JP5189872B2 - サスペンションの制御装置および制御方法 - Google Patents

サスペンションの制御装置および制御方法 Download PDF

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Description

本発明は、車両のサスペンションの制御に関する。
車両の操舵角と横加速度とに基づいてカウンタステア状態を判別する技術が特許文献1により知られている。
また、可変減衰力ダンパの制御装置において、横加速度の微分値とヨーレートの2階微分値に基づいて、車両のロール抑制制御の目標減衰力を設定する技術が特許文献2により知られている。
特開平5−222972号公報 特開2006−281876号公報
特許文献1と特許文献2の技術により、乗員がカウンタステア操作を行った際に、車両側でロール運動制御を可変減衰力ダンパにより行ったとする。
しかし、カウンタステア時には横加速度、ヨーレートの変化率がほぼ0になる瞬間が発生する。このとき、横加速度の微分値とヨーレートの2階微分値に基づいて目標減衰力を設定する場合、目標減衰力の値も瞬間的にほぼ0になってしまう。これにより、ロール抑制制御中に一瞬減衰力が急激に下がるため、それに併せて急激なロール運動が発生し、車両の挙動が乱れるため乗員の乗り心地に違和感を与える虞がある。
そこで、前記事情を鑑みて、本発明では、カウンタステア時の車両の挙動を安定化することを課題とする。
前記課題を解決するために、本発明は、
車体と車輪との間に設けられたアクチュエータによりサスペンションの特性を変更させるサスペンションの制御装置であって、
車両の挙動量としてヨーレートまたは横加速度を検出する車両挙動センサを有し、
前記車両挙動センサによって検出されたヨーレートまたは横加速度に基づいて、前記アクチュエータを制御する信号のベース値を設定するベース値設定手段と、
車両の走行状態または乗員の操作に基づいて、前記ベース値設定手段により設定されたベース値を補正した補正値を設定する補正手段と、
車両のカウンタステア状態を判別するカウンタステア判別手段と、
前記カウンタステア判別手段により車両がカウンタステア状態であると判断され、かつ、前記ヨーレートまたは横加速度の変化率の絶対値が所定値未満のとき、前記補正手段が設定した補正値から、前記アクチュエータを制御する信号値を設定する信号値設定手段と、を備え、
前記信号値設定手段は、前記カウンタステア判別手段により車両がカウンタステア状態であると判断され、かつ、前記ヨーレートまたは横加速度の変化率の絶対値が所定値未満のとき、前記信号値設定手段により設定された信号値を所定時間毎に取得する信号値取得手段で今回取得した信号値を今回値とするとともに、該今回値の前記所定時間前に取得した値を前回値とし、前記ヨーレートまたは横加速度によらず前記前回値を特殊信号値として設定することで制御量変動を抑制する
ことを特徴とする。
詳細は、後記する。
本発明により、カウンタステア時の車両の挙動を安定化することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」という。)について、適宜図面を参照しつつ、説明する。
≪第1の実施形態≫
第1の実施形態では、車両の挙動量を所定時間ごとに取得して、ダンパが発生させる減衰力を補正する技術内容について説明する。
≪構成≫
図1は、本実施形態の車両のサスペンション装置の正面図である。 図1に示すように、四輪の自動車の車輪Wを懸架するサスペンション装置Sは、車体11にナックル12を上下動自在に支持するサスペンションアーム13と、サスペンションアーム13および車体11を接続する可変減衰力を発生させるダンパ14(アクチュエータ)と、サスペンションアーム13および車体11を接続するコイルバネ15とを備える。
