近年、携帯電話端末装置(以下、単に端末ともいう)は豊富なアプリケーションを搭載することによって、その様々な使い方が可能になっている。このような端末は2次電池を電力源として動作するため、2次電池を充電することなく端末を使用できる時間には制限がある。端末の連続使用時間を延ばすためには、端末の回路の低消費電力化と電池の大容量化が必要となる。
携帯電話端末では、基地局に対する送信電力を生成するために電力増幅器を内蔵している。通話時にはこの電力増幅器の消費電力が支配的であり、電力増幅器の低消費電力化が重要となる。
また、大容量電池の充電電力を十分使い切るには、端末の回路が電池の終止電圧まで動作することが望ましく、そのためには、より低電圧で無線回路が動作する必要がある。従来の無線回路で最も高い電圧を要求しているのは電力増幅器であり、電力増幅器の低電圧動作が求められる。
無線設備では、電力増幅器などで信号が歪むとチャネルのスペクトルが広がり、隣接するチャネルへの電波の漏れを生じる。この隣接チャネル漏洩電力が大きいと、隣接するチャネルを使用している端末に通信障害(混信)を与えるため、規格により許容値が規定されている。
電力増幅器の消費電力を下げる事や動作電圧を下げる事と、歪み性能を良くする事は相反する事象であり、歪み性能に要求された許容値を守りながら低消費電力化や低電圧化を行うためには、歪み補償の技術を適用することが必要となる。
従来より、無線通信装置の送信部の非線形歪みを補償する処理としては、いくつかの方式が提案され実用化されている。一般的には、負帰還法、プレディストータ法、フィードフォワード法などの非線形歪み補償法が挙げられる。
負帰還法は、送信電力増幅器の出力信号を負帰還回路を介して入力側に負帰還させることで、非線形歪みを補償する方法である。負帰還法の具体例としては、帰還信号を同相、直交成分に分解して負帰還するカーテシアンループ(cartesianloop)法が挙げられる。但し、負帰還法は、負帰還回路での安定性の点で問題がある。
プレディストータ法(プレディストーション方式ともいう)は、送信電力増幅器で発生する歪みを打ち消すために、入力信号に前もって歪ませた信号成分を加えることにより非線形歪みを補償する方法である。プレディストータ法は、負帰還法とは異なり、開ループ制御であるので安定性に優れているが、前もって歪ませた信号(プレディストーション信号)成分は、増幅器の特性パラメータに依存して適応化しなければならない。
フィードフォワード法は、送信電力増幅器で発生する歪みを検出し、この歪み成分を増幅して送信電力増幅器の出力信号から減算する方法である。フィードフォワード法は、プレディストータ法と同様に開ループ制御であるので安定性に優れているが、歪み補償するために追加した電力増幅器の非線形性や電力効率が問題となる。
上述の3つの非線形歪み補償方法のうち、今日ではプレディストータ法が安定性や電力効率の点から注目されている。ここで、従来より提案されているプレディストータ法は、非線形歪みの特性を送信信号の振幅歪み特性と位相歪み特性とで表現し、それらの逆特性の信号からプレディストーション信号を生成してROMなどの記憶手段に保持しておき、その保持されたプレディストーション信号を用いて非線形歪みを補償するようにしている。
すなわち、従来のプレディストータ法によれば、先ず、送信電力増幅器の非線形歪み特性を測定して非線形歪みを解析し、次に多項式近似によって非線形歪みを高精度に近似し、当該高精度の近似式から逆歪み特性の高精度近似式を生成し、その逆歪み特性の高精度近似式を用いて歪み補償データ(つまりプレディストーション信号)を作成し、ROMなどに保持させる。そして、入力信号レベルに応じた歪み補償データがROMから読み出され、その読み出されたデータが入力信号に加算される。
図14は、送信電力増幅器への入力電力と、当該送信電力増幅器からの出力電力の関係の一例を示す。すなわちこの図14は、送信電力増幅器の振幅特性が、図中振幅特性G1に示すように、ある程度の電力レベルまでは入力電力と出力電力とが直線的に変化して理想的な振幅特性G0と略々一致し、ある電力レベルを超えると非線形になっている例を示している。ここで、例えば入力電力レベルが図中のレベルAのときの理想的な出力電力レベルはB’である。しかしながら、この図14に示す振幅特性G1を有する送信電力増幅器の場合は、上述した入力電力レベルAのときの出力電力レベルが図中Bになってしまう。したがって、プレディストータ法によれば、送信電力増幅器の入力に対して、その電力レベルが図中A’となるようにプレディストーション信号を入力に加算する。これにより、送信電力増幅器からは、歪みのない理想的な出力電力レベルB’が得られることになる。
図15は、従来のプレディストーション法を実現するための構成例を示す。この図15は、送信電力制御を行う携帯電話端末の送信部に従来のプレディストータ法を適用した場合の構成例を示してある。
この図15の構成において、歪み補償部110は、パワー計算部112と、テーブル113と、複素積演算部111により構成されている。パワー計算部112は、歪み補償前のデジタル直交ベースバンド信号I,Qの振幅Vi,VqからVi2+Vq2で表される演算出力を算出する。この演算出力は、テーブル113へ送られる。また、パワー設定部41は、送信電力制御を行うための送信出力パワー設定値を発生し、その送信出力パワー設定値をテーブル113とテーブル119へ送る。テーブル113は、振幅歪み補償及び位相歪み補償用の補正値が予め書き込まれている。このテーブル113からは、パワー計算部41からの演算出力(Vi2+Vq2)とパワー設定部41から得る送信出力パワー設定値に応じた補正値が読み出され、複素積演算部111へ送られる。複素積演算部111は、ベースバンド信号I,Qとテーブル113から読み出された補正値との複素積を演算する。これにより、歪み補償部110からは、歪み補償されたデジタル直交ベースバンド信号I’,Q’が得られる。
この歪み補償されたデジタル直交ベースバンド信号I’,Q’は、D/Aコンバータ31,32にてそれぞれアナログ信号に変換される。これらD/Aコンバータ31,32からのアナログ直交ベースバンド信号は、ローパスフィルタ(LPF)33,34により低域濾波されて直交変調部60へ供給される。直交変調部60は、局部発振器(図示せず)からの局部発振信号を、LPF33,34が出力する低域濾波後のアナログ直交ベースバンド信号により変調する。これにより、直交変調部60からは高周波信号が出力される。当該直交変調により得られた高周波信号は、可変ゲインアンプ70へ送られる。
テーブル119には、可変ゲインアンプ70のゲイン制御電圧を決定するための制御データが予め書き込まれている。そして、このテーブル119からは、パワー設定部41による送信出力パワー設定値に応じた制御データが読み出される。当該制御データは、具体的にはD/Aコンバータの電圧コードであり、この制御データが図示しないD/Aコンバータにより制御電圧値に変換されて可変ゲインアンプ70へ送られる。これにより、可変ゲインアンプ70からは、送信電力制御がなされた高周波信号が出力されることになる。その後、当該高周波信号は、電力増幅器10によりさらに増幅され、アンテナ接続端子1を介して図示しないアンテナへ送られる。
次に、図16には、従来のプレディストーション法を実現するための他の構成例を示す。この図16も図15と同様に、送信電力制御を行う携帯電話端末の送信部に従来のプレディストータ法を適用した場合の構成例を示している。なお、図16において、図15と基本的に同じ構成には同一の符号を付してそれらの詳細な説明は省略する。
この図16の構成は、送信電力増幅器10の非線形歪みの振幅特性及び位相特性を近似する関数を、それぞれの実際の特性にフィットするように定義した上で、この関数の非線形性を打ち消すような逆関数を求め、その逆関数から歪み補償データを得るものである。
この図16の構成の歪み補償部120は、振幅逆関数演算部123と、位相逆関数演算部121と、複素積演算部122により構成されている。振幅逆関数演算部121と位相逆関数演算部123は、歪み補償前のデジタル直交ベースバンド信号I,Qとパワー設定部41による送信出力パワー設定値からそれぞれ振幅と位相の逆関数を演算する。振幅逆関数演算部121により求められた振幅逆関数の演算結果と、位相逆関数演算部123により求められた位相逆関数の演算結果は、複素積演算部122へ送られる。
