以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図であり乗員が搭乗した状態で加速前進している状態を示す図、図2は本発明の第1の実施の形態における車両の制御システムの構成を示すブロック図である。
図1において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の本体部11、駆動輪12、支持部13及び乗員15が搭乗する搭乗部14を有し、前記車両10は、車体を前後に傾斜させることができるようになっている。そして、倒立振り子の姿勢制御と同様に車体の姿勢を制御する。図1に示される例においては、車両10は矢印Aで示される方向に加速中であり、車体が進行方向に傾斜した状態が示されている。
前記駆動輪12は、車体の一部である支持部13に対して回転可能に支持され、駆動アクチュエータとしての駆動モータ52によって駆動される。なお、駆動輪12の軸は図1に示す平面に垂直な方向に存在し、駆動輪12はその軸を中心に回転する。また、前記駆動輪12は、単数であっても複数であってもよいが、複数である場合、同軸上に並列に配設される。本実施の形態においては、駆動輪12が2つであるものとして説明する。この場合、各駆動輪12は個別の駆動モータ52によって独立して駆動される。なお、駆動アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、内燃機関等を使用することもできるが、ここでは、電気モータである駆動モータ52を使用するものとして説明する。
また、車体の一部である本体部11は、支持部13によって下方から支持され、駆動輪12の上方に位置する。そして、本体部11には、能動重量部として機能する搭乗部14が、車両10の前後方向へ本体部11と相対的に移動可能となるように、換言すると、車体回転円の接線方向に相対的に移動可能となるように、取り付けられている。
ここで、能動重量部は、ある程度の質量を有し、本体部11に対して前後に移動させることによって、車両10の重心位置を能動的に補正するものである。そして、能動重量部は、必ずしも搭乗部14である必要はなく、例えば、バッテリ等の重量のある周辺機器を本体部11に対して移動可能に取り付けた装置であってもよいし、ウェイト、錘(おもり)、バランサ等の専用の重量部材を本体部11に対して移動可能に取り付けた装置であってもよい。また、搭乗部14、重量のある周辺機器、専用の重量部材等を併用するものであってもよい。
また、本実施の形態においては、説明の都合上、乗員15が搭乗した状態の搭乗部14が能動重量部として機能する例について説明するが、搭乗部14には必ずしも乗員15が搭乗している必要はなく、例えば、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、搭乗部14に乗員15が搭乗していなくてもよいし、乗員15に代えて、貨物が積載されていてもよい。
前記搭乗部14は、乗用車、バス等の自動車に使用されるシートと同様のものであり、座面部14a、背もたれ部14b及びヘッドレスト14cを備え、図示されない移動機構を介して本体部11に取り付けられている。
前記移動機構は、リニアガイド装置等の低抵抗の直線移動機構、及び、能動重量部アクチュエータとしての能動重量部モータ62を備え、該能動重量部モータ62によって搭乗部14を駆動し、本体部11に対して車両進行方向に前後させるようになっている。なお、能動重量部アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、リニアモータ等を使用することもできるが、ここでは、回転式の電気モータである能動重量部モータ62を使用するものとして説明する。
リニアガイド装置は、例えば、本体部11に取り付けられている案内レールと、搭乗部14に取り付けられ、案内レールに沿ってスライドするキャリッジと、案内レールとキャリッジとの間に介在するボール、コロ等の転動体とを備える。そして、案内レールには、その左右側面部に2本の軌道溝が長手方向に沿って直線状に形成されている。また、キャリッジの断面はコ字状に形成され、その対向する2つの側面部内側には、2本の軌道溝が、案内レールの軌道溝と各々対向するように形成されている。転動体は、軌道溝の間に組み込まれており、案内レールとキャリッジとの相対的直線運動に伴って軌道溝内を転動するようになっている。なお、キャリッジには、軌道溝の両端をつなぐ戻し通路が形成されており、転動体は軌道溝及び戻し通路を循環するようになっている。
また、リニアガイド装置は、該リニアガイド装置の動きを締結するブレーキ又はクラッチを備える。車両10が停車しているときのように搭乗部14の動作が不要であるときには、ブレーキによって案内レールにキャリッジを固定することで、本体部11と搭乗部14との相対的位置関係を保持する。そして、動作が必要であるときには、このブレーキを解除し、本体部11側の基準位置と搭乗部14側の基準位置との距離が所定値となるように制御される。
