの位相のずれは、1/3周期に限定されない。図25に示すように、1/3周期以下の短い位相のずれでも、第1系列アノードセグメント11a,11b,11c,11d,11e、第2系列アノードセグメント12a,12b,12c,12d,12e及び第3系列アノードセグメント13a,13b,13c,13d,13eのそれぞれに起因した電位分布の重畳が可能となる。このため、図44−46に示した参考例に係るプラズマリアクタのアノード電極間隔以下に、第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eと第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eとを近づけ、第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eと第3系列のアノードメタル9a,9b,…,9dとを近づけても、電界分布の不均一が生じず、放電空間の全体を均一にプラズマ照射できる。図25(a)は、カソードメタル24と第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7dとの間に印加する第1の電気パルスの波形を示す。図25(b)では、図25(a)に示した第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相が1/3周期より小さな位相ずれの第2の電気パルスを、カソードメタル24と第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8dとの間に繰り返し印加することを示している。図25(c)では、図25(b)に示した第2の電気パルスから位相が1/3周期より小さな位相ずれの第3の電気パルスを、カソードメタル24と第3系列のアノードメタル9a,9b,…,9dとの間に繰り返し印加することを示している。図25(a)〜(c)においても、第1〜第3の電気パルスのパルス幅は、それぞれ半値幅で50〜300ns程度である。図25のようなパルス制御をし、第1の電気パルスと第2の電気パルスとの位相のずれ(遅延時間)が、第1の電気パルスで生成されたプラズマの活性種の寿命よりも短いタイミングになるように選び、第2の電気パルスと第3の電気パルスとの位相のずれ(遅延時間)が、第2の電気パルスで生成されたプラズマの活性種の寿命よりも短いタイミングになるように選べば、放電電圧を図24の場合より低くしても放電できるため、処理対象物(サンプル)に対して同じ効果を少ない電力で達成できる。
パルス電源26には、図26に示すような、3系列IES回路を採用することが高速スイッチングを実現する上で望ましい。3系列IES回路は、3系列のSIサイリスタのクロージングスイッチ機能の他、オープニングスイッチング機能を用いて3系列のターンオフを行い、3系列のSIサイリスタのターンオフによりそれぞれのSIサイリスタのゲート・アノード間に高圧を発生させている。3系列IES回路は、共通の低電圧直流電源V0を備える。低電圧直流電源V0の電圧Eは、3系列IES回路が発生させる第1〜第3の電気パルスの電圧のピーク値より著しく低いことが許容される。例えば、後述する第1のインダクタL1、第2のインダクタL2又は第3のインダクタL3の両端に発生させる電圧VLのピーク値VLPが数kVに達しても、低電圧直流電源V0の電圧Eは数10Vであることが許容される。電圧Eの下限は後述する第1のSIサイリスタSITh1、第2のSIサイリスタSITh2又は第3のSIサイリスタSITh3のラッチング電圧以上で決定される。3系列IES回路は、共通の低電圧直流電源V0を電気エネルギ源として利用可能であるので、小型・低コストに構築可能である。図示を省略しているが、3系列IES回路は、共通の低電圧直流電源V0に並列接続されるコンデンサを備えるようにすることが好ましい。並列接続されるコンデンサは、低電圧直流電源V0のインピーダンスを見かけ上低下させることにより低電圧直流電源V0の放電能力を強化する。
更に、図26に示すように、3系列IES回路は、ゲート駆動回路136と、第1の電気パルスを生成する第1のインダクタL1、第1のSIサイリスタSITh1、第1のMOS電界効果トランジスタFET1、第1のダイオードD1と、第2の電気パルスを生成する第2のインダクタL2、第2のSIサイリスタSITh2、第2のMOS電界効果トランジスタFET2、第2のダイオードD2と、第3の電気パルスを生成する第3のインダクタL3、第3のSIサイリスタSITh3、第3のMOS電界効果トランジスタFET3、第3のダイオードD3とを備える。
3系列IES回路では、第1の電気パルスを生成するために、低電圧直流電源V0の正極と第1のインダクタL1の一端とが接続され、第1のインダクタL1の他端と第1のSIサイリスタSITh1のアノードとが接続され、第1のSIサイリスタSITh1のカソードと第1のMOS電界効果トランジスタFET1のドレインとが接続され、第1のMOS電界効果トランジスタFET1のソースと低電圧直流電源V0の負極とが接続されている。又、3系列IES回路では、第1のSIサイリスタSITh1のゲートと第1のダイオードD1のアノードとが接続され、第1のダイオードD1のカソードと第1のインダクタL1の一端(低電圧直流電源V0の正極)とが接続される。第1のMOS電界効果トランジスタFET1のゲート及びソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
同様に、第2の電気パルスを生成するために、図26に示すように、低電圧直流電源V0の正極と第2のインダクタL2の一端とが接続され、第2のインダクタL2の他端と第2のSIサイリスタSITh2のアノードとが接続され、第2のSIサイリスタSITh2のカソードと第2のMOS電界効果トランジスタFET2のドレインとが接続され、第2のMOS電界効果トランジスタFET2のソースと低電圧直流電源V0の負極とが接続されている。又、3系列IES回路では、第2のSIサイリスタSITh2のゲートと第2のダイオードD2のアノードとが接続され、第2のダイオードD2のカソードと第2のインダクタL2の一端(低電圧直流電源V0の正極)とが接続される。第2のMOS電界効果トランジスタFET2のゲート及びソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
更に、第3の電気パルスを生成するために、図26に示すように、低電圧直流電源V0の正極と第3のインダクタL3の一端とが接続され、第3のインダクタL3の他端と第3のSIサイリスタSITh3のアノードとが接続され、第3のSIサイリスタSITh3のカソードと第3のMOS電界効果トランジスタFET3のドレインとが接続され、第3のMOS電界効果トランジスタFET3のソースと低電圧直流電源V0の負極とが接続されている。又、3系列IES回路では、第3のSIサイリスタSITh3のゲートと第3のダイオードD3のアノードとが接続され、第3のダイオードD3のカソードと第3のインダクタL3の一端(低電圧直流電源V0の正極)とが接続される。第3のMOS電界効果トランジスタFET3のゲート及びソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
