JP5131946B2 - がんの診断、処置および/または予防、および/または浸潤・転移の抑制のための方法、システムおよび組成物ならびに関連するスクリーニング方法 - Google Patents

がんの診断、処置および/または予防、および/または浸潤・転移の抑制のための方法、システムおよび組成物ならびに関連するスクリーニング方法 Download PDF

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本発明は、がんの診断、処置および/または予防、および/または浸潤・転移の抑制に関する。より詳細には、小細胞肺がんのような固形がんにおけるがんの診断、処置および/または予防、および/または浸潤・転移の抑制に関する。
がんの処置および予防は、未だに完全には解決していない問題であり、種々の局面からの解析がなされており、その解決方法に対しては未だに強い需要が存在する。
がんの診断は、適切な診断および予防をするために必要な工程であり、その診断には種々の手法およびマーカーが使用されている。
これに加え、がんの浸潤・転移は、がんが悪化して全身にその影響に及ぶという点で、その治療および予防に対しては強い需要があり、診断技術に対してもまた、強い需要が存在する。
がんの一種である小細胞肺がん(以下、SCLCともいう)は、特徴的な初期転移を伴う侵襲性のがんである。最も有効な治療法でさえ、SCLC患者の全生存率は、初期の疾病で12%、そして転移性疾病で2%のみである。転移性疾病は通常、SCLC患者の約3分の2で認められる。通常の転移部位は、肝臓、副腎、脳、骨、および骨髄を含む(非特許文献1=Chute,J.P.et al.(1999)J.Clin.Oncol.17:1794−801;非特許文献2=Chute,J.P.et al.(1997)Mayo Clin.Proc.72:901−12;非特許文献3=Salgia,R.(1996)Adv.Oncol.12:8−15)。SCLCでのリンパ節および様々な器官への転移機序を理解することは、さらなる治療法を設計する際に重要である。
SCLCは、いくつかの受容体チロシンキナーゼ(RTK)の過剰発現を特徴とする。RTKのいくつかは、プロトオンコジーンであり、かつ細胞成長、分化、生存、および運動の鍵となる制御因子である。最近の研究により、該RTKを標的とするSCLCの新規治療薬剤が同定され始めた(非特許文献4=Gibbs,J.B.and Oliff,A.(1994)Cell 79:193−8; 非特許文献5=Levitzki,A.and Gazit,A.(1995)Science 267:1782−8)。c−Metおよびc−Kit RTKが、SCLCにおいて重要であると同定された。分子量145kDaのプロトオンコジーン産物であるc−Kit受容体は、c−Fms、Flt3、および血小 板由来成長因子受容体(PDGFR)に類似のクラスIII RTKである。SCLC腫瘍標本の約70%、および細胞株は、c−Kitおよびその天然のリガンドである幹細胞因子(SCF)を共に発現する。SCF/c−Kit経路は、SCLCでのオートクラインまたはパラクラインの機能である(非特許文献6=Hibi,K.et al.(1991)Oncogene 6:2291−6; 非特許文献7=Yamanishi,Y.et al.(1996)Jpn.J.Cancer Res.87:534−42など)。
SCLCなどのがんの診断、処置および/または予防、および/または浸潤・転移の抑制の有効な技術は、未だに提供されておらず、あったとしても、より良好な、効率のよい技術の提供が要求されている。そこで、SCLCなどのがんの診断、処置および/または予防、および/または浸潤・転移に関連する分子標的を同定する必要がある。
またがんの浸潤性の強度を識別することができるマーカーは提供されていない。特許文献1では、浸潤性については何ら記載も示唆もされておらず、癌マーカーと浸潤性のマーカーとの関連はいまだに知られていない。
さらに、TSLC1活性と遊走能との関連は知られていない。
Chute,J.P.et al.(1999)J.Clin.Oncol.17:1794−801 Chute,J.P.et al.(1997)Mayo Clin.Proc.72:901−12 Salgia,R.(1996)Adv.Oncol.12:8−15 Gibbs,J.B.and Oliff,A.(1994)Cell 79:193−8 Levitzki,A.and Gazit,A.(1995)Science 267:1782−8 Hibi,K.et al.(1991)Oncogene 6:2291−6 Yamanishi,Y.et al.(1996)Jpn.J.Cancer Res.87:534−42 特開2005−147798
そこで、本発明は、全く新規な、がん(特に、小細胞肺がん)およびその浸潤性の診断、処置および/または予防、および/または浸潤・転移の抑制のための技術を提供することを課題とする。本発明はまた、細胞の遊走能を調べることによってTSLC1の活性を測定することができることを見出したことによって、上記課題を解決した。
上述した課題は、本発明者が鋭意検討した結果、TSLC1の分子経路が診断、処置および予防、および浸潤・転移の抑制に関連していることを見出したことによって、解決された。
従って、本発明は以下を包含する。
(1)がんの転移および/または浸潤の調節方法であって、
A)TSLC1の分子経路を調節する工程
を包含する、方法。
(2)上記調節は、TSLC1を抑制することを包含する、項1に記載の方法。
(3)上記TSLC1の分子経路における因子は、TSLC1、Tiam1および低分子量Gタンパク質Rac1からなる群より選択される因子を含む、項1に記載の方法。
(4)上記調節は、TSLC1の過剰発現を調節することを包含する、項1に記載の方法。
(5)上記調節は、TSLC1の分子経路における因子を調節する調節因子により達成される、項1に記載の方法。
(6)上記調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項5に記載の方法。
(7)上記調節は、TSLC1の分子経路における因子の過剰発現をRNAiにより抑制することを包含する、項1に記載の方法。
(8)上記調節は、TSLC1の分子経路における因子の過剰発現を抗体により抑制することを包含する、項1に記載の方法。
(9)上記調節は、TSLC1の分子経路における因子の優性欠失改変により抑制することを包含する、項1に記載の方法。
(10)上記がんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫および他の固形がんからなる群より選択される、項1に記載の方法。
(11)上記TSLC1の分子経路の調節は、低分子量Gタンパク質Rac1の活性化の抑制を包含する、項1に記載の方法。
(12)上記TSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、項3に記載の方法。
(13)上記Tiam1は、配列番号3に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号4に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、項3に記載の方法。
(14)上記Rac1は、配列番号5に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号6に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、項3に記載の方法。
(15)上記RNAiは、TSLC1のRNAiである、項7に記載の方法。
(16)上記RNAiは、配列番号7(5’-gtcaataagagtgacgact-3’)および配列番号
8(5’-gagtgacgactctgtgatt-3’)に示す配列を有するTSLC1のRNAiである、
項7に記載の方法。
(17)上記RNAiは、Tiam1のRNAiである、項7に記載の方法。
(18)上記RNAiは、配列番号9(5’- CGG CGA GCU UUA AGA AGA ATT-3’(センス
配列))および配列番号10( 5’- UUC UUC UUA AAG CUC GCC GTT -3’(アンチセンス
配列))に示す配列を有するTiam1のRNAiである、項7に記載の方法。
(19)上記RNAiは、Rac1のRNAiである、項7に記載の方法。
(20)上記RNAiは、配列番号5に示す配列に基づいて作製されるRac1のRNAiである、項7に記載の方法。
(21)上記TSLC1の分子経路における因子の優性欠失改変は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される少なくとも1つの因子の優性欠失の改変を含む、項9に記載の方法。
(22)上記優性欠失改変は、Rac1において(配列番号12(核酸配列)および配列番号13(アミノ酸配列)の配列を有することを特徴とする、項21に記載の方法。(23)がんの転移および/または浸潤の調節システムであって、
A)TSLC1の分子経路を調節する手段
を備える、システム。
(24)がんの転移および/または浸潤の調節組成物であって、TSLC1の分子経路を調節する調節因子を含む、組成物。
(25)上記調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項24に記載の組成物。
(26)上記調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子を調節する調節因子を含む、項24に記載の組成物。
(27)上記調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子のRNAiである、項24に記載の組成物。
(28)上記調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子に対する抗体である、項24に記載の組成物。
(29)上記調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子の優性欠失変異体またはその誘導因子である、項24に記載の組成物。
(30)上記がんは、小細胞肺がんである、項24に記載の組成物。
(31)がんの転移および/または浸潤の調節因子をスクリーニングする方法であって、
A)候補物質を提供する工程、
B)上記候補物質をTSCL1の分子経路のアッセイ系に供する工程;
C)上記候補物質の内、TSLC1の分子経路を調節する因子を同定し、上記調節する因子を、がんの転移および/または浸潤の調節因子であると決定する工程
を包含する、方法。
(32)上記がんは、小細胞肺がんであり、上記TSCL1の分子経路においてTSCL1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される少なくとも1つの調節が観察される、項31に記載の方法。
(33)上記候補物質は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項31に記載の方法。
(34)項31に記載の方法によって同定された、がんの転移および/または浸潤の調節因子。
(35)TSCL1の分子経路の因子の優性欠失改変体。
(36)上記改変体は、ゲノム、細胞、組織、臓器または個体の全部または一部である、項35に記載の改変体。
(37)がんの転移および/または浸潤の調節因子をスクリーニングする方法であって、
A)候補物質を提供する工程、
B)上記候補物質をTSCL1の分子経路のアッセイ系に供する工程;
C)上記候補物質の内、TSLC1の分子経路を調節する因子を同定し、上記調節する因子を、がんの転移および/または浸潤の調節因子の候補であると決定する工程;
D)さらに、上記調節因子の候補を、がんの転移および/または浸潤のアッセイ系に供する工程;
E)上記調節因子の候補の内、がんの転移および/または浸潤を調節する因子を選択する工程
を包含する、方法。
(38)上記がんは、小細胞肺がんであり、上記TSCL1の分子経路においてTSCL1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される少なくとも1つの調節が観察される、項37に記載の方法。
(39)上記候補物質は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項37に記載の方法。
(40)項37に記載の方法によって同定された、がんの転移および/または浸潤の調節因子。
(41)がんの診断方法であって、
A)TSLC1の分子経路の因子のレベルを測定する工程
を包含する、方法。
(42)上記TSLC1の分子経路の因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子を含む、項41に記載の方法。
(43)上記レベルは、上記因子の特異的因子によって測定される、項41に記載の方法。
(44)上記特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項43に記載の方法。
(45)上記特異的因子は、標識されまたは標識され得る、項43に記載の方法。
(46)上記特異的因子は、配列番号5に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子である、項43に記載の方法。
(47)上記特異的因子は、配列番号6に示す配列のポリペプチドに対する抗体である、項43に記載の方法。
(48)上記がんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫および他の固形がんからなる群より選択される、項41に記載の方法。
(49)上記がんは、小細胞肺がんである、項41に記載の方法。
(50)上記TSLC1の分子経路の因子はRac1であり、上記Rac1の活性化の抑制は、がんの指標である、項41に記載の方法。
(51)上記測定は、細胞または血清におけるRac1遺伝子の転写産物またはRac1タンパク質の有無を検出することを含む、項41に記載の方法。
(52)
上記検出は、配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含む試薬を用いて行われる、項41に記載の方法。
(53)
上記検出は、配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含む試薬を用いて行われる、項41に記載の方法。
(54)
上記検出は、配列番号6に示す配列のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含む試薬を用いて行われる、項41に記載の方法。
(55)
上記検出は、活性化型Rac1を特異的に認識する抗体を含む試薬を用いて行われる、項41に記載の方法。
(56)がんの診断薬であって、TSLC1の分子経路の因子のレベルを測定する手段を備える、診断薬。
(57)上記TSLC1の分子経路の因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子を含む、項56に記載の診断薬。
(58)上記手段は、上記TSLC1の分子経路の因子の特異的因子である、項56に記載の診断薬。
(59)上記特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項58に記載の診断薬。
(60)上記特異的因子は、標識されまたは標識され得る、項58に記載の診断薬。
(61)上記特異的因子は、配列番号5に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子である、項58に記載の診断薬。
(62)上記特異的因子は、配列番号6に示す配列のポリペプチドに対する抗体である、項58に記載の診断薬。
(63)上記がんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部組織肉腫および他の固形がんからなる群より選択される、項56に記載の診断薬。
(64)上記がんは、小細胞肺がんである、項56に記載の診断薬。
(65)上記TSLC1の分子経路の因子はRac1であり、上記手段は、上記Rac1の活性化の抑制を同定する手段である、項56に記載の診断薬。
(66)上記手段は、細胞または血清においてRac1遺伝子の転写産物またはRac1タンパク質の有無を検出する手段である、項56に記載の診断薬。
(67)
上記手段は、配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含む、項56に記載の診断薬。
(68)
上記手段は、配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含む、項56に記載の診断薬。
(69)
上記手段は、配列番号6に示す配列のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含む、項56に記載の診断薬。
(70)
上記手段は、活性化型Rac1を特異的に認識する抗体を含む、項56に記載の診断薬。
(71)がんの処置または予防の方法であって、
A)TSLC1の分子経路の因子のレベルを調節する工程
を包含する、方法。
(72)上記調節は、TSLC1を抑制することを包含する、項71に記載の方法。
(73)上記TSLC1の分子経路における因子は、TSLC1、Tiam1および低分子量Gタンパク質Rac1からなる群より選択される因子を含む、項71に記載の方法。(74)上記調節は、TSLC1の分子経路における因子を調節する調節因子により達成される、項71に記載の方法。
(75)上記調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項74に記載の方法。
(76)上記調節因子は、TSLC1の分子経路における因子のRNAi、抗体または優性欠失改変を誘導する因子である、項71に記載の方法。
(77)上記がんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部組織肉腫およびその他の固形がんからなる群より選択される、項71に記載の方法。
(78)上記TSLC1の分子経路の調節は、低分子量Gタンパク質Rac1の活性化の抑制を包含する、項71に記載の方法。
(79)上記TSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、項73に記載の方法。
(80)上記Tiam1は、配列番号3に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号4に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、項73に記載の方法。
(81)上記Rac1は、配列番号5に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号6に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、項73に記載の方法。
(82)がんの処置または予防のシステムであって、
A)TSLC1の分子経路の因子のレベルを調節する手段
を備える、システム。
(83)がんの処置または予防のための組成物であって、TSLC1の分子経路の因子のレベルを調節する因子を含む、組成物。
(84)上記調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項83に記載の組成物。
(85)上記調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子を調節する調節因子を含む、項83に記載の組成物。
(86)がんの処置または予防のための因子をスクリーニングする方法であって、
A)候補物質を提供する工程、
B)上記候補物質をTSCL1の分子経路のアッセイ系に供する工程;
C)上記候補物質の内、TSLC1の分子経路を調節する因子を同定し、上記調節する因子を、がんの処置または予防のための因子であると決定する工程
を包含する、方法。
(87)がんの処置または予防ための因子をスクリーニングする方法であって、
A)候補物質を提供する工程、
B)上記候補物質をTSCL1の分子経路のアッセイ系に供する工程;
C)上記候補物質の内、TSLC1の分子経路を調節する因子を同定し、上記調節する因子を、がんの処置または予防のための因子であると決定する工程
D)さらに、上記調節因子の候補を、がんの処置または予防のためのアッセイ系に供する工程;
E)上記調節因子の候補の内、がんの処置または予防のための因子を選択する工程
を包含する、方法。
(88)TSLC1の分子経路を調節する因子の、がんの転移および/または浸潤の調節のための組成物の製造における、使用。
(89)TSLC1の分子経路を調節する因子の、がんの診断のための組成物の製造における、使用。
(90)TSLC1の分子経路を調節する因子の、がんの処置または予防のための組成物の製造における、使用。
(91)上記因子は、Rac1であり、および/または上記がんは小細胞肺がんを含む、項88〜90のいずれか1項に記載の使用。
(92)がん細胞の浸潤性の程度を識別するための方法であって、上記がん細胞のTiam1の全長型およびTiam1の短縮型の発現のレベルを測定する工程を包含する、方法。
(92A)上記浸潤性は、蛍光標識色素(例えば、カルセインAM)などで染色し、基底細胞(例えば、NIH3T3細胞、ヒト由来血管内皮細胞など)の単層培養上に重層したときに、浸潤性のがん細胞では細胞形態が伸展し接着するのに対し、非浸潤性のがん細胞では、細胞が伸展せず接着の程度が弱いことを確認することによって判定される、項92に記載の方法。
(92B)上記浸潤性は、上記基底細胞に接着している上記がん細胞の量を、上記蛍光標識(例えば、カルセインAM)を指標として測定することをより判定される、項92Aに記載の方法。
(92C)上記基底細胞は、全長TSLC1 cDNAが導入されており、上記全長TSLC1の発現条件下で上記測定を行うことにより上記浸潤性が判定される、項92Bに記載の方法。
(93)上記Tiam1は、配列番号3に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号4に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、項92に記載の方法。
(94)上記Tiam1の短縮型は、エクソン14−29に対応するバリアントである、項92に記載の方法。
(95)上記レベルは、上記因子の特異的因子によって測定される、項92に記載の方法。
(96)上記特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項95に記載の方法。
(97)上記特異的因子は、標識されまたは標識され得る、項95に記載の方法。
(98)上記特異的因子は、配列番号5または配列番号23に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子である、項95に記載の方法。
(99)上記特異的因子は、配列番号6または配列番号24に示す配列のポリペプチドに対する抗体である、項95に記載の方法。
(100)上記がんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫および他の固形がんからなる群より選択される、項92に記載の方法。
(101)上記がんは、小細胞肺がんである、項92に記載の方法。
(102)上記測定は、細胞または血清におけるTiam1タンパク質の全長型およびTiam1の短縮型の有無を検出することを含む、項92に記載の方法。
(103)上記検出は、配列番号3および配列番号23からなる群より選択される少なくとも1つの配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含む試薬を用いて行われる、項102に記載の方法。
(103A)上記プライマーは、配列番号21、22、25、26、28および29からなる群より選択される配列またはその相補体である配列を含む核酸分子である、項103に記載の方法。
(104)上記検出は、配列番号3および配列番号23からなる群より選択される少なくとも1つの配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含む試薬を用いて行われる、項102に記載の方法。
(104A)上記プローブは、配列番号23、27および30からなる群より選択される配列またはその相補体である配列を含む核酸分子である、項104に記載の方法。
(105)上記検出は、配列番号4および配列番号24からなる群より選択される少なくとも1つの配列のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含む試薬を用いて行われる、項102に記載の方法。
(106)上記測定は、配列番号3と配列番号23とを識別することができる因子を用いて行われる、項92に記載の方法。
(107)上記測定は、配列番号4と配列番号24とを識別することができる因子を用いて行われる、項92に記載の方法。
(108)上記因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項106または107に記載の方法。
(109)上記浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞からなる群より選択される細胞と同程度と、それより弱い浸潤性を有する細胞とを識別することを含む、項92に記載の方法。
(110)上記浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞以外のALL細胞と同程度と、それより強い浸潤性を有する細胞とを識別することを含む、項92に記載の方法。
(111)上記浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞からなる群より選択される細胞と同程度の浸潤性と、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞以外のALL細胞と同程度の浸潤性とを識別することを含む、項92に記載の方法。
(112)がん細胞の浸潤性の程度を識別するためのシステムであって、Tiam1の全長型およびTiam1の短縮型の発現のレベルを測定する手段を包含する、システム。
(113)上記Tiam1は、配列番号3に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号4に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、項112に記載のシステム。
(114)上記Tiam1の短縮型は、エクソン14−29に対応するバリアントである、項112に記載のシステム。
(115)上記レベルは、上記因子の特異的因子によって測定される、項112に記載のシステム。
(116)上記特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項115に記載のシステム。
(117)上記特異的因子は、標識されまたは標識され得る、項115に記載のシステム。
(118)上記特異的因子は、配列番号5または配列番号23に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子である、項115に記載のシステム。
(119)上記特異的因子は、配列番号6または配列番号24に示す配列のポリペプチドに対する抗体である、項115に記載のシステム。
(120)上記がんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫および他の固形がんからなる群より選択される、項112に記載のシステム。
(121)上記がんは、小細胞肺がんである、項112に記載のシステム。
(122)上記測定する手段は、細胞または血清におけるTiam1タンパク質の全長型およびTiam1の短縮型の有無を検出する手段を含む、項112に記載のシステム。
(123)上記手段は、配列番号3および配列番号23からなる群より選択される少なくとも1つの配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含む試薬を備える、項122に記載のシステム。
(124)上記手段は、配列番号3および配列番号23からなる群より選択される少なくとも1つの配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含む試薬を備える、項122に記載のシステム。
(125)上記手段は、配列番号4および配列番号24からなる群より選択される少なくとも1つの配列のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含む試薬を備える、項122に記載のシステム。
(126)上記手段は、配列番号3と配列番号23とを識別することができる因子を備える、項112に記載のシステム。
(127)上記手段は、配列番号4と配列番号24とを識別することができる因子を備える、項112に記載のシステム。
(128)上記因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項126または127に記載のシステム。
(129)上記浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞からなる群より選択される細胞と同程度と、それより弱い浸潤性を有する細胞とを識別することを含む、項112に記載のシステム。
(130)上記浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞以外のALL細胞と同程度と、それより強い浸潤性を有する細胞とを識別することを含む、項112に記載のシステム。
(131)上記浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞からなる群より選択される細胞と同程度の浸潤性と、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞以外のALL細胞と同程度の浸潤性とを識別することを含む、項112に記載のシステム。
(132)浸潤性の強いがん細胞の識別するための組成物であって、上記組成物は、Tiam1の短縮型を認識する因子を含む、組成物。
(133)上記浸潤性の強いがん細胞は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞からなる群より選択される、項132に記載の組成物。
(134)上記Tiam1の短縮型は、少なくとも配列番号23の配列もしくはその改変体、またはその相補体を有する、項132に記載の組成物。
(135)エクソン13−29に対応するTiam1の短縮型。
(136)上記Tiam1バリアントは、少なくとも配列番号23の配列もしくはその改変体、またはその相補体を有する、項135に記載のTiam1の短縮型。
(137)エクソン13−29に対応するTiam1の短縮型を認識する能力を有する因子。
(138)上記Tiam1バリアントは、少なくとも配列番号23の配列もしくはその改変体、またはその相補体を有する、項137に記載の因子。(139)エクソン13−29に対応するTiam1の短縮型とTiamの全長型とを識別する能力を有する因子。
(140)上記Tiam1バリアントは、少なくとも配列番号23の配列もしくはその改変体、またはその相補体を有する、項139に記載の因子。
(141)細胞の遊走能を測定する方法であって、
TSLC1活性のレベルを測定する工程を包含する、方法。
(142)上記レベルは、TSLC1の特異的因子によって測定される、項141に記載の方法。
(143)上記特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項142に記載の方法。
(144)上記特異的因子は、標識されまたは標識され得る、項142に記載の方法。
(145)上記特異的因子は、配列番号1に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子である、項142に記載の方法。
(146)上記特異的因子は、配列番号2に示す配列のポリペプチドに対する抗体である、項142に記載の方法。
(147)上記細胞は、腎臓細胞である、項141に記載の方法。
(148)上記細胞は、MDCK細胞である、項141に記載の方法。
(149)上記遊走能は、E-カドヘリンおよびb−カテニンからなる群より選択される少なくとも1つの産物の発現の消失によって確認される、項141に記載の方法。
(150)上記遊走能は、ビメンチンおよびフィブロネクチンからなる群より選択される、少なくとも1つの産物の発現の増加によって確認される、項141に記載の方法。
(151)細胞の遊走能を測定する試薬であって、
TSLC1活性のレベルを測定する因子を包含する、試薬。
(152)上記因子は、TSLC1の特異的因子である、項151に記載の試薬。
(153)上記特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項152に記載の試薬。
(154)上記特異的因子は、標識されまたは標識され得る、項152に記載の試薬。
(155)上記特異的因子は、配列番号1に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子である、項152に記載の試薬。
(156)上記特異的因子は、配列番号2に示す配列のポリペプチドに対する抗体である、項152に記載の試薬。
(157)上記細胞は、腎臓細胞である、項152に記載の試薬。
(158)上記細胞は、MDCK細胞である、項152に記載の試薬。
(159)上記遊走能は、E-カドヘリンおよびb−カテニンからなる群より選択される少なくとも1つの産物の発現の消失によって確認される、項151に記載の試薬。
(160)上記遊走能は、ビメンチンおよびフィブロネクチンからなる群より選択される、少なくとも1つの産物の発現の増加によって確認される、項141に記載の試薬。
(161)細胞中のTSLC1活性を測定する方法であって、
上記細胞の遊走能を測定する工程を包含する、方法。
(162)上記遊走能は、HGFによって惹起されたものである、項161に記載の方法。
(163)上記細胞は、腎臓細胞である、項161に記載の方法。
(164)上記細胞は、培養腎臓細胞である、項161に記載の方法。
(165)上記細胞は、MDCK細胞である、項161に記載の方法。
(166)細胞中のTSLC1活性を測定する試薬であって、上記細胞の遊走能を測定する因子を備える試薬。
(167)上記遊走能は、HGFによって惹起されたものである、項166に記載の試薬。
(168)上記細胞は、腎臓細胞である、項166に記載の試薬。
(169)上記細胞は、培養腎臓細胞である、項166に記載の試薬。
(170)上記細胞は、MDCK細胞である、項166に記載の試薬。
(171)細胞の遊走能を調節する方法であって、
細胞内のTSLC1活性を調節する工程を包含する、方法。
(172)上記調節は抑制である、項171に記載の方法。
(173)上記調節は、TSLC1を抑制することを包含する、項171に記載の方法。
(174)上記調節は、TSLC1の発現を調節することを包含する、項171に記載の方法。
(175)上記調節は、TSLC1を調節する調節因子により達成される、項171に記載の方法。
(176)上記調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項175に記載の方法。
(177)上記調節は、TSLC1の発現をRNAiにより抑制することを包含する、項171に記載の方法。
(178)上記調節は、TSLC1の発現を抗体により抑制することを包含する、項171に記載の方法。
(179)上記調節は、TSLC1の優性欠失改変により抑制することを包含する、項171に記載の方法。
(180)上記TSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、項171に記載の方法。
(181)上記RNAiは、TSLC1のRNAiである、項175に記載の方法。
(182)上記RNAiは、配列番号7および配列番号8に示す配列を有するTSLC1のRNAiである、項181に記載の方法。
(183)上記TSLC1活性の調節は、上記細胞内においてTSLC1の発現をさせる工程を包含する、項171に記載の方法。
(184)上記TSLC1は、少なくとも細胞内ドメインを含む、項183に記載の方法。
(185)上記細胞は、腎臓細胞である、項171に記載の方法。
(186)上記細胞は、培養腎臓細胞である、項171に記載の方法。
(187)上記細胞は、MDCK細胞である、項171に記載の方法。
(188)細胞の遊走能を調節する試薬であって、細胞内のTSLC1活性を調節する因子を包含する、試薬。
(189)上記調節は抑制である、項188に記載の試薬。
(190)上記調節は、TSLC1を抑制することを包含する、項188に記載の試薬。
(191)上記調節は、TSLC1の発現を調節することを包含する、項188に記載の試薬。
(192)上記因子は、TSLC1を調節する調節因子を含む、項188に記載の試薬。
(193)上記調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項192に記載の試薬。
(194)上記因子は、TSLC1のRNAiを包含する、項188に記載の試薬。
(195)上記因子は、TSLC1の抗体を包含する、項188に記載の試薬。
(196)上記因子は、TSLC1の優性欠失改変のための因子を包含する、項188に記載の試薬。
(197)上記TSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、項188に記載の試薬。
(198)上記RNAiは、TSLC1のRNAiである、項194に記載の試薬。
(199)上記RNAiは、配列番号7および配列番号8に示す配列を有するTSLC1のRNAiである、項188に記載の試薬。
(200)上記TSLC1活性の調節は、上記細胞内においてTSLC1の発現をさせる工程を包含する、項188に記載の試薬。
(201)上記TSLC1は、少なくとも細胞内ドメインを含む、項200に記載の試薬。
(202)上記細胞は、腎臓細胞である、項188に記載の試薬。
(203)上記細胞は、培養腎臓細胞である、項188に記載の試薬。
(204)上記細胞は、MDCK細胞である、項188に記載の試薬。
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
本発明によれば、がん(特に、小細胞肺がんおよび関連するがんまたは新生物)およびその浸潤性の診断、処置および/または予防、および/または浸潤・転移の抑制のための技術が提供される。本発明により、細胞の遊走能を調べることによってTSLC1の活性を測定することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。以下には、本発明が、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により記載される。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において「TSLC1」とは、肺非小細胞がんにおいてがん抑制遺伝子として報告された遺伝子である(Kuramochi M,Fukuhara H,Nobukuni T,et al.TSLC1is a tumor−suppressor gene in human non−small−cell lung cancer.Nat Med.2001;27:427−430)。また、TSLC1遺伝子は、多くの肺がんにおいて共通して欠失している染色体部分から単離された遺伝子であり、最近の研究から上皮細胞の接着機能に関与していると考えられている(Masuda M,Yageta M,Fukuhara H,et al.The tumor suppressor protein TSLC1 is involved in cell−cell adhesion.J Biol Chem.2002;277:31014−31019)。肺がん等において、TSLC1遺伝子を含む染色体が欠失し、細胞接着能が低下することによって、がん細胞が他の臓器に転移しやすくなっていると考えられている。
形態学的形質変換は、がん細胞を正常な上皮細胞と区別するための基本的表現型である。TSLC1は、染色体フラグメント11q23.2上にある腫瘍サプレッサー遺伝子であり、これは、機能的相補によって同定された(Kuramochi,M.,Fukuhara,H.,Nobukuni,T.,Kanbe,T.,Maruyama,T.,Ghosh,H.P.,Pletcher,M.,Isomura,M.,Onizuka,M.,Kitamura,T.,Sekiya,T.,Reeves,R.H.,and Murakami,Y.(2001)Nat Genet 27,427−430.)。プロモーターのメチル化およびTSLC1発現の喪失が、原発性肺がん、原発性食道がん、原発性膵臓がん、および種々の他のがんの進行期において頻繁に観察される(Kuramochi,M.,Fukuhara,H.,Nobukuni,T.,Kanbe,T.,Maruyama,T.,Ghosh,H.P.,Pletcher,M.,Isomura,M.,Onizuka,M.,Kitamura,T.,Sekiya,T.,Reeves,R.H.,and Murakami,Y.(2001)Nat Genet 27,427−430.;Murakami,Y.(2002).Oncogene,21,6936−6948.)。TSLC1は、細胞間接着を媒介する免疫グロブリンスーパーファミリー分子をコードする(Masuda,M.,Yageta,M.,Fukuhara,H.,Kuramochi,M.,Maruyama,T.,Nomoto,A.& Murakami,Y.(2002).J Biol Chem,277,31014−31019.)。TSLC1タンパク質の喪失は、原発性肺腺がんの浸潤性先端において主に見出された(Ito,A.,Okada,M.,Uchino,K.,Wakayama,T.,Koma,Y.,Iseki,S.,Tsubota,N.,Okita,Y.& Kitamura,Y.(2003a).Lab Invest,83,1175−1183.)。従って、TSLC1は、上皮細胞接着に主に関与しているようであり、一方、TSLC1機能の喪失は、がん細胞が浸潤および/または転移するのをもたらし得る。最近、TSLC1は、上皮細胞接着においてのみならず、セルトーリ細胞への精子形成細胞の接着、線維芽細胞への肥満細胞の接着、および神経細胞のシナプス形成においても役割を有することが見出され、TSLC1/IGSF4/Necl−2/SgIGSF/RA175/SynCAMと呼ばれる(Biederer,T.,Sara,Y.,Mozhayeva,M.,Atasoy,D.,Liu,X.,Kavalali,E.T.& Sudhof,T.C.(2002).Science,297,1525−1531;Gomyo,H.,Arai,Y.,Tanigami,A.,Murakami,Y.,Hattori,M.,Hosoda,F.,Arai,K.,Aikawa,Y.,Tsuda,H.,Hirohashi,S.,Asakawa,S.,Shimizu,N.,Soeda,E.,Sakaki,Y.& Ohki,M.(1999).Genomics,62,139−146.; Kuramochi,M.,Fukuhara,H.,Nobukuni,T.,Kanbe,T.,Maruyama,T.,Ghosh,H.P.,Pletcher,M.,Isomura,M.,Onizuka,M.,Kitamura,T.,Sekiya,T.,Reeves,R.H.,and Murakami,Y.(2001)Nat Genet 27,427−430.; Shingai,T.,Ikeda,W.,Kakunaga,S.,Morimoto,K.,Takekuni,K.,Itoh,S.,Satoh,K.,Takeuchi,M.,Imai,T.,Monden,M.& Takai,Y.(2003).J Biol Chem,278,35421−35427.;Urase,K.,Soyama,A.,Fujita,E.& Momoi,T.(2001).Neuroreport,12,3217−21.; Wakayama,T.,Ohashi,K.,Mizuno,K.& Iseki,S.(2001).Mol Reprod Dev,60,158−164.)。