前記搭乗部14の脇(わき)には、目標走行状態取得装置としてのジョイスティック31を備える入力装置30が配設されている。乗員15は、操縦装置であるジョイスティック31を操作することによって、車両10を操縦する、すなわち、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するようになっている。なお、乗員15が操作して走行指令を入力することができる装置であれば、ジョイスティック31に代えて他の装置、例えば、ペダル、ハンドル、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を目標走行状態取得装置として使用することもできる。
なお、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、前記ジョイスティック31に代えて、コントローラからの走行指令を有線又は無線で受信する受信装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。また、車両10があらかじめ決められた走行指令データに従って自動走行する場合には、前記ジョイスティック31に代えて、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体に記憶された走行指令データを読み取るデータ読取り装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。
また、車両10は、車両制御装置としての制御ECU(Electronic Control Unit)20を有し、該制御ECU20は、主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23を備える。前記制御ECU20並びに主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23は、それぞれ、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
そして、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪センサ51及び駆動モータ52とともに、駆動輪12の動作を制御する駆動輪制御システム50の一部として機能する。前記駆動輪センサ51は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、駆動輪回転状態計測装置として機能し、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角及び/又は回転角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。そして、該駆動モータ52は、入力電圧に従って駆動輪12に駆動トルクを付与し、これにより、駆動アクチュエータとして機能する。
また、主制御ECU21は、能動重量部制御ECU23、能動重量部センサ61及び能動重量部モータ62とともに、能動重量部である搭乗部14の動作を制御する能動重量部制御システム60の一部として機能する。前記能動重量部センサ61は、エンコーダ等から成り、能動重量部移動状態計測装置として機能し、搭乗部14の移動状態を示す能動重量部位置及び/又は移動速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信し、該能動重量部制御ECU23は、受信した能動重量部推力指令値に相当する入力電圧を能動重量部モータ62に供給する。そして、該能動重量部モータ62は、入力電圧に従って搭乗部14を並進移動させる推力を搭乗部14に付与し、これにより、能動重量部アクチュエータとして機能する。
さらに、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、能動重量部制御ECU23、車体傾斜センサ41、駆動モータ52及び能動重量部モータ62とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信する。
なお、主制御ECU21には、入力装置30のジョイスティック31から走行指令が入力される。そして、前記主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信する。
また、前記制御ECU20は、車両10の走行状態及び車体姿勢の時間変化に基づいて段差抵抗トルクを推定する段差抵抗トルク推定手段として機能する。また、目標走行状態及び段差抵抗トルクに応じて目標とする車体姿勢、すなわち、車体傾斜状態及び/又は能動重量部移動状態を決定する目標車体姿勢決定手段として機能する。さらに、各センサによって取得した車両10の走行状態及び車体姿勢、並びに、目標走行状態、目標車体姿勢及び段差抵抗トルクに応じて各アクチュエータの出力を決定するアクチュエータ出力決定手段として機能する。具体的には、段差抵抗トルクに応じて付加する駆動トルクを決定する段差昇降トルク決定手段、及び、段差昇降トルクに応じて車体の重心補正量を決定する重心補正量決定手段として機能する。
なお、各センサは、複数の状態量を取得するものであってもよい。例えば、車体傾斜センサ41として加速度センサとジャイロセンサとを併用し、両者の計測値から車体傾斜角と車体傾斜角速度を決定してもよい。
次に、前記構成の車両10の動作について説明する。まず、走行及び姿勢制御処理の概要について説明する。
図3は本発明の第1の実施の形態における車両の段差昇降動作を示す概略図、図4は本発明の第1の実施の形態における車両の走行及び姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。なお、図3(a)は比較のための従来技術による動作例を示し、図3(b)は本実施の形態による動作を示している。
