(実施形態1)
本実施形態は、室内のような着目する照明空間について実空間と等価な仮想空間をコンピュータ上に生成し、仮想空間内において照明環境を評価するものである。ここでは、照明空間は、照明環境を構築している空間の全体であって照明器具を含む3次元空間を意味するものとする。
したがって、実空間である照明空間に相当する仮想空間には、照明器具を配置することができるだけでなく、仮想空間内に設定した視点位置から見たときの照度に影響を与える種々の障害物(家具や調度)を配置することができる。以下では、実空間である照明空間に相当する仮想空間を照明空間として説明する。
各実施形態に共通する構成を図1に示す。図1に示す照明シミュレータは、コンピュータでプログラムを実行することにより実現されるものであり、キーボード、マウス、デジタイザのような入力装置を備える入力部11と、CRTあるいは液晶表示器を用いたモニタ装置やプロジェクタのように映像を提示することができる提示部12とを備える。提示部12には、立体視が可能な立体映像表示装置を用いることも可能である。
入力部11は、照明空間を規定するための情報や視点位置を指定するための情報などをパラメータとして入力することができる。照明空間の作成には必ずしも入力部11を操作しなくてもよく、3次元CAD(Computer Aided Design)などを用いて照明空間のデータをあらじめ作成しておいてもよい。照明空間を規定するデータは、記憶部14に格納される。入力部11では、作成された照明空間に存在する個々の物体(照明器具や家具や調度)の位置や向き、視点の3次元位置や視線の方向をパラメータとして指定することが可能になっている。この処理は、3次元のコンピュータグラフィックの分野においてモデリングとして知られている。
1つの照明空間についてシミュレーションを行っている間は、照明空間を規定するデータは原則として変更されないが、境界面の色や反射率、物体の配置、照明器具の仕様や配置のような特定のパラメータは、照明空間の全体を変更することなく単独で変更することが可能である。照明器具としては、点光源、スポット光源、線光源、面光源などの各種光源を備えた照明器具を用いることができ、照明空間において照明器具の三次元位置、姿勢および配光特性が設定される。配光特性は、照明器具から放射される光エネルギーの強度と方位との関係を数値データにより表す。
照明シミュレータには、設定された照明空間に関して照度を計算する計算部10が設けられる。照度の計算には、記憶部14に記憶されている照明空間に存在する物体の表面を多数個の小領域に分割し、各小領域ごとに代表点である照度値計算点を規定し、照度値計算点における照度を小領域を代表する照度として求める。小領域は、物体表面に貼り付ける形で設定される。照度値計算点での照度値は、照度値計算点(小領域の代表点)の周囲からの照度値計算点に到達するすべての光から求める。
すなわち、計算部10では、まず照明空間を構成している面(天井面、壁面、床面、物体表面など)を多数個の小領域に分割する。各小領域の形状としては三角形、四角形などの多角形を用い、各小領域の面積は照明空間における面の位置に応じて適宜に設定される。たとえば、照明器具から入射する光エネルギーについて部位ごとの変化が大きい部位は、部位ごとの変化が小さい部位よりも面積を小さくする。このように小領域の面積を部位に応じて異ならせることにより、各小領域の中での光分布(偏差)を小さくすることができる。
小領域のサイズは、入力部11から指定することができる。すなわち、照明空間に関して照度を求める精度(解像度)に応じて適宜に選択することが可能になっている。照度の計算には、3次元のコンピュータグラフィックの分野においてラジオシティとして知られている技術を用いる。照度の計算の際に与える条件としては、照明器具の種類、照明器具からの光の強さ、反射、反射回数などのパラメータを考慮する。この種のパラメータは、入力部11から入力することができる。
各小領域の情報は、記憶部14に格納されている照明空間の情報とともに計算部10での計算に用いられ、各小領域を光源面とみなした場合の各小領域からの光の放射エネルギーが算出される。すなわち、各小領域に入射する光エネルギーと光の入射方向と小領域の反射率とを考慮し、さらに小領域の間の相互反射を考慮することにより、各小領域からの光の放射エネルギーを求める。この計算には、ラジオシティ法を用いる。
ここでは、図2に示すように、2個の小領域Ai,Ajに着目し、小領域Aiの放射エネルギー(実際には放射面密度Bi)を求める場合を例として説明する。着目する小領域Ai,Ajの相互反射を計算するには、まず数1に示すフォームファクタFijを規定する。照明空間には三次元直交座標による座標系が規定されているものとし、三次元の計算が必要である場合には、当該座標系で規定した成分を用いる。
フォームファクタFijは、小領域Ajから小領域Aiへの光のエネルギーの到達率の平均値に相当する値であって、小領域Ai,Ajの相対的な位置関係を表していることになる。すなわち、小領域Ai,Ajをさらに微小領域dAi,dAjに分割し、両小領域Ai,Ajの各微小領域dAi,dAjの間で光が直接到達する(つまり、小領域Aiの微小領域dAiから小領域Ajの微小領域dAjが見通せる)か否かの情報H(dAi,dAj)と、微小領域dAi,dAjの間の距離rと、両小領域Ai,Ajの微小領域dAi,dAjを結ぶ直線が各微小領域dAi,dAjの法線方向ni,njに対してなす角度φi,φjと、放射エネルギーを求める小領域Aiの面積Siとを用いてフォームファクタFijを求める。なお、情報H(dAi,dAj)は、微小領域微小領域dAiから微小領域dAjが見通せる場合に1、見通せない場合(微小領域dAi,dAjが向き合っていない場合)には0になる。
上述のようにして求めたフォームファクタFijを用いて各小領域に関する放射面密度Bkを未知数としたラジオシティ方程式を定義することができる。ここに、ρkは小領域の反射率であり、Ekは小領域の自己放射照度である。
数2のように定義したラジオシティ方程式を解くことにより、各小領域の放射面密度Bkを算出することができる。こうして求めた解(放射面密度Bk)を用いてラジオシティ方程式を再度定義して解を求め、解が収束する(求めた解の差が規定値以下になる)か解を計算する回数が規定回数に達するまでラジオシティ方程式の定義と解を求める計算とを繰り返す。
計算部10では上述の演算を行うことにより、照明空間を構成する面を分割した小領域ごとの光の放射エネルギーを求めることができる。つまり、小領域を光源面とみなして、各光源面ごとの光の放射エネルギーを求めたことになる。こうして求めた光の放射エネルギーを明度に対応付け照明空間に当てはめて提示部12の画面に照明空間とともに可視化して表示する。
計算部10により求めた各小領域の光の放射エネルギーは、小領域に対応付けて記憶部14に格納される。ここにおいて、光の放射エネルギーについては、輝度情報のみに着目してもよいが、照明空間を規定するデータにカラーの情報を持たせ、各小領域の光の放射エネルギーにもカラーの情報を持たせるのが望ましい。小領域の光の放射エネルギーにカラー情報を持たせる場合には、たとえば表1のように、赤色、緑色、青色の各成分ごとに最大輝度に対する比率(最大輝度を1とする)の値によって規定すればよい。
上述のようにして照明空間を構成する面を分割した小領域ごとの光の放射エネルギーを求め、求めた光の放射エネルギーを各小領域に対応付けて記憶部14に格納した後には、照明空間における任意の位置において規定した光観測面に対する光の入射エネルギーを求めることができる。
すなわち、照明空間に観測者として設定される仮想人体を想定し、仮想人体の目に対する各小領域からの光の入射エネルギーを、仮想人体の視点位置に設定した光観測面への入射エネルギーとして計算する。この計算は、比較判定部13において行われる。
光観測面は左右の各目に対応付けて2面設けてもよい。光観測面を規定するパラメータには、位置、向き、面積、形状が含まれ、これらのパラメータにより視点が決定される。視点を決めるパラメータは、入力部11を用いて適宜に設定することができるが、通常は、面積および形状については標準の面積および形状を用い、位置と向きとを変更することにより視点の位置や視線の方向を調節するようにしてある。
比較判定部13には、照明空間における光観測面の位置の情報と、照明空間において着目する領域(以下では、「比較領域」という)の情報と、比較領域が満足すべき照度値の範囲である照度条件とが入力部11から与えられる。比較判定部13では、照明空間のうち比較領域に含まれる照度値計算点の照度値を用いて光観測面への光の入射エネルギーを求め、この入射エネルギーを入力部11から与えられた照度条件と照合し、照度条件を満足しているか否かを判定する。
比較判定部13では、光観測面を設定することにより、照明空間を構成する小領域についてすでに求められている光の放射エネルギーを用いて、各小領域ごとに光観測面への光の入射エネルギーを計算することができる。この計算には、数1に示した計算式において、2個の小領域Ai,Ajの一方を光観測面としたフォームファクタを求め、フォームファクタを用いて小領域から光観測面への光の入射エネルギーを計算する。
照明空間に配置した照明器具から光観測面に直接入射する光については、小領域とは別に入射エネルギーを計算する。この計算にあたっては、通常は照明器具の配光特性を考慮するが、照明器具から等方的に光が放射されているとみなして計算してもよい。このようにして計算した照明器具から光観測面への入射エネルギーは、小領域から光観測面への入射エネルギーに加算される。
照明器具(光源)から光観測面への光の入射エネルギーを小領域からの入射エネルギーとは別に求めているのは、照明器具を定義する際に面積を持たない点として設定している場合に、照明器具から光観測面へ直接入射する光の入射エネルギーは各小領域における光の放射エネルギーに含まれないからである。言い換えると、照明器具を小領域として扱えない場合に照明器具から光観測面に直接入射する光の入射エネルギーは、小領域からの入射エネルギーとしての勘定に含まれないから、小領域からの入射エネルギーとは別に求めて加算するのである。なお、照明器具も小領域の一つとして扱う場合には、照明器具から光観測面に直接入射する光の入射エネルギーを別途に計算する必要はない。
上述した計算により、光観測面に対する各小領域からの光の入射エネルギーを求めることができる。すなわち、光観測面から小領域を見込んだときの光観測面に入射する光のエネルギーを求めることになる。ここで、照明空間に変更がなければ、光観測面が異なっていても記憶部14に記憶された各小領域からの光の放射エネルギー(つまり、照明空間における光分布)には変更が生じない。したがって、比較判定部13では、比較領域に変更が生じても、記憶部14に記憶されている各小領域の放射エネルギーを用いて光観測面への入射エネルギーを計算すればよい。
