図1に示したサーマルプリンタ1は、サーマルヘッド2、搬送機構30,31A,31B,32A,32Bおよび駆動手段4を備えたものである。このサーマルプリンタ1は、搬送機構30,31A,31B,32A,32Bによって、感熱紙や被記録部材(例えば、後述する熱転写フィルムと紙等からなる)などの記録媒体5を、サーマルヘッド2に接触させた状態で図中の矢印D1方向に搬送させる。以降、サーマルヘッド2における搬送方向D1に対応する方向を、副走査方向とする。サーマルヘッド2上の記録媒体5との接触領域E1(図8等を参照)には、複数の発熱部23が設けられており、画像信号に応じて各発熱部23を個別に発熱させることにより記録媒体5への画像記録が可能とされている。サーマルヘッド2において、複数の発熱部23は副走査方向に直行する特定方向(図中のD2−D3方向)に沿って並んで配置されている。以降、この特定方向(図中のD2−D3方向)を、主走査方向とする。サーマルヘッド2は、ファクシミリ、バーコードプリンタ、ビデオプリンタあるいはデジタルフォトプリンタなどの画像記録デバイスとして用いられるものである。
図2ないし図6に示したように、このサーマルヘッド2は、基板20、グレーズ層21、耐エッチング層22、複数の発熱部23と、複数の第1導体層24および複数の第2導体層25とからなる電極と、保護層26および駆動IC27、および補助層28(下流側補助層28A、上流側補助層28B)、ダミー電極層29を備えている。なお、図5は、図4に示すA−A´線で切断した際の、サーマルヘッド2の側断面図である。
基板20は、各要素21〜27の支持母材として機能するものである。この基板20は、アルミナセラミックスなどの電気絶縁性材料によって長矩形状に形成されている。このようなアルミナセラミックス製の基板20は、たとえば熱伝導率が25W/m・K程度とされる。
グレーズ層21は、発熱部23において発熱したジュール熱の一部を蓄積し、サーマルヘッドの熱応答特性を良好に維持する作用を有するものである。すなわち、グレーズ層21は、発熱部23の温度を、画像記録に必要な所定の温度まで短時間で上昇させる蓄熱層として作用するものである。このグレーズ層21は、たとえばガラスにより基板20の長手方向D2−D3に延びる帯状に形成されているとともに、曲率半径1mm〜4mm、頂点高さが20μm〜160μmの断面円弧状に形成されている。このようなガラス製のグレーズ層21は、たとえば熱伝導率が0.99/m・K程度とされる。グレーズ層21は、例えば樹脂により形成してもよい。
なお、グレーズ層21は、図5に示すように、基板表面に部分的に凸状に形成されていてもよく、また図7(a)に示したようにグレーズ層21′のように一様な厚みを有する全面グレーズとして、あるいは図7(b)に示したグレーズ層21″ように全面グレーズ21A″上に部分グレーズ21B″を形成した形態であってもよい。
耐エッチング層22は、発熱部23や第1および第2導体層24,25A,25Bをエッチングによりパターン形成するときにグレーズ層21を保護するためのものである。この耐エッチング層22は、たとえば窒化珪素(Si3N4)やサイアロン(Si・Al・O・N)などのSi−N系やSi−N−O系の無機材料により形成されている。
複数の発熱部23は、記録媒体に対して熱エネルギを付与するために発熱させられる部分であり、たとえばTaN、TaSiOあるいはTiSiOなどの電気抵抗材料によりに形成されている。発熱部23は、第1および第2導体層24,25を利用した電圧の印加よりジュール発熱を起こし、記録媒体5に画像を形成するのに必要な所定の温度、たとえば200℃〜350℃の温度に発熱させられる。
これらの発熱部23は、従来周知のスパッタリング法及びフォトリソグラフィー技術を採用することによってグレーズ層21上にパターンに形成することより、たとえば厚みが0.01μm〜0.5μmとしてグレーズ層21上に列状に並ぶように形成されている。
複数の第1および第2導体層24,25は、発熱部23に電圧を印加するために利用されるものであり、たとえばアルミニウムあるいはアルミニウム合金により、厚みが0.5μm〜2.0μmに形成されている。これらの導体層24,25は、従来周知のスパッタリング法及びフォトリソグラフィー技術を採用することによって、以下に説明するパターンに形成されている。
