以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
(実施例1)
本発明に係る像加熱装置の実施例1について、図を用いて説明する。図1は本発明の像加熱装置を搭載する画像形成装置の模式図である。図1に示すように、本例の画像形成装置は転写方式電子写真プロセス利用のレーザービームプリンタである。
画像形成装置は、画像形成手段であるプロセスカートリッジ73、レーザスキャナ3、転写ローラ5、加熱定着装置6を有している。プロセスカートリッジ73は、画像形成装置本体に対して着脱交換自在である。本実施例のものは、電子写真感光体1(以下、感光ドラムと記す)と、帯電ローラ2と、現像装置4と、クリーニング装置7との4つのプロセス機器を包含させてある。感光体1や帯電ローラ2、及び現像装置4内の現像ローラはメインモータMO1から動力を受けて回転する。また、メインモータMO1は記録材を搬送するローラ等も駆動する。レーザスキャナ3内にはレーザ光を偏向走査するためのポリゴンミラーが有り、このポリゴンミラーはレーザスキャナ3内に搭載されているスキャナモータから動力を受けて回転する。
感光ドラム1は、OPC(organic photoconductor)、アモルファスSe、アモルファスSi等の感光材料が、アルミニウムやニッケルなどのシリンダ状の基盤上に形成されている。感光ドラム1は、矢印の時計方向に所定の周速度にて回転駆動され、その表面が帯電装置としての帯電ローラ2によって所定の極性・電位に一様に帯電処理される。
次いでその帯電面に対してレーザスキャナ3により画像情報の書き込み露光がなされる。即ちレーザスキャナ3は画像情報の時系列電気デジタル画素信号に応じてON/OFF制御(変調制御)されたレーザビームLで回転感光ドラム1の一様帯電処理面を走査露光する。これにより感光ドラム1の一様帯電面の露光部電位が減衰して感光ドラム面に画像情報の静電潜像が形成される。
この静電潜像は、現像装置4でトナー画像として現像される。現像方法としては、ジャンピング現像法、2成分現像法、FEED現像法などが用いられ、イメージ露光と反転現像とを組み合わせて用いられることが多い。
そして、そのトナー画像が、転写ニップ部Aに給送された記録材PAの面に対して感光ドラム1面より転写される。転写ニップ部Aは、感光ドラム1とこれに当接させた接触転写装置としての転写ローラ5との圧接部である。記録材PAは、不図示の給送機構部から所定の制御タイミングにて、転写ニップ部Aへ給送される。
即ち、感光ドラム1上のトナー画像の画像形成位置と記録材の先端の書き出し位置が合致するようにセンサ8にて記録材PAの先端を検知し、タイミングを合わせている。所定のタイミングで搬送された記録材PAは、転写ニップ部Aにおいて感光ドラム1と転写ローラ5とにより一定の加圧力で挟持搬送され、感光ドラム1面上のトナー画像が記録材PA上に電気力と圧力で転写される。
転写ニップ部Aを通過した記録材PAは、回転する感光ドラム1面から分離され、加熱定着装置6に搬送され、未定着トナー画像が記録材面に永久画像として加熱定着される。画像定着を受けた記録材PAは排出部に搬送される。
一方、記録材分離後の感光ドラム1上に残存する転写残りの残留トナーは、クリーニング装置7により感光ドラム1表面より除去され、感光ドラム1は繰り返して作像に供される。
[加熱定着装置(像加熱装置)6]
図2は本実施例の加熱定着装置6の拡大模式図である。図2に示すように、加熱定着装置6は、大別して、定着ローラ10(roller)、定着ローラ10の表面に接触する加熱部材20、加圧部材30とからなる。定着ローラ10は定着ユニット用モータMO2から動力を受けて回転する。なお、定着ユニット用モータMO2は正回転及び逆回転が可能なモータであり、よって定着ローラ10は正回転(定着処理時の回転方向、図4のX1方向)及び逆回転(図4のX2方向)可能である。
定着ローラ10は、弾性層を有する。加熱部材20は、定着ローラ10に圧接して加熱ニップ部Hを形成し、定着ローラ10を昇温させる。加圧部材30は、定着ローラ10と相互圧接して定着ニップ部(搬送ニップ部)Nを形成する。加熱ニップ部は定着ローラ10と加熱部材20が接触する領域であり、定着ニップ部は定着ローラ10と加圧部材30が接触する領域である。定着ローラ10は記録材のトナー像担持面と接触する。
加熱部材20は、加熱部材を保持するホルダ24の凹部に保持されている。ホルダ24は図2のL1方向及びL2方向いずれの方向にも動かないように加熱定着装置6の本体に対して固定されている。また、定着ローラ10も図2のL1方向及びL2方向いずれの方向にも動かないように加熱定着装置6の本体に対して回転可能な状態で固定されている。
加熱部材20がホルダ24の凹部内で図2のL1方向及びL2方向に移動できるように、加熱部材20とホルダ24の凹部の間にはギャップG1(図4参照)が設けられている。
[定着ローラ10]
定着ローラ10は以下の部材から構成される。即ち、基本的には、アルミあるいは鉄製の芯金11の外面をブラスト処理等の表面粗し処理を行った後、外側に弾性層12を設けてなる。
弾性層12は、シリコーンゴムを発泡したスポンジゴム層か、シリコーンゴム層内に中空のフィラーを分散させた気泡ゴム層であり、ゴム層内に気体部分を持たせ、断熱作用を高めている。
定着ローラ10は、熱容量が大きく、また熱伝導率が少しでも大きいと、外表面から受ける外部加熱部材21の熱を内部に吸収しやすく、定着ローラ表面温度が上昇しにくくなる。このため、弾性層12をできるだけ低熱容量で熱伝導率が低く、断熱効果の高い材質とし、定着ローラ10の立ち上がり時間を短くしている。
スポンジゴム、気泡ゴムの熱伝導率は、0.10〜0.16W/(m・k)であり、ソリッドゴムの約半分の値を示す。また、スポンジゴム、気泡ゴムの熱容量に関係する比重は、約0.75〜0.85である。
従って、定着ローラ10の弾性層12の好ましい形態としては、熱伝導率が0.15W/(m・k)以下で、比重が0.85以下の断熱効果の高いスポンジゴムや気泡ゴム層の方が好ましい。
また、定着ローラ10の外径は小さい方が熱容量を抑えられるが、小さすぎると加熱ニップ部Hの幅及び定着ニップ部Nの幅がかせぎにくくなるため、適度な径が必要である。弾性層12の肉厚に関しても、薄すぎれば金属製の芯金11に熱が逃げるので適度な厚みが必要である。
以上を考慮して本実施例では、適正な加熱ニップ部Hを形成でき、且つ熱容量を抑えるために、肉厚が2mmの気泡ゴムを用いて弾性層12を形成し、外径がφ14mmの定着ローラ10を使用した。
気泡ゴム層の中空フィラーは、ガラスバルーン、シリカバルーン、カーボンバルーン、フェノールバルーン、アクリロニトリルバルーン、塩化ビニリデンバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン、シラスバルーン等、いかなるものであっても構わない。
芯金11は中空芯金でもよい。また、弾性層12の上にはシリコーンゴムより形成された伝熱効果をもつ伝熱層12b(ソリッドゴム層)を持たせている。伝熱層12bは、熱伝導率が0.50〜1.60W/(m・k)であり、比重は約1.05〜1.30である。
また、伝熱層12bは、厚みが薄い場合は、伝熱効果も少なくなり、熱容量も少なくなり、蓄熱の効果が現れなくなる。一方厚くなると蓄熱や伝熱効果はあるものの、定着ローラ10の内部にまで発熱体22からの熱が伝わってしまい、熱が定着ローラの内部にたまってしまい、熱効率が悪くなる。したがって、伝熱層12bの厚みは、好ましくは0.1〜0.30mmの範囲のものが良く、より好ましくは0.15mm程度のものである。
伝熱層12bの上にはパーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂(FEP)等のフッ素樹脂離型性層13を形成する。あるいは、GLSラテックスコーティングを施したものであっても良い。離型性層13はチューブ状のもの、あるいは塗料でコーティングしたものであってもどちらでもよい。
[加熱部材20]
加熱部材20は、プレート状基板21と、基板21上に形成された発熱抵抗体22を有する。基板21はアルミナや窒化アルミ等の絶縁性のセラミックス基板やポリイミド、PPS、液晶ポリマー等の耐熱性樹脂基板より形成されている。発熱抵抗体22は、例えばAg/Pd(銀パラジウム)、RuO2、Ta2N等の材料のペーストを、基板21の表面に基板の長手方向に沿ってスクリーン印刷し、その後、焼成したものである。発熱抵抗体22は、厚み10μm程度、幅1〜5mm程度、長さ300mm程度の線状の形状を有する。
加熱部材20は更に、熱効率を損なわない範囲で発熱抵抗体22を保護する保護層23を設けてあっても良い。ただし、保護層23の厚みは十分薄く、表面性を良好にする程度が好ましい。その例としては、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレン樹脂(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(CTEF)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等のフッ素樹脂層を単独ないしは混合して被覆するか、あるいはグラファイト、ダイアモンド・ライク・カーボン(DLC)、二硫化モリブデン等からなる乾性被膜潤滑剤、ガラスコート等の保護層が考えられる。
