以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施の形態において、型締装置については、型閉じを行う際の可動プラテンの移動方向を前方とし、型開きを行う際の可動プラテンの移動方向を後方とし、射出装置については、射出を行う際のスクリューの移動方向を前方とし、計量を行う際のスクリューの移動方向を後方として説明する。
図1は本発明の実施の形態における金型装置及び型締装置の型閉じ時の状態を示す図、図2は本発明の実施の形態における金型装置及び型締装置の型開き時の状態を示す図である。
図において、10は型締装置、Frは射出成形機のフレーム、Gdは、該フレームFr上に敷設されてレールを構成し、型締装置10を支持するとともに、案内する第1の案内部材としての2本のガイド(図においては、2本のガイドGdのうちの1本だけを示す。)、11は、該ガイドGd上に載置され、前記フレームFr及びガイドGdに対して固定された第1の固定部材としての固定プラテンであり、該固定プラテン11と所定の間隔を置いて、かつ、固定プラテン11と対向させて第2の固定部材としてのリヤプラテン13が配設され、前記固定プラテン11とリヤプラテン13との間に4本の連結部材としてのタイバー14(図においては、4本のタイバー14のうちの2本だけを示す。)が架設される。なお、前記リヤプラテン13は、タイバー14が伸縮するのに伴って、ガイドGdに対してわずかに移動することができるように前記ガイドGd上に載置される。
なお、本実施の形態においては、固定プラテン11はフレームFr及びガイドGdに対して固定され、リヤプラテン13はガイドGdに対してわずかに移動することができるようになっているが、リヤプラテン13をフレームFr及びガイドGdに対して固定し、固定プラテン11をガイドGdに対してわずかに移動することができるようにすることができる。
前記タイバー14に沿って固定プラテン11と対向させて第1の可動部材としての可動プラテン12が型開閉方向に進退自在に配設される。そのために、前記可動プラテン12におけるタイバー14と対応する箇所にタイバー14を貫通させるための図示されないガイド穴が形成される。
前記タイバー14の前端部には図示されない第1のねじ部が形成され、前記タイバー14は、前記第1のねじ部とナットn1とを螺合させることによって固定プラテン11に固定される。また、前記各タイバー14の後方の所定の部分には、タイバー14より外径が小さい第2の案内部材としてのガイドポスト21が、リヤプラテン13の後端面から後方に向けて突出させて、かつ、タイバー14と一体に形成される。そして、リヤプラテン13の後端面の近傍には図示されない第2のねじ部が形成され、前記固定プラテン11とリヤプラテン13とは、前記第2のねじ部とナットn2とを螺合させることによって連結される。本実施の形態においては、ガイドポスト21がタイバー14と一体に形成されるようになっているが、ガイドポスト21をタイバー14とは別体に形成することもできる。
また、前記固定プラテン11には第1の金型としての固定金型15が、前記可動プラテン12には第2の金型としての可動金型16がそれぞれ固定され、前記可動プラテン12の進退に伴って固定金型15と可動金型16とが接離させられ、型閉じ、型締め及び型開きが行われる。なお、型締めが行われるのに伴って、固定金型15と可動金型16との間に複数の図示されないキャビティ空間が形成され、射出装置17の射出ノズル18から射出された成形材料としての図示されない樹脂が前記各キャビティ空間に充墳される。また、固定金型15及び可動金型16によって金型装置19が構成される。
そして、前記可動プラテン12と平行に配設された第2の可動部材としての吸着板22が、リヤプラテン13より後方において前記各ガイドポスト21に沿って進退自在に配設され、ガイドポスト21によって案内される。なお、前記吸着板22には、各ガイドポスト21と対応する箇所に、ガイドポスト21を貫通させるためのガイド穴23が形成される。該ガイド穴23は、前端面に開口させられ、ボールナットn2を収容する大径部24、及び吸着板22の後端面に開口させられ、ガイドポスト21と摺動させられる摺動面を備えた小径部25を備える。本実施の形態において、吸着板22は、ガイドポスト21によって案内されるようになっているが、吸着板22を、ガイドポスト21だけでなく、ガイドGdによって案内することもできる。
ところで、前記可動プラテン12を進退させるために、第1の駆動部としての、かつ、型開閉用の駆動部としてのリニアモータ28が、可動プラテン12とフレームFrとの間に配設される。前記リニアモータ28は、第1の駆動要素としての固定子29、及び第2の駆動要素としての可動子31を備え、前記固定子29は、前記フレームFr上において、前記ガイドGdと平行に、かつ、可動プラテン12の移動範囲に対応させて形成され、前記可動子31は、可動プラテン12の下端において、前記固定子29と対向させて、かつ、所定の範囲にわたって形成される。
