以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施の形態において、型締装置については、型閉じを行う際の可動プラテンの移動方向を前方とし、型開きを行う際の可動プラテンの移動方向を後方とし、射出装置については、射出を行う際のスクリューの移動方向を前方とし、計量を行う際のスクリューの移動方向を後方として説明する。
図1は本発明の実施の形態における金型装置及び型締装置の型閉じ時の状態を示す図、図2は本発明の実施の形態における金型装置及び型締装置の型開き時の状態を示す図である。
図において、10は型締装置、Frは射出成形機のフレーム、Gdは、該フレームFr上に敷設されてレールを構成し、型締装置10を支持するとともに、案内する第1の案内部材としての2本のガイド(図においては、2本のガイドGdのうちの1本だけを示す。)、11は、該ガイドGd上に載置され、前記フレームFr及びガイドGdに対して固定された第1の固定部材としての固定プラテンであり、該固定プラテン11と所定の間隔を置いて、かつ、固定プラテン11と対向させて第2の固定部材としてのリヤプラテン13が配設され、前記固定プラテン11とリヤプラテン13との間に4本の連結部材としてのタイバー14(図においては、4本のタイバー14のうちの2本だけを示す。)が架設される。なお、前記リヤプラテン13は、タイバー14が伸縮するのに伴って、ガイドGdに対してわずかに移動することができるように前記ガイドGd上に載置される。
なお、本実施の形態においては、固定プラテン11はフレームFr及びガイドGdに対して固定され、リヤプラテン13はガイドGdに対してわずかに移動することができるようになっているが、リヤプラテン13をフレームFr及びガイドGdに対して固定し、固定プラテン11をガイドGdに対してわずかに移動することができるようにすることができる。
そして、前記タイバー14に沿って固定プラテン11と対向させて第1の可動部材としての可動プラテン12が型開閉方向に進退自在に配設される。そのために、前記可動プラテン12におけるタイバー14と対応する箇所にタイバー14を貫通させるための図示されないガイド穴が形成される。
前記タイバー14の前端部には図示されない第1のねじ部が形成され、前記タイバー14は、前記第1のねじ部とナットn1とを螺合させることによって固定プラテン11に固定される。また、前記各タイバー14の後方の所定の部分には、タイバー14より外径が小さい第2の案内部材としてのガイドポスト21が、リヤプラテン13の後端面から後方に向けて突出させて、かつ、タイバー14と一体に形成される。そして、リヤプラテン13の後端面の近傍には図示されない第2のねじ部が形成され、前記固定プラテン11とリヤプラテン13とは、前記第2のねじ部とナットn2とを螺合させることによって連結される。本実施の形態においては、ガイドポスト21がタイバー14と一体に形成されるようになっているが、ガイドポスト21をタイバー14とは別体に形成することもできる。
また、前記固定プラテン11には第1の金型としての固定金型15が、前記可動プラテン12には第2の金型としての可動金型16がそれぞれ固定され、前記可動プラテン12の進退に伴って固定金型15と可動金型16とが接離させられ、型閉じ、型締め及び型開きが行われる。なお、型締めが行われるのに伴って、固定金型15と可動金型16との間に複数の図示されないキャビティ空間が形成され、射出装置17の射出ノズル18から射出された成形材料としての図示されない樹脂が前記各キャビティ空間に充墳される。また、固定金型15及び可動金型16によって金型装置19が構成される。
そして、前記可動プラテン12と平行に配設された第2の可動部材としての吸着板22が、リヤプラテン13より後方において前記各ガイドポスト21に沿って進退自在に配設され、ガイドポスト21によって案内される。なお、前記吸着板22には、各ガイドポスト21と対応する箇所に、ガイドポスト21を貫通させるためのガイド穴23が形成される。該ガイド穴23は、前端面に開口させられ、ボールナットn2を収容する大径部24、及び吸着板22の後端面に開口させられ、ガイドポスト21と摺動させられる摺動面を備えた小径部25を備える。本実施の形態において、吸着板22は、ガイドポスト21によって案内されるようになっているが、吸着板22を、ガイドポスト21だけでなく、ガイドGdによって案内することもできる。
