JP5189305B2 - 粉末形状の分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤 - Google Patents

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Description

本発明は、凍結乾燥により得られた粉末状の形態にある、ウイルスの不活化抗原であるワクチンとアジュバントを、例えば経鼻投与(鼻粘膜接種)することにより、ウイルスに特異的な分泌型IgA及び/又はIgG抗体の産生を誘導させる方法に関する。
また本発明は、経鼻投与(鼻粘膜接種)することにより、当該分泌型IgA及び/又はIgG抗体の産生を誘導させ、それによりウイルスからの感染を防御する方法、さらには分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤に関する。
最近各種ウイルスによる感染症が問題視されてきている。ウイルス、特にフラビウイルスのなかでも、ウエストナイルウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等による感染症は、更には亜型インフルエンザウイルスによる感染症は、世界的に大きな問題となっている。
またそれに加えて最近、フラビウイルスの一種であるハンタウイルスによる感染症も大きく問題視される様になってきた。ハンタウイルス感染症は、ネズミを自然宿主とするハンタウイルスによる人獣共通感染症であり、該ウイルスはネズミの糞、尿中に排出され、多くは、新鮮な糞または乾燥した糞、尿中からエアロゾルとしてウイルスを吸い込むことにより感染するが、ネズミの咬傷でも感染するとされている。さらに、ネズミに触れたものを介して鼻、目又は口に触れることで感染すると考えられている。
腎症候性出血熱(Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome:HFRS)を起こすハンタウイルスは、ユーラシア大陸に広く分布しており、主要なものは、朝鮮半島、中国の北部から中央部及び極東ロシアにみられるセスジアカネズミ(Apodemus agrarius)を宿主とするハンタンウイルスである。中国ではおよそ年間数万人、ロシアでは数千人、韓国では数百人規模での患者が報告されており、広く世界的に分布しているドブネズミ(Rattus norvegicus)に保有されているのはソウル(Seoul)ウイルスであり、日本では1984年の医学系動物実験施設感染患者の後は発生の報告はないが、我が国の港湾地域に生息するドブネズミは、今日においても当該ウイルスを保有していることから、今後この患者の発生に注意する必要がある。
一方、1993年に米国南西部で、肺水腫を伴う急性の呼吸困難による死亡がナバホインディアンのあいだ複数報告された。HFRSと異なり腎症候を伴わず、急性の呼吸器症状を示し、約50%が死亡したが、病因ウイルスはハンタウイルスであった。このハンタウイルス肺症候群(Hantavirus pulmonary Syndrome:HPS)は、北米のみならず、1995年には南米においてもハンタウイルスによる感染症の発症の報告がなされている。
HFRSや、北米あるいは南米のHPS等のハンタウイルス感染症では、ヒトからヒトへの感染は起こらないと考えられている。ところが、1996年9月の南アルゼンチンで報告されたケースでは、住民及び訪問者18例と、患者に関わったが、当地を訪れていない2例のHPSが発生し、致死率は50%であった。患者にはネズミとの接触が考えられず、ヒトからヒトへの感染が起こった例であり、ウイルス学的証拠も示され、重大な問題となったが、その後は終息し、再発生は起こっていない。
しかしながら、世界的にドブネズミ等が生活の場に蔓延している今日では、ネズミの糞を介在して空気感染するHFRSやHPS等のハンタウイルス感染症が何時発生してもおかしくない状況にあり、事実上記したように、中国、極東ロシア、韓国では毎年その発生が報告されており、このハンタウイルスによる感染に対するワクチンの開発が強く望まれているのが現状である。
特に、毎年の発生件数が数多く報告されている中国、極東ロシア、韓国等においては、かかる感染症に対するワクチンの提供は急務であるといえる。
ところで、空気感染によるインフルエンザ等の呼吸器感染症の防御には、粘膜より分泌される特異的IgA抗体が非常に有効であることが知られている。特に型の異なるウイルスに対する交叉防御は、粘膜で分泌されるIgA抗体が主に担っており、インフルエンザウイルスに自然罹患した後に回復したヒトには、このIgA抗体が誘導されており、同亜型の変異型ウイルスの流行に対しても感染防御ができているとされている。
