本発明は、上記事実を考慮して、トレッドショルダー部の耐摩耗性の向上と、横グリップ性を向上させることによる旋回時の操縦安定性の向上と、を両立させた二輪車用タイヤを提供することを課題とする。
本発明者は、本発明を完成するにあたり、以下の検討を行った。
二輪車用タイヤでは、二輪車が車体を傾けて旋回することから、直進時と旋回時とでは、トレッド部が地面と接する場所が異なる。つまり、直進時にはトレッド部の中央部分を使い、旋回時にはトレッド部の端部を使う特徴がある。そして、旋回時にはタイヤの横方向(幅方向)に対してグリップすることが求められる。二輪車を速く旋回させるには、旋回速度にともなって大きくなる遠心力と釣り合わせるために車体を大きく倒す必要があり、さらにその遠心力に対抗できるようにタイヤがグリップできなければならない。つまり、車体を大きく傾けたときのタイヤのグリップ力が不足する場合は、速く旋回できないことになるため、ここでのグリップ性能が旋回性能に及ぼす影響が非常に大きい。
本発明者は、更に、旋回時のグリップ性を向上させるために詳細な研究を行った。特にバイク車輌が最も倒れるバンク角度(キャンバー角度)45〜50度付近でのグリップ性を集中的に向上させることに取り組んだ。これは、例えばレースにおいては旋回速度が非常に重要であり、旋回速度が速ければコーナーの次のストレートでの速度も速くなり、結果的にラップタイムが向上するからである。また、一般道路においても旋回時のグリップ力を増すことは安全性に貢献できる。
そして、本発明者は、自動二輪車用のタイヤで車体を大きく倒した場合の旋回性能について以下の検討を行った。
バイク車体を大きく倒して旋回する場合、図7のような接地状態となって、タイヤのトレッドの片側の端部が接地してグリップ力を発生させている。すなわち、タイヤのキャンバー角(以下、キャンバーアングルとしてCAと記す)が45〜55度で旋回する場合、タイヤのトレッド幅(全幅)のほぼ1/4の領域が接地する。接地しているこの領域を3等分し、トレッド端部から領域A、領域B、領域Cとする。
以下、タイヤの幅方向断面でのトレッド変形を検討する。トレッド部の変形によってタイヤに横力が発生するからである。横方向(幅方向)のトレッド部の変形はキャンバースラスト(横力)を発生させる。
図7はCA50度でタイヤが接地して回転しているときの断面を示したものである。断面の下には接地部の形状を示した。タイヤの寸法等によっては、接地形状は楕円の一部が欠けた形状であったり、半月状(図8参照)であったりする。
図7に示した楕円型接地形状の領域Bのトレッド部分の幅方向変形について述べる。領域Bのタイヤ幅方向中央位置でトレッド表面すなわち路面に接する位置をQ点とし、Q点の内側でトレッド部の最深部をP点とする。図7には、接地転動時におけるP点の軌跡、及び、Q点の軌跡が示されている。P点はトレッド部がタイヤのベルト(骨格部材)に接している点であり、タイヤがCAをつけて傾いて転動するため、P点の軌跡は弓なりの曲線を描く。これに対して、Q点はトレッド表面が路面に接触した時に路面に固定されるため、路面の方向に、すなわちタイヤの進行方向に直線的に動く。従って、Q点の軌跡は直線を描く。
このようにP点の軌跡とQ点の軌跡との差によって、トレッド部が横剪断を受ける。丁度、弓と弦の関係であり、荷重直下で最大の横剪断量を受ける。この横剪断量によってトレッド部が横方向(幅方向)に変形するため、横力(キャンバースラスト)が発生する。このようなキャンバースラスト発生の仕組みから、接地長(接地形状の周方向長さ、すなわち赤道方向の長さ)が長い方が、P点とQ点とで軌跡の差が広がり、トレッド部が大きなせん断力を受ける。接地長が短いと、トレッド部が受ける剪断量(横方向すなわちタイヤ幅方向の剪断量)は少ない。
図7に示すように、接地形状が楕円型の場合には、領域Bでの横剪断量が最も大きく、次いで領域Aでの横剪断量が大きく、領域Cでの横剪断量は少ない。なお、図7に、領域Aの中央での回転半径をRA、領域Cの中央での回転半径をRCとして示す。図8に示すように、接地形状が半月型の場合は、領域Bと領域Aとで大きな横剪断量を受け、領域Cでの横剪断量は少ない。つまり、CAが45度〜55度である大CA時の旋回では、領域Bや領域Aが横力を大きく稼ぐ部位である。
一方、バイクの傾き角(バンク角、CA)を観察すると、CAが45度〜55度以上にはバイクは倒れない。つまり、領域Aは、バイクが最大角度で傾いた時のみに接地する領域である。また、領域Bについても、バイクが大きく傾いた時を中心に使われる。一方、領域Cは、バイクが大きく傾いてからやや傾きが戻った領域、つまりCAが40度近辺で、特によく使われる部分である。つまり、領域Cは、バイクを傾けていく過程で使い、更に大きく倒した時も使い、さらにバイクを加速させて直立する過程でも使う。特に、摩耗の大きいリアタイヤについて考えると、この領域Cは、バイクを大きく倒して、そこから加速するときに使う領域であり、すなわちCA40度近辺でバイクは大きな駆動力を伝えることが多いため、領域Cは加速時の前後方向の駆動入力と、横方向の横入力の両方を頻度高く受ける領域と言える。そのため、この領域Cは、トレッド部の摩耗が進む部位である。
領域A〜Cについてまとめると以下のようになる。
領域A:最大CA(45度〜55度)の時にのみ使用され、横入力を受ける。最大CA時での横グリップ力の発生に大きく寄与する(特に接地形状が半月形状の場合)。
領域B:最大CA(45度〜55度)の時に主体的に使う。最大CA時での横グリップ力の発生に大きく寄与する(特に接地形状が楕円形状の場合)。最大またCA40度の時にも接地しており、領域Aよりは使用頻度が高い。
領域C:最大CA(45度〜55度)の時にも使われる。さらに、最大CAに達する過程で使われ、特にリアタイヤの場合は、CA40度の本格加速開始時点で中心的に使われるため、摩耗が激しい部位となる。領域Aや領域Bと比べると明らかに使用頻度が高い。また、CAが40度の時には、接地形状の中心となり、接地長が伸びるため、横方向の剪断量も大きくなり、摩耗に厳しい。
また、二輪タイヤのキャンバースラスト発生のしくみの特性から、もう1点特徴的なことがある。図7に示したP点の軌跡とQ点の軌跡との差がトレッドの横変形量であるが、この横変形量は一定の変位である。つまり、この軌跡は、タイヤの幾何学的なもので決まるため、最大の横剪断量は一定の量となる。通常のタイヤで、大CA時における領域Bの最大の横剪断量は7mm程度である。そのため、トレッド部のゴムが硬くても柔らかくても、横剪断量は一定の7mm程度である。つまり、トレッドゴムが柔らかいと、変位は一定のため、トレッド部を変形させる力が少なくて済む(すなわち発生する横力が小さい)。逆に、トレッド部のゴムが硬いと、トレッド部を一定量だけ横変形させるのに大きな力を要する、すなわち、発生する横力(キャンバースラスト)が大きくなる。つまり、キャンバースラスト(横力)は、トレッド部の剛性(トレッドゴムの弾性率、硬度)によるところが大きい。
しかしながら、実際は硬いゴムは路面の細かい凹凸に食い込みにくく、その結果、摩擦係数が小さく滑りやすい。このため、ゴムが硬すぎるとトレッド表面が滑ってしまうので、変位量が減ってしまい横力が出なくなる。
