本発明において、基材上に多孔質層を有する積層体、及び基材を有しない多孔質膜のいずれについても、連通性の低い独立した多数の微小孔からなる多孔質層に特徴がある。前記多孔質層における微小孔の平均孔径は0.01〜10μmである。平均孔径が0.01μmより小さいものは本発明の方法では製造が困難であり、平均孔径が10μmを超える場合には多孔質層中で孔径分布を均一に制御することが困難になる。
多孔質層が連通性の低い独立した微小孔からなるという特徴は電子顕微鏡による観察により、判断することができる。多くの場合、多孔質層表面からの観察により球形状の小室の存在が判断でき、また多孔質層断面の観察により、球形状の壁に囲まれた小室の存在を確認することができる。
基材を有しない多孔質膜、及び貫通孔を多数有する基材を用いた多孔膜積層体に関しては、透気度(ガーレー値)を測定することにより連通性が低いことを判定することが可能である。透気度(ガーレー値)の値が大きいほど空気の透過性が低いことを意味し、つまり微小孔の連通性が低いことを意味する。ガーレー値としては30秒/100cc以上であれば微小孔の連通性が低いと判断できる。
基材が樹脂フィルム、又は金属箔である多孔膜積層体に関しては、無孔の基材が多孔質層の片面を塞いでいるため、そのままでは透気度により微小孔の連通性の低さを判断することはできない。そこで、高分子溶液を基材上に流延し、その後これを凝固液中に浸漬して濡れている時点で、強制的に基材から剥離させた多孔質膜を乾燥させた後に(ポリイミド前駆体等の多孔質膜の場合はさらにイミド化処理も実施される)、透気度を測定することで微小孔の連通性を判断することができる。
基材と多孔質層の密着性が高く、剥離させることが困難な場合は、相対的に易剥離性の基材(例えばニチアス株式会社製のテフロン(登録商標)シート「商品名:ナフロンシート」、または三菱樹脂株式会社製の4 フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂の積層シート「商品名:フルオロージュRL」等、高分子溶液の種類によって適当なものを選択することができる)上に高分子溶液を流延することによって得た多孔質膜についての透気度(ガーレー値)で代用することが可能である。
また、膜厚が薄すぎて剥離が困難であったり、測定作業が困難な場合は、取り扱い可能な厚みの多孔質膜を使って透気度を測定後、目的の厚みの多孔質膜の透気度を換算により求めてもよい。多孔質膜の厚みとその透気度の値は比例関係が成り立つので、換算が可能である。
まず、本発明の多孔質層積層体について説明する。
本発明の多孔質層積層体は、基材と、前記基材の少なくとも片面上の高分子で構成されている多孔質層とを含む積層体であって、
前記多孔質層における微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜80%であり、前記微小孔は、連通性の低い独立微小孔である、積層体である。
本発明の多孔質層積層体は、例えば、下記方法に基づくテープ剥離試験:
積層体の多孔質層表面に24mm幅の寺岡製作所社製マスキングテープ[フィルムマスキングテープNo.603(#25)]をテープ一端から50mmの長さ分貼り付け、貼り付けられた前記テープを、直径30mm、200gf荷重のローラー(Holbein Art Materials Inc.社製、耐油性硬質ゴムローラーNo.10)で圧着し、その後、引張試験機を用いてテープ他端を剥離速度50mm/分で引っ張り、T型剥離を行う:
を行ったとき、前記基材と前記多孔質層との間で界面剥離を起こさないものである。すなわち、基材と多孔質層とが、上記テープ剥離試験で界面剥離が起こらない程度の層間密着強度で直接的に積層されていることを意味している。
本発明の多孔膜積層体は、上記のように、基材と多孔質層とが特定の層間密着強度で直接積層された構成を有するため、柔軟性と優れた空孔特性を備える一方、適度な剛性を有するため取扱性が向上している。しかも、多孔質層を構成する高分子成分を広く選択することができるため、多様な分野の材料として適用可能であるという利点がある。基材と多孔質層との層間密着強度は、各層を構成する素材の種類や界面の物理的特性を適宜設定することにより調整することができる。
基材を構成する材料としては、上記テープ剥離試験により多孔質層と界面剥離を生じなければ特に限定されず、多孔質層を構成する材料に応じて適宜選択できる。基材を構成する材料としては、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエステル系樹脂、液晶性ポリエステル系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリベンゾオキサゾール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、ポリベンゾチアゾール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂(環状オレフィン系樹脂等を含む)、ポリアリレート系樹脂等のプラスチック等が挙げられる。これらの材料は単独で又は2種以上混合して使用してもよく、また、上記樹脂の共重合体(グラフト重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体等)を単独で又は組み合わせて用いることも可能である。さらに、上記樹脂の骨格(ポリマー鎖)を主鎖又は側鎖に含む重合物を用いることも可能である。このような重合物の具体例として、ポリシロキサンとポリイミドの骨格を主鎖に含むポリシロキサン含有ポリイミド等が挙げられる。
