JP5192116B2 - 薬物含有両親媒性ポリマーコーティングを有するステント - Google Patents

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Description

本発明は、ポリマーがコーティングされたステントからの薬物の送達に関する。特に、本発明は、心血管疾患の治療におけるステント植え込み後の再狭窄を防止するための送達に関する。
先進国における主要な死因の1つは心血管疾患である。この中で冠動脈性疾患が最も重要である。通常、このような疾患を有する患者は1つ以上の冠動脈の狭窄を有する。治療方法の1つは冠動脈ステント植え込みであり、この方法は、急性冠動脈閉塞部位にステントを植え込むことを含む。この種の手術は、管開存性の修復および心筋虚血の減少に有効であることが分かっている。しかし、現在使用されている金属製ステントは血流にさらされると、血栓形成、平滑筋細胞の増殖、およびステントの急性血栓性閉塞の原因となりうる。
ステント用の非血栓形成性および抗血栓形成性コーティングの開発が行われている。ある種のバルーン膨張性ステントは、ペンダント両性イオン性基、特にホスホリルコリン(PC)基を有するポリマーによるコーティングが行われており、これに関しては概略的にWO−A−93/01221に記載されている。バルーン膨張性ステントへの使用に好適なこれらのポリマーの特に成功した実施形態はWO−A−98/30615号に記載されている。ステント上にコーティングされるポリマーは、ペンダント架橋性基を有し、これらの基は後に好適な条件(一般には熱および/または湿気)に曝露することによって架橋が起こる。特に、トリアルコキシシリルアルキル基は、同種のペンダント基および/またはヒドロキシアルキル基と反応して、分子間架橋を形成する。これらのコーティングは血栓形成性を低下させる。
フィッシェル(Fischell),T.A.は、Circulation(1996)94:1494−1495において、種々のポリマーをコーティングしたステントについて実施する試験について記載している。より薄く均一なポリウレタンコーティング(厚さ23μm)は、75μmから125μmの範囲内の厚さの比較的不均一でより厚い層よりも優れた性能を示すことが観察された。より厚い層については、ファン・デル・ギーセン(Van der Giessen),WJらがCirculation:1996:94:1690−1697において、さらに詳細に記載している。
局所送達に望ましい医薬有効物質の貯蔵所としてステント上のコーティングの使用が提案されている。
米国特許第5,380,299号では、血栓溶解化合物のコーティングと場合によっては抗血栓化合物の外部層とを有するステントが提供されている。セルロースエステルや硝酸セルロースなどの「プライマー」をあらかじめステントにコーティングしてもよい。
トポル(Topol)およびセルイス(Serruys)はCirculation(1998)98:1802〜1820において、その他の薬物含有ステントおよびステントコーティングについて記載している。
マクネアー(McNair)らは、放出制御された生理活性物質に関する国際シンポジウムの議事録(Proceedings of the International Symposium on Controlled Release Bioactive Materials)(1995)338〜339において、ペンダントホスホリルコリン基を有するヒドロゲルポリマーからの3種類のモデル薬物、カフェイン、ジクロキサシリン、およびビタミンB12の放出に関するインビトロ検査について記載している。(親水性)ホスホリルコリンモノマーの2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(HEMA−PC)と疎水性コモノマーの親水性/疎水性比を変化させ、ポリマーを架橋させると、膨潤時の含水率が45重量%から70重量%の範囲内のポリマーを調製することができる。架橋は、反応性モノマーである3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートを混入することで実施される。これらの試験は、37℃において薬物水溶液中で膜を膨潤させることによって実施される。モデル薬物の放出速度は、分子の大きさ、溶質、ならびにポリマーの分配および膨潤の程度の影響を受ける。ジクロキサシリンは、分子の大きさから推測されるよりも長い放出半減期を有することが分かっており、放出プロファイルはフィック拡散にはならなかった。
マクネアー(McNair)らは、Medical Device Technology,December 1996,16〜22において、3つの一連の実験について記載している。第1の実験では、明記されていない手段でコーティング後に架橋されるHEMA−PCとメタクリル酸ラウリルで構成されるポリマーを、薬物とともにステント上にコーティングする。デキサメタゾンのステントから水性周囲環境への見かけの放出速度を測定した。モデルコーティングとしてのキャスト膜からの薬物放出を調べると、親水性溶質の場合には拡散速度がフィックの拡散法則に従うことが分かった。第3の試験では、薬物を含有せず架橋させていないポリマーコーティングをステント上にコーティングすると、生体外動静脈シャント実験でステント上へのコーティングを使用した場合には、血小板の付着が有意に減少した。この場合のステントコーティング方法に関する詳細は記載されていなかった。
ストラトフォード(Stratford)らは、「新規ホスホリルコリン系ヒドロゲルポリマー:医療用具のコーティングの開発(Novel phosphorylcholine based hydrogel polymer:Developments in medical device coatings」において、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、高級アルキルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、および反応性ペンダント基を有するメタクリル酸エステルコモノマーから合成されるポリマーについて記載している。これらのPCポリマーは、薬物およびモデル薬物の送達の実現性を調べるために研究が行われた。カフェイン、ジクロキサシリン、ビタミンB12、ローダミン、およびジピリダモールに関する結果が示されている。ここでの薬物がコーティングされる用具は、ガイドワイヤーであり、植え込まれる用具ではない。
EP−A−0623354号では、3.5mmの血管形成用バルーン上で膨張するウィクター(Wiktor)型タンタルワイヤ製ステントのコーティングに、薬物およびポリマーを溶媒に溶解した溶液が使用された。ステント1つ当たりのコーティング重量は0.6mgから1.5mgの範囲内であった。コーティングは、ステントを溶液に浸漬するか、あるいはエアブラシでステントに噴霧するかによって行った。いずれの場合も、コーティングは複数のコーティング段階を伴った。薬物は、血管壁に送達するための薬物であった。ステントからの送達に有用であると思われる薬物は、グルココルチコイド、抗血小板薬、抗凝固薬、有糸分裂阻害薬、抗酸化薬、代謝拮抗薬、および抗炎症薬であった。実施したすべての実施例では、生体吸収性ポリマーから送達されるデキサメタゾンを使用している。
米国特許第5,900,246号では、ステントなどの基材にポリウレタンをコーティングしたものから薬物が送達される。ポリウレタンは、親油性または親水性の薬物に対する相溶性を制御するために改質することができる。好適な薬物は、抗血栓薬、ステロイドなどの抗炎症薬、抗酸化薬、増殖抑制化合物、および血管拡張薬である。特に好ましい薬物は親油性化合物である。ポリウレタンでコーティングしたステントを、溶媒中の薬物と接触させると、溶媒によってポリウレタンが膨潤し、それによって薬物がポリウレタン内部に吸収される。好適な溶媒の選択では、ポリウレタンの膨潤性、および溶媒への薬物の溶解性を考慮した。親油性薬物と疎水性ポリマーの相互作用のため、この方法で供給される親油性薬物は、より親水性の高い薬物よりも疎水性ポリマーからの放出が遅くなると思われた。
EP−A−0923953号では、ステントなどの植え込み可能な用具(一般的にはステント)用のコーティングは、粒子状薬物とポリマーマトリックスとを含むアンダーコートと、アンダーコートを部分的に覆うように上に重ねられるトップコートとを含む。アンダーコートから薬物が放出できるようにするために、トップコートは原位置で不連続である必要がある。薬物の例としては、増殖抑制剤、ステロイド系および非ステロイド系抗炎症薬、過形成(特に再狭窄)を防止する薬物、平滑筋細胞阻害剤、成長因子阻害剤、および細胞接着促進剤が挙げられる。実施例では、ヘパリンとデキサメタゾンを使用している。アンダーコートのポリマーは、例えば、シリコーン、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリアミドエラストマー、およびEPDMゴムなどの疎水性生体安定性エラストマー材料である。最上層は、フルオロシリコーン、ポリエチレングリコール、多糖類、およびリン脂質などの非多孔質ポリマーで適宜形成される。これらの実施例では、アンダーコートはシリコーンポリマーを含み、薬物とポリマーの両方を分散させた懸濁液を吹き付けることでポリマー/薬物混合物のコーティングが行われ、後にポリマーの硬化が実施された。
