JP5187997B2 - 誘電体磁器とその製造方法及びこれを用いた誘電体共振器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロ波、ミリ波等の高周波領域において、高い比誘電率εr 、共振の先鋭度Q値を有する誘電体磁器及び誘電体共振器に関し、例えば前記高周波領域において使用される種々の共振器用材料やMIC(Monolithic IC)用誘電体基板材料、誘電体導波路用材料や積層型セラミックコンデンサー等に使用される誘電体磁器及びこれを用いた誘電体共振器に関する。
【0002】
【従来の技術】
誘電体磁器は、マイクロ波やミリ波等の高周波領域において、誘電体共振器、MIC用誘電体基板や導波路等に広く利用されている。その要求される特性としては、(1)誘電体中では伝搬する電磁波の波長が(1/εr)1/2に短縮されるので、小型化の要求に対して比誘電率が大きいこと、(2)高周波領域での誘電損失が小さいこと、すなわち高Qであること、(3)共振周波数の温度に対する変化が小さいこと、即ち比誘電率εrの温度依存性が小さく且つ安定であること、以上の3特性が主として挙げられる。
【0003】
この様な誘電体磁器として、例えば特開平4−118807号公報にはCaO−TiO2−Nb25−DO(DはZn、Mg、Co、Mn等)系からなる誘電体磁器が示されている。しかし、この誘電体磁器では、1GHzに換算した時のQ値が1600〜25000程度と低く、共振周波数の温度係数τfが215〜835ppm/℃程度と大きいため、Q値を向上させ、かつτfを小さくするという課題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、LnAlCaTi系の誘電体磁器(特開平6−76633号公報参照、Lnは希土類元素)、LnAlSrCaTi系の誘電体磁器(特開平11−278927号参照)およびLnAlCaSrBaTi系の誘電体磁器(特開平11−106255号参照)を提案した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、LnAlCaTi系誘電体磁器(特開平6−76633号公報参照、Lnは稀土類元素)では、比誘電率εrが30〜47の範囲においてQ値が20000〜58000であり、場合によってはQ値が35000より小さくなるのでQ値を向上させる必要があるという課題があった。
【0006】
また、LnAlSrCaTi系の誘電体磁器(特開平11−278927号参照)では比誘電率εrが30〜48の範囲においてQ値が20000〜75000であり、同様に場合によってはQ値が35000より小さくなるのでQ値を向上させる必要があるという課題があった。
【0007】
さらに、LnAlCaSrBaTi系の誘電体磁器(特開平11−106255号参照)では、比誘電率εrが31〜47でQ値が30000〜68000であり、同様に場合によってはQ値が35000より小さくなるのでQ値を向上させる必要があるという課題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて完成されたもので、その目的は比誘電率εrが30〜48の範囲においてQ値43000以上、特にεrが40以上の範囲においてQ値が46000以上と高く、かつ比誘電率εrの温度依存性が小さくかつ安定である誘電体磁器及び誘電体共振器を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の誘電体磁器は、金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物を主成分とする多結晶体からなり、Si、FeおよびZrの含有量がそれぞれSiO2換算で0.001〜0.02重量%、Fe23換算で0.001〜0.02重量%およびZrO2換算で0.001〜0.8重量%であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の誘電体磁器はSiが結晶粒界に存在することを特徴とする。
【0011】
さらに、前記の誘電体磁器は、金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、組成式を
aLn2X・bAl23・cMO・dTiO2
(但し、3≦x≦4)
と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足することを特徴とする。
【0012】