ダンパ14の減衰力を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)Uには、バネ上加速度Auを検出するバネ上加速度センサSaからの信号と、ダンパ14の変位(ストローク:ダンパ変位)STを検出するダンパ変位センサSbからの信号と、車両の横加速度Gy(挙動量)を検出する横加速度センサSc(車両挙動センサ)からの信号と、車両のヨーレートγ(挙動量)を検出するヨーレートセンサSd(車両挙動センサ)からの信号と、車速Vを検出する車速センサSeからの信号と、車両の操舵装置(つまり、ハンドル)の操舵角θ(乗員の操作を示すパラメータ)を検出する操舵角センサSfからの信号とが入力される。尚、車両のヨーイングの中心は車両の重心位置であると仮定している。また、電子制御ユニットUは、前記信号等を入力する入力部、前記信号等を出力する出力部、CPU(Central Processing Unit)等で実現される制御部およびデータの記憶領域を有するRAM(Random Access Memory)等で実現される記憶部を有して構成されるコンピュータである。この制御部は、ROM(Read Only Memory)に記録されるプログラムを読み出して、ダンパ14の減衰力の制御等を実行する。
図2は、可変減衰力ダンパの拡大断面図である。図2に示すように、ダンパ14は、下端がサスペンションアーム13(図1参照)に接続されたシリンダ21と、シリンダ21に摺動自在に嵌合するピストン22と、ピストン22から上方に延びてシリンダ21の上壁を液密に貫通し、上端を車体に接続されたピストンロッド23と、シリンダ21の下部に摺動自在に嵌合するフリーピストン24とを備えており、シリンダ21の内部にピストン22により仕切られた上側の第1流体室25および下側の第2流体室26が区画されるとともに、フリーピストン24の下部に圧縮ガスが封入されたガス室27が区画される。
ピストン22にはその上下面を連通させるように複数の流体通路22aが形成されており、これらの流体通路22aによって第1、第2流体室25、26が相互に連通する。第1、第2流体室25、26および流体通路22aに封入される磁気粘性流体(MRF:Magneto-Rheological Fluids)は、オイルのような粘性流体に鉄粉のような磁性体微粒子を分散させたもので、磁界を加えると磁力線に沿って磁性体微粒子が整列することで粘性流体が流れ難くなり、見かけの粘性が増加する性質を有している。ピストン22の内部にはコイル28が設けられており、電子制御ユニットUによりコイル28への通電が制御される。コイル28に通電されると矢印で示すように磁束が発生し、流体通路22aを通過する磁束により磁気粘性流体の粘性が変化する。また、電子制御ユニットUにより、ピストン22の摺動が制御され、ダンパ14のストロークが能動的に制御される。
ダンパ14が収縮してシリンダ21に対してピストン22が下動すると、第1流体室25の容積が増加して第2流体室26の容積が減少するため、第2流体室26の磁気粘性流体がピストン22の流体通路22aを通過して第1流体室25に流入する。逆に、ダンパ14が伸長してシリンダ21に対してピストン22が上動すると、第2流体室26の容積が増加して第1流体室25の容積が減少するため、第1流体室25の磁気粘性流体がピストン22の流体通路22aを通過して第2流体室26に流入する。これらの流入の際に流体通路22aを通過する磁気粘性流体の粘性抵抗によりダンパ14が減衰力を発生する。
このとき、コイル28に通電して磁界を発生させると、ピストン22の流体通路22aに存在する磁気粘性流体の見かけの粘性が増加して該流体通路22aを通過し難くなるため、ダンパ14の減衰力が増加する。この減衰力の増加量は、コイル28に供給する電流の大きさにより任意に制御することができる。その電流の値(信号値I)が大きいほど、流体通路22aに存在する磁気粘性流体の粘性も大きくなる。
尚、ダンパ14に衝撃的な圧縮荷重が加わって第2流体室26の容積が減少するとき、ガス室27を縮小させながらフリーピストン24が下降することで衝撃を吸収する。またダンパ14に衝撃的な引張荷重が加わって第2流体室26の容積が増加するとき、ガス室27を拡張させながらフリーピストン24が上昇することで衝撃を吸収する。更に、ピストン22が下降してシリンダ21内に収納されるピストンロッド23の容積が増加したとき、その容積の増加分を吸収するようにフリーピストン24が下降する。