基材は単層であってもよく、同一又は異なる素材からなる複数の層からなる複合フィルムであってもよい。複合フィルムは、複数のフィルムを必要に応じて接着剤等を用いて積層した積層フィルムであってもよく、コーティング、蒸着、スパッタ等の処理が施されて得られるものでもよい。
本発明における基材は、多孔質層の形成に用いる高分子溶液(塗布液)を塗布した時に、フィルムが溶解したり激しく変形するなどの膜質の変化が生じないか極めて少ないものが好ましい。
本発明における基材としては、以下に例示される市販品のフィルム等を用いることもできる。ポリイミド系樹脂フィルムとしては、東レ・デュポン株式会社製の「カプトン」、株式会社カネカ製の「アピカル」、宇部興産株式会社の「ユーピレックス」等が市販されている。ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとしては、帝人デュポンフィルム株式会社製の「テイジンテトロンフィルム」、「メリネックス」、「マイラー」、東レ株式会社製の「ルミラー」等が市販されている。ポリエチレンナフタレート系樹脂フィルムとしては、帝人デュポンフィルム株式会社製の「テオネックス」等が市販されている。
液晶性ポリエステル系樹脂として、ポリプラスチックス株式会社製の「ベクトラ」、東レ株式会社製の「シベラス」、住友化学工業株式会社製の「スミカスーパーLCP」等の市販の樹脂をフィルム化して用いることが可能である。
オレフィン系樹脂フィルムとして最も汎用的に使用されるフィルムにはポリプロピレンのフィルムが挙げられ、市販のものを容易に入手することができる。その他にも環状構造を持つ環状オレフィン系樹脂製のフィルムを使用することもでき、例えば三井化学株式会社製の「TPX」、日本ゼオン株式会社製の「ゼオノア」、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」等の市販の樹脂をフィルム化して用いることが可能である。
基材には、易接着処理、静電気防止処理、サンドブラスト処理(サンドマット処理)コロナ放電処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、シランカップリング剤処理等表面処理が施されていてもよく、このような表面処理が施された市販品も使用可能である。このような基材としては、例えば易接着処理や静電気防止処理が施されたPETフィルムや、プラズマ処理されたポリイミドフィルム等が挙げられる。
また、上記表面処理を複数を組み合わせて行うことも可能である。例えば、基材に対し、まず、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理等の何れかの処理を施した後、シランカップリング剤処理を行う方法等を利用できる。基材の種類によっては、上記方法は、シランカップリング剤の単独処理と比較して処理が強化される場合があり、特にポリイミド系基材等で高い効果が期待できる。シランカップリング剤としては、信越化学工業社製やジャパンエナジー社製の製品を挙げることができる。
基材の厚みは、例えば1〜300μm、好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは5〜100μmである。厚みが薄くなりすぎると取り扱いが困難になり、一方厚すぎる場合には柔軟性が低下する場合がある。上記に例示の市販の基材には、厚みが12μm、12.5μm、25μm、50μm、75μm、125μm等のものがあり、いずれも利用できる。
金属箔基材を構成する材料としては、上記テープ剥離試験により多孔質層と界面剥離を生じなけれは特に限定されず、多孔質層を構成する材料に応じて適宜選択できる。金属箔基材を構成する材料としては、例えば、銅箔、アルミ箔、鉄箔、ニッケル箔、金箔、銀箔、錫箔、亜鉛箔、ステンレス箔等が挙げられる。これらの材料は単独で又は2種以上混合して使用することも可能である。
金属箔基材は単層であってもよく、同一又は異なる素材からなる複数の層からなる複合フィルムであってもよい。複合金属箔は、複数の金属箔を必要に応じて接着剤等を用いて積層した積層フィルムであってもよく、コーティング、蒸着、スパッタ等の処理が施されて得られるものでもよい。また、金属箔基材の片面に多孔質層が形成される場合は、多孔質層が積層されていると面と反対側の面には粘着剤層が形成されていてもよく、さらに取り扱いやすいように粘着剤層上に保護フィルム(離型フィルム)が貼られていてもよい。
本発明における金属箔基材は、多孔質層の形成に用いる高分子溶液(塗布液)を塗布した時に、フィルムが溶解したり激しく変形するなどの膜質の変化が生じないか極めて少ないものが好ましい。
本発明における金属箔基材としては、以下に例示される市販品のフィルム状の金属箔を用いることもできる。