前記可動子31は、コア34及びコイル35を備える。そして、前記コア34は、固定子29に向けて突出させて、所定のピッチで形成された複数の磁極歯33を備え、前記コイル35は、各磁極歯33に巻装される。なお、前記磁極歯33は可動プラテン12の移動方向に対して直角の方向に、互いに平行に形成される。また、前記固定子29は、図示されないコア、及び該コア上に延在させて形成された図示されない永久磁石を備える。該永久磁石は、N極及びS極の各磁極を交互に、かつ、前記磁極歯33と同じピッチで着磁させることによって形成される。
したがって、前記コイル35に所定の電流を供給することによってリニアモータ28を駆動すると、可動子31が進退させられ、それに伴って、可動プラテン12が進退させられ、型閉じ及び型開きを行うことができる。
なお、本実施の形態においては、固定子29に永久磁石を、可動子31にコイル35を配設するようになっているが、固定子にコイルを、可動子に永久磁石を配設することもできる。その場合、リニアモータ28が駆動されるのに伴って、コイルが移動しないので、コイルに電力を供給するための配線を容易に行うことができる。
ところで、前記可動プラテン12が前進させられて可動金型16が固定金型15に当接すると、型閉じが行われ、続いて、型締めが行われる。そして、型締めを行うために、リヤプラテン13と吸着板22との間に、第2の駆動部としての、かつ、型締め用の駆動部としての電磁石ユニット37が配設される。そして、リヤプラテン13及び吸着板22を貫通して延び、かつ、可動プラテン12と吸着板22とを連結する型締力伝達部材としてのロッド39が進退自在に配設される。該ロッド39は、型閉じ時及び型開き時に、可動プラテン12の進退に連動させて吸着板22を進退させ、型締め時に、電磁石ユニット37によって発生させられた型締力を可動プラテン12に伝達する。
なお、固定プラテン11、可動プラテン12、リヤプラテン13、吸着板22、リニアモータ28、電磁石ユニット37、ロッド39等によって型締装置10が構成される。
また、型締装置10において、型開閉用の駆動部としてのリニアモータ28の動作と型締め用の駆動部としての電磁石ユニット37と動作とは、制御部60によって制御される。制御部60の詳細については後述する。
前記電磁石ユニット37は、リヤプラテン13側に形成された第1の駆動部材としての電磁石49、及び吸着板22側に形成された第2の駆動部材としての吸着部51から成り、該吸着部51は、前記吸着板22の前端面の所定の部分、本実施の形態においては、吸着板22において前記ロッド39を包囲し、かつ、電磁石49と対向する部分に形成される。また、リヤプラテン13の後端面の所定の部分、本実施の形態においては、前記ロッド39よりわずかに上方及び下方に、矩形の断面形状を有するコイル配設部としての二つの溝45が互いに平行に形成され、各溝45間に矩形の形状を有するコア46、及び他の部分にヨーク47が形成される。そして、前記コア46にコイル48が巻装される。
なお、前記コア46及びヨーク47は、鋳物の一体構造で構成されるが、強磁性体から成る薄板を積層することによって形成され、電磁積層鋼板を構成してもよい。
本実施の形態においては、リヤプラテン13とは別に電磁石49が、吸着板22とは別に吸着部51が形成されるが、リヤプラテン13の一部として電磁石を、吸着板22の一部として吸着部を形成することもできる。
したがって、電磁石ユニット37において、前記コイル48に電流(直流電流)を供給すると、電磁石49が駆動され、吸着部51を吸着し、前記型締力を発生させることができる。
そして、前記ロッド39は、後端部において吸着板22と連結させて、前端部において可動プラテン12と連結させて配設される。したがって、ロッド39は、型閉じ時に可動プラテン12が前進するのに伴って前進させられて吸着板22を前進させ、型開き時に可動プラテン12が後退するのに伴って後退させられて吸着板22を後退させる。
そのために、前記リヤプラテン13の中央部分に、ロッド39を貫通させるための穴41、及び前記吸着板22の中央部分にロッド39を貫通させるための穴42が形成され、前記穴41の前端部の開口に臨ませて、ロッド39を摺動自在に支持するブッシュ等の軸受部材Br1が配設される。また、前記ロッド39の後端部にねじ43が形成され、該ねじ43と、吸着板22に対して回転自在に支持された型厚調整機構としてのナット44とが螺合させられる。
