以下、本発明の実施の形態による刺繍機を、多頭式刺繍機に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図13は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は多頭式刺繍機の本体部分を構成する刺繍用の基台で、該基台1は、図1に示すように左,右に離間した側枠2,3により支持され、前,後方向と左,右方向とに水平に延びて配置されている。側枠2,3間には、基台1の上方に位置して左,右方向に延びるヘッド支持体4が固定して設けられている。
5,5,…はヘッド支持体4の前部側に設けられた刺繍機のヘッド部で、これらのヘッド部5は、基台1上に合計6個設けられ、例えば6頭式のミシンヘッドを構成している。なお、これは1つの例を示すものであり、基台1上には、例えば3頭〜15頭に及ぶヘッド部5等が設けられる機種もある。
そして、これらのヘッド部5は、図2、図3に示す如くヘッド本体6と、該ヘッド本体6の前面側に設けられ、ヘッド本体6に対して左,右(図2中の矢示A,B方向)に移動可能となった可動支持体としての針棒ケース7と、該針棒ケース7上に設けられ、後述の色替え機構10により針棒ケース7と一体に左,右方向に移動される後述の糸調子台13等とにより構成されている。また、針棒ケース7の上部側には、左,右に離間した一対の枠体からなる天秤支持枠7A,7Aが設けられ、該各天秤支持枠7Aは後述の各天秤23を左,右両側から挟むようにして各天秤23を外部の障害物等から保護するものである。
また、各ヘッド部5のヘッド本体6には、図4に示す主軸モータ8により主軸9(図3参照)を介して駆動される天秤駆動部および針棒駆動部(いずれも図示せず)等が設けられ、これらの駆動部により後述の天秤23と針棒24とがそれぞれ上,下に駆動されるものである。主軸モータ8は、例えば図1に示すヘッド支持体4の背面側等に設けられている。さらに、ヘッド本体6には、図4に示す色替え機構10が設けられている。この色替え機構10は、針棒ケース7と糸調子台13とを一体に左,右(図2中の矢示A,B方向)へと移動させることにより、後述の色替え作業を行うものである。
11は基台1の上方に位置してヘッド支持体4の上側に配設された上糸収納部としての糸立て台で、該糸立て台11には、図1に示すように複数の上糸ボビン11A等が設けられ、これらの上糸ボビン11Aには、例えば赤、青、黄、白、黒色等の複数色の上糸(以下、刺繍糸Sという)等が巻回されている。刺繍作業時には、これらの上糸ボビン11Aから色替え機構10により選択された刺繍糸Sが、後述の天秤23等を用いて引出され、刺繍布等の刺繍対象物(図示せず)に対する多数色の刺繍が後述するミシン針25の運針動作に伴って行われる。
12は刺繍糸Sの張力を調整する糸張力調整部で、該糸張力調整部12は、図1〜図3に示すように糸立て台11と天秤23との間に位置してヘッド部5に設けられた糸道形成台としての糸調子台13と、後述の第1糸調子14、第2糸調子15および糸車18等とを含んで構成される。糸調子台13は、図3に示す如く略四角形または凸形状をなす箱体として形成されている。糸調子台13の内部には、後述する糸切れセンサ16の光学センサ20等が収容されている。
14,14,…は糸調子台13の前面上端側に設けられた複数(例えば、9個)の第1糸調子で、これらの第1糸調子14は、糸立て台11の各上糸ボビン11Aから導かれる刺繍糸S毎の張力を粗調整する機能を有している。また、各第1糸調子14は、後述の第2糸調子15等と協働して糸調子台13の前面側に互いに間隔をもって平行に延びる刺繍糸Sの糸道を形成するものである。
15,15,…は各第1糸調子14よりも下側に位置して糸調子台13の前面側に設けられた複数(例えば、9個)の第2糸調子で、該各第2糸調子15は、図2に示す如く上,下の2列に分かれて配置されている。即ち、上側の列には合計5個の第2糸調子15が左,右方向に並べて配置され、下側の列には合計4個の第2糸調子15が左,右方向に並べて配置されている。そして、これらの第2糸調子15は、各第1糸調子14側から後述の糸車18を介して導かれる刺繍糸S毎の張力を、調整ダイヤル(図示せず)等を用いて個別に微調整する。これらの各調整ダイヤルにより、刺繍糸Sに付与される張力は、それぞれの種類に適した糸張力となるように微調整されるものである。
16,16,…は第1糸調子14と第2糸調子15との間に位置して糸調子台13に設けられた糸切れ検出装置(以下、糸切れセンサ16という)で、該各糸切れセンサ16は、図5に示すように、回転軸17と、後述の糸車18、スリット板19および光学センサ20等とにより構成されている。各糸切れセンサ16の回転軸17は、糸調子台13の前面側に軸受(図示せず)等を介してそれぞれ回転可能に取付けられている。回転軸17は、図5に示すようにスリット板19側が大径軸部17Aとなっている。
18,18,…は糸調子台13の前側に位置して回転軸17にそれぞれ設けられた回転体としての糸車で、該各糸車18は、図5に示すように2枚の糸車部材18A,18Bを互いに重ね合わせることにより構成されている。該糸車部材18A,18B間には、刺繍糸Sが1周巻かれた状態で給糸方向下流側の第2糸調子15に向けて延びるように配置される。そして、糸車18は、刺繍糸Sが第2糸調子15側に向けて供給(給糸)されるときに該刺繍糸Sの動きに追従して回転し、この回転を回転軸17を介してスリット板19に伝えるものである。
19は糸調子台13内に位置して各回転軸17の大径軸部17Aに設けられた被検出体となるスリット板で、該スリット板19は、糸車18よりも大なる外径をもって円板状に形成され、その周方向には図5に示す如く放射状に延びる細長いスリット19A,19A,…が、例えば20〜30度の角度をもって穿設されている。スリット板19は、刺繍糸Sが第2糸調子15側に向け供給されるのに追従して糸車18、回転軸17と一緒に刺繍糸Sの供給量(消費量)に対応した回転数(回転角)をもって回転し、この回転が後述の光学センサ20により検出されるものである。