TSLC1の細胞質ドメインは、プロテイン4.1ファミリーの分子に対する結合モチーフを保有する。本発明者らは、TSLC1が、プロテイン4.1結合モチーフを介してDAL−1/4.1Bと結合することを以前に報告した(Yageta,M.,Kuramochi,M.,Masuda,M.,Fukami,T.,Fukuhara,H.,Maruyama,T.,Shibuya,M.& Murakami,Y.(2002).Cancer Res,62,5129−5133.)。DAL−1は、NSCLC、髄膜腫、および乳がんにおける腫瘍サプレッサーの候補であり、プロテイン4.1ファミリー分子に属する。このプロテイン4.1ファミリー分子は、膜貫通タンパク質をアクチンおよびスペクトリンからなる細胞骨格に連結する(Sun,C.X.,Robb,V.A.& Gutmann,D.H.(2002).J Cell Sci,115,3991−4000.)。本発明者らはまた、TSLC1は、MPP3(膜結合型グアニル酸キナーゼホモログ(MAGuK)のメンバーである)に対して、TSLC1のカルボキシル末端にあるクラスII PSD95/Dlg/ZO−1(PDZ)ドメイン結合モチーフであるEYFIを介して結合することを示した(Fukuhara,H.,Masuda,M.,Yageta,M.,Fukami,T.,Kuramochi,M.,Maruyama,T.,Kitamura,T.& Murakami,Y.(2003).Oncogene,22,6160−6165.)。MPP3のクラスII PDZドメインは、TSLC1との結合を担い、他の2つのMAGuKタンパク質(MPP1/p55およびMPP2/DLG2)において保存されている(Mazoyer,S.,Gayther,S.A.,Nagai,M.A.,Smith,S.A.,Dunning,A.,van Rensburg,E.J.,Albertsen,H.,White,R.& Ponder,B.A.(1995).Genomics,28,25−31.;Ruff,P.,Speicher,D.W.& Husain−Chishti,A.(1991).Proc Natl Acad Sci U S A,88,6595−6599.)。MPP1、MPP2、およびMPP3は、Drosophila stardust(Sdt)のヒト対応物であると考えられ、細胞分極に関与する(Bachmann,A.,Schneider,M.,Theilenberg,E.,Grawe,F.& Knust,E.(2001).Nature,414,638−643.)。
本出願において、本発明者らは、DLA−1およびMAGuKが、互いに直接結合すること、そしてTSLC1が、DAL−1およびMAGuKメンバーと3者結合タンパク質複合体を形成することを示す。siRNAによるTSLC1発現の抑制は、これらのタンパク質複合体が、成熟細胞接着を伴う上皮細胞構造の形成において重要な役割を果たすことを示す。
TSLC1/IGSF4Aは、免疫グロブリンスーパーファミリーである細胞細胞接着分子(IgCAM)(Masuda,M.,ら(2002)J.Biol.Chem.277,31014−31019)のファミリーに属する単一の膜貫通型糖タンパク質をコードする、非小細胞肺がん(NSCLC)(Gomyo,H.,ら(1999)Genomics 62,139−146;およびKuramochi,M.,ら(2001)Nat Genet 27,427−430)における腫瘍抑制遺伝子である。種々の組織におけるその多様な機能に起因して、TSLC1は、いくつかの異なる研究グループにより特徴付けられている。この遺伝子は、それゆえ、RA175(Fujita,E.,ら(2003)Exp Cell Res 287,57−66)、SgIGSF(Ito,A.,ら(2003)Blood 101,2601−2608)、NecI2(Shingai,T.,ら(2003)J.Biol.Chem.278,35421−35427)およびSynCAM1(Biederer,T.,ら(2002)Science 297,1525−1531)としても知られている。原発性のNSCLCにおいて、本発明者らは、C末端の19アミノ酸残基の置き換えを生じるTSLC1に2 bpの欠失を発見し、このことは、TSLC1の細胞質ドメインが、腫瘍の抑制に重要であることを示している(Kuramochi,M.,ら(2001)Nat Genet 27,427−430)。実際、細胞質ドメインは、ヌードマウスにおいて、TSLC1の腫瘍特性活性に必須であることが示された(Mao,X.,ら(2003)Cancer Res 63,7979−7985)。TSLC1の細胞質テイルは、C末端に、プロテイン4.1(protein 4.1)と相互作用する傍膜配列(juxtamembrane)(プロテイン4.1結合モチーフ:プロテイン4.1−BM)およびクラスII PDZ結合モチーフ(PDZ−BM)を含む。
本発明者らは、プロテイン4.1B/DAL−1(プロテイン4.1ファミリーのメンバー)が、TLSC1をアクチン骨格に接続すること、そして、このそうご作用が、アクチンの再構築に関与することを実証した(Yageta,M.,ら(2002)Cancer Res 62,5129−5133)。他の研究グループおよび本発明者らは、TSLC1がまた、そのクラスII PDZドメインを通して膜関連グアニル酸キナーゼホモログ(MAGuK)と相互作用することを報告し(Shingai,T.,ら(2003)J.Biol.Chem.278,35421−35427;Biederer,T.,ら(2002)Science 297,1525−1531;およびFukuhara,H.,ら(2003)Oncogene 22,6160−6165)、そして、TSLC1、プロテイン4.1およびMAGuKが、3分子から構成される複合体を形成することを示唆した。TSLC1は、最初に、ヌードマウスにおいて、ヒト肺腺がんであるA549細胞のその腫瘍形成能に基づいて同定された(Kuramochi,M.,ら(2001)Nat Genet 27,427−430)。A549細胞におけるTSLC1発現の回復は、脾臓から肝臓への転移を阻害した(Yageta,M.,ら(2002)Cancer Res 62,5129−5133)。TLSC1の欠失は、進行した肺がんおよび多くの他のヒトがんにおいて高頻度で観察されている(Kuramochi,M.,ら(2001)Nat Genet 27,427−430,11)。これらの観察は、TSLC1のC末端モチーフが、腫瘍の浸潤および/または転移において重要な役割を演じることを強く示唆するが、なお、腫瘍抑制におけるこれらのモチーフの正確な役割は、不明瞭なままである。
該c−Kit受容体は、新規チロシンキナーゼインヒビターであるメシル酸イマチニブ(STI571またはGleevec[登録商標]としても言及される(Krystal,G.W.et al.(1997)Cancer Res.57:2203−8; Krystal,G.W.et al.(2001)Cancer Res.61:3660−8; Krystal,G.W.et al.(2000)Clin.Cancer Res.6:3319−26; Tuveson,D.A.et al.(2001)Oncogene 20:5054−8; Wang,W.L.et al.(2000)Oncogene 3521−8))を含む、様々なインヒビターで阻害され得る。化学名4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル)−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]−ベンズアミドを有するSTI571はさらに、EP 0 564 409で記載され、そして、メタンスルホン酸塩の形、特に、好ましいβ結晶形がWO 99/03854に記載されている。
TSLC1の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
であり得る。
TSLC1のアミノ酸配列としては、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
であり得る。
TSLC1の代表的な配列は、配列番号1(核酸配列)および配列番号2(アミノ酸配列)において示される。
TSLC1は、ヒトのほか、他の動物(例えば、哺乳動物)でもそのホモログ(本明細書において、「対応する」遺伝子などという)が知られている。従って、本明細書においてTSLC1は、通常、特に言及しない場合は、ヒトのほか、生物一般において存在するTSLC1を指す。
本明細書において「TSLC1の分子経路」とは、TSLC1が媒介するシグナル伝達経路をいい、本発明において、Tiam1および低分子量G共役タンパク質Rac1が関与し、その因子であることが明らかになった。従って、本明細書では、TSLC1の分子経路というときには、TSLC1のほか、Tiam1およびRac1が因子として存在することが理解される。
本明細書において「TSLC1」の細胞内ドメインとは、配列番号2の397−442までのことをいう。細胞内ドメインを欠如させるとTSLC1の活性が消滅することが本発明において見出された。この活性としては、例えば、遊走能の抑制を挙げることができる。
本明細書において「Rac1」とは、がん遺伝子のRasサブファミリーの一つであり、Rasサブファミリーは、Rho,Rac1およびCdc42からなる。Rasは、様々なシグナル伝達経路を制御するGTPaseスーパーファミリーに属する。Rasは、細胞増殖および分化の制御に関与している (Boguski.M.S.and McCormick,F.(1993)Nature 366,643−654)。これらのサブファミリーは、細胞増殖の制御、特に細胞の形質転 換の制御、ならびに、細胞接着の形成の調節、および増殖因子刺激時のアクチン細胞骨格変化の調節に関与している(Coso.O.A., Chiariello.M.,Yu.J.−C.,Teramoto.H.,Crespo.P.,Xu.Nu.,Miki.T.and Gutkind.J.S.(1995)Cell 81,1137−1146:Hill.C.S.,Wynne.J.and Treisman.R.(1995)Cell 81,1159−1170:Kozma.R.,Ahmed.S.,Best.A.and Lim.L.(1995)Mol.Cell.Biol.15,1942−1952:Minden.A.,Lin.A.,Claret.F.−X., Abo.A.and Karin.M.(1995)Cell 81,1147−1157:Nobes.C.D.and Hall.A.(1995)Cell 8l,53−62:Olson.M.F.,Ashworth.A.and Hall.A.(1995)Science 269,1270−1272)。しかし、小細胞肺がんなどがん、新生物などに関しては関連が知られていなかった。Rac1は、葉状突起と呼ばれるアクチンに富んだ突起を形成することで細胞運動の際の駆動力を提供している。
Rasファミリーのタンパク質は、その全部に共通に、不活性(GDP結合)状態と活性(GTP結合)状態との間を転換する。従って、これらのGTPaseは、特定の経路を調節するために、分子スイッチとして働き、情報を処理し、そして伝達する。
GTP状態とGDP状態との間を転換する性質に基づいて、RasおよびRas近縁GTPaseのヌクレオチド状態を制御するタンパク質が同定および精製されて いる(Boguski.M.S.and McCormick,F.(1993)Nature 366,643−654)。GTPからGDPへの加水分解を検査することによって、多数のRasファミリーのタンパク質において、そのGTPaseの活性化タンパク質(GAP)が解析された(Boguski.M.S.and McCormick,F.(1993)Nature 366,643−654:Barfod.E.T.,Zheng.Y.,Kuang.W.−J.,Hart.M.J.,Evans.T.,Cerione.R.A.and Ashkenaz.A.(1993)J.Biol.Chem.268,26059−26062:Lamarche.N.and Hall.A.(1994)Trends Genet.10,436−440:Cerione.R.A.and Zheng.Y.(1996)Current Opinion in Cell Biology 8,216−222)。最後の参考文献では、RasおよびRas近縁GTPaseのグアニンヌクレオチド状態に影響するタンパク質の特性について良く考察さ れている。GDPの解離を抑制する性質に基づいて、グアニンヌクレオチド解離抑制因子(GDI)が同定された。これらはGTP状態にも結合して、内因性及 びGAP刺激性のGTP加水分解を抑制することが見出された(Boguski.M.S.and McCormick,F.(1993)Nature 366,643−654)。一般に、GAPおよび効果器(effector)は、GTP結合状態に対して高い親和性を有する。一方、GDIタンパク質は、GDP結合状態に最も強く結合する。この様な特性を利用して、Cdc42(Bagrodia.S.,Taylor.S.J.,Creasy.C.L., Chernoff.J.and Cerione.R.A.(1995)J.Biol.Chem.270,22731−22737:Manser.E.,Leung.T., Salihuddin.H.,Zhao.Z.−s.and Lim.L.(1994)Nature 367,40−46:Martin.G.A.,Bollag.G.,McCormick.F.and Abo.A.(1995)EMBO J.14,1970−1978)、Ras(Moodie.S.A.,Willumsen.B.M.,Weber.M.J.and Wolfman.A.(1993)Science 260,1658−1661:Rodriguez−Viciana.P.,Warne.P.H.,Dhand.R.Vanhaesebroeck.B., Gout.I.,Fry.M.J.,Waterfield.M.D.and Downward.J.(1994)Nature 370,527−532)およびRho(Leung.T.,Manser.E.,Tan.L.and Lim.L.(1995)J.Biol.Chem.270,29051−29054:Watanabe.G.,Saito.Y.,Madaule.P., Ishizaki.T.,Fujisawa.K.,Morii.N.,Mukai.H.,Ono.Y.,Kakizuki.A.and Narumiya.S.(1996)Science 271,645−648)の効果器を精製した。Cdc42Hs−GTPを利用した親和的方法によって、Cdc42によって誘導される細胞骨格変化の潜在的 な仲介因子であるIQGAP1が解析された(Hart.M.J.,Callow.M.,Souza.B.and Polakis.P.(1996)EMBO J.15,2997−3005)。
この親和的方法の改法を用いて、グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)を同定および精製することもできる。ヌクレオチド欠失状態のG−タンパク質に優先的に相 互作用する性質に基づいて、他の制御タンパク質から、GEFを識別することができる(Hart.M.J.,Eva.A.,Zangrilli.D., Aaronson.S.A.,Evans.T.,Cerione.R.A.and Zheng.Y.(1994)J.Biol.Chem.269,62−65:Mosteller,R.D.,Han.J.and Broek.D.(1994)Mol.Cell.Biol.14,1104−1112)。Ras類似タンパク質の活性化において、GEFは、GDPの解離とそれに続くGTPの結合を促進することによって、重要な機能を果たす。例えば、増殖因子の刺激によって、Ras特異的GEFであるSosが転移することによって、Rasは、GTP結合型に転換する(Buday.L.and Downward.J.(1993)Cell 73,611−620)。Rac1ファミリーのタンパク質を特異的に活性化するGEFを解析することによって、それらのGTPaseが関与するシグナル伝達経路が解明され、従って、、細胞増殖の分子機構がより良く理解されるだろう。更に、制御されない細胞増殖を原因とする疾患を予防および治療する薬を見出すことができる。Rac1は、シグナル伝達および細胞増殖において中心的な機能を果たすので、現在、Rac1−GEFの同定および解析は、科学上かなり注目されている。Rac1−GEFの1つとして、Tiam1が知られている(Michiels,F.,Habets,G.G.,Stam,J.C.,van der Kammen,R.A.,and Collard,J.G.(1995)Nature 375,338−340.See also.Eva.A.and Aaronson.S.A.(1985)Nature 316,273−275:Toksoz.D.and Williams.D.A.(1994)Oncogene 9,621−628)。
GDP/GTP交換因子(GEF)としてこれまでに数10種類のものが知られており、これらGEFの中でも、Rac1特異的なGEFとして機能する分子として、胸腺腫細胞株の浸潤を規定するTiam1,2(例えば、Cell,77,537−549,1994、Nature,375,338−340,1995参照。)や、T細胞受容体シグナルを制御するVav1(例えば、Nature,385,169−172,1997参照。)の他Vav2、Vav3や、Trio(例えば、J.Cell Science,113,729−739,2000参照。)や、STEF(例えば、J.Biol.Chem.,277,2860−2868,2002参照。)や、P−Rex1(例 えば、非特許文献21参照。)が知られており、これら5種類はいずれも共通のドメインをもっており、GTPをRac1に付与する機能を有している。
Rac1の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号5に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号5に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
であり得る。
Rac1のアミノ酸配列としては、
(a)配列番号6に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号5に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号6に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
であり得る。
Rac1の代表的な配列は、配列番号5(核酸配列)および配列番号6(アミノ酸配列)において示される。
本明細書においてTiam1とは、Rac1特異的なGDP/GTP交換因子(GEF)として機能する分子として同定された分子をいう(Michiels,F.,Habets,G.G.,Stam,J.C.,van der Kammen,R.A.,and Collard,J.G.(1995)Nature 375,338−340.See also.Eva.A.and Aaronson.S.A.(1985)Nature 316,273−275:Toksoz.D.and Williams.D.A.(1994)Oncogene 9,621−628)。
Tiam1の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号3に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
であり得る。
Tiam1のアミノ酸配列は、
(a)配列番号4に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
であり得る。
Tiam1の代表的な配列は、配列番号3(核酸配列)および配列番号4(アミノ酸配列)において示される。
本明細書において「Tiam1の短縮型」とは、上記Tiam1の全長よりも短い型の配列を有する核酸分子をいう。本発明では、代表的に、エクソン14−29に対応するバリアントを挙げることができるがこれに限定されない。本発明は、エクソン14−29に対応するバリアントまたは配列番号23に示す配列またはその改変体(例えば、1以上(代表的には1または数個)の核酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする改変体、好ましくは、全長Tiam1とは異なる改変体である。)を有する核酸分子の発現が、がん細胞の浸潤性と密接な関連を有しており、診断薬として使用可能であることを見出した。そのようなエクソン14−29の検出のための手段としては、例えば、特異的に増幅させるプライマー(例えば、配列番号21、22、25、26、28および29からなる群より選択される配列またはその相補体を有する核酸分子)または特異的にハイブリダイズするプローブ(配列番号23、27および30からなる群より選択される配列またはその相補体を有する核酸分子)等を挙げることができる。
本明細書において「因子」(agent)としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリーで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
したがって、本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドなどの生物学的因子に対して「特異的に相互作用する因子」とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドなどの生物学的因子に対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に(例えば、統計学的に有意に)高いものを包含する。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。本明細書において第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」とは、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して、第二の物質または因子以外の物質または因子(特に、第二の物質または因子を含むサンプル中に存在する他の物質または因子)に対するよりも高い親和性で相互作用することをいう。物質または因子について特異的な相互作用としては、例えば、核酸におけるハイブリダイゼーション、タンパク質における抗原抗体反応、リガンド−レセプター反応、酵素−基質反応など、核酸およびタンパク質の両方が関係する場合、転写因子とその転写因子の結合部位との反応など、タンパク質−脂質相互作用、核酸−脂質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、物質または因子がともに核酸である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して少なくとも一部に相補性を有することが包含される。また例えば、物質または因子がともにタンパク質である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」こととしては、例えば、抗原抗体反応による相互作用、レセプター−リガンド反応による相互作用、酵素−基質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。2種類の物質または因子がタンパク質および核酸を含む場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、転写因子と、その転写因子が対象とする核酸分子の結合領域との間の相互作用が包含される。
本明細書中で使用される「化合物」は、任意の識別可能な化学物質または分子を意味し、これらには、低分子、ペプチド、タンパク質、糖、ヌクレオチド、または核酸が挙げられるが、これらに限定されず、そしてこのような化合物は、天然物または合成物であり得る。
本明細書において「有機低分子」とは、有機分子であって、比較的分子量が小さなものをいう。通常有機低分子は、分子量が約1000以下のものをいうが、それ以上のものであってもよい。有機低分子は、通常当該分野において公知の方法を用いるかそれらを組み合わせて合成することができる。そのような有機低分子は、生物に生産させてもよい。有機低分子としては、例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「リガンド」とは、あるタンパク質に特異的に結合する物質をいう。例えば,細胞膜上に存在する種々のレセプタータンパク質分子と特異的に結合するレクチン、抗原、抗体、ホルモン、神経伝達物質などがリガンドとして挙げられる。TSLC1の分子経路における因子がレセプターの場合は、その相手は、リガンドと称される。
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされた複合体をさし得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)などが挙げられる。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。特に言及する場合、本発明の「ポリペプチド」は、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)を指すこともある。
本明細書において「アミノ酸」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。
本明細書において「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体である。
本明細書において「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、上述のD型アミノ酸、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。
本明細書において「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「ヌクレオチド誘導体」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのようなヌクレオチド誘導体およびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのようなヌクレオチド誘導体およびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2’−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド型核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
用語「核酸」はまた、本明細書において、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。特定の核酸配列はまた、「スプライス改変体」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を暗黙に包含する。その名が示唆するように「スプライス改変体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス改変体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。本発明において用いられる場合、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)はまた、この核酸形態をとり得る。
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子を構造遺伝子といい、その発現を左右する遺伝子を調節遺伝子という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/あるいは「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」をさすことがある。
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
本明細書ではアミノ酸および塩基配列の類似性、相同性および同一性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。また、本発明の活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)では、対応するアミノ酸は、例えば、リン酸化される部位であり得る。別の実施形態では、本発明の活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)では、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。したがって、マウスのTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)A、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)Bなどの遺伝子に対応する遺伝子は、他の動物(ヒト、ラット、ブタ、ウシなど)においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、マウスのTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)A、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)Bなどの遺伝子)の配列をクエリ配列として用いてその動物(例えばヒト、ラット)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
本明細書において「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A PRac1tical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。従って、本発明において使用されるポリペプチド(例えば、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)には、本発明で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
本明細書において「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、配列番号2、4、6などで表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。核酸配列の相同性は、たとえばAltschulら(J.Mol.Biol.215,403−410(1990))が開発したアルゴリズムを使用した検索プログラムBLASTを用いることにより、scoreで類似度が示される。
本明細書において「高度にストリンジェントな条件」は、核酸配列において高度の相補性を有するDNA鎖のハイブリダイゼーションを可能にし、そしてミスマッチを有意に有するDNAのハイブリダイゼーションを除外するように設計された条件をいう。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドのような変性剤の条件によって決定される。このようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および50% ホルムアミド、42℃である。このような高度にストリンジェントな条件については、Sambrooket al.,MolecularCloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(ColdSpring Harbor,N,Y.1989);およびAnderson et al.、NucleicAcid Hybridization:A PRac1tical Approach、IV、IRL Press Limited(Oxford,England).Limited,Oxford,Englandを参照のこと。必要により、よりストリンジェントな条件(例えば、より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤)を、使用してもよい。他の薬剤が、非特異的なハイブリダイゼーションおよび/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少する目的で、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液に含まれ得る。そのような他の薬剤の例としては、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSOまたはSDS)、Ficoll、Denhardt溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(または別の非相補的DNA)および硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤もまた、使用され得る。これらの添加物の濃度および型は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更され得る。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8〜7.4で実施されるが;代表的なイオン強度条件において、ハイブリダイゼーションの速度は、ほとんどpH独立である。Anderson et al.、Nucleic AcidHybridization:A PRac1tical Approach、第4章、IRL Press Limited(Oxford,England)を参照のこと。
DNA二重鎖の安定性に影響を与える因子としては、塩基の組成、長さおよび塩基対不一致の程度が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって調整され得、これらの変数を適用させ、そして異なる配列関連性のDNAがハイブリッドを形成するのを可能にする。完全に一致したDNA二重鎖の融解温度は、以下の式によって概算され得る。
Tm(℃)=81.5+16.6(log[Na])+0.41(%G+C)−600/N−0.72(%ホルムアミド)
ここで、Nは、形成される二重鎖の長さであり、[Na]は、ハイブリダイゼーション溶液または洗浄溶液中のナトリウムイオンのモル濃度であり、%G+Cは、ハイブリッド中の(グアニン+シトシン)塩基のパーセンテージである。不完全に一致したハイブリッドに関して、融解温度は、各1%不一致(ミスマッチ)に対して約1℃ずつ減少する。
本明細書において「中程度にストリンジェントな条件」とは、「高度にストリンジェントな条件」下で生じ得るよりも高い程度の塩基対不一致を有するDNA二重鎖が、形成し得る条件をいう。代表的な「中程度にストリンジェントな条件」の例は、0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、50〜65℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および20%ホルムアミド、37〜50℃である。例として、0.015Mナトリウムイオン中、50℃の「中程度にストリンジェントな」条件は、約21%の不一致を許容する。
本明細書において「高度」にストリンジェントな条件と「中程度」にストリンジェントな条件との間に完全な区別は存在しないことがあり得ることが、当業者によって理解される。例えば、0.015Mナトリウムイオン(ホルムアミドなし)において、完全に一致した長いDNAの融解温度は、約71℃である。65℃(同じイオン強度)での洗浄において、これは、約6%不一致を許容にする。より離れた関連する配列を捕獲するために、当業者は、単に温度を低下させ得るか、またはイオン強度を上昇し得る。
約20ヌクレオチドまでのオリゴヌクレオチドプローブについて、1MNaClにおける融解温度の適切な概算は、
Tm=(1つのA−T塩基につき2℃)+(1つのG−C塩基対につき4℃)
によって提供される。なお、6×クエン酸ナトリウム塩(SSC)におけるナトリウムイオン濃度は、1Mである(Suggsら、DevelopmentalBiologyUsing Purified Genes、683頁、BrownおよびFox(編)(1981)を参照のこと)。
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。好ましい実施形態では、そのような発現されたポリペプチドは、恒常的または一過的に活性化されたRac1であり得る。
本明細書においてポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
本明細書中で使用される用語「結合」は、2つのタンパク質もしくは化合物または関連するタンパク質もしくは化合物の間、あるいはそれらの組み合わせの間での、物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。結合には、イオン結合、非イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性相互作用などが含まれる。物理的相互作用(結合)は、直接的または間接的であり得、間接的なものは、別のタンパク質または化合物の効果を介するかまたは起因する。直接的な結合とは、別のタンパク質または化合物の効果を介してもまたはそれらに起因しても起こらず、他の実質的な化学中間体を伴わない、相互作用をいう。
本明細書中で使用される用語「調節する(modulate)」または「改変する(modify)」は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における増加または減少あるいは維持を意味する。
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「減少」または「抑制」とは、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における減少、または減少させる活性をいう。
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「増加」または「活性化」とは、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における増加または増加させる活性をいう。
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の対象となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチドなどが挙げられるがそれに限定されない。
通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、少なくとも核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。
本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用されるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)などには、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
本明細書において配列(アミノ酸または核酸など)の「同一性」、「相同性」および「類似性」のパーセンテージは、比較ウィンドウで最適な状態に整列された配列2つを比較することによって求められる。ここで、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の比較ウィンドウ内の部分には、2つの配列の最適なアライメントについての基準配列(他
の配列に付加が含まれていればギャップが生じることもあるが、ここでの基準配列は付加も欠失もないものとする)と比較したときに、付加または欠失(すなわちギャップ)が含ま
れる場合がある。同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列にも認められる位置の数を求めることによって、マッチ位置の数を求め、マッチ位置の数を比較ウィンドウ内の総位置数で割り、得られた結果に100を掛けて同一性のパーセンテージを算出する。検索において使用される場合、相同性については、従来技術において周知のさまざまな配列比較アルゴリズムおよびプログラムの中から、適当なものを用いて評価する。このようなアルゴリズムおよびプログラムとしては、TBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTAおよびCLUSTALW(Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(8):2444−2448、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Thompson et al.,1994,Nucleic Acids Res.22(2):4673−4680、Higgins et al.,1996,Methods Enzymol.266:383−402、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272)があげられるが、何らこれに限定されるものではない。特に好ましい実施形態では、従来技術において周知のBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)(たとえば、Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272、Altschul et al.,1997,Nuc.Acids Res.25:3389−3402を参照のこと)を用いてタンパク質および核酸配列の相同性を評価する。特に、5つの専用BLASTプログラムを用いて以下の作業を実施することによって比較または検索が達成され得る。
(1)BLASTPおよびBLAST3でアミノ酸のクエリ配列をタンパク質配列データベースと比較;
(2)BLASTNでヌクレオチドのクエリ配列をヌクレオチド配列データベースと比較;
