JP5148788B2 - 感熱孔版印刷用マスター及びその製造方法並びに印刷システム - Google Patents

感熱孔版印刷用マスター及びその製造方法並びに印刷システム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フラッシュバルブなどによる閃光照射や赤外線照射、レーザー光線等のパルス的照射、あるいはサーマルヘッド等によって穿孔製版される感熱孔版印刷用マスター及びその製造方法に関するものである。また、本発明は、上記感熱孔版印刷用マスターを用いた印刷システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、熱可塑性フィルムにインキ通過性の支持体として、天然繊維、合成繊維の単独又は混抄した多孔性薄葉紙を接着剤で貼り合わせた感熱孔版印刷用マスターが用いられている。しかし、こうした繊維から成る多孔性薄葉紙を支持体として用いた感熱孔版印刷用マスターには、次のような問題点がある。
(1)接着剤を用い多孔性薄葉紙とフィルムを貼り合わせることにより、接着剤が多孔性薄葉紙の繊維間に鳥の水掻きのように集積し、その部分においてサーマルヘッドによる穿孔が行われにくくなり、インキの通過が妨げられ印刷ムラが発生しやすくなる。
(2)多孔性薄葉紙の繊維自体がインキの通過を妨げ、印刷ムラが発生しやすくなる。
(3)多孔性薄葉紙の繊維目によりフィルム面の平滑性が低下しサーマルヘッドとの密着が悪く未穿孔部ができるため印刷ムラが発生する。
【0003】
こうした問題を改善するためにいくつかの提案がなされているが、いまだ満足するものは得られていない。例えば、特開平3−193445号公報には、多孔性支持体として、繊度1デニール以下の合成繊維から成る薄葉紙を用いることが提案されているが前記の問題解決には十分とはいえない。
【0004】
特開昭62−198459号公報には、熱可塑性樹脂フィルムに、実質的に閉じた形状の放射線硬化型樹脂パターンをグラビア、オフセット、フレキソ等の印刷法により多孔性支持体を形成する方法が提案されている。しかし、この印刷法では樹脂パターンの線幅を50μm以下にすることは困難であり、印刷部が穿孔できず、印刷ムラとなる。
【0005】
また、特開平3−240596号公報には、水分散性ポリマーとコロイダルシリカから成る分散液を熱可塑性樹脂フィルムの表面に塗布、乾燥し、多孔性支持体を設け、粘度の低いインキジェット用インキで印刷する方法が提案されている。しかし、この方法では多孔層の開孔径が小さく、従来用いられている孔版印刷用インキではインキの通過が悪く、十分な印刷濃度が得られない。
【0006】
一方、特開昭54−33117号公報には、多孔性支持体を用いない実質的に熱可塑性樹脂フィルムのみから成る感熱孔版印刷用マスターが提案されている。
この方法では熱収縮率が高く、フィルム厚み3μm以下のフィルムについてはサーマルヘッドによる穿孔性も良好で印刷品質は優れているが、コシが弱く印刷機での搬送ができない問題が有る。搬送性を良くするため厚いフィルムを使用するとサーマルヘッドによる穿孔性が低下し、印刷ムラが発生する。
【0007】
本発明者等は先に熱可塑性フィルムの片面に多孔性樹脂膜を設けた感熱孔版印刷用マスターを提案した(特開平8−332785号公報、特開平10−24667号公報)。これらのマスターはそれまで知られたマスターより優れており、上記問題の発生が無い。
【0008】
ところで、マスターに識別信号を設けることは、人又は機械による識別で商品管理、印刷機への異機種用マスターの誤装着を防ぐ効果があるほか、マスター装填時に印刷機側で自動的にマスターの情報を認識し、製版条件や印刷条件を自動変更させることができる等、利点は多い。
【0009】
しかし、従来の多孔性繊維膜とフィルムを貼り合わせたマスターの場合には支持体である多孔性繊維膜の空隙率が高く、支持体上に検知可能な識別信号を形成させることは困難であった。フィルム側に識別信号を設ける場合には識別信号を形成させた部分だけ穿孔感度が低下するので好ましくない。また、巻芯にセンサーによる検知が可能な識別信号を設ける場合には、マスターの透明性が低いために、巻芯から2〜3周マスターを巻いてしまっただけで識別信号を検知できなくなり実用的でない。
【0010】
上記熱可塑性フィルムの片面に多孔性樹脂膜を設けた感熱孔版印刷用マスター(特開平8−332785号公報、特開平10−24667号公報)は、支持体である多孔性樹脂膜の空隙率が従来の多孔性繊維膜に比べ低く、支持体の形状としては識別信号の形成に適している。
【0011】
しかしながら、熱可塑性樹脂フィルム上に流動体を塗布、乾燥して形成される多孔性樹脂膜は、溶剤に侵されやすいために、支持体上に油性塗料で識別信号を記入する方法では、塗料に含まれる有機溶剤が多孔性樹脂膜の一部を溶解し、樹脂膜のインキ通過性を低下させてしまう。識別信号を設けた部分だけのインキ通過性が低下するために、印刷画像に濃度ムラが発生してしまうという問題が起こる。
【0012】
また、本発明者等は特開平10−147075号公報、特開平10−236011号公報にて、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に樹脂からなる多孔性樹脂膜を有し、更にその表面に繊維状物質からなる多孔性繊維膜を積層してなる感熱孔版印刷用マスターを提案しており、これらのマスターでは上記識別信号の問題は発生しにくいが、識別信号形成用塗料の塗布量が多い場合には塗布液が多孔性樹脂膜まで浸透し、多孔性繊維膜を有しないマスターと同様の不具合が発生する。また、多孔性繊維膜を積層してなるマスターはフィルム及び多孔性支持体が貼り合わせ時に多孔性樹脂膜及びフィルムが多孔性繊維膜表面の凹凸にならいやすいためにフィルム面の平滑度が低下し、穿孔感度が低下するという問題が有る。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような従来技術の実情に鑑みてなされたものであって、熱可塑性樹脂フィルム上に、流動体を塗布、乾燥して成る多孔性樹脂膜を有する感熱孔版印刷用マスターの、高印刷品質を損なうことなく、識別信号を作成した感熱孔版印刷用マスター及びその製造方法を提供することをその課題とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、下記の感熱孔版印刷用マスター及びその製造方法、該マスターを用いた印刷システムが提供される。
