JP5136986B2 - 圧電体の製造方法および圧電素子 - Google Patents

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本発明は、圧電体の製造方法および圧電素子に関するものである。
従来、圧電素子は、携帯電話用の高周波フィルター、物理量センサの検知材料、発光ダイオードの発光層の他、さらに、電子デバイス、光学デバイス、高耐圧および高耐熱電子デバイスなどの多くのデバイスとしての応用が可能であり、広く研究開発がなされている。
圧電素子に含まれる圧電体、特に薄膜圧電体は、通常、物理蒸着法(PVD法)、化学気相成長法(CVD法)、あるいはゾルゲル法などの成膜方法によって、適切な基板上に形成される。成膜方法および使用される基板は、薄膜圧電体の種類および利用目的などに応じて決定される。
近年、圧電素子として、特に窒化アルミニウム(AlN)が注目されている。窒化アルミニウムはウルツ鉱型構造を有することのできる化合物であり、優れた耐熱性および結晶安定性を有する。これらの特性を有する窒化アルミニウムを圧電体として用いることによって、優れた高温用圧電素子を実現することができる。
例えば、窒化アルミニウムを用いた圧電薄膜共振子が特許文献1に開示されている。特許文献1の窒化アルミニウム薄膜は、タンタルを主成分とする厚さ2000nm未満の金属薄膜の表面に形成されている。本構成によれば、薄膜の結晶性および配向性を向上させることができ、電気機械結合係数および音響品質係数(Q値)に優れた圧電薄膜共振子を提供することができる。
特開2004−312611号公報(平成16年11月4日公開)
しかしながら、上記従来の窒化アルミニウムの圧電体では、高温での時定数が不十分であるという問題がある。
具体的に説明すると、優れた絶縁抵抗を有する窒化アルミニウムであっても温度の上昇に伴い電気伝導度は増加し、やがて半導体としての挙動を示すこととなる。このような電気伝導度の上昇は、絶対温度の逆数に比例する、いわゆるアレニウス則に従っている。
これを電気的等価回路モデルとして考えると、圧電体は抵抗Rと静電容量Cとからなる並列要素として捉えることができ、それ自体が時定数τ(=C・R)を有することになる。強誘電体でなければ、通常、静電容量Cは温度変化に対してそれほど敏感に変化しない。これに対し、抵抗Rは熱エネルギーの作用により、アレニウス則に従い温度の上昇と共に低下する。このため、時定数τも温度上昇と共に低下することとなり、測定可能な周波数範囲が圧電素子として利用可能な周波数下限値を下回ることとなる。
圧電体には、上記のように、最低限の時定数を与える臨界温度が存在する。ある圧電体に対し、臨界温度を上昇させるためには、その圧電体の高温における抵抗Rがより大きくなるように材料設計をすることが必要である。しかしながら、この点において、窒化アルミニウムに対する材料設計は未だ報告されていない。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、高温での時定数が向上されるよう材料設計された、ウルツ鉱型の結晶構造を有する窒化アルミニウム圧電体を提供することにある。
本発明の圧電体の製造方法は、上記課題を解決するために、ウルツ鉱型の結晶構造を有する窒化アルミニウムからなる圧電体を得る為の製造方法において、酸素の含有量が0.001%以上、0.5%以下であり、アルゴンおよび窒素の合計含有量が99.5%以上、99.999%以下である混合気体の存在下において、酸素を含有する窒化アルミニウムを合成し、この窒化アルミニウムを500℃以上、850℃以下の温度にて加熱することを特徴としている。
上記の発明によれば、合成過程において窒化アルミニウム中に酸素を含有させることができ、さらにその後の加熱処理過程において、取込まれた酸素を安定な状態とすることができる。このため、圧電体の高温での抵抗値を向上させることができる。すなわち、得られる圧電体の時定数を向上させるための材料設計が可能となるので、高温での安定した使用が可能な圧電体を製造することができる。
また、本発明の圧電素子は、上記発明による圧電体の製造方法によって得られた圧電体を有するものである。
圧電素子が上記圧電体を有していることによって、高温での時定数が向上されており、高温での安定した各種計測が可能である。このため高温での計測が要求される各種分野において非常に有用である。