本発明者らの先行する明細書WO−A−0101957号(本明細書の優先権主張日には未公開)では、本発明者らは、ポリマーでコーティングしたステントに薬物を導入する方法を記載している。このポリマーコーティングは、エチレン系不飽和両性イオン性モノマーと疎水性コモノマーとを架橋させたコポリマーで構成されることが好ましい。薬物は、ステントが植え込まれる血管壁に送達されることを意図しており、ステントのより外側の面ほど薬物供給量が多くなるようにステント上のコーティングの厚さを適合させた。薬物は、増殖抑制剤、抗凝固剤、血管拡張剤、抗炎症薬、細胞毒、および抗血管形成化合物から選択した。
界面活性剤分野の当業者には公知であるが、水性環境に残留するものよりもミセルの疎水性内部を検出する疎水性プローブを使用することによって臨界ミセル濃度を測定することが可能である。ピレンは、このような分子の一種である。さらに、ピレン分子の蛍光スペクトルの種々の微細振動構造の蛍光強度は、存在する溶媒の極性に基づく強い環境的な影響を示している(カリャナサンダラム(Kalyanasundaram),K.ら,JACC,99(7),2039,1977)。1対の特徴的結合の強度比(I3:I1)は環境と関連性がある。I3:I1の値が約0.63の場合には水性環境であることを示しており、この値が約1の場合は疎水性環境であることを示している。
WO−A−95/03036号では、腫瘍浸潤の防止のためにステントを抗血管形成薬でコーティングすることを提案している。多くの薬物は低水溶性である。抗血管形成薬は、生体侵食性または生分解性ポリマーなどのポリマー担体から送達される。
WO−A−00/56283号では、金属キレート活性を有するポリマーがマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害活性を有すると記載されている。これらのポリマーはステント上にコーティングすることができる。MMPは、アテローム斑および血管形成後再狭窄性斑の発生に寄与していると示唆している。ポリマーのMMP阻害活性が、再狭窄の抑制に有用であると考えられている。これらのポリマーはステント上にコーティングすることができ、低水溶性の場合もある別の医薬有効物質をポリマーの内部に分散させることができる。マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害活性(MMPI)を有するポリマーは、2価の金属とのキレート形成が可能であり、一般に不飽和カルボン酸のポリマーであるが、スルホン化陰イオン性ヒドロゲルを使用することもできる。スルホン化陰イオン性ヒドロゲルを生成するためのモノマーの一例は、N,N−ジメチル−N−メタクリロイルオキシエチル−N−(3−スルホプロピル)アンモニウムベタインである。ポリマーの他の例は、2官能性以上のエチレン系不飽和架橋剤で架橋させアクリル酸C10〜30−アルキルで改質したアクリル酸系ポリマーである。薬物活性ポリマーと別の治療薬との両方を含むコーティングをステント上に形成する方法に関する具体的な提案はされていない。
WO−A−99/01118号では、細胞毒性を増強するために、抗酸化薬が抗新生物薬と併用される。抗新生物配合剤は、血管疾患の治療に有用である。この配合剤は、制御放出システムによって投与することができる。
2−メタクリロイルオキシエチル−2’−トリメチルアンモニウムメチルリン酸分子内塩、メタクリル酸ドデシル、および架橋性モノマーによる架橋性ポリマーは、ステント上にコーティングして硬化させることによって、アテローム硬化性症状の治療のためのステント送達後の再狭窄が軽減された。前述のPCT/GB00/02087号では、本発明者らは、隣接する組織に薬物が送達されるように、ポリマーをコーティングしたステント上にある範囲の薬物を導入することが可能であることを示している。
本発明は、ポリマーコーティングを有し、取り付け後にステントから延長された時間のあいだ送達可能な低水溶性薬物を含むステントに関する。
新規血管内ステントは、ポリマーを含むコーティングと、1つのステント当たり少なくとも20μgの再狭窄抑制剤とを有する金属本体を含み、前記再狭窄抑制剤は低水溶性薬物であり、前記コーティング中の前記ポリマーは、ピレンを含有する水で膨潤させた場合に、ピレン蛍光を観察すると強度比I3:I1が少なくとも0.8となる疎水性ドメインを有する架橋した両親媒性ポリマーである。
ステントの外壁上には少なくとも約0.05μg/mmの濃度で薬物が存在し、この面積は金属の表面積を基準にしている。
比I3:I1は好ましくは約1である。
薬物の水溶性は室温で1mg/mg未満であることが好ましく、logP(ここでPはオクタノールと水の間の分配係数である)は少なくとも1.5であり、好ましくは少なくとも2以上である。
好ましくは、前記ステントの少なくとも外壁の上で、前記薬物が吸収された前記両親媒性ポリマーの層を前記コーティングが含む。さらに、内壁上のコーティング中のポリマーに薬物が吸収されてもよい。
ステント上に吸収された材料の形態で十分多量の薬物を供給することが可能である。しかし場合によっては、両親媒性ポリマーマトリックス中の薬物量をより多くすることが望ましい場合もある。例えば、ステント上のポリマー量の増加が望ましくない場合があり、そのため薬物充填量を増やすことが可能な場合がある。好ましいステントでは、ステントの外壁上のコーティングは、前記両親媒性ポリマーの内層と、前記内層に付着する結晶性薬物とを含む。結晶性薬物を提供することによって、ステントに有用な放出特性を付与することもできる。吸収された薬物のポリマーコーティングからの放出を補うために望ましい放出特性を付与するために、例えば結晶性材料の粒径を制御することができる。
本発明の好ましい実施形態では、ステントの少なくとも外壁上のコーティングは、前記両親媒性ポリマーの内層と、非生分解性で生体適合性で半透性のポリマーを含むトップコートとを含む。ステントが水性環境にある場合に最上層から薬物が透過できるように、半透性ポリマーは選択される。このような環境では、半透性ポリマーは例えば膨潤することがあり、この形態で有効薬物が透過できる形態である。トップコートは、所望の制御放出特性を付与することができる。両親媒性ポリマーの内層に付着した結晶性薬物をコーティングが含む好ましい実施形態において、トップコートの使用は特に有用である。このような実施形態におけるトップコートはいくつかの機能を有する。トップコートによって、平坦な外部輪郭が得られ、送達中の薬物の損失が最小限となり、植え込み後に血管に対する生体適合性界面が形成され、使用時にステントから周囲組織への薬物の放出が制御される。
トップコートは、ステント植え込み前に薬物を実質的に含有しないことが好ましい。
トップコートは、架橋した両親媒性ポリマーで形成されることが好ましい。コーティングは架橋しても線状であってもよい。好ましくは第1の両親媒性ポリマーと同種である。
本発明では、両親媒性ポリマーは、親水性を付与する基と、疎水性を付与する基とを含む。好ましくは、親水性を付与する基は、両性イオン性基を含む。
好ましくは、疎水性を付与する基は、C4〜24−アルキル基、C4〜24−アルケニル基、およびC4〜24−アルキニル基(これはいずれも1つ以上のフッ素原子で置換されてもよい)、アリール基、C7〜24アラルキル基、オリゴ(C3〜4アルコキシ)アルキル基、およびシロキサン基から選択されるペンダント疎水基を含む。
最も好ましくは、ポリマーは、両性イオン性モノマーおよび疎水性コモノマーを含むエチレン系不飽和モノマーから合成される。架橋性ポリマーを合成する場合、好ましくはエチレン系不飽和モノマーは、分子間架橋を形成可能なペンダント反応基を有する1種類以上の反応性モノマーを含む。
好ましくは両性イオン性モノマーは、一般式I:
YBX I
(式中、
Bは、場合によっては1つ以上のフッ素原子を有し最大で過フッ素化鎖を含む直鎖または分岐アルキレン(アルカンジイル)鎖、アルキレンオキサアルキレン鎖、またはアルキレンオリゴ−オキサアルキレン鎖であるか、あるいはXまたはYが、Bと結合する末端炭素原子を有する場合には、Bは原子価結合であり、
Xは、両性イオン性基であり、
Yは、
CH=C(R)CHO−、CH=C(R)CHOC(O)−、CH=C(R)OC(O)−、CH=C(R)O−、CH=C(R)CHOC(O)N(R)−、ROOCCR=CRC(O)O−、RCH=CHC(O)O−、RCH=C(COOR)CHC(O)O−、
から選択されるエチレン系不飽和重合性基であり、
式中、
Rは、水素またはC〜Cアルキル基であり、
は水素またはC〜Cアルキル基であるか、あるいはRは−B−X(式中、BおよびXは前出の定義の通りである)であり、
