上述の従来技術では、コア部材3,4は、3次元形状を呈するために、たとえば軟磁性鉄粉を圧粉成型したものやフェライトコアなどの磁気的に等方性を有する材料から成るものであるが、透磁率μは比較的高いものを想定している。
また、上述の従来技術は、用途としては、たとえばハイブリッドや電気の自動車用途である数十kWレベルを想定しており、たとえば2輪車や、太陽光発電装置のコンバータ用途である数kWレベルにも適用したいという希望がある。この点、前記数十kWレベルの上述の従来技術のリアクトル1の半径分の軸線方向断面図は、図46の通りであるが、これは、このようにパワーが比較的大きな場合、電流が大きく、ギャップgを大きく形成しないと磁気飽和が大きくなるのに対して、パワーが比較的小さな場合は、図47で示すように、ギャップg’ を小さくして、磁束を多く通す必要がある。
すなわち、上述の従来技術は、漏洩磁束lによる帯状導体10の渦電流損を抑えているものの、本件発明者の知見では、上述のように、コアの材質が低かったり、容量が小さかったりすると、コアのヒステリシス損も問題となってくることが判明した。
本発明の目的は、インダクタンスを確保しつつ、コアのヒステリシス損を低減することができるリアクトルの設計方法およびリアクトルを提供することである。
本発明のリアクトルは、帯状導体が、その厚み方向に巻回されて成る空芯コイルと、磁気的に等方性を有する材料から成り、前記空芯コイルを覆うコアとを備えて構成されるリアクトルにおいて、前記コアは、前記空芯コイルの外周の少なくとも一部を覆う外周部と、前記空芯コイルの両端部の少なくとも一部を覆う径部と、前記径部の中央に形成されて前記空芯コイルの空芯部に嵌り込み、磁束を通過させる突起部とを含み、前記突起部の先端またはその近傍の断面積をSとし、前記突起部間のギャップ長をgとし、前記ギャップの透磁率をμ0とし、該リアクトルの目標インダクタンスをLとし、前記空芯コイルにおける帯状導体の巻数をNとし、コイル電流がIのときの前記ギャップの中央点またはその近傍における平均の磁束密度をBcとするとき、理想巻数N0、実効ギャップ長geおよび実効(突起基端部)断面積Seを、それぞれN0=√(L・g/μ0/S)ge=μ0・N・I/Bc、Se=L・ge/μ0/N2と定義して求め、さらにα=N/N0、β=ge/g、γ=Se /Sと定義される規格化パラメータα,β,γを求め、α/β<1を満足することで、コアおよび突起部の材料の透磁率に応じた、コイル巻数N、突起部の先端断面積Sが選ばれ、突起部の高さおよび裾野形状が決定されていることを特徴とする。
また、本発明のリアクトルは、帯状導体が、その厚み方向に巻回されて成る空芯コイルと、磁気的に等方性を有する材料から成り、前記空芯コイルを覆うコアとを備えて構成されるリアクトルにおいて、前記コアは、前記空芯コイルの外周の少なくとも一部を覆う外周部と、前記空芯コイルの両端部の少なくとも一部を覆う径部と、前記径部の中央に形成されて前記空芯コイルの空芯部に嵌り込み、磁束を通過させる突起部とを含み、前記突起部の先端またはその近傍の断面積をSとし、前記突起部間のギャップ長をgとし、前記ギャップの透磁率をμ0とし、該リアクトルの目標インダクタンスをLとし、前記空芯コイルにおける帯状導体の巻数をNとし、コイル電流がIのときの前記ギャップの中央点またはその近傍における平均の磁束密度をBcとするとき、理想巻数N0、実効ギャップ長geおよび実効(突起基端部)断面積Seを、それぞれN0=√(L・g/μ0/S)、ge=μ0・N・I/Bc、Se=L・ge/μ0/N2と定義して求め、さらにα=N/N0、β=ge/g、γ=Se /Sと定義される規格化パラメータα,β,γを求め、前記目標インダクタンスLが一定との条件で、α・γ>1を満足することで、コアおよび突起部の材料の透磁率に応じた、コイル巻数N、突起部の先端断面積Sが選ばれ、突起部の高さおよび裾野形状が決定されていることを特徴とする。
上記の構成によれば、帯状導体、すなわち幅Wに対する厚みtの比t/Wが1未満の導体が、その厚み方向に長尺に巻回されて成る空芯コイルが、コアに覆われることで、インダクタンスを高めるようにしたリアクトルを構成する。そして、前記コアは、前記空芯コイルの外周の少なくとも一部を覆う外周部と、前記空芯コイルの両端部の少なくとも一部を覆う径部と、前記径部の中央に形成されて前記空芯コイルの空芯部に嵌り込み、磁束を通過させてインダクタンスを向上するための磁極としての突起部とを含んで構成される。そのコアの材料として、磁気的に等方性を有し、比較的低透磁率でヒステリシス損が大きい、安価で、比較的低級な磁性材料が用いられる場合に、本発明は、高級な電磁鋼板を用いた場合のような、低損失で所望のリアクトル性能を得ることができるコアの幾何形状を求める。
それには、先ず、コアに上述のような低級な磁性材料を用いたリアクトルの場合、損失の大半はコア材のヒステリシス損が占め、そのヒステリシス損はコア材中の磁束密度に比例して増加し、飽和磁束密度Bsで最大となる。そこで、前記リアクトルに所望とする目標インダクタンスLが定められると、それを確保できる範囲で、前記コア材中の磁束密度Bcを小さくすることで、前記ヒステリシス損を小さくすることができる。
具体的には、本発明は、前記突起部の先端またはその近傍の幾何学的断面積をSとし、前記突起部間の幾何学的ギャップ長をgとし、前記ギャップの透磁率をμ0(≒真空)とし、前記空芯コイルにおける帯状導体の巻数をNとし、コイル電流がIのときの前記ギャップの中央点またはその近傍における平均の前記磁束密度をBcとするとき、有効巻数N0、実効ギャップ長geおよび突起基端部断面積Seの各パラメータを、それぞれN0=√(L・g/μ0/S)、ge=μ0・N・I/Bc、Se=L・ge/μ0/N2と定義して求める。さらに、本発明では、α=N/N0、β=ge/g、γ=Se /Sで表される独創的な規格化パラメータα,β,γを定義する。その上で、α/β<1を満足することで、コアおよび突起部の材料の透磁率μcに応じた磁束密度Bcから、コイル巻数N、突起部の先端付近の断面積Sが選ばれ、突起部の高さ、すなわちギャップ長g、突起部の裾野形状(実効断面積Se)が決定される。すなわち、ギャップを狭くすると(突起部を高くすると)、β=ge/g が小さく、裾野を広くとると、γ=Se/S が大きくなる。
このようなリアクトルは、コアおよび突起部の材質に応じて、必要なインダクタンスを確保しつつ、コアのヒステリシス損を低減し、損失を小さくすることができる幾何形状を決定することができる。
さらにまた、本発明のリアクトルでは、α/β<0.8またはα・γ>1.25 かつ 1/2<α<2、1<β<2、1≦γ<3を満足することを特徴とする。
上記の構成によれば、磁極間隙(ギャップ長g)を比較的広く開け、コイル部にまで磁束線を漏らすようにして、磁極(突起部)表面の実効断面積Se を広げ、磁極内の磁束密度Bcを低減することができる。
また、本発明のリアクトルでは、前記一対の径部の対向面において、少なくとも前記空芯コイルの端部を覆う領域が相互に平行に形成され、前記帯状導体の幅方向が前記径部の面方向と直交するように配置されることを特徴とする。
上記の構成によれば、前記一対の径部の対向面において、たとえば最も内周側の位置(以下、最内周位置という)における間隔をL1、最も外周側の位置における間隔をL2(以下、最外周位置という)とし、さらに前記最内周位置から最外周位置までの範囲における間隔の平均値をL3とするとき、((L1−L2)/L3)が平行度として定義される。そして、上記の構成によれば、その平行度が所定値、たとえば1/50以下、好ましくは1/100以下で、帯状導体の幅方向がその径部の面方向と直交するように配置されることで、空芯コイルの内部を通る磁束線が軸方向に平行となり、該帯状導体での渦電流損を小さくでき、インダクタンスLを大きくできる。
したがって、帯状導体が、その幅方向に発生した磁束を、効率良くコアに取り込むことができる。
さらにまた、本発明のリアクトルでは、前記空芯コイルの中心から外周までの半径をRとし、前記帯状導体の幅をWとするとき、比R/Wが、1.3以上、4以下の条件を満足することを特徴とする。
上記の構成によれば、前記の比R/Wが4より大きく設定される場合にはコアの外部に磁束が漏れ、また1.3未満に設定される場合には空芯コイルの内部を通る磁束線が軸方向に対して平行にならない。一方、リアクトルを搭載するインバータ等の装置が良好な制御性を有するためには、電流の変化に対するインダクタンスの変化が少なく、かつ安定していることが必要であり、前記装置に供給し得る電流の範囲におけるインダクタンスの安定度が10%以下に抑えられる値としては、前記比R/Wが4以下である。
したがって、前記比R/Wを、1.3以上、4以下に選ぶことで、渦電流損を抑えつつ、インダクタンスも安定させることができる。
また、本発明のリアクトルでは、前記帯状導体の幅Wに対する厚みtの比t/Wが、1/10以下の条件を満足することを特徴とする。
上記の構成によれば、帯状導体は、アスペクト比が大きいテープ状の導体であるので、厚みtが当該リアクトルの駆動周波数に対する表皮厚み以下となり易く、渦電流損を低減することができる。
また、本発明のリアクトルでは、前記帯状導体の厚みtが、当該リアクトルの駆動周波数に対する表皮厚みδ以下の条件を満足することを特徴とする。
上記の構成によれば、ほぼ確実に渦電流損を無くすことができる。
さらにまた、本発明のリアクトルでは、前記コアの相互に対向する径部において、最も内周側の位置における間隔をL1、最も外周側の位置における間隔をL2とし、最内周位置から最外周位置までの範囲における間隔の平均値をL3とするとき、((L1−L2)/L3)で得られる値を平行度として、該平行度の絶対値が、1/50以下、好ましくは1/100以下の条件を満足することを特徴とする。
上記の構成によれば、空芯コイルの内部を通る磁束線が軸方向に平行となり、該帯状導体での渦電流損を小さくでき、インダクタンスを大きくできる。
したがって、帯状導体が、その幅方向に発生した磁束を、効率良くコアに取り込むことができる。