各第1導体層24は、各々が少なくとも2つの発熱部とを接続する連結部を構成する。このような第1導体層24は、グレーズ層21上に形成された接続部24Aおよび折り返し部24Bを有している。接続部24Aは、発熱部23と接触する部分であり、発熱部23と同程度の主走査方向長さを有している。折り返し部24Bは、隣接する発熱部23を繋ぐ部分であり、コの字状に形成されている。この折り返し部24Bは、接続部24Aにおける主走査方向の中央部分から副走査方向に直線状に延出する部分24Baを有している。この部分は、副走査方向の長さが主走査方向の長さよりも小さくされており、当該部分24Baは、低熱伝導部を構成している。
複数の第2導体層25は、入力用導体層25Aおよびグランド用導体層25Bを含んでいる。入力用導体層25Aは、グレーズ層21上に形成された接続部25Aaおよび低熱伝導部25Abを有している。グランド用導体層25Bは、グレーズ層21上に形成された接続部25Baおよび低熱伝導部25Bbを有している。接続部25Aa,25Baは、発熱部23と接触する部分であり、発熱部23と同程度の主走査方向長さを有している。低熱伝導部25Ab,25Bbは、接続部24Aa,25Baにおける、主走査方向の中央部分から延出しており、副走査方向の長さが接続部25Aa,25Ba(発熱部23)の主走査方向の長さよりも小さくされている。
サーマルヘッド2では、第1導体層24および第2導体層25から発熱部23に電圧を印可し、発熱部23にジュール熱を発生させる。この際、発熱部23において発生したジュール熱の一部は、第1および第2導体層24,25に伝達される。サーマルヘッド2では、第1および第2導体層24,25に低熱伝導部24Ba,25Ab,25Bbが形成されている。低熱伝導部24Ba,25Ab,25Bbは、接続部24A,25Aa,25Ba(発熱部23)よりも主走査方向の長さが小さくされている。そのため、サーマルヘッド2では、発熱部23において発生したジュール熱が第1および第2導体層24,25A,25Bに伝達するのを抑制できる。
サーマルヘッド2ではさらに、第1導体層24が折り返し部24Bを有しており、この折り返し部24Bによって第1導体層24への伝熱、第1導体層24での放熱を抑制することが可能となる。すなわち、第1導体層24は、たとえば折り返し部24Bによって隣接する発熱部23相互を接続するものとされる。この場合、折り返し部24Bには、隣接する2つの発熱部23からの熱が伝達されることとなる。1つの発熱部23から伝達される場合には、第1導体層24において熱の流れが生じやすいが、折り返し部24Bの両端部(接続部24A)のそれぞれにおいて、2方向から熱が伝達される場合には、熱の流れが生じにくくなる。その結果、隣接する発熱部23を繋ぐ折り返し部24Bを有する構成では、第1導体層24への伝熱、第1導体層24での放熱を抑制することが可能となる。
このように、サーマルヘッド2ひいては後述のサーマルプリンタ1では、第1および第2導体層24,25に低熱伝導部24Ba,25Ab,25Bbを形成し、また折り返し部24Bを有するものとすることにより、第1および第2導体層24,25A,25Bにおける放熱を抑制し、発熱部23において発生したジュール熱を発熱部23において有効に利用できる。このため、発熱部23を所望の温度に発熱させるのに必要な電力を少なくすることが可能となる。とくに、第1および第2導体層24,25がアルミニウムまたはアルミニウム合金により形成され、第1および第2導体層24,25における熱伝導性が高くなり得る場合には、低熱伝導部24Ba,25Ab,25Bbを形成し、折り返し部24Bを有するものとすることによる第1および第2導体24,25A,25B層における放熱の抑制、必要電力の低減効果は大きなものとなる。また、必要電力を低減することができれば、ランニングコストを抑制することも可能となる。本発明のサーマルヘッドにおいて、低熱伝導部の形態は、図3および図4に示す形態に特に限定されない。
なお、本発明のサーマルヘッドでは、電極の連結部の形状は、特に限定されない。例えば、本発明のサーマルヘッドにおいて、必ずしも導電層が低熱伝導部を備えている必要はなく、また、本発明のサーマルヘッドでは、複数の第1導体層を連結する部分が、コの字型の折返し形状(折返し部)であることに限定されない。
