JP5147007B2 - ダンパー装置および構造物 - Google Patents
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Description
特許文献1に記載のダンパー装置は、建築物において柱および梁で囲まれた矩形枠内に配置されるもので、長尺板状の鋼製中心軸力部材と、その周囲を囲んで設けられる座屈拘束用のコンクリートと、このコンクリートの外周に設けられる鋼管とを有して構成されている。そして、鋼製中心軸力部材の周面とコンクリートとの間には、付着防止皮膜が設けられており、鋼製中心軸力部材の軸変形がコンクリートで拘束されないようになっている。このようなブレースタイプのダンパー装置では、地震動を受けて建築物の各階に層間変形が生じた場合に、鋼製中心軸力部材が軸力を負担して軸降伏することで、つまり弾塑性の応力−変形関係(履歴ループ)に沿って挙動することで、履歴ループに応じたエネルギー吸収(履歴減衰)能力が発揮され、建築物における地震時や強風時の振動低減が実現可能になっている。
一方、鋼製中心軸力部材に対してコンクリートの断面を相対的に小さくすると、座屈拘束機能が十分に発揮できなくなってしまうという問題が生じる。すなわち、鋼製中心軸力部材の断面における板厚方向に関しては、コンクリートのかぶりが大きくかつ拘束面積も大きいので、座屈拘束力はさほど低下せず、コンクリートのかぶりや拘束面積が小さくなる板厚直角方向に関し、座屈拘束力の低下が顕著に現れることが本件出願人の鋭意研究によって判明した。
ここで、従来のダンパー装置において、座屈規制手段を小型化すると矩形芯材の長辺方向に関する座屈拘束力が小さくなり、矩形芯材に圧縮力が作用した際に、図11に示すように、矩形芯材14がその断面長辺方向に変形することがある。特に、矩形芯材14の両端の固定部15に曲げモーメントMが作用する場合には、矩形芯材14が曲げ変形しやすく、このような曲げ変形が生じた状態で圧縮軸力を受けると矩形芯材14が容易に座屈し、軸力を負担することができずにエネルギー吸収性能が極端に低下してしまう。
これに対して、本願のダンパー装置では、矩形芯材の長辺方向への変形が防止されることで、負担軸力を保持しつつ大きな軸変形領域まで安定した履歴ループを描くことができ、エネルギー吸収性能を向上させることができる。
さらに、本発明のダンパー装置では、前記矩形芯材の長手方向に沿って断続して設けられる前記変形防止手段は、少なくとも前記座屈規制手段の長手方向両端部までの位置を含んで設けられていることが好ましい。
さらに、本発明のダンパー装置では、前記変形防止手段は、前記座屈規制手段の長手方向両端部から当該座屈規制手段の長さ寸法の1/4だけ入った位置まで設けられていることが好ましい。
このような構成によれば、座屈規制手段の端部から座屈規制手段の長さ寸法の1/4だけ入った位置、すなわち前述の図11のように、矩形芯材の両端の固定部に曲げモーメントMが作用した場合に矩形芯材の曲げ変形が大きくなる位置において、矩形芯材の変形を効率的に防止することができる。従って、構造物の対象位置に固定した設置状態における矩形芯材の座屈を確実に防止して、変形性能を確保することができる。
このような構成によれば、矩形芯材の長辺における複数箇所に分散して変形防止手段を設けることで、1箇所当たりの応力を低減させることができ、座屈規制手段をより一層小型化することができ、ダンパー装置の小型軽量化を促進させることができる。また、矩形芯材の長手方向における適宜な位置において、複数の変形防止手段を並列して設けることで、重点的に矩形芯材の変形防止が実現できる。
このような構成によれば、矩形芯材に降伏点強度が低い鋼材、つまり低降伏点鋼(軟鋼、極軟鋼)を用いれば、小さな変形で軸降伏させるとともに、大変形領域まで安定した変形性能が確保でき、エネルギー吸収性能を一層高めることができる。
このような構成によれば、鋼管と、この鋼管に充填するコンクリートやモルタルで座屈規制手段を構成することで、比較的容易かつ安価にダンパー装置を製造することができる。
ここで、前記空隙または前記シート体の厚さ寸法は、1mm以下に設定されていることが好ましい。
このような構成によれば、空隙やシート体によって矩形芯材と座屈規制手段との付着を確実に切るとともに、矩形芯材と座屈規制手段との距離が1mm以下(より好ましくは、0.5mm以下)に維持されることで、矩形芯材の座屈を確実に防止することができる。
さらに、前記付着防止手段がシート体である場合に、前記変形防止手段と前記座屈規制手段との間における前記シート体が省略されていることが好ましい。
このような構成によれば、変形防止手段と座屈規制手段との間にシート体が介在しないことで、矩形芯材の長辺方向に沿った変形防止手段の微少な移動をも座屈規制手段によって規制することができる。
このような構成によれば、前述と同様の作用効果を得ることができ、小型軽量化が可能でかつエネルギー吸収性能に優れたダンパー装置により、構造物の振動を効果的に抑制することができる。