(3)BLASTXでヌクレオチドのクエリ配列(両方の鎖)を6つの読み枠で変換した概念的翻訳産物をタンパク質配列データベースと比較;
(4)TBLASTNでタンパク質のクエリ配列を6つの読み枠(両方の鎖)すべてで変換したヌクレオチド配列データベースと比較;
(5)TBLASTXでヌクレオチドのクエリ配列を6つの読み枠で変換したものを、6つの読み枠で変換したヌクレオチド配列データベースと比較。
BLASTプログラムは、アミノ酸のクエリ配列または核酸のクエリ配列と、好ましくはタンパク質配列データベースまたは核酸配列データベースから得られた被検配列との間で、「ハイスコアセグメント対」と呼ばれる類似のセグメントを特定することによって相同配列を同定するものである。ハイスコアセグメント対は、多くのものが従来技術において周知のスコアリングマトリックスによって同定(すなわち整列化)されると好ましい。好ましくは、スコアリングマトリックスとしてBLOSUM62マトリックス(Gonnet et al.,1992,Science 256:1443−1445、Henikoff and Henikoff,1993,Proteins 17:49−61)を使用する。このマトリックスほど好ましいものではないが、PAMまたはPAM250マトリックスも使用できる(たとえば、Schwartz and Dayhoff,eds.,1978,Matrices for Detecting Distance Relationships:Atlas of Protein Sequence and Structure,Washington:National Biomedical Research Foundationを参照のこと)。BLASTプログラムは、同定されたすべてのハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価し、好ましくはユーザー固有の相同率などのユーザーが独自に定める有意性の閾値レベルを満たすセグメントを選択する。統計的な有意性を求めるKarlinの式を用いてハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価すると好ましい(Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268参照のこと)。
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも16の連続するヌクレオチド長の、少なくとも17の連続するヌクレオチド長の、少なくとも18の連続するヌクレオチド長の、少なくとも19の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
本明細書中で使用される「接触(させる)」とは、化合物を、直接的または間接的のいずれかで、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して物理的に近接させることを意味する。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、多くの緩衝液、塩、溶液などに存在し得る。接触とは、核酸分子またはそのフラグメントをコードするポリペプチドを含む、例えば、ビーカー、マイクロタイタープレート、細胞培養フラスコまたはマイクロアレイ(例えば、遺伝子チップ)などに化合物を置くことが挙げられる。
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子がリガンドである場合、その生物学的活性は、そのリガンドが対応するレセプターに結合する活性を包含する。本発明の活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)の場合は、その生物学的活性は、少なくともTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)が有する活性の少なくとも1つ(核内への移行能、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)コンセンサス配列への結合能など)を包含する。別の実施形態では、生物学的活性としては、転写因子としての活性(例えば、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)のコンセンサス配列への結合能)が挙げられる。
本明細書において生物学的活性をアッセイする方法としては、(例えば、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)を判定するためのアッセイ)を利用したアッセイが挙げられるがそれらに限定されない。具体的には、以下が挙げられる。
(細胞におけるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)遺伝子転写産物の検出)
診断対象から採取した細胞におけるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)の遺伝子転写産物を検出する手法としては、特に限定されないが、以下の方法を採用することができる。
(RT−PCR)
RT−PCRを適用する際には、例えば、先ず、診断対象の患者よりヘパリン化末梢血を採取する。このヘパリン化末梢血を比重遠心分離にかけ単核球を分離する。分離 した単核球を患者検体とする。一方、コントロール検体としては、健常人のCD4陽性Tリンパ球を使用する。健常人のCD4陽性Tリンパ球は、健常人より採 取したヘパリン化末梢血をCD8化、抗体混合物を用いて不要な細胞を沈降させた後、分離することができる。
この患者検体、コントロール検体に対してトリゾール液を用いて細胞可溶化し、RNAと、DNA・タンパク質・その他分画とに分離する。分離したRNAを用いて、オリゴdTプライマーを用い、逆転写酵素により一本鎖cDNAを合成する。次に、合成したcDNAを鋳型として、TSLC1特異的プライマーにより、TaqDNAポリメラーゼを用いてサーマルサイクラーによるDNA合成を行う。
具体的に、TSLC1特異的プライマーとしては以下の配列からなる一対のオリゴヌクレオチドを使用することができる。
プライマー1;ATGATCGATATCCAGAAAGACACT(配列番号18)
プライマー2;GTACTTCTAGATACCGCTGGG(配列番号19)
なお、TSLC1特異的プライマーは、上述の配列からなるオリゴヌクレオチドに限定され
ず、TSLC1遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計することができ る。例えば、配列番号2に示したTSLC1遺伝子の塩基配列において、445〜721番目の領域を増幅できるようにTSLC1特異的プライマーを設計することが好ましい。445〜721番目の領域を増幅する場合には、非特異的な核酸断片の増幅を防ぐことができるために好ましい。また、他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)もまた、同様にしてプライマーを設計することができる。
また、上述したDNA合成に際してサーマルサイクラーの条件としては、特に限定されな
いが、例えば、94℃5分1サイクル、94℃30秒、60℃30秒および72℃1分30サイクル、72℃5分1サイクルとすることができる。
次に、合成したDNA溶液を、例えばアガロースゲル電気泳動法により分離し、DNA染色によって可視化し、DNA撮影装置を用いて発現量を検討することが できる。このとき、患者検体におけるTSLC1遺伝子転写産物量と、コントロール検体におけるTSLC1遺伝子転写産物量との比が3倍以上、好ましくは5倍以上である場合、患者ががんを発症していると診断することができる。
(リアルタイム(Real−time)PCR)
上記「RT−PCR」と同様の方法により、患者検体、コントロール検体を採取し、同様にRNAを分離、cDNAを合成する。蛍光ラベルした特異的合成オリゴヌクレオチドにより、同様にRealtime PCR装置によりDNA合成を行う。
具体的に、特異的合成オリゴヌクレオチドとしては、限定されないが、以下の配列からなるものを使用することができる。
特異的合成オリゴヌクレオチド;TTCGCCATGCTGTGCTTGCTCA(配列番号20)
なお、特異的合成オリゴヌクレオチドは、上述の配列からなるものに限定されず、TSLC1遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。例えば、配列番号2に示したTSLC1遺伝子の塩基配列において、1159−1180番目の領域とハイブリダイズするように特異的合成オリゴヌクレオチドを設計することが好ましい。1159−1180番目の領域とハイブリダイズする場合には、特異的合成オリゴヌクレオチドの非特異的なハイブリダイズを防ぐことができるために好ましい。TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についてもまた、同様に任意の設計することができることが理解される。
Real time PCR装置におけるDNA合成の条件としては、特に限定されないが、例えば94℃5分1サイクル、94℃30秒および60℃1分40サイクルとすることができる。
そして、Real time PCR装置に備わる分光蛍光光度計によって、合成の回数に応じたDNA量が蛍光発色により定量する。このとき、コントロールとしてアクチン遺伝子等を同時 に測定し、アクチン遺伝子発現量によってTSLC1遺伝子転写産物量を平均化して定量することもできる。
Real time PCR装置によれば、先ず電気泳動による増幅DNA断片の分離が必要でないため、非常に簡易に且つ迅速に解析を行うことができる。また、Realtime PCR装置によれば、増幅が指数関数的に起こる領域で産物量を比較できるため、より正確に定量的に解析することができる。
(ハイブリダイゼーション法)
診断対象から採取した細胞におけるTSLC1遺伝子転写産物を検出する手法としては、上記「RT−PCR」と同様の方法により、患者検体、コントロール検体を採取し、同様にRNAを分離した後、TSLC1遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイ ズするオリゴヌクレオチドを用いて、TSLC1遺伝子転写産物を検出してもよい。また、上記「RT−PCR」と同様の方法によりRNAを分離してcDNAを合成し、合成したcDNAに特異的にハイブリダイズするプローブを用いて、TSLC1遺伝子転写産物を検出してもよい。
ここで、プローブとしては、特に限定されないが、例えば、TSLC1遺伝子の411〜1371番目と相補的な配列を有する核酸断片を使用することができる。なお、プローブは、上述の配列からなるものに限定されず、TSLC1遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。例えば、配列番号2に示したTSLC1遺伝子の塩基配列において、411〜1371番目の領域とハイブリダイズするようにプローブを設計することが好ましい。411〜1371番目の領域とハイブリダイズする場合には、プローブの非特異的なハイブリダイズを防ぐことができるために好ましい。他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についても、同様にプローブを設計することができることが理解される。
(細胞または血清におけるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)のタンパク質の検出)
細胞または血清に含まれるTSLC1タンパク質を検出する際には、TSLC1タンパク質を特異的に認識する抗体(以下、TSLC1抗体と呼ぶ)を作製する。TSLC1抗体は、従来公知の手法を用いて作製することができる。なお、TSLC1抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であっても良い。他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についても、同様に抗体を作製することができる。
一例として、TSLC1モノクローナル抗体の調製方法を以下に記載する。TSLC1モノクローナル抗体は、抗原で免疫した動物から得られる抗体産生細胞と、ミエローマ細胞との細胞融合によりハイブリドーマを調製し、得られるハイブリドーマからTSLC1活性を特異的に阻害する抗体を産生するクローンを選択することにより調製することができる。
動物の免疫に抗原として用いるTSLC1タンパク質としては、組換えDNA法または化学合成により調製したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列の全部若しくは一部のペプチドが挙げられる。例えば、配列番号1に示したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列における、431〜442番目のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として使用することができる。また、細胞表面に存在するTSLC1タンパク質を特異的に検出するためのTSLC1モノクローナル抗体としては、配列番号1に示したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列における232〜247番目のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として使用することが好ましい。一方、血中に存在する可溶化TSLC1タンパク質を特異的に検出するためのTSLC1モノクローナル抗体としては、配列番号1に示したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列における315〜331番目(可溶型特異領域を含む)のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として使用することが好ましい。他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についても同様に抗原を設計することができる。
得られた抗原用TSLC1をキャリアータンパク質(例えばサイログロブリン)に結合させた後、アジュバントを添加する。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント等が挙げられ、これらの何れのものを混合してもよい。
上記のようにして得られた抗原を哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウマ、サル、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に投与する。免疫は、既存の方法であれば何れの方法をも用いることができるが、主として静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射などにより行う。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、好ましくは4〜21日間隔で免疫する。
最終の免疫日から2〜3日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞が挙げられるが、一般に脾臓細胞が用いられる。抗原の免疫量は1回にマウス1匹当たり、例えば100μg用いられる。
免疫した動物の免疫応答レベルを確認し、また、細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選択するため、免疫した動物の血中抗体価、または抗体産生細胞の培養上清中の抗体価を測定する。抗体検出の方法としては、公知技術、例えばEIA(エンザイムイムノアッセイ)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素連結イムノソルベントアッセイ)等が挙げられる。
抗体産生細胞と融合させるミエローマ(骨髄腫)細胞として、マウス、ラット、ヒトなど種々の動物に由来し、当業者が一般に入手可能な株化細胞を使用する。使用する細胞株としては、薬剤抵抗性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT培地)で生存できず、融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが用いられる。一般的に8−アザグアニン耐性株が用いられ、この細胞株は、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼを欠損し、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)培地に生育できないものである。
ミエローマ細胞は、既に公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J.Immunol.(1979)123:1548−1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81:1−7)、NS−1(Kohler,G.and Milstein,C.,Eur.J.Immunol.(1976)6:511−519)、MPC−11(Margulies,D.H.et al.,Cell (1976)8:405−415)、SP2/0(Shulman,M.et al.,Nature(1978)276:269−270)、FO(de St.Groth,S.F.et al.,J.Immunol.Methods(1980)35:1−21)、S194(Trowbridge,I.S.,J.Exp.Med.(1978)148:313−323)、R210(Galfre,G.et al.,Nature(1979)277:131−133)等が好適に使用される。
抗体産生細胞は、脾臓細胞、リンパ節細胞などから得られる。すなわち、前記各種動物から脾臓、リンパ節等を摘出または採取し、これら組織を破砕する。得られる破砕物をPBS、DMEM、RPMI1640等の培地または緩衝液に懸濁し、ステンレスメッシュ等で濾過後、遠心分離を行うことにより目的とする抗体産生細胞を調製する。
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、MEM、DMEM、RPME−1640培地などの動物細胞培養用培地中で、ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを、混合比1:1〜1:10で融合促進剤の存在下、30〜37℃で1〜15分間接触させることによって行われる。細胞融合を促進させるためには、平均分子量1,000〜6,000のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールまたはセンダイウイルスなどの融合促進剤や融合ウイルスを使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、選択培地における細胞の選択的増殖を利用する方法等が挙げられる。すなわち、細胞懸濁液を適切な培地で希釈後、マイクロタイタープレート上にまき、各ウェルに選択培地(HAT培地など)を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
ハイブリドーマのスクリーニングは、限界希釈法、蛍光励起セルソーター法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを取得する。取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法や腹水形成法等が挙げられる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10〜20%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地、MEM培地、または無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃,5%CO濃度)で2〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法においては、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種の動物の腹腔内にハイブリドーマを投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜4週間後に腹水または血清を採取する。
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜に選択して、またはこれらを組み合わせることにより精製する。
本明細書において「抗原」とは、抗体と結合し、またはBリンパ球、Tリンパ球などの特異的レセプターに結合して、抗体産生および/または細胞障害などの免疫反応をひきおこす物質(例えば、タンパク質、脂質、糖などが挙げられるがそれらに限定されない)をいう。抗体またはリンパ球レセプターとの結合性を、「抗原性」(antigecity)という。抗体産生などの免疫応答を誘導する特性を「免疫原性」(immunogenicity)という。抗原として使用される物質は、例えば、その目的とする物質(例えば、タンパク質)を少なくとも1つ含む。含まれる物質は、全長が好ましいが、免疫を惹起し得るエピトープを少なくとも一つ含んでいれば、部分配列でもよい。本明細書において「エピトープ」または「抗原決定基」とは、抗体またはリンパ球レセプターが結合する抗原分子中の部位をいう。エピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。
エピトープは、必ずしもその正確な位置および構造が判明していないとしても使用することができる。従って、エピトープには特定の免疫グロブリンによる認識に関与するアミノ酸残基のセット、または、T細胞の場合は、T細胞レセプタータンパク質および/もしくは主要組織適合性複合体(MHC)レセプターによる認識について必要であるアミノ酸残基のセットが包含される。この用語はまた、「抗原決定基」または「抗原決定部位」と交換可能に使用される。免疫系分野において、インビボまたはインビトロで、エピトープは、分子の特徴(例えば、一次ペプチド構造、二次ペプチド構造または三次ペプチド構造および電荷)であり、免疫グロブリン、T細胞レセプターまたはHLA分子によって認識される部位を形成する。ペプチドを含むエピトープは、エピトープに独特な空間的コンフォメーション中に3つ以上のアミノ酸を含み得る。一般に、エピトープは、少なくとも5つのこのようなアミノ酸からなり、代表的には少なくとも6つ、7つ、8つ、9つ、または10のこのようなアミノ酸からなる。エピトープの長さは、より長いほど、もとのペプチドの抗原性に類似することから一般的に好ましいが、コンフォメーションを考慮すると、必ずしもそうでないことがある。アミノ酸の空間的コンフォメーションを決定する方法は、当該分野で公知であり、例えば、X線結晶学、および2次元核磁気共鳴分光法を含む。さらに、所定のタンパク質におけるエピトープの同定は、当該分野で周知の技術を使用して容易に達成される。例えば、Geysenら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3998(所定の抗原における免疫原性エピトープの位置を決定するために迅速にペプチドを合成する一般的な方法);米国特許第4,708,871号(抗原のエピトープを同定し、そして化学的に合成するための手順);およびGeysenら(1986)Molecular Immunology 23:709(所定の抗体に対して高い親和性を有するペプチドを同定するための技術)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、単純な免疫アッセイにおいて同定され得る。このように、ペプチドを含むエピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。
従って、ペプチドを含むエピトープとして使用するためには、少なくとも3アミノ酸の長さの配列が必要であり、好ましくは、この配列は、少なくとも4アミノ酸、より好ましくは少なくとも5アミノ酸、少なくとも6アミノ酸、少なくとも7アミノ酸、少なくとも8アミノ酸、少なくとも9アミノ酸、少なくとも10アミノ酸、少なくとも15アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、少なくとも25アミノ酸の長さの配列が必要であり得る。エピトープは線状であってもコンフォメーション形態であってもよい。
高分子構造(例えば、ポリペプチド構造)は種々のレベルの構成に関して記述され得る。この構成の一般的な議論については、例えば、Albertsら、Molecular Biology of the Cell(第3版、1994)、ならびに、CantorおよびSchimmel、Biophysical Chemistry Part I:The Conformation of Biological Macromolecules(1980)を参照。「一次構造」とは、特定のペプチドのアミノ酸配列をいう。「二次構造」とは、ポリペプチド内の局所的に配置された三次元構造をいう。これらの構造はドメインとして一般に公知である。ドメインは、ポリペプチドの緻密単位を形成し、そして代表的には50〜350アミノ酸長であるそのポリペプチドの部分である。代表的なドメインは、βシート(βストランドなど)およびα−ヘリックスのストレッチ(stretch)のような、部分から作られる。「三次構造」とは、ポリペプチドモノマーの完全な三次元構造をいう。「四次構造」とは、独立した三次単位の非共有的会合により形成される三次元構造をいう。異方性に関する用語は、エネルギー分野において知られる用語と同様に使用される。したがって、本発明において使用されるポリペプチドは、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)と同等の能力を有するような高次構造を有する限り、どのようなアミノ酸配列のポリペプチドをも包含し得る。
(FACSスキャンを用いた白血病細胞表面抗原の同定)
以上のように調製したTSLC1モノクローナル抗体を用いて、診断対象の細胞の表面に存在するTSLC1タンパク質の有無をFACSスキャンにより検出することができる。この方法では、TSLC1モノクローナル抗体としては、配列番号1に示したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列における232〜247番目のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として使用して得られたものを使用する。他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についても、同様に抗原を設計することができる。
この場合、先ず、患者から採取した患者末梢血より、比重遠心法により単核球分画を単離する。次に、上述したように得られたTSLC1モノクローナル抗体を蛍光ラベルした蛍光化TSLC1抗体と単核球分画とを30〜60分混合する。反応後にFACSスキャン装置によって蛍光強度を測定して、測定した蛍光強度に基づいて細胞数を測定する。また、ソーティング装置付FACSを用いることで、蛍光標識された細胞を分離し、分離した細胞におけるTSLC1遺伝子または他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)の発現の解析を行ってもよい。
この方法によれば、HTLV−1キャリアにおいて、TSLC1陽性細胞を染め分け、詳細な感染細胞を数えることができる。さらに、後述するように、血中に 含まれる可溶化TSLC1タンパク質量を測定することにより、がんの発症予測が可能となる。さらに、この方法によれば、HTLV−1感染細胞を分離し、感染細胞における遺伝子発現異常を同定できるようになるため、発症予測がより正確にできるようになる。
(可溶性TSLC1タンパク質の血中濃度測定)
また、以上のように調製したTSLC1モノクローナル抗体を用いて、診断対象の血中に存在するTSLC1タンパク質を検出することができる。この方法で は、TSLC1モノクローナル抗体としては、配列番号1に示したTSLC1タンパク質のアミノ酸配列における315〜331番目のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として使用して得られたものを使用する。他のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)についても可溶性形態がある場合は、同様に抗原を設計することができることが理解される。
この場合、先ず、TSLC1モノクローナル抗体を固相プレートに吸着させ、その後、プレートにBSAなどのタンパク質を作用させ、非特異結合をブロックしておく。患者もしくは健常人血清を添加し、洗浄した後、異種由来TSLC1抗体を添加、さらに酵素標識抗種特異的免疫グロブリン抗体を添加する。加えてその酵素に対する酵素基質溶液を加え酵素反応の発色により、発現量を測定する。
以上、「細胞におけるTSLC1遺伝子転写産物の検出」および「細胞または血清におけるTSLC1タンパク質の検出」に従えば、診断対象の患者から採取した細胞あるいは血清を用いて、TSLC1遺伝子の発現を検出することができる。言い換えると、「細胞におけるTSLC1遺伝子転写産物の検出」に記載したようなTSLC1特異的プライマー、特異的合成オリゴヌクレオチドまたはプローブを含む試薬によって、全く新規ながん診断薬を提供することができる。また、「細胞または血清におけるTSLC1タンパク質の検出」に記載したようなTSLC1抗体を含む試薬によって、全く新規ながん診断薬を提供することができる。
(改変体)
あるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
親水性指数もまた、本発明のアミノ酸配列を改変するのに有用である。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書において「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用であることから、本発明のTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
本明細書において「ペプチドアナログ」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログが付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
本発明のポリペプチドがポリマーに結合している、化学修飾されたポリペプチド組成物は、本発明の範囲に包含される。このポリマーは、水溶性であり得、水溶性環境(例えば、生理学的環境)でこのタンパク質の沈澱を防止し得る。適切な水性ポリマーは、例えば、以下からなる群より選択され得る:ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシポリエチレングリコール、デキストラン、セルロース、または他の炭水化物に基づくポリマー、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)およびポリビニルアルコール。この選択されたポリマーは、通常は改変され、単一の反応性基(例えば、アシル化のための活性エステルまたはアルキル化のためのアルデヒド)を有し、その結果、重合度は制御され得る。ポリマーは、任意の分子量であり得、そして、このポリマーは分枝状でも分枝状でなくてもよく、そしてこのようなポリマーの混合物はまた、使用され得る。この化学修飾された本発明のポリマーは、治療用途に決定付けられる場合、薬学的に受容可能なポリマーが使用するために選択される。
このポリマーがアシル化反応によって改変される場合、このポリマーは、単一の反応性エステル基を有するべきである。あるいは、このポリマーが還元アルキル化によって改変される場合、このポリマーは単一の反応性アルデヒド基を有するべきである。好ましい反応性アルデヒドは、ポリエチレングリコール、プロピオンアルデヒド(このプロピオンアルデヒドは、水溶性である)または、そのモノC1〜C10の、アルコキシ誘導体もしくはアリールオキシ誘導体である(例えば、米国特許第5,252,714号(これは、本明細書中で全体が参考として援用される)を参照のこと)。
本発明のポリペプチドのPEG化(Pegylation)は、例えば、以下の参考文献に記載されるような、当該分野で公知の、任意のPEG化反応によって実施され得る:Focus on Growth Factors 3,4−10(1992);EP 0 154 316;およびEP 0 401 384(これらの各々は、本明細書中で、全体が参考として援用される)。好ましくは、このPEG化は、反応性ポリエチレングリコール分子(または、類似の反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応を介して実施される。本発明のポリペプチド(例えば、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)またはその活性型あるいはその活性化因子など)のPEG化のための好ましい水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。本明細書中で使用される場合、「ポリエチレングリコール」は、PEGの任意の形態の包含することを意味し、ここで、このPEGは、他のタンパク質(例えば、モノ(C1〜C10)アルコキシポリエチレングリコールまたはモノ(C1〜C10)アリールオキシポリエチレングリコール)を誘導体するために使用される。
本発明のポリペプチドの化学誘導体化を、生物学的に活性な物質を活性化したポリマー分子と反応させるのに使用される適切な条件下で、実施され得る。PEG化した本発明のポリペプチドを調製するための方法は、一般に以下の工程を包含する:(a)TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)またはその活性型あるいはその活性化因子が1以上のPEG基に結合するような条件下で、ポリエチレングリコール(例えば、PEGの、反応性エステルまたはアルデヒド誘導体)とこのポリペプチドを反応させる工程および(b)この反応生成物を得る工程。公知のパラメータおよび所望の結果に基づいて、最適な反応条件またはアシル化反応を選択することは当業者に容易である。
PEG化されたポリペプチドは、一般に、本明細書中に記載のポリペプチドを投与することによって、緩和または調節され得る状態を処置するために使用され得るが、しかし、本明細書中で開示された、化学誘導体化された本発明のポリペプチド分子は、それらの非誘導体分子と比較して、さらなる活性、増大された生物活性もしくは減少した生物活性、または他の特徴(例えば、増大された半減期または減少した半減期)を有し得る。本発明のポリペプチド、それらのフラグメント、改変体および誘導体は、単独で、併用して、または他の薬学的組成物を組み合わせて使用され得る。
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、がんマーカー、神経疾患マーカーなど)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
本発明において使用されるポリペプチドは、任意の生物由来であり得る。好ましくは、その生物は、脊椎動物(例えば、哺乳動物、爬虫類、両生類、魚類、鳥類など)であり、より好ましくは、哺乳動物(例えば、齧歯類(マウス、ラットなど)、霊長類(ヒトなど)など)であり得る。本発明において使用されるポリペプチドは、所望の効果を発揮するかぎり、合成されたものでもよい。そのようなポリペプチドは、当該分野において周知の合成方法によって合成され得る。例えば、自動固相ペプチド合成機を用いた合成方法は、Stewart,J.M.et al.(1984).Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce Chemical Co.;Grant,G.A.(1992).Synthetic Peptides: A User’s Guide,W.H.Freeman;Bodanszky,M.(1993).Principles of Peptide Synthesis,Springer−Verlag;Bodanszky,M.et al.(1994).The PRac1tice of Peptide Synthesis,Springer−Verlag;Fields,G.B.(1997).Phase Peptide Synthesis,Academic Press;Pennington,M.W.et al.(1994).Peptide Synthesis Protocols,Humana Press;Fields,G.B.(1997).Solid−Phase Peptide Synthesis,Academic Pressにおいて記載されている。
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A PRac1tical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A PRac1tical Approach,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
(遺伝子工学)
本発明において用いられるTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)などならびにそのフラグメントおよび改変体は、遺伝子工学技術を用いて生産することができる。
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
本明細書において「ウイルスベクター」とは、ベクターのうち、ウイルス由来のものをいう。本明細書において「ウイルス」とは、DNAまたはRNAのいずれかをゲノムとして有する、感染細胞内だけで増殖する感染性の微小構造体をいう。ウイルスとしては、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科、バキュロウイルス科およびヘパドナウイルス科からなる群より選択される科に属するウイルスが挙げられる。本明細書において「レトロウイルス」とは、RNAの形で遺伝情報を有し、逆転写酵素によってRNAの情報からDNAを合成するウイルスをいう。
本明細書において「レトロウイルスベクター」とは、レトロウイルスを遺伝子の担い手(ベクター)として使用した形態をいう。本発明において使用される「レトロウイルスベクター」としては、例えば、Moloney Murine Leukemia Virus(MMLV)、Murine Stem Cell Virus(MSCV)にもとづいたレトロウイルス型発現ベクターなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、レトロウイルスベクターとしては、pGen−、pMSCVなどが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。ヒトの場合、本発明に用いる発現ベクターはさらにpCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))を含み得る。
本明細書において「組換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
本明細書において、動物細胞に対する「組換えベクター」としては、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pCDM8(いずれもフナコシより市販)、pAGE107(特開平3−22979、Cytotechnology,3,133(1990))、pREP4(Invitrogen)、pAGE103(J.Biochem.,101,1307(1987))、pAMo、pAMoA(J.Biol.Chem.,268,22782−22787(1993))、pCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))などが例示される。
本明細書において「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターとしては、哺乳動物由来のターミネーターのほかに、CaMV35Sターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバコPR1a遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに限定されない。
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
本明細書において、遺伝子の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、生物(例えば、動物)の部位(例えば、動物の場合、心臓、心筋細胞など)におけるその遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、生物(たとえば、動物)の特定の段階(例えば、発作時など)に応じたその遺伝子の発現の特異性をいう。そのような特異性は、適切なプロモーターを選択することによって、所望の生物に導入することができる。
本明細書において、本発明のプロモーターの発現が「構成的」であるとは、生物のすべての組織において、その生物の生長の幼若期または成熟期のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、本明細書の実施例と同様の条件でノーザンブロット分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上の同一または対応する部位のいずれにおいても実質的に発現がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。本発明のプロモーターの発現が「ストレス応答性」であるとは、少なくとも1つのストレス(例えば、分化刺激など)が生物体に与えられたとき、その発現量が変化する性質をいう。特に、発現量が増加する性質を「ストレス誘導性」といい、発現量が減少する性質を「ストレス減少性」という。「ストレス減少性」の発現は、正常時において、発現が見られることを前提としているので、「構成的」な発現と重複する概念である。これらの性質は、生物の任意の部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析またはRT−PCRで発現量を分析することまたは発現されたタンパク質をウェスタンブロットにより定量することにより決定することができる。ストレス誘導性のプロモーターを本発明において使用されるポリペプチドをコードする核酸とともに組み込んだベクターで形質転換された動物または動物の一部(特定の細胞、組織など)は、そのプロモーターの誘導活性をもつ刺激因子を用いることにより、ある条件(例えば、分化刺激時)下での本発明において使用されるポリペプチドの発現を行うことができる。
