JP5152717B2 - 構造部材およびその製造方法 - Google Patents

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本発明は、産業用あるいは家庭用の各種機器に用いられるのに適した表面構造を持つ構造部材に関し、例えば、各種機器の摺動部分に用いられる低摩擦性の構造部材に関するものである。
従来、低摩擦性および耐摩耗性を有する被膜としてダイアモンドライクカーボン多層膜の技術が知られている(以下「従来技術1」という。例えば、特許文献1参照)。このダイアモンドライクカーボン多層膜は、基体上に柔らかい膜と硬い膜を交互に積層してなるものである。
また、耐摩耗性に優れた摩擦摺動材として、第1の材料の表面にサンドブラストなどにより凹凸を設け、この凹凸部上に、第1の材料とは異なる硬度を持つ第2の材料で被膜層を形成したものが知られている(以下「従来技術2」という。例えば、特許文献2参照)。
さらに、エンジン摺動部品として、摺動面となる基材の面を、うねりとマイクロディンプル形状を持たせた基材面に形成し、この基材面の上に硬質薄膜を設けて、低摩擦で保油性がよく耐焼付き性と耐摩耗性に優れた摺動面を形成されたものが知られている(以下「従来技術3」という。例えば、特許文献3参照)。
さらにまた、裏金材上にベアリングメタルを積層したすべり軸受において、すべり軸受の軸方向両端部の厚さが中央部の厚さよりも厚くなるように曲面加工すると共に、ベアリングメタル表面に円周方向の条痕溝を多数設けたものが知られている(以下「従来技術4」という。例えば、特許文献4参照)。
特開2004−269991号公報 特開平2−170885号公報 特開2001−280494号公報 特開平5−256320号公報
従来技術1のダイアモンドライクカーボン多層膜は、優れた低摩擦性および耐摩耗性を有する被膜であるが、鋼との密着性が低いこと、広い面積の基材に容易に膜を形成することが困難であること等、実用的な面で問題がある。
また、従来技術2のものは、耐摩耗性には優れているがどちらかといえば高摩擦を目的としたものであるため低摩擦の必要とされる摺動面には適さないものである。
さらに、従来技術3のものは、低摩擦で保油性がよく耐焼付性および耐摩耗性に優れた摺動部品を得ることを目的とするものであるが、うねりをショットピーニングで、また、マイクロディンプルを微粒子ピーニングで形成する必要があること、および、均一な厚さの硬質薄膜を形成することが困難であること等の問題がある。
さらにまた、従来技術4のものは軸受全面積に渡って高い油膜圧力を保持することができるようにしたものであるが、条痕溝の凹凸が大きいと低速で直接接触が生じて流体潤滑が生成されず、また、小さすぎると条痕溝が摩耗したときに凹凸が無くなって油膜圧力を保持することができなくなるという問題がある。
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、凹凸面を有する構造部材の製造を容易にするとともにその表面が摩耗した場合でも凹凸面を維持することのできる構造部材を提供することを目的とする。
(1)上記目的を達成するため本発明の構造部材製造方法は、基材の表面にその断面形状が略三角形の溝を連続して多数個形成し、その上に材質の異なる一定厚さの膜を交互に積層して多層膜を形成することを特徴としている。
(2)また、本発明の構造部材製造方法は、上記(1)において、多層膜の表面を研磨することにより凹凸表面を形成することを特徴としている。
(3)また、本発明の構造部材製造方法は、上記(1)において、溝の形成を機械加工により行うことを特徴としている。
(4)また、本発明の構造部材製造方法は、上記(1)において、溝の形成をエッチング加工により行うことを特徴としている。
(5)また、本発明の構造部材製造方法は、上記(1)または(2)において、多層膜を真空蒸着法により形成することを特徴としている。
(6)また、本発明の構造部材は、基材の表面に形成されたその断面形状が略三角形の連続する溝の上に異種材料の膜が交互に積層された多層膜を設けてなることを特徴としている。