さらにまた、本発明のリアクトルでは、前記帯状導体は、導体層と絶縁層とを厚み方向に積層したものを複数組積層するとともに、長手方向における各端部を、コアの外部において隣り合う導体層同士が前記絶縁層を挟むことなく短絡されて成るものであることを特徴とする。
上記の構成によれば、渦電流の大きさは、磁束密度が同一である場合には、磁力線(磁束線)に垂直な連続する面(一続きの面)の面積に比例することから、1本の導体として巻回されるべき前記帯状導体を、磁力線(磁束線)に垂直に交差する方向で複数層に分割形成しておき、両端で並列に短絡する。
したがって、導体断面積、すなわち流すことができる電流量は減少するものの、渦電流損をさらに小さくすることができるとともに、同じ磁束を発生させても、空芯コイルの電気抵抗も小さくすることができる。
また、本発明のリアクトルでは、前記帯状導体は、導体層と絶縁層とを厚み方向に積層したものを複数組積層するとともに、前記各導体層の長手方向の各端部において、各導体層自体が、あるいは各導体層から夫々別々に口出しされたリード線が、前記コアの外部に設けられたインダクタコアに互いに逆相になるように経由されてから接合されていることを特徴とする。
上記の構成によれば、渦電流の大きさは、磁束密度が同一である場合には、磁力線(磁束線)に垂直な連続する面(一続きの面)の面積に比例することから、1本の導体として巻回される前記帯状導体が、磁力線(磁束線)に垂直に交差する方向で複数層に分割形成され、両端が個別に引き出されて、コアの外部に設けたインダクタコアに互いに逆相になるように経由してから接合される。ここで、インダクタコアは、逆位相の渦電流にのみ大きな抵抗として働いて、その電流を抑制するが、同位相で流れてくる駆動電流に対しては何ら影響を与えない。
したがって、導体断面積、すなわち流すことができる電流量は減少するものの、さらに効果的に渦電流損を小さくすることができる。
さらにまた、本発明のリアクトルでは、前記空芯コイルは、長尺の帯状導体を絶縁材料で絶縁被覆したものを巻回して成る単層コイルを3段積層して成るものであって、各単層コイルの巻き始め端は電流線路の第1端子として互いに独立しているとともに、巻き終わり端は電流線路の第2端子として互いに独立していることを特徴とする。
上記の構成によれば、前記3個の単層コイルは、積層による近接効果で磁気的には相互結合しており、たとえば三相交流における各相の電流を流すことで、従来の三相リアクトルのような磁気回路を形成することができる。
したがって、各空芯コイルが個別のコアに収容されるのではなく、単一のコアに収容されるので、同じ電力容量の従来型の三相リアクトルに較べて、体格を小さくすることができる。このような構成のリアクトルは、特に、搭載スペースの限られた電気自動車、ハイブリッド自動車、電車およびバス等の移動体(車両)に搭載される場合に好適である。また、このような構成のリアクトルは、インバータからモータへの動力線において、インバータからの高調波歪電圧(いわゆるリップル)を吸収して平滑化することができ、この結果、正弦波波形に近い波形をモータへ出力することもできる。
また、本発明のリアクトルでは、前記空芯コイルと、少なくとも前記コアの径部における空芯コイルの対向面との間に、絶縁部材が配置されることを特徴とする。
上記の構成によれば、空芯コイルとコア部との間における絶縁耐力をより向上させることができる。
さらにまた、本発明のリアクトルでは、前記コアは、前記磁気的に等方性を有する材料から成る複数のコア部材と、前記コア部材が取り付けられる基台と、前記空芯コイルを収容した状態で前記複数のコア部材を相互に締結させる締結部材と、締結されたコア部材を前記基台に固定する固定部材とを備えて構成され、前記コア部材において、前記固定部材の配設位置と締結部材の配置位置とは、互いに異なることを特徴とする。
上記の構成によれば、コア内に空芯コイルを収容するために、複数のコア部材を分割形成して、それらのコア部材を前記空芯コイルを収容した状態で一体に組み上げるようにする。その際、前記組み上げを行うためにボルトとナットなどの締結部材が必要になり、一方、組み立てたコア部材をヒートシンクなどの別途の基台に固定するためには、ボルトなどの固定部材が必要となる。そこで本発明のリアクトルでは、前記締結部材と固定部材とが、たとえば周方向に交互に配置されたり、中心部と周辺部とに分けて配置されたりする。
したがって、リアクトルの組み立てや取り付けの生産性を向上することができる。
また、本発明のリアクトルでは、前記コアは、軟磁性粉末が圧粉成型された圧粉コアから成ることを特徴とする。
上記の構成によれば、上述のような磁気的に等方性を有するコアを実現する場合に、原料粉末を型に入れて成型することで、所望の形状に作成することができる。また、圧粉コアの場合は、材料費が安い上に、所望の磁気特性(密度)が比率較的容易に得られる。
さらにまた、本発明のリアクトルでは、前記コアは、フェライトコアから成ることを特徴とする。
上記の構成によれば、上述のような磁気的に等方性を有するコアを実現する場合に、原料粉末を型に入れて成型(焼成)することで、所望の形状に作成することができる。
また、本発明のリアクトルの設計方法は、帯状導体がその厚み方向に巻回されて成る空芯コイルが、磁気的に等方性を有する材料から成るコアで覆われて成るリアクトルを設計する方法において、前記コアは、前記空芯コイルの外周の少なくとも一部を覆う外周部と、前記空芯コイルの両端部の少なくとも一部を覆う径部と、前記径部の中央に形成されて前記空芯コイルの空芯部に嵌り込み、磁束を通過させる突起部とを含んで構成され、前記突起部の先端またはその近傍の断面積をSとし、前記突起部間のギャップ長をgとし、前記ギャップの透磁率をμ0とし、該リアクトルの目標インダクタンスをLとし、前記空芯コイルにおける帯状導体の巻数をNとし、コイル電流がIのときの前記ギャップの中央点またはその近傍における平均の磁束密度をBcとするとき、理想巻数N0、実効ギャップ長geおよび実効(突起基端部)断面積Seを、それぞれN0=√(L・g/μ0/S)、ge=μ0・N・I/Bc、Se=L・ge/μ0/N2と定義して求め、さらにα=N/N0、β=ge/g、γ=Se/Sと定義される規格化パラメータα,β,γを求め、α/β<1を満足することで、コアおよび突起部の材料の透磁率に応じた、コイル巻数N、突起部の先端断面積Sが選ばれ、突起部の高さおよび裾野形状が決定されていることを特徴とする。
さらにまた、本発明のリアクトルの設計方法は、帯状導体がその厚み方向に巻回されて成る空芯コイルが、磁気的に等方性を有する材料から成るコアで覆われて成るリアクトルを設計する方法において、前記コアは、前記空芯コイルの外周の少なくとも一部を覆う外周部と、前記空芯コイルの両端部の少なくとも一部を覆う径部と、前記径部の中央に形成されて前記空芯コイルの空芯部に嵌り込み、磁束を通過させる突起部とを含んで構成され、前記突起部の先端またはその近傍の断面積をSとし、前記突起部間のギャップ長をgとし、前記ギャップの透磁率をμ
0
とし、該リアクトルの目標インダクタンスをLとし、前記空芯コイルにおける帯状導体の巻数をNとし、コイル電流がIのときの前記ギャップの中央点またはその近傍における平均の磁束密度をBcとするとき、理想巻数N
0
、実効ギャップ長geおよび実効(突起基端部)断面積Seを、それぞれN
0
=√(L・g/μ
0
/S)、ge=μ
0
・N・I/Bc、Se=L・ge/μ
0
/N
2
と定義して求め、さらにα=N/N
0
、β=ge/g、γ=Se/Sと定義される規格化パラメータα,β,γを求め、前記目標インダクタンスLが一定との条件で、α・γ>1を満足することで、コアおよび突起部の材料の透磁率に応じた、コイル巻数N、突起部の先端断面積Sが選ばれ、突起部の高さおよび裾野形状が決定されていることを特徴とする。
上記の構成によれば、帯状導体、すなわち幅Wに対する厚みtの比t/Wが1未満の導体が、その厚み方向に長尺に巻回されて成る空芯コイルが、コアに覆われることで、インダクタンスを高めるようにしたリアクトルを構成する。そして、前記コアは、前記空芯コイルの外周の少なくとも一部を覆う外周部と、前記空芯コイルの両端部の少なくとも一部を覆う径部と、前記径部の中央に形成されて前記空芯コイルの空芯部に嵌り込み、磁束を通過させてインダクタンスを向上するための突起部とを含んで構成される。そのコアの材料として、磁気的に等方性を有し、比較的低透磁率でヒステリシス損が大きい、安価で、比較的低級な磁性材料が用いられる場合に、本発明は、高級な電磁鋼板を用いた場合のような低損失で所望のリアクトル性能を得ることができるように、コアの幾何形状を設計する方法を提供する。
それには、先ず、コアに上述のような低級な磁性材料を用いたリアクトルの場合、損失の大半はコア材のヒステリシス損が占め、そのヒステリシス損はコア材中の磁束密度に比例して増加し、飽和磁束密度Bsで最大となる。そこで、前記リアクトルに所望とする目標インダクタンスLが定められると、それを確保できる範囲で、前記コア材中の磁束密度Bcを小さくすることで、前記ヒステリシス損を小さくすることができる。
具体的には、本発明は、前記突起部の先端またはその近傍の幾何学的断面積をSとし、前記突起部間の幾何学的ギャップ長をgとし、前記ギャップの透磁率をμ0(≒真空)とし、前記空芯コイルにおける帯状導体の巻数をNとし、コイル電流がIのときの前記ギャップの中央点またはその近傍における平均の前記磁束密度をBcとするとき、有効巻数N0、実効ギャップ長geおよび突起基端部断面積Seの各パラメータを、それぞれN0=√(L・g/μ0/S)、ge=μ0・N・I/Bc、Se=L・ge/μ0/N2と定義して求める。その上で、さらにα=N/N0、β=ge/g、γ=Se /Sと定義される独創的な規格化パラメータα,β,γを導入する。
すると、たとえばパラメータαを大きくすることは巻線を余計に巻くことを表し、コアの材質が悪い場合等の対応となる。また、パラメータβは、コアに許容できる磁束密度Bc、すなわち透磁率μcに適したギャップ長geの関係を求めるもので、βを大きくすることは透磁率μcの高い材料を使用することになる。さらにまた、パラメータγは、1で突起部の基端部から先端部までの断面積が等しいことを表し、1より大きくなる程、該突起部の軸方向断面で台形状となる。