この電子制御ユニットUは、バネ上加速度センサSaで検出したバネ上加速度Au、ダンパ変位センサSbで検出したダンパ変位ST、横加速度センサScで検出した車両の横加速度Gy、ヨーレートセンサSdで検出した車両のヨーレートγ、車速センサSeで検出した車速Vおよび操舵角センサSfで検出した車両の操舵装置の操舵角θに基づいて、各車輪Wの合計4個のダンパ14の減衰力を個別に制御する。これにより、路面の凹凸を乗り越える際の車両の動揺を抑えて乗り心地を高めるスカイフック制御のような乗り心地制御と、車両の旋回時のローリングや車両の急加速時や急減速時のピッチングを抑える操縦安定制御とが、車両の運転状態に応じて選択的に実行される。
図3は、本実施形態の電子制御ユニットの機能構成を示したブロック図である。図3に示すように、この電子制御ユニットUは、ベース値設定手段31、補正手段32、信号値設定手段33、カウンタステア判別手段34、センサ値取得手段35および微分手段36を有して構成される。
ベース値設定手段31は、車両の挙動量であるヨーレートγ、横加速度Gy等に基づいて、ダンパ14を制御する信号のベース値Bを設定する。設定したベース値Bは、補正手段32に出力される。ダンパ14を制御する信号とは、主に、ダンパ14に働く減衰力を制御する信号であるが、ダンパ変位STを制御する信号であっても良い。
補正手段32は、少なくとも、車両の走行状態の具体例である車速Vまたは乗員の操作の具体例である操舵角θに基づいて、ベース値Bを補正し、補正した値を補正値Cとする。補正値Cは、信号値設定手段33に出力される。
信号値設定手段33は、補正値Cを、コイル28から発生する磁界を制御する電流の電流値(つまり、目標減衰力となる電流値)である信号値Iに変換する。信号値Iは、ダンパ14のコイル28に出力される。
カウンタステア判別手段34は、操舵角θおよび横加速度Gyに基づいて、車両がカウンタステア状態であるか否かを判別する。この判別の具体的な方法は、以下の通りである。すなわち、

(1):操舵角θが非負であり、かつ、横加速度Gyが非負であるとき、ノーマルステア状態とみなす。なお、「ノーマルステア状態」とは、カウンタステア状態ではない状態をいうが、具体的には、設定されたベース値Bおよび設定された補正値Cに基づいて、信号値Iが設定され、乗員の旋回操作に見合う減衰力が発生するように制御される状態である。
(2):操舵角θが非負であり、かつ、横加速度Gyが負であるとき、カウンタステア状態とみなす。
(3):操舵角θが負であり、かつ、横加速度Gyが非負であるとき、カウンタステア状態とみなす。
(4):操舵角θが負であり、かつ、横加速度Gyが負であるとき、ノーマルステア状態とみなす。

カウンタステア判別手段34は、この判別結果をフラグFとして信号値設定手段33に出力する。フラグFは、「0」または「1」の2値を採り得る信号である。フラグFが「0」のときは、ノーマルステア状態であることを意味し、フラグFが「1」のときは、カウンタステア状態であることを意味する。
センサ値取得手段35は、車両の挙動量であるヨーレートγ、横加速度Gy等を所定時間ごとに取得する。取得した挙動量をセンサ値(・・・JN−1、J、・・・)として、補正手段32に出力する。前記所定時間とは、例えば、センサ値取得手段35が備えるクロック発生器から発生するクロックパルスの周波数に基づいて定められるサンプリングタイムである。センサ値取得手段35は、少なくとも、カウンタステア判別手段34から「1」のフラグFを受信し続けている間は、このセンサ値(・・・JN−1、J、・・・)を補正手段32に出力する。ちなみに、補正手段32は、このセンサ値に基づいて、ベース値Bを補正する。補正する際には、カウンタステア状態にある時に取得したセンサ値(例えば、Jとする。)を今回値とした場合に、Jを取得する前の時点で取得したセンサ値(例えば、JN−1、JN−2等)である前回値に基づく。つまり、カウンタステア状態において、ノーマルステア状態における挙動量を採用する。