本発明者は以上のような検討を行うとともに実験を重ねて更に検討を加え、本発明を完成するに至った。
請求項1に記載の発明は、少なくとも1枚のカーカスと、前記カーカスのタイヤ径方向外側に配置された少なくとも1枚のベルトと、前記ベルトのタイヤ径方向外側のトレッド部と、を備えた二輪車用タイヤであって、前記トレッド部には、トレッド端部に配置され、トレッド端からの展開幅がトレッド展開幅の5〜14%の範囲内とされ、タイヤセンター側に隣接するセンター側ゴム部に比べてショアA硬度の低い軟質ゴム部と、トレッド端からの展開幅がトレッド展開幅の25%以下となる範囲の少なくとも一部に配置され、前記ベルトのタイヤ径方向外側に隣接し、前記軟質ゴム部及び前記センター側ゴム部よりも損失正接tanδが小さい低損失正接ゴム部と、が形成され、前記軟質ゴム部と前記低損失正接ゴム部との間に、前記センター側ゴム部が介在していることを特徴とする。
請求項1では展開幅(ペリフェリ方向幅)を用いて規定している。ここで展開幅とは、弧を直線にするように、幅方向に丸みをもつ部位を直線状或いは平面状となるように展開したときの幅を意味する。従って、トレッド展開幅(トレッド部の展開幅)とは、トレッド部の外周に沿った略円弧方向の幅のことであり、トレッド部を展開した状態におけるトレッド端同士の間隔のことである。また、軟質ゴム部の展開幅とは、軟質ゴム部の外周に沿った略円弧方向の幅のことである。
請求項1では、トレッド端部においてトレッド表面とトレッド内部とでゴム種を替え、トレッド表面に柔らかいゴムを配置することを規定している。トレッド表面に柔らかいゴムを配置するのは、柔らかいゴムがアスファルトなどの骨材の細かい凹凸に食い込み、摩擦係数が高くなってグリップ性が良くなるからである。一方、先に述べたように、二輪車のトレッドショルダー部の横変位量は幾何学的に決まっており、全てを柔らかくしてしまうとトレッド部の剪断剛性が低下し、大きな横力を発生させることができなくなる。そのため、トレッド部の表面だけを柔らかくしている。
ショアA硬度は、市販の硬度計を用いて計測可能である。例えば、トレッドゴムを切り出し、50℃に保った高温室に30分保管してゴムの温度を50℃にした後に、硬度計で硬度を計測することができる。通常、硬度が高いものは動的弾性率も高い。
請求項1ではこの軟らかさをショアA硬度で規定しているが、動的弾性率(E’)を用いて規定してもよい。動的弾性率は、例えば周波数15Hz、歪5%をサイン波でゴムのサンプルに加え、そのときの反力を計測することで測定することができる。この場合、レオメトリックス社製の粘弾性測定装置を用いて、温度50℃、周波数15Hz、歪5%で動的弾性率を計測してもよい。また、特に自動二輪車の競技用のタイヤの場合は、トレッドショルダー部の温度は100℃を超える場合もあるので、目的に応じて100℃での動的弾性率E’を計測して、本発明の動的弾性率としてもよい。請求項1では特に温度を規定していないが、一般の消費者向けのタイヤでは50℃の動的弾性率を用いることが好ましく、競技用のタイヤでは100℃以上の動的弾性率を用いることが好ましい。
次に、軟質ゴム部の展開幅についてであるが、トレッド部の展開幅の5〜14%の範囲内とした根拠は、前出の図7を用いて説明したように、大CA時でのトレッド部の使われ方に基づく。図7において、大CA時に接地する領域は、トレッド部の展開幅の1/4つまり25%の領域である。横力に寄与するのは、図7に示した領域Aと領域Bである。つまり、25%の約半分程度であり、トレッド端から12.5%の領域が、横力に寄与している。特に、領域Aは、CAが45〜55度の時にだけ接地する部分であり、大CA時にのみ大きく横力を発生させる。この領域Aはトレッド端から8%くらいまでの領域である。
軟質ゴム部の展開幅がトレッド部の展開幅の5%未満である場合、軟質ゴム部がたとえ図7に示した領域Aに配置されていても、軟質ゴム部の配置されている範囲が狭すぎて効果が少なくなる。このため、5%以上とした。軟質ゴム部の展開幅がトレッド展開幅の14%を超えている場合、図7に示した領域C、すなわち、最大CA時以外にも接地する使用頻度が高い領域にまで軟質ゴム部が配置されていることになり、しかも、CA40度で大きな駆動力が加わる領域にまで柔らかいゴムが配置されることになる。このような領域に柔らかいゴム(軟質ゴム部)を配置すると摩耗が進んで耐久性が良くない。軟質ゴム部は、その機能から、大CA時にのみ主に使われ(使用頻度が少なく)、かつ、横グリップ性に寄与する部位に配置することが好ましい。このため、14%以内とした。なお、このような観点で、5〜14%のうち8〜12.5%の範囲としたほうがさらに好ましい。
また、請求項1では、ショアA硬度についての軟質ゴム部の比較対象を、軟質ゴム部のタイヤセンター側に配置されているセンター側ゴム部としている。軟質ゴム部のセンター側に隣接するセンター側ゴム部は、図7の領域Cに相当する部分、つまりCA40度で加速時に使われる厳しい耐磨耗性が要求されるゴム部である。軟質ゴム部は、このセンター側ゴム部と比べて柔らかいことが必要である。なお、CA40度でタイヤの接地中心になるのは図7の領域Cであり、この領域Cは、トレッド端を基点とするとトレッド端から16%〜25%程度の領域である。この部分に柔らかいゴム(軟質ゴム部)を配置してしまうと、加速時の厳しい入力によって表面のゴムが早期に摩耗してしまう。
更に、請求項1では、軟質ゴム部及びセンター側ゴム部とはゴム種が異なる低損失正接ゴム部が配置されている。この低損失正接ゴム部は、トレッド端からの展開幅がトレッド展開幅の25%以下となる範囲の少なくとも一部に、ベルトのタイヤ径方向外側に隣接するように配置されている。そして、この低損失正接ゴム部の損失正接tanδは、軟質ゴム部及びセンター側ゴム部に比べて小さい。
tanδが小さいと発熱を小さくすることができる。トレッドショルダー部は、トレッド部が大きく変形して歪が大きくなる部位である。そのため、発熱が大きくなりやすい。特に本発明のように、表面に柔らかいゴム(軟質ゴム部)を配置すると、柔らかいゴムに生じる歪が大きく、発熱が増える。そこで、請求項1では、ベルトに隣接するトレッド部の最内層側にtanδの低い別のゴムを配置し、内部の発熱量を低減することでトレッド全体の発熱量を低下させている。特に、ベルトに接するトレッド内部の部分は、タイヤ表面から深い部分であり、熱が発生しても熱が逃げにくく、トレッド表面よりも温度が高くなりやすい。この部分に、発熱しにくいゴムとして低損失正接ゴム部を配置すると、トレッドショルダー部(トレッドのショルダー部)の温度を低くすることができる。
ゴムは発熱すると軟化する性質があり、ゴムが軟化するとトレッド剛性が理想の設定よりも柔らかくなりすぎて、横力が得られなくなる。本発明のように、トレッドの表面に柔らかいゴムを配置した場合は特に、柔らかくなりすぎると、横力が得られなくなり、タイヤが横滑りして摩耗が促進する恐れがある。内部にtanδの低いゴムを配置することで、長時間の厳しい旋回走行をしてもトレッドショルダー部の異常発熱を防止できて、安定した走行が可能となる。
