しかしながら、この様な構成を有する従来例には、以下のような問題がある。従来のシンチレータは、シンチレータ結晶で発生する蛍光が放射線源に近い側(即ち、シンチレータ結晶の深さ方向の浅い領域)で高い頻度で発生するという特性を無視して構成されている。つまり、従来技術では、シンチレータが多層化したことにより、深さ方向について蛍光発光位置が弁別できるようになったものの、シンチレータ結晶の深さ方向の長さをシンチレータ結晶層の各々で一定になるように設定したので、シンチレータ内部にうち蛍光の発生する頻度が多い放射線源に近い側において、蛍光の位置弁別能が不十分となってしまうという問題点がある。
だからといって、シンチレータを構成するシンチレータ結晶層をより多く設ければ良いというものではない。小さなシンチレータ結晶を精度良く形成することは非常に難しいからである。しかも、シンチレータ結晶層を追加するにつれ、シンチレータを構成するのにより多くのシンチレータ結晶を必要とするので、PET装置の製造コストは大幅に増大することになる。
さらに、シンチレータを構成する層をより多層にすれば、シンチレータ結晶の数が増大するので、シンチレータ内部で発生した蛍光がPMTに入射するまでに、より多くのシンチレータ結晶を通過しなければならなくなる。蛍光は、シンチレータ結晶同士の界面を貫通して進むが、その度に光の強度が低下する。このことは、検出器リングが取得できる消滅光子対のカウント数の減少につながり、鮮明なPET断層画像が得られなくなることを意味する。これを防ぐためには、PET装置による検査時間を長く設定するか、被検体に注射投与する放射性薬剤を増加させるしかない。
この発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、シンチレータの多層化を可能な限り抑制しつつ、空間分解能の優れた放射線検出器、およびそれを備えたPET装置を提供することにある。
この発明は、この様な目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1記載の発明に係る放射線検出器は、放射線源から放射された放射線を蛍光に変換するシンチレータと、シンチレータからの蛍光を検知する光電子増倍管を有し、シンチレータは、光電子増倍管に向かってシンチレータ結晶が直列に配列された第1シンチレータ結晶層と第2シンチレータ結晶層とを備え、第1シンチレータ結晶層と第2シンチレータ結晶層との蛍光減衰時定数が互いに異なるとともに、第1シンチレータ結晶層は、第2シンチレータ結晶層よりも放射線源に近い側に配置され、かつ第1シンチレータ結晶層の層厚さは第2シンチレータ結晶層の層厚さよりも薄く、第1シンチレータ結晶層は、放射線を蛍光に変換する効率である変換効率が、第2シンチレータの変換効率以上となっていることを特徴とするものである。
[作用・効果]請求項1に記載の発明に係る放射線検出器によれば、より空間分解能の高い放射線検出器が提供できる。すなわち、本発明に係る放射線検出器の有するシンチレータは、多層構造となっており、具体的には、放射線源に近い側に設けられた第1シンチレータ結晶層と、放射線源から遠い側に設けられた第2シンチレータ結晶層を備えている。しかも、第1シンチレータ結晶層の層厚さは、第2シンチレータ結晶層のそれよりも薄く設定されている。したがって、シンチレータの放射線源に近い側により短い深さを有するシンチレータ結晶が配置されることになる。シンチレータを構成するシンチレータ結晶は、微細なほど放射線検出器の位置弁別能が向上することからすると、この発明に係るシンチレータは、その放射線源に近い側において深さ方向の位置弁別能が強化されていることになる。さらに、シンチレータに入射する放射線は、シンチレータの放射線源に近い側でより頻繁に蛍光に変換されることからすると、放射線源に近い側における深さ方向の位置弁別能が強化されていることは、より深さ方向の位置弁別に適した放射線検出器が提供できることになり、たとえば、これをPET装置に適用すれば、空間分解能が向上したPET装置を提供できる。要するに、たとえ消滅光子対が検出器リングの内周側端において生じ、シンチレータに対し放射線が斜め方向から入射したとしても、第1シンチレータ結晶層の層厚さが薄く形成されているので、第1シンチレータ結晶層から蛍光が発すれば、この限られた層厚さの中で蛍光が発生したことがわかるので、蛍光の発生した位置をより詳細に弁別することができる。
また、上記の構成によれば、放射線が第1シンチレータ結晶層を透過したとしても、放射線源から見て第1シンチレータ結晶層よりも放射線源から遠い側に設けられた第2シンチレータ結晶層で蛍光に変換されるので、放射線検出感度を十分に確保できる。第1シンチレータ結晶層を透過した放射線は、次に第2シンチレータ結晶層に入射する。第2シンチレータ結晶層の厚さは十分に厚いものとなっているので、放射線は、第1シンチレータ結晶層、および第2シンチレータ結晶層のいずれかによって確実に蛍光に変換される。つまり、第1シンチレータ結晶層の層厚さを薄くしても、放射線検出器の放射線検出感度が低下することがない。
さらに、上記の構成によれば、より容易に放射線検出器を製造することができる。シンチレータ結晶をPMTに結合する際に、第1シンチレータ結晶層と第2シンチレータ結晶層は、いずれも無色透明な結晶層であり、肉眼で区別することができないので誤って両シンチレータ結晶層を取り違える恐れがある。しかし、上記の構成によれば、両シンチレータ結晶層の厚さは製造者にとっても十分に区別が可能であるので、両シンチレータ結晶層を取り違えたままシンチレータを製造することがない。