また、基板21として熱伝導性の良好な窒化アルミ等を使用する場合には、発熱抵抗体22は基板21の定着ローラ10対向面とは反対側の面に形成してあっても良い。
本実施例では、基板21と発熱抵抗体22と保護層23が一つの部品、即ちヒータ20を構成している。このヒータ20が定着ローラ10に直に接触して加熱ニップ部(加熱領域)Hを形成している。
加熱部材ホルダ24は、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEK等の耐熱性樹脂により形成され、熱伝導率が低いほど定着ローラ表面の加熱に対する熱効率が高くなる。よって加熱部材ホルダ24は、樹脂層の中に中空のフィラー、例えばガラスバルーン、シリカバルーン等を内包しても良い。
ヒータ20の基板21の定着ローラ10対向面とは反対側の面には、加熱部材20の温度を検知するためのサーミスタ等の温度検知素子14が配置されている。温度検知素子14は、加熱部材20を温度制御する目的、または、異常昇温を監視する目的で設けられている。
温度制御に使用する際には、温度検知素子14の信号に応じて、長手方向端部にある不図示の電極部から発熱抵抗体22に印加される電圧のデューティー比や波数等を適切に制御する。これにより、発熱抵抗体22を発熱させ、定着ローラ10の表面を加熱・温調する。
[加圧部材30]
加圧部材30は、断熱性のパッド31c上に耐熱性シート31bを貼り付けたものである。
耐熱性シート31bは、耐熱性・摺動性を有するフィルム状のシートであり、フィルム厚みは、強度等を考慮し、20μm以上200μm未満が適当な範囲である。シート31bの表層には、PFA、PTFE、FEP、シリコーン樹脂等の離型性、摺動性の良好な耐熱樹脂を混合ないし単独で被覆してあっても良い。これにより、定着ローラ10上に付着したオフセットトナーを効率よく確実に除去することが可能となり、定着ローラ10を汚すことを抑制して、良好な画像を得ることが出来る。
加圧部材30は、定着装置のフレームに固定されたホルダTSの凹部に装着されている。加圧部材30がホルダTSの凹部内で記録材搬送方向と同じ方向(図2のM1の方向)及び逆方向(図2のM2の方向)に移動できるように、加圧部材30とホルダTSの凹部の間にはギャップG2(図5参照)が設けられている。また、加圧部材30はホルダTSと共に不図示の付勢手段によって定着ローラ10に対して加圧されている。これにより加圧部材30と定着ローラ10との間で定着に必要な定着ニップ部Nを形成している。
パッド31cは、耐熱性シート31bを保持しており、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEK等の耐熱性樹脂により形成され、断熱性、摺動性を有する部材が適している。
[加熱定着装置6の動作]
このような構成の加熱定着装置6において、定着ローラ10は、定着処理中、長手方向端部から芯金11を回転軸として、矢印の時計方向(X1方向)に回転駆動される。また、発熱抵抗体22に通電がなされて、ヒータ20が迅速に昇温する。そして、温度検知素子14を含む制御回路により、ヒータ20が所定の制御温度(設定温度)に保持されるように発熱抵抗体22への通電が制御される。
そして、発熱抵抗体22の発熱により定着ローラ10の外表面が加熱される。なお、定着ローラ10の外表面とヒータ20との間にシート状の摺動部材を配置して、定着ローラ10を摺動部材を介して加熱してもよい。ただし、摺動部材を介在させない方がコスト的にも安価な構成をとることが可能となる。本実施例のように、ヒータ20が定着ローラ10に直に接触する場合は、ヒータ20が加熱部材に相当する。一方、ヒータ20と定着ローラ10の間に摺動部材を配置する場合、ヒータ20と摺動部材とで加熱部材を構成する。または、摺動部材が加熱部材を構成する。
この状態において、未定着トナー画像を形成担持させた記録材PAが耐熱性の定着入口ガイド15に沿って定着ローラ10と加圧部材30によって形成される定着ニップ部Nへ搬送される。そして、記録材PA上の未定着トナー画像は、熱と圧力にて記録材PAに定着される。
上述した加熱定着装置6と比較例の加熱定着装置との違いを述べる。図8は比較例の加熱定着装置の加熱部位(定着ローラ100とヒータ230の接触領域H)付近の拡大図である。
定着ローラ100の表面に記録材上に定着できなかったトナーTがある場合、定着ローラ100に圧接している加熱部材230の接触面や加熱部材230の上流側端部や下流側端部にトナーTが付着してしまうことがある。
図8に示すように、トナーTの付着部位は、接触面内Sであったり、主には加熱部材230の定着ローラ回転方向における下流側端部の領域Kであることが多い。この状態でトナー像の定着を続けていくと、加熱部材230に付着したトナーTが定着ローラ表面を微少に摺擦することとなり、常に定着ローラ100が汚れてしまう原因となる。
また、さらに加熱部材230に固着したトナーTが定着ローラ100と強固に接触して摺擦することで定着ローラ100に周方向の傷を付けてしまう恐れもある。
さらに領域Kに付着している大きな塊のトナーTが、何らかの拍子に記録材上に落下してしまうことで不良画像が発生することもある。領域Kにトナーが堆積しやすい理由は、加熱部材230と定着ローラ100の相対位置関係が常に固定されており、且つ定着ローラ100の回転方向が常に同じ方向であるためである。
図9は比較例の加熱定着装置を搭載する画像形成装置のプリントシーケンスを示す図である。図9に示すように、比較例のシーケンスでは、電源投入直後に装置自体の初期チェックの為に前多回転という動作を行う(S1、S2)。前多回転とは、プリンタの電源を入れてからプリンタがプリント可能状態に立ち上がるまでの準備動作中に実行される感光体1や定着ローラ100の回転動作のことである。前多回転中は、メインモータと定着ユニット用モータが回転を開始し、定着ローラ100が記録材PAを搬送する方向へ回転する。
その動作と同時に、加熱部材21への通電も開始され、加熱部材が定着処理に適した設定温度まで立ち上げられる。この設定温度は、通常、160℃〜210℃の範囲内に設定される。前多回転が終了した後、プリント信号(プリント指令)がない場合はスタンバイ状態となりプリント信号が来るまでメインモータと定着ユニット用モータは停止する。同時に加熱部材21への通電も終了する(S3〜S5)。
プリント開始命令がホストコンピュータから発せられた際には、前回転というプリントのための動作に移行する(S6)。この動作が始まると、メインモータと定着ユニット用モータは回転動作を開始し、同時に加熱部材21への通電も開始される。この時、加熱部材21は、温度検知素子14で温度検知されつつ、記録材上のトナーTを定着処理できる設定温度に維持される。
プリンタの準備が完了すると、給送ローラにより記録材が給送され、転写部で記録材上にトナー像が転写され加熱定着装置まで搬送されてくる。
定着処理が終了すると、後回転という装置の後処理シーケンスに移行していく(S7)。後処理シーケンスは、感光ドラム上に残ったトナーTを掻きとったり、加熱定着装置を冷やしたりする為の動作である。この動作が終了した場合には、メインモータや定着ユニット用モータの回転は停止し、電源投入直後の状態に戻るのである。
上述は通常のプリント動作を行っている状態のことを表しているが、その他のジャム発生時や連続プリントの状況下においては、メインモータと定着ユニット用モータは停止させるシーケンスを設けている(S8〜S10)。
[本実施例]
次に、本実施例の加熱定着装置を搭載する画像形成装置のプリントシーケンスについて説明する。図3は本実施例のプリントシーケンスを示す図である。図4(a)は定着ローラ10が順回転(X1方向)している際のヒータ20と定着ローラ10の位置関係、及びヒータ20とホルダ24の位置関係を示す図である。図4(b)は定着ローラ10が逆回転(X2方向)している際のヒータ20と定着ローラ10の位置関係、及びヒータ20とホルダ24の位置関係を示す図である。
図3に示すように、本実施例の加熱定着装置6は、定着ユニット用モータMO2が停止した後に、定着ユニット用モータMO2を微少量逆回転させることによって、ヒータ20をL2方向に動かすことを特徴としている(S41、S42)。なお、メインモータMO1は逆回転しない構成である。
すなわち、本実施例のシーケンスは、電源投入時に行われる前多回転後のモータ停止時(S4の後)に、定着ユニット用モータMO2を逆回転させている(S41)。また、およびプリントが終了した後に行われる後回転後のモータ停止時に(S10の後)、定着ユニット用モータMO2を逆回転させている(S42)。