複素積演算部122は、振幅逆関数の演算結果と位相逆関数の演算結果との複素積を演算する。これにより、歪み補償部120からは、歪み補償されたデジタル直交ベースバンド信号I’,Q’が得られる。以後の処理は、図15の構成例と同じである。
図15及び図16を用いて説明した従来のプレディストーション法による歪み補償方式によれば、複素積演算部での複素積演算を高速に行わなければならないため、歪み補償部110,120での演算量が膨大となる。また、歪み補償部110,120は、大規模な演算ロジックにより構成されるため、送信部の構成が大型化し、しかも消費電力が大きいという問題がある。
具体例として、W−CDMA(Wideband-Code Division Multiple Access)方式の携帯電話システムを挙げて説明する。直交ベースバンド信号I,Qは、例えば図18に示すような電圧時間波形をしている。そして、W−CDMA方式の携帯電話システムの場合、シンボル点は3.84Mcpsで変わり、例えば4倍サンプリングレートの15.36MHzの繰り返しで直交ベースバンド信号I,Qが生成される。したがって、図15や図16で説明した従来の歪み補償方式の場合、直交ベースバンド信号I,Qから上記複素積演算後の直交ベースバンド信号I’,Q’を求める処理を、15.36MHzの繰り返し(65nsの周期)で行う必要があり、非常に高速性が要求されることになる。
このため、本出願人は先に、特許文献1に示した歪み補償装置を提案した。図17は、特許文献1で提案した歪み補償装置の構成例である。その構成について説明する。
図17において、図示しないベースバンド処理部から端子54,55に供給されたデジタル直交ベースバンド信号I,Qは、歪み補償部(ベースバンド部)30内で、D/Aコンバータ31,32にてそれぞれアナログ信号に変換される。これらD/Aコンバータ31,32からのアナログ直交ベースバンド信号I,Qは、ローパスフィルタ(LPF)33,34により低域濾波されて第1の直交変調部60へ供給される。第1の直交変調部60は、局部発振器61からの局部発振信号(搬送波信号)を、低域濾波後のアナログ直交ベースバンド信号I,Qにより変調する。
即ち、局部発振器61からの搬送波信号を、位相シフタ60aで相互に位相がシフトした2つの搬送波信号とし、その2つの搬送波信号を乗算器60b,60cに供給して、アナログ直交ベースバンド信号I,Qで変調し、それぞれの変調信号を加算器60dで加算して、直交変調された高周波信号RF(以下、第1の高周波信号RFと表記する)が出力される。当該第1の高周波信号RFは、可変ゲインアンプ70へ送られる。
また、パワー設定部41には、可変ゲインアンプ70,71のゲイン及び移相器64での位相調整量を制御するための制御データが書き込まれている。各制御データは、D/Aコンバータ42,42a,42bを介して可変ゲインアンプ70,71及び移相器64に供給される。
可変ゲインアンプ70からは、送信電力制御がなされた高周波信号が出力されることになる。その後、当該高周波信号は、加算器19及びバンドパスフィルタ(BPF)80を介して電力増幅器10に供給されて、電力増幅器10によりさらに増幅され、端子1を介して図示しないアンテナへ送られる。
そして、歪み補償部30内で、電力増幅器10により発生する非線形歪みを補償するための歪み補償信号としての、直交ベースバンド信号Iim,Qimを生成させて、端子56,57に得るようにしてある。この歪み補償信号としての直交ベースバンド信号Iim,Qimは、次に示す演算で算出される。
まず、3次の非線形歪みを発生する電力増幅器10のモデルは、式(1)により表される。なお、式中のVoは出力信号電圧、Viは入力信号電圧、aは実数である。
Vo=a1*Vi+a2*Vi2+a3*Vi3・・・(1)
また、電力増幅器10への入力信号電圧Vi(t)は、直交ベースバンド信号のI,Qにより式(2)のように表される。なお、式中のωcは周波数、tは時間である。
Vi(t)=I(t)*cos(ωc・t)−Q(t)*sin(ωc・t) ・・・(2)
この式(2)を式(1)の電力増幅器10のモデル式に代入し、基本波成分Vofund(t)を抽出すると、式(3)が得られる。
Vofund(t)=a1*{I(t)*cos(ωc・t)−Q(t)*sin(ωc・t)}
+(3/4)*a3* {I(t)2+Q(t)2}*{I(t)*cos(ωc・t)−Q(t)*sin(ωc・t)} ・・・(3)
式(3)は、送信希望波信号としての直交ベースバンド信号のIとQを直交変調した成分と、電力増幅器10により発生する3次歪み成分に相当する{I(t) 2+Q(t) 2}*I(t)及び{I(t)2+Q(t)2}*Q(t)を直交変調した成分がa1とa3で決まる振幅比と位相差で加算されたものとして表されることがわかる。
すなわち、下記式(4)で表される直交ベースバンド信号Iim,Qimを直交変調した後の高周波信号RFimの振幅比(つまり電力比)と位相差を、予め電力増幅器10により発生する3次歪み成分(歪みの振幅成分と位相成分)をキャンセルできる最適な値に調整し、その振幅比と位相差の調整後の高周波信号RFimを、元の直交ベースバンド信号I,Qを直交変調した高周波信号RFへ加算すれば、電力増幅器10にて発生する歪み成分がキャンセルされることがわかる。
Iim={I(t)2+Q(t)2}*I(t)
Qim={I(t)2+Q(t)2}*Q(t) ・・・(4)
以上のようにして電力増幅器10により発生する歪み成分をキャンセルする信号を演算で生成させて、図17に示すように端子56,57に供給する。
このようにして生成された歪み成分をキャンセルする直交ベースバンド信号Iim,Qimは、D/Aコンバータ45,46にてそれぞれアナログ信号に変換される。これらD/Aコンバータ45,46からのアナログ直交ベースバンド信号Iim,Qimは、ローパスフィルタ47,48により低域濾波されて第2の直交変調部62へ供給される。当該第2の直交変調部62は、上記第1の直交変調部60とは独立して設けられており、局部発振器61からの局部発振信号(搬送波信号)を、直交ベースバンド信号Iim,Qimにより変調する。即ち、局部発振器61からの搬送波信号を、位相シフタ62aで相互に位相がシフトした2つの搬送波信号とし、その2つの搬送波信号を乗算器62b,62cに供給して、アナログ直交ベースバンド信号Iim,Qimで変調し、それぞれの変調信号を加算器62dで加算して、直交変調された高周波信号RFim(以下、第2の高周波信号RFimと表記する)が出力される。この第2の高周波信号RFimは、電力増幅器10にて発生する歪み成分(歪みの位相成分)をキャンセルするのに最適な位相となるように移相器64により移相され、さらに電力増幅器10にて発生する歪み成分(歪みの振幅成分)をキャンセルするのに最適な振幅となるように可変減衰器71により減衰された後、加算器19へ送られる。
加算器19では、可変減衰器71と移相器64により減衰及び移相された後の第2の高周波信号RFimと、第1の直交変調部60からの第1の高周波信号RFとを加算する。これにより、当該加算器19での加算後の高周波信号は、後段の電力増幅器10にて発生する歪み成分をキャンセルできる信号となる。その後、この加算器10での加算処理後の高周波信号は、前述した電力増幅器10へ送られる。
特許文献1には、図17に示した構成の送信回路についての記載がある。
特開2004−200767号公報(図1)
特開2002−9556号公報
特開2002−16653号公報
まず、具体的な実施の形態の例について説明する前に、本発明における歪み補償処理の原理について、数式を用いて説明する。本発明における歪み補償は、無線送信部の電力増幅器の非線形歪みを補償する場合において、送信する直交ベースバンド信号I,Qを用いて、歪み成分の直交ベースバンド信号Iim,Qimを生成し、送信する直交ベースバンド信号I,Qと歪み成分の直交ベースバンド信号Iim,Qimとを、適正な電力比及び位相差で加算して、歪み補償を行うようにしたものであり、歪み成分の直交ベースバンド信号Iim,Qimを生成させる基本的な原理は、既に説明した式(1)〜式(4)で説明したものとほぼ同じである。但し本例においては、後述するように、さらに別の処理を加えるようにしてある。ここで、再度、数式を用いて、本発明における歪み補償処理の原理について説明する。
まず、3次の非線形歪みを発生する電力増幅器のモデルは、式(1)により表される。なお、式中のVoは出力信号電圧、Viは入力信号電圧、aは実数である。
Vo=a1*Vi+a2*Vi2+a3*Vi3・・・(1)