いま、小領域の個数をN個とし、光観測面の個数を2個とすると、計算量はN×2に比例する程度である。すなわち、照明空間を構成する小領域(および照明器具)から光観測面への光の入射エネルギーを求める際の計算は、照明空間の全体について光エネルギー分布を求める計算に比較すると計算量が格段に少ないから、光観測面の変更に対して光観測面への入射エネルギーの計算に対する処理負荷は比較的少なく、画像処理専用のプロセッサを用いなくても光観測面の位置を対話的に変更したり連続的に変更したりすることが可能になる。
比較判定部13による判定結果は、提示部12の画面に表示される。判定結果を提示部12に表示する方法については後述する。
照明シミュレータにはハードディスク装置、半導体メモリなどを用いて構成される記憶部14が設けられる。記憶部14は、上述の機能を実現するためのプログラムを格納するとともに、照明空間を規定するデータ、入力部11から入力された照度条件、計算部10での計算により得られた各照度値計算点の照度値、比較領域に含まれる照度値計算点の位置、比較判定部13での判定結果などを記憶する。
照度条件、比較領域、計算部10で求めた各照度値計算点の照度値、比較判定部13による判定結果の情報は、判定結果が得られるまでの一時的な情報であるので、これらの情報は記憶部14において一時保存情報として扱われる。すなわち、記憶部14には、照明シミュレータの動作を決めるプログラムや照明空間を規定するデータのように、長期保存の必要な情報を格納する固定記憶部14aと、一時保存情報を格納する一時記憶部14bとが設けられる。一時保存情報は利用する期間だけ保持されるが、不要になれば消去される。
固定記憶部14aは書換可能な不揮発性メモリを用いればよく、一時記憶部14bはDRAMを用いればよいから、記憶部14はハードディスク装置のような大容量の記憶装置を用いずに実現することが可能である。とくに、一時記憶部14bは、メモリ領域のうち計算部10や比較判定部13に割り当てた領域を用いることが可能である。
以下では、照明シミュレータの動作を説明する。入力部11から入力する情報は、上述したように、照明空間を規定する情報、比較領域の情報、照度条件、視点位置を指定するための情報などである。照明空間を規定する情報には、着目する照明空間の3次元空間としての情報と、当該3次元空間における照明器具の仕様や配置を含む照明環境の情報とがある。
したがって、照明シミュレータに対してオペレータ(操作者)が行う最初の作業は、図3に示すように、仮想空間としての3次元空間を構築する情報を入力することと(S1)、当該3次元空間における照明環境を構築する情報を入力することとになる(S2)。3次元空間を構築する情報には、着目する3次元空間の形や大きさだけではなく、3次元空間に配置される家具や調度の形や大きさや配置も含まれる。照明空間を設定する技術は、コンピュータを用いた3次元グラフィックスの分野においてモデリングとして周知の技術であるから、ここでは詳述しない。
3次元空間と照明環境とを構築する情報が入力されると照明空間が規定されたことになるから、計算部10では、照明空間に存在する物体の表面における各部位(各小領域を代表する照度値計算点)ごとの照度値を計算する(S3)。照度値の演算にあたっては、上述した各種のパラメータが必要であるから、これらのパラメータも照度値の計算前には入力部11から入力しておく。計算部10での計算により得られた照明空間における各照度値計算点の照度値は、記憶部14に設けた一時記憶部14bに格納される。照度を算出する技術は、3次元グラフィックスの分野においてラジオシティとして周知の技術であるから、ここでは詳述しない。
ところで、オペレータは、比較領域を規定する情報および視点位置を規定する情報と、比較領域において満足すべき照度条件の情報とを入力部11から入力する(S4、S7)。視点位置は、入力部11の視点位置設定部11aを用いて入力される。比較領域および視点位置を規定する情報が入力されると、比較領域および視点位置が算出される(S5)。
比較領域および視点位置が算出されると、比較領域の境界面に相当する仮想面上に設定した各小領域の照度値をあらためて求める(S6)。小領域は、物体表面に設定した小領域と同サイズとし、物体表面と同様に、比較領域の境界面に貼り付ける形で設定される。また、比較領域における小領域の照度値は、物体表面の照度値と同様に、小領域の代表点を照度値計算点として求める。このとき、視点位置Pvからみて物体の遠方に存在する照度値計算点の照度は採用しない。また、物体表面の照度値については、物体の反射率を考慮した値を用いる。
図示例では、比較領域および視点位置を規定する情報と照度条件の情報とをステップS4,S7として記載しているが、比較領域と視点位置とは3次元空間が規定されていれば設定可能であるから、ステップS2以降で行えばよい。また、照度条件に関しては照度条件に対する判定を行う前であれば、いつでも入力することが可能である。また、比較領域、視点位置、照度条件は記憶部14に設けた一時記憶部14bに格納される。
次に、比較判定部13では、一時記憶部14bに格納された各照度値計算点から視点位置および比較領域により選択される範囲の照度値計算点を抽出し、抽出した照度値計算点の座標が記憶部14に設けた一時記憶部14bに格納される。さらに、比較判定部13では、比較領域に対応する照度値計算点について、一時記憶部14bから照度値を読み込み、読み込んだ照度値を照度条件と比較する(S8)。
照度条件を満足しなかった照度値計算点については条件不成立のフラグが設定される(S9)。条件不成立のフラグが設定された照度値計算点は、記憶部14の一時記憶部14bに格納される。一時記憶部14bに格納された照度値は、3次元グラフィックの画像として提示部12の画面に表示することができ、また比較判定部13において照度条件と比較した比較結果も提示部12に表示することができる(S10)。提示部12の画面に表示する際には、条件不成立のフラグが設定された照度値計算点を照度条件を満足した照度値計算点と区別して表示する。また、提示部12の画面に表示した画像のデータは、記憶部14の固定記憶部14aに保存される。
ところで、照度条件が成立した照度値を持つ照度値計算点で代表される小領域と、照度条件が成立しなかった照度値を持つ照度値計算点で代表される小領域とを区別して提示部12の画面に表示することを可能にしている。すなわち、照度条件と比較された照度値計算点のうち照度条件が成立しなかった照度値計算点には条件不成立のフラグが設定され、提示部12では、条件不成立のフラグが設定されている照度値計算点で代表される小領域を他の小領域と識別可能な形で画面に表示するのである。この表示によって、照度条件の成立・不成立を容易に認識することが可能になる。
比較判定部13において各照度値計算点の照度値と比較する照度条件には、以下の条件(a)(b)のいずれかを用いる。なお、照度条件の設定は、照明シミュレータのオペレータが入力部11と提示部12とを用いて対話的に行う。以下では小領域を代表する照度値計算点iの照度値をE(i)として表しており、照度値の単位には[lx]を用いるものとする。
・条件(a):照度値に上限値と下限値との一方を定める。すなわち、判定基準となる照度値Eoと照度値E(i)とについて、次のいずれかの関係を判定する。
(1)E(i)>Eo
(2)E(i)≧Eo
(3)E(i)<Eo
(4)E(i)≦Eo
(1)(2)は下限値を規定する条件であり、(3)(4)は上限値を規定する条件である。(1)と(2)とは等号の有無について異なっているが実質的な相違はないから、以下ではどちらの場合も下限値以上という。また、(3)と(4)とについても等号の有無について異なっているが実質的な相違はないから、以下ではどちらの場合も上限値以下という。
・条件(b):照度値に上限値と下限値との両方を定める。すなわち、上限値Euと下限値Elとを設定し、次のいずれかの関係を判定する。
(1)El≦E(i)≦Eu
(2)El<E(i)<Eu
(1)(2)は等号の有無について異なっているが、実質的な相違はないから、以下ではどちらの場合も上限値Euと下限値Elとの範囲内という。
上述の条件(a)(b)を照明シミュレータに指示するには、判定基準となる照度値Eo、上限値Eu、下限値Elの少なくとも1つの数値をオペレータに入力部11から入力させるとともに、照度値E(i)とのどのような大小関係を判定するかをオペレータに指定させる場合と、照度条件について複数の選択肢を提示部12の画面に示すとともに、選択肢のいずれかをオペレータに選択させる場合とがある。
選択肢は、条件(a)であれば、たとえばE(i)≧100やE(i)≦10のように設定することができ、条件(b)であれば、たとえば100≧E(i)≧10のように設定することができる。すなわち、条件(a)のような判定基準となる照度値Eoと大小関係の組み合わせを選択肢として用意したり、条件(b)のような照度値の上限値Euおよび下限値Elの組み合わせを選択肢としてあらかじめ用意する。この場合、オペレータは、選択肢から所望の照度条件を選択するだけで、照度条件の設定を行うことができる。このような選択肢の場合、各照度値計算点iの照度値E(i)と比較する照度値Eo、上限値Eu、下限値Elの変更は行えないものとする。
上述のような数値を示した選択肢のほか、照明空間で行う行為や照明空間の用途を示す選択肢を用いてもよい。すなわち、オペレータに行為や用途を選択させることによって、照度条件を指定させる。この場合、選択された行為や用途に対して、数値による照度条件をあらかじめ関係付けておくことが必要である。
行為や用途としては、たとえば「読書をする」「寝室」などがあり、選択肢としての行為や用途に対して、判定基準となる照度値Eoおよび大小関係の組み合わせ、もしくは上限値Euおよび下限値Elの組み合わせが関係付けられる。行為や用途と照度条件との関係付けは、記憶部14の固定記憶部14aに対応表(データテーブル)として登録される。行為や用途に関係付ける照度条件は、一般に目安として知られている照度値やJIS規格の照度基準のような汎用的な値を用いる。
たとえば、選択肢が「読書をする」という行為であれば、JIS規格における照度基準の「書斎」に基づいて、E(i)≧500という照度条件を設定したり、1000≧E(i)≧500という照度条件などを関係付けておく。行為や用途と照度条件との対応表の一例を表2に示す。
以上の説明からわかるように、照度条件として条件(a)(b)のどちらを用いるかにかかわらず、各小領域の照度値E(i)と判定基準となる照度値との関係は、条件(a)で示した4種類の関係(照度条件)(1)〜(4)のいずれかに帰着する。ただし、上限値Euと下限値Elとを判定基準とする場合には、判定基準となる照度値として上限値Euと下限値Elとの2つの値を設定することになる。
したがって、4種類の関係を以下に示す識別フラグFop(j)(0<j≦Nj)で表すことにより、どの関係(照度条件)かを識別することができる。各関係は、判定基準となる照度値をEdef(j)(0<j≦Nj:Njは判定したい基準照度値の個数)とし、判定基準と比較する照度値をE(i)とすると、以下のように表すことができ、各関係にそれぞれ識別フラグFop(j)(0<j≦Nj)を対応付けることができる。Njは1または2であって、判定基準として1個の照度値Eoを用いる場合はNj=1、上限値Euと下限値Elとの2個がある場合はNj=2になる。また、識別フラグFop(j)には、以下のように、各関係(照度条件)に対して1〜4の値が割り当てられる。