一方、未感染の個体におけるウイルスまたは病原菌からの感染を防御する方法として、ウイルスまたは病原菌由来の不活化抗原であるワクチンを接種し、意図的に抗体を誘導させる方法があり、そのようなものとしてインフルエンザワクチン、コレラワクチン、チフスワクチン、種痘ワクチン、BCGワクチン等などが知られている。
そのなかでもインフルエンザ、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)等の呼吸器疾患は、呼吸器官からの感染によるものであり、したがってそのワクチンの投与により呼吸器粘膜での免疫応答が求められている。しかしながら、現在用いられているワクチンは皮下注射によるものであり、効果的な粘膜免疫応答が得られず、交叉防御能を有する、より効果的なワクチンの開発が求められているのが現状である。
特に、呼吸器粘膜における分泌型IgA抗体の誘導方法として、鼻腔投与(経鼻投与)による鼻粘膜へ抗原を接種する方法があるが、液状のワクチンを経鼻投与するには霧状に噴霧しなければならず、それほど効果的なIgA抗体の誘導は得られていない。
したがって、より効果的な免疫応答発現のためには、ワクチンと同時に投与するアジュバントが、経鼻的に粘膜状への吸着性が良好な形態の接種方法の開発が望まれていた。
かかる観点に立脚してHFRSやHPSのハンタウイルスをはじめとするフラビウイルス感染症を考察すると、基本的にはかかるウイルスによる感染は、インフルエンザウイルスと同様に呼吸器感染症として捉えることができる。
したがって、呼吸器粘膜上における分泌型IgA抗体の産生を誘導し、血清中でのIgG抗体応答が得られれば、効果的なハンタウイルスをはじめとするウイルス感染症の予防となり得る。
そのためには、当該ウイルスの不活性抗原を粘膜投与、特に経鼻投与してやればよいが、これらウイルスの不活性抗原のワクチン効果をより完全なものとするには、ワクチンに対するアジュバント作用を有する物質を同時に効果的に鼻腔内粘膜上に投与することが必要である。
ところでこれまで、ワクチンに対するアジュバント作用を有する物質が種々提案されてきており、例えば、最近では、イノシン酸とシチジル酸とからなるポリヌクレオチドコポリマーであるPoly(I:C)にアジュバント作用があることが報告されている(非特許文献1)。
特願2004−133268
本発明者はこれらの特異的なアジュバント作用を有する物質を用いて、ハンタウイルスをはじめとする各種ウイルスの不活性抗原を経鼻投与することを検討し、凍結乾燥により得られた粉末状の形態にある、ウイルスの不活化抗原であるワクチンとアジュバントを、例えば経鼻投与(鼻粘膜接種)することにより、効果的に粘膜上でのIgA抗体分泌と、血清中におけるIgG抗体応答が得られ、さらに致死量のハンタウイルスをはじめとする各種ウイルスに対する感染防御効果が認められることを確認し、本発明を完成させるに至った。
したがって、本発明は、Poly(I:C)をアジュバントとして利用し、ハンタウイルスをはじめとする各種ウイルスに特異的な分泌型IgA及び/又はIgG抗体の産生を誘導させる粉末状の形態にある経鼻投与用のワクチンを提供することを課題とする。また、本発明は、別の態様として、当該分泌型IgA及び/又はIgG抗体を誘導させることによりウイルスによる感染を防御する方法を提供することを課題とする。
かかる課題を解決するための本発明は、その基本的な一態様として、Poly(I:C)誘導体又はアジュバントを凍結乾燥し粉末の形態にし、含有することを特徴とする分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤であり、具体的には、ウイルス由来の不活化抗原およびアジュバントとしてPoly(I:C)を凍結乾燥し粉末の形態にしたことを特徴とする分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤を経鼻投与することにより、良好な鼻粘膜上でのIgA抗体の分泌と、血清中でのIgG抗体応答を得ることを特徴とする経鼻用ワクチンである。
さらに本発明は、別の態様として、具体的には、凍結乾燥粉末の形態にあるウイルスの不活化抗原と共にアジュバントとしてPoly(I:C)を投与することを特徴とする特異的IgA及び/又はIgG抗体を誘導させる方法であり、より具体的には、吸器粘膜、特に鼻腔内粘膜に投与することを特徴とする分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導させる方法である。