さらにまた、上記の構成によれば、シンチレータを構成する結晶層は、より少ないものとなる。つまり、PMTから見て遠い側(即ち、放射線源に近い側)の第1シンチレータ結晶層で生じた蛍光がPMTに向かう際、通過するシンチレータ結晶同士の界面は少なくて済むことになる。したがって、シンチレータで生じた蛍光の光強度は極力保たれた状態でPMTは蛍光を検出するので、上記の構成を有する放射線検出器の検出感度は高いものとなる。しかも、上記構成によれば、シンチレータの製造コストを抑制することができる。
そして、上記の構成のよれば、第1シンチレータ結晶層と第2シンチレータ結晶層との蛍光減衰時間が互いに異なったものとなっている。これにより、PMTで蛍光が入射したときその減衰時間を測定することにより、どちらのシンチレータ結晶層から発せられた蛍光であるのか区別することが可能となる。
また、請求項1に記載の発明によれば、より空間分解能が高い放射線検出器が提供できる。この発明のように、第1シンチレータ結晶層をより変換効率の高い材料で構成すれば、シンチレータに入射する放射線は、より第2シンチレータ結晶層よりも第1シンチレータ結晶層にて多く蛍光に変換されることになる。このように、シンチレータのうち第1シンチレータ結晶層にて更に多くの放射線が蛍光に変換されるので、この様なシンチレータを備えた放射線検出器の分解能はさらに高いものとなる。
また、請求項2に記載の発明に係る陽電子放出型断層撮影装置は、請求項1または請求項2に記載の放射線検出器がリング状に配列され放射線検出データを生成する検出器リングと、放射線検出データの同時計数を行う同時計数手段と、同時計数手段によって指定された2つのシンチレータ結晶を直線で結ぶ線分であるLOR(Line of Response)を導出するLOR導出手段と、LORを基に放射線検出データの一層化処理を行う再アドレス手段とを備えることを特徴とするものである。
[作用・効果]請求項2に記載のPET装置によれば、消滅光子対の発生位置をより正確に導出できる。この発明に係るシンチレータは、放射線源に近い側に層厚さの薄い第1シンチレータ結晶層と、放射線源から遠い側に層厚さの厚い第2シンチレータ結晶層とが配置されているので、シンチレータ全体のうち、より光子が蛍光に変換される放射線源に近い側において、シンチレータの深さ方向の弁別能が強化されている。したがって、LOR導出手段によって導出されるLORは、より正確なものとなり、結果として、より空間分解能が高いPET装置が提供できる。たとえ消滅光子対が検出器リングの外周部付近において生じ、シンチレータに対し放射線が斜め方向から入射したとしても、第1シンチレータ結晶層の層厚さが薄く形成されているので、第1シンチレータ結晶層から蛍光が発すれば、この限られた層厚さの中で蛍光が発生したことがわかるので、蛍光の発生した位置をより詳細に弁別することができる。
なお、本明細書は、次のような放射線検出器、および陽電子放出型断層撮影装置に係る発明も開示している。
(1)請求項1または請求項2に記載の放射線検出器において、前記第1シンチレータ結晶層はLu2(1−X)Y2XSiO5で構成されるとともに、前記第2シンチレータ結晶層はGd2SiO5で構成されることを特徴とする放射線検出器。
(1)のような構成によれば、より確実に第1シンチレータ結晶層の変換効率を高くすることができる。すなわち、Lu2(1−X)Y2XSiO5(LYSO)は、放射線を検出するシンチレータ結晶の中でも特に比重が重く、実効原子番号がより高いものとなっている。したがって、Lu2(1−X)Y2XSiO5(LYSO)を放射線源に近い側である第1シンチレータ結晶層に配置すれば、この第1シンチレータ結晶層で蛍光に変換される放射線はさらに多いものとなるので、放射線検出器の空間分解能は、一層向上することになる。
(2)請求項1または請求項2に記載の放射線検出器において、前記第2シンチレータ結晶層の厚さは、前記第1シンチレータ結晶層の厚さの1.2倍以上10倍以下であることを特徴とする放射線検出器。
(2)のような構成によれば、より空間分解能の高い放射線検出器が提供できる。仮に、第1シンチレータ結晶層の層厚さを薄くすると、シンチレータにおける放射線源に近い側の構造は細密なものとなるが、この第1シンチレータ結晶層で蛍光に変換される放射線の線量は減少するので、放射線検出器の空間分解能はかえって低下する場合がある。つまり、第1シンチレータ結晶層の層厚さを、たとえば1cm程度の薄さとする構成は、空間分解能の向上という観点から好適な設定となる。また、第2シンチレータ結晶層の層厚さは、十分なものであるので、第1シンチレータ結晶層の厚さを薄くしたとしても、放射線の検出感度が低下することがない。
(3)請求項1または請求項2に記載の放射線検出器において、前記第1シンチレータ結晶層を形成する第1シンチレータ結晶と前記第2シンチレータ結晶層を形成する第2シンチレータ結晶とが1対1対応で結合されていることを特徴とする放射線検出器。
(3)のような構成によれば、PMTの構成が簡素な放射線検出器が提供できる。すなわち、マルチアノードPMTを採用しなくとも、各シンチレータ結晶層の面方向における蛍光の発生位置の弁別が4つの安価なPMTを使用することにより可能となる。