また、金属元素としてMn、W、NbおよびTaのうち少なくとも1種を合計でMnO2、WO3、Nb25およびTa25換算で0.01〜3重量%含有することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の誘電体共振器は、一対の入出力端子間に上記誘電体磁器を配置し、電磁界結合により作動する誘電体共振器を構成したものである。
【0015】
【作用】
本発明の誘電体磁器では金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物を主成分とする多結晶体からなり、Si、FeおよびZrの含有量をそれぞれSiO2換算で0.02重量%以下、Fe23換算で0.001〜0.02重量%およびZrO2換算で0.001〜0.8重量%とすることによりQ値を向上させることができる。
【0016】
なお、本発明の誘電体磁器は、Si、FeおよびZrの含有量がそれぞれSiO2換算で0.001〜0.02重量%、Fe23換算で0.001〜0.02重量%およびZrO2換算で0.001〜0.8重量%含有する希土類元素(Ln)酸化物、Al酸化物、M(MはCaおよび/またはSr)酸化物、及びTi酸化物のうち少なくとも2種以上からなる原料を陽イオン金属濃度が0.001重量%以下の水を用いて湿式粉砕する工程と、希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiのうち少なくとも2種以上を含む酸化物を固着させたこう鉢を用いて仮焼する工程と、成形前の原料粉体中に含まれるFeおよびFe化合物を低減させる工程と、Siを実質的に含まないガス中で焼成する工程とを含む製造方法により、希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有するペロブスカイト型結晶の結晶構造を規則化とすることができ、これによって高いQ値を得ることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明について以下に説明する。
【0018】
本発明における誘電体磁器とは、未焼結体を成形し、焼成して得られる多結晶焼結体のことを意味している。そして、Q値を高くするためには、金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなり、Si、FeおよびZrの含有量がそれぞれSiO2換算で0.001〜0.02重量%、Fe23換算で0.001〜0.02重量%およびZrO2換算で0.001〜0.8重量%であることが重要である。
【0019】
ここで、本発明の誘電体磁器が金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物を主成分とする多結晶体からなるということは、前記多結晶を構成する各結晶が希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなるということである。
【0020】
本発明の誘電体磁器に含有される稀土類元素(Ln)はY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbの酸化物のうち少なくとも1種以上からなることが望ましい。Q値を高くするためには稀土類元素はLa、Nd、Sm、Eu、Gd、Dyのうち少なくとも1種以上からなることが好ましい。さらにQ値を高くするためには稀土類元素はLa、Nd、Smのうち少なくとも1種以上からなることが特に望ましい。本発明においてQ値を高くするためには稀土類元素のうちLaが最も好ましい。
【0021】
本発明の誘電体磁器に含まれる結晶のうち、金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物を主成分とする前記多結晶の割合は、90体積%以上であることが望ましい。
【0022】
また、本発明の誘電体磁器は、金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiをそれぞれLnO(X+3)/2(3≦x≦4)、Al23、MO(MはCaおよび/またはSr)、及びTiO2換算で合計85重量%以上含有することが望ましい。
【0023】
前記主成分からなる結晶はLnAlO(X+3)/2(3≦x≦4)とMTiO3(MはCaおよび/またはSr)との固溶体からなるペロブスカイト型結晶であることが望ましく、例えば、NdAlO3、SmAlO3、LaAlO3のうち少なくとも1種と、CaTiO3、SrTiO3のうち少なくとも1種との固溶体からなる。
【0024】
本発明の誘電体磁器においてSi、FeおよびZrの含有量をそれぞれ上記の範囲に限定したの理由は以下の通りである。