(1)熱可塑性樹脂フィルム上に、流動体を塗布、乾燥して成る多孔性樹脂膜を少なくとも有する感熱孔版印刷用マスターにおいて、水性塗料を用いて多孔性樹脂膜側に識別信号を作成したことを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。
(2)水性塗料が表面に酸性基を持つ親水性カーボンブラック顔料を含むことを特徴とする上記(1)の感熱孔版印刷用マスター。
(3)水性塗料がO/W型エマルションであることを特徴とする上記(1)〜(2)の感熱孔版印刷用マスター。
(4)識別信号がグラビアローラーにて形成されたものであることを特徴とする上記(1)〜(3)の感熱孔版印刷用マスター。
(5)識別信号がスタンプにて形成されたものであることを特徴とする上記(1)〜(3)の感熱孔版印刷用マスター。
(6)多孔性樹脂膜に、該多孔性樹脂膜を構成する樹脂の10〜100重量%のシリカを含有させたことを特徴とする上記(1)の感熱孔版印刷用マスター。
(7)多孔性樹脂膜に、該多孔性樹脂膜を構成する樹脂の20〜200重量%のタルクを含有させたことを特徴とする上記(1)〜(5)の感熱孔版印刷用マスター。
(8)多孔性樹脂膜が水性塗料により着色され、その色が着色信号を形成していることを特徴とする上記(1)〜(7)の感熱孔版印刷用マスター。
(9)合成樹脂を溶解度の異なる複数の溶剤に混合し、可溶化状態とし、熱可塑性樹脂フィルム上に一定厚みで塗布し乾燥させることにより上記(1)の感熱孔版印刷用マスターを製造することを特徴とする感熱孔版印刷用マスターの製造方法。
(10)溶解した合成樹脂を含む油中水型乳化液を、熱可塑性樹脂フィルム上に一定厚みで塗布し乾燥させることにより上記(1)の感熱孔版印刷用マスターを製造することを特徴とする感熱孔版印刷用マスターの製造方法。
(11)上記(1)〜(8)の感熱孔版印刷用マスターとその識別信号の検知装置を用いたことを特徴とする印刷システム。
前記識別信号は、たとえば、文字、記号、バーコードの他、着色による色識別等によって作成されたものが挙げられる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の感熱孔版印刷用マスターは、熱可塑性樹脂フィルム上に、流動体を塗布、乾燥して成る多孔性樹脂膜を少なくとも有する感熱孔版印刷用マスターにおいて、水性塗料を用いて多孔性樹脂膜側に識別信号を作成したことを特徴とする。
【0016】
熱可塑性樹脂フィルム上に、流動体を塗布、乾燥して成る多孔性樹脂膜を少なくとも有する感熱孔版印刷用マスターの支持体(本発明のマスターにおいては多孔性樹脂膜が該当する)に油性塗料を塗布し識別信号を作成する方法では、油性塗料に含まれる溶剤によって多孔性樹脂膜の一部が溶解し、識別信号を形成させた部分のインキ通過性が他の部分よりも低くなってしまう、という問題が生じるため、その問題を解決するために、本発明者は様々な実験を行った。
【0017】
多孔性樹脂膜ではなく、マスターのフィルム側に識別信号を設けた場合には、油性塗料の塗布、着色シートの転写等、その方法に依らず、いずれの場合も、識別信号がサーマルヘッドによるフィルムの穿孔性を低下させるという問題が発生した。
前記課題を解決するために種々検討した結果、多孔性樹脂膜側に、水性の塗料によって識別信号を作成する方法を採用することにより、多孔性樹脂膜に悪影響が無く、良好な印刷品質を得ることができた。
【0018】
ただ、一般の染料や顔料を溶解又は分散した水性塗料によって形成した識別信号は、従来の油性塗料を用いて形成した識別信号に比べて定着性が低い傾向が有り、ロール状に巻いたマスターの保管中に多孔性樹脂膜側の識別信号がフィルム側に転移し、フィルムの穿孔感度を低下させたり、サーマルヘッドによる穿孔中に塗料や顔料が脱落してサーマルヘッドに固着して正常なフィルムの穿孔を妨げたりすることがある。
【0019】
そこで本発明者が鋭意研究したところ、定着性の高い水性塗料を用いることにより、前記課題を解決できることを見出した。
なお、ここでいう「定着性の高い」とは、水性塗料を多孔性樹脂膜側に使用した際に生ずる問題を解決するに十分な定着性、保管中の顔料のフィルム側への転移や、穿孔中のサーマルヘッドへの顔料固着が殆ど起こらない程度の定着性を指す。
本発明で採用する定着性の高い水性塗料としては、特に化学処理を施して表面に酸性基を設けたカーボンブラックを水中に分散し、これを多孔性樹脂膜に塗布・乾燥し識別信号を形成したものが好適である。
【0020】
前記水性塗料は、定着性が良好で保管中の顔料のフィルム側への転移や、穿孔中のサーマルヘッドへの顔料固着が殆ど起こらず、また、この顔料は静電気的反発力によって自己分散性が有り、界面活性剤を用いずに容易に水中に分散がさせることが可能である。分散性が良好で、界面活性剤も要しないということは、着色性が良好でより少ない乾燥付着量で目的の識別信号濃度を達成可能になり、印刷画像への悪影響は更に及ぼしにくくなる方向であって好ましい。
【0021】
カーボンブラックの表面に設ける酸性基としてはスルホン基やカルボキシル基が例として挙げられる。
カーボンブラックの水性分散塗料としては、キャボット社製カーボンブラック分散体、CAB−O−JET TM、オリエント化学工業社製 MICROJET C−TYPE WATER COLORS等を用いることができる。
【0022】
水性塗料としては、塗布液の粘度をオイル相に関わり無く制御できるため、オイル相の粘度を多孔性樹脂膜にダメージを与えないだけの高粘度にして塗工することが可能であるので、W/O型(水中油型)エマルションが好ましい。
また、W/O型エマルションの場合には、オイル相に樹脂を投入し、乾燥後に識別信号を固めさせることができる。この結果、比較的容易に優れた定着性の識別信号を多孔性樹脂膜にダメージを与えずに形成させることが可能である。
