ところで、前記のようにアンダーカット部とコア型との干渉を回避するために、変位工程でアンダーカット部をコア型の外へ変位させる場合は、その変位に起因して射出成形品に発生する応力により該射出成形品が塑性変形することを回避しなければならない。
さらに、射出成形品の塑性変形が回避されたとしても、射出成形品を最終的に型から取り出す場合には、成形品本体をコア型から離型させると共にアンダーカット部を外捲りコアから離型させることとなり(離型工程)、その離型に起因してアンダーカット部に作用する弾性復元力により、外捲りコアから離型されたアンダーカット部がコア型と衝突することとなる。したがって、そのようなコア型との衝突によってアンダーカット部が傷つくこともまた回避しなければならない。
本発明は、表面側に突出して湾曲する形状の本体と、この本体の縁部で本体の裏面側に曲折するアンダーカット部とを有する射出成形品を成形して型から取り出す場合における前記のような問題に対処するもので、前記射出成形品の塑性変形が未然に回避されるように、さらにはアンダーカット部の傷つきが未然に回避されるように、該射出成形品の設計を支援する方法及び装置を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明では次のような手段を用いる。
まず、本願の請求項1に記載の発明は、表面側に突出して湾曲する形状の本体と、この本体の縁部で本体の裏面側に曲折するアンダーカット部とを有する射出成形品であって、前記本体の表面を成形する第1の型と、前記本体の裏面及びこの裏面と連続する前記アンダーカット部の内面を成形する第2の型と、前記本体の表面と連続する前記アンダーカット部の外面及び端面を成形する第3の型とを集合させて形成されるキャビティに溶融状態の樹脂を射出する射出工程、前記第1の型を第2の型及び第3の型から離反させる型開き工程、前記第3の型を第2の型の外方へ移動させることにより前記アンダーカット部を前記端面を介して第2の型の外へ変位させる変位工程、及び、前記本体を第2の型から離型させると共に前記アンダーカット部を第3の型から離型させる離型工程により、成形され、型から取り出される射出成形品の設計を支援する方法であって、前記変位工程で前記射出成形品に発生する応力を該射出成形品の部位毎に算出する応力算出ステップ、前記応力算出ステップで算出した応力が前記射出成形品の塑性変形を判定するための基準値より大きい部位が存在するか否かを判定する判定ステップ、及び、前記判定ステップで前記応力が前記基準値より大きい部位が存在すると判定したときは、前記射出成形品の形状を変更する変更ステップを有することを特徴とする。
また、本願の請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の射出成形品の設計支援方法において、前記基準値は、前記射出成形品の樹脂材料の降伏値であることを特徴とする。
また、本願の請求項3に記載の発明は、前記請求項1に記載の射出成形品の設計支援方法において、前記判定ステップで前記応力が前記基準値より大きい部位が存在しないと判定したときは、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部に作用する弾性復元力を算出する弾性復元力算出ステップ、前記弾性復元力算出ステップで算出した弾性復元力が、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部が第2の型と衝突して傷つくか否かを判定するための第2の基準値より大きいか否かを判定する第2の判定ステップ、及び、前記第2の判定ステップで前記弾性復元力が前記第2の基準値より大きいと判定したときは、前記射出成形品の形状を変更する第2の変更ステップをさらに有することを特徴とする。
また、本願の請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の射出成形品の設計支援方法において、前記第2の基準値は、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部が第2の型と衝突して実際に傷ついたときの弾性復元力の過去の実績値のうちの最小値であることを特徴とする。
また、本願の請求項5に記載の発明は、前記請求項3に記載の射出成形品の設計支援方法において、前記射出成形品は車両のバンパーであり、前記第2の変更ステップでは、前記変位工程で第2の型の外へ変位されるアンダーカット部と本体の角部を挟んで隣接するアンダーカット部にスリットを形成することを特徴とする。