20はスリット板19の回転を検出する回転センサとしての光学センサで、該光学センサ20は、図5に示すように、スリット板19を前,後で挟む位置にそれぞれ発光部と受光部(いずれも図示せず)を有し、スリット板19の各スリット19Aを介して光学的にスリット板19の回転を検知する。この場合、光学センサ20は、スリット板19の各スリット19Aを検知することにより、刺繍糸Sの消費(供給)量を高精度に検出することができる。また、刺繍糸S(上糸)または下糸(図示せず)に糸切れが発生したときには、刺繍糸Sの給糸が中断され糸車18の回転も停止されるので、光学センサ20は、スリット板19(糸車18)の回転の有,無によって糸切れの発生を検出するものである。
21は第2糸調子15と天秤23との間に位置して糸調子台13の下部側に設けられた糸ガイドで、該糸ガイド21は、図2に示す如く糸調子台13の下端側に沿って左,右方向に延びる板状金具からなり、例えば合計9個の糸掛け(図示せず)が左,右方向の間隔をもって設けられている。そして、糸ガイド21の各糸掛けには、各第2糸調子15と各天秤23との間でそれぞれ刺繍糸Sが1本ずつ挿通されるものである。
22は天秤23よりも下側に位置して針棒ケース7の前面側に設けられた他の糸ガイドで、該糸ガイド22は、図2に示すように針棒ケース7の幅方向(左,右方向)に延びる板状金具からなり、例えば合計9個の糸挿通部22A,22A,…が左,右方向に間隔をもって設けられている。また、糸ガイド22には、図2、図3に示すように各糸挿通部22Aに対応して糸掛け部22Bが合計9個設けられている。そして、上側の糸ガイド21から導かれる各刺繍糸Sは、糸ガイド22の糸掛け部22Bに挿通した後に、後述する天秤23の糸挿通孔23Aに向けて引き回し、この糸挿通孔23Aから糸ガイド22の糸挿通部22Aを通してミシン針25側へと導かれるものである。
23,23,…はヘッド部5の針棒ケース7から前面側に突出して設けられた複数の天秤で、これらの天秤23は、図2に示す如く針棒ケース7内に左,右方向の間隔をもって並列状態で(例えば、合計9個)配設されている。そして、各天秤23は、天秤支持軸(図示せず)により回動可能に支持され、前記ヘッド本体6に設けられた天秤駆動部(図示せず)により主軸9の回転に従って上,下に揺動されるものである。
前述した色替え機構10により針棒ケース7を左,右に移動して色替え作業を行うときには、例えば合計9本の天秤23のうちいずれか1本の天秤23が色替え機構10で選択され、選択された天秤23のみが上,下に揺動される。また、選択されていない残余の天秤23は、天秤保持機構(図示せず)により図3に例示する待機位置に保持され、その後に色替え機構10で選択されるまでは、この待機位置に停止し続けるものである。
一方、天秤23の先端(突出端)側には糸挿通孔23Aが穿設され、該糸挿通孔23Aには刺繍糸Sが挿通されている。そして、この状態で天秤23は、上死点から下死点へと下向きに駆動されるときに、ミシン針25との間で刺繍糸Sに僅かなたるみを与え、刺繍糸Sをミシン針25側に給糸させる。また、天秤23は上向きに駆動されるときに、ミシン針25により刺繍布等に形成した縫い目(いずれも図示せず)と糸取りばね(図示せず)、第2糸調子15等との間で刺繍糸Sを引っ張り上げるようにして刺繍糸Sに張力を与え、前記縫い目の糸締めと刺繍糸Sの繰り出しとを行うものである。
24,24,…は天秤23の下側に位置して針棒ケース7内に設けられた複数(例えば、9個)の針棒で、該各針棒24の下端側には、それぞれミシン針25が着脱可能に装着されている。そして、これらの針棒24およびミシン針25は、ヘッド本体6に設けられた針棒駆動部(図示せず)により主軸9の回転に従って上,下に駆動される。また、これらの針棒24、ミシン針25についても、天秤23と同様に色替え機構10により選択され、選択された針棒24のみがミシン針25と共に上,下に往復動される。そして、色替え機構10で選択されていない残余の針棒24は、ミシン針25と一緒に図2、図3に示す如く上死点位置に留まり、色替え機構10で選択されるまでは上死点位置に保持されるものである。
26,26,…は各針棒24の下端側に上,下動可能に設けられた例えば9個の布押えで、該各布押え26は、各針棒24により上,下方向に駆動され、前記刺繍布を後述の針板31との間で挟持する。即ち、布押え26は、ミシン針25の運針時に前記刺繍布を針板31上に押付けることにより、ミシン針25による縫い目(刺繍柄)の形成を安定させる機能を有している。
27は各ヘッド部5に設けられたロータリソレノイド等からなるジャンプ機構で、該ジャンプ機構27は、図4に示す如く制御装置43の出力側に接続され、針棒24と一緒にミシン針25をジャンプ制御するものである。ジャンプ機構27は、刺繍機の通常運転時(ジャンプ制御の解除時)に各ミシン針25のいずれかが前記針棒駆動部により主軸9の回転に従って上,下に駆動されるのを許し、ジャンプ制御時には前記ミシン針25を針棒24と一緒に上死点に移動して停止させる。即ち、ジャンプ機構27は、制御装置43によってジャンプ制御される間、ミシン針25を運針停止状態に保持し、ジャンプ制御が解除されると、ミシン針25の運針動作を許すものである。
28は各天秤23と各ミシン針25との間に位置して針棒ケース7の下端側に設けられた複数の糸保持機構(図3中に1個のみ図示)で、該各糸保持機構28は、図6、図7に示すように略コ字状に折曲げて形成された糸保持枠28Aと、該糸保持枠28A内にロッド28Bを介して移動可能に取付けられた保持片28Cと、該保持片28Cと糸保持枠28Aとの間に配設され、常時は保持片28Cを刺繍糸S側に向けて矢示C方向に付勢する保持ばね28Dと、ロッド28Bの軸方向端部に設けられ保持ばね28Dに抗してロッド28Bと一緒に保持片28Cを矢示D方向に変位(移動)させるソレノイド等のアクチュエータ(図示せず)とを含んで構成されている。
ここで、糸保持機構28には、図6、図7に示すように糸保持枠28Aと保持片28Cとに刺繍糸Sが挿通される挿通孔28E,28Fが形成されている。糸保持枠28Aは、針棒ケース7の下端側に着脱可能に固定して取付けられ、保持片28Cは、ロッド28Bと一緒に糸保持枠28A内を矢示C,D方向に変位する。糸保持機構28は、後述の制御装置43により前記アクチュエータが通電されるまでは、図7に示すように保持ばね28Dの付勢力により刺繍糸Sを糸保持枠28Aと保持片28Cとの間で挟持し、刺繍糸Sがミシン針25に向けて供給されるのを防ぐように糸保持する。