本明細書において「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。植物において使用する場合、エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前初期エンハンサー(human cytomegalovirus immediate−early enhancer)の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好ましい。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
本発明は、任意の動物において利用され得る。そのような動物における利用のための技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory
Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、動物細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
本明細書において「動物」は、当該分野において最も広義で用いられ、脊椎動物および無脊椎動物を含む。動物としては、哺乳綱、鳥綱、爬虫綱、両生綱、魚綱、昆虫綱、蠕虫綱などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、動物は、哺乳動物を含む。
本発明において使用されるポリペプチド、核酸、キット、システム、組成物および方法は、哺乳動物だけでなく他の動物を含む動物全体において機能することが企図される。なぜなら、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)に対応するリガンドは、哺乳動物以外の生物においても存在することが知られているからである。
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。
本明細書において細胞の「遊走能」とは、動物の体内を能動的に移動する能力をいう。細胞の遊走能を物理的指標とは別のマーカーで検出することができる。例えば、遊走能は、E-カドヘリンおよびb−カテニンからなる群より選択される少なくとも1つの産物の発現の消失によって確認することができる。あるいは、遊走能は、ビメンチンおよびフィブロネクチンからなる群より選択される、少なくとも1つの産物の発現の増加によって確認することができる。細胞(例えば、MDCK細胞のような培養腎臓細胞)の遊走能は、例えば、肝実質細胞増殖因子(HGF)によって惹起することができる。
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、臓器(器官)の一部であり得る。臓器(器官)内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。
本明細書において「器官(臓器)」とは、1つ独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。動物では、胃、肝臓、腸、膵臓、肺、気管、鼻、心臓、動脈、静脈、リンパ節(リンパ管系)、胸腺、卵層、眼、耳、舌、皮膚等が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「トランスジェニック」とは、特定の遺伝子がある生物に組み込むことまたは組み込まれた生物(例えば、動物(マウスなど)または植物を含む)をいう。
本発明においてトランスジェニック生物が利用される場合、そのようなトランスジェニック生物は、マイクロインジェクション法(微量注入法)、ウイルスベクター法、ES細胞法(胚性幹細胞法)、精子ベクター法、染色体断片を導入する方法(トランスゾミック法)、エピゾーム法などを利用したトランスジェニック動物の作製技術を使用して作製することができる。そのようなトランスジェニック動物の作成技術は当該分野において周知である。
(スクリーニング)
本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
本明細書において「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ生物または物質などの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選抜することをいう。スクリーニングのために、本発明の因子(例えば、抗体)、ポリペプチドまたは核酸分子を使用することができる。スクリーニングは、インビトロ、インビボなど実在物質を用いた系を使用してもよく、インシリコ(コンピュータを用いた系)の系を用いて生成されたライブラリーを用いてもよい。本発明では、所望の活性を有するスクリーニングによって得られた化合物もまた、本発明の範囲内に包含されることが理解される。また本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
1実施形態において、本発明は、本発明のタンパク質または本発明のポリペプチド、あるいはその生物学的に活性な部分に結合するか、またはこれらの活性を調節する、候補化合物もしくは試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。本発明の試験化合物は、当該分野において公知のコンビナトリアルライブラリー法における多数のアプローチの任意のものを使用して得られ得、これには、以下が挙げられる:生物学的ライブラリー;空間的にアクセス可能な平行固相もしくは溶液相ライブラリー;逆重畳を要する合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法;およびアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー法。生物学的ライブラリーアプローチはペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマーもしくは化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam(1997)Anticancer Drug Des.12:145)。
分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当該分野において、例えば以下に見出され得る:DeWittら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6909;Erbら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA
91:11422;Zuckermannら(1994)J.Med.Chem 37:2678;Choら(1993)Science 261:1303;Carrellら(1994)Angew Chem.Int.Ed.Engl.33:2059;Carrellら(1994)Angew Chem.Int.Ed.Engl.33:2061;およびGallopら(1994)J.Med.Chem 37:1233。
化合物のライブラリーは、溶液中で(例えば、Houghten(1992)BioTechniques 13:412〜421)、あるいはビーズ上(Lam(1991)Nature 354:82〜84)、チップ上(Fodor(1993)Nature 364:555〜556)、細菌(Ladner 米国特許第5,223,409号)、胞子(Ladner、上記)、プラスミド(Cullら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865〜1869)またはファージ上(ScottおよびSmith(1990)Science 249:386〜390;Devlin(1990)Science 249:404〜406;Cwirlaら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:6378〜6382;Felici(1991)J Mol Biol 222:301〜310;Ladner上記)において示され得る。
本発明は、他の実施形態において、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸)と同等に有効な因子をスクリーニングするための道具として、コンピュータによる定量的構造活性相関(quantitative structure activity relationship=QSAR)モデル化技術を使用して得られる化合物もまた、本発明に包含される。ここで、コンピューター技術は、いくつかのコンピュータによって作成した基質鋳型、ファーマコフォア、ならびに本発明の活性部位の相同モデルの作製などを包含する。一般に、インビトロで得られたデータから、ある物質に対する相互作用物質の通常の特性基をモデル化することに対する方法は、CATALYSTTM ファーマコフォア法(Ekins et al.、Pharmacogenetics,9:477〜489,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,288:21〜29,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,290:429〜438,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,291:424〜433,1999)および比較分子電界分析(comparative molecular field analysis;CoMFA)(Jones et al.、Drug Metabolism & Disposition,24:1〜6,1996)などを使用して示されている。本発明において、コンピュータモデリングは、分子モデル化ソフトウェア(例えば、CATALYSTTMバージョン4(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)など)を使用して行われ得る。
活性部位に対する化合物のフィッティングは、当該分野で公知の種々のコンピュータモデリング技術のいずれかを使用してで行うことができる。視覚による検査および活性部位に対する化合物のマニュアルによる操作は、QUANTA(Molecular Simulations,Burlington,MA,1992)、SYBYL(Molecular Modeling Software,Tripos Associates,Inc.,St.Louis,MO,1992)、AMBER(Weiner et al.、J.Am.Chem.Soc.,106:765−784,1984)、CHARMM(Brooks et al.、J.Comp.Chem.,4:187〜217,1983)などのようなプログラムを使用して行うことができる。これに加え、CHARMM、AMBERなどのような標準的な力の場を使用してエネルギーの最小化を行うこともできる。他のさらに特殊化されたコンピュータモデリングは、GRID(Goodford et al.、J.Med.Chem.,28:849〜857,1985)、MCSS(Miranker and Karplus,Function and Genetics,11:29〜34,1991)、AUTODOCK(Goodsell
and Olsen,Proteins:S tructure,Function and Genetics,8:195〜202,1990)、DOCK(Kuntz et al.、J.Mol.Biol.,161:269〜288,(1982))などを含む。さらなる構造の化合物は、空白の活性部位、既知の低分子化合物における活性部位などに、LUDI(Bohm,J.Comp.Aid.Molec.Design,6:61〜78,1992)、LEGEND(Nishibata and Itai,Tetrahedron,47:8985,1991)、LeapFrog(Tripos Associates,St.Louis,MO)などのようなコンピュータープログラムを使用して新規に構築することもできる。このようなモデリングは、当該分野において周知慣用されており、当業者は、本明細書の開示に従って、適宜本発明の範囲に入る化合物(例えば、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)の等価物)を設計することができる。
(投与・注入・医薬)
本発明の因子によって調製された細胞(例えば、幹細胞、それから分化した細胞(例えば、肺細胞))または細胞組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与経路としては経口投与、非経口投与、患部への直接投与などが挙げられる。
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。
1つの実施形態において、本発明の因子(例えば、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)またはそれをコードする核酸など)は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
本発明の組成物またはキットはまた、さらに生体親和性材料を含み得る。この生体親和性材料は、例えば、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン、グリコール酸・乳酸の共重合体、エチレンビニル酢酸共重合体、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。成型が容易であることからシリコーンが好ましい。生分解性高分子の例としては、コラーゲン、ゼラチン、α−ヒロドキシカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸など)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸など)およびヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸など)からなる群より選択される1種以上から無触媒脱水重縮合により合成された重合体、共重合体またはこれらの混合物、ポリ−α−シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸など)、無水マレイン酸系共重合体(例えば、スチレン−マレイン酸共重合体など)のポリ酸無水物などが挙げられる。重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよく、α−ヒドロキシカルボン酸類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−体、L−体、DL−体のいずれでも用いることが可能である。好ましくは、グリコール酸・乳酸の共重合体が使用され得る。
核酸分子を含む本発明の組成物を投与する場合、核酸分子は、非ウイルスベクター形態またはウイルスベクター形態による投与、またはnaked DNAでの直接投与の形態などで投与され得る。このような投与形態は、当該分野において周知であり、例えば、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに詳説されている。
特定の実施形態において、本発明の正常な遺伝子の核酸配列、抗体またはその機能的誘導体をコードする配列を含む核酸は、本発明のポリペプチドの異常な発現および/または活性に関連した疾患または障害を処置、阻害または予防するために、遺伝子治療の目的で投与される。遺伝子治療とは、発現されたか、または発現可能な核酸の、被験体への投与により行われる治療をいう。本発明のこの実施形態において、核酸は、それらのコードされたタンパク質を産生し、そのタンパク質は治療効果を媒介する。
当該分野で利用可能な遺伝子治療のための任意の方法が、本発明に従って使用され得る。例示的な方法は、以下のとおりである。
遺伝子治療の方法の一般的な概説については、Goldspielら,Clinical Pharmacy 12:488−505(1993);WuおよびWu,Biotherapy 3:87−95(1991);Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:573−596(1993);Mulligan,Science 260:926−932(1993);ならびにMorganおよびAnderson,Ann.Rev.Biochem.62:191−217(1993);May,TIBTECH 11(5):155−215(1993)を参照のこと。遺伝子治療において使用される一般的に公知の組換えDNA技術は、Ausubelら(編),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NY(1993);およびKriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990)に記載される。
したがって、本発明では、TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)またはその改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸分子を用いた遺伝子治療が有用であり得る。
非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などが利用され得る。発現ベクターとしては、例えば、pCAGGS(Gene 108:193−9、Niwa H,Yamamura K,Miyazaki J(1991))、pBJ−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(Invitrogen、Stratageneなどから入手可能である)などが挙げられる。
HVJ−リポソーム法は、脂質二重膜で作製されたリポソーム中に核酸分子を封入し、このリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan、HVJ)とを融合させることを包含する。このHVJ−リポソーム法は、従来のリポソーム法よりも、細胞膜との融合活性が非常に高いことを特徴とする。HVJ−リポソーム調製法は、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997に詳述されている。HVJとしては、任意の株が利用可能であり(例えば、ATCC VR−907、ATCC VR−105など)、Z株が好ましい。
本発明の組成物は、ウイルスベクターの核酸形態で提供される場合、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターが利用される。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)をコードする核酸またはTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)をコードする核酸を導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。これらウイルスベクターでは、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスベクターによる効率よりも遙かに高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
Naked DNA法の場合、上述の非ウイルスベクターである発現プラスミドを生理食塩水などに溶解し、そのまま投与する。例えば、Tsurumi Y,Kearney M,Chen D,Silver M,Takeshita S,Yang J,Symes JF,Isner JM.、Circulation 98(Suppl.II)、382−388(1997)に記載される方法により、生物の器官の組織などに直接注入することができる。
従って、本発明の組成物およびキットにおいて含まれる活性成分としてのポリペプチド(例えば、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)など)の量は、例えば、成人(体重約60kg)の場合、約1μg〜約1000mg、好ましくは約5μg〜約100mgであり得る。このポリペプチドの量の範囲の下限は、例えば、約1μg、約2μg、約3μg、約4μg、約5μg、約6μg、約7μg、約8μg、約9μg、約10μg、約15μg、約20μgなど、約1μg〜約1mgの間の任意の数値であり得る。このポリペプチドの量の範囲の上限は、例えば、約1000mg、約900mg、約800mg、約700mg、約600mg、約500mg、約400mg、約300mg、約200mg、約100mg、約75mg、約50mg、約25mg、約10mg、約5mgなど、約1000mg〜約1mgの任意の数値であり得る。
本発明の活性成分が核酸形態(例えば、活性型TSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)をコードする核酸またはTSLC1の分子経路における任意の因子(例えば、TSLC1、Tiam1、Rac1など)をコードする核酸など)の場合、成人(体重約60kg)の場合、約1μg〜約10mg、好ましくは約1μg〜約1000μg、より好ましくは約5μg〜約400μgであり得る。この核酸の量の範囲の下限は、例えば、約1μg、約2μg、約3μg、約4μg、約5μg、約6μg、約7μg、約8μg、約9μg、約10μg、約15μg、約20μgなど、約1μg〜約20μgの間の任意の数値であり得る。この核酸の量の範囲の上限は、例えば、約10mg、約9mg、約8mg、約7mg、約6mg、約5mg、約4mg、約3mg、約2mg、約1mg、約750μg、約500μg、約250μg、約100μgなど、約10mg〜約10μgの任意の数値であり得る。2種類以上の細胞生理活性物質(SCFなど)が含まれる場合も、上記の量が個々に適用される。ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターとして投与される場合は、通常、0.0001〜100mg、好ましくは0.001〜10mg、より好ましくは0.01〜1mgである。投与頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法を医師、患者など投与を行う人に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の医薬などを心筋梗塞発作直後(例えば、48時間以内、36時間以内、24時間以内、12時間以内、好ましくは6時間以内など)に投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、骨格筋に投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
本明細書において「被験体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植片または移植体を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植片または移植体を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
本明細書において「インビトロ」とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子または因子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
本発明において使用されるポリペプチド、核酸、医薬ならびにそのようなポリペプチドまたは核酸によって調製された組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)、患部への直接投与などが挙げられる。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。本発明の組成物および医薬は、全身投与されるとき、発熱物質を含ない、経口的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能なタンパク質溶液の調製は、pH、等張性、安定性などに相当な注意を払うことを条件として、当業者の技術範囲内である。
本発明において医薬の処方のために使用される溶媒は、水性または非水性のいずれかの性質を有し得る。さらに、そのビヒクルは、処方物の、pH、容量オスモル濃度、粘性、明澄性、色、滅菌性、安定性、等張性、崩壊速度、または臭いを改変または維持するための他の処方物材料を含み得る。同様に、本発明の組成物は、有効成分の放出速度を改変または維持するため、または有効成分の吸収もしくは透過を促進するための他の処方物材料を含み得る。
本発明は、医薬または医薬組成物として処方される場合、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990)と、所望の程度の純度を有する選択された組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で、保存のために調製され得る。
そのような適切な薬学的に受容可能な因子としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または農学的もしくは薬学的アジュバント。代表的には、本発明の医薬は、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸など)を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに組成物の形態で投与され得る。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。そのような受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸);低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、本発明の医薬は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。その溶液のpHはまた、種々のpHにおいて、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸など)の相対的溶解度に基づいて選択されるべきである。
本発明の製剤の処方手順は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などに記載されている。従って、当業者は、本明細書の記載があれば、過度な実験を行うことなく、投与すべきポリペプチド量および細胞量を決定することができる。
1つの実施形態において、本発明の組成物および医薬は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態で投与される場合、活性成分(例えば、核酸またはポリペプチド)は、徐々に放出されるので、長期にわたり薬効が期待される場合に有効である。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
別の実施形態では、本発明では、さらに他の薬剤もまた投与することも企図される。そのような薬剤は、当該分野において公知の任意の医薬であり得、例えば、そのような薬剤は、薬学において公知の任意の薬剤(例えば、抗生物質など)であり得る。当然、そのような薬剤は、2種類以上の他の薬剤であり得る。そのような薬剤としては、例えば、日本薬局方最新版、米国薬局方最新版、他の国の薬局方の最新版において掲載されているものなどが挙げられる。
他の実施形態において、本発明の方法によって調製された細胞は2種類以上の細胞を含み得る。2種類以上の細胞を使用する場合、類似の性質または由来の細胞を使用してもよく、異なる性質または由来の細胞を使用してもよい。
本発明の方法において使用されるポリペプチド、核酸、組成物、医薬および細胞の量は、使用目的、対象物の齢、サイズ、性別、既往歴、ポリペプチド、核酸、組成物、医薬もしくは細胞の形態または種類、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。
本発明の組成物を対象物に対して与える頻度もまた、使用目的、対象物の齢、サイズ、性別、既往歴、および処置経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、一日に1回〜数回、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
本発明が対象とする疾患は、がんである。本明細書において「がん」とは、悪性腫瘍一般をいう。本発明が特に対象とするがんは、固形がん(特に、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部組織肉腫および他の固形がん)などを挙げることができる。従って、本発明が対象とする疾患は、「小細胞肺がん」であり得る。「がん」は、通常、異型性が強く、増殖が正常細胞より速く、周囲組織に破壊性に浸潤し得あるいは転移をおこし得る悪性腫瘍またはそのような悪性腫瘍が存在する状態をいう。本発明においては、がんは固形がんおよび造血器腫瘍を含むがそれらに限定されない。
本明細書において「固形がん」は、固形の形状があるがんをいい、白血病などの造血器腫瘍とは対峙する概念である。そのような固形がんとしては、例えば、乳がん、肝がん、胃がん、肺がん、頭頸部がん、子宮頸部がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、悪性リンパ腫、食道がん、脳腫瘍、骨腫瘍が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「肺がん」とは、肺のがんをいう。肺がんは固形がんの一種である。肺がんは気管、気管支、肺胞の細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えることにより発生する。がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら他の臓器に拡がり、多くの場合、腫瘤(しゅりゅう)を形成する。肺がんになる人は世界的に増加傾向にある。2015年には、我が国での肺がんの1年間の新患者数は男性11万人、女性3万7千人になると予想されている。50歳以上に多く、男女比は約3:1である。1999年の肺がんによる年間死亡者数は約5万2千人であり(がんで亡くなった方は約29万人、うち胃がん約5万人)、1993年からは肺がんは男性のがん死亡率の第1位となり、女性では胃がんに次いで第2位となっている。肺がんの5年生存率(治療開始から5年間生存している割合)は25〜30%といわれている。
肺がんは、小細胞がんと非小細胞がんの2つの型に大きく分類される。非小細胞肺がんは、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、腺扁平上皮がんなどの組織型に分類される。肺がんの発生しやすい部位、進行形式と速度、症状などの臨床像は多彩ですが、これも多くの異なる組織型があるためである。腺がんは、我が国で最も発生頻度が高く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの70%以上を占めている。肺がんの中でも他の組織型に比べ臨床像は多彩で、進行の速いものから進行の遅いものまでいろいろある。次に多い扁平上皮がんは、男性の肺がんの 40%、女性の肺がんの15%を占めている。気管支が肺に入った近くに発生する肺門型と呼ばれるがんの頻度が、腺がんに比べて高くなる。大細胞がんは、一般に増殖が速く、肺がんと診断された時には大きながんであることが多くみられる。
本明細書において、小細胞がんは、顕微鏡で見るとリンパ球に似た比較的小さな細胞からなっており、燕麦(えんばく)のような小型の細胞に見えることより、燕麦細胞がんとも呼ばれている。小細胞がんは肺がんの約15〜20%を占め、増殖が速く、脳・リンパ節・肝臓・副腎・骨などに転移しやすい悪性度の高いがんである。非小細胞肺がんと異なり、抗がん剤や放射線治療が比較的効きやすいタイプのがんであることから、他のがんにおける知見が何ら役に立たないという特殊な性質を有する。約80%以上では、がん細胞が種々のホルモンを産生している。そのため、まれに副腎皮質刺激ホルモンによるクッシング症候群と呼ばれる身体の中心部を主体とした肥満、満月のような丸い顔貌、全身の皮膚の色が黒くなる、血圧が高くなる、血糖値が高くなる、血液中のカリウム値が低くなるなどの症候があらわれることもある。その他、まれに抗利尿ホルモンの産生による水利尿不全にともない、血液中のナトリウム値が低くなり、食欲不振などの消化器症状や神経症状・意識障害が出現することがある。大細胞がんでは、細胞の増殖を増やす因子の産生による白血球増多症や発熱、肝腫大などがあらわれることがあり、その形態ごとに、病態は全く異なるのが特徴である。
肺がんの診断は、通常、気管支鏡検査、穿刺吸引細胞診、CTガイド下肺針生検、胸膜生検、リンパ節生検などによって行われている。一般的には、胎児性タンパクのCEAが検査されるが、小細胞がんでは、がん細胞が神経内分泌系細胞の特徴も有していることから、神経内分泌系細胞のマーカーであるNSEまたはProGRPの検査も行われているが、その決め手にかいている。
病期に分類すると、小細胞肺がんでは、潜伏がん、0、I、II、III、IV期などの分類以外に、限局型、進展型に大別する方法も使われている。限局型で放射線療法と化学療法の合併療法を受けた場合、2年、3年、5年生存率はそれぞれ約50、30、25%といわれている。進展型で化学療法を受けた場合、3年生存率は約10%といわれている(以上、国立がんセンター、ウェブサイトhttp://www.ncc.go.jp/jp/ncc−cis/pub/cancer/010202.htmlより)。
本明細書においてがんまたは細胞の「浸潤」とは、白血球・リンパ球・癌細胞などの遊走細胞が組織内に侵入し,一般に境界の固定されていない病巣を示す病理的現象をいう。特に、新生物の細胞の移動または侵入をいう。
本明細書においてがんの「浸潤性」とは、「浸潤」の性質をいう。本明細書では、代表的に、そのような浸潤の「程度」は、蛍光標識色素カルセインAMなどで染色したがん細胞を、NIH3T3細胞またはヒト由来血管内皮細胞などの基底細胞の単層培養上に重層した場合の、細胞形態の伸展性、並びに接着強度を指標として記載する。NIH3T3細胞は、TSLC1を導入、発現させたものを用いることが有利である。反応がより明確になるからである。より有利には、本明細書では、浸潤性は、基底細胞に接着しているがん細胞の量を、蛍光標識(例えば、カルセインAM)を指標として測定することをより判定される。強い弱いの一般的な分類法としては、例えば、上記重層ののち、細胞の接着が維持されたか剥離したかによって分類する方法を挙げることができるが、それに限定されない。そのような浸潤性の程度としては、ATL細胞およびHTLV−1感染細胞からなる群より選択される細胞と同程度であるとか、ATL細胞およびHTLV−1感染細胞以外のALL細胞と同程度であるなどと記載することもできる。ATL細胞およびHTLV−1感染細胞からなる群より選択される細胞は比較的強い浸潤性を有しているとされており、ATL細胞およびHTLV−1感染細胞以外のALL細胞は比較的弱い浸潤性を有しているとされる。
本明細書において「抗がん剤」とは、がん(腫瘍)細胞の増殖を選択的に抑制し、がんの薬剤および放射線治療の両方を包含する。そのような抗がん剤は当該分野において周知であり、例えば、抗がん剤マニュアル第2版 塚越茂他編 中外医学社;Pharmacology;Lippincott Williams & Wilkins,Inc.に記載されている。
本明細書において「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書においてRNAiはまた、場合によっては、RNAiを引き起こす因子と同義に用いられ得る。
本明細書において「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こすことができるような任意の因子をいう。本明細書において「遺伝子」に対して「RNAiを引き起こす因子」とは、その遺伝子に関するRNAiを引き起こし、RNAiがもたらす効果(例えば、その遺伝子の発現抑制など)が達成されることをいう。そのようなRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNA)であり得る。
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本発明では、siRNAそのものを、RNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本発明では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
本発明においてsiRNAと呼ばれる、約20塩基前後(例えば、代表的には約21〜23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAを用いることができる。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患の治療、予防、予後などに使用することができる。
本発明において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態を採っていてもよい。
別の実施形態において、本発明のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7 RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本発明の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本発明の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本発明の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、インビトロで合成することもできる。この合成系において、T7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本発明の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
本発明のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本発明の処置方法および組成物において有用である。
以下により詳細なRNAiの設計方法の説明を記載する。
本発明において用いられるRNAiとしては、標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる2本鎖ポリヌクレオチドを、細胞、組織、あるいは個体に導入することを特徴とする標的遺伝子の発現阻害方法を用いることができる。ここで、2本鎖ポリヌクレオチドが、自己相補性を有する1本鎖からなるものを用いることができる。あるいは、この2本鎖ポリヌクレオチドは、DNA鎖とRNA鎖のハイブリッドであってもよい。好ましくは、使用されるDNA鎖とRNA鎖のハイブリッドは、センス鎖がDNAで、アンチセンス鎖がRNAであり得る。あるいは、使用される2本鎖ポリヌクレオチドは、DNAとRNAのキメラであってもよい。1つの実施形態では、使用される2本鎖ポリヌクレオチドが、該ポリヌクレオチドのうち、少なくとも上流側の一部はRNAであってもよい。1つの実施形態では、使用されるヌクレオチドの上流側の一部は、9〜13ヌクレオチドからなり得る。
1つの実施形態では、使用される2本鎖ポリヌクレオチドは、19〜25ヌクレオチドからなり、該ポリヌクレオチドのうち、少なくとも上流約1/2がRNAであり得る。
RNAi技術では、標的遺伝子は、複数であってもよい。RNAi技術による標的遺伝子の発現阻害の結果、該細胞、組織、あるいは個体に現れる表現型の変化を解析することにより効果確認を行うことができる。
RNAi技術を用いれば、標的遺伝子の発現の阻害により、細胞、組織、あるいは個体に特定の性質を付与することができる。
RNAi法におけるRNAの機能部位は、以下の工程を包含する方法により同定することができる:(i)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有する2本鎖ポリヌクレオチドであってDNAとRNAのキメラからなるものを作製し、(ii)該2本鎖ポリヌクレオチドを細胞、組織、あるいは個体に導入し、(iii)該細胞、組織、あるいは個体中の標的遺伝子の発現阻害度を測定し、(iv)標的遺伝子の発現阻害にRNAであることが必要とされる配列を特定すること。この方法では、使用される2本鎖ポリヌクレオチドが、その2本鎖のどちらか一方がRNA鎖であってもよい。
本明細書においてRNAi技術で使用される「標的遺伝子」とは、これを導入する細胞、組織、あるいは個体(以下これを「被導入体」と称することがある)にmRNA、および任意にタンパク質を産出するように翻訳され得るものであれば如何なるものであってもよい。具体的には、導入する対象物の内在性のものでも、また外来性のものでもよい。また、染色体上に存在する遺伝子でも、染色体外のものでもよい。外来性のものとしては、例えば、被導入体に感染可能なウィルス、細菌、真菌または原生動物のような病原体由来のもの等が挙げられる。その機能については、既知のものでも、未知のものでもよく、また、他生物の細胞内では機能が既知であるが、被導入体内では機能が未知のもの等でもよい。
これらの遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる二本鎖ポリヌクレオチド(以下、これを「二本鎖ポリヌクレオチド」と称することがある)とは、標的遺伝子の塩基配列のうち、いずれの部分でもよい20ヌクレオチド以上の配列と実質的に同一な配列からなるものである。ここで、実質的に同一とは、標的遺伝子の配列と50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上の相同性を有することを意味する。ヌクレオチドの鎖長は19ヌクレオチドから標的遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の全長までの如何なる長さでもよいが、19〜500ヌクレオチドの鎖長を有するものが好ましく用いられる。ただし、哺乳類動物由来の細胞においては、30ヌクレオチド以上の鎖長を有する二本鎖RNAに反応して活性化するシグナル伝達系の存在が知られている。これはインターフェロン反応と呼ばれており(Mareus,P.I.,et al.,Interferon,5,115−180(1983))、該二本鎖RNAが細胞内に侵入すると、PKR(dsRNA−responsive protein kinase:Bass,B.L.,Nature,411,428−429(2001))を介して多くの遺伝子の翻訳開始が非特異的に阻害され、それと同時に2’、5’oligoadenylate synthetase(Bass,B.L.,Nature,411,428−429(2001))を介してRNaseLの活性化が起こり、細胞内のRNAの非特異的な分解が惹起される。これらの非特異的な反応のために、標的遺伝子の特異的反応が隠蔽されてしまう。従って哺乳類動物、または該動物由来の細胞、あるいは組織を被導入体として用いる場合には19〜25、好ましくは19〜23、さらに好ましくは19〜21ヌクレオチドからなる二本鎖ポリヌクレオチドが用いられる。本発明の二本鎖ポリヌクレオチドは、その全体が2本鎖である必要はなく、5’、または3’末端が一部突出したものも含み、その突出末端は1〜5ヌクレオチド、好ましくは1〜3ヌクレオチド、さらに好ましくは2ヌクレオチドである。また、最も好ましい例としては、各ポリヌクレオチド鎖の3’末端が2ヌクレオチドずつ突出している構造を有するものが挙げられる。二本鎖ポリヌクレオチドは、相補性を有する部分が二本鎖となっているポリヌクレオチドを意味するが、自己相補正を有する1本鎖ポリヌクレオチドが自己アニーリングしたものでもよい。自己相補正を有する1本鎖ポリヌクレオチドとしては、例えば、逆方向反復配列を有するもの等が挙げられる。