(1)E(i)>Edef(j)→Fop(j)=1
(2)E(i)≧Edef(j)→Fop(j)=2
(3)E(i)<Edef(j)→Fop(j)=3
(4)E(i)≦Edef(j)→Fop(j)=4
Nj=1の場合にはj=1であって、Edef(1)=Eoになる。一方、Nj=2の場合にはj=1または2であって、いま、Edef(1)=El、Edef(2)=Euとすれば、Fop(1)=1または2、Fop(2)=3または4になる。たとえば、El≦E(i)≦Euという照度条件であれば、E(i)≦Eu、E(i)≧Elの2個の照度条件に分割し、Eu=Edef(2)、El=Edef(1)とおくことで、E(i)≧Edef(1)、E(i)≦Edef(2)に置き換えることができる。したがって、照度条件に対応する識別フラグFop(j)を用いることにより、照度条件がEl≦E(i)≦Euであるときに、Fop(1)=2かつFop(2)=4と表すことができる。
照度条件の入力から識別フラグFop(j)の決定までの手順を図4に示す。すなわち、入力部11から照度条件を入力すると(S11)、数値による入力か行為や用途による入力かが判別され(S12)、行為や用途による入力であるときは(S12:n)、表2のような対応表を用いて数値に変換される(S13)。次に、照度条件が条件(a)か条件(b)かが判別され(S14)、条件(a)であれば(S14:n)、(1)〜(4)のどの関係かに応じて識別フラグFop(j)の値が設定される(S17)。
一方、条件(b)であれば(S14:y)、照度条件を(1)〜(4)の関係を用いて表すことができるように分割し(S15)、Edef(1)=El、Edef(2)=Euとおいて(S16)、上述した(1)〜(4)の関係に対応する識別フラグFop(j)を設定する(S17)。
ところで、照明空間のうち比較判定部13において照度条件を満足するか否かを判定する比較領域は、以下に示す指定方法(A)〜(E)のいずれかで指定する。
・指定方法(A):照明空間の全域を比較領域とする。
・指定方法(B):照明空間の中でオペレータが指定した一部領域を比較領域とする。たとえば、図5のように、照明空間Lsにおいてオペレータが中心点Pcを指定し、中心点Pcから定められた一定半径(たとえば、40cm)の球内を比較領域Dcとする。比較領域Dcは球である必要はなく、たとえば立方体などの他の形状を採用してもよい。また、位置についても中心点ではない部位を用いて指定してもよい。なお、比較領域Dcの形状および大きさをあらかじめ設定しておき、オペレータが位置(中心点Pc)のみを指定するようにしてもよい。
・指定方法(C):照明空間の中で視点位置と、視点位置からの視線方向とを指定して比較領域を決める。視点位置は、照明空間内において3次元で位置を指定することができる。たとえば、図6のように照明空間Lsにおいて、視点位置Pvから規定した方向(この方向を前方という)の視野Fv内の全領域を比較領域Dcとする。あるいはまた、視点位置Pvから前方における所定範囲(たとえば、幅50cmかつ奥行き30cmの範囲)を比較領域としたり、視点位置Pvを中心として人の注視視野や有効視野のような領域(たとえば、左右各50度の領域)を比較領域とする。
・指定方法(D):図7のように、照明空間Lsにおいて視点位置Pvを移動させる動線Lmと、動線Lmの上の視点位置Pvに対して規定される局所領域Ddとを設定し、動線Lmに沿って局所領域Ddを移動させたときに局所領域Ddが通過する全領域を比較領域Dcとする。この比較領域Dcは静的に設定される。局所領域Ddは、たとえば、図7(a)のように、動線Lmを中心に所定の幅(たとえば、幅1m)を有した帯状の領域としたり、図7(b)のように、動線Lmに沿って局所領域Ddを連続させた領域とする。局所領域Ddを視点位置Pvからの視野範囲(たとえば、水平30度、視点位置から前方2m)の領域とすれば、実空間において人が歩行しているときの知覚範囲に相当する比較領域Dcを設定することができる。なお、この場合の前方は、動線Lmの接線方向を意味する。
・指定方法(E):図8のように、照明空間Lsにおいて視点位置Pvを移動させる動線Lm上の各点で局所領域Ddを設定することにより、比較領域Dcを動的に設定してもよい。局所領域Ddは指定方法(D)と同様に設定する。ただし、図9(a)〜(d)に示すように、一定の時間間隔で求めた各時刻t0〜tn(図9(d)ではn=3)における動線Lm上の各位置での視点位置Pvに対する局所領域Ddがそれぞれ比較領域Dcになる。したがって、時間経過に伴って比較領域Dcが変化し、比較判定部13での判定結果は時刻t0〜tnの数だけ得られる。動線Lmに沿った時間間隔ごとの視点位置Pvの移動距離は、実空間において人が歩行する際の歩行速度に時間間隔を乗じた値を用いる。この場合、歩行速度は、入力部11の歩行速度設定部11bから与える。
上述した指定方法(B)〜(E)のように照明空間Lsの一部領域を比較領域Dcとして指定する際には、照度条件を設定したときと同様に、比較領域Dcを数値(座標位置や範囲)でオペレータに指定させるか、選択肢をからオペレータに選択させる。選択肢には、数値を用いたり、「歩行」「文字を読む」などの行為を用いたりすることができる。行為を選択肢とする場合は、各行為に対して比較領域Dcを数値化できるように、各行為を表す語彙に対して比較領域Dcを特定するための数値を対応表(データテーブル)として関係付けておく。
行為を表す語彙と比較領域Dcを特定するための数値との対応表の一例を表3に示す。この対応表は記憶部14の固定記憶部14aに格納される。なお、視点位置Pvは3次元で位置を指定可能であるが、本実施形態では、視点位置Pvの高さを一定とし、デフォルト値では成人の平均値を採用する。したがって、本実施形態では、視点位置Pvは照明空間のうち床面に沿った面内でのみ指定可能になっている。また、上下方向の視野範囲(表3には上下方向の視野範囲を示している)にもデフォルト値を設定しておく。
ところで、比較領域Dcを設定するにあたり、照明空間Lsの外側の領域も比較領域Dcとして指定される場合がある。そこで、上述した指定方法で指定された比較領域を仮の比較領域Dc′(図7(a)参照)として扱い、比較判定部13では、仮の比較領域Dc′のうち照明空間Lsとの共通部分のみを実際の比較領域Dcとして採用する。すなわち、仮の比較領域Dc′のうち照明空間Lsの境界から外側になる部分(図7、図8の斜線部)は比較領域Dcとしては採用しない。このような、領域同士の交差判定に関しては、ベクトルを利用した一般的手法が確立しているので説明は省略する。
たとえば、照明空間Lsとなる部屋の中央に座って一面の壁を眺めている状態で、四角錐状に設定した視野を指定した場合、仮の比較領域Dc′は、照明空間Lsを囲んでいる床面や壁面、照明空間Lsに存在する物体によって切り取られ、指定した視野よりも狭い領域が実際の比較領域Dcとして採用される。また、部屋の中央に立って視点位置Pvから一定半径(たとえば、30cm)の球形領域を仮の比較領域Dc′とした場合(図5参照)、この領域内に他の物体が存在しなければ、仮の比較領域Dc′がそのまま比較領域Dcとして採用される。
上述のようにして照度条件を設定し、比較領域Dcを指定すると、比較判定部13では、照明空間のうち比較領域Dcに含まれる照度値計算点の照度値が照度条件を満たすか否かを判定する。たとえば、比較領域Dcが「ソファを中心に有効視野の範囲」であり、照度条件が「読書をする明るさ」であれば、ソファに座って読書をする際に適当な照明環境であるかを判定することができる。また、比較領域Dcが「廊下に設定した帯状の領域」であり、照度条件が「1〜2[lx]」であれは、深夜に廊下を歩くのに適当な照明であるかを判定することができる。このように、照度条件(照度値)と比較領域Dc(行動の領域)とを組み合わせているから、比較判定部13における照度条件の判定に人間の行動を取り入れることが可能になる。
ここで、照度条件を満たすか否かが判定される照度値計算点は、比較判定部13において比較領域Dcが決定されることにより抽出される。照明空間における照度値計算点の個数は、照度値を計算する際の解像度により増減し、解像度が低いほど照度値計算点で代表される小領域の体積が増加する。照度値計算点を抽出するには、たとえば以下の選択方法(イ)〜(ハ)のいずれかを用いる。
・選択方法(イ):比較領域Dcに含まれる照度値計算点を採用する。
・選択方法(ロ):比較領域Dcに含まれる小領域を代表する照度値計算点を抽出する。
・選択方法(ハ):比較領域Dcに含まれる割合が規定値以上である小領域を代表する照度値計算点を抽出する。
選択方法(ハ)における規定値は、たとえば50%であって、比較領域Dcの境界付近に存在する小領域について、比較領域Dcと重複する部分が小領域の全体に占める割合が50%以上であれば、当該小領域を代表する照度値計算点を採用する。抽出した照度値計算点は記憶部14に仮保存しておく。
実際の小領域は3次元空間において分布しているが、説明を簡単にするために2次元平面における正方形として表すと、比較領域Dcと照度値計算点iと小領域Sr(i)との関係は、図10のようになる。図示例では照度値計算点iを正方形の小領域Sr(i)の中心点としている。また、図示例では、比較領域Dc(斜線部で表している)の境界付近では、比較領域Dcの境界線が一部の小領域Sr(i)を、比較領域Dcの内側と外側とに分割している。
図10に示す例では、選択方法(イ)(ロ)のどちらを採用しても同じ照度値計算点iについて照度条件を判定することになるが、比較領域Dcの境界線の位置が異なる場合には、選択方法(イ)(ロ)のどちらを採用するかに応じて照度条件を判定する照度値計算点iの個数は異なる。
また、比較領域Dcと小領域Sr(i)とが図11(a)の関係であり、選択方法(ハ)を採用するとともに規定値を50%とする場合には、比較領域Dc(斜線部で表している)の境界付近では、一部の小領域Sr(i)のみが採用され、最終的に図11(b)に斜線を付した小領域Sr(i)が採用される。つまり、図11(b)に斜線を付した小領域Sr(i)を代表する照度値計算点iが抽出される。
比較領域Dcに対応する照度値計算点iを抽出する手順を図12に示す。上述したように、比較領域Dcに対応する照度値計算点iを抽出するには、まず比較領域Dcを指定する必要がある。比較領域Dcは指定方法(A)〜(E)の何れかの方法で指定される。指定方法(E)は動線Lmに沿って一定の時間間隔ごとの視点位置Pvにより比較領域Dcを動的に設定しており、他の指定方法(A)〜(D)のように比較領域Dcを静的に設定する場合とは異なるから、両者を区別する。
