以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図であり乗員が搭乗した状態で加速前進している状態を示す図、図2は本発明の第1の実施の形態における車両の制御システムの構成を示すブロック図である。
図1において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の本体部11、駆動輪12、支持部13及び乗員15が搭乗する搭乗部14を有し、前記車両10は、車体を前後に傾斜させることができるようになっている。そして、倒立振り子の姿勢制御と同様に車体の姿勢を制御する。図1に示される例においては、車両10は矢印Aで示される方向に加速中であり、車体が進行方向に傾斜した状態が示されている。
前記駆動輪12は、車体の一部である支持部13に対して回転可能に支持され、駆動アクチュエータとしての駆動モータ52によって駆動される。なお、駆動輪12の軸は図1に示す平面に垂直な方向に存在し、駆動輪12はその軸を中心に回転する。また、前記駆動輪12は、単数であっても複数であってもよいが、複数である場合、同軸上に並列に配設される。本実施の形態においては、駆動輪12が2つであるものとして説明する。この場合、各駆動輪12は個別の駆動モータ52によって独立して駆動される。なお、駆動アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、内燃機関等を使用することもできるが、ここでは、電気モータである駆動モータ52を使用するものとして説明する。
また、車体の一部である本体部11は、支持部13によって下方から支持され、駆動輪12の上方に位置する。そして、本体部11には搭乗部14が取り付けられている。なお、本実施の形態においては、説明の都合上、乗員15が搭乗部14に搭乗している例について説明するが、搭乗部14には必ずしも乗員15が搭乗している必要はなく、例えば、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、搭乗部14に乗員15が搭乗していなくてもよいし、乗員15に代えて、貨物が積載されていてもよい。前記搭乗部14は、乗用車、バス等の自動車に使用されるシートと同様のものであり、座面部14a、背もたれ部14b及びヘッドレスト14cを備える。
前記搭乗部14の脇(わき)には、目標走行状態取得装置としてのジョイスティック31を備える入力装置30が配設されている。乗員15は、操縦装置であるジョイスティック31を操作することによって、車両10を操縦する、すなわち、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するようになっている。なお、乗員15が操作して走行指令を入力することができる装置であれば、ジョイスティック31に代えて他の装置、例えば、ペダル、ハンドル、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を目標走行状態取得装置として使用することもできる。
なお、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、前記ジョイスティック31に代えて、コントローラからの走行指令を有線又は無線で受信する受信装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。また、車両10があらかじめ決められた走行指令データに従って自動走行する場合には、前記ジョイスティック31に代えて、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体に記憶された走行指令データを読み取るデータ読取り装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。
また、車両10は、車両制御装置としての制御ECU(Electronic Control Unit)20を有し、該制御ECU20は、主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22を備える。前記制御ECU20並びに主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22は、それぞれ、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
そして、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪センサ51及び駆動モータ52とともに、駆動輪12の動作を制御する駆動輪制御システム50の一部として機能する。前記駆動輪センサ51は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、駆動輪回転状態計測装置として機能し、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角及び/又は駆動輪回転角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。そして、該駆動モータ52は、入力電圧に従って駆動輪12に駆動トルクを付与し、これにより、駆動アクチュエータとして機能する。
さらに、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、車体傾斜センサ41及び駆動モータ52とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は車体傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。
なお、主制御ECU21には、入力装置30のジョイスティック31から走行指令が入力される。そして、前記主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。
また、各センサは、複数の状態量を取得するものであってもよい。例えば、車体傾斜センサ41として加速度センサとジャイロセンサとを併用し、両者の計測値から車体傾斜角と車体傾斜角速度とを決定してもよい。
次に、前記構成の車両10の動作について説明する。まず、走行及び姿勢制御処理の概要について説明する。
図3は線形フィードバック制御とスライディングモード制御の相違を説明する図、図4は本発明の第1の実施の形態における車両の走行及び姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。なお、図3(a)は線形フィードバック制御を示し、図3(b)はスライディングモード制御を示している。
「背景技術」の項で説明したような従来の車両の場合、線形フィードバック制御を行うので、目標状態への遷移経路が設定されずに目標状態のみが設定される結果、図3(a)に示されるように状態が変化する。