【0023】
前述したとおり、良好な定着性は識別信号のフィルム側への転移による穿孔感度の低下や、穿孔を阻害するサーマルヘッドへの識別信号固着を防ぐ上で極めて重要である。また、エマルションは塗布液の粘度調整が容易で、高固形分濃度で有りながら低粘度で塗布性の良好な塗布液を作ることができる。
【0024】
具体的には樹脂溶液中に顔料又は染料を分散又は溶解しておき、これを水中に分散する。多孔性樹脂膜上に塗布された後、エマルションが破壊され、乾燥後は顔料又は染料、あるいはその両方を含む樹脂が多孔性樹脂膜上に定着するために、識別信号の定着性が優れている。
【0025】
表面に酸性基を設けた親水性カーボンブラック顔料を使用した識別信号や油相中に顔料や染料などの着色材料と樹脂を含む水中油型エマルションを用いて形成した識別信号は、流動体を塗布・乾燥してなる多孔性樹脂膜上において優れた定着性を示し、フィルム側への転移やサーマルヘッドへの識別信号カス固着が無い点で優れているのは前述した通りだが、この他に、にじみが無く、こすれにも強い。
【0026】
従来の多孔性繊維膜とフィルムを貼り合わせたマスターでは多孔性繊維膜の空隙率が高すぎるために支持体側への情報の書き込みや識別が難しく、フィルム側への書き込みも印刷画像への影響の懸念が有り難しかった。しかし、流動体をフィルムに塗布・乾燥してなる多孔性樹脂膜を有するマスターの多孔性樹脂膜側に本発明の識別信号を設けた場合には、支持体の空隙率が高すぎず、識別信号はにじみが無く、こすれにも強いので、信号や文字の識別が容易な優れた識別信号となる。
【0027】
識別信号塗工法
識別信号形成塗料の塗布には様々な方法を用いることができるが、グラビアローラーを用いた場合には、塗料の転写量の制御が正確にでき、文字や記号などの形状の複雑な信号因子の形成にも対応できる。さらに多孔性樹脂膜の内部に入り込んでインキ通過性を妨げるような心配が無い。また、引きずりが無いために多孔性樹脂膜を破壊する恐れが無い点で優れている。
【0028】
スタンプ式の識別信号形成方法はマスターを搬送しながらの高速塗工には不向きであるが、大掛かりな設備の導入が不要で、スタンプ自体がグラビアに比べて低コストで簡単に作れ、交換も容易な点で優れている。
更に本発明のマスターにはインキジェット式での識別信号の形成が可能である。インキジェット式はフルカラーや多色の識別信号形成が安価で容易に行える点で優れている。この方式はインキ転移量を細かく制御できるので、マスター上に絵や写真などの識別信号を形成させたい場合に特に適している。
この他、スプレー、ヘラ塗り、ハケ塗り等も可能であるが、塗料付着量の制御のしやすさやマスキングが不要な点などを考慮すると、前述のグラビア、スタンプ、インキジェットの方が、より好ましい。
【0029】
熱可塑性樹脂フィルム
本発明における熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン又はその共重合体など従来公知のものが用いられるが、穿孔感度の点からポリエステルフィルムが特に好ましく用いられる。ポリエステルフィルムに用いられるポリエステルとしては、好ましくはポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ヘキサメチレンテレフタレートとシクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体等を挙げることができる。穿孔感度を向上するために、特に好ましくは、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ヘキサメチレンテレフタレートとシクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体等を挙げることができる。
【0030】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムには、必要に応じて、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤あるいはポリシロキサン等の消泡剤等を配合することができる。
さらには必要に応じて易滑性を付与することもできる。易滑性付与方法としては特に制限はないが、例えば、クレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式あるいは乾式シリカなどの無機粒子、アクリル酸類、スチレン等を構成成分とする有機粒子等を配合する方法、内部粒子による方法、界面活性剤を塗布する方法等がある。
【0031】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、通常、好ましくは0.1〜5.0μmであり、さらに好ましくは0.1〜3.0μmである。厚さが5.0μmを超えると穿孔性を低下する場合があり、0.1μmより薄いと製膜安定性が悪化したり、耐刷性が低下する場合がある。
【0032】
多孔性樹脂膜
本発明における多孔性樹脂膜は、膜の内部及び表面に多数の空隙を持つ構造を有するものであれば良く、該空隙がインキの通過性の点から多孔性樹脂膜内において厚さ方向に連続構造であるものが望ましい。
本発明において、多孔性樹脂膜の平均孔径は一般に2〜50μm、望ましくは5〜30μmである。平均孔径が2μmに満たない場合には、インキ通過性が悪い。そのため、十分なインキ通過量を得るために低粘度インキを用いれば、画像にじみや印刷中に印刷ドラムの側部や巻装されているマスターの後端から印刷インキがしみ出す現象が発生する。一方、平均孔径が50μmを超える場合には、多孔性樹脂膜によるインキの抑制効果が低くなり、印刷時に印刷ドラムとフィルムの間のインキが過剰に押し出され、裏汚れやにじみ等の不具合が発生する。即ち、平均孔径は小さすぎても大きすぎても良好な印刷品質が得られない。
特に、多孔性樹脂膜内の空隙の平均孔径が20μm以下である場合、多孔性樹脂膜層が厚い程印刷インキが通りにくくなるので、この層の厚みによってインキの印刷用紙への転写量を制御することができる。そして、層の厚さが不均一であると印刷ムラを生じることがあるので、厚みは均一であることが望ましい。