以上説明したように、請求項1では、大CA時にのみ使う部位、さらには、トラクションではなく横力のみを発生させる部位に柔らかいゴム(軟質ゴム部)を配置している。これにより、使用頻度は低いが横グリップ性に大きく寄与する部位のみを対象として軟質ゴム部を配置することができ、耐摩耗性の維持とグリップ性能の向上とを両立させた二輪車用タイヤとしている。
更に、請求項1では、内部にtanδの低い低損失正接ゴム部を配置しており、トレッドショルダー部のゴムが高温になってトレッド剛性が低下することを防止している。
また、請求項1では、軟質ゴム部と低損失正接ゴム部との間にセンター側ゴム部が介在している。このようにセンター側ゴム部を延長させた構造とすることで、介在させるゴム部を新たに設けなくても済む。従って、製造工程を増やす必要がなく、製造上のコストが新たに生じる懸念がない。
一方、摩耗が進んで、トレッド表面側の軟質ゴム部が摩滅した時に、tanδの低い低損失正接ゴム部が露出するのではなく、軟質ゴム部よりもやや硬いセンター側ゴム部が露出するので、摩耗によって急激にグリップ性能が損なわれることがない。
なお、tanδの低いゴム(低損失正接ゴム部)では、発熱性は低いが、路面の凹凸にグリップする力が弱い。つまり、tanδの低いゴムの摩擦係数は低く、このようなゴムがトレッド表面に現れた場合、ライダーはタイヤのグリップ力が急激に減少したと感じる。請求項1では、軟質ゴム部が摩滅した時に、低損失正接ゴム部が露出する前にセンター側ゴム部が露出する。従って、グリップ力の低下が段階的になり、急激なグリップ力の低下を防止することが可能である。
請求項2に記載の発明は、前記軟質ゴム部の厚みが、前記トレッド部の平均厚みの20%以上80%以下の範囲内であることを特徴とする。
20%未満であると軟質ゴム部が薄すぎ、表面に柔らかいゴム(軟質ゴム部)を設けても軟質ゴム部が路面の凹凸に食い込みにくい。また、すぐに摩耗してしまう懸念もある。
一方、80%を超えると、トレッド厚み方向(タイヤ径方向)に柔らかいゴム層が広く存在することになるため、トレッド部の総合的な剛性が低下して、横グリップ性(キャンバースラスト性)が低下する。
軟質ゴム部が摩耗しても軟質ゴム部によるグリップ力を維持するためには、20%〜80%のうち40%〜70%の範囲内とすることが更に好ましい。特に市販のタイヤでは、比較的摩耗するまで使うため、厚みは厚い方が好ましい。
一方、競技用の一部のタイヤでは、例えば予選に用いるタイヤのように、1周だけ速く走る目的で用いられるタイヤがある。このようなタイヤでは、剛性とグリップとのバランスから、厚みは薄いほうがよく、20%〜80%のうち20%〜40%の範囲内が適切である。
請求項3に記載の発明は、トレッド端からトレッド展開幅の10%以下の範囲におけるトレッドゴムの平均厚みが、トレッド端を基準としたトレッド展開幅の10%以上25%以下の範囲におけるトレッドゴムの平均厚みよりも薄いことを特徴とする。
トレッド端からトレッド展開幅の10%までの範囲は、主として軟質ゴム部を配置した部位に相当する。また、トレッド端を基準としたトレッド展開幅の10%を開始点、25%を終点とした範囲は、CA50度で旋回する残りの接地部分に相当する。
このように、柔らかいゴム(軟質ゴム部)が配置されたトレッド部分のゴム厚を薄くすることによって、トレッド剛性が向上する。すなわち、ゴムを柔らかくした分だけ、トレッド端からトレッド展開幅の10%までの範囲の全体的な厚みを薄くしてトレッド剛性を確保している。なお、トレッド剛性は厚みの3乗に比例するため、トレッド厚みが8mmの場合には、薄くする肉厚分を0.5mm〜1.5mm程度とすることで十分な効果が奏される。
また、トレッド部の全部を薄くしてしまうと、トレッド剛性は向上するが、タイヤ表面の滑りが全体的に増えてしまい、摩耗ライフが低下する。従って、柔らかいゴム(軟質ゴム部)を配置した部分のみを薄くすることが効果的である。
請求項4に記載の発明は、前記トレッド部のトレッドセンター部の少なくとも一部では、厚さ方向に2種以上のゴム層が形成され、前記軟質ゴム部に隣接している前記センター側ゴム部が前記トレッドセンター部におけるトレッド表面側のゴム層を形成していることを特徴とする。
ここでトレッドセンター部とは、トレッド展開幅の25%の幅で規定されるトレッド中央部のことである。これは、バイクが直立しているときに路面と接触している部分の幅がトレッド展開幅の約25%であることによる。
請求項4では、このトレッドセンター部の少なくとも一部が2層のゴム層から形成されていることを規定している。トレッドセンター部の全ての領域で2層になっていなくても、トレッドセンター部の15%以上の幅で2層になっていれば、この構造による以下の効果が充分に認められる。
2層にする理由は、発熱の抑制、すなわち転がり抵抗の抑制にある。内部に硬いゴムを配置し、外部に柔らかいゴムを配置することによって、表面のゴム(センター側ゴム部)がグリップ力を稼ぎ、内部のゴムが発熱を抑制する。また、内部のゴムとして損失正接tanδの低いゴム(低損失正接ゴム部)を使用することにより、さらにゴムの発熱が抑制され、転がり抵抗性が向上する。特に市販のタイヤでは、直進状態で走行する時間が長く、近年の環境(低燃費)を考えた場合、直進時の転がり抵抗を抑制して、燃料の消費を抑えることが重要である。そのため、このように、直進時に接地するタイヤセンター部のトレッド内部にtanδの低いゴムを使用すると良い。
一方、競技用のタイヤにおいては、直進走行時に速度が300km/hを超えて走行する自動二輪車競技もある。このような競技では、高速走行によりトレッド部が高い周波数で繰り返して変形し、発熱する。その発熱によって、トレッド内部のオイルが気化して泡が発生するブロー現象が起こり、この泡を起点としてトレッド部の一部が欠けて飛び散る故障を起こすことがある。そのため、このような高度な競技用タイヤにおいても、トレッドの内部に発熱のしにくい損失正接tanδの非常に低いゴム(低損失正接ゴム部)を使用し、一方でトレッドの表面にグリップ力の高いゴム(センター側ゴム部)を使用する。
このように、請求項4では、タイヤセンター部の表面のゴム層がセンター側ゴム部によって形成されており、タイヤ赤道面から軟質ゴム部に隣接する位置まで連続して同一種のゴムで繋がっている。この構成によって、CA45〜55度の大CA時のみならず、直進時の駆動、制動特性も向上させることができ、かつ、直進時におけるトレッドセンター部の発熱を低減し、転がり抵抗を抑制できる。
請求項5に記載の発明は、前記トレッド部のトレッドセンター部の少なくとも一部では、厚さ方向に2種以上のゴム層が形成され、前記低損失正接ゴム部が前記トレッドセンター部における最内層のゴム層を形成していることを特徴とする。
これにより、tanδが低くて発熱量が小さいゴムを、トレッド全体に配置することができて効率的であり、機能的である。