は、水素またはC〜Cアルキル基であり、
Aは、−O−または−NR−であり、
Kは、−(CHOC(O)−基、−(CHC(O)O−基、−(CHOC(O)O−基、−(CHNR−基、−(CHNRC(O)−基、−(CHC(O)NR−基、−(CHNRC(O)O−基、−(CHOC(O)NR−基、−(CHNRC(O)NR−基(式中のRは同種または異種である)、−(CH−O−基、−(CHSO−基であるか、または場合によってはBと組み合わせたものが原子価結合を表し、
pは1から12であり、
は、水素またはC〜Cアルキル基である)を有する。
基Xにおいて、陽イオン性電荷を有する原子と、陰イオン性電荷を有する原子とが、一般に2個から12個の原子、好ましくは2個から8個の原子、より好ましくは3個から6個の原子で分離され、それらは一般に少なくとも2個の炭素原子を含む。
好ましくは、両性イオン性基X中の陽イオン性基は、アミン基であり、好ましくは第3級アミンであり、より好ましくは第4級アンモニウム基である。X中の陰イオン性基は、カルボキシレート基、サルフェート基、スルホネート基、ホスフェート基、およびホスホネート基であってよく、より好ましくはホスホネート基である。好ましくは、両性イオン性基は、一価に帯電した1つの陰イオン性部分と、一価に帯電した1つの陽イオン性部分とを有する。ホスフェート基は好ましくはジエステルの形態である。
好ましくは、ペンダント基X中で陰イオンは、陽イオンよりもポリマー主鎖に近い。
あるいは、基Xは、スルホベタイン、カルボキシベタイン、またはホスホベタインなどのベタイン基(すなわち陽イオンの方が主鎖に近い)であってもよい。ベタイン基は全体的には電荷を有さないべきであり、従って好ましくはカルボキシベタインまたはスルホベタインである。ホスホベタインである場合、ホスフェート末端基はジエステルである必要があり、すなわちアルコールでエステル化される。このような基は、一般式II:
−X−N(R−R−V II
(式中、Xは、原子価結合、−O−、−S−、または−NH−であり、好ましくは−O−であり、
Vは、カルボキシレート陰イオン、スルホネート陰イオン、またはホスフェート陰イオン(一価に帯電したジエステル)であり、
は、原子価結合(Xと合わせた場合)、あるいはアルキレン−C(O)アルキレン、または−C(O)NHアルキレンであり、好ましくはアルキレンであり、好ましくは前記アルキレン鎖は1個から6個の炭素原子を含有し、
基Rは、同種または異種であり、それぞれが水素または1個から4個の炭素原子を含有するアルキルであるか、あるいは基Rとこれらが結合する窒素とを合わせたものが、5個から7個の原子を含有する複素環を形成し、
は、1個から20個、好ましくは1個から10個、より好ましくは1個から6個の炭素原子を含有するアルキレンである)で表すことができる。
好ましいスルホベタインモノマーは、式II
(式中、基Rは、同種または異種であり、それぞれが水素またはC1〜4アルキルであり、dは2から4である)を有する。
好ましくは、これらの基Rは同種である。さらに、好ましくは少なくとも1つの基Rがメチルであり、より好ましくは両方のRがメチルである。
好ましくは、dは2または3であり、より好ましくは3である。
あるいは、基Xはアミノ酸部分であってもよく、そのα炭素原子(アミン基およびカルボン酸基が結合する原子)が架橋基によってポリマーAの主鎖と結合する。このような基は一般式IV:
(式中、Xは、原子価結合、−O−、−S−、または−NH−であり、好ましくは−O−であり、
は、原子価結合(場合によってはXと合わせられる)、あるいはアルキレン、−C(O)アルキレン、または−C(O)NHアルキレンであり、好ましくはアルキレンであり、好ましくは1個から6個の炭素原子を含有し、
基Rは、同種または異種であり、それぞれが水素または1個から4個の炭素原子を含有するアルキル(好ましくはメチル)であるか、あるいは2つの基Rとこれらが結合する窒素とを合わせたものが、5個から7個の原子を含有する複素環を形成するか、3つの基Rとこれらが結合する窒素とを合わせたものが、各環が5個から7個の原子を含有する縮合環構造を形成する)で表すことができる。
Xは好ましくは式V:
(式中、部分XおよびXは、同種または異種であり、−O−、−S−、−NH−、または原子価結合であり、好ましくは−O−であり、Wは、アンモニウム陽イオン性基、ホスホニウム陽イオン性基、またはスルホニウム陽イオン性基を含む基であり、さらに陰イオン部分と陽イオン部分とを結合させる基(好ましくはC1〜12アルカンジイル基である)である)で表される。
好ましくはWは、陽イオン性基としてアンモニウム基を含み、より好ましくは第4級アンモニウム基を含む。
基Wは、例えば式−W−N10 、−W−P11 、−W−S11 、または−W−Hetの基であってよく、式中、
は、1個以上、好ましくは2個から6個の炭素原子を含有し、場合によっては1つ以上のエチレン系不飽和二重結合または三重結合を含むアルカンジイル、二置換のアリール、アルキレンアリール、アリールアルキレン、またはアルキレンアリールアルキレン、二置換のシクロアルキル、アルキレンシクロアルキル、シクロアルキルアルキレン、またはアルキレンシクロアルキルアルキレンであり、基Wは場合によっては、1つ以上のフッ素置換基および/または1つ以上の官能基を有し、
いずれの基R10も同種または異種であり、それぞれが、水素、あるいは1個から4個の炭素原子を含有するアルキル(好ましくはメチル)、またはアリール(フェニルなど)であるか、あるいは2つの基R10をそれらが結合する窒素原子と合わせたものが、5個から7個の原子を含有する複素環を形成するか、あるいは3つの基R10とこれらが結合する窒素とを合わせたものが、各環が5個から7個の原子を含有する縮合環構造を形成し、場合によっては1つ以上の基R10は親水性官能基で置換され、
基R11は、同種または異種であり、それぞれがR10または基OR10であり、これらのR10は上記定義の通りであり、
Hetは、芳香族の窒素含有環、リン含有環、または硫黄含有環、好ましくは窒素含有環であり、例えばピリジンである。
好ましくは、Wは直鎖アルカンジイル基であり、最も好ましくはエタン−1,2−ジイルである。
式Vの好ましい基Xは、式VI:
(式中、基R12は、同種または異種であり、それぞれが、水素またはC1〜4アルキルであり、eは1から4である)の基である。
好ましくは、基R12は同種である。さらに、好ましくは少なくとも1つの基R12はメチルであり、より好ましくはすべての基R12がメチルである。
好ましくはeは2または3であり、より好ましくは2である。
あるいは、リン酸アンモニウムエステル基VIIIは、本発明者らの先行出願のWO−A−93/01221号で規定される式VB、VC、またはVDのグリセロール誘導体で置き換えることができる。
好ましくは、疎水性コモノマーは一般式VII:
13 VII
(式中、Yは、
CH=C(R14)CHO−、CH=C(R14)CHOC(O)−、CH=C(R14)OC(O)−、CH=C(R14)O−、CH=C(R14)CHOC(O)N(R15)−、R16OOCCR14=CR14C(O)O−、R14CH=CHC(O)O−、R14CH=C(COOR16)CHC(O)−O−、
であり、
式中、
14は、水素またはC〜Cアルキル基であり、
15は水素またはC〜Cアルキル基であるか、あるいはR15はR13であり、
16は、水素またはC1〜4アルキル基であり、
は、−O−または−NR15−であり、
は、−(CHOC(O)−基、−(CHC(O)O−基、(CHOC(O)O−基、−(CHNR17−基、−(CHNR17C(O)−基、−(CHC(O)NR17−基、−(CHNR17C(O)O−基、−(CHOC(O)NR17−基、−(CHNR17C(O)NR17−基(式中のR17は同種または異種である)、−(CH−O−基、−(CHSO−基であるか、または原子価結合であり、
pは1から12であり、
17は、水素またはC〜Cアルキル基であり、
13は疎水性基である)を有する。
一般式VIIのコモノマーにおいて、基R13は好ましくは疎水性基であり、好ましくは、
a)4個以上、好ましくは6個から24個の炭素原子を含有し、未置換であるかあるいは1つ以上のフッ素原子で置換され、場合によっては1つ以上の炭素二重結合または三重結合を含有する直鎖または分岐アルキル鎖、アルコキシアルキル鎖、またはオリゴアルコキシアルキル鎖、
b)アリールまたはアラルキル、好ましくはフェニル、フェネチル、またはベンジル、あるいは
c)シロキサン基−(CR18 qq(SiR19 )(OSiR19 pp19(式中、各基R18は、同種または異種であり、水素または1個から4個の炭素原子を含有するアルキル、あるいはアラルキル(例えばベンジルまたはフェネチル)であり、各基R19は1個から4個の炭素原子を含有するアルキルであり、qqは1から6であり、ppは0から49である)、
である。
最も好ましいR13は、4個から18個、好ましくは12個から16個の炭素原子を有する直鎖アルキルである。