(7)また、本発明の構造部材は、上記(6)において、多層膜の表面を研磨することにより得られる凹凸表面を有することを特徴としている。
(8)また、本発明の構造部材は、上記(6)または(7)において、基材がシリコンまたは金属材料からなることを特徴としている。
(9)また、本発明の構造部材は、上記(6)から(8)において、多層膜が金属材料または無機材料からなることを特徴としている。
(10)また、本発明の摩擦摺動材は、上記(6)から(9)において、多層膜のうち少なくとも1つの膜が低摩擦材料からなることを特徴としている。
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)本発明の構造部材製造方法は、基材の表面にその断面形状が略三角形の溝を連続して多数個形成し、その上に材質の異なる一定厚さの膜を交互に積層して多層膜を形成するだけで、形成された構造部材の摺動部等への使用によって多層膜の表面に微細なナノパターンを包含する凹凸が自然発生的に形成される。
(2)本発明の構造部材製造方法は、上記(1)の多層膜の表面を研磨して凹凸表面を形成することにより、微細なナノパターンを包含する凹凸を広範囲にわたって容易に形成することができる。
(3)本発明の構造部材は、基材の表面に形成されたその断面形状が略三角形の連続する溝の上に異種材料の膜が交互に積層されてなる多層膜を設けておくだけで、構造部材の使用によって自然発生的に新たな凹凸が次々と形成されるので、たとえ、凹凸がナノパターン程度の小さい場合であっても長時間にわたって凹凸面を維持することができる。
(4)本発明の構造部材は、上記(3)の多層膜の表面を研磨することにより得られた凹凸表面を有することにより、表面が摩耗して表面近傍の凹凸が消滅しても、新たな凹凸が次々と形成されるので、たとえ、凹凸がナノパターン程度の小さい場合であっても長時間にわたって凹凸面を維持することができる。したがって、構造部材表面に流体潤滑剤を供給することにより良好な潤滑状態を保つことができる。
(5)また、本発明の構造部材において、多層膜の表面に微細なナノパターン程度の凹凸を形成しておけば、摺動部における相対速度が低速の場合でも、固体同士の直接接触を回避して流体潤滑を生成することができる。
(6)本発明の構造部材は、多層膜のうち少なくとも1つの膜を低摩擦材料から形成することにより、流体潤滑に加えて固体潤滑の機能を備えた摩擦摺動材を得ることができる。
以下、図面を参照して、本発明の構造部材およびその製造方法の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
図1は、本発明の構造部材の製造方法を説明する概念図である。
基材1の表面には断面形状が略三角形の溝2が連続して基材1の一端から他端に向けて多数個形成されている。
前記「基材」には、塊状部材、平板状部材、曲板状部材、円筒部材等、種々の形状の部材が含まれる。
また、前記「断面形状が略三角形の溝」とは、溝の断面形状があらまし三角形をなしているという意味であり、三角形の辺が曲線をなしているもの、および、三角形の角が丸みを帯びているものも包含する。また、「連続して」とは、複数の溝が連続的に配置されているという意味であり、隣接する溝間に多少の距離を有する場合も包含する。
基材1の材質は、鉄、シリコン等、目的に応じて選択される。
また、溝2の断面の幅および高さは特に限定されるものではないが、例えば、1〜1000μmmの範囲が望ましい。また、溝2の断面の形状も、二等辺三角形、不等辺三角形等、特に限定されるものではない。
図2は、基材1の表面に断面形状が略三角形の溝2を連続して基材1の一端から他端に向けて多数個形成した状態を示す斜視図である。
図2に示す例は、エッチング加工によりシリコンウエハ基材の111面に4゜オフセットした溝を形成したものである。100μmの間に溝2が3個連続的に形成されているのがわかる。