なお、トレッドゴムの少なくとも一部を、未加硫の幅狭長尺のゴムストリップを周方向かつ螺旋状に重ねて巻きつける事で成型してもよい。トレッドショルダー部では、タイヤ断面で丸みが大きい。このトレッドショルダー部に、作業者が手作業で幅の広いトレッド部材を配置すると、成型精度(形状精度)を確保しにくい。従って、幅の狭い未加硫ゴム連続体(ゴムストリップ)を、例えば専用の成型機械を用いて自動的に巻きつけることにより、ショルダー部の形状精度が高いタイヤを提供することが可能である。また、本発明のようにタイヤを構成するゴム種が3種類以上となっても、トレッド部を分割された各ゴムで効率的に製造することが出来る。
請求項6に記載の発明は、前記少なくとも1枚のベルトとして、タイヤ赤道に対して5度以下のコード角度をなすスパイラルベルトを備えたことを特徴とする。
スパイラルベルトは赤道方向に対する角度が0度〜5度であるコードを内部に含むベルトであり、1本または2本以上のコードを未加硫ゴムで被覆した連続体をタイヤ周方向に沿って連続的に螺旋巻きすることで形成できる。
このようなベルトは周方向にコードが沿うため遠心力でタイヤが膨張しにくく、特に高速走行時の操縦安定性能に優れる。そのため、近年の高性能タイヤに広く使われるようになってきた。しかしながら、このような部材は高速走行時の操縦安定性能には有効であるが、車体を大きく倒したCA45〜55度では速度も遅いため、本来の遠心膨張しにくい効果は薄れ、横グリップ力に関しては従来のスパイラルベルトのないタイヤとあまり変わらない。そこで、このような高性能タイヤに請求項6を適用すると、大CA時の横グリップ力が増して、高性能タイヤとしての性能バランスが良くなり、好ましい。
請求項7に記載の発明は、前記スパイラルベルトのタイヤ径方向外側に、タイヤ赤道に対するコード角度が80度以上90度以下であって、損失正接tanδが前記軟質ゴム部及び前記センター側ゴム部よりも小さいゴムでコーティングされた幅広ベルト(幅広のラジアル方向ベルト)層を有することを特徴とする。
スパイラルベルトを使用したタイヤでは、スパイラルベルトが周方向に伸び難いため、タイヤの遠心膨張を防ぐ。なお、スパイラルベルトだけあれば、ベルト剛性が比較的高く保てるため、スパイラルベルトのみでベルト層が構成されているタイヤもある。またスパイラルベルトを用いた場合は、ベルト剛性が高まるため、スパイラルベルトに合わせるベルトは赤道方向に対するコード角度が45度〜80度の範囲内である場合が殆どであり、タイヤの内圧をスパイラルベルトが殆ど受け止めている。そのため、万一、スパイラルベルトが損傷することを考えると、タイヤのバースト対策の万全を図ることが好ましい。例えば、トレッドが摩耗して薄くなった時に、高速で突起物を踏みつけた場合や、摩耗しているのにタイヤを使い続けてしまい、スパイラルベルトが露出してしまった場合に、スパイラルベルトが破断してしまう可能性がゼロではない。そこで、請求項7のようにスパイラルベルトを保護するように幅方向に沿ったコードをもつ上記の幅広ベルト層を配置すると、スパイラルベルトを保護することができる。
また、請求項7では、この幅広ベルト層のコーティングゴムを、軟質ゴム部やセンター側ゴム部に比べて損失正接tanδの小さいゴムにすることを規定した。この幅広ベルト層には内部にコードが入っており、コードの剛性がゴムに比べて非常に高くてコードが変形しにくいので、コードの体積分だけ発熱しにくい。さらにコーティングゴムのtanδを低下させることで発熱を防止することが可能となる。つまり、この幅広ベルト層に、低損失正接ゴム部のような効果を持たせることが可能になる。
さらに、この幅広ベルト層をトレッドショルダー部に広く配置すること、すなわち軟質ゴム部の位置まで配置することにより、略横方向に向く補強繊維をベルトの最外層に存在させることができる。これにより、トレッド部の土台が横方向に強くなり、トレッド部の横剪断に対してベルトが剛性を持つため、高い横力が維持され得る。
請求項8に記載の発明は、前記スパイラルベルトと前記幅広ベルト層との間の少なくとも一部に、厚みが0.3mm以上3mm以下で、損失正接tanδが前記軟質ゴム部及び前記センター側ゴム部よりも小さい緩衝ゴム層が設けられたことを特徴とする。
この緩衝ゴム層を設けることで、トレッドショルダー部の摩耗を抑制する効果が得られる。図7にタイヤがCA50度で旋回する時のトレッドの幅方向の挙動を示した。一方、トレッドの周方向の変形は図7の領域Aと領域Cとで異なっている。これは、接地形状のセンター寄りである領域Cと、接地形状のトレッド端部寄りの領域Aとでベルトの速度が異なるからである。二輪車のタイヤは幅方向断面において、大きな丸みを持っている。そのため、回転軸からベルトまでの距離であるベルト半径が、領域Aと領域Cとでは領域Cの方が大きい。ベルトの速度、つまりトレッド部が路面に接触してから、タイヤの回転が進み、トレッド部が路面から離れるまでのベルト速度が、領域Cの方が速い。ベルト半径とタイヤの回転角速度とを乗算したものがベルトの速度になるからであり、タイヤの回転速度は領域Aでも領域Cでも同じだからである。
このベルトの周方向の速度差により、タイヤのセンター寄りである領域Cではトレッドがドライビング状態であり、タイヤのトレッド端部寄りである領域Aではブレーキング状態である。ドライビングとは、タイヤを赤道方向にそって輪切りにした場合に、そのトレッド変形が、トレッド内面(タイヤ内部の骨格部材に接している面)がタイヤ進行方向後方にせん断され、路面に接地しているトレッド表面がタイヤ進行方向前方に変形しているせん断状態であり、ちょうどタイヤに駆動力をかけたときに起こる変形である。一方、ブレーキングはドライビングの逆であり、トレッド変形はタイヤ内部側(ベルト側)が前方にせん断され、路面に接地しているトレッド表面が後方に変形しているせん断状態であり、制動したときのタイヤの動きとなる。この周方向のトレッド変形は、タイヤが駆動力も制動力も受けずに、遊輪状態で転がるだけで発生する。そして、この周方向の剪断変形によって、領域Aと領域Cとでトレッド表面が路面から滑りやすくなり、摩耗が進む。このような旋回中の余計な変形は、タイヤショルダー部に偏摩耗を起こしやすいので、生じさせないほうが良い。
請求項8のように、緩衝ゴム層を設けると、緩衝ゴム層が周方向に剪断変形するため、前記のドライビング変形、ブレーキング変形をトレッド部に肩代わりして変形することになり、トレッド部の周方向の変形が緩和される。一方で、この緩衝ゴム層のタイヤ径方向外側には、コード方向が略タイヤ幅方向に沿った広幅ベルト層が設けられているため、緩衝ゴム層は幅方向には剪断変形されにくい。そのため、幅方向に対してはトレッド部の変形を肩代わりしないので、トレッド部の横剪断変形は緩衝ゴム層を配置しても大きいままである。すなわち、緩衝ゴム層は周方向のみの変形を肩代わりし、トレッド部の周方向変形を小さくして偏摩耗を防止する一方で、幅方向の変形は肩代わりせずにトレッド部の横変形は大きいまま維持し横力を高く保てる効果がある。本発明のように、トレッドの端部の表面に柔らかいゴム(軟質ゴム部)を配置した場合は、柔らかいゴムが摩耗しやすいため、このような緩衝ゴム層を設けることが非常に好ましい。赤道方向に対して80度〜90度のコード角度を有するベルトおよび緩衝ゴム層は、好ましくはトレッド端部でかつトレッド表面に柔らかいゴム(軟質ゴム部)が配置されている位置に重なるように幅広く配置されることが好ましい。