この発明に係る放射線検出器、およびそれを備えた陽電子放出型断層撮影装置によれば、放射線の検出感度を低下させることなく空間分解能が高い構成を提供できる。すなわち、本発明の係る放射線検出器の有するシンチレータは、多層構造となっており、具体的には、放射線源の近い側に設けられた第1シンチレータ結晶層と、放射線源から遠い側に設けられた第2シンチレータ結晶層を備えている。しかも、第1シンチレータ結晶層の層厚さは、第2シンチレータ結晶層のそれよりも薄く設定されている。したがって、シンチレータの放射線源に近い側に短い深さを有するシンチレータ結晶が配置されることになる。シンチレータを構成するシンチレータ結晶は、微細なほど放射線検出器の位置弁別能が向上することからすると、この発明に係るシンチレータは、その放射線源に近い側において深さ方向の位置弁別能が強化されていることになる。さらに、シンチレータに入射する放射線は、シンチレータの放射線源に近い側でより頻繁に蛍光に変換されることからすると、放射線源に近い側における深さ方向の位置弁別能が強化されていることは、より深さ方向の位置弁別に適した放射線検出器が提供できることになり、これをPET装置に適用すれば、空間分解能が向上したPET装置を提供できる。
以下、本発明に係る放射線検出器、およびそれを備えた陽電子放出型断層撮影装置の実施例を図面に基づいて説明する。
まず、実施例1に係る放射線検出器の構成について説明する。図1は、実施例1に係る放射線検出器の斜視図である。図1に示すように、実施例1に係る放射線検出器1は、第1シンチレータ結晶層mと第2シンチレータ結晶層nからなるシンチレータ2と、シンチレータ2の下面に設けられ、シンチレータ2から発する蛍光を検知するPMT群3と、シンチレータ2とPMT群3との間に介在する位置に配置されたライトガイド4を備える。なお、両シンチレータ結晶層m,nは、光学的に結合され、その層間に界面Rを形成している。そして、図1には示していないがシンチレータ2には、その深さ方向に伸びる反射板5(図3参照)が設けられている。
シンチレータ2は、光子の検出に適したシンチレータ結晶からなっている。すなわち、第1シンチレータ結晶層mは、Ceが拡散したLu2(1−X)Y2XSiO5(以下、LYSOと呼ぶ)によって構成され、第2シンチレータ結晶層nは、Ceが拡散したGd2SiO5(以下、GSOと呼ぶ)で構成されている。そして、両シンチレータ結晶層m,nの間で蛍光の減衰速度を表す蛍光減衰時定数は、互いに異なっている。なお、シンチレータ2の外側面は、図示しない反射膜で被覆されている。
第1シンチレータ結晶層mは、第2シンチレータ結晶層nよりも放射線源に近い側に配置され、かつ第1シンチレータ結晶層mの厚さは第2シンチレータ結晶層nの厚さよりも薄くなっている。また、第1シンチレータ結晶層m,第2シンチレータ結晶層nは、ブロック状の第1シンチレータ結晶a,第2シンチレータ結晶bのそれぞれが2次元的に配列された構成となっている。具体的には、両シンチレータ結晶層m,nの1層当たり90個のシンチレータ結晶a,bがX方向に10個、Y方向に9個配置されたマトリクス状となっている。次に、シンチレータ結晶a,bについて説明する。図2は、実施例1に係る第1シンチレータ結晶と、第2シンチレータ結晶との結合を説明する図である。図2に示すように、第1シンチレータ結晶aは、上面に光子を入射させる入射面Jを有し、その反対側の下面には、第2シンチレータ結晶bに光学的に結合している底面Kを有する。一方、第2シンチレータ結晶bは、上述の底面Kと結合した上面Pと、その反対側の下面には、ライトガイド4と光学的に結合しているライトガイド結合面Qを有している。また、それぞれの面J,K,P,およびQは、全て略同一形状となっている。そして、ライトガイド結合面Qとライトガイド4の界面は、シリコーンゴムなどのグリスで満たされている。なお、光子は、本発明における放射線に相当する。
次に、第1シンチレータ結晶a,および第2シンチレータ結晶bの配置について説明する。略同一形状の第1シンチレータ結晶aの底面Jと第2シンチレータ結晶bの上面Pは、互いに合わさり、それらの4辺が一致するように結合される。すなわち、各第1シンチレータ結晶aと第2シンチレータ結晶bの各々とは、1対1対応で結合されている。なお、この底面Jと上面Pのなす界面Rは、シリコーンゴムなどのグリスで満たされていてもよいし、空気層が介在していてもよい。
また、上述したように、両シンチレータ結晶層m,nの層厚さを比較すれば、第1シンチレータ結晶層mの方が、第2シンチレータ結晶層nよりも薄くなっている。つまり、第1シンチレータ結晶層mの厚さは、例えば1cmに設定される。一方、第2シンチレータ結晶層nの厚さは、1.2cm〜10cmに設定される。なお、本発明における層厚さ方向は、第1シンチレータ結晶aと第2シンチレータ結晶bとが有する深さ方向Zと同一方向となっている。また、両シンチレータ結晶層m,nの層厚さの合計を3cmとした場合、第1シンチレータ結晶層mの厚さは、13.6mmから2.7mmの間で設定され、第2シンチレータ結晶層nの厚さは、16.4mmから27.3mmの間で設定される。