さらに、DNAとRNAの混合については、DNA鎖とRNA鎖のハイブリッド型や、DNAとRNAのキメラ型等が用いられる。DNA鎖とRNA鎖のハイブリッドは、それを被導入体に導入した際に、標的遺伝子の発現が阻害される活性を有するものである限り如何なるものであってもよいが、好ましくは、センス鎖がDNAであり、アンチセンス鎖がRNAであるものが用いられる。また、DNAとRNAのキメラ型では、それを被導入体に導入した際に、標的遺伝子の発現が阻害される活性を有するものである限り如何なるものであってもよい。二本鎖ポリヌクレオチドの安定性を高めるためにはDNAをできるだけ多く含むことが好ましいが、本発明のキメラ型二本鎖ポリヌクレオチドのうち、RNAであることが標的遺伝子の発現阻害に必要な配列については、後述する標的遺伝子の発現阻害度の解析を行いながら発現阻害の起こる範囲で適宜決定していくことが望ましい。これにより、RNAi法におけるRNAの機能部位を同定することもできる。このように決定されたキメラ型の好ましい例としては、例えば、二本鎖ポリヌクレオチドの上流側の一部がRNAであるものが挙げられる。ここで、上流側とは、センス鎖の5’側およびアンチセンス鎖の3’側を意味する。上流側の一部とは、上記二本鎖ポリヌクレオチドの上流の末端から9〜13ヌクレオチドの部分が好ましく挙げられる。また、このようなキメラ型二本鎖ポリヌクレオチドとして好ましい例としては、ポリヌクレオチドの鎖長がそれぞれ19〜21ポリヌクレオチドからなり、該ポリヌクレオチドのうち、少なくとも上流側1/2がRNAで、それ以外がDNAである二本鎖ポリヌクレオチドが挙げられる。また、このような二本鎖ポリヌクレオチドのうち、アンチセンス鎖が全てRNAのものは標的遺伝子の発現阻害効果がさらに高い。
二本鎖ポリヌクレオチドの調製方法としては、特に制限はないが、それ自体 既知の化学合成方法を用いることが好ましい。化学合成は、相補性を有する1本鎖ポリヌクレオチドを別個に合成し、これを適当な方法で会合させることにより二本鎖とすることができる。会合の方法として具体的には、例えば、合成した1本鎖ポリヌクレオチドを好ましくは少なくとも約3:7のモル比で、より好ましくは約4:6のモル比で、そして最も好ましくは本質的に同モル量(すなわち約5:5のモル比)で混合し、二本鎖が解離する温度にまで加熱し、その後徐々に冷却する方法等が挙げられる。会合した二本鎖ポリヌクレオチドは、必要に応じてそれ自体公知の通常用いられる方法により精製される。精製方法としては、例えばアガロースゲル等を用いて確認し、任意に残存する1本鎖ポリヌクレオチドを適当な酵素により分解する等して除去する方法を用いることができる。また、自己相補正を有する1本鎖ポリヌクレオチドとして、逆方向反復配列を有するものを調製する場合には、該ポリヌクレオチドを化学合成等の方法で作製した後に上記と同様の方法で自己相補性を有する配列を会合させることにより調製する。
(二本鎖ポリヌクレオチドの細胞、組織、あるいは個体への導入、および標的遺伝子の発現阻害)
このようにして調製した二本鎖ポリヌクレオチドを導入する被導入体としては、標的遺伝子がその細胞内でRNAに転写、またはタンパク質に翻訳され得るものであれば如何なるものであってもよい。具体的には、本発明で用いる被導入体は、細胞、組織、あるいは個体を意味する。本発明に用いられる細胞としては、生殖系列細胞、体性細胞、分化全能細胞、多分化能細胞、分割細胞、非分割細胞、実質組織細胞、上皮細胞、不滅化細胞、または形質転換細胞等何れのものであってもよい。具体的には、例えば、幹細胞のような未分化細胞、器官または組織由来の細胞あるいはその分化細胞等が挙げられる。組織としては、単一細胞胚または構成性細胞、または多重細胞胚、胎児組織等を含む。また、上記分化細胞としては、例えば、脂肪細胞、繊維芽細胞、筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、神経細胞、グリア、血液細胞、巨核球、リンパ球、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞、白血球、顆粒球、ケラチン生成細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、肝細胞および内分泌線または外分泌腺の細胞等が挙げられる。このような細胞の具体例としては、CHO−KI細胞(RIKEN Cell bank)、ショウジョウバエS2細胞(Schneider,I.,et al.,J.Embryol.Exp.Morph.,27,353−365(1972))、ヒトHeLa細胞(ATCC:CCL−2)、あるいはヒトHEK293細胞(ATCC:CRL−1573)等が好ましく用いられる。さらに、本発明で被導入体として用いられる個体として、具体的には、植物、動物、原生動物、ウイルス、細菌、または真菌種に属するもの等が挙げられる。植物は単子葉植物、双子葉植物または裸子植物であってよく、動物は、脊椎動物または無脊椎動物であってよい。本発明の被導入体として好ましい微生物は、農業で、または工業によって使用されるものであり、そして植物または動物に対して病原性のものである。真菌には、カビおよび酵母形態両方での生物体が含まれる。脊椎動物の例には、魚類、ウシ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ハムスター、マウス、ラット、サルおよびヒトを含む哺乳動物が含まれ、無脊椎動物には、線虫類および他の虫類、キイロショウジョウバエ(Drosophila)、および他の昆虫が含まれる。上記培養細胞として、具体的には、例えば、CHO−KI細胞(RIKEN Cell bank)、ショウジョウバエS2細胞(Schneider,I.,et al.,J.Embryol.Exp.Morph.,27,353−365(1972))、ヒトHeLa細胞(ATCC:CCL−2)、あるいはヒトHEK293細胞(ATCC:CRL−1573)等が好ましく用いられる。
被導入体への二本鎖ポリヌクレオチドの導入法としては、被導入体が細胞、あるいは組織の場合は、カルシウムフォスフェート 法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、ウイルス感染、二本鎖ポリヌクレオチド溶液への浸漬、あるいは形質転換法等が用いられる。また、胚に導入する方法としては、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション法、あるいはウィスル感染等が挙げられる。被導入体が植物の場合には、植物体の体腔または間質細胞等への注入または灌流、あるいは噴霧による方法が用いられる。また、動物個体の場合には、経口、局所、(皮下、筋肉内および静脈内投与を含む)非経口、経膣、経直腸、経鼻、経眼、腹膜内投与等によって全身的に導入する方法、あるいはエレクトロポレーション法またはウイルス感染等が用いられる。経口導入のための方法には、二本鎖ポリヌクレオチドを生物の食物と直接混合することができる。さらに、個体に導入する場合には、例えば埋め込み長期放出製剤等として投与することや、二本鎖ポリヌクレオチドを導入した導入体を摂取させることにより行うこともできる。
導入する二本鎖ポリヌクレオチドの量は、導入体や、標的遺伝子によって適宜選択することができるが、細胞あたり少なくとも1コピー導入されるに充分量を導入することが好ましい。具体的には、例えば、被導入体がヒト培養細胞で、カルシウムフォスフェート法により二本鎖ポリヌクレオチドを導入する場合、0.1〜1000nMが好ましい。
ここで、二本鎖ポリヌクレオチドは、2種類以上のものを同時に導入することもできる。この場合、該ポリ ヌクレオチドの導入を受けた細胞、組織、あるいは個体(以下これを「導入体」と称することがある)においては、2種類以上の標的遺伝子の発現阻害が期待さ れる。本発明において、標的遺伝子の発現阻害とは、その発現を完全に阻害することだけでなく、m−RNA、もしくはタンパク質の発現量として20%以上の阻害を意味する。標的遺伝子の発現阻害度は、標的遺伝子のRNAの蓄積、または標的遺伝子によってコードされるタンパク質の産出量を、二本鎖ポリヌクレオチドの導入体と非導入体において比較することにより測定することができる。mRNA量は、それ自体既知の通常用いられる方法により測定することができる。具体的には、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、定量的リバーストランスフェレースPCR、あるいはインサイチュ(in situ)ハイブリダイゼーション等を用いて行うことができる。また、タンパク質の産生量は、標的遺伝子がコードするタンパク質を抗原とする抗体によるウェスタンブロッティング法や、標的遺伝子がコードするタンパク質が有する酵素活性を測定すること等により測定することができる。
(RNAi技術におけるポリヌクレオチドの導入)
(RNAi技術を用いた体内の遺伝子の発現阻害による遺伝子機能解析方法)
本発明の二本鎖ポリヌクレオチドによる導入体内の遺伝子の発現阻害の結果、該導入体に現れる表現型の変化を解析することにより導入した二本鎖ポリヌクレオチドが標的とする遺伝子の機能を同定することができる。
ここで、標的遺伝子はその機能が既知であっても、被導入体内での機能が未知のものであってもよい。該標的遺伝子に対応する二本鎖ポリヌクレオチドは上記のとおり調製され、被導入体に同様にして導入する。導入体でその変化を解析すべき表現型は特に制限はされないが、例えば導入体の形態、導入体内物質量、導入体が分泌する物質量、導入体内物質の動態、導入体間接着、導入体の運動、あるいは導入体の寿命等の生命体行動が挙げられる。標的遺伝子の機能が、他の被導入体において既知の場合には、その機能に連関する表現型について解析することが好ましい。表現型の変化を解析する手段としては、導入体の形態の変化を解析する場合には、顕微鏡、あるいは肉眼的に検出する方法を用いることができる。また、導入体内の物質として、例えばmRNAの場合には、その量の解析方法として、ノーザンハイブリダイゼーション、定量的リバーストランスフェレースPCR、あるいはインサイチュ(in situ)ハイブリダイゼーション等が挙げられる。タンパク質の場合には、その量の解析方法として、標的遺伝子がコードするタンパク質を抗原とする抗体によるウェスタンブロッティング法や、標的遺伝子がコードするタンパク質が有する酵素活性を測定する方法等が挙げられる。このようにして解析した、導入体にのみ現れる表現型の変化は、標的遺伝子の発現阻害の結果生じているものであるので、これを標的遺伝子の機能として同定することができる。
(二本鎖ポリヌクレオチドを用いた標的遺伝子発現阻害により細胞、組織、あるいは個体に特定の性質を付与する方法)
本発明の二本鎖ポリヌクレオチドを用いた標的遺伝子の発現阻害により、細胞、組織、あるいは個体に特定の性質を付与することができる。特定の性質とは、標的遺伝子の発現阻害の結果、該導入体に現れるものをさす。ここでの標的遺伝子としては、その発現の阻害が導入体に与える性質がすでに判明しているものでもよいし、機能、もしくは導入体内での機能が未知のものでもよい。機能が未知の標的遺伝子については、これに対する二本鎖ポリヌクレオチドを導入した後に、該導入体が示す表現型のうち所望のものを選択することにより、該導入体に所望の性質を付与することができる。
被導入体に付与するべき所望の性質として、具体的には、例えば、細胞内生産機能、細胞外分泌を阻害する機能、細胞やDNAに対する障害の修復機能、特定の疾患に対する耐性機能等が挙げられる。具体的には、被導入体が植物個体等の場合、標的遺伝子としては、果実熟成に関連する酵素、植物構造タンパク質、若しくは病原性に関連する遺伝子等が挙げられる。標的遺伝子の発現阻害が、特定の疾患に対する耐性機能を有する場合としては、特定のタンパク質の発現の上昇が特定の疾患の原因となる場合で、標的遺伝子は、上記タンパク質をコードする遺伝子や、上記タンパク質の発現を制御する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子等が挙げられる。具体的例としては、標的遺伝子ががん化/腫瘍化表現型の保持に必要である遺伝子であり、被導入体ががん性細胞、または腫瘍組織等である。
このような標的遺伝子に対する二本鎖ポリヌクレオチドは、標的遺伝子がコードするタンパク質の発現を阻害することから、標的遺伝子が関連する疾患の治療または予防薬として用いることができる。二本鎖ポリヌクレオチドを上記薬剤の有効成分として用いる場合には、該ポリヌクレオチドを単独で用いることも可能であるが、薬学的に許容され得る担体と配合して医薬品組成物として用いることもできる。この時の有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。また、かかる薬剤は種々の形態で投与することができ、それらの投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、あるいはシロップ剤等による経口投与、または注射剤、点滴剤、リポソーム剤、坐薬剤等による非経口投与を挙げることができる。また、その投与量は、症状、年齢、体重等によって適宜選択することができる。
このような遺伝子を標的とする二本鎖ポリヌクレオチドが導入された導入体は、その遺伝子発現阻害に付随すると予測される表現型によって選択される。また、導入する二本鎖ヌクレオチドにおいて、特定の遺伝標識、例えば蛍光タンパク質等をコードする配列を連結しておけば、被導入体に該二本鎖ポリヌクレオチドと共に導入した蛍光タンパク質の発現阻害度に基づいて選択することも可能である。このうち、例えばガン抑制に機能する遺伝子を標的遺伝子とした場合、選択されるべき細胞の形質としては、増殖能の亢進の程度、細胞接着能の低下、あるいは運動(転移)能の亢進等、悪性腫瘍の形質等が挙げられる。また、生体リズムを調製する遺伝子を標的遺伝子とした場合、選択されるべき細胞の形質としては、細胞固有の慨日リズムの消失等が挙げられる。さらには、環境変異原によるDNA損傷の修復等に関与する遺伝子を標的遺伝子とした場合、選択されるべき細胞の形質としては、変異原に対して感受性を示すこと等が挙げられる。
選択された導入体は、それぞれに適したそれ自体既知のクローン化技術により系として樹立、取得することができる。具体的には、被導入体が細胞である場合に は、導入体は通常の培養細胞における細胞株樹立法である、限界希釈法、薬剤耐性マーカーによる方法等により細胞株として樹立、取得することができる。本発明で取得された特定の機能を付与された導入体は、有用物質の産生あるいは分泌効率が上昇した細胞株、細胞あるいはDNA等に対する障害を与える環境要因に対して高感受性を示す細胞株、疾病に付随する形質を示し、疾病治療のモデルとして使用することができる。
このうち、疾病治療のモデルとなる細胞株の取得方法を、本発明のさらなる具体的な適用例として説明する。標的遺伝子としては、その発現量の低下、または欠如が疾病の原因となる遺伝子が挙げられる。具体的には、小細胞肺がんにおけるTSLC1の分子経路の因子(TSLC1、Rac1、Tiam1など)遺伝子等が挙げられる。
これらのヒト遺伝子等の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる二本鎖ポリヌクレオチドを、例えばヒト由来の培養細胞に導入することにより、ヒト型の疾病モデル細胞を取得することができる。さらにこの特定の性質を付与された細胞、組織、あるいは個体に被検物質を接触させて、その遺伝子が関与する疾病の症状、あるいは形質に変化が現れるか否かを解析することによれば、上記疾病の治療剤、および/または予防剤のスクリーニングを行うことも可能である。
このようなスクリーニングにより選択された物質を上記薬剤の有効成分として用いる場合には、該物質を単独で用いることも可能であるが、薬学的に許容され得る担体と配合して医薬品組成物として用いることもできる。この時の有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。また、かかる薬剤は種々の形態で投与することができ、それらの投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、あるいはシロップ剤等による経口投与、または注射剤、点滴剤、リポソーム剤、坐薬剤等による非経口投与を挙げることができる。また、その投与量は、症状、年齢、体重等によって適宜選択することができる。
(指標遺伝子の発現阻害度を指標とした一次選択を用いる方法)
本明細書において上記したRNAi技術は、被導入体に標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAとからなる二本鎖ポリヌクレオチドを導入する方法である。この方法では、さらに(a)指標タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクター、(b)該指標タンパク質をコードする塩基配列の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる二本鎖ポリヌクレオチドを導入し、該指標タンパク質から発せられる信号量を指標として導入体を一次スクリーニングすることにより、導入体内での遺伝子の発現阻害がかかった導入体のみを解析することができ、効率的な解析を行うことができる。
RNAi技術のさらに具体的な例として、被導入体を脊椎動物由来の培養細胞とし、指標タンパク質を蛍光タンパク質とした場合を説明する。脊椎動物由来の培養細胞に蛍光タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターを導入して培養し、該指標タンパク質から発せられる蛍光量が、特定の強さ以上の細胞を選択する。ここで選択された細胞に、さらに指標タンパク質をコードするDNAの少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAとからなる二本鎖ポリヌクレオチドを導入して培養して、指標遺伝子の発現の阻害度を、該指標タンパク質から発せられる蛍光量の減弱度により解析することができる。
このような一次スクリーニングは、いずれも被導入体への二本鎖ポリヌクレオチドの導入が行われたことや、該導入体内で標的遺伝子の発現阻害が起こっていることを確認するものであるので、指標タンパク質は、そのタンパク質量とそれが発する信号量とが相関するものである必要がある。このようなタンパク質の具体例としては、ルシフェラーゼタンパク質が挙げられる。
さらには、標的遺伝子発現の阻害度を測定する場合に、指標タンパク質の発現量を基準として、標的遺伝子がコードするタンパク質量を算出することもできる。
(RNAi技術に用いられるキット)
本明細書において記載したRNAi技術実施するためのキットとしては、二本鎖ポリヌクレオチド、指標タンパク質をコードするDNAを含むベクター、指標遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一の配列を有するDNAとRNAからなる二本鎖ポリヌクレオチド、酵素、バッファー等の試薬類、ポリヌクレオチオド導入のための試薬類等が含まれる。本発明のキットは、これら全ての試薬類等を含む必要はなく、上記した本発明の方法に用いられるキットであればいかなる試薬類等の組み合わせであってもよい。
RNAi技術を用いた場合に、RNAi効果の発現が弱い細胞であっても、特にRNAi効果の高く発現している細胞を一次スクリーニングして、より強いものを利用すればよい。
上述のような例示のDNAとRNAとからなるポリヌクレオチド、具体的にはDNA鎖とRNA鎖からなるハイブリッドポリヌクレオチド、またはDNA−RNAキメラポリヌクレオチドを用いることによって導入するポリヌクレオチドの物質としての安定性を高め、製造費用を低減することが可能である。このことから、RNAi技術を用いて、導入するポリヌクレオチド自体を、がん治療を目的とした製剤として開発することができる。また、DNAはRNAと比較して蛍光標識、ビオチン標識、アミン化、リン酸化、チオール化等の修飾をより多種にわたり容易に行うことができる。従って、医薬品あるいは試薬として使用する場合に、このような化学的修飾を行うことによって目的に応じた機能を付加することができる。
(好ましい実施形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
1つの局面において、本発明は、がんの転移および/または浸潤の調節方法であって、A)TSLC1の分子経路を調節する工程を包含する、方法を提供する。この方法では、好ましくは、調節は、TSLC1を抑制することを包含する。TSLC1の分子経路における因子は、TSLC1、Tiam1および低分子量Gタンパク質Rac1、プロテイン4.1B,プロテイン4.1N、MPP3、プロテインPals2、プロテインCASKを含み得る。本発明の転移・浸潤の調節方法では、TSLC1の過剰発現を調節することを包含し得る。理論に束縛されることを望まないが、TSLC1の過剰発現により、転移・浸潤が亢進し得ることが明らかになったからである。
1つの実施形態において、本発明の転移・浸潤の調節方法では、TSLC1の分子経路の調節は、TSLC1の分子経路における因子を調節する調節因子により達成される。このような調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子などであってもよい。
1つの実施形態では、TSLC1の分子経路は、TSLC1の分子経路における因子の過剰発現をRNAiにより抑制され得る。あるいは、別の実施形態では、TSLC1の分子経路は、TSLC1の分子経路における因子の過剰発現を抗体により抑制され得る。他の実施形態では、TSLC1の分子経路は、TSLC1の分子経路における因子の優性欠失改変により抑制され得る。
本発明のがんの転移および/または浸潤の調節方法では、がんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部組織肉腫などの他の固形がん等であり得る。これらのがんは、白血病とは違い、転移・浸潤については、白血病の知見からは予測不可能である。
1つの実施形態では、本発明において実施されるTSLC1の分子経路の調節は、Rac1の活性化の抑制であってもよい。理論に束縛されることを望まないが、本発明では、がんにおいてRac1が予想外に活性化していることを見出したことから、Rac1の活性化ががんの指標であることをみいだすとともに、これを抑制することによって、がんの浸潤および/または転移を抑制することができるとともに、がんの処置または予防を行うことができることを見出した。
1つの実施形態では、本発明において対象となるTSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、TSLC1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましく、いわゆるTSLC1のRNAiであってもよい。TSLC1のRNAiは、その遺伝子情報に基づいて、上記される詳細な設計方法によって作製することができる。好ましくは、TSLC1のRNAiは、配列番号7および配列番号8(それぞれ、センス配列、アンチセンス配列)に示す配列を有し得る。
1つの実施形態では、本発明において対象となるTiam1は、配列番号3に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号4に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、Tiam1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましく、いわゆるTiam1のRNAiであってもよい。Tiam1のRNAiは、その遺伝子情報に基づいて、上記される詳細な設計方法によって作製することができる。好ましくは、Tiam1のRNAiは、配列番号9および配列番号10に示す配列(それぞれ、センス配列、アンチセンス配列)に示す配列を有し得る。
1つの実施形態では、本発明において対象となるRac1は、配列番号5に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号6に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、Rac1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましく、いわゆるRac1のRNAiであってもよい。Rac1のRNAiは、その遺伝子情報に基づいて、上記される詳細な設計方法によって作製することができる。好ましくは、Rac1のRNAiは、配列番号5に示す配列に基づいて設計され得る。
別の実施形態では、本発明において、TSLC1の分子経路における因子の優性欠失改変は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される少なくとも1つの因子の優性欠失の改変を含んでいてもよい。ここで、より好ましくは、優性欠失改変は、Rac1の配列(配列番号5)に基づいて設計された配列を使用することによって達成される。
別の局面において、本発明は、がんの転移および/または浸潤の調節システムであって、TSLC1の分子経路を調節する手段を備える、システムを提供する。このような調節システムにおいて使用される調節手段は、本発明において説明される任意の調節手段が使用されることが理解される。
他の局面において、本発明は、がんの転移および/または浸潤の調節組成物であって、TSLC1の分子経路を調節する調節因子を含む、組成物を提供する。このような調節組成物において使用される調節因子は、本発明において説明される任意の調節因子が使用されることが理解される。
1つの実施形態では、上記調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよい。
具体的な実施形態では、本発明の組成物において含有される調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子を調節する調節因子を含み得る。ここで、より具体的には、使用され得る調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子のRNAiであり得る。RNAiの具体的な設計方法は、本明細書において詳述されたとおりであり得る。
別の具体的な実施形態では、含有され得る調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子に対する抗体であり得る。
他の具体的な実施形態では、含有され得る調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子の優性欠失変異体またはその誘導因子であり得る。
本発明の組成物が対象とするがんは、小細胞肺がんであり得る。
(がんの転移および/または浸潤の調節因子のスクリーニング)
別の局面において、本発明は、がんの転移および/または浸潤の調節因子をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、A)候補物質を提供する工程、B)該候補物質をTSCL1の分子経路のアッセイ系に供する工程;C)該候補物質の内、TSLC1の分子経路を調節する因子を同定し、該調節する因子を、がんの転移および/または浸潤の調節因子であると決定する工程を包含する。ここで、対象となるがんは、小細胞肺がんであり得る。1つの実施形態では、小細胞肺がんでは、TSCL1の分子経路の因子は、TSCL1、Tiam1およびRac1であってもよい。
1つの実施形態では、本発明において使用される候補物質は、どのような物質であってもよいが、例えば、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であり得る。ここで、TSCL1の分子経路を調節する因子の同定は、その分子経路中の因子の活性化または不活化、あるいは、発現量の増減、リン酸化量の増減、分子量の増減などを観察することによって行うことができる。ここでは、例えば、TSCL1の分子経路の因子の優性欠失改変体を用いてもよい。
より好ましい局面では、本発明のがんの転移および/または浸潤の調節因子をスクリーニングする方法は、A)候補物質を提供する工程、B)該候補物質をTSCL1の分子経路のアッセイ系に供する工程;C)該候補物質の内、TSLC1の分子経路を調節する因子を同定し、該調節する因子を、がんの転移および/または浸潤の調節因子の候補であると決定する工程;D)さらに、該調節因子の候補を、がんの転移および/または浸潤のアッセイ系に供する工程;E)該調節因子の候補の内、がんの転移および/または浸潤を調節する因子を選択する工程を包含してもよい。
別の局面において、本発明は、TSCL1の分子経路の因子の優性欠失改変体を提供する。ここで、本発明の改変体は、ゲノム、細胞、組織、臓器または個体の全部または一部であってもよい。好ましくは、個体であり得、この場合は、例えば、本発明のがんの転移および/または浸潤のための、モデル動物として薬物のスクリーニングに使用することができる。
別の局面では、本発明は、本発明のスクリーニング方法によって、同定されたがんの転移および/または浸潤の調節因子を提供する。この調節分子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよく、このような分子は、周知のコンビナトリアルケミストリー技術を用いて製造することができる。
(がん診断)
別の局面において、本発明は、がんの診断方法であって、TSLC1の分子経路の因子のレベルを測定する工程を包含する、方法を提供する。ここで、対象となるTSLC1の分子経路の因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1であってもよい。ここで、因子のレベルは、その因子に対する特異的因子によって測定され得る。ここで、特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよい。ここで、この特異的因子は、標識されまたは標識され得る。例えば、そのように標識がされている場合、本発明の因子によって測定することができる種々の状態を直接および/または容易に測定することができる。そのような標識は、識別可能に標識される限り、どのような標識でもよく、例えば、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応などの技法が挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、その因子が抗体などの免疫反応を利用して相互作用する場合、ビオチン−ストレプトアビジンのような免疫反応においてよく利用される系を用いてもよい。
1つの具体的な実施形態では、使用される特異的因子は、配列番号5に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子であり得る。ここで、この特異的因子は、配列番号6に示す配列のポリペプチドに対する抗体であり得る。
1つの実施形態では、本発明において対象となるがんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部組織肉腫などの固形がんであり得、好ましくは、小細胞肺がんであり得る。小細胞肺がんについては、TSLC1の分子経路との関連について、これまで何ら解析が行われておらず、従って、TSLC1の分子経路の因子が小細胞肺がんの診断に使用できるとは予測されていなかったことから、本発明は予想外の診断を可能にしたという意味で重要である。
好ましい実施形態では、本発明が対象とするTSLC1の分子経路の因子はRac1であり、ここで、Rac1の活性化の抑制は、がんの指標である。
本発明では、TSLC1の分子経路の因子のレベルの測定は、細胞または血清におけるRac1遺伝子の転写産物またはRac1タンパク質の有無を検出することによって達成され得る。
1つの実施形態では、上記検出は、配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含む試薬を用いて行われ得る。このようなプライマーは、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。
別の実施形態では、上記検出は、配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含む試薬を用いて行われ得る。このようなプローブは、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。
別の実施形態では、上記検出は、配列番号6に示す配列のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含む試薬を用いて行われ得る。このような抗体は、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。
特定の実施形態では、本発明の方法における検出は、活性化型Rac1を特異的に認識する抗体または他の認識手段を含む試薬を用いて行われ得る。
(がんの診断薬)
別の局面において、本発明は、がんの診断薬であって、TSLC1の分子経路の因子のレベルを測定する手段を備える、診断薬を提供する。本発明のがんの診断薬では、TSLC1の分子経路の因子は、TSLC1、Tiam1、Rac1などであり得る。
1つの実施形態では、本発明において使用されるTSLC1の分子経路の因子のレベルを測定する手段は、TSLC1の分子経路の因子の特異的因子であり得る。このような特異的因子は、いったんTSLC1の分子経路の因子が特定されたならば、本明細書の記載に従って、適宜設計可能であることが理解される。具体的には、このような特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子、それらの複合分子などであり得る。ここで、この特異的因子は、標識されまたは標識され得る。例えば、そのように標識がされている場合、本発明の因子によって測定することができる種々の状態を直接および/または容易に測定することができる。そのような標識は、識別可能に標識される限り、どのような標識でもよく、例えば、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応などの技法が挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、その因子が抗体などの免疫反応を利用して相互作用する場合、ビオチン−ストレプトアビジンのような免疫反応においてよく利用される系を用いてもよい。このような場合、標識を検出するための検出手段もまた、本発明において利用され得、キット、システムとして構成される場合は、検出手段もまた、その構成要件であり得る。
具体的な実施形態では、本発明の診断薬において使用される特異的因子は、配列番号5に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子であり得る。ここで、この特異的因子は、配列番号6に示す配列のポリペプチドに対する抗体であり得る。
1つの実施形態では、本発明の診断薬において対象となるがんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部組織肉腫および他の固形がんであり得、好ましくは、小細胞肺がんであり得る。小細胞肺がんについては、TSLC1の分子経路との関連について、これまで何ら解析が行われておらず、従って、TSLC1の分子経路の因子が小細胞肺がんの診断に使用できるとは予測されていなかったことから、予想外の顕著な効果を本発明の診断薬は達成し得る。
好ましい実施形態では、本発明が対象とするTSLC1の分子経路の因子はRac1であり、ここで、Rac1の活性化の抑制は、がんの指標である。
本発明では、TSLC1の分子経路の因子のレベルの測定は、細胞または血清におけるRac1遺伝子の転写産物またはRac1タンパク質の有無を検出することによって達成され得る。
1つの実施形態では、本発明の診断薬は、配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含み得る。このようなプライマーは、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。プライマーによる増幅の検出は、予測される産物のサイズを確認することによって行うことができる。
別の実施形態では、本発明の診断薬は、配列番号5に示す配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含み得る。このようなプローブは、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。プローブによる検出は、対象のサイズまたは標識を利用することによって行うことができる。
別の実施形態では、本発明の診断薬は、配列番号6に示す配列のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含み得る。このような抗体は、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。ここで、本発明において使用される抗体は、配列番号6に示す配列のポリペプチドのみを検出する能力を必要とするのではない。むしろ、何らかの方法で、配列番号6に示す配列のポリペプチドを検出することができ、擬陽性が減じられるかぎり、どのような特異性の抗体を用いても良いことが理解される。従って、本発明において用いられる抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。
特定の実施形態では、本発明の診断薬は、活性化型Rac1を特異的に認識する抗体を含み得る。このような抗体は、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。
(がんの浸潤の診断)
1つの局面において、本発明は、がん細胞の浸潤性の程度を識別するための方法であって、そのがん細胞のTiam1の全長型およびTiam1の短縮型の発現のレベルを測定する工程を包含する、方法を提供する。従来、「浸潤性」は、実際にがん細胞を別の細胞と共培養することによってのみ測定されてきた。具体的には、がん細胞を蛍光標識色素カルセインAMなどで染色し、NIH3T3細胞やヒト由来血管内皮細胞の単層培養上に重層すると、浸潤性のがん細胞では細胞形態が伸展し接着するのに対し、非浸潤性のがん細胞では、細胞の伸展が認められず、また接着の程度が弱いことから、これを洗浄したのち、NIH3T3細胞に接着しているがん細胞の量をカルセインの蛍光標識を指標として測定する。この方法で、ATL細胞とT-ALL細胞を識別することができる。さらにNIH3T3細胞に全長TSLC1cDNAを導入、発現して同様の実験を行なうことにより、識別能をより高めることができる。
従って、ここで、がん細胞の浸潤性の程度は、蛍光標識色素カルセインAMなどで染色したがん細胞を、NIH3T3細胞(好ましくは、TSLC1を導入、発現させたNIH3T3細胞)またはヒト由来血管内皮細胞の単層培養上に重層した場合の、細胞形態の伸展性、並びに接着強度を指標として記載され、このような指標を用いることにより評価され得る。ここで、因子のレベルは、その因子に対する特異的因子によって測定され得る。ここで、特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよい。ここで、この特異的因子は、標識されまたは標識され得る。例えば、そのように標識がされている場合、本発明の因子によって測定することができる種々の状態を直接および/または容易に測定することができる。そのような標識は、識別可能に標識される限り、どのような標識でもよく、例えば、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応などの技法が挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、その因子が抗体などの免疫反応を利用して相互作用する場合、ビオチン−ストレプトアビジンのような免疫反応においてよく利用される系を用いてもよい。
1つの具体的な実施形態では、使用される特異的因子は、配列番号3に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子であり得る。ここで、この特異的因子は、配列番号4に示す配列のポリペプチドに対する抗体であり得る。配列番号3および4は、Tiam1の全長型に対応する。全長型は、浸潤性の弱い細胞に多く発現するようであることが本発明において見出された。
配列番号23および24は、Tiam1のイントロン13を一部含むエクソン14−29に対応するバリアントに対応する。この短縮型は、浸潤性の強い細胞において多く発現するようであることが本発明において見出された。
1つの実施形態では、本発明において対象となるがんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部組織肉腫などの固形がんであり得、好ましくは、小細胞肺がんであり得る。がん細胞の浸潤性の程度については、TSLC1の分子経路との関連について、これまで何ら解析が行われておらず、従って、TSLC1の分子経路の因子ががん細胞の浸潤性の程度の診断に使用できるとは予測されていなかったことから、本発明は予想外の診断を可能にしたという意味で重要である。
本発明では、Tiam1の全長型または短縮型のレベルの測定は、細胞または血清におけるTiam1の全長型または短縮型の遺伝子の転写産物またはTiam1タンパク質の全長型または短縮型のの有無を検出することによって達成され得る。
特定の実施形態では、測定は、配列番号3と配列番号23とを識別することができる因子(例えば、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される)を用いて行われる。
特定の実施形態では、測定は、配列番号4と配列番号24とを識別することができる因子(例えば、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される)を用いて行われる。
1つの実施形態では、上記検出は、配列番号3または23に示す配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含む試薬を用いて行われ得る。このようなプライマーは、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。配列番号3と配列番号23とを識別するためのプライマーとしては、例えば、配列番号23のイントロン13の部分に対応する配列を少なくとも一部含むものを挙げることができるが、それに限定されない。そのようなプライマーの一例としては、例えば、配列番号21、配列番号25および配列番号28、ならびに配列番号22、配列番号26および配列番号29に、それぞれフォワードおよびリバースとして示される配列を挙げることができるがそれらに限定されない。