架橋性を付与する反応性モノマーは、好ましくは一般式VIII:
20 VIII
(式中、
は、場合によっては1つ以上のフッ素原子を有し最大で過フッ素化鎖を含む直鎖または分岐アルキレン鎖、オキサアルキレン鎖、またはオリゴ−オキサアルキレン鎖であるか、あるいはBは原子価結合であり、
は、
CH=C(R21)CH−O−、CH=C(R21)CHOC(O)−、CH=C(R21)OC(O)−、CH=C(R21)O−、CH=C(R21)CHOC(O)N(R22)−、R23OOCCR21=CR21C(O)O−、R21H=CHC(O)O−、R21H=C(COOR23)CHC(O)O−、
から選択されるエチレン系不飽和重合性基であり、
式中、
21は、水素またはC〜Cアルキル基であり、
23は、水素またはC〜Cアルキル基であり、
は、−O−または−NR22−であり、
22は水素またはC〜Cアルキル基であるか、あるいはR22は基B20であり、
は、−(CHOC(O)−基、−(CH)C(O)O−基、−(CHOC(O)O−基、−(CHNR22−基、−(CHNR22C(O)−基、−(CHOC(O)O−基、−(CHNR22−基、−(CHNR22C(O)−基、−(CHC(O)NR22基、−(CHNR22C(O)O−基、−(CHOC(O)NR22基、−(CHNR22C(O)NR22−基(式中のR22は同種または異種である)、−(CH−O−基、−(CHSO−基、または原子価結合であり、kは1から12であり、
20は架橋性基である)を有する。
基R20は、基R20自体またはポリマー中の官能基(例えばR13中)、あるいはコーティングされる表面と反応性となるように選択される。好ましくは基R20は、エチレン系およびアセチレン系不飽和基を含有する基、アルデヒド基、ハロゲン原子およびC1〜4−アルコキシ基から選択される1つ以上の置換基を有するシラン基およびシロキサン基、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、エポキシ、−CHOHCHHal(式中、Halは、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子から選択される)、スクシンイミド、トシレート、トリフレート、イミダゾールカルボニルアミノ、場合によっては置換されたトリアジン基、アセトキシ、メシレート、カルボニルジ(シクロ)アルキルカルボジイミドイル、イソシアネート、アセトアセトキシ、およびオキシイミノからなる群より選択される反応性基である。最も好ましくはR20は、ハロゲン原子およびC1〜4−アルコキシ基から選択される少なくとも1つ、好ましくは3つの置換基を有するシラン基を含み、好ましくは3つのメトキシ基を有するシラン基である。
好ましくは、基YからYのそれぞれは、同じ種類の基を表し、最も好ましくはそれぞれが式HC=C(R)C(O)−A、HC=C(R14)C(O)A、またはHC=C(R21)C(O)−Aのアクリル型基である。好ましくは、基R、R14、およびR21はすべてが同種であり、好ましくはHであり、より好ましくはCHである。好ましくは、A、A、およびAは同種であり、最も好ましくは−O−である。BおよびBは好ましくは直鎖C2〜6アルカンジイルである。
好ましくは、エチレン系不飽和コモノマーは希釈コモノマーを含み、これらは所望の物理的性質および機械的性質を有するポリマーを得るために使用することができる。希釈コモノマーの具体例としては、エステル部分のアルキル基が好ましくは1個から24個の炭素原子を含有するアルキル(アルク)アクリレート、例えばメチル(アルク)アクリレートまたはドデシルメタクリレート、アミンの各アルキル部分が1個から4個の炭素原子を含有しアルキレン鎖が1個から4個の炭素原子を含有することが好ましいジアルキルアミノアルキル(アルク)アクリレート、例えば2−(ジメチルアミノ)エチル(アルク)アクリレート、アミド部分のアルキル基が1個から4個の炭素原子を含むことが好ましいアルキル(アルク)アクリルアミド、ヒドロキシアルキル部分が1個から4個の炭素原子を含有することが好ましいヒドロキシアルキル(アルク)アクリレート、例えば2−ヒドロキシエチル(アルク)アクリレートグリセリルモノメタクリレートまたはポリエチレングリコールモノメタクリレート、またはN−ビニルラクタムなどのビニルモノマーであって、好ましくはラクタム環が5個から7個の原子を含有するビニルピロリドンなど、スチレン、あるいは例えば1個から6個、好ましくは1個から4個の炭素原子を含有する1つ以上のアルキル基および/または1つ以上のハロゲン(例えばフッ素原子)でフェニル環上が置換されたスチレン誘導体、例えば(ペンタフルオロフェニル)スチレンが挙げられる。
他の好適な希釈コモノマーとしては、アルキル基が1個から4個の炭素原子を含有するポリヒドロキシル(例えば糖)(アルク)アクリレートおよび(アルク)アクリルアミドが挙げられ、例えば糖アクリレート、メタクリレート、エタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、およびエタクリルアミドが挙げられる。好適な糖としては、グルコースおよびソルビトールが挙げられる。希釈コモノマーとしては、メタクリロイルグルコースおよびソルビトールメタクリレートが挙げられる。
さらに、具体的に挙げることができる希釈コモノマーとしては、2個から4個の炭素原子を含有することが好ましい重合性アルケン(例えば、エチレン)、ジエン(例えば、ブタジエン)、エチレン系不飽和二塩基酸無水物(例えば、無水マレイン酸)、およびシアノ置換アルケン(例えば、アクリロニトリル)が挙げられる。
特に好ましい希釈モノマーは非イオン性モノマーであり、最も好ましくはアルキル(アルク)アクリレートまたはヒドロキシアルキル(アルク)アクリレートである。
ヒドロキシアルキル(アルク)アクリレートを、1つ以上のハロゲンまたはアルコキシ置換基を含有する反応性シリル部分を有する反応性コモノマーと併用することが特に望ましい。ヒドロキシルアルキル基含有モノマーは、希釈剤としても機能する反応性モノマーを挙げることができる。このような反応性シリル基はヒドロキシル基と反応性であり、例えばコーティング後にポリマーを架橋させることができる。
特に好ましい反応性モノマーの組み合わせは、ω(トリアルコキシシリル)アルキル(メタ)アクリレートとω−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである。
ある実施形態では、モノマーはイオン性コモノマーを含むことができる。好適なコモノマーは本発明者らの先行出願のWO−A−9301221号に記載されている。
好ましくは、両性イオン性モノマーは、モル比が少なくとも1%、好ましくは75%未満、より好ましくは5%から50%の範囲、最も好ましくは10%から33%の範囲でモノマー混合物中に使用される。疎水性コモノマーは、モル比が一般に少なくとも2%、好ましくは少なくとも5%または少なくとも10%、より好ましくは15%から99%の範囲、特に50%から95%の範囲、さらに60%から90%の範囲で使用される。架橋性モノマーは、好ましくは2モル%から33モル%の範囲、好ましくは3モル%から20モル%の範囲、より好ましくは5モル%から10モル%の範囲で使用される。
両性イオン性ポリマーは一般式IX:
(式中、lは1から75であり、mは0から99であり、nは0から33であり、m+nは25から99であり、YからYは、YからYのエチレン系基のラジカル開始付加重合のYからYからそれぞれ誘導される基であり、
BおよびXは、一般式Iにおける定義の通りであり、
13は、一般式VIIにおける定義の通りであり、
およびR20は、一般式VIIIにおける定義の通りである)で表すことができる。
好ましい両性イオン性ポリマーでは、式中のY、Y、およびYがそれぞれアクリル基であり、このポリマーは一般式X:
(式中、B、X、R、およびAは一般式Iの化合物における定義の通りであり、R14、A、およびR13は一般式VIIにおける定義の通りであり、R21、D、B、およびR20は一般式VIIIおよびIにおける定義の通りであり、mおよびnは一般式IXにおける定義の通りである)を有する。
重合は、この技術分野で公知の好適な条件で実施される。例えば、重合はラジカル開始反応を含み、フリーラジカルを発生する熱開始剤またはレドックス開始剤および/または化学線(例えばUV線またはγ線)が使用され、場合によっては光開始剤および/または触媒が併用される。好ましくは開始剤は、モノマーの重量に対して0.05重量%から5重量%の範囲の量で使用され、好ましくは0.1%から3%の範囲の量、最も好ましくは0.5%から2%の範囲の量で使用される。モノマーが反応性モノマーを含みポリマーが架橋性である場合、開始剤量は一般により多く、例えば1%から20%である。
ポリマーの分子量(ポリマーが架橋性である場合でコーティングされる場合)は、1×10から10の範囲であり、好ましくは5×10から5×10Dの範囲である。