図3(a)に示される遷移経路から、従来の車両における線形フィードバック制御の場合、車体傾斜角θ1 の変化が非常に大きく、安定性が低いことが分かる。また、前記線形フィードバック制御の場合、ロバスト性が低いので、例えば、乗員15の重量が想定値から大きく相違したり、路面の凹凸等による外乱を受けたりすると、適切な制御が困難になる。
もっとも、駆動輪12の加速度によって走行及び姿勢制御を行い、設定された目標状態に応じて理想的な目標経路を設定し、遷移経路が前記目標経路に沿って変化するような制御を行うようにすれば、安定性及びロバスト性を高めることができる。しかし、制御プログラムが複雑化するとともに制御処理量が増大し、制御の簡易性が失われてしまう。
そこで、スライディングモード制御を行い、図3(b)に示されるように、目標状態へ誘導するスライディング平面(図に示される例では、2次元のユークリッド空間における超平面であるので、直線となっている。)を設定し、状態を前記目標経路に沿って遷移させる。これにより、制御の簡易性を維持しつつ、高い安定性及びロバスト性を得ることができる。
なお、ここでは、簡略化のため、数学において定義される「ユークリッド空間」を「空間」と称し、「超平面」を「平面」と称することとする。
本実施の形態においては、具体的には、駆動輪回転角速度、車体傾斜角、及び、車体傾斜角速度に対して、スライディング平面を設定する。そして、スライディング平面に沿って状態を変化させるように駆動トルクを与える。つまり、車両10の現在の状態としての実状態、目標状態、及び、スライディング平面の位置関係によって駆動トルクを決定する。
これにより、線形フィードバック制御の問題点を解決することができる。線形フィードバック制御の場合、急な加減速時において、車体が必要以上に大きく傾くことがある。乗員15の指令する車両速度を駆動輪回転角速度のフィードバック制御によって実現しようとすると、車両10の加減速に伴う慣性力や駆動トルクの反トルクが車体の姿勢制御に影響する。例えば、急発進する場合、車体を大きく傾けた後、車体を起こしながら加速していく。すなわち、車体傾斜角のオーバーシュートが発生する。また、路面の凹凸による抵抗等の外乱によって,車体が大きく振動することがある。さらに、乗員15の重量等が制御設計時の想定値と大きく異なる場合、車両10の動作が大きく変化する。このように、車体姿勢が不安定になることがあるため、使用条件が厳しく制約される。つまり、モビリティとして、乗り心地や使い勝手が悪い。
これに対し、本実施の形態においては、スライディングモード制御を行うので、加減速時や外乱作用時における車体傾斜角の変化を抑えることができる。また、乗員15の重量等の変化に対して、ほぼ一定の車両動作を実現することができる。これにより、乗り心地や使い勝手のよい車両10を提供することができる。
すなわち、本実施の形態においては、スライディングモード制御によって走行及び姿勢制御処理を実行することにより、車両10は安定して走行することができる。
走行及び姿勢制御処理において、制御ECU20は、まず、状態量の取得処理を実行し(ステップS1)、各センサ、すなわち、駆動輪センサ51及び車体傾斜センサ41によって、駆動輪12の回転状態及び車体の傾斜状態を取得する。
次に、制御ECU20は、目標状態の決定処理を実行し(ステップS2)、ジョイスティック31の操作量に基づいて、駆動輪12の回転角速度の目標値を決定する。
次に、制御ECU20は、スライディング平面の決定処理を実行し(ステップS3)、目標状態の決定処理によって決定された目標状態に基づいて、スライディング平面を決定する。
最後に、制御ECU20は、アクチュエータ出力の決定処理を実行し(ステップS4)、状態量の取得処理によって取得された各状態量、目標状態の決定処理によって決定された目標状態、及び、スライディング平面の決定処理によって決定されたスライディング平面に基づいて、各アクチュエータの出力、すなわち、駆動モータ52の出力を決定する。
次に、走行及び姿勢制御処理の詳細について説明する。まず、状態量の取得処理について説明する。
図5は本発明の第1の実施の形態における車両の力学モデル及びそのパラメータを示す図、図6は本発明の第1の実施の形態における状態量の取得処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態においては、状態量やパラメータを次のような記号によって表す。なお、図5には状態量やパラメータの一部が示されている。
θ
W :駆動輪回転角(2つの駆動輪の平均)〔rad〕
θ
1 :車体傾斜角(鉛直軸基準)〔rad〕
λ
S :能動重量部位置(車体中心点基準)〔m〕
τ
W :駆動トルク(2つの駆動輪の合計)〔Nm〕
S
S :能動重量部推力〔N〕
g:重力加速度〔m/s
2 〕
m
W :駆動輪質量(2つの駆動輪の合計)〔kg〕
R
W :駆動輪接地半径〔m〕
I
W :駆動輪慣性モーメント(2つの駆動輪の合計)〔kgm
2 〕
D
W :駆動輪回転に対する粘性減衰係数〔Nms/rad〕
m
1 :車体質量(能動重量部を含む)〔kg〕
l
1 :車体重心距離(車軸から)〔m〕
I
1 :車体慣性モーメント(重心周り)〔kgm
2 〕
m
S :能動重量部質量〔kg〕
I
S :能動重量部慣性モーメント(重心周り)〔kgm
2 〕
ここで、本発明の第1の実施の形態においては、能動重量部は移動しない、すなわち、λ
S =0である。
次に、目標状態の決定処理について説明する。
図7は本発明の第1の実施の形態における目標状態の決定処理の動作を示すフローチャートである。
目標状態の決定処理において、主制御ECU21は、まず、操縦操作量を取得する(ステップS2−1)。この場合、乗員15が、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するために操作したジョイスティック31の操作量を取得する。
続いて、主制御ECU21は、取得したジョイスティック31の操作量に基づいて、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS2−2)。例えば、ジョイスティック31の前後方向への操作量に比例した値を車両速度の目標値とし、該車両速度の目標値を駆動輪接地半径RW で除した値を駆動輪回転角速度の目標値とする。
次に、スライディング平面の決定処理について説明する。
図8は本発明の第1の実施の形態におけるスライディング平面を示す図、図9は本発明の第1の実施の形態におけるスライディング平面の決定処理の動作を示すフローチャートである。
スライディング平面の決定処理において、主制御ECU21は、目標状態の決定処理によって決定された駆動輪回転角速度の目標値に基づき、図8に示されるようなスライディング平面を決定する(ステップS3−1)。
図8に示されるスライディング平面は、駆動輪回転角速度、車体傾斜角、及び、車体傾斜角速度を座標軸とする3次元空間における2次元平面であって、次の式(1)によって決定される。
また、スライディング平面の単位法線ベクトルの各成分は、次の式(2)によって表される。