すなわち、指定方法(A)〜(E)のいずれかで比較領域Dcを指定すると(S21)、まず比較領域Dcを静的に設定するか動的に設定するかが判定され(S22)、比較領域Dcを静的に設定する場合であって(S22:n)、指定方法(A)〜(C)のように動線Lmの指定がなく視点位置Pvが固定されているときには(S24:n)、比較領域Dcの指定条件に従って仮の比較領域Dc′を求める(S26)。なお、ステップS23,S25は比較領域Dcの指定について行為を表す語彙を用いる場合を示している。
一方、比較領域Dcを静的に設定する場合であっても指定方法(D)のように動線Lmが指定されているときには、動線Lmにおける始点に対して局所領域Ddを規定し、この局所領域Ddを動線Lmに沿って移動させたときに局所領域Ddが通過する全領域を仮の比較領域Dc′とする(S27)。
ところで、比較領域Dcを動的に設定する場合には、指定方法(E)のように動線Lmと局所領域Ddとの指定を行い、一定の時間間隔で求めた各時刻tkにおける局所領域Ddをそれぞれ仮の比較領域Dc′とする(S28)。仮の比較領域Dc′は時間経過に伴って変化するから、以下では、時刻tkにおける比較範囲をDc(tk)と表す。また、一定の時間間隔ごとに動線Lm上を移動する距離を規定し、実空間において人が歩行する速度に対応付けるものとする。上述したように、入力部11には、歩行速度を設定するために歩行速度設定部11bが設けられる。歩行速度を指定することによって、子供や脚力の衰えた高齢者や車椅子を利用する人などの歩行速度に合わせたシミュレーションが可能になる。
時間間隔は、たとえば0.5s、1sなどに設定すればよい。時間間隔が、この程度であれば、人の歩行による視点位置Pvの変化に伴う比較領域Dc(tk)の変化を表すことができる。ただし、コンピュータの処理能力が高ければ、時間間隔を1/60s、1/30sなどに設定することによって、滑らかな動画像とすることも可能である。時間間隔については、あらかじめ設定しておいても、またオペレータが設定するようにしてもよい。
比較領域Dc(tk)が規定できれば、時刻tkごとに比較領域Dc(tk)に相当する仮の比較領域Dc′(tk)を求める。仮の比較領域Dc′(tk)は、指定された局所領域Ddを動線Lmの接線方向(すなわち、視点位置Pvからの視線方向)に当てはめることで求められる。局所領域Ddが平面視で視点位置Pvを中心とする扇形であるとすれば、扇形の中心線(中心角を2等分する半径方向の直線)を動線Lmの接線方向に一致させる。なお、指定方法(D)において動線Lmを規定して静的に設定した仮の比較領域Dc′は、指定方法(E)において時間間隔を十分に短く設定した場合の仮の比較領域Dc′(tk)の集合に相当する。
上述のようにして求めた仮の比較領域Dc′(またはDc′(tk))について、照明空間と重複しているか否かを判定する(S29)。仮の比較領域Dc′(またはDc′(tk))のうち照明空間Lsと重複していない部位は(S29:y)、照明空間Lsの外であるから評価の対象外になる。このような評価の対象外を仮の比較領域Dc′(またはDc′(tk))から除外することにより(S30)、比較領域Dcが決定される。比較領域Dcの決定後には、比較領域Dcに対応する照度値計算点iから照度値計算点iを抽出し、抽出した照度値計算点iを記憶部14の一時記憶部14bに格納する(S31)。
比較領域Dcに対する照度値計算点iが抽出されると、比較判定部13では、抽出した照度値計算点i(3次元位置(xi,yi,zi)で表される)ごとに、照度値E(i)が照度条件を満たしているか否かを判定する。照度値E(i)が照度条件を満たしていない照度値計算点iについては、判定フラグFc(i)を立てる。ここに、判定フラグFc(i)の値は、たとえば「1」を条件不成立、「0」を条件成立とし、判定フラグFc(i)を立てることは、条件不成立の値「1」を判定フラグFc(i)の値として設定することを意味する。このように、判定フラグFc(i)に条件不成立の値を設定することを、条件不成立のフラグを設定するという。
また、上限値Euと下限値Elとを設定している場合のように複数の照度条件について判定を要する場合には、一つの照度値計算点iについて各照度条件ごとの判定を行う。この場合、照度条件を判定しようとする照度値計算点iにすでに条件不成立の判定フラグFc(i)が立っていれば、当該照度値計算点iについては照度条件の判定を行わない。
さらに詳しく説明する。記憶部14の一時記憶部14bには、照明空間Lsについて算出された照度値計算点iごとの照度値が格納されているから、上述のようにして比較領域Dcに対応付けて抽出された照度値計算点iごとの照度値E(i)を読み出し、読み出したすべての照度値E(i)について判定基準となる照度値Edef(j)とそれぞれ比較する。比較の関係(照度条件)は識別フラグFop(j)で表されており、たとえば、照度条件を示す判定フラグがFop(j)=1であるときには、E(i)−Edef(j)>0のときに照度条件が満足されたことになり、E(i)−Edef(j)≦0のときに照度条件が満足されなかったことになる。照度条件が満足されたときに判定フラグFc(i)を0にし、照度条件が満足されなかったときに判定フラグFc(i)を1にするとすれば、以下の関係になる。
E(i)−Edef(j)>0→Fop(i)=0
E(i)−Edef(j)≦0→Fop(i)=1
1個の照度値計算点に対して判定基準となる照度値Edef(j)が複数個であるとき(たとえば、上限値と下限値とが設定されているとき)には、複数個の照度条件がすべて成立したときに、照度条件が成立したことになる。したがって、判定基準となる照度値Edef(j)が複数個である場合には、いずれかの照度条件に対して判定フラグFc(i)が立つと(つまり、照度値計算点iにおける複数の照度条件のうちのいずれか1個が不成立になると)、同じ照度値計算点iに関する他の照度条件は無視する。つまり、複数個の照度条件があるときに各照度条件について順に成立するか否かを判定し、その過程において判定フラグFc(i)=1が生じると、残りの照度条件の判定は行わない。言い換えると、1個の照度値計算点iに関する複数の照度条件のうちの1つでも判定フラグFc(i)が1になれば、当該照度値計算点iの判定フラグFc(i)を1にする。
比較領域Dcに対応するすべての照度値計算点iについて照度条件の成立の有無を判定した後には、各照度値計算点iに関する判定フラグFc(i)の値を記憶部14の仮保持領域14aに格納する。
比較判定部13において、比較領域Dcに対応する各照度値計算点iに関して照度条件を満足するか否かの判定を行った後に、提示部12の画面上に判定結果を表示する。ここで、判定フラグFc(i)が立っている(つまり、Fc(i)=1である)照度値計算点iの3次元座標と照度値の計算値に用いた解像度とにより、判定フラグFc(i)が立っている照度値計算点iで代表される小領域Sr(i)の範囲を求めることができるから、判定フラグFc(i)が立っているすべての照度値計算点iに対応する小領域Sr(i)の画像データを、計算部10で求めた照明空間の各照度値計算点iの照度値を表す画像データとを重ねて提示部12の画面上に表示する。
このとき、判定フラグFc(i)が立っている照度値計算点iに対応する小領域Sr(i)については、他の領域と区別することができるように、特定色(たとえば、赤や緑)で塗りつぶしたり、特定色で他の領域との境界線を表示したり、他の領域とは異なる特定パターン(模様)で埋めて表示したりする。照度値計算点iごとにこの処理を繰り返し、比較領域Dcに含まれるすべての照度値計算点iについて判定フラグFc(i)の値に応じた処理を行うと、照度条件を満足しない小領域Sr(i)を他の領域とは区別して表示した画像が生成される(すべての照度値計算点が照度条件を満たしているときには他の領域と区別した小領域Sr(i)は表示されない)。
ここに、動線Lmに沿って視点位置Pvが変化し比較領域Dcが動的に変化する場合には、ウォークスルーを行いながら、時々刻々と変化する判定結果を提示部12の画面に表示することができる。つまり、照明空間Lsにおいて歩行している状況における照度変化を評価することができる。また、判定結果は各時刻tkごとに独立しているから、各時刻tkごとの判定結果を提示部12に個々に表示することも可能である。
なお、提示部12では画像を表示する以外に、必要に応じて各小領域Sr(i)の照度値や判定フラグFc(i)の立っている小領域Sr(i)を代表する照度値計算点iの座標位置なども提示部12の画面に表示してもよい。
また、画像については、各小領域Sr(i)に照度値を当てはめて表示するか照明空間Lsのみを表示するかを切り換えたり、判定フラグFc(i)の立っている小領域Sr(i)を特定色で表示するか否かを切り換えたりすることも可能になっている。さらに、照明空間Lsについて照度値計算点iの照度値を算出した結果の第1の画像と、判定フラグFc(i)が立っている照度値計算点iに対応する小領域Sr(i)の第2の画像とを重ねて表示する際に、第2の画像を第1の画像の一部領域に上書きするか、第1の画像と第2の画像とを異なるレイヤとして表示するかは適宜に選択すればよい。第2の画像の透明度を調節し、第1の画像に第2の画像を重複させたときに、第2の画像を通して第1の画像を視認可能としてもよい。
提示部12の画面に表示された画像の画像データは記憶部14に格納される。記憶部14には、上述した各段階で生成される情報が照度条件や比較領域の設定内容とともに随時格納され、後の処理において必要に応じて読み出されて使用される。記憶部14に格納した情報を読み出すタイミングおよび読み出す方法は、あらかじめ指定しておくか、あるいは各段階ごとに指定する。情報の読出を指定する方法としては、複数の選択肢から選択するのが望ましい。
また、同じ照明環境で照度条件や比較領域を変更する場合は、照度条件や比較領域を入力部11から新たに指示することになるが、照明空間に関する画像のデータは新たに作成せずにそのまま用いる。一時記憶部14bに格納されたデータは不要になった時点で削除すればよい。たとえば、照度条件や比較領域や比較領域に含まれる照度値計算点iの座標位置は、比較領域を新たに設定した時点で一時記憶部14bから削除すればよく、照明空間に含まれる各小領域の照度値は、照明空間を変更して照度値の再計算を行ったときや、他の照明空間についてシミュレーションを行うときに、一時記憶部14bから削除すればよい。
(実施形態2)
実施形態1では、視点位置Pvの高さについてはとくに考慮していないが、本実施形態では、視点位置Pvの高さを考慮して3次元で視点位置Pvを指定する。また、仮想空間である照明空間において、実空間の人体に相当する仮想人体を想定している。ただし、仮想人体を提示部12の画面上に表示するのではなく、仮想人体は3次元の視点位置Pvの平面内での位置だけではなく視点位置Pvの高さをパラメータに持つものとする。すなわち、入力部11に設けた視点位置設定部11aは、視点位置Pvの高さを設定可能になっている。このように視点位置Pvの高さを変更することにより、子供と大人のように身長が異なる場合について照明環境のシミュレーションが可能になる。