【0025】
SiをSiO2換算で0.001〜0.02重量%以下含有するのは、0.001重量%未満であると焼結しにくいからであり、SiO2換算で0.02重量%より多いとQ値が低下するからである。Q値を向上させるためにはSi量の上限はSiO2換算で0.01重量%が望ましい。
【0026】
FeをFe23換算で0.001〜0.02重量%含有するのは、Fe23が0.001重量%未満にすることは実質的に困難であるためであり、Fe23が0.02重量%より多いとQ値が低下するからである。Q値を向上させるためにはFe量の上限はFe23換算で0.01重量%が望ましい。
【0027】
ZrをZrO2換算で0.001〜0.8重量%含有するのは、ZrO2が0.001重量%未満であるとQ値が高くかつ安価な誘電体磁器を得ることが困難であるからであり、ZrO2が0.8重量%より多いとQ値が低下するからである。Q値を向上させるためにはZr量の上限はZrO2換算で0.4重量%が望ましく、Zr量の下限はZrO2換算で0.01重量%が望ましい。
【0028】
また、本発明の誘電体磁器はSiが結晶粒界に存在することが好ましい。Siが結晶粒界に存在すると特にQ値を向上させることができる。前記結晶粒界とは本発明の誘電体磁器の主結晶相からなる結晶の粒界を意味している。本発明の誘電体磁器において結晶粒界にSiが存在すると特にQ値を高くすることができる理由は次の様に考えられる。
【0029】
上述した様に本発明の誘電体磁器の主結晶相は、前記固溶体からなるペロブスカイト型結晶からなる。例えば前記固溶体からなるペロブスカイト型結晶に含まれるAlサイトにSiが固溶する場合の欠陥方程式は例えば化1の様に表されると考えられる。
【0030】
【化1】
Figure 0005187997
【0031】
化1より、Alよりも原子価の大きなSiがn型のドナーとして作用し、電子が放出されることがわかる。これによって誘電体磁器の導電率が大きくなり、その結果Q値が低下するものと考えられる。Siが例えばLaサイトやCaサイトに固溶する場合も同様に誘電体磁器の導電率が大きくなり、Q値が低下するものと考えられる。一方、Siが結晶粒界に存在する場合は、他の元素へ固溶しにくいため、上述したような電子の放出が起こらないためQ値が低下しないものと考えられる。
【0032】
本発明の誘電体磁器の粒界にSiが存在する場合は、透過電子顕微鏡、制限視野電子回折像による解析およびエネルギ−分散型X線分光分析(EDS分析)、微小X線回折法などを用いてSiの存在を確認することができる。
【0033】
さらに、本発明における誘電体磁器は、金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、組成式を
aLn2X・bAl23・cMO・dTiO2
(但し、3≦x≦4)
と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足することが重要である。
【0034】
本発明の誘電体磁器において、各成分のモル比a、b、c、dを上記の範囲に限定した理由は以下の通りである。
【0035】
即ち、0.056≦a≦0.214としたのは、0.056≦a≦0.214の場合、εrが大きく、Q値が高く、共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さくなるからである。特に、aの下限は0.078が好ましく、aの上限は0.1866が好ましい。
【0036】
0.056≦b≦0.214としたのは、0.056≦b≦0.214の場合、εrが大きく、Q値が高く、τfの絶対値が小さくなるからである。特に、bの下限は0.078が好ましく、bの上限は0.1866が好ましい。
【0037】
0.286≦c≦0.500としたのは、0.286≦c≦0.500の場合、εrが大きく、Q値が高く、τfの絶対値が小さくなるからである。特に、cの下限は0.330が好ましく、cの上限は0.470が好ましい。
【0038】
0.230<d<0.470としたのは、0.230<d<0.470の場合、εrが大きく、Q値が高く、τfの絶対値が小さくなるからである。特に、dの下限は0.340が好ましく、dの上限は0.450が好ましい。
【0039】
本発明においてはQ値を高くするためには0.75≦(b+d)/(a+c)≦1.25が好ましい。さらにQ値を高くするためには(b+d)/(a+c)の下限は0.85が特に好ましく、(b+d)/(a+c)の上限は1.15が特に好ましい。
【0040】