溝2が連続して多数個形成された基材1の表面には、図1に示すように、1層の厚さが5〜1000nm程度の2種類以上の材質からなる膜を交互に積層して多層膜3を形成する。膜の材質としては、金、白金、銀、銅、アルミ、ニッケル、鉛、鉄、シリコン、セラミックス、ダイアモンドライクカーボン等の材料から、目的に応じて選択される。
構造部材が軸受等の低摩擦摺動部材として用いられる場合は、多層膜3を構成する膜の少なくとも1つを低摩擦材料で形成するのが良い。
膜の形成は、例えば、公知のPVD(Physical Vaper Deposition)法やCVD(Chemical Vaper Deposition)法を用いて行うことができる。形成された多層膜3は、溝2の傾斜面と平行に積層された状態となる。
このように、多層膜3の形成された構造部材を軸受等の摺動部に用いると、部材同士の摺動により、硬い膜に比べて軟らかい膜がより多く除去され、自然発生的に摺動部にナノメートルからマイクロメートルスケールの凹凸の表面が得られる。
一方、多層膜3の形成された表面を公知の研磨手段を用いて、図1(b)に示すように高い部分を削りとるように平面状に研磨する。すると、多層膜3を構成する膜材料の硬さの相違によって、硬い膜に比べて軟らかい膜がより多く除去され、広い範囲に亘って、ナノメートルからマイクロメートルスケールの凹凸の表面が得られる。
図1(b)の場合、ハッチング部が硬い材料の膜で、白抜き部が軟らかい材料の膜を示している。
図3は、研磨後の凹凸表面を示すレーザー顕微鏡による3次元像であり、幅数ミクロン、深さ100nm程度の周期的な溝が形成されているのがわかる。
図4は、基材1の表面に断面形状が略三角形の溝2を連続して多数個形成するための例を示したものである。
本例は、形削り盤による加工法であり、加工は1本のバイトを一定間隔で送りながら表面を削ることによって行っている。バイトの刃の形状を変えることによって、溝の傾斜面の角度を制御できる。
図4に示す溝2は基材1の一方向に形成されたものであるが、形削り盤を該溝2と直交する方向にも移動させて、溝2をクロス状に形成しても良い。
なお、形削り盤の代わりに、旋盤または円筒研削盤を用いれば、円筒の内外面にも容易に溝を形成できる。
図5は、基材1の表面に断面形状が略三角形の溝2を連続して多数個形成するための他の例を示したものである。
本例は、エッチング加工の例であり、シリコンウェーハの穏やかな傾斜面を得るためにオフセット基材を用いた例である。
シリコンウェーハでは、特定のエッチング液に対して111面エッチングレートが極端に小さい。この性質を利用して、フォトグラフィーで、まずエッチング液を通さない膜のパターンを表面に形成し、その後エッチング液を入れると111面が現れる。111面が基材表面に対して元々4度傾いているため、形成される斜面の角度も4度になる。
図6は、基材1の表面に断面形状が略三角形の溝2を連続して多数個形成するためのエッチング加工の他の例を示したものである。
本例では、シリコンウェーハの100面に対してエッチングを行い、55度傾いた傾斜面を得るものである。
作製方法は以下の通りである。
(1)シリコン表面に約1000℃の高温で熱酸化膜形成する。
(2)酸化膜を付けたシリコン表面にスピンコータでレジストを塗布する。
(3)レジストを熱処理する。
(4)フォトマスクのパターンを紫外線でレジストに焼き付ける。
(5)レジストを現像してフォトマスクと同じパターンをレジストに形成する。
(6)フッ酸で酸化膜を除去する。レジストの取れた部分の酸化膜が溶ける(中段の図)。
(7)TMAHでエッチングする。
(8)残った酸化膜をフッ酸で除去する。
上記のように基材の表面にその断面形状が略三角形の溝を連続して多数個形成し、その上に材質の異なる一定厚さの膜を交互に積層して多層膜を形成し、多層膜の表面を研磨することにより凹凸表面を形成することにより、微細なナノパターンを含む凹凸を広範囲にわたって容易に製造することができる。