第1の電気パルスを生成する第1のSIサイリスタSITh1は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。第1のMOS電界効果トランジスタFET1は、ゲート駆動回路136から与えられる第1ゲート信号Vc1に応答してドレイン・ソース間の導通状態が変化するスイッチング素子である。第1のMOS電界効果トランジスタFET1のオン電圧又はオン抵抗は低いことが望ましい。又、第1のMOS電界効果トランジスタFET1の耐圧は低電圧直流電源V0の電圧Eより高いことを要する。第1のダイオードD1は、第1のSIサイリスタSITh1のゲートに正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、即ち、第1のSIサイリスタSITh1のゲートに正バイアスを与えた場合に第1のSIサイリスタSITh1が電流駆動とならないようにするために設けられる。第1のインダクタL1は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、第1の負荷139aが並列接続される。第1の負荷139aは、図22のカソードメタル24と第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eとの間が対応する。ゲート駆動回路136が第1ゲート信号Vc1を第1のMOS電界効果トランジスタFET1に印加することにより、第1のMOS電界効果トランジスタFET1がターンオンし、これにより、第1のSIサイリスタSITh1が導通状態となり、第1のインダクタL1に電流i1が流れ、これにより第1の負荷139aに出力1のパルスが発生する。なお、昇圧トランスの1次側を第1のインダクタL1として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に第1の負荷139aを接続すれば、電圧のピーク値がより高い第1の電気パルスを得ることができる。
同様に、第2の電気パルスを生成する第2のSIサイリスタSITh2は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。第2のMOS電界効果トランジスタFET2は、ゲート駆動回路136から与えられる第2ゲート信号Vc2に応答してドレイン・ソース間の導通状態が変化するスイッチング素子である。ゲート駆動回路136は、第1のMOS電界効果トランジスタFET1に与える第1ゲート信号Vc1から一定の遅延時間を有して、第2ゲート信号Vc2を、第2のMOS電界効果トランジスタFET2に印加する。第2のMOS電界効果トランジスタFET2のオン電圧又はオン抵抗は低いことが望ましい。又、第2のMOS電界効果トランジスタFET2の耐圧は低電圧直流電源V0の電圧Eより高いことを要する。第2のダイオードD2は、第2のSIサイリスタSITh2のゲートに正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、即ち、第2のSIサイリスタSITh2のゲートに正バイアスを与えた場合に第2のSIサイリスタSITh2が電流駆動とならないようにするために設けられる。第2のインダクタL2は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、第2の負荷139bが並列接続される。第2の負荷139bは、図22のカソードメタル24と第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eとの間が対応する。ゲート駆動回路136が、第2ゲート信号Vc2を第2のMOS電界効果トランジスタFET2に印加することにより、第2のMOS電界効果トランジスタFET2がターンオンし、これにより、第2のSIサイリスタSITh2が導通状態となり、第2のインダクタL2に電流i2が流れ、これにより第2の負荷139bに出力1のパルスから一定時間遅延した出力2のパルスが発生する。なお、昇圧トランスの1次側を第2のインダクタL2として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に第2の負荷139bを接続すれば、電圧のピーク値がより高い第2の電気パルスを得ることができる。
更に、第3の電気パルスを生成する第3のSIサイリスタSITh3は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。第3のMOS電界効果トランジスタFET3は、ゲート駆動回路136から与えられる第3ゲート信号Vc3に応答してドレイン・ソース間の導通状態が変化するスイッチング素子である。ゲート駆動回路136は、第1のMOS電界効果トランジスタFET1に与える第1ゲート信号Vc1から一定の遅延時間を有して、第3ゲート信号Vc3を、第3のMOS電界効果トランジスタFET3に印加する。第3のMOS電界効果トランジスタFET3のオン電圧又はオン抵抗は低いことが望ましい。又、第3のMOS電界効果トランジスタFET3の耐圧は低電圧直流電源V0の電圧Eより高いことを要する。第3のダイオードD3は、第3のSIサイリスタSITh3のゲートに正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、即ち、第3のSIサイリスタSITh3のゲートに正バイアスを与えた場合に第3のSIサイリスタSITh3が電流駆動とならないようにするために設けられる。第3のインダクタL3は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、第3の負荷139cが並列接続される。第3の負荷139cは、図22のカソードメタル24と第3系列のアノードメタル8a,8b,…,8eとの間が対応する。ゲート駆動回路136が、第3ゲート信号Vc3を第3のMOS電界効果トランジスタFET3に印加することにより、第3のMOS電界効果トランジスタFET3がターンオンし、これにより、第3のSIサイリスタSITh3が導通状態となり、第3のインダクタL3に電流i3が流れ、これにより第3の負荷139cに出力1のパルスから一定時間遅延した出力2のパルスが発生する。なお、昇圧トランスの1次側を第3のインダクタL3として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に第3の負荷139cを接続すれば、電圧のピーク値がより高い第3の電気パルスを得ることができる。