微分手段36は、車両の挙動量であるヨーレートγ、横加速度Gy等を、時間微分して、その値γ´およびGy´等を信号値判定手段33に出力する。信号値判定手段33はγ´およびGy´によって、車両の挙動量の時間に関する変化率(以下、「挙動量の変化率」という場合がある。)を評価する。
信号値設定手段33は、カウンタステア判別手段34からカウンタステア状態である「1」のフラグFを受信し、かつ、挙動量の変化率がほぼ0であれば、補正手段32から受信する補正値Cを補正して信号値Iを「特殊信号値」としてダンパ14へ出力する。具体的には、カウンタステア状態であり、かつ、車両の挙動量が殆ど変化しないとき、信号値設定手段33は、瞬間的(短い時間)に、目標減衰力の値がほぼ0になるように信号値Iをほぼ0に設定してしまうので、その瞬間においてのみ、所定の値を有する(例えば、事前の試験やシミュレーションで定めておく)特殊信号値を、強制的に設定する。これにより、信号値Iをほぼ0に設定してしまうことにより発生する急激なロール運動を、強制的に大きくした電流値で抑制することができる。なお、挙動量の変化率の評価としては、一例として、現時点で出力されている挙動量がその直前で出力されていた挙動量の±5%の範囲内に収まっているか否かを評価する方法がある。このとき、その範囲の上限または下限を定める所定値が設定される。挙動量の変化率の絶対値がこの所定値未満(つまり、5%未満)であるか否かが判定される。なお、±5%という数値は一例であって、適宜変更しても良い。
≪処理≫
次に、カウンタステア状態においてダンパ14に発生させる減衰力の制御に関する処理について説明する。図4は、本実施形態の、ダンパに発生させる減衰力の制御に関する処理を示すフローチャートである。この処理の主体は、電子制御ユニットUである。
まず、ステップS401において、電子制御ユニットUは、走行中の車両に生じる挙動量としてヨーレートγや横加速度Gyを取得する。取得した後、ステップS402に進む。
次に、ステップS402において、電子制御ユニットUは、ベース値設定手段31においてベース値Bを設定する。設定した後は、ステップS403に進む。
次に、ステップS403において、電子制御ユニットUは、カウンタステア判別手段34において車両がカウンタステア状態の判別を開始する。判別を開始した後は、ステップS404に進む。
次に、ステップS404において、電子制御ユニットUは、カウンタステア判別手段34において判別された結果、フラグFが「1」であるか「0」であるかを確認する。フラグFが「1」であれば(ステップS404で、F=1)、カウンタステア状態であると判別されたことを意味し、ステップS405に進む。フラグFが「0」であれば(ステップS404で、F=0)、ノーマルステア状態であると判別されたことを意味し、ステップS410に進む。
次に、ステップS405において、電子制御ユニットUは、センサ値取得手段35において、カウンタステア状態にある時に取得したセンサ値を今回値とし、かつ、今回値を取得する前の時点で取得したセンサ値を前回値として決定する。決定した後、ステップS406に進む。なお、決定した前回値は、例えば、ノーマルステア状態の時(電流値が急落する直前)に取得したセンサ値である。
次に、ステップS406において、電子制御ユニットUは、補正手段32において、車速V、操舵角θ、および前回値としての挙動量に基づいてベース値Bを補正し、補正値Cを設定する。設定した後、ステップS407に進む。
次に、ステップS407において、電子制御ユニットUは、微分手段36において、挙動量の変化率Mを算出する。算出された後、ステップS408に進む。
次に、ステップS408において、電子制御ユニットUは、信号値設定手段33において、挙動量の変化率Mの絶対値|M|が所定値α(正の微小量)未満であるか否か判定する。|M|がα未満であれば(ステップS408でYes)、挙動量の変化率がほぼ0であることを意味し、ステップS409に進む。|M|がα以上であれば(ステップS408でNo)、挙動量の変化率がそれなりに大きいことを意味し、ステップS411に進む。