一方、制御装置43から前記アクチュエータに通電してロッド28Bを図6中の矢示D方向に移動したときには、糸保持枠28Aと保持片28Cとの間に隙間が形成されるため、糸保持機構28は、刺繍糸Sが挿通孔28E,28Fを介して上,下方向に移動するのを許し、刺繍糸Sに対する糸保持を解除する。この場合、各糸保持機構28は、制御装置43からの制御信号に従って複数の刺繍糸Sに対する糸保持,解除を個別に行う。例えば、色替え機構10で選択された刺繍糸Sは、該当する糸保持機構28により図6に示す如く糸保持状態が解除され、色替え機構10で選択されていない残余の刺繍糸Sは、該当する各糸保持機構28により図7に示す如く糸保持した状態に配置される。
29は各ヘッド部5の下側に位置して刺繍機の基台1上に配設された刺繍用枠としての移動枠で、該移動枠29は、図1に示すように長方形状の四角枠として形成され、例えば合計6個のヘッド部5の下側で前記刺繍布等を展張状態で保持する。そして、移動枠29は、枠移動モータ等からなる枠移動機構30により前記刺繍布と一緒に基台1上を前,後方向(例えば、Y軸方向)と左,右方向(例えば、X軸方向)とに水平方向に枠移動されるものである。
この場合、枠移動機構30のモータは、基台1の下面側または背面側に設けられ、前述した主軸モータ8等と共に刺繍機の駆動源を構成するものである。そして、枠移動機構30により移動枠29が枠移動されるときには、これにほぼ連動して各ヘッド部5側のミシン針25が上,下に運針されることによって、刺繍布等には刺繍データに対応した刺繍柄がヘッド部5毎に実現されるものである。
31,31,…は各ヘッド部5の下側に位置して基台1に設けられた複数の針板で、これらの針板31は、図1に示すように各ヘッド部5と上,下で対向して合計5個配置されている。移動枠29に刺繍布をセットした状態では、この刺繍布により各針板31は上側から完全に覆われる。また、各針板31には、色替え機構10により選択されたミシン針25と上,下で対向する位置に針孔31A(図8、図9参照)が穿設されている。この針孔31A内には、各ヘッド部5側でミシン針25を運針するときに後述の回転釜33に向けて当該ミシン針25が挿入される。
32は該各針板31の下側に位置して基台1に設けられた複数の釜ホルダ(図2、図3に1個のみ図示)で、該各釜ホルダ32は、図2、図3、図8、図9に示すように後述の回転釜33を回転可能に収容する箱形状のケーシングを構成している。また、各釜ホルダ32には、後述の上糸掛機構35が付設されている。
33は各釜ホルダ32内に回転可能に設けられた複数の回転釜で、該各回転釜33内には、ボビンケース34が着脱可能に装着され、このボビンケース34には、下糸が巻回されたボビン(図示せず)が着脱可能に収納されるものである。そして、回転釜33は、図10に示す剣先33A等が主軸9の回転に伴って回転されることにより、ボビンケース34内から下糸の繰出しを行い、上糸である刺繍糸Sと下糸との間に絡みが与えられる。回転釜33は、主軸9の1回転に対して2回転するように、即ち主軸9に対して2倍の回転数で主軸モータ8により回転駆動される。
35は釜ホルダ32に付設された上糸掛機構で、該上糸掛機構35は、図2、図3、図8、図9に示すように、釜ホルダ32に固定して設けられた取付板36と、該取付板36の背面側に設けられたロータリアクチュエータ37と、取付板36の表面側に配置されロータリアクチュエータ37により矢示E,F方向に回動される揺動アーム38と、該揺動アーム38に着脱可能に設けられ自由端(先端)側に一対の突部39Aを有した上糸掛片39とを含んで構成されている。
ここで、上糸掛機構35は、例えば刺繍糸Sの色替えを行うときに下糸と絡んだ刺繍糸Sの先端側をカッタ(図示せず)で切断して色替え制御を円滑に行うため、図9に示すように作動される。即ち、後述の制御装置43により色替え機構10が駆動制御されるときに、これに連動して上糸掛機構35のロータリアクチュエータ37が駆動されると、上糸掛片39が揺動アーム38と一緒に図3中の矢示E方向に回動され、このときに上糸掛片39の各突部39Aが回転釜33の内側に向けて進出される(図9参照)。
この状態で、主軸モータ8により主軸9を回転すると、下糸側の回転釜33が図10(a)〜(d)に示すように回転する。具体的には回転釜33の剣先33Aが、図10(a)に示す位置から図10(d)に示す位置まで約130度程度回転する。このため、回転釜33の剣先33Aにより導かれる刺繍糸S(上糸)は、図10(a)〜(d)に示すように上糸掛片39の一対の突部39Aに巻き掛かり、針板31の針孔31Aと一対の突部39Aを頂点とする三角ループ状に刺繍糸Sが張られる。
このように刺繍糸Sを、上糸掛片39を用いて回転釜33側に三角ループ状に張った状態で前記カッタを作動させ、色替え前に使用していた刺繍糸Sの切断が行われる。なお、この間(色替え制御中)は、ジャンプ機構27によりミシン針25が針棒24と一緒にジャンプ制御され、上死点位置に戻されている。このため、ミシン針25は、針板31(回転釜33)から上方に離間した位置に保持されている。
また、前述の如くカッタを作動させて刺繍糸Sの切断を行うときには、これに前後して上糸掛機構35のロータリアクチュエータ37に対する駆動制御が解除される。これにより、上糸掛片39は、揺動アーム38と一緒に図3中の矢示F方向に回動され、上糸掛片39の各突部39Aは、図3、図8に示す如く回転釜33から離れるように矢示F方向へと外側に向けて後退される。このため、刺繍糸Sは一対の突部39Aによる巻き掛かりが解除される。なお、後述の如く糸切れ時の判定処理(図12参照)を行う場合は、上糸掛機構35の作動制御を行うだけであり、前記カッタによる刺繍糸Sの切断を行うことはない。