図27のタイミングチャートに示すように、ゲート駆動回路136が、第1のMOS電界効果トランジスタFET1に与える第1ゲート信号Vc1から一定の遅延時間を有して、第2ゲート信号Vc2を、第2のMOS電界効果トランジスタFET2に印加することにより、第2のMOS電界効果トランジスタFET2がターンオンし、これにより、第2のSIサイリスタSITh2が導通状態となり、第2のインダクタL2の1次側に電流i2が流れ、この結果、第2のインダクタL2の2次側に、出力1のパルスから一定時間遅延した出力2のパルスが発生する。
更に、図27のタイミングチャートに示すように、ゲート駆動回路136が、第2のMOS電界効果トランジスタFET2に与える第2ゲート信号Vc2から一定の遅延時間を有して、第3ゲート信号Vc3を、第3のMOS電界効果トランジスタFET3に印加することにより、第3のMOS電界効果トランジスタFET3がターンオンし、これにより、第3のSIサイリスタSITh3が導通状態となり、第3のインダクタL3の1次側に電流i3が流れ、この結果、第3のインダクタL3の2次側に、出力1のパルスから一定時間遅延した出力2のパルスが発生する。
このようにして、カソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)に第1の電気パルスを印加し、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)に、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第2の電気パルスを印加し、カソードメタル24と第3系列アノードユニット(13a,13b,…,13e)に、第2の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第3の電気パルスを印加することにより、図23に示したように、カソードメタル24と3系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e;13a,13b,…,13e)の間に密度の高いファインストリーマプラズマを発生させることができる。
パルス電源26は、図26に示した3系列IES回路に限定されるものではない。図28に示すような絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を用いた3系列パルス回路でも可能である。図28に示すように、この3系列パルス回路は、ゲート駆動回路136と、第1の電気パルスを生成する第1のインダクタL1、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1、第1のフリーホイールダイオードFWD1、第1のゲート抵抗Rg1と、及び第2の電気パルスを生成する第2のインダクタL2、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2、第2のフリーホイールダイオードFWD2、第2のゲート抵抗Rg2と、第3の電気パルスを生成する第3のインダクタL3、第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3、第3のフリーホイールダイオードFWD3、第3のゲート抵抗Rg3とを備える。
図28に示す3系列パルス回路では、第1の電気パルスを生成するために、低電圧直流電源V0の正極と第1のインダクタL1の一端とが接続され、第1のインダクタL1の他端と第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1のコレクタとが接続され、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1のエミッタと低電圧直流電源V0の負極とが接続されている。又、3系列パルス回路では、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1のエミッタと第1のフリーホイールダイオードFWD1のアノードが接続され、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1のコレクタと第1のフリーホイールダイオードFWD1のカソードが接続され、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1のゲート及びソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
同様に、図28に示す3系列パルス回路では、第2の電気パルスを生成するために、低電圧直流電源V0の正極と第2のインダクタL2の一端とが接続され、第2のインダクタL2の他端と第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2のコレクタとが接続され、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2のエミッタと低電圧直流電源V0の負極とが接続されている。又、3系列パルス回路では、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2のエミッタと第2のフリーホイールダイオードFWD2のアノードが接続され、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2のコレクタと第2のフリーホイールダイオードFWD2のカソードが接続され、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2のゲートには、ゲート駆動回路136が接続される。
更に、3系列パルス回路では、第3の電気パルスを生成するために、低電圧直流電源V0の正極と第3のインダクタL3の一端とが接続され、第3のインダクタL3の他端と第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3のコレクタとが接続され、第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3のエミッタと低電圧直流電源V0の負極とが接続されている。又、3系列パルス回路では、第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3のエミッタと第3のフリーホイールダイオードFWD3のアノードが接続され、第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3のコレクタと第3のフリーホイールダイオードFWD3のカソードが接続され、第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3のゲートには、ゲート駆動回路136が接続される。