一方、本願の請求項6に記載の発明は、表面側に突出して湾曲する形状の本体と、この本体の縁部で本体の裏面側に曲折するアンダーカット部とを有する射出成形品であって、前記本体の表面を成形する第1の型と、前記本体の裏面及びこの裏面と連続する前記アンダーカット部の内面を成形する第2の型と、前記本体の表面と連続する前記アンダーカット部の外面及び端面を成形する第3の型とを集合させて形成されるキャビティに溶融状態の樹脂を射出する射出工程、前記第1の型を第2の型及び第3の型から離反させる型開き工程、前記第3の型を第2の型の外方へ移動させることにより前記アンダーカット部を前記端面を介して第2の型の外へ変位させる変位工程、及び、前記本体を第2の型から離型させると共に前記アンダーカット部を第3の型から離型させる離型工程により、成形され、型から取り出される射出成形品の設計を支援する装置であって、前記射出成形品の塑性変形を判定するための基準値を予め記録しておく基準値記録手段、前記変位工程で前記射出成形品に発生する応力を該射出成形品の部位毎に算出する応力算出手段、前記応力算出手段で算出された応力が前記基準値記録手段に記録された基準値より大きい部位が存在するか否かを判定する判定手段、及び、前記判定手段で前記応力が前記基準値より大きい部位が存在すると判定されたときは、該部位を提示する提示手段を有することを特徴とする。
ここで、提示手段が行う「提示」とは、例えば画面への表示や紙への印刷等、当該設計支援装置外部への出力をいう。
また、本願の請求項7に記載の発明は、前記請求項6に記載の射出成形品の設計支援装置において、前記基準値は、前記射出成形品の樹脂材料の降伏値であることを特徴とする。
また、本願の請求項8に記載の発明は、前記請求項6に記載の射出成形品の設計支援装置において、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部が第2の型と衝突して傷つくか否かを判定するための第2の基準値を予め記録しておく第2の基準値記録手段、前記判定手段で前記応力が前記基準値より大きい部位が存在しないと判定されたときは、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部に作用する弾性復元力を算出する弾性復元力算出手段、前記弾性復元力算出手段で算出された弾性復元力が前記第2の基準値記録手段に記録された第2の基準値より大きいか否かを判定する第2の判定手段、及び、前記第2の判定手段で前記弾性復元力が前記第2の基準値より大きいと判定されたときは、該判定結果を提示する第2の提示手段をさらに有することを特徴とする。
ここで、第2の提示手段が行う「提示」とは、例えば画面への表示や紙への印刷等、当該設計支援装置外部への出力をいう。
また、本願の請求項9に記載の発明は、前記請求項8に記載の射出成形品の設計支援装置において、前記第2の基準値は、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部が第2の型と衝突して実際に傷ついたときの弾性復元力の過去の実績値のうちの最小値であることを特徴とする。
まず、請求項1に記載の発明によれば、表面側に突出して湾曲する形状の本体と、この本体の縁部で本体の裏面側に曲折するアンダーカット部とを有する射出成形品の設計支援方法が提供される。
特に、前記射出成形品が、成形品本体表面を成形する第1の型と、成形品本体裏面及びこの裏面と連続するアンダーカット部内面を成形する第2の型と、成形品本体表面と連続するアンダーカット部外面及び端面を成形する第3の型とを集合させて形成されるキャビティに溶融状態の樹脂を射出する射出工程、前記第1の型を第2の型及び第3の型から離反させる型開き工程、前記第3の型を第2の型の外方へ移動させることによりアンダーカット部を第2の型の外へ変位させる変位工程、及び、成形品本体を第2の型から離型させると共にアンダーカット部を第3の型から離型させる離型工程により、成形され、型から取り出されるものである場合における、前記射出成形品の設計支援方法が提供される。
そして、この請求項1に係る設計支援方法によれば、前記変位工程で前記射出成形品に発生する応力を該射出成形品の部位毎に算出し、算出した応力が前記射出成形品の塑性変形を判定するための基準値より大きい部位が存在するか否かを判定し、そして、前記応力が前記基準値より大きい部位が存在すると判定したときは、前記射出成形品の形状を変更することとなる。したがって、このような評価のもとで設計された射出成形品は、成形され、型から取り出される場合に、特に変位工程でアンダーカット部が第2の型の外へ変位されるときに、塑性変形することが確実に未然に回避されることとなる。
なお、この場合の射出成形品の形状変更は、算出した応力が前記基準値より小さくなることを目的に行い、例えば、射出成形品の肉厚の増大、変位させるアンダーカット部の短縮化(変位量の減少化)、成形品本体とアンダーカット部との連結部の湾曲化(成形品の鋭角部分の廃止)等が挙げられる。また、このような射出成形品の形状変更に伴い、第1〜第3の型の構造変更が必要に応じて適宜行われる場合があることはいうまでもない。
次に、請求項2に記載の発明によれば、前記射出成形品の塑性変形を判定するための基準値として、該射出成形品の樹脂材料の降伏値を用いるようにしたから、前記変位工程における射出成形品の塑性変形が理論的により確実に未然に回避されることとなる。