プリンタの電源を投入した時の前多回転工程中や定着処理中、定着ローラ10は図4(a)に示すX1方向に回転する。ホルダ24とヒータ20の間にはギャップG1が存在するので、定着ローラがX1方向へ回転すると、ヒータ20はL1方向に移動する。定着ローラがX1方向へ回転し続けると、定着処理中に記録材PAから定着ローラ10の表面にオフセットしたトナーがヒータ20の図4(a)のKに示す位置に徐々に堆積する。
しかしながら本実施例では、上述のようにホルダ24とヒータ20の間にギャップG1を設け、且つ定着ローラ10を逆回転(X2方向)させることで、図4(b)に示すようにヒータ20をL2方向へ移動させている。この移動により領域Kに付着するトナーが加熱ニップ部Hの領域に入り、所定のタイミングでトナーをヒータ20の熱で溶融させて定着ローラに戻し、ヒータ20にトナーが堆積し過ぎないようにしている。
上述のように、図4(a)の加熱部材の位置を第1の位置、図4(b)の加熱部材の位置を第2の位置とすると、加熱部材は定着ローラ10と接触する第1の位置と、定着ローラと接触しており第1の位置とは定着ローラの接線方向に異なる第2の位置に移動する。第2の位置は第1の位置よりもトナー像加熱処理中の定着ローラの回転方向上流側の位置である。
本実施例では、定着ローラ10が正回転(X1方向)及び逆回転(X2方向)可能となっている。この定着ローラ10が加熱部材を移動させる駆動機構の一部を担っており、加熱部材は定着ローラから受ける力に応じて第1の位置または第2の位置に移動する。加熱部材は、トナー像加熱処理中に第1の位置に位置しており、加熱処理の期間以外の期間中(プリント信号受信時や、プリント後スタンバイ状態となった時等)に第1の位置から第2の位置に移動する。
本実施例ではギャップG1の距離だけヒータ20が移動するように定着ユニット用モータを逆回転させている。なお、本実施例では加熱ニップ部の定着ローラ20回転方向の幅は約3mm、ギャップG1は1mmである。ヒータを1mm移動させてもヒータ20上の発熱抵抗体22は加熱ニップ部Hからはみ出ないようになっている。
このように、加熱部材はホルダに保持されており、ホルダと加熱部材との間には、加熱部材が第1の位置と第2の位置に移動するためのギャップが設けられている。
また、加熱部材は、基板と、基板上に形成された発熱抵抗体を有し、発熱抵抗体は加熱部材が第1の位置に位置する時も第2の位置に位置する時も加熱部材と定着ローラの接触領域からはみ出ない構成になっている。
ここで、図4(b)に示すように、モータ停止直後に行われる逆回転によって、加熱ニップ部H内に領域Kが移動する。つまり、定着ローラ10と接触しているヒータ20の接触領域が、順回転の時と逆回転後の停止時とで異なることを意味している。
ヒータを図4(b)の位置に移動させると装置は停止するわけだが、この後プリント信号が発せられた場合に、モータの回転と同時に発熱抵抗体22への通電も開始される。このとき、ヒータ(加熱部材)側に付着していた領域Kのトナーや紙紛などは、定着ローラ側に転移する。これは、ヒータ20と定着ローラ10の間に挟まれたトナーのヒータ側表面がヒータ20により僅かな時間熱せられて溶融し、ヒータ20への付着力が低下するからである。
記録材PAが定着ニップ部Nに来ると、定着ローラ表面に付着しながら回転しづづけていたトナーは、搬送されてきた記録材PAの上面に転移し、定着され吐き出される。
プリンタの電源投入時の前多回転動作終了時や、定着処理動作(プリント動作)終了時の度にヒータ20を図4(b)の位置に移動させれば、ヒータ20の領域Kに付着しているトナーや紙紛は極微量であるため、記録材に付着させても画像に影響を与えることは無い。
このシーケンスの繰り返しによって、ヒータ20の領域Kは常に良好に保たれ、良好な画像がプリントされるのである。
ただし、上記逆回転シーケンスは、モータが停止した場合に常に行うわけではなく、ジャム等の緊急停止状態ではこの逆回転シーケンスは動作させてはならない。例えば、緊急停止状態において、定着ニップ部N付近には未だ熱も圧も加えられていない状態の未定着トナーがある場合がある。この場合に、逆回転シーケンスを動作させてしまうと、多量の未定着トナーが定着ローラ表面に付着してしまい、定着ローラ10及びヒータ20に悪影響を与えてしまう可能性があるためである。
ここで、逆回転シーケンス後の状態について述べておく。本実施例では、逆回転シーケンスを行うことでヒータ20は、約1.0mm移動した。しかし、逆回転シーケンス後に順回転することでこの移動量はリセットされ、逆回転する前に位置していた通常の位置へ戻る。
順回転及び逆回転によりヒータ20の位置が変化するのは、定着ローラ10との摩擦力によるものである。
[固定加圧部材側]
一方、固定バックアップ手段である固定加圧部材側について述べる。こちらも、定着ローラ10に対して接触摺動しており、この固定加圧部材30と定着ローラ10の間を記録材PAが搬送される構成である。
加圧部材30の表面には上述したように離型性の良いフッ素系のシートが設けられているが、プリント枚数を重ねていくたびにトナーが付着し、汚れてしまうこともある。
ただ、基本的には記録材PAが定着ローラ10と加圧部材30の間を通過することで加圧部材に付着したトナーは、記録材PAの先端に徐々に付着しながら小さい汚れとして吐き出され、記録材上への画像不良としては露呈しないものである。また、加圧部材に付着するトナー量自体、極わずかである。
それでもなお、付着する場合はある。比較例のように一方向だけの回転シーケンスでは、ヒータ20と同様に、定着ローラ10の回転方向下流側に付着することが多い(図5(a)のPの位置)。この付着したトナーTは記録材PAによっても取り除かれずに堆積するものである。Pの位置に堆積するトナーは記録材PAの搬送を阻害し、ジャム(機内に記録材が止まり停滞して出力されない異常な状態)を引き起こす可能性がある。
そこで、逆回転シーケンスを用いることで、ヒータ20からトナーを取り除く場合と同様に、付着したトナーを取り除くことが出来る。この加圧部材30は、ホルダTSとの間に微少な隙間G2を設けている為に、定着ローラ10が逆回転した際はその隙間分だけ移動することが可能となる。本実施例では定着ニップ部Nの幅が3mm、隙間G2を1.0mmとしている。
図5(a)は定着ローラ10が順回転(X1方向)している際の加圧部材30と定着ローラ10の位置関係、及び加圧部材30とホルダTSの位置関係を示す図である。図5(b)は定着ローラが逆回転(X2方向)している際の加圧部材30と定着ローラ10の位置関係、及び加圧部材30とホルダTSの位置関係を示す図である。
図3に示したように、電源投入時に行われる前多回転後のモータ停止時(S4の後)、プリントが終了した後に行われる後回転後のモータ停止時(S10の後)に、定着ユニット用モータMO2を逆回転させている(S41、S42)。
図5に示すように、モータMO2を逆回転させることで、加圧部材30が図5(a)の位置から図5(b)の位置に移動する。この移動量は、ギャップG2の大きさに等しい。
図5(a)に示すように、加圧部材30の定着ローラ回転方向下流側にトナーや紙紛などが付着している領域Pがある。これは、記録材PAに定着し切れなかった残トナーが付着したものである。
この領域Pは、図5(b)に示すように、モータ停止直後に行われる逆回転によって(S41、S42)、定着ニップ部N内に移動する。
加圧部材30が図5(b)の位置にある状態でプリントを開始した場合、加圧部材に付着したトナーは定着ローラによって擦り取られる。そして、定着ローラ10に付着したトナーは、定着ニップ部Nに挟持された記録材PAの上面に転移し、定着される。
上述のように逆回転シーケンスを頻繁に実行していれば、領域Pに付着しているトナーや紙紛は極微量であるため、記録材上にこのオフセットトナーが付着しても画像品位を著しく低下させることはない。本実施例の逆回転シーケンスを行うことで、領域Pにトナーや紙紛が蓄積することを抑制してジャムの発生を抑えることができる。
ただし、ヒータ20を移動させる場合と同様に、逆回転シーケンスは、モータが停止した場合に常に行うわけではなく、ジャム等の緊急停止状態では行ってはならない。例えば、緊急停止状態において、定着ニップ部N付近には未だ熱も圧も加えられていない状態の未定着トナーがある場合がある。この場合に、逆回転シーケンスを動作させてしまうと、未定着トナーが定着ローラ表面、加圧部材表面に付着してしまい、定着ローラ10及び加圧部材30に悪影響を与えてしまう可能性があるためである。
ジャムなどで緊急停止した場合は、通常ジャム紙を取り除いた後で電源On、つまり前多回転を行う。この状態であれば、未定着トナーを豊富に載せた記録材が残存していない為、逆回転シーケンスを実施しても未定着トナーが定着ローラ表面、加圧部材表面に付着することはない。
ここで、逆回転シーケンス後の状態について述べておく。本実施例では、逆回転シーケンスを行うことで加圧部材30は、約1.0mm移動した。しかし、逆回転シーケンス後に順回転することでこの移動量はリセットされ、逆回転する前に位置していた通常の位置へ戻る。
順回転及び逆回転により加圧部材30の位置が変化するのは、定着ローラ10との摩擦力によるものである。
