JP5127299B2 - スポット溶接用電極 - Google Patents
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特許文献1に、Cu又はCu合金からなる電極本体の被溶接材に当接する当接面に、W又はMo若しくはそれらを基材とする合金からなる芯材を、芯材/当接面の面積比率が0.7〜3.0になるように埋設した電極を提案している。また、この電極では、芯材となるW又はMo若しくはそれらを基材とする合金に、2a族元素,4a族元素又は希土類元素の酸化物,窒化物,炭化物及び硼化物から選ばれる少なくとも一種以上の微粒子を、0.5〜10体積%の割合で分散させている。
さらに、特許文献3に、二重構造のスポット溶接用電極として、芯材に、2a族元素,4a族元素,5a族元素,6a族元素,希土類元素の酸化物,窒化物,炭化物,ホウ化物から選ばれる少なくとも一種以上の化合物からなり、融点が2400℃以上で、平均粒子径が2μm以下の微粒子が、合計で0.5〜10体積%分散されたWを基材とする合金を用いたものを提案している。
また、WやMoは、それ自身が硬質であるが故に、スポット溶接する際の電極加圧時の衝撃でクラックが発生しやすい等、破損しやすいという欠点も有している。しかしながら、衝撃を受けた際のクラックの発生・伝播等も、添加微粒子による転位のピン止め作用により抑制することができている。微粒子添加により、芯材が部分的に大きく欠落することがなくなり、通電路の拡大が抑制されてほぼ一定のナゲット径が得られるようになる。このような効果により、結果として、従来のCu合金材質の電極と比べて大幅に電極寿命が改善されている。
さらに、前記特許文献はスポット溶接用電極として記されているが、めっき金属との反応性や通電路の拡大抑制といった電極寿命改善の特性は、何れの抵抗溶接法でも発揮されるものである。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、加熱,加圧が繰返し加えられるスポット溶接用の電極として、使用面での脱粒損耗,欠損を抑制し、耐久性を安定的に高めたW若しくはMo系の電極を安価に提供することを目的とする。
W又はMo若しくはそれらを基材とする合金には、2a族元素,4a族元素,5a族元素,6a族元素又は希土類元素の酸化物,窒化物,炭化物及びホウ化物から選ばれる少なくとも一種以上の微粒子を分散させたものであってもよい。これらの微粒子としては、平均粒子径が2μm以下のものを合計で0.5〜10質量%の割合で分散させたものが好ましい。
また、電極本体の被溶接材に当接する当接面に、芯材を、芯材/当接面の面積比率が0.7〜3になるように埋設することが好ましい。
まず、溶接時の二重電極芯材先端部の損耗状況を観察すると、図2に模式的に示すように、芯材の先端では、先端から垂直方向に伸びたクラックが芯材の径方向に伸展したクラックと連結することで、芯材の先端表面の粒子が脱落し、欠損していくことがわかる。
このような状態のままでW棒材を電極の芯材に用いると、溶接時に電極先端部に加熱,加圧による応力が繰返し加わって、前記残留応力との相乗作用で、溶接の初期の段階からクラックが発生し、徐々に伸展して行くものと推測される。
したがって、電極先端に生じる損耗,欠損の発生を抑制するためには、クラックの伸展及びクラックの連結を抑えることが有効であり、当初の残留応力を極力排除しておくことが有効であると推測される。
ところで、スポット溶接用の電極芯材に用いられるW棒材の加工残留応力量は、常温での硬さを評価することにより大よそ推定することができる。スエージング加工等の強加工が施されたW棒材の断面硬さは通常HV450程度であるのに対して、十分な焼きなまし処理が施された後にあってはHV300弱程度となる。
この値を超えると、残留応力の低減が不十分で、比較的初期段階からの二重電極の芯材先端にクラックが発生する虞がある。逆にHV300を下回るほどまで焼きなますと電極としての使用の際に先端径が拡大し、比較的短時間で電極寿命を迎えることになる。
なお、Mo若しくはMoを基とする合金を二重電極の芯材とした場合では、同様に、HV180〜260の範囲に調整しておくことが好ましい。