次に、請求項3に記載の発明によれば、前記応力が前記基準値より大きい部位が存在しないと判定したときは、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部に作用する弾性復元力を算出し、算出した弾性復元力が、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部が第2の型と衝突して傷つくか否かを判定するための第2の基準値より大きいか否かを判定し、そして、前記弾性復元力が前記第2の基準値より大きいと判定したときは、前記射出成形品の形状を変更することとなる。したがって、このような評価のもとで設計された射出成形品は、成形され、型から取り出される場合に、特に離型工程でアンダーカット部が第3の型から離型されたときに、該アンダーカット部に作用する弾性復元力によって該アンダーカット部が第2の型と衝突して傷つくことが確実に未然に回避されることとなる。
つまり、変位工程で射出成形品の塑性変形が回避されたときは、次の離型工程でアンダーカット部に作用する弾性復元力による該アンダーカット部の傷つきが懸念されることとなるが、この請求項3に係る設計支援方法によれば、その両方の問題が共に確実に未然に回避されることとなる。
なお、アンダーカット部に作用する弾性復元力は、変位工程で射出成形品に発生した応力や、該射出成形品の樹脂材料の種々の物性等に基き算出される。
また、この場合の射出成形品の形状変更は、算出した弾性復元力が前記第2の基準値より小さくなることを目的に行い、例えば、変位させるアンダーカット部の短縮化(応力の低減化)、成形品本体裏面とアンダーカット部内面との連結部の曲面化(第2の型の鋭角部分の廃止)等が挙げられる。また、このような射出成形品の形状変更に伴い、第1〜第3の型の構造変更が必要に応じて適宜行われる場合があることはいうまでもない。
次に、請求項4に記載の発明によれば、前記アンダーカット部が第2の型と衝突して傷つくか否かを判定するための第2の基準値として、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部が第2の型と衝突して実際に傷ついたときの弾性復元力の過去の実績値のうちの最小値を用いるようにしたから、前記離型工程におけるアンダーカット部の傷つきが過去の経験からより確実に未然に回避されることとなる。
そして、請求項5に記載の発明によれば、車両のバンパーを射出成形で生産する場合に、算出した弾性復元力が前記第2の基準値より小さくなることを目的に行うバンパーの形状変更として、変位工程で第2の型の外へ変位されるアンダーカット部と本体の角部を挟んで隣接するアンダーカット部にスリットを形成するようにしたから、その隣接するアンダーカット部の剛性が低減することとなり、離型工程でアンダーカット部に作用する弾性復元力が減少し、該アンダーカット部の傷つきが確実に未然に回避されることとなる。
しかも、バンパーの形状を変更するといっても、変位させるアンダーカット部と隣接するアンダーカット部にスリットを形成するだけなので、例えば変位させるアンダーカット部を短縮化して、変位工程におけるアンダーカット部の変位量を減少化し、応力の低減化を図るというような変更をせずに済み、例えばこのバンパーと他の車体構成部材とを、変位させるアンダーカット部で合わせるようになっている場合に、他の車体構成部材の設計変更を招くようなことがない。さらに、アンダーカット部にスリットを形成するだけなので、本体の形状に影響がなく、バンパーの外観が損なわれることも回避される。
一方、請求項6に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様、表面側に突出して湾曲する形状の本体と、この本体の縁部で本体の裏面側に曲折するアンダーカット部とを有する射出成形品の設計支援装置が提供される。
そして、この請求項6に係る設計支援装置によれば、前記射出成形品の塑性変形を判定するための基準値を予め記録しておく基準値記録手段と、前記変位工程で前記射出成形品に発生する応力を該射出成形品の部位毎に算出する応力算出手段と、算出された応力が前記基準値記録手段に記録された基準値より大きい部位が存在するか否かを判定する判定手段と、前記応力が前記基準値より大きい部位が存在すると判定されたときは該部位を提示する提示手段とが備えられているので、設計担当者は、前記提示手段で提示された部位を見て、射出成形品の形状を変更することとなる。したがって、請求項1に記載の発明と同様、このような評価のもとで設計された射出成形品は、成形され、型から取り出される場合に、特に変位工程でアンダーカット部が第2の型の外へ変位されるときに、塑性変形することが確実に未然に回避されることとなる。