また、非線形歪みを発生する電力増幅器への入力信号電圧Vi(t)は、直交ベースバンド信号のI,Qにより式(2)のように表される。なお、式中のωcは周波数、tは時間である。
Vi(t)=I(t)*cos(ωc・t)−Q(t)*sin(ωc・t) ・・・(2)
この式(2)を式(1)の電力増幅器のモデル式に代入し、基本波成分Vofund(t)を抽出すると、式(3)が得られる。
Vofund(t)=a1*{I(t)*cos(ωc・t)−Q(t)*sin(ωc・t)}+(3/4)*a3* {I(t)2+Q(t)2}*{I(t)*cos(ωc・t)−Q(t)*sin(ωc・t)} ・・・(3)
式(3)は、送信希望波信号としての直交ベースバンド信号のIとQを直交変調した成分と、電力増幅器により発生する3次歪み成分に相当する{I(t)2+Q(t)2}*I(t)及び{I(t)2+Q(t)2}*Q(t)を直交変調した成分がa1とa3で決まる振幅比と位相差で加算されたものとして表されることがわかる。
すなわち、{I(t) 2+Q(t) 2}*I(t)及び{I(t)2+Q(t)2}*Q(t)をキャンセルするような信号を、予め電力増幅器に入力すれば良い。ここまでは[背景技術]の欄で既に説明したものと同じであるが、本実施の形態においては、{I(t)2+Q(t)2}には、DC成分(直流成分)が含まれていることに着目して、そのDC成分を除去するようにしたものである。つまり、上述した式に示した{I(t)2+Q(t)2}には、DC成分が含まれているために、歪み補償信号として、{I(t)2+Q(t) 2}*I(t)と{I(t)2+Q(t)2}*Q(t)を入力したとすると、この信号にはI,Qの成分を含み、この成分が出力電力の大きな領域では新たな3次歪み成分を生成するため、歪み補償の効果が低くなる。そこで、本発明では、歪み補償信号の直交ベースバンド信号Iim,Qimを、次の式(5)により定義する。
Iim={I(t)2+Q(t)2−β}*I(t)
Qim={I(t)2+Q(t)2−β}*Q(t) ・・・(5)
ここで、βは{I(t)2+Q(t) 2}の平均DC成分である。
このベースバンド信号を直交変調した信号を、予め電力増幅器の3次歪み成分がキャンセルされるように、振幅と位相を適正に調整して、元の信号に加算して電力増幅器の入力とすれば、不要な歪み成分である隣接チャンネル漏洩電力をキャンセルし、しかも大電力領域で使用可能となる。
なお、式(5)では3次歪みをキャンセルする信号を示しているが、同様に5次歪みをキャンセルする信号は、次の式(6)又は式(7)により示すことができる。
Iim5={I(t)2+Q(t)2−β}2*I(t)
Qim5={I(t)2+Q(t)2−β}2*Q(t) ・・・(6)
Iim5=[{I(t)2+Q(t)2}2-γ]*I(t)
Qim5=[{I(t)2+Q(t)2}2-γ]*Q(t) ・・・(7)
ここで、送信信号の波形から見た歪み改善例について示すと、例えば直交ベースバンド信号I,Qで直交変調された希望波信号としては、図9に示すスペクトラム波形であるとする。ここで、図17に示した従来の処理構成による3次歪み成分としては、図10に示すスペクトラム波形となるのに対し、式(5)で算出処理した3次歪み成分としては、図11に示すようになり、図9に示す希望波信号を良好に取り出すことができる波形となっていることが判る。
また、図17に示した従来の処理構成による5次歪み成分としては、従来処理構成では図12に示すスペクトラム波形となるのに対し、式(6)で算出処理した5次歪み成分としては、図13に示すようになり、図9に示す希望波信号を良好に抽出できる波形となっていることが判る。
次に、このような原理で歪み補償が行われる各実施の形態について説明する。まず、本発明の第1の実施の形態を、図1〜図4を参照して説明する。本実施の形態では、電力増幅器の歪み成分の内で、3次歪み成分の補正を行うようにしたものであり、ベースバンド信号処理で補正するようにしたものである。この図1〜図4において、背景技術の欄で説明した図15〜図17に対応する部分には同一符号を付す。
図1は、上述した歪み補償方式によって送信部の電力増幅器の非線形歪みが補償される無線通信装置の一例を示し、デジタル携帯電話システムの電話端末の場合である。図1において、図示しないベースバンド処理部から端子54,55に供給されたデジタル直交ベースバンド信号I,Qは、歪み補償部30内で、加算器52,53により歪み補償信号を加算した後、D/Aコンバータ31,32にてそれぞれアナログ信号に変換される。これらD/Aコンバータ31,32からのアナログ直交ベースバンド信号I,Qは、ローパスフィルタ(LPF)33,34により低域濾波されて直交変調部60へ供給される。
直交変調部60では、局部発振器61からの局部発振信号(搬送波信号)を、低域濾波後のアナログ直交ベースバンド信号I,Qにより変調する。即ち、局部発振器61からの搬送波信号を、位相シフタ60aで相互に位相がシフトした2つの搬送波信号とし、その2つの搬送波信号を乗算器60b,60cに供給して、アナログ直交ベースバンド信号I,Qで変調し、それぞれの変調信号を加算器60dで加算して、直交変調された高周波信号RFが出力される。当該高周波信号RFは、可変ゲインアンプ70へ送られる。
可変ゲインアンプ70のゲインは、パワー設定部41の出力をD/Aコンバータ42で変換した信号により制御される。即ち、パワー設定部41は、可変ゲインアンプ70のゲインと、移相器50での移相量θと、可変減衰器51の減衰量αとを制御する制御データが書き込まれている。移相器50と可変減衰器51は、歪み補償部30内に設けた回路である。
可変ゲインアンプ70からは、送信電力制御がなされた高周波信号が出力されることになる。その後、当該高周波信号は、バンドパスフィルタ(BPF)80を介して電力増幅器10に供給されて、電力増幅器10によりさらに増幅され、端子1を介して図示しないアンテナへ送られる。
次に、歪み補償部30内で、電力増幅器10により発生する非線形歪みを補償するための歪み補償信号としての、直交ベースバンド信号Iim,Qimを生成させる構成について説明する。本例においては、歪み補償用の直交ベースバンド信号Iim,Qimは、端子54,55に供給されたデジタル直交ベースバンド信号I,Qと、メモリで構成された記憶部101に記憶された値βを使用した演算処理で生成させる。記憶部101に記憶された値βは、上述した式(5)で説明した{I(t) 2+Q(t) 2}のDC成分に対応した値であり、予めその平均DC成分に対応した一定の値を記憶させてある。
端子54,55に供給されたデジタル直交ベースバンド信号I,Qと記憶部101に記憶された値βを使用した演算処理構成について説明すると、式(5)に示したIim={I(t)2+Q(t)2−β}*I(t)と、Qim={I(t)2+Q(t)2−β}*Q(t)を算出する構成を具体化した構成としてある。
即ち、乗算器22で端子55に得られる直交ベースバンド信号Qを二乗して二乗信号I2を得、乗算器22で端子54に得られる直交ベースバンド信号Iを二乗して二乗信号Q2を得る。そして、両乗算信号I2,Q2を、加算器23で加算して、I2+Q2を得る。この加算器23の出力I2+Q2を減算器24に供給して、記憶部101に記憶された値βを減算し、{I2+Q2−β}を得る。
この減算器24の出力{I2+Q2−β}を、乗算器25に供給して、端子54に供給されたデジタル直交ベースバンド信号Iと乗算し、{I2+Q2−β}*Iを得、この乗算出力を端子56に供給する。また、減算器24の出力{I2+Q2−β}を、乗算器26に供給して、端子55に供給されたデジタル直交ベースバンド信号Qと乗算し、{I2+Q2−β}*Qを得、この乗算出力を端子57に供給する。このような演算処理構成としたことで、式(5)に示したIim={I(t)2+Q(t)2−β}*I(t)と、Qim={I(t)2+Q(t)2−β}*Q(t)が、端子56と端子57に得られるようになっている。
そして、端子56、57に得られるこれらの信号を、移相器50に供給して、パワー設定部41で指示された移相量θの移相処理を行い、さらに可変減衰器51で、パワー設定部41で指示された減衰量αの減衰処理を行う。そして、移相器50及び可変減衰器51で処理されたデジタル直交ベースバンド信号Iimを加算器52に供給して、端子54に得られるデジタル直交ベースバンド信号Iと加算し、同様に、移相器50及び可変減衰器51で処理されたデジタル直交ベースバンド信号Qimを加算器53に供給して、端子55に得られるデジタル直交ベースバンド信号Qと加算して、3次歪み成分をキャンセルさせる。移相器50での移相量θは、電力増幅器10にて発生する歪み成分(歪みの位相成分)をキャンセルするのに最適な位相となるような移相量である。同様に、可変減衰器51での減衰量αは、電力増幅器10にて発生する歪み成分(歪みの振幅成分)をキャンセルするのに最適な振幅とするための減衰量である。