ところで、前記可動プラテン12を進退させるために、第1の駆動部としての、かつ、型開閉用の駆動部としてのリニアモータ28が、可動プラテン12とフレームFrとの間に配設される。前記リニアモータ28は、第1の駆動要素としての固定子29、及び第2の駆動要素としての可動子31を備え、前記固定子29は、前記フレームFr上において、前記ガイドGdと平行に、かつ、可動プラテン12の移動範囲に対応させて形成され、前記可動子31は、可動プラテン12の下端において、前記固定子29と対向させて、かつ、所定の範囲にわたって形成される。
前記固定子29の長さをLpとし、可動子31の長さをLmとし、可動プラテン12のストロークをLstとしたとき、前記長さLmは、リニアモータ28による最大の推進力に対応させて設定され、前記長さLpは、
Lp>Lm+Lst
にされる。
前記可動子31は、コア34及びコイル35を備える。そして、前記コア34は、固定子29に向けて突出させて、所定のピッチで形成された複数の磁極歯33を備え、前記コイル35は、各磁極歯33に巻装される。なお、前記磁極歯33は可動プラテン12の移動方向に対して直角の方向に、互いに平行に形成される。また、前記固定子29は、図示されないコア、及び該コア上に延在させて形成された図示されない永久磁石を備える。該永久磁石は、N極及びS極の各磁極を交互に、かつ、前記磁極歯33と同じピッチで着磁させることによって形成される。
したがって、前記コイル35に所定の電流を供給することによってリニアモータ28を駆動すると、可動子31が進退させられ、それに伴って、可動プラテン12が進退させられ、型閉じ及び型開きを行うことができる。
なお、本実施の形態においては、固定子29に永久磁石を、可動子31にコイル35を配設するようになっているが、固定子にコイルを、可動子に永久磁石を配設することもできる。その場合、リニアモータ28が駆動されるのに伴って、コイルが移動しないので、コイルに電力を供給するための配線を容易に行うことができる。
ところで、前記可動プラテン12が前進させられて可動金型16が固定金型15に当接すると、型閉じが行われ、続いて、型締めが行われる。そして、型締めを行うために、リヤプラテン13と吸着板22との間に、第2の駆動部としての、かつ、型締め用の駆動部としての電磁石ユニット37が配設される。そして、リヤプラテン13及び吸着板22を貫通して延び、かつ、可動プラテン12と吸着板22とを連結する型締力伝達部材としてのロッド39が進退自在に配設される。該ロッド39は、型閉じ時及び型開き時に、可動プラテン12の進退に連動させて吸着板22を進退させ、型締め時に、電磁石ユニット37によって発生させられた型締力を可動プラテン12に伝達する。
なお、固定プラテン11、可動プラテン12、リヤプラテン13、吸着板22、リニアモータ28、電磁石ユニット37、ロッド39等によって型締装置10が構成される。
前記電磁石ユニット37は、リヤプラテン13側に形成された第1の駆動部材としての電磁石49、及び吸着板22側に形成された第2の駆動部材としての吸着部51から成り、該吸着部51は、前記吸着板22の前端面の所定の部分、本実施の形態においては、吸着板22において前記ロッド39を包囲し、かつ、電磁石49と対向する部分に形成される。また、リヤプラテン13の後端面の所定の部分、本実施の形態においては、前記ロッド39よりわずかに上方及び下方に、水平方向に延在させてコイル配設部としての二つの溝45が互いに平行に形成され、各溝45間に矩形の形状を有するコア46、及び他の部分にヨーク47が形成される。そして、前記コア46にコイル48が巻装される。