【0033】
本発明の多孔性樹脂膜の厚みは、2〜100μm、好ましくは5〜50μmである。2μmに満たない場合は、サーマルヘッドによる穿孔後に穿孔部の背後に多孔性樹脂膜が残りにくく、インキ転写量が制御されずに印刷物の裏汚れが発生しやすい。また、多孔性樹脂膜のインキ転写量抑制効果は膜が厚いほど大きく、印刷時の紙へのインキ転写量は多孔性樹脂膜の厚みによって調節できる。
【0034】
多孔性樹脂膜の密度は、通常0.01〜1g/cmで、好ましくは0.1〜0.7g/cmである。密度が0.01g/cm未満だと膜の強度が不足し、また膜自体も壊れやすい。0.7g/cmを超えると印刷時のインキの通過性が悪くなる。多孔性樹脂膜の付着量は、0.1〜35g/m、好ましくは0.5〜25g/m、特に好ましくは1〜11g/mである。0.1g/m未満ではインキ転写量の制御が困難となり、逆に35g/mを超えるとインキの通過を妨げて画像を悪くする。
【0035】
多孔性樹脂膜を構成する樹脂材料としては、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、塩化ビニル−塩化ビニリデンコポリマー、塩化ビニル−アクリロニトリルコポリマー、スチレン−アクリロニトリルコポリマー等のようなビニル系樹脂、ポリブチレン、ナイロン等のポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルプロピルセルロース等のセルロース誘導体等が挙げられる。
前記の各樹脂は2種以上を混合して用いても良い。
【0036】
多孔性樹脂膜フィラー
多孔性樹脂膜の形成、強度、孔径の大きさ等を調節するために、多孔性樹脂膜中に必要に応じてフィラーなどの添加剤を添加することが望ましい。ここにおいてフィラーとは顔料、粉体や繊維状物質も含まれる概念である。その中で特に針状のフィラーが好ましい。その具体例としては、ケイ酸マグネシウム、セピオライト、チタン酸カリウム、ウオラストナイト、ゾノトライト、石膏繊維等の鉱物系針状フィラー、非酸化物物系針状ウイスカ、酸化物系ウイスカ、複酸化物系ウイスカ等の人工鉱物系針状フィラー、マイカ、ガラスフレーク、タルク等の板状フィラーが挙げられる。
顔料としては、無機のみならず有機の顔料、あるいはポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸メチル等の有機ポリマー粒子そして酸化亜鉛、二酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカを用いることができる。
これら添加剤の添加量としては好ましくは樹脂に対して5〜200%である。5%未満では添加剤を加えることによる曲げ剛度が高くならない。逆に200%を超えるとフィルムとの接着性が悪くなる。
【0037】
本発明の多孔性樹脂膜には、本発明の効果を阻害しない範囲内で帯電防止剤、スティック防止剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤などを併用することができる。
【0038】
にじみ、定着性改善
一般の染料や顔料を溶解又は分散した塗料による識別信号は、定着性が低い傾向が有るのは前述した通りであるが、本発明者はフィラーとしてシリカやタルク添加した場合に、識別信号形成に用いる塗料のにじみ、定着性が一層改善されることを見出した。特に、シリカを用いた場合の改善効果は著しい。
にじみ防止、定着性向上の為にフィラーを添加する場合も、多孔性樹脂膜の形成、強度、孔径の大きさ等を調節するためと同様に上記のとおり樹脂に対して5〜200重量%で特に問題は無いが、にじみや定着率の十分な改善効果を得るためにシリカ樹脂では10重量%を下限とし、タルクでは樹脂の20%を下限とし、また、シリカの場合は投入量に対する効果が大きく、投入量が樹脂の100重量%を超えると多孔膜強度に若干の低下が見られたので上限は樹脂の100重量%が好ましい。
【0039】
識別信号種類位置
識別信号は文字、記号、バーコード、模様、絵、写真の他、着色による色識別あっても良い。着色による識別信号は機械的な検知だけでなく、人が視覚的に識別するのにも好適である。他の識別信号にあっても機械的な検知だけでなく、人の視覚的な識別を併用したものであっても良い。
情報としてはロット番号、製造日時、品種、マスター残量、製版条件、あるいはこれらの組み合わせ等、幅広く利用できる。
また、本発明の識別信号は印刷品質を損ねることが無いので、その形成位置を任意に設定することができるし、マスターの一部分だけでなく、マスターの多孔性樹脂膜全面、あるいはマスターロールの最外周全面に形成させても良い。広範囲にわたる着色や模様の形成を行った場合にはマスター外観の向上し、意匠的効果も期待できる。
【0040】
多孔性樹脂膜製法
次に、感熱孔版印刷用マスターの多孔性樹脂膜の形成方法について説明する。
第1の多孔性樹脂膜の形成方法は、互いに良く溶け合う樹脂の良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中に溶解及び/又は分散して得た塗工液を塗布し乾燥過程で多孔質膜を形成するものである。このとき、良溶媒は相対的に貧溶媒より低温で蒸発しやすい組み合わせが必要である。良溶媒と貧溶媒をそれぞれ一種ずつ用いる場合には、良溶媒の沸点は相対的に貧溶媒の沸点より低くなければならない。良溶媒と貧溶媒の選定は任意であるが、一般には沸点差が15〜40℃である場合に所望の特性を持つ多孔性樹脂膜が形成されやすい。沸点差が10℃未満の場合には、両溶媒の蒸発時間差が小さく、形成される膜が多孔性構造になりにくい。貧溶媒の沸点が高すぎる場合には、乾燥に時間がかかり生産性に劣るため、貧溶媒の沸点は150℃以下であることが望ましい。
【0041】
塗布液中の樹脂濃度は使用する材料によって異なるが5〜30%(重量基準)である。5%未満では開口径が大きくなり過ぎたり、多孔性樹脂膜の厚みのムラが生じたりしやすい。逆に、30%を超えると多孔性樹脂膜が形成されにくく、あるいは形成されても孔径が小さくなり所望の特性は得られにくい。