次に、請求項7に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明と同様の効果が得られる。
次に、請求項8に記載の発明によれば、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部が第2の型と衝突して傷つくか否かを判定するための第2の基準値を予め記録しておく第2の基準値記録手段と、前記判定手段で前記応力が前記基準値より大きい部位が存在しないと判定されたときは、前記離型工程で第3の型から離型されたアンダーカット部に作用する弾性復元力を算出する弾性復元力算出手段と、算出された弾性復元力が前記第2の基準値記録手段に記録された第2の基準値より大きいか否かを判定する第2の判定手段と、前記弾性復元力が前記第2の基準値より大きいと判定されたときは該判定結果を提示する第2の提示手段とが備えられているので、設計担当者は、前記第2の提示手段で算出された弾性復元力が第2の基準値より大きいと提示されたことを見て、射出成形品の形状を変更することとなる。したがって、請求項3に記載の発明と同様、このような評価のもとで設計された射出成形品は、成形され、型から取り出される場合に、特に離型工程でアンダーカット部が第3の型から離型されたときに、該アンダーカット部に作用する弾性復元力によって該アンダーカット部が第2の型と衝突して傷つくことが確実に未然に回避されることとなる。
次に、請求項9に記載の発明によれば、請求項4に記載の発明と同様の効果が得られる。
以下、発明の最良の実施の形態を通して本発明をさらに詳しく説述する。
図1は、本実施形態に係る射出成形品1の側面図、図2は、図1のII−II線による部分断面図である。
本実施形態において、射出成形品1は、車両のバンパー、特にフロントバンパーである。
図2に拡大図示したように、射出成形品1は、表面1a側に突出して湾曲する形状の本体1Aと、この本体1Aの縁部で本体1Aの裏面1b側に曲折する例えば取付フランジ等のアンダーカット部1Bとを有し、アンダーカット部1Bの端面1eが成形品1の内方を指向している。
成形品本体1Aの表面1aは、アンダーカット部1Bの外面1cに連続し、さらにアンダーカット部1Bの端面1eに連続している。一方、成形品本体1Aの裏面1bは、アンダーカット部1Bの内面1dに連続し、さらにアンダーカット部1Bの端面1eに連続している。
図3は、本実施形態において、このような構造の成形品1を射出成形するための装置10の部分断面図である。
この成形装置10は、成形型として、成形品本体1Aの表面1aを成形するキャビティ型11と、成形品本体1Aの裏面1b及びこの裏面1bと連続するアンダーカット部1Bの内面1dを成形するコア型12と、成形品本体1Aの表面1aと連続するアンダーカット部1Bの外面1c及びアンダーカット部1Bの端面1eを成形する外捲りコア13とを備えている。
外捲りコア13は、コア型12の下部で、コア型12の内方(図3において右方)と外方(同、左方)とに水平に移動自在に設けられている。そして、外捲りコア13をロッド15aを介してそのように移動させるための外捲りコア駆動シリンダ15がコア型12の外部に備えられている。これにより、コア型12の型剛性低下ないしバリ発生の不具合が回避される。
ここで、図3は、外捲りコア13がコア型12の最も内方に移動した状態を示している。型締め時には、外捲りコア13は、このように最も内方に移動し、その窪んだキャビティ形成面13a(図6参照)は、相互に集合したキャビティ型11のキャビティ形成面11a(図4参照)及びコア型12のキャビティ形成面12a(図6参照)とでキャビティ14を画成する。
この成形装置10は、前記成形型11〜13及び外捲りコア駆動シリンダ15の他、図示しないが、射出機、キャビティ型駆動装置、成形品離型装置、及び、これらの機器に制御信号を出力して、当該成形装置10の全体の動作を統括管理する制御ユニットを備えている。
射出機は、成形型11〜13が集合して形成されるキャビティ14(図3参照)に溶融状態の樹脂R(図3参照)を射出するためのものである。
キャビティ型駆動装置は、例えば油圧装置等で構成され、キャビティ14に射出された樹脂Rがある程度冷却固化した段階でキャビティ型11をコア型12及び外捲りコア13から離反させて型開きするためのものである。
外捲りコア駆動シリンダ15は、型開き後に、外捲りコア13をコア型12の外方へ移動させることにより、成形品1のアンダーカット部1Bをアンダーカット部1Bの端面1e及び外捲りコア13のキャビティ形成面13aの窪みを介してコア型12の外へ変位させるためのものである。
成形品離型装置は、例えば加圧エア供給装置やエジェクト装置等で構成され、コア型12に残った成形品1の裏面1b側にコア型12のキャビティ形成面12aから加圧エアを噴出させ又はピンを突出させて成形品1をコア型12及び外捲りコア13から離型させるためのものである。
次に、この成形装置10による成形品1の成形動作及び取出し動作を説明する。