より具体的な本発明は、以下の構成からなるものである。
(1)Poly(I:C)誘導体又はアジュバントを凍結乾燥し粉末の形態にし、含有することを特徴とする分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤;
(2)ウイルス由来の不活化抗原、及びPoly(I:C)誘導体又はアジュバントを凍結乾燥し粉末の形態にしたことを特徴とする分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤;
(3)呼吸器粘膜に投与することを特徴とする上記1又は2に記載の分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤;
(4)ウイルスがウエストナイルウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、マラリア、眠り病である上記1〜3に記載の分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤。
(5)凍結乾燥粉末の形態にある、ウイルス由来の不活化抗原、及びPoly(I:C)誘導体又はアジュバントを投与することを特徴とするウイルス特異的IgA及び/又はIgG抗体を誘導させる方法;
(6)呼吸器粘膜に投与することを特徴とする上記5に記載の分泌型IgA及び/又はIgG抗体を誘導させる方法。
(7)呼吸器粘膜が鼻粘膜である上記6に記載のgA及び/又はIgG抗体を誘導させる方法;
(8)ウイルスがウエストナイルウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、マラリア、眠り病である上記5〜7に記載のウイルス特異的IgA及び/又はIgG抗体を誘導させる方法;
である。
本発明が提供するウイルス由来の不活化抗原、及びPoly(I:C)誘導体又はアジュバントからなる凍結乾燥粉末の形態にあるワクチンを経鼻投与することにより、各種ウイルスに特異的な呼吸器粘膜組織における分泌型IgA及び/又はIgG抗体の産生が誘導される。
分泌型IgA及び/又はIgG抗体は、外分泌液中の主要な免疫グロブリンであり、粘膜表面の感染防御に役立っている病原菌特異的IgA及び/又はIgG抗体であって、唾液、鼻汁、腸、気管などの分泌液中、あるいは初乳中に多くみられ、また血清中にも存在する。したがって、本発明が提供するワクチンを投与することによりこのIgA及び/又はIgG抗体の産生が効果的に誘導され、ウイルスによる感染を防御するものである。
また、本発明が提供するワクチンは、粉末として簡便に接種しうるものであり、その有用性は多大なものである。
本発明が提供する分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤において、ワクチンのアジュバントとして使用されるPoly(I:C)誘導体は、Toll様レセプター(Toll−like receptor:TLR)のリガンドである2本鎖RNAであり、自然免疫系を刺激するTLRのリガンドとして、病原菌あるいはウイルス等の微生物の攻撃に対する防御免疫獲得能を発揮する。
事実、Poly(I:C)を含むTLRのリガンドである2本鎖RNAが、アジュバントとしてワクチンと共に投与された場合には、そのワクチン能を増強させるのではなく、二本鎖RNAであるPoly(I:C)自体が、種々の病原菌あるいはウイルス等の病原体の攻撃に対する防御免疫能を増強せしめ、特にウイルスまたは病原菌特異的IgA抗体及びIgG抗体を誘導させることによって病原体による感染を防御する。
本発明で使用する二本鎖RNAであるPoly(I:C)は、その分子の大きさとしては、その塩基対(bp)として低〜高サイズの種々のものを用いることが可能であるが、免疫応答に対してより優れた応答を発揮するものは、300bp以上の分子サイズを有することが必要であることが判明した。そのような分子サイズを有するものとして、例えば、100〜1000bpのPoly(I:C)は、東レ株式会社から容易に入手することができる。