一方、図10(e)〜(h)は、上糸掛機構35を非作動状態に保持した通常の刺繍作業(ミシン運転)時を示している。この場合、上糸掛片39の各突部39Aは、図3、図8に示す如く回転釜33から矢示F方向に後退した位置に保持される。このため、主軸モータ8により主軸9を回転駆動し、回転釜33の剣先33Aが図10(e)に示す位置から図10(h)に示す位置まで約130度程度回転する間、回転釜33の剣先33Aにより刺繍糸S(上糸)は、図10(e)〜(h)に示すように導かれ、ボビンケース34内の下糸(図示せず)に対する絡みが与えられ、ボビンケース34は回転釜33の回転による下糸の繰出しを行う。
40は基台1上に設けられた操作装置で、該操作装置40は、図1に示すように、例えば一方の側枠3にブラケット等を介して取付けられ、表示器41、電源ON,OFFスイッチ、ソフトキー、キーボードおよび外部記憶装置42(図4参照)等が設けられている。外部記憶装置42は、例えばメモリカード、フレキシブルディスク、テープ等の携帯式記憶媒体(図示せず)を介してデータの読出し、書込みを行う機器により構成されている。前記ソフトキーは、表示器41に表示されるメニューに対応して刺繍データの読込み、書込み、データの入,出力および拡大、縮小等を行うと共に、さらに機械条件の設定、柄変更、柄選択、柄の追加、柄の組合せ、色替え変更等を行う所謂対話キーを構成している。
43は操作装置40に近い位置で基台1の下側等に配設される制御装置で、該制御装置43はマイクロコンピュータ等によって構成され、その入力側には図4に示す如く、操作装置40の前記ソフトキー、キーボードおよび外部記憶装置42等が接続されている。また、制御装置43の入力側には、糸切れセンサ16(具体的には光学センサ20)および主軸モータ8の回転位置を検出する回転検出器としてのエンコーダ44が接続され、場合によっては、例えば通信回線を介して外部の編集機、柄作成機(いずれも図示せず)等が接続される。
また、制御装置43の出力側には、主軸モータ8、色替え機構10、ジャンプ機構27、糸保持機構28、枠移動機構30、上糸掛機構35および表示器41等が接続されている。そして、制御装置43は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、ハードディスク装置等からなる記憶部43A内に、例えば図12に示すプログラム等を格納し、糸切れ発生時の判定処理等を行う。
即ち、図12中に示すステップ2は、本発明の構成要件である糸切れ検出手段の具体例であり、ステップ3,4は、糸切れの発生を検出したときにジャンプ機構27のジャンプ制御を行い、主軸9の回転を減速させる糸切れ後処理手段の具体例であり、ステップ5は、該糸切れ後処理手段により回転減速された主軸9が予め決められた基準位置(例えば、主軸9の回転角が0度となる位置)まで回転したか否かを、エンコーダ44からの検出信号に基づいて判定する回転位置判定手段の具体例である。
図12中に示すステップ6〜15は、ジャンプ機構27のジャンプ制御を解除して刺繍糸S(上糸)の繰出し制御を行う糸繰出し制御手段の具体例であり、ステップ16は、前記糸繰出し制御手段によって前記上糸が繰出されたか否かを判定する糸繰出し判定手段の具体例であり、ステップ17,18は、該糸繰出し判定手段により前記上糸が繰出されていると判定したときに下糸切れを表示器41等を介して報知し、前記上糸が繰出されていないと判定したときには前記上糸の糸切れを表示器41等を介して報知する糸切れ報知制御手段の具体例である。
本実施の形態による多頭式刺繍機は上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
まず、糸立て台11上の各上糸ボビン11Aから引き出される複数の刺繍糸Sを、糸道形成台となる糸調子台13の前面側へと導きつつ、各第1糸調子14間で挟持させる。これにより、各第1糸調子14は、それぞれの刺繍糸Sの張力を粗調整するものである。次に、各第1糸調子14の下流側では、各糸切れセンサ16の糸車18に刺繍糸Sを1周分巻回して下方へと引き出し、その後は、刺繍糸Sを第2糸調子15の調子皿間に1周分巻回して糸取りばね(いずれも図示せず)側へと引き出す。また、第2糸調子15の前記調子皿間で刺繍糸Sに付与すべき張力を微調整するときには、刺繍機のオペレータが調整ダイヤル(図示せず)を指先等で回転させるように回す。
次に、刺繍糸Sの途中部位を前記糸取りばねに掛け止めした後に、この刺繍糸Sを1本ずつ糸ガイド21の各糸掛けに挿通する。そして、この糸ガイド21から導かれる各刺繍糸Sを、下側の糸ガイド22の糸掛け部22Bに挿通した後に天秤23の糸挿通孔23Aに向けて引き回し、この糸挿通孔23Aから糸ガイド22の各糸挿通部22A、各糸保持機構28の挿通孔28E,28F(図6、図7参照)を通して各ミシン針25側へとそれぞれの刺繍糸Sを導くものである。
次に、この状態で主軸モータ8により主軸9を回転駆動し、ヘッド部5の前記天秤駆動部と針棒駆動部とを作動させると、色替え機構10により選択された針棒24を針棒駆動部によってミシン針25と共に上,下に駆動でき、該ミシン針25を移動枠29側の刺繍布に対して運針することができる。また、色替え機構10により選択された天秤23についても、前記天秤駆動部により主軸9の回転に従って上,下に駆動される。
そして、色替え機構10で選択された所望色の刺繍糸Sは、天秤23の上,下動により糸立て台11上の各上糸ボビン11Aのいずれか1つから第1糸調子14、糸車18、第2糸調子15および前記糸取りばね等を介してミシン針25側に供給される。この間、下糸側の回転釜33は、図10(e)〜(h)に示す如く剣先33Aが刺繍糸S(上糸)と下糸とを絡めるように回転され、ボビンケース34は回転釜33の回転に伴って下糸の繰出しを行う。これにより、刺繍糸Sはミシン針25の運針動作に伴って移動枠29側の刺繍布に縫付けられ、ミシン針25が刺繍布に縫い目を形成する毎に、この刺繍糸Sがミシン針25側へと給糸され、刺繍データに基づいた刺繍柄が形成されるものである。
また、各天秤23と各ミシン針25との間に位置して針棒ケース7の下端側に設けられた複数の糸保持機構28のうち、色替え機構10で選択された刺繍糸Sの糸保持機構28は、刺繍糸Sをミシン針25側に給糸可能とするために糸保持状態を解除する(図6参照)。しかし、色替え機構10で選択されていない残余の刺繍糸Sについては、該当する各糸保持機構28により糸保持した状態(図7参照)におかれ、ミシン針25側に給糸されることはない。