なお、前記コア46及びヨーク47、並びに吸着板22は、強磁性体から成る薄板を積層することによって形成され、電磁積層鋼板を構成する。
本実施の形態においては、リヤプラテン13とは別に電磁石49が、吸着板22とは別に吸着部51が形成されるが、リヤプラテン13の一部として電磁石を、吸着板22の一部として吸着部を形成することもできる。
したがって、電磁石ユニット37において、前記コイル48に電流を供給すると、電磁石49が駆動され、吸着部51を吸着し、前記型締力を発生させることができる。
そして、前記ロッド39は、後端部において吸着板22と連結させて、前端部において可動プラテン12と連結させて配設される。したがって、ロッド39は、型閉じ時に可動プラテン12が前進するのに伴って前進させられて吸着板22を前進させ、型開き時に可動プラテン12が後退するのに伴って後退させられて吸着板22を後退させる。
そのために、前記リヤプラテン13の中央部分に、ロッド39を貫通させるための穴41、及び前記吸着板22の中央部分にロッド39を貫通させるための穴42が形成され、前記穴41の前端部の開口に臨ませて、ロッド39を摺動自在に支持するブッシュ等の軸受部材Br1が配設される。また、前記ロッド39の後端部にねじ43が形成され、該ねじ43と、吸着板22に対して回転自在に支持された型厚調整機構としてのナット44とが螺合させられる。
ところで、型閉じが終了した時点で、吸着板22はリヤプラテン13に近接させられ、リヤプラテン13と吸着板22との間にギャップδが形成されるが、該ギャップδが小さくなりすぎたり、大きくなりすぎたりすると、吸着部51を十分に吸着することができず、型締力が小さくなってしまう。そして、最適なギャップδは、金型装置19の厚さが変化するのに伴って変化する。
そこで、前記ナット44の外周面に図示されない大径のギヤが形成され、前記吸着板22に型厚調整用の駆動部としての図示されない型厚調整用モータが配設され、該型厚調整用モータの出力軸に取り付けられた小径のギヤと、前記ナット44の外周面に形成されたギヤとが噛合させられる。
そして、金型装置19の厚さに対応させて、型厚調整用モータを駆動し、前記ナット44をねじ43に対して所定量回転させると、吸着板22に対するロッド39の位置が調整され、固定プラテン11及び可動プラテン12に対する吸着板22の位置が調整されて、ギャップδを最適な値にすることができる。すなわち、可動プラテン12と吸着板22との相対的な位置を変えることによって、型厚の調整が行われる。
なお、前記型厚調整用モータ、ギヤ、ナット44、ロッド39等によって型厚調整装置が構成される。また、ギヤによって、型厚調整用モータの回転をナット44に伝達する回転伝達部が構成される。そして、ナット44及びねじ43によって運動方向変換部が構成され、該運動方向変換部において、ナット44の回転運動がロッド39の直進運動に変換される。この場合、ナット44によって第1の変換要素が、ねじ43によって第2の変換要素が構成される。
次に、前記構成の型締装置10の動作について説明する。
前記金型装置19の交換に伴い、新しい金型装置19が取り付けられると、まず、金型装置19の厚さに対応させて吸着板22と可動プラテン12との間の距離が変更され、型厚調整が行われる。該型厚調整においては、固定金型15及び可動金型16をそれぞれ固定プラテン11及び可動プラテン12に取り付け、次に、可動金型16を後退させて、金型装置19を開いた状態に置く。
続いて、距離調整工程で、リニアモータ28を駆動し、固定金型15に可動金型16を当接させて型タッチを行う。なお、このとき、型締力は発生させない。この状態で、型厚調整用モータを駆動してナット44を回転させ、リヤプラテン13と吸着板22との距離、すなわち、前記ギャップδを調整し、あらかじめ設定された値にする。
このとき、リヤプラテン13と吸着板22とが接触してもコイル48が破損することがないように、また、コイル48がリヤプラテン13の表面から突出しないように、リヤプラテン13内にコイル48を埋め込む。この場合、リヤプラテン13の表面は、コイル48の損傷防止用のストッパとして機能する。