この場合、空間において目標状態を示す点である目標点を通り、かつ、力学的構造に適したスライディング平面を設定する。該スライディング平面の傾きを決定する単位法線ベクトルは、極配置法等によって、あらかじめ適切な値となるように設定する。
また、目標状態は、車両10が一定の速度で走行し、車体が傾斜せずに安定している状態であるから、白丸で示される目標点は、車体傾斜角及び車体傾斜角速度がゼロであって、駆動輪回転角速度が駆動輪回転角速度目標値である点である。
次に、アクチュエータ出力の決定処理について説明する。
図10は本発明の第1の実施の形態におけるスライディング平面によって駆動トルクを決定する方法を示す図、図11は本発明の第1の実施の形態におけるアクチュエータ出力の決定処理の動作を示すフローチャートである。
アクチュエータ出力の決定処理において、主制御ECU21は、まず、アクチュエータの出力を決定する(ステップS4−1)。この場合、各目標値と、現在の状態(実状態)を示す実状態量と、スライディング平面とから、次の式(3)によって駆動モータ52の出力を決定する。なお、図10において、白丸は目標点であり、黒丸は実値点であり、点線の丸は、実値点を投影したスライディング平面上の点である。つまり、実値点、目標点、及び、スライディング平面の相対位置関係によって駆動トルクを決定する。
前記式(4)の右辺における第1項は、スライディング平面内目標点収束出力を示す項であり、状態偏差(実状態と目標状態との差)の水平方向成分(スライディング平面に平行な成分)に比例した駆動トルクを与えることで、スライディング平面上を滑らせるように実値点を目標点に収束させる。
また、第2項は、スライディング平面収束出力を示す項であり、実値点のスライディング平面からの距離に比例した駆動トルクを与えることで、実値点をスライディング平面に近づけて拘束する。
さらに、第3項は、スライディング平面収束付加出力を示す項であり、スライディング平面と実値点との相対位置に応じて、絶対値が一定の正又は負の出力を加えることで、スライディング平面への拘束力を高める。
なお、フィードバックゲイン等の各制御パラメータは、極配置法等によってあらかじめ決定される。
最後に、主制御ECU21は、要素制御システムに指令値を与える(ステップS4−2)。この場合、主制御ECU21は、決定した駆動トルクの値を駆動トルク指令値として、駆動輪制御ECU22に送信する。
このように、本実施の形態においては、駆動輪回転角速度、車体傾斜角、及び、車体傾斜角速度に対して、スライディング平面を設定し、設定したスライディング平面に沿って状態を変化させるように駆動トルクを与える。したがって、加減速時や外乱作用時における車体傾斜角の変化を抑えることができる。また、乗員15の重量等の変化に対して、ほぼ一定の車両動作を実現できる。これにより、乗り心地や使い勝手のよい車両10を提供することができる。
なお、本実施の形態は、スライディング平面に収束させる出力を、距離に比例する出力(式(3)の右辺における第2項)と一定出力(式(3)の右辺における第3項)との和によって決定しているが、いずれか一方のみであってもよい。また、これと異なる非線形関数を用いてもよい。例えば、スライディング平面収束付加出力のσ=0付近に2つの閾値を設けてヒステリシス特性を与えることで、出力値のハンチング(振動)を抑えるようにしてもよい。さらに、スライディング平面内目標点収束出力についても、非線形関数を用いてもよい。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図12は本発明の第2の実施の形態における車体傾斜角目標値付加量を示す図、図13は本発明の第2の実施の形態における目標状態の決定処理の動作を示すフローチャートである。
駆動輪回転角速度を直接的に制御すると、車体が大きく振動することがある。例えば、路面の凹凸などの影響によって駆動輪回転角速度が変動した場合、それを軽減させようとする制御が、車体の姿勢制御に強く影響する。また、車両速度が高くなると、駆動輪12の粘性抵抗が車体の姿勢制御に影響するため、車両速度や車体姿勢を高精度に制御できないことがある。そのため、モビリティとして、乗り心地や使い勝手が悪くなってしまう。
そこで、本実施の形態においては、駆動輪12の粘性抵抗を考慮するとともにそれを利用したスライディングモード制御を行う。すなわち、車体傾斜角の目標値を与えることによって車両速度を制御する。具体的には、車体傾斜角及び車体傾斜角速度のみに対して、スライディング平面を設定する。また、駆動輪回転角速度の目標値に基づいて、車体傾斜角の目標値を与える。このとき、駆動輪回転角速度(車両速度)に伴って作用する粘性抵抗を、車体傾斜に伴う重力トルクによって打ち消すように車体傾斜角を決定する。さらに、駆動輪回転角速度の実値と目標値との差が所定の閾(しきい)値以上の場合、その差を小さくする方向へ車体を余分に傾けるように車体傾斜角の目標値を修正する。
これにより、例えば凹凸路面走行時でも、車体の振動を抑えることができる。また、車両速度や車体姿勢を高精度に制御することができる。したがって、乗り心地や使い勝手のよい車両を提供することができる。
次に、本実施の形態における走行及び姿勢制御処理について説明する。なお、走行及び姿勢制御処理の概要と状態量の取得処理とについては、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略し、目標状態の決定処理、スライディング平面の決定処理及びアクチュエータ出力の決定処理についてのみ説明する。まず、目標状態の決定処理について説明する。
目標状態の決定処理において、主制御ECU21は、まず、操縦操作量を取得する(ステップS2−11)。この場合、乗員15が、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するために操作したジョイスティック31の操作量を取得する。
続いて、主制御ECU21は、取得したジョイスティック31の操作量に基づいて、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS2−12)。例えば、ジョイスティック31の前後方向への操作量に比例した値を車両速度の目標値とし、該車両速度の目標値を駆動輪接地半径RW で除した値を駆動輪回転角速度の目標値とする。
最後に、主制御ECU21は、算出された駆動輪回転角速度の目標値から、車体傾斜角の目標値を算出する(ステップS2−13)。この場合、車体傾斜角の目標値は、次の式(8)によって算出される。
車体傾斜角の目標値は、駆動輪回転角速度の目標値を達成することができるような値となるように決定される。
まず、駆動輪回転角速度に伴って作用する粘性抵抗トルクの反トルクが、車体傾斜に伴う重力トルクと釣り合うように車体傾斜角の目標値を設定する(式(8)の右辺における第1項)。