PMT群3は、4つのPMT3a,3b,3c,および3dがX方向に2個、Y方向に2個マトリクス状に配列されることにより形成されている。このPMT群3は、蛍光を透過させるライトガイド4と光学的に結合している。したがって、両シンチレータ結晶層m,nから発した蛍光は、このライトガイド4を介してPMT群3に入射することになる。PMT3a,3b,3c,および3dは、蛍光の強度と、減衰時間を検知する。なお、このPMT3a,3b,3c,および3dの各々は、必ずしもPMT3a,3b,3c,および3dの配列方向であるX方向、Y方向に対して位置を弁別する機能を必要とはしない。なお、PMT3a,3b,3c,および3dは、本発明の光電子増倍管に相当する。
次に、反射板5について説明する。図3は、実施例1に係る反射板の構成を説明する図である。第1シンチレータ結晶aは、マトリクス状に配列し、第1シンチレータ結晶層mを形成するが、互いに隣接する第1シンチレータ結晶aの間には、蛍光を反射する反射板5が設けられている。図3に示すように、反射板5は、シンチレータ2の深さ方向Zに沿って伸びた平板状となっている。また、この反射板5は、両シンチレータ結晶層m,nに跨って設けられている。そして、シンチレータ2は、反射板5を複数有し、シンチレータ2全体で見れば、ライトガイド4方向に伸びており、反射板格子6を形成する。しかも、この反射板5がライトガイド4方向に伸びる長さLは、シンチレータ2の部分によって変化している。つまり、シンチレータ2の角部から中心部に向かうにしたがい、長さLは、より短く設定される。したがって、反射板格子6をライトガイド4側から見れば、あたかも球体を保持できるかのようにシンチレータ2の深さ方向Zに凹んだ構造となっている。
次に、実施例1に係る放射線検出器1のX,Y,およびZ(深さ)方向における蛍光の発光位置の弁別方法について説明する。シンチレータ2に入射した光子は、シンチレータ2を形成する両シンチレータ結晶層m,nのいずれかで、波長440nm〜420nmの蛍光に変換される。シンチレータ結晶a,bのうちの1つから発した蛍光は、上述の反射板5で反射しながらライトガイド4に進入する。反射板5は、シンチレータ2の角部から中心部に向かうにしたがい、長さLは、より短く設定されているので、シンチレータ2の中心部で蛍光が発すると、反射板5によって進行が邪魔されずにPMT群3に向かう。したがって、蛍光は、それが生じた結晶からXY方向に広がって幅広の光となり、4つのPMT3a,3b,3c,および3dで検出される。一方、シンチレータ2の角部で蛍光が生じると、その光は、反射板5において反射を繰り返しながらPMT群3に向かう。その結果、蛍光は殆ど広がらずに、PMT群3を構成する4つのPMT3a,3b,3c,および3dのいずれか1つで検出される。つまり、実施例1に係る放射線検出器1は、そのシンチレータ2における蛍光の発生位置に応じて蛍光の4つのPMT3a,3b,3c,および3dへの分配が段階的に変化する。これを利用して、各PMT3a,3b,3c,および3dへの蛍光の分配率からシンチレータ2におけるX,Y方向の蛍光の発光位置が算出される。
Z方向における蛍光の発生位置の弁別は、両シンチレータ結晶層m,nを構成する材料が異なっていることを利用する。実施例1に係るシンチレータ2では、第1結晶層2mにLYSO,第2結晶層2nにおいてGSOを使用しているので、蛍光減衰時間がこの両シンチレータ結晶層m,nにおいて異なっている。したがって、PMT群3で観察される蛍光の減衰減衰時間を区別すれば、蛍光が第1シンチレータ結晶層m,第2シンチレータ結晶層nのどちらで発光したものであるかが判断できる。このように、Z方向における蛍光の発光位置が弁別される。なお、両シンチレータ結晶層m,nを構成するシンチレータ結晶に拡散されるCe濃度を変化させることによって、蛍光の減衰時定数が調整可能となっている。
以上のように、実施例1に係る放射線検出器1によれば、光子の検出感度を低下させることなく空間分解能が高い構成を提供できる。すなわち、実施例1に係る放射線検出器1の有するシンチレータ2は、放射線源に近い側に設けられた第1シンチレータ結晶層mと、放射線源から遠い側に設けられた第2シンチレータ結晶層nからなっている。しかも、第1シンチレータ結晶層mの層厚さは、第2シンチレータ結晶層nのそれよりも薄く設定されている。したがって、より頻繁に蛍光が発生する光子源に近い側において深さ方向Zの位置弁別能が強化されている。したがって、より深さ方向の位置弁別に適した放射線検出器が提供できる。
また、実施例1によれば、第1シンチレータ結晶層mは、光子の光への変換効率の高いLYSOで構成されているので、第1シンチレータ結晶層mで発する蛍光を増加させることができ、より深さ方向Zについて正確に位置弁別が可能な放射線検出器が提供できる。また、第2シンチレータ結晶層nはGSOで形成されている。これにより、より安価な放射線検出器が提供できる。さらに、第2シンチレータ結晶層nにはLuを含まない。これにより、Luから生じる自己放射線の線量とその影響を極力抑制することができる。