図1は、本発明の構造物としての建物1における骨組みの概略構成を示す側面図である。
図1において、建物1は、複数の柱2、柱2間に架設された各階の梁3、梁3や、梁3に支持された床、図示しない屋根や壁等を有して構成された建築物である。建物1の所定の階には、当該階における隣接する柱2の間および上下の梁3の間にブレースタイプのダンパー装置10が設置されている。具体的には、隣接する一方(図1の右側)の柱2の柱頭部分と上階の梁3との交差部、および他方(図1の左側)の柱2の柱脚部分と当該階の梁3との交差部に、それぞれ固定された上下のブラケット4間に渡ってダンパー装置10が取り付けられている。このようなダンパー装置10は、建物1において平面的に偏りがなく、かつ建物1の水平各方向に適宜な数だけ配置されていればよく、また建物1の高さ方向に関しては、負担せん断力が大きくなる下層階において上層階よりも設置個数が多いことが望ましい。そして、本実施形態では、上下のブラケット4がそれぞれ対象位置であり、地震等の水平力が建物1に作用した場合に、上下階が互いに左右にずれるような相対移動(層間変位)が生じ、この相対移動に対してダンパー装置10が減衰力を発揮するようになっている。
ダンパー装置本体11は、全体長尺状でかつ長方形の矩形断面を有した矩形芯材14と、この矩形芯材14の両端部に結合されてブラケット4に固定される一対の固定部15とを有して形成されている。矩形芯材14は、上下のブラケット4間を結ぶ第1軸としてのX軸に細長状で、かつX軸に直交する第2軸としてのY軸に沿って長い一対の長辺(幅寸法B)およびX軸およびY軸に直交する第3軸としてのZ軸に沿って短い一対の短辺(厚さ寸法t)からなる長方形板状断面を有している。このような矩形芯材14の周面には、シート体としての絶縁材16が貼り付けられている。この絶縁材16は、樹脂製の面状粘着テープなどから形成されており、その外表面は、摩擦係数が小さく(滑りやすく)なっており、充填コンクリート13と付着せず摺接可能に構成されている。すなわち、絶縁材16によって付着防止手段が構成されている。
図5および図6は、それぞれ前述した図2〜図4の参考形態の変形例に係るダンパー装置10のダンパー装置本体11A,11Bを示す側面図である。図7は、前述した図2〜図4の参考形態の変形例に係るダンパー装置10を示す断面図である。
図8(A),(B)に示すダンパー装置10A,10Bでは、基本構成がそれぞれ前述した図2〜図4の参考形態のダンパー装置10と同様であるが、ダンパー装置10における芯材突条部17および規制凹溝部13Aと構成の相違した変形防止手段が設けられている。
図8(A)に示すダンパー装置10Aにおいて、矩形芯材14の一対の長辺両面には、表面から凹むとともにX軸に沿って延びる芯材凹溝部18が設けられ、芯材凹溝部18と対向する充填コンクリート13には、芯材凹溝部18に挿入されて凹凸嵌合する規制突条部13Bが形成されている。そして、芯材凹溝部18は、規制突条部13Bに対してX軸方向に摺動可能で、Y軸方向には移動不能に構成されている。すなわち、これらの芯材凹溝部18と規制突条部13Bとによって矩形芯材14の長辺(Y軸方向)に沿った変形を防止する変形防止手段が構成されている。
すなわち、図2〜図4の参考形態あるいは図5〜図7の変形例においては、図9に示すダンパー装置10のダンパー装置本体11のように、矩形芯材14の両面に芯材突条部17を突出させて設けた場合において、矩形芯材14と芯材突条部17とを合わせた断面積は、矩形芯材14のみの断面積に対して1.7倍以下に設定されている。つまり、矩形芯材14自体の断面積(B×t)で決まるダンパー装置本体11の最小断面積A0 に対し、芯材突条部17位置における矩形芯材14および芯材突条部17を合わせたダンパー装置本体11の最大断面積A1 が、1.7倍以下(望ましくは、1.51倍以下)になるように、芯材突条部17の大きさが設定されている。
一方、図8に示す本発明の各実施形態においては、図10に示すダンパー装置10A,10Bのダンパー装置本体11のように、矩形芯材14の両面に芯材凹溝部18を設けた場合において、芯材凹溝部18がない部分における矩形芯材14の断面積(B×t)は、この矩形芯材14の断面積から芯材凹溝部18を減じた断面積に対して1.7倍以下に設定されている。つまり、芯材凹溝部18位置におけるダンパー装置本体11の最小断面積A0 に対し、矩形芯材14自体の断面積(B×t)で決まるダンパー装置本体11の最大断面積A1 が、1.7倍以下(望ましくは、1.51倍以下)になるように、芯材凹溝部18の大きさが設定されている。
(1)すなわち、充填コンクリート13および鋼管12によって矩形芯材14のX軸方向以外の方向への変形が防止され、変形防止手段によって矩形芯材14の長辺方向(Y軸方向)への変形が防止される。従って、矩形芯材14がX軸方向に軸変形して軸降伏後も座屈することなく変形性能が確保できるので、大きな履歴減衰の発揮によるエネルギー吸収性能に優れたダンパー装置10,10A,10Bが実現できる。