前記ナット44の外周面に図示されない大径のギヤが形成され、前記吸着板22に型厚調整用の駆動部としての図示されない型厚調整用モータが配設され、該型厚調整用モータの出力軸に取り付けられた小径のギヤと、前記ナット44の外周面に形成されたギヤとが噛合させられる。
そして、金型装置19の厚さに対応させて、型厚調整用モータを駆動し、前記ナット44をねじ43に対して所定量回転させると、吸着板22に対するロッド39の位置が調整され、固定プラテン11及び可動プラテン12に対する吸着板22の位置が調整されて、ギャップδを最適な値にすることができる。すなわち、可動プラテン12と吸着板22との相対的な位置を変えることによって、型厚の調整が行われる。
なお、本実施の形態においては、コア46及びヨーク47、並びに吸着板22の全体が電磁積層鋼板によって構成されるようになっているが、リヤプラテン13におけるコア46の周囲及び吸着部51を電磁積層鋼板によって構成するようにしてもよい。本実施の形態においては、リヤプラテン13の後端面に電磁石49が形成され、該電磁石49と対向させて、吸着板22の前端面に吸着部51が進退自在に配設されるようになっているが、リヤプラテン13の後端面に吸着部を、該吸着部と対向させて、吸着板22の前端面に電磁石を進退自在に配設することができる。
次に、制御部60の詳細について説明する。図3は、第一の実施の形態における制御部の構成例を示す図である。第一の実施の形態において制御部60は、制御部60aとして説明する。
制御部60aは、電磁石49を駆動するための電磁石駆動部と、リニアモータ28を駆動するためのリニアモータ駆動部とに大別される。電磁石駆動部は、上位コントローラ601、電流パターン生成器602、及びアンプ603より構成される。リニアモータ駆動部は、上位コントローラ601、加算器604、PI制御器605、リミッタ606、加算器607、PID制御器608、切替器609、及びアンプ610より構成される。
上位コントローラ601は、CPU及びメモリ等を備え、メモリに記録された制御プログラムをCPUによって処理することにより、リニアモータ28及び電磁石49の動作を制御する。上位コントローラ601は、型締力の大きさを示す指令(型締力指令)とリニアモータ28が移動すべき位置(目標位置)を示す指令(位置指令)とを出力する。
上位コントローラ601からの型締力指令は、電磁石駆動部の電流パターン生成器602に入力される。電流パターン生成器602は、例えば、サーボカードによって構成され、型締力指令に示される型締力に応じた電磁力を電磁石に迅速に出力させるための電流パターンを生成する。ここで、電流パターンとは、電磁石49のコイル48に供給する時系列の電流値を示す情報をいう。電流パターン生成器602は、生成された電流パターンに従って、電磁石49に供給する電流値を示す信号(電磁石電流指令)を時間の経過に応じてアンプ603に逐次出力する。
アンプ603は、例えば、ドライバカードによって構成され、電流パターン生成器602より入力される電磁石電流指令に応じた電流を電磁石49に供給する。当該電流の供給に応じて電磁石49は駆動する。
上位コントローラ601からの型締力指令は、更に、リニアモータ駆動部の加算器604に入力される。加算器604には、型締装置10に設置された型締力検出器55によって検出される型締力の検出値(型締力検出値)も入力される。加算器604は、型締力指令に示される型締力の値(型締力指令値)と型締力検出値とに基づいて、型締力指令に対する型締力検出値の誤差(型締力誤差)を算出する。算出された型締力誤差は、PI制御器605に入力される。なお、型締力検出器55は、タイバー14の伸び量を検出するセンサ若しくはロッド39上に配設されたロードセル等の荷重検出器、又は電磁石49と吸着部51との間の磁束を検出するセンサによって構成してもよい。
PI制御器605は、型締力誤差をPI制御(比例積分制御)によって補正することにより、型締力誤差を解消するためにリニアモータ28に出力させるトルク値を算出し、当該トルク値を出力させるための指令(型締力トルク指令)を出力する。型締力トルク指令は、リミッタ606に入力される。
リミッタ606は、型締力トルク指令に対してリミット(制限)をかける。すなわち、リミッタ606は、型締力トルク指令が示すトルク値が予め定められた値(リミット値)を超える場合、型締力トルク指令のトルク値をリミット値に抑制する。型締力トルク指令が示すトルク値がリミット値以下である場合、リミッタ606は、型締力トルク指令をそのまま出力する。リミッタ606より出力される型締力トルク指令は、切替器609に入力される。