実施形態1で説明したように、着目する比較領域Dcにおける各照度値計算点iが照度条件を満足しているか否かを判定するためには、比較領域Dcに対応した照度値計算点を抽出する必要がある。本実施形態では、比較領域Dcに対応する照度値計算点iの抽出に際して、実施形態1において説明した条件だけではなく、仮想人体の視点位置Pv(視点の高さ)を考慮することが必要である。
なお、視点位置Pvは、数値による入力だけではなく、語彙による選択肢(大人・子供など)を提示部12の画面を用いてオペレータに示すことにより選択させてもよい。選択肢を用いる場合には、選択肢の語彙を数値に変換するために対応表(データテーブル)を用いる。
視点位置Pvに関する条件を与えると、仮想人体の視点位置Pvでの照度条件の判定が可能になる。すなわち、実施形態1において指定方法(A)〜(E)として説明したように比較領域Dcを指定し、比較領域Dcに対応する各照度値計算点iについて照度値が照度条件を満たすか否かを判定する。
比較範囲Dcが動的に変化する場合について、視点位置Pvの高さを異ならせたときの照度の時間変化を図13に示す。図13において実線は視点位置Pvの高さが155cmの大人を示し、破線は視点位置Pvの高さが110cmの子供を示している。図13において横軸は歩行時の経過時間を示し、縦軸は比較領域Dcに対応する各照度値計算点iから視点位置に届く照度値の総和を表している。視点位置Pvの高さが異なることにより、比較領域Dcの高さも変化するから、照明空間Lsにおいて比較領域Dcとして切り取る部位が異なることになり、結果的に照度条件の判定結果にも相違が生じる。
視点位置Pvの高さを選択肢によって指定する場合に、選択肢の語彙として大人・子供・高齢者・車椅子などを用意しておき、視点位置Pvの高さだけではなく、歩行速度なども条件として含めておけば、オペレータの入力操作を省力化することができる。また、本実施形態では、様々な利用者に対して照明空間の良否判定を行うことができるから、たとえば、設定した照明空間が、大人にとっては良好であっても視点位置Pvの低い子供にとって不備があるような場合の問題点を発見するのが容易になる。
上述したように、本実施形態は、様々な利用者について照明空間の良否を評価することを目的にしているから、視点位置Pvや歩行速度だけではなく、たとえば、仮想人体として高齢者を想定している場合には、判定結果を提示部12の画面に画像として表示する際に、眼の黄変や白内障などが生じている状態の見え方を画像処理によって再現してもよい。また、高齢者では視野が狭くなることが多いから、提示部12の画面に判定結果を表示する際に視野も考慮するのが望ましい。他の構成および動作は実施形態1と同様である。
(実施形態3)
実施形態1では、照度値計算点iごとに照度条件の成立の有無を判定し、照度条件を満たさない照度値計算点iが代表している小領域Sr(i)を他の領域とは区別するように表示している。ところで、照度条件を実施形態1において説明した条件(b)で設定した場合には、上限値Euと下限値Elとに対して照度値E(i)を判定するから、照度値E(i)が上限値Euを上回る場合と下限値Elを下回る場合とがある。本実施形態は、照度値E(i)が、上限値Euを上回った場合と、下限値Elを下回った場合とで小領域Sr(i)の表示を異ならせている。
本実施形態の構成では、提示部12の画面表示によって、オペレータは各小領域Sr(i)の照度値E(i)が、上限値Euを上回っているのか、下限値Elを下回っているのかを一見して認識することができるから、当該小領域Sr(i)の照度を上げるべきか下げるべきかを容易に判定することができ、設計変更の指針を得やすくなる。
本実施形態を実現するには、実施形態1において説明した照度条件に割り当てた識別フラグFop(j)の値を、判定フラグFc(i)の値として用いる。実施形態1において説明したように、識別フラグFop(j)の値は以下のように設定されている。
E(i)>Edef(j)→Fop(j)=1
E(i)≧Edef(j)→Fop(j)=2
E(i)<Edef(j)→Fop(j)=3
E(i)≦Edef(j)→Fop(j)=4
そこで、本実施形態では、照度条件を満足したか否かの結果を判定フラグFc(i)の値で示す代わりに、照度条件を満足しなかったときに、照度条件に対して割り当てた識別フラグFop(j)の値1〜4を用いる。つまり、照度条件の不成立時には判定フラグFc(i)の値は1〜4のいずれかの値になる。記憶部14の仮保持領域14bに判定フラグFc(i)を格納する際に、この値を用いることによって、提示部12の画面に表示する際に、照度値E(i)がどの照度条件を満足しなかったのかを識別することができる。照度値E(i)が下限値Elを下回っている場合か下限値El以下の場合には、識別フラグFop(i)=1または2、上限値Euを上回っている場合か上限値Eu以上の場合は、識別フラグFop(i)=3または4になる。なお、同じ照度値E(i)が、下限値Elを下回ると同時に上限値Euを上回ることはないから、照度条件が上限値Euと下限値Elとに対する判定である場合に、一方の照度条件について判定フラグFc(i)が決定された場合は、他方の照度条件については判定を行わなくてもよい。
上述の処理により、記憶部14の仮保持領域14aには、照度条件に応じた判定フラグFc(i)の値が格納されるから、比較領域Dcにおける各照度値計算点iが代表する小領域Sr(i)ごとに、判定フラグFc(i)に対応付けた特定色(あるいは特定パターン)で表示する。たとえば、照度値E(i)が上限値Euを上回る小領域Sr(i)を赤色とし、下限値Elを下回る小領域Sr(i)を青色とする。どのように表示するかは、あらかじめ照明シミュレータに設定しておいてもよいが、オペレータが、判定フラグFc(i)の値に対応する色やパターンを入力部11から指定できるようにしてもよい。小領域Sr(i)に着色する際には、特定色で塗りつぶすだけではなく、境界線の色で区別するようにしてもよく、また、色に変えて境界線の線種で区別するようにしてもよい。
なお、小領域Sr(i)の色やパターンが、どの照度条件に対応する色・パターンに対応するかを確認できるように、提示部12の画面上に凡例を表示できるようにしておくのが望ましい。あるいはまた、いずれかの小領域Sr(i)の近傍に照度条件を表示するようにしてもよい。他の構成および動作は実施形態1と同様である。
(実施形態4)
上述した各例では1個の比較領域Dcを対象としていたが、本実施形態は、入力部11により複数の比較領域Dcを指定可能としている。また、比較判定部13において、照度値E(i)に関して照度条件の成否を判定するだけではなく、各比較領域Dcの間の照度差についても判定し、各比較領域Dcで照度値E(i)が照度条件を満たしているか否かを示す判定フラグFc(i)の内容(小領域Sr(i)の着色やパターン)と併せて提示部12の画面に表示する。照度差の判定結果は、文字列によるメッセージなどの形で提示部12の画面に表示する。
本実施形態のように複数の比較領域Dcを設定して照度値E(i)が照度条件を満たすか否かを判定することにより、以下に例示する場合についての評価が可能になる。
たとえば、照明空間であるLDKにおけるテレビジョン受像機の前と食卓付近との2つの比較領域Dcについて、照度値E(i)を300〜500[lx]にしたい場合には、複数(2個)の比較領域Dcについて同じ照度条件(上限値Eu=500[lx]、下限値El=300[lx])を規定する。一方、寝室のべッドの上、廊下、トイレの中などのように異なる複数の比較領域Dcについて、個別に照度値E(i)を設定する場合には、個々に照度条件を規定する。
このように、比較領域Dcと照度条件とを関係付けた組み合わせを入力部11から必要数入力し、表4のような条件対応表(データテーブル)を作成する。表4に示す条件対応表の各照度条件は、各比較領域Dcごとに適用され、各比較領域Dcにおいて実施形態1−3と同様の処理を行う。
すなわち、条件対応表の各比較領域Dcごとに、照度値計算点を抽出するとともに、当該照度値計算点に照度条件を適用し、照度値計算点で代表される小領域Sr(i)ごとに判定フラグFc(i)の値を決定し、提示部12の画面に表示する。なお、異なる比較領域Dcについて同じ照度条件を規定する場合には、照度値計算点の一部が離散的に存在するものの1個の比較領域Dcと同様に扱うことができる。
ところで、本実施形態では、上述したように、比較判定部13において、各比較領域Dcの間の照度差についても判定している。したがって、たとえば、手元は読書に必要な照度を確保しながらも、周辺は暗すぎない程度の照度を確保するという要求や、明るい部屋から照度の低い廊下に出たときや照度の低い廊下から明るい部屋に入ったときの輝度順応過程における一時的な視覚低下を抑制するという要求を満たすように、着目する比較領域Dcの照度差を評価することが可能になる。
照度差を評価するために、各比較領域Dcに含まれる照度値計算点の照度値E(i)についてそれぞれ平均値Eavr(Dc)を求めている。以下では、照度値E(i)の平均値Eavr(Dc)を平均照度値と呼ぶ。各比較領域Dcの平均照度値Eavr(Dc)が求められると、平均照度値Eavr(Dc)の比を求め、この比を照度差の評価に用いる。
一般の照明空間では、全般照明と局部照明との照度比は1/2〜1/5程度の範囲が望ましく、最低でも1/10とすることが望まれる。つまり、全般照明と局部照明とによる明暗差を大きくしないのが望ましいとされている。そこで、照度比に対する判定基準γ(たとえば、γ≧1/2)を設定し、比較対象とする2つの比較領域Dc1,Dc2から得られた平均照度値Eavr(Dc1),Eavr(Dc2)(ただし、Eavr(Dc1)≦Eavr(Dc2)とする)の比Eavr(Dc1)/Eavr(Dc2)を判定基準γと比較する。判定基準γは、数値として与えたり、適宜の語彙に数値を対応付けて選択肢として選択させる。
ここで、Eavr(Dc1)/Eavr(Dc2)<γとなる場合には、両比較領域Dc1,Dc2の照度差が大きすぎると判定し、提示部12の画面上で警告を行う。警告は、文字によるメッセージとして与えたり、2つの比較領域Dc1,Dc2を強調するように描画する画像を表示することによって示す。また、比較領域Dc1,Dc2について照度差の評価結果を提示部12の画面に表示する際には、判定基準γを満たす場合と満たさない場合とで表示方法を異ならせる。たとえば、判定基準γを満たす場合には両比較領域Dc1,Dc2を特定色で塗りつぶし、判定基準γを満たさない場合には両比較領域Dc1,Dc2の輪郭線のみを特定色で表示する。あるいはまた、この逆の表示を行う。
また、照度差の評価対象である比較領域Dc1,Dc2の位置を容易に確認することができるように、当該比較領域Dc1,Dc2について条件対応表の比較領域Dcに含まれる照度値計算点を提示部12の画面に表示する。比較領域Dc1,Dc2は、判定フラグFc(i)の値に関わりなく表示される。つまり、照度条件を満たさなかった小領域Sr(i)だけではなく、比較領域Dc1,Dc2に含まれるすべての小領域Sr(i)を表示する。ただし、比較領域Dc1,Dc2を表示する方法は、照度条件を満たさない場合の表示の方法と同様であり、特定色で塗りつぶしたり、特定色で輪郭線を縁取ったりする。
