JP5123720B2 - 耐熱性に優れた電気電子部品用銅合金板 - Google Patents
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本発明が規定する100個未満の原子からなる前記原子の集合体は、現時点では、公知の3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡を用いてのみ、測定可能である。3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡(3DAP:3D Atom Probe Field Ion Microscope 、以下3DAPとも略記する)は、電界イオン顕微鏡(FIM)に、飛行時間型質量分析器を取り付けたものである。このような構成により、電界イオン顕微鏡で金属表面の個々の原子を観察し、飛行時間質量分析により、これらの原子を同定することのできる局所分析装置である。また、3DAPは、試料から放出される原子の種類と位置とを同時に分析可能であるため、原子の集合体の構造解析上、非常に有効な手段となる。このため、前記した通り、磁気記録膜や電子デバイスあるいは鋼材の組織分析に使用されている。
を利用して、イオンの到達場所を示す、2次元マップに適宜深さ方向の座標を与え、解析ソフトウエア「IVAS」を用いて、3次元マッピング(3次元での原子構造:アトムマップの構築)を行う。これによって、前記試料先端の3次元アトムマップが得られる。
但し、これら3DAPによる原子の検出効率は、現在のところ、前記イオン化した原子のうちの50%程度が限界であり、残りの原子は検出できない。この3DAPによる原子の検出効率が、将来的に向上するなど、大きく変動すると、本発明が規定する原子の集合体の平均個数密度(個/μm3 )の3DAPによる測定結果が変動してくる可能性がある。したがって、この原子の集合体の平均個数密度の測定に再現性を持たせるためには、3DAPによる原子の検出効率は約50%と略一定にすることが好ましい。
本発明では、請求項で規定する原子の集合体(クラスター)を、少なくともFe原子かP原子かのいずれかを含むとともに、これらFe原子とP原子との互いに隣り合う原子同士の距離が0.90nm以下であって、かつCu原子とFe原子とP原子との合計個数が15個以上、100個未満で構成されるものと定義し、その平均個数密度(個/μm3 )を測定、評価する。ここで、前記した互いに隣り合う原子とは、Fe原子とP原子との異なる原子同士だけではなく、Fe原子同士、P原子同士でも良い。この点、例えばFe原子かP原子のいずれかが検出されずに0個であっても、Fe原子同士かP原子同士かのいずれかが、前記隣り合う距離(0.90nm以下)と、個数(15個以上、100個未満)とを満たせば、本発明で定義する原子の集合体とし、本発明で定義する原子の集合体として平均個数密度にカウントする。
り具体的には、Fe原子とP原子の両方か、あるいはFe原子かP原子のいずれかの原子を必ず含む。そして、これらFe原子とP原子との異なる原子同士、Fe原子同士、P原子同士の、互いに隣り合う原子同士の距離が0.90nm以下で、かつCu原子とFe原子とP原子との合計個数が15個以上、100個未満で構成されるものを言う。それゆえ、前記3DAP分析により測定する際に、仮に、前記隣り合う距離内の原子の個数が前記個数密度を満たしていたとしても、この原子の集合体が、Fe原子やP原子をいずれも含まないものであれば、本発明が規定する原子の集合体ではなく、カウントしない。また、これらFe原子とP原子との互いに隣り合う原子同士の距離が、大きく離れすぎた場合には、原子の集合体であるとは言えない。
本発明では、以上のような定義によって規定され、前記3DAP分析により測定される原子の集合体を、Cu−Fe−P系銅合金板組織中に、5×104 個/μm3 以上の平均密度で含むこととする。これによって、Cu−Fe−P系銅合金板の耐熱性を向上させることができる。即ち、本発明が規定する前記原子の集合体が多いほど、耐熱性を向上させることができる。
を15個以上、100個未満としたのは、この合計個数が15個未満では、サイズが10Å未満となり、小さすぎて、熱活性下での転位移動のピン止め力が小さくなるからである。一方で、この原子の集合体を構成する、Cu原子とFe原子とP原子との合計個数が100個以上では、原子の集合体が粗大すぎて、耐熱性を向上させる、熱活性下での転位移動のピン止め力を最大化する効果が少なくなるからである。