上位コントローラ601からの位置指令は、加算器607に入力される。加算器607には、型締装置10に設置された位置検出器としてのエンコーダ56によって検出されるリニアモータ28の位置の検出値(位置検出値)も入力される。加算器607は、位置指令に示される位置の値(位置指令値)と位置検出値とに基づいて、位置指令に対する位置検出値の誤差(位置誤差)を算出する。算出された位置誤差は、PID制御器608に入力される。
PID制御器608は、例えば、サーボカードによって構成され、位置誤差に基づいてPID制御(比例積分微分制御)によって、位置誤差を解消するためにリニアモータ28に出力させるトルク値を算出し、当該トルク値を出力させるための指令(位置トルク指令)を出力する。位置トルク指令は、切替器609に入力される。
切替器609は、リミッタ606より入力される型締力トルク指令、及びPID制御器608より入力される位置トルク指令のうち、リニアモータ28に伝達すべき指令を選択する(切り替える)。型開閉時は、リニアモータ28の位置制御が必要とされる。したがって、切替器609は、出力指令を位置トルク指令に切り替える。一方、型締め時は、型締力の制御が必要とされる。したがって、切替器609は、出力指令を型締力トルク指令に切り替える。すなわち、第一の実施の形態では、型締力が、リニアモータ駆動部によってフィードバック制御される。
アンプ610は、例えば、ドライバカードによって構成され、切替器609より入力される型締力トルク指令又は位置トルク指令に応じた電流をリニアモータ28に供給する。当該電流の供給に応じてリニアモータ28は駆動する。
次に、第一の実施の形態における型締装置10の動作について説明する。
制御部60aのリニアモータ駆動部は、型閉じ時に、図2の状態においてコイル35に電流を供給する。すなわち、上位コントローラ601は、リニアモータ28の目標位置を示す位置指令を加算器607に出力する。加算器607は、上位コントローラ601から入力される位置指令と、エンコーダ56より入力されるリニアモータ28の位置検出値との差分(位置誤差)を算出し、PID制御器608に出力する。PID制御器608は、位置誤差を解消するためにリニアモータ28に出力させるトルク値を算出し、当該トルク値を出力させるための指令(位置トルク指令)を切替器609に出力する。切替器609は、型閉じ時において、PID制御器608からの位置トルク指令をアンプ610への出力対象として選択する。従って、当該位置トルク指令に応じた電流が、アンプ610によってコイル35に供給される。
コイル35に電流が供給されるとリニアモータ28が駆動され、可動プラテン12が前進する。可動プラテン12の前進に伴い、エンコーダ56によってリニアモータ28の位置が逐次検出され、加算器607へ位置検出値として入力される。新たな位置検出値に基づいて、当該位置検出値と位置指令との誤差を解消すべく加算器607、PID制御部608、切替器609、及びアンプ610によってフィードバック制御が行われ、可動プラテン12が正確に位置制御される。可動プラテン12の前進により、図1に示されるように、可動金型16が固定金型15に当接させられると、リヤプラテン13と吸着板22との間、すなわち、電磁石49と吸着部51との間には、最適なギャップδが形成される。
可動プラテン12が所定の位置(可動金型16が固定金型15に当接される位置、又は、当接されるわずか手前の位置)に到達すると型締工程が開始される。
型締工程については、図4をも参照しつつ説明する。図4は、第一の実施の形態の制御部による型締力の制御方法を説明するための図である。
型締工程が開始されると、電磁石駆動部によって電磁石49のコイル48に電流が供給される。すなわち、上位コントローラ601は、予め設定された型締力の目標値(目標型締力)を示す型締力指令を電流パターン生成器602及び加算器605に出力する。この型締力指令は、図4(A)の点線L1によって示される。図4(A)の横軸は時間の経過を示し、縦軸は型締力又は電磁石49と吸着部51との間に作用する吸着力を示す。点線L1に示されるように、型締めの開始(t1)と同時に目標型締力を示す型締力指令が入力される。
電流パターン生成器602は、型締力指令に応じた電流パターンを生成し、当該電流パターンに従って、電流指令を時間の経過に応じてアンプ603に出力する。アンプ603は、電流指令に応じた電流を電磁石49のコイル48に供給する。コイル48に電流が供給されることにより電磁石49が駆動し、吸着部51が電磁石49の吸着力によって吸着される。それに伴って、吸着板22及びロッド39を介して吸着力が可動プラテン12に伝達され、金型装置19に型締力が作用する。