このようなリアクトルの評価に基づく設計方法は、所望のインダクタンスLを得る際に、コアの材質に応じた最適な幾何形状を得るための設計を行うことができる。
さらにまた、本発明のリアクトルの設計方法では、前記規格化パラメータα,β,γの空間が、3元合金の相図の態様で表現されることを特徴とする。
上記の構成によれば、パラメータα,β,γの変化に対する結果が認識し易くなる。特に、3辺総ての目盛が、対数スケールとなり、次数に応じて拡大され、逆数なら反転して示されることで、最適な幾何形状を得るための設計を容易に行うことができる。
本発明のリアクトルの設計方法およびリアクトルは、以上のように、帯状導体が、その厚み方向に巻回されて成る空芯コイルが、その少なくとも一部がコアに覆われることで、インダクタンスを高めるようにしたリアクトルにおいて、コア材として磁気的に等方性を有する比較的低級な磁性材料が用いられる場合に、所定の規格化パラメータが定義され、所定の条件を満足するように、前記磁性材料の透磁率μcに応じた磁束密度Bcから、コイル巻数N、突起部の先端付近の断面積S、ギャップ長g、突起部の裾野形状(実効断面積Se)が決定される。
それゆえ、コアおよび突起部の材質に応じて、必要なインダクタンスを確保しつつ、コアのヒステリシス損を低減し、損失を小さくすることができる幾何形状を決定することができる。
本発明の実施形態を説明する前に、本発明の考え方を説明する。本発明は、前述のように、理想的な高透磁率、低ヒステリシス損の高級電磁鋼板の代わりに、圧粉コアやフェライトコアのような比較的低透磁率で、かつ大きなヒステリシス特性(ループ)を有する安価な低級磁性材料を用いても、その低級磁性材料の広い材質の範囲で、電磁鋼板を用いた場合にできるだけ近付けられるような低損失のリアクトル性能を実現できるコア幾何構造を規定することを目的とするものである。そのためには、前述のように、低級磁性材におけるリアクトル損失は、材料のヒステリシス損が大半を占め、その値はコア材中の磁束密度Bcに比例することから、この磁束密度Bcを小さくするような最適設計が肝要である。一方、リアクトルの最も重要な性能は、インダクタンスLであることから、目標のインダクタンスLを獲得しつつ、前記磁束密度Bcを最小にすることが必要である。
ここで、巻線の巻数をNとし、磁極空隙の間隔(ギャップ長)をgとし、磁極空隙の透磁率をμ0とし、磁極面積をSとすると、インダクタンスLは、
L=μ0・(S・N2)/g ・・・(1)
で表すことができる。ただし、磁極内の透磁率μcが、前記磁極空隙の透磁率μ0よりも十分大きいとしている。
一方、磁束密度Bcは、巻線に流れる電流をIとすると、
Bc=μ0・N・I/g ・・・(2)
で表すことができる。ただし、コア材内の磁束密度はほぼ等しく、局所集中等は磁場解析による最適化で解消していると仮定して、前記磁束密度Bcは、ギャップ中央付近における磁束密度を表している。したがって、上述の本発明の目的のためには、前記磁束密度Bcを最小にする幾何構造パラメータ(N,g,S)の組合せを最適に選択すればよいことが理解される。
しかしながら、現実のコア材料(透磁率μc:∞>>μc>μ0)で作った、実際の磁極構造(磁気回路)の場合の、インダクタンスLや磁束密度Bcの表式は、上記式1,2よりも非常に煩雑な関数となるので、本発明で注目すべきは、数値解析モデルの結果から、逆に、前記ギャップ長gおよび磁極面積Sの実効値として、
ge=μ0・N・I/Bc ・・・(3)
Se=L・ge/μ0/N2 ・・・(4)
を定義することである。さらに、理想コア材(μc≫μ0)を用いた場合の巻数N0も下記のように定義する。
N0=√(L・g/μ0/S) ・・・(5)
その上で、本発明でさらに注目すべきは、前記の各幾何構造パラメータ(N0,ge,Se)と、実際の幾何構造パラメータ(N,g,S)との比
α=N/N0 ・・・(6)
β=ge/g ・・・(7)
γ=Se /S ・・・(8)
と定義される独創的な規格化パラメータα,β,γを導入し、その組合せによって、リアクトルの材質および構造を評価し、最適形状を決定することである。
(実施の形態1)
本発明の実施の第1の形態に係るリアクトルには、前述の図1で示すリアクトルD1の基本的構造を用いることができる。すなわち、本実施の形態では、所望インダクタンスLおよびコア部材3,4の材質(透磁率μc)に適応して、空芯コイル1における帯状導体10の巻数N、コア部材3,4の形状、および突起部3d,4dの形状(断面積S,Seおよびギャップ長g)などの幾何構造が決定される。前記突起部3d,4dの形状としては、特に基端部側の面積変化で、代表的には前述の図1および図46で示す円錐台形状から、図47で示す円柱形状の間で変化する。
ここで、先ず前記ギャップ長gの実効値geについて説明する。図2は、前記リアクトルD1のコア2をC字のコアとした場合の磁気回路モデルを示す斜視図である。この図2では、前記突起部3d,4dの形状として、図47で示す円柱形状を使用しており、空芯コイル1は、ギャップ部分で分割して示している。そして、この図2で示すように、コア2(リターンヨーク部)での磁束密度をBy、突起部3d,4d(磁極)での磁束密度をBp、ギャップでの磁束密度をBgとし、コア2の断面積をSy、突起部3d,4dの断面積をSp、ギャップの断面積をSgとすると、
Bg・Sg=Bp・Sp=By・Sy ・・・(9)
の関係が成り立つ。
そして、空芯コイル1から与えられる磁束を2・N・Iとすると、前記ギャップ、突起部3d,4dおよびコア2で消費される磁束との関係は、
2・N・I=(Bg/μ0)・g+2(Bp/μp)・Lp+(By/μy)・Ly
=(Bg・Sg)・{g/(μ0・Sg)+2・Lp/(μp・Sp)
+(Ly/(μy・Sy)) ・・・(10)
と表すことができる。したがって、
2V=I・(Rg+2Rp+Ry) ・・・(11)
で、電気的に図3で示すような等価回路に表すことができる。
ここで、μ0≪μp,μyとすると、
となり、したがって、前記ギャップ長の実効値geに対応する因子を取り出すと、
となる。したがって、実際のギャップ長gに比べて、実効値geが大きくなった分、突起部3d,4dの外周縁から、前記図46において、参照符号lで示す漏洩磁束が発生していることを表す。
また、前記断面積の実効値Seについて、図4において、突起部3d,4dの先端部の半径をR0とすると、断面積Sとの関係は、
で表すことができる。
これに対して、前記実効値Seは、ギャップからコイル付近まで漏れ出してくる磁束の面積に対応し、磁束線の積分を矩形近似した場合の断面積と解釈することができ、
で表すことができる。図4には、前記突起部3d,4dの先端部付近の断面積Sおよびその実効値、すなわち基端部付近の断面積Seの関係も示す。
次に、前記規格化パラメータα,β,γについて説明する。本実施の形態で規格化パラメータを3つ設定したのは、それらのパラメータα,β,γの空間が、いわゆる3元合金の相図の態様で表現でき、各パラメータα,β,γの変化に対する結果が認識し易いためである。ただし、本実施の形態の相図では、3辺総ての目盛が、対数スケールとなり、次数に応じて拡大され、逆数なら反転して示している。
これは、所望とするインダクタンスLの範囲を、
L=μ0・(S・N2)/g〜N2・S/g ・・・(16)
と表せることから、理想的なコア材を用いたリアクトルのパラメータをL0,g0,S0とすると、
L/L0〜(N/N0)2・(S/S0)/(g/g0) ・・・(17)
となり、対数をとると、
ln(L/L0)〜2ln(N/N0)+ln(S/S0)−ln(g/g0)
・・・(18)
となるためである。上式は、前記3元合金の相図における
x+y+z=100% ・・・(19)
の関係と類似しており、軸の縮尺と極性とを適宜調整することで、前記相図の態様で表現可能となる。図5には、本件発明者が作成した相図の一例を示す。
図5は、後述するような前記各パラメータα,β,γの取り得る範囲(実用域)をできるだけ拡大して示すように、前述のように軸の縮尺と極性とが適宜調整されており、各パラメータα,β,γの1の値が中心とはなっていない。図5にはまた、本件発明者が実際に計算した9つのサンプルA〜Iについて、得られたパラメータα,β,γに基づいてマッピングして示している。そのマッピングの元となる各幾何構造パラメータ(L,N0,g,S,N,ge,Se)の計算結果を表1に示す。
これらの表1および図5において、サンプルA〜Fは、比較的パワーの小さな2輪車や、太陽光発電装置のコンバータ用途である数kWレベルのサンプルであり、サンプルG〜Iは、比較的パワーの大きなハイブリッドや電気の自動車用途である数十kWレベルのサンプルである。
なお、表1には、突起部3d,4dの実効断面積Seの解析結果も合わせて示している。その解析は、前述の図4で示すように、前記突起部3d,4dの空隙よりコイル領域まで漏れ出してくる磁束線を積分し、その積分結果を矩形近似することで行っている。すなわち、
Se=∫B(r)2πr・dr/Bc ・・・(20)
によって計算している。表1に記すとおり、実効Seとほぼ一致していることが理解される。
表1および図5から、相図におけるマッピング位置と、実際の幾何学的なコア構造の特徴との関係をいくつか説明する。先ず、サンプルAは、高級磁性鋼板のものであり、帯状導体10の巻数Nは理想の巻数N0に等しく、ギャップ長の実効値geも実際のギャップ長gに等しく、突起部3d,4dの先端部の断面積Sは実効値Se、すなわち基端部の断面積に等しく、すなわち、α,β,γ=1である。この値を基点として、ギャップが空であれば(μc>μ0であれば)、必ずβ≧1となる。また、ギャップが狭い程、β→1、およびγ→1に漸近する。