本発明では、半導体リードフレーム用などとして、引張強度が500MPa以上、硬さが150Hv以上、導電率が50%IACS以上である高強度化と優れた耐熱性とを併せて達成する。このために、Cu−Fe−P系銅合金板として、質量%で、Feの含有量が0.01〜0.50%の範囲、前記Pの含有量が0.01〜0.15%の範囲とした、残部Cuおよび不可避的不純物からなる基本組成とする。
Feは、Pとともに、本発明が規定する前記100個未満の原子からなる原子の集合体を形成して、強度や耐熱性を向上させる元素である。Feの含有量が0.01%未満では、後述する最適な本発明製造方法によっても、本発明が規定する前記100個未満の原子からなる原子の集合体の密度が不足し、耐熱性が低下する。このため、Feの含有量は0.01%以上、好ましくは0.05%以上の含有が必要である。但し、0.50%を超えて、より厳しくは0.40%を超えて、Feを過剰に含有させると、Feの酸化物、晶出物、析出物などの化合物が粗大化する。その結果、耐熱性だけでなく強度や曲げ加工性も低下する。また、前記した従来技術のように、導電率やAgメッキ性も低下する。したがって、Feの含有量は0.01〜0.50%の範囲、好ましくは0.05〜0.40%の範囲とする。
Pは、Feと本発明が規定する前記100個未満の原子からなる原子の集合体を形成して、強度や耐熱性を向上させる元素である。また、それ以外でも、通常、Feなどの他の元素と微細な析出物を形成して、強度や耐熱性を向上させるのに必要な元素である。また、Pは脱酸剤としても作用する。Pの含有量が0.01%未満では、最適な本発明製造方法によっても、本発明が規定する前記100個未満の原子からなる原子の集合体の密度が不足し、耐熱性が低下する。また、これよりも大きなP系の析出物粒子も不足し、耐熱性が低下するため、0.01%以上の含有が必要である。但し、0.15%を超えて過剰に含有させると、P化合物が粗大化し、却って耐熱性が低下するし、強度や熱間加工性も低下する。したがって、Pの含有量は0.01〜0.15%の範囲とする。好ましくは、0.02〜0.14%の範囲とする。
Znは、リードフレームなどに必要な、銅合金のはんだ及びSnめっきの耐熱剥離性を改善する。Znの含有量が0.005%未満の場合は所望の効果が得られない。一方、3.0%を超えるとはんだ濡れ性が低下するだけでなく、導電率の低下も大きくなる。したがって、選択的に含有させる場合のZnの含有量は、用途に要求される導電率とはんだ及びSnめっきの耐熱剥離性とのバランスに応じて(バランスを考慮して)、0.005〜3.0%の範囲から選択する。
Snは、銅合金の強度向上に寄与する。Snの含有量が0.001%未満の場合は高強度化に寄与しない。一方、Snの含有量が多くなると、その効果が飽和し、逆に、導電率の低下を招く。したがって、選択的に含有させる場合のSn含有量は、用途に要求される強度(硬さ)と導電率のバランスに応じて(バランスを考慮して)、0.001〜5.0%の範囲から選択して含有させることとする。
Mn、Mg、Caは、溶解原料としてリードフレーム銅合金スクラップを使用した際などに、混入しやすい。これらは、粗大な晶出物や酸化物を生成して、強度や耐熱性を低下させるだけでなく、導電率も低下させる不純物である。しかし、少量の含有が銅合金の熱間加工性の向上に寄与する場合もある。したがって、これらの元素は、総量で1.0%以下の含有は許容する。
次に、本発明銅合金板の製造方法について以下に説明する。本発明銅合金板の製造工程自体は、最終の冷間圧延の圧下率や最終の低温焼鈍条件を除き、常法により製造できる。即ち、成分組成を調整した銅合金溶湯の鋳造、鋳塊面削、均熱、熱間圧延、そして冷間圧延と焼鈍の繰り返しにより最終(製品)板を得る。但し、本発明銅合金板が、強度、耐熱性などの必要な特性を得るためには、好ましい製造条件があり、以下に各々説明する。
本発明が規定する前記100個未満の原子からなる原子の集合体は、銅合金板の製造工程における、最終の低温焼鈍で生成させる。このため、最終の低温焼鈍で、本発明が規定する前記原子の集合体の密度を満たす銅合金板の組織とするためには、前工程である最終の冷間圧延の圧下率とともに、この最終の冷間圧延から、続く最終の低温焼鈍までの時間を調整する必要がある。
前記した本発明銅合金組成の鋳塊の鋳造の際には、大規模溶解炉であるシャフト炉での高生産性な造塊が可能である。但し、銅合金溶解炉での合金元素の添加完了から鋳造開始までの所要時間を1200秒以内とし、更に、鋳塊の加熱炉より鋳塊を抽出してから熱延終了までの所要時間を1200秒以下と、できるだけ短時間とすることが好ましい。