電磁石49と吸着部51との間に作用する吸着力(換言すれば、電磁石49と吸着部51との間に作用する吸着力のみによって作用する型締力)は、図4(A)の実線L2に示される。実線L2に示されるように、当該吸着力は、型締め開始と同時に目標型締力L1には到達せず、型締め開始時(t1)より徐々に増加し目標型締力L1に近付く。これは、電磁石49の応答性の悪さに起因する。すなわち、電磁石49は、或る電流値の電流が供給されても、その電流値に対応する吸着力を瞬時に作用させることはできないからである。
吸着力L2によって金型装置19に作用する型締力は、型締力検出器55によって検出され、その型締力検出値はリニアモータ駆動部の加算器604に入力される。加算器604は、型締力指令に対する型締力検出値の誤差(型締力誤差)を算出し、型締力誤差をPI制御器605に出力する。PI制御器605は、型締力誤差をPI制御によって補正することにより、型締力誤差を解消するためにリニアモータ28に出力させるトルク値を算出し、当該トルク値を示す型締力トルク指令をリミッタ606に出力する。リミッタ606は、型締力トルク指令にリミットをかけ、その結果としての型締力トルク指令を切替器609に出力する。
切替器609は、型締工程の開始に応じてアンプ610への出力対象を、PID制御部608より入力される位置トルク指令からリミッタ606より入力される型締力トルク指令に切り替える。したがって、アンプ610には、型締工程の開始に応じて型締力トルク指令が入力され、アンプ610は、型締力トルク指令に応じた電流をリニアモータ28のコイル35に供給する。型締力トルク指令に応じて電流がコイル35に供給されることにより、リニアモータ28は、型締力誤差を補正するためのトルク(型締力補正用トルク)を出力する。すなわち、リニアモータ駆動部によって、型締力のフィードバック制御が行われる。
リニアモータ28より出力される型締力補正用トルクは、図4(B)の実線L5に示される。図4(B)において、横軸は時間の経過を示し、(A)の横軸と同期がとられている。縦軸は、リニアモータ28のトルク値を示す。破線L3、L4は、リミッタ606に設定されているそれぞれプラス(+)のリミット値、マイナス(−)のリミット値を示す。
実線L5に示されるように、型締め開始時(t1)には、リミット値L3のトルクがリニアモータ28より出力される。これは、(A)に示されるように、型締め開始時(t1)には、ほぼ目標型締力L1分の型締力誤差が加算器604によって算出され、その型締力誤差を補正するため、PI制御器605によって目標型締力L1に相当する型締力トルク指令が出力され、更に、リミッタ606によって当該型締力トルク指令がリミット値L3に抑えられるからである。なお、リニアモータ28は、型締力トルク指令に応じた電流の供給に応じて応答性良くトルクを出力することができる。図中(B)では、型締め開始時にリミット値L3が出力されるように示されているが、厳密には、リミット値L3に到達するには多少の時間の経過を要する。
リニアモータ28によって補正されることにより実際に得られる型締力(型締力検出器55によって検出される型締力検出値)は、図4(B)の実線L6に示される。すなわち、実線L6は、(A)の実線L2と(B)の実線L5とを合成したものでもある。図4(C)において、横軸は時間の経過を示し、(A)及び(B)の横軸と同期がとられている。縦軸は、型締力検出値を示す。なお、(C)において、(A)に示される吸着力L2を示す破線L2が参考として(L6に対する比較対象として)示されている。
実線L6に示されるように、型締力検出値は、型締め開始時(t1)において、リニアモータ28の型締力補正用トルク分(リミット値L3分)だけ立ち上がる。その後、型締力検出値L6は、吸着力L2に対して、リニアモータ28のトルクのリミット値L3分だけ加算した値で推移し、吸着力L2の増加に伴ってt2において目標型締力に到達する。但し、電磁石49は、まだ立ち上がり途中であるため、t2以降も吸着力L2は増加し続ける。したがって、t2直後から、加算器604において、目標型締力L1−型締力検出値L6がマイナスになるような(すなわち、目標型締力より型締力検出値の方が大きいことを示す)型締力誤差が算出される。そこで、PI制御器605は、マイナスの型締力誤差に応じたトルク値を示す型締力トルク指令を出力する。当該トルク値は、リミット値L3から吸着力L2のt2以降の増加分を減じたものとなる。したがって、当該型締力トルク指令は、リミッタ606をそのまま(リミットをかけられることなく)通過し、切替器609を経てアンプ610に入力される。アンプ610は、当該型締力トルク指令に応じた電流をリニアモータ28のコイル35に供給する。それによって、t2以降において、リニアモータ28によって出力される型締力補正用トルクL5は、リミット値L3より下降し始める。その後も、リニアモータ駆動部によるフィードバック制御が、型締力保持期間の間継続される。したがって、吸着力L2の変化に応じて型締力補正用トルクL5は変化する。例えば、図示されるように、吸着力L2が増加し続けている間は型締力補正用トルクは下降を続け、型締力検出値L6が目標型締力に維持される。