図5に示したように、保護層26は、発熱部23、第1および第2導体層24,25を保護するためのものである。より具体的には、保護層26は、発熱部23、第1および第2導体層24,25が大気と接触するのを防止して大気中の水分などにより腐食するのを防止し、それらの要素23,24,25を外力から保護し、あるいはそれらの要素23,24,25が短絡するのを防止するためのものである。この保護層26は、耐エッチング層22と同種の材料、たとえば窒化珪素(Si3N4)やサイアロン(Si・Al・O・N)などのSi−N系やSi−N−O系の無機材料により形成されている。
本実施形態のサーマルヘッド2では、補助層28として、下流側補助層28Aおよび上流側補助層28Bが設けられている。下流側補助層28Aは、記録媒体5との接触領域E1の、発熱部23よりも搬送方向のより下流側の部分領域に、主走査方向に沿ってそれぞれ離間した状態で複数配列されている。より詳しくは、下流側補助層28Aは、搬送方向のより下流側の、隣り合う第1導体層24の間隙領域42にそれぞれ配置されている。一方、上流側補助層28Bは、記録媒体5との接触領域E1の、発熱部23よりも搬送方向のより上流側の部分領域に、主走査方向に沿ってそれぞれ離間した状態で複数配列されている。より詳しくは、上流側補助層28Bは、搬送方向のより上流側の、隣り合う第2導体層25の間隙領域44にそれぞれ配置されている。なお、ここで接触領域E1とは、サーマルヘッド2が備えられて構成されたサーマルプリンタ1を用いた画像記録動作の最中、記録媒体5とサーマルヘッド2とが接触する部分に対応する領域である(後述の図8参照)。本実施形態のサーマルヘッド2では、保護層24が最表面層となっており、記録媒体5と保護層24とが接触する。本発明における接触領域とは、最表面層のみでなく、基板上に設けられた各層を含んだ部分を表している。
下流側補助層28Aは、接触領域E1の、発熱部23よりも下流側の温度を主走査方向に沿って均一化し、接触領域E1において記録媒体に温度分布が生じることを抑制する。下流側補助層28Aは、さらに、接触領域E1の、発熱部23よりも上流側の凹凸の程度
を、比較的低いレベルに抑制する。下流側補助層28Aは、また、記録媒体5における加熱部分(発熱部23によって加熱された部分)と搬送方向の下流側で接触して、加熱によって生じた若干の皺を平坦化する。上流側補助層28Bは、接触領域E1の、発熱部23よりも上流側の温度を主走査方向に沿って均一化し、接触領域E1において記録媒体に温度分布が生じることを抑制する。さらに、上流側補助層28Bが設けられているので、接触領域E1の、発熱部23よりも上流側の凹凸の程度を、比較的低いレベルに抑制している。補助層28(下流側補助層28Aおよび上流側補助層28B)の作用および効果については、後に詳述する。
本発明では、各補助層は、隣り合う電極の間隙に対応する位置に、それぞれ少なくとも一部が配置されていればよく、この限りにおいて、伝熱補助層の配置位置に関しては限定されない。ただし、グレーズ層が突状部分を有する場合など、記録媒体の皺をより確実に防止するには、この突状部分に対応する対応領域E2(図4、図5など参照)に伝熱補助層が設けられていることが好ましい。この点についても、後に詳述する。
なお、サーマルヘッド2では、各補助層28(下流側補助層28Aおよび上流側補助層28B)は、画像記録中に記録媒体5と接触する表面が平坦となっている。ここで平坦とは、補助層28の厚さの変動(最も厚い部分と最も薄い部分との差)が1.0μm以下であることをいう。なお、本発明のサーマルヘッドにおいて、補助層28の厚さの変動(最も厚い部分と最も薄い部分との差)は、0.1μm以下であることが好ましい。なお、補助層28の厚さとは、補助層28の1つ下層の表面(本実施形態では、発熱抵抗体層)に垂直な垂線に沿った補助層28の長さであり、より具体的には、上記垂線と上記下層の表面との交点と、上記垂線と補助層28の表面との交点との間隔のことをいう。補助層28の表面が平坦であることで、保護層26の凸形状部の表面も、十分に平坦なものとなる。本発明において、伝熱層の起伏の大きさは、上記範囲に特に限定されない。ただし、記録媒体に発生する皺をより確実に防止する点で、伝熱層の起伏の大きさは上記範囲にあることが好ましく、起伏はなるべく小さいことが好ましい。