最終冷間圧延は通常の3〜4回のパス数で行なう。但し、本発明が規定する前記100個未満の原子からなる原子の集合体の密度を満たす、銅合金板の組織とするためには、先ず、最終の冷間圧延の圧下率を60%以上と大きくする。これによって、本発明が規定する前記原子の集合体の核となる原子空孔の数が増加し、後の最終の低温焼鈍で、前記原子の集合体が生成して、本発明が規定する前記原子の集合体の密度を満たす銅合金板の組織とすることができる。
また、最終低温焼鈍において、銅合金板の組織を、本発明が規定する前記原子の集合体の密度を満たすものとするためには、この最終の冷間圧延終了後(最終パス終了後)から、最終の低温焼鈍(板の昇温)開始までの所要時間を60分以内の短時間とする必要がある。即ち、これら各工程間における、板が室温で保持される所要時間を60分以内の短時間とし、最終の冷間圧延終了後から、最終低温焼鈍開始までの時間をできるだけ短くする必要がある。
最終の低温焼鈍において、本発明が規定する前記100個未満の原子からなる原子の集合体を生成させる。最終の低温での焼鈍においては、原子の集合体の核となる原子空孔を、Cu、Fe、Pの各原子の拡散によって閉塞(トラップ)させ、前記原子の集合体を生成させ、本発明が規定する前記原子の集合体の密度を満たす銅合金板の組織とする。この最終の低温焼鈍は、連続焼鈍炉(実体温度200〜500℃で10〜60秒程度)、バッチ焼鈍炉(実体温度100〜400℃で1〜20時間程度)のどちらでも可能である。
前記供試材について、前記した3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡と分析解析ソフトとを用いた、前記測定条件方法により、少なくともFe原子かP原子かのいずれかを含むとともに、これらFe原子とP原子との互いに隣り合う原子同士の距離が0.90nm以下であって、かつCu原子とFe原子とP原子との合計個数が15個以上、100個未満で構成される原子の集合体の平均密度(×104 個/μm3 )を求めた。
前記供試材長手方向が板材の圧延方向に対し直角方向となるように、機械加工にてJIS5号引張試験片を作製した。そして、5882型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度10.0mm/min、GL=50mmの条件で、引張り強さを測定した。なお、測定は、板の長手方向の任意の箇所から採取した前記供試材4個について行い、引張り強さはこれらの平均値とした。
前記供試材をミーリングにより幅10mm×長さ300mm の短冊状の試験片に加工して、JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により、供試材の電気抵抗を測定した。そして、平均断面積法により供試材の導電率を算出した。測定は、板の長手方向の任意の箇所から採取した前記供試材4個について行い、導電率はそれらの平均値とした。
前記供試材の硬さ測定は、松沢精機社製のマイクロビッカース硬度計(商品名「微小硬度計」)を用いて0.5kgの荷重を加えて行った。測定は、板の長手方向の任意の箇所から採取した前記供試材4個について行い、硬さはそれらの平均値とした。
前記供試材の耐熱性は、焼鈍による硬さの低下度合いで評価した。焼鈍後の硬さの測定は、前記供試材を500℃で1分間焼鈍後に水冷し、この供試材の平均硬さを前記した方法で測定して、前記焼鈍前の供試材の平均硬さからの低下量を求めた。この測定と低下量との算出は、前記硬さを測定した供試材4個について各々行い、硬度低下量はこれらの平均値とした。
Claims (4)
- Fe:0.01〜0.50%、P:0.01〜0.15%を各々含有し、残部銅および不可避的不純物からなる銅合金板であって、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体を含み、この原子の集合体は、少なくともFe原子かP原子かのいずれかを含むとともに、これらFe原子とP原子との互いに隣り合う原子同士の距離が0.90nm以下であって、かつCu原子とFe原子とP原子との合計個数が15個以上、100個未満で構成されるものであり、この原子の集合体を5×104 個/μm3 以上の平均密度で含むことを特徴とする耐熱性に優れた電気電子部品用銅合金板。
- 前記銅合金板が、更に、質量%で、Sn:0.005〜5.0%を含有する請求項1に記載の電気電子部品用銅合金板。
- 前記銅合金板が、更に、質量%で、Zn:0.005〜3.0%を含有する請求項1または2に記載の電気電子部品用銅合金板。
- 前記銅合金板の引張強度が500MPa以上、硬さが150Hv以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気電子部品用銅合金板。
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