このようにして歪み補償信号を生成する包絡線成分からDC成分を除去することで、直交ベースバンド信号の段階で複素積演算が不要で構成が簡単であるという、本方式が持つ効果がそのまま得られるとともに、図17に示した従来構成よりも小さい電力で同等の歪み補償効果が得られ、歪み補償回路(つまり歪み補償回路を備えた送信回路)の消費電力を低減させることができる。即ち、図2は、図1の構成での歪み補償(図中の本方式による補償特性)と、図17に示した従来構成による歪み補償(図中の従来方式による補償特性)と、いずれの歪み補償もしない場合とを比較した特性図である。縦軸のACPR(Adjacent-Channel Power Ratio)は歪みの量を示したもので、横軸は電力増幅器10の出力電力を示す。この図2から判るように、出力電力が高い領域で特に歪み補償の効果が従来に比べて大きくなっていることが判る。
図3は、本実施の形態による歪み補償処理を行うことで、電力増幅器10の電源電圧を低電圧化できることを示した図である。図3の縦軸はACPRであり、横軸は電源電圧である。図3に示した4つの特性の内で、上の2つは5MHz離調のACPRであり、白抜きの四角で示した特性が、本例の歪み補償処理を行った場合の例である。また、下の2つは10MHz離調のACPRであり、白抜きの三角で示した特性が、本例の歪み補償処理を行った場合の例である。いずれの周波数帯域であっても、歪み量を同じとした場合に、電源電圧が大幅に低電圧化し、電池を使用する場合の使用時間を延ばす事が可能であることが判る。
図4は、電力増幅器10の出力電力Pout毎の、可変ゲインアンプ70のゲイン(VGA Gain)と、可変減衰器51の減衰量α(α1)と、移相器50での移相量θ(θ1)の設定例を示した図である。この図4に示すように設定することで良好な調整が可能となる。なお、図4の値は一例であり、この例に限定されるものはない。例えば、図4の例では、出力パワーに対する可変減衰器51の減衰量αと移相器50での移相量θを、1対1で対応させるようにしたが、温度、周波数、電源電圧などの要因で、減衰量α及び移相量θを別々に設定させるようにしてもよい。なお、図4の減衰量α2及び移相量θ2は、後述する別の実施の形態の例を示したものである。
次に、本発明の第2の実施の形態を、図5を参照して説明する。本実施の形態では、電力増幅器の歪み成分の内で、3次歪み成分の補正を行うようにしたものであり、3次歪みのベースバンド信号成分で直交変調された信号を、原信号に加算して、歪みのキャンセルを行う構成としたものである。この図5において、背景技術の欄で説明した図15〜図17、及び第1の実施の形態で説明した図1〜図4に対応する部分には同一符号を付す。
図5において、図示しないベースバンド処理部から端子54,55に供給されたデジタル直交ベースバンド信号I,Qは、D/Aコンバータ31,32にてそれぞれアナログ信号に変換される。これらD/Aコンバータ31,32からのアナログ直交ベースバンド信号I,Qは、ローパスフィルタ(LPF)33,34により低域濾波されて第1の直交変調部60へ供給される。
第1の直交変調部60では、局部発振器61からの局部発振信号(搬送波信号)を、低域濾波後のアナログ直交ベースバンド信号I,Qにより変調して、直交変調された第1の高周波信号RFが出力される。当該第1の高周波信号RFは、可変ゲインアンプ70へ送られる。
可変ゲインアンプ70のゲインは、パワー設定部41の出力をD/Aコンバータ42で変換した信号により制御される。即ち、パワー設定部41には、可変ゲインアンプ70のゲインと、可変ゲインアンプ71のゲインと、移相器50での移相量θとを制御する制御データが書き込まれている。移相器50は、歪み補償部30内に設けた回路である。
可変ゲインアンプ70からは、送信電力制御がなされた第1の高周波信号が出力されることになる。この第1の高周波信号は、加算器19で第2の高周波信号と加算されて、歪み補償処理が行われた後、バンドパスフィルタ(BPF)80を介して電力増幅器10に供給されて、電力増幅器10によりさらに増幅され、端子1を介して図示しないアンテナへ送られる。
歪み補償部30内で、電力増幅器10により発生する非線形歪みを補償するための歪み補償信号としての、直交ベースバンド信号Iim,Qimを生成させる構成としては、端子54,55に供給されたデジタル直交ベースバンド信号I,Qと、メモリで構成された記憶部101に記憶された値βを使用した演算処理で生成させる。記憶部101に記憶された値βは、上述した式(5)で説明した{I(t) 2+Q(t) 2}の平均DC成分に対応した値であり、予めそのDC成分に対応した一定の値を記憶させてある。
端子54,55に供給されたデジタル直交ベースバンド信号I,Qと記憶部101に記憶された値βを使用した演算処理構成としては、乗算器21で端子55に得られる直交ベースバンド信号Qを二乗して二乗信号Q2を得、乗算器22で端子54に得られる直交ベースバンド信号Iを二乗して二乗信号I2を得る。そして、両乗算信号I2,Q2を、加算
器23で加算して、I2+Q2を得る。この加算器23の出力I2+Q2を減算器24に供給して、記憶部101に記憶された値βを減算し、{I2+Q2−β}を得る。
この減算器24の出力{I2+Q2−β}を、乗算器25に供給して、端子54に供給されたデジタル直交ベースバンド信号Iと乗算し、{I2+Q2−β}*Iを得、この乗算出力を端子56に供給する。また、減算器24の出力{I2+Q2−β}を、乗算器26に供給して、端子55に供給されたデジタル直交ベースバンド信号Qと乗算し、{I2+Q2−β}*Qを得、この乗算出力を端子57に供給する。このような演算処理構成としたことで、式(5)に示したIim={I(t)2+Q(t)2−β}*I(t)と、Qim={I(t)2+Q(t)2−β}*Q(t)が、端子56と端子57に得られるようになっている。
そして、端子56、57に得られるこれらの信号を、移相器50に供給して、パワー設定部41で指示された移相量θの移相処理を行う。そして、移相器50で処理されたデジタル直交ベースバンド信号Iim,Qimを、D/Aコンバータ45,46にてそれぞれアナログ信号に変換し、変換されたアナログ直交ベースバンド信号Iim,Qimを、ローパスフィルタ(LPF)47,48により低域濾波してから、第2の直交変調部62へ供給する。
第2の直交変調部62では、局部発振器61からの局部発振信号(搬送波信号)を、直交ベースバンド信号Iim,Qimにより変調する。即ち、局部発振器61からの搬送波信号を、位相シフタ62aで相互に位相がシフトした2つの搬送波信号とし、その2つの搬送波信号を乗算器62b,62cに供給して、アナログ直交ベースバンド信号Iim,Qimで変調し、それぞれの変調信号を加算器62dで加算して、直交変調された第2の高周波信号RFimが出力される。この第2の高周波信号RFimは、電力増幅器10にて発生する歪み成分(歪みの振幅成分)をキャンセルするのに最適な振幅となるように可変減衰器71により減衰された後、加算器19へ送られ、第1の高周波信号RFとの加算で、3次歪みのキャンセル処理が行われる。
図5に示した本実施の形態によると、直交変調された後での加算で、第1の実施の形態の場合と同様の良好な歪み補正処理が行える。
次に、本発明の第3の実施の形態を、図6を参照して説明する。本実施の形態では、電力増幅器10で発生する歪み成分の内で、3次歪み成分の補正だけでなく、5次歪み成分の補正についても行うようにしたものであり、ベースバンド信号処理で歪みのキャンセルを行う構成としたものである。この図6において、背景技術の欄で説明した図15〜図17、及び第1,第2の実施の形態で説明した図1〜図5に対応する部分には同一符号を付す。
図6に示すように、本例においては、歪み補償部30内で、3次歪み補償信号生成部90と、5次歪み補償信号生成部91とを設けて、それぞれで生成された3次歪み補償信号及び5次歪み補償信号を、加算器52,53でデジタル直交ベースバンド信号I,Qに加算するようにしたものである。加算器52,53より後段の後述については、図1と同一であり、説明を省略する。