さらに、この緩衝ゴム層の損失正接tanδを、軟質ゴム部や低損失正接ゴム部に比べて小さくすることにより、タイヤの発熱を防止することが可能である。つまり、緩衝ゴム層に、低損失正接ゴム部のような役割を持たせることが可能になる。
本発明によれば、トレッドショルダー部の耐摩耗性の向上と、横グリップ性を向上させることによる旋回時の操縦安定性の向上と、を両立させた二輪車用タイヤとすることができる。
以下、実施形態として二輪車用空気入りタイヤを挙げ、本発明の実施の形態について説明する。なお、第2実施形態以下では、既に説明した構成要素と同様のものには同じ符号を付して、その説明を省略する。
[第1実施形態]
まず、第1実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤ10は、左右一対のビード部12と、ビード部12からトロイド状に延びるカーカス14と、を備えている。
カーカス14は、ビード部12のビードコア11にトロイド状に跨っている。本実施形態では、カーカス14は二層で、すなわち2枚のカーカスプライ(ボディプライ)で構成されている。カーカスプライの端部はビードコア11で係止され、両側からビードワイヤー13が挟みこんでいる。
また、二輪車用空気入りタイヤ10は、カーカス14のクラウン部のタイヤ径方向外側に、スパイラルベルト16とトレッド部18とを順次備えている。このスパイラルベルト16は、単線または並列した複数本のコードを被覆ゴム中に埋設してなる帯状のゴム被覆コード層をタイヤ赤道方向(タイヤ周方向)に対して5度以下のコード角度をなすようにスパイラル状に巻回してなるものである。
図1、図2に示すように、トレッド部18には、タイヤ幅方向両側のトレッド端部にそれぞれ配置された軟質ゴム部22、23と、軟質ゴム部22、23に隣接するセンター側ゴム部26と、スパイラルベルト16のタイヤ径方向外側に隣接する低損失正接ゴム部28と、が設けられている。軟質ゴム部22と軟質ゴム部23とはタイヤ赤道面CLに対して左右対称形状であるので、以下、軟質ゴム部22についてのみ説明し、軟質ゴム部23の説明を省略する。
軟質ゴム部22は、トレッド端Tからの展開幅Wがトレッド展開幅L(タイヤセンターCLからトレッド端Tまでの展開幅の2倍)の5〜14%の範囲内とされ、センター側ゴム部26に比べてショアA硬度が低い。また、軟質ゴム部22の厚みは、トレッド部18の平均厚みの20〜80%の範囲内とされている。
センター側ゴム部26は、軟質ゴム部22のタイヤセンター側に隣接するとともに軟質ゴム部22のタイヤ径方向内側にも隣接している。従って、軟質ゴム部22と低損失正接ゴム部28との間にはセンター側ゴム部26が介在している。
低損失正接ゴム部28は、トレッド部18の最内層を構成している。また、低損失正接ゴム部28は、トレッド端Tからの展開幅がトレッド展開幅Lの25%以下となる領域Sにまで延びている。低損失正接ゴム部28の損失正接tanδは、軟質ゴム部22やセンター側ゴム部26よりも小さい。
また、低損失正接ゴム部28の厚みは、タイヤ赤道面CLからトレッド端部28Eにかけて徐々に薄くなっている。
以上説明したように、本実施形態では、大CA時にのみ使う部位、さらには、トラクションではなく横力のみを発生させる部位に柔らかいゴムである軟質ゴム部22を配置している。従って、使用頻度は低いが横グリップ性に大きく寄与する部位のみを対象として軟質ゴム部22を配置しており、耐摩耗性の維持とグリップ性能の向上とを両立させた二輪車用空気入りタイヤ10としている。このことは、特に高速走行する場合に有効であり、競技用タイヤとして使用したときに、走行を重ねても短時間のラップタイムを維持することができる。また、長時間使用してもグリップ力があまり低下しないタイヤであると言うことができる。
更に、本実施形態では、トレッド部18の最内層に、tanδの低い、すなわち発熱量が小さい低損失正接ゴム部28を配置している。これにより、トレッドショルダー部のゴムが高温になってトレッド剛性が低下することを防止している。しかも、低損失正接ゴム部28をトレッド全体に配置することができて効率的であり機能的である。
更に、軟質ゴム部22と低損失正接ゴム部28との間(タイヤ径方向間)にセンター側ゴム部26が介在している。従って、既に配置されているセンター側ゴム部26を延長させた構造としており、介在させるゴム部を新たに設けなくても済む。これにより、製造工程を増やす必要がなく、製造上のコストが新たに生じる懸念がない。しかも、摩耗が進んで軟質ゴム部22が摩滅した時に、低損失正接ゴム部28が露出するのではなく、軟質ゴム部22よりもやや硬いセンター側ゴム部26が露出するので、摩耗によって急激にグリップ性能が損なわれることがない。
また、軟質ゴム部22の厚みが、トレッド部18の平均厚みの20%〜80%の範囲内とさている。これにより、軟質ゴム部22が路面の凹凸に食い込みにくいことはなく、しかも、すぐに摩耗してしまう懸念もない。しかも、トレッド部の総合的な剛性が低下して横グリップ性が低下する懸念もない。
また、トレッドセンター部18Cでは、厚さ方向に2種のゴム層が形成され、センター側ゴム部26がトレッドセンター部18Cにおけるトレッド表面側のゴム層を形成している。従って、センター側ゴム部26よりも低損失正接ゴム部28のほうを硬いゴムとすることにより、トレッド表面側のゴムであるセンター側ゴム部26がグリップ力を稼ぎ、トレッド内部側のゴムである低損失正接ゴム部28が発熱を抑制して、転がり抵抗性を向上させている。
[参考形態]
次に、本発明に含まれない参考形態について説明する。図3に示すように、本参考形態に係る二輪車用空気入りタイヤでは、第1実施形態に比べ、トレッド端部のゴム構造が異なる。本参考形態では、軟質ゴム部22(図2参照)に代えて、低損失正接ゴム部28に隣接する寸法の軟質ゴム部32が配置されている。従って、軟質ゴム部32のタイヤセンター側に隣接するセンター側ゴム部36は、低損失正接ゴム部28と軟質ゴム部32との間には介在しない寸法とされている。これにより、タイヤの製造効率を上げることができる。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。図4に示すように、本実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤでは、第1実施形態に比べ、スパイラルベルト16のタイヤ径方向外側に幅広ベルト40が配置されている。
この幅広ベルト40を構成するコードでは、タイヤ赤道Cに対するコード角度が80〜90°の範囲内とされている。また、幅広ベルト40のコードを覆うコーティングゴムとしては、損失正接tanδが軟質ゴム部22及びセンター側ゴム部26よりも小さいゴムが用いられている。
このように、本実施形態では、ほぼ赤道方向(タイヤ周方向)に沿ったコードを有するスパイラルベルト16のタイヤ径方向外側に、ほぼ幅方向に沿ったコードを有する幅広ベルト40を配置している。従って、幅広ベルト40によってスパイラルベルト16が充分に保護されている。