第1の電気パルスを生成する第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1は、ゲート駆動回路136から与えられる第1ゲート信号Vc1に応答してコレクタ・エミッタ間の導通状態が変化するスイッチング素子である。第1のインダクタL1は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、第1の負荷139aが並列接続される。第1の負荷139aは、図22のカソードメタル24と第1系列のアノードメタル7a,7b,…,7eとの間が対応する。ゲート駆動回路136が第1ゲート信号Vc1を第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1に印加することにより、図29に示すように、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1がターンオンし、第1のインダクタL1に電流i1が流れ、これにより第1の負荷139aに出力1のパルスが発生する。なお、昇圧トランスの1次側を第1のインダクタL1として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に第1の負荷139aを接続すれば、電圧のピーク値がより高い第1の電気パルスを得ることができる。
同様に、第2の電気パルスを生成する第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2は、ゲート駆動回路136から与えられる第2ゲート信号Vc2に応答してコレクタ・エミッタ間の導通状態が変化するスイッチング素子である。ゲート駆動回路136は、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1に与える第1ゲート信号Vc1から一定の遅延時間を有して、第2ゲート信号Vc2を、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2に印加する。第2のインダクタL2は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、第2の負荷139bが並列接続される。第2の負荷139bは、図22のカソードメタル24と第2系列のアノードメタル8a,8b,…,8eとの間が対応する。ゲート駆動回路136が、第2ゲート信号Vc2を第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2に印加することにより、図29に示すように、第2の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT2がターンオンし、第2のインダクタL2に電流i2が流れ、これにより第2の負荷139bに出力1のパルスから一定時間遅延した出力2のパルスが発生する。なお、昇圧トランスの1次側を第2のインダクタL2として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に第2の負荷139bを接続すれば、電圧のピーク値がより高い第2の電気パルスを得ることができる。
更に、第3の電気パルスを生成する第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3は、ゲート駆動回路136から与えられる第3ゲート信号Vc3に応答してコレクタ・エミッタ間の導通状態が変化するスイッチング素子である。ゲート駆動回路136は、第1の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT1に与える第1ゲート信号Vc1から一定の遅延時間を有して、第3ゲート信号Vc3を、第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3に印加する。第3のインダクタL3は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、第3の負荷139cが並列接続される。第3の負荷139cは、図22のカソードメタル24と第3系列のアノードメタル8a,8b,…,8eとの間が対応する。ゲート駆動回路136が、第3ゲート信号Vc3を第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3に印加することにより、図29に示すように、第3の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタIGBT3がターンオンし、第3のインダクタL3に電流i3が流れ、これにより第3の負荷139cに出力1のパルスから一定時間遅延した出力2のパルスが発生する。なお、昇圧トランスの1次側を第3のインダクタL3として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に第3の負荷139cを接続すれば、電圧のピーク値がより高い第3の電気パルスを得ることができる。
なお、図22及び図23等においては、アノードセグメント(アノード誘電体)の断面形状は、それぞれカソードに対向する側の端部が両刃のくさび型をなす構造を例示したが、アノードセグメント(アノード誘電体)の断面形状は端部が両刃のくさび型をなす構造に限定されるものではなく、第1の実施の形態において、図18に示したような種々のアノードセグメント(アノード誘電体)11j1〜11j18の断面形状であっても良い。
(第3の実施の形態)
第1及び第2の実施の形態では、複数の板状(ブレード状)のアノードセグメントの周期的並列配置からなる2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)及び3系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e;13a,13b,…,13e)について説明したが、図30に示すような円柱状(線状)のアノードセグメント(アノードメタル)により3系列分割型アノード電極(7a,7b,…,7d;8a,8b,…,8d;9a,9b,…,9d)を構成しても良い。
図30の3系列分割型アノード電極(7a,7b,…,7d;8a,8b,…,8d;9a,9b,…,9d)は、複数の円柱状(線状)の第1系列のアノードメタルの周期的並列配置からなる第1系列アノードユニット(7a,7b,7c,7d)と、この第1系列のアノードメタルの周期的並列配置と同一空間周波数で1/3周期ずれた位置に交互に挿入された複数の円柱状(線状)の第2系列のアノードメタルの周期的並列配置からなる第2系列アノードユニット(8a,8b,8c,8d)と、この第2系列のアノードメタルの周期的並列配置と同一空間周波数で1/3周期ずれた位置に交互に挿入された複数の円柱状(線状)の第3系列のアノードメタルの周期的並列配置からなる第3系列アノードユニット(9a,9b,9c,9d)とで構成されている。図30では、第1系列のアノードメタル7a,7b,7c,7d,7dとして4本の円柱状(線状)の第1系列のアノードメタルが、第2系列のアノードメタル8a,8b,8c,8d,8dとして4本の円柱状(線状)の第2系列のアノードメタルが、第3系列のアノードメタル9a,9b,9c,9d,9dとして4本の円柱状(線状)の第3系列のアノードメタルが、互いに並列に等間隔で配置された構造が示されているが、例示であり、第1系列、第2系列及び第3系列のアノードメタルの枚数がそれぞれ4本に限定される理由はなく、3本以下、又は5本以上等、互いに1/3周期ずれた位置に交互に挿入されるトポロジーを維持して、アノードメタルの枚数を適宜増減することが可能である。又、図30に示すような円柱状(線状)のアノードメタルにより2系列分割型アノード電極を構成しても良いことは勿論である。第1系列のアノードメタル7a,7b,7c,7d,7d、第2系列のアノードメタル8a,8b,8c,8d,8が、第3系列のアノードメタル9a,9b,9c,9d,9dのそれぞれの直径は、例えば、0.06mm〜1.5mm程度に選べば良い。