続いて、実施例1で説明した放射線検出器を備えた陽電子放出型断層撮影装置(以下、PET装置と呼ぶ。)について説明する。図4は、実施例2に係るPET装置の構成を説明するブロック図である。図4に示すように、実施例2に係るPET装置10は、ガントリ11と、ガントリ11の内部に設けられた検出器リング12と、検出器リング12の内面側に設けられた137Csを備え、光子ファンビームを照射する光子点線源13と、これを駆動する光子点線源駆動部14と、被検体Mを載置する天板15を備えた寝台16と、天板15を摺動させる天板駆動部17とを備える。なお、光子点線源駆動部14は、光子点線源制御部18にしたがって制御され、天板駆動部17は、天板制御部19にしたがって制御される。また、PET装置10は、さらに被検体Mの断層画像を取得するための各部が更に設けられている。具体的には、PET装置10は、検出器リング12からの光子の検出位置、検出強度、検出時間を表す光子検出信号を受信し、消滅光子対の同時計数を行う同時計数部20と、同時計数部20によって消滅光子対と認識された2つの光子検出データから消滅光子対の入射方向を特定するLOR導出部21と、LOR導出部21で導出された消滅光子対の入射方向を参照して光子検出信号におけるシンチレータ2の深さ方向の位置情報を一層化処理する再アドレス部22を備えている。また、再アドレス部22の後段には、後述のトランスミッションデータを参照して光子の吸収補正を行う吸収補正部23と、被検体MのPET画像を形成する画像形成部24を備えている。なお、検出器リング12から送出されるデータは、パケットデータとなっている。
そして、さらに実施例2に係るPET装置10は、各制御部18,19を統括的に制御する主制御部25と、PET画像を表示する表示部26とを備えている。この主制御部25は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより各制御部18,19および同時計数部20,LOR導出部21,再アドレス部22,吸収補正部23,および画像形成部24とを実現している。なお、同時計数部20,LOR導出部21は、再アドレス部22は、本発明における、同時計数手段、LOR導出手段、および再アドレス手段のそれぞれに相当する。
なお、検出器リング12は、ブロック状の実施例1に係る放射線検出器をリング状に並べて構成される。
次に、実施例2に係るPET装置10が有するLOR導出部21について更に説明する。LORとは、Line Of Responsの略であり、消滅光子対が入射した2つのシンチレータ結晶を直線で結んだ線分を意味している。この対を成す光子が検出器リング12の有する2つのシンチレータ結晶によって蛍光に変換されるので、2つのシンチレータ結晶を直線で結べば、消滅光子対はその直線上のいずれかから生じたことになる。これを利用して実施例2に係るPET装置10は、被検体Mの放射線薬剤の分布情報を知ることになる。
LOR導出部21によるLORの導出方法について説明する。図5は、実施例2に係るLORの導出方法を説明する図である。例として、シンチレータ結晶121,122から蛍光が発せられたとする。このシンチレータ結晶121,122のLORを簡易的に求めるには、蛍光が発せられた場所をシンチレータ結晶121,122の表層とすることが有効である。
LORの導出に先立って、図5に示すように、シンチレータ結晶121,122の重心の各々を結ぶ基準線と、それに平行なシンチレータ結晶121,122の各々を貫くようなζ本のsub−LORを準備する。
次に、各sub−LORにおける検出確率を求める。検出確率とは、どの程度の確率で光子が蛍光に変換されるかという指標で、これが高いほど、sub−LOR上に位置するシンチレータ結晶によって入射した光子が蛍光に変換されやすいことを意味する。例として、η番目のsub−LORについての検出確率について説明する。η番目のsub−LORに沿って光子がシンチレータ結晶121に到達したとすると、この光子は、3通りの運命を辿ることになる。第1に、シンチレータ結晶121によって蛍光に変換される場合があり、第2には、シンチレータ結晶121に入射する前に、光子源(被検体M)に近い側のシンチレータ結晶123ないしシンチレータ結晶125などによって蛍光に変換されてしまう場合がある。第3には、いずれのシンチレータ結晶も貫通し、検出器リング12から飛び去る場合がある。ここで、シンチレータ結晶121における検出確率を考えると、それは、前記第1の場合が起こる確率となる。したがって、この検出確率を求めるには、シンチレータ全体が光子を蛍光に変換する確率からシンチレータ結晶121から見て光子の進行方向の手前側(光子源に近い側)に配置されたシンチレータ結晶123ないしシンチレータ結晶125が光子を蛍光に変換する確率を減算すればよいということになる。これをシンチレータ結晶121に関する検出確率と呼ぶことにする。また、シンチレータ122に関する検出確率もシンチレータ結晶121と同様に求めることができる。すなわち、シンチレータ全体が光子を蛍光に変換する確率からシンチレータ結晶122から見て光子の進行方向の手前側(光子源に近い側)に配置されたシンチレータ結晶126が光子を蛍光に変換する確率を減算すればよい。これらのことからすると、シンチレータ結晶121,122で蛍光が検出される確率は、上述のシンチレータ結晶121に関する検出確率とシンチレータ結晶122に関する検出確率の積となる。なお、sub−LORにおける検出確率は、sub−LORが蛍光を発したシンチレータ結晶を貫く長さに応じて大きくなり、逆に、sub−LORが蛍光を発したシンチレータ結晶から見て光子の進行方向の手前側に配置されたシンチレータ結晶を貫く長さに応じて小さくなる。