そして、駆動輪回転角速度の実値がその目標値と大きく離れている場合、車体傾斜角の目標値を補正する(式(8)の右辺における第2項)。具体的には、駆動輪回転角速度の実値がその目標値よりも所定の閾値以上小さい場合、車体傾斜角の目標値を大きくすることによって、車体をより前方に傾けて、車両10を加速させる。一方、駆動輪回転角速度の実値がその目標値よりも所定の閾値以上大きい場合、車体傾斜角の目標値を小さくすることによって、車体をより後方に傾けて、車両10を減速させる。
なお、本実施の形態においては、粘性抵抗が駆動輪回転角速度に比例する、という仮定に基づいて車体傾斜角の目標値を決定しているが、粘性抵抗の非線形成分についても考慮し、それに適した車体傾斜角の目標値を与えるようにしてもよい。
また、本実施の形態においては、駆動輪回転角速度の目標値をそのまま用いて車体傾斜角の目標値及び車体傾斜角付加量を決定しているが、駆動輪回転角速度の目標値にローパスフィルタをかけて、その時間変化を滑らかにしてもよい。若しくは、時間変化を滑らかにするスムージング関数を適用してもよい。これにより、車体傾斜角の急激な変化を抑えることができ、乗り心地を向上させることができる。
さらに、本実施の形態においては、駆動輪回転角速度偏差の正負に依らず、その絶対値が所定の閾値以上の場合に車体傾斜角付加量を一定の増加率で与えているが、正負に応じて閾値又は増加率を変化させてもよい。例えば、駆動輪回転角速度偏差が負の場合には、正の場合に比べて閾値を小さくし、かつ、増加率を大きくすることによって、加速性能に比べて減速性能を高めることができ、安全性が向上する。また、本実施の形態においては、車体傾斜角付加量を複数の線形関数によって定義しているが、非線形関数を用いることで、より理想的な加減速特性を実現することもできる。
次に、スライディング平面の決定処理について説明する。
図14は本発明の第2の実施の形態におけるスライディング平面を示す図、図15は本発明の第2の実施の形態におけるスライディング平面の決定処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態のスライディング平面の決定処理において、主制御ECU21は、目標状態の決定処理によって決定された車体傾斜角の目標値に基づき、図14に示されるようなスライディング平面を決定する(ステップS3−11)。
図14に示されるスライディング平面は、車体傾斜角、及び、車体傾斜角速度を座標軸とする2次元空間における1次元平面、すなわち、直線であって、次の式(10)によって決定される。また、スライディング平面の単位法線ベクトルの各成分は、次の式(11)によって表される。
この場合、目標点を通り、かつ、力学的構造に適したスライディング平面を設定する。該スライディング平面の傾きを決定する単位法線ベクトルは、極配置法等によって、あらかじめ適切な値となるように設定する。
また、目標状態は、車体が傾斜せずに安定している状態であるから、白丸で示される目標点は、車体傾斜角速度がゼロであって、車体傾斜角が車体傾斜角目標値である点である。
次に、アクチュエータ出力の決定処理について説明する。
図16は本発明の第2の実施の形態におけるスライディング平面によって駆動トルクを決定する方法を示す図、図17は本発明の第2の実施の形態におけるアクチュエータ出力の決定処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態のアクチュエータ出力の決定処理において、主制御ECU21は、まず、アクチュエータの出力を決定する(ステップS4−11)。この場合、各目標値と、現在の状態を示す実状態量と、スライディング平面とから、次の式(12)によって駆動モータ52の出力を決定する。つまり、実値点、目標点、及び、スライディング平面の相対位置関係によって駆動トルクを決定する。
前記式(12)の右辺における第1項は、スライディング平面内目標点収束出力を示す項であり、状態偏差(実状態と目標状態との差)の水平方向成分(スライディング平面に平行な成分)に比例した駆動トルクを与えることで、スライディング平面上を滑らせるように実値点を目標点に収束させる。
また、第2項は、スライディング平面収束出力を示す項であり、実値点のスライディング平面からの距離に比例した駆動トルクを与えることで、実値点をスライディング平面に近づけて拘束する。
さらに、第3項は、スライディング平面収束付加出力を示す項であり、スライディング平面と実値点の相対位置に応じて、絶対値が一定の正又は負の出力を加えることで、スライディング平面への拘束力を高める。
なお、フィードバックゲイン等の各制御パラメータは、極配置法等によってあらかじめ決定される。
最後に、主制御ECU21は、要素制御システムに指令値を与える(ステップS4−12)。この場合、主制御ECU21は、決定した駆動トルクの値を駆動トルク指令値として、駆動輪制御ECU22に送信する。
このように、本実施の形態においては、駆動輪12の粘性抵抗を考慮するとともにそれを利用したスライディングモード制御を行う。すなわち、車体傾斜角の目標値を与えることによって車両速度を制御する。これにより、駆動輪12を直接コントロールすることなく、車体の姿勢制御に必要な駆動トルクによって間接的に車両速度をコントロールすることができる。そのため、例えば凹凸路面走行時でも、車体の振動を抑えることができる。また、車両速度や車体姿勢を高精度に制御することができる。したがって、乗り心地や使い勝手のよい車両を提供することができる。
なお、本実施の形態は、スライディング平面に収束させる出力を、距離に比例する出力(式(12)の右辺における第2項)と一定出力(式(12)の右辺における第3項)との和によって決定しているが、いずれか一方のみであってもよい。また、これと異なる非線形関数を用いてもよい。例えば、スライディング平面収束付加出力のσ=0付近に2つの閾値を設けてヒステリシス特性を与えることで、出力値のハンチング(振動)を抑えるようにしてもよい。さらに、スライディング平面内目標点収束出力についても、非線形関数を用いてもよい。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図18は本発明の第3の実施の形態における車両の制御システムの構成を示すブロック図である。
搭乗部14の可動機構を有する車両において、急な加減速の際には、必要以上に車体が傾いたり、搭乗部14が移動したりすることがある。乗員15が指令する車両速度を駆動輪回転角速度のフィードバック制御によって実現する場合、車両10の加減速に伴う慣性力又は駆動トルクの反トルクが車体の姿勢制御に影響する。例えば、急発進をする場合、車体を大きく傾けたり、搭乗部14を大きく移動させたりした後、車体を起こしたり、搭乗部14を元に戻したりしながら、加速してゆく。また、路面の凹凸による抵抗等の外乱によって、車体や搭乗部14が大きく振動することがある。さらに、乗員15の重量等が制御設計時の設定値と大きく異なる場合、車両10の動作が大きく変化し、車体姿勢が不安定になることがあるので、使用条件が厳しく制約される。そのため、モビリティとして、乗り心地や使い勝手が悪くなってしまう。