たとえば、照度条件が不成立である小領域Sr(i)を塗りつぶす場合には比較領域Dc1,Dc2については輪郭線を表示し、逆に比較領域Dc1,Dc2を塗りつぶすとともに照度条件が不成立である小領域Sr(i)の存在範囲を輪郭線で囲むようにしてもよい。後者の場合には比較領域Dc1,Dc2の中において照度条件が不成立である小領域Sr(i)を抜き取った形に表示されることになる。いずれにしても、比較領域Dc1,Dc2の範囲と、照度条件が不成立である小領域Sr(i)の範囲とは異なる表示方法で表示するのが望ましい。ただし、両者ともに塗りつぶすとともに、両者の色を異ならせるようにしてもよい。
上述の処理では、各比較領域Dc1,Dc2について求めた平均照度値Eavr(Dc1),Eavr(Dc2)を比較することにより、異なる比較領域Dc1,Dc2に関して照度差を評価しているが、比較領域Dcごとの照度分布の評価も行うことができる。この場合、比較領域Dcごとの照度値E(i)の最大値と最小値との差分を求め、差分が大きいほど照度分布のばらつきが大きいと評価することができる。また、比較領域Dcごとの照度分布を評価する際に、比較領域Dcの平均照度Eavr(Dc)と当該比較領域Dcにおける照度値E(i)の最小値あるいは最大値との比を用いてもよい。
あるいはまた、異なる比較領域Dc1,Dc2の照度差を評価するにあたって、両比較領域Dc1,Dc2に含まれる照度値計算点を合わせて照度値E(i)の最大値と最小値との差分を求め、この差分を比較領域Dc1,Dc2の照度差の目安に用いてもよい。つまり、比較しようとする2つの比較領域Dc1,Dc2の全体を1つの比較領域Dcとみなしているのであり、1つの比較領域Dcの照度分布を評価することと等価になる。他の構成および動作は上述した実施形態1〜3と同様である。
(実施形態5)
実施形態2では、入力部11において視点位置Pvの高さを1種類だけ入力可能にしているが、視点位置Pvの高さを複数種類入力可能することができる。すなわち、視点位置設定部11aにおいて、複数の高さを同時に選択可能にしてある。たとえば、複数個の語彙(大人・子供・高齢者・車椅子など)による選択肢を用いて視点位置Pvの高さを指定する場合に、複数個の選択肢を選択可能にし、希望するすべての選択肢を指定した後に選択を決定すれば、視点位置Pvについて、同じ場所において複数の高さの視点位置Pvを同時に設定することができる。なお、高さについて、選択肢を用いずに、個々の高さを数値で入力することも可能である。
ここに、選択肢を用いずに、規定寸法(たとえば10cm)の刻み幅の複数の高さ、あるいは適宜の複数の高さについて、あらかじめ規定値として視点位置Pvが設定されるようにしてもよい。この場合、視点位置設定部11aから視点位置Pvの高さを入力する必要がなくなり、視点位置Pvの高さを考慮しながらも入力作業の省力化を図ることができる。
上述のように、視点位置Pvについて複数種類の高さを同時に指定する場合には、比較判定部13においても、各高さについて照度値E(i)が照度条件を満たしているか否かを同時に判定することが必要になる。
視点位置Pvについて複数種類の高さを同時に指定する場合には、照明空間Lsにおいてオペレータが比較領域Dcを規定する際に、実施形態1において説明した比較領域Dcの指定方法(C)〜(E)のように視点位置Pvを基準に用いるとすれば、照明空間Lsにおける平面内では同位置であって、高さの異なる複数の視点位置Pvが設定されることになる。すなわち、図14に示すように、平面内の1つの位置において、複数個の比較領域Dcn(n=1,2,…)を生成することになる。言い換えると、複数個の視点位置Pvn(n=1,2,…)に対応して、複数個の比較領域Dcnが生成されることになる。
一方、比較判定部13では、高さの異なる各視点位置Pvnについて、同じ照度条件を用いた場合に、各照度値計算点の照度値が照度条件を満たすか否かを判定する。言い換えると、各比較領域Dcnについて個別に照度条件を設定するのではなく、すべての比較領域Dcnについて共通の照度条件を設定する。したがって、高さの異なる複数個の視点位置Pvnについて同一の基準で判定することが可能になる。
上述のようにして複数個の比較領域Dcnのすべてについて照度値が照度条件を満たすか否かを判定する。判定結果は、実施形態3に説明した技術を用いることにより、提示部12の画面に表示する。提示部12の画面に表示する際には、照度値が照度条件を満たしていない領域について、各高さごとに異なる色で着色しておけば、各高さでの判定結果について個別に認識できるとともに、重複部位についてはどの高さでも照度条件を満たさないことを容易に認識することができるから、照明設計についての評価が容易になる。
たとえば、図15のように、異なる高さの視点位置Pvnに対して照度条件を満たさなかった領域Dnn(Dn1,Dn2)を、視点位置Pvの高さごとに異なる色(図15では斜線の向きの違いが色の違いを示している)で着色しておけば、単独の高さで照度条件が満たされない領域と、複数の高さで照度条件が満たされない領域とを区別することができる。
したがって、「大人の視点高さに対して照度が上限値以上の領域と、子供の視点高さに対して照度が上限値以上の領域とが重なっている」ことを認識することができ、あるいはまた、「大人の視点高さに対して照度を満足しているが、子供の視点高さに対して照度が下限値以下になっている」ことを認識することができ、結果的に、照度の過不足の判断を視覚によって直感的に行うことが可能になる。他の構成および動作は上述した各実施形態と同様である。
上述のように、本実施形態の構成を採用すれば、複数の高さの視点位置Pvについて、照度条件の可否を同時に評価することができるから、視点位置Pvの高さが異なる種々の人(大人・子供・老人・車椅子使用者など)に対して満足できるように照明設計がなされているか否かを容易に検証することができる。その結果、安全性を確保するための照明のように、視点位置Pvの高さにかかわらず照明条件を満たすことが必然である場合でも、照明条件を満たす照明設計か否かを漏れのないように確認することが可能になる。
なお、本実施形態では、視点位置Pvについて同時に設定可能な条件として高さに着目しているが、視点位置Pvについて設定可能な条件として、高さだけでなく、眼の黄変、白内障、視野狭窄、弱視などの様々な条件を同時に設定してもよい。
(実施形態6)
上述した各実施形態では、1つの照明空間を対象として照度条件の成否を評価したが、本実施形態では、入力部11により、着目する3次元空間内に複数個の照明空間(空間領域)を設ける場合について照度条件の成否を評価する技術について説明する。ここに、空間領域は、建築物において構造的に区分される空間領域のほか、照明器具の種類や配置あるいは室内の機能によって区分される空間領域も含むものとする。前者の空間領域は、部屋、廊下、階段などの区分になり、部屋には居間、台所、寝室、浴室などの属性名が付与される。また、後者の空間領域は、ダイニングキッチンのような部屋において、キッチンカウンタ周辺、食卓周辺、ソファ周辺などの空間領域に区分する場合を想定している。後者の空間領域には、調理、食事、団欒、読書などの行為に基づく属性名を付与するのが望ましい。
各属性名には、当該空間領域において満たすべき照度条件が対応付けられており、属性名と照度条件との対応関係は、比較判定部13に付設して記憶部14に設けた条件テーブル(図示せず)に格納される。したがって、オペレータは各空間領域に対して独自の属性を付与するのではなく、あらかじめ条件テーブルに登録されている属性名から選択することになる。条件テーブルは、たとえば表5、表6のような内容とすればよい。表5は属性名が部屋の名称である場合を示し、表6は属性名が行動である場合を示している。照度条件は、たとえば、JIS規格において定められている照度値を参考に決定すればよい。
本実施形態では、3次元空間である照明空間を規定するための情報を入力する際に、複数個の空間領域を規定し、各空間領域ごとに上述の属性名を付与しておく。空間領域は、上述したように部屋のように構造的に区分されている場合と、機能(ないし行動)により区分されている場合とがあり、目的に応じていずれかを選択することになる。属性名は、通常は比較領域を設定する際に指定すればよいが、CADなどを用いて照明空間のデータがあらかじめ作成されている場合には、一部屋分のデータを読み込むたびに属性名を選択するようにしてもよい。
比較判定部13では、照度値を照度条件と比較するにあたり、入力部11から入力された空間領域の属性名を条件テーブルに照合して属性名に応じた照度条件を自動的に設定する。
上述のように、空間領域の属性名を与えるとともに、条件テーブルを設けておくことにより、照度条件を自動的に設定することができるから、条件テーブルに設定される一般的な照度値条件に対しては照度条件を設定する手間を省くことができ、オペレータにとっては省作業になる。
なお、一部屋に複数の空間領域を設定している場合には、比較領域と属性名を指定した空間領域とを比較し、以下の手順で決定した照度条件を用いる。
(1)一つの属性名を持つ空間領域に比較領域が包含されている場合には、当該属性名に対応する照度条件を採用する。
(2)属性名の異なる複数の空間領域に比較領域がまたがっている場合には、比較領域との重複量がもっとも多い空間領域に対応する照度条件を採用するか、または比較領域の中心が含まれる空間領域に対応する照度条件を採用する。
一例として、図16のように、一部屋に複数個(図示例は、属性名がA,B,Cの3個)の空間領域を設定している場合を想定する。
図16の左部では、属性名Aの空間領域に対して比較領域Dcの大部分がまたがっているから属性名Aに対応する照度条件を採用する。ここでは、比較領域Dcの指定において実施形態1において説明した指定方法(B)を採用しており、比較領域Dcには中心点Pcが規定されている。属性名Aの空間領域には、比較領域Dcの中心点Pcが含まれているから、いずれにしても属性名Aに対応する照度条件が選択される。
一方、図16の右部では、属性名Bと属性名Cとの2つの空間領域に対して比較領域Dcがまたがっており、比較領域Dcの重複量に着目すれば属性名Cに対応する照度条件を採用することになり、比較領域Dcの中心点Pcに着目すれば属性名Bに対応する照度条件を採用することになる。どちらを採用するかは、オペレータが決定すればよい。
条件テーブルは、必要に応じて内容を確認することができるようにしておくのが望ましい。なお、条件テーブルには、属性名に照度値を対応付けるのではなく、属性名に判定式のパラメータを対応付ける形としてもよい。たとえば、属性名「居間」に対しては、照度値では150〔lx〕≦E(i)≦300〔lx〕と表されるが、判別式のパラメータとして、Nj=2,Edef(1)=150、Fop(1)=2,Edef(2)=300,Fop(2)=4という形式で表してもよい。また、照度値を用いた条件設定と、判定式のパラメータを用いた条件設定とが混在していてもよい。