まず、最初、成形型11〜13は型締めされている。つまり、図3に示したように、キャビティ型11は下降してコア型12に近接し、外捲りコア13はコア型12の最も内方に移動して、これらの集合した成形型11〜13でキャビティ14が形成されている。
この状態で、射出機が溶融状態の樹脂Rをキャビティ14に射出し充填する(射出工程)。
次いで、図4に示したように、キャビティ型駆動装置がキャビティ型11を矢印(i)のように上昇させることにより、キャビティ型11をコア型12及び外捲りコア13から離反させ、型開きする(型開き工程)。
次いで、図5に示したように、外捲りコア駆動シリンダ15が外捲りコア13を矢印(ii)のようにコア型12の外方へ移動させることにより、成形品1のアンダーカット部1Bをコア型12の外へ変位(外捲り)させる(変位工程)。これにより、コア型12とアンダーカット部1Bとの干渉が回避される。
このとき、外捲りコア13の窪んだキャビティ形成面13aが、成形品1の内方を指向しているアンダーカット部1Bの端面1eに引っ掛かって当接しているから、外捲りコア13がコア型12の外方へ移動することに伴い、成形品1のアンダーカット部1Bがコア型12の外へ確実に引き摺り出されて変位することとなる。
次いで、成形品離型装置(前述したように加圧エア供給装置やエジェクト装置等で構成される)が作動して、成形品本体1Aをコア型12から離型させると共にアンダーカット部1Bを外捲りコア13から離型させる(離型工程)。
次いで、図6に示したように、ロボットアーム16が下降して、吸着盤16a…16aにより、離型した成形品1を保持した後、矢印(iii)のように上昇して、保持した成形品1をコア型12及び外捲りコア13から引き離して、当該成形装置10外へ取り出すこととなる(取出し工程)。
以上において、図5に示したように、アンダーカット部1Bとコア型12との干渉を回避するために、変位工程でアンダーカット部1Bをコア型12の外へ変位させるときは、その変位に起因して射出成形品1に発生する応力により該射出成形品1が塑性変形することを回避しなければならない。
また、たとえ射出成形品1の塑性変形が回避されたとしても、その次の離型工程で成形品本体1Aをコア型12から離型させると共にアンダーカット部1Bを外捲りコア13から離型させるときは、その離型に起因してアンダーカット部1Bに作用する弾性復元力により、外捲りコア13から離型されたアンダーカット部1Bがコア型12と衝突することとなるので、そのようなコア型12との衝突によってアンダーカット部1Bが傷つくこともまた回避しなければならない。
そこで、次に、このような射出成形品1の塑性変形及びアンダーカット部1Bの傷つきが未然に回避されるように、該射出成形品1の設計を支援する装置2及び該設計支援装置2の動作について説明する。この設計支援装置2が行う動作は、本発明の射出成形品1の設計支援方法を構成する。
図7(a)に示すように、本実施形態に係る射出成形品1の設計支援装置2はコンピュータで構成され、CPU等の制御部21と、メモリ等の記録部22と、キーボードやマウス等の入力部23と、ディスプレイやプリンタ等の出力部24とが相互にバスで接続されている。
図7(b)に示すように、前記記録部22には、解析対象物のCADデータを予め記録しておくためのCADデータ記録テーブル22aと、解析対象物について応力解析を行うために必要な荷重条件や材料特性(樹脂材料の種々の物性を含む)等の種々の境界条件を予め記録しておくための境界条件記録テーブル22bと、前記変位工程で射出成形品1が塑性変形するか否かを判定するための応力の基準値を予め記録しておくための塑性変形判定基準値記録テーブル22cと、前記離型工程で外捲りコア13から離型されたアンダーカット部1Bがコア型12と衝突して傷つくか否かを判定するための弾性復元力の基準値を予め記録しておくための傷つき判定基準値記録テーブル22dとが格納されている。また、図示しないが、有限要素法を用いる応力解析を実行するための応力解析プログラムや、応力解析の結果を表す画像を作成するための描画プログラム等も格納されている。
次に、図8に示すフローチャートを参照して、図7(a)に示した射出成形品1の設計支援装置2(特にその制御部21)が行う設計支援の具体的動作の1例を説明する。
まず、ステップS1では、解析対象物であるバンパー1の3次元CADデータをCADデータ記録テーブル22aに記録する。
次いで、ステップS2では、荷重条件や材料特性(樹脂材料の種々の物性を含む)等の種々の境界条件を境界条件記録テーブル22bに記録する。
ここで、境界条件としては、変位工程においてバンパー1のアンダーカット部1Bがコア型12の外へ強制的に変位されるときの変位量等のほか、次に説明するようなバンパー1とコア型12との接触状態等が含まれる。