そこで、本実施の形態においては、搭乗部14の可能機構を有する車両において、スライディングモード制御を適用することによって、走行及び姿勢制御のロバスト安定性を向上させる。具体的には、駆動輪回転角速度、車体傾斜角、車体傾斜角速度、能動重量部位置及び能動重量部移動速度に対して、2つのスライディング平面を設定する。そして、各スライディング平面に沿って状態を変化させるように駆動トルク及び能動重量部推力を与える。つまり、実状態、目標状態、及び、2つのスライディング平面の相対位置関係によって駆動トルク及び能動重量部推力を決定する。
これにより、加減速時や外乱作用時における車体傾斜角や搭乗部14の位置の変化を抑えることができる。また、乗員15の重量等の変化に対して、ほぼ一定の車両動作を実現することができる。
本実施の形態において、搭乗部14は、能動重量部として機能し、車両10の前後方向へ本体部11と相対的に移動可能となるように、換言すると、車体回転円の接線方向に相対的に移動可能となるように、本体部11に取り付けられている。
ここで、能動重量部は、ある程度の質量を有し、本体部11に対して前後に移動させることによって、車両10の重心位置を能動的に補正するものである。そして、能動重量部は、必ずしも搭乗部14である必要はなく、例えば、バッテリ等の重量のある周辺機器を本体部11に対して移動可能に取り付けた装置であってもよいし、ウェイト、錘(おもり)、バランサ等の専用の重量部材を本体部11に対して移動可能に取り付けた装置であってもよい。また、搭乗部14、重量のある周辺機器、専用の重量部材等を併用するものであってもよい。本実施の形態においては、説明の都合上、乗員15が搭乗した状態の搭乗部14が能動重量部として機能する例について説明する。
そして、前記搭乗部14は、図示されない移動機構を介して本体部11に取り付けられている。前記移動機構は、リニアガイド装置等の低抵抗の直線移動機構、及び、能動重量部アクチュエータとしての能動重量部モータ62を備え、該能動重量部モータ62によって搭乗部14を駆動し、本体部11に対して車両進行方向に前後させるようになっている。なお、能動重量部アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、リニアモータ等を使用することもできるが、ここでは、回転式の電気モータである能動重量部モータ62を使用するものとして説明する。
リニアガイド装置は、例えば、本体部11に取り付けられている案内レールと、搭乗部14に取り付けられ、案内レールに沿ってスライドするキャリッジと、案内レールとキャリッジとの間に介在するボール、コロ等の転動体とを備える。そして、案内レールには、その左右側面部に2本の軌道溝が長手方向に沿って直線状に形成されている。また、キャリッジの断面はコ字状に形成され、その対向する2つの側面部内側には、2本の軌道溝が、案内レールの軌道溝と各々対向するように形成されている。転動体は、軌道溝の間に組み込まれており、案内レールとキャリッジとの相対的直線運動に伴って軌道溝内を転動するようになっている。なお、キャリッジには、軌道溝の両端をつなぐ戻し通路が形成されており、転動体は軌道溝及び戻し通路を循環するようになっている。
また、リニアガイド装置は、該リニアガイド装置の動きを締結するブレーキ又はクラッチを備える。車両10が停車しているときのように搭乗部14の動作が不要であるときには、ブレーキによって案内レールにキャリッジを固定することで、本体部11と搭乗部14との相対的位置関係を保持する。そして、動作が必要であるときには、このブレーキを解除し、本体部11側の基準位置と搭乗部14側の基準位置との距離が所定値となるように制御される。
図に示されるように、本実施の形態における制御ECU20は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムである能動重量部制御ECU23を備える。
そして、主制御ECU21は、能動重量部制御ECU23、能動重量部センサ61及び能動重量部モータ62とともに、能動重量部である搭乗部14の動作を制御する能動重量部制御システム60の一部として機能する。前記能動重量部センサ61は、エンコーダ等から成り、能動重量部移動状態計測装置として機能し、搭乗部14の移動状態を示す能動重量部位置及び/又は能動重量部移動速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信し、該能動重量部制御ECU23は、受信した能動重量部推力指令値に相当する入力電圧を能動重量部モータ62に供給する。そして、該能動重量部モータ62は、入力電圧に従って搭乗部14を並進移動させる推力を搭乗部14に付与し、これにより、能動重量部アクチュエータとして機能する。
また、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、能動重量部制御ECU23、車体傾斜センサ41、駆動モータ52及び能動重量部モータ62とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は車体傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信する。
さらに、主制御ECU21には、入力装置30のジョイスティック31から走行指令が入力される。そして、前記主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信する。
なお、その他の点の構成については、前記第1及び第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本実施の形態における車両10の動作について説明する。なお、走行及び姿勢制御処理の概要と目標状態の決定処理とについては、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略し、状態量の取得処理、スライディング平面の決定処理及びアクチュエータ出力の決定処理についてのみ説明する。まず、状態量の取得処理について説明する。
図19は本発明の第3の実施の形態における状態量の取得処理の動作を示すフローチャートである。
次に、スライディング平面の決定処理について説明する。
図20は本発明の第3の実施の形態におけるスライディング平面の決定処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態のスライディング平面の決定処理において、主制御ECU21は、目標状態の決定処理によって決定された駆動輪回転角速度の目標値に基づき、次の式(17)及び(18)によって表される2つのスライディング平面を決定する(ステップS3−21)。なお、本実施の形態において、スライディング平面は、駆動輪回転角速度、車体傾斜角、車体傾斜角速度、能動重量部位置及び能動重量部移動速度を座標軸とする5次元空間における4次元平面であり、第1スライディング平面は式(17)によって表され、第2スライディング平面は式(18)によって表される。また、第1スライディング平面の単位法線ベクトルの各成分は次の式(19)によって表され、第2スライディング平面の単位法線ベクトルの各成分は次の式(20)によって表される。