3次歪み補償信号生成部90については、図1に示した歪み補償部30内で3次歪み補償信号を生成させる構成と同じである。即ち、乗算器21で端子55に得られる直交ベースバンド信号Qを二乗して二乗信号Q2を得、乗算器22で端子54に得られる直交ベースバンド信号Iを二乗して二乗信号I2を得る。そして、両乗算信号I2,Q2を、加算器23で加算して、I2+Q2を得る。この加算器23の出力I2+Q2を減算器24に供給して、記憶部101に記憶された値βを減算し、{I2+Q2−β}を得る。
この減算器24の出力{I2+Q2−β}を、乗算器25に供給して、端子54に供給されたデジタル直交ベースバンド信号Iと乗算し、{I2+Q2−β}*Iを得、この乗算出力を端子56に供給する。また、減算器24の出力{I2+Q2−β}を、乗算器26に供給して、端子55に供給されたデジタル直交ベースバンド信号Qと乗算し、{I2+Q2−β}*Qを得、この乗算出力を端子57に供給する。このような演算処理構成としたことで、式(5)に示したIim={I(t)2+Q(t)2−β}*I(t)と、Qim={I(t)2+Q(t)2−β}*Q(t)が、端子56と端子57に得られるようになっている。
端子56、57に得られるこれらの信号を、第1の移相器50に供給して、パワー設定部41で指示された移相量θ1の移相処理を行い、さらに第1の可変減衰器51で、パワー設定部41で指示された減衰量α1の減衰処理を行う。移相器50及び可変減衰器51で処理されたデジタル直交ベースバンド信号Iimを加算器52に供給して、端子54に得られるデジタル直交ベースバンド信号Iと加算し、同様に、移相器50及び可変減衰器51で処理されたデジタル直交ベースバンド信号Qimを加算器53に供給して、端子55に得られるデジタル直交ベースバンド信号Qと加算して、3次歪み成分をキャンセルさせる。移相器50での移相量θ1は、電力増幅器10にて発生する3次歪み成分(歪みの位相成分)をキャンセルするのに最適な位相となるような移相量である。同様に、可変減衰器51での減衰量α1は、電力増幅器10にて発生する3次歪み成分(歪みの振幅成分)をキャンセルするのに最適な振幅とするための減衰量である。
5次歪み補償信号生成部91としては、減算器24の出力{I2+Q2-β}を乗算器27に供給して二乗し、二乗信号(I2+Q2-β)2を得る。この二乗信号(I2+Q2-β)2をさらに乗算器28に供給し、端子54に得られるデジタル直交ベースバンド信号Iと加算して、5次歪み成分のデジタル直交ベースバンド信号Iim5を端子93に得る。また、二乗信号(I2+Q2-β)2を乗算器29に供給し、端子55に得られるデジタル直交ベースバンド信号Qと加算して、5次歪み成分のデジタル直交ベースバンド信号Qim5を端子92に得る。
端子92、93に得られるこれらの信号を、第2の移相器58に供給して、パワー設定部41で指示された移相量θ2の移相処理を行い、さらに第2の可変減衰器59で、パワー設定部41で指示された減衰量α2の減衰処理を行う。そして、移相器58及び可変減衰器59で処理されたデジタル直交ベースバンド信号Iim5を加算器52に供給して、端子54に得られるデジタル直交ベースバンド信号Iと加算し、同様に、移相器58及び可変減衰器59で処理されたデジタル直交ベースバンド信号Qim5を加算器53に供給して、端子55に得られるデジタル直交ベースバンド信号Qと加算して、5次歪み成分をキャンセルさせる。移相器58での移相量θ2は、電力増幅器10にて発生する5次歪み成分(歪みの位相成分)をキャンセルするのに最適な位相となるような移相量である。同様に、可変減衰器59での減衰量α2は、電力増幅器10にて発生する5次歪み成分(歪みの振幅成分)をキャンセルするのに最適な振幅とするための減衰量である。
なお、各移相器50,58での移相量θ1,θ2と各可変減衰器51,59での減衰量α1,α2は、可変ゲインアンプ70のゲインとともに電力増幅器10での出力電力に対応して設定され、例えば図4に示すように設定される。この例の場合にも、温度、周波数、電源電圧などの要因で、減衰量α1,α2及び移相量θ1,θ2を別々に設定させるようにしてもよい。
この図6に示した構成としたことで、電力増幅器10で発生する歪み成分の内で、3次歪み成分の補正だけでなく、5次歪み成分の補正についても行われ、より良好な歪み補償が行える。但し、本実施の形態の場合には、5次歪み成分については、(I2+Q2)2成分のDC成分を完全には除去していないが、5次歪み成分は3次歪み成分に比べて、それ程大きなレベルの歪み成分ではなく、実用上十分な歪み補償が行える。
次に、本発明の第4の実施の形態を、図7を参照して説明する。本実施の形態では、電力増幅器10で発生する歪み成分の内で、3次歪み成分の補正だけでなく、5次歪み成分の補正についても行う構成し、その5次歪み成分についても、(I2+Q2)2成分のDC成分を除去してから、キャンセルさせる構成としたものであり、ベースバンド信号処理で歪みのキャンセルを行う構成としたものである。この図7において、背景技術の欄で説明した図15〜図17、及び第1,第2,第3の実施の形態で説明した図1〜図6に対応する部分には同一符号を付す。
図7に示すように、本例においては、歪み補償部30内で、3次歪み補償信号生成部90と、5次歪み補償信号生成部91とを設けて、それぞれで生成された3次歪み補償信号及び5次歪み補償信号を、加算器52,53でデジタル直交ベースバンド信号I,Qに加算するようにしたものである。加算器52,53より後段の後述については、図1と同一であり、説明を省略する。
3次歪み補償信号生成部90については、図6に示した3次歪み補償信号生成部90と同じである。そして、5次歪み補償信号生成部91としては、加算器23の出力
I2+Q2を乗算器27に供給して二乗し、二乗信号(I2+Q2)2を得る。この二乗信号(I2+Q2)2を、減算器103に供給して、メモリで構成された記憶部102に記憶された(I2+Q2)2成分のDC成分に相当する信号γを減算する。この信号γは、既に示した式(7)に示したγであり、予め設定された一定値を記憶させてある。
この記憶部102に記憶されたDC成分γを減算器103で減算することで、式(7)に示した5次歪み成分のDC成分γの減算処理が行われる。この減算器23の出力を乗算器28に供給し、端子54に得られるデジタル直交ベースバンド信号Iと乗算して、5次歪み成分のデジタル直交ベースバンド信号Iim5を端子93に得る。また、減算器103の出力を乗算器29に供給し、端子55に得られるデジタル直交ベースバンド信号Qと乗算して、5次歪み成分のデジタル直交ベースバンド信号Qim5を端子92に得る。
端子92、93に得られるこれらの信号を、第2の移相器58に供給して、パワー設定部41で指示された移相量θ2の移相処理を行い、さらに第2の可変減衰器59で、パワー設定部41で指示された減衰量α2の減衰処理を行う。そして、移相器58及び可変減衰器59で処理されたデジタル直交ベースバンド信号Iim5を加算器52に供給して、端子54に得られるデジタル直交ベースバンド信号Iと加算し、同様に、移相器58及び可変減衰器59で処理されたデジタル直交ベースバンド信号Qim5を加算器53に供給して、端子55に得られるデジタル直交ベースバンド信号Qと加算して、5次歪み成分をキャンセルさせる。移相器58での移相量θ2は、電力増幅器10にて発生する5次歪み成分(歪みの位相成分)をキャンセルするのに最適な位相となるような移相量である。同様に、可変減衰器59での減衰量α2は、電力増幅器10にて発生する5次歪み成分(歪みの振幅成分)をキャンセルするのに最適な振幅とするための減衰量である。
この図7に示した構成としたことで、電力増幅器10で発生する歪み成分の内で、3次歪み成分の補正だけでなく、5次歪み成分の補正についても行われ、より良好な歪み補償が行える。しかも本実施の形態の場合には、5次歪み成分についても歪み成分のDC成分の除去が行われ、より良好な歪み補償が行える。
次に、本発明の第5の実施の形態を、図8を参照して説明する。本実施の形態では、電力増幅器10で発生する歪み成分の内で、3次歪み成分の補正だけでなく、5次歪み成分の補正についても行う構成し、その5次歪み成分についても、(I2+Q2)2成分のDC成分を除去してから、キャンセルさせる構成としたものであり、直交変調された後での加算で歪みのキャンセルを行う構成としたものである。この図8において、背景技術の欄で説明した図15〜図17、及び第1〜第4の実施の形態で説明した図1〜図7に対応する部分には同一符号を付す。