その後、図示されない制御部の型開閉処理手段は、型開閉処理を行い、型閉じ時に、図2の状態において、コイル35に電流を供給する。続いて、リニアモータ28が駆動され、可動プラテン12が前進させられ、図1に示されるように、可動金型16が固定金型15に当接させられる。このとき、リヤプラテン13と吸着板22との間、すなわち、電磁石49と吸着部51との間には、最適なギャップδが形成される。なお、型閉じに必要とされる力は、型締力と比較されて十分に小さくされる。
続いて、前記型開閉処理手段は、型締め時に、前記コイル48に電流を供給し、吸着部51を電磁石49の吸着力によって吸着する。それに伴って、吸着板22及びロッド39を介して型締力が可動プラテン12に伝達され、型締めが行われる。
また、前記型締力は図示されない荷重検出器によって検出され、検出された型締力は前記制御部に送られ、該制御部において、型締力が設定値になるようにコイル48に供給される電流が調整され、フィードバック制御が行われる。この間、射出装置17において溶融させられた樹脂が射出ノズル18から射出され、金型装置19の各キャビティ空間に充墳される。なお、前記荷重検出器として、ロッド39上に配設されたロードセル、タイバー14の伸び量を検出するセンサ等を使用することができる。
そして、各キャビティ空間内の樹脂が冷却されて固化すると、前記型開閉処理手段は、型開き時に、図1の状態において、前記コイル48に電流を供給するのを停止する。それに伴って、リニアモータ28が駆動され、可動プラテン12が後退させられ、図2に示されるように、可動金型16が後退限位置に置かれ、型開きが行われる。
なお、本実施の形態においては、コア46及びヨーク47、並びに吸着板22の全体が電磁積層鋼板によって構成されるようになっているが、リヤプラテン13におけるコア46の周囲及び吸着部51を電磁積層鋼板によって構成するようにしてもよい。本実施の形態においては、リヤプラテン13の後端面に電磁石49が形成され、該電磁石49と対向させて、吸着板22の前端面に吸着部51が進退自在に配設されるようになっているが、リヤプラテン13の後端面に吸着部を、該吸着部と対向させて、吸着板22の前端面に電磁石を進退自在に配設することができる。
また、本実施の形態では薄板からなる積層板を用いた例を示したが、一の部材からなる鉄心でコア46及びヨーク47を形成するようにしてもよい。
ところで、本実施の形態において、リニアモータ28の駆動制御は、例えば、次のような制御システムによって行われる。図3は、本実施の型締装置におけるリニアモータ制御システムの構成例を示す図である。
図3において、リニアモータ制御システムは、シーケンサ60、制御装置70、及びアンプ80等と、型締装置10におけるリニアモータ28及びエンコーダ161等とより構成される。
シーケンサ60は、型開閉に関する動作指令を制御装置70に対して出力する。制御装置70は、起動生成部71、制御演算部72、速度監視部73、トルク監視部74、及び速度リミットパターン75等より構成され、シーケンサ60からの動作指令に応じてリニアモータ28を駆動させるためのトルク指令を出力する。制御装置70における各部は、制御装置70に組み込まれたプログラムが処理されることによって具現化される。起動生成部71は、シーケンサ60からの動作指令に応じて、時系列の速度指令を算出し、算出された速度指令を制御演算部72に出力する。時系列の速度指令は、作業現場におけるオペレータによって入力された起動生成条件と、速度リミットパターン75とに基づいて算出される。起動生成条件は、型閉じの際のリニアモータ28の位置制御に関する情報(時間と目標位置との関係を示す情報)やリニアモータへ流すことが可能な電流量によって規定される最高速度等、リニアモータによる型開閉動作を規定するための各種条件である。速度リミットパターン75は、型閉じ動作の適切な制御のために、例えば、予めメーカーによって装置の仕様として設定された情報であり、型閉じに至るまでの複数の地点において制限速度(許容速度)が設定されている。したがって起動生成部71は、オペレータによって入力された起動生成条件に基づいてリニアモータを駆動させる際に、各地点における速度が、速度リミットパターン75に設定された許容速度を超えないように時系列の速度指令を算出する。