このように刺繍機を定格運転している状態では、天秤23が主軸9の回転角に応じて、図11中に実線で示す特性線45に沿って上,下動される。また、針棒24はミシン針25と一緒に、実線で示す特性線46に沿って上,下動するように駆動される。このとき、布押え26は、針板31の上面(針板面)よりも上側で、実線で示す特性線47に沿って上,下動するように駆動される。
ところで、上述の如く複数の各ヘッド部5により各ミシン針25を運針して刺繍布に対する柄形成を行っている途中で、糸切れが発生した場合には、複数のヘッド部5毎に設けた糸切れセンサ16により糸切れの発生を個別に検出することができる。しかし、このような糸切れの発生時には、刺繍糸S(上糸)と下糸とのいずれで糸切れが発生しているのかをオペレータに迅速に知らせない限り、その後の補修作業に余分な手間がかかり、刺繍作業を再開するための処理時間が長くなって作業性が低下する。
そこで、本実施の形態では、このような場合に図12に示す糸切れ判定処理を行い、オペレータに対して糸切れの検出時に上糸と下糸のいずれで糸切れが発生しているかを、例えば操作装置40の表示器41等により報知する構成としている。なお、各ヘッド部5にLED等の報知ランプを設け、例えば報知ランプを異なる色で発光させることにより、上糸と下糸のいずれで糸切れが発生しているかを報知する構成であってもよい。
即ち、図12に示す処理動作がスタートすると、ステップ1で刺繍運転を開始し、ステップ2では糸切れセンサ16からの検出信号により糸切れが発生しているか否かを検知する。ステップ2で「NO」と判定する間は、糸切れが発生していないので、ステップ1の処理を続行する。しかし、ステップ2で「YES」と判定したときには、糸切れの発生時であるから、次のステップ3でジャンプ機構27によるジャンプ制御を開始し、運針途中のミシン針25を針棒24と一緒に上死点位置まで移動して待機(停止)させる。
次のステップ4では、主軸モータ8の回転速度を糸切れの発生に伴って減速処理し、ステップ5では、回転減速された主軸9が予め決められた基準位置(例えば、主軸9の回転角が0度となる位置)まで回転するのを待つ。そして、主軸9の回転位置がエンコーダ44からの検出信号に基づき0度に達すると、ステップ6で糸繰出し制御を開始する。これにより、ステップ7では「ジャンプOFF」としてジャンプ機構27のジャンプ制御を解除する。
この「ジャンプOFF」制御は、図13に示すように、例えば主軸9の回転角が10度に達した段階で行う。これにより、ジャンプ制御が解除された針棒24はミシン針25と一緒に、主軸9の回転角が180度に達した段階で上死点位置から下死点位置に向けて駆動されると共に、下死点位置から上死点位置に向けて駆動される。ステップ8では、エンコーダ44からの検出信号に従って主軸9の回転角が300度に達するのを待ち、300度に達した段階でステップ9により「上糸掛片ON」の制御を行う。
ここで、上糸掛機構35は、制御装置43による「上糸掛片ON」の制御に従ってロータリアクチュエータ37が駆動される。このため、上糸掛機構35の上糸掛片39が揺動アーム38と一緒に図3中の矢示E方向に回動され、このときに上糸掛片39の各突部39Aが、図9に示すように回転釜33の内側に向けて進出される。この状態で、ステップ10では主軸9が回転角0度の位置(即ち、ミシン針25が下死点位置)を通過するのを確認し、その後にステップ11では主軸9の回転角が、例えば150度(図13参照)に達するのを待つ。図11に示す特性線46のように、主軸9の回転角が150度のときに、針棒24はミシン針25と一緒に針板31の上面から約25mm上昇した位置まで駆動される。なお、ミシン針25の上死点位置では、針棒24が約26,6mmの最上昇位置に達する。
このとき、下糸側の回転釜33は、図10(a)に示す位置が主軸9の回転角110度の位置に対応し、図10(b)に示す位置が主軸9の回転角135度の位置に対応するように回転される。また、回転釜33の図10(c)に示す回転位置は、主軸9の回転角155度の位置に対応し、図10(d)に示す位置は、主軸9の回転角175度の位置に対応している。
即ち、下糸側の回転釜33が図10(a)に示す位置まで回転すると、回転釜33の剣先33Aにより導かれる刺繍糸S(上糸)は、上糸掛片39の一方の突部39Aに巻き掛かり始め、その後に回転釜33の剣先33Aが図10(b)に示す位置から図10(d)に示す位置まで回転する間に、刺繍糸S(上糸)は2つの突部39Aに巻き掛かり、針板31の針孔31Aと一対の突部39Aを頂点とする三角ループ状に刺繍糸Sが張られる。
そこで、図12に示すステップ12では、主軸9の回転角が150度(図13参照)に達した段階で「ジャンプON」の制御を行い、主軸9による針棒24、ミシン針25の駆動を解除する。これにより、針棒24はミシン針25と一緒に上死点位置まで移動され、この位置で次なる「ジャンプOFF」の駆動時まで待機する。次のステップ13では、エンコーダ44からの検出信号に従って主軸9の回転角が180度に達するのを待ち、例えば180度に達した段階でステップ14により「上糸掛片OFF」の制御を行う。
上糸掛機構35は、制御装置43による「上糸掛片OFF」の制御に従ってロータリアクチュエータ37の駆動が解除される。これにより、上糸掛片39は、揺動アーム38と一緒に図3中の矢示F方向に回動され、上糸掛片39の各突部39Aは、図3、図8に示す如く回転釜33から離れるように矢示F方向へと外側に向けて後退される。このため、刺繍糸Sは一対の突部39Aによる巻き掛かりが解除される。しかし、このときには必然的にタイムラグが生じるので、一対の突部39Aによる刺繍糸Sの巻き掛かりが即座に解除されることはない。
この場合、図11に示す特性線45のように、天秤23は主軸9の回転角が約110度のときに下死点に達し、主軸9の回転角が約250度のときに上死点となるように上,下動を繰返している。このため、主軸9の回転角が150度に達して針棒24の駆動を解除した後にも、例えば主軸9の回転角が180度に達した段階で、糸切れセンサ16の光学センサ20により糸車18の回転検出を開始すれば、刺繍糸S(上糸)の繰出しが天秤23により行われるか否かを、即ち糸車18の回転検出を光学センサ20により行うことができる。