モノマー混合物およびモノマー混合物は、非重合性希釈剤、例えば重合溶媒を含むことができる。このような溶媒は、モノマーに溶解性および混和性を付与する。溶媒は水性の場合もあるし非水性の場合もある。ポリマーの回収は、沈殿性溶媒を使用して重合混合物から沈殿させることによって可能であり、例えば蒸発によって非重合性希釈剤を除去することによって回収することもできる。
本発明において、低水溶性という用語は、室温における化合物の水溶性が1ml未満であることを意味する。再狭窄抑制剤(薬物)は、logP(ここでPはオクタノール/水の分配係数である)が少なくとも1.5、例えば2を超える化合物が好ましい。
薬物のlogPは少なくとも1.5であり、好ましくは少なくとも2である。疎水性領域を有するポリマーにこのような薬物が吸収されると、ピレン蛍光試験で測定されるように、見かけ上の相互作用が起こり、薬物の放出速度に影響を与える。疎水性薬物は、ピレンと同様に疎水性ドメインに優先的に分配されると考えられる。
好ましい薬物は、ステロイド、特にエストロゲン、特にエストラジオール(E2)、およびコルチコステロイド、特にデキサメタゾン(Dex)、および6α−メチルプレドニゾロン(MP)である。エストラジオールのlogPは4.3であり水溶性は0.003mg/mlであり、MPのlogPは1.42であり、DexのlogPは2.55であり水溶性は0.01mg/mlである。本発明に使用可能な低水溶性薬物の他の例としては、スタチン、例えばシンバスタチン(logP=2.06)が挙げられ、あまり好ましくはないがロバスタチン(logP=1.7)およびアトロバスタチン(logP=1.6)も挙げられる。
好ましくは、薬物は、1つのステント当たりで薬物は20μgから1000μgの範囲の量で存在し、好ましくは少なくとも50μgであり、より好ましくは100μgから400μgの範囲の量で存在する。
ステントは、形状記憶金属から製造される場合もあるし、あるいは自己弾性膨張性、例えば編み上げステントである場合もある。しかし、好ましくはステントはバルーン膨張性ステントである。トップコートが提供される本発明の実施形態では、トップコートは、ステントとステント送達装置(例えば、バルーン膨張性ステントを送達ためのバルーンカテーテルのバルーン)の両方の上に形成される凝集性コーティングの一部であってよい。この場合、バルーンにも薬物を含むコーティングを適用することができ、例えば、ステント束の間の外面の一部に吸着させることができる。このような装置は、ステントが送達カテーテルに取り付けら得た後でステントに薬物を導入することによって作製することができる。
本発明のさらに別の態様によると、
a)金属製ステント本体の内壁および外壁に架橋性両親媒性ポリマーをコーティングする工程と、
b)前記架橋性ポリマーを架橋が生じる条件下におくことによって、ピレンを含有する水で膨潤させた場合に、ピレン蛍光を観察すると強度比I3:I1が少なくとも0.8となる疎水性ドメインを有するポリマーでコーティングされたステントを作製する工程と、
c)低水溶性再狭窄抑制剤と、前記薬物を少なくとも部分的に溶解させ、前記コーティングの架橋したポリマーを膨潤させることができる有機溶媒とを含む液体薬物組成物を、前記外壁上の前記ポリマーコーティングを膨潤させるのに十分な時間のあいだ、前記ポリマーでコーティングされたステントの少なくともコーティングされた外壁に接触させて、1つのステント当たりで少なくとも20μgの量の前記薬物が存在する、湿潤状態の薬物でコーティングされたステントを作製する工程と、
d)前記湿潤状態のステントから有機溶媒を蒸発させて、乾燥状態の薬物でコーティングされたステントを作製する工程と、
を含む、薬物でコーティングされた血管内ステントの新規製造方法が提供される。
本発明の方法では、工程c)において、薬物が、ポリマーの内部に吸収され、さらにポリマーコーティング過程で吸着され、それによって、工程d)における溶媒の蒸発によって、乾燥状態の薬物でコーティングされたステントの表面に付着した薬物の結晶が形成される。
本発明の方法では、ポリマーをコーティングしたステントと液体薬物組成物の接触は、ステント本体を浸漬する、および/またはステント上に液体組成物を流し込む、噴霧する、または滴下することによって行われ、湿潤状態のステントから溶媒は直ちに蒸発する。このような工程では、ステント上の薬物量をうまく制御することができ、ポリマー表面に薬物の結晶を形成する場合に特に有用である。
本発明によりステントに薬物コーティングを形成してから送達装置に取り付けることもできるが、好ましくは、そして最も好都合には、ステントを送達装置に取り付けてから工程c)が実施される。これによって、主としてステント外壁(ステント内壁に対して)が薬物でコーティングされる。一般にこの方法では、送達カテーテルのステント送達セクション上に薬物がコーティングされることになるが、通常はこのことが不都合になることはない。場合によっては、使用時にステントを植え込むことによって隣接する組織に送達できるように薬物のコーティングを送達カテーテルの外面に形成すると有用となりうる。一般に、送達カテーテルはこのような組織と短時間接触し、したがって接触が長時間持続することはなく、バルーンから移動する薬物量は制限される。
本発明の方法は、トップコートを適用する工程を含んでもよい。このような方法では、
e)乾燥状態の薬物がコーティングされたステントの少なくとも外壁にポリマーを適用して、非生分解性で生体適合性で半透性のポリマーを含有するトップコートを形成する工程がさらに実施される。
この好ましい実施形態では、工程e)において、ポリマーを含む液体トップコート組成物を、少なくとも外壁上にコーティングして、コーティング後に硬化させてトップコートを形成することが好ましい。あらかじめ適用された薬物の脱落が最小限になることが分かったので、ステントの外壁に液体コーティングを噴霧する方法が望ましい。
トップコート組成物、およびその結果、製品に形成されるトップコートは、一般には薬物を実質的に含有しない。好ましくは、他の医薬有効物質も実質的に含有しないが、場合によっては、ポリマーと別の医薬有効物質の混合物を同時にコーティングすると有用となることもある。
第1の両親媒性ポリマーの調製への使用が好ましい種類の架橋性ポリマーを液体トップコート組成物が含む本発明の実施形態では、液体トップコート組成物は架橋性ポリマーを含み、好ましい方法における硬化工程では、架橋条件にトップコートがおかれる。
架橋性ポリマーの硬化には、放射線照射、化学硬化剤、触媒を使用する場合があるし、あるいはより一般的には高温および/または減圧(縮合系架橋反応に適応するため)を使用する場合もある。組成物の液体の乾燥には、通常は十分な時間の高温および/または減圧が使用され、これによって、ステント上に残存する溶媒量が検出不可能な量、または後の工程段階または使用時の薬物の放出を妨害しない量、またはステントが植え込まれる患者に対して毒性のない量まで溶媒を減少させる。
好ましい方法において、ステントが送達装置に取り付けられてから薬物のコーティングが行われる場合、ステントと送達カテーテルのステント送達セクションとの両方の上にトップコートが形成される。好ましくは、トップコートが、ステント送達セクション全体を覆う凝集性フィルムを形成する。好ましくは、装置は後に滅菌され、使用するまで保管するために滅菌包装容器に包装される。滅菌は、γ線照射や加熱により行うことができるが、好ましくはエチレンオキシドと接触させる。
好ましい方法において、送達装置に取り付けながらステントを液体薬物組成物と接触させる場合、前記接触が送達カテーテルの性質に悪影響を及ぼさないことが重要である。バルーンカテーテルの場合、バルーンの破裂強さが接触によって有意に減少しないことが必要である。ステントの送達に使用される好ましいバルーンカテーテルはポリアミド製である。本発明者らは、エタノール、メタノール、またはジメチルスルホキシド(DMSO)を使用しても、破裂強さが許容できない程度まで減少するほどバルーンが損傷しないことを確認した。溶媒および溶媒混合物の例としては、ジクロロメタン(DCM)、イソプロパノールと水の混合物、およびDCM/エタノール混合物が挙げられる。
溶媒は、薬物を適切に溶解させ、ポリマー中に薬物が吸収されるよう架橋したポリマーコーティングを膨潤させるように選択する必要がある。ポリマーに吸収された薬物は、ステント植え込みからある時間経過してから放出される。液体薬物組成物は、結晶改質剤、ポリマー、塩、酸、塩基などの他の成分を含んでもよい。ステント表面上のポリマーと相溶性にするために、溶解した両親媒性で場合によっては架橋性のポリマーを含むと好都合となりうる。このようなポリマーは、本発明の第1の態様で使用される前述のポリマーと同じものであってもよい。
本発明のさらなる態様によると、金属本体と、両親媒性ポリマーおよび17β−エストラジオールを含む金属本体上のコーティングとを含む血管内ステントも提供される。好ましくは、両親媒性ポリマーは、ピレン蛍光で観察される強度比I3:I1が少なくとも0.8であり、好ましくは約1.0である疎水性領域を有する。好ましくは、1つのステント当たりに少なくとも20μgのエストラジオールが含まれる。
