JP5148137B2 - アクリル繊維用紡糸原液及びその製造方法 - Google Patents
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アクリル繊維は炭素繊維の前駆体として使用されており、アクリル繊維の諸物性によって炭素繊維の物性等がほぼ決まる。炭素繊維に対しては高強度がますます求められており、それに伴って、アクリル繊維の高強度化が望まれている。
アクリル繊維の高強度化を図るための方法としては、質量平均分子量が100万以上の超高分子量のアクリロニトリル系共重合体を使用した、いわゆるゲル紡糸法が知られている。
超高分子量のアクリロニトリル系共重合体を使用したゲル紡糸法によれば、高強力のアクリル繊維が得られる。該ゲル紡糸法とは、具体的には、アクリロニトリル系共重合体分子同士の絡み合いを少なくするために低濃度で、かつ紡糸を行う上での操作性に適した粘度に調整するために前記超高分子量のアクリロニトリル系共重合体を含有する紡糸原液を使用し、紡出した糸を高延伸する製造技術である(非特許文献1)。
水及び有機溶剤の混合溶媒中でアクリロニトリルを重合させることにより得られ、かつアクリロニトリル単位を80質量%以上含有し、質量平均分子量/数平均分子量が2.0〜3.5の範囲にあるアクリロニトリル系重合体を、低温の有機溶剤中でスラリー状となし、次いで昇温溶解する紡糸原液の製造法(特許文献1)。
最新の紡糸技術,繊維学会編,高分子刊行会,第8章
しかし、従来、アクリロニトリル系共重合体Aと、超高分子量のアクリロニトリル系共重合体との相溶性が良好なアクリル繊維用紡糸原液を製造することは困難であった。
特許文献1に記載の紡糸原液の製造法に従って、アクリロニトリル系共重合体Aと、超高分子量のアクリロニトリル系共重合体とを混合し、該混合物と、低温の有機溶剤とを混合し、昇温溶解させると、スラリー状物は調製できるものの、昇温溶解の際に溶け残りが発生して白濁し、明らかに紡糸できるようなアクリル繊維用紡糸原液は製造することができない。
本発明のアクリル繊維用紡糸原液においては、濁度が3.5[NTU]以下であることが好ましい。
本発明のアクリル繊維用紡糸原液の製造方法によれば、超高分子量(質量平均分子量が100万以上)のアクリロニトリル系共重合体と、通常の分子量(質量平均分子量が20万〜50万)のアクリロニトリル系共重合体との相溶性に優れたアクリル繊維用紡糸原液が製造できる。
本発明のアクリル繊維用紡糸原液は、アクリロニトリル系共重合体と有機溶剤Cとを含有する。
アクリロニトリル系共重合体としては、質量平均分子量(以下、MWと略記する。)が20万以上50万以下のアクリロニトリル系共重合体Aと、MWが100万以上300万以下のアクリロニトリル系共重合体Bとを使用する。
MWは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値を示す。
アクリロニトリル単位とは、アクリロニトリルのエチレン性二重結合が開裂して構成される構成単位を意味する。
アクリロニトリル系共重合体中のアクリロニトリル単位の割合は95質量%以上が好ましい。該割合が95質量%以上であると、アクリル繊維用紡糸原液から得られるアクリル繊維の炭素化を良好に行うことができ、炭素繊維にした際の共重合成分に起因する欠陥点を少なくでき、炭素繊維としての品位及び性能が向上する。
上記のなかでも、アクリル繊維の炭素化工程における環化反応を促進する目的から、カルボキシ基を有するモノマー、アクリルアミド系モノマーを使用することが好ましい。
カルボキシ基を有するモノマーとしては、メタクリル酸、イタコン酸が好ましい。アクリロニトリル系共重合体中のカルボキシ基を有するモノマー単位の割合は、アクリル繊維用紡糸原液から得られるアクリル繊維の耐炎化反応の反応時間の短縮の観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、0.5〜4質量%であることがより好ましい。
アクリルアミド系モノマーとしては、アクリルアミドが好ましい。アクリロニトリル系共重合体中のアクリルアミド単位の割合は、有機溶剤Cに対する溶解性の向上の観点から、1質量%以上であることが好ましく、1〜2質量%であることがより好ましい。
アクリロニトリル系共重合体BのMWは、100万以上300万以下であり、100万以上250万以下であることが好ましい。該MWが100万以上であると、アクリロニトリル系共重合体の混合効果が顕著になる。該MWが300万以下であると、粘度の調整が容易になる。