目標型締力が維持されている間(型締力保持期間中)、射出装置17において溶融させられた樹脂が射出ノズル18から射出され、金型装置19の各キャビティ空間に充墳される。
各キャビティ空間内の樹脂が冷却されて固化すると、制御部60aは、図1の状態において、型開きを開始する。型開きの開始に応じ、上位コントローラ601は、型締力を0とする型締力指令を電流パターン生成器602及び加算器604に出力する。当該型締力指令に応じ電流パターン生成器602は、アンプ603からコイル48への電流の供給を停止させる。その結果、電磁石49の駆動は停止する。
上位コントローラ601は、また、型開きの開始に応じ、可動プラテン12を後退させるために位置指令を加算器607に出力する。加算器607は、当該位置指令とエンコーダ56より入力されるリニアモータ28の位置検出値とに基づいて位置誤差を算出し、PID制御器608に出力する。PID制御器608は、位置誤差を解消するためにリニアモータ28に出力させるトルク値を算出し、当該トルク値を出力させるための位置トルク指令を切替器609に出力する。切替器609は、型開きの開始に応じ、PID制御器608からの位置トルク指令をアンプ610への出力対象として選択する。したがって、型締力を0とする型締力指令に応じてリミッタ606より入力される型締力トルク指令は無視される。従って、当該位置トルク指令に応じた電流が、アンプ610によってコイル35に供給される。コイル35に電流が供給されることによりリニアモータ28が駆動され、可動プラテン12が後退させられる。リニアモータ28は、その後も位置指令に応じて位置制御され、図2に示されるように、可動金型16が後退限位置に置かれ、型開きが行われる。
上述したように、第一の実施の形態における型締装置10によれば、リニアモータ28を、型開閉を行うための型開閉手段と、型締めを補助するための型締め補助手段として用いることができ、型開閉工程、型締め工程の開始に応じ、切替器609によってリニアモータ28の二つの役割を切り替えることができる。そして、型締工程においては、フィードバック制御によってリニアモータ28より出力されるトルクによって型締力を補正することができる。したがって、図4(C)に示されるように、型締力誤差が適切に補正されると共に、型締力の立ち上がり応答性を向上させることができる。型磁力誤差が補正されることで型締力保持期間における型締力が安定し、成形不良の発生率を低下させることができる。また、型締力の立ち上がり応答性の向上により、成形サイクルを短縮することができ、生産性を向上させることができる。
次に、第二の実施の形態について説明する。図5は、第二の実施の形態における制御部の構成例を示す図である。図5中、図3と同一部分には同一符号を付し、その説明は適宜省略する。また、特に明記しない点については第一の実施の形態と同様でよい。第二の実施の形態において制御部60は、制御部60bとして説明する。
第二の実施の形態における電磁石駆動部は、加算器611、LPF(ローパスフィルタ)612、PI制御器613、及びアンプ603より構成される。また、リニアモータ駆動部は、加算器604、HPF(ハイパスフィルタ)614、リミッタ606、PI制御器605、リミッタ606、加算器607、PID制御部608、切替器609、及びアンプ610より構成される。すなわち、第二の実施の形態では、電磁石駆動部に関しては、電流パターン生成器602に代えて、加算器611、LPF612、及びPI制御器613が構成要素とされている。また、リニアモータ駆動部に関しては、HPF614が更に構成要素とされている。斯かる構成要素の相違は、第二の実施の形態では、リニアモータ駆動部だけでなく、電磁石駆動部によっても型締力のフィードバック制御が行われることに基づく。
加算器611は、加算器604と同様の処理(演算)を行う。すなわち、加算器611には、上位コントローラ60からの型締力指令と、型締力検出器55によって検出される型締力検出値とが入力される。加算器611は、型締力指令に示される型締力の値(型締力指令値)と型締力検出値に基づいて、型締力指令に対する型締力検出値の誤差(型締力誤差)を算出する。算出された型締力誤差は、LPF612に入力される。
LPF612は、型締力誤差のうち低周波数成分(帯域)を通過させ、PI制御器613に出力する。
PI制御器613は、PI制御により、型締力誤差の低周波数成分に基づいて、型締力誤差を解消するために電磁石49に供給する電流値を算出し、当該電流値を示す信号(電磁石電流指令)をアンプ603に出力する。