一方、ギャップが広く、形状が円錐台型で裾野が広い(頂上平坦部が狭い)程、γが大きくなる。また、コア2(リターンヨーク部)の磁気抵抗Ryが、ギャップの磁気抵抗Rgより大きいアンバランスな設計では、γ<1となる。さらにまた、αが1より大きくなると銅損が増加、1より小さければ銅損が減少するが、あくまでヒステリシス損(∝ΔBc∝α/β)との総和で全体損失を考えるべきである。そのため、前記の表1には、幾何および解析パラメータとともに、一部のサンプルについて、実測損失も、サンプルAとの差分で併記している。本実施の形態では、以上の事項を設計指針にして、形状最適化を図る。
その形状最適化の条件として、同じインダクタンスのリアクトルでも、ヒステリシス損をより小さくする、すなわち前述のように磁束密度Bcをより小さくするには、理想の磁束密度Bc0に対して、
Bc/Bc0=(μ0・N・I/ge)/(μ0・N0・I/g)
=(N/N0)/(ge/g)=α/β<1 ・・・(21)
であるので、先ず、α/β<1という条件を得ることができる。または、L=一定、すなわちα2・γ/β=1を用いれば、α・γ>1という条件を得ることができる。これによって、本実施の形態では、コア(ヨーク)2および突起部(磁極)3d,4dの材質に応じて、必要なインダクタンスLを確保しつつ、コア2のヒステリシス損を低減し、損失を小さくすることができる幾何形状を決定することができる。
さらに条件を絞り込み、磁束密度Bcの低減効果が顕著となる(80%以下)範囲を規定すると、α/β<0.8またはα・γ>1.25が得られる。これに加えて、現実のコア材料を用いた、現実的な磁気回路設計という立場からは、さらに以下の制約条件が存在する。
まず、実際の低透磁率コア材を用いる限りは、2g>ge>g、すなわち1<β<2となる。また、ギャップ長gが最大値、すなわち突起部(磁極)3d,4dが無い場合に、磁束線が漏れたとしてもコイル外形を超えない(R/W<4)ように、Se<3S、すなわち1≦γ<3が現実解となる。さらに、巻数Nが過大になると、帯状導体10の長さを過大に、断面積を過小にして、銅損の増大を招くことから、1/2<α<2とすることが好ましい。図5において、α/β<1またはα・γ>1かつ1/2<α<2、1<β<2、1≦γ<3を満足する領域を、網掛けして示す。
このように構成することで、磁極間隙(ギャップ長g)を比較的広く開け、コイル部にまで磁束線を漏らすようにして、磁極(突起部)表面の実効断面積Se を広げ、磁極内の磁束密度Bcを低減することができる。
ところが、前記のγ>1、すなわちSeの増大は、コイル巻線部まで磁束線の漏れを許容することになるので、漏洩磁束によるコイル導体内の渦電流損を抑えるために、前記帯状導体10の厚みtを表皮厚みδ以下として、後述のように、前記空芯コイル1を漏洩磁束に平行なフラットワイズ巻きとしておくことが好ましい。
一方、規格化パラメータα,β,γとリアクトルの特性との関係は、以下の通りである。先ず、幾何構造および材料的な特徴パラメータとしては、前記Bcをギャップの中央点またはその周辺の磁束密度の最大値として、ギャップ長の実効値geおよび突起部(磁極)3d,4dの実効断面積Seを求めると、
ge=μ0・N・I/Bc ・・・(22)
Se=∫B(r)2πrdr/Bc(or =∫B(x,y)dx・dy/Bc)
・・・(23)
であり、これら2つのパラメータは、磁場解析結果から容易に求めることができる。
そして、これらのパラメータを用いて、電気特性を、下記のように表すことができる。
V≡L・dI/dt (Lの定義) ・・・(24)
=N・dΦ/dt (ファラデーの法則、Nを外に出している)・・・(25)
=N・Se・dB/dt(磁束を定義 Φ≡BS より) ・・・(26)
したがって、単位昇圧性能当りの磁束密度変化(≒鉄損)ΔBは、
ΔB=1/(N・Se)・∫V・dt
=1/(N・Se)・ΔV ・・・(27)
となり、バイアス電流Iに伴う平均磁束密度(≒磁気飽和の度合い≒ヒス損)Bは、
B≒μ0・N・I/g ・・・(28)
となる。
したがって、本実施の形態のリアクトルの設計方針を表現すると、前記式16で示す所望のインダクタンスLを確保しながら、空芯コイル1の巻数Nがより少なく、突起部(磁極)3d,4dの実効断面積Seがより大きく、ギャップの実効長ができる限り大きくなるように、適したコアおよび磁極(突起部3d,4d)の幾何形状を選ぶことで、コア2(磁極&ヨーク)の経験磁束密度を小さくして、(純鉄特性の使用域をシフトして)鉄損(主にヒステリシス損)を低減することである。
そこで、図5および表1に戻り、サンプルAは、上述のように、高級電磁鋼板をコア材に使った従来型リアクトルの一例で、コア材体積を小さく(Sを小さく)、巻数Nを多くした設計と解釈できる。これに対して、残余のサンプルB〜Iは、鉄粉圧縮成形のコア材を用いたものであり、上述のような設計指針に基づき、サンプルBを原型として、B→C→D→Eと改良を施したものである。これらの図5および表1において、サンプルB〜Gについては、具体的なリアクトルの断面形状と、発生される磁束線とを、図6の(B)〜(G)に合わせて示す。この図6を合わせて参照することで、コア形状をよく理解することができる。また、サンプルB〜Dについては、前記磁束線とともに、前記ギャップの中央点を通る軸直角断面での磁束密度Bcの変化を、図7の(B)〜(D)に示している。
サンプルB,Cでは、わずかながらγが1より小さいのは、図7より判るように、リターンヨーク部の磁束密度が高い、すなわち(主にコア部材3,4の端板3b,4bが薄いため)リターンヨーク部の磁気抵抗Ryが、ギャップの磁気抵抗Rgより大きいせいで、その分リターンヨーク部のヒステリシス損の増大を招いているためである。γ<1は、前述のようにギャップとリターンヨーク部との磁気抵抗のアンバランスを意味する。また、サンプルBでは、α>1と巻数が過多なことによる銅損の増加も、損失増大に拍車をかけている。
このため、サンプルCは、αを減少、すなわち巻数Nを減少させたものであり、その巻数Nの減少によって空芯コイル1がコンパクトになった分、図7(B)から(C)に示すように、コア2を拡大している(前記端板3b,4bを厚くしている)。しかしながら、それによって、磁束密度Bcが高まり、ヒステリシス損は増加する。そこで、サンプルDは、図7(C)から(D)に示すように、ギャップ長gを拡大し、磁束密度Bcを低下させ、ヒステリシス損を低下させたもので、最適設計である。すなわち、C→Dの改善により、わずかながらγ>1となっている。
一方、サンプルEは、帯状導体のアスペクト比t/Wを大きくして、空芯コイル1を扁平にしたものであり、N=N0となっており、またギャップ長の実効値geも大きくなっている。しかしながら、図6(E)において、参照符号l1で示すように、ギャップ部分の漏れ磁束が、コイル部分に大きく入り込んで、銅損の増加を招いている。サンプルFは、そのサンプルEから、コア2における鉄粉の密度を低下させたものであり、そのため巻数Nが増加するとともに、ギャップ長の実効値geは小さくなっている。
また、サンプルG,H,Iは、インダクタンスLが大きな大パワー用のリアクトルであるが、α/β<0.8またはα・γ>1.25 かつ 1/2<α<2、1<β<2、1≦γ<3を満足するものである。そして、サンプルG,H,Iは、それぞれ密度が7g/cm3、6g/cm3、5g/cm3である。サンプルIは、サンプルG,Hに比べて、γ、すなわち突起部(磁極)3d,4dの形状は変わらないものの、ギャップ長の実効値geが大きくなり、巻数Nも多くなっている。サンプルD,E,Fは、特に好ましい範囲α/β<0.8またはα・γ>1.25からは外れているが、小パワー用途で、電気的特性以外に、寸法や重量といった要求仕様を満たす必要があり、磁束密度Bcを下げきれないためである。
本実施の形態のリアクトルには、コア2において、ヨーク部分、すなわちコア部材3,4において、磁極となる突起部3d,4d部分を除く外周部3a,4aおよび端板3b,4bの部分は、空芯コイル1の外周部を総て覆っている必要はなく、上述のようにギャップ部の磁束密度Bgよりも、ヨークの磁束密度Byを高く維持できればよい。このため、通気のために一部を外部へ開放したかご形や、図8のリアクトルD1’で示すように、コア2’が、コの字型のコア部材3’,4’を組み合わせて構成されるなどしてもよい。磁性材料にもよるが、ヨークは、合計で、空芯コイル1の外周部の半周以上を覆っていればよい。
また、上述のように一対のコア部材3,4は相互に等しく形成されていれば、いずれの位置で組み合わせられてもよいが、その場合、軸方向については、前記外周部3a,4aの端面を密着させればよいものの、径方向にはずれが生じ易い。そこで、図9のコア部材4’で示すように、前記一対のコア部材3,4の外周部3a,4aにおける一方の端面に突起部4b1を、他方の端面に対応する凹所4b2を設けておくことで、前記一対のコア部材3,4における前記径方向のずれを無くすことができる。また、図9のコア部材4”のように、同じ外周部4aに、前記突起部4b1と凹所4b2とを周方向に等ピッチ(図9では180°)で、かつ交互(図9では90°)に形成しておくことで、両方のコア部材3,4を共用し、同じ金型で作成することができるようになる。
また、前記コア部材3,4の材料としては、コストを低減するために、同一材料であることが好ましく、特に所望の磁気特性(比較的高い透磁率)を容易に実現でき、また所望の形状への成形の容易性から、該コア部材3,4は、軟磁性体粉末を成形することにより形成されたものであることが好ましい。
前記の軟磁性粉末は、強磁性の金属粉末であり、より具体的には、純鉄粉、鉄基合金粉末(Fe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイ等)およびアモルファス粉末、さらには、表面にリン酸系化成皮膜などの電気絶縁皮膜が形成された鉄粉等が挙げられる。これら軟磁性粉末は、アトマイズ法等によって製造可能である。また、一般に、同じ透磁率であっても、飽和磁束密度が大きいことから、前記軟磁性粉末には、前記純鉄粉、鉄基合金粉末およびアモルファス粉末等の金属材料を用いることが好ましい。