次に、ステップS409において、電子制御ユニットUは、信号値設定手段33において、出力する信号値Iを特殊信号値として設定する。設定された特殊信号値は、ダンパ14に出力され、カウンタステア状態において瞬間的に発生するロール運動を抑える減衰力が発生する。設定した後、本処理を最初から繰り返す。
次に、ステップS404でF=0のノーマルステア状態である場合のステップS410において、電子制御ユニットUは、補正手段32において、車速V、操舵角θ、および今回値としての挙動量に基づいてベース値Bを補正し、補正値Cを設定する。設定した後、ステップS411に進む。
次に、ステップS411において、電子制御ユニットUは、信号値設定手段33において、出力する信号値Iを通常信号値として設定する。通常信号値とは、例えば、記憶部に格納されたマップ(不図示)に従い、車両の挙動量に対し、通常に発生させる減衰力に対応する信号値である。設定された通常信号値は、ダンパ14に出力され、通常の姿勢制御に要する減衰力が発生する。設定した後、本処理を最初から繰り返す。
以上により、カウンタステア状態においてダンパ14に発生させる減衰力の制御に関する処理の説明を終了する。
≪具体例≫
次に、カウンタステア状態においてダンパ14に発生させる減衰力の制御の具体例について説明する。図5は、右方向に旋回する車両のカウンタステア状態の経時変化の様子を図示したものである。図5において、この車両は、時刻tから時刻tに亘って右方向に旋回するが、時刻tから時刻tまではハンドルを左に切る操作を含めたカウンタステア状態にある。
図6は、図5の旋回状態における、(a):時刻に対する、操舵角θ、ヨーレートγおよび横加速度Gyのグラフ、並びに(b):時刻に対する信号値のグラフである。(a)において、時刻tからtのうち一瞬(短い時間)だけヨーレートγおよび横加速度Gyの変化がほぼ0になっている。つまり、ヨーレートγおよび横加速度Gyの変化率の絶対値が所定値(直前で測定されたヨーレートγおよび横加速度Gyの5%)未満になっている領域がある。(b)に着目すると、この領域における信号値は通常であれば、ほぼ0になってしまう(図中一点鎖線)。しかし、この領域で、信号値の大きさを時刻tにおいて設定された大きさ(前回値)にまで強制的に高める(図中太線)。すると、この領域であっても、大きな減衰力を発生し、ロール運動の発生を抑えることができる。
≪まとめ≫
本実施形態により、以下の効果を奏する。すなわち、信号値がほぼ0になって、ロール抑制制御の瞬間的な信号抜けが発生するのを抑制することができるため、カウンタステア状態においてロール抑制制御による挙動を安定させることができ、乗員の乗り心地が悪化するのを抑制することができる。
また、挙動量をセンサ値として定期的に取得して、今回値ではなく前回値を用いて補正値Cを設定することにより、カウンタステア状態において、挙動量の変化率がほぼ0になるタイミングが的確に把握される。これにより、特殊信号値を然るべき時に設定し、逆に、不要なときには設定せずに済み、乗員の乗り心地に違和感を与えることが無い。
≪第2の実施形態≫
第2の実施形態では、ダンパに出力する、減衰力を設定する信号値を所定時間ごとに取得して、ダンパが発生させる減衰力を補正する技術内容について説明する。
≪構成≫
図7は、本実施形態の電子制御ユニットの機能構成を示したブロック図である。第1の実施形態のそれ(図3参照)と比べて、センサ値取得手段35の代わりに信号値取得手段37が用いられている点が相違する。以降の説明では、主に、相違する点について説明し、共通する点については省略する。