図8に示すように、本例においては、歪み補償部30内で、3次歪み補償信号生成部90と、5次歪み補償信号生成部91とを設けて、それぞれで生成された3次歪み補償信号と5次歪み補償信号を、加算器104,105で加算した後、これらの加算信号で直交変調された第2の高周波信号を、加算器19で、デジタル直交ベースバンド信号I,Qで直交変調された第1の高周波信号と加算するようにしたものである。第1及び第2の直交変調部60及び62で第1及び第2の高周波信号を得る変調部65の構成及びその後の両信号を加算して送信処理する構成については、既に図2に示した構成と同一であり、説明を省略する。
3次歪み補償信号生成部90については、図7に示した3次歪み補償信号生成部90から可変減衰器51を省略した構成としてある。5次歪み補償信号生成部91については、図7に示した5次歪み補償信号生成部91と同一の構成である。
3次歪み補償信号生成部90で生成された3次歪み成分と、5次歪み補償信号生成部91で生成された5次歪み成分とを、加算器104,105に供給して加算し、デジタル直交ベースバンド信号Iim+Iim5,Qim+Qim5を、D/Aコンバータ45,46にてそれぞれアナログ信号に変換し、変換されたアナログ直交ベースバンド信号Iim+Iim5,Qim+Qim5を、ローパスフィルタ(LPF)47,48により低域濾波してから、第2の直交変調部62へ供給する。
図8に示した本実施の形態によると、直交変調された後での加算で、第4の実施の形態の場合と同様の良好な歪み補正処理が行える。
次に、本発明のさらに第6の実施の形態について説明する。
図22は、図1に示した無線通信装置にパワー設定部41に関連する、より具体的な構成例を示した図である。この図から分かるように、図1に示したパワー設定部41は広義のパワー設定部である。本例における広義のパワー設定部41は補償係数設定テーブル40と狭義のパワー設定部41aを含む。
図1において、説明したとおり、この装置では、デジタル直交ベースバンド信号I,Qを加算器52,53のそれぞれの一方の入力端子に入力するとともに、これらのI,Qを基に生成した歪み成分のデジタル直交ベースバンド信号Iim,Qimに対して移相器50で位相を変え可変減衰器51でそれらの大きさを調整した信号を加算器52,53のそれぞれの他方の入力端子に入力し、I+Iim、Q+Qimの加算を行う。加算器52,53の出力はD/Aコンバータ31,32に供給されて、それぞれアナログ信号に変換され、そのアナログ直交ベースバンド信号が、ローパスフィルタ(LPF)33,34を通じて直交変調部60に供給されて、直交変調部60から局部発振器61の周波数で直交変調された高周波信号が得られる。無線通信装置の出力パワーによらずI,Qの平均パワーは一定となっている。パワー設定部41がD/Aコンバータ42を介して設定する可変ゲインアンプ70のゲイン変化によって無線通信装置の出力パワーが変わる。このようにして、希望信号としてのIとQを直交変調した信号と、補償用信号としてのIim,Qimを直交変調した信号とを加算し、電力増幅器10で増幅する。これにより、電力増幅器10で発生した3次歪み成分が補償用信号として生成した歪み成分で打ち消され、結果として電力増幅器の歪みが補償される。
ここで可変減衰器51の減衰量α及び移相器50の移相量θの設定値は、例えば出力パワーに対してあらかじめ記憶された値を格納した補償係数設定テーブル40を参照して決定される。さらに、温度、周波数、電源電圧に対しても減衰量α及び移相量θを対応付けする必要がある。この様な出力パワー、温度、周波数、電源電圧に対する補償係数の対応は参照テーブルとして無線通信装置のメモリに格納しておく必要がある。
図22の構成では、歪み成分の直交ベースバンド信号Iim ,Qimを上記式(5)に従って生成する。この式(5)によりあらかじめ電力増幅器の3次歪み成分がキャンセルされるように、歪み成分直交ベースバンド信号の振幅と位相を適度に調整して元の信号に加算し、この信号で直交変調した信号を電力増幅器に入力すれば、電力増幅器で発生する3次歪みが、ベースバンド部で加算した3次歪み成分によりキャンセルされ、不要な歪み成分である隣接チャネル漏洩電力が低減される。さらにこの構成では、直流成分βの処理を行うことで、加算する3次歪み成分から希望波の成分が除かれる。その結果、βの処理を行わない(帯域内の補償を含む)プレディストーション方式の歪み補償に比べて大電力領域での歪み補償効果が得られる。
図23は、直交ベースバンド信号IとQで直交変調した希望波高周波信号のスペクトラム波形を示している。この図は図9に示したものと同様であるが、縦横軸に数値を示した具体例である。図24は、式(5)でβ=0として生成し、帯域内の補償を含む(特許文献1参照)歪み成分直交ベースバンド信号を使用した、3次歪み成分信号のスペクトラム波形である。この図は図10に示したものと同様であるが、縦横軸に数値を示した具体例である。図25は、式(5)にて生成した歪み成分直交ベースバンド信号を使用した、3次歪み成分信号のスペクトラム波形である。この図は図11に示したものと同様であるが、縦横軸に数値を示した具体例である。
このように帯域内の補償を含む歪み成分信号のスペクトラム(図24)には、3次歪み成分より10dB程度大きな希望波帯域信号が存在し、これにより利得圧縮を改善する等の帯域内の補償を行っている。
図28はW−CDMA携帯端末用電力増幅器出力スペクトラムの例を示している。W−CDMA端末の送信帯域幅は5MHzとなっている。図28は2つのスペクトラムを重ねて表示している。そのうち上側の波形は電力増幅器に歪み補償を行う前の非線形歪みが大きく帯域外漏洩電力が高い状態を示し、下側の波形は図22の歪み補償によって非線形歪みを低減し帯域外漏洩電力が15dB程低減した例を示している。携帯端末において歪み補償を使用する目的は、図28の様に帯域外漏洩電力を低減し規格内に収めるためであって、電力増幅器の利得圧縮を改善するためではない。
上述した図14のグラフから、電力増幅器の利得圧縮が理解される。電力増幅器の振幅特性G1として、ある程度のレベルまでは入力電力と出力電力とが直線的に変化し、理想的な振幅特性G0とほぼ一致するが、あるレベルを越えると非線形特性となっているとする。このとき、例えば入力電力レベルがAであるとすると、その理想的な出力電力レベルはB’であるが、実際にはそのままでは振幅特性G1の非線形性により出力レベルがBとなってしまう。このように入力電力レベルが小さい時の電力増幅器の利得はG0の傾きと同じであるが、入力電力レベルが増えるに従い利得はG1の傾きに示されるように下がっていく。例えば入力電力レベルがAの時の利得圧縮は(B’−B)として表される。
帯域内を補償するプレディストーション方式の歪み補償では、増幅器の入力がレベルAからレベルA’となるようにプレディストーション信号を入力に加算することで、出力が、歪みのない理想的な出力電力レベルB’に補正されるものである。
一方、図22に示したような帯域内を補償しないプレディストーション方式の歪み補償では、歪み補償によって帯域外漏洩電力を低減した後も、増幅器の利得圧縮は変わらず出力レベルがBのままである。
図26は、図22に示した装置の歪み補償で使用されうる、出力パワー(Pout)に対する振幅調整値(ATT)及び位相調整値(Phase)を定めた補償係数参照テーブルの例を示している。この図では、参照テーブルの入力値と出力値が1対1に対応付けられた様子を、便宜上、直交軸X対Yのグラフとして表わしている。図26(a)の参照テーブルは、電源電圧Vdd=3.5Vのときの出力パワーに対応する振幅調整値(ATT)を定めている。図26(b)の参照テーブルは、電源電圧Vdd=3.5Vのときの出力パワーに対応する位相調整値(Phase)を定めている。ここではVdd=3.5Vについてのみ示しているが、採りうるすべての異なる電源電圧Vdd(所定単位量毎)の値に対して、それぞれ別個の振幅調整値及び位相調整値の補償係数参照テーブルが用意される。
同様に、図27(a)(b)は、図22の装置構成の歪み補償で使用する、電源電圧Vddに対する振幅調整値(ATT)及び位相調整値(Phase)を定めた補償係数参照テーブルの例を示している。携帯電話端末では電池電圧をそのまま電力増幅器の電源電圧としているため、電池の放電に従って低下する電源電圧に合わせて図27の参照テーブルを参照し補償係数を変えていく必要がある。図27(a)(b)の参照テーブルは、それぞれ、出力パワーPo=25.5dBmのときの電源電圧Vddに対する振幅調整値(ATT)及び位相調整値(Phase)を定めている。この場合にも、採りうる全ての異なる出力パワーPoの値に対して、それぞれ別個の振幅調整値及び位相調整値の補償係数参照テーブルが用意される。