さらに、本発明の誘電体磁器は金属元素としてMn、W、NbおよびTaのうち少なくとも1種以上をMnO2、WO3、Nb25およびTa25換算で0.01〜3重量%含有するものである。Mn、WおよびTaのうち少なくとも1種以上をMnO2、WO3、Nb25およびTa25換算で0.01〜3重量%含有するのは、0.01〜3重量%含有すると著しくQ値が向上するからである。Q値を高くするためにはMn、W、NbおよびTaのうち少なくとも1種を全量中MnO2、WO3、Nb25およびTa25換算で特に0.02〜2重量%含有することが好ましく、特にMnをMnO2換算で0.02〜0.5重量%含有することが好ましい。
【0041】
また、Mn、W、NbおよびTaをMnO2、WO3、Nb25およびTa25換算で0.01〜3重量%含有することによりQ値が高くなるのは、本発明の誘電体磁器に含まれる酸素欠陥が減少するためであると考えられる。
【0042】
本発明の誘電体磁器の製造方法は具体的には、例えば以下の工程(1a)〜(8a)から成る。
【0043】
(1a)出発原料として、高純度の、少なくとも1種の稀土類元素酸化物Ln2X(但し、3≦x≦4)、酸化アルミニウム(Al23)の各粉末を用いて、所望の割合となるように秤量後、純水を加え、この混合原料の平均粒径が2.0μm以下となるまで1〜100時間、ジルコニアボールを使用したボールミルにより、陽イオン金属濃度が0.001重量%以下である水を用いて湿式混合及び粉砕を行う。前記稀土類元素酸化物Ln2X(但し、3≦x≦4)および酸化アルミニウム(Al23)はSiおよびFeをそれぞれSiO2換算で0.001〜0.02重量%およびFe23換算で0.001〜0.02重量%含有する原料を用いる。
【0044】
(2a)(1a)で得られた混合物を乾燥後、希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiのうち少なくとも2種以上を含む酸化物を表面に固着させたこう鉢を用いて1000〜1300℃で1〜10時間仮焼し、LnAlO(X+3)/2(3≦x≦4)を主結晶相とする仮焼物を得る。
【0045】
(3a)同様に、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)および酸化チタン(TiO2)の各粉末を用いて、所望の割合となるように秤量後、純水を加え、混合原料の平均粒径が2.0μm以下となるまで1〜100時間、ジルコニアボールを使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行う。炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)および酸化チタン(TiO2)はSiおよびFeをそれぞれSiO2換算で0.001〜0.02重量%およびFe23換算で0.001〜0.02重量%含有する原料を用い、前記水は陽イオン金属濃度が0.001重量%以下である水を用いる。
【0046】
(4a)(3a)で得られた混合物を乾燥後、希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiのうち少なくとも2種以上を含む酸化物を表面に固着させたこう鉢を用いて1000〜1300℃で1〜10時間仮焼し、MTiO3(MはCaおよび/またはSr)を主結晶相とする仮焼物を得る。
【0047】
(5a)得られたLnAlO(X+3)/2(3≦x≦4)を主結晶相とする仮焼物と、MTiO3 を主結晶相とする仮焼物とを所定の割合で混合し、この混合原料の平均粒径が2.0μm以下となるまで1〜100時間、ジルコニアボールを使用したボールミルにより、陽イオン金属濃度が0.001重量%以下である水を用いて湿式混合及び粉砕を行う。
【0048】
(6a)更に、3〜10重量%のバインダーを加えてから脱水し、その後公知の方法、例えばスプレードライ法等を用いて造粒し、造粒粉を得る。
【0049】
(7a)(6a)で得られた造粒粉を公知の例えば金型プレス法、冷間静水圧プレス法、押し出し成形法等により任意の形状に成形する。
【0050】
(8a)(7a)で得られた成形体をSiを実質的に含まないガス中で1400〜1700℃の温度で1〜10時間焼成する。得られた誘電体磁器は、LnAlO(X+3)/2(3≦x≦4)とMTiO3(MはCaおよび/またはSr)との固溶体からなるペロブスカイト型結晶からなる。ここで、前記Siを実質的に含まないガスとは、前記ガスのSi濃度が100ppm以下であることを示す。
【0051】