また、幅広ベルト40のコーティングゴムの損失正接tanδが、軟質ゴム部22やセンター側ゴム部26に比べて小さい。これにより、幅広ベルト40の発熱を防止することができる。
さらに、この幅広ベルト40をトレッドショルダー部に広く配置すること、すなわち軟質ゴム部22の位置まで配置することにより、略横方向に向く補強繊維(コード)をベルトの最外層に存在させることができる。これにより、トレッド部18の土台が横方向に強くなり、トレッド部18の横剪断に対してベルトが剛性を持つため、高い横力が維持され得る。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。図5に示すように、本実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤでは、第2実施形態に比べ、スパイラルベルト16と幅広ベルト40との間に緩衝ゴム層44が設けられている。この緩衝ゴム層44の損失正接tanδは、軟質ゴム部22やセンター側ゴム部26よりも小さい。
本実施形態では、二輪車用空気入りタイヤの使用時に緩衝ゴム層44がタイヤ周方向に剪断変形するため、ドライビング変形、ブレーキング変形をトレッド部に肩代わりして緩衝ゴム層44が変形することになる。従って、トレッド部の周方向の変形が緩和される。一方で、この緩衝ゴム層44のタイヤ径方向外側には、コード方向が略タイヤ幅方向に沿った広幅ベルト40が設けられているため、緩衝ゴム層44は幅方向には剪断変形されにくい。そのため、幅方向に対してはトレッド部の変形を肩代わりしないので、トレッド部の横剪断変形は緩衝ゴム層44を配置しても大きいままである。
また、この緩衝ゴム層44の損失正接tanδが、軟質ゴム部22や低損失正接ゴム部28に比べて小さいので、タイヤの発熱を更に防止することが可能である。
<試験例>
本発明の効果を確かめるために、本発明者は、本発明に係る二輪車用空気入りタイヤの8例(以下、実施例1〜8という)、比較のための二輪車用空気入りタイヤの5例(以下、比較例1〜5という)、及び、従来の二輪車用空気入りタイヤの1例(以下、従来例という)について、性能試験を行って性能を評価した。タイヤサイズは全て190/50ZR17である。
また、各タイヤでは、カーカスのコードとしてはナイロン製のコードとした(「ナイロン」はデュポン社の登録商標)。ナイロン製のコードを撚って直径0.6mmとし、これを打ち込み間隔65本/50mmで平行に並べ、未加硫ゴムでシート状にしたものをカーカスとした。また、カーカスはタイヤ赤道(タイヤ周方向)に対して70度傾けて、2枚のカーカスでコードが互いに交錯するように配置したバイアス構造とした。なお、カーカスをビードコアの周りに巻きまわして固定する構造としてもよい。
また、各タイヤには、タイヤ赤道方向に対するコード角度が0〜5°の範囲内とされたスパイラルベルトが設けられている。このスパイラルベルトは、1本または複数本のコードをゴムで被覆して、これを螺旋巻きするようにタイヤ赤道方向にほぼ平行にぐるぐると巻き付けて形成したものである。その際、芳香族ポリアミド(商品名は「ケブラー」)の繊維を撚って直径0.7mmにしたものを、打ち込み間隔が50本/50mmになるように配置した。本試験例では、スパイラルベルトの幅を全て200mmとした。
なお、スパイラルベルトのコードをスチールコードで構成しても構わない。例えば、直径0.21mmのスチール単線を1×3タイプで撚ったスチールコードを、打ち込み間隔30本/50mmでスパイラル状に巻き付けて形成してもよい。
スパイラルベルトのタイヤ径方向外側にはトレッド部が設けられている。本試験例では、トレッド部の厚みを全て8mmとした(なお、後述の実施例8では、トレッド端部で厚みが0.7mm薄くなっている)。本試験例ではトレッド表面に溝を配置しなかったが、トレッド部に溝を配置しても構わない。トレッド展開幅Lは全て240mmとした。
以下、本試験例で用いた各タイヤの仕様を説明する。なお、各タイヤの仕様をまとめたものを表1に示す。また、以下の説明で幅を示す数値は全て展開幅の数値を意味する。
(従来例)
従来例では、後述の実施例1と同様のカーカス及びスパイラルベルトを有する。そして、スパイラルベルトのタイヤ径方向外側にトレッド部を有する。
このトレッド部は、スパイラルベルトのタイヤセンター部に隣接しtanδの低いゴム(以下、ゴムZという)で構成されるゴムと、タイヤ赤道から幅方向両側に広がってトレッドショルダー部にまで延長されているゴム(以下、ゴムYという)とからなる。すなわち、トレッド内部を構成するゴムZと、トレッド外部を構成するゴムYとからトレッド部が形成されている。
ゴムZの展開幅は120mmであり、トレッドショルダー部にまでは達していない。従って、トレッドショルダー部はゴムYのみで構成されている。トレッドショルダー部の厚みは8mmで均一にされている。ゴムYでは、100℃のショアA硬度が35、100℃の損失正接tanδが0.4であり、ゴムZでは100℃のショアA硬度が40、100℃の損失正接tanδが0.2である。
ゴムZの厚みは、タイヤ赤道(タイヤセンター)Cからの展開幅が40mmまでの範囲において厚みが一律4mmであり、トレッド側部に向かって徐々に薄くなり、展開幅120mmの位置で厚み2mmとなる。つまり、タイヤ赤道から20mmの範囲内では厚みが4mm、タイヤ赤道から20mmの位置から60mmの位置で厚みが徐々に薄くなって60mmの位置で厚み2mmとなっている。
(比較例1)
比較例1では、従来例1に比べ、図6に示すように、トレッドショルダー部の表面側に異種ゴム(以下、ゴムX)からなる軟質ゴム部82を配置した。従って、比較例1では、軟質ゴム部82と、軟質ゴム部82のタイヤセンター側に隣接するセンター側ゴム部86とでトレッドゴムが形成されている。
従って、トレッドショルダー部を形成するゴム種はゴムXとゴムYの2種類である。このゴムXは、後述の実施例1の軟質ゴム部と同じ種類のゴムとした。ゴムXの100℃のショアA硬度は30である。
軟質ゴム部82の寸法も後述の実施例1の軟質ゴム部と同じとした。軟質ゴム部82の展開幅Wは25mm(トレッド展開幅Lの10.4%)で、軟質ゴム部82の厚みtは4mm(トレッド厚みの0.5倍)である。
(比較例2)
比較例2では、従来例1に比べ、タイヤセンター部の内部に、100℃のショアA硬度が40でtanδが0.2のゴム(ゴムZ)からなる低損失正接ゴム部が、幅230mmでタイヤセンター部からショルダー部にまで広く配置されている。低損失正接ゴム部の厚みは、タイヤセンター部で4mmであるが、ショルダー部に向かって徐々に薄くなり、タイヤセンターから60mm〜115mmの範囲において低損失正接ゴム部の厚みは一律2mmである。
トレッドショルダー部を形成するゴム種はゴムYとゴムZとの2種類である。トレッド端部の表面側にはゴムXは配置されていない。トレッド部の厚みは一律8mmで均一である。
(実施例1)