信号値取得手段37は、信号値設定手段33により設定された信号値を所定時間ごとに取得する。取得した信号値を、・・・KN−1、K、・・・として、補正手段32に出力する。前記所定時間とは、例えば、信号値取得手段37が備えるクロック発生器から発生するクロックパルスの周波数に基づいて定められるサンプリングタイムである。信号値取得手段37は、少なくとも、カウンタステア判別手段34から「1」のフラグFを受信し続けている間は、この信号値(・・・KN−1、K、・・・)を補正手段32に出力する。ちなみに、補正手段32は、この信号値に基づいて、ベース値Bを補正する。補正する際には、カウンタステア状態にある時に取得した信号値(例えば、Kとする。)を今回値とした場合に、Kを取得する前の時点で取得した信号値(例えば、KN−1、KN−2等)である前回値に基づく。つまり、カウンタステア状態において、ノーマルステア状態における信号値を採用する。なお、サンプリングタイムは、例えば、電子制御ユニットUの演算速度に応じて設定すると良いが、これに限定しない。
≪処理≫
次に、カウンタステア状態においてダンパ14に発生させる減衰力の制御に関する処理について説明する。図8は、本実施形態の、ダンパに発生させる減衰力の制御に関する処理を示すフローチャートである。この処理の主体は、電子制御ユニットUである。
まず、ステップS801において、電子制御ユニットUは、走行中の車両に生じる挙動量としてヨーレートγや横加速度Gyを取得する。取得した後、ステップS802に進む。
次に、ステップS802において、電子制御ユニットUは、ベース値設定手段31においてベース値Bを設定する。設定した後は、ステップS803に進む。
次に、ステップS803において、電子制御ユニットUは、補正手段32において、車速Vおよび操舵角θに基づいてベース値Bを補正し、補正値Cを設定する。設定した後、ステップS804に進む。
次に、ステップS804において、電子制御ユニットUは、信号値設定手段33において信号値Iを設定する。設定した後、ステップS805に進む。
次に、ステップS805において、電子制御ユニットUは、カウンタステア判別手段34において車両がカウンタステア状態の判別を開始する。判別を開始した後は、ステップS806に進む。
次に、ステップS806において、電子制御ユニットUは、カウンタステア判別手段34において判別された結果、フラグFが「1」であるか「0」であるか確認する。フラグFが「1」であれば(ステップS806で、F=1)、カウンタステア状態であると判別されたことを意味し、ステップS807に進む。フラグFが「0」であれば(ステップS806で、F=0)、ノーマルステア状態であると判別されたことを意味し、ステップS813に進む。
次に、ステップS807において、電子制御ユニットUは、信号値取得手段37において、カウンタステア状態にある時に取得した信号値を今回値とし、かつ、今回値を取得する前の時点で取得した信号値を前回値として決定する。決定した後、ステップS808に進む。なお、決定した前回値は、例えば、ノーマルステア状態の時(電流値が急落する直前)に取得したセンサ値である。
次に、ステップS808において、電子制御ユニットUは、補正手段32において、車速V、操舵角θ、および前回値としての信号値に基づいてベース値Bを補正し、補正値Cを設定する。設定した後、ステップS809に進む。
次に、ステップS809において、電子制御ユニットUは、微分手段36において、挙動量の変化率Mを算出する。算出された後、ステップS810に進む。
次に、ステップS810において、電子制御ユニットUは、信号値設定手段33において、挙動量の変化率Mの絶対値|M|が所定値α(正の微小量)未満であるか否か判定する。|M|がα未満であれば(ステップS810でYes)、挙動量の変化率がほぼ0であることを意味し、ステップS811に進む。|M|がα以上であれば(ステップS810でNo)、挙動量の変化率がそれなりに大きいことを意味し、ステップS812に進む。
次に、ステップS811において、電子制御ユニットUは、信号値設定手段33において、出力する信号値Iの前回値を特殊信号値として設定する。設定された特殊信号値は、ダンパ14に出力され、カウンタステア状態において瞬間的に発生するロール運動を抑える減衰力が発生する。設定した後、本処理を最初から繰り返す。