「背景技術」の項で説明したような従来の車両の場合、図3(a)に示されるように、段差に乗り上げるために駆動輪12に付与した駆動トルクの反作用、すなわち、反トルクが車体に作用するので、車体が後方に傾いてしまう。そのため、段差に乗り上げるときに、安定した車体姿勢及び走行の制御を行うことができない。
これに対し、本実施の形態においては、搭乗部14が能動重量部として機能し、図3(b)に示されるように、搭乗部14を前後に移動させることによって、車両10の重心位置を能動的に補正する。これにより、段差に乗り上げるときには、車体の重心を前方に移動させるので、段差に乗り上げるための駆動トルクを駆動輪12に付与したときの反作用、すなわち、反トルクが車体に作用しても、車体が後方に傾いてしまうことがない。したがって、段差に乗り上げるときにも安定した車体姿勢及び走行の制御を行うことができる。本実施の形態は、特に停止状態及び低速走行状態から段差に進入する場合に効果的である。
また、段差に乗り上げるための駆動トルクを、乗り上げ動作の間、リアルタイムで推定して駆動輪12に付与する。これにより、任意の形状の段差に対して、安定した乗り上げが可能となる。
すなわち、実施の形態においては、車両10の重心位置補正や駆動トルクの付与を含む走行及び姿勢制御処理を実行することによって、車両10は安定して段差を昇降することができる。
走行及び姿勢制御処理において、制御ECU20は、まず、状態量の取得処理を実行し(ステップS1)、各センサ、すなわち、駆動輪センサ51、車体傾斜センサ41及び能動重量部センサ61によって、駆動輪12の回転状態、車体の傾斜状態及び搭乗部14の移動状態を取得する。
次に、制御ECU20は、段差昇降トルクの決定処理を実行し(ステップS2)、状態量の取得処理で取得した状態量、すなわち、駆動輪12の回転状態、車体の傾斜状態及び搭乗部14の移動状態と、各アクチュエータの出力値、すなわち、駆動モータ52及び能動重量部モータ62の出力値に基づき、オブザーバによって段差抵抗トルクを推定し、段差昇降トルクを決定する。ここで、前記オブザーバは、力学的なモデルに基づいて、制御系の内部状態を観測する方法であり、ワイヤードロジック又はソフトロジックで構成される。
次に、制御ECU20は、目標走行状態の決定処理を実行し(ステップS3)、ジョイスティック31の操作量に基づいて、車両10の加速度の目標値、及び、駆動輪12の回転角速度の目標値を決定する。
次に、制御ECU20は、目標車体姿勢の決定処理を実行し(ステップS4)、段差昇降トルクの決定処理によって決定された段差昇降トルクと、目標走行状態の決定処理によって決定された車両10の加速度の目標値に基づいて、車体姿勢の目標値、すなわち、車体傾斜角及び能動重量部位置の目標値を決定する。
最後に、制御ECU20は、アクチュエータ出力の決定処理を実行し(ステップS5)、状態量の取得処理によって取得された各状態量、段差昇降トルクの決定処理によって決定された段差昇降トルク、目標走行状態の決定処理によって決定された目標走行状態、及び、目標車体姿勢の決定処理によって決定された目標車体姿勢に基づいて、各アクチュエータの出力、すなわち、駆動モータ52及び能動重量部モータ62の出力を決定する。
次に、走行及び姿勢制御処理の詳細について説明する。まず、状態量の取得処理について説明する。
図5は本発明の第1の実施の形態における車両の力学モデル及びそのパラメータを示す図、図6は本発明の第1の実施の形態における状態量の取得処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態においては、状態量やパラメータを次のような記号によって表す。なお、図5には状態量やパラメータの一部が示されている。
θ
W :駆動輪回転角〔rad〕
θ
1 :車体傾斜角(鉛直軸基準)〔rad〕
λ
S :能動重量部位置(車体中心点基準)〔m〕
τ
W :駆動トルク(2つの駆動輪の合計)〔Nm〕
S
S :能動重量部推力〔N〕
g:重力加速度〔m/s
2 〕
m
W :駆動輪質量(2つの駆動輪の合計)〔kg〕
R
W :駆動輪接地半径〔m〕
I
W :駆動輪慣性モーメント(2つの駆動輪の合計)〔kgm
2 〕
D
W :駆動輪回転に対する粘性減衰係数〔Ns/rad〕
m
1 :車体質量(能動重量部を含む)〔kg〕
l
1 :車体重心距離(車軸から)〔m〕
I
1 :車体慣性モーメント(重心周り)〔kgm
2 〕
D
1 :車体傾斜に対する粘性減衰係数〔Ns/rad〕
m
S :能動重量部質量〔kg〕
l
S :能動重量部重心距離(車軸から)〔m〕
I
S :能動重量部慣性モーメント(重心周り)〔kgm
2 〕
D
S :能動重量部並進に対する粘性減衰係数〔Ns/rad〕
次に、段差昇降トルクの決定処理について説明する。
図7は本発明の第1の実施の形態における段差昇降トルクの決定処理の動作を示すフローチャートである。
段差昇降トルクの決定処理において、主制御ECU21は、まず、段差抵抗トルクτD を推定する(ステップS2−1)。この場合、状態量の取得処理で取得した各状態量と、前回(一つ前の時間ステップ)の走行及び姿勢制御処理におけるアクチュエータ出力の決定処理で決定した各アクチュエータの出力とに基づき、次の式(1)により、段差抵抗トルクτD を推定する。