本発明の製造方法により、誘電体磁器に含有されるSi、FeおよびZrをそれぞれ上述した範囲で含有させることができ、これによってQ値を向上することができる。さらに、本発明の誘電体磁器の製造方法によって結晶粒界にSiを存在させることができ、さらにQ値を向上させることができる。
【0052】
本発明の誘電体磁器の製造方法において、Si、FeおよびZrの含有量がそれぞれSiO2換算で0.001〜0.02重量%、Fe23換算で0.001〜0.02重量%およびZrO2換算で0.001〜0.8重量%含有する希土類元素(Ln)酸化物、Al酸化物、M(MはCaおよび/またはSr)酸化物、及びTi酸化物の少なくとも2種以上からなる原料を陽イオン金属濃度が0.001重量%以下の水を用いて湿式粉砕する工程を用いるのは、Si、ZrおよびFeを本発明の範囲内に制御するためである。
【0053】
また、本発明の誘電体磁器の製造方法において、希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiのうち少なくとも2種以上を含む酸化物を固着させたこう鉢を用いて仮焼する工程を用いるのは、仮焼中にこう鉢に含有される不純物が仮焼粉に混入しない様にするためである。一般的に、仮焼に用いるこう鉢としてはムライト、ジルコニア、アルミナ、マグネシアなどのうち少なくとも1種以上からなるこう鉢を用いることが行われている。しかし、これらのこう鉢をそのまま用いると、前記こう鉢に含有されるSi、Zr、Mg等の不純物が仮焼粉に混入し、Q値を低下させる原因となる。前記の混入を防止するためには、こう鉢の表面に希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiのうち少なくとも2種以上を含む酸化物を固着させ、こう鉢に含有される前記不純物が仮焼粉に混入しない様にする必要がある。こう鉢の表面に、希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiのうち少なくとも2種以上を含む酸化物を固着させるのは、希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiの酸化物うち1種ではこう鉢の表面に化学的に安定的に固着させることが困難であるからである。
【0054】
また、本発明の誘電体磁器の製造方法において、成形前の原料粉体中に含まれるFeおよびFe化合物を低減させる工程を用いることにより、Fe量を制御することができる。前記FeおよびFe化合物を低減させるには、具体的には例えば成形前の原料を強い磁界中を通過させて、磁界によりFeおよびFe化合物を捕獲して除去する方法がある。しかし、この様な方法ではFeおよびFe化合物を0.001重量%未満にすることは実質的に困難である。
【0055】
また、Siを実質的に含まないガス中で焼成する工程を用いるのは、焼成中に被焼成物へSiが拡散することによって、誘電体磁器に含有されるSi量が増加することを抑制するためである。また、これにより結晶粒界にSiを含有させることができる。実質的にSiを含まないガス中で焼成するためには、焼成用治具、焼成炉内の断熱材等にSiを含まない物質を使用することが重要である。
【0056】
更に、本発明の誘電体磁器は、さらにZnO、NiO、SnO2、Co34、LiCO3、Rb2CO3、Sc23、V25、CuO、MgCO3、Cr23、B23、GeO2、Sb25、Ga23等を添加しても良い。これらは、その添加成分にもよるが、εrや共振周波数の温度係数τfの値の適正化などを目的として主成分100重量部に対して合計5重量部以下の割合で添加することができる。
【0057】
また、本発明の誘電体磁器は、特に誘電体共振器の誘電体磁器として最も好適に用いられる。図1に、TEモ−ド型の誘電体共振器の概略図を示した。図1の誘電体共振器は、金属ケース1内壁の相対する両側に入力端子2及び出力端子3を設け、これらの入出力端子2、3の間に上記誘電体磁器からなる誘電体磁器4を配置して構成される。このようなTEモ−ド型誘電体共振器は、入力端子2からマイクロ波が入力され、マイクロ波は誘電体磁器4と自由空間との境界の反射によって誘電体磁器4内に閉じこめられ、特定の周波数で共振を起こす。この信号が出力端子3と電磁界結合して出力される。
【0058】
また、図示しないが、本発明の誘電体磁器を、TEMモードを用いた同軸型共振器やストリップ線路共振器、TMモードの誘電体磁器共振器、その他の共振器に適用して良いことは勿論である。更には、入力端子2及び出力端子3を誘電体磁器4に直接設けても誘電体共振器を構成できる。
【0059】