例えば、前記実施形態においては、建物1の所定階の上下に渡りブラケット4を介してダンパー装置10,10A,10Bを設置したが、このような設置構造に限らず、例えば、複数階に渡って設置してもよい。また、ブレース形式で設置するものに限らず、対象位置間に生じる相対変位に対して矩形芯材14が軸変形可能であれば任意の取り付け構造が採用可能である。
また、前記実施形態のダンパー装置10では、矩形芯材14と芯材突条部17とが一体形成されていたが、別体の芯材突条部17が矩形芯材14の長辺表面に溶接等によって固定されていてもよい。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
Claims (11)
- 構造物において互いに相対移動が生じうる一対の対象位置の間に取り付けられ、当該相対移動に伴って減衰力を発揮するダンパー装置であって、
前記一対の対象位置同士を結ぶ第1軸に沿った長尺状に形成されるとともに、前記第1軸に直交する第2軸に沿って長い一対の長辺および当該第1軸および第2軸に直交する第3軸に沿って短い一対の短辺からなる矩形断面を有した矩形芯材と、
前記第1軸に沿った前記矩形芯材の両端部に結合されて前記一対の対象位置に固定される一対の固定部と、
前記矩形芯材の周囲を囲んで前記第1軸と交差する方向への当該矩形芯材の座屈を規制する座屈規制手段と、
前記矩形芯材と前記座屈規制手段との付着を防止して前記第1軸に沿った当該矩形芯材の軸変形を許容する付着防止手段と、
前記矩形芯材の一対の長辺のうちの少なくとも一方と前記座屈規制手段との間に設けられて当該矩形芯材の長辺に沿った変形を防止する変形防止手段とを備え、
前記変形防止手段は、
前記矩形芯材の長辺表面から凹むとともに前記第1軸に沿って延びる芯材凹溝部と、この芯材凹溝部に挿入可能に前記座屈規制手段に形成された規制突条部とで構成されるか、または、
前記矩形芯材の長辺表面から凹むとともに前記第1軸に沿って延びる芯材凹溝部と、この芯材凹溝部に対向して前記座屈規制手段に形成された規制凹溝部と、前記芯材凹溝部および規制凹溝部に挿入される介挿部材とで構成され、
前記対象位置間に相対移動が生じた際に、前記付着防止手段を介して前記座屈規制手段により座屈が規制され、かつ前記変形防止手段により長辺方向への変形が規制された状態で、前記矩形芯材が前記第1軸に沿った方向に軸変形し、この軸変形に応じた減衰力が発揮されることを特徴とするダンパー装置。 - 請求項1に記載のダンパー装置において、
前記芯材凹溝部がない部分における前記矩形芯材の断面積は、前記矩形芯材から前記芯材凹溝部を減じた断面積に対して1.7倍以下に設定されていることを特徴とするダンパー装置。 - 請求項1または請求項2に記載のダンパー装置において、
前記変形防止手段は、前記第1軸に沿った前記矩形芯材の長手方向に連続して設けられるか、または前記矩形芯材の長手方向に沿って断続して設けられていることを特徴とするダンパー装置。 - 請求項3に記載のダンパー装置において、
前記矩形芯材の長手方向に沿って断続して設けられる前記変形防止手段は、少なくとも前記座屈規制手段の長手方向両端部までの位置を含んで設けられていることを特徴とするダンパー装置。 - 請求項4に記載のダンパー装置において、
前記変形防止手段は、前記座屈規制手段の長手方向両端部から当該座屈規制手段の長さ寸法の1/4だけ入った位置まで設けられていることを特徴とするダンパー装置。 - 請求項1から請求項5のいずれかに記載のダンパー装置において、
前記変形防止手段は、前記矩形芯材の長辺における前記第2軸に沿った複数箇所に設けられていることを特徴とするダンパー装置。 - 請求項1から請求項6のいずれかに記載のダンパー装置において、
前記矩形芯材は、強度が400N/mm 2 程度の普通鋼材よりも降伏点強度が低い鋼材から形成されていることを特徴とするダンパー装置。 - 請求項1から請求項7のいずれかに記載のダンパー装置において、
前記座屈規制手段は、その内部に前記矩形芯材を収容可能な鋼管と、この鋼管内部に充填されたコンクリートまたはモルタルとを有して構成されていることを特徴とするダンパー装置。 - 請求項1から請求項8のいずれかに記載のダンパー装置において、
前記付着防止手段は、前記矩形芯材の表面と前記座屈規制手段との間に形成された空隙であるか、または前記矩形芯材の表面および座屈規制手段の一方に貼付けられて他方と摺接するシート体であることを特徴とするダンパー装置。 - 請求項9に記載のダンパー装置において、
前記付着防止手段がシート体である場合に、前記変形防止手段と前記座屈規制手段との間における前記シート体が省略されていることを特徴とするダンパー装置。 - 請求項1から請求項10のいずれかに記載のダンパー装置を備えた構造物。
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