本発明のさらなる態様によると、金属本体と、両親媒性ポリマーおよび6α−メチルプレドニゾロンを含む金属本体上のコーティングとを含む血管内ステントも提供される。好ましくは、両親媒性ポリマーは、ピレン蛍光で観察される強度比I3:I1が少なくとも0.8であり、好ましくは約1.0である疎水性領域を有する。好ましくは、1つのステント当たりに少なくとも20μgのMPが含まれる。これらの本発明のさらなる態様の好ましい実施形態は、本発明の多くの態様によって網羅されることが好ましく、それらの好ましい態様を含み、本発明の方法によって製造される。
本発明者らは、本発明のステントが、動物に使用した場合に冠動脈形成結果が定量的に向上し、内膜肥厚が減少し、管腔直径が増加し、対照ポリマーをコーティングしたステントと比較して優れた臨床結果が得られることを確認した。
以下の実施例により本発明を説明する。
(参照例1)
ポリマー中にピレンを拡散させ、取り込まれる量を測定し、存在する環境の種類を有意に示すような蛍光帯強度比に対する影響を調べることによって、両性イオン性ポリマーコーティングを調べた。
対象となるポリマーコーティングは、適切な溶媒(通常はエタノール)に20mg/ml−1で溶解させた。この溶液をポリメタクリル酸メチル(PMMA)蛍光キュベットに注ぎ、溶液を排出し、続いて70℃のオーブンで終夜硬化させてコーティングを行った。実験を行ったポリマーは:
a)2−メタクリロイルオキシエチル−2’−トリメチル−アンモニウムエチルホスフェート内部塩(MPC):n−ブチルメタクリレート:ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPM):トリメトキシシリルプロピルメタクリレート(TSM)が29:51:15:5(重量比)のコポリマー、
b)MPC:ベンジルアクリレート:HPM:TSMが29:51:15:5のコポリマー、
c)MPC:ドデシルメタクリレート(DM):HPM:TSMが45:35:15:5のコポリマー、
d)MPC:DM:HPM:TSMが29:51:15:5のコポリマー、
e)MPC:DM:HPM:TSMが15:65:15:5のコポリマー、
f)ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、
である。
コポリマーaからeは、WO−A−9830615号に開示されるようにして合成した。
高純度水中で分析用ピレンを使用した(8.32×10−4M)。蛍光スペクトルは、励起波長335nmを使用して記録し、PE LS 50Bルミネセンス分光光度計(Luminescence Spectrophotometer)で350nmから440nmの範囲を分析した。すべてのメタクリレート系に存在する380nmにおける小さなバンドの干渉を除去するため、水中の各コーティングのスペクトルを減算する必要があった。
環境の情報は、373nmにおけるピーク強度(I1)と383nmにおけるピーク強度(I3)の比(I3/I1)を比較することで得ることができた。I3/I1がポリマー系で同様あれば、存在するピレンの相対量をI1の最高強度によって評価することができ、全ピーク面積から、異なるコーティングに存在するピレンの相対量を求めることもできる。分光高度計に再配置するたびに同じ方向になるように、キュベットの側面に印を付けておくことが重要であった。
図3Aでは、メタクリル酸ラウリル(メタクリル酸ドデシル)中のピレン(8.32×10−4M)および水中のピレン(8.32×10−5M)の蛍光スペクトルを比較している。水の場合、I3/I1比は0.633(文献値は0.63)であり、メタクリル酸ラウリルの場合I3/I1比は1.029である。これは、ポリマーコーティング内部で推測される環境よりもはるかに大きな環境の差が存在することを示している。
コーティングしたキュベットに加えたピレン溶液は16時間静置し、キュベットを空にして、超純水で十分に洗浄し、再び超純水を入れてから、蛍光スペクトルを測定した。I1の相対的な最大高さを使用して、コーティング中のピレンの相対量を求めた。このことを、各ポリマーについて3つのキュベットで繰り返し、平均を求めた。キュベット間でばらつきがみられたが、傾向が同様であることから、疎水性含有率の高いポリマー配合物はより多くのピレンを含有することが分かった(図2)。これは、これらの材料の含水率とは反対であり、含水率の順序は逆になる。したがって、系が変化すると、含水率がc>d>f>e(88:40:38:27)の順で変化するが、最終蛍光強度(コーティング中に含まれるピレン量)はe>d>c≧fの順で変化する。これは、コーティングの疎水性領域と優先的にピレンが会合することを示している。
I3/I1比を再び調べると(図1)、形式上の疎水性鎖を有するポリマーは比が大きくなった(ピレンに対してより疎水性環境であることを示している)。ベンジル側鎖を有するこのポリマーは、予想されるI3/I1の値よりも小さく、ピレンとの相互作用が少ないことを示している。しかし、純ベンジルアクリレートモノマー中のピレンのI3/I1比を測定すると、推測できる最大I3/I1は0.75となった(すなわち、ラウリルモノマーと比較すると、この芳香族ポリマー中で生じる蛍光強度のシフトの方が小さい)。PHEMAコーティングでは水性環境のピレンに特徴的なI3/I1を示し(図3A)、形式上の疎水性領域が存在しないことを示している。
(参照例2)
薬物−ポリマー相互作用対薬物溶解性
有効物質の水に対する溶解性が低いと放出速度が遅くなり、すなわち薬物の水に対する溶解性が低いと薬物の放出が持続するという、ステントによる治療薬放出の例が存在する。しかし、溶解性対放出時間(T90%)のグラフをプロットすると、関連性は非常に低く(R=0.006)、溶解性自体は観察される放出特性と関係がないことが分かった。
このことは、単に溶解性に基づいて既知の体積の水への薬物の理論的放出を比較し、これを同じ溶出体積のポリマー系の実際の放出プロファイルと比較することによってさらにモデル化することができる。100μgの薬物が表面に存在すると仮定し、さらに薬物が5mlの溶液中に溶出し、任意の種々の時点で、1mlを除去し、新しい溶液1mlを加えると仮定すると、種々の薬物の溶解プロファイルを計算し、同様に得た実験データと比較することができる。計算値と測定値の間の差は、ポリマーマトリックスとの相互作用に起因する可能性がある。
このことは図4aおよびbに明確に示されている。ここで、デキサメタゾン((logP(Pはオクタノールと水の間の分配係数である)が2.55である)とエストラジオールの理論的放出を、化合物の溶解性と化合物が溶出する水の体積に基づいて計算してグラフにプロットした(菱形/円)(ポリマーをコーティングしたステントの充填および溶出の研究に関するさらなる詳細な後述する)。この線と測定データ(正方形)の差は、化合物と、ポリマーコーティング(この場合参照例1のポリマーd))の疎水性領域との相互作用の程度により生じる。相互作用が存在することによって、化合物の放出を延長され、周囲環境への薬物の送達制御がある程度可能となる。
エストラジオール取り込みの試験
1.1 通常(低)充填量
参照例1で使用したコポリマーd)の架橋したコーティングを内壁および外壁の両方に形成した15mmのBiodivYsio DDステントを、エストラジオールの20mg/ml溶液に30分間浸漬し、溶液からステントを取り出し、ティッシュで水分を吸い取り、次に室温で2時間乾燥させて、ステントに薬物のコーティングを形成した。全薬物充填量をHPLCで測定すると、1つのステント当たり45μgから65μgの範囲であることが分かった。
1.2 高充填量
バルーン送達カテーテルにあらかじめ取り付けた18mmのBiodivYsio ステントについて、バルーンとステントの両方を20mg/mlのエストラジオールのエタノール溶液に5分間浸漬し、取り出して5分間乾燥させ、続いてステント/バルーン上に10μlの薬物溶液をピペットで滴下し、1分間乾燥させ、この滴下と乾燥の段階をもう1回繰り返し、最後に10分間乾燥させることによって、コーティングを行った。バルーンを膨張させ、収縮させてステントを取り外した。ステントおよびバルーンのそれぞれの薬物量はHPLCを使用して測定した。ステント上の薬物量は1つのステント当たり225μgから250μgであり、各バルーン上の薬物量は約190μgから220μgであった。
1.3 高充填量の繰り返し
直径が3mmまたは4mmのいずれかのバルーンにステントをあらかじめ取り付けて、実施例1.2の方法を繰り返した。4mmバルーンシステムの場合、薬物の平均量は240μgであり、3試料の範囲が229μgから254μgであり、面積分布は2.4μg/mm(2.3から2.6の範囲)であった。3mmバルーンシステムの場合、1つのステント当たりの平均充填量は2.59μgであり、5試料の範囲が243μgから276μgであった。面積分布は2.6μg/mm(2.4から2.8の範囲)であった。
25℃におけるエストラジオール溶出試験−非流動系