本発明の圧電体の製造方法は、以上のように、酸素の含有量が0.001%以上、0.5%以下であり、アルゴンおよび窒素の合計含有量が99.5%以上、99.999%以下である混合気体の存在下において、酸素を含有する窒化アルミニウムを反応性スパッタリング法によって合成させ、この窒化アルミニウムを500℃以上、850℃以下の温度にて加熱する方法である。
それゆえ、窒化アルミニウム中に酸素を含有させ、さらにその酸素を安定な状態とすることができる。このため、圧電体の高温での抵抗値を向上させることができる。すなわち、得られる圧電体の時定数が向上される材料設計が可能となるので、高温での安定した使用が可能な圧電体を製造することができるという効果を奏する。
〔圧電体の製造方法〕
本発明の一実施形態について図1に基づいて説明すれば、以下の通りである。本発明に係る製造方法は、窒化アルミニウムに酸素を含有させることによって、高温においても使用可能な圧電体を製造できる知見に基づき完成されたものである。
本発明に係る圧電素子は、酸素の含有量が0.001%以上、0.5%以下であり、アルゴンおよび窒素の合計含有量が99.5%以上、99.999%以下である混合気体の存在下において、上記混合気体とアルミニウムとを反応性スパッタリング法によって反応させ、該反応性スパッタリング法により合成した窒化アルミニウムを500℃以上、850℃以下の温度にて加熱する圧電体の製造方法によって製造されたものである。以下、本製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、反応性スパッタリング法によってなされる方法である。本製造方法は、例えば、公知のチャンバー内にアルミニウムを設置し、混合気体の存在下において反応性スパッタリング法を行うことができる。本製造方法の実施に用いられる装置は特に限定されず、反応性スパッタリング法に用いられる従来公知の製膜装置等を用いることが可能である。
圧電体あるいは圧電素子としての利用という観点から、合成される窒化アルミニウムは、何らかの基板上に形成されるように上記製造方法がなされることが望ましい。基板としては、公知の材料を用いることができ、例えば、シリコン、サファイア、炭化ケイ素、ガラスなどを用いることができる。また、いわゆる超合金などの耐熱金属を用いることもできる。このような耐熱金属材料を基板として用いると、それ自身を圧電素子の電極として機能させることも可能になる。
本発明では圧電体の材料として窒化アルミニウムを用いている。窒化アルミニウムは耐熱性および結晶安定性に優れ、さらに弾性波の伝播速度が速いという利点がある。このため、窒化アルミニウムを圧電体の材料として用いることにより、高周波帯域で動作する薄膜共振器、薄膜フィルター用の圧電素子の部材として好適に用いられる圧電体を提供することができる。
本発明では、窒化アルミニウム圧電体に酸素を含有させることを目的として、まず第1の工程として、混合気体の存在下にて、アルミニウムとの反応性スパッタリングを行う。混合気体は、少なくともアルゴン、窒素および酸素を含んでおり、アルゴンおよび窒素の合計含有量が99.5%以上、99.999%以下である。アルゴンおよび窒素の全体量(酸素を含まない)に占めるアルゴンおよび窒素それぞれの含有率は、本発明に係る圧電素子を製造できる範囲で適宜変更可能であるが、一例として、アルゴンは10%以上、70%以下、窒素は30%以上、70%以下とすることができる。
一方、上記混合気体における酸素の含有量は0.001%以上、0.5%以下である。混合気体中の酸素が上記の範囲未満であると、本発明の効果を発揮させるに十分な量の酸素を窒化アルミニウムに含有させ難くなる。一方、上記の範囲を超える場合、極性面が揃いにくくなるなど、窒化アルミニウム圧電体に好ましくない状態が生じることとなるおそれがある。また、上記酸素の含有量の下限が0.1%以上であれば、酸素をより多く窒化アルミニウムに含有させることができるため、さらに好ましい。
また、混合気体には、本発明に係る圧電素子の製造を妨げない範囲で、オゾン、二酸化窒素、二酸化炭素などが含まれていてもかまわない。
反応性スパッタリング法が行なわれる際には、例えば、公知の製膜装置内を5×10−5Paまで減圧した後に、供給管を介して上記混合気体が供給され、アルミニウムと混合気体中の窒素とが反応性スパッタリング法によって反応して基板上に窒化アルミニウムを生成する。この窒化アルミニウム生成時には、アルミニウムとの反応性の高い酸素も同時に取込まれる。反応時の温度としては、反応性スパッタリング法で採用される通常の温度が採用でき、例えば、400℃程度(350℃以上、450℃以下)が効果的である。スパッタリング時間は、用いるアルミニウムのサイズや混合ガス中の窒素含有率、スパッタリング電力などによって異なるが、例えば、2時間以上、24時間以下とすることができる。