すなわち、図9に符号アで示すように、変位工程において外捲りコア13が矢印のように移動してアンダーカット部1Bがコア型12の外へ変位されるとき、アンダーカット部1Bの内面1dがコア型12を摺動することとなるが、その摺動の際に摩擦抵抗が発生することがある。また、バンパー1の本体1Aにフォグランプ取付孔1Fが形成されている場合(図1参照)、図9に符号イで示すように、アンダーカット部1Bの前記変位に連動して前記取付孔1Fの周縁部が矢印のようにコア型12に食い込んで強干渉することがある。
そこで、これらの現象を解析上考慮するために、バンパー本体1Aの裏面1b及びアンダーカット部1Bの内面1dにおける要素(有限要素法で解析対象物を有限個の要素に分割する該要素のこと)の集合と、コア型12のキャビティ形成面12aにおける要素(バンパー1に準じてコア型12を有限個の要素に分割した場合における該要素のこと)の集合とを接触対として設定し、この接触対に対してバンパー1とコア型12との間の摩擦係数を設定して、これらを境界条件記録テーブル22bに記録する境界条件に加えるのである。
図8に戻り、次いで、ステップS3では、有限要素法を用い、ステップS1でCADデータ記録テーブル22aに記録したバンパー1のCADデータと、ステップS2で境界条件記録テーブル22bに記録した境界条件とに基いて、解析対象物であるバンパー1を有限個の要素に分割した該要素(部位)毎に、変位工程でバンパー1に発生する応力を算出する。
次いで、ステップS4では、算出した応力が、塑性変形判定基準値記録テーブル22cに記録されている塑性変形判定基準値(前述したように、変位工程でバンパー1が塑性変形するか否かを判定するための応力の基準値)より大きい要素(部位)が存在するか否かを判定する。
その結果、存在しないと判定されたときは、次いで、ステップS5では、ステップS3で算出した応力や、ステップS2で境界条件記録テーブル22bに記録した境界条件(特に樹脂材料の種々の物性)等に基いて、離型工程で外捲りコア13から離型されたアンダーカット部1Bに作用する弾性復元力を算出する。
次いで、ステップS6では、算出した弾性復元力が、傷つき判定基準値記録テーブル22dに記録されている傷つき判定基準値(前述したように、離型工程で外捲りコア13から離型されたアンダーカット部1Bがコア型12と衝突して傷つくか否かを判定するための弾性復元力の基準値)より大きいか否かを判定する。
その結果、大きくないと判定されたときは、次いで、ステップS7では、変位工程でステップS4で判定するような高い応力の発生部位(要素)が存在しないこと、及び離型工程でステップS6で判定するような高い弾性復元力が作用しないことを出力部24のディスプレイにおいて画面に表示する。
図10にこのステップS7で表示される画面W1の1例を示す(画面W1内の符号は表示されるものではない)。この画面W1で「最初の画面へ戻る」ボタン24aを押すと、例えば別の解析対象物についての設計支援動作に移行する。
図8に戻り、次いで、ステップS8では、前記ステップS7の画面表示のバックグラウンドで、現時点でCADデータ記録テーブル22aに記録されているバンパー1のCADデータ、及び現時点で境界条件記録テーブル22bに記録されている境界条件を、バンパー1の製品図及びキャビティ型11やコア型12あるいは外捲りコア13の金型構造に反映させる。つまり、現時点までにバンパー1のCADデータに加えられた変更のうちの最新のもの及び現時点までに境界条件に加えられた変更のうちの最新のものをバンパー1の製品図及び金型構造に織り込むのである。そして、この制御動作が終了となる。
一方、前記ステップS4で、算出した応力が、塑性変形判定基準値記録テーブル22cに記録されている塑性変形判定基準値(前述したように、変位工程でバンパー1が塑性変形するか否かを判定するための応力の基準値)より大きい要素(部位)が存在すると判定されたときは、次いで、ステップS9では、変位工程でステップS4で判定するような高い応力の発生部位(要素)が存在することを出力部24のディスプレイにおいて画面に表示する。該部位(要素)を出力部24のディスプレイにおいて画面に表示する
図11にこのステップS9で表示される画面(応力判定結果画面)W2の1例を示す(画面W2内の符号は表示されるものではない)。この画面W2では、算出した応力が塑性変形判定基準値より大きい要素、すなわち高応力発生部位が応力分布図中で強調されて表示されている。この画面W2で「CADデータ・境界条件変更画面へ」ボタン24bを押すと、CADデータ及び境界条件の変更を入力可能な画面に移行される。設計担当者は、その画面上で入力部23を操作して、この応力判定結果画面W2上で高応力発生部位を見た結果から、そのような高応力発生部位が解消されるように、CADデータ記録テーブル22aに記録されているバンパー1のCADデータの変更及び境界条件記録テーブル22bに記録されている境界条件の変更を入力することとなる。