すなわち、スエージング加工により金属組織を繊維状組織とすることは、クラックの伸展方向をより垂直方向に向かわせるために、脱粒を抑制する意味では極めて有効である。しかしながら、前記したように、大きい加工残留応力に起因する弊害をもたらす。焼きなましの熱処理を施すと繊維状組織に変化が生じる。繊維状組織が完全に消滅し、粒状組織にまでなってしまうと、径方向のクラック伸展により脱粒が起こりやすくなって、芯材先端部の損耗が大きくなってしまう。また、焼きなましの熱処理を施すと結晶粒も大きくなる。
アスペクト比が1.5に満たないと二重電極の芯材先端で脱粒が起きやすくなる。また、横断面平均粒子径は50μmに満たないと、粒子が脱落しやすくなったり、電気抵抗が大きくなったりして芯材の損耗が激しくなる。
また、加熱しながらスエージング加工することにより本発明のスポット溶接用電極の芯材材料を製造する場合は、W又はMoは体心立方格子の結晶構造を有し、もともと展性延性がある材料でなく脆性材料であり、塑性加工がし難く、脆性延性遷移温度(約400℃)を超える温度以上で加工してもW又はMo粒子が延びきれず、途中で切断されてしまいアスペクト比が50となるまでしか加工できない。なお、コスト的な側面をも考慮すると、加工温度を抑え、そのアスペクト比は20程度を上限とすることが現実的である。
めっき金属との合金化反応を抑制させるためには、W系又はMo系の金属・合金中に2a族元素,4a族元素,5a族元素,6a族元素又は希土類元素の酸化物,窒化物,炭化物及びホウ化物から選ばれる少なくとも一種以上の微粒子を分散させることが好ましい。
微粒子分散は、芯材に生じがちな微細割れを抑制する上でも有効である。
W系又はMo系の金属・合金中に分散させた微粒子は、芯材が衝撃を受けた際の割れの伝播をピン止めする作用を発揮し、結果的に耐衝撃性に優れ、割れ発生を抑制する。
また、含有させる微粒子の粒子径は、2μm以下にすることが好ましい。2μmを超える微粒子を含有させると熱膨張率の差によって芯材の破壊の起点になりやすい。
W系又はMo系の金属・合金は、Cuと比較してめっき金属に対する合金化反応性は低い。したがって、図4に示す、芯材径bが当接面の径aよりも大きいと、周囲材であるCu材がめっき金属と接触することはなく、Cuとめっき金属との間で合金化反応を起こすことはない。芯材/当接面の面積比率が1よりも小さい芯材面積であれば、周囲材はめっき金属と接触するが、接触面積を少なくしておけば、周囲材とめっき金属との合金化による変形が拡径を起こすまでには到らず、電極全体としてその先端部形状を変形させることにはならない。
一般に、W系又はMo系の金属・合金は、焼結法で製造される。本発明のW系又はMo系の金属・合金も焼結法で製造される。通電焼結法を採用することが好ましい。
なお、通電焼結体からなるW系又はMo系の金属・合金にあっては、10〜200ppm程度のK(カリウム)を、酸化物,窒化物,金属K,炭化物或いは硼化物の形態でドープされたものが多用されている。本明細書中では、W系又はMo系の金属・合金としてはKドープのものも包含していることを付言しておく。
得られた棒状の金属・合金に焼きなましの熱処理を施す。
その条件としては、W系の金属・合金の場合、非酸化性雰囲気中、1400〜3000℃で1秒以上1時間以下の処理が好ましい。また、Mo系金属・合金の場合、非酸化性雰囲気中、980〜2100℃で1秒以上1時間以下の処理が好ましい。
加熱しながらスエージング加工することにより、本発明のスポット溶接用二重電極の芯材を製造する場合、横断面平均粒子径を50μm以上にするには、最初のスエージング加工の工程で粒成長させて横断面平均粒子径を50μm近傍まで成長させて、その後再結晶温度以上の熱処理により横断面平均粒子径を50μm以上にする方法と、スエージング加工では粒成長が十分でなくても、後工程の熱処理で粒成長させて横断面平均粒子径を50μm以上とするようにすればよい。効果的に粒成長をさせて必要な粒径にするには、HIP(熱間静水圧)処理をスエージング加工工程の前後に入れるとよい。粒成長には、再結晶化エネルギーを与えるための温度と圧力と時間のファクターが効いている。