アクリロニトリル系共重合体Aとアクリロニトリル系共重合体Bにおけるアクリロニトリル単位以外のモノマー成分は、同一でも異なっていてもよい。
アクリロニトリル系共重合体Bの重合方法としては、公知の重合方法を使用することができ、たとえば特開昭61−266416号公報に開示された方法が挙げられる。
前記重合方法においては、得られたアクリロニトリル系共重合体から、未反応モノマー等の不純物を除く処理を施すことが好ましい。
有機溶剤Cとしては、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が例示される。
濁度計(HACH社製、2100N型ラボ用濁度計)を使用し、専用のサンプル管を用いて測定を行う。アクリル繊維用原液を専用のサンプル管に移液する時の温度は、溶解時の温度以下とする。専用サンプル管に移液の時に巻き込んだ気泡は、溶解時の温度以下で、粘度を下げて脱泡する。必要に応じて減圧して脱泡を行う。サンプル温度は20〜26℃で測定する。測定は自動レンジを選択し、信号平均を選択する。サンプル管の向きを0゜、90゜、180゜、270゜として測定を4回行い、平均値をとり、濁度とする。
濁度には、NTU単位を使用する。
係るアクリル繊維用紡糸原液によれば、アクリル繊維用紡糸原液の濃度及び粘度のコントロールが容易となり、アクリル繊維の成形加工性、物性を改良できる。また、アクリル繊維の製造において、分子の絡み合い点数を制御できる。
本発明のアクリル繊維用紡糸原液の製造方法は、以下の工程(I)〜(III)を有する。
工程(I):前記アクリロニトリル系共重合体Bを、0℃以下の前記有機溶剤Cと混合してスラリー(b)を調製し、当該スラリー(b)を60℃以上に昇温溶解して共重合体溶液を得る工程。
工程(II):前記共重合体溶液の温度を0℃以下に調整する工程。
工程(III):前記アクリロニトリル系共重合体Aを、0℃以下の前記共重合体溶液と混合してスラリー(a)を調製し、当該スラリー(a)を60℃以上に昇温溶解する工程。
アクリロニトリル系共重合体Bを、0℃以下に調整した有機溶剤Cと混合してスラリー(b)を調製する。
有機溶剤Cの温度は、0℃以下であり、−10℃以下であることが好ましい。該温度を0℃以下とすると、スラリー(b)の調製後に行う昇温による溶解性が良好となり、均一な共重合体溶液を得ることができる。
たとえば、アクリロニトリル系共重合体Bを、室温以上の有機溶剤Cと混合した場合、得られる混合物は、スラリー状物とはならず、アクリロニトリル系共重合体Bの粒子が膨潤したゲル状物となる。該ゲル状物は、昇温しても極めて溶解しにくい。そのため、未溶解物を含まず均一な共重合体溶液を得ることが困難となる。
0.001<WB/WC<0.07 (1)
「WB/WC」は0.001超0.07未満であることが好ましく、0.005以上0.07未満であることがより好ましく、0.007〜0.06であることがさらに好ましい。「WB/WC」が0.001超であると、アクリロニトリル系共重合体Bを使用する効果(アクリル繊維用紡糸原液の粘度調整、アクリル繊維の高強度化、耐炎化反応時間の調節等)がより得られやすくなる。「WB/WC」が0.07未満であると、工程(III)でアクリロニトリル系共重合体Aを配合した際、容易にスラリーが調製でき、昇温による溶解性がより向上する。
昇温溶解の温度は、60℃以上であり、60〜150℃であることが好ましく、80〜120℃であることがより好ましい。該温度を60℃以上とすることにより、スラリー(b)が充分に溶解され、均一な共重合体溶液を得ることができる。該温度が150℃以下であれば、アクリロニトリル系共重合体Bが分解するおそれがなくなる。
スラリー(b)の昇温溶解は、静置で行ってもよく、ニーダー、押出機等を使用して行ってもよい。
工程(I)で得られた共重合体溶液の温度を0℃以下に調整する。
アクリロニトリル系共重合体Aを、0℃以下に調整された共重合体溶液と混合してスラリー(a)を調製する。
前記共重合体溶液の温度は、0℃以下であり、−10℃以下であることが好ましい。該温度を0℃以下とすると、スラリー(a)の調製後に行う昇温による溶解性が良好となり、均一なアクリル繊維用紡糸原液を得ることができる。