制御演算部72は、起動生成部71からの速度指令に応じた速度を得るためのトルク指令を生成し、出力する。アンプ80は、制御演算部72からのトルク指令に基づいてリニアモータ28(のコイル35)に供給する電流を制御する。
速度監視部73は、例えば、可動プラテン12に設置されたエンコーダ161より出力される可動金型16の位置情報に基づいて、リニアモータ28の速度を監視する。速度監視部73は、リニアモータ28の速度が速度リミットパターン75に定義された速度を超えた場合、制御演算部72に対して減速指令を出力する。すなわち、速度監視部73によってリニアモータ28の速度に関してフィードバック制御が行われる。
トルク監視部74は、制御演算部72より出力されるトルク指令を監視し、金型装置19において異物の挟み込みが検出された場合等、リニアモータ28を緊急停止させる必要がある場合に、制御演算部72に対して緊急停止指令を出力する。
速度リミットパターン75について更に詳しく説明する。図4は、速度リミットパターンを説明するための図である。なお、図4は、リニアモータ28の最大加速度が10m/s2である場合の例である。
速度リミットパターン75は、例えば、次のような手順で設定される。
(1)まず、リニアモータ28の最大加速度を求める。最大加速度は、リニアモータ28によって移動させられるもの(可動プラテン12及び可動金型16等)の重量と、リニアモータ28が出力可能な力に基づいて算出される。また、実験等に基づいて求めてもよい。図4では、最大加速度は10m/s2であるとする。
(2)続いて、速度リミットパターン75を形成するための節点となるリミットパターン設定位置としての金型間距離(型タッチ位置を基準とした可動金型16と固定金型15との距離)及び当該金型間距離において許容される空走距離(許容空走距離)とを決定する。図4では、A、B、及びCの3つのリミットパターン設定位置が設定されている。リミットパターン設定位置Aは、金型間距離が15mmの地点とされ、その地点からの許容空走距離は1mmであるとされている。また、リミットパターン設定位置Bは、金型間距離が5mmの地点とされ、その地点からの許容空走距離は0.5mmであるとされている。また、リミットパターン設定位置Cは、金型距離が0.5mmの地点とされ、その地点からの許容空走距離は0.02mmであるとされている。
(3)続いて、許容空走距離と最大加速度とから、各金型間距離において許容される速度(許容速度)、すなわち、許容空走距離以内で停止できる速度を算出する。これは周知の物理法則に基づいて算出すればよい。例えば、最大加速度が10m/s2の場合に、1mmで停止するには、許容速度は141mm/sであると算出される。また、0.5mmで停止するには、許容速度は100mm/sであると算出される。また、0.02mmで停止するには、許容速度は20mm/sであると算出される。
以上によって、各金型間距離と許容速度との関係が求められた。すなわち、図4によれば、金型間距離が15mmにおける許容速度は141mm/sとなる。同様に、金型間距離が5mm、0.5mmにおける許容速度は、それぞれ100mm/s、20mm/sとなる。この関係を示す情報が、本実施の形態における速度リミットパターン75に相当する。なお、リミットパターン設定位置は適宜変更可能である。但し、複数の金型間距離について段階的に許容速度との関係が求められることが好ましい。
起動生成部71や速度監視部73は、このような速度リミットパターン75に基づいて速度指令を算出し、又はリニアモータ28の速度を監視する。すなわち、起動生成部71は、オペレータより入力された起動生成条件から算出される速度が、速度リミットパターン75における許容速度を超える場合は、許容速度以下の速度を速度指令として出力する。また、速度監視部73は、位置情報から算出される速度が、速度リミットパターン75における許容速度を超える場合は、許容速度以下の速度に減速するよう減速指令を出力する。