また、アスペクト比を1.5以上にするには、スエージング加工工程で少なくとも延性脆性遷移温度(約400℃)以上にして、脆性破壊が起こらないように加工圧力を適切にかけ数回の加工を実施することが好ましい。
二重電極を取り囲む周囲材の銅または銅合金には、通常の純銅、あるいはCu−Cr合金、Cu−Cr−Zr合金等が使用される。
芯材を銅材からなる周囲材に埋め込む態様も、従来法をそのまま適用できる。穿った孔に芯材を圧入しても良いし、ロウ材を介して挿し込んでも良い。或いは焼き嵌めを行っても良いし、芯材を銅材で鋳包んだ後冷間鍛造を施しても良い。芯材と周囲材が密に接合されていれば、電気伝導,熱伝導の点で問題になることはない。
二重構造の電極構造体を形成した後、先端に切削加工又は研削加工を施して、DR形状等、所要の形状に整えれば十分である。
供試材として、Zn−6%Al−3%Mg合金めっきを片面当り60g/m2で施した板厚0.7mmの2枚のZn−Al−Mgめっき鋼鈑を用いた。電極として、先端直径が6mm,全体直径が16mmのDR形で、先端直径6mmの部分に曲率半径40mmの円弧と他の部分に曲率半径8mmの円弧を付与した二重構造の電極であって、芯材3に、純度99.95%のW粉末を通電燒結した後にスエージング加工とセンターレス研磨を行って直径6mmとし、非酸化性雰囲気中、1400〜3000℃の温度範囲及び1秒以上1時間以下の範囲で種々変更した各種条件の熱処理を施して組織,硬度を変えた後に周囲材2の純Cuに埋め込んだものを使用した。なお、表2中、最下段に記載のものは、熱処理を施さず、センターレス研磨までを施した比較例である。
表1に示す条件で連続打点のスポット溶接を行った。そして、形成されたナゲット径を測定し、ナゲット径が4√t=3.35(tは板厚)を下回るものを溶接不良として電極寿命を求めた。
その結果を表2に示す。
これに対して、熱処理の温度が低すぎたり、或いは時間が短すぎたりすると、アスペクト比は1.5以上を維持するものの、横断面平均粒子径を50μm以上にすることはできず、このような芯材を用いると、先端面で脱粒が起こり、10000打点までのスポット溶接は行えなかった。また、処理温度が高すぎたり、或いは処理時間が長すぎたりすると、アスペクト比が小さくなりすぎたり、横断面平均粒子径が大きくなりすぎたりする傾向が見られ、このような芯材を用いると、硬度が低くなって芯材の変形が大きくなり、所望の電極寿命は得られなかった。
尚、本実施例では、芯材の形状として円柱状のものを用いたが、角柱状、多角柱状のものでも同様の結果となった。
実施例1と同様、供試材として、Zn−6%Al−3%Mg合金めっきを片面当り60g/m2で施した板厚0.7mmの2枚のZn−Al−Mgめっき鋼板を用いた。電極として、先端直径が6mm,全体直径が16mmのDR形で、先端直径6mmの部分に曲率半径40mmの円弧と他の部分に曲率半径8mmの円弧を付与した二重構造の電極であって、芯材3に、純度99.95%のMo粉末を通電燒結した後にスエージング加工とセンターレス研磨を行って直径6mmとし、非酸化性雰囲気中、980〜2100℃の温度範囲及び1秒以上1時間以下の範囲で種々変更した各種条件の熱処理を施して組織を変えた後に周囲材2の純Cuに埋め込んだものを使用した。なお、表3中、最下段に記載のものは、熱処理を施さず、センターレス研磨までを施した比較例である。
実施例1と同じ条件で連続打点のスポット溶接を行い、実施例と同じ評価を行った。
その結果を表3に示す。
これに対して、熱処理の温度が低すぎたり、或いは時間が短すぎたりすると、アスペクト比は1.5以上を維持するものの,横断面平均粒子径を50μm以上にすることはできず、このような芯材を用いると、先端面で脱粒が起こり、10000打点までのスポット溶接は行えなかった。また、処理温度が高すぎたり、或いは処理時間が長すぎたりすると、アスペクト比が小さくなりすぎたり、横断面平均粒子径が大きくなりすぎたりする傾向が見られ、このような芯材を用いると、硬度が低くなって芯材の変形が大きくなり、所望の電極寿命は得られなかった。
尚、本実施例では、芯材の形状として円柱状のものを用いたが、角柱状、多角柱状のものでも同様の結果となった。
粒子径0.5μmのCeO2粉末を種々の配合割合で分散させたWを芯材とし、電極寿命に及ぼすCeO2粉末の含有量の影響を調査した。