続いて、主制御ECU21は、段差昇降トルクτC を決定する(ステップS2−2)。この場合、推定した段差抵抗トルクτD の値を段差昇降トルクτC の値とする。すなわち、τC =τD とする。
このように、本実施の形態においては、駆動モータ52が出力する駆動トルクと、状態量としての車両並進加速度を示す駆動輪回転角加速度、車体傾斜角加速度及び能動重量部移動加速度とに基づいて段差抵抗トルクを推定する。この場合、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角加速度だけでなく、車体姿勢の変化を示す車体傾斜角加速度及び能動重量部移動加速度も考慮している。すなわち、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両、いわゆる倒立型車両に特有の要素である車体姿勢の変化を考慮している。
従来においては、駆動トルクと駆動輪回転角加速度とに基づいて段差抵抗トルクを推定するため、特に車体の姿勢が変化しているとき、段差抵抗トルクの推定値に大きな誤差が生じることがあった。しかし、本実施の形態においては、車体の姿勢変化を示す車体傾斜角加速度及び能動重量部移動加速度をも考慮して段差抵抗トルクを推定するので、大きな誤差が生じることがなく、高い精度で段差抵抗トルクを推定することができる。
一般的に、倒立型車両では、駆動輪と相対的に車体の重心が前後に移動するので、駆動輪が停止していても、車両の重心が前後に移動することがある。したがって、重心の加速度と駆動力、あるいは、駆動トルクとから段差抵抗トルクを高い精度で推定するためには、このような影響を考慮する必要がある。一般的な倒立型車両においては、車両全体に対する車体の重量比率が高く、かつ、段差昇降動作中の姿勢変化が大きいので、このような影響が大きくなる。
また、本実施の形態においては、段差の昇降動作中に変化する段差抵抗トルクを常に推定している。例えば、段差の昇降動作中に一定の駆動トルクを駆動輪12に付与すると、昇降終了直前に、車両10が不必要に加減速してしまうことがある。これは、例えば、段差に乗り上げる場合、車両10が段差を上るのと共に段差抵抗トルクが小さくなるためである。そこで、本実施の形態においては、段差昇降状態と共に変化する段差抵抗トルクの推定をリアルタイムで行い、その値を常に更新することで、常に段差の昇降動作に適した段差昇降トルクを付与するようになっている。
なお、段差抵抗トルクの推定値にローパスフィルタをかけることによって、推定値の高周波成分を除去することもできる。この場合、推定に時間遅れが生じるが、高周波成分に起因する振動を抑制することができる。
本実施の形態においては、慣性力のみを考慮しているが、駆動輪12の転がり抵抗や回転軸の摩擦による粘性抵抗、あるいは、車両10に作用する空気抵抗などを副次的な影響として考慮してもよい。
また、本実施の形態においては、駆動輪12の回転運動に関する線形モデルを使用しているが、より正確な非線形モデルを使用してもよいし、車体傾斜運動や能動重量部並進運動についてのモデルを使用してもよい。なお、非線形モデルについては、マップの形式で関数を適用することもできる。
さらに、計算の簡略化のために、車体姿勢の変化を考慮しなくてもよい。
次に、目標走行状態の決定処理について説明する。
図8は本発明の第1の実施の形態における目標走行状態の決定処理の動作を示すフローチャートである。
目標走行状態の決定処理において、主制御ECU21は、まず、操縦操作量を取得する(ステップS3−1)。この場合、乗員15が、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するために操作したジョイスティック31の操作量を取得する。
続いて、主制御ECU21は、取得したジョイスティック31の操作量に基づいて、車両加速度の目標値を決定する(ステップS3−2)。例えば、ジョイスティック31の前後方向への操作量に比例した値を車両加速度の目標値とする。
続いて、主制御ECU21は、決定した車両加速度の目標値から、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS3−3)。例えば、車両加速度の目標値を時間積分し、駆動輪接地半径RW で除した値を駆動輪回転角速度の目標値とする。
次に、目標車体姿勢の決定処理について説明する。
図9は本発明の第1の実施の形態における能動重量部位置の目標値及び車体傾斜角の目標値の変化を示すグラフ、図10は本発明の第1の実施の形態における目標車体姿勢の決定処理の動作を示すフローチャートである。
目標車体姿勢の決定処理において、主制御ECU21は、まず、能動重量部位置の目標値及び車体傾斜角の目標値を決定する(ステップS4−1)。この場合、目標走行状態の決定処理によって決定された車両加速度の目標値と、段差昇降トルクの決定処理によって取得された段差昇降トルクτC に基づき、次の式(2)及び(3)により、能動重量部位置の目標値及び車体傾斜角の目標値を決定する。
続いて、主制御ECU21は、残りの目標値を算出する(ステップS4−2)。すなわち、各目標値を時間微分又は時間積分することにより、駆動輪回転角、車体傾斜角速度及び能動重量部移動速度の目標値を算出する。