たとえば、アクリロニトリル系共重合体Aを、室温以上の共重合体溶液と混合した場合、得られる混合物は、スラリー状物とはならず、アクリロニトリル系共重合体Aの粒子が膨潤したゲル状物となる。該ゲル状物は、昇温しても極めて溶解しにくい。そのため、未溶解物を含まず均一なアクリル繊維用紡糸原液を得ることが困難となる。
昇温溶解の温度は、60℃以上であり、60〜150℃であることが好ましく、80〜120℃であることがより好ましい。該温度を60℃以上とすることにより、スラリー(a)が充分に溶解され、均一なアクリル繊維用紡糸原液を得ることができる。該温度が150℃以下であれば、アクリロニトリル系共重合体が分解するおそれがなくなる。
スラリー(a)の昇温溶解は、静置で行ってもよく、ニーダー、押出機等を使用して行ってもよい。
0.07<(WA+WB)/(WA+WB+WC)<0.2 (2)
0.005<WB/(WA+WB+WC)<0.06 (3)
「(WA+WB)/(WA+WB+WC)」は0.07超0.2未満であることが好ましく、0.08〜0.19であることがより好ましく、0.08〜0.17であることがさらに好ましい。該割合が0.07超であると、アクリロニトリル系共重合体濃度が適度となり、アクリル繊維とした際、良好な収率が得られやすくなる。該割合が0.2未満であると、アクリロニトリル系共重合体の溶解性が向上し、均一なアクリル繊維用紡糸原液が得られやすくなる。
「WB/(WA+WB+WC)」は0.005超0.06未満であることが好ましく、0.005超0.05以下であることがより好ましく、0.007〜0.04であることがさらに好ましい。該割合が0.005超であると、アクリロニトリル系共重合体Bを使用する効果がより得られやすくなる。該割合が0.06未満であると、アクリロニトリル系共重合体Bの溶解性が向上し、均一なアクリル繊維用紡糸原液が得られやすくなる。
また、本発明において、アクリロニトリル系共重合体Aとアクリロニトリル系共重合体Bとの配合順序を入れ替え、前記工程(I)でアクリロニトリル系共重合体Aを溶解させ、前記工程(III)でアクリロニトリル系共重合体Bを溶解させた場合、アクリロニトリル系共重合体Aを有機溶剤Cに溶解してなる共重合体溶液は粘度が高くなり、アクリロニトリル系共重合体Bの粉末を該共重合体溶液に混合してもスラリー状物にすることができず、昇温しても、未溶解物が多数発生し、白濁して適切なアクリル繊維用紡糸原液は得られない。
表1中、「WA」はアクリロニトリル系共重合体Aの配合量(g)、「WB」はアクリロニトリル系共重合体Bの配合量(g)、「WC」は有機溶剤Cの配合量(g)をそれぞれ示す。
実施例に用いた成分、評価方法を以下に示す。
該共重合体Aには、アクリロニトリル単位96質量%、メタクリル酸単位1質量%、アクリルアミド単位3質量%のモノマー単位からなる共重合体を使用した。
実施例には、ハンマーミルで粉砕した粉末を使用した。
GPC測定によるMWは43万であった。
該共重合体Bには、アクリロニトリル単位100質量%からなるホモポリマーを使用した。
実施例には、ハンマーミルで粉砕した粉末を使用した。
GPC測定によるMWは120万であった。
ジメチルアセトアミド(和光純薬株式会社製、特級)を使用した。
各例で製造されたアクリル繊維用紡糸原液の外観を目視により観察し、下記基準に基づいて評価した。
○:アクリル繊維用紡糸原液として使用できる、と判断した。
×:白濁しており、明らかにアクリル繊維用紡糸原液として使用できない、と判断した。
各例で製造されたアクリル繊維用紡糸原液の濁度を、濁度計(HACH社製、2100N型ラボ用濁度計)を使用して測定した。濁度には、NTU単位を使用した。
専用のサンプル管へのアクリル繊維用原液の移液は、サンプルを容器ごと80℃に設定したウォーターバスで加温し、粘度を低下させて行った。専用サンプル管に移液の時に巻き込んだ気泡は、移液後、サンプル管のキャップを閉め、80℃に設定したウォーターバス内で専用サンプル管を20分間静置して脱泡した。サンプル管は、水でサンプル管の表面が汚れないようにポリ袋に入れ、サンプル管がウォーターバスの湯と直接接触しないようにした。脱泡後、ウォーターバスから専用サンプル管を取り出し、室温に放置して冷却した。測定は、サンプル温度22〜24℃で行った。測定は自動レンジを選択し、信号平均を選択した。サンプル管の向きを0゜、90゜、180゜、270゜として測定を4回行い、平均値をとり、濁度とした。
以下の工程(I)〜(III)によりアクリル繊維用紡糸原液を製造した。
工程(I):