このような軟磁性粉末を、たとえば公知の常套手段を用いることによって、所定の密度に圧粉成形して、前記コア部材3,4が得られる。そのような圧粉(鉄粉)コアは、たとえば図10に示される磁束密度−比透磁率特性を有している。図10は、圧粉(鉄粉)コアにおける密度別の磁束密度−比透磁率特性を示す図である。図10の横軸は、磁束密度〔T〕を示し、縦軸は比透磁率〔H/m〕を示す。
図10に示されるように、密度6.00〔g/cc〕以上の部材(この例では、密度5.99〔g/cc〕の(□)、密度6.50〔g/cc〕の(×)、密度7.00〔g/cc〕の(△)、密度7.50〔g/cc〕の(◆))に関する磁束密度−比透磁率特性のプロファイルにおいては、磁束密度が増加するのに従い、比較的高い初期比透磁率から、比透磁率がピーク(最大値)となり、その後徐々に減少することが理解される。
たとえば、密度7.00〔g/cc〕の部材に関する磁束密度−比透磁率特性のプロファイルにおいては、磁束密度が0.35〔T〕となるまで磁束密度の増加に従って、約120〔H/m〕の初期比透磁率から比透磁率が約200〔H/m〕まで急激に増加し、その後、徐々に減少している。図10に示される例(密度7.00〔g/cc〕)では、磁束密度の増加に従って比透磁率が初期比透磁率から増加した後、再び初期比透磁率となる磁束密度は、約1〔T〕である。
また、密度5.99〔g/cc〕の部材、密度6.50〔g/cc〕の部材および密度7.50〔g/cc〕の部材における初期比透磁率は、それぞれ、約70、約90および約160〔H/m〕である。このような初期透磁率が約50〜250〔H/m〕の材料(この例では、約70〜約160〔H/m〕の材料)は、磁束密度−比透磁率特性のプロファイルが略同様であり、比較的高い比透磁率を有する材料である。
次に、図11には、リアクトルの構成と磁束線との関係を示す。図11(a)は、コア2が設けられておらず、空芯コイル1のみの比較例1に係るリアクトルの構成を示す半径分の軸線方向断面図、図11(b)は、本実施形態に係るリアクトルD1の構成を示す半径分の軸線方向断面図、図11(c)は、ギャップ無し、すなわち突起部(磁極)3d,4dが円柱15として、端板3b,4b間を接続するようにした比較例2に係るリアクトルの構成を示す半径分の軸線方向断面図である。また、図11(d)は、前記比較例1に係るリアクトルの磁束線図、図11(e)は、本実施形態に係るリアクトルD1の磁束線図、図11(f)は、前記比較例2に係るリアクトルの磁束線図である。なお、図面の視認性を考慮して、図11(d)〜(f)においては、隣接する巻線間の境界線の記載が省略されている。
また、図12は、本実施形態および比較例1,2に係るリアクトルにおいて、0〜200〔A〕までの範囲で電流を変化させたときのインダクタンスの変化についての実験結果を示す。図12中、グラフAが比較例1に係るリアクトルのインダクタンスの変化を示し、グラフBが本実施形態に係るリアクトルD1のインダクタンスの変化を示し、そして、グラフCが比較例2に係るリアクトルのインダクタンスの変化を示す。
図12のグラフAを参照すると、比較例1に係るリアクトルにおいては、前記電流の全範囲において略一定のインダクタンスが安定的に得られている。しかしながら、このリアクトルでは、図11(d)に示されるように、空芯コイル内の磁束線が軸方向に平行にならないため、渦電流損が大きくなる。そのため、図12のグラフAで示されるように、インダクタンスが絶対的に小さい。また、図11(d)に示されるように、リアクトルから外部に漏出する磁束線が非常に多い。
また、図12のグラフCに示されるように、比較例2に係るリアクトルにおいては、電流が比較的小さい0〜約30〔A〕の範囲において、大きなインダクタンスが得られている。また、このリアクトルはコア2を有しているため、リアクトルから磁束線が外部に漏出するのを防止又は抑制することができる。しかしながら、この比較例2に係るリアクトルにおいては、電流がこの範囲より大きくなると、磁性体15が磁気飽和して、インダクタンスが急激に低下する。このようにインダクタンスの変化が大きいと、わずかな誤差によってインダクタンス特性が比較的大きく変化することとなるため、リアクトルを搭載するインバータの制御性が悪くなる。
これに対し、本実施形態に係るリアクトルD1においては、比較例2と同様に、コア2の存在によって、比較例2に係るリアクトルと同等程度にリアクトルD1から磁束線が外部に漏出するのを防止又は抑制することができる。また、リアクトルD1においては、図6のグラフBに示すように、電流の全範囲において安定したインダクタンス特性が得られ、かつ、そのインダクタンスが前記比較例1に対して大きいという利点を有する。
次に、本実施形態のように、帯状導体10が径方向に重なるように巻回されたフラットワイズ巻線構造を有する空芯コイル1の利点について述べる。図13は、帯状導体10が軸方向に重なるように巻回されたエッジワイズ巻線構造を有する空芯コイル1xを示す断面図である。図13において、前述の図1等に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。
空芯コイル1,1xは導体から構成されているので、該空芯コイル1,1xに通電すると、一般的に、磁力線に垂直な面(直交面)に渦電流が発生し、それによって損失(ロス)が発生する。この渦電流の大きさは、磁束密度が同一である場合には、磁束線と交差する面積、すなわち、磁束方向に垂直な連続する面の面積に比例する。空芯コイル1,1x内においては、磁束方向は軸方向に沿っているので、渦電流は、該空芯コイル1,1xを構成する帯状導体10の、軸方向に直交する径方向の面の面積に比例することになる。
このため、エッジワイズ巻線構造の空芯コイル1xでは、図13に示されるように、帯状導体10の径方向の面積が大きく、渦電流を生じやすいため、電気抵抗によって生じる損失よりも渦電流によって生じる損失の方が支配的となる。したがって、エッジワイズ巻線構造の空芯コイル1xでは、通電電流の周波数に損失が依存して、図14に示されるように、周波数の増加に伴い損失が増大し、比較的小さな電気抵抗によって初期損失が比較的小さくなる。図14は、リアクトルにおける周波数fと損失との関係を、巻線構造別(フラットワイズ巻線構造およびエッジワイズ巻線構造)に示した図であり、横軸は周波数fを示し、縦軸は損失を示す。
一方、本実施形態に係るリアクトルD1で採用されているフラットワイズ巻線構造においては、図1に示されるように、帯状導体10の径方向の面積が小さく、渦電流を生じ難い一方で、該帯状導体10の軸方向の面積が大きい。したがって、フラットワイズ巻線構造では渦電流が殆ど生じず、図14に示されるように、通電電流の周波数によらず、損失が略一定であり、比較的小さな電気抵抗によって初期損失も比較的小さくなる。
さらに、図13の矢印に示されるように、エッジワイズ巻線構造では、帯状導体10が軸方向に重ねられている。これに対し、図1に示されるフラットワイズ巻線構造では、帯状導体10の幅方向が軸方向に略一致し、連続しているため、エッジワイズ巻線構造よりも効果的に熱伝導を行うことができる。よって、前記損失および熱伝導の点で、フラットワイズ巻線構造は、エッジワイズ巻線構造よりも優れている。
さらに、本実施形態では、図15(a)に示されるように、フラットワイズ巻線構造において、空芯コイル1を構成する導体部材は、その幅Wが、径方向の長さ(以下、厚みという)t以上の帯状導体10である。換言すると、本実施形態では、導体部材の幅Wに対する厚みtのアスペクト比(t/W)が1以下であるような矩形断面を有する帯状導体10によって、空芯コイル1が構成される。
これにより、図15(b)に示されるように、導体部材の厚みtが幅Wより長くなるような矩形断面を有する導体部材10yによって構成された空芯コイル1yに比して、本実施形態のリアクトルでは、導体部材の径方向の面積が小さくなる。図15は、前記空芯コイル1,1yの半径分の断面形状を拡大して示す図である。その結果、フラットワイズ巻線構造がエッジワイズ巻線構造よりも損失の点で優れている理由と同様の理由により、渦電流損を小さくすることができる。特に、帯状導体10の厚みtに対する幅Wのアスペクト比(t/W)が1/10以下であると、渦電流損の発生を大幅に低減することができる。
その上で、前記帯状導体10の厚みtを、当該リアクトルD1の駆動周波数に対する表皮厚みδ以下としておくことで、ほぼ確実に渦電流損を無くすことができる。前記表皮厚みδは、
δ=√(2/ωμσ) ・・・(29)
である。ただし、ωは角周波数、μは透磁率、σは電気伝導率である。
さらに、本実施の形態のリアクトルD1では、空芯コイル1の上下両端面にそれぞれ対向するコア部材3,4の端板3b,4bの内壁面は、少なくともコイル端部を覆う領域において相互に平行に形成されている。また、これらの内壁面と、空芯コイル1の帯状導体10の幅方向とは、直交するように配置されている。これらの条件が満たされない場合には、帯状導体10の断面形状に係る条件が設定されていても、空芯コイル1の内部を通る磁束線が軸方向に平行にならない。そこで、本実施形態では、以下に説明するように、前記端板3b,4bの内壁面に、相互に平行とみなせるような平行度が設定される。
図16は、前記平行度の算出方法の説明図である。図16に示されるように、端板3b,4bの内壁面の間隔のうち、最も内周側の位置(以下、最内周位置という)における間隔をL1、最も外周側の位置(以下、最外周位置という)における間隔をL2とする。また、最内周位置から最外周位置までの範囲における間隔の平均値をL3とする。なお、前記平均値L3は、最内周位置と最外周位置との間において径方向に所定間隔で刻まれた複数の位置における間隔の平均値である。このとき、空芯コイル1の最内周位置における端板3b,4bの内壁面の間隔L1と、最外周位置における間隔L2との差(L1−L2)を、平均値L3で除算して得られる値((L1−L2)/L3)が、平行度として設定される。