次に、ステップS812において、電子制御ユニットUは、信号値設定手段33において、出力する信号値Iの今回値を通常信号値として設定する。なお、この信号値Iは、カウンタステア状態であっても挙動量の変化率Mがそれなりに大きいため、ロール抑制制御の瞬間的な信号抜けが起こらない信号値である。設定した後、本処理を最初から繰り返す。
次に、ステップS813において、電子制御ユニットUは、信号値設定手段33において、出力する信号値I(ステップS804で設定した信号値I)を通常信号値として設定する。設定した後、本処理を最初から繰り返す。
以上により、カウンタステア状態においてダンパ14に発生させる減衰力の制御に関する処理の説明を終了する。
≪まとめ≫
本実施形態により、以下の効果を奏する。すなわち、第1の実施形態と比べて、信号値を定期的に取得して、今回値ではなく前回値を用いて補正値Cを設定することにより、カウンタステア状態において、信号値がほぼ0になるタイミングが直接的に把握される。これにより、特殊信号値を然るべき時に設定し、逆に、不要なときには設定せずに済み、乗員の乗り心地に違和感を与えることが無い。
≪その他≫
なお、前記形態は、本発明を実施するための最良のものであるが、その実施形式はこれに限定するものではない。したがって、本発明の要旨を変更しない範囲においてその実施形式を種々変形することは可能である。
(1):例えば、本実施形態では、信号値設定手段33において、挙動量の変化率を評価する際に、その変化の範囲の上限または下限を定める所定値を用いた。しかし、この所定値を設定するにあたり、他の方法を用いても構わない。例えば、当該時刻における挙動量の微分係数を算出する手段を、信号値設定手段33に備え、その微分係数の上限または下限を定める所定値として用いても構わない。
(2): 例えば、本実施形態では、カウンタステア判別手段34において、車両がカウンタステア状態であるか否かを判別する際に、操舵角θおよび横加速度Gyを用いるようにした。しかし、必ずしも操舵角θを用いずとも、例えば、操舵角θの角速度を用いれば良い。すると、操舵方向がわかるようになるので、操舵方向がわかりさえすれば、横加速度Gyとの比較で、車両がカウンタステア状態であるか否かを判別することができる。
(3):例えば、本実施形態では、ベース値設定手段31において、車両の挙動量に基づいて、ベース値Bを設定するようにした。しかし、ベース値設定手段31の前段に、例えば、ローパスフィルタを配置して、操舵に因らない、通常走行中の挙動量を遮断するようにしても良い。このような挙動量は、信号値Iのノイズを構成する要因になり、それを事前に除去することで、信号値設定手段33でなされる挙動量の変化率の評価の精度が向上し、カウンタステア状態におけるロール抑制制御による挙動をより安定させることができる。
(4):例えば、本実施形態では、カウンタステア状態において、ハンドルを逆方向に切り始めてから少し時間が経過して、瞬間的な信号抜けが発生した時に特殊信号値を出力するようにした(図5および図6の時刻tから時刻tまで時間帯を参照)。しかし、カウンタステア状態において、一旦逆方向に切ったハンドルを再びもとの方向にハンドルを切り直した(つまり、カウンタステアに対するカウンタステア)ために、再度、瞬間的な信号抜けが発生するのであれば、その時に、再度、特殊信号値を出力するように制御しても良い(図5および図6の時刻tから時刻tまで時間帯を参照)。この場合でも、急激なロール運動が発生し、車両の挙動が乱れる可能性があり、それを未然に防ぐためである。
その他、ハードウェア、ソフトウェア、各フローチャートなどの具体的な構成、材料の選択、その構造の設計等について、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