本実施形態の補助層28は、第1および第2導体層24、25の形成時に、第1および第2導体層24とともにパターニングされて形成されている。すなわち、本実施形態の補助層28は、第1および第2導体層24、25と同じ材料、例えばアルミニウムあるいはアルミニウム合金で構成されており、良好な熱伝導性を有する。本発明の補助層は、第1および第2導体層と同時に形成されることに限定されず、また、第1および第2導体層と同じ材料で構成されていることに限定されない。この点については、後に詳述する。
ダミー電極29は、補助層28よりも記録媒体の搬送方向の下流側に設けられている。ダミー電極29は、主に、基板エッジのチッピングを防止することに寄与する。ここで、チッピングとは、基板エッジ部分で生じる膜剥がれ現象を総称して指し、主に基板エッジからの保護膜の剥がれのことをいう。すなわち、ダミー電極29は、保護層26とその下地層(例えば図7の場合、抵抗体層23)との間に設けられ、保護層26と下地層との密着強度を補強することに寄与する。なお、上記チッピングは、サーマルヘッドの製造工程中、例えばダイシングなどによって複数のサーマルヘッドを切り分ける最中において多発するが、ダミー電極29は、このダイシング工程において発生するチッピングを防止する効果も奏する。
本実施形態のダミー電極29は、第1および第2導体層24、25の形成時に、第1および第2導体層24、25とともにパターニングされて形成されている。すなわち、本実施形態のダミー電極29も、第1および第2導体層24、25と同じ材料、例えばアルミニウムあるいはアルミニウム合金で構成されており、良好な熱伝導性を有する。ダミー電極29は、主走査方向に沿って延びた長方形状をなしており、サーマルヘッド2における主走査方向に沿った温度分布を低減することに、少なからず寄与する。ダミー電極29の材質および形成方法については、特に限定はされない。
駆動IC27は、外部より入力される画像記録信号に基づいて発熱部23を選択的にジュール発熱させるためのものである。すなわち、駆動IC27は、画像記録信号に基づいて第1および第2導体層24,25A,25Bを介して発熱部23に印加される電圧のオン・オフを制御するものである。駆動IC27は、図面上省略されているが、半田やボンディングワイヤを介して第2導体層25A,25Bに導通接続されている。
図1に示した搬送機構30,31A,31B,32A,32Bは、記録媒体5をD1方向に搬送し、記録媒体5をサーマルヘッド2の発熱部23に接触させるためのものである。この搬送機構3は、プラテンローラ30、搬送ローラ31A,31B,32A,32Bを含んでいる。
プラテンローラ30は、記録媒体5を発熱部23に押し付けるためのものであり、発熱部23に接触した状態で回転可能に支持されている。このプラテンローラ30は、円柱状の基体の外表面を弾性部材により被覆した構成を有している。基体は、たとえばステンレスなどの金属により形成されており、弾性部材は、たとえば厚みが3mm〜15mmのブタジエンゴムにより形成されている。
搬送ローラ31A,31B,32A,32Bは、記録媒体5を所定の経路に沿って搬送するためのものである。すなわち、搬送ローラ31A,31B,32A,32Bは、サーマルヘッド2の発熱部23とプラテンローラ30との間に記録媒体5を供給するとともに、サーマルヘッド2の発熱部23とプラテンローラ30との間から記録媒体5を引き抜くためのものである。これらの搬送ローラ31A,31B,32A,32Bは、金属製の円柱状部材により形成してもよいし、プラテンローラ30と同様に円柱状の基体の外表面を弾性部材により被覆した構成であってもよい。
駆動手段4は、駆動IC27に画像記録信号を入力するためのものである。すなわち、駆動手段4は、発熱部23を選択的にジュール発熱させるために、第1および第2導体層24,25A,25Bを介して発熱部23に印加される電圧のオン・オフを制御するための画像記録信号を供給するためのものである。
以下、サーマルプリンタ1の動作について説明する。サーマルプリンタ1では、搬送ローラ31A,31B,32A,32Bによって、プラテンローラ30とサーマルヘッド2の発熱部23との間に記録媒体5が供給される。図8は、図1を部分的に拡大して示す図であり、サーマルヘッド2における接触領域E1の近傍の拡大断面図である。図8で示す記録媒体5は、インクリボン5aと被記録紙5bとからなる。記録媒体5は、プラテンローラ30によって発熱部23に押し付けられた状態で、プラテンローラ30に沿ってD1方向に搬送される。記録媒体5は、弾性部材により表面が被服されたプラテンローラ30によってサーマルヘッド2に押し付けられており、記録媒体5とサーマルヘッド2とは、発熱部23のみならず上記接触領域E1の範囲で接触する。