別の実施形態では、上記検出は、配列番号3または23に示す配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含む試薬を用いて行われ得る。そのようなプローブの一例としては、例えば、配列番号23、配列番号27および配列番号30に示す配列を含む核酸分子等を挙げることができる。このようなプローブは、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。
別の実施形態では、上記検出は、配列番号4または24に示す配列のポリペプチドあるいはその特異的断片(すなわち、配列番号4または24のいずれか一方にのみ存在する部分を有する断片)を特異的に認識する抗体を含む試薬を用いて行われ得る。このような抗体は、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。
特定の実施形態では、本発明の方法における検出は、Tiam1の短縮型(好ましくはエクソン14−29に対応する型)を特異的に認識する抗体または他の認識手段を含む試薬を用いて行われ得る。この測定は、細胞または血清におけるTiam1タンパク質の全長型およびTiam1の短縮型の有無を検出することを含み得る。
特定の実施形態では、浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞からなる群より選択される細胞と同程度と、それより弱い浸潤性を有する細胞とを識別することを含む。好ましくは、浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞以外のALL細胞と同程度と、それより強い浸潤性を有する細胞とを識別することを含む。あるいは、浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞からなる群より選択される細胞と同程度の浸潤性と、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞以外のALL細胞と同程度の浸潤性とを識別することを含む。
(がんの浸潤の診断薬)
別の局面において、本発明は、がん細胞の浸潤性の程度を識別するためのシステムであって、Tiam1の全長型およびTiam1の短縮型の発現のレベルを測定する手段を包含する、システムを提供する。
1つの実施形態では、本発明において使用されるTiam1の全長型および/またはTiam1の短縮型の発現のレベルを測定する手段は、Tiam1の全長型および/またはTiam1の短縮型の特異的因子であり得る。このような特異的因子は、いったんTiam1の全長型および/またはTiam1の短縮型が特定されたならば、本明細書の記載に従って、適宜設計可能であることが理解される。具体的には、このような特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子、それらの複合分子などであり得る。ここで、この特異的因子は、標識されまたは標識され得る。例えば、そのように標識がされている場合、本発明の因子によって測定することができる種々の状態を直接および/または容易に測定することができる。そのような標識は、識別可能に標識される限り、どのような標識でもよく、例えば、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応などの技法が挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、その因子が抗体などの免疫反応を利用して相互作用する場合、ビオチン−ストレプトアビジンのような免疫反応においてよく利用される系を用いてもよい。このような場合、標識を検出するための検出手段もまた、本発明において利用され得、キット、システムとして構成される場合は、検出手段もまた、その構成要件であり得る。
具体的な実施形態では、本発明の診断薬において使用される特異的因子は、配列番号3または23に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子であり得る。ここで、この特異的因子は、配列番号4または24に示す配列のポリペプチドに対する抗体であり得る。
配列番号3と配列番号23とを識別するためのプライマーとしては、例えば、配列番号23のイントロン13の部分に対応する配列を少なくとも一部含むものを挙げることができるが、それに限定されない。そのようなプライマーの一例としては、例えば、配列番号21、配列番号25および配列番号28、ならびに配列番号22、配列番号26および配列番号29に、それぞれフォワードおよびリバースとして示される配列を挙げることができるがそれらに限定されない。
別の実施形態では、配列番号3または23に示す配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブの一例としては、例えば、配列番号23、配列番号27および配列番号30に示す配列を含む核酸分子等を挙げることができる。このようなプローブは、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。
したがって、これらの特異的なプライマーまたはプライマーセット、およびプローブ等は、本発明において初めて提供されたものであり、1つの局面において、それら自体も本発明の範囲内にあり、本発明は、それら特異的プライマーおよびプローブを提供することにも留意すべきである。
1つの実施形態では、本発明のシステムが対象とするがんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部組織肉腫などの固形がんであり得、好ましくは、小細胞肺がんであり得る。がん細胞の浸潤性の程度については、TSLC1の分子経路との関連について、これまで何ら解析が行われておらず、従って、TSLC1の分子経路の因子ががん細胞の浸潤性の程度の診断に使用できるとは予測されていなかったことから、本発明は予想外の診断を可能にしたという意味で重要である。
本発明では、Tiam1の全長型または短縮型のレベルの測定は、細胞または血清におけるTiam1の全長型または短縮型の遺伝子の転写産物またはTiam1タンパク質の全長型または短縮型のの有無を検出することによって達成され得る。
特定の実施形態では、測定は、配列番号3と配列番号23とを識別することができる因子(例えば、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される)を用いて行われる。
特定の実施形態では、測定は、配列番号4と配列番号24とを識別することができる因子(例えば、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される)を用いて行われる。
1つの実施形態では、上記検出は、配列番号3または23に示す配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含む試薬を用いて行われ得る。このようなプライマーは、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。
別の実施形態では、上記検出は、配列番号3または23に示す配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含む試薬を用いて行われ得る。このようなプローブは、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。
別の実施形態では、上記検出は、配列番号4または24に示す配列のポリペプチドを特異的に認識する抗体を含む試薬を用いて行われ得る。このような抗体は、本明細書において別の場所に記載される任意の方法によって調製することができる。
特定の実施形態では、本発明の方法における検出は、Tiam1の短縮型(好ましくはエクソン13−29に対応する型)を特異的に認識する抗体または他の認識手段を含む試薬を用いて行われ得る。
前記測定は、細胞または血清におけるTiam1タンパク質の全長型およびTiam1の短縮型の有無を検出することを含む。
特定の実施形態では、浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞からなる群より選択される細胞と同程度と、それより弱い浸潤性を有する細胞とを識別することを含む。好ましくは、浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞以外のALL細胞と同程度と、それより強い浸潤性を有する細胞とを識別することを含む。あるいは、浸潤の程度の識別は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞からなる群より選択される細胞と同程度の浸潤性と、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞以外のALL細胞と同程度の浸潤性とを識別することを含む。
1つの局面において、本発明はまた、浸潤性の強いがん細胞の識別するための組成物であって、該組成物は、Tiam1の短縮型を認識する因子を含む、組成物を提供する。ここで、好ましくは、浸潤性の強いがん細胞は、ATL細胞およびHTLV-1感染細胞からなる群より選択される。また、短いTiam1は、少なくとも配列番号23という配列もしくはその改変体、またはその相補体を有していてもよい
別の局面において、本発明は、エクソン13−29に対応するTiam1の短縮型を提供する。このTiam1バリアントは、好ましくは、少なくとも配列番号23という配列もしくはその改変体、またはその相補体を有するがこれに限定されない。
あるいは、本発明は、エクソン13−29に対応するTiam1の短縮型を認識する能力を有する因子を提供する。ここで、Tiam1バリアントは、少なくとも配列番号23という配列もしくはその改変体、またはその相補体を有していてもよい。
別の局面において、本発明は、エクソン13−29に対応するTiam1の短縮型とTiamの全長型とを識別する能力を有する因子を提供する。ここで、Tiam1バリアントは、少なくとも配列番号23という配列もしくはその改変体、またはその相補体を有していてもよい。
(がんの処置または予防)
別の局面において、本発明は、がん(特に、小細胞肺がん)の処置または予防の方法であって、TSLC1の分子経路の因子のレベルを調節する工程を包含する、方法を提供する。この方法では、好ましくは、調節は、TSLC1を抑制することを包含する。TSLC1の分子経路における因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1、プロテイン4.1B,プロテイン4.1N、MPP3、プロテインPals2、プロテインCASKを含み得る。本発明のがんの処置または予防の方法では、TSLC1の分子経路が特に、小細胞肺がんおよびそれに関連するがんにおいて重要な役割を果たすことが示されており、そのようながんの処置および予防に使用できることが予想外に見出されたことから、本発明は、予想外に顕著な効果を奏するといえる。
1つの実施形態において、本発明のがんの処置または予防の方法では、TSLC1の分子経路の調節は、TSLC1の分子経路における因子を調節する調節因子により達成される。このような調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子などであってもよい。
1つの実施形態では、TSLC1の分子経路は、TSLC1の分子経路における因子の過剰発現をRNAiにより抑制され得る。あるいは、別の実施形態では、TSLC1の分子経路は、TSLC1の分子経路における因子の過剰発現を抗体により抑制され得る。他の実施形態では、TSLC1の分子経路は、TSLC1の分子経路における因子の優性欠失改変により抑制され得る。
1つの実施形態において、本発明のがんの処置または予防の方法では、がんは、小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部組織肉腫などの他の固形がん等であり得る。
1つの実施形態において、本発明のがんの処置または予防の方法では、本発明において実施されるTSLC1の分子経路の調節は、Rac1の活性化の抑制であってもよい。理論に束縛されることを望まないが、本発明では、がんにおいてRac1が予想外に活性化していることを見出したことから、Rac1の活性化ががんの指標であることをみいだしたからである。ここで、本発明では、Rac1は浸潤および転移にも関与しているようであることが見出されたことから、がんの処置または予防とともに、転移・浸潤の予防も行うことができるという二重の効果を奏することが理解され得る。
1つの実施形態では、本発明のがんの処置または予防の方法では、本発明において対象となるTSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、TSLC1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましく、いわゆるTSLC1のRNAiであってもよい。TSLC1のRNAiは、その遺伝子情報に基づいて、上記される詳細な設計方法によって作製することができる。好ましくは、TSLC1のRNAiは、配列番号7および配列番号8に示す配列(それぞれ、センス配列、アンチセンス配列)を有し得る。
1つの実施形態では、本発明のがんの処置または予防の方法では、本発明において対象となるTiam1は、配列番号3に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号4に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、Tiam1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましく、いわゆるTiam1のRNAiであってもよい。Tiam1のRNAiは、その遺伝子情報に基づいて、上記される詳細な設計方法によって作製することができる。好ましくは、Tiam1のRNAiは、配列番号9および配列番号10に示す配列(それぞれ、センス配列、アンチセンス配列)を有し得る。
1つの実施形態では、本発明のがんの処置または予防の方法では、本発明において対象となるRac1は、配列番号5に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号6に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、Rac1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましく、いわゆるRac1のRNAiであってもよい。Rac1のRNAiは、その遺伝子情報に基づいて、上記される詳細な設計方法によって作製することができる。好ましくは、Rac1のRNAiは、配列番号5に示す核酸配列に基づいて設計される配列を有する。
別の実施形態では、本発明のがんの処置または予防の方法では、TSLC1の分子経路における因子の優性欠失改変は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される少なくとも1つの因子の優性欠失の改変、およびそれを実現する遺伝子治療を含んでいてもよい。ここで、より好ましくは、優性欠失改変は、Rac1において配列番号12(核酸配列)、配列番号13(アミノ酸配列)という配列を使用することによって達成され得る。
別の局面では、本発明は、がんの処置または予防のシステムであって、TSLC1の分子経路の因子のレベルを調節する手段を備える、システムを提供する。ここでは、TSLC1の分子経路の因子のレベルを調節する手段としては、本明細書において説明される任意の手段を利用することができることが理解される。
他の局面では、本発明は、がんの処置または予防のための組成物であって、TSLC1の分子経路の因子のレベルを調節する調節因子を含む、組成物を提供する。このような調節組成物において使用される調節因子は、本発明において説明される任意の調節因子が使用されることが理解される。
1つの実施形態では、上記調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよい。
具体的な実施形態では、本発明の組成物において含有される調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子を調節する調節因子を含み得る。ここで、より具体的には、使用され得る調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子のRNAiであり得る。RNAiの具体的な設計方法は、本明細書において詳述されたとおりであり得る。
別の具体的な実施形態では、含有され得る調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子に対する抗体であり得る。
他の具体的な実施形態では、含有され得る調節因子は、TSLC1、Tiam1およびRac1からなる群より選択される因子の優性欠失変異体またはその誘導因子であり得る。
本発明の組成物が対象とするがんは、小細胞肺がんであり得る。
(がんの処置または予防のための因子のスクリーニング)
別の局面において、本発明は、がんの処置または予防のための因子をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、A)候補物質を提供する工程、B)該候補物質をTSCL1の分子経路のアッセイ系に供する工程;C)該候補物質の内、TSLC1の分子経路を調節する因子を同定し、該調節する因子を、がんの処置または予防のための因子であると決定する工程
を包含し得る。ここで、対象となるがんは、小細胞肺がんであり得る。1つの実施形態では、小細胞肺がんでは、TSCL1の分子経路の因子は、TSCL1、Tiam1およびRac1であってもよい。
1つの実施形態では、本発明において使用される候補物質は、どのような物質であってもよいが、例えば、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であり得る。ここで、TSCL1の分子経路を調節する因子の同定は、その分子経路中の因子の活性化または不活化、あるいは、発現量の増減、リン酸化量の増減、分子量の増減などを観察することによって行うことができる。ここでは、例えば、TSCL1の分子経路の因子の優性欠失改変体を用いてもよい。
他の好ましい局面において、本発明は、がんの処置または予防ための因子をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、A)候補物質を提供する工程、B)該候補物質をTSCL1の分子経路のアッセイ系に供する工程;C)該候補物質の内、TSLC1の分子経路を調節する因子を同定し、該調節する因子を、がんの処置または予防のための因子であると決定する工程;D)さらに、該調節因子の候補を、がんの処置または予防のためのアッセイ系に供する工程;E)該調節因子の候補の内、がんの処置または予防のための因子を選択する工程を包含し得る。
別の局面において、本発明は、TSCL1の分子経路の因子の優性欠失改変体を提供する。ここで、本発明の改変体は、ゲノム、細胞、組織、臓器または個体の全部または一部であってもよい。好ましくは、個体であり得、この場合は、がんの処置または予防ためのモデル動物として薬物のスクリーニングに使用することができる。
別の局面では、本発明は、本発明のスクリーニング方法によって、同定されたがんの処置または予防ための因子を提供する。この調節分子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよく、このような分子は、周知のコンビナトリアルケミストリー技術を用いて製造することができる。
(遊走能の測定)
別の局面において、本発明はまた、細胞の遊走能を測定する方法であって、TSLC1活性のレベルを測定する工程を包含する、方法を提供する。この方法では、代表的に、レベルは、TSLC1の特異的因子(例えば、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される)によって測定される。特異的因子は、標識されていてもよく、またはその後に標識されうる能力を有していてもよい。
1つの実施形態では、本発明の細胞の遊走能を測定する方法では、本発明において対象となるTSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、TSLC1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましく、いわゆるTSLC1のRNAiであってもよい。TSLC1のRNAiは、その遺伝子情報に基づいて、上記される詳細な設計方法によって作製することができる。好ましくは、TSLC1のRNAiは、配列番号7および配列番号8に示す配列(それぞれ、センス配列、アンチセンス配列)を有し得る。
1つの実施形態では、上記調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子であってもよい。
具体的な実施形態では、本発明では、TSLC1を調節する調節因子を含み得る。ここで、より具体的には、使用され得る調節因子は、TSLC1のRNAiであり得る。RNAiの具体的な設計方法は、本明細書において詳述されたとおりであり得る。
別の具体的な実施形態では、含有され得る調節因子は、TSLC1に対する抗体であり得る。
他の具体的な実施形態では、含有され得る調節因子は、TSLC1の優性欠失変異体またはその誘導因子であり得る。
本発明の遊走能を測定する方法において、使用される細胞は腎臓細胞であり得る。好ましくは、培養腎臓細胞(例えば、MDCK細胞)であり得る。
遊走能は代表的には、E-カドヘリンおよびb−カテニンからなる群より選択される少なくとも1つの産物の発現の消失によって確認される。あるいは、遊走能は、ビメンチンおよびフィブロネクチンからなる群より選択される、少なくとも1つの産物の発現の増加によって確認される。
別の局面において、本発明は、細胞の遊走能を測定する試薬であって、TSLC1活性のレベルを測定する因子を包含する、試薬を提供する。この因子は、TSLC1の特異的因子であり、この特異的因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択され得る。
別の実施形態では、特異的因子は、標識されまたは標識され得る因子である。
別の実施形態では、特異的因子は、配列番号1に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子であり得る。
別の実施形態では、特異的因子は、配列番号2に示す配列のポリペプチドに対する抗体であり得る。
1つの実施形態では、細胞は、腎臓細胞であり、好ましくは、MDCK細胞のような培養腎臓細胞である。ここで、これらの細胞の遊走能は、E-カドヘリンおよびb−カテニンからなる群より選択される少なくとも1つの産物の発現の消失によって確認されるか、あるいは、ビメンチンおよびフィブロネクチンからなる群より選択される、少なくとも1つの産物の発現の増加によって確認される。
別の局面では、本発明は、細胞中のTSLC1活性を測定する方法であって、該細胞の遊走能を測定する工程を包含する、方法を提供する。代表的には、遊走能は、HGFによって惹起されたものである。1つの実施形態では、細胞は、腎臓細胞であり、好ましくは、MDCK細胞のような培養腎臓細胞である。
さらに別の局面では、本発明は、細胞中のTSLC1活性を測定する試薬であって、該細胞の遊走能を測定する因子を備える試薬を提供する。代表的には、遊走能は、HGFによって惹起されたものである。1つの実施形態では、細胞は、腎臓細胞であり、好ましくは、MDCK細胞のような培養腎臓細胞である。
(遊走能の調節)
別の局面では、本発明は、細胞の遊走能を調節する方法であって、細胞内のTSLC1活性を調節する工程を包含する、方法を提供する。細胞の遊走能の調節は、増加または抑制であり得る。あるいは、細胞内のTSLC1活性の調節は、細胞内のTSLC1活性の増加または抑制であり得る。この調節は、TSLC1を抑制することを包含し得る。
ある実施形態において、調節は、TSLC1の発現を調節することを包含する。
別の実施形態において、調節は、TSLC1を調節する調節因子により達成されるこのような調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子などであってもよい。
別の実施形態では、調節は、TSLC1の発現をRNAiにより抑制することを包含する。あるいは、別の実施形態では、TSLC1の発現を抗体により抑制され得る。他の実施形態では、TSLC1の優性欠失改変により抑制され得る。
1つの実施形態では、本発明の遊走能の調節方法では、本発明において対象となるTSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、TSLC1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましく、いわゆるTSLC1のRNAiであってもよい。TSLC1のRNAiは、その遺伝子情報に基づいて、上記される詳細な設計方法によって作製することができる。好ましくは、TSLC1のRNAiは、配列番号7および配列番号8に示す配列(それぞれ、センス配列、アンチセンス配列)を有し得る。
別の実施形態では、TSLC1活性の調節は、細胞内においてTSLC1の発現をさせることによって達成され得る。ここで、好ましくは、TSLC1は、少なくとも細胞内ドメインを含む。1つの実施形態では、細胞は、腎臓細胞であり、好ましくは、MDCK細胞のような培養腎臓細胞である。
(細胞の遊走能調節薬)
別の局面では、本発明は、細胞の遊走能を調節する試薬であって、細胞内のTSLC1活性を調節する因子を包含する、試薬を提供する。細胞の遊走能の調節は、増加または抑制であり得る。あるいは、細胞内のTSLC1活性の調節は、細胞内のTSLC1活性の増加または抑制であり得る。1つの実施形態では、調節は、TSLC1を抑制することを包含してもよい。
ある実施形態において、調節は、TSLC1の発現を調節することを包含する。
別の実施形態において、調節は、TSLC1を調節する調節因子により達成されるこのような調節因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子などであってもよい。
別の実施形態では、調節は、TSLC1の発現をRNAiにより抑制することを包含する。あるいは、別の実施形態では、TSLC1の発現を抗体により抑制され得る。他の実施形態では、TSLC1の優性欠失改変により抑制され得る。
1つの実施形態では、本発明の遊走能の調節方法では、本発明において対象となるTSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有していてもよい。ここで、TSLC1の改変体とは、本明細書において定義され、例示される任意の改変体の形態であってもよいが、特に言及する場合は、生体内に天然に存在するものであることが好ましく、いわゆるTSLC1のRNAiであってもよい。TSLC1のRNAiは、その遺伝子情報に基づいて、上記される詳細な設計方法によって作製することができる。好ましくは、TSLC1のRNAiは、配列番号7および配列番号8に示す配列(それぞれ、センス配列、アンチセンス配列)を有し得る。
別の実施形態では、TSLC1活性の調節は、細胞内においてTSLC1の発現をさせることによって達成され得る。ここで、好ましくは、TSLC1は、少なくとも細胞内ドメインを含む。1つの実施形態では、細胞は、腎臓細胞であり、好ましくは、MDCK細胞のような培養腎臓細胞である。
(使用)
別の局面において、本発明は、TSLC1の分子経路を調節する因子の、がんの転移および/または浸潤の調節のための組成物の製造における、使用を提供する。ここで、対象となるがんは、小細胞肺がんであり得る。1つの実施形態では、小細胞肺がんでは、TSCL1の分子経路の因子は、TSCL1、Tiam1およびRac1であってもよい。他の好ましい実施形態では、本明細書において上記組成物、方法、システムにおいて説明されるのと同様の任意の好ましい形態を採ることができることが理解される。
別の局面において、本発明は、TSLC1の分子経路を調節する因子の、がんの診断のための組成物の製造における、使用を提供する。ここで、対象となるがんは、小細胞肺がんであり得る。1つの実施形態では、小細胞肺がんでは、TSCL1の分子経路の因子は、TSCL1、Tiam1およびRac1であってもよい。他の好ましい実施形態では、本明細書において上記組成物、方法、システムにおいて説明されるのと同様の任意の好ましい形態を採ることができることが理解される。
他の局面において、本発明は、TSLC1の分子経路を調節する因子の、がんの処置または予防のための組成物の製造における、使用を提供する。ここで、対象となるがんは、小細胞肺がんであり得る。1つの実施形態では、小細胞肺がんでは、TSCL1の分子経路の因子は、TSCL1、Tiam1およびRac1であってもよい。他の好ましい実施形態では、本明細書において上記組成物、方法、システムにおいて説明されるのと同様の任意の好ましい形態を採ることができることが理解される。
他の局面において、本発明は、がん細胞の浸潤性の診断薬の製造における、Tiam1の全長型およびTiam1の短縮型の発現のレベルを測定する因子の使用を提供する。他の好ましい実施形態では、本明細書において上記組成物、方法、システムにおいて説明されるのと同様の任意の好ましい形態を採ることができることが理解される。
他の局面において、本発明は、細胞の遊走能を測定する試薬の製造における、TSLC1活性のレベルを測定する因子の使用を提供する。他の好ましい実施形態では、本明細書において上記組成物、方法、システムにおいて説明されるのと同様の任意の好ましい形態を採ることができることが理解される。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA)、和光純薬(大阪、日本)、などから市販されるものを用いた。動物実験は、政府が示す基準に則って行った。ヒト患者に対する処置においては、厚生労働省などにおいて規定される規準を遵守して行い、必要に応じて、インフォームド・コンセントを行った後の患者に対して行う。
(実施例1:TSLC1の過剰発現により、がん細胞は浸潤形質を示す。)
(TSLC1発現誘導がん細胞の樹立)
Tet−Offコントロールを有する細胞株を構築し、イーグル最小必須培地(Sigma,St.Louis,MO)中で維持した。この最小培地には、0.1mM非必須アミノ酸(Invitrogen,Carlsbad,CA)、1.0mMピルビン酸ナトリウム(Invitrogen)、10% Tet system approved FBS(BD Biosciences)、100単位/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシン(Invitrogen)が、添加されていた。その関連遺伝子の発現を抑制するために、100μg/mlのドキシサイクリン(Dox)を、この培地に添加した。
(がん細胞のインビトロ増殖アッセイ:細胞増殖アッセイ)
製造業者のプロトコルに従って、CellTiter 96 Aqueous Non−Radioactive Cell Proliferation Assay kit(Promega,Madison,WI)を使用するMTSアッセイによって、細胞増殖を調べた。
(がん細胞の運動性のインビトロアッセイ:細胞運動性アッセイ)
運動性を、マイクロポアチャンバアッセイによって決定した。細胞(4×10)を、8μmポアを有する6ウェルサイズのマイクロポアポリカーボネートメンブレンフィルタ(Becton Dickinson Labware,Lincoln Park,NJ)の頂部チャンバに播いた。そして、その底部チャンバは、化学誘引物質として2%のウシ胎仔血清を含む、RPMI1640およびHam’s F12の混合培地で満たした。37℃のインキュベーションの16時間後に、そのメンブレンを固定して、そして、Diff Quik試薬(International Reagents,Inc,Kobe,Japan)で染色して、そして、そのメンブレンを通過して移動した細胞の全てを、光学顕微鏡で計数した。各実験は、三連のウェルで、実施し、3回反復した。
(がん細胞の浸潤性インビトロアッセイ:細胞浸潤性アッセイ)
その浸潤能力を、浸潤チャンバアッセイによって決定した。細胞(3×10)を、8μmポアを有する14ウェルサイズのMatrigel被覆マイクロポアメンブレンフィルタ(Becton Dickinson labware)の底部チャンバに播き、そして、その底部チャンバを、化学誘引物質として2%のウシ胎仔血清を含む、RPMI1640およびHam’s F12の混合培地で満たした。37℃のインキュベーションの22時間後に、そのメンブレンを固定して、そして、Diff Quik試薬(International Reagents,Inc,Kobe,Japan)で染色した。次いで、そのメンブレンを介して浸潤した細胞の全てを、光学顕微鏡のもとで計数した。実験の各々は、三連で実行し、そして、3回反復した。
(SCID マウスを用いた転移抑制アッセイ)
(動物)
雄性SCDマウス(6〜8週齢)を、CLEA(Tokyo,Japan)から得て、そして、この研究を通して、特定の病原体を含まない条件下で維持した。
(試薬)
FBSを、M.A.Biopoducts(Walkersville,MD)から購入した。抗アシアロGM血清を、Wako(Osaka,Japan)から取得した。
(試験的転移実験)
TM−β1 Ab(1mg/0.3ml PBS/マウス)また抗アシアロGM血清(20μl/0.3ml PBS/マウス)を、腫瘍接種の2日前にSCIDの側尾静脈に注入した。腫瘍細胞を、Ca2+およびMg2+を含まないPBSで洗浄して、そして、所望の細胞濃度でそれと同じ溶液中に懸濁した。トリパンブルー排除法によって決定される細胞の生存率は、90%を超えるものであった。体積にして0.3mlの腫瘍細胞懸濁液を、麻酔をかけていない側尾静脈に注入した。示した期間の後に、そのマウスを屠殺し、そして、転移性のリンパ節の数を、計数した。それらの肝臓および腎臓における小瘤を、解剖顕微鏡を用いて計数した。
結果を図1に示す。図1は、TSLC1によるがん細胞の浸潤性形質の誘導を示す。TSLC1発現の欠如したがん細胞をNIH3T3単層細胞上へ重層培養し、ドキシサイクリンによりTSLC1の発現を誘導した。TSLC1は抗TSLC1抗体と二次抗体(青)で、アクチン分子はファロイジン(赤)で染色した。示されるように、TSLC1の過剰発現により、がん細胞は浸潤形質を示した。
(実施例2:TSLC1の発現をRNAiによって抑制すると、小細胞肺がんの浸潤、転移能が抑制される。)
(siRNA導入法)
内因性TSLC1の発現を阻害するために、本発明者らは、2−ヌクレオチド(2’−デオキシチミジン)3’オーバーハングを有するsiRNA二重鎖を設計した。TSLC1を標的化したsiRNA配列は、第1位にある開始コドンの第1のアデニンに対して、+196〜+214(s1)および+204〜+222(s2)であった。コントロールのsiRNA(5’−UCAGCAGUGAGAAUAACUG−3’)(配列番号11)を、その対応するDNAが、哺乳動物における既知のゲノム配列に一致しないように設計した。ついで、一本鎖オリゴヌクレオチドの対を、アニーリングさせ、製造者のプロトコルに従ってオリゴフェクタミン試薬(Oligofectamine reagent)(Invitrogen)でトランスフェクションした。使用した配列は以下の通りである。
TSLC1siRNA 配列 s1(+196〜+214):5’−gtcaataagagtgacgact−3’(配列番号8)
TSLC1siRNA 配列 s2(+204〜+222):5’−gagtgacgactctgtgatt−3’(配列番号9)
結果を図2に示す。図2は、RNAiによりTSLC1の発現抑制によるするがん細胞の浸潤性の阻害を示す。TSLC1を高発現するがん細胞をNIH3T3単層細胞上へ重層培養し、doxycyclineによりTSLC1の発現を誘導した。TSLC1は抗TSLC1抗体と二次抗体(緑)で、アクチン分子はファロイジン(青)で染色した。
示されるように、TSLC1の発現をRNAiによって抑制すると、小細胞肺がんの浸潤、転移能が抑制された。
(実施例3:TSLC1の分子経路を抑制することにより、小細胞肺がんの浸潤、転移を抑制することができる。)
ドミナントネガティブ変異体:TSLC1優性欠失変異体TSLC1(配列番号12)発現ベクターTSLC1タンパク質の第17番目のアミノ酸をアスパラギンに置換したTSLC1N変異体は、Rac1の優性欠失変異体である。TSLC1N変異体を発現する pEXV−Rac1N17発現ベクターである。TSLC1の分子経路の抑制が小細胞肺がんの浸潤、転移の抑制に適用可能であるかどうか実験する。その結果、TSLC1の分子経路を抑制することにより、小細胞肺がんの浸潤、転移を抑制することができることが分かる。
(実施例4:TSLC1タンパク質は細胞内でTiam1タンパク質と結合する。(上皮組織、がん細胞および成人T細胞白血病細胞(ATL)で))
(免疫沈降、免疫ブロット法:免疫沈降ウエスタンブロティング)
トランスフェクションの24時間、60mmディッシュ中の細胞を洗浄し、そして、氷上で10分間に亘って、500μlの溶解溶液(50mM Tris−HCl、pH 7.5、150mM NaCl、5mM EDTA、1% Triton−X 100、1mM NaF、1mM NaVO、プロテアーゼインヒビターカクテル(Calbiochem,San Diego,CA))で処理した。上清を、4℃での15分間に亘る遠心分離を行った後に単離し、そして、そのタンパク質含量、タンパク質アッセイ試薬(Bio−Rad Labolatories,Hercules,CA)を使用して決定した。次いで、1μgの抗体を、500μgの細胞溶解物に添加して、4℃にて一晩にでインキュベートした。30μlの、プロテインA−セファロース 6MBの50%懸濁液(Amersham Biosciences)を、添加して、そして、室温で、1時間に亘ってインキュベートした。インキュベーション後に、ビーズを、5回、500μlの溶解緩衝液で洗浄し、そして、NuPAGEサンプル緩衝液中に再懸濁した。サンプルを、4〜12%NuPAGEminigels(Invitrogen)上で電気泳動して、そして、XCell SureLock Mini−Cell apparatus(Invitrogen)を使用して、ポリビニレンジスルフィド(PVDF)メンブレン(Millipore,Bedford,MA)に移した。30分間に亘って、1%Tween 20および5%スキムミルクを含むTBSでブロッキングした後に、これらのフィルターを、1時間に亘って一次抗体とともにインキュベートし、洗浄し、そして、適切なHRP標識二次抗体(Amersham Pharmacia)とともにインキュベートした。特異的なタンパク質を、増強化学発光システム(Lumi−LightPLUS; Roche)を用いて検出した。
(抗体)
KLHと融合したTSLC1のカルボキシル末端の18アミノ酸の合成ポリペプチドN−INAEGGQNNSEEKKEYFI−C(配列番号14)を、免疫原として使用して、ウサギ抗TSLC1ポリクローナル抗体である、CC2を惹起した。TSLC1(CC2)のC末端またはTSLC1のエクトドメイン(EC)に対するウサギポリクローナル抗体(pAb)は、周知の手段により調製され得る。
ウサギ抗血球凝集素(HA)pAb(sc−805)およびマウス抗HAモノクローナル抗体(mAb)クローン12CA5を、それぞれ、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz,CA)およびRoche Applied
Science(Indianapolis,IN)から購入した。β−カテニンに対するマウスmAbである、E−カドヘリン(クローン36)、およびフィブロネクチンを、BD Biosciencesから取得した。使用した他のマウスmAbは、ZO−1(Zymed,South San Francisco,CA)およびビメンチン(クローンV9,Sigma,St.Louis,MO)に対して特異的である。免疫ブロッティングおよび免疫蛍光染色のための二次抗体は、それぞれ、Amersham Pharmacia Biotech(Buckinghamshire,England)およびJackson Immuno Research Lab(West Grove,PA)から得た。
Rac1およびRhoの活性アッセイのために使用される抗体は、それぞれ、マウス抗Rac1 mAbである、クローン23A8(Upstate,Lake Placid,NY)、およびウサギ抗Rho pAb(Upstate)である(MM/CR)。
(プラスミドの細胞への導入:トランスフェクション)
安定に、TSLC1−GFP(MDCK/TSLC1−GFP)を発現する癌細胞を調製する為に、MDCK細胞を、製造業者のプロトコ−ルに従ってLipofectamine Plus試薬(Invitrogen)を用いて、pTSLC1−GFPでトランスフェクションした。安定なクローンを、500 mg/mlのGeneticin(G418)(Invitrogen)を含む培地中で選択した。安定にトランスフェクションされたクローンを、300 mg/mlのG418の存在下で維持した。癌細胞を、上述のように、pTSLC1−GFPおよび/またはpTSLC1−HAを用いて、一過的にトランスフェクトした。
(GST結合タンパク質とのインビトロ結合アッセイ:GSTプルダウン)
E.coli中で発現されるGST−TSLC1融合タンパク質を、製造者のプロトコルに従ってグルタチオンセファロース4B(Amersham Biosciences)を使用して精製した。[35S]メチオニン標識MPPs−HAタンパク質を、TNT T7 Quick Coupled transcription/translation system(Promega,Madison,WI)を使用して合成した。GST融合タンパク質に対する放射性標識したMPPの結合は、以前に記載されている(Yageta et al.,2002)。結合タンパク質のシグナル強度およびGST融合タンパク質の量を、ソフトウェアNIH Image version 1.62を使用して定量化し、そして、その結合親和性を、GST融合タンパク質の量に関して調節した。
(免疫染色、共焦点顕微鏡解析)
それらの2次元極性実験について、細胞を、24mm Trans−well−COLコラーゲン被覆フィルター不活性体(Costar,Cambridge,MA)につき10細胞の密度で播いた。そして、5〜6日間に亘ってコンフルエンスになるまで増殖させた。これらの細胞を、固定し、免疫染色し、そして、上述のように、共焦点顕微鏡によって調べた。核DNAを染色する際に、TOTO−3 iodide(Invitrogen)これ全体で商品名を、二次抗体を含む溶液に添加した。コラーゲンI型ゲル中のシストの免疫蛍光染色を、前掲したよう実施した。
(免疫染色および共焦顕微鏡)
BIOCOATコラーゲン被覆した8ウェルの培養スライド(Becton Dickinson Labware,Bedford,MA)上に播いて、その2日後に固定した。極性実験のために、MDCK/TSLC1−GFP細胞またはCaco−2細胞を、Trans−well−COLコラーゲン被覆フィルター不活性体(Costar,Cambridge,MA)につき10細胞の密度で播いて、そして、コンフルエンスになるまで3〜4日間に亘って増殖させた。これらの細胞を、PBS(pH7.2)で2回洗浄して、PBS中の4%パラホルムアルデヒドを用いて20分間に亘って、室温で固定した。