この場合、目標点を通り、かつ、力学的構造に適した第1及び第2スライディング平面を設定する。これら第1及び第2スライディング平面の傾きを決定する単位法線ベクトルは、極配置法等によって、あらかじめ適切な値となるように設定する。
次に、アクチュエータ出力の決定処理について説明する。
図21は本発明の第3の実施の形態におけるアクチュエータ出力の決定処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態のアクチュエータ出力の決定処理において、主制御ECU21は、まず、各アクチュエータの出力を決定する(ステップS4−21)。この場合、各目標値と、現在の状態を示す実状態量と、2つのスライディング平面とから、次の式(21)及び(22)によって駆動モータ52及び能動重量部モータ62の出力を決定する。つまり、実状態、目標状態、及び、2つのスライディング平面の相対位置関係によって駆動トルク及び能動重量部推力を決定する。なお、駆動モータ52の出力である駆動トルクは次の式(21)によって決定され、能動重量部モータ62の出力である能動重量部推力は次の式(22)によって決定される。
前記式(21)及び(22)の右辺における第1項は、スライディング平面内目標点収束出力を示す項であり、状態偏差(実状態と目標状態との差)の水平方向成分(スライディング平面に平行な成分)に比例した駆動トルク又は能動重量部推力を与えることで、スライディング平面上を滑らせるように実値点を目標点に収束させる。
また、第2項は、スライディング平面収束出力を示す項であり、実値点のスライディング平面からの距離に比例した駆動トルク又は能動重量部推力を与えることで、実値点をスライディング平面に近づけて拘束する。
さらに、第3項は、スライディング平面収束付加出力を示す項であり、スライディング平面と実値点との相対位置に応じて、絶対値が一定の正又は負の出力を加えることで、スライディング平面への拘束力を高める。
なお、フィードバックゲイン等の各制御パラメータは、極配置法等によってあらかじめ決定される。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与える(ステップS4−22)。この場合、主制御ECU21は、決定した駆動トルクの値及び能動重量部推力を駆動トルク指令値及び能動重量部推力指令値として、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23に送信する。
このように、本実施の形態においては、搭乗部14が移動可能な車両に対して、スライディングモード制御を適用することによって、走行及び姿勢制御のロバスト安定性を向上させる。そのため、加減速時や外乱作用時における車体傾斜角や搭乗部14の位置の変化を抑えることができる。また、乗員15の重量等の変化に対して、ほぼ一定の車両動作を実現することができる。したがって、乗り心地や使い勝手のよい車両を提供することができる。
なお、本実施の形態は、スライディング平面に収束させる出力を、距離に比例する出力(式(21)及び(22)の右辺における第2項)と一定出力(式(21)及び(22)の右辺における第3項)との和によって決定しているが、いずれか一方のみであってもよい。また、これと異なる非線形関数を用いてもよい。例えば、スライディング平面収束付加出力のσ=0付近に2つの閾値を設けてヒステリシス特性を与えることで、出力値のハンチング(振動)を抑えるようにしてもよい。さらに、スライディング平面内目標点収束出力についても、非線形関数を用いてもよい。
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図22は本発明の第4の実施の形態におけるスライディング平面の決定処理の動作を示すフローチャートである。
スライディングモード制御を適用しても、車体傾斜と搭乗部移動とによって車体のバランスをとるので、ある程度車体が傾いてしまう。そのため、モビリティとして、乗り心地が悪くなってしまう。したがって、できる限り車体を傾斜させず、搭乗部の平行移動のみによってバランスをとることが望ましい。
そこで、本実施の形態においては、搭乗部14が移動可能な車両に対してスライディングモード制御を適用する際に、駆動輪12の影響を搭乗部14の移動機構に負担させることによって、車体の傾斜を抑える。具体的には、車体傾斜角及び車体傾斜角速度に対して第1スライディング平面を設定し、同状態量が第1スライディング平面に沿って変化するように駆動トルクを与える。また、駆動輪回転角速度、能動重量部位置及び能動重量部移動速度に対して第2スライディング平面を設定し、同状態量が第2スライディング平面に沿って変化するように能動重量部推力を与える。車体傾斜の制御を駆動輪12の制御から切り離すことによって、直立姿勢維持の制御をより簡単に、かつ、強固に行うことができる。実際には、能動重量部推力によって直接的に駆動輪12を制御することはできないが、能動重量部推力によって搭乗部14が移動し、それによる車体傾斜を抑えようとする駆動トルクの反トルクで、走行制御が結果的に達成される。
これにより、加減速時や外乱作用時における車体傾斜角の変化を更に抑えることができ、より快適に走行可能な車両を提供することができる。
次に、本実施の形態における走行及び姿勢制御処理について説明する。なお、走行及び姿勢制御処理の概要と、状態量の取得処理と、目標状態の決定処理とについては、前記第3の実施の形態と同様であるので、説明を省略し、スライディング平面の決定処理及びアクチュエータ出力の決定処理についてのみ説明する。まず、スライディング平面の決定処理について説明する。
本実施の形態のスライディング平面の決定処理において、主制御ECU21は、目標状態の決定処理によって決定された駆動輪回転角速度の目標値に基づき、次の式(30)及び(31)によって表される2つのスライディング平面を決定する(ステップS3−31)。なお、本実施の形態において、第1スライディング平面は、車体傾斜角及び車体傾斜角速度を座標軸とする2次元空間における1次元平面、すなわち、直線であって、次の式(30)によって表される。また、第2スライディング平面は、駆動輪回転角速度、能動重量部位置及び能動重量部移動速度を座標軸とする3次元空間における2次元平面であって、次の式(31)によって表される。また、第1スライディング平面の単位法線ベクトルの各成分は次の式(32)によって表され、第2スライディング平面の単位法線ベクトルの各成分は次の式(33)によって表される。
この場合、目標点を通り、かつ、力学的構造に適した第1及び第2スライディング平面を設定する。これら第1及び第2スライディング平面の傾きを決定する単位法線ベクトルは、極配置法等によって、あらかじめ適切な値となるように設定する。