ところで、図4の状態では、速度リミットパターン75は、離散値な情報となっている。これを連続的な情報とするには、以下のようにすればよい。連続的な情報とすることにより、更にきめ細かい速度制御が可能となる。
図5、図6、及び図7は、連続的な速度リミットパターンの生成方法を説明するための図である。ここでは、図4に示される値を用いて説明する。
図5では、速度が1m/sの状態からリミットパターン設定位置Aにおける許容速度(141mm/s)に減速する際の速度リミットパターンが曲線l1によって示されている。すなわち、図5において、点p1は、図4のリミットパターン設定位置Aに相当する。ここで、曲線l1は、物理法則基づいて以下の関係式(1)によって求められる。
(2a(v−v1))1/2=x−x1 ・・・(1)
すなわち、図5では、関係式(1)について、v1(p1における許容速度)=0.141[m/s]、x1(p1における金型間距離)=0.015[m]、a(最大加速度)=10[m/s2]とした場合の、x(金型間距離)とv(許容速度)との関係が曲線l1によって示されている。
他のリミットパターン設定位置についても関係式(1)に基づいて、速度リミットパターンを順番に生成すればよい。図6では、リミットパターン設定位置Bと、リミットパターン設定位置Cとのそれぞれについて、関係式(1)に基づいて求められた曲線l2及び曲線l3が示されている。すなわち、図6において、点p2は、リミットパターン設定位置Bに相当する。また、点p3は、リミットパターン設定位置Cに相当する。これによって、図4の離散的な速度リミットパターンに対応する連続的な速度リミットパターンが生成された。
ところで、図6に示される速度リミットパターンは、減速が断続的に行われるため装置を制御する上で必ずしも適切なパターンとは言えない。そこで、図6に示される速度リミットパターンより低い速度範囲内で、各リミットパターン設定位置間(点p1と点p2との間、及び点p2と点p3との間)の減速が滑らかになるように修正すれば型閉じ動作も滑らかなものとすることができる。図7には、この様子が示されている。すなわち、図7において、点p1と点p2との間は滑らかな曲線l4によって結ばれている。また、点p2と点p3との間は滑らかな曲線l5によって結ばれている。曲線l4や曲線l5の生成方法は、特定のものに限定されない。図6に示される速度リミットパターン(図7では、破線で示されている。)より低い速度範囲内であれば、どのように生成されてもよい。
図7に示されるような速度リミットパターンに基づけば、起動生成部71や速度監視部73は、速度リミットパターンを超えないように速度制御することでより細かな速度制御を行うことが可能となる。
なお、起動生成部71は、金型間距離と許容速度との関係からなる速度リミットパターンを微分することにより、時間と速度との関係からなる速度リミットパターンに変換し、変換後の速度リミットパターンに基づいて、速度指令を制御してもよい。図8は、時間と速度の関係からなる速度リミットパターンの例を示す図である。図8のグラフは、図7に示される速度リミットパターンを時間と速度との関係で示したものである。
上述したように、本実施の形態における型締装置によれば、予め定められた速度リミットパターンによってリニアモータ28の移動速度が制限される。また、その速度リミットパターンは、所定の基準に基づいて多段階に定められた情報である。したがって、ある程度の生産性又は効率性を保持しつつ、当該基準を満たすような速度で型閉じ動作を実行することができる。よって、適切な速度リミットパターンを設定することで、金型の間に異物が検出された等の異常が発生した場合に、適切に型閉じ動作を停止させることができる。具体的には、本実施の形態における速度リミットパターン75の場合、金型間距離が5mmの際に異物が挟まりそうな場合、0.5mmの空走の後に停止させることができるため、異物が金型間に挟まれることによって金型に大きなダメージを与えることを防止することができる。