HEK293細胞またはCaco−2細胞の反射型蛍光顕微鏡検査のために、細胞を、上述のように播いて、そして、固定した。次いで、固定した細胞を、5分間に亘ってPBS中の0.1%Tritonで透過性にして、PBSで3回洗浄し、PBS中の5%正常ロバ血清(Chemicon International,Inc.,Temecula,CA)で30分間に亘ってブロックし、そして、室温で一晩に亘って、1%正常ロバ血清中に上述の一次抗体で染色した。PBSで、3回洗浄した後に、発蛍光団を結合体化させた二次抗体を、室温において1時間に亘って適用して、PBSで洗浄した。これらのスライドを、Vectashield antifade reagent(Vactor Laboratories,Burlingame,CA)を用いてマウントして、そして、ガラスカバースリップで覆って、そして、488/514nmアルゴンレーザーおよび543nmヘリウムネオンレーザーを備えた共焦点走査システムである、Zeiss LSM510またはBio−Rad Radiance 2000で調べた。そのX−Z垂直方向切片を、0.2−mmモーターステップで作製した。各イメージは、単一の平均化した(16ラインスキャン)のイメージの代表例である。
結果を図3〜6に示す。図3は、TSLC1タンパク質とTiam1タンパク質とのin vitroでの結合を示す。in vitro転写・翻訳して作成したTiam1タンパク質、ならびに部分断片と、大腸菌にてGST融合タンパク質として作成したTSLC1細胞内断片(GST−C)ならびにそのC端9アミノ酸を欠失した断片とをGSTカラム上で結合させ、溶出断片を検出した。右端は合成したTiam1ならびにその部分断片をポリアクリルアミドゲル電気泳動にて検出した。
図4および図5は、TSLC1タンパク質とTiam1タンパク質とのin vitroでの結合を示す。培養がん細胞にV5タグ配列をつけたTiam1タンパク質を導入、発現させ、抗V5抗体、またはマウスIgG(図4)、あるいは抗TSLC1抗体、またはマウスIgG(図5)で免疫沈降し、沈降物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にて分離し、抗TSLC1抗体(図4)、ならびに抗Tiam1抗体(図5)にて検出した(ウェスタン・ブロット法)。対照として、細胞溶解物を抗TSLC1抗体、ならびに抗V5抗体で検出し(図4)、あるいは細胞溶解物と免疫沈降物を抗V5抗体で検出(図5)した。
図6は、TSLC1タンパク質とTiam1タンパク質との共局在を示す。培養がん細胞でTSLC1タンパク質の発現をドキシサイクリンにて誘導し、TSLC1タンパク質とTiam1タンパク質との局在を、それぞれ抗TSLC1抗体、ならびに抗Tiam1抗体にて検出した。右端は両シグナルを合成した画像である。
従って、TSLC1タンパク質は細胞内で(上皮組織、がん細胞および成人T細胞白血病細胞(ATL)で)Tiam1タンパク質と結合する。ことが示された。
(浸潤性の強弱レベルを判定する技術の開発)
次に、浸潤性の強いがん細胞(例えば、ATL細胞、HTLV−1感染細胞など)と、浸潤性の弱いがん細胞(例えば、それ以外のALL細胞(例えば、T-ALL)等)とを識別するためのマーカーを探索した。このようなマーカーは、がん細胞を見出したときにその浸潤性をも検出することによって適切ながん治療を施すことができることから有用である。
(方法)
細胞溶解液をポリアクリルアミドゲル電気泳動にて分離し、抗 Tiam1抗体にて検出した(ウェスタン・ブロット法)。その具体的な詳細な方法は以下のとおりである。
(Tiam−1の免疫ブロット解析)
全細胞溶解液は、50mM Tris−HCl(pH7.4),150 mM NaCl,1% Triton X−100,20 mM EDTA,プロテアーゼ阻害剤混合物(Calibiochem社)を用いて調製した。この細胞溶解液を毎分12,000回転、1分、4℃で遠心分離して不溶性分画を除き、上清を回収した。各サンプルの蛋白質の濃度は、Bio−Rad社の蛋白アッセイ染色試薬にて計測した。各サンプル5μgを4−12%の密度勾配SDS−ポリアクリルアミドゲルにて分画し、Millipore社のフッ化ポリビニリデン・メンブレンに転写し、抗Tiam−1単クローン抗体と反応させた。一次抗体の結合は、Roche社のLimi−Light PLUSウエスタン・ブロット基質を用いて検出した。各シグナルの分子量の指標は、図5Bの左側に示したとおりである。具体的には、大きい方から、210kDa,111kDa,71kDaおよび55kDaである。Tiam−1蛋白質は、米国SantaCruz社の抗Tiam−1抗体(Tiam−1 C−16)を用いた。各レーンは1.Jurkat; 2.Molt−4;3.CCRF−CEM;4.MT−2;5C91/PL;6.C8266;7.MT−4;8.ATN1;9.ATL−3Iである。
(結果)
図5Bに浸潤性の強いがん細胞で特徴的に認められる短いTiam1分子を示す。浸潤性の強いがん細胞であるATL細胞(4−8)では、浸潤性の弱いがん細胞であるT−ALL細胞(1−3)と比較して、TSLC1について、短いTiam1断片が特徴的に認められる。青矢印で示す分子量約140キロダルトンのシグナルは全長Tiam1に相当し、一方、赤矢印で示す分子量約65キロダルトンのシグナルはATL細胞にのみ特異的に検出される低分子量Tiam1であり、エクソン14−29を含む。分子量約70キロダルトン付近の2つのシグナルは全長Tiam1の分解産物、あるいはスプライシング・バリアント、または非特異的シグナルに相当すると考えられる。細胞溶解液をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動にて分離し、抗Tiam1抗体にて検出した(ウエスタン・ブロット法)。この短いTiam断片は、エクソン14−29に対応する新規のスプライシング・バリアントと考えられる。
なお、この低分子量Tiam1分子は5’非翻訳領域としてイントロン13を特異的に含むスプライシング・バリアントであり、下記のプライマーを用いたRT−PCRにより特異的に増幅する2716塩基対の断片として検出することができる。
プライマー ssTiam1−F: 5’−TGA ACT TTT TGA ATG GAA GCA−3’(配列番号21)
プライマー ssTiam1−R: 5’−ACA TTC TCT ACG GGG CAG GT−3’(配列番号22)
これらのプライマーを用いて増幅された配列は、配列番号23として示す。そのアミノ酸コード配列は、配列番号24として示される。
Tiam1のこの短縮型断片を特異的に増幅するRT-PCR のさらなる塩基配列2対として以下が挙げられる。
(例2)
E13B2−5’ CAGACAGAGTGATGTGGAGGA(配列番号25)
E15−16−3’ CTGCTTTCAGGCCTTTCTTG(配列番号26)
増幅断片418塩基対(配列番号27)。
例3の結果を図5Cに示す。図5Cでは、低分子量Tiam1 に特異的なプライマーを用いたRT−PCR法によるATLの低分子量Tiam1 RNAの検出が示される。特異的ATL細胞(4−8)では418塩基対の特異的Tiam1RNAに由来する増幅断片が検出されるが、ALL細胞(1−3)や他の細胞ではこのRNAは検出されない。
(例3)
E13B−5’ GAGGACGACAGCTGGAAGTT(配列番号28)
E15−3’ CGTACAGCCTTCGAATACCA(配列番号29)
増幅断片315塩基対(配列番号30)。
(実施例5:Tiam1の発現をRNAiによって抑制すると、小細胞肺がん、ATLの浸潤、転移が抑制される)
(siRNA導入法)
内因性Tiam1の発現を阻害するために、本発明者らは、2−ヌクレオチド(2’−デオキシチミジン)3’オーバーハングを有するsiRNA二重鎖を設計した。Tiam1を標的化したsiRNA配列は、下記のようにセンス配列およびアンチセンス配列の両方を作製した。コントロールのsiRNA(5’−UCAGCAGUGAGAAUAACUG−3’)(配列番号11)を、その対応するDNAが、哺乳動物における既知のゲノム配列に一致しないように設計した。ついで、一本鎖オリゴヌクレオチドの対を、アニーリングさせ、製造者のプロトコルに従ってオリゴフェクタミン試薬(Oligofectamine reagent)(Invitrogen)でトランスフェクションした。使用した配列は以下の通りである。
Tiam1 siRNA 配列(センス配列):
5’− CGG CGA GCU UUA AGA AGA ATT−3’(配列番号9)
Tiam1 siRNA 配列(アンチセンス配列):
5’− UUC UUC UUA AAG CUC GCC GTT −3’(配列番号10)。
結果をみると、TSLC1分子と同様に、Tiam1でもがんの抑制および浸潤・転移の抑制が起こっていることがわかる。
(実施例6:Tiam1の分子経路を抑制することにより、小細胞肺がんの浸潤、転移を抑制することができる)
ドミナントネガティブ変異体:Tiam1優性欠失変異体 Tiam1発現ベクター
Tiam1タンパク質の1つのアミノ酸をアスパラギンに置換したTiam1 N変異体は、Rac1の優性欠失変異体である。Tiam1 N変異体を発現する pEXV−Rac1N17発現ベクターを用いて実験をすることができる。
Tiam1の分子経路の抑制が小細胞肺がんの浸潤、転移の抑制に適用可能であるかどうか実験する。その結果、Tiam1の分子経路を抑制することにより、小細胞肺がんの浸潤、転移を抑制することができることが分かる。
(実施例7:TSLC1タンパク質は低分子量Gタンパク質Rac1を活性化する)
(方法)
(測定法)
(発現ベクターおよびトランスフェクション)
pTRE2/TSLC1を得るために、TSLC1cDNAを、pTRE2hygroベクター(BD Biosciences)にクローニングした。短縮化したTSLC1フラグメントを、テンプレートとしてpTSLC1−HAまたはpcTSLC1を使用して、PCRによって作製して、pTREhygroベクターにクローニングした。TSLC1(ΔC−HA)の細胞質性テイルを欠く変異体を作製するために、397〜422に位置するアミノ酸(aa)残基を取り除き、そして、396の残基を、HAエピトープタグと融合させた。この短縮化変異体である、プロテイン4.1−BMおよびプロテインPDZ−BMを、それぞれ、タンパク質である4.1−BMを含む11アミノ酸(400〜410)、ならびにPDZ−BM(439〜422)を含む4アミノ酸を取り除くように設計した(図1A)。これらの構築物を、製造者のプロトコルに従って、Fugene 6 reagent(Roche Applied Science)で、上述の細胞にトランスフェクトした。安定なクローンを、300μg/mlのハイグロマイシン(Invitrogen)を含む培地中で選択した。
(コラーゲンゲル中での3次元培養および管腔構造形成(Tubulogenesis)アッセイ)
3次元(3D)培養を、製造者(Nitta Gelatin,Osaka,Japan)のプロトコルに従って実施した。細胞を、コラーゲンI混合物に添加して、穏かに混合し、そして、5×10細胞/ウェルで12ウェルプレートにプレーティングした。5日齢シストを、一般的なシスト構造およびTSLC1の細胞内局在ならびに欠失変異体について調べた。管腔形成の誘導のために、4日齢のシストを、40ng/mlのHGF(Sigma)を含む新鮮な培地で刺激して、さらに4日間に亘ってインキュベートし、そして、位相差顕微鏡によって調べた。
(細胞分散アッセイ)
細胞を、6ウェルプレート中に1×10細胞/ウェルで播いた。次の日に、それらの細胞に、40ng/ml HGFの存在下または非存在下の、新鮮な培地を供給して、そして、さらに17時間に亘ってインキュベートした。細胞分散を、位相差顕微鏡で調べた。
(Rac1活性化アッセイおよびRho活性化アッセイ)
Rac1およびRhoの活性化を、それぞれ、Rac1活性化アッセイキットおよびRho活性化キット(Upstate)を使用して、その製造者のプロトコルに従って、GST−プルダウンアッセイによって決定した。簡潔には、細胞を、100mm培養プレートあたり1×10細胞で播き、血清飢餓状態にして一晩置いた。次いで、それらの細胞を、種々の時間期間に亘って、40ng/ml HGFで刺激して、そして、MLB溶解緩衝液中で溶解した。Rac1−GTPおよびRho−GTPを、それぞれ、グルタチオン−アガロースビーズ上に固定された、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)タグ化p21活性化キナーゼ(PAK)−Rac1結合ドメイン(RBD)およびGSTタグ化Rhotekin−Rho結合ドメイン(RBD)を用いて、それらの溶解物から沈降させた。総溶解物および総沈降物を、免疫ブロッティングによって分析した。濃度計分析を、NIHイメージソフトウェアを用いて実施した。
結果を図7に示す。図7は、TSLC1はHGFによるMDCK細胞の上皮間葉転換、遊走性、浸潤性、ならびにRac1の活性化を抑制することを示す。GST−プルダウンアッセイは、Rac1の活性化の抑制を同定する手段として使用され得る。
(実施例8:TSLC1タンパク質による低分子量 G タンパク質 Rac1 の活性化は Tiam1 タンパク質を介する。)
実施例7に準じて、TSLC1タンパク質を用いて Rac1 の活性化が行われるかどうかを確認することができる。
(実施例9:Rac1 タンパク質の優性欠失変異体を加えることにより、Rac1活性を阻害すると、小細胞肺がん、ATLの浸潤、転移が抑制される。)
Rac1タンパク質の第17番目のアミノ酸をアスパラギンに置換したRac1 N17変異体は、Rac1 の優性欠失変異体である。Rac1N17変異体を発現するpEXV−Rac1N17 発現ベクター(配列番号12(核酸配列)、配列番号13(アミノ酸配列))はロンドン大学のA.Hall博士より供与された。
結果を図8に示す。図8は、TSLC1によるがん細胞での遊走性形態、浸潤能は、Rac1の優性欠失変異体により阻害されることを示す。Rac1の優性欠失変異体を導入したがん細胞、或いは導入しないがん細胞をNIH3T3単層細胞上に重層培養し、ドキシサイクリンによりTSLC1の発現を誘導した。TSLC1の発現は抗TSLC1抗体と二次抗体(青)にて、またRac1の優性変異体はGFPとの融合タンパク質として発現、検出した。
(実施例10:Rac1 タンパク質の活性を阻害することにより、小細胞肺がんの浸潤、転移を抑制することができる。)
配列番号5に示す核酸配列に基づいて、siRNAのセンス配列およびアンチセンス配列を設計する。このsiRNA阻害剤による、小細胞肺がんの浸潤、転移の抑制を観察する。実験としては培養がん細胞にこのsiRNAをトランスフェクトして、Rac1の発現を抑える。そしてコントロールsiRNA(例えば、配列番号11)を入れた細胞と、浸潤アッセイ、遊走アッセイ、SCIDマウスの尾静脈からの細胞注入による肺転移形成の差などを比較する。これらの実験は、上述のプロトコルを使用することができる。
(実施例11:TSLC1の形質転換に関する関与)
次に、TSLC1の形質転換に関する関係について調べた。
(材料および方法)
(cDNAクローニングおよび発現ベクター)
GST−TSLC1−C融合タンパク質のための発現ベクター、DAL−1−V5およびMPP3は、以前に記載された(Yagetaら、2002;Fukuharaら、2003)。DAL−1−Flag発現ベクターを、V5−Hisのタグ化配列をFlagのタグ化配列(5’−GACTACAAGGATGACGATGACAAG−3’)で置換することによってDAL−1−V5から得た。ヒトMPP1およびヒトMPP2の全長cDNAフラグメントを、MPP1のcDNA配列(GenBank登録番号NM002436)およびMPP2のcDNA配列(NM005374)にそれぞれ基づいて、逆転写PCRによってヒト肺ポリ(A)+RNAから得た。その後、これらのcDNAフラグメントを、pcDNA3.1/V5−His TOPO TAベクター(Invitrogen,Carksbad,CA)からクローニングした。その後、V5−Hisのタグ化配列を、HAのタグ化配列(5’−TACCCATACGACGTCCCAGACTACGCT−3’)で置換した。GST融合タンパク質のための発現ベクター、DAL−1(1〜109aa、305〜446aa、357〜446aa)のcDNAフラグメント、MPP1(1〜65aa)のcDNAフラグメント、MPP2(1〜137aa)のcDNAフラグメントおよびMPP3(1〜134aa)のcDNAフラグメントを、PCRによって増幅してpGEX−4T−1(Amersham Biosciences,Buckinghamshire,England)中にクローニングした。
(抗体および化学物質)
TSLC1に対するラットモノクローナル抗体(mAb)を、TSLC1のカルボキシル末端の18個の合成ポリペプチドで免疫することによって、ラットにおいて惹起した。ニワトリmAbを、TSLC1の細胞外ドメインに対応する組換えポリペプチドに対して作製した(3E1)。抗TSLC1pAb(CC2)が、以前に記載された(Masudaら、2002;Yagetaら、2002)。DAL−1タンパク質のN末端部分に対するpAbおよびMPPタンパク質のN末端部分に対するpAbを、GST融合タンパク質で免疫することによってウサギにおいて惹起した。抗V5 mAb、抗GST mABおよび抗HA pAbを、Invitrogen,MBL(日本国名古屋市)およびSanta Cruz Biotechnology(Santa Cruz,CA)からそれぞれ購入した。抗Flag mAbおよび抗汎カドヘリンmAbを、Sigma(St.Louis,MO)から得た。抗ZO−1 pAbおよび抗ZO−1 mAbを、Zymed Laboratories(South San Francisco,CA)から購入した。Alexa Fluor 568色素標識ファロイジンを、Molecular Probes(Eurogene,OR)から購入した。HRP標識二次抗体およびフルオレセイン標識二次抗体を、Amersham BiosciencesおよびMolecular Probesからそれぞれ得た。
(細胞培養およびトランスフェクション)
Cos−7細胞を、RIKEN細胞バンク(日本国つくば市)から得た。HeLa細胞、ABC−1細胞、およびHEK293細胞を、Health Science Research Resources Bank(日本国大阪市)から得た。ヒトがん細胞であるSK−LU−1、NCI−H596、U351、およびCaco−2、ならびにラットの褐色細胞腫であるPC12を、American Type Culture Collection(Rockville,MD)から得た。細胞を、供給業者の推奨に従って培養した。トランスフェクションを、LipofectAMINE 2000(Invitrogen)またはFuGENE 6(Roche Diagnostic,Basel,Switzland)を製造業者のプロトコルに従って使用して実行した。
(免疫沈降および免疫ブロット分析)
トランスフェクションの24時間後、60mmディッシュ中の細胞を、洗浄し、そして氷上にて10分間、500μlの溶解緩衝液[50mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、5mM EDTA,1% Triton−X 100、1mM NaF、1mM NaVO、プロテアーゼインヒビターカクテル(Calbiochem,San Diego,CA)で処理した。免疫沈降、電気泳動、および免疫ブロッティングは、以前(Yagetaら、2002)に記載された通りに実行した。
(免疫蛍光分析)
HEK293細胞を、コラーゲンIでコートした培養ディッシュ(BIOCOAT;BD Biosciences)上に播種した。免疫蛍光を、以前(Yagetaら、2002)に記載された通りに実施した。サンプルを、Bio−Rad Radiance 2000を用いて試験した。これは、アルゴン/クリプトンレーザー(488nmおよび568nm)と赤色レーザーダイオード(638nm)とを備えたレーザー走査共焦点システムである。
(RNAi)
TSLC1を標的とするsiRNA配列は、1位にある開始コドンの最初のアデニンに対して、位置+196〜+214(s1)および+204〜+222(s2)から得た。コントロールsiRNA(5’−UCAGCAGUGAGAAUAACUG−3’)(配列番号11)は、対応するDNA配列において、哺乳動物のどの公知のゲノム配列とも一致しなかった。合成した一対の一本鎖オリゴヌクレオチドを、アニーリングさせ、そしてOligofectamine試薬(Invitrogen)を製造業者のプロトコルに従って用いてトランスフェクトした。その細胞の平均面積および高さを、ソフトウェア(NIH Imageバージョン1.62)を使用して定量した。
(結果)
(図9)
HEK293細胞におけるTSLC1、DAL−1およびMPP1〜MPP3の亜細胞局在化。HEK293のコンフルエント(A)培養物または低密度(B)培養物を、免疫蛍光によって分析した。細胞を、抗TSLC1pAb(a)、抗DAL−1 pAb(bおよびa2)、抗MPP1 pAb(cおよびb2)、抗MPP2 pAb(dおよびc2)、または抗MPP3 pAb(eおよびd2)を用いて染色した。低密度の細胞もまた、抗TSLC1mAb(3E1)(B、a1〜d1、青色)およびAlexa Fluor 568色素標識ファロイジン(B、a3〜d3、赤色)を用いて染色した。矢印は、細胞の糸状足突出を示す。左の3つの欄を統合した画像が、右欄に示される(B、a4〜d4)。バー:20μm。
(図10)
RNAiを使用するTSLC1発現の抑制によるHEK293細胞の細胞接着および上皮様構造の排除。(A)TSLC1に対するsiRNAオリゴヌクレオチド(s1もしくはs2)またはコントロールsiRNAで処理したHEK293におけるTSLC1および関連タンパク質の免疫ブロッティング。TSLC1に対するsiRNA(s1)またはコントロールsiRNAで処理したHEK293細胞における、細胞骨格組織化を検出するため(B)、E−カドヘリンまたはZO−1の亜細胞局在化を検出するため(D)、およびDAL−1またはMPP2の亜細胞局在化を検出するため(E)の免疫蛍光分析。TSLC1、アクチンフィラメント、E−カドヘリン、ZO−1、DAL−1、およびMPP2が、抗TSLC1pAbもしくは抗TSLC1mAbを用いる染色(B、D、およびE、a1〜d1)、Alexa Fluor 568色素標識ファロイジンを用いる染色(B、a2〜c2)、抗汎カドヘリンmAbを用いる染色(D、a2およびb2)、抗ZO−1 mABを用いる染色(D、c2およびd2)、抗DAL−1 pAbを用いる染色(E、a2およびb2)、ならびに抗MPP2 pAbを用いる染色(E、c2およびd2)によってそれぞれ検出された。矢尻は、TSLC1を発現する細胞間接触部位を示し、一方、矢印は、TSLC1を欠く細胞間接触部位を示す。左および中央の欄を統合した画像が、右の欄に示される。バー;20μm。(C)コントロールsiRNAで処理したHEK293の平均面積および高さ(白色カラム)、TSLC1に対するsiRNA(s1)で処理したがTSLC1を発現するHEK293の平均面積および高さ(明灰色カラム)、およびs1で処理したTSLC1を欠くHEK293の平均面積および高さ(暗灰色カラム)を示す、ヒストグラム。上記細胞の面積および高さは、皮質アクチンフィラメント束に従って測定した。平均値および標準偏差を、3つの独立した実験に基づいて示した。それらの実験において、最小数80個の細胞を、各サンプルについて計数した。アスタリスクは、マン−ホイットニーU検定によって決定した統計的有意性(p<0.0001)を示す。
(図11)
TSKC1発現を欠くNSCLC細胞におけるTSLC1複合体の構成成分の誤局在化。(A)ヒトNSCLC細胞におけるTSLC1タンパク質、DAL−1タンパク質、MPP1タンパク質、MPP2タンパク質およびMPP3タンパク質の免疫ブロッティング。(B〜D)ABC−1細胞(B)、NCI−H596細胞(C)およびSK−LU−1(D)細胞における、TSLC1、DAL−1、およびMPP2の亜細胞局在化。細胞を、各タンパク質に対する特異的抗体を用いて(左)、およびAlexa Fluor 568色素標識ファロイジンを用いて二重染色し、統合した画像を示す(右)。バー;20μm。
(図12)
膜近傍ドメインにおけるTSLC1複合体の模式的図示。(A)TSLC1は、DAL−1タンパク質およびMPPタンパク質に結合する。MPPタンパク質のうちの一メンバーは、生物学的状況に依存してTSLC1複合体中に組み込まれる。(B)TSLC1タンパク質、DAL−1タンパク質、およびMPPタンパク質の、ドメイン構造および結合配列。TSLC1の細胞質ドメインにおける4.1結合モチーフおよびPDZ結合モチーフが、それぞれ、赤紫色文字および橙色文字にて示されている。MAGuKにおけるHOOKコンセンサス配列および塩基性アミノ酸(aa)が、それぞれ、緑色文字または下線によって示されている。
(siRNAによるTSLC1発現の抑制によって、HEK293における成熟細胞接着の形成が排除される)
細胞接着におけるTSLC1の生理的役割をRNA干渉によって調査するために、TSLC1の2つの別個の領域に対する一対の合成二本鎖siRNAを作製して、HEK293細胞中に一過性トランスフェクトした。HEK293細胞中へのsiRNAのトランスフェクション効率は、約50%であると推定した(データは、示さない)。トランスフェクションの50日間後、TSLC1タンパク質の量は、コントロールsiRNAでトランスフェクトした細胞中の量と比較して、TSLC1siRNA(s1またはs2)でトランスフェクトした細胞において顕著に減少した。対照的に、DAL−1タンパク質、MPP2タンパク質、E−カドヘリンタンパク質、およびZO−1タンパク質の量は、この処理によって変化しなかった。
その後、本発明者らは、細胞形態、細胞骨格組織化および関連タンパク質の亜細胞局在化を、コンフルエント培養物において試験した。HEK293細胞を、TSLC1siRNAでトランスフェクトし、一日間後、細胞を培養スライド上に再播種し、4日間増殖させて、新規に形成した細胞接着部位を観察した。コントロールsiRNAでトランスフェクトした細胞において、TSLC1は、すべての細胞間境界に局在化した(図10B、図10D、および図10E、コントロール)。これらの細胞において、周囲アクチンフィラメント(AF)束と呼ばれる厚いアクチンフィラメント(AF)束が、生成された(図10B、a)。E−カドヘリンおよびZO−1は、細胞間接着部位においてTSLC1と共存した(図10D、aおよびc)。対照的に、TSLC1siRNA(s1)の一過性トランスフェクションによって、約半数のHEK293細胞が、TSLC1発現を喪失した。TSLC1を欠く細胞は、細胞間付着部位において薄いAF束を生成した(図10B、bおよびc、矢印)。E−カドヘリンおよびZO−1は、細胞境界から消失した(図10D、bおよびd、矢印)。一方、TSLC1を発現する隣接細胞は、おそらくはsiRNAトランスフェクションの失敗が原因で、アクチン細胞骨格の異常な組織化も、E−カドヘリンまたはZO−1の誤局在化も示さなかった(図10Bおよび図10D、矢尻)。さらに、TSLC1発現を欠く細胞は、上皮様円柱構造を形成しなかったが、平坦な形態を示した。TSLC1を欠く細胞の平均面積は、同じ視野にあるTSLC1発現細胞の平均面積の約2.5倍大きかった。一方、断面図は、TSLC1を欠く細胞の平均高さが、TSLC1を発現する細胞の平均高さの60%未満であることを示した(図10C)。
次に、本発明者らは、DAL−1およびMPP2の亜細胞局在化を試験した。両方のタンパク質は、コントロールsiRNAで処理した細胞において、TSLC1とともに細胞間接触部位にて観察された(図10E、aおよびc)。DAL−1およびMPP2はまた、TSLC1siRNA(s1)のトランスフェクションにも関わらずTSLC1を発現する細胞において、細胞境界に局在化した(図10E、bおよびd、矢尻)。対照的に、DAL−1およびMPP2の膜局在化は、siRNAによって、TSLC1を欠く細胞においては劇的に排除されたが、これらのタンパク質の総量は、変化しなかった(図10E、bおよびd、矢印)。同様の知見が、TSLC1に対する別のsiRNA(s2)によって得られた(データは、示さない)。
(実施例12:TSLC1のHGF誘発性細胞分散をブロックする能力のアッセイ)
(実験手順)
(細胞および増殖アッセイ)
MDCKのTet−Off細胞株を、BD Biosciences(Palo Alto,CA)から入手し、100μM非必須アミノ酸(Invitrogen,Carlsbad,CA)、1.0mMピルビン酸ナトリウム(Invitrogen)、10% Tetシステム認可FBS(BD Biosciences)、100単位/mlのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシン(Invitrogen)を補充したイーグル最小必須培地(Sigma,St.Louis,MO)中で維持した。関連遺伝子の発現を抑制するために、0.1μg/mlのドキシサイクリン(Dox)を培地に添加した。細胞増殖を、CellTiter 96 Aqueous Non−Radioactive Cell Proliferation Assayキット(Promega,Madison,WI)を製造業者のプロトコルに従って使用して、MTSアッセイにより試験した。
(抗体)
TSLC1のC末端に対する(CC2)(Masuda,M.,ら(2002)J.Biol.Chem.277,31014−31019)、またはTSLC1の外部ドメインに対する(EC)(Mao,X.,ら(2003)Cancer Res 63,7979−7985)ウサギポリクローナル抗体(pAb)については、以前に記載した。ウサギ抗ヘマグルチニン(HA)pAb(sc−805)およびマウス抗HAモノクローナル抗体(mAb)クローン12CA5を、それぞれ、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz,CA)およびRoche Applied Science(Indianapolis,IN)から購入した。β−カテニン、E−カドヘリン(クローン36)およびフィブロネクチンに対するマウスmAbを、BD Biosciencesから購入した。使用した他のマウスmAbは、ZO−1(Zymed,South San Francisco,CA)およびビメンチン(クローンV9,Sigma,St.Louis,MO)に特異的であった。イムノブロット分析および免疫蛍光染色のための二次抗体は、それぞれ、Amersham Pharmacia Biotech(Buckinghamshire,England)製およびJackson Immuno Research Lab(West Grove,PA)製であった。Rac1およびRhoの活性化アッセイのために使用した抗体は、それぞれ、マウス抗Rac1 mAb、クローン23A8(Upstate,Lake Placid,NY)およびウサギ抗Rho pAb(Upstate)であった。
(発現ベクターおよびトランスフェクション)
pTRE2/TSLC1を得るために、TSLC1cDNAをpTRE2hygroベクター(BD Biosciences)にクローニングした。pTSLC1−HA(Masuda,M.,ら(2002)J.Biol.Chem.277,31014−31019)またはpcTSLC1(Masuda,M.,ら(2002)J.Biol.Chem.277,31014−31019)を鋳型として使用して、PCRにより短縮型TSLC1フラグメントを作製し、pTRE2 hygroベクターにクローニングした。TSLC1(ΔC−HA)の細胞質テイルを欠く変異体を作製するために、397〜422に位置するアミノ酸(aa)残基を取り除き、396位の残基を、HAエピトープタグに融合させた(図13)。短縮型変異体Δ4.1−BMおよびΔPDZ−BMを、それぞれ、プロテイン4.1−BMを包含する11 aa(400〜410)およびPDZ−BMを含有する4 aaを取り除くように設計した(図13A)。これらの構築物を、Fugene 6試薬(Roche Applied Science)を製造業者のプロトコルに従って使用して、細胞にトランスフェクトした。安定なコロニーを、300μg/mlのハイグロマイシン(Invitrogen)を含有する培地中で選択した。
(タンパク質分析)
細胞溶解物の調製およびイムノブロット分析については、以前に記載されたとおりである(Yageta,M.,ら(2002)Cancer Res 62,5129−5133)。
コラーゲンゲルにおける三次元培養および細管形成(Tubulogenesis)アッセイ)
三次元培養を、製造業者(Nitta Gelatin,Osaka,Japan)の説明書に従って実施した。細胞を、コラーゲンI混合物に添加し、穏やかに混合し、そして、12ウェルプレートに、5×10細胞/ウェルの濃度でプレートした。5日齢胚を、一般的な胚構造および、全長TSLC1の細胞内局在および欠失変異体について試験した。細管形成の誘導について、4日齢胚を、40ng/mlの組換えHGF(Sigma)を含有する新鮮な培地で刺激し、さらに4日間インキュベートし、位相差顕微鏡により試験した。全ての画像を、冷却型CCDデジタルカメラを装備するNikon Eclipse倒立顕微鏡TE300(Tokyo,Japan)で撮影した。細管形成を定量するために、嚢胞および管の面積を、NIHの画像化ソフトウェアにより算出した。統計学的有意差は、Wilcoxon順位和検定(rank sum test)により評価した。
(細胞分散アッセイ)
細胞を、1×10細胞/ウェルの濃度で、6ウェル培養プレートに撒いた。次の日、細胞に40ng/mlのHGFの存在下または非存在下にて、新鮮な培地を与え、さらに17時間インキュベートした。細胞分散を、位相差顕微鏡により試験し、上記のように写真撮影した。
(免疫染色および共焦点顕微鏡法)
二次元の極性実験について、細胞を、24mm Trans−well−COLコラーゲンコーティングフィルター挿入物(Costar,Cambridge,MA)あたり1×10細胞の濃度で撒き、コンフルエンスになるまで5〜6日間増殖させた。細胞を固定し、以前に記載されたように免疫染色した(Masuda,M.,ら(2002)J.Biol.Chem.277,31014−31019)。次いで、染色した細胞を、488/514nmアルゴンレーザーおよび543nmヘリウムネオンレーザーを装備するBio−Rad Radiance 2000レーザー共焦点走査システムで試験した。X−Z水平切片を0.2μmのモーターステップにより作製した。各画像は、単一の平均化された(32回線の走査)画像を表す。核DNAについて染色する場合、二次抗体を含有する溶液に、TOTO−3ヨージド(Invitrogen)を添加した。コラーゲンI型ゲル中の嚢胞の免疫蛍光走査を、以前に記載されたように実施した(Pollack,A.L.,ら(1997)J Cell Biol 137,1651−1662)。
(Rac1およびRhoの活性化アッセイ)
Rac1およびRhoの活性化を、それぞれ、Rac1活性化アッセイキットおよびRho活性化キット(Upstate)を、製造業者のプロトコルに従って使用して、GSTプルダウンアッセイにより決定した。簡単に述べると、細胞を、100mm培養プレートあたり100×10細胞で撒いて、一晩血清不足にした。次いで、この細胞を、種々の時間にわたって40ng/mlのHGFで刺激し、MLB溶解緩衝液中に溶解させた。溶解物から、それぞれ、グルタチオン−アガロースビーズに固定化したグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)タグ化p21活性化キナーゼ(PAK)−Rac1結合ドメイン(RBD)およびGSTタグ化Rhotekin−Rho結合ドメイン(RBD)を用いて、Rac1−GTPおよびRho−GTPを沈殿させた。総溶解物および沈殿物を、イムノブロット分析により分析した。濃度分析をNIHの画像化ソフトウェアを使用して実施した。
(結果)
(プロテイン4.1−BMおよびPDZ−BM両方が、三次元培養における嚢胞の増殖において、TSLC1の外側への局在化に必須である)
本発明者らは、以前に、TSLC1が、浸透性支持体上の極性化細胞の外側膜に分布すると報告した(Masuda,M.,ら(2002)J.Biol.Chem.277,31014−31019)。本発明者らは、細胞質ドメインまたは保存モチーフの欠失が、その外側の局在化に影響を及ぼすかどうかを試験した。欠失変異を発現する細胞の細胞質ゾルにおいて検出される点状のシグナルを除いて、野生型のTSLC1を発現する細胞においても見られるように、TSLC1の短縮型のすべてが、細胞の外側表面に集中した(図14)。三次元細胞外マトリクスにおいて、MDCK細胞は、細胞の単層により線を引かれる中空の嚢胞を形成する(O’Brien,L.E.,ら(2002)Nat Rev Mol Cell Biol 3,531−537)。本発明者らは、コラーゲンIゲル中のクローンの各々を包埋し、そして、嚢胞を形成したこれらの全てが、親のMDCK細胞に由来するものとは形態学的に識別可能であることを見出した(図16、左欄)。免疫蛍光顕微鏡法は、TSLC1が、外側膜に局在化する一方で(図15、eおよびf)、ΔC−HAは、細胞質に拡散的に検出され(図15、iおよびj)、このことは、全細胞質ドメインの短縮が、TSCL1の外側への局在化を消滅させることを示した。4.1−BMの大きなフラクションは、外側膜に分布したが、これはまた、細胞質の先端側でも検出された(図15、mおよびn)。興味深いことに、PDZ−BMを欠失することにより、その局在が、外側膜の外側表面から、外側膜の下側三分の一に、そして、基底表面に、シフトした(図15、qおよびr)。本発明者らは、接着結合のマーカーであるZO−1について、嚢胞を染色した。ZO−1は通常、親のMDCK嚢胞の内側に面する先端表面上で検出される(O’Brien,L.E.,ら(2002)Nat Rev Mol Cell Biol 3,531−537)。野生型または短縮型のTSLC1を発現する嚢胞において、ZO−1は、嚢胞の内側管腔の自由空間を描写する点として検出され(図15、c、g、k、oおよびs)、このことは、TSLC1または任意の短縮型変異の発現が、細胞の極性の配向に影響を及ぼさなかったことを示した。
(TSLC1は、HGF処理したMDCK細胞において、Rac1およびRhoの活性を調節する)
RhoファミリーのGTPaseは、HGF誘導性の細胞分散および細管形成の間の、アクチン骨格の再構成の周知の重要なメディエーターである(Kaibuchi,K.,ら(1999)Curr Opin Cell Biol 11,591−596)。以前の研究は、組織培養プレート上のMDCK細胞において、HGFは、Rac1の一過性の最初期活性化、およびRhoの持続性の活性化を湯初し、これが、細胞の分散応答と相関することを示している(Zondag,G.C.,ら(2000)J Cell Biol 149,775−782)。GST−RAK−RBDおよびGSTRhotekin−RBDのアガロースビーズを使用して、本発明者らは、親細胞が、HGFに応答して、Rac1活性の最初期増加(15分以内に基底レベルに戻った)を示し(図17A、左パネル)、ならびに、持続性のRhoの活性化を示す(図17B、左パネル)ことを確認した。対照的に、HGFで処理したMDCK/TSLC1細胞は、Rac1の活性化の延長を示し、これは、刺激の4時間後でもなお観察された(図17A、中央パネル)が、Rho活性には増加が見られなかった(図17B、中央パネル)。これらの結果は、TSLC1の発現が、HGF刺激されたMDCK細胞において、Rac1の活性化の延長およびRhoの活性化の減少を誘導することを示す。Rac1活性およびRho活性に対する、TSLC1のこの調節効果は、その細胞質ドメインに依存するようであった。MDCK/ΔC−HA細胞は、親のMDCK細胞(図17A、左パネル)と同様のRac1活性化のプロフィールを示した(図17A、右パネル)が、Rhoの持続性の活性化は、親のMDCK細胞(図17B、左パネル)よりも少ない程度に、MDCK/ΔC−HA細胞において観察された(図17B、右パネル)。結果的に、TSLC1のHGF誘発性細胞分散をブロックする能力は、Rac1活性およびRho活性に対するその調節効果から生じ得ると考えられる。
(結果)
図17の結果から、TSLC1がHGFによる培養腎細胞の遊走能を阻害することから、細胞遊走能を指標として「TSLC1活性を測定することが可能である」ことを示すといえる。TSLC1の作用を阻害する低分子化合物を探索するときの手段として利用できる可能性があるといえる。
(TSLC1、HGFによる培養腎細胞の遊走能の阻害能実験)
次に、TSLC1は、HGFによる培養腎細胞の遊走能を阻害するかどうかを確かめる実験を行った。以下にその方法を説明する。
(HGFで惹起したMDCK細胞、MDCK/TSLC1細胞、MDCK−deltaC−HA細胞における上皮、並びに間葉系マーカーの発現)
上皮接着蛋白質、並びに間葉系マーカー蛋白質の免疫蛍光染色の結果。緑のシグナルは、それぞれ上皮マーカーであるE−カドヘリン、ベータ・カテニン、間葉系マーカーであるビメンチン、フィブロネクチンを示す。青のシグナルは、TOTO−3イオダイドによる核DNAの染色を表す(グレイスケール表示では、緑が薄めに、青が濃い目に表現されている。)。スケールバーは10μmを表す。MDCK/TSLC1細胞、並びにMDCK−deltaC−HA細胞は、MDCK細胞に全長TSLC1cDNA発現プラスミド、並びに 細胞内ドメインに相当する397−442アミノ酸を欠失させたTSLC1cDNAに Hemagglutinin (HA)エピトープタグを融合させた発現プラスミドを、それぞれRoche Applied Science社のFuGENE6試薬にてトランスフェクションし、300μg/mlのハイグロマイシン含有培地で培養し、ハイグロマイシン耐性を指標として分離した。
各細胞を8穴チャンバー・スライドに播き、40ng/mlのHGFのある条件、およびない条件で、それぞれ17時間培養した。その後、細胞を固定し、免疫染色を行なった。TSLC1はウサギ抗TSLC1多クローン抗体CC2で検出した。E−カドヘリン、ベータ・カテニン、フィブロネクチンは、それぞれ、マウス抗E−カドヘリン、マウス抗ベータ・カテニン、マウス抗フィブロネクチン単クローン抗体(すべてBD bioscience社)で検出した。一方、ビメンチンはマウス抗ビメンチン単クローン抗体で検出した。免疫蛍光染色に用いた2次抗体はJackson ImmunoResearch Laboから得た。
(結果)
図18は、TSLC1は、HGFによる培養腎細胞の遊走能を阻害することを示す結果である。このことから、細胞遊走能を指標としてTSLC1活性を測定することが可能である。プレート上の培養腎細胞MDCKにHGFを加えると細胞接着が失われ、細胞は遊走し、上皮マーカーであるE−カドヘリンおよびβ−カテニンの膜発現が消失し、間葉マーカーであるビメンチンおよびフィブロネクチンが発現する。しかし、MDCK細胞にTSLC1を発現させると、この遊走能が抑制される。一方、TSLC1の細胞内ドメインを欠如させると、この抑制能は消失することが判明した。
TSLC1分子経路が活性化した浸潤性がん細胞は、葉状仮足を形成し強く接着、伸展し、洗浄処理後も接着する。TSLC1分子経路を阻害した細胞は接着、伸展せず、洗浄後は蛍光強度がコントロールレベルまですることになる。
(実施例13:スクリーニング)
まず、TSCL1の分子経路の因子を活性化する可能性のある物質を、レポータージーンアッセイを用いてスクリーニングする。
(レポータージーンアッセイ)
(方法)
リン酸緩衝化生理食塩水(PBS;10 mM リン酸塩;150 mM 塩化ナトリウム,pH 7.2〜7.3.)