上記誘電体磁器4は、本発明の誘電体磁器からなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は直方体、立方体、板状体、円板、円柱、多角柱、その他共振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は800MHz〜500GHz程度であり、共振周波数としては2GHz〜80GHz程度が実用上好ましい。
【0060】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更は何等差し支えない。
【0061】
【実施例】
実施例1
以下の(1b)〜(5b)に示すように本発明の試料を作製した。
【0062】
(1b)出発原料として、Si、ZrおよびFeをそれぞれSiO2換算で0.001〜0.02重量%、ZrO2換算で0.001〜0.8重量%およびFe23換算で0.001〜0.02重量%含有する稀土類元素酸化物Ln2X(但し、3≦x≦4)および酸化アルミニウム(Al23)の各粉末を用いて、所望の割合となるように秤量後、純水を加え、この混合原料の平均粒径が2.0μm以下となるまで1〜100時間、ジルコニアボールを使用したボールミルにより、陽イオン金属濃度が0.001重量%以下である水を用いて湿式混合及び粉砕を行った。
【0063】
(2b)(1b)で得られた混合物を乾燥後、稀土類元素Lnとアルミニウムの複合酸化物をこう鉢の内側表面に化学的に固着させたムライト製こう鉢を用いて1100〜1250℃で3時間仮焼し、LnAlO(X+3)/2(3≦x≦4)を主結晶相とする仮焼物を得た。
【0064】
(3b)Si、ZrおよびFeをそれぞれSiO2換算で0.001〜0.02重量%、ZrO2換算で0.001〜0.8重量%およびFe23換算で0.001〜0.02重量%含有する炭酸カルシウム(CaCO3)および炭酸ストロンチウム(SrCO3)および酸化チタン(TiO2)の各粉末を用いて、所望の割合となるように秤量後、純水を加え、この混合原料の平均粒径が2.0μm以下となるまで30時間、ジルコニアボールを使用したボールミルにより、陽イオン金属濃度が0.001重量%以下である水を用いて湿式混合及び粉砕を行った。
【0065】
(4b)(3b)で得られた混合物を乾燥後、Ca、Sr及びTiを含む複合酸化物をこう鉢の内側表面に化学的に固着させたこう鉢を用いて1100〜1250℃で3時間仮焼し、MTiO3(MはCaおよび/またはSr)を主結晶相とする仮焼物を得た。
【0066】
(5b)得られたLnAlO(X+3)/2(3≦x≦4)を主結晶相とする仮焼物と、MTiO3 を主結晶相とする仮焼物と、MnO2、WO3、Nb25およびTa25換算とを表1に示す割合で混合し、この混合原料の平均粒径が2.0μm以下となるまで30時間、ジルコニアボールを使用したボールミルにより、陽イオン金属濃度が0.001重量%以下である水を用いた湿式混合及び粉砕を行った。
【0067】
(6b)更に、3〜10重量%のバインダーを加えてから脱水した後、スプレードライ法により造粒し、造粒粉を得た。
【0068】
(7b)(6b)で得られた造粒粉を、金型プレス法により直径20mm、厚さ11mmの形状に成形した。
【0069】
(8b)(7b)で得られた成形体をSiを実質的に含まないガス中で1500〜1650℃の温度で20時間焼成した。得られた誘電体磁器は、LnAlO(X+3)/2(3≦x≦4)とMTiO3(MはCaおよび/またはSr)との固溶体からなるペロブスカイト型結晶から成っていた。また、得られた誘電体磁器に含まれるSi、FeおよびZr量をICP発光分光分析法により測定し、それぞれSiO2、Fe23およびZrO2に換算した。
【0070】
そして、得られた焼結体の円板部(主面)を平面研磨し、アセトン中で超音波洗浄し、150℃で1時間乾燥した後、円柱共振器法により測定周波数3.5〜5.5GHzで比誘電率εr、Q値、共振周波数の温度係数τfを測定した。Q値は、マイクロ波誘電体において一般に成立する(Q値)×(測定周波数f)=(一定)の関係から、1GHzでのQ値に換算した。共振周波数の温度係数は、25℃の時の共振周波数を基準にして、25〜85℃の温度係数τfを算出した。
【0071】
また、焼結体をTechnoorg Linda製イオンシニング装置を用いて加工し、JEOL社の透過型電子顕微鏡JEM2010FおよびNoran Instruments社のEDS分析装置VoyagerIVを用いて、結晶粒界にSiが存在するかどうかを確認した。
【0072】