穏やかに撹拌されるPBS中で最長1時間、25℃で溶出試験を行った。これは、実施例1.1のエストラジオールを充填した15mmのDDステントを、それぞれ5mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)を含有しローラーに載せられたビンに入れることで実施した。最長7時間までの種々の時間間隔で、1mlのアリコートを取り出し、代わりに1mlの新しいPBSを入れた。ステントと水のアリコートの測定を行い、溶出した薬物量と、ステント上に残留する薬物量を求めた。結果を図5に示す。最初の1時間では、残りの時間よりも比較的速くエストラジオールが溶出し、4時間の辞典で62%のエストラジオールがステント上に残留することが分かる。
17β−エストラジオールの放出
実施例1.1で作製したステントからの17β−エストラジオールの溶出プロファイル(図6)について、37℃の多量(1000ml)のPBS食塩水中で5つのステントが激しく撹拌されるインビトロ試験を使用して評価を行った。この試験は、本発明のステントによって、少なくとも数時間のあいだ17β−エストラジオールを持続的に放出することができることを示している。24時間の間に種々の時点で緩衝液のアリコートを取り出して、17β−エストラジオール含有率を調べた。結果を図6に示す。インビボ条件に置き換えると、放出プロファイルは時間が延長されると予想される。
流動系におけるエストラジオール溶出試験
エストラジオールの流出を37℃の流動系で測定し、8時間のあいだ評価を行った。水浴中の6つの撹拌貯蔵槽(各500ml)中でPBSを37℃に維持した。ある長さのシリコーン管(内径3mm)を各貯蔵槽から6つのステントチャンバ(内径4mm、長さ80mm)の1つまで取り付け、蠕動ポンプを経由してそれぞれの貯蔵槽まで戻した。この系を流速100ml/分で圧送して、37℃の平衡温度に到達させた。流れを停止させ、実施例1の2つのエストラジオール充填15mmステントを6つのステントチャンバのそれぞれに入れ、再び流した。次に、種々の時間でステントを取り出し、水分を吸い取った。これらを使用して、ステント上に残留するエストラジオール量を測定した。結果を図7に示す。これから、このモデルでは、エストラジオールが、実施例2の撹拌される5mlのPBS中よりも比較的速く溶出したことが分かる。流動モデルでステントを通過するPBSの全体積が500mlであるため、試験時間全体で、ステントから薬物が脱着する速度が、その環境の吸収速度よりも速くなると思われる。この条件は、非流動法には適用できない。
エストラジオール充填ステントのインビボ試験
この試験は、前述の実施例1に一般的に記載されるように(すなわち、一段階の浸漬工程、または多段階充填法を使用して、薬物を充填しながら、バルーンに取り付ける)作製した、エストラジオール(17β)を充填した18mmのステントの、ブタ動脈への急激で短時間の留置の効果を調べる。この試験では3つの群を使用する。1)参照例1のポリマーコーティングdが形成され薬物コーティングは存在しない18mmBiodivYsioステントを使用する対照群、2)実施例1の浸漬充填法のみを使用するエストラジオール低投与群(1つのステント当たり約45μgから65μg)、および3)多段階充填法(実施例1.2)を使用する高投与群(1つのステント当たり約225μgから250μg)である。
全部で6匹の動物のそれぞれに3つのステントが植え込まれ、対照群、低投与群、および高投与群が1つずつであり、3つの冠動脈のそれぞれに1つのステントが植え込まれる。バルーン:動脈比約1.25:1((1.2から1.3):1の範囲内)を使用した。サイズが大きすぎると動脈壁が傷つき、ステント留置されたヒトの冠動脈に見られるような新しい内膜が形成される。
植え込みの1か月後、平均管腔直径(MLD)の定量的冠動脈造影図(QCA)により観察を行った。続いて、内膜肥厚および血管管腔面積の組織形態計測分析、ならびに再内皮化の程度によって結果を評価した。結果を表1に示す。
この実験から、「高投与群」の17β−エストラジオール充填ステントの初期面積が、「対照群」ステントと比較すると40%減少していることがわかる(p<0.05)(図4参照)。「高投与群」の17β−エストラジオールの初期面積/傷害スコアの比も「対照群」ステントと比較すると減少している(17β−エストラジオール対対照が、1.32±0.40mm対1.96±0.32mm、P<0.01)。これら3つの実験群で傷害スコアの有意差はなかった。
管腔面積に関しては、投与量が増加すると管腔面積が増加する傾向が見られた。
再内皮化スコアは3つすべての群で高く、これは17b−エストラジオールが治癒過程を妨害しないことを示している。
6α−メチルプレドニゾロン取り込み試験
6.1 低充填量
参照例1で使用したコポリマーd)の架橋したコーティングを内壁および外壁の両方に形成した15mmのBiodivYsio DDステントを、6α−メチルプレドニゾロン(MP)の12.35mg/ml溶液に5分間浸漬し、溶液からステントを取り出し、ティッシュで水分を吸い取り、次に室温で少なくとも1時間乾燥させて、ステントに薬物のコーティングを形成した。薬物の全充填量は、ステントをエタノール(9.0ml)に入れ30分間超音波処理することによって測定した。エタノールの濃度は246.9nmのUVで測定し、標準物質と比較した。投与量は、1つのステント当たり30μgから40μgであることが分かった。
6.2 高充填量
バルーン送達カテーテルにあらかじめ取り付けられ両面に架橋したポリマーd)がコーティングされた18mmのBiodivYsioステントについて、バルーンとステントの両方を12.0mg/mlのMPのエタノール溶液に5分間浸漬し、取り出して5分間乾燥させ、続いてステント/バルーン上に10μlの薬物溶液をピペットで滴下し、1分間乾燥させ、この滴下と乾燥の段階をもう1回繰り返し、最後に10分間乾燥させることによって、コーティングを行った。バルーンを膨張させ、収縮させてステントを取り外した。各ステント上の薬物量は、前述の方法を使用して測定した。ステント上の薬物量は、1つのステント当たり250μgから300μgの範囲であった。
25℃におけるMP溶出試験−非流動系
穏やかに撹拌されるPBS中で最長1時間、25℃で溶出試験を行った。これは、実施例6.1および6.2によるMPを充填した15mmのDDステントを、それぞれ5mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)を含有しローラーに載せられたビンに入れることで実施した。種々の時間間隔で、1mlのアリコートを取り出し、代わりに1mlの新しいPBSを入れた。ステントと水のアリコートの測定を行い、溶出した薬物量と、ステント上に残留する薬物量を求めた。結果を図8に示す。
MPおよびデキサメタゾンを充填したステントのインビボ試験
この試験は、前述の実施例1に一般的に記載されるように(すなわち、実施例1.1の一段階の浸漬工程、または実施例1.2の多段階充填法を使用して、薬物を充填しながら、バルーンに取り付ける)作製した、MPおよびデキサメタゾンを充填した18mmのステントの、ブタ動脈への急激で短時間の留置の効果を調べる。この試験では4つの群を使用する。1)薬物コーティングは存在しない18mmのBiodivYsioDDステント(ポリマーd)がコーティングされる)を使用する対照群、2)浸漬充填法のみ使用する低Dex投与群(1つのステント当たり約95μg)、3)多段階充填法を使用する高Dex投与群(1つのステント当たり約265μg)、および4)実施例6.2に記載されるように作製される高MP投与群(1つのステント当たり約270μg)である。
ステントは、ブタ動脈に5日間留置され、取り出され、続いてH&E染色によって炎症が調べられ、結果は適当なスケールで組織病理学的および形態計測学的に点数がつけられた。
各データ点の9つの測定から以下の結果が得られた:(表中の括弧内のp値)、1=差がない、0.05=95%の信頼性で差がある)。結果を表2に示す。
実施例6と8の結果から、高投与ステントによって結果が向上する傾向にあることがわかる。
デキサメタゾン充填ステントの再内皮化
実施例8のデキサメタゾン充填ステント(低Dex)を、ブタ冠動脈に30日間植え込んだ。この後、ブタを屠殺し、動脈のステント留置部分を取り出し、固定した。血管を長手方向に切断して内面を露出させ、スパッタコーティングを行い、SEM観察を行った。SEMによると、血管内面はステント束全体の周囲で完全に再内皮化していた。
臨床試験評価−最初の71名の患者の30日間のデータ
BiodivYsioデキサメタゾン溶出ステント(STRIDE)を使用した再狭窄防止の研究であって、ベルギーの7施設の71名の患者について実施された多施設計画調査である。この試験の主目的は、デキサメタゾンを充填したBiodivYsioステント(すなわち実施例8の低Dexステントと同じ方法で作製)を埋設後6か月で再狭窄となった患者の比率を評価することである。第2の目的は、処置の30日後の亜(急性)血栓症の発生率、および処置の30日後および6か月後におけるMACE(死亡、再発性心筋梗塞、または臨床的に標的となった病変の血管再生)の発生を評価することであった。