図示しないが、出力パワーや電源電圧のほか、温度や周波数についても同様の参照テーブルが用意される。
補償係数設定テーブル44は、実際には、上記のような出力パワー、電源電圧、温度、周波数等の幾つもの状態(入力パラメータ)のあらゆる組み合わせに対して、適正な振幅調整値(減衰量α)と位相調整値(移相量θ)を対応付けたデータを、無線通信装置内のメモリに格納したものである。
このように、図22の構成におけるプレディストーション方式の歪み補償装置では、電力増幅器の非線形歪みの特性を変化させる要因である出力パワー、温度、周波数、電源電圧等に対するいくつもの入力パラメータの組み合わせに対応したデータテーブルである補償係数参照テーブルを持つ必要がある。しかし、そのためには端末上に大容量のメモリを用意する必要がある。更に端末の幾つもの状態(出力パワー、温度、周波数、電源電圧等)を検知し、補償係数を逐次変更する必要があり、処理が煩雑になる。また端末製造時にこのデータテーブルを作成するための調整工程に掛かる時間が大きくなる。
本実施の形態では、増幅器出力での非線形歪みを低減するプレディストーション方式の歪み補償装置において、データテーブル構成を簡略化するとともに、高速の歪み補償を行えるようにすることを企図する。
図19は、本発明の第6の実施の形態に係る歪み補償装置の構成例を示している。これは、本発明の歪み補償方式によって送信部の電力増幅器の非線形歪みが補償される無線通信装置の一例としての、デジタル携帯電話システムの電話端末に利用される歪み補償装置である。図19において、図22に示した要素と同様の要素には同じ参照符号を付してある。
この装置では、入力端子54,55から入力されたデジタル直交ベースバンド信号I,Qを加算器52,53のそれぞれの一方の入力端子に入力するとともに、これらのI,Qを基に生成した歪み成分のデジタル直交ベースバンド信号Iim,Qimに対して移相器50で位相を変え可変減衰器51でそれらの大きさを調整した信号を加算器52,53のそれぞれの他方の入力端子に入力し、I+Iim,Q+Qimの加算を行う。
図32に歪み信号生成部43の構成を示す。歪み信号生成部43は記憶部110と、この記憶された値β及びデジタル直交ベースバンド信号I,Qに対して、式(1)の演算を行う演算部100により構成される。演算部100は、乗算器22,21,25,26、及び加算器23および減算器24により構成される。歪み成分信号(I2+Q2)*Iおよび(I2+Q2)*Qは、包絡線成分(I2+Q2)と基本波信号成分IおよびQとを乗算して得られる。包絡線成分は、直流成分を含み、且つ帯域を持った信号である。包絡線成分に含まれた直流成分と、基本波信号成分IおよびQとが乗算される結果、歪み成分信号に基本波信号成分を含んでしまう。そこで、「包絡線成分の直流成分β」を除去する(I2+Q2-β)ことにより、歪み成分信号から基本波信号成分(β*Iおよびβ*Q)を除去している。
図19に戻り、加算器52,53の出力はD/Aコンバータ31,32に供給され、それぞれアナログ信号に変換され、そのアナログ直交ベースバンド信号が、ローパスフィルタ33,34を通じて直交変調部60に供給されて、直交変調部60から局部発振器61の周波数で直交変調された高周波信号が得られる。この高周波信号は帯域通過フィルタ80で不要な雑音を除去され、電力増幅器10で増幅され、方向性結合器11を経て、出力端子1に出力される。
入力端子54,55に入力されるデジタル直交ベースバンド信号I,Qの平均パワーは無線通信装置の出力パワーによらず一定となっている。このようにして、希望信号としてのIとQを直交変調した信号と、補償用信号としてのIim,Qim(振幅及び位相を調整済み)を直交変調した信号とを加算し、電力増幅器10で増幅する。この際、電力増幅器10で発生した3次歪み成分が補償用信号として生成した歪み成分で打ち消され、結果として電力増幅器の歪みが補償される。可変減衰器51のαa及び移相器50の移相量θの設定値は、例えば補償係数設定テーブル44で決定される。補償係数設定テーブル44の構成については後述する。
図19の構成において、歪み信号生成部43により、歪み成分の直交ベースバンド信号Iim ,Qimを、
Iim={I(t)2+Q(t)2−β}*I(t)
Qim={I(t)2+Q(t)2−β}*Q(t)・・・(5)
として生成する。ここで、βは{I(t)2+Q(t)2}の平均直流(DC)成分である。なお、この式(5)は上述した同式を再掲したものである。
このように、あらかじめ電力増幅器の3次歪み成分がキャンセルされるように、歪み成分直交ベースバンド信号Iim,Qimの振幅と位相を適度に調整して元の信号I,Qに加算し、この信号で搬送波信号を直交変調した信号を電力増幅器に入力すれば、電力増幅器で発生する3次歪みと、ベースバンド部で加算した3次歪み成分とがキャンセルされ、不要な歪み成分である隣接チャネル漏洩電力が低減される。さらにこの構成は、歪み信号生成部43内で直流成分βの処理を行うことで、加算する3次歪み成分から希望波の成分が除かれ、βの処理を行わない(帯域内の補償を含む)プレディストーション方式の歪み補償に比べて大電力領域での歪み補償効果が得られる。
電力増幅器10の出力は方向性結合器11を経由して送信出力端子1に供給される。電力増幅器出力の一部は方向性結合器11の結合端子からエンベロープ検出器12に供給される。エンベロープ検出器12は、例えばダイオードとコンデンサで構成され、高周波電圧を平滑し、電力増幅器出力電力の瞬時変動に応じたエンベロープ(包絡線)電圧を出力する。このエンベロープ電圧は、本発明における「出力包絡線成分信号」を構成し、電力増幅器の利得圧縮が大きいほど振幅が制限され理想的なエンベロープ電圧との差異が大きくなる。
一方、エンベロープ生成部85は、デジタル直交ベースバンド信号I,Qからの演算により理想的なエンベロープアナログ電圧(基準包絡線成分信号)を生成する。比較器86はエンベロープ生成部85の出力電圧とを比較し、両者の振幅差に応じた電圧を出力する。ピーク検出器87は比較器86出力電圧のピーク電圧を検出し、A/Dコンバータ88はこのピーク電圧をデジタイズして出力する。
なお、エンベロープ生成部85は、歪み信号生成部43と別個の要素として示しているが、包絡線成分(I2+Q2)は歪み信号生成部43においても生成されるので、基準包絡線成分信号として歪み信号生成部43で生成されたものを利用するようにしてもよい。
補償係数設定テーブル44には、エンベロープ差電圧に対応した歪み補償用補償係数としての振幅調整値(減衰量α)と位相調整値(移相量θ)が記憶されており、A/Dコンバータ88からの入力値に応じて、可変減衰器51の振幅調整値(減衰量α)と移相器50の位相調整値(移相量θ)とを決定する。図22の装置構成における補償係数設定テーブル40が多数の入力パラメータの組み合わせに対して振幅調整値と位相調整値とを設定したのに対し、補償係数設定テーブル44では単一の入力パラメータに対して振幅調整値と位相調整値とを設定すればよいので、このテーブルに必要なメモリ容量は大幅に低減される。また、多数の入力パラメータの検出は不要となり、代わりに二つのエンベロープを検出すれば足りる。また、図19に破線ブロックで示したベースバンド部30aは集積化が容易であり、図22のベースバンド部30に比べ何ら部品を追加することなく実現可能である。
式(5)の処理により得られた補償信号には帯域内成分が存在しないため、帯域内の補償が行われない。このため歪み補償前後で比較器86の出力電圧の変化が無く、よって従来のエンベロープを利用した技術(特許文献2,3)のように収束に時間を要することがなく、安定で高速な動作が得られる。
本実施の形態によれば、電力増幅器の出力電力が一定であっても、温度変動、電源電圧変動などで電力増幅器の利得圧縮量が変化した場合、あるいは無線通信端末の周波数チャネルが変更されて電力増幅器の利得圧縮量が変化した場合には、エンベロープ検出器12に出力される電圧振幅が変化し、新たなエンベロープ差電圧に対応した歪み補償用補償係数が呼び出され、可変減衰器51と移相器50に再設定されることで、常に最適な補償が可能となる。