このように、本実施の形態においては、車両加速度に伴って車体に作用する慣性力及び駆動モータ反トルクだけでなく、段差抵抗トルクτD に応じた段差昇降トルクτC に伴って車体に作用する反トルクも考慮して、車体姿勢の目標値、すなわち、能動重量部位置の目標値及び車体傾斜角の目標値を決定する。
このとき、車体に作用して車体を傾斜させようとするトルク、すなわち、車体傾斜トルクを重力の作用によって打ち消すように、車体の重心を移動させる。例えば、車両10が段差を上るときには、搭乗部14を前方へ移動させ、あるいは、さらに車体を前方へ傾ける。また、車両10が段差を下るときには、搭乗部14を後方へ移動させ、あるいは、さらに車体を後方へ傾ける。
本実施の形態においては、図9に示されるように、まず、車体を傾斜させずに搭乗部14を移動させ、該搭乗部14が能動重量部移動限界に達すると、車体の傾斜を開始させる。そのため、細かい加減速に対しては車体が前後に傾かないので、乗員15にとっての乗り心地が向上する。また、格別に高い段差でなければ、段差の上でも車体が直立状態を維持するので、乗員15にとっての視界の確保が容易となる。さらに、格別に高い段差でなければ、段差の上でも車体が大きく傾斜することがないので、車体の一部が路面に接触することが防止される。
なお、本実施の形態においては、能動重量部移動限界が前方と後方とで等しい場合を想定しているが、前方と後方とで異なる場合には、各々の限界に応じて、車体の傾斜の有無を切り替えるようにしてもよい。例えば、加速性能よりも制動性能を高く設定する場合、後方の能動重量部移動限界を前方の限界よりも遠くに設定する必要がある。
また、本実施の形態においては、加速度が低いときや段差が低いときには、搭乗部14の移動だけで対応させているが、その車体傾斜トルクの一部又は全部を車体の傾斜で対応させてもよい。車体を傾斜させることにより、乗員15に作用する前後方向の慣性力を軽減することができる。
さらに、本実施の形態においては、線形化した力学モデルに基づいた式を使用しているが、より正確な非線形モデル又は粘性抵抗を考慮したモデルに基づいた式を使用してもよい。なお、式が非線形になる場合には、マップの形式で関数を適用することもできる。
次に、アクチュエータ出力の決定処理について説明する。
図11は本発明の第1の実施の形態におけるアクチュエータ出力の決定処理の動作を示すフローチャートである。
アクチュエータ出力の決定処理において、主制御ECU21は、まず、各アクチュエータのフィードフォワード出力を決定する(ステップS5−1)。この場合、各目標値と段差昇降トルクτC とから、次の式(4)により駆動モータ52のフィードフォワード出力を決定し、また、次の式(5)により能動重量部モータ62のフィードフォワード出力を決定する。
このように、段差抵抗トルクτD に応じた段差昇降トルクτC を自動的に付加することにより、つまり、段差抵抗トルクτD に応じて駆動トルクを補正することにより、段差の昇降の際にも、平地と同様の操縦感覚を提供することができる。すなわち、平地と同様の操縦操作で段差を乗り降りすることができる。また、ジョイスティック31の一定の操縦操作に対して、段差の昇降の際に、車両10が不必要な加減速を行うことがない。
このように、本実施の形態においては、理論的にフィードフォワード出力を与えることによって、より高精度な制御を実現する。
なお、必要に応じて、フィードフォワード出力を省略することもできる。この場合、フィードバック制御により、定常偏差を伴いつつ、フィードフォワード出力に近い値が間接的に与えられる。また、前記定常偏差は、積分ゲインを適用することによって低減させることができる。
続いて、主制御ECU21は、各アクチュエータのフィードバック出力を決定する(ステップS5−2)。この場合、各目標値と実際の状態量との偏差から、次の式(6)により駆動モータ52のフィードバック出力を決定し、また、次の式(7)により能動重量部モータ62のフィードバック出力を決定する。
なお、スライディングモード制御等の非線形のフィードバック制御を導入することもできる。また、より簡単な制御として、KW2、KW3及びKS5を除くフィードバックゲインのいくつかをゼロとしてもよい。さらに、定常偏差をなくすために、積分ゲインを導入してもよい。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与える(ステップS5−3)。この場合、主制御ECU21は、前述のように決定したフィードフォワード出力とフィードバック出力との和を駆動トルク指令値及び能動重量部推力指令値として、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23に送信する。
このように、本実施の形態においては、段差抵抗トルクτD をオブザーバによって推定し、段差昇降トルクτC を与えるとともに、搭乗部14を段差の上段方向に移動させる。そのため、段差の上でも車体を直立に保持することができ、段差の昇降にも対応することができる。また、段差を計測する装置が不要となり、システム構成を簡素化してコストを低減することができる。
さらに、車体の姿勢を示す車体傾斜角θ1 及び能動重量部位置λS も考慮して段差昇降トルクτC を推定するので、大きな誤差が生じることなく、極めて高い精度で段差昇降トルクτC を推定することができる。