第1の実施形態の車両のサスペンション装置の正面図である。 可変減衰力ダンパの拡大断面図である。 第1の実施形態の電子制御ユニットの機能構成を示したブロック図である。 第1の実施形態の、ダンパに発生させる減衰力の制御に関する処理を示すフローチャートである。 右方向に旋回する車両のカウンタステア状態の経時変化の様子を図示したものである。 図5の旋回状態における、(a):時刻に対する、操舵角θ、ヨーレートγおよび横加速度Gyのグラフ、並びに(b):時刻に対する信号値のグラフである。 第2の実施形態の電子制御ユニットの機能構成を示したブロック図である。 第2の実施形態の、ダンパに発生させる減衰力の制御に関する処理を示すフローチャートである。
符号の説明
S サスペンション装置
U 電子制御ユニット
14 ダンパ
31 ベース値設定手段
32 補正手段
33 信号値設定手段
34 カウンタステア判別手段
35 センサ値取得手段
36 微分手段
37 信号値取得手段

Claims (2)

  1. 車体と車輪との間に設けられたアクチュエータによりサスペンションの特性を変更させるサスペンションの制御装置であって、
    車両の挙動量としてヨーレートまたは横加速度を検出する車両挙動センサを有し、
    前記車両挙動センサによって検出されたヨーレートまたは横加速度に基づいて、前記アクチュエータを制御する信号のベース値を設定するベース値設定手段と、
    車両の走行状態または乗員の操作に基づいて、前記ベース値設定手段により設定されたベース値を補正した補正値を設定する補正手段と、
    車両のカウンタステア状態を判別するカウンタステア判別手段と、
    前記カウンタステア判別手段により車両がカウンタステア状態であると判断され、かつ、前記ヨーレートまたは横加速度の変化率の絶対値が所定値未満のとき、前記補正手段が設定した補正値から、前記アクチュエータを制御する信号値を設定する信号値設定手段と、を備え、
    前記信号値設定手段は、前記カウンタステア判別手段により車両がカウンタステア状態であると判断され、かつ、前記ヨーレートまたは横加速度の変化率の絶対値が所定値未満のとき、前記信号値設定手段により設定された信号値を所定時間毎に取得する信号値取得手段で今回取得した信号値を今回値とするとともに、該今回値の前記所定時間前に取得した値を前回値とし、前記ヨーレートまたは横加速度によらず前記前回値を特殊信号値として設定することで制御量変動を抑制する
    ことを特徴とするサスペンションの制御装置。
  2. 車体と車輪との間に設けられたアクチュエータによりサスペンションの特性を変更させるサスペンションの制御装置における制御方法であって、
    前記制御装置は、車両の挙動量としてヨーレートまたは横加速度を検出する車両挙動センサを有し、
    前記車両挙動センサによって検出されたヨーレートまたは横加速度に基づいて、前記アクチュエータを制御する信号のベース値を設定するベース値設定ステップと、
    車両の走行状態又は乗員の操作に基づいて、前記ベース値設定ステップにおいて設定されたベース値を補正した補正値を設定する補正ステップと、
    車両のカウンタステア状態を判別するカウンタステア判別ステップと、
    前記カウンタステア判別ステップにおいて車両がカウンタステア状態であると判断され、かつ、前記ヨーレートまたは横加速度の変化率の絶対値が所定値未満のとき、前記補正ステップにおいて設定した補正値から、前記アクチュエータを制御する信号値を設定する信号値設定ステップと、を実行し、
    前記信号値設定ステップにおいて、前記カウンタステア判別ステップにより車両がカウンタステア状態であると判断され、かつ、前記ヨーレートまたは横加速度の変化率の絶対値が所定値未満のとき、前記信号値設定ステップにより設定された信号値を所定時間毎に取得する信号値取得ステップで今回取得した信号値を今回値とするとともに、該今回値の前記所定時間前に取得した値を前回値とし、前記ヨーレートまたは横加速度によらず前記前回値を特殊信号値として設定することで制御量変動を抑制する
    ことを特徴とするサスペンションの制御方法。
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