【0042】
多孔性樹脂膜の平均孔径の大きさは雰囲気中の貧溶媒の影響を受け、一般にその良溶媒に対する割合が高いほど凝結量が多くなり、平均孔径は大きくなる。貧溶媒の添加比率は樹脂、溶媒により異なるので実験により適宜決定する必要がある。一般的に、貧溶媒の添加量が多くなるに従い多孔質樹脂膜の孔径か大きくなる。貧溶媒の添加量が多すぎると樹脂が析出し塗布液が不安定になる。
【0043】
第2の多孔性樹脂膜の形成方法としては、多孔性樹脂膜を形成する樹脂の良溶媒と貧溶媒が互いに良く混ざり合わない場合に用いられ、W/O型エマルションを主体とする流動体を薄層上に塗布、乾燥して形成されるものであり(例えば、特開平11−235885号公報)、主として水の部分が乾燥後インクが通過する孔となり、溶剤中の樹脂(フィラー、乳化剤等の添加物が含まれていてもよい)が構造体となる方法である。この方法においても多孔性樹脂膜の形成、強度、孔径の大きさ、コシ等を調節するために、多孔膜中に必要に応じて、中空フィラーに加えて、前記フィラーなどの添加剤を添加することができる。その中で特に針状、板状、もしくは繊維状のフィラーが好ましい。
【0044】
W/O型エマルションの形成には比較的親油性の強い、HLB(Hydrophiric-Lyophiric Balance)が4〜6の界面活性剤が有効であるが、水層にもHLBが8〜20の界面活性剤を使用すると、より安定で均一なW/Oエマルションが得られる。高分子界面活性剤の使用も、より安定で均一なエマルションを得る方法の一つである。また水系にはポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の増粘剤の添加がエマルションの安定化に有効である。
本発明の多孔性樹脂膜の形成方法は上記に例示した方法に限定されるものではない。
【0045】
多孔性樹脂膜形成用塗布液塗工法
本発明の多孔性樹脂膜形成用塗布液の熱可塑性樹脂フィルムへの塗布方式としてはブレード、トランスファーロール、ワイヤーバー、リバースロール、グラビア、ダイ等の従来一般的に用いられている塗布方式が使用でき、特に限定されるものではない。
【0046】
ASL(融着防止薄層)
本発明の感熱孔版印刷用マスターは、フィルムのサーマルヘッドに接触すべき片面に穿孔時の融着を防止するため、シリコーンオイル、シリコーン系樹脂、フッソ系樹脂、界面活性剤、帯電防止剤、耐熱剤、酸化防止剤、有機粒子、無機粒子、顔料、分散助剤、防腐剤、消泡剤等からなる薄層を設けることが望ましい。該融着防止の薄層の厚みは好ましくは0.005〜0.4μm、より好ましくは0.01〜0.4μmである。
【0047】
本発明の感熱孔版印刷用マスターにおいて融着防止の薄層を設ける方法は特に限定されないが、水、溶剤等に希釈した溶液をロールコーター、グラビアコーター、リバースコーター、バーコーター等を用いて塗布し、乾燥するのが好ましい。
【0048】
(特性の測定方法)
識別信号の保存安定性を見るために、評価にはロール状態にて50℃60%RH環境下で7日間放置したマスターを使用した。
識別信号目視試験
マスターの識別信号(文字)が目視にて正しく識別できたものを○、正しく識別できたものの識別しにくいものを△、正常に識別できなかったものを×とした。ただし、実施例14、比較例9のみはマスターに着色された色が目視によって認識された場合に○とした。
【0049】
印刷性の評価
作成したマスターを(株)リコー製“プリポートJP4000”(サーマルヘッド解像度400dpi)でサーマルヘッド式製版方式により、長さ25cmの黒ベタの原稿を用い製版、標準速度で20枚印刷した。これを100回繰り返し、1回目と100回目の製版物についての評価を行った。
評価に用いたマスターは全長にわたって識別信号を有している。
【0050】
穿孔感度
マスターの識別信号部分のフィルム部分がサーマルヘッドによって全く正常に穿孔され穿孔径が大きいものを◎、まったく正常に穿孔されるものを○、穿孔されるが部分的に穿孔径が小さくなるものを△、部分的に穿孔されないものを×で示す。
【0051】
印刷画像濃度ムラ
印刷画像の濃度をMacbeth社製濃度計RD915で印刷画像濃度を測定し、識別信号部分とその他の部分を比較した。
識別信号を形成した部分の画像濃度がその他部分の画像濃度の99%以上なら◎、98%以上99%未満なら○、97%以上98%未満なら△、97%未満なら×とした。
【0052】
耐刷性 画像濃度変化
作成したマスターを(株)リコー製“プリポートJP4000”に供給して、サーマルヘッド式製版方式により、6ポイントの文字と50mm×50mmの黒ベタを有する原稿を用い製版、印刷を行った。印刷の速度は標準で印刷枚数は3000枚とした。
耐刷試験の印刷物で3000枚目の画像濃度を50枚目の画像濃度で割った値が、0.95未満の場合には×、0.95以上0.98未満なら△、0.98以上なら○とした。
【0053】
【実施例】
以下実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下に示す部はいずれも重量基準である。
本実施例では、熱可塑性樹脂フィルムの上に、多孔性樹脂膜を積層したマスターを用いたが、補強のため、多孔性樹脂膜の上に識別信号の品質を損ねない範囲で繊維からなる多孔性繊維膜を更に積層しても良い。
【0054】
感熱孔版印刷用マスターの作成
1.エマルション法
ポリビニルアセタール樹脂
(積水化学工業株式会社 エスレックKS−1) 3.2
ソルビタン脂肪酸エステル
(日光ケミカルズ株式会社 SO−15) 0.1
変性シリコーンオイル
(信越化学工業株式会社 KF6012) 0.1
アクリル系ポリマーO/W型エマルション
(ジョンソンポリマー株式会社Joncryl−711) 0.2
【0055】
以上、4種類の原料に必要に応じてフィラーを加え、酢酸エチルに溶解、分散した。これに水相(HEC(ヒドロキシエチルセルロース)1%水溶液)を攪拌しながらゆっくり添加して白濁した多孔膜形成塗布液を得た。酢酸エチルと水(HEC1%溶液)の比率は酢酸エチル1.5に対して水(HEC1%溶液)が1.0、固形分濃度は8%にした。フィラーの有無、及びその添加量は表1に記した。