一方、リニアモータ駆動部において、加算器604によって算出される型締力誤差は、HPF614に入力される。
HPF614は、型締力誤差のうち高周波数成分(帯域)を通過させ、PI制御器605に出力する。
次に、第二の実施の形態における型締装置10の動作について説明する。型開閉時(リニアモータ28の位置制御時)の動作については、第一の実施の形態と同様であるため、第二の実施の形態では、図6を参照しつつ、型締工程についてのみ説明する。図6は、第二の実施の形態の制御部による型締力の制御方法を説明するための図である。図6中、図4と同じ対象を示すものについては同一符号を付している。
型締工程が開始されると、上位コントローラ601は、予め設定された目標型締力L1(図6(A))を示す型締力指令を加算器611及び加算器605に出力する。
加算器611は、型締力指令に応じて型締力誤差を算出し、LPF612に出力する。LPF612は、型締力誤差のうち低周波数成分を通過させ、PI制御器613に出力する。PI制御器613は、PI制御により、型締力誤差の低周波数成分に基づいて、当該低周波数成分を解消するために電磁石49に供給する電流値を算出し、当該電流値を示す電磁石電流指令をアンプ603に出力する。アンプ603は、電磁石電流指令に応じた電流を電磁石49のコイル48に供給する。コイル48に電流が供給されることにより電磁石49が駆動し、吸着部51と電磁石49との間に、型締力誤差の低周波数成分を解消するための吸着力L2(図6(A))が作用する。それに伴って、吸着板22及びロッド39を介して吸着力L2が可動プラテン12に伝達され、金型装置19に型締力が作用する。その後も型締力検出器55によって検出される型締力検出値は、加算器611に逐次入力され、上述したフィードバック制御が行われる。したがって、第二の実施の形態では、図6(A)において曲線L2が途中から破線L1に重なっているように、電磁石49による吸着力L2は、それ自体が目標型締力L1との誤差が解消されるように制御される。但し、吸着力L2において解消される誤差は、型締力誤差のうちの低周波数成分についてである。したがって、厳密には、吸着力L2において、完全に型締力誤差が解消されるとは限らない。
そこで、完全に解消されない型締力誤差の調整が、リニアモータ駆動部において行われる。すなわち、加算器604は、型締力指令に応じて型締力誤差を算出し、HPF614に出力する。HPF614は、型締力誤差のうち高周波数成分を通過させ、PI制御器605に出力する。PI制御器605は、型締力誤差の高周波数成分をPI制御によって補正することにより、当該高周波数成分を解消するためにリニアモータ28に出力させるトルク値を算出し、当該トルク値を示す型締力トルク指令をリミッタ606に出力する。リミッタ606は、型締力トルク指令にリミットをかけ、その結果としての型締力トルク指令を切替器609に出力する。
切替器609は、型締工程の開始に応じてアンプ610への出力対象を、PID制御部608より入力される位置トルク指令からリミッタ606より入力される型締力トルク指令に切り替える。したがって、アンプ610には、型締力トルク指令が入力され、アンプ610は、型締力トルク指令に応じた電流をリニアモータ28のコイル35に供給する。型締力トルク指令に応じて電流がコイル35に供給されることにより、リニアモータ28は、型締力誤差の高周波数成分を補正するためのトルク(型締力補正用トルク)を出力する。その後も型締力検出器55によって検出される型締力検出値は、加算器604に逐次入力され、上述したフィードバック制御が行われる。
ここで、リニアモータ28によって補正される誤差は、型締力誤差のうちの高周波数成分についてである。したがって、図6(B)に示されるように、リニアモータ28による型締力補正用トルクL5は、型締め開始(t1)に応じて応答性良く出力され、リミット値L3に到達する。その結果、型締力検出値L6(図6(C))も、型締め開始(t1)に応じてリミット値L3分だけ応答性良く立ち上がる。型締力補正用トルクL5は、吸着力L2の増加に応じて型締力検出値L6が目標型締力L1に到達するまで(t2まで)リミット値に維持され、その後(t2以降)、吸着力L2の増加に応じて低下する。やがて、吸着力L3自体が目標型締力に到達すると(t3)、型締力補正用トルクL5は、0付近の値となる。但し、型締力誤差の高周波数成分を解消するような型締力の微調整は、型締力補正用トルクL5によって引き続き行われる。
なお、切替器609は、型締力トルク指令又は位置指令の切り替えのタイミングを、経過時間やリニアモータ28の位置によって判断してもよいし、型締力指令に応じてリミッタ606からの型締力誤差の出力が開始されたことによって判断してもよい。又は、切替器609を上位コントローラ601に直接接続し、上位コントローラ601からの切り替え指示によって判断してもよい。