また、本実施例の構成は回転しないパッド形状の加圧部材30を用いた構成であったが、この加圧部材30の代わりに回転するローラでも良い。加圧側が回転するローラであれば、基本的には汚れに対してマージンの増えるものとなる。
(実施例2)
次に本発明に係る像加熱装置の実施例2について図を用いて説明する。図6は定着ローラ10が回転している状態における本実施形態に係る像加熱装置の構成図である。図7は定着ローラ10が回転していない状態における本実施形態に係る像加熱装置の構成図である。上記第一実施形態と説明の重複する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
図6に示すように、本実施形態の像加熱装置は、上記第一実施形態の像加熱装置の逆回転シーケンスに代えて、ヒータ20、加圧部材30を移動させるバネ(付勢部材)41、42を設けたものである。これにより、定着ユニット用モータの回転を逆回転させなくてもヒータ20や加圧部材30にトナーが堆積するのを抑えることができ、かつ安価に構成を成り立たせることができる。つまり、加熱部材(ヒータ)を第1の位置(図6の位置)と第2の位置(図7の位置)に移動させる駆動機構は、加熱部材を第1の位置に移動させる定着ローラと、加熱部材を第2の位置に移動させる付勢部材と、を有する。後述するが、本実施例の加熱部材は、定着ローラが回転することにより定着ローラから力を受けて付勢部材の付勢力に抗して第1の位置に移動し、定着ローラが停止すると付勢部材の付勢力により第2の位置に移動する。
具体的な構成としては、第1実施形態と同様に、ヒータ20を保持している加熱部材ホルダ24とヒータ20との間に隙間を設ける。この隙間の大きさは1.0mmである。一方、加圧部材30を保持しているホルダTSと加圧部材30との間に隙間を設ける。この隙間は、1.0mmである。定着ローラ10が回転すると、ヒータ20がバネ41や42の付勢力に打ち勝って図6に示す位置に移動し、定着ローラ回転方向上流側に隙間S1(=1mm)、S2(=1mm)ができる。
バネ41は、ヒータ20を定着ローラ10の回転方向上流に向けて付勢している。バネ41は、定着ローラ10が回転している時には、ヒータ20が移動することにより圧縮されている。本実施例では、ヒータ20の定着ローラ10への加圧力を2.0kgf(19.6N)としているため、定着ローラ10とヒータ20との摩擦力によってバネ41には約2.0kgf(19.6N)の加重が加わっている。
バネ42は、加圧部材30を定着ローラ10の回転方向上流に向けて付勢している。バネ42は、定着ローラ10が回転している時には、加圧部材30が移動することにより圧縮されている。本実施例では、加圧部材30の定着ローラ10への加圧力を2.0kgf(19.6N)としているため、定着ローラ10と加圧部材30との摩擦力によってバネ42には約1.5kgf(14.7N)の加重が加わっている。
図7に示すように、定着ローラ10が停止している場合は、定着ローラ10から受ける回転による摩擦力が無くなる。そして、バネ41、42の圧縮力が開放されることでヒータ20及び加圧部材30は、定着ローラ回転方向下流側の隙間を広げる方向へ移動し、回転前の状態に戻る(図6の状態から図7の状態に戻る)。
上述の如く構成したことにより、上記第一実施形態と同様に、ヒータ20の定着ローラ接触領域、及び加圧部材30の定着ローラ接触領域が定着ローラ10の回転時と停止時で異なる。このため、ヒータ20や加圧部材30に付着するトナーや紙紛などを定着ローラ10に付着させることができ、記録材PAに転写して吐き出すことができる。これにより、オフセット画像の発生を抑制でき、ローラ傷やローラ磨耗、付着トナーの落下に伴う画像不良を抑制できる。
また、ヒータや加圧部材のトナー付着量を抑えることができるため、駆動トルクの低減や磨耗による寿命低下を防止することが出来る。
さらに上記第一実施形態の効果に加えて、本実施形態では、逆回転シーケンスを行う必要がなく、スループットを向上することができる。
なお、本実施例で使用したバネ41の力は、1.8kgf(17.6N)、バネ42は1.4kgf(13.7N)の値のものを使用している。この力は、加熱定着装置を構成する状態は加圧力及びコーティングやシートの材料によって大きく異なるため、別の材料を使用した際は変更してもよい。
次に、加熱部材がトナー像加熱処理中に第1の位置から第2の位置に移動することにより加熱部材へのトナーの堆積を抑える実施例を説明する。
(実施例3)
本発明の実施例3を以下に説明する。まず、本実施例の像加熱装置を搭載する画像形成装置の本体構成を説明し、次いで、本発明の像加熱装置を適用した定着装置について詳しく説明する。
[本体構成]
本実施例において、記録材上に未定着トナー像を形成する方法及び装置は一般的なものを採用しており、図28に示す概略図を用いて説明する。
本実施例における画像形成装置50は、記録材搬送ベルト9上に担持した記録材P上に、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの4色のトナー像を順次転写することで、一つの画像を形成する方式である。像担持体である感光ドラム1の周面には、回転方向(矢印R1方向)に沿って順に、帯電器2、レーザ光を感光ドラム1に照射する露光装置3、現像器5、記録材搬送ベルト9を介して転写ローラ10、および、感光ドラムクリーナー16が配置されている。まず、感光ドラム1は、その表面が帯電器2によって負極性に帯電される。次に帯電された感光ドラム1は、露光手段3の露光Lにより表面に静電潜像が形成(露光された部分は表面電位が上がる)される。1色目のイエロートナーが入った現像器5によって、感光ドラム上の静電潜像部にトナーを付着させ、トナー像を形成する。
一方、記録材搬送ベルト9は、二つの支持軸(駆動ローラ12、テンションローラ14)に支持され、図中矢印R4方向に回転する駆動ローラ12によって、矢印R3方向に回転する。記録材Pは、給紙ローラ4によって給紙されると、正極性のバイアスが印加された吸着ローラ6によって帯電され、記録材搬送ベルト9上に静電吸着し搬送される。記録材Pが転写ニップN1に搬送されると、記録材搬送ベルト9に従動回転する転写ローラ10に、不図示の電源から正極性の転写バイアスが印加され、感光ドラム1上のイエロートナー像は、転写ニップ部N1において記録材P上に転写される。転写後の感光ドラム1は、弾性体ブレードを有する感光ドラムクリーナー16によって表面の転写残トナーが除去される。
以上の帯電、露光、現像、転写、クリーニングの一連の画像形成プロセスを、2色目マゼンタM30、3色目シアンC30、4色目ブラックK30の各現像カートリッジについても順次行い、記録材搬送ベルト9上の記録材Pに4色のトナー像を形成する。4色のトナー像を担持した記録材Pは、定着装置100に搬送され、表面のトナー像の定着が行なわれる。
[定着装置]
次いで、本実施例の定着装置100について以下に説明する。本実施例の定着装置100は、上述のように立ち上げ時間の短縮や低消費電力化を目的とした摺動接触式の表面加熱定着装置である。図10に本実施例における定着装置の概略断面図を示す。定着ローラ(回転体)110の外周面には、加熱ユニット(加熱部材)としてのヒータ112が接触し、接触加熱部(加熱領域)N1を形成している。一方、加圧ローラ111が定着ローラ110に接触し、定着ニップN2を形成している。
定着ローラ110は、外径φ20mmであり、φ12mmの鉄製の芯金117の外側に、シリコーンゴムを発泡した厚さ4mmの弾性層116(発泡ゴム)が形成されている。定着ローラ110は、熱容量が大きく、熱伝導率が大きいと、外周面から受ける熱が定着ローラ110内部へ吸収され易く、表面温度が上昇しにくくなる。すなわち、できるだけ低熱容量で熱伝導率が低く、断熱効果の高い材質の方が、定着ローラ110表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。上記シリコーンゴムを発泡した発泡ゴムの熱伝導率は0.11〜0.16W/m・Kであり、0.25〜0.29W/m・K程度のソリッドゴムよりも熱伝導率が低い。また、熱容量に関係する比重はソリッドゴムが約1.05〜1.30であるのに対して、発泡ゴムが約0.75〜0.85であり、低熱容量でもある。従って、この発泡ゴムは、上記定着ローラ110表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。定着ローラ110の外径は小さい方が熱容量を抑えられるが、小さ過ぎると接触加熱部N1の幅が狭くなってしまうので適度な径が必要であり、本実施例では、外径をφ20mmとした。弾性層116の肉厚に関しても、薄過ぎれば金属製の芯金に熱が逃げるので適度な厚みが必要であり、本実施例では、弾性層116の厚さを4mmとした。弾性層116の上には、トナーの離型層として、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)からなる離型層118が形成されている。離型層118はチューブを被覆させたものでも表面を塗料でコートしたものであっても良いが、本実施例では、耐久性の優れるチューブを使用した。離型層118の材質としては、PFAの他に、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂(FEP)等のフッ素樹脂や、離型性の良いフッ素ゴムやシリコーンゴム等を用いても良い。定着ローラ110の表面硬度は、低ければ軽圧でも接触加熱部N1の幅が得られるが、低すぎると耐久性が悪化するため、本実施例では、Asker−C硬度(4.9N荷重)で、40〜45°とした。定着ローラ110は、不図示の回転手段により、図中矢印R2方向に、表面移動速度60mm/secで回転するようになっている。