即ち、図12のステップ15では、主軸9の回転角が180度に達するのを待ち、ステップ14により「上糸掛片OFF」の制御を行うとほぼ同時に、糸切れセンサ16による上糸の繰出し検出を開始して行う。なお、ステップ8の「300°通過待ち」、ステップ11の「150°通過待ち」、ステップ13の「180°通過待ち」等の角度は、あくまでも主軸9の回転角に対し目安となるように設定した角度であり、刺繍機(製品)個々の特性に合わせて実際には可変に調整(変更)される角度である。
刺繍糸Sが糸切れしていない場合、この刺繍糸Sの先端側は、図10(d)に示すように上糸掛片39の各突部39Aにより回転釜33側に三角ループ状に張った状態にあり、これに対して刺繍糸Sの基端側(糸立て台11側)は、天秤23により上糸ボビン11Aから引き出されるように繰出される。そこで、ステップ16では、糸切れセンサ16の光学センサ20により糸車18の回転検出を行い、刺繍糸Sの繰出しが天秤23により行われているか否かを判定する。
ステップ16で「YES」と判定するときには、光学センサ20により糸車18の回転が検知され、刺繍糸Sの繰出しが天秤23により行われている場合であるから、下糸切れにより糸切れが発生した場合と判断することができる。このため、次のステップ17では、下糸が糸切れしていることを報知する報知信号を出力し、例えば表示器41により下糸切れを報知させる。なお、糸切れセンサ16による上糸の繰出し検出は、主軸9の回転角が270度に達するまでに十分に判定可能であるから、例えば270度を基準として終了させるのがよい。
一方、刺繍糸S(上糸)が糸切れしている場合には、前述の如く上糸掛機構35を作動しても、図10(a)〜(d)に示すように刺繍糸Sが上糸掛片39の各突部39Aに巻き掛けられることはなく、前述の如き刺繍糸Sの繰出しが行われることはない。そこで、この場合にはステップ16で「NO」と判定され、次のステップ18では、上糸である刺繍糸Sが糸切れしていることを報知する報知信号を出力し、例えば表示器41により上糸切れを報知させる。この場合、上糸切れと下糸切れとで画面またはLEDの表示色を変えたり、警報ブザーの音、音声を変えたりして、オペレータに識別可能な報知を行うようにする。
糸切れの報知後は、ステップ19で主軸9が回転角0度の位置まで回転するのを待ち、回転角が0度に達した段階で、ステップ20により定位置停止処理を行い、糸切れの判定処理を終了させる。これにより主軸モータ8(主軸9)は、予め決められた定位置(例えば、回転角240度の位置)で停止され、回転釜33もこれに対応した位置で停止される。ミシン針25は、針棒24と一緒に「ジャンプON」のジャンプ制御により上死点に停止した状態で保持されている。
このため、上糸切れの場合には、上死点位置にあるミシン針25に対して刺繍糸Sの先端側を糸通しすることができ、糸切れ後の補修作業を円滑に行うことができる。一方、下糸切れの場合にも、回転釜33内からボビンケース34を容易に取出すことができ、下糸の交換作業を円滑に行いつつ、その後の補修作業をスムーズ行うことができる。
かくして、本実施の形態によれば、糸切れセンサ16(光学センサ20)により糸切れの発生を検出したときに、ジャンプ機構27によりミシン針25のジャンプ制御を行いつつ、主軸9の回転を減速させることができ、回転減速された主軸9が、例えば0度の基準位置まで回転したか否かをエンコーダ44からの検出信号により判定することができる。そして、主軸9が前記基準位置まで回転したときには、制御装置43による糸繰出し制御を開始してジャンプ機構27によるジャンプ制御を解除し、この状態で上糸掛機構35を作動させて刺繍糸Sの先端側を上糸掛片39に巻き掛けるようにする。
これにより、下糸切れの場合には、上糸掛機構35を用いた刺繍糸Sの繰出し制御を行うことができ、天秤23の駆動に伴う刺繍糸Sの繰出しを、光学センサ20による糸車18の回転検知として検出することができる。一方、上糸切れの場合には、上糸掛機構35を用いた刺繍糸Sの繰出しが行われないので、糸切れセンサ16の糸車18が回転することはなく、光学センサ20により上糸切れを識別して検出することができる。
また、上糸が繰出されていると判定したときには、例えば表示器41等を用いて下糸が糸切れしていることを報知でき、刺繍糸S(上糸)が繰出されていないときには、上糸が糸切れしていることを報知することができる。このため、刺繍機のオペレータは、例えば表示器41の画面表示、報知音等により糸切れの発生が上糸側であるか、下糸側であるかを容易に安定して知ることができる。これによって、下糸交換用のボビンを持ち歩く必要があるか否かを判断できるので、オペレータの負担を軽減することができ、刺繍運転時の作業性を向上することができる。
また、本実施の形態では、糸切れの発生後に主軸9が予め決められた回転位置(例えば、回転角0度)に達すると、ジャンプ機構27のジャンプ制御を解除した状態で、上糸掛機構35を駆動して刺繍糸Sを上糸掛片39に絡み付かせることにより主軸9の回転に伴った刺繍糸Sの繰出し制御を行う。そして、ミシン針25が上死点と下死点との間で移動している途中で、主軸9が予め決められた回転位置(例えば、回転角150度)に達したことをエンコーダ44により検出すると、ジャンプ機構27のジャンプ制御を再開することにより、ミシン針25が刺繍布に針落ちするのを防ぎ、ミシン針25を上死点位置に保持することができる。また、例えば上糸掛機構35の上糸掛片39に刺繍糸Sが余分に絡み付くのを防止することができ、刺繍糸Sの繰出し制御を安定して行うことができる。
さらに、本実施の形態による糸切れ時の判定処理は、既出の製品(刺繍機)に対しても、制御装置43のソフト(制御プログラム)をバージョンアップするだけで対処することができ、糸切れ時の判定処理を高精度に行うことができる。これにより、各ヘッド部5毎の性能評価を行う機種(例えば、自動集計機能をもった機種)では、糸切れ状況のより正確な評価が可能となる。