表1中のフィラー種類はシリカ、タルクは以下の通り。
シリカ:和光純薬工業社製 二酸化珪素
タルク:日本タルク社製 ミクロエースL−G
上記塗布液を20℃50%RHの雰囲気中で、厚さ2.0μmの2軸延伸ポリエステルフィルム上にダイヘッドで、乾燥後の付着量が6g/m2になるように塗布、50℃50%RH雰囲気中で乾燥し多孔性樹脂膜を形成し、ロール状に巻き取った。
融着防止剤塗布液処方
シリコーンオイル(信越化学工業社製 SF8422) 0.5
界面活性剤(第一工業製薬社製 プライサーフA208) 0.5
トルエン 100.0
次いで以上の融着防止剤を熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜と反対側の面にバーコーターを用いて塗布・乾燥し、感熱孔版印刷マスターを得た。
【0056】
2.析出法
ポリビニルブチラール
(電気化学工業社製PVB3000−2) 8.0
エチルアルコール 73.0
水 19.0
ポリビニルブチラールをエチルアルコールに溶解した後、攪拌しながら水を滴下し、混合して多孔膜形成用塗布液を得た。
上記塗布液を20℃50%RHの雰囲気中で、厚さ2.0μmの2軸延伸ポリエステルフィルム上にダイヘッドで、乾燥後の付着量が6g/m2になるように塗布、50℃50%RH雰囲気中で乾燥し多孔性樹脂膜を形成し、ロール状に巻き取った。
融着防止剤塗布液処方
シリコーンオイル(信越化学工業社製 SF8422) 0.5
界面活性剤(第一工業製薬社製 プライサーフA208) 0.5
トルエン 100.0
次いで以上の融着防止剤を熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜と反対側の面にバーコーターを用いて塗布・乾燥し、感熱孔版印刷マスターを得た。
【0057】
識別信号塗料
塗料1
表面にスルホン基を設けたカーボンブラックを水に分散した塗料(キャボット社製CAB−O−JET TM200、固形分濃度20%)、静電気的反発力を利用して顔料を分散させており、分散剤は使用していない。
【0058】
塗料2
表面にカルボキシル基を設けたカーボンブラックを水に分散した塗料(キャボット社製CAB−O−JET TM300、固形分濃度15%)、静電気的反発力を利用して顔料を分散させており、分散剤は使用していない。
【0059】
塗料3
カーボンブラック(コロンビヤンカーボン製 Raven 1100 ULTRA)、ポリカルボン酸アルキルアミン塩分散剤(BYK Chemie社製 Disperbyk)を水中にボールミル分散した。固形分濃度20%の識別信号塗料を作成した。分散剤の添加量はカーボンブラックの2%、ボールミル分散時間は10時間とした。
【0060】
塗料4
水性染料C.I.Direct Black71(日本化薬社製 Kayarus Supra VGN)を水で希釈し、10%水溶液とした。
【0061】
塗料5
カーボンブラック(コロンビヤンカーボン製
Raven 1100 ULTRA) 10
酢酸ビニル(電気化学工業社製 SN10) 10
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル分散剤
(日光ケミカルズ社製TO106) 1
酢酸エチル 29
水 50
上記酢酸ビニルを酢酸エチルに溶解、これに分散剤を加えた上でカーボンブラックを5時間ボールミル分散した。さらに攪拌しながら水を添加しO/W(水中油型)エマルションを作成した。
【0062】
塗料6
油性染料C.I. Solvent Black 5(住友化学工業社製 Spirit Black no.850)をエタノールで希釈し10%溶液とした。
【0063】
実施例1〜2、6、参考例3〜5、7〜14、比較例1〜9
各塗料をマスターに塗布・乾燥し、濃度0.8(Macbeth社製濃度計RD915で測定)の識別信号を作成した。識別信号は10ポイントの文字を10文字、マスターロールと平行とした。マスターの巻き取り方向に10mm間隔で連続的にマスター全長にわたって作成した。多孔性樹脂膜の種類、塗料の種類、識別信号塗布面、塗工方法は表1に従った。ただし、参考例14、比較例9のみはマスター全幅に濃度0.4(Macbeth社製濃度計RD915で測定)の識別信号を作成した。マスターは外周144mmの巻芯にフィルム面を内側にしてロール状に巻かれ、幅は280mmである。各マスターに識別信号を作成した後、50℃60%RHの環境で7日間放置した。その後、各マスターを前記した評価方法にて評価し、その結果を表2に示した。
【0064】
参考例15
(株)リコー製“プリポートJP4000”のエンドマークセンサー部分にバーコードリーダーを組み込み、マスター上のバーコードを自働的に読み込んで製版エネルギーが設定されるようにした。次に、実施例1のマスターに実施例1の塗料でバーコードをグラビアローラーで印刷し、これを上記印刷機に装填、製版した。バーコードに対応して製版エネルギーが自動的に設定されることを確認した。
【0065】
前記実施例、参考例、及び比較例の結果を次表1及び2に示す。
【0066】
【表1】
Figure 0005148788
表1において、識別信号塗布面:Fはフィルム面、Bは多孔性樹脂面塗工方法:Gはグラビアローラ、Sはスタンプ、Bはマスキングした上でのブラシによる塗工を表す。
識別信号パターン:ベタはベタ着色多孔膜のフィラー添加量:樹脂に対する割合
【0067】
【表2】
Figure 0005148788
【0068】
実施例と比較例の評価
実施例1:良好
実施例2:良好
参考例3:実施例1、2よりも識別信号のやや定着性が低く、やや穿孔感度が低いが、問題は無い
比較例1:定着性が低く保存中に識別信号の濃度が低下、にじみも有って信号の読み取りができない。カス固着により100版目に印刷濃度ムラ
参考例4:識別信号の定着性良好、識別信号部分のインキ透過性が僅かに低いものの、問題は無い
参考例5:グラビアローラーと比べて塗料転移量の制御が正確でないために、多孔性樹脂膜内部への浸透がやや有り、インキ透過性がやや低めであるが、問題は無い