同様に、1番目からζ番目までの各々のsub−LORにおける検出確率を順に求める。そして各検出確率を比較すると、それぞれの検出確率が互いに異なっていることに気づく。つまり、より検出確率の高いsub−LORの近傍に実際のLORがあり、それに沿って消滅光子対がシンチレータ結晶121,122に進入した可能性が高いことがいえる。つまり、sub−LORの各々について検出確率を導出し、この検出確率に応じて重み付けて足し合わせれば、シンチレータ結晶121,122におけるLORを求めることができる。
こうして得られたLORは、後段の再アドレス部22に送出される。この再アドレス部22では、シンチレータ2の深さ方向の位置情報を一本化する情報処理が行われる。(この様な情報処理を以降、一層化処理と呼ぶ。)つまり、この一層化処理を行えば、後段の情報処理においては、シンチレータ2の構成を仮想的に1層のシンチレータ結晶層からなるものとして情報処理をすることになり,シンチレータ2における深さ方向の位置情報の圧縮と処理の高速化が同時に実現できる。図6は、実施例2に係るPET装置における一層化処理を説明する図である。消滅光子対が検出器リング12を構成する各放射線検出器131a,131bに入射したとする。このとき、放射線検出器131aにおいて、放射線検出器131aに設けられたシンチレータの何処で蛍光が発せられたかという位置の弁別が行われる。こうして、X,Y,Z(深さ)方向の位置の弁別なされ、シンチレータ結晶132aが蛍光の発生源として特定される。なお、放射線検出器131bについても、同様に蛍光の位置の弁別が行われ、たとえば、第1シンチレータ結晶であるシンチレータ結晶132aと、第2シンチレータ結晶であるシンチレータ結晶132bとが位置の弁別によってそれぞれ蛍光の発生源として特定されたとする。これに基づき、LOR導出部21は、このシンチレータ結晶132a,132bを結ぶLORを導出する。なお、このLORの導出方法については、既に説明済みである。
例のように、第2シンチレータ結晶が蛍光を発した場合、第2シンチレータ結晶で生じた蛍光を仮想的にその上層の第1シンチレータ結晶で蛍光が発したものとする一層化処理が再アドレス部22によって行われる。図7は、実施例2に係るPET装置における一層化処理を説明する図である。まず、再アドレス部22は、図7に示すように、LOR導出部21によって得られたLORが通過する第1シンチレータ結晶であるシンチレータ結晶132cの位置情報を取得する。これを、第2シンチレータ結晶であるシンチレータ結晶132bの位置情報に上書きすれば、一層化処理は終了となる。なお、図7においては、一層化処理は、シンチレータ結晶132bについて行われたが、蛍光を発した2つのシンチレータ結晶がいずれも第2シンチレータ結晶である場合、再アドレス部22は、この両方について一層化処理を実行する。一層化処理を終えた光子検出データは、後段の画像形成部24によりPET画像に組み立てられる。
次に、実施例2におけるPET装置の空間分解能について説明する。図8は、実施例2におけるPET装置の空間分解能について説明する図である。図8(a)は、第1シンチレータ結晶層mと、第2シンチレータ結晶層nの厚さを同一としたシンチレータの構成を示している。領域141は、放射線源に最も近い側に位置しているので、最も蛍光が発生しやすい。そして、領域142は、領域141には及ばないもののシンチレータ全体で見れば比較的、蛍光の発生が多い領域である。図8(a)の例では、両領域141,142は、第1シンチレータ結晶層mに配置されている。したがって、両領域141,142のいずれかで発生した蛍光は、どちらの領域で発生したものか弁別されることがない。ところで上述のLOR導出方法によれば、より領域141側にLORが設けられることになるので、蛍光が領域142で生じた場合、LORはこの領域142からずれたものとなり、結果として空間分解能が低下する。
一方、図8(b)に示すように、実施例2に係る検出器リング12に備えられた第1シンチレータ結晶層mの層厚さは、第2シンチレータ結晶層nのそれよりも薄く設定される。したがって、領域142は、今度は第2シンチレータ結晶層nに延在している。この様に設定すれば、LORは、第2シンチレータ結晶層nの位置から導出される。領域142で生じる蛍光は第2シンチレータ結晶層nの中では最も多い部分であるので、LOR導出部21によって導出されたLORは、領域142側に設けられることになる。したがって、領域142で生じる蛍光は、LORからより離反することなく、蛍光の発光位置をより正確に表したものとなる。この様に、実施例2に係るシンチレータは、その放射線源に近い側の領域141,142において深さ方向の位置弁別能がより強化されている。
また、実施例2に関して発明者らは、第1シンチレータ結晶層mの層厚さと、第2シンチレータ結晶層nの層厚さの好適な条件をシミュレーションによって求めた。より具体的には、第1シンチレータ結晶層mの層厚さと、第2シンチレータ結晶層nの層厚さを変えた複数の条件で、検出器リングの内側における検出器リングの中心部と、検出器リングの外周部において、PET装置の空間分解能を比較した。なお、各計算結果は、シンチレータの発する蛍光の空間強度分布関数の半値全幅(FWHM)から得られたものである。
この半値全幅について説明する。図9は、実施例2における半値全幅を説明する図である。放射線検出器1が蛍光は、広がりを持った領域で検出されることになる。蛍光の空間強度分布関数は、蛍光強度Iと位置に関する関数であり、蛍光の空間的な広がりを表している。より具体的に、蛍光が広がる方向Pについての位置をpと、それに関する蛍光強度Iとして蛍光の空間強度分布関数を模式的に示すと、図9のようになる。つまり、蛍光は、方向Pについて所定の分布で広がったものとなっている。具体的には、位置pcにおいて蛍光強度Iは、極大のmaxであり、位置がpcから離れるに従って、蛍光強度Iは単調に減少したものとなっている。