なお、本実施の形態は、段差を上るときだけでなく、段差を降りるときにも有効であることを注記する。段差昇降トルクの付与によって段差降下時の車両の加速を抑えるのと共に、搭乗部14を後方に移動させることにより車体を直立に保持する。これは、以降で説明する第2及び第3の実施の形態でも同様である。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図12は本発明の第2の実施の形態における車両の制御システムの構成を示すブロック図、図13は本発明の第2の実施の形態における車両の段差の昇降における動作を示す概略図である。
前記第1の実施の形態においては、搭乗部14が、車両10の前後方向に本体部11に対して相対的に並進可能となるように取り付けられ、能動重量部として機能する。この場合、能動重量部モータ62を備える移動機構が配設され、これにより搭乗部14を並進させるので、構造の複雑化、コストや重量の増加と共に、制御システムも複雑化する。一方、前記第1の実施の形態は、搭乗部14を移動させる移動機構を有していない倒立型車両に適用することは不可能である。
そこで、本実施の形態においては、搭乗部14を移動させる移動機構が省略されている。また、図12に示されるように、制御システムからも、能動重量部制御システム60が省略され、能動重量部制御ECU23、能動重量部センサ61及び能動重量部モータ62が省略されている。なお、その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明は省略する。
そして、本実施の形態においては、図13に示されるように、段差を昇降する際には、段差を昇降するための駆動輪12に付与する駆動トルク、すなわち、段差昇降トルクの反作用として車体に作用する反トルクとしての車体傾斜トルクに対し、車体を段差昇降トルクに応じた角度だけ段差の上段方向に傾けることにより、車体傾斜トルクを重力の作用で打ち消してバランスを保つようになっている。
なお、「背景技術」の項でも説明したように、例えば、段差に乗り上げるとき、必要な駆動トルクを駆動輪に付与すると、その反作用が車体に働くので、車体が段差と逆の方向、すなわち、段差の下段方向に大きく傾いてしまう。一方、車体の姿勢を直立に維持しようとすると、必要な駆動トルクを駆動輪に付与することができないので、段差に乗り上げることができなくなってしまう。また、段差を降りるときにも同様の現象が発生し、車体が前方に傾いてしまう。
これに対し、本実施の形態においては、段差の高さに適した角度だけ車体を段差の上段方向に意図的に傾けるので、段差の昇降の際にも、安定した車体の姿勢を保つことができ、段差のある場所でも安全に、かつ、快適に走行することができる。
次に、本実施の形態における走行及び姿勢制御処理の詳細について説明する。なお、走行及び姿勢制御処理の概要及び目標走行状態の決定処理については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略し、状態量の取得処理、段差昇降トルクの決定処理、目標車体姿勢の決定処理及びアクチュエータ出力の決定処理についてのみ説明する。まず、状態量の取得処理について説明する。
図14は本発明の第2の実施の形態における状態量の取得処理の動作を示すフローチャートである。
次に、段差昇降トルクの決定処理について説明する。
図15は本発明の第2の実施の形態における段差昇降トルクの決定処理の動作を示すフローチャートである。
段差昇降トルクの決定処理において、主制御ECU21は、段差抵抗トルクτD を推定する(ステップS2−11)。この場合、状態量の取得処理で取得した各状態量と、前回(一つ前の時間ステップ)の走行及び姿勢制御処理におけるアクチュエータ出力の決定処理で決定した各アクチュエータの出力とに基づき、次の式(8)により、段差抵抗トルクτD を推定する。
続いて、主制御ECU21は、段差昇降トルクτC を決定する(ステップS2−12)。この場合、推定した段差抵抗トルクτD の値を段差昇降トルクτC の値とする。すなわち、τC =τD とする。
このように、本実施の形態においては、駆動モータ52が出力する駆動トルクと、状態量としての駆動輪回転角加速度及び車体傾斜角加速度に基づいて段差抵抗トルクを推定する。この場合、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角加速度だけでなく、車体姿勢の変化を示す車体傾斜角加速度も考慮している。すなわち、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両、いわゆる倒立型車両に特有の要素である車体姿勢の変化を考慮している。
従来においては、駆動トルクと駆動輪回転角加速度とに基づいて段差抵抗トルクを推定するため、特に車体の姿勢が大きく変化するとき、段差抵抗トルクの推定値に大きな誤差が生じることがあった。しかし、本実施の形態においては、車体の姿勢変化を示す車体傾斜角加速度を考慮して段差抵抗トルクを推定するので、大きな誤差が生じることがなく、高い精度で段差抵抗トルクを推定することができる。