ルシフェラーゼレポーターアッセイキット:溶解溶液:25mM Tris(7.5)、2mM ジチオスレイトール(DTT),10%グリセロール、1% TritonX−100;ルシフェリンミックス:20mMトリシン(Tricine)/1.07mM(MgCOMg(OH)−5HO/2.67mMMgSO/0.1mM EDTA/33.3mM DTT/270μM コエンザイム(Coenzyme)A/470μMルシフェリン/530μMATP(ニッポンジーンのピッカジーン(Code No.PGK−L100)を使用することができる)。
(使用する細胞)
小細胞肺がん細胞(初代)、MDCK2細胞など。
(培地)
これらの細胞は、適宜Dulbecco改変Eagle培地に10%ウシ胎仔血清などを用いて培養する。
(ルシフェラーゼ)
ルシフェラーゼは、蛍光(約560nm)作る酵素である。細胞内に、アッセイするタンパク質をコードした核酸配列を含むプラスミドとレポータープラスミド(ルシフェラーゼレポーター)を同時に細胞に強制発現し、レポーター活性を測定する。ルシフェラーゼ遺伝子産物の発現による蛍光を測定することにより、遺伝子発現を測定することができる。
(方法)
(1)上記プラスミドを用いて上記各々の細胞のトランスフェクションを行う。
(2)48〜72時間、上記細胞を培養する。
(3)培養上清を除去する。
(4)培養に使用されているウェルまたはディッシュを洗浄する。
(5)細胞の溶解(24穴プレートの場合、溶解溶液200μl/ウェル)。
(6)ライゼートをEppendorfチューブへうつす。
(7)脱核(遠心分離15Krpm、3分,4℃)する。
(8)上清を別のEppendorfチューブへうつす
(9)液体シンチレーションカウンターにサンプルを挿入する。
(10)ルシフェリンミックスにサンプル上清を0.5μl加える。
(11)蛍光に起因するカウントを測定する。
このようにして得られた蛍光から、TSCL1の分子経路の因子の機能の抑制または亢進を測定することができる。
(実施例14:2次スクリーニング)
実施例13において、がん細胞以外の細胞を用いて(株化細胞または初代培養細胞)、同様の実験を行う。ここで、がん細胞以外の細胞では、TSCL1の分子経路の因子の活性化効果がないか低いものを、好ましいヒットとして選択する。
(実施例15:mRNAの発現低下)
次に、別のスクリーニングの系として、小細胞肺がん初代細胞、3T3−L1、3T3−F442または他の初代培養細胞を用いて、候補薬物ライブラリーの(種々の濃度での)存在下または非存在下で、これらの細胞を培養する。
mRNAの発現は、上記実施例に記載される技術に準じて測定する。
これにより、mRNAレベルで、発現量を活性化させる化合物を測定することができる。
(実施例16:自動化)
実施例13〜15などで実施するスクリーニングは、ロボットを用いて自動化することができる。この場合、例えば、ベックマンコールターのBiomekシリーズを用いて、マイクロプレートを用いたシステムを構築するか、またはZymarkのStaccato Mini−Systemシリーズを用いてシステムを構築することができる。
このようにして得られたリード化合物は、動物実験に用いることができる。あるいは、このようなリード化合物をもとに、他の化合物を設計することができる。
(実施例17:動物実験)
実施例13〜16などで、小細胞肺がん特異的にTSCL1の分子経路の因子を活性化する可能性があることが判明した化合物について、マウス、ラットまたはサルなどの動物に投与してがん組織特異的にTSCL1の分子経路の因子 mRNA発現量またはタンパク質量を低下させる化合物をスクリーニングする。
このようなスクリーニングにより、動物において実際にがんに作用する物質をスクリーニングすることができる。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明によれば、がん(特に、小細胞肺がんおよび関連するがんまたは新生物)の診断、処置および/または予防、および/または浸潤・転移の抑制のための技術が提供される。このような技術は、医療およびその周辺(製薬メーカー、試薬メーカー)などにおいて産業上の利用可能性がある。
図1は、TSLC1によるがん細胞の浸潤性形質の誘導を示す。TSLC1 発現の欠如したがん細胞をNIH3T3単層細胞上へ重層培養し、ドキシサイクリンによりTSLC1の発現を誘導した。TSLC1は抗TSLC1抗体と二次抗体(青)で、アクチン分子はファロイジン(赤)で染色した。示されるように、TSLC1の過剰発現により、がん細胞は浸潤形質を示した。 図2は、TSLC1のRNAiを用いた発現抑制による、がん細胞の浸潤性の阻害を示す。TSLC1を高発現するがん細胞をNIH3T3単層細胞上へ重層培養し、TSLC1 siRNAを加えることにより、TSLC1の発現を抑制した。TSLC1は抗TSLC1抗体と二次抗体(緑)で、アクチン分子はファロイジン(青)で染色した。 図3は、TSLC1タンパク質とTiam1タンパク質とのin vitroでの結合を示す。in vitro転写・翻訳して作成したTiam1タンパク質、ならびに部分断片と、大腸菌にてGST融合タンパク質として作成したTSLC1細胞内断片(GST−C)ならびにそのC端9アミノ酸を欠失した断片とをGSTカラム上で結合させ、溶出断片を検出した。右端は合成したTiam1ならびにその部分断片をポリアクリルアミドゲル電気泳動にて検出した。 図4および図5は、TSLC1タンパク質とTiam1タンパク質とのin vitroでの結合を示す。培養がん細胞にV5タグ配列をつけたTiam1タンパク質を導入、発現させ、抗V5抗体、またはマウスIgG(図4)、あるいは抗TSLC1抗体、またはマウスIgG(図5)で免疫沈降し、沈降物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にて分離し、抗TSLC1抗体(図4)、ならびに抗Tiam1抗体(図5)にて検出した(ウェスタン・ブロット法)。対照として、細胞溶解物を抗TSLC1抗体、ならびに抗V5抗体で検出し(図4)、あるいは細胞溶解物と免疫沈降物を抗V5抗体で検出(図5)した。 図4および図5は、TSLC1タンパク質とTiam1タンパク質とのin vitroでの結合を示す。培養がん細胞にV5タグ配列をつけたTiam1タンパク質を導入、発現させ、抗V5抗体、またはマウスIgG(図4)、あるいは抗TSLC1抗体、またはマウスIgG(図5)で免疫沈降し、沈降物をポリアクリルアミドゲル電気泳動にて分離し、抗TSLC1抗体(図4)、ならびに抗Tiam1抗体(図5)にて検出した(ウェスタン・ブロット法)。対照として、細胞溶解物を抗TSLC1抗体、ならびに抗V5抗体で検出し(図4)、あるいは細胞溶解物と免疫沈降物を抗V5抗体で検出(図5)した。 図5Bは、浸潤性の強いがん細胞で特徴的に認められる短いTiam1(短縮型)分子を示す。浸潤性の強いがん細胞(4−8;ATL細胞)では、浸潤性の弱いがん細胞TSLC1(1−3;T−ALL細胞)と比較して、Tiam1短縮型断片が特徴的に認められる。細胞溶解液をポリアクリルアミドゲル電気泳動にて分離し、抗Tiam1抗体にて検出した(ウェスタン・ブロット法)。この短いTiam断片は、イントロン13の一部を含む、エクソン14−29に対応する新規のスプライシング・バリアントと考えられる。 図5Cでは、低分子量Tiam1 に特異的なプライマーを用いたRT−PCR法によるATLの低分子量Tiam1 RNAの検出が示される。特異的ATL細胞(4−8)では418塩基対の特異的Tiam1RNAに由来する増幅断片が検出されるが、ALL細胞(1−3)や他の細胞ではこのRNAは検出されない。 図6は、TSLC1タンパク質とTiam1タンパク質との共局在を示す。培養がん細胞でTSLC1タンパク質の発現をドキシサイクリンにて誘導し、TSLC1タンパク質とTiam1タンパク質との局在を、それぞれ抗TSLC1抗体、ならびに抗Tiam1抗体にて検出した。右端は両シグナルを合成した画像である。 図7は、TSLC1はHGFによるMDCK細胞の上皮間葉転換、遊走性、浸潤性、ならびにRac1の活性化を抑制することを示す。 図8は、TSLC1によるがん細胞での遊走性形態、浸潤能は、Rac1の優性欠失変異体により阻害されることを示す。Rac1の優性欠失変異体を導入したがん細胞、或いは導入しないがん細胞をNIH3T3単層細胞上に重層培養し、ドキシサイクリンによりTSLC1の発現を誘導した。TSLC1の発現は抗TSLC1抗体と二次抗体(青)にて、またRac1の優性変異体はGFPとの融合タンパク質として発現、検出した。 図9は、HEK293細胞におけるTSLC1、DAL−1およびMPP1〜MPP3の亜細胞局在化を示す。HEK293のコンフルエント(A)培養物または低密度(B)培養物を、免疫蛍光によって分析した。細胞を、抗TSLC1pAb(a)、抗DAL−1 pAb(bおよびa2)、抗MPP1 pAb(cおよびb2)、抗MPP2 pAb(dおよびc2)、または抗MPP3 pAb(eおよびd2)を用いて染色した。低密度の細胞もまた、抗TSLC1mAb(3E1)(B、a1〜d1、青色)およびAlexa Fluor 568色素標識ファロイジン(B、a3〜d3、赤色)を用いて染色した。矢印は、細胞の糸状足突出を示す。左の3つの欄を統合した画像が、右欄に示される(B、a4〜d4)。バー:20μm。 図10は、RNAiを使用するTSLC1発現の抑制によるHEK293細胞の細胞接着および上皮様構造の排除を示す。(A)TSLC1に対するsiRNAオリゴヌクレオチド(s1もしくはs2)またはコントロールsiRNAで処理したHEK293におけるTSLC1および関連タンパク質の免疫ブロッティング。TSLC1に対するsiRNA(s1)またはコントロールsiRNAで処理したHEK293細胞における、細胞骨格組織化を検出するため(B)、E−カドヘリンまたはZO−1の亜細胞局在化を検出するため(D)、およびDAL−1またはMPP2の亜細胞局在化を検出するため(E)の免疫蛍光分析。TSLC1、アクチンフィラメント、E−カドヘリン、ZO−1、DAL−1、およびMPP2が、抗TSLC1pAbもしくは抗TSLC1mAbを用いる染色(B、D、およびE、a1〜d1)、Alexa Fluor 568色素標識ファロイジンを用いる染色(B、a2〜c2)、抗汎カドヘリンmAbを用いる染色(D、a2およびb2)、抗ZO−1 mABを用いる染色(D、c2およびd2)、抗DAL−1 pAbを用いる染色(E、a2およびb2)、ならびに抗MPP2 pAbを用いる染色(E、c2およびd2)によってそれぞれ検出された。矢尻は、TSLC1を発現する細胞間接触部位を示し、一方、矢印は、TSLC1を欠く細胞間接触部位を示す。左および中央の欄を統合した画像が、右の欄に示される。バー;20μm。(C)コントロールsiRNAで処理したHEK293の平均面積および高さ(白色カラム)、TSLC1に対するsiRNA(s1)で処理したがTSLC1を発現するHEK293の平均面積および高さ(明灰色カラム)、およびs1で処理したTSLC1を欠くHEK293の平均面積および高さ(暗灰色カラム)を示す、ヒストグラム。上記細胞の面積および高さは、皮質アクチンフィラメント束に従って測定した。平均値および標準偏差を、3つの独立した実験に基づいて示した。それらの実験において、最小数80個の細胞を、各サンプルについて計数した。アスタリスクは、マン−ホイットニーU検定によって決定した統計的有意性(p<0.0001)を示す。 図11は、TSKC1発現を欠くNSCLC細胞におけるTSLC1複合体の構成成分の誤局在化を示す。(A)ヒトNSCLC細胞におけるTSLC1タンパク質、DAL−1タンパク質、MPP1タンパク質、MPP2タンパク質およびMPP3タンパク質の免疫ブロッティング。(B〜D)ABC−1細胞(B)、NCI−H596細胞(C)およびSK−LU−1(D)細胞における、TSLC1、DAL−1、およびMPP2の亜細胞局在化。細胞を、各タンパク質に対する特異的抗体を用いて(左)、およびAlexa Fluor 568色素標識ファロイジンを用いて二重染色し、統合した画像を示す(右)。バー;20μm。 図12は、膜近傍ドメインにおけるTSLC1複合体の模式的図示を示す。(A)TSLC1は、DAL−1タンパク質およびMPPタンパク質に結合する。MPPタンパク質のうちの一メンバーは、生物学的状況に依存してTSLC1複合体中に組み込まれる。(B)TSLC1タンパク質、DAL−1タンパク質、およびMPPタンパク質の、ドメイン構造および結合配列。TSLC1の細胞質ドメインにおける4.1結合モチーフおよびPDZ結合モチーフが、それぞれ、赤紫色文字および橙色文字にて示されている。MAGuKにおけるHOOKコンセンサス配列および塩基性アミノ酸(aa)が、それぞれ、緑色文字または下線によって示されている。 図13は、TSLC1(ΔC−HA)の細胞質テイルを欠く変異体を作製するために、397〜422に位置するアミノ酸(aa)残基を取り除き、396位の残基を、HAエピトープタグに融合させたものを示す。図13Aは、短縮型変異体Δ4.1−BMおよびΔPDZ−BMを、それぞれ、プロテイン4.1−BMを包含する11アミノ酸(400〜410)およびPDZ−BMを含有する4アミノ酸を取り除くように設計したものを示す。 図14は、欠失変異を発現する細胞の細胞質ゾルにおいて検出される点状のシグナルを除いて、野生型のTSLC1を発現する細胞においても見られるように、TSLC1の短縮型のすべてが、細胞の外側表面に集中した様子を示す。 図15は、免疫蛍光顕微鏡法による観察結果を示す。TSLC1が、外側膜に局在化する一方で(図15、eおよびf)、ΔC−HAは、細胞質に拡散的に検出され(図15、iおよびj)、このことは、全細胞質ドメインの短縮が、TSCL1の外側への局在化を消滅させることを示した。4.1−BMの大きなフラクションは、外側膜に分布したが、これはまた、細胞質の先端側でも検出された(図15、mおよびn)。興味深いことに、PDZ−BMを欠失することにより、その局在が、外側膜の外側表面から、外側膜の下側三分の一に、そして、基底表面に、シフトした(図15、qおよびr)。本発明者らは、接着結合のマーカーであるZO−1について、嚢胞を染色した。ZO−1は通常、親のMDCK嚢胞の内側に面する先端表面上で検出される(O’Brien,L.E.,ら(2002)Nat Rev Mol Cell Biol 3,531−537)。野生型または短縮型のTSLC1を発現する嚢胞において、ZO−1は、嚢胞の内側管腔の自由空間を描写する点として検出された(図15、c、g、k、oおよびs)。 図16は、コラーゲンIゲル中のクローンの各々を包埋し、そして、嚢胞を形成したこれらの全てが、親のMDCK細胞に由来するものとは形態学的に識別可能であることを示す図である。 図17は、親細胞が、HGFに応答して、Rac1活性の最初期増加(15分以内に基底レベルに戻った)を示し(図17A、左パネル)、ならびに、持続性のRhoの活性化を示す(図17B、左パネル)。対照的に、HGFで処理したMDCK/TSLC1細胞は、Rac1の活性化の延長を示し、これは、刺激の4時間後でもなお観察された(図8A、中央パネル)が、Rho活性には増加が見られなかった(図17B、中央パネル)。これらの結果は、TSLC1の発現が、HGF刺激されたMDCK細胞において、Rac1の活性化の延長およびRhoの活性化の減少を誘導することを示す。Rac1活性およびRho活性に対する、TSLC1のこの調節効果は、その細胞質ドメインに依存するようであった。MDCK/ΔC−HA細胞は、親のMDCK細胞(図17A、左パネル)と同様のRac1活性化のプロフィールを示した(図17A、右パネル)が、Rhoの持続性の活性化は、親のMDCK細胞(図17B、左パネル)よりも少ない程度に、MDCK/ΔC−HA細胞において観察された(図17B、右パネル)。 図18は、TSLC1は、HGFによる培養腎細胞の遊走能を阻害することを示す。このことから、細胞遊走能を指標としてTSLC1活性を測定することが可能である。プレート上の培養腎細胞MDCKにHGFを加えると細胞接着が失われ、細胞は遊走し、上皮マーカーであるE−カドヘリン(E−cadherin)、b−カドヘリン(b−catenin)の膜発現が消失し、間葉マーカーであるビメンチン(vimentin),フィブロネクチン(fibronectin)が発現していた。しかし、MDCK細胞にTSLC1を発現させると、この遊走能が抑制された。一方、TSLC1の細胞内ドメインを欠如させると、この抑制能は消失していた。
(配列表の説明)
配列番号1は、TSCL1をコードする核酸配列(TSLC18A+8B 型 cDNA の塩基配列)である。
配列番号2は、TSCL1のアミノ酸配列(TSLC18A+8B のアミノ酸配列)である。
配列番号3は、Tiam1をコードする核酸配列(TIAM1 cDNA の塩基配列;アクセッシ
ョン番号NM003253)である。
配列番号4は、Tiam1のアミノ酸配列(アクセッション番号NM_003253)である。
配列番号5は、Rac1をコードする核酸配列(アクセッション番号NM_006908 )であ
る。
配列番号6は、Rac1のアミノ酸配列(アクセッション番号NM_006908 )である。
配列番号7および配列番号8は、TSCL1のsiRNAの、それぞれセンス配列(5’−gtcaataagagtgacgact−3’)およびアンチセンス配列(5’−gagtgacgactctgtgatt−3’)の代表例である。
配列番号9および配列番号10は、Tiam1のsiRNAの、それぞれセンス配列(5’− CGG CGA GCU UUA AGA AGA ATT−3’)およびアンチセンス配列(5’− UUC UUC UUA AAG CUC GCC GTT −3’)である。
配列番号11は、コントロールのsiRNAの配列(5’−UCAGCAGUGAGAAUAACUG−3’)である。
配列番号12は、Rac1の優先欠失改変体の核酸配列(配列番号5における291番目の核酸がAになっている。)を示す。
配列番号13は、Rac1の優先欠失改変体のアミノ酸配列(配列番号6における17番目のアミノ酸がNになっている。)を示す。
配列番号14は、KLHと融合したTSLC1のカルボキシル末端の18アミノ酸の合成ポリペプチド(INAEGGQNNSEEKKEYFI)を示す。
配列番号15は、TSLC1の細胞質ドメインのアミノ酸配列(RYFARHKGTYFTHEAKGADDAADADTAIINAEGGQNNSEEKKEYFI)を示す。配列番号16は、TSLC1の細胞質ドメインのΔ4.1−BM欠失体(RYFA−−−−−−−−−−−KGADDAADADTAIINAEGGQNNSEEKKEYFI)を示す。
配列番号17は、TSLC1の細胞質ドメインのΔPDZ−BM欠失体(RYFARHKGTYFTHEAKGADDAADADTAIINAEGGQNNSEEKK)を示す。配列番号18および配列番号19は、TSCL1のsiRNAの、それぞれセンス配列およびアンチセンス配列の別の例である。
配列番号20は、TSLC1の特異的合成オリゴヌクレオチド配列である。
TTCGCCATGCTGTGCTTGCTCA
配列番号21は、Tiam1の短縮型の代表例である核酸配列(イントロン13の一部およびエクソン14−29に対応)を増幅するためのフォワードプライマーである。
配列番号22は、Tiam1の短縮型の代表例である核酸配列(イントロン13の一部およびエクソン14−29に対応)を増幅するためのリバースプライマーである。
配列番号23は、Tiam1の短縮型の代表例である核酸配列(イントロン13の一部およびエクソン14−29に対応)である。
配列番号24は、Tiam1の短縮型の代表例であるアミノ酸配列(エクソン14−29に対応)である。
配列番号25は、Tiam1の短縮型の代表例である核酸配列(イントロン13の一部およびエクソン14−29に対応)を増幅するためのフォワードプライマーの核酸配列である。
配列番号26は、Tiam1の短縮型の代表例である核酸配列(イントロン13の一部およびエクソン14−29に対応)を増幅するためのリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号27は、配列番号25および配列番号26のプライマー対により増幅される断片の核酸配列である。
配列番号28は、Tiam1の短縮型の代表例である核酸配列(イントロン13の一部およびエクソン14−29に対応)を増幅するためのフォワードプライマーである。
配列番号29は、Tiam1の短縮型の代表例である核酸配列(イントロン13の一部およびエクソン14−29に対応)を増幅するためのリバースプライマーである。
配列番号30は、配列番号28および配列番号29のプライマー対により増幅される断片の核酸配列である。

Claims (12)

  1. 小細胞肺がんの転移および/または浸潤を抑制する組成物であって、TSLC1のRNAi、TSLC1に対する抗体、もしくはTSLC1の優性欠失変異体を含む、前記組成物。
  2. 前記抑制は、TSLC1の過剰発現を抑制する、請求項1に記載の組成物。
  3. 前記TSLC1は、配列番号1に示す核酸配列またはその改変体によってコードされるか、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその改変配列を有する、請求項1または2に記載の組成物。
  4. 前記TSLC1のRNAiは、配列番号7および配列番号8に示す配列を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
  5. 小細胞肺がんの抑制因子をスクリーニングする方法であって、
    A)候補物質を提供する工程;
    B)該候補物質をTSLC1の分子経路のアッセイ系に供する工程;
    C)該候補物質の内、TSLC1の分子経路においてTSLC1発現を抑制する因子を同定し、該抑制因子を、小細胞肺がんを抑制する因子であると決定する工程
    を包含する、方法。
  6. 前記候補物質は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
  7. 小細胞肺がんの診断薬であって、TSLC1のタンパク質レベルまたはmRNAレベルの発現量をELISA法、蛍光抗体法、ウエスタンブロット法、免疫組織染色法、ノーザンブロット法、ドットブロット法、およびPCR法からなる群から選ばれるいずれかの測定法を用いて測定するための試薬を含む、前記診断薬。
  8. 前記試薬として、配列番号1に示す配列の核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸分子を含む、請求項7に記載の診断薬。
  9. 前記試薬として、配列番号2に示す配列のポリペプチドに対する抗体を含む、請求項7に記載の診断薬。
  10. 前記試薬として、配列番号1に示す配列の核酸分子の全部または一部を増幅するように設計されたプライマーを含む、請求項7に記載の診断薬。
  11. 前記試薬として、配列番号1に示す配列の核酸分子の全部または一部に相補的な配列となるように設計されたプローブを含む、請求項7に記載の診断薬。
  12. 前記試薬として、TSLC1遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む、請求項7に記載の診断薬。
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