接触領域E1には、発熱部23を挟んで、搬送方向(副走査方向)の下流側および上流側の双方に、補助層28(下流側補助層28Aおよび上流側補助層28B)が設けられている。記録媒体5は、搬送方向の上流側において、第2導体層25のみならず、上流側補助層28Bにも押し付けられつつ移動する。また、記録媒体5は、搬送方向の下流側において、第1導体層24のみならず、下流側補助層28Aにも押し付けられつつ移動する。記録媒体が、接触領域において電極のみならず補助層に押し付けられて移動するのは、図2〜図7に示すインクジェットヘッドのいずれの形態であっても、また記録媒体が例えば感熱紙など他の形態であっても、同様である。
記録媒体5が搬送されている最中、サーマルプリンタ1では、駆動手段4によって駆動IC27に画像記録信号が供給される。駆動IC27は、画像記録信号に基づいて発熱部23に印加される電圧のオン・オフを制御し、目的とする発熱部23を選択的に発熱させる。この際、インクリボン5aのうち、発熱した発熱部23に対応する部分に含まれるインクが溶融し、溶融したインクが被記録紙5bに転写される。サーマルプリンタ1では、このようにして、記録媒体5(より詳しくは、被記録紙5b)に、文字やイラスト等の所望の画像パターンを形成して記録する。
上述のように、本実施形態のサーマルヘッド2では、低熱伝導部を有することで、発熱部23において発生したジュール熱の、第1および第2導体層24,25への伝達が、ある程度抑制され、画像記録における必要電力は最小限に抑えられる。しかし一方、各低熱伝導部(25Ab,25Bb、24Ba)は、主走査方向の長さが接続部(25Aa,25Ba,24A)の主走査方向の長さよりも小さくされているので、隣り合う第1導体層24の間隙領域42や、隣り合う第2導体層25の間隙領域44が、比較的大きくなる。このため、仮に補助層28が配置されていない場合では、間隙領域42や間隙領域44が、発熱部23や各導体層に比べて比較的低い温度となってしまう。すなわち、低熱伝導部を有することで、接触領域E1には、主走査方向に沿った温度分布が比較的生じやすくなっているといえる。
記録媒体を構成するインクリボン5aは、加熱されることで膨張し冷却することで収縮する。インクリボン5aと接触する部分の温度に分布が生じていれば、この温度分布に応じてインクリボン5aの膨張および収縮の程度も異なることになる。仮に補助層28が設けられていない場合は、サーマルヘッド2の接触領域E1には主走査方向に沿った温度分布が定常的に生じているので、この膨張・収縮の程度の違いに起因した部分的な皺が、インクリボン5aに発生してしまう。
本実施形態のサーマルヘッド2では、隣り合う第1導体層24の間隙領域42に下流側補助層24Aが、隣り合う第2導体層25の間隙領域44に上流側補助層28Bが、それぞれ設けられているので、間隙領域42および間隙領域44のいずれにも、発熱部23の発熱による熱エネルギーが良好に伝わる。このように、サーマルヘッド2では、補助層28を有しているので、間隙領域42および間隙領域44の温度が比較的小さくなることを防止することができ、サーマルヘッド2表面の、特定方向に沿った温度分布の発生を抑制することができる。ひいては、サーマルヘッド2では、搬送中の記録媒体5に、サーマルヘッドの温度分布に起因した皺が発生することを防止することができる。
また、サーマルヘッド2では、隣り合う第2導体層25の間隙領域44に、上流側補助層25Bが設けられているので、接触領域E1における第2導体層25に対応する表面と、間隙領域44に対応する部分の表面とが、ほぼ同じ位置に形成される。同様に、サーマルヘッド2では、隣り合う第1導体層24の間隙領域42に、下流側補助層25Aが設けられているので、接触領域E1における第1導体層24に対応する表面と、間隙領域42に対応する部分の表面とが、ほぼ同じ位置に形成される。図9は、図4に示すB−B´線で切断した際の、サーマルヘッド2の断面図である。図9に示すように、サーマルヘッド2では、下流側補助層28Aが配置されているので、間隙領域42に対応する部分の表面と、第1導体層24の折返し部24Bに対応する部分の表面とで、基板からの高さの差は殆ど発生していない。同様に、サーマルヘッド2では、上流側補助層28Bが配置されているので、間隙領域44に対応する部分の表面と、第2導体層25に対応する部分の表面とで、基板からの高さの差は殆ど発生していない。