実施例1は、第1実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤの一例である。図2に示すように、タイヤセンター部の内部に、100℃のショアA硬度が40でtanδが0.2のゴム(ゴムZ)からなる低損失正接ゴム部28が、展開幅220mmでタイヤセンター部からトレッドショルダー部にまで広く配置されている。低損失正接ゴム部28はタイヤセンター部では厚みは4mmであるが、トレッドショルダー部に向かって徐々に薄くなり、タイヤ赤道面の何れの側においても、タイヤ赤道面CLからの展開幅が60mm〜115mmの範囲では厚みは一律2mmである。
トレッドショルダー部の表面側に、ゴムXからなる軟質ゴム部22、23を配置した(以下の説明では軟質ゴム部23の説明を省略する)。軟質ゴム部22の展開幅Wは25mm(トレッド展開幅Lの10.4%)で、軟質ゴム部22の厚みtは4mm(トレッド厚みの0.5倍)である。
トレッドショルダー部を形成するゴムは3種であり、トレッド端部18Eでは、トレッド表面からゴムX、ゴムY、ゴムZの順に配置されている。
100℃のショアA硬度は、ゴムXからなる軟質ゴム部22が30(動的弾性率E’は1.16MPaに相当)、ゴムYからなるセンター側ゴム部26が35(動的弾性率E’は1.42MPaに相当)、ゴムZからなる低損失正接ゴム部28が40(動的弾性率E’は1.79MPaに相当)である。
100℃のtanδは、ゴムXからなる軟質ゴム部22が0.4、ゴムYからなるセンター側ゴム部26が0.4、ゴムZからなる低損失正接ゴム部28が0.2である。
トレッド部18の厚みは一律8mmである。
(比較例3)
比較例3は、参考形態に係る二輪車用空気入りタイヤの一例である。図3に示すように、タイヤセンター部の内部に、100℃のショアA硬度が40でtanδが0.2のゴム(ゴムZ)からなる低損失正接ゴム部28が、展開幅220mmでタイヤセンター部からトレッドショルダー部にまで広く配置されている。低損失正接ゴム部28はタイヤセンター部では厚みは4mmであるが、トレッドショルダー部に向かって徐々に薄くなり、トレッドショルダー部での厚みは2mmである。
トレッドショルダー部の表面側に、ゴムXからなる軟質ゴム部32を配置した。軟質ゴム部32の展開幅Wは25mm(トレッド展開幅Lの10.4%)で、軟質ゴム部32の厚みtは6mm(トレッド厚みの0.75)である。
トレッド端部を形成するゴムは2種で、トレッド表面から、ゴムX、ゴムZとなる。トレッド部の厚みは一律8mmである。
(実施例2)
実施例2は、第2実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤの一例である。図4に示すように、実施例1に比べ、スパイラルベルト16とトレッドゴムとの間に、すなわちスパイラルベルト16の半径方向外側に隣接するように、タイヤ赤道方向に対するコード角度が90度である幅広ベルト40を1枚追加した。
この幅広ベルト40としては、芳香族ポリアミドの繊維を撚って、直径0.6mmとしたものを、打ち込み間隔50本/50mmで配置した。芳香族ポリアミドを覆うベルトコーティングゴムは、100℃のtanδが0.3のものを使用した。幅広ベルト40の展開幅は240mmである。
(実施例3)
実施例3は、第3実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤの一例である。図5に示すように、実施例2に比べ、幅広ベルト40とスパイラルベルト16との間に、厚み1mmで展開幅240mの緩衝ゴム層44を配置した。緩衝ゴム層44のゴム種は、幅広ベルト40を構成するコーティングゴムと同じ材質とした。
(実施例4〜7)
実施例1に比べ、軟質ゴム部を構成するゴムXの展開幅Wと深さとをパラメータとして変更したタイヤを準備し、実施例4〜7とした。各タイヤについてタイヤ条件を表1に示す。
(実施例8)
実施例3に比べ、トレッド端部の厚みを薄くしたタイヤを準備し、実施例8とした。すなわち、トレッド端からトレッド展開幅の10%までの範囲におけるトレッドゴムの平均厚みを、他のトレッド部分の厚み(8mmの均一な厚みである)よりも0.7mm薄くしている。しかも、トレッド端からトレッド展開幅の10%までの範囲で、トレッド端に向かうにつれて徐々に薄くなっている。
(試験方法、及び、評価結果)
本試験例では、これらのタイヤを用い、以下の3種類の試験を行って各タイヤの性能を評価した。
(試験A)CA50度での横力測定による横グリップ性の評価
試験Aでは、試験機としては、直径3mのスチール製のドラムに、#40番の紙やすりを貼り付け、紙やすりを路面に見立てる。
また、各タイヤについて、リム幅6インチ、リム径17インチのホイールに組み込み、タイヤ内圧200kPaとした。そして、CA50度、荷重1500N、SA0度でドラムに押し付け、タイヤが100km/hで転動するようにドラムを回転させ、この状態における横力をタイヤの回転軸に取付けた3分力計から測定した。横力がキャンバースラストである。
横力を測定する際には、タイヤが回転し始めて5分後に計測した。このときタイヤは十分に温まり、トレッドショルダー部の温度は約100℃になっていた。
試験Aでは、従来例の横力を横力指数100とした。なお、従来例1の横力は1700Nであった。そして、他の各タイヤについて、従来例に対する相対評価となる横力指数を求めた。この指数を表1に併せて示す。表1では、横力指数が大きいほど横力が大きくて横グリップ性が良好であることを示す。
表1から判るように、実施例、比較例の各タイヤ全てについて、横グリップ性は従来例よりも良好であるという結果になった。
(試験B)テストコースでの操縦安定性の評価
試験Bでは、テストコースで、熟練ライダーによる総合的な操縦安定性能の試験を実施した。準備したタイヤはリア用のタイヤであったため、リアのみのタイヤを交換して実車試験を行った。フロントのタイヤは常に従来のもので固定した。
この試験Bでは、1000ccのスポーツタイプの二輪車を準備して、テストコースで実車走行させ、車両を大きく倒した旋回時における操縦安定性(コーナリング性能)を中心に評価した。評価はライダーのフィーリングによる10点法での総合評価とした。評価結果を表1に併せて示す。表1では、点数(評点)が高いほど操縦安定性が良いことを示す。
また、試験Bでは、テストコース1周のラップタイムは、何れのタイヤでも約60秒ほどである。試験Bではこのテストコースを10周した。各タイヤについて、テストコースを10周したときのラップタイムの平均を表1に示す。ラップタイムの平均は低いほど好ましい。
また、走行直後のトレッド端部の温度も計測した。このテストコースのサーキットでは右旋回が多かったので、温度計測では右側のトレッド端部の温度を計測した。その際、トレッド端部からタイヤセンター寄りに30mmの位置における温度を走行直後に計測した。計測結果を表1に併せて示す。この温度は低いほど好ましい。
(試験C)摩耗量の評価
試験Bを行う前に、各タイヤの重量を予め測定した。タイヤの重量はリムから外して計測した値とした。