本発明の製造方法は、第2の工程として、酸素を含有した窒化アルミニウムをさらに加熱する工程を有する。上記第1の工程によって、窒化アルミニウム圧電体に酸素を含有させることができると推測されるものの、その酸素の状態は不安定であると考えられる。この不安定な状態をより安定な状態にするため、発明者らは鋭意検討した結果、反応性スパッタリング処理後の上記窒化アルミニウムを加熱処理することを見出した。
窒化アルミニウムを加熱する温度としては、500℃以上、850℃以下である。これにより、窒化アルミニウム中に酸素を安定に含有させることができ、圧電体の高温での抵抗値を向上させることができる。すなわち、得られる圧電体の時定数が向上される材料設計が可能となるので、高温での安定した使用が可能な圧電体を製造することができる。
さらに、窒化アルミニウムを加熱する温度は、700℃以上、800℃以下であることが好ましい。このように、下限温度を700℃以上とすることによって、窒化アルミニウム中に酸素をより安定に含有させることができる。また、上限温度を800℃とすることによって、窒化アルミニウムの表面に酸化皮膜が形成されることを極力回避することができる。
上記温度範囲未満であると、窒化アルミニウムに含有される酸素や過剰な窒素空孔などの欠陥を安定化させる効果が得られないおそれがある。また、上記温度範囲を超える場合、窒化アルミニウムの表面に酸化皮膜が生じるおそれがある。この酸化皮膜が生じたとしても直ちに圧電体の特性は低下しないが、酸化皮膜はできる限り生じないことが好ましいため、上記の上限温度以下で本製造方法の第2の工程はなされる。
加熱の時間は、加熱温度ならびに加熱雰囲気によって異なるが、800℃の場合、100分以下に設定することができる。加熱は、製膜装置内に備えられているヒータを用いることによって行うことができるが、汎用の加熱炉や真空熱処理炉を用いてもよい。加熱後、基板の冷却を経て、本発明に係る圧電体が得られる。本発明に係る製造方法は、バッチ式で行ってもよく、連続式で行ってもよい。
得られた圧電体の用途としては、特に圧電素子を構成する層として用い、圧電素子を形成することができる。本発明に係る圧電素子は、上記圧電体を有していれば特に限定されるものではなく、従来公知の圧電素子の構成を採用することができる。例えば、(1)基板上に電極、圧電体、電極の順で各層が積層された構成、または、(2)基板上に圧電体が形成されており、電極が一対として、圧電体上の2箇所に形成された構成、などを例示することができる。
本発明に係る圧電素子は、上記圧電体を有しているので、高温での時定数が向上されており、高温での安定したアコースティック・エミッション(AE)の計測等が可能である。このため高温での計測が要求される各種分野において非常に有用である。
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下に、本発明に係る圧電体の製造方法を具体的に示すと共に、反応性スパッタリング法によって製造された窒化アルミニウムの各種特性の変化についても説明する。
〔参考例1〕
本参考例では、加熱処理により、反応性スパッタリング法にて製造した窒化アルミニウム圧電体の抵抗値が向上すること、また抵抗値が向上した際に電気伝導を担う主体が圧電体中の酸素イオンであることを説明し、酸素を含有させた窒化アルミニウム圧電体を得ることと、ならびにその後に加熱処理工程を実施することの重要性を示す。そのために、高周波マグネトロンスパッタリング装置(ANELVA社製、品番:L−332S−FH)を用いた反応性スパッタリング法によって単結晶シリコン(Si)上に4μmの窒化アルミニウム(AlN)薄膜圧電体を形成した。
具体的な内容としては、まず、単結晶Siを成膜用基板として設置したスパッタリング装置内を5×10−5Paまで減圧し、単結晶Si基板を400℃に加熱・保持しつつ、混合気体を装置内に導入した。導入した気体の混合比は、アルゴン:窒素=1:1とした。上記混合気体を導入後、0.5Paの圧力にて8時間の反応性スパッタリングを実施した。なお、上記混合気体には意図的に酸素を混合させていないが、アルゴンおよび窒素には極めて微量の酸素も含有されているものである。