また、本実施の形態においては、段差の昇降動作中に変化する段差抵抗トルクを常に推定している。例えば、段差の昇降動作中に一定の駆動トルクを駆動輪12に付与すると、昇降終了直前に、車両10が不必要に加減速してしまうことがある。これは、例えば、段差に乗り上げる場合、車両10が段差を上るのと共に段差抵抗トルクが小さくなるためである。そこで、本実施の形態においては、段差昇降状態と共に変化する段差抵抗トルクの推定をリアルタイムで行い、その値を常に更新することで、常に段差の昇降動作に適した段差昇降トルクを付与するようになっている。
なお、前記第1の実施の形態と同様に、段差抵抗トルクの推定値にローパスフィルタをかけることによって、推定値の高周波成分を除去することもできる。この場合、推定に時間遅れが生じるが、高周波成分に起因する振動を抑制することができる。
本実施の形態においては、慣性力のみを考慮しているが、駆動輪12の転がり抵抗や回転軸の摩擦による粘性抵抗、あるいは、車両10に作用する空気抵抗などを、副次的な影響として考慮してもよい。
また、より正確な非線形モデルを使用してもよいし、車体傾斜運動についてのモデルを使用してもよい。なお、非線形モデルについては、マップの形式で関数を適用することもできる。
さらに、計算の簡略化のために、車体姿勢の変化を考慮しなくてもよい。
次に、目標車体姿勢の決定処理について説明する。
図16は本発明の第2の実施の形態における目標車体姿勢の決定処理の動作を示すフローチャートである。
目標車体姿勢の決定処理において、主制御ECU21は、まず、車体傾斜角の目標値を決定する(ステップS4−11)。この場合、目標走行状態の決定処理によって決定された車両加速度の目標値と、段差昇降トルクの決定処理によって取得された段差昇降トルクτC とに基づき、次の式(9)により、車体傾斜角の目標値を決定する。
続いて、主制御ECU21は、残りの目標値を算出する(ステップS4−12)。すなわち、各目標値を時間微分又は時間積分することにより、駆動輪回転角及び車体傾斜角速度の目標値を算出する。
このように、本実施の形態においては、車両加速度に伴って車体に作用する慣性力及び駆動モータ反トルクだけでなく、段差抵抗トルクτD に応じた段差昇降トルクτC に伴って車体に作用する反トルクも考慮して、車体姿勢の目標値、すなわち、車体傾斜角の目標値を決定する。
このとき、車体傾斜トルクを重力の作用によって打ち消すように、車体の重心を移動させる。例えば、車両10が加速するとき及び段差を上るときには車体を前方へ傾ける。また、車両10が減速するとき及び段差を下るときには車体を後方へ傾ける。
なお、本実施の形態においては、線形化した力学モデルに基づいた式を使用しているが、より正確な非線形モデル又は粘性抵抗を考慮したモデルに基づいた式を使用してもよい。なお、式が非線形になる場合には、マップの形式で関数を適用することもできる。
次に、アクチュエータ出力の決定処理について説明する。
図17は本発明の第2の実施の形態におけるアクチュエータ出力の決定処理の動作を示すフローチャートである。
アクチュエータ出力の決定処理において、主制御ECU21は、まず、アクチュエータのフィードフォワード出力を決定する(ステップS5−11)。この場合、目標値と段差昇降トルクτC とから、前記第1の実施の形態において説明した前記式(4)により駆動モータ52のフィードフォワード出力を決定する。
前記式(4)に表されるように、段差抵抗トルクτD に応じた段差昇降トルクτC を自動的に付加することにより、段差の昇降の際にも、平地と同様の操縦感覚を提供することができる。すなわち、平地と同様の操縦操作で段差を乗り降りすることができる。また、ジョイスティック31の一定の操縦操作に対して、段差の昇降の際に、車両10が不必要に加減速することがない。
なお、本実施の形態においては、理論的にフィードフォワード出力を与えることによって、より高精度な制御を実現するが、必要に応じて、フィードフォワード出力を省略することもできる。この場合、フィードバック制御により、定常偏差を伴いつつ、フィードフォワード出力に近い値が間接的に与えられる。また、前記定常偏差は、積分ゲインを適用することによって低減させることができる。
続いて、主制御ECU21は、アクチュエータのフィードバック出力を決定する(ステップS5−12)。この場合、各目標値と実際の状態量との偏差から、次の式(10)により駆動モータ52のフィードバック出力を決定する。
なお、スライディングモード制御等の非線形のフィードバック制御を導入することもできる。また、より簡単な制御として、KW2及びKW3を除くフィードバックゲインのいくつかをゼロとしてもよい。さらに、定常偏差をなくすために、積分ゲインを導入してもよい。
最後に、主制御ECU21は、要素制御システムに指令値を与える(ステップS5−13)。この場合、主制御ECU21は、前述のように決定したフィードフォワード出力とフィードバック出力との和を駆動トルク指令値として、駆動輪制御ECU22に送信する。
このように、本実施の形態においては、車体を段差の上段方向に傾けて、段差の昇降の際にバランスを保つことができる。したがって、搭乗部14を移動させる移動機構を有していない倒立型車両に適用することができ、構造及び制御システムを簡素化することで、安価で軽量な倒立型車両でも安定した段差の乗り降りを実現することができる。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図18は本発明の第3の実施の形態における曲率補正係数の変化を示す図、図19は本発明の第3の実施の形態における速度補正係数の変化を示す図、図20は本発明の第3の実施の形態における段差抵抗トルクの補正を説明する図、図21は本発明の第3の実施の形態における段差昇降トルクの決定処理の動作を示すフローチャートである。