半値全幅とは、蛍光を構成する蛍光強度Iの位置pについての広がりの指標である。具体的には、まず、蛍光の空間強度分布関数における蛍光強度Iの最大値maxの半値であるmax/2を求める。そして、蛍光の空間強度分布関数において、max/2に対応する2つの位置pa、位置pbを読み取って、これらに挟まれた領域Hが半値全幅とされる。
図10は、実施例2におけるシミュレーションの条件について説明する図である。なお、シミュレーションにおいて検出器リングの半径は、30cmである。点Eは、検出器リングの中心点Oから1cm離間している(中心点Oからの距離D1=1cm)。点Fは、検出器リングの中心点Oから25cm離間している(検出器リングからの距離D2=5cm)。なお、点Fは、実施例2に係る検出器リング12の内周側端の一例である。また、点Eは、線分OFに含まれるものとする。また、線分OFの延伸方向を方向Qとし、検出器リング12の軸方向を方向Rとする。
また、このシミュレーションは、点E、および点Fで生じた消滅光子対は、方向Q、および方向Rと直交する方向Sに沿って進行し、検出器リング12に入射する想定で行われたものである。なお、上述の半値全幅における蛍光が広がる方向Pは、図10における方向S、および検出器リング12の軸方向Rに相当する。
層厚さ30mmの1層のシンチレータ結晶層の条件(以降、条件1とよぶ)において、検出器リングの中心から離間するにしたがい空間分解能が低下したものとなっている。なお、表中のE、およびFは、図10における点E、および点Fに対応しており、表中のEは実施例2に係る検出器リングの中心部分の一例であり、表中のFは、実施例2に係る検出器リングの内周側端の一例である。
次に、表1において、15mmのLYSOからなる第1シンチレータ結晶層と、15mmのGSOからなる第2シンチレータ結晶層の2層構造をしたシンチレータとした条件では(以降、条件2とよぶ)、シンチレータを2層化したことで、条件1の場合よりも、検出器リングの内周側端における空間分解能の低下が抑えられている。しかし、第1シンチレータ結晶層の層厚さが厚いものになってしまっているので、検出器リングの外周部におけ空間分解能は、不十分である。
そして、10mmのLYSOからなる第1シンチレータ結晶層と、20mmのGSOからなる第2シンチレータ結晶層の2層構造をしたシンチレータとした条件では(以降、条件3とよぶ)、条件2よりもさらに検出器リングの内周側端におけ空間分解能の低下が抑制されている。このような条件を採用した実施例2に係るシンチレータは、その放射線源に近い側において深さ方向の位置弁別能が強化されており、外周部におけ空間分解能は十分に高いものとなっている。
次に、再び図4を参照しながら、実施例2に係るPET装置の動作について説明する。実施例2に係るPET装置10で検査を行うには、まず、放射性薬剤を予め注射投与された被検体Mを天板16に仰臥させ、天板16を所定の位置まで上昇させる。そして、天板16を摺動させ、被検体Mをガントリ11の内部に導入させた後、被検体Mの内部の光子吸収分布を示すトランスミッションデータを取得する。つまり、光子点線源13から被検体Mに向けてファン状の光子ファンビームを照射する。この光子ビームは、被検体Mと透過して検出器リング12によって検出されることになる。そして、光子点線源13を検出器リング12の内周面に沿って回転させながら、この様な検出を被検体Mの全周に亘って行い、これを基に被検体Mの断面の光子吸収マップを得る。そして、再度天板16を摺動させ、被検体Mの位置を順次変更させながら、その度ごとに上述の光子吸収係数マップの取得を繰返す。こうして、被検体Mの頭部全体の光子吸収係数マップを得る。
上記のようなトランスミッションデータの取得に引き続いて、被検体Mに投与された放射線薬剤から放出される消滅光子対を検出するエミッションデータの取得が行われる。それに先立って、このエミッションデータの取得に邪魔となった光子点線源13を被検体Mの体軸方向に移動させ、図示しない線源遮蔽体に入庫させる。
続いて、エミッションデータの取得が行われる。つまり、被検体Mの内部から放出される進行方向が180°反対方向となっている消滅光子対が検出器リング12によって検出される。検出器リング12によって検出された光子検出信号は、同時計数部20に送出され、2つの光子を検出器リング12の互いに異なる位置で同時刻に検出した場合のみ1カウントとし後段のデータ処理が行われるようになっている。そして、天板16を摺動させ、被検体Mの位置を順次変更させながら、このようなエミッションデータの取得を続けることで、放射性薬剤の被検体Mの内部分布を画像化するのに十分なカウント数のエミッションデータを得る。最後に、天板16を再び摺動させ被検体Mをガントリ11内部から離反させた後、被検体Mを天板16から退去させるため天板16を降下させ、検査は終了となる。