次に、AlN薄膜の上面にスパッタリング法によって白金電極(Pt電極)を形成することで圧電素子とし、これを試料Aとした。この試料Aに対し、ピエゾテスト社のピエゾシステムPM−100を用いて上記試料の圧電応答性を評価したところ、2.5pC/Nの値を示すことを確認し、圧電素子として機能することを確認した。
この400℃で成膜された窒化アルミニウム薄膜圧電体を、成膜温度よりも高い温度で使用する場合、この圧電素子は、成膜温度よりもさらに高温の使用環境でより安定な状態へと遷移することが考えられる。したがって、より高温で安定化処理を施すことが望ましいが、温度が高すぎる場合、例え真空中や不活性雰囲気中であっても、酸素との親和性の強い窒化アルミニウムは酸化されてしまうおそれがある。このような背景に鑑み、加熱温度の上限温度を850℃としてこの圧電素子に安定化処理を施すとともに、その過程における特性の変化を解明するために、交流インピーダンス法によるインピーダンス計測を行った。
交流インピーダンス法は、所定の周波数を有する正弦波電圧信号を試料に印加したときの発生電流と、電圧信号に対するこの検出電流の位相差とを測定する方法であり、例えば1Hz以下から数MHzまでの周波数での幅広い周波数領域に渡って、周波数を掃印しながら測定を実施することができる。したがって、広域にわたってインピーダンス特性を評価できる方法である。さらに、得られた結果について電気的等価回路解析を実施すると、複数の電気的要素の分離や、各々の要素の持つ抵抗値や誘電率などの決定も可能になる。つまり、交流インピーダンス計測と、その後の解析とにより、種々の電気的特性を知ることができる。
図1の(a)〜(d)にそれぞれ810Kから1130K(約850℃)までの温度範囲で約100K毎に計測した試料Aのインピーダンスの結果を示す。同図では、インピーダンスの虚数成分を縦軸に、実数成分を横軸にとっており、いわゆるCole‐Cole プロットとして計測結果を示している。
また、1130Kでの計測後は炉冷にて圧電素子の冷却を行ったが、この降温過程においてもインピーダンス計測を実施し、それらの結果も同図の(e)〜(g)として示す。
1130Kならびに降温時の(d)〜(g)の測定結果からは、この圧電素子は、二つのCR並列回路からなる要素として見なすことができることがわかる。一方、1130Kまで加熱する過程で得られた結果(a)〜(c)からは、各図の右側にごく小さな要素が存在する可能性も示唆している。そこで全ての温度での結果について、これらが、二つのCR並列要素が直列に結合したものと考えて等価回路解析を行った。
解析結果を図1の各図中に点線または実線で示す。解析結果と測定結果(プロット)とには良好な一致が得られた。解析時に与えられた各パラメータの値を図2に示すとともに、(a)〜(g)に対応する周波数と位相角との関係を図3に示す。
さらに、これらの各パラメータを温度の逆数に対してプロットした結果を図4に示す。ここで、静電容量Cおよび抵抗Rの添字1はAlN圧電体自体を示し、静電容量Cおよび抵抗Rの添字2はAlNとPt電極界面を示し、後述するように、この界面部分には酸化物からなる酸化皮膜が生成していることがわかった。
同図の(a)に示すように、AlN圧電体自身について、その静電容量成分C1の値は昇温、降温に関わらず一定の値を示した。これに対して、(b)に示すように、抵抗R1の値は1130Kまで(heating)よりも1130K以降(cooling)の方が各測定温度での絶対値が大きくなり、温度の逆数に対する勾配(活性化エネルギー)もそれぞれの過程で異なることがわかった。
時定数は静電容量と抵抗値との積で表され、抵抗値の増大は時定数の向上をもたらすため、上記の現象は圧電体にとって極めて重要である。一方、活性化エネルギーは、昇温時の1.24eVに対し、降温時には1.58eVまで上昇していた。昇温時の比較的低い活性化エネルギーは、AlN結晶中での窒素原子(N)空孔の存在によると考えられる(文献1を参照)。つまり、AlN薄膜圧電体をスパッタリング等の物理蒸着法により形成する場合には、通常、結晶の成長方位を制御するためにより多くのAl原子を蒸発させる必要があり、そのためにN空孔が形成される傾向にあるので、その存在が電気伝導に寄与していると考えられる。
文献1:M. Bickermann, B.M. Epelbaum, A. Winnacker, J. Crystal Growth 269 (2004) 432-442.