加圧ローラ111は、定着ローラ110の熱を奪わないように、低熱容量で低熱伝導率のものが好ましく、本実施例では、定着ローラ110と同様の構成のものを用いた。外径はφ20mmであり、φ12mmの鉄製の芯金121の外側に、厚さ4mmの発泡ゴム弾性層122が形成され、最表層にはPFAからなる離型層123が設けられている。加圧ローラ111は、加圧ローラ加圧バネ124によって軸受け125を介し、図中矢印A2方向に147Nの力で加圧され、幅7mmの定着ニップN2を形成し、定着ローラ110に従動回転(図中矢印R3)する。
加熱ユニット112は、熱源である加熱ヒータ(加熱体)113と、ヒータ113を保持するヒータホルダー119と、定着ローラ110と接触する摺動層120と、を有する構成となっている。加熱ユニット112は、加圧バネ114によって図中矢印A1方向に117.6Nの力で加圧され、定着ローラ回転方向の幅が8mmの接触加熱部N1が形成されている。加熱ヒータ113は、アルミナ基板と、基板上に形成された発熱抵抗層と、保護層とを有する。基板は定着ローラ回転方向の幅が12mm、厚さが1mmである。発熱抵抗層の材質はAg/Pd(銀パラジウム)であり、基板中央部にスクリーン印刷により幅4mm、厚さ10μmの大きさに塗工してある。保護層の材質はガラスであり、厚みは50μmである。加熱ヒータ113のガラス面を、直接定着ローラ110表面に接触させ、定着ローラ110表面を加熱しても良いが、本実施例では、加熱ヒータ113の表面に、離型性と摺動性に優れた加熱摺動層120を設けた。この加熱摺動層120は、定着ローラ110の表面にオフセットしたトナーが加熱ユニット112へ付着するのを抑制すると共に、定着ローラ110との摺動による摩擦力を低減させる。加熱摺動層120の材質としては、トナーとの離型性に優れたPFAや、摺動性に優れたPTFE等のフッ素樹脂を用いると良い。加熱摺動層120は、厚すぎると加熱ヒータ113の熱が定着ローラ110に伝わりにくくなり、薄すぎると耐久性が不足するため、厚さは1〜100μm程度が好ましい。また、加熱摺動層120は、耐久性と表面性が良好なシート形状が好ましい。シート形状である場合、加熱ヒータ113の上下流エッジ部を覆うように設置できるため、加熱ヒータ113のエッジから定着ローラ110を保護できる利点がある。本実施形態においては、加熱摺動層120に、厚さ50μmのPFAシートを用い、加熱ヒータ113のエッジを覆うように設置した。加熱ヒータ113の背面には通電発熱抵抗層の発熱に応じて昇温したセラミック基板の裏の温度を検知するための温度検知素子115が配置されている。この温度検知素子115の信号に応じて、ヒータの長手方向端部にある不図示の電極部から通電発熱抵抗層に流す電流を適切に制御することで、加熱ヒータ113の温度を調整している。そして、加熱ヒータ113は、接触加熱部N1の領域で、定着ローラ110の表面を加熱する。
未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、不図示の搬送手段により、定着ニップN2に搬送されると、定着ローラ110の表面の熱は、未定着トナー像Tと記録材Pに移り、記録材P表面にトナー像Tが定着されるようになっている。
次いで、本実施例の特徴である加熱ユニット(加熱部材)が移動する構成について以下に説明する。本実施例の摺動接触式の表面加熱定着装置は、接触加熱部における定着ローラの回転方向とは逆方向に加熱部材が移動する。本実施例の定着装置には、加熱ユニット112(加熱ヒータ113)を定着ローラ回転方向に対して逆方向に移動させるための加熱体揺動カム141(以下、単にカムと表現する)が設けられている。図10中矢印A3方向から見た定着装置の正面図を図11に示す。カム141はカム軸128を軸に、加熱ユニット112の長手両端部に設けられている。カム軸128の端部に設けられたカム回転ギヤ126が不図示の駆動手段により回転駆動することで、カム141は図中矢印R4方向に回転する。
図12に接触加熱部周辺の拡大図を示す。定着ローラ110が矢印R2方向に回転すると、加熱ユニット112は接触加熱部N1において定着ローラ110との摩擦により矢印A4方向(定着ローラ回転方向と同方向)に力を受ける。本実施例の加熱ユニット112は、定着ローラ回転方向と同方向及び逆方向へ移動可能になっている。このため、定着ローラ110が矢印R2方向に回転し、加熱ユニット112が矢印A4方向に力を受けると、カム141と接触状態になる。図12のように定着ローラ110の矢印R2方向の回転により加熱ユニット112がカム141と接触状態になると、加熱ユニット112の中心(ヒータの基板の中心)C2は、定着ローラ110の中心C1からW1=2mm移動した位置(第1の位置)になる。カム141は、矢印R5方向へ位相がずれるに従って半径が大きくなっている。このためカム141が矢印R4方向に回転すると、加熱ユニット112は接触加熱部N1における定着ローラ110の表面移動方向A4方向とは逆方向(定着ローラ回転方向に対して逆方向)へ押されて動くようになっている。本実施例のカム141は、最小半径であるR1=10mmから3/4度(270°)回転するまでの間に滑らかに半径が4mm大きくなり、最大半径のR2=14mmになるような形状をしている。カム141は、加熱ユニット112との接触部において最小半径である図12の位置(半径R1=10mm)から、最大半径である図13の位置(半径R1=14mm)まで矢印R4方向に270°回転することで、加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向へ4mm押し動かす。加熱ユニット112が図12の位置よりも定着ローラ回転方向に対して逆方向へ4mm動くと、加熱ユニット112の中心C2は定着ローラ110の中心C1よりも定着ローラ回転方向に対して逆方向へW2=2mm移動した位置(第2の位置)になる。
カム141が更に矢印R4方向に回転し図14の位置にくると、カム141の加熱ユニット112との接触部の半径は、再び最小半径R1=10mmになる。このため、加熱ユニット112はカム141に接触するまで定着ローラ回転方向と同方向へ動き、再び図12と同じ位置に戻る。
すなわち定着ローラ110が矢印R2方向に回転しているときに、カム141が矢印R4方向に回転すると、加熱ユニット112は図13の位置まで動き、その後、図14の位置に戻る往復運動をするようになっている。このように本実施例の駆動機構は加熱部材を第1の位置から第2の位置に向けて付勢するカム部材141を有し、定着ローラとカム部材の動きにより加熱部材が第1の位置と第2の位置に移動する。
これに対して、加熱ユニットが動かないように固定された構成では、上述のように、印字耐久を行なうと接触加熱部N1の加熱ユニット112側に紙紛やオフセットトナーなどの汚れが溜まる。図15に加熱ユニットが動かない構成の場合の接触加熱部N1に溜まる汚れの模式図を示す。接触加熱部N1に溜まる汚れY1は、紙紛などにオフセットトナーが混じっているため、接触加熱部N1で加熱されると溶融状態となる。そしてこの汚れが接触加熱部N1で定着ローラ110に擦られると接触加熱部N1を通過し、図15に示すように接触加熱部N1よりも下流側(接触加熱部N1の出口付近)の加熱ユニット側に付着して溜まる。更に印字耐久が進み、接触加熱部N1下流の汚れY1が更に堆積し、定着ローラ110と汚れY1の接触面積が増加すると、加熱ユニットから定着ローラ110へ多量の汚れが転移し、次に搬送される記録材を汚すことがある。また場合によっては、接触加熱部N1よりも下流の汚れY1が定着ローラ110へ転移せずに蓄積し続け、接触加熱部N1内にまで汚れY1が入り込むと、加熱ヒータ113から定着ローラ110への伝熱を阻害し、定着不良などの画像不良を発生させることがあった。