図17〜図19は、本件発明者のシミュレーションによるもので、図17は前記平行度が−1/10であるときの磁束線図であり、図18は前記平行度が1/10ときの磁束線図であり、図19は前記平行度が1/100のときの磁束線図である。図19に示されるように、平行度が1/100のときには、空芯コイル1の内部を通る磁束線(点線で示す部分の磁束線)が、軸方向に平行になる。一方、図17および図18の矢印Q1,Q2に示されるように、平行度が−1/10、1/10のときには、空芯コイル1の内部を通る磁束線が軸方向に平行にならない。空芯コイル1の内部を通る磁束線が平行でないと、前述したように、渦電流損が大きくなり、インダクタンスが絶対的に小さくなる。
そこで、本件発明者は、平行度を種々変えつつ、磁束線の分布を検証した。その結果、本件発明者は、空芯コイル1の内部を通る磁束線を平行にするためには、平行度の絶対値を1/50以下、好ましくは1/100以下に設定する必要があるとの知見を得た。さらに、帯状導体10の幅方向が、前記端板3b,4bの内壁面と直交するように配置する必要があるとの知見を得た。このように構成することで、空芯コイル1の内部を通る磁束線が軸方向に平行となり、該帯状導体10での渦電流損を小さくでき、インダクタンスLを大きくできる。したがって、帯状導体10が、その幅方向に発生した磁束を、効率良くコア2に取り込むことができる。
さらに、本件発明者は、空芯コイル1の軸芯から該空芯コイル1の外周面までの半径R(図46参照)と、空芯コイル1を構成する帯状導体10の幅Wとの比R/Wに着目し、比R/Wを変化させたときの磁束線分布の態様についてシミュレーション実験を行った。図20〜図29は、リアクトルD1の全体体積、帯状導体10の矩形断面の断面積、空芯コイル1の巻数をそれぞれ一定値とした場合に、前記比R/Wを、「10」,「5」,「3.3」,「2.5」,「2」,「1.7」,「1.4」,「1.3」,「1.1」,「1」にそれぞれ設定した場合の磁束線図である。これらの図20〜図29においても、隣接する巻線間の境界線の記載は省略されている。
これらの磁束線図から判るように、比R/Wが5以上に設定される場合(図20および図21)には、コア2の外部に磁束が漏れており、周辺機器に影響を及ぼすおそれがあるため、実用上問題がある。また、前記比R/Wが1.3以下に設定される場合(図27〜図29)には、空芯コイル1の内部を通る磁束線が軸方向に対して平行にならないため、渦電流損が大きくなり、効率が低下するおそれがある。
一方、リアクトルD1を搭載するインバータが良好な制御性を有するためには、電流の変化に対するインダクタンスLの変化が少なく、かつ安定していることが必要である。そこで、本実施形態では、このインダクタンスLの安定性を表す指標として、
安定度I(%)={(Lmax−Lmin)/Lav}×100 ・・・(30)
を設定する。ただし、Lminは、前記インバータに供給し得る電流の範囲(以下、使用範囲という)のうち最小の電流におけるインダクタンス(以下、最小インダクタンスという)であり、Lmaxは、前記電流の範囲のうち最大の電流におけるインダクタンス(以下、最大インダクタンスという)であり、Lavは、前記電流の範囲における複数の電流値にそれぞれ対応する複数のインダクタンスの平均値(以下、平均インダクタンスという)である。上式によれば、安定度Iの値が小さいほど、インダクタンスの安定性が高くなる。
本件発明者は、この安定度Iと、比R/Wとの関係について検討した。図30は、前記比R/Wを横軸とし、前記安定度Iを縦軸として、前記比R/Wの変化に対する安定度Iの変化を表すグラフKを示している。なお、この図30においては、各リアクトルのインダクタンスを別の縦軸で表すことにより、比R/Wの変化に対する最大インダクタンスLmax、最小インダクタンスLmin、平均インダクタンスLavの変化を表すグラフも示されている。
図30に示されるように、最大インダクタンスLmaxは、比R/Wにほぼ比例して増大する。これに対して、最小インダクタンスLminは、前記比R/Wが約6のときに最大となるような山形波形を有するように変化する。また、平均インダクタンスLavは、前記比R/Wが約8のときに最大となるような山形波形を有するように変化する。これらの結果、安定度Iの増加率は比R/Wの値に応じて異なるものの、安定度Iは総じて比R/Wが大きくなるに伴って増大するという実験結果が得られた。
そこで、上述のようにインバータに良好な制御性能を備えさせるためには、前記安定度Iが10%以下に抑えられる必要がある。したがって、図30を参照すると、前記比R/Wを、R/W≦4に設定することが必要である。したがって、前記比R/Wを、1.3以上、4以下に選ぶことで、渦電流損を抑えつつ、インダクタンスLも安定させることができる。
前記コア部材3,4として、上述のような磁気的に等方性を有するコアを実現する場合に、軟磁性粉末が圧粉成型された圧粉コアを用いることで、原料粉末を型に入れて成型することで所望の形状に作成することができるとともに、材料費が安く、所望の磁気特性(密度)を比較的容易に得ることができる。一方、前記コア部材3,4として、フェライトコアを用いることで、原料粉末を型に入れて成型(焼成)することで、所望の形状に作成することができる。しかしながら、磁束密度が高い方が漏れ磁束を抑制でき、かつ小型化できるため、ソフトフェライトよりも鉄系軟磁性粉末の圧粉コアが好ましい。
また好ましくは、前記空芯コイル1と、少なくとも前記コア2の端板3b,4bにおける空芯コイル1の対向面との間に、絶縁耐性をより向上させるために、絶縁部材が配置される。図31は、そのような絶縁部材IS1−1,IS1−2;IS2−1,IS2−2,IS3(総称するときは、以下参照符号ISで示す)をそれぞれ備えるリアクトルD1a,D1b,D1cの断面図である。前記絶縁部材ISは、たとえばPEN(ポリエチレンテレフタレート)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性を有する樹脂のシートである。
図31(a)で示すリアクトルD1aにおける絶縁部材IS1−1,IS1−2は、空芯コイル1の端部と、対向するコア部材3,4の端板3b,4bの内壁面との間に配置される。一方、図31(b)で示すリアクトルD1bにおける絶縁部材IS2−1,IS2−2は、前記端板3b,4bに対向する部分だけでなく、空芯コイル1の内周側および外周側の一部を覆うような筒状の立ち上がり部を有する。さらに図31(c)で示すリアクトルD1cにおける絶縁部材IS3は、前記絶縁部材IS2−1,IS2−2における立ち上がり部を延長し、相互に接続したものであり、すなわち該絶縁部材IS3は環状のチューブのように形成され、その内部に空芯コイル21が収容される。このような構成の絶縁部材ISをさらに備えることによって、空芯コイル1とコア2との間における絶縁耐力をより向上することができる。
表2は、図31(a)に示す構成のリアクトルD1aにおいて、絶縁部材IS1−1,IS1−2の材料および厚さ(μm)の変化に対する絶縁耐圧(2.0kV)の変化を示す図である。表2の実験では、絶縁部材IS1−1,IS1−2として、先ずカプトンシート(ポリイミド)を選択し、さらにその厚さが、25μm、50μmおよび100μmのものを用い、それぞれのシートに2.0kVの電圧を印加して、絶縁耐圧の結果(絶縁が保たれているか否か)を求めている。次に、前記絶縁部材IS1−1,IS1−2として、PENシートを選択し、さらにその厚さが、75μmおよび125μmのものを用い、それぞれのシートに2.0kVの電圧を印加して、絶縁耐圧の結果を求めている。続いて、前記絶縁部材IS1−1,IS1−2として、PPSおよびノーメックスのシートを選択し、共に100μmの厚さとして、2.0kVの電圧を印加して、絶縁耐圧の結果を求めている。
表2から明らかなように、絶縁部材IS1−1,IS1−2として、厚さ100μmのカプトンシート(ポリイミド)が用いられる場合、厚さ125μmのPENシートが用いられる場合、厚さ100μmのPPS(ポリフェニレンサルファイド)が用いられる場合、および厚さ100μmのノーメックスが用いられる場合には、空芯コイル1とコア2との間で良好な絶縁が得られている。したがって、絶縁部材ISの厚さは、100μm以上であることが好ましい。
或いは、前記絶縁部材ISとして、上述のような樹脂に限らず、BN(チッ化ボロン)セラミック等が用いられてもよい。その場合、上述のようなシート体に限らず、コンパウンドの充填によって絶縁部材ISが構成されてもよい。前記の充填は、コア部材3,4の内面に適量の充填材を塗布した後に、空芯コイル1を収容し、該コア部材3,4を接合することで実現することができる。なお、充填材の硬度は用途仕様に依存し、その用途(硬度)によっては、熱や触媒による硬化処理を必要とする場合もある。こうして、空芯コイル1とコア2との間における絶縁耐力をより向上させることができる。
また、特に充填材などによって軸方向(上下方向)の熱伝導性が良くなると、空芯コイル1で発生するジュール熱を前記絶縁部材ISを介してコア部材3,4に伝導させ、効率良く外部に排熱することが可能となる。また、このため、外部から該コア部材3,4を冷却するようにすれば、リアクトルD1の内部が高熱になるのを一層防止することができる。
ここで、充填材に磁性体を用いると、効果面より、弊害を生じる可能性がある。しかしながら、磁性流体は振動などの悪環境でも常に隙間を埋めて伝熱性能を確保できるメリットもあり、総ての磁性体が一概に不適とは言えず、低透磁性の磁性体で、効果面が大きい場合は、前記充填材として、低透磁性の磁性体が充填されてもよい。
(実施の形態2)
図32は、本発明の実施の第2の形態に係るリアクトルD2の一部分を切り欠いて示す斜視図である。このリアクトルD2は、前述の図1で示すリアクトルD1に類似している。上述のリアクトルD1では、基本的に、空芯コイル1およびコア2は円筒状に形成されるが、これに限定されず、四角筒状、六角筒状および八角筒状等の多角筒状に形成されてもよい。また、空芯コイル1とコア2との一方が円筒状で、他方が角筒状などの組み合わせも可能である。図32のリアクトルD2では、空芯コイル11およびコア12が共に四角筒状に形成されている。このため、コア部材13,14における突起部13d,14dは四角錘台状に形成され、空芯コイル11の空芯部S2は四角筒状の空間を有する。