11mm、15mm、18mm、および28mmで直径が3.0mmから4.0mmのデキサメタゾン充填BiodivYsioステントで試験を行った。71名の患者の30日のデータ(安全性分析群)をこの実施例で報告する。その他の終点にはまだ到達しておらず、そのため報告できない。
平均身長が170cmで平均体重が79kgの71名の患者(男性79%)をこの試験に登録した。患者の63%は高コレステロール血症の病歴を有し、69%は以前喫煙していたか現在も喫煙を続けている。患者の47%は複数の血管疾患を有し、複数の血管疾患を有し、44%がMIの既往症を有した。治療される血管/病変は以下のように分類される。
治療する血管 病変の分類
RCA 31% A 21%
LAD 41% B1 48%
Cx 19% B2 27%
その他 9% C 4%
治療される病変の平均長さは9mmであった。大部分の患者は、15mm(34%)または18mm(39%)のいずれかのステントが植え込まれた。
30日間のフォローアップで、2名の患者がMACE(1名は処置1日後に冠動脈塞栓症で死亡、1名は非Q波MI)となった。3名の患者についてはこの研究治療とは無関係の重篤な有害反応があった。
第1のステントとして意図するステントの植え込みの成功として定義される技術的装置の成功は95%であった。研究が中断されるMACEが存在しない技術的装置の成功として定義される臨床装置の成功は患者の94%で達成された。
この初期の暫定的な分析によるデータから、コーティング中にデキサメタゾンが存在することによって、MACEまたは重篤な有害反応の発生率が増加することはなく、BiodivYsioデキサメタゾンステントは患者に短期間使用する場合には安全であるといえる。
(参照例3)
DDステント送達システムの溶媒の変化の評価
(バルーン送達カテーテル(バルーンはナイロン混合物製)に)あらかじめ取り付けたDDステントに非水溶性薬物を充填するために、ステント/送達システムの組み合わせを、薬物溶液に浸漬する必要がある。この実験の目的は、溶媒がバルーンに悪影響を及ぼすかどうかを調べることである。あらかじめ取り付けたBioDivYsioステントを溶媒に数分間入れ、続いて5分間風乾した。次に、バルーンの機械的性質を、破裂圧力試験によって調べた。
試料を圧力ポンプおよびゲージと接続し、1気圧(10Pa)の正圧をかけ、30秒間維持した。ステントが完全に展開するまで、すなわちバルーン中で大きくなったり折りたたまれたりしなくなるまで、30秒ごとに圧力を1気圧(10Pa)ずつ上昇させた。
次に、バルーン装置の定格の破裂圧力である16気圧(16×10Pa)まで増加させ、30秒間維持した。続いて、バルーンが破裂するまで圧力を1気圧増加させて30秒間維持する段階を繰り返した。結果を表に示す。
いずれの溶媒もバルーンに対して悪影響を及ぼさない。したがって、薬物充填溶媒の選択は、乾燥速度と溶媒の毒性、薬物の溶解性、およびポリマーの膨潤性と関連する。
異なる環境におけるピレンの蛍光スペクトルのI3:I1比を比較している(参照例1)。 参照例1で測定した種々のポリマーコーティング中に保持されるピレン量を示している。 メタクリル酸ラウリル中および水中のピレンの蛍光スペクトルを比較している。 水中および2種類の両親媒性ポリマー中のピレンの蛍光スペクトルを比較している(参照例1)。 ポリマー(参照例2)からのデキサメタゾンの実際の放出速度および理論的放出速度を示している。 ポリマー(参照例2)からの17β−エストラジオールの実際の放出速度および理論的放出速度を示している。 実施例2のエストラジオール溶出プロファイルを示している。 実施例3のエストラジオール溶出プロファイルを示している。 実施例4のエストラジオール溶出プロファイルを示している。 実施例7の6α−メチルプレドニゾロンの溶出プロファイルを示している。

Claims (11)

  1. ポリマーを含むコーティングと、1つのステント当たり少なくとも20μgの再狭窄抑制剤と、を有する金属本体を含む血管内ステントであって、前記再狭窄抑制剤は低水溶性薬物であり、且つエストラジオール、6α−メチルプレドニゾロンおよびデキサメタゾンから選択され、前記コーティング中の前記ポリマーは、1〜50%の2−メタクリロイルオキシエチル−2’−トリメチル−アンモニウムエチルホスフェート内部塩、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2〜10%のトリメトキシシリルプロピルメタクリレートおよび50〜95%のn−ブチルメタクリレート又はドデシルメタクリレートのモル比のモノマー混合物から形成される架橋した両親媒性ポリマーである血管内ステント。
  2. 前記ステントの少なくとも外壁の上で、前記薬物が吸収された前記両親媒性ポリマーの層を前記コーティングが含む、請求項1に記載のステント。
  3. ピレンを含有する水で膨潤させた場合に、前記コーティング中のポリマーに観察される疎水性ドメインのI3:I1の比が少なくとも1である、請求項1又は2に記載のステント。
  4. 前記再狭窄抑制剤のlogP(式中、Pはオクタノールと水の間の分配係数である)が1.2から4.5の範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のステント。
  5. 前記再狭窄抑制剤が、1つのステント当たりで、20μgから1000μgの範囲の量で存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のステント。
  6. a)金属製ステント本体の外壁および内壁を架橋性両親媒性ポリマーでコーティングする工程であって、前記両親媒性ポリマーが、1〜50%の2−メタクリロイルオキシエチル−2’−トリメチル−アンモニウムエチルホスフェート内部塩、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2〜10%のトリメトキシシリルプロピルメタクリレートおよび15〜95%のn−ブチルメタクリレート又はドデシルメタクリレートのモル比のモノマー混合物から形成される工程と、
    b)前記架橋性ポリマーを架橋が生じる条件下におくことによって、ピレンを含有する水で膨潤させた場合に、ピレン蛍光を観察すると強度比I3:I1が少なくとも0.8となる疎水性ドメインを有するポリマーでコーティングされたステントを作製する工程と、
    c)薬物としてのエストラジオール、6α−メチルプレドニゾロンおよびデキサメタゾンから選択される低水溶性再狭窄抑制剤と、前記薬物を少なくとも部分的に溶解させ、前記コーティングの架橋したポリマーを膨潤させることができる有機溶媒とを含む液体薬物組成物を、前記外壁上の前記ポリマーコーティングを膨潤させるのに十分な時間のあいだ、前記ポリマーでコーティングされたステントの少なくともコーティングされた外壁に接触させて、1つのステント当たりで少なくとも20μgの量の前記薬物が存在する、湿潤状態の薬物でコーティングされたステントを作製する工程と、
    d)前記湿潤状態のステントから有機溶媒を蒸発させて、乾燥状態の薬物でコーティングされたステントを作製する工程と、
    を含む、薬物でコーティングされた血管内ステントの製造方法。
  7. 工程c)において、前記薬物が、前記ポリマーの内部に吸収され、さらに前記ポリマーコーティングの表面にも吸着され、それによって、工程d)における前記溶媒の蒸発によって、前記乾燥状態の薬物でコーティングされたステントの表面に付着した薬物の結晶が形成される、請求項6に記載の方法。
  8. 工程c)において、前記ポリマーでコーティングされたステントを前記液体組成物に、場合によっては繰り返して、浸漬することで前記接触が実施される、請求項6または7に記載の方法。
  9. 工程c)において、前記接触が、前記ステント上に前記液体組成物を流し込む、噴霧する、または滴下することを含み、その直後に前記湿潤状態のステントから溶媒を蒸発させる、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 工程b)とc)の間で、前記ステントがステント送達セクションの送達カテーテル上に取り付けられ、それによって前記ステント送達セクションが前記液体薬物組成物とも接触する、請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 前記送達カテーテルがバルーンカテーテルであり、前記バルーンがポリアミド製であり、前記液体薬物組成物中の前記有機溶媒がジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、C1〜4アルコール、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
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