本実施例の構成は上述のように、加熱ユニットが定着ローラ回転方向に対して逆方向に動く。接触加熱部N1よりも下流に汚れY1が溜まった場合に、上述のようにカム141を回転させ加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向に動かすと、図16に示すように汚れY1が接触加熱部N1内に入っていく。接触加熱部N1において定着ローラ110表面は、加熱ユニット112が移動する矢印A5方向とは逆方向に移動する。このため、接触加熱部N1内に入った汚れY1は、定着ローラ110によって擦り取られ、図17に示すように、定着ローラ110表面に汚れY1を転移させることができる。定着ローラ110に転移した汚れY1は、定着ニップN2に到達すると定着ローラ110よりも低温な加圧ローラ111に転移する。そして次に定着ニップN2に記録材Pが搬送されると、加圧ローラ111上の汚れY1は記録材Pの裏面に付着し排出される。また、記録材Pが定着ニップN2を通過しているときに、加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向に動かし、汚れY1を定着ローラ110表面に転移させれば、記録材Pの表面(画像面側)に汚れY1を排出することができる。このように加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向に動かすことにより、接触加熱部N1よりも下流の汚れY1を定着ローラ110に転移させることができ、定着ニップN2において記録材P上に汚れY1を排出することができる。
加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向に動かすことによる汚れY1の除去は、記録材P上に行なうため、記録材P上に排出された汚れY1が目立たないように、こまめに汚れY1の排出を行なうのが好ましい。本実施例では、記録材Pが定着ニップN2を通過している間は、常に加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向に動かし、接触加熱部N1よりも下流に汚れY1を溜めないようしている。
本実施例における加熱ユニット112の定着ローラ回転方向に対して逆方向への移動と記録材Pの搬送のタイミングを図18に示す。カム141の回転角[°]を横軸に示し、カム141の回転による加熱ユニット112の上流への移動量[mm]を縦軸に示す。カム141の回転角が0°及び360°のときの加熱ユニット112の位置は図12に示す位置であり、図12の位置における加熱ユニット112の定着ローラ回転方向上流への移動量(縦軸)を0mmとして示す。カム141が回転し、加熱ユニット112が上流へ動き始めると記録材Pが定着ニップN2に搬送され、記録材P上のトナー像の定着が始まる。記録材Pが定着ニップN2を通過しているときは、加熱ユニット112が上流へ移動するように、カム141は記録材Pの搬送に同期して回転するようになっている。記録材Pが定着ニップN2を通過し終わると、加熱ユニット112の上流への移動(移動量4mm)が終了し、次の記録材Pが定着ニップN2に搬送されるまでの間に、加熱ユニット112は下流に戻るようなタイミングでカム141が回転する。本実施例では、記録材Pの搬送とカム141の回転を同期させており、記録材Pが定着ニップN2を通過している間は、必ず加熱ユニット112が定着ローラ回転方向に対して逆方向に動くようになっている。換言すると、一枚の記録材を定着処理する期間中の加熱ユニット移動方向は、定着ローラ回転方向に対して逆方向のみである。従って、接触加熱部N1に到達する紙粉やオフセットトナーなどの汚れは、常に定着ローラ110によって掻き取られるため、接触加熱部N1よりも下流に汚れが溜まらない。また記録材Pの先端から後端にかけて汚れを少しずつ記録紙P上へ排出できるため、全く目立つことなく記録材P上へ汚れを排出することができる。
加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向約1mm以上移動させれば、接触加熱部N1より下流の汚れを定着ローラ110上へ転移させることができる。この移動量は長いほど定着ローラ110が接触加熱部N1の汚れを掻き取る時間が長くなるため汚れの除去効果は高くなる。しかし、加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向へ移動させることによって、接触加熱部N1の領域から加熱ヒータ113の通電発熱抵抗層が外れてしまうと、定着ローラ110の表面温度が低下してしまう。本実施例のように記録材P上のトナー像を定着させているときに加熱ユニット112の定着ローラ回転方向に対して逆方向への移動を行なう場合、接触加熱部N1の領域から加熱ヒータ113の通電発熱抵抗層が外れないようにしなくてはならない。本実施例では加熱ユニット112を移動させても、幅8mmの接触加熱部N1から幅4mmの通電発熱抵抗層が外れないように、加熱ユニット112の移動量を4mmとした。
以上のように本実施例の構成では、記録材Pが定着ニップN2を通過している間、常に加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向に動かすことで、接触加熱部N1よりも下流の汚れを記録材P上へ目立たないように排出することができる。そのため接触加熱部N1よりも下流に汚れが堆積するのを抑えることができる。
本実施例のように加熱ユニットが定着ローラ回転方向に対して逆方向に動く構成と、加熱ユニットが動かないように固定された構成(比較例)において、印字耐久試験を行い比較した。印字耐久試験は、印字率5%の画像を連続印字により、画像形成装置の寿命である10万枚まで印字を行い、接触加熱部に溜まる汚れによる画像不良や定着不良の有無を確認した。比較例の構成では、約500枚印字時点で、接触加熱部に多量に堆積した汚れが定着ローラに吐き出され画像不良が発生した。500枚印字以降は約200枚印字毎に1枚程度の割合で、約4万枚印字以降は約100枚印字毎に1枚程度の割合で、画像不良が発生し続けた。また約8万枚印字以降で、接触加熱部の汚れの堆積による伝熱阻害による定着不良が発生し始めた。一方、本実施例の構成では、記録材が定着ニップを通過している間は、必ず加熱ユニットが定着ローラ回転方向に対して逆方向に動くようになっているため、接触加熱部に到達する汚れは、常に定着ローラによって掻き取られ、接触加熱部に汚れが多量に溜まらない。そのため、画像形成装置の寿命である10万枚印字まで、接触加熱部の汚れによる画像不良や定着不良の発生は無かった。
以上説明した構成においては、記録材Pが定着ニップN2を通過している間、常に加熱ユニット112が定着ローラ回転方向に対して逆方向に動くように、記録材Pの搬送と加熱ユニット112を動かすタイミングを同期させた。しかしながら、加熱ユニット112を動かすタイミング、及び速さはこれに限らない。定着ローラ110が回転しているときに、加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向に移動させれば、接触加熱部N1の汚れを定着ローラ110上へ転移させることができる。例えば、記録材Pが定着ニップN2を通過していないときに、定着ローラ110を回転させ、加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向に移動させても良い。記録材Pが定着ニップN2を通過していないときに、接触加熱部N1の汚れを定着ローラ110上へ転移させることで、汚れを定着ローラ110から加圧ローラ111へ転移させ、記録材Pの裏面に汚れを排出させることができる。記録材P上のトナー像を1枚定着毎に加熱ユニット112を移動させるなど、頻繁に汚れを除去することで、汚れを目立つことなく記録材P裏面に排出させることができる。また記録材Pが定着ニップN2を通過していないときは、定着処理を実行していないので次の記録材上のトナー像を定着させるのに間に合う程度まで定着ローラ110の温度を低下させても問題ない。このため、接触加熱部N1から加熱ヒータ113の通電発熱抵抗層が外れるほど加熱ユニット112の移動量を長くすることができ、汚れの除去能力を上げることができる。加熱ユニット112の上流側への移動量が長いと、接触加熱部N1下流の汚れを定着ローラ110へ掻き取らせる時間(距離)が長くなるため、より確実に接触加熱部N1よりも下流の汚れの除去ができる。
また加熱ユニット112を定着ローラ回転方向に対して逆方向へ動かす頻度も上述のように1枚印字毎に限らず、記録材P上に排出した汚れの量が許容できる範囲内であれば、動かす頻度を減らしても良い。
また、一枚の記録材の定着処理中に加熱ユニットを定着ローラ回転方向及び逆方向に複数回往復移動させても構わない。すなわち、加熱部材が、トナー像加熱処理中に第1の位置と第2の位置を往復移動してもよい。
加熱ユニット112を動かす方法も上述のカムを使用した方法に限らず、定着ローラ110が回転しているときに加熱ユニット112が定着ローラ回転方向に対して逆方向へ動けば同様の作用効果が得られる。
(実施例4)
本発明の実施例4を以下に説明する。本実施例において、未定着トナー像を形成する画像形成装置については、上記実施例3と同じく一般的であり、説明を省略する。また、摺動接触式の表面加熱定着装置についても、実施例3と同じ部材は、実施例3と同一の符号で示し、説明を省略する。本実施例では、接触加熱部における定着ローラの回転方向とは逆方向に加熱体が回転移動することを特徴としている。以下に詳しく説明する。
図19は、本実施例における摺動接触式の表面加熱定着装置の概略図である。定着ローラ110、加圧ローラ111の構成は実施例3と同様であり、定着ローラ110の矢印R2方向の回転により、加圧ローラ111は矢印R3方向に従動回転する。定着ローラ110の外周面には、定着ローラ110を加熱する加熱体140が接触し、接触加熱部N3を形成している。