本実施の形態のリアクトルD2は、図32に示すように、フラットワイズ巻線構造を有する前記空芯コイル11と、該空芯コイル11を覆うコア12とを備えて構成される。前記コア12を構成する一対のコア部材13,14は、磁気的に等方性を有する材料から成り、四角筒状の外周部13a,14aと、四角板状の端板13b,14bとを備えて構成される。こうして形成された四角筒状の凹所13c,14cに、前記空芯コイル11が収納される。前記端板13b,14bにおいて、空芯コイル12に対向する内壁面の中央部には、前記突起部13d,14dが形成される。なお、この空芯コイル12のように、多角筒状のコイルである場合には、前述の空芯コイル1における半径Rを、該空芯コイル12の中心から外周面までの最短距離と読み替える。
図33は、上述のように構成されるリアクトルD2における磁束密度をベクトルで示す図であり、コア12を二分した軸線方向断面図である。また、図34には、40Aでのインダクタンスが略同じになる条件において、図1に示す円筒状のリアクトルD1と、図32に示す四角筒状のリアクトルD2とのインダクタンス特性を比較して示す。図34の横軸は電流(A)であり、縦軸はインダクタンス(μL)である。図33で示すように、四角筒状のリアクトルD2によっても、空芯コイル11内の磁束線が軸方向に略平行となり、図1に示される円筒状のリアクトルD1と同様な作用効果を有する。しかも、外形の最大寸法が同じ場合、図34から理解されるように、この四角筒状のリアクトルD2のインダクタンスは、円筒状のリアクトルD1のインダクタンスよりも大きい。さらに、四角筒状のリアクトルD2のインダクタンス特性は、円筒状のリアクトルD1のインダクタンス特性と同様のプロファイルである。これらのインダクタンス特性は、比較的電流値の小さい範囲(図34では約80A以下の範囲)では略一定であり、その範囲を超えると、通電電流の増加に伴って徐々に減少している。
(実施の形態3)
図35は、本発明の実施の第3の形態に係るリアクトルにおけるコア部材23を内方から見た正面図である。このコア部材23は、前述のコア部材3,4に類似し、コア部材3に対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。本実施の形態のコア部材23では、冷却用の凹溝23a,23bが設けられる。凹溝23bは、前記突起部3dの周囲を囲む環状に形成され、凹溝23aは、複数が周方向に等間隔に設けられ、前記凹溝23bから外周側に向けて放射状に延び、筒部3aを貫通して外部へ開放している。そして、前記凹溝23bは、交互に、或いは一直径線を境界に、2つに分割され、一方から、空気や冷却水などの冷却媒体が供給され、他方から排出される。こうしてコアを強制冷却することにより、リアクトルの放熱性能を向上することができる。
(実施の形態4)
図36(a)〜38(a)は、本発明の実施の第4の形態に係るリアクトルD4a,D4b,D4cの軸線方向断面図であり、図36(b)〜38(b)は、図36(a)〜38(a)において、空芯コイル1付近を拡大して示す断面図である。これらのリアクトルD4a,D4b,D4cは、前述の図1で示すリアクトルD1および図31(c)で示すリアクトルD1cに類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。これらのリアクトルD4a,D4b,D4cは、先ずコア2の外部に、ヒートシンクHSをさらに備えている。
前記コア2を構成するコア部材3,4の一方(図36〜38ではコア部材4)が、伝熱部材PG1を介して、前記ヒートシンクHSに固定される。前記コア部材3,4の両方にヒートシンクHSが設けられてもよい。このように構成することで、リアクトルD4a,D4b,D4cで生じた熱を外部へ放熱することができる。
次に、前記リアクトルD4a,D4b,D4cでは、空芯コイル1を構成する帯状導体部材10間を絶縁するために用いられる絶縁材が、端面側にも設けられて、該空芯コイル1の熱をコア部材3,4へ伝導する伝熱部材としても用いられている。具体的には、図36で示すリアクトルD4aでは空芯コイル1の一端側(ヒートシンクHS側)に伝熱部材PG1が設けられ、図37で示すリアクトルD4bでは空芯コイル1の他端側(ヒートシンクHSとは反対側)にもさらに伝熱部材PG2が設けられ、図38で示すリアクトルD4cでは内部の空間に総て伝熱部材PG3が充填されている。前記伝熱部材PG1〜PG3には、伝熱グリス等が用いられる。
このような伝熱部材PG1〜PG3をさらに介在することで、空芯コイル1で発生した熱を、コア部材3,4を介して、ヒートシンクHSへさらに効率的に伝導することができる。これによって、前記帯状導体10間を絶縁するために用いられる絶縁材の絶縁性の低下(劣化)を防ぎ、該絶縁材の絶縁性を維持することが可能となる。
詳しくは、前記帯状導体10間の絶縁や絶縁部材IS3としては、前述の表2で示すように、ポリイミドやPEN等の樹脂材料が用いられる。そこで、ヒートシンクHSのみが設けられ、空芯コイル1とコア部材3,4との間に伝熱部材PG1〜PG3が設けられない構成の場合、リアクトルの温度がこれら樹脂の耐熱温度を超えてしまう。しかしながら、図36〜38に示されるように、ヒートシンクHSおよび伝熱部材PG1〜PG3が設けられる場合には、リアクトルD4a,D4b,D4cの温度は、高くても140℃程度で略定常状態(熱平衡状態)となり、これらの樹脂材料の耐熱温度以下に維持することができる。前記伝熱部材PG1〜PG3の熱伝導率は、0.2〔W/mK〕以上であることが好ましく、1.0〔W/mK〕以上であることがより好ましい。また、上述では、放熱構造をリアクトルD1に適用した例について説明したが、リアクトルD2に適用した場合も同様に説明することができる。
(実施の形態5)
図39(a)および図40(a)は、本発明の実施の第5の形態に係るリアクトルD5の正面図であり、図39(b)および図40(b)は、それぞれ図39(a)および図40(a)における切断面線A1−A1およびA2−A2から見た断面図である。このリアクトルD5は、ヒートシンクHSを備えている点で前述の図36〜38で示すリアクトルD4a,D4b,D4cに類似しているが、伝熱部材PG1〜PG3がさらに設けられていてもよい。
このリアクトルD5では、コア32が、磁気的に等方性を有する材料から成る2つのコア部材33,34を組み合わせて成る場合に、前記ヒートシンクHSが、それらのコア部材33,34を取り付けるための基台として用いられる。その取付けには、先ず空芯コイル1を収容した状態で前記2つのコア部材33,34が、締結部材であるボルト35およびナット36によって相互に締結された後、固定部材であるボルト37によって前記ヒートシンクHSに固定される。そして、前記ボルト35およびナット36と、ボルト37とが、互いに異なる位置に配置される。図39および図40の例では、コア部材33,34の中心にはボルト35およびナット36の組み合わせが配置されるとともに、前記ボルト35およびナット36とボルト37とが、それぞれ周方向に等間隔(120°)に、かつ交互(60°毎)に配置されている。これによって、前記ボルト35およびナット36とボルト37とが、それぞれ正三角形の各頂点に配置されることになり、安定的に締結を行うことができる。また、ボルト35の孔39については、適宜座ぐりが施されている。前記ボルト35の孔39およびボルト37の孔40を形成するために、コア部材33,34は、六角筒状に形成される。
このようにコア部材33,34の組み合わせ用の孔39と、ヒートシンクHSへの固定用の孔40とを異なる位置に形成することで、リアクトルD5の組み立てや取り付けの生産性を向上することができる。詳しくは、コア部材をクランプなどで仮止めする方法では、仮止めした後、リアクトルを基台に固定する際には、クランプを外して固定する必要があり、組み立ての生産性が低くなる。ボルトとナットとで仮止めを行う場合も同様に、仮止めを解いた後に、リアクトルを基台に固定しなければならない。
なお、前述の伝熱部材PG1〜PG3が設けられ、かつその伝熱部材PG1〜PG3が硬化性樹脂である場合には、ボルト35およびナット36によってコア部材33,34が締結された状態で、加熱炉などの硬化を行う装置に搬入することができ、面積の大きなヒートシンクHSと一体化されていない分、取り扱いが容易である。前記基台として、前記ヒートシンクHSに代えて、筐体などが用いられてもよい。
(実施の形態6)
図41は、本発明の実施の第6の形態に係るリアクトルに用いられる帯状導体10’を説明するための図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)の切断面線B−Bから見た断面図、(c)は前述の帯状導体10の模式図、(d)はこの帯状導体10’の模式図である。すなわち、前述の帯状導体10が一様な中実導体で形成されているのに対して、この帯状導体10’は、導体層101と絶縁層102とを厚み方向に積層したものを複数組積層(図41では、4層の導体層101間に、3層の絶縁層102が挟み込まれている)するとともに、長手方向における各端部103を、コア2の外部において、隣り合う導体層同士が前記絶縁層102を挟むことなく短絡されて構成される。
これは、図41(c)および(d)で示すように、渦電流の大きさは、磁束密度が同一である場合には、磁力線(磁束線)に垂直な連続する面(一続きの面)の面積に比例することから、1本の導体として巻回される前述の帯状導体10を、この帯状導体10’のように磁力線(磁束線)に垂直に交差する方向で複数層に分割形成しておくことで、前記渦電流を小さくできるためである。したがって、導体断面積、すなわち流すことができる電流量は減少するものの、渦電流損をさらに小さくすることができるとともに、同じ磁束を発生させても、空芯コイルの電気抵抗も小さくすることができる。