次に、図4を参照しながら、実施例2に係るPET装置におけるデータ処理について説明する。検出器リング12から出力されるトランスミッションデータ、およびエミッションデータは、どのシンチレータ結晶が感知したものであるか既に特定されている。まず、トランスミッションデータの処理について説明する。図4に示すように、トランスミッション検出データTrは、検出器リング12から再アドレス部22に送出される。ここでは、検出器リング12を構成するシンチレータのうち、第2シンチレータ層で検出された光子検出信号が、仮想的に第1シンチレータ層で検出されたように位置情報を書き換える情報処理が行われる。より具体的には、蛍光の発生源となったシンチレータ結晶の位置と、その蛍光が発生した時点での光子点線源13の位置とを結ぶ線を設け、第2シンチレータ結晶で検出されたデータの検出位置をこの線が通過する第1シンチレータ結晶の位置に書き換える。こうして、トランスミッションデータが取得され、これが、後段の吸収補正部23に送出される。
一方、エミッション検出データEmは、同時計数部20によって、所定の時間幅内で検出器リング12が感知した2つの光子検出信号を消滅光子対によるものされて、LOR導出部21に出力される。LOR導出部21においては、消滅光子対を検知した2つのシンチレータ結晶を結ぶLORを導出する。そして、エミッション検出データEmは、LORを基に再アドレス部22にて一層化処理が行われ、後段の吸収補正部23に送出される。
吸収補正部23では、エミッション検出データEmに対して、前述のトランスミッション検出データに基づいて、エミッション検出データに重畳した被検体Mの光子吸収分布の影響を除く吸収補正が行われる。こうして、被検体M内の放射性薬剤分布をより正確に表した検出データは、画像形成部24に送出され、そこでPET画像が再構成される。最後に、それが表示部26で表示される。
次に、表1で示した各条件におけるPET画像を例示し、実施例2における発明の効果を強調する。図11は、実施例2に係るPET画像を示す図である。これらのPET画像は、上述のシミュレーションの構成を実際に組み立てて実験を行って得られた実測の結果である。まず、実施例2の構成に係る条件3におけるPET画像を示したのが、図11(a)、および図11(b)である。図11(a)は、図10中の点Eに消滅光子対が存在している場合のPET画像である。図11(a)に示すように、表れる像は、点状であり、蛍光の発生位置が正確に弁別されている。これと、図10中の点Fに消滅光子対が存在している場合のPET画像を示した図11(b)とを比較すると、点Fの方が多少ぼやけるものの、それほど大きな変化はない。したがって、実施例2に係るPET装置10によれば、たとえ消滅光子対が検出器リング12の内周側端において生じたとしても、蛍光の発生した位置を忠実に弁別できる構成となっている。
この点Fに消滅光子対が存在している場合に絞って、更なる説明を行う。図11(c)は、表1で示した条件2の構成でのPET画像であり、図11(d)は、表1で示した条件1の構成でのPET画像である。図11(c)、(d)は、共に図10中の点Fに消滅光子対が存在している場合のPET画像を示したものである。図11(b)(c)、(d)の各々を比較すると、実施例2に係る条件3が蛍光の発生した位置を最も忠実に弁別する構成であることがわかる。特に、図11(d)における像は、細長状となっており、像がかなりボケていることがわかる。
以上のように、上述した実施例2に係るPET装置10によれば、消滅光子対の発生位置をより正確に導出できる。実施例2に係るシンチレータは、光子線源に近い側に層厚さの薄い第1シンチレータ結晶層mと、遠い側に層厚さの厚い第2シンチレータ結晶層nとが配置されているので、シンチレータ全体のうち、より光子が蛍光に変換される光子線源に近い側において、シンチレータの深さ方向の弁別能が強化されている。したがって、この構成によって形成されるLORは、より正確なものとなり、結果として、より分解能が高いPET装置10が提供できる。たとえ消滅光子対が検出器リング12の内周側端において生じ、シンチレータに対し光子が斜め方向から入射したとしても、第1シンチレータ結晶層mの層厚さが薄く形成されているので、第1シンチレータ結晶層mから蛍光が発すれば、この限られた層厚さの中で蛍光が発生したことがわかるので、蛍光の発生した位置をより詳細に弁別することができる。
この発明は、上記実施例に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
(1)上述した各実施例では、PMTとしてマルチアノード型の光電子増倍管を使用することができる。これにより、より正確にXY方向の位置弁別可能な放射線検出器およびそれを備えたPET装置が提供できる。
(2)上述した実施例2では、光子点線源13として、陽電子を放出する核種である68Ge−68Gaを用いた構成としてもよい。この場合、光子点線源13から照射される光子の有するエネルギーは、被検体内に注射投与される陽電子放出核種で標識された放射性薬剤から発する消滅光子対のエネルギーと同一なものとなる。したがって、本変形例によれば、トランスミッションデータから、消滅光子対の被検体内吸収をより正確に反映した光子吸収係数マップを取得することができる。
(3)上述した各実施例では、第1シンチレータ結晶層mはLYSOで形成されたが、例えばGSOで形成されても良い。この場合の放射線を蛍光に変換する効率である変換効率は、両シンチレータ結晶層m,nで同程度になる。その他、適宜、両シンチレータ結晶層m,nを構成する材料を選択することが可能である。