本実施例の加熱体140は、アルミパイプ143にハロゲンヒータ142を内包した熱ローラの構成となっている。アルミパイプ143の内面には、ハロゲンヒータ142の放射光を吸収しやすい耐熱性の吸収塗料が塗工してあり、ハロゲンヒータ142の輻射熱がアルミパイプ143へ伝達するようになっている。またアルミパイプ143の外面は、定着ローラ110からくる紙紛やオフセットトナーが付着しにくいように離型性の良好なPFAの離型層が形成されている。この離型層は厚さが薄い方がハロゲンヒータ142の熱を外周面に伝えやすく、本実施例では、コーティングによりPFA離型層を10μm形成した。離型層118の材質としては、PFAの他に、PTFE、FEP等のフッ素樹脂を用いても良いが、本実施例では耐熱性と離型性に優れるPFAを用いた。アルミパイプ143は、外径が小さく、肉厚が薄い方が熱容量を小さくでき、ハロゲンヒータ142の熱をより早く外周面に伝えやすい。しかしながら、外径が小さく、肉厚が薄すぎると強度が低くなってしまう。アルミパイプ143の強度が低くなると定着ローラ110との接触加熱部N3を形成するための加圧力が掛けられなくなり、接触加熱部N3の幅が狭くなってしまう。接触加熱部N3の幅が狭くなると、加熱体140の熱が定着ローラ110に伝わりにくくなるため、立ち上げ時間を短縮するためには、接触加熱部N3の幅を必要量確保できるようにアルミパイプ143には適度な強度が必要である。本実施例ではアルミパイプ143の外径をφ18mm、肉厚をt=1.0mmとし、長手両端部に設置された加圧バネによって図中矢印A1方向に117.6Nの力で加圧し、幅5mmの接触加熱部N3を形成している。
熱ローラなどの回転体を加熱体として用いる接触式の表面加熱定着装置は、一般的に加熱体と定着ローラは摺動せずに、接触加熱部において加熱体は定着ローラと同一方向に回転移動するが、本実施例の加熱体140の表面は、接触加熱部N3において、定着ローラ110の表面移動方向とは逆方向(矢印R6方向)に移動する。図19中矢印A3方向から見た定着装置の正面図を図20に示す。加熱体140は長手両端部に軸130があり、軸受け131を介して加圧バネ129により、矢印A1方向に加圧されている。加熱体140の軸130の端部には、加熱体回転ギヤ139が設けられており、不図示の駆動手段により回転駆動させる。これにより、加熱体140の表面の移動方向は、定着ローラ110の表面の移動方向に対して逆方向である、図中矢印R6方向に回転するようになっている。
従来、定着ローラの外周面に接触する加熱体がハロゲンランプを内蔵したローラ形状の表面加熱定着装置の場合、印字耐久を行なうと加熱体表面に紙紛やオフセットトナーなどの汚れが付着することがあった。印字耐久が進み加熱体表面の汚れがある一定量を超えると、定着ローラへ多量の汚れが転移し、次に搬送される記録材を汚すことがある。また場合によっては、加熱体表面の汚れが定着ローラへ転移せずに成長し続け、加熱体から定着ローラへの伝熱を阻害し、定着不良などの画像不良を発生させることがあった。
本実施例の構成は、上述のように接触加熱部N3において加熱体140の表面が定着ローラ110の表面移動方向とは逆方向に移動する。つまり、加熱体140は定着ローラ110の回転方向と同じ方向に回転する。図21及び図22に接触加熱部N3周辺の拡大図を示す。図21に示すように加熱体140表面に汚れY2が付着した場合でも、定着ローラ110の表面移動方向とは逆方向に加熱体140の表面が移動しているため、図22に示すように、加熱体140表面の汚れは定着ローラ110によって擦り取られる。定着ローラ110に掻き取られた汚れY2は、実施例3と同様に、定着ニップN2において記録材P上へ排出することができる。
加熱体に付着した汚れを定着ローラへ掻き取らせるには、基本的に接触加熱部において定着ローラの表面移動方向に対して逆方向に加熱体表面を移動させなければならない。本実施例の構成では、定着ローラ110の回転中は、加熱体140を定着ローラ110の回転と同方向へ常に回転させるため、接触加熱部N3における定着ローラ110表面の移動方向に対して加熱体140表面は絶え間なく逆方向へ移動することになる。すなわち定着ローラ110は、接触加熱部N3において、加熱体140の汚れを常に掻き取っている状態となるため、加熱体140に汚れが堆積するのを抑えることができる。
加熱体140を定着ローラ110の回転と同方向に回転すことによる加熱体140表面の汚れY2の排出は、実施例3と同様に記録材P上に行なうため、記録材P上に排出された汚れY2が目立たないように、こまめに排出するのが好ましい。本実施例では、定着ローラ110の回転と連動させ、定着ローラ110が矢印R2方向に回転するときは、常に加熱体140を回転(矢印R6方向への回転)させるようにしている。そのため、加熱体140表面の汚れは、常に定着ローラ110に掻き取られ、少しずつ目立たないように記録材P上へ汚れを排出することができる。
定着ローラの回転に対する加熱体140の回転の速度は、遅くても回転していれば加熱体140表面の汚れを定着ローラ110上へ転移させる効果はあるが、速いほど定着ローラ110の汚れの掻き取り効果は高くなる。しかし、加熱体140の回転が、速すぎると加熱体140を回転させる回転トルクが高くなってしまうため、本実施例では、加熱体140の矢印R6方向の表面移動速度3mm/secとした。
以上のように本実施例の構成では、接触加熱部において加熱体表面が定着ローラ表面の移動方向に対して逆方向に移動するように、定着ローラの回転方向と同方向に回転させることで、加熱体表面に付着する汚れを記録材P上へ少しずつ目立たないように排出することができる。そのため加熱体表面に汚れが堆積するのを抑えることができる。
以上説明した構成により、実施例3と同様の印字耐久試験を行なった。加熱体を定着ローラの回転と同方向に常に回転させているため、接触加熱部に到達する汚れは、常に定着ローラによって掻き取られ、加熱体に汚れが溜まらない。その結果、画像形成装置の寿命である10万枚印字まで、加熱体の汚れによる画像不良や定着不良の発生は無かった。
なお、本実施例の構成では、定着ローラ110が回転するときは、常に加熱体140を回転させるように、加熱体140の回転と定着ローラ110の回転を連動させたが、常に加熱体140を回転させなくても良い。例えば、記録材P上のトナーを定着させているときは、定着ローラ表面の移動方向と加熱体表面の移動方向が同じ方向となるように定着ローラ110の回転に合わせて加熱体140を逆回転させる。そして、記録材Pが定着ニップN2を通過していないときのみに、定着ローラ表面の移動方向と加熱体表面の移動方向が逆方向となるように加熱体140を定着ローラ110の回転と同方向に回転させても良い。そうすることで、記録材P上のトナーを定着させているときの回転トルクを低減させることができる。また、記録材Pが定着ニップN2を通過していないときに加熱体140を定着ローラ110の回転と同方向に回転させることで、汚れを定着ローラ110から加圧ローラ111へ転移させることができるため、記録材Pの裏面に汚れを排出させることができる。実施例3と同様に、記録材P上のトナー像を1枚定着毎など、頻繁に行なうことで、汚れを目立つことなく記録材P裏面に排出させるようにしても良い。その他に、加熱体140表面の汚れをクリーニングするためのモードを設けておき、ユーザによって任意のタイミングで、或いは所定枚数定着処理したら自動で、定着ローラ110の回転と同方向に加熱体140を回転させても良い。
(実施例5)
本発明の実施例5を以下に説明する。本実施例において、未定着トナー像を形成する画像形成装置については、上記実施例3と同じく一般的であり、説明を省略する。また、摺動接触式の表面加熱定着装置についても、実施例3と同じ部材は、実施例3と同一の符号で示し、説明を省略する。
本実施例では、接触加熱部における定着ローラの回転方向とは逆方向に加熱摺動層のみが移動することを特徴としている。この場合、摺動層が加熱部材に相当する。以下に詳しく説明する。
本実施例における摺動接触式の表面加熱定着装置の概略図を図23に示す。定着ローラ110、加圧ローラ111の構成は実施例3同様であり、定着ローラ110の矢印R2方向の回転により、加圧ローラ111は矢印R3方向に従動回転する。定着ローラ110の外周面には、定着ローラ110を加熱する加熱ユニット150が接触し、接触加熱部N4を形成している。
加熱ユニット150は、熱源である加熱ヒータ(加熱体)132がヒータホルダー133に保持され、定着ローラ110と接触する部分には、加熱摺動層134が設けられた構成となっている。