これらの結果を表1、2に示す。なお、表1において例えば稀土類元素の比率が0.2Y・0.8Laの試料はYとLaのモル比が0.2:0.8であること、例えば希土類元素の比率がLaである試料は希土類にLaを用いた試料であることを表す。また、表2において○印を付けた試料は結晶粒界にSiが観察された試料、×印を付けた試料は結晶粒界にSiが観察されなかった試料を示す。
【0073】
表1、2から明らかなように、本発明の範囲内の試料No.1〜48は、比誘電率εrが30〜48、1GHzに換算した時のQ値が43000以上、特にεrが40以上の場合のQ値が46000以上と高く、τfが±30(ppm/℃)以内の優れた誘電特性が得られた。
【0074】
一方、Si、FeおよびZrの含有量がそれぞれSiO2換算で0.001〜0.02重量%、Fe23換算で0.001〜0.02重量%およびZrO2換算で0.001〜0.8重量%含有する希土類元素(Ln)酸化物、Al酸化物、M(MはCaおよび/またはSr)酸化物、及びTi酸化物の少なくとも2種以上からなる原料を陽イオン金属濃度が0.001重量%より多い水を用いて湿式粉砕する工程と、稀土類元素酸化物Ln2X(但し、3≦x≦4)および酸化アルミニウム(Al23)の混合粉砕粉をムライトこう鉢を用いて仮焼する工程と、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)および酸化チタン(TiO2)の混合粉砕粉をジルコニアこう鉢を用いて仮焼する工程と、Siを含むガス中で焼成した工程とを含み、かつ成形前の原料粉体中に含まれるFeおよびFe化合物を低減させなかった製造方法により作製した本発明の範囲外の誘電体磁器(試料No.49〜56)はεrが低かったり、Q値が低かったり、τfの絶対値が大きかったりした。
【0075】
【表1】
Figure 0005187997
【0076】
【表2】
Figure 0005187997
【0077】
【発明の効果】
本発明において、金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物を主成分とする多結晶体からなり、Si、FeおよびZrを所定量含有することにより、高周波領域において高い比誘電率εr 及び高いQ値を得ることができる。これにより、マイクロ波やミリ波領域において使用される共振器用材料やMIC用誘電体基板材料、誘電体導波路、誘電体アンテナ、その他の各種電子部品等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の誘電体共振器を示す断面図である。
【符号の説明】
1:金属ケ−ス
2:入力端子
3:出力端子
4:誘電体磁器

Claims (5)

  1. 金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物を主成分とする多結晶体からなり、Si、FeおよびZrの含有量がそれぞれSiO2換算で0.001〜0.02重量%、Fe23換算で0.001〜0.02重量%およびZrO2換算で0.001〜0.8重量%であることを特徴とする誘電体磁器。
  2. Siが結晶粒界に存在することを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器。
  3. 金属元素として少なくとも希土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、組成式を
    aLn2X・bAl23・cMO・dTiO2
    (但し、3≦x≦4)
    と表したときa、b、c、dが、
    0.056≦a≦0.214
    0.056≦b≦0.214
    0.286≦c≦0.500
    0.230<d<0.470
    a+b+c+d=1
    を満足することを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載の誘電体磁器。
  4. 金属元素としてMn、W、NbおよびTaのうち少なくとも1種をMnO2、WO3、Nb25およびTa25換算で合計0.01〜3重量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器。
  5. 一対の入出力端子間に請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器を配置してなり、電磁界結合により作動するようにしたことを特徴とする誘電体共振器。
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