芯材にCeO2粉末を含有させた以外は、実施例1と同じであり、芯材の熱処理を1600℃×30分の条件として、アスペクト比が1.7、横断面平均径が100μm、常温硬度がHV380の芯材特性とした。
これに対して、CeO2粉末含有量が0.5質量%未満でもアスペクト比と横断面粒子径の効果で電極寿命は10000打点以上となったが、芯材先端には比較的多くのめっき金属が堆積していた。また、CeO2粉末含有量が10質量%を超えると寿命改善作用が消滅していた。これは、電極先端へのめっき金属の堆積量が多くなり、電極と被溶接材での電気抵抗が高くなってナゲット形成が不十分になってしまうためと予測される。
尚、本実施例では、芯材の形状として円柱状のものを用いたが、角柱状、多角柱状のものでも同様の結果となった。
粒子径と材質を種々変更した微粒子を、1質量%分散させたWを芯材として電極寿命を調査した。
芯材の特性及び溶接条件は、実施例3と同じである。
表5に示す結果からわかるように、粒子径が2μm以下の微粒子をWに分散させた場合は、電極寿命が大幅に延びた。電極寿命の改善は、2A族元素,4A族元素,5A族元素,6A族元素又は希土類元素の化合物である限り、微粒子の種類に拘らず有効であった。
また、CeO2の微粒子の粒子径を0.5〜3μmで変更した場合は、粒子径が2μm以下で電極寿命の改善効果が見られた。
尚、本実施例では、芯材の形状として円柱状のものを用いたが、角柱状、多角柱状のものでも同様の結果となった。
Wからなる芯材の芯材径を種々変更して、電極寿命に及ぼす芯材/当接面の面積比率の影響を調査した。
芯材径を種々変更すること以外は、実施例1と同じであり、芯材の熱処理を1600℃×30分の条件として、アスペクト比が1.7,横断面平均径が100μm、常温硬度がHV380の芯材特性とした。
表6に示す結果からわかるように、芯材/当接面の面積比率を0.7〜3になるように埋設した電極では、電極先端形状の形状変化が少なく、確実に、10000打点を超えるスポット溶接が行えた。
粒子径が0.5μmのCeO2粉末を1質量%含有させたWからなる芯材の芯材径を種々変更して、電極寿命に及ぼす芯材/当接面の面積比率の影響を調査した。
芯材に粒子径が0.5μmのCeO2粉末を1質量%含有させること以外は、実施例5と同じである。
表7に示す結果からわかるように、芯材に微粒子を含有させた場合にも、芯材/当接面の面積比率を0.7〜3になるように埋設した電極では、電極先端形状の形状変化が少なく、確実に、10000打点を超えるスポット溶接が行えた。
Claims (7)
- Cu又はCu合金からなる電極本体の被溶接材に当接する当接面にW又はMo若しくはそれらを基材とする合金からなる芯材を埋設した二重構造の電極であって、前記W又はMo若しくはそれらを基材とする合金が、横断面平均粒子径が50μm以上であり、かつアスペクト比が1.5以上になるように軸方向に伸びた組織を有することを特徴とするスポット溶接用電極。
- 芯材が、焼結とスエージング加工、並びにその後に焼きなましの熱処理が施され、繊維状組織を有する請求項1に記載のスポット溶接用電極。
- 芯材が、W若しくはWを基材とする合金からなり、常温の硬度がHV300〜430である請求項1又は2に記載のスポット溶接用電極。
- 芯材が、Mo若しくはMoを基材とする合金からなり、常温の硬度がHV180〜260である請求項1又は2に記載のスポット溶接用電極。
- 芯材を構成する合金中に、2a族元素,4a族元素,5a族元素,6a族元素又は希土類元素の酸化物,窒化物,炭化物及びホウ化物から選ばれる少なくとも一種以上の微粒子が0.5〜10質量%の割合で分散されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のスポット溶接用電極。
- 分散された微粒子が、平均粒子径が2μm以下である請求項5に記載のスポット溶接用電極。
- 電極本体の被溶接材に当接する当接面に、芯材を、芯材/当接面の面積比率が0.7〜3になるように埋設した請求項1〜6のいずれか1項に記載のスポット溶接用電極。
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