段差抵抗トルクτD の推定、及び、推定された段差抵抗トルクτD に基づく車両10の走行及び姿勢の制御に遅れが生じてしまうことがある。これは、駆動輪センサ51、車体傾斜センサ41、能動重量部センサ61等のセンサの計測値のノイズに起因する段差抵抗トルクτD の推定値のノイズを除去するためにローパスフィルタを使用したり、段差抵抗トルクτD の推定計算に必要な加速度を得るために後退差分計算を行うためである。特に、段差に突入する車両10の速度が高い場合に、遅れの影響が顕著に現れる。このような遅れが生じると、車両10の不必要な加減速や車体の大きな傾斜が発生し、乗り心地が悪化してしまう。
そこで、本実施の形態においては、段差抵抗トルクτD の推定値と、該推定値の時間変化率とに基づいて、前記推定値を少し未来の時刻における値に補正する。具体的には、線形外挿によって少し先の時刻の推定値であると予測される値に補正する。また、推定値の時間変化率及び曲率(時間変化加速度)の正負が異なる場合には、補正しない。さらに、駆動輪12の回転速度の絶対値が大きいほど、前記推定値の補正量を大きくする。
これにより、段差を昇降する際に、車両10の走行状態や車体の姿勢がより安定したものとなる。また、段差に突入する車両10の速度が高くても、段差昇降動作が安定したものとなる。
次に、本実施の形態における走行及び姿勢制御処理の詳細について説明する。なお、走行及び姿勢制御処理の概要、状態量の取得処理、目標走行状態の決定処理、目標車体姿勢の決定処理及びアクチュエータ出力の決定処理については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略し、段差昇降トルクの決定処理についてのみ説明する。
段差昇降トルクの決定処理において、主制御ECU21は、まず、段差抵抗トルクτ
D を推定する(ステップS2−21)。この場合、前記第1の実施の形態と同様に、状態量の取得処理で取得した各状態量と、前回(一つ前の時間ステップ)の走行及び姿勢制御処理におけるアクチュエータ出力の決定処理で決定した各アクチュエータの出力とに基づき、段差抵抗トルクτ
D を推定する。
ξCCは曲率補正係数であり、次の式(12)で表され、図18に示されるように変化する。
なお、Δtb は、差分計算の時間刻みである。時間刻みΔtf 及びΔtb は、例えば、ローパスフィルタの時定数TLPF を基準として、次の式(13)で表されるような条件を満たす値が設定される。
Δtf ≦TLPF ≦Δtb ・・・式(13)
さらに、ξVCは速度補正係数であり、次の式(14)で表され、図19に示されるように変化する。
このように、段差抵抗トルクτD は、該段差抵抗トルクτD の推定値と該推定値の時間変化率τD ’とに基づき、推定値を少し先の時刻で得られるであろうと予測される値に補正される。具体的には、図20に示されるように、線形外挿によって少し先の時刻における推定値を予測する。この場合、前記式(13)で表されるように、推定値算出時におけるローパスフィルタの時定数に比べて、時間変化率を求める差分計算の時間刻みを大きくし、線形外挿の時間刻みを小さくすることで、制御の安定性及び一貫性を確保する。このように、適切に未来の時刻における値を予測することで、推定遅れによる影響を低減することができる。
なお、推定値の時間変化率τ
D ’の正負と曲率τ
D ”の正負とが異なる場合、すなわち、両者の積が負となる場合には補正を行わない。つまり、前記式(12)及び図18に示されるようにγがゼロ以下の範囲では、曲率補正係数ξ
CCをゼロにして、補正を行わない。そして、前記積の正負が反転するときの不連続性を解消するために、連続的な補正関数を与える。これにより、線形外挿における過大な補正を防止し、適切な推定及び制御を行うことができる。
最後に、主制御ECU21は、段差昇降トルクτC を決定する(ステップS2−23)。この場合、推定した段差抵抗トルクτD の値を段差昇降トルクτC の値とする。すなわち、τC =τD とする。
これにより、段差を昇降する際に、車両10の走行状態や車体の姿勢をより安定したものとすることができる。
なお、本実施の形態においては、線形外挿、すなわち、1次の外挿によって未来の時刻における値を予測した場合についてのみ説明したが、より高次の外挿によって補正量を決定することもできる。
また、本実施の形態においては、段差抵抗トルクτD の推定値の大きさに無関係に補正を行う場合についてのみ説明したが、前記推定値の絶対値が所定の閾値を上回ったときにのみ補正を行うことにより、段差に対してのみ適切な補正を行うようにすることもできる。
このように、本実施の形態においては、段差抵抗トルクτD の推定値を、該推定値の時間変化率に基づいて予測した未来の時刻における値に補正するようになっている。したがって、段差を昇降する際に、車両10の走行状態や車体の姿勢がより安定する。特に、段差に突入する車両10の速度が高くても、段差昇降動作が安定する。これにより、車両10は、段差昇降の際に、より安全に、かつ、より快適に走行することができる。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。