図30に示したように、プラズマ処理リアクタの外部にはパルス電源26が配置され、パルス電源26と第1系列アノードユニット(7a,7b,…,7d)とは第1陽極配線31A1で接続され、パルス電源26と第2系列アノードユニット(8a,8b,…,8d)とは第2陽極配線31A2で接続され、パルス電源26と第3系列アノードユニット(9a,9b,…,9d)とは第3陽極配線31A3で接続され、パルス電源26とカソードメタル24とは陰極配線31Kで接続されている。他は、第2の実施の形態に係るプラズマ処理装置と実質的に同様であるので、重複した説明を省略する。
(第4の実施の形態)
図30の3系列分割型アノード電極(7a,7b,…,7d;8a,8b,…,8d;9a,9b,…,9d)は、複数の円柱状(線状)のアノードメタルがプラズマ空間に露出しているが、図31に示すように、第1系列のアノードメタル7a,7b,7c,7d,7d、第2系列のアノードメタル8a,8b,8c,8d,8d、及び第3系列のアノードメタル9a,9b,9c,9d,9dを、共通のアノード誘電体5の内部に埋め込むようにすれば、3系列分割型アノード電極(7a,7b,…,7d;8a,8b,…,8d;9a,9b,…,9d)の寿命が長くなるので好ましい。図30に示したアノード誘電体5は、カソードメタル24に対向する下面側の形状が、カソードメタル24に対向する複数の稜線となる複数の3角形(3角柱)が連続した波形をなしているが、アノード誘電体5のカソードメタル24に対向する下面側の凸部の断面形状は、矩形や片刃構造等、図18に示した種々のアノードセグメント(アノード誘電体)11j1〜11j18と同様な種々なトポロジーが採用可能である。
本発明の第1の実施の形態は、n=2として複数のアノードセグメントを同一の空間周波数で1次元方向に並列に配置してなるアノードユニットを、n=2系列、1次元方向に沿って順次周期的に組み合わせてなる複系列分割型アノード電極の構造に付いての例示であり、本発明の第2の実施の形態は、n=3として複数のアノードセグメントを同一の空間周波数で1次元方向に並列に配置してなるアノードユニットを、n=3系列、1次元方向に沿って順次周期的に組み合わせてなる複系列分割型アノード電極の構造に付いての例示であるが、n>3でも同様である(nは正の整数。)。即ち、より一般的には、n系列のアノードユニットを、それぞれ空間周波数に対応する周期を1/n等分した位置毎に順次挿入すれば良い。そして、このn系列のアノードユニットからなる複系列分割型アノード電極とカソード間に処理ガスを導入し、n系列のそれぞれのアノードユニットに同一繰り返し周波数で互いに位相の異なるパルスを印加して、複系列分割型アノード電極とカソード間にプラズマを生成することができる。nの数を大きくすればするほど、処理の均一性は改善される。
(第5の実施の形態)
以上において、複数の板状(ブレード状)のアノードセグメント、若しくは複数の円柱状(線状)のアノードセグメント(アノードメタル)を1次元方向に配列した複系列分割型アノード電極について説明したが、図32のようにカソードメタル24に垂直な円柱状のアノードセグメント(アノードメタル)4ijを2次元に配置したマトリクスにより剣山状の2次元分割型アノード電極を構成しても良い。マトリクスを構成する円柱状のアノードメタル4ijのそれぞれの直径は、0.06mm〜1.5mm程度に選べば良い。円柱状のアノードメタル4ijのそれぞれは、アノード誘電体6にマトリクス状に開口された穴部に嵌合し、固定されている。即ち、図32に示す複系列分割型アノード電極は、端部を同一平面に揃え、同一方向に延伸する複数のアノードセグメント4ijをマトリクス状に配列している。
一方、カソードメタル24は、アノードセグメント4ijの延伸方向に直交する表面を有し、端部がなす平面に対向して配置されている。
図33は、図32に示す鳥瞰図に対応する上面図であり、パルス電源26と第1系列アノードユニット(…,4ij-1,4ij+1,4ij+3,…)とは第1陽極配線31A1で接続され、パルス電源26と第2系列アノードユニット(…,4i+1j-1,4i+1j+1,4i+1j+3,…)とは第2陽極配線31A2で接続され、パルス電源26と第3系列アノードユニット(…,4ij-2,4ij,4ij+2,…)とは第3陽極配線31A3で接続され、パルス電源26と第4系列アノードユニット(…,4i+1j-2,4i+1j,4i+1j+2,…)とは第4陽極配線31A4で接続され、パルス電源26とカソードメタル24とは陰極配線31Kで接続されている。図33のように結線し、例えば、カソードメタル24と第1系列アノードユニット(…,4ij-1,4ij+1,4ij+3,…)に第1の電気パルスを印加し、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(…,4i+1j-1,4i+1j+1,4i+1j+3,…)に、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第2の電気パルスを印加し、カソードメタル24と第3系列アノードユニット(…,4ij-2,4ij,4ij+2,…)に、第2の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第3の電気パルスを印加し、カソードメタル24と第4系列アノードユニット(…,4i+1j-2,4i+1j,4i+1j+2,…)に、第3の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第4の電気パルスを印加することにより、カソードメタル24と剣山状の2次元分割型アノード電極(…,4ij,…)の間に密度の高いファインストリーマプラズマを発生させることができる。それぞれの位相のずれは1/4周期に設定しても良く、1/4周期より短く、プラズマの活性種の寿命より長い時間に設定しても良い。図33に示す配線構造は例示であり、図42に示したマトリクスにおいて、隣接するセグメントが互いに異なる系列に属するように、複数のアノードセグメントを複数の系列のアノードユニットに割り当てれば良いので、系列の割り当て方法や結線方法は図33に示した構造に限定されるものではない。いずれにせよ、図32及び図33に示すような剣山状の2次元分割型アノード電極(…,4ij,…)であっても、複系列分割型アノード電極とカソード間に