仮に、下流側補助層28Aが設けられていない場合、接触領域E1のうち間隙領域42に対応する部分の表面は、折返し部分24Bに対応する領域の表面に比べて、主面からの高さが顕著に低くなる。すなわち、下流側補助層28Aが設けられていない場合、接触領域E1の表面には、比較的大きな凹凸が形成されることになる。接触領域E1の表面に比較的大きな凹凸が形成されていれば(すなわち、接触領域E1の表面形状分布が大きければ)、この凹凸に起因して記録媒体の皺も生じやすくなる。
上流側補助層28Bについても同様であり、上流側補助層28Bが設けられていない場合、搬送される記録媒体5には、このような接触領域E1表面の凹凸に起因した皺が、比較的発生し易くなっているといえる。さらに、接触領域E1には、プラテンローラー30によって記録媒体5が押し付けられており、発熱部23近傍では特に高い押圧力がかかっている。仮に、上流側補助層28Bがない場合、記録媒体5はプラテンローラー30によって押し付けられながら、第2導体層25の第2導体層25の接続部(25Aa、25Ba)によって形成された段差25E(図8等参照)を乗り越えるように搬送されることになる。このため、仮に、上流側補助層28Bがない場合、第2導体層25の接続部(25Aa、25Ba)の段差25Eに接触する部分では、他の部分に比べて記録媒体5の引っ掛かりが生じやすく、皺等も比較的発生し易くなる。本実施形態のサーマルヘッド2では、下流側補助層28Aおよび上流側補助層28Bを備えることで、接触領域E1における表面形状の分布(表面の凹凸の程度)を十分小さくし、接触領域の凹凸に起因した皺が発生することを防止している。このように、電極に低熱伝導部を有するサーマルヘッドでは、必要電力は最小限に抑えられる一方、上記温度分布および上記形状分布に起因した皺が比較的生じやすいといえるが、サーマルヘッド2では、補助層28によって、上記温度分布および上記形状分布のいずれも十分に低減し、記録媒体の皺の発生を、確実に防止することを可能としている。
さらに、下流側補助層28Aは、発熱部23に対し、記録媒体の搬送方向に沿ってより下流側に設けられている。下流側補助層28Aは、さらに、発熱部23の搬送方向下流側でインクリボン5aに押し付けられることで、発熱部23の温度分布に起因して生じたインクリボン5aの若干の皺を平坦化させる。発熱部23の近傍部分に設けられた下流側補助層28Aは、インクリボン5aのインクを溶融させるまでではないが、十分に高い温度となる。また、下流側補助層28A(および上流側補助層28B)の表面は、厚さ方向の起伏の大きさ(最凸部と最凹部との差)が例えば0.1μm以下と平坦化されている。このような下流側補助層28Aの表面に押し付けられてインクリボン5aが搬送されることで、発熱部23や間隙44において生じたインクリボン5aの皺は平坦化される。
本実施形態では、下流側補助層28Aおよび上流側補助層28Bは、いずれも、グレーズ層21の突状部に対応する領域E2内に配置されている。領域E2は、発熱部23および各導体層(第1導体層24および第2導体層25)から、多くの熱エネルギーが伝搬して蓄熱される領域である。この領域E2は、多くの熱エネルギーが伝搬するので、温度が上昇し易く、同時に主走査方向の温度分布が生じ易い。各補助層28を、この領域E2に配置することで、比較的温度分布が大きくなり易い領域E2であっても、温度分布を十分に低減することができる。また、各補助層28に十分な量のエネルギーが供給されるので、下流側補助層28Aを十分高温に昇温させ、十分に皺を平坦化させることを可能としている。
また、サーマルヘッド2には、ダミー電極29も配置されている。ダミー電極29は主走査方向に延在しており、接触領域E1における主走査方向の温度分布を低減させることに、少なからず寄与している。また、記録媒体5のインクリボン5aが、ダミー電極29にも押し当てられつつ搬送させれば、下流側補助層28Aに加えてダミー電極29においても皺を平坦化させることができる。なお、ダミー電極29は、下流側補助層28Aよりも記録媒体5の搬送方向の下流側に設けられており、記録媒体における皺の発生防止および平坦化に対するダミー電極29の寄与度は、下流側補助層28Aに比べて低い。サーマルヘッド2では、各補助層を有しているだけでも、記録媒体における皺の発生防止および平坦化について、十分な効果を有する。