次に、アクチュエータ出力の決定処理について説明する。
図23は本発明の第4の実施の形態におけるアクチュエータ出力の決定処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態のアクチュエータ出力の決定処理において、主制御ECU21は、まず、各アクチュエータの出力を決定する(ステップS4−31)。この場合、各目標値と、現在の状態を示す実状態量と、2つのスライディング平面とから、次の式(34)及び(35)によって駆動モータ52及び能動重量部モータ62の出力を決定する。つまり、実状態、目標状態、及び、2つのスライディング平面の相対位置関係によって駆動トルク及び能動重量部推力を決定する。なお、駆動モータ52の出力である駆動トルクは次の式(34)によって決定され、能動重量部モータ62の出力である能動重量部推力は次の式(35)によって決定される。
前記式(34)及び(35)の右辺における第1項は、スライディング平面内目標点収束出力を示す項であり、状態偏差(実状態と目標状態との差)の水平方向成分(スライディング平面に平行な成分)に比例した駆動トルク又は能動重量部推力を与えることで、スライディング平面上を滑らせるように実値点を目標点に収束させる。
また、第2項は、スライディング平面収束出力を示す項であり、実値点のスライディング平面からの距離に比例した駆動トルク又は能動重量部推力を与えることで、実値点をスライディング平面に近づけて拘束する。
さらに、第3項は、スライディング平面収束付加出力を示す項であり、スライディング平面と実値点の相対位置に応じて、絶対値が一定の正又は負の出力を加えることで、スライディング平面への拘束力を高める。
なお、フィードバックゲイン等の各制御パラメータは、極配置法等によってあらかじめ決定される。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与える(ステップS4−32)。この場合、主制御ECU21は、決定した駆動トルクの値及び能動重量部推力を駆動トルク指令値及び能動重量部推力指令値として、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23に送信する。
このように、本実施の形態においては、搭乗部14が移動可能な車両に対して、さらに、スライディングモード制御を適用する場合、駆動輪12の影響を搭乗部14の移動機構に負担させることによって、車体傾斜を抑える。つまり、車体傾斜の制御を駆動輪12の制御から切り離すことによって、直立姿勢維持の制御をより簡単に、かつ、強固に行うことができる。そのため、能動重量部推力によって搭乗部14が移動し、それによって車体傾斜を抑えようとする駆動トルクの反トルクで、走行制御が達成される。したがって、加減速時や外乱作用時における車体傾斜角の変化を更に抑えることができ、より快適に走行可能な車両を提供することができる。
なお、本実施の形態は、スライディング平面に収束させる出力を、距離に比例する出力(式(34)及び(35)の右辺における第2項)と一定出力(式(34)及び(35)の右辺における第3項)との和によって決定しているが、いずれか一方のみであってもよい。また、これと異なる非線形関数を用いてもよい。例えば、スライディング平面収束付加出力σ=0付近に2つの閾値を設けてヒステリシス特性を与えることで、出力値のハンチング(振動)を抑えるようにしてもよい。さらに、スライディング平面内目標点収束出力についても、非線形関数を用いてもよい。
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第4の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図24は本発明の第5の実施の形態における能動重量部位置目標値付加量を示す図、図25は本発明の第5の実施の形態における目標状態の決定処理の動作を示すフローチャートである。
駆動輪回転角速度を直接的に制御すると、車体や搭乗部14が大きく振動することがある。例えば、路面の凹凸などの影響によって駆動輪回転角速度が変動した場合、それを軽減させようとする制御が、車体の姿勢制御に強く影響する。また、車両速度が高くなると、駆動輪12の粘性抵抗が車体の姿勢制御に影響するため、車両速度や車体姿勢を高精度に制御できないことがある。そのため、モビリティとして、乗り心地や使い勝手が悪くなってしまう。
そこで、本実施の形態においては、駆動輪12の粘性抵抗を考慮するとともにそれを利用したスライディングモード制御を行いう。すなわち、能動重量部位置の目標値を与えることによって、車両速度を制御する。具体的には、能動重量部位置及び能動重量部移動速度のみに対して、第2スライディング平面を設定する。また、駆動輪回転角速度の目標値に基づいて、能動重量部位置の目標値を与える。このとき、駆動輪回転角速度(車両速度)に伴って作用する粘性抵抗を、能動重量部のずれに伴う重力トルクによって打ち消すように能動重量部位置を決定する。さらに、駆動輪回転角速度の実値と目標値との差が所定の閾値以上の場合、その差を小さくする方向へ能動重量部を余分に移動させるように能動重量部位置の目標値を修正する。
これにより、例えば凹凸路面走行時でも、車体の振動を抑えることができる。また、車両速度や車体姿勢を高精度に制御することができる。したがって、乗り心地や使い勝手のよい車両を提供することができる。
次に、本実施の形態における走行及び姿勢制御処理について説明する。なお、走行及び姿勢制御処理の概要と状態量の取得処理とについては、前記第3の実施の形態と同様であるので、説明を省略し、目標状態の決定処理、スライディング平面の決定処理及びアクチュエータ出力の決定処理についてのみ説明する。まず、目標状態の決定処理について説明する。
本実施の形態の目標状態の決定処理において、主制御ECU21は、まず、操縦操作量を取得する(ステップS2−21)。この場合、乗員15が、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するために操作したジョイスティック31の操作量を取得する。
続いて、主制御ECU21は、取得したジョイスティック31の操作量に基づいて、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS2−22)。例えば、ジョイスティック31の前後方向への操作量に比例した値を車両速度の目標値とし、該車両速度の目標値を駆動輪接地半径RW で除した値を駆動輪回転角速度の目標値とする。
最後に、主制御ECU21は、算出された駆動輪回転角速度の目標値から、能動重量部位置の目標値を算出する(ステップS2−23)。この場合、能動重量部の位置の目標値は、次の式(43)によって算出される。
能動重量部位置の目標値は、駆動輪回転角速度の目標値を達成することができるような値となるように決定される。