処理ガスを導入し、異なる系列のアノードユニットに、同一繰り返し周波数で互いに位相の異なるパルスを印加して、複系列分割型アノード電極とカソード間に均一なプラズマを生成することができる。
(第6の実施の形態)
第6の実施の形態に係るプラズマ処理装置は、図34に示すように、板状(ブレード状)の第1系列アノードセグメントの2枚を単位とする周期的並列配置からなる第1系列アノードユニット(11a,11b,11c,11d,11e,11f)と、この第1系列アノードセグメントの2枚を単位とする周期的並列配置と同一空間周波数で1/2周期ずれた位置に交互に2枚を単位として挿入された板状(ブレード状)の第2系列アノードセグメントの周期的並列配置からなる第2系列アノードユニット(12a,12b,12c,12d,12e,12f)とで、2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11f;12a,12b,…,12f)を構成している。図示を省略しているが、本発明の第6の実施の形態に係るプラズマ処理装置のプラズマ処理リアクタの全体を示す全体を示す概略構造は、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置と同様であり、箱形のケースとケースの下方に位置する底板とで、バッチ式の反応容器(チャンバ)を構成している。反応容器(チャンバ)の内部の上部には、第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタと同様に、整流板が水平に設置されており、この整流板の下方に図34の複系列分割型アノード電極(2系列分割型アノード電極)が配置されている。
なお、図34では、第1系列アノードセグメント11a,11b,11c,11d,11e,11f)として、6枚の板状の第1系列アノードセグメントが並列に等間隔で配置された構造が、第2系列アノードセグメント12a,12b,12c,12d,12e,12f)として、6枚の板状の第2系列アノードセグメントが並列に等間隔で配置された構造が示されているが、例示であり、2枚を単位とした交互配置であれば、本発明の第6の実施の形態に係るプラズマ処理装置の第1系列及び第2系列アノードセグメントの枚数がそれぞれ6枚に限定される理由はなく、4枚以下、又は8枚以上等でもよい。即ち、2枚を単位とした周期的並列配置において、互いに1/2周期ずれた位置に交互に挿入されるトポロジーであれば、アノードセグメントの枚数を適宜増減することが可能である。
図34に示したように、プラズマ処理リアクタの外部にはパルス電源26が配置され、パルス電源26と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11f)とは第1陽極配線31A1で2枚を単位として接続され、パルス電源26と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12f)とは第2陽極配線31A2で2枚を単位として接続され、パルス電源26とカソードメタル24とは陰極配線31Kで接続されている。
パルス電源26は、図8(a)に示したのと同様に、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第1の電気パルスを、図35に示すように、カソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11f)との間に繰り返し印加する。更に、図8(b)に示したのと同様に、パルス電源26は、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相が1/2周期異なり、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第2の電気パルスを、図36に示すように、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12f)との間に繰り返し印加する。第1の電気パルス及び第2の電気パルスのパルス幅は、半値幅で50〜300ns程度である。
第1の電気パルスと第2の電気パルスとの位相のずれは、1/2周期に限定されない。図9に示すように、1/2周期以下の短い位相のずれでも、図6−7に示したような電位分布の重畳が可能となるので、図44−46に示した参考例に係るプラズマリアクタのアノード電極間隔以下に、第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11f)と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12f)とを近づけても、電界分布の不均一が生じず、放電空間の全体を均一にプラズマ照射できる。図6、7から分かるように3枚以上を単位として周期的に並べた場合は両端以外の陽極から電界が弱まるため放電は発生しないが、2枚を単位として周期的に並べた場合は発生できる。
図35及び図36に示したように、カソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11f)に第1の電気パルスを印加し、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12f)に、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第2の電気パルスを印加することにより、カソードメタル24と2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11f;12a,12b,…,12f)の間に密度の高いファインストリーマプラズマを発生させることができる。
<第6の実施の形態の変形例>
第6の実施の形態の変形例に係るプラズマ処理装置は、図37に示すように、板状(ブレード状)の第1系列アノードセグメントの1枚目(最初の1枚)を別として、他が2枚を単位とする周期的並列配置からなる第1系列アノードユニット(11a,11b,11c,11d,11e)と、この第1系列アノードセグメントの周期的並列配置と同一空間周波数で1/2周期ずれた位置に交互に最後の1枚を除き、他を2枚を単位として挿入された板状(ブレード状)の第2系列アノードセグメントの周期的並列配置からなる第2系列アノードユニット(12a,12b,12c,12d,12e)とで、2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)を構成している。即ち、両側が1枚であるが、他は、2枚を単位として交互に挿入された周期的配置で、2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)を構成している。