本実施形態のサーマルヘッド2を有して構成されたサーマルプリンタ1では、インクリボン5aにおける皺の発生を抑制することができる。ひいては、本実施形態のサーマルヘッドによれば、インクリボンの皺に起因して生じる記録紙への印刷不良を防止することができる。本発明のサーマルヘッドによれば、電極に低熱伝導部を有することで必要電力を最小限に抑えるとともに、低熱伝導部に起因する温度分布や形状分布(表面の凹凸)によって生じた皺を予防し、さらには、発生した若干の皺を平坦化することができる。本発明のサーマルプリンタを備えて構成された、本発明のサーマルプリンタによれば、少ない消費電力で、記録媒体の皺による装置エラーが発生することなく、記録媒体に高画質な画像を記録することができる。
以降、本発明のサーマルヘッドの伝熱補助層の他の実施形態について、いくつかの例を挙げて説明しておく。図10(a)および(b)は、それぞれ、本発明のサーマルヘッドの伝熱補助層の他の実施形態である。なお、図10(a)および(b)では、図3および4に示す第1の実施形態のサーマルヘッド2と同様の構成については、図3および図4と同じ符号を用いて説明している。本発明のサーマルヘッドでは、図10(a)に示すように、発熱部23に対して搬送方向の上流側にのみ補助層が設けられていてもよく、また、図10(b)に示すように、発熱部23に対して搬送方向のより下流側にのみ補助層が設けられていてもよい。図10(a)および図10(b)のいずれの実施形態でも、補助層が設けられていない場合に比べて、記録媒体に生じる皺を十分に防止することができる。しかし、記録媒体に生じる皺を、より確実に防止するには、発熱部23に対して搬送方向の上流側および下流側の双方に、補助層を設けることが好ましい。
また、図11は、本発明のサーマルヘッドの伝熱補助層の実施形態の1つであり、図3および4に示す形態とは異なる形態を示す。なお、図11では、図3および4に示す第1の実施形態のサーマルヘッド2と同様の構成については、図3および図4と同じ符号を用いて説明している。図11に示す実施形態では、下流側補助層28Aは、間隙32内に一部が配置され、この一部以外の部分は、間隙32によりも搬送方向の下流側に突出している。
接触領域E1における温度分布の程度は、発熱部23の形状や熱特性、第1導体層24(折返し部24Bや接続部24A)の形状や材質、グレーズ層21など接触領域の層構造や材質や形状、また、印可する電圧の大きさや電圧印可時間など、様々な要因によって決まるものである。これら要因の組み合わせによっては、図11に示すように、下流側補助層28Aの少なくとも一部を、間隙領域42に対して搬送方向のより下流側に突出させることで、発熱部23に対応する領域のみならず接触領域E1全体について、温度分布を十分に低減することができる場合もある。また、下流側補助層28Aの少なくとも一部を、さらに、接触領域E1のより下流側にまで突出させることで、温度分布をさらに低減することができる場合もある。また、同様に、上流側補助層28Bの少なくとも一部を、接触領域E1に対して搬送方向のより上流側に突出させることで、発熱部23に対応する領域のみならず接触領域E1全体について、温度分布を十分に低減することができる場合もある。なお、下流側補助層28Aや上流側補助層28Bの主走査方向の幅を、各間隙領域から副走査方向に沿って離間するにしたがって小さくしてもよい(図示せず)。このようにすることで、突出部分が記録媒体をガイドするように働き、記録媒体の搬送方向の変動を抑制し、記録媒体における皺の発生を抑制する効果がある。