一方、本発明が提供する分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤により、アジュバントとしてのPoly(I:C)と共に投与されるワクチンとしては、身体中に接種されて、活性な免疫を生成する、通常感染性因子または感染因子のある部分を含む抗原性懸濁液または溶液である。ワクチンを構成する抗原性部分は、一般的には微生物(例えば、ウイルスまたは細菌など)または微生物から精製された天然の産生物、合成生成物または遺伝子操作したタンパク質、ペプチド、多糖または同様な産生物であってもよい。
本発明においては、生ワクチン或いは不活化ワクチンとしては、具体的には、フラビウイルス感染症の生ワクチン、インフルエンザの生ワクチン等をあげることができる。
また、本発明にいう不活化抗原とは、感染能を失わせた抗原をいい、完全ウイルス粒子であるビリオン、不完全ウイルス粒子、ビリオン構成粒子、その翻訳後修飾体、ビリオン非構成タンパク質、その翻訳後修飾体、感染防御抗原、中和反応のエピトープなどを挙げられることができる。不活化は、例えば、物理的(例えば、X線照射、熱、超音波)、化学的(ホルマリン、水銀、アルコール、塩素)などの操作により行うことができる。
本発明が提供する分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤は、Poly(I:C)誘導体、又はアジュバントと共に投与されるワクチンを凍結乾燥し粉末状の形態にしたものである。
かかる凍結乾燥形態にある分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤の投与は、微粉末を粘膜投与することにより行うことができる。脊椎動物における粘膜には、消化器、呼吸器、排出器、生殖器などの特に外通性の中腔器官の内壁が含まれる。したがって、本発明の好ましい投与形態である粘膜投与としては、例えば、鼻腔投与(経鼻投与)、口腔投与、膣内投与、上気道投与、肺胞投与などをあげることができる。そのなかでも鼻腔内粘膜投与が好ましい。鼻腔は特に、ハンタウイルスをはじめとするフラビウイルスによる呼吸器感染症疾患、あるいはインフルエンザウイルス感染経路の門戸であることから、粘膜投与により分泌型IgA抗体反応を引き起こし、粘膜上皮細胞中に分泌型IgA抗体を産生させること、及び血清中にIgG抗体を産生させることは、これらの感染症の防御に結びつくものである。
したがって、本発明の目的である分泌型IgA及び/又はIgG抗体の産生が誘導され、免疫防御を発揮する対象としての病原体は、宿主に対して疾患または障害を発生し得る微生物であり、具体的には、ウエストナイルウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等のフラビウイルス、インフルエンザウイルス、さらにマラリア病原体、眠り病の病原体等である。
本発明が提供する分泌型IgA抗体及び/又はIgG誘導剤の投与量は、投与する対象者の年齢、体重、投与方法により一概に限定し得ないが、通常成人1日当たり、経鼻投与の場合には、0.1〜10mg、好ましくは、0.1〜1mg程度である。
以下に本発明を、具体的実施例により、さらに詳細に説明する。
実施例1合成二本鎖RNAであるPoly(I:C)のIgA、IgG産生能
合成二本鎖RNAとしてPoly(I:C)をアジュバントとして用いて、不活化抗原として不活化ウイルスまたはサブユニット抗原の中和抗体惹起能、ひいては抗病原体効果を確認した。
(材料)
マウス:BALB/cマウス(6週齢、雌性)
ウイルス:ハンタウイルス株(国立感染症研究所(東京)から入手した)。
ワクチン:ハンタウイルス株(国立感染症研究所);エーテル処理不活化ワクチン
アジュバント:ポジティブコントロールとしてCTB*[CTB(コレラ毒素Bサブユニット)、0.1%CT(コレラ毒素)を含む]、Poly(I:C)
(方法)
6週齢のBALB/cマウス(日本SLC(株)、東京)各群5匹ずつ用いた。ハンタウイルス株ワクチン1μgを、それぞれのアジュバントとしてPoly(I:C)、0.1μg、1μg、3μg、10μgと共に凍結乾燥品とし、マウスの鼻に接種し、その3週間後同量のワクチンを、アジュバント無し、もしくはアジュバント有りのものとして経鼻接種し、さらに2週間後に100pfuのハンタウイルスを片鼻に1.2μLずつ接種し感染を行った。
コントロールとしてPoly(I:C)10μgおよび1μgのみ、ワクチンのみ、処置なしの群をおいた。
感染3日後に、鼻腔洗浄液、血清を回収し、鼻腔洗浄液中のIgAおよび血清中のIgGをELISA法により、また、鼻腔洗浄液中のウイルス価を、MDCK細胞を用いたプラークアッセイで測定した。