(実施の形態7)
図42は、本発明の実施の第7の形態に係るリアクトルに用いられる空芯コイル1”を説明するための図である。この空芯コイル1”における帯状導体10”は、前述の帯状導体10’に類似している。すなわち、この帯状導体10”は、複数の導体層101と絶縁層102とを厚み方向に積層したものを複数組積層(図42では、2層の導体層101間に、1層の絶縁層102が挟み込まれている)するとともに、長手方向における2つの端部の内、巻回された状態でコア2外に引き出される外周側の端部103が短絡される。これに対して、前記帯状導体10”の内周側の端部104は、各導体層101自体が、あるいは各導体層101から夫々別々に口出しされたリード線105が、前記コア2の外部に設けられたインダクタコア106に互いに逆相になるように経由されてから、接続点107で接合されている。
これは、先ず前述の通り、渦電流の大きさは、磁束密度が同一である場合には、磁力線(磁束線)に垂直な連続する面(一続きの面)の面積に比例することから、1本の導体として巻回される前述の帯状導体10を、この帯状導体10”のように磁力線(磁束線)に垂直に交差する方向で複数層に分割形成しておくことで、前記渦電流を小さくするためである。ここで、渦電流は、磁場中では線材の表裏で逆方向に流れ、磁場が減少するにつれて徐々に導体内をリターンし、また磁場の交差状況が変化するところで突然に導体内をリターンする。そのため、コイル中心付近において発熱が顕著となる傾向がある。そこで上述のようにコア2の外部において、端部103および接続点107が接合されることで、コア2から離れた場所で渦電流のリターンを生じさせることができて、空芯コイル1”内部の発熱を防止することができる。
一方、インダクタコア106は、逆位相の渦電流にのみ大きな抵抗として働いて、その電流を抑制するが、同位相で流れてくる駆動電流に対しては何ら影響を与えない。したがって、複数層に分割形成された導体層101が、インダクタコア106を互いに逆相になるように経由した後、前記接続点107で接合されることで、さらに効果的に渦電流損を小さくすることができる。
なお、図42は、導体層101が2層の例であり、さらに多層の場合には、前記インダクタコア106および接続点107が複数になる。図43には前記導体層101が3層の例を示し、図44には前記導体層101が4層の例を示す。3層の例では、インダクタコア106が2つ設けられ、一方のインダクタコア106−1により、第1導体層101−1を流れる電流と第2導体層101−2を流れる電流とを互いに逆相とする。また、他方のインダクタコア106−2により、第3導体層101−3を流れる電流と前記一方のインダクタコア部106を経由した第2導体層101−2を流れる電流とを互いに逆相とした後、各インダクタコア106−1,106−2を流れた電流を接続点107で合流させている。
導体層101が4層の場合には、インダクタコア106が3つ設けられる。そして、第1のインダクタコア106−1により、第1導体層101−1を流れる電流と第2導体層101−2を流れる電流とを互いに逆相とした後、接続点107−1でそれらの電流を合流させる。さらに、第2のインダクタコア106−2により、第3導体層101−3を流れる電流と第4導体層101−4を流れる電流とを互いに逆相とした後、接続点107−2でそれらの電流を合流させる。そして、それぞれ合流されてなる2つの電流を、第3のインダクタコア106−3により互いに逆相とした後、接続点107−3で合流させている。
ここで、帯状導体10が厚さ0.6mmの単層であり、空芯コイル1としての巻き数が32ターンである図1のようなリアクトルD1の渦電流損を調べた。また、導体層101が厚さ0.3mmの2層であり、コア2の外部において各導体層101−1,101−2の端部が接合された構成の第1複層リアクトルの渦電流損を調べた。また、導体層101が同様に厚さ0.3mmの2層であるものの、各導体層101−1,101−2からそれぞれ別々に口出しされたリード線105が、コア2の外部に設けられたインダクタコア106に互いに逆相になるように経由してから接合される構成の第2複層リアクトルの渦電流損を調べた。これらは、具体的にはLCRメータを用いて、10kHzのときの抵抗値で測定される。
その結果、第1複層リアクトルでは渦電流損が単層(基本)の場合の約56%に、第2複層リアクトルでは渦電流損が単層(基本)の場合の約32%に、それぞれ低減できていた。こうして、帯状導体10を多層に分割形成することで、さらにインダクタコア106を用いることで、渦電流損を低減することができる。
(実施の形態8)
図45は、本発明の実施の第8の形態に係るリアクトルD8を模式的に示す平面図である。一般に、リアクトルは変圧器として用いることが可能であり、たとえば日本国特開2001−345224号公報に開示された三相変圧器がある。その三相変圧器は、ケーブル巻き線型である。その三相変圧器には、U相、V相およびW相の三相に対応する3個の鉄心の上部と下部とに鉄心ヨークが設けられることによって、磁気回路が形成されている。このような鉄心が、角のある数字の“8”の字の形に組み合わされることによって、磁力線の導線が構成されている。このような構成の三相変圧器(リアクトル)は、電力伝送系統の途中に配置され、電圧の安定化に役立つ。また、近年のインバータ技術の進歩により、保守の必要を低減するために、工場や自動車等に、交流電動機が配置されるようになってきている。その交流電動機へは、インバータから3本の三相交流の動力電線が向かうことになるが、力率改善のために、通常、それらの間に、三相変圧器(リアクトル)が直列に接続される。
以下に、自動車用のインバータについて述べる。近年のハイブリッド自動車等の動力源の主流は、永久磁石を内蔵する同期交流電動機である。乗り心地を向上する観点から、この電動機には回転の滑らかさが要求される。永久磁石型同期交流電動機は、たとえば回転子側の磁極数が4で、固定子側の磁極数が6である組合せ(4対6)を基本とする。現実的には、回転子側の磁極数が8で、固定子側の磁極数が12である組合せ(8対12)や、回転子側の磁極数が16で、固定子側の磁極数が24である組合せ(16対24)が用いられており、極数の増加に従ってトルク変動、いわゆるコギングトルクが緩和され、振動発生が抑えられて乗り心地の向上に繋がっている。
そして、上述のように回転子と固定子との磁極数が異なるため、回転子の回転に伴って、U相、V相およびW相の励磁コイルインダクタンスが非対称に変化する。その結果、インバータから印加される三相交流電圧波形に歪みが生じ、理想とする正弦波波形とならないため、トルク変動が起きてしまう。そのため、ハイブリッド自動車等に車載される車載インバータと電動機との間に、前記三相リアクトルを挿入することによって、非線形インダクタンスに起因する不要な電圧波形、すなわち、高調波電圧成分を吸収して緩和する対策が有効である。
しかしながら、上述した従来の三相変圧器は、その形状特性から、比較的体格が大きく、搭載スペースに限界がある自動車へ搭載する際に不都合である。そこで、本実施の形態のリアクトルD8では、絶縁材料で絶縁被覆された長尺の導体部材を巻回して形成される単層コイルを基本単位として、図45に示されるように、U,V,Wの各相に対応した3個の単層コイル51u,51v,51wを厚み方向に積層して形成された3層空芯コイル51が使用される。これら3個の単層コイル51u,51v,51wの巻き始め端は、互いに電流線路の第1端子51au,51av,51awとして独立している。また、これら3個の単層コイル51u,51v,51wの巻き終わり端も、電流線路の第2端子51bu,51bv,51bwとして、互いに独立している。
そして、これら3個の単層コイル51u,51v,51wは、電気絶縁フィルムで電気的に絶縁されつつ厚み方向に積層され、コア2内に緊結に固定される。長尺の帯状導体10の断面は、積層し易いように、平角形状であることが好ましい。これら積層された3個の単相コイル51u,51v,51wは、電気的には絶縁されているため導通しないが、積層による近接効果で磁気的には相互結合しており、従来の三相リアクトルのように磁気回路を形成している。
このようにリアクトルD8を構成することによって、1個分のコイルスペースに三相分のコイルが収容可能であるので、同じ電力容量の従来型の三相リアクトルに較べて、体格を小さくすることができる。このような構成のリアクトルD8は、特に、搭載スペースの限られた電気自動車、ハイブリッド自動車、電車およびバス等の移動体(車両)に搭載される場合に好適である。また、このような構成のリアクトルD8は、インバータから交流電動機への動力線において、インバータからの高調波歪電圧(いわゆるリップル)を吸収して平滑化することができ、この結果、正弦波波形に近い波形を電動機へ出力することができる。このことにより、高調波の電動機への流入がなくなり、リップル電圧、サージ電圧の発生を抑制でき、異常電流による機器の損傷を防ぐことができる。ひいては、インバータ出力素子の耐電圧を下げることができ、より安価な部品(素子)を使うことが可能となる。さらに、交流電動機で発生する逆起電力に起因する異常な逆電圧が、インバータに逆流することを途中で吸収し、インバータ出力素子の損傷も防ぐことが可能となる。また、このような構成のリアクトルDは、電気絶縁フィルムとともに三相分のコイル51u,51v,51wが緊結に固定されるので、構造体として高い剛性を備えており、交流電流の印加によって生じる磁気力収縮振動を抑制することもできる。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ充分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に可能であると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するようなものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。