次に、図14および図15は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。しかし、第2の実施の形態の特徴は、糸切れの発生時に行なう上糸の繰出し制御を、図15に示すプログラムに沿って糸保持機構28を用いて行う構成としたことにある。
ここで、図15に示す処理動作がスタートすると、ステップ21〜27までの処理を第1の実施の形態(図12)によるステップ1〜7の処理と同様に行う。即ち、ステップ27でジャンプ機構27を「ジャンプOFF」制御すると、ジャンプ制御が解除された針棒24、ミシン針25は、主軸9の回転角が180度に達した段階で上死点位置から下死点位置に向けて駆動されると共に、下死点位置から上死点位置に向けて駆動される。
しかし、第2の実施の形態では、次のステップ28で主軸9が回転角0度の位置(即ち、ミシン針25が下死点位置)を通過するのを確認し、その後にステップ29では主軸9が、例えば150度(図14参照)の回転角を通過するのを待つ。図11に示す特性線46のように、主軸9の回転角が150度のときに、針棒24はミシン針25と一緒に針板31の上面から約25mm上昇した位置まで駆動されている。このとき、刺繍糸S(上糸)が糸切れしていない場合には、一度ミシン針25を下死点まで針落ちさせることにより、回転釜33側に刺繍糸Sが最大吸収された状態となる。
そこで、次のステップ30では、回転釜33側に刺繍糸Sが最大吸収された状態で「糸保持ON」の制御を行い、糸保持機構28のアクチュエータに対する通電を解除すると、図7に示すように刺繍糸Sを糸保持枠28Aと保持片28Cとの間で保持ばね28Dの付勢力により挟持し、刺繍糸Sがミシン針25に向けて供給されるのを防ぐように糸保持する。これとほぼ同時にステップ31では、ジャンプ機構27に対する「ジャンプON」の制御を行い、主軸9による針棒24、ミシン針25の駆動を解除する。これにより、針棒24はミシン針25と一緒に上死点位置まで移動され、この位置で次なる「ジャンプOFF」の駆動時まで待機する。
また、ステップ32では、前記ステップ30による「糸保持ON」の制御とほぼ同時に、糸切れセンサ16による上糸の繰出し検出を開始して行う。刺繍糸Sが糸切れしていない場合、この刺繍糸Sの先端側は、糸保持機構28の糸保持枠28Aと保持片28Cとの間で挟持された状態にあり、これに対して刺繍糸Sの基端側(糸立て台11側)は、天秤23により上糸ボビン11Aから引き出されるように繰出される。そこで、ステップ33では、糸切れセンサ16の光学センサ20により糸車18の回転検出を行い、刺繍糸Sの繰出しが天秤23により行われているか否かを判定する。
ステップ33で「YES」と判定するときには、光学センサ20により糸車18の回転が検知され、刺繍糸Sの繰出しが天秤23により行われている場合であるから、下糸切れにより糸切れが発生した場合と判断することができる。このため、次のステップ34では、下糸が糸切れしていることを報知する報知信号を出力し、例えば表示器41により下糸切れを報知させる。なお、糸切れセンサ16による上糸の繰出し検出は、光学センサ20により糸車18の回転を検知した時点で終了させる。また、上糸の繰出し検出は、主軸9の回転角が270度に達するまでに十分に判定可能であるから、例えば270度を基準として終了させるのがよい。
一方、刺繍糸S(上糸)が糸切れしている場合には、前述の如く糸保持機構28を作動して、刺繍糸Sが糸保持枠28Aと保持片28Cとの間で糸保持されても、または糸保持されなくても、前述の如き刺繍糸Sの繰出しが行われることはない。そこで、この場合にはステップ33で「NO」と判定され、次のステップ35では、上糸である刺繍糸Sが糸切れしていることを報知する報知信号を出力し、例えば表示器41により上糸切れを報知させる。
なお、ステップ29の「150°通過待ち」とした角度は、あくまでも主軸9の回転角に対し目安となるように設定した角度であり、刺繍機(製品)個々の特性に合わせて実際には可変に調整(変更)される角度である。ステップ30の「糸保持ON」、ステップ31の「ジャンプON」およびステップ32の「糸繰出し検出開始」の処理についても、刺繍機(製品)個々の特性に合わせてそれぞれ別々に角度調整(変更)するのが好ましいものである。
糸切れの報知後は、ステップ36で「糸保持OFF」の制御を行い、糸保持機構28のアクチュエータに通電してロッド28Bを図6中の矢示D方向に移動させ、刺繍糸Sに対する糸保持を解除する。次のステップ37では、主軸9が回転角0度の位置まで回転するのを待ち、回転角が0度に達した段階で、ステップ38により定位置停止処理を行い、糸切れの判定処理を終了させる。これにより主軸モータ8(主軸9)は、予め決められた定位置(例えば、回転角240度の位置)で停止され、回転釜33もこれに対応した位置で停止される。ミシン針25は、針棒24と一緒に「ジャンプON」のジャンプ制御により上死点に停止した状態で保持されている。
このため、上糸切れの場合には、上死点位置にあるミシン針25に対して刺繍糸Sの先端側を糸通しすることができ、糸切れ後の補修作業を円滑に行うことができる。一方、下糸切れの場合にも、回転釜33内からボビンケース34を容易に取出すことができ、下糸の交換作業を円滑に行いつつ、その後の補修作業をスムーズ行うことができる。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。即ち、本実施の形態では、ステップ26〜ステップ32にわたる糸繰出し制御手段により、減速状態の主軸9が基準位置(回転角0度)まで回転したときにジャンプ機構27のジャンプ制御を解除し、ミシン針25を上死点と下死点との間で移動させる。この途中で主軸9の回転が予め決められた回転位置(例えば、回転角150度)に達すると、糸保持機構28を駆動して刺繍糸S(上糸)を天秤23とミシン針25との間での糸保持することにより主軸9の回転に伴った前記上糸の繰出し制御を行う。