そして、試験Bでテストコースを10周した後にタイヤに付着したゴムかすや小石などの付着物を綺麗に取り除き、タイヤをリムから取り外して、タイヤの重量を測定した。新品時のタイヤ1本の重量から走行後のタイヤの重量を引くことにより、タイヤの摩耗量が測定される。
テストコースにはコーナーが多かったため、摩耗はトレッドショルダー部で集中的に発生していた。つまり、求められたこの重量差が新品時からのトレッドショルダー部の摩耗量と考えることができる。
摩耗量の評価をするにあたり、従来例の右側の摩耗量を指数100とし、他のタイヤについては、従来例に対する相対評価となる指数を求めた。評価結果を表1に併せて示す。表1では摩耗量の指数が低いほど耐摩耗性が良いことを示す。
(試験A〜Cからの考察)
以上の評価結果から本発明者は以下の考察を行った。
実施例1では、従来例に比べ、試験A(ドラム試験)で横グリップ性が向上しており、しかも、試験B(実車テスト)での評点が大幅に向上していた。横グリップ性が良好となってグリップ力が増すため、タイヤが滑りにくくなり、摩耗量が低下したためと考えられる。
比較例1は、図6に示したように、従来例に比べてトレッド端部にゴムX(軟質ゴム部)を配置しただけであり、ゴムZ(低損失正接ゴム部)がトレッドショルダー部にまでは達していない。実施例1と比較例1とを比べると、実施例1では、トレッドの温度が低下していることがわかる。これは、ゴムZで構成される低損失正接ゴム部を設けたことによる効果であり、温度を低下させることで、ゴムの軟化を防止して、トレッド剛性を高く維持して、操縦安定性能を高めることができている。
一方、比較例2は、ゴムZ(低損失正接ゴム部)はトレッドショルダーまで達しているが、表面にゴムXを配置しなかった例である。比較例2は従来例に比べるとトレッド温度が低下しているが、表面の柔らかいゴムが無いために横力が大きくない。そのため、横グリップ性、耐摩耗性とも実施例1には及ばない結果となった。
以上から判るように、内部にtanδの低いゴムZ(低損失正接ゴム部)を配置することと、トレッド部の表面に柔らかいゴム(軟質ゴム部)を配置することとを組み合わせることで、実施例1のように大きく改良された二輪車用空気入りタイヤとすることができる。例えば、摩耗量の低減効果については、比較例1は従来例から8%改善、比較例2は従来例から6%改善している。両者の数字を単に加算すると数字上は14%の改善になるが、両者を組み合わせた実施例1は20%改善しており、温度を低下させることと、表面に柔らかいゴムを配置することとがバランスよく機能している。
比較例3では、トレッド端部においてゴムYが存在していないが、実施例1とほぼ同様の効果が得られている。
実施例2は、実施例1に幅広ベルト(タイヤ赤道方向に対するコード角度が90度のベルト)を配置したものである。幅広ベルトを配置することによって、トレッド温度がさらに低下している。また、幅広ベルトでは、タイヤ赤道方向に対するコード角度が90度であるため、横剪断力に対して強い。従って、実施例1に比べ、横力指数が高くなっており、実車テストの評点も良くなっていた。また、耐摩耗性が実施例1よりも良くなっていた。実施例1に比べてグリップ力が増してタイヤが滑りにくくなったため摩耗性能も向上したためと考えられる。
実施例3は、実施例2に緩衝ゴム層を更に設けたものである。緩衝ゴム層のtanδは軟質ゴム部やセンター側ゴム部のtanδよりも低いため、トレッド温度が更に低下していた。そして、緩衝ゴム層がトレッド部のタイヤ周方向の変形を吸収するため、摩耗量が更に低下した。
実施例4、5及び比較例4、5は、実施例1に比べ、トレッド表面のゴムXの展開幅をパラメータとして変化させたものである。
比較例4では、ゴムXからなる軟質ゴム部の展開幅が10mmでありトレッド展開幅の4%に相当する展開幅であるが、幅が10mmであると、表面ゴムが接触する面積が小さすぎて、効果があまり無い。
比較例5では、ゴムXからなる軟質ゴム部の展開幅が35mmでありトレッド展開幅の15%に相当する展開幅である。比較例5では、横グリップ性は良好であるが、摩耗量の指数があまり低くなく、すなわち摩耗量が大きく、従来例と比べると摩耗改善効果が少ない。
実施例4では、ゴムXからなる軟質ゴム部の展開幅が15mmでありトレッド展開幅の6%に相当する展開幅である。実施例4では、比較例4に比べ、横グリップ性が顕著に良好となっている。
実施例5では、ゴムXからなる軟質ゴム部の展開幅が30mmでありトレッド展開幅の13%に相当する展開幅である。実施例5では、比較例5に比べ、耐摩耗性が顕著に良好となっている。なお、実施例4、5では、何れも、試験A〜Cで良好な結果となっている(すなわち、横グリップ性、操縦安定性、耐摩耗性の何れについても従来例に比べて良好となっている)。
従って、本試験例では、ゴムXの展開幅は15〜30mm(トレッド展開幅の6〜13%)の範囲が適当であり、トレッド展開幅の5〜14%の範囲まで好ましい範囲であると考えることができる。
実施例6、実施例7はゴムXの厚みを変更させたものである。以下、これらと実施例1、比較例2とを比べる。
ゴムXの厚みを1mm(トレッド厚の0.12倍)とした実施例6では、ゴムXを全く配置しない比較例2と比べると試験B、試験Cでその効果は認められるが、やや小さい向上効果である。これは、柔らかいゴムを表面に薄く配置しても、路面への食い込み変形がさほど大きくないためと考えられる。
ゴムXの厚みを2mm(トレッド厚の0.25倍)とした実施例7では、その効果が明確になる。
また、ゴムXの厚みを6mm(トレッド厚の0.75倍)としたものが比較例3である。その効果が認められるが、厚みが4mm(トレッド厚の0.5倍)である実施例1よりは効果が減少している。これは、柔らかいゴムの体積が増えすぎて、トレッド剛性が低下したためである。
従って、本試験例では、ゴムXからなる軟質ゴム部の厚みtは2〜6mm(トレッド厚の0.25〜0.75倍)の範囲が適当であり、トレッド厚の0.2〜0.8の範囲まで好ましい範囲であると考えることができる。
実施例8は、トレッド端部において、トレッド端からトレッド展開幅の10%までの範囲におけるトレッドゴムの平均厚みが、他のトレッド部分の厚み(8mmの均一な厚みである)よりも0.7mm薄くなるように製造したタイヤである。
厚みは、トレッド端からトレッド展開幅の10%までの範囲で、トレッド端に向かうにつれて徐々に薄くなっている。実施例8については、表面の柔らかいゴムX(軟質ゴム部)の厚みをそのまま維持し、内部のゴムYとゴムZの厚みをトレッド端に向けて徐々に薄くした。
実施例3と実施例8との比較から、トレッド端部のゴムを薄くした実施例8ではドラム試験(試験A)で横力が向上し、テストコースでの操縦安定性試験(試験B)の評点も高い。従って以下のことが判った。すなわち、実施例8のように、トレッド端部に柔らかいゴムXを配置した場合は、厚みを薄くすることで剛性を高めることができ、柔らかいゴムを搭載してもトレッド剛性を高く保つことができる。その結果、操縦安定性能が向上した。また、グリップ力が増したために、摩耗量も低下した。
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。