図37に示したように、プラズマ処理リアクタの外部にはパルス電源26が配置され、パルス電源26と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)とは第1陽極配線31A1で2枚を単位として接続され、パルス電源26と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)とは第2陽極配線31A2で2枚を単位として接続され、パルス電源26とカソードメタル24とは陰極配線31Kで接続されている。パルス電源26は、図8(a)又は図9(a)に示したのと同様に、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第1の電気パルスを、カソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)との間に繰り返し印加する。更に、図8(b)又は図9(b)に示したのと同様に、パルス電源26は、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相が1/2周期異なり、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第2の電気パルスを、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)との間に繰り返し印加する。
このようにして、カソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11e)に第1の電気パルスを印加し、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12e)に、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第2の電気パルスを印加することにより、カソードメタル24と2系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11e;12a,12b,…,12e)の間に密度の高いファインストリーマプラズマを発生させることができる。
(第7の実施の形態)
図示を省略しているが、本発明の第7の実施の形態に係るプラズマ処理装置のプラズマ処理リアクタは、第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置と同様に、箱形のケースとケースの下方に位置する底板とで、バッチ式の反応容器(チャンバ)を構成しており、反応容器(チャンバ)の内部の上部には、第1の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタと同様に、整流板が水平に設置されている。そして、プラズマ処理リアクタの内部の整流板の下方には、図38の鳥瞰図に示すように、3系列アノードセグメントの周期的並列配置を組み合わせた複系列分割型アノード電極(3系列分割型アノード電極)が配置されている。即ち、板状(ブレード状)の第1系列アノードセグメントの2枚を単位とした周期的並列配置からなる第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11f)と、この第1系列アノードセグメントの周期的並列配置と同一空間周波数で1/3周期ずれた位置に2枚を単位として交互に挿入された板状(ブレード状)の第2系列アノードセグメントの周期的並列配置からなる第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12d)と、この第2系列アノードセグメントの周期的並列配置と同一空間周波数で1/3周期ずれた位置に2枚を単位として交互に挿入された板状(ブレード状)の第3系列アノードセグメントの周期的並列配置からなる第3系列アノードユニット(13a,13b,…,13d)とで、第7の実施の形態に係るプラズマ処理リアクタの3系列分割型アノード電極(11a,11b,…,11d;12a,12b,…,12d;13a,13b,…,13d)が構成されている。図38では、第1系列アノードセグメント11a,11b,11c,11d,11e,11fとして6枚の板状の第1系列アノードセグメントが、第2系列アノードセグメント12a,12b,12c,12dとして4枚の板状の第2系列アノードセグメントが、第3系列アノードセグメント13a,13b,13c,13dとして4枚の板状の第3系列アノードセグメントが、互いに並列に等間隔で配置された構造が示されているが、例示であり、第2系列アノードセグメントが6枚でも良く、更に、及び第3系列アノードセグメントが6枚でも良い。更に、本発明の第7の実施の形態に係るプラズマ処理装置の第1系列、第2系列及び第3系列アノードセグメントの枚数がそれぞれ6枚又は4枚に限定される理由はなく、2枚、又は8枚以上等、互いに1/3周期ずれた位置に2枚を単位として交互に挿入されるトポロジーを維持して、アノードセグメントの枚数を適宜増減することが可能である。
図38に示したように、プラズマ処理リアクタの外部にはパルス電源26が配置され、パルス電源26と2枚を単位とする第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11f)とは第1陽極配線31A1で接続され、パルス電源26と2枚を単位とする第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12d)とは第2陽極配線31A2で接続され、パルス電源26と2枚を単位とする第3系列アノードユニット(13a,13b,…,13d)とは第3陽極配線31A3で接続され、パルス電源26とカソードメタル24とは陰極配線31Kで接続されている。第7の実施の形態に係るプラズマ処理装置においては、それぞれ2枚を単位とする周期的配列からなる3系列のアノード側配線をすることにより、プラズマ処理リアクタの内部のカソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11f)に第1の電気パルスを印加してカソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11f)の間のプラズマ放電ギャップにプラズマを発生させ、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12d)に、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相の異なる第2の電気パルスを印加してカソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12d)の間のプラズマ放電ギャップにプラズマを発生させ、カソードメタル24と第3系列アノードユニット(13a,13b,…,13d)に、第1及び第2の電気パルスのいずれとも位相の異なる第3の電気パルスを印加してカソードメタル24と第3系列アノードユニット(13a,13b,…,13d)の間のプラズマ放電ギャップにプラズマを発生させることができる。