本実施例の構成は、加熱摺動層134が定着ローラの回転方向と同方向及び逆方向に移動可能であり、加熱ヒータ132を保持するヒータホルダー133は、移動しないように定着装置に固定されている。ヒータホルダー133は、加圧バネ114によって図中矢印A1方向に117.6Nの力で加圧され、加熱摺動層132を介して幅8mmの接触加熱部N4が形成されている。本実施例の加熱摺動層134は、耐久性と熱伝導性に優れた金属材を基材に用いた。加熱摺動層134の基材は厚さ30μmのSUSシート(ステンレス製のシート)で、その表面には、紙紛やオフセットトナーの付着を抑制するためPFAの離型層がコートで形成されている。本実施例の構成は、加熱ヒータ132と加熱摺動層134が摺動する構成のため、加熱ヒータ132と加熱摺動層134の摩擦力低減及び摺動部の磨耗防止のため、加熱ヒータ132と加熱摺動層134の間に耐熱性のシリコーングリスを塗布してある。グリスの他に、加熱ヒータ132や加熱摺動層134の接触摺動面に滑り性が良好で耐熱性のある材料(PTFE、PFAなど)を保護層として形成しても良い。保護層を形成する場合、加熱ヒータ132から定着ローラ110への熱伝達を阻害しないように、保護層の厚さは薄い方が良く、コーティングするなどで1〜50μm程度の厚さで形成するのが好ましい。加熱ヒータ132と定着ローラ110に挟まれた加熱摺動層132は、定着ローラ110が矢印R2方向に回転すると、接触加熱部N4で矢印A4方向に摩擦力を受ける。加熱摺動層134は、接触加熱部N4よりも上流側で加熱摺動層支持板金135によって長手全域を支持されており、加熱摺動層支持板金135は、その下流側に設けられた加熱摺動層揺動カム136(以下、単にカム136と称する)によって支えられている。
図23中矢印A1方向からみた定着装置の概略図を図24に示す。カム141はカム軸139を軸に、加熱摺動層支持板金135の長手両端部に設けられている。カム軸139の端部に設けられたカム回転ギヤ137が不図示の駆動手段により回転駆動することで、カム136は図中矢印R7方向に回転する。カム136の形状は、実施例3の加熱体揺動カム141と同一形状であり、最小半径10mmから最大半径14mmまで滑らかに大きくなるような形状をしている。定着ローラ110の矢印R2方向の回転により、加熱摺動層134が矢印A4方向に摩擦力を受けているときに、カム136を矢印R7方向に回転させることで、実施例3の加熱ユニット112と同様に、加熱摺動層134が定着ローラ回転方向と同方向及び逆方向に往復移動する。
図25、図26に接触加熱部N4周辺の拡大図を示す。図25が第1の位置、図26が第2の位置を示している。図25に示すように加熱摺動層134に汚れY3が付着した場合でも、定着ローラ110が矢印R2方向に回転しているときに、カム136を矢印R7方向に回転させ、加熱摺動層134を定着ローラ回転方向に対して逆方向へ移動させる。これにより、図26に示すように、加熱摺動層134の汚れY3は定着ローラ110によって擦り取られる。定着ローラ110に擦り取られた汚れY3は、実施例3と同様に、定着ニップN2において記録材P上へ排出することができる。
本実施例における加熱摺動層134の移動と記録材Pの搬送のタイミングは、実施例3における加熱ユニット112の移動と記録材Pの搬送のタイミングと同一である。すなわち、記録材Pが定着ニップN2を通過しているときは常に加熱摺動層134を定着ローラ回転方向に対して逆方向に動かし、接触加熱部N4よりも下流に汚れY3を溜めないようしている。
本実施例の構成は、加熱ヒータ132は移動せずに、加熱摺動層134のみを移動させることで、接触加熱部N4に溜まる汚れY3を除去することが可能である。そのため加熱ヒータ132の中心と定着ローラ110の中心はずれることが無く、加熱ヒータ132の通電発熱抵抗層が接触加熱部N4から外れることは無い。そのため通電発熱抵抗層の幅を、接触加熱部N4の幅まで広げることができる。定着ローラ110に接触させる通電発熱抵抗層の幅は広いほど定着ローラ110表面を加熱させやすく、立ち上げ時間を短縮させることができる。本実施例における加熱ヒータ132の通電発熱抵抗層の幅は、接触加熱部N4の幅と同じ8mmであり、定着ローラ110表面をより短時間で加熱できるようになっている。
以上説明した構成により、実施例3と同様の印字耐久試験を行なった。記録材が定着ニップを通過している間は、加熱摺動層が定着ローラ回転方向に対して逆方向に動くようになっているため、接触加熱部に到達する汚れは、常に定着ローラによって掻き取られ、接触加熱部には汚れが溜まらない。その結果、画像形成装置の寿命である10万枚印字まで、接触加熱部の汚れによる画像不良や定着不良の発生は無かった。
なお、本実施例の構成においても、実施例3と同様に、加熱摺動層134を動かすタイミング、速さ、及び頻度はこれに限らない。また、加熱摺動層134を動かす方法も上述のカムを使用した方法に限らず、その他の方法でも、定着ローラ110の回転中に、加熱摺動層134が定着ローラ回転方向に対して逆方向へ動けば同様の作用効果が得られる。
(実施例6)
本発明の実施例6を以下に説明する。本実施例において、未定着トナー像を形成する画像形成装置については、上記実施例3と同じく一般的であり、説明を省略する。また、摺動接触式の表面加熱定着装置についても、実施例3と同じ部材は、実施例3と同一の符号で示し、説明を省略する。
実施例5で説明した構成においては、加熱摺動層を定着ローラ回転方向と同方向及び逆方向へ往復移動させる構成であるが、本実施例の構成は、ベルト状の加熱摺動層を用い、実施例4の加熱体140のように、定着ローラの表面移動方向とは逆方向にベルト状の加熱摺動層の表面を移動させ、加熱摺動層の汚れを防止する構成である。
図27に本実施例の定着装置の概略図を示す。加熱摺動層である加熱摺動ベルト145は、ベルトガイド146とベルト回転ローラ147に架け渡されている。ベルト145は、実施例5の加熱摺動層132と同様に、基材が厚さ30μmのSUSベルト(ステンレス製のベルト)であり、表面に紙紛やオフセットトナーの付着を防止するためPFAの離型層をコートしてある。本実施例の構成も、実施例5と同様に、加熱ヒータ132と加熱摺動ベルト145が摺動する構成のため、加熱ヒータ132と加熱摺動ベルト145の摩擦力低減及び摺動部の磨耗防止のため、加熱ヒータ132と加熱摺動ベルト145の間に耐熱性のシリコーングリスを塗布した。グリスの他に、加熱ヒータ132や加熱摺動ベルト145の接触摺動面に滑り性が良好で耐熱性のある材料(PTFE、PFAなど)を保護層として形成しても良い。保護層を形成する場合、加熱ヒータ132から定着ローラ110への熱伝達を阻害しないように、保護層の厚さは薄い方が良く、コーティングするなどで1〜50μm程度の厚さで形成するのが好ましい。ベルト回転ローラ147は、定着ローラ110の弾性層と同じくシリコーンの発泡ゴムからなり、図中矢印R8方向に回転することで、加熱摺動ベルト145を矢印R9方向へ回転移動させる。実施例4の加熱体140と同様に、定着ローラ110の回転とベルト回転ローラ147の回転を連動させているため、定着ローラ110を回転させている間は、加熱摺動ベルト145が定着ローラ110の回転方向(矢印R2方向)と同方向(矢印R9方向)に回転するようになっている。そのため、印字によって接触加熱部N4に到達する汚れは、定着ローラ110によって掻き取られる。
本実施例の構成では、実施例4と同様に、定着ローラ110の回転中は、加熱体(加熱摺動ベルト145)の表面を定着ローラ110の表面移動方向とは逆方向へ常に移動させる。このため、接触加熱部N4における定着ローラ110表面の移動方向に対して加熱体表面は絶え間なく逆方向へ移動することになる。すなわち定着ローラ110は、接触加熱部N4において、加熱摺動ベルト145の汚れを常に掻き取っている状態となるため、加熱体140に汚れが堆積するのを抑えることができる。また加熱摺動層が薄肉ベルトであるため、実施例4の金属パイプと比較して熱容量が少なく、また柔軟性もあるため接触加熱部N4の幅を形成しやすい。そのため熱源からの熱を定着ローラ110へ伝えやすく、定着ローラ110の立ち上げ時間を短縮することができる。
以上説明した構成により、実施例3と同様の印字耐久試験を行なった。接触加熱部N4において加熱摺動ベルト145の表面を定着ローラ110の表面とは逆方向に常に移動させる。このため、接触加熱部N4に到達する汚れは、常に定着ローラ110によって掻き取られ、加熱摺動ベルト145に汚れが溜まらない。その結果、画像形成装置の寿命である10万枚印字まで、接触加熱部の汚れによる画像不良や定着不良の発生は無かった。
なお、本実施例の構成においても、実施例4と同様に、加熱摺動ベルト145を動かすタイミング、速さ、及び頻度はこれに限らない。また、加熱摺動ベルト145を定着ローラ110の回転方向と同方向へ回転させる方法も上述の駆動ローラを使用した方法に限らず、その他の方法でも同様の作用効果が得られる。
以上説明した実施例3から実施例6において、加熱部材(或いは加熱ユニット)の汚れの除去について説明したが、定着ニップN2を形成する加圧部材としては、ローラに限らず、回転しないパッド部材などを用いても良い。
また、実施例1〜6は画像形成装置に搭載する定着装置を例にして説明したが、本発明は、定着済みのトナー像を担持する記録材を再度加熱して画像の光沢度を向上させる光沢付与装置のような像加熱装置にも適用できる。