同様の方法で経鼻免疫したマウスに、40LD50の致死量(104.7EIO50(50%の発育鶏卵において免疫性を示すウイルス量の約10000倍量)のハンタウイルスを20μL感染させ、その生存を観察した。
また、Poly(I:C)の中枢神経系への安全性を調べるため、0.25μg、2.5μg、25μgのPoly(I:C)を25μLのPBSに溶解し、二段針を用いて脳内接種を行った。接種後の体重の変化を測定し、また生存を観察した。
なお、対照群として2.5μg、10μg、25μgのCTB*(CTB、0.1%CTを含む)を同様に25μLのPBSに溶解した溶液を脳内に接種した群をおいた。
(結果)
(1)Poly(I:C)をアジュバントに用いた経鼻ハンタウイルスワクチンによる抗体誘導と感染防御について
Poly(I:C)の粘膜アジュバント能を評価した。6週間前に1μgのワクチンを0.1μg〜10μgに量を振ったPoly(I:C)と共に経鼻接種し、さらに2週間前に同量のワクチンを、ワクチンのみまたはアジュバントと共に経鼻接種した。経鼻粘膜でのIgA抗体応答と、血中IgG応答を表1にまとめた。
Figure 0005189305
Poly(I:C)の用量依存性のアジュバント効果をみるために、Poly(I:C)の量は0.1μgから10μgまで段階的に増やし、そのアジュバント作用をみた。
その結果、表1に示した結果からも判明するように、鼻腔粘膜にIgAの応答のためには、最低で0.1μgのPoly(I:C)を初回免疫時に使用すると応答が認められることが判明した。
鼻腔粘膜に誘導されるIgAの量は、Poly(I:C)の量に依存的であり、Poly(I:C)の量を増やせば増やすほどそのアジュバント効果が認められた。
2回の免疫ともに、Poly(I:C)を用いると、Poly(I:C)1μgの量で鼻腔洗浄液中に100ng/mL以上のIgAの分泌がみられ、初回のみの免疫の場合には3μgのPoly(I:C)添加で、100ng/mL以上の特異的IgA抗体の誘導が認められた。
血清中のIgGの産生も同時に検討したが、その産生は、IgAの分泌に相関するものであり、1μgのワクチンをPoly(I:C)と共に4週間間隔で2回免疫すると、1.6μg/mLの血中IgGが得られた。
また、同様の免疫条件で2回目の免疫の2週間後に100pfuのハンタウイルスを、片鼻1.2μLずつ感染を行った場合には、ワクチンを接種しないコントロール群では、鼻腔洗浄液中に10pfu/mL以上のウイルス価に、ウイルス増殖が認められた。
これに対し、Poly(I:C)を併用して経鼻ワクチン接種を2回行った群では、完全にウイルス増殖が抑制されており、また、ワクチン単独で1μg以上を2回免疫した群、ならびに3μg以上のPoly(I:C)を初回免疫時のみ使用した群では、全くウイルス抑制効果は認められなかった。
また、1μg、0.1μgのPoly(I:C)を初回のみ併用接種した群においても、100.8pfu/mL、101.6pfu/mLと、顕著なウイルスの増殖抑制が認められた。なお、ワクチンのみの2回投与群では、ウイルスの増殖抑制は全く認められなかった。
これらの結果をまとめて表2に示した。
Figure 0005189305
*:p<0.001
(2)Poly(I:C)の併用経鼻ワクチン接種による致死量のハンタウイルス感染による肺炎の防御効果について
6週間前に1μgのワクチンとPoly(I:C)を10μg、3μgおよび1μg併用して経鼻接種し、2週間前にワクチンのみで追加免疫し、40LD50のハンタウイルス20μLを感染させ、肺炎の防御能を調べた。
ワクチンを接種しない群では、マウスは1週間以内に前例(5/5)が死亡し、ウイルス感染3日後の肺のウイルス価も10pfu以上であった。
これに対してワクチン接種群では、1μg以上のPoly(I:C)を併用接種することで、全マウスは生存していた。この結果を表3に示す。
Figure 0005189305
以上の事実から、Poly(I:C)は、感染防御に十分な分泌型IgA抗体を産生しており、粘膜IgA抗体応答を引き出すことが判明した。
実施例2不活化ウイルス粒子をPoly(I:C)と併用する経鼻ハンタウイルスワクチンとして用いた時の予防効果
(材料)
ワクチン:エーテル処理ハンタウイルスHAワクチン;ホルマリン不活化全ウイルス粒NCワクチン(Inactivated whole particle vaccine)
マウス:BALB/cマウス(6週齢、雌性)
(方法)