まず、駆動輪回転角速度に伴って作用する粘性抵抗トルクの反トルクが、能動重量部位置のずれに伴う重力トルクと釣り合うように車体傾斜角の目標値を設定する(式(43)の右辺における第1項)。
そして、駆動輪回転角速度の実値がその目標値と大きく離れている場合、能動重量部位置の目標値を補正する(式(43)の右辺における第2項)。具体的には、駆動輪回転角速度の実値がその目標値よりも所定の閾値以上小さい場合、能動重量部位置の目標値を大きくすることによって、能動重量部をより前方に移動させて、車両10を加速させる。一方、駆動輪回転角速度の実値がその目標値よりも所定の閾値以上大きい場合、能動重量部位置の目標値を小さくすることによって、能動重量部位置をより後方に移動させて、車両10を減速させる。
なお、本実施の形態においては、粘性抵抗が駆動輪回転角速度に比例する、という仮定に基づいて能動重量部位置の目標値を決定しているが、粘性抵抗の非線形成分についても考慮し、それに適した能動重量部位置の目標値を与えるようにしてもよい。
また、本実施の形態においては、駆動輪回転角速度の目標値をそのまま用いて能動重量部位置の目標値及び能動重量部位置付加量を決定しているが、駆動輪回転角速度の目標値にローパスフィルタをかけて、その時間変化を滑らかにしてもよい。若しくは、時間変化を滑らかにするスムージング関数を適用してもよい。これにより、能動重量部位置の急激な変化を抑えることができ、乗り心地を向上させることができる。
さらに、本実施の形態においては、駆動輪回転角速度偏差の正負に依らず、その絶対値が所定の閾値以上の場合に能動重量部位置付加量を一定の増加率で与えているが、正負に応じて閾値又は増加率を変化させてもよい。例えば、駆動輪回転角速度偏差が負の場合には、正の場合に比べて閾値を小さくし、かつ、増加率を大きくすることによって、加速性能に比べて減速性能を高めることができ、安全性が向上する。また、本実施の形態においては、能動重量部位置付加量を複数の線形関数によって定義しているが、非線形関数を用いることで、より理想的な加減速特性を実現することもできる。
次に、スライディング平面の決定処理について説明する。
図26は本発明の第5の実施の形態におけるスライディング平面の決定処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態のスライディング平面の決定処理において、主制御ECU21は、目標状態の決定処理によって決定された駆動輪回転角速度の目標値に基づき、次の式(45)及び(46)によって表される2つのスライディング平面を決定する(ステップS3−41)。なお、本実施の形態において、第1スライディング平面は、車体傾斜角及び車体傾斜角速度を座標軸とする2次元空間における1次元平面、すなわち、直線であって、次の式(45)によって表される。また、第2スライディング平面は、能動重量部位置及び能動重量部移動速度を座標軸とする2次元空間における1次元平面、すなわち、直線であって、次の式(46)によって表される。また、第1スライディング平面の単位法線ベクトルの各成分は次の式(47)によって表され、第2スライディング平面の単位法線ベクトルの各成分は次の式(48)によって表される。
この場合、目標点を通り、かつ、力学的構造に適した第1及び第2スライディング平面を設定する。これら第1及び第2スライディング平面の傾きを決定する単位法線ベクトルは、極配置法等によって、あらかじめ適切な値となるように設定する。
次に、アクチュエータ出力の決定処理について説明する。
図27は本発明の第5の実施の形態におけるアクチュエータ出力の決定処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態のアクチュエータ出力の決定処理において、主制御ECU21は、まず、各アクチュエータの出力を決定する(ステップS4−41)。この場合、各目標値と、現在の状態を示す実状態量と、2つのスライディング平面とから、次の式(49)及び(50)によって駆動モータ52及び能動重量部モータ62の出力を決定する。つまり、実状態、目標状態、及び、2つのスライディング平面の相対位置関係によって駆動トルク及び能動重量部推力を決定する。なお、駆動モータ52の出力である駆動トルクは次の式(49)によって決定され、能動重量部モータ62の出力である能動重量部推力は次の式(50)によって決定される。
前記式(49)及び(50)の右辺における第1項は、スライディング平面内目標点収束出力を示す項であり、状態偏差(実状態と目標状態との差)の水平方向成分(スライディング平面に平行な成分)に比例した駆動トルク又は能動重量部推力を与えることで、スライディング平面上を滑らせるように実値点を目標点に収束させる。
また、第2項は、スライディング平面収束出力を示す項であり、実値点のスライディング平面からの距離に比例した駆動トルク又は能動重量部推力を与えることで、実値点をスライディング平面に近づけて拘束する。
さらに、第3項は、スライディング平面収束付加出力を示す項であり、スライディング平面と実値点の相対位置に応じて、絶対値が一定の正又は負の出力を加えることで、スライディング平面への拘束力を高める。
なお、フィードバックゲイン等の各制御パラメータは、極配置法等によってあらかじめ決定される。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与える(ステップS4−42)。この場合、主制御ECU21は、決定した駆動トルクの値及び能動重量部推力を駆動トルク指令値及び能動重量部推力指令値として、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23に送信する。
このように、本実施の形態においては、搭乗部14が移動可能な車両に対して、スライディングモード制御を適用する場合、能動重量部位置の目標値を与えることによって、車両速度を制御する。これにより、駆動輪12を直接コントロールすることなく、駆動トルクによって車両速度をコントロールすることができる。そのため、凹凸路面走行時でも、車体の振動を抑えることができる。また、車両速度や車体姿勢を高精度に制御することができる。したがって、乗り心地や使い勝手のよい車両を提供することができる。
なお、本実施の形態は、スライディング平面に収束させる出力を、距離に比例する出力(式(49)及び(50)の右辺における第2項)と一定出力(式(49)及び(50)の右辺における第3項)との和によって決定しているが、いずれか一方のみであってもよい。また、これと異なる非線形関数を用いてもよい。例えば、スライディング平面収束付加出力のσ=0付近に2つの閾値を設けてヒステリシス特性を与えることで、出力値のハンチング(振動)を抑えるようにしてもよい。さらに、スライディング平面内目標点収束出力についても、非線形関数を用いてもよい。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。