これに対し、降温時に上昇した活性化エネルギーは、AlN結晶中に酸素原子が固溶した場合の活性化エネルギー(文献2を参照)と対応している。このことは、スパッタリング時に、混合ガス中に残留成分として存在していた酸素が不安定な状態で窒化アルミニウム中に取込まれた可能性を示唆する。また、この窒化アルミニウムを加熱したことにより、過剰なN空孔が減少するとともに、薄膜中に取込まれた酸素が安定化し、この安定化した酸素イオンが加熱処理後の電気伝導性に寄与する主要な因子となっていると理解できる。
文献2:V.L. Richards, T.Y. Tien, R.D. Pehlke, J. Mater. Sci. 22 (1987) 3385-3390.
図5は加熱処理の前後におけるAlN薄膜のX線回折測定結果を示すグラフである。同図に示すように、X線回折パターンから、加熱処理の実施前後共に、AlNが主要構成相であることを確認できる。
さらに、AlNの最表面、すなわちPt電極との界面の状態を調査するために、加熱処理の前後のAlNに対するX線光電子分光(ただし、AlN上部に形成したPt電極は除去)を実施した。図6は、その測定結果を示すグラフである。同図に示すように、加熱処理により、AlN薄膜の最上部(Pt電極との界面)には酸化皮膜が生じることが示されているが、その存在は図4(c)〜(d)の結果ともよく対応しており、AlN薄膜の最上部にはこの加熱処理により酸化皮膜ができていたことがわかる。
図2〜6に示した結果から明らかなように、高温での加熱処理のために1130Kまで加熱したことで、Pt電極との間には酸化物からなるごく薄い皮膜を形成するが、その下部には、それ自身の電気的物性は変化するものの窒化アルミニウムが存在していることが確認された。
そこでこの加熱処理後の圧電素子に対して、加熱処理前に実施したピエゾシステムPM−100を用いた圧電応答性の評価試験を実施したところ、処理前と同じく2.5pC/Nの値を示した。
以上の結果より、加熱処理によりAlN圧電体に存在する過剰なN空孔を取り除くとともに、不安定な状態で存在する酸素を安定化すると、AlN圧電体自身の高温での抵抗値を上昇させることができるということがわかった。
〔実施例1〕
参考例1において得られた知見にもとづけば、反応性スパッタリング法により形成した窒化アルミニウム圧電体には過剰な窒素空孔や不安定な酸素が含まれており、この圧電体を850℃で加熱処理することによって、圧電体中に存在する過剰窒素空孔や不安定な酸素を安定化できることがわかる。さらに、インピーダンス特性から解析された、安定化した後の圧電体自身の抵抗成分(図4(b)におけるcoolingの場合)は、加熱前よりも高くなることが示されたので、反応性スパッタリングにより作製する窒化アルミニウム圧電体中により多くの酸素を含有させることができ、さらに、その後の加熱処理により圧電体中に取込んだ酸素を安定化することができれば、より抵抗値の高い窒化アルミニウム圧電体を製造できると考えられる。
そこで、本実施例では、酸素を含む混合ガス中にて反応性スパッタリング法により窒化アルミニウム薄膜を形成し、その後に加熱処理を施すことによって、従来よりも抵抗値を向上させることができ、その効果によって、より大きな時定数を有する窒化アルミニウム圧電体を製造できることを示す。
参考例1と同じく単結晶Siを成膜用基板として設置した上記スパッタリング装置内を5×10−5Paまで減圧し、単結晶Si基板を400℃に加熱し、その後温度を保持しつつ、混合気体を装置内に導入した。導入した混合気体の混合比は、アルゴン:窒素:酸素=49.75:49.75:0.5とした。上記混合気体を導入後、0.5Paの圧力にて8時間の反応性スパッタリングを実施し、酸素を含有した窒化アルミニウム薄膜を形成した。さらに、この窒化アルミニウムの上部にPt電極を形成し、試料Bとした。