そして、このようにして得られた本発明の構造部材は、表面が摩耗して表面近傍の凹凸が消滅しても、部材同士の摺動により新たな凹凸が次々と形成されるので、たとえ、凹凸がナノパターン程度の小さい場合であっても長時間にわたって凹凸面を維持することができる。したがって、構造部材表面に流体潤滑剤を供給することにより良好な潤滑状態を保つことができる。
また、本発明の構造部材において、微細なナノパターン程度の凹凸を形成しておけば、摺動部における相対速度が低速の場合でも、固体同士の直接接触を回避して流体潤滑を生成することができる。
また、多層膜のうち少なくとも1つを低摩擦材料から形成することにより、流体潤滑に加えて固体潤滑の機能を備えた摩擦摺動材を得ることができる。
図7は、表面にレコードのような規則的な溝(ピッチ0.1〜1.0mm、深さ1〜10μm)をもった公知のマイクロナノグルーブベアリング(例えば、従来技術4参照。)に本発明を適用した場合の例を説明したものである。
図の(a)は、マイクロナノグルーブベアリングの溝に多層膜を形成した状態を示したものであり、また、図の(b)は摩耗した状態を示したものである。この例においては、多層膜の形成後の研磨工程を省略し、初期摩耗によってナノパターンが形成されている。
元の山の高さが1〜10μmなので、さらに1〜2μm程度摩耗しても確実にナノパターンが維持される。
本発明の実施の形態に係る構造部材の製造方法を説明する概念図である。 本発明の実施の形態に係る基材の表面に断面形状が略三角形の溝を連続して基材1の一端から他端に向けて多数個形成した状態を示す斜視図である。 本発明の実施の形態に係る研磨後の凹凸表面を示すレーザー顕微鏡による3次元像である。 本発明の実施の形態に係る基材の表面に断面形状が略三角形の溝を連続して多数個形成するための形削り盤による加工の例を示したものである。 本発明の実施の形態に係る基材の表面に断面形状が略三角形の溝を連続して多数個形成するためのエッチング加工の例を示したものである。 本発明の実施の形態に係る基材の表面に断面形状が略三角形の溝を連続して多数個形成するためのエッチング加工の他の例を示したものである。 公知のマイクロナノグルーブベアリングに本発明を適用した場合の例を説明したものである。
符号の説明
1 基材
2 溝
3 多層膜

Claims (5)

  1. 基材の表面にその断面形状が略三角形の溝を連続して多数個形成し、その上に金、白金、銀、銅、アルミ、ニッケル、鉛、鉄、セラミックス、ダイアモンドライクカーボンの中から2以上の材質の異なる一定厚さの膜を交互に積層して多層膜を形成し、前記多層膜の初期摩耗により多層膜の摩耗面に流体潤滑のための凹凸表面を形成することを特徴とする摩擦摺動用構造部材製造方法。
  2. 基材の表面にその断面形状が略三角形の溝を連続して多数個形成し、その上に金、白金、銀、銅、アルミ、ニッケル、鉛、鉄、セラミックス、ダイアモンドライクカーボンの中から2以上の材質の異なる一定厚さの膜を交互に積層して多層膜を形成し、前記多層膜の表面を研磨することにより多層膜の研磨面に流体潤滑のための凹凸表面を形成することを特徴とする摩擦摺動用構造部材製造方法。
  3. 基材の表面に形成されたその断面形状が略三角形の連続する溝の上に金、白金、銀、銅、アルミ、ニッケル、鉛、鉄、セラミックス、ダイアモンドライクカーボンの中から2以上の異種材料の膜が交互に積層された多層膜を設けてなる摩擦摺動用構造部材であって、前記多層膜の初期摩耗により多層膜の摩耗面に得られる流体潤滑のための凹凸表面を有することを特徴とする摩擦摺動用構造部材。
  4. 基材の表面に形成されたその断面形状が略三角形の連続する溝の上に金、白金、銀、銅、アルミ、ニッケル、鉛、鉄、ラミックス、ダイアモンドライクカーボンの中から2以上の異種材料の膜が交互に積層された多層膜の表面を研磨することにより多層膜の研磨面に得られる流体潤滑のための凹凸表面を有することを特徴とする摩擦摺動用構造部材。
  5. 前記基材がシリコンまたは金属材料からなることを特徴とする請求項3または請求項4記載の摩擦摺動用構造部材。
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