属性名の入力は、比較判定部13において照度条件を判定するよりも前の段階であれば、いつでも行うことが可能である。他の構成および動作は上述した他の実施形態と同様である。
(実施形態7)
本実施形態では、3次元空間である仮想空間を生成する際に、照明器具の配置を容易にするための技術について説明する。実空間において照明器具を設置する際には、光量、光色、形状、寸法のような照明器具の属性としてのパラメータと照明器具の位置とを考慮するだけでなく、施工時の作業性も考慮する必要がある。すなわち、照明器具の設置施工の際に、照明器具の周囲に必要になる空間領域についても考慮しなければならない。言い換えると、現場で照明器具を取り付ける際の作業用の空間領域を確保しておかなければならない。
このような事情に鑑みて、記憶部14の固定記憶部14aには、各照明器具の属性としてのパラメータ(光量、光色、形状、寸法)とともに、施工作業に必要な空間領域に関するパラメータも格納してある。施工作業に必要なパラメータは、照明器具を取り付けるための取付金具の形状と寸法、施工作業に必要な作業スペースの形状と寸法を含む。これらの形状と寸法は、照明器具に付随する形で照明器具の外側に設定され、照明器具の形状と寸法とを規定する場合と同様に、照明器具に規定した器具座標系において、照明器具の代表点を基準にして3次元の寸法として設定される。あるいはまた、照明器具の施工作業に必要な空間領域を、照明器具が占める空間領域とともに、3次元グラフィックのデータとして与えておくことも可能である。
本実施形態の構成では、照明環境を構築するために、照明器具の属性に基づいて施工可能性を判定するとともに判定結果を通知する妥当性判定部(図示せず)を付加してある。妥当性判定部では、オペレータが仮想空間において照明器具を配置する際に、照明器具の種類および位置を決定すると、照明器具に付随する作業領域を記憶部14から読み出し、仮想空間における他の物体との干渉の有無を判定する。ここで、干渉があれば、妥当性判定部は、提示部12の画面に、照明器具の位置を修正するように警告ダイアログを表示し、オペレータに対して注意を喚起する。なお、干渉の判定には、ベクトルを利用して領域同士の交差判定を行う周知技術を用い、この技術については一般的手法が確立しているので説明は省略する。
上述の動作によって、たとえば、図17(a)のように、仮想空間の壁面Hwを規定する領域内に照明器具に付随する作業領域Duが交差している場合に干渉があると判定されるから、オペレータに対して注意が喚起され、図17(b)のように、作業領域Duが壁面Hwと干渉しないように照明器具の配置を修正させることができる。
上述の動作では、作業領域Duと他の物体との干渉時に警告ダイアログを示しているだけであるが、干渉の程度を評価して警告ダイアログとともに、干渉を解消するための照明器具の位置の最小の補正量を提示するようにしてもよい。あるいはまた、最小の補正量の分だけ照明器具の位置を自動的に補正するようにしてもよい。
たとえば、図18(a)のように、上方向において30cmの作業領域Duを必要とする照明器具を設ける場合に、作業領域Duのうちの上10cm分が天井面Hcよりも上方にはみ出している場合を想定する。この場合、照明器具を現状位置から10cm下に移動させると、天井面Hcと作業領域Duとの干渉が解消されるから、警告ダイアログにおいて「10cm下へ移動してください」のように補正量を提示するのである。この提示に従って照明器具の位置を補正すれば、図18(b)のように、作業領域Duが天井面Hcに干渉しなくなる。つまり、実際に施工可能な位置に照明器具を配置することが可能になる。
上述の動作を座標値を用いて具体的に説明する。いま、照明空間が直方体であるものとし、照明空間について規定した直交座標系である基準座標系XYZにおいて(Z方向を上下方向とする)、照明空間の境界面を、X=−200cm、X=200cm、Y=−200cm、Y=200cm、Z=250cm、Z=0cmの各平面とする。要するに、床面が400cm四方であり、天井高さが250cmであって、照明空間の床面の中央に基準座標系XYZの原点を設定しているものとする。
一方、図18(a)で示す照明器具の代表点の位置は、基準座標系XYZにおいて(130cm,−185cm,230cm)であるものとする。また、作業領域Duが直方体であるものとし、照明器具について規定した直交座標系である器具座標系xyzにおいて、照明器具の代表点に対する作業領域Duの境界面を、x=−70cm、x=55cm、y=−10cm、y=10cm、z=−20cm、z=30cmの各平面とする。ここに、基準座標系XYZと器具座標系xyzとの各軸方向は平行であるものとする。
ここで、照明器具の設置に際して作業領域Duを確保するには、作業領域Duの境界面が、照明空間の境界面の内側に位置していることが必須である。両者を比較するために、作業領域Duの境界面を基準座標系XYZにおいて表せば、X=−70+130=60cm、X=55+130=185cm、Y=−10−185=−195cm、Y=10−185=−175cm、Z=−20+230=210cm、Z=30+230=260cmの各面になる。
ここで、作業領域Duの境界面は、照明空間の境界面の内側(つまり、基準座標系XYZの原点との距離が近い側)でなければならない。境界面は、基準座標系XYZの各座標軸に直交する面であるから、各座標軸の方向において原点からの距離を比較すると、作業領域Duの上面となる境界面はZ=260cmであって、照明空間の上面となる境界面であるZ=250cmを10cm超過していることが分かる。すなわち、照明器具を10cm下に移動させることにより、作業領域Duを照明空間内で取ることが可能になる。
したがって、作業領域Duの境界面が照明空間の境界面の外側に位置していることに基づいて警告ダイヤログを提示し、さらに、照明器具を下に10cm移動させることで不都合を回避できるから、上下方向に−10cmという補正値を警告ダイヤログに提示する。あるいはまた、照明器具を下に10cm移動させる。
上述の処理により、実際に施工作業が可能な位置に照明器具を設置した状態で照明環境のシミュレーションを行うことが可能になる。他の構成および動作は上述した他の実施形態と同様である。
(実施形態8)
本実施形態では、実施形態6のように、複数個の照明空間(空間領域)を設ける場合において、時間経過に伴って異なる照明空間にまたがる経路で視点位置を移動させるように動線を設定するにあたり、動線の設定作業を簡易化する例を示す。すなわち、本実施形態は、オペレータが複数個の照明空間について通過する順序を指定すれば、視点位置を移動させる動線を自動的に設定するものである。
視点位置の動線を自動的に設定するために、本実施形態では、照明空間を規定する際に、照明空間の形状と寸法、照明空間に存在する物体の形状と寸法、照明空間に存在する物体の反射率、物体間の位置間係、各照明空間の位置関係、各照明空間の属性名などを指定することに加えて、照明空間が部屋である場合には、各照明空間の中心点Prcと照明空間の出入口の中心点Pdcとを指定し、照明空間の属性名が「廊下」「階段」のように通路を表している場合には、各照明空間の移動経路に沿った中心線と端点Penと中心線同士の交点Pcnとを指定する。照明空間の中心点Prc、出入口の中心点Pdc、移動経路の中心線、端点Pen、中心線同士の交点Pcnは、3次元データである必要はなく、床面に沿った2次元平面での位置として規定されていればよい。
上述した各位置は、3次元空間である仮想空間を作成する際に照明空間を規定する座標値を用いて計算することが可能であるから、オペレータが各位置を計算して設定する。また、オペレータによる計算ではなく、これらの計算を自動化することも可能である。計算結果は、記憶部14の一時記憶部14bに記憶させておけばよい。
ところで、実施形態1では、照明空間において視点位置Pvを移動させる動線Lmをオペレータがあらかじめ作成して登録していることを想定しているが、本実施形態では、視点位置Pvの経路となる照明空間の順序をオペレータが入力部11から指定し、指定された順序に基づいて計算部10において動線Lmを自動的に生成する。動線Lmの生成に際しては、始点と終点との座標と上述した照明空間の通過順序とを用い、視点位置Pvを移動させる間に次の視点位置Pvを逐次計算するか、あるいは、一定時間(たとえば、1秒)の時間間隔で動線Lmに沿った座標値を計算して記憶部14に記憶させておき、計算した座標値を用いて視点位置Pvを移動させるようにしてもよい。
例として、図19のように複数個の照明空間を備える3次元空間を生成している場合を想定する。図示例では、照明空間を構造的に区分しており、4個の部屋rと廊下crと階段stとの6個の照明空間を形成している。
動線Lmを設定するには、3次元空間に対して、動線Lmの始点と終点との間で通過する順に照明空間を指定する。動線Lmの通過経路には、以下に説明する種々の場合があるが、動線Lmの始点を含む部屋から終点を含む部屋までの通過経路に廊下が存在するか否かにかかわらず、通過経路の指定には廊下crを省略し、部屋を通過する順序のみを指定する。以下では、各部屋rを区別するために、指定された順序を表す数値を付加する。つまり、「部屋r1→部屋r2」のように通過順序を指定する。順序の指定は入力部11で行い、指定した順序は記憶部14に保存される。
なお、部屋r1,r2の指定にあたっては、実施形態6と同様に属性名を用いればよいが、本実施形態では、属性名に照度条件を対応付ける必要はなく、属性名に座標位置を対応付けておけばよい。
上述のようにして動線Lmの経路上の照明空間(実際には部屋)について、通過順序が指定されると、各照明空間(部屋)ごとに中心点Prc、出入口の中心点Pdc、各照明空間を結ぶ廊下crの中心線などの位置データが記憶部14から読み出される。これらの位置データを用いて、以下の手順(1)〜(3)で動線Lmが生成される。
手順(1):まず、最初に指定された部屋r1について、始点となる中心点Prc(1)と、当該部屋r1の出入口の中心点Pdc(1)とを結ぶ線分L1を格納する。この線分L1は動線Lmの少なくとも一部となる仮動線であり、次の仮動線を探索するための始点Pnxとして出入口の中心点Pdc(1)を用いる。
手順(2):次の仮動線を探索するための始点Pnxから2番目に指定された部屋r2に到達する経路には、部屋r1と部屋r2とが廊下crを経由して結合される経路と、廊下crを経由せずに結合される経路との2種類の経路がある。以下では、各経路についてそれぞれ説明する。
(a)廊下を経由する場合:次の仮動線の始点Pnxとなる部屋r1の出入口の中心点Pdc(1)と目標位置を含む部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)とを線分l1で結び、この線分l1と照明空間の境界との位置関係を検証する。線分l1と照明空間の境界との関係は、以下の(a−1)〜(a−3)の3種類に分類される。