図30は、デジタル直交ベースバンド信号I,Qを演算して生成した理想的なエンベロープ電圧波形(エンベロープ生成部85の出力に対応)と、電力増幅器出力を検波したエンベロープ電圧波形(エンベロープ検出器12の出力に対応)の例を示している。電力増幅器の利得圧縮のために後者のエンベロープ電圧波形の振幅が制限され振幅エラーが発生している様子が示されている。図19の比較器86はこの両者の振幅差(振幅エラー)を検出し、ピーク検出器87がこの振幅エラーのピーク電圧を出力する。
図20は、本発明の第7の実施の形態に係る歪み補償装置の構成例を示している。これは、送信パワーを可変できるデジタル携帯電話システムの電話端末に適用して好適な例である。図19に示した要素と同様の要素には同じ参照符号を付して、重複した説明を省略する。
図20の構成において、無線通信装置の送信パワーによらずI,Qの平均パワーは一定となっており、パワー設定部41が設定する可変ゲインアンプ70のゲイン変化によって無線通信装置の出力パワーが変わる。
電力増幅器10の出力は方向性結合器11を経由して送信出力端子1に供給される。電力増幅器出力の一部は方向性結合器11の結合端子からエンベロープ検出器12に供給される。エンベロープ検出器12は、例えばダイオードとコンデンサで構成され、高周波電圧を平滑し、電力増幅器出力電力の瞬時変動に応じたエンベロープ(包絡線)電圧を出力する。このエンベロープ電圧は、送信パワー検出部16と比較部49とに入力される。エンベロープ電圧には送信パワーに応じた直流電圧が含まれており、送信パワー検出部16は所望の送信パワーとなるようにパワー設定部41の出力電圧を制御する。この様な送信パワーの制御は、後述する図31のような一般的な送信装置に使用されており、従ってエンベロープ検出器12も一般的な送信装置に使用されているものを利用できる。
エンベロープ検出器12から得られるエンベロープ電圧は、上記のように送信パワーに応じて変化するが、そのエンベロープ電圧の平均値と、エンベロープ生成部85の出力の平均値(それぞれLPF49a,49bで生成)が等しくなるように、エンベロープ検出器12の出力は、LPF49a,49bの出力を比較する比較器49cの出力に基づいて可変ゲインアンプ49dでその電圧を制御される。比較部49は、さらに比較器49eで、エンベロープ生成部85の出力と可変ゲインアンプ49dの出力とを比較し、両者の振幅差に応じた電圧を出力する。ピーク検出器87は比較部49の出力電圧のピーク電圧を検出し、A/Dコンバータ88はこのピーク電圧をデジタイズして出力する。図19の場合と同様に、電力増幅器の利得圧縮が大きいほど振幅が制限され理想的なエンベロープ電圧との差異が大きくなる。
比較部49はベースバンド部30bと一緒に集積化することが可能であり、図22のベースバンド部に比べ何ら部品を追加することなく実現可能である。
図29は、振幅エラーのピーク電圧に対する補償係数を求めるための補償係数設定テーブルの例を説明するためのグラフである。上述したように、端末が設定した出力パワーや電源電圧の状態、温度、周波数などによって電力増幅器の利得圧縮の程度が変化するが、この振幅エラーのピーク電圧がある値になったときの振幅エラーのピーク電圧と、これに対応する振幅調整値(減衰量α)及び位相調整値(移相量θ)とを1対1に対応付け、端末のメモリに格納しておく。この図29のグラフは、出力パワーに対する補償係数設定テーブルと電源電圧に対する補償係数設定テーブルの2種類のテーブルを、振幅エラーのピーク電圧に対する補償係数を求めるための補償係数設定テーブルの形に変換してプロットしており、これらの2つの曲線が良く一致している事を示している。つまり異種の2つのテーブルを、振幅エラーのピーク電圧に対する補償係数設定テーブルの形に変換した事で、複数のテーブルが1種類のテーブルで制御可能となったことを示している。温度、周波数についても同様である。
また、特に図示しないが、位相調整値についても同様である。
図21は、本発明の第8の実施の形態に係る歪み補償装置の構成例を示している。この実施の形態では、エンベロープ生成部85の代わりにエンベロープ検出器14を使用した例である。電力増幅器10の入力では歪みが少ないため、電力増幅器10よりも前段の信号のエンベロープを基準エンベロープとして使用すれば、図19と同様の効果が得られる。そのため、電力増幅器10の前段に方向性結合器15を設け、ここからエンベロープ検出器14の入力信号を得ている。このベースバンド部30cではベースバンド部30a、30bで使用されていたエンベロープ生成部85を削除することができる。エンベロープ検出器14の出力信号は比較器86の一方の入力端に入力される。
図31は一般的なデジタル携帯電話システムの電話端末の送信部の構成例を示している。この図において、図19〜図21に示した要素と同様の要素には同じ参照符号を付してある。図19〜図21では、図31の構成に対して、各実施の形態における付加的な要素が追加されていることが分かる。
図31のシンボルデータ(Symbol Data)(I)38,シンボルデータ(Q)39は、例えばW−CDMA方式携帯電話の場合にはシンボル点が3.84Mcps周期の拡散信号で拡散された直交データである。これらのシンボルデータは、それぞれ、符号間干渉を発生しないように帯域を制限するロールオフフィルタ35,36に入力され、例えば4倍サンプリングレートの15.36MHzの周期で離散的値を持つデジタル直交ベースバンド信号I,Q信号を生成する。このI,Q信号は、それぞれ、D/Aコンバータ31,32に供給されて、それぞれアナログ信号に変換される。これらのアナログ直交ベースバンド信号は、さらに、ローパスフィルタ33,34を介して直交変調部60に供給されて、直交変調部60から局部発振器61の周波数で直交変調された高周波信号が得られ、可変ゲインアンプ70でパワー調整され、帯域通過フィルタ80で不要な雑音が除去され、電力増幅器10で所望の電力まで増幅される。ここでは図示していないが、実際には送信部出力1とアンテナ間にはアイソレータ、デュープレクサ、アンテナスイッチ等を介してアンテナに送信電力を供給する。送信部の出力パワーによらずI,Q信号の平均パワーは一定であるが、パワー設定部41がD/Aコンバータ42を介して設定する可変ゲインアンプ70のゲイン変化によって送信部の出力パワーが変わる。
電力増幅器10の出力の一部は方向性結合器11の結合端子から検波器12aに供給される。検波器12aは、例えばダイオードとコンデンサで構成される。検波器12aの出力には送信パワーに応じた直流電圧が含まれており、送信パワー検出部16はこの直流電圧を基準電圧と比較する事で、所望の送信パワーとなるようにパワー設定部41の出力電圧を制御する。図19〜図21に示したエンベロープ検出器12としては、このような検波器12aを利用することができる。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記で言及した以外にも種々の変形、変更を行うことが可能である。例えば、上記説明では、デジタル携帯電話システムの電話端末の送信部に適用した例を説明したが、他の無線通信器に適用してもよい。例えば、デジタル携帯電話システムの基地局側に適用してもよい。あるいは、携帯電話システム以外のシステム用の端末の送信部に適用してもよい。第6〜第8の実施の形態は、第1の実施の形態に対応するもののみを示したが、第2〜第5の実施の形態にも同様に対応可能である。
1…送信信号出力端子、10…電力増幅器、11…方向性結合器、12…エンベロープ検出器、12a…検波器、14…エンベロープ検出器、15…方向性結合器、16…送信パワー検出部、19…加算器、22,21,25,26…乗算器、23…加算器、24…減算器、30,30a,30b,30c…ベースバンド部(歪み補償部)、31,32…D/Aコンバータ、33,34…ローパスフィルタ、35,36…ロールオフフィルタ、40…補償係数設定テーブル、41…パワー設定部、42,42a,42b…D/Aコンバータ、43…歪み信号生成部、44…補償係数設定テーブル、45,46…D/Aコンバータ、47,48…ローパスフィルタ、49…比較部、49c…比較器、49d…可変ゲインアンプ、49e…比較器、50,58…移相器、51,59…可変減衰器、52,53…加算器、54,55…入力端子、60…直交変調部、61…局部発振器、62…直交変調部、64…加算器、70,71…可変ゲインアンプ、80…帯域通過フィルタ、85…エンベロープ生成部、86…比較器、87…ピーク検出器、88…A/Dコンバータ、100…演算部、101,102…記憶部