この試料Bに対し、ピエゾシステムPM−100を用いて圧電応答性を評価したところ、2.4pC/Nの値を示したことから、圧電素子として機能することを確認した。つまり、アルゴン、窒素、酸素からなる混合ガスを用いて反応性スパッタリング法により作製した窒化アルミニウム薄膜が圧電体となりうることを確認した。
そこで次に、窒化アルミニウム圧電体の状態を安定化させるために、試料Bを800℃まで加熱し、その後直ちに冷却した。ここで処理温度を800℃としたのは、参考例1で示したように、850℃まで加熱した場合にはAlNの最上部に酸化層が形成されていたため、このような酸化皮膜の形成を極力防止するためである。
800℃での加熱処理を実施した試料Bに対して、ピエゾシステムPM−100を用いて圧電応答性を評価したところ、2.4pC/Nの値を示し、圧電応答性に変化の無いことを確認した。
そこで次に、交流インピーダンス法によりこの圧電素子のインピーダンスを計測し、等価回路解析を行った。その結果、この圧電素子は測定温度範囲で6.0×10−10Fの静電容量を有していることがわかった。また、この時の抵抗成分の値を図7にプロットするが、いずれも実施例1において作製した試料Aの圧電体(図4(b)の結果を点線で表示)よりも高い値を示すことが確認された。時定数は静電容量と抵抗値との積として表されるが、これは圧電体の大きさに依存しない比誘電率と体積抵抗率との積にも等しい。したがって、静電容量、抵抗値ともに大きな試料Bの方が、試料Aよりも大きな時定数を持つことは明らかである。
したがって、0.5%酸素を含む混合ガス中での反応性スパッタリングにより形成し、その後800℃までの加熱処理を施すことによって得られる窒化アルミニウム圧電体は、高温において従来よりも大きな時定数を有する圧電体になっていることが示された。
〔比較例1〕
比較のために、混合気体中において、酸素を1%、アルゴンを49.5%、窒素を49.5%の含有量に変更した以外は実施例2と同様に実施した反応性スパッタリングによって作製した窒化アルミニウム薄膜は、極性面が十分に揃わなかったために圧電応答性は0.6pC/Nであり、圧電体としての特性が著しく低下していることがわかった。
本発明によれば、高温にて好適に使用することができる圧電体および圧電素子を提供することができる。
参考例1に係る圧電素子の計測結果を示すグラフである。 図1の計測結果に係る等価回路解析時に得られた各パラメータを示す表である。 参考例1に係る圧電素子の電気的特性に係る計測結果を示すグラフである。 参考例1に係る圧電素子の電気的特性に係る計測結果を示すグラフである。 加熱工程の実施前後におけるAlN薄膜のX線回折測定結果を示すグラフである。 加熱工程を実施した前後のAlNに対するX線光電子分光による測定結果を示すグラフである。 本発明の実施の形態に係る圧電素子の電気的特性に係る計測結果を示すグラフである。

Claims (4)

  1. ウルツ鉱型の結晶構造を有する窒化アルミニウムからなる圧電体の製造方法において、
    酸素の含有量が0.001%以上、0.5%以下であり、アルゴンおよび窒素の合計含有量が99.5%以上、99.999%以下である混合気体の存在下において、アルミニウムと上記混合気体とを反応性スパッタリング法によって反応させ、
    該反応性スパッタリング法により合成した窒化アルミニウムを500℃以上、850℃以下の温度にて加熱して圧電体を得ることを特徴とする圧電体の製造方法。
  2. 反応性スパッタリング法により合成した窒化アルミニウムを700℃以上、800℃以下で加熱することを特徴とする請求項1に記載の圧電体の製造方法。
  3. 上記酸素の含有量が0.1%以上、0.5%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧電体の製造方法。
  4. 請求項1〜3の何れか1項に記載の圧電体の製造方法によって製造された圧電体を有することを特徴とする圧電素子。
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