ハンタウイルスのホルマリン不活化全ウイルス粒子NCワクチン(Inactivated whole particle vaccine)0.1μgを、Poly(I:C)[100−1000bp:東レ]0.1μgと共に凍結乾燥させ、併用経鼻ハンタウイルスワクチンのワクチン成分としてマウス:BALB/cマウス(6週齢、雌性)に投与し、3週間後に同じワクチンを2回目投与した。
その1週間後にマウスの鼻洗浄液と血清中の抗体応答を、それぞれ粘膜および全身の防御免疫の指標として測定した。
(結果)
それらの結果を表4に示した。
Figure 0005189305
表中の結果から判明するように、不活化全ウイルス粒子をPoly(I:C)併用ハンタウイルスワクチンのワクチン成分として用いたときも、粘膜の防御免疫および全身の防御免疫が高められていた。
しかも、ワクチンとPoly(I:C)とをそれぞれ0.1μgで用いたときであっても、spilit−product vaccineをCTB*と併用して安全なウイルス感染阻止が予測されるアジュバント活性の陽性対照群と同等の応答を示した。
さらにこれらの応答は、spilit−product vaccineをPoly(I:C)と共に用いた場合よりも高かった。
以上の事実から、spilit−product vaccineのみならず、他の形態のワクチンを使用した場合でも、Poly(I:C)併用経鼻ワクチンの有用性が確認された。
実施例3Poly(I:C)の分子の大きさの確認
(材料)
ウイルス:ハンタウイルス
Poly(I:C):
サイズ(L):1〜300bp(Fluka)
サイズ(M):100〜1000bp(東レ)
サイズ(H):>3.3×10bp(Fluka)
Poly(A:U)
マウス:BALB/cマウス(6週齢、雌性)
(方法)
ハンタウイルスのspilit−product vaccine(0.4μg)を、種々の大きさのPoly(I:C)の0.1μgとともに凍結乾燥させ、この凍結乾燥粉末をBALB/cマウス(6週齢、雌性)に経鼻接種し、3週間後に同じワクチンを2回目投与した。
その1週間後にマウスの鼻洗浄液と血清中のHAとNAに対する抗体応答を、それぞれ粘膜および全身の防御免疫の指標として測定した。
(結果)
その結果を表7に示した。
Figure 0005189305
表中に示した結果から判明するように、Poly(I:C)の分子の大きさが10〜300bpを用いた実験群では、他の群よりも低い粘膜応答が認められた。したがって、アジュバントとして有用なPoly(I:C)の分子の大きさは、約300bp以上と考えられた。
実施例5新生マウス(suckling mouse)を用いた感染実験
感染実験用マウスとして、新生マウス(suckling mouse)を用いた感染実験を行った。
経鼻投与により、新生マウスに抗原(ハンタウイルス)とアジュバントとしてPoly(I:C)を凍結乾燥し、粉末状のワクチンを鼻粘膜上に投与し、そのときの抗体価を測定した。
抗原1μg及びPoly(I:C) 10μgを凍結乾燥させ、その凍結乾燥粉末を用いて、3週間間隔で2回接種を行い、その1週間後にマウスの鼻洗浄液と血清中の抗体応答を測定した。そのときのマウス鼻洗浄液1mL中のIgA抗体価は200ng/mL程度であり、血清中のIgG抗体価は3〜4μg/mLであった。
また、抗原1μg及びPoly(I:C) 3μgの凍結乾燥粉末を、3週間間隔で2回経鼻的に接種を行い、その1週間後にマウスの鼻洗浄液と血清中の抗体応答を測定したときのマウス鼻洗浄液1mL中のIgA抗体価は100ng/mL程度であり、血清中のIgG抗体価は2〜3μg/mLであった。
以上説明したように、ウイルスの不活化抗原であるワクチンと共に、Poly(I:C)誘導体又はアジュバントを凍結乾燥させ、その凍結乾燥粉末を経鼻投与することにより、ウイルスに特異的な分泌型IgA及び/又はIgG抗体の産生を誘導させ、ウイルスまたは病原体による感染を防御し得る。
本発明のワクチンは、粉末状のワクチンとして簡便に鼻粘膜上に接種し得るものであり、その有用性は多大なものである。

Claims (2)

  1. ハンタウイルス由来の不活化抗原、及びPoly(I:C)誘導体又はアジュバントを凍結乾燥し、粉末の形態にしたことを特徴とする分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤。
  2. 呼吸器粘膜に投与することを特徴とする請求項1に記載の分泌型IgA及び/又はIgG抗体誘導剤。
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