比較例2:識別信号が多孔性樹脂膜に浸透し、所望のIDを出すための付着量が多いため印刷濃度にムラ
比較例3:従来の方法。識別信号作成時に多孔性樹脂膜が溶けてしまし空隙が小さくなってしまった
比較例4:フィルム側に作成。識別信号がフィルムの穿孔性を阻害して、印刷画像濃度を低下させてしまった
実施例6:良好、析出法の場合には穿孔径はエマルション法よりも小さめであるが、問題は無い
比較例5:従来の方法。識別信号作成時に多孔性樹脂膜が溶けてしまい空隙が小さくなってしまった
比較例6:定着性が不十分で保存中に識別信号の濃度が低下、にじみも有って信号の読み取りができない。カス固着により100版目に印刷濃度ムラ
参考例7:にじみが有ってやや識別信号を読み取りにくいものの、目視で正しく認識でき、問題は無い
参考例8:にじみが少なく良好
参考例9:識別信号は見やすく、耐刷試験でわずかに印刷画像濃度の低下が見られたが、問題は無い
参考例10:識別信号は見やすいが耐刷試験でわずかに印刷画像濃度の低下が見られたが問題は無い。シリカの添加量は樹脂の100%以下でも効果は十分なので120%では多すぎると考える
比較例7:定着性が不十分で保存中に識別信号の濃度が低下、にじみも有って信号の読み取りができない。カス固着により100版目に印刷濃度ムラ
参考例11:にじみが有ってやや識別信号を読み取りにくいが目視で正しく認識でき、問題は無い
参考例12:にじみが少なく良好
参考例13:識別信号は見やすく、耐刷試験でわずかに印刷画像濃度の低下が見られたが、問題は無い
比較例8:耐刷試験で印刷画像濃度の低下が見られた
比較例9:水性塗料によるマスターへの着色品。定着性が悪く、カス固着により100版目に印刷濃度ムラ
参考例14:水性塗料によるマスターへの着色品。多孔性樹脂膜にシリカを樹脂の50%含んだことで定着性の改善されている(比較例9と対比)
【0069】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、熱可塑性樹脂フィルム上に、流動体を塗布、乾燥して成る多孔性樹脂膜を有する感熱孔版印刷用マスターにおいて、多孔性樹脂膜のインキ通過性やマスターの穿孔感度を低下させること無く識別信号を形成させることが可能である。
【0070】
請求項2に記載の発明によれば、以下のような優れた特性を有する感熱孔版印刷用マスターが提供される。
(1)多孔性樹脂膜のインキ通過性やマスターの穿孔感度を低下させること無く優れた定着性の識別信号を形成させることが可能で、優れた定着性ゆえに、マスター保管中に識別信号がフィルム側に転移し穿孔感度を低下させることが無い上、製版の際にもサーマルヘッドへの識別信号カス固着が発生せず、正常な穿孔を妨げることがない。
(2)さらに、にじみが無く、こすれにも強いのでバーコードや文字など形状の複雑な識別信号を多孔性樹脂膜上に形成するのに適している。
【0071】
請求項3に記載の発明によれば、以下のような優れた特性を有する感熱孔版印刷用マスターが提供される。
(1)多孔性樹脂膜のインキ通過性やマスターの穿孔感度をほとんど低下させること無く極めて優れた定着性の識別信号を形成させることが可能であり、固形分濃度に関わらず自在に識別信号形成塗布液の粘度を調整できるため、高固形分濃度で塗布することが可能である。
(2)油相中に樹脂を添加することによって識別信号に皮膜を形成させ極めて優れた定着性を確保することができる。その結果、識別信号の転移やサーマルヘッドへのカス固着が発生せず、安定した高品質の印刷が可能になる。
(3)にじみが無く、こすれにも強いのでバーコードや文字など形状の複雑な識別信号を多孔性樹脂膜上に形成するのに適している。
【0072】
請求項4に記載の発明によれば、以下のような優れた特性を有する感熱孔版印刷用マスターが提供される。
(1)識別信号塗料の付着量を正確に制御することが可能で、多孔性樹脂膜への識別信号塗布液の不必要な浸透がなくなり、最小限の付着量で所望の識別信号濃度を達成できる。その結果、多孔性樹脂膜のインキ通過性やマスターの穿孔感度を低下させること無く優れた定着性の識別信号を形成させることが可能である。
(2)引きずりがないのでマスターを高速に搬送しながらでも識別信号の作成ができ、生産性が高い。
【0073】
請求項5に記載の発明によれば、以下のような優れた特性を有する感熱孔版印刷用マスターが提供される。
(1)安価に識別信号を作成することができる。
(2)スタンプの種類を容易に変更できるので少量多品種の場合には極めて効率が高い。
(3)グラビア式には及ばないものの、識別信号形成用塗料の転移量の制御が可能である。スタンプの上に乗っている塗料の量以上は転移しないので塗料の付着量を制御でき、多孔性樹脂膜への識別信号塗布液の不必要な浸透がなくなり、最小限の付着量で所望の識別信号濃度を達成できる。その結果、多孔性樹脂膜のインキ透過性やマスターの穿孔感度をほとんど低下させることなく識別信号を形成させることが可能である。
【0074】
請求項6に記載の発明によれば、以下のような優れた特性を有する感熱孔版印刷用マスターが提供される。
(1)多孔性樹脂膜のインキ通過性やマスターの穿孔感度を低下させること無く識別信号を形成させることが可能である。
(2)シリカが識別信号形成用塗料の定着性を向上させ、にじみを改善するので、塗料自体の定着性が低い場合でも優れた品質の識別信号が得られる。このことは、定着性の低い、安価な一般の水性塗料を用いることができることを意味し、コスト上のメリットが有るばかりでなく、着色剤の選択範囲が広まり、様々な色の着色剤を使用することが可能になる。マスターに色を付けることで識別のみならず、外観を改善する効果もある。
(3)また、優れた定着性ゆえに、マスター保管中に識別信号がフィルム側に転移し穿孔感度を低下させることが無い上、製版の際にもサーマルヘッドへの識別信号カス固着が発生せず、正常な穿孔を妨げることがない。また、にじみが無く、こすれにも強いのでバーコードや文字など形状の複雑な識別信号を多孔性樹脂膜上に形成するのに適している。
(4)インキジェットインキを用いた場合でもにじみが少なく、定着性が良いので、これを用いたフルカラーや多色の識別信号の形成が可能で、絵や写真を識別信号として形成することも可能である。