この場合の変更としては、例えば、バンパー1の肉厚の増大、変位させるアンダーカット部1Bの短縮化(変位量の減少化)、バンパー本体1Aとアンダーカット部1Bとの連結部の湾曲化(バンパー1の鋭角部分の廃止)等が挙げられる。また、このようなバンパー1の形状変更に伴い、キャビティ型11やコア型12あるいは外捲りコア13の構造変更も必要に応じて適宜行われる。
図8に戻り、次いで、ステップS10では、前記のようなバンパー1のCADデータの変更及び境界条件の変更が入力されたか否かを判定する。
その結果、入力されたと判定されたときは、次いで、ステップS11では、その入力された変更を加えたバンパー1のCADデータ及び境界条件をそれぞれ記録テーブル22a,22bに記録する。そして、再びステップS3に戻り、ステップS8からこの制御動作を終了するまで、以上の動作を繰り返す。
また、一方、前記ステップS6で、算出した弾性復元力が、傷つき判定基準値記録テーブル22dに記録されている傷つき判定基準値(前述したように、離型工程で外捲りコア13から離型されたアンダーカット部1Bがコア型12と衝突して傷つくか否かを判定するための弾性復元力の基準値)より大きいと判定されたときは、次いで、ステップS12では、離型工程でステップS6で判定するような高い弾性復元力がアンダーカット部1Bに作用することを出力部24のディスプレイにおいて画面に表示する。
図12にこのステップS12で表示される画面(弾性復元力判定結果画面)W3の1例を示す(画面W3内の符号は表示されるものではない)。この画面W3では、傷つき判定基準値より大きい弾性復元力が作用する部位が高弾性復元力作用部位として強調表示されている。この画面W3で「CADデータ・境界条件変更画面へ」ボタン24cを押すと、CADデータ及び境界条件の変更を入力可能な画面に移行される。設計担当者は、その画面上で入力部23を操作して、この弾性復元力判定結果画面W3上で高弾性復元力作用部位を見た結果から、そのような高弾性復元力作用部位が解消されるように、CADデータ記録テーブル22aに記録されているバンパー1のCADデータの変更及び境界条件記録テーブル22bに記録されている境界条件の変更を入力することとなる。
この場合の変更としては、例えば、変位させるアンダーカット部1Bの短縮化(応力の低減化)、バンパー本体1Aの裏面1bとアンダーカット部1Bの内面1dとの連結部の曲面化(コア型12の鋭角部分の廃止)等が挙げられる。また、このようなバンパー1の形状変更に伴い、キャビティ型11やコア型12あるいは外捲りコア13の構造変更も必要に応じて適宜行われる。
図8に戻り、次いで、ステップS10では、前記のようなバンパー1のCADデータの変更及び境界条件の変更が入力されたか否かを判定する。
その結果、入力されたと判定されたときは、次いで、ステップS11では、その入力された変更を加えたバンパー1のCADデータ及び境界条件をそれぞれ記録テーブル22a,22bに記録する。そして、再びステップS3に戻り、ステップS8からこの制御動作を終了するまで、以上の動作を繰り返す。
ここで、図13を参照して、前記ステップS10で入力される変更の1例、特に高弾性復元力作用部位が解消されるように(算出した弾性復元力が傷つき判定基準値より小さくなることを目的に)行う変更の1例を説明する。図13は、図1、図11、図12の矢印XIIIから見たバンパー1の本体1Aの角部周辺の拡大斜視図であって、(a)は変更前を示し、(b)は変更後を示している。
図中、符号1Bは、変位工程で矢印(ii)のようにコア型12の外へ強制変位されるアンダーカット部である。このアンダーカット部1Bに隣接して、バンパー1の本体1Aの角部を間に挟んで、別のアンダーカット部1Cが設けられている(図2参照)。
そして、この隣接するアンダーカット部1Cに(特に図例ではアンダーカット部1Bに比較的近接している部位で)スリット1Sを形成するのである。これにより、この隣接するアンダーカット部1Cの剛性が低減し、その結果、離型工程でアンダーカット部1Bを外捲りコア13から離型させたときに該アンダーカット部1Bに作用する弾性復元力が減少し、該アンダーカット部1Bの傷つきが確実に未然に回避されることとなる。
以上のように、本実施形態においては、表面1a側に突出して湾曲する形状の本体1Aと、この本体1Aの縁部で本体1Aの裏面1b側に曲折するアンダーカット部1Bとを有する射出成形品1(図2参照)の設計支援方法(図8参照)が提供される。
また、本実施形態においては、表面1a側に突出して湾曲する形状の本体1Aと、この本体1Aの縁部で本体1Aの裏面1b側に曲折するアンダーカット部1Bとを有する射出成形品1(図2参照)の設計支援装置2(図7参照)も提供される。