図24(a)に示したのと同様に、パルス電源26は、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第1の電気パルスを、カソードメタル24と第1系列アノードユニット(11a,11b,…,11f)との間に繰り返し印加する。更に、図24(b)に示したのと同様に、パルス電源26は、第1の電気パルスとは同一繰り返し周波数で、位相が1/3周期異なり、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第2の電気パルスを、カソードメタル24と第2系列アノードユニット(12a,12b,…,12d)との間に繰り返し印加する。そして、図24(c)に示したのと同様に、パルス電源26は、第2の電気パルスとは更に位相が1/3周期異なり、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす第3の電気パルスを、カソードメタル24と第3系列アノードユニット(13a,13b,…,13d)との間に繰り返し印加する。第1の電気パルスと第2の電気パルスとの位相のずれは、1/3周期に限定されない。図25に示したのと同様に、1/3周期以下の短い位相のずれでも、第1系列アノードセグメント11a,11b,…,11f、第2系列アノードセグメント12a,12b,…,12d及び第3系列アノードセグメント13a,13b,…,13dのそれぞれに起因した電位分布の重畳が可能となる。図24及び図25に示したのと同様のパルス制御をし、第1の電気パルスと第2の電気パルスとの位相のずれ(遅延時間)が、第1の電気パルスで生成されたプラズマの活性種の寿命よりも短いタイミングになるように選び、第2の電気パルスと第3の電気パルスとの位相のずれ(遅延時間)が、第2の電気パルスで生成されたプラズマの活性種の寿命よりも短いタイミングになるように選べば、放電電圧を低くしても放電できるため、処理対象物(サンプル)に対して同じ効果を少ない電力で達成できる。
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1〜第7の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
図39に示したように、第1系列アノードユニット(11a,11b,11c)と第2系列アノードユニット(12a,12b,12c)との電極間の距離が十分に離間していれば、放電は陽極(アノードセグメント)の先端から陰極(カソードメタル)24にのみ向かって飛ぶ。しかし、図40に示したように、第1系列アノードユニット(11a,11b,11c)と第2系列アノードユニット(12a,12b,12c)との電極間距離を近づけていくと、電界が集中する陽極(アノードセグメント)の先端で、オフ状態の陽極(アノードセグメント)に向かって横方向にストリーマが飛ぶようになり、陽極(アノードセグメント)間で放電が発生しやすくなる。このような陽極間の漏れ放電は、アノードセグメント11a,11b,11c;12a,12b,12cの先端形状にも依存するが、アノードセグメントの先端形状がくさび型であれば、アノードセグメント間距離をw、陽極(アノードセグメント)の先端と陰極(カソードメタル)との距離をhとすれば、
w<(1/2)h ……(1)
で発生しやすくなる。このような陽極間の漏れ放電が起きると本来のプラズマ空間での処理効率が落ちる。
図40に示すように第1系列アノードユニット(11a,11b,11c)がオン状態の時、隣の第2系列アノードユニット(12a,12b,12c)の陽極(アノードセグメント)が電気的に浮いていても、オン状態の陽極(アノードセグメント)の間に電位差が発生する。陰極(カソードメタル)24への放電に打ち勝つ条件の場合、図40に示すように隣に横方向の放電が発生する。放電箇所は電界集中のある陽極(アノードセグメント)先端部で最初に起きる。
そこで、図41のように陽極(アノードセグメント)間に絶縁板15a,15b,15c,15d,15eを設置し、陽極(アノードセグメント)間の空間距離を大きくすることで、陽極間の漏れ放電が起きないように出来る。絶縁板15a,15b,15c,15d,15eは、アルミナなどのセラミックスで構成すれば良い。
なお、図1〜図5及び図18等に示したアノード誘電体の端を図47(b)に示すようにグレーズ(釉薬)処理を行い、ガラス質の膜(グレーズ膜)で表面をなめらかにすれば、プラズマ放電の集中が減少し、プラズマ処理リアクタの安定性が向上する。図47(a)は、図18(j)に示したアノード誘電体11jに対応するが、アノードメタル9jを両側からアノード誘電体11jで挟んだ構造であるので、図47(a)の下部中央に破線で示したような接合界面が存在する。例えば、バルクのアルミナの絶縁耐圧は、一般的に10kV/mm以上(例えば、実測値で14kV/mmの値が得られている)であるが、図47(a)の破線で示した接合界面では、5〜8kV/mmと絶縁破壊電圧の弱い箇所が発生する。グレーズ処理により、図47(b)に示すように、アノード誘電体11jをグレーズ膜16jで被覆することにより、絶縁破壊電圧の弱い接合界面の絶縁耐圧を向上する。
表2に示すように、グレーズ膜16jのヤング率は、セラミックス電極に比べ一桁程度小さいため、グレーズ処理により、アノード誘電体11jの先端表面がスムーズになる。図48(a)は、グレーズ処理前のアノード誘電体11jの先端表面を誇張して模式的に示したが、グレーズ処理前のアノード誘電体11jの先端表面は、通常、JISB O601-1982に規定する中心線平均粗さRa=0.3〜0.4μm、最大高さRmax=10〜12μm程度の凹凸がある。これをグレーズ処理することにより、アノード誘電体11jの先端表面は、図48(b)に示すようにスムーズになる。図48(b)は、グレーズ処理後のアノード誘電体11jの先端表面を誇張して模式的に示しているが、グレーズ処理により、アノード誘電体11jの先端表面は、Ra=0.1μm以下、Rmax=3〜5μm程度にスムーズになる。グレーズ処理は、グレーズ膜16jの熱膨張率が基材となるアノード誘電体11jに対して小さくして、焼き上がりのグレーズ膜16jに圧縮歪が残るような処理が好ましい。このため、表3から、アノード誘電体11jがアルミナの場合、グレーズ膜16jの熱膨張率が基材となるアルミナに対して小さくなり、焼き上がりのグレーズ膜16jに圧縮歪が残るようにできる。グレーズ処理に用いる釉としては、長石釉、石灰釉、石灰マグネシア釉、石灰バリウム釉、石灰亜鉛釉などの高火度釉、又は、フリット釉、鉛釉などの低火度釉が採用可能である。グレーズ処理により、アノード誘電体11jの先端表面をスムーズにすることで、プラズマ放電の集中がすること以外にも、電気的な耐久性能が向上すること、或いは、ストリーマ放電がより細かくなり、均一性が向上するという効果も奏することが可能である。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。