上述したように、第二の実施の形態における型締装置10によれば、リニアモータ駆動部(リニアモータ28)と電磁石駆動部(電磁石49)との双方のフィードバック制御により、型締力誤差を適切に補正することができる。したがって、第一の実施の形態と同様に、成形サイクルを短縮することができ、生産性を向上させることができる。
また、リニアモータ駆動部にHPF614が設けられ、電磁石駆動部にLPF612が設けられることにより、電磁石49と比較して応答性が高く、出力されるトルク値の精度の高いリニアモータ28に型締力誤差の高周波数成分に基づいて型締力の制御を行わせることができる。一方、リニアモータ28と比較して応答性が低い電磁石49には低周波数成分に基づいて型締力の制御を行わせることができる。すなわち、HPF614及びLPF612により、電磁石駆動部とリニアモータ駆動部との二つの駆動部の間で、型締力誤差に関して帯域の分離を実現することができる。
また、リミッタ606により、リニアモータ28のトルクを制限することができ、電磁石49に大きな型締力を制御させることができる。すなわち、リミッタ606により、二つの駆動部の間で、型締力誤差に関して偏差の分離を図ることができる。
したがって、電磁石駆動部とリニアモータ駆動部の二つの駆動部により一つの型締力をフィードバック制御する場合において、二つの駆動部による干渉を防止することができる。
すなわち、制御部60bが、LPF612及びHPF614を備えていない場合、次のような事態の発生が想定される。図7は、第二の実施の形態の制御部においてLPF及びHPFを用いない場合に生じ得る不都合を説明するための図である。図7中、図4又は図6と同じ対象を示すものについては同一符号を付している。
制御部60bにおける二つの駆動部によって、型締力誤差がフィードバック制御される場合に、LPF612及びHPF614が備えられていないと、二つの駆動部の間で型締力誤差の帯域を分離させることができない。したがって、二つの駆動部が、同じ値の型締力誤差に基づいて、それぞれが当該型締力誤差を解消しようとする。
具体的には、電磁石駆動部におけるPI制御器613は、当該型締力誤差を解消するための電流指令をアンプ603に出力する。アンプ603は、当該電流指令に応じた電流を電磁石49のコイル48に供給する。電磁石49は供給される電流に応じた吸着力(すなわち、当該型締力誤差が解消されるような吸着力)を作用させる。
それと並行して、リニアモータ駆動部のPI制御器605は、当該型締力誤差を解消するための型締力トルク指令をリミッタ606に出力する。当該型締力トルク指令は、リミッタ606によって制限がかけられアンプ610に出力される。アンプ610は、当該型締力トルク指令に応じた電流をリニアモータ29のコイル35に供給する。リニアモータ29は、供給される電流に応じた型締力補正用トルク(すなわち、当該型締力誤差が解消されるようなトルク)を出力する。
双方の駆動部において、並行して型締力誤差の補正が行われることで、結果的に、一方の補正分だけ、型締力誤差が生じてしまう。そうすると、電磁石駆動部とリニアモータ駆動部とでは、新たな型締力誤差を解消するため、更に、吸着力又はトルクをそれぞれ逆方向に変化させることで、型締力誤差を解消させようとする。
その結果、例えば、図7(A)に示されるように吸着力L2は、目標型締力L1を超えた後も増加を続け、それを解消するために、リニアモータ28は、型締め方向(可動プラテン12を前進させる方向)とは逆方向の型締力補正用トルクL5を発生させる。その結果、型締力検出値は、目標型締力に維持されるように調整される(図7(C)の実線L6)。但し、この場合、電磁石49のコイル48とリニアモータ28のコイル35とには過大な電流が供給され、消費電力が増加すると共に、異常動作の原因になりかねない。
しかし、本実施の形態における型締装置10では、LPF612とHPF614とによって、二つの駆動部によるフィードバック制御の間において、型締力誤差に関して帯域分離が図られている。したがって、図7に示したような問題点、すなわち、二つの駆動部による干渉は適切に防止されるのである。
なお、本実施の形態においては、型締力検出手段として金型に加わる荷重を検出する型締力検出器55を用いることが望ましいため、型締力検出器55を用いた例を示した。但し、型締力検出手段として、電磁石の磁束密度を検出する磁束密度検出器を用いてもよいし、リヤプラテン13と吸着板22との間のギャップδを計測する距離検出器等を用いてもよい。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。