(a−1)線分l1が廊下crの範囲内に収まる場合(図19参照):この位置関係では、図19(b)のように、部屋r1の出入口の中心点Pdc(1)と部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)とを直接連結することができる。したがって、線分l1を動線Lmに加える(Lm←l1)。また、図19(c)のように、部屋r2において、出入口の中心点Pdc(2)と中心点Prc(2)とを結ぶ線分L2を動線Lmに追加する(Lm←l1+L2)。この場合、部屋r2の中心点Prc(2)が次の仮動線の始点Pnxになる。
(a−2)線分l1が照明空間の境界を通過する場合(図20参照):この位置関係では、図20(a)のように、部屋r1の出入口の中心点Pdc(1)と部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)とを結ぶ線分が部屋r1〜r4の壁、廊下crの壁、階段のいずれかに交差する。言い換えると、廊下crを直線的に移動しても次の部屋r2に到達することができない。また、廊下crに2つの直線部分があり、両直線部分が直交して交差点Pcnを形成しており、各部屋r1,r2の出入口の中心点Pdc(1),Pdc(2)は、廊下crの各直線部分に面しているから、中心点Pdc(1)から中心点Pdc(2)へは直進することができない。
そこで、図20(b)のように、部屋r1の出入口の中心点Pdc(1)から交差点Pcnまでを結ぶ線分をl1(1)とし、線分l1(1)を動線Lmに加え(Lm←l1(1))、交差点Pcnを次の仮動線の始点Pnxに用いる。同様の手順で仮動線と仮動線の始点Pnxとを次々に求め、仮動線を動線Lmに含める。すなわち、交差点Pcnと部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)とを結ぶ線分l1(2)を動線Lmに加え、さらに図20(c)のように、部屋r2の出入口の中心点Pdcと中心点Prc(2)とを結ぶ線分L2を動線Lmに加える(Lm←l1(1)+l1(2)+L2)。この処理により、動線Lmを自動的に生成することが可能になる。
(a−3)線分l1が廊下crの境界上に位置する場合(図21参照):この位置関係は、部屋r1と部屋r2との出入口が廊下crの同じ壁面に並んでいるが、出入口を結ぶ線分l1は実際には通過できないから、動線Lmとして採用することができない。そこで、線分l1の中点から廊下crの中心線に下ろした垂線の足に位置する点Ptmpを求める。図21(b)のように、この点Ptmpと部屋r1の出入口の中心点Pdc(1)とを結ぶ線分l1(1)を動線Lmに加え(Lm←l1(1))、さらに、線分l1(1)の端点である点Ptmpと部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)とを結ぶ線分l1(2)を動線Lmに加える(Lm←l1(1)+l1(2))。その後、図21(c)のように、部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)から中心点Prcまでの線分L2を動線Lmに加えることにより(Lm←l1(1)+l1(2)+L2)、動線Lmを自動的に生成することができる。
(b)廊下を経由しない場合(図22参照):この位置関係は、2つの部屋r1,r2の出入口が共用されている場合であって、出入口の中心点Pdc(1)と中心点Pdc(2)とを同位置とみなし、図22(b)のように、部屋r1,r2の中心点Prc(1),Prc(2)と中心点Pdc(1)(=Pdc(2)とを結ぶ線分L1,L2を動線Lmに加える(Lm←L1+L2)。
手順(3):上述した(1)(2)の処理を繰り返し、動線Lmの始点から終点に向かって生成される線分を動線Lmに加えると、動線Lmを自動的に生成することができる。
動線Lmを自動的に生成する手順をまとめると、図23のようになる。すなわち、動線Lmを設定しようとする空間領域(照明空間)の通過順序を指定し(S41)、カウンタの値を1とし(Ci←1)、動線Lmを未設定(Lm←Null)の状態に初期化する(S42)。その後、まず動線Lmの始点を含む照明空間の中心点Prc(1)から出入口の中心点Pdc(1)までの線分L1を動線Lmに加え(S44)、出入口の中心点Pdc(1)を次の始点Pnxにする(S45)。
この始点Pnxと次に通過する部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)との距離が壁厚よりも大きい場合には(S46:yes)、始点Pnxと次の部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)とを結ぶ線分が、照明空間の境界と干渉するか否かが判定される(S47)。
ここで、干渉が生じない場合には、当該線分を動線Lmに加える(S48)。その後、この線分の端点Penを新たな始点Pnxとし(S49)、ステップS46に戻り、次に通過する部屋r3に向かう線分を探索する。
一方、ステップS47において、始点Pnxと次の部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)とを結ぶ線分が、他の照明空間の境界と干渉する場合には(S47:no)、当該線分が壁面に沿っているか否かが判定される(S50)。当該線分が壁面上に位置しているときには、上述した(a−3)のように点Ptmpを求め(S51)、部屋r1の出入口の中心点Pdc(1)と点Ptmpとを結ぶ線分を動線Lmに加え(S52)、点Ptmpを次の始点Pnxとする(S53)。その後、ステップS46に戻り、次に通過する部屋r3に向かう線分を探索する。
ステップS46において、始点Pnxと次に通過する部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)との距離が壁厚以下であるか(S46:no)、ステップS50において、壁面に沿っていない場合には、始点Pnxと次の部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)とを結ぶ線分を動線Lmに加える(S54)。カウンタに1を加えるとともに(S55)、動線Lmに部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)と部屋r2の中心点Prc(2)とを結ぶ線分を動線Lmに加える(S56)。
上述の処理は、カウンタCiの値が指定した照明空間(部屋)の個数に達するまで繰り返される(S43)。
ところで、動線Lmに含めようとする経路に階段stが存在する場合には、階段stの中心線の両端を部屋rの出入口の位置と等価に扱えばよい。ただし、階段stの一方の端から他方の端までの経路は、階段stの中心線を通るものとする。
動線Lmが生成された後の処理は実施形態1において説明したように、比較領域Dcを静的あるいは動的に規定して照度値が照度条件を満たすか否かを判定し、判定結果を提示部12に提示すればよい。
動線Lmを生成する際の部屋の順序を指定する際に、部屋の属性名を用いる場合には、実施形態6と同様に属性名に照度条件を対応付けておくことによって、動線Lmが通過する部屋ごとの照度条件を自動的に設定することができる。もちろん、動線Lmの上の各位置の照度条件をオペレータが入力することも可能である。
さらに、実施形態6において説明したように、1つの部屋内に複数の空間領域を設定している場合には、動線Lmの経路を部屋の通過順序で指定するのではなく、部屋内に設定した空間領域の通過順序で動線Lmの経路を指定することも可能である。この場合、1つの部屋内における空間領域の間で、部屋内に配置した物体を回避するように動線Lmを設定するのはもちろんのことである。物体の回避方法は、廊下を通る際の境界の回避方法と同様に、場合分けを行うとともに各場合ごとに物体を回避する経路を生成すればよい。
上述の例では、動線Lmの始点と終点とに部屋rの中心点Prcを用いる例を示したが、部屋rの四隅の位置を用いることが可能である。あるいはまた、図24に示すように、提示部12の画面に等間隔のグリッドGを形成し、グリッドGの格子点を結ぶように動線Lmを生成してもよい。この場合、動線Lmの経路となる各格子点に適宜の符合を付与して、格子点を区別するようにしてもよい。たとえば、横方向にA,B,C…の符合を付与し、縦方向に1,2,3…の符合を付与しておき、縦横の符合を合わせて、格子点の位置をC−5のように表現すればよい。また、格子点は部屋rの中心点以外にも設けられるから、動線Lmの始点や終点を部屋rの中心点以外で指定することができる。
上述の例では、線分を連結することにより動線Lmを生成しているが、動線Lmに沿った始点位置Pvの動きを滑らかにするために、線分同士を結合する節点を挟む部位を円弧で連結してもよい。つまり、2本の線分の連結部位に節点を形成せずに、2本の線分により形成される角部を所定の曲率を有するアール(円弧の一部)で連結するのである。
また、線分の角部にアールを付与する代わりに、各線分の節点を基準に用いてスプライン曲線やベジェ曲線の動線Lmを形成することも可能である。このように曲線として生成された動線Lmを適宜の距離ごとに分割すれば、曲線を直線で近似することが可能になるから、分割点を端点に持つ直線を数式で表現することにより、曲線の動線Lmを直線の集合で記述しながらも、視点位置Pvを滑らかに移動させることが可能になる。
上述したように部屋rの中に物体が存在する場合には、動線Lmの生成時に物体の境界との衝突判定を行うから、物体から所定距離を保つように迂回する動線Lmを生成することが可能になり、また物体を迂回するように動線Lmの始点や終点を設定することが可能になる。
なお、動線Lmの経路となる廊下crに複数個の交差点Pcnが存在する場合には、(1)交差点を終点とする線分が廊下の境界に交差せず、かつ、(2)当該線分と、当該線分の始点から部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)までの線分との角度が0度ではなく(つまり、両線分を始点から終点に向かうベクトルで表したときに、両ベクトルの内積が0にならず)、かつ、(3)交差点Pcnと部屋r2の出入口の中心点Pdc(2)とを結ぶ線分の長さと交差点Pcnを終点とする線分の長さとの和が最小になるという3条件が成立するときに、当該交差点Pcnを動線Lmの経路上の交差点Pcnとして選択する。条件(3)は、他の交差点Pcnを選択した場合よりも経路長が短くなるという意味であり、遠回りにならない最短経路を選択することを意味する。
本実施形態の技術を採用することにより、通過する空間領域の順序を決めるだけで動線Lmが自動的に生成されるから、動線Lmを設定して照度条件の判定を行う際に、動線Lmを生成するためのオペレータの作業量を大幅に低減することができる。他の構成および動作は上述した各実施形態と同様である。