なお、本実施の形態において、速度リミットパターン75は、金型間距離(リニアモータ28の位置、又は可動プラテン12若しくは可動金型16の位置であってもよい。)と許容速度との関係を示す情報をいうが、人によって入力される情報は、必ずしも、図4、図5、図6、図7又は図8に示されるような完成された情報でなくてもよい。例えば、リニアモータ28の最大加速度と、各金型間距離及び当該金型間距離における許容空走距離を人によって入力させ、それ以降の計算、すなわち、許容速度の計算、及び図5〜図8に示される速度リミットパターンの連続化等は起動生成部71が自動的に行うようにしてもよい。
また、本実施の形態では、シーケンサ60からの型閉じの動作指令に応じて、速度リミットパターン75に基づく速度制御が行われるような形態を説明したが、例えば、作業現場におけるオペレータが起動生成条件を設定する際に、速度リミットパターン75による検証を行うようにしてもよい。この場合、予め、速度リミットパターン75の制限を超えるような起動生成条件が設定されることを防止することができる。したがって、起動生成部71は、その動作時には、速度リミットパターン75を参照する必要はなくなる。但し、制御演算部72から出力される速度指令通りにリニアモータ28が駆動されるとは限らない。したがって、予め速度リミットパターン75の制限内で生成された起動条件に基づいて速度指令が出力される場合であっても、速度監視部73による監視は、速度リミットパターン75に基づいて行われることが型閉じ動作の適切な制御という観点より望ましい。
次に、異常の検知に応じた型閉じ動作の停止制御について説明する。図9は、異常検出時の型閉じ動作の停止制御を説明するためのフローチャートである。また、図10は、異常検出時の型閉じ動作の停止制御における時間と金型位置との関係を示す図である。
リニアモータ28の駆動によって型閉じが開始された後、異常が検知されるまでの通常運転時は、オペレータより入力された位置制御情報(時間と目標位置との関係を示す情報)に基づいて起動生成部71によって時系列の速度指令が出力される(S11)。なお、この際、速度リミットパターン75による制限を超えないような速度指令が出力される。当該速度指令に基づいて、制御演算部72及びアンプ80を経て、リニアモータ28の駆動が制御される。なお、位置制御情報に基づくリニアモータ28の駆動制御を「位置制御」という。
図10において、時間t0〜t1(異常検知時)までの間がステップS11の状態に相当する。破線l10は、時間と目標位置との関係、すなわち、オペレータによってコマンドとして入力された位置制御情報に相当する。曲線l11は、時間と実際の可動金型16(又はリニアモータ28)の位置(金型位置)との関係を示す。時間t0〜t1までの間における破線l10と曲線l11とによって、通常運転時は、目標位置を追いかけるようにリニアモータ28の位置制御が行われている様子が示されている。
続いて、非図示のセンサによってトルク異常等の異常が検知され、その検知信号がトルク監視部74に入力されると、トルク監視部74は、通常運転時のトルクとは逆向きのトルク(逆トルク)を発生させるよう(すなわち、リニアモータ28の推進方向を反転させるよう)制御演算部72に指令する(S12)。トルク監視部74からの指令に応じ、制御演算部72は、リニアモータ28の制御をトルク制御に切り換える(S13)。すなわち、起動生成部71からの速度指令は無視し、逆トルクの指令を出力する。リニアモータ28は、逆トルクの指令に応じ、逆トルクを発生させる。但し、リニアモータ28は、直ちには後退(反転)できず、慣性力によって空走を続け、リニアモータ28の逆トルクが慣性力に優った時点で後退を開始する。