これによって、下糸切れの場合には、刺繍糸Sが天秤23とミシン針25との間で糸保持されているので、天秤23の上,下動に伴って糸立て台11の上糸ボビン11Aから繰出される刺繍糸Sの動きを糸車18の回転として光学センサ20により検出することができ、下糸切れの報知を行うことができる。一方、上糸切れの場合には、刺繍糸Sが天秤23の上,下動に伴って糸立て台11側から繰出されることはなく、糸車18も回転しないので、これを光学センサ20で検出することにより上糸切れの報知を行うことができる。
また、糸保持機構28を作動させる場合には、主軸9が予め決められた回転位置(例えば、回転角150度)に達したことをエンコーダ44により検出すると、ジャンプ機構27のジャンプ制御を再開することによってミシン針25の動きを抑えることができ、移動枠29に保持された刺繍布等にミシン針25が余分に針落ちするのを防止できる。
次に、図16は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。しかし、第3の実施の形態の特徴は、糸切れの発生時に行う上糸の繰出し制御を、図16に示すプログラムに沿って枠移動機構30を用いて行う構成としたことにある。
ここで、図16に示す処理動作がスタートすると、ステップ41〜45までの処理を第1の実施の形態(図12)によるステップ1〜5の処理と同様に行う。即ち、ステップ45で主軸9が回転角0度の位置まで回転するのを待ち、回転角が0度に達した段階で、次のステップ46により定位置停止処理を行う。これにより、主軸モータ8(主軸9)は、予め決められた定位置(例えば、回転角240度の位置)で停止され、回転釜33もこれに対応した位置で停止される。また、ミシン針25は、ステップ43の「ジャンプON」制御により、針棒24と一緒に上死点に停止した状態で保持されている。
そこで、次のステップ47で糸繰出し制御を開始し、ステップ48では枠移動機構30を駆動して移動枠29を、例えば前,後方向または左,右方向に予め決められた設定距離だけ基台1上で枠移動させる。刺繍糸Sが糸切れしていない場合には、移動枠29の枠移動に従って刺繍糸Sがミシン針25の針先から枠移動の方向に引き出される。これに伴って、糸立て台11の上糸ボビン11Aからは刺繍糸Sが、糸張力調整部12の第1糸調子14、糸車18、第2糸調子15および天秤23等を介してミシン針25側へと繰出される。
そこで、ステップ48では、枠移動機構30による移動枠29の枠移動と同時に糸切れセンサ16の光学センサ20により糸車18の回転検出を開始する。そして、次のステップ49では「糸繰出し検知」を行い、糸切れセンサ16の光学センサ20により糸車18の回転の有無を検知することにより、刺繍糸S(上糸)の繰出しが前記枠移動により行われるか否かを判定する。なお、前記枠移動の設定距離は、最大80mmの範囲で設定すれば、ステップ49の判定処理を高精度に行うことができる。
ステップ49で「YES」と判定するときには、光学センサ20により糸車18の回転が検知され、刺繍糸Sの繰出しが天秤23により行われている場合であるから、下糸切れにより糸切れが発生した場合と判断することができる。このため、次のステップ50では、下糸が糸切れしていることを報知する報知信号を出力する。一方、刺繍糸S(上糸)が糸切れしている場合には、前述の如き刺繍糸Sの繰出しが行われることはないので、この場合にはステップ49で「NO」と判定され、次のステップ51では、上糸である刺繍糸Sが糸切れしていることを報知する報知信号を出力する。
糸切れの報知後は、ステップ52で前述した枠移動分だけ移動枠29を戻すための「糸切れ位置まで枠移動制御」を行い、枠移動機構30により移動枠29を前記設定距離分だけ戻すようにし、移動枠29が糸切れ位置に戻った状態で糸切れの判定処理を終了させる。
かくして、本実施の形態によれば、糸切れセンサ16(光学センサ20)により糸切れの発生を検出したときに、主軸モータ8等を定位置に停止させた状態で枠移動機構30を駆動して移動枠29を枠移動させることにより、下糸と上糸のいずれで糸切れが発生しているのかを判定することができ、第1の実施の形態と同様な効果を得ることができる。
なお、前記第1の実施の形態では、第1糸調子14と第2糸調子15との間に位置して糸調子台13に複数の糸切れセンサ16を設け、各糸切れセンサ16を図5に示すように、回転軸17、糸車18、スリット板19および光学センサ20により構成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば磁気センサ等の回転センサを用いて糸車の回転を検出する構成としてもよい。そして、この点は第2,第3の実施の形態についても同様である。
また、糸切れセンサ16は、図5に示すように、1個の糸車18、スリット板19毎に必ずしも1個の光学センサ20を設ける構成とする必要はない。例えば色替え機構10で糸調子台13と一緒に複数の回転軸17、糸車18およびスリット板19を左,右方向(図2に示す矢示A,B方向)に移動させる構成とし、これに対し定位置に設置された単一の回転センサ(例えば、光学センサ20)により、複数のスリット板19のうち色替え機構10で選択されたスリット板19の回転を検出する構成としてもよい。そして、この点は第2,第3の実施の形態についても同様である。
また、前記第1の実施の形態では、図12中のステップ5,6に示すように糸繰出し制御を開始する基準位置を、主軸9の回転角が0度となる位置に設定する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば主軸9の回転角が1〜10度等のように予め決められた基準位置から糸繰出し制御を開始する構成としてもよい。また、ステップ8の「300°通過待ち」、ステップ11の「150°通過待ち」、ステップ13の「180°通過待ち」等の角度についても、刺繍機(製品)個々の特性に合わせて可変に角度調整(変更)すればよい。そして、この点は第2の実施の形態についても同様である。
また、前記各実施の形態では、刺繍機の基台1上に合計6個のヘッド部5を設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば単一のヘッド部5を有する単頭式の刺繍機に適用してもよく、ヘッド部5を2〜5個または7個以上備えた多頭式刺繍機に適用してもよい。