有機溶剤C(WC=68.0g)を110mlのサンプル管に投入し、該サンプル管を、−10℃に設定された冷凍庫の中で冷却した。そして、アクリロニトリル系共重合体B(WB=0.8g)を、冷却された該サンプル管に投入し、該サンプル管に蓋をして、該サンプル管ごと1分間振り混ぜてスラリー(b)を調製した。そして、80℃に設定したウォーターバスに該サンプル管を浸して、1時間静置して共重合体溶液を得た。
得られた共重合体溶液入りのサンプル管を、−10℃に設定された冷凍庫の中で1時間以上冷却した。
次いで、アクリロニトリル系共重合体A(WA=11.2g)を、−10℃に冷却された該サンプル管に投入し、該サンプル管に蓋をして、該サンプル管ごと1分間振り混ぜてスラリー(a)を調製した。そして、80℃に設定したウォーターバスに該サンプル管を浸して、1時間静置してアクリル繊維用紡糸原液を製造した。
該アクリル繊維用紡糸原液について、目視評価及び濁度測定を行った。また、WB/WC、(WA+WB)/(WA+WB+WC)、WB/(WA+WB+WC)を求めた。以上の結果を表1に示す。
実施例1において、WA=5.6g、WB=2.4g、WC=72gに変更した以外は、
実施例1と同様の手順によりアクリル繊維用紡糸原液を製造した。
該アクリル繊維用紡糸原液について、目視評価及び濁度測定を行った。また、WB/WC、(WA+WB)/(WA+WB+WC)、WB/(WA+WB+WC)を求めた。以上の結果を表1に示す。
実施例1において、WA=8.0g、WB=4.0gに変更した以外は、実施例1と同様の手順によりアクリル繊維用紡糸原液を製造した。
該アクリル繊維用紡糸原液について、目視評価及び濁度測定を行った。また、WB/WC、(WA+WB)/(WA+WB+WC)、WB/(WA+WB+WC)を求めた。以上の結果を表1に示す。
実施例1において、WA=6.4g、WB=5.6gに変更した以外は、実施例1と同様の手順によりアクリル繊維用紡糸原液を製造した。
該アクリル繊維用紡糸原液について、目視評価及び濁度測定を行った。また、WB/WC、(WA+WB)/(WA+WB+WC)、WB/(WA+WB+WC)を求めた。以上の結果を表1に示す。
有機溶剤C(WC=68.0g)を110mlのサンプル管に投入し、該サンプル管を、−10℃に設定された冷凍庫の中で冷却した。そして、アクリロニトリル系共重合体A(WA=11.2g)及びアクリロニトリル系共重合体B(WB=0.8g)を、冷却された該サンプル管に投入し、該サンプル管に蓋をして、該サンプル管ごと1分間振り混ぜてスラリーを調製した。そして、80℃に設定したウォーターバスに該サンプル管を浸して、1時間静置してアクリル繊維用紡糸原液を製造した。
該アクリル繊維用紡糸原液について、目視評価及び濁度測定を行った。また、WB/WC、(WA+WB)/(WA+WB+WC)、WB/(WA+WB+WC)を求めた。以上の結果を表1に示す。
実施例1において、アクリロニトリル系共重合体Aとアクリロニトリル系共重合体Bとの配合順序を入れ替え、工程(I)でアクリロニトリル系共重合体Aを投入し、工程(III)でアクリロニトリル系共重合体Bを投入した以外は、実施例1と同様の手順によりアクリル繊維用紡糸原液を製造した。
該アクリル繊維用紡糸原液について、目視評価及び濁度測定を行った。また、WB/WC、(WA+WB)/(WA+WB+WC)、WB/(WA+WB+WC)を求めた。以上の結果を表1に示す。
Claims (2)
- 質量平均分子量が20万以上50万以下のアクリロニトリル系共重合体Aと、質量平均分子量が100万以上300万以下のアクリロニトリル系共重合体Bと、有機溶剤Cとを含有し、濁度が3.5[NTU]以下であることを特徴とするアクリル繊維用紡糸原液。
- 質量平均分子量が100万以上300万以下のアクリロニトリル系共重合体Bを、0℃以下の有機溶剤Cと混合してスラリー(b)を調製し、当該スラリー(b)を60℃以上に昇温溶解して共重合体溶液を得る工程と、
前記共重合体溶液の温度を0℃以下に調整する工程と、
質量平均分子量が20万以上50万以下のアクリロニトリル系共重合体Aを、0℃以下の前記共重合体溶液と混合してスラリー(a)を調製し、当該スラリー(a)を60℃以上に昇温溶解する工程と
を有することを特徴とするアクリル繊維用紡糸原液の製造方法。
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