(5)少量のシリカの添加で大きな添加効果が得られる利点がある。
【0075】
請求項7に記載の発明によれば、以下のような優れた特性を有する感熱孔版印刷用マスターが提供される。
(1)多孔性樹脂膜のインキ通過性やマスターの穿孔感度を低下させること無く優れた定着性の識別信号を形成させることが可能である。
(2)タルクが識別信号形成用塗料の定着性を向上させ、にじみを改善するので、塗料自体の定着性が低い場合でも優れた品質の識別信号が得られる。このことは、定着性の低い、安価な一般の水性塗料を用いることができることを意味し、コスト上のメリットが有るばかりでなく、着色剤の選択範囲が広まり、様々な色の着色剤を使用することが可能になる。マスターに色を付けることで識別のみならず、外観を改善する効果もある。
(3)また、優れた定着性ゆえに、マスター保管中に識別信号がフィルム側に転移し穿孔感度を低下させることが無い上、製版の際にもサーマルヘッドへの識別信号カス固着が発生せず、正常な穿孔を妨げることがない。また、にじみが無く、こすれにも強いのでバーコードや文字など形状の複雑な識別信号を多孔性樹脂膜上に形成するのに適している。
(4)インキジェットインキを用いた場合でもにじみが少なく、定着性が良いので、これを用いたフルカラーや多色の識別信号の形成が可能で、絵や写真を識別信号として形成することも可能である。特に本発明は安価なタルクを用いる点で請求項6の発明に対してコスト的なメリットが大きい
【0076】
請求項8に記載の発明によれば、マスターに色を付けることで識別のみならず、外観を改善する効果もある。
【0077】
請求項9に記載の発明は、多孔性樹脂膜を形成する樹脂の溶解度の異なる複数の溶剤(良溶媒と貧溶媒)が互いによく溶ける場合に用いられる。有機溶媒は互いによく溶けることが多いので溶媒の選択肢が広く、結果的に樹脂の選択範囲も広くなる。また、任意に溶剤の混合比を変更することによって容易に糸瓜状の多孔性樹脂膜が形成される。更にエーテルやアセトンなど、蒸発の速い溶剤を選択して生産性を高められる。
【0078】
請求項10に記載の発明は、互いに混ざり合わない良溶媒と貧溶媒を選びエマルションを形成させる。請求項9の方法と比べ、樹脂の溶解度に依存しないので温度や湿度の影響を受けにくく、形成される膜形状の再現性が高い。処方の自由度が高く、多孔性樹脂膜の形成できる範囲が広いので、油相水相の比率や樹脂濃度、樹脂分子量などで塗布液の粘度を調整しやすい。また、本請求項の発明は一般に固形分濃度が同じならば、請求項9の方法よりも塗布液が高粘度になる。
【0079】
請求項11の発明は、マスターの持つ情報を検知して、それに合わせて自動的に製版条件、印刷条件などの変更を行うシステムの構築が可能である。この他、マスター残量の検知による製版可能版数の自動表示、製造日時の検知による使用期限表示、品種の検知による誤装着の通知など応用範囲は幅広く、印刷機の利便性を著しく高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の感熱孔版印刷用マスターの一例の模式図である。
【図2】本発明の感熱孔版印刷用マスター他の一例の模式図である。
【符号の説明】
1 マスターロール(多孔性樹脂膜が外側、フィルムが内側)
2 多孔性樹脂膜
3 識別信号(バーコード)
4 可塑性樹脂フィルム
5 多孔性樹脂膜
6 フィラー
7 多孔性樹脂膜幹部
8 多孔性樹脂膜空隙部
9 識別信号

Claims (11)

  1. 熱可塑性樹脂フィルム上に、流動体を塗布、乾燥して成る多孔性樹脂膜を少なくとも有する感熱孔版印刷用マスターにおいて、
    表面に酸性基を持つ親水性カーボンブラック顔料を含む水性塗料を用いて多孔性樹脂膜側に識別信号をグラビアローラーにて作成したことを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。
  2. 水性塗料が表面に、スルホン基及びカルボキシル基のいずれかの酸性基を持つ親水性カーボンブラック顔料を含むことを特徴とする請求項1記載の感熱孔版印刷用マスター。
  3. 水性塗料が、分散剤を不含有である請求項1又は2記載の感熱孔版印刷用マスター。
  4. 識別信号が、文字、記号、バーコード、模様、絵、写真、及び着色による色識別の少なくともいずれかである請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
  5. 識別信号が、文字及び記号の少なくともいずれかである請求項4に記載の感熱孔版印刷用マスター。
  6. 多孔性樹脂膜に、該多孔性樹脂膜を構成する樹脂の10〜100重量%のシリカを含有させたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
  7. 多孔性樹脂膜に、該多孔性樹脂膜を構成する樹脂の20〜200重量%のタルクを含有させたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
  8. 多孔性樹脂膜が水性塗料により着色され、その色が着色信号を形成していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
  9. 合成樹脂を溶解度の異なる複数の溶剤に混合し、可溶化状態とし、熱可塑性樹脂フィルム上に一定厚みで塗布し乾燥させることにより請求項1の感熱孔版印刷用マスターを製造することを特徴とする感熱孔版印刷用マスターの製造方法。
  10. 溶解した合成樹脂を含む油中水型乳化液を、熱可塑性樹脂フィルム上に一定厚みで塗布し乾燥させることにより請求項1記載の感熱孔版印刷用マスターを製造することを特徴とする感熱孔版印刷用マスターの製造方法。
  11. 請求項1〜8のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスターとその識別信号の検知装置を用いたことを特徴とする印刷システム。
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