特に、射出成形品1が、成形品本体表面1aを成形する第1の型11と、成形品本体裏面1b及びこの裏面1bと連続するアンダーカット部内面1dを成形する第2の型12と、成形品本体表面1aと連続するアンダーカット部外面1c及び端面1eを成形する第3の型13とを集合させて形成されるキャビティ14に溶融状態の樹脂Rを射出する射出工程(図3参照)、第1の型11を第2の型12及び第3の型13から離反させる型開き工程(図4参照)、第3の型13を第2の型12の外方へ移動させることによりアンダーカット部1Bを第2の型12の外へ変位させる変位工程(図5参照)、及び、成形品本体1Aを第2の型12から離型させると共にアンダーカット部1Bを第3の型13から離型させる離型工程(図5参照)により、成形され、型から取り出されるものである場合における、射出成形品1の設計支援方法(図8参照)及び設計支援装置2(図7参照)が提供される。
その場合に、本実施形態によれば、変位工程(図5参照)でアンダーカット部1Bを第2の型12の外へ変位させる場合に射出成形品1に発生する応力を該射出成形品1の部位毎に算出し(ステップS3)、算出した応力が、変位工程(図5参照)で射出成形品1が塑性変形するか否かを判定するための応力の基準値(塑性変形判定基準値)より大きい部位(高応力発生部位)が存在するか否かを判定し(ステップS4)、そして、存在するときは(ステップS4でYES)、射出成形品1の形状が変更されることとなる(ステップS10〜S11)。したがって、このような評価のもとで設計された射出成形品1は、成形され、型から取り出される場合に、特に変位工程(図5参照)でアンダーカット部1Bが第2の型12の外へ変位されるときに、塑性変形することが確実に未然に回避されることとなる。
ここで、前記塑性変形判定基準値として、射出成形品1の樹脂材料の降伏値を用いると、変位工程(図5参照)における射出成形品1の塑性変形が理論的により確実に未然に回避されるので好ましい。
また、本実施形態によれば、算出した応力が前記塑性変形判定基準値より大きい部位が存在しないときは(ステップS4でNO)、離型工程(図5参照)でアンダーカット部1Bを第3の型13から離型させた場合に該アンダーカット部1Bに作用する弾性復元力を算出し(ステップS5)、算出した弾性復元力が、離型工程(図5参照)で第3の型13から離型されたアンダーカット部1Bが第2の型12と衝突して傷つくか否かを判定するための弾性復元力の基準値(傷つき判定基準値)より大きいか否かを判定し(ステップS6)、そして、大きいときは(ステップS6でYES)、射出成形品1の形状が変更されることとなる(ステップS10〜S11)。したがって、このような評価のもとで設計された射出成形品1は、成形され、型から取り出される場合に、特に離型工程(図5参照)でアンダーカット部1Bが第3の型13から離型されたときに、該アンダーカット部1Bが弾性復元力により第2の型12と衝突して傷つくことが確実に未然に回避されることとなる。
つまり、変位工程(図5参照)で射出成形品1の塑性変形が回避されたときは(ステップS4でNO)、次の離型工程(図5参照)でアンダーカット部1Bに作用する弾性復元力による該アンダーカット部1Bの傷つきが懸念されることとなるが、本実施形態によれば、その両方の問題が共に確実に未然に回避されることとなる。
ここで、前記傷つき判定基準値として、離型工程(図5参照)で第3の型13から離型されたアンダーカット部1Bが第2の型12と衝突して実際に傷ついたときの弾性復元力の過去の実績値のうちの最小値を用いると、離型工程(図5参照)におけるアンダーカット部1Bの傷つきが過去の経験からより確実に未然に回避されるので好ましい。
そして、ステップS10〜S11における変更(弾性復元力を傷つき判定基準値より小さくするための変更)の1例として、図13に示したように、変位工程(図5参照)で第2の型12の外へ変位されるアンダーカット部1Bと本体1Aの角部を挟んで隣接するアンダーカット部1Cにスリット1Sを形成したときには、隣接するアンダーカット部1Cの剛性が低減し、離型工程(図5参照)でアンダーカット部1Bに発生する弾性復元力が減少するので、該アンダーカット部1Bの傷つきが確実に回避されることとなる。
しかも、バンパー1の形状を変更するといっても、隣接するアンダーカット部1Cにスリット1Sを形成するだけなので、例えば変位させるアンダーカット部1Bの幅を狭くして、変位工程(図5参照)における該アンダーカット部1Bの強制変位量を小さくするというような変更をせずに済み、このバンパー1と変位させるアンダーカット部1Bで合わされる他の車体構成部品の設計変更を招くことがない。さらに、アンダーカット部1Cにスリット1Sを形成するだけなので、バンパー本体1Aの形状に影響がなく、バンパー1の外観が損なわれることもない。
なお、前記実施形態では、高応力発生部位の提示及び高弾性復元力発生部位の提示として、出力部24のディスプレイにおいて画面に表示するようにしたが、これに代えて又はこれと共に、出力部24のプリンタにおいて紙に印刷するようにしてもよい。
また、前記実施形態では、有限要素法を用いて応力解析を行うようにしたが、有限要素法以外の方法を用いて応力解析を行うようにしてもよい。