また、図12は、本発明のサーマルヘッドの実施形態の1つであり、図3および4に示す形態、および図11に示す形態とは異なる例である。なお、図12でも、図3および4に示す第1の実施形態のサーマルヘッド2と同様の構成については、図3および図4と同じ符号を用いて説明している。図12に示す実施形態では、下流側補助層28Aは、間隙領域42によりも搬送方向の下流側に突出した突出部52が設けられている。加えて、下流側補助層28の突出部52には、特定方向(主走査方向)に張り出した張出部54が設けられている。図12に示す実施形態のように、特定方向(主走査方向)に張り出した張出部54が設けられていることで、主走査方向に沿った温度分布をより十分に低減することが可能となる。また、図12に示す実施形態では、主走査方向に張出した張出部54を有し、主走査方向に比較的長く連続した下流側補助層28Aに押しつけられつつ副走査方向に移動するので、発熱部23近傍と接触して搬送されることで生じた記録媒体5の皺を、効果的に平坦化することができる。
また、図13は、本発明のサーマルヘッドの実施形態の1つである。なお、図13でも、図3および4に示す第1の実施形態のサーマルヘッド2と同様の構成については、図3および図4と同じ符号を用いて説明している。図13に示す実施形態では、1つの第1導体層24において3方が囲まれた領域内、すなわち、発熱部23の搬送方向下流側の端部を通る直線と第1導体層24とで囲まれた閉塞領域55内それぞれに、補助層56を配置してもよい。このような閉塞領域55内に補助層を配置することで、接触領域E1における温度分布および形状分布をより十分に低減することが可能である。
なお、図11に示す実施形態および図12に示す実施形態のいずれでも、補助層は、発熱部に対して、搬送方向の上流側および下流側の少なくともいずれか一方に設けられていればよい。また、図13に示す実施形態でも、補助層は、搬送方向の上流側および下流側および上記閉塞領域内の、いずれか1つに設けられていればよい。本発明のサーマルヘッドでは、隣り合う電極の間隙に配置された補助層を備えていればよく、補助層の形状は、上述の各実施形態のいずれかに限定されるものではない。上述のように、接触領域における温度分布の程度は、種々の要因に応じて変わるので、これらの要因に応じた最適な形状の伝熱補助層を選択して用いればよい。
なお、上述の実施形態では、上記補助層28(下流側補助層28Aおよび上流側補助層28B)は、第1および第2導体層24、25の形成時に、第1および第2導体層24とともにパターニングされて形成され、第1の導体層24および第2の導体層25と同様の材質で構成されている。本発明の補助層は、第1および第2導体層と同時に形成されることに限定されず、また、第1および第2導体層と同じ材料で構成されていることに限定されない。すなわち、本発明では、補助層を、電極とは異なる材質としてもよい。例えば、少なくとも2つの発熱部と接続した第1導体層(電極)と、各第1導体層との間隙に設けられた補助層とでは、発熱部からの熱エネルギーの伝達の程度は大きく異なる。このため、補助層の形状によっては、電極と補助層とで、ある程度の温度の相違が発生する場合もある。このような場合、補助層を上記電極とは異なる材質で作成することで、また、電極とは異なる層に補助層を設けることで、熱特性(伝熱特性や放熱の特性)を、電極の熱特性に略一致させることもできる。すなわち、補助層を電極とは異なる材質とすれば、補助層の熱特性の設計の自由度を大きく向上させることができ、ひいては、記録媒体との接触領域における温度分布を、十分に低減させることができる。なお、補助層のみを形成のための特別な工程(作業)を経ることなく、比較的低いコストで補助層を形成可能とする点では、補助層を第1および第2導体層と同時に形成することが好ましい。本願発明においては、上述の各要因に応じて、補助層の材質や、伝熱補助層の形成層を選択すればよい。
なお、上述の実施形態では、特に記録媒体5として、インクリボンと紙とからなる被記録体を用いた。本願発明においては、記録媒体として、例えば感熱紙など1枚のシート体を搬送する場合においても、同様の効果を奏する。例えば感熱紙も、加熱の程度に応じて保持層自体が軟らかくなる性質を有している。例えば記録媒体が感熱紙の場合も、接触領域で温度分布が生じていると、搬送中の感熱紙の軟らかさにも温度分布が発生する。本願発明によれば、伝熱層を有することで、搬送の最中、例えば感熱紙など各種記録媒体における皺の発生を抑制するとともに、搬送中に発生した皺を平坦化することができる。
以上、本発明のサーマルヘッドおよびサーマルプリンタについて説明したが、本発明のサーマルヘッドおよびサーマルプリンタは上記実施例に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。