図10において、時間t1〜t2までの間が、ステップS13の状態に相当する。すなわち、時間t1〜t2までの間において、金型位置が、異常が検出された時点の位置(異常位置)P1から最終到達位置P2まで進んでいる様子が曲線l11より読み取れる。ここで、最終到達位置P2−異常位置P1が空走距離に相当する。なお、リニアモータ28の空走距離をできるだけ短くするという観点より、リニアモータ28が発生させる逆トルクは、最大の逆トルクであることが好ましい。すなわち、制御演算部72は、リニアモータへ流すことが可能な電流量によって規定される最大の逆トルクの指令を出力することが好ましい。
逆トルクの指令を出力後、制御演算部72は、エンコーダ161より入力される金型の位置情報を監視し、リニアモータ28が逆トルクによって異常位置P1まで後退するのを、すなわち、金型間の距離が異常の検知された状態まで回復するのを待機する(S14)。
図10において、時間t2〜t3までの間が、ステップS14の状態に相当する。すなわち、時間t2において、金型位置は最終到達位置P2より後退を開始し、時間t3において、異常位置P1まで後退している。
制御演算部72は、エンコーダ161からの位置情報に基づいて、金型位置が異常位置P1まで後退したことを確認すると、リニアモータ28の制御をトルク制御から位置制御に切り換える(S15)。すなわち、起動生成部71から速度指令の無視を解除し、当該速度指令に基づいてトルク指令を出力する。図10において、時間t3がトルク制御から位置制御に切り替わったタイミングを示す。図10によれば、位置制御に切り替わった後も、金型位置の後退は継続している。これは逆トルクによる慣性力の影響を表したものである。なお、トルク制御から位置制御への切り換えのタイミングは、金型の位置に基づいてではなく、時間に基づいて決定されてもよい。例えば、異常の検知(逆トルクの発生)から0.2秒後に位置制御に切り換えるといった具合である。
ところで、異常の検知は、起動生成部71にも通知される。起動生成部71は、異常検知に応じて目標位置を停止目標位置に切り換えて速度指令を出力する。したがって、起動生成部71からの速度指令が再び有効となることにより、リニアモータ28は、停止目標位置に停止するよう位置制御される。
図10において、停止目標位置は、P3によって示されている。本実施の形態では、停止目標位置P3は、異常位置P1から所定の距離(待避距離)だけ後退した位置に設定されている。したがって、本実施の形態において、リニアモータ28は、異常位置P1よりも後退した位置(すなわち、金型間の距離が異常の検知されたときの距離より長い状態)で最終的に停止する。これによって、例えば、異物を挟まったことが検知された場合、異物が挟まった状態よりも、金型が開いた状態でリニアモータ28を停止させることになり、当該異物を金型から容易に解放することができる。
待避距離の定め方は所定のものに限定されない。常に一定の値であってもよいし、例えば、速度リミットパターン75として、それぞれのリミットパターン設定位置(金型間距離)ごとに設定されてもよい。
図11は、金型間距離ごとに待避距離が設定された例を示す図である。図11に示される表は、図4に示される表に対して、「待避距離」の列を追加したものである。
すなわち、図11によれば、金型間距離が15mmのときに異常が検知された場合は、待避距離は10mmである。したがって、最終的に金型間距離が25mmの状態でリニアモータ28が停止することになる。同様に、金型間距離が5mm、0.1mmのときに異常が検知された場合は、金型間距離が6mm、0.11mmの状態でリニアモータ28が停止することになる。この際、逆トルクの発生によってそれぞれの許容空走距離以内で後退が開始されるように制御される。
上述したように、本実施の形態における型締装置10によれば、異常が発生した際は、位置制御からトルク制御に切り換えられ、逆トルクを発生させることにより、型閉じ動作の停止制御が行われる。したがって、位置制御による停止制御と比較して、空走距離を短くすることができる。また、型閉じ動作の停止において、金型間は、異常が検知されたときよりも開いた状態となる。よって、異常の発生による被害の拡大を低下させることができる。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。