銅箔としては、福田金属箔粉工業株式会社製の電解銅箔(品種:HTE、VP、HS、SV)、圧延銅箔(品種:RCF、RCF−AN)、三井金属鉱業株式会社製の電解銅箔(品種:HTE、VLP)、日本製箔株式会社製の圧延銅箔等が市販されている。
アルミ箔としては、福田金属箔粉工業株式会社製のもの、日本製箔株式会社製のもの、住軽アルミ箔株式会社製のものが市販されている。
鉄箔としては、東邦亜鉛株式会社製のものが市販されている。
また、金属箔の片面に粘着剤が塗られているものも使用することができ、前記構成を有する市販品として、株式会社寺岡製作所の銅箔粘着テープ、アルミ箔粘着テープ、ステンレス箔粘着テープ、導電性銅箔粘着テープ、導電性アルミ箔粘着テープ、シールド粘着テープ(導電性布粘着テープ)等が入手可能である。また、株式会社ニトムズのステンレステープなどの市販品も利用できる。
金属箔基材には、粗化処理、易接着処理、静電気防止処理、サンドブラスト処理(サンドマット処理)、コロナ放電処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理等の表面処理が施されていてもよく、このような表面処理が施された市販品も使用可能である。このような金属箔基材としては、例えば粗化処理が施された銅箔等が挙げられる。
金属箔基材の厚みは、例えば1〜300μm、好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは5〜100μmである。厚みが薄くなりすぎると取り扱いが困難になり、一方厚すぎる場合には柔軟性が低下する場合がある。上記に例示の市販の基材には、厚みが9μm、12μm、18μm、35μm、70μm等のものがあり、いずれも利用できる。
また、貫通穴を多数有する基材を構成する材料には、織布、メッシュクロス、パンチングフィルム、金網、パンチングメタル、エキスパンドメタル、及びエッチングメタル等が含まれる。ここで、「貫通穴を有する基材」とは、基材平面に対してほぼ垂直方向に貫通した空孔を有する基材を意味している。貫通穴を多数有する基材としては、貫通穴が多数形成され、上記テープ剥離試験により多孔質層と界面剥離を生じなければ特に限定されない。このような貫通穴を多数有する基材を構成する材料としては、例えば、織布、メッシュクロス、パンチングフィルム等のプラスチックフィルム又はシート;金網、パンチングメタル、エキスパンドメタル、エッチングメタル等の金属箔又はシート等が挙げられ、耐水性、耐熱性、耐薬品性等の特性に応じて適宜選択して利用できる。なかでも、微細で規則正しい構造を持つメッシュクロスが好ましく用いられる。
織布としては、例えば、綿繊維や絹繊維等の天然繊維;ガラス繊維、PEEK繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維(ザイロン等)等の樹脂繊維、カーボンファイバー等から選択される一種又は2種を組み合わせて形成された織布を利用できる。
メッシュクロスには、目開き(糸と糸の間の隙間の大きさのミクロン数)、糸径(糸の太さのミクロン数)、メッシュ(1インチ間の糸の本数)、目開き率(メッシュ全体に対する開孔部の割合)、厚さ(メッシュの厚さのミクロン数)等によって多種の品番が存在する。メッシュクロスの織り方も色々あり、ASTM(米国工業規格)、DIN(ドイツ工業規格)、HD、XX、GG、HC&P、シュリンガー等の種類がある。これらの中から、目的に応じた物性を備えたものを適宜選択して用いることができる。
パンチングフィルムとしては、PET、ポリイミド等のフィルムに打抜加工等を施すことにより、円形、正方形、長方形、楕円等の孔を開けたものが挙げられる。
金網としては、市販の平織金網、綾織金網、平畳織金網、綾畳織金網等を利用できる。材質としては、鉄、ステンレス、銅、ニッケル等が挙げられる。
パンチングメタルとしては、金属の箔又はシートに打抜加工等を施すことにより、円形、正方形、長方形、楕円等の孔を開けたものが挙げられる。材質としては、鉄、アルミ、ステンレス、銅、チタン等を挙げることができる。
エキスパンドメタルとしては、JIS規格の形状のものを挙げることができる。例えば、XS63、XS42フラット等がある。材質としては、鉄、アルミ、ステンレス、等を挙げることができる。
上記貫通穴を多数有する基材は、エッチング加工、打抜加工、レーザー照射等の加工方法等材料に応じた慣用の方法により製造することができる。このような貫通穴を多数有する基材によれば、該表面へ高分子溶液を塗布して多孔質層を積層することにより、優れた層間密着強度で積層することができるという利点がある。また、柔軟性と優れた空孔特性を備える一方、適度な剛性を有するため、取扱性を向上する効果を得ることができる。
貫通穴を多数有する基材がメッシュクロスの場合は、基材表面の平均孔径(目開き:線材と線材の間の隙間の大きさ)が、例えば30〜1000μm、好ましくは40〜200μm程度であり、表面開孔率(目開き率:メッシュ全体面積に対する開孔部面積の割合)が、例えば20〜70%であり、好ましくは25〜60%程度である。前記目開き及び目開き率の各数値が低すぎる場合には、層間密着性が不十分となったり、柔軟性が低くなりやすく、前記各数値が高すぎる場合には、機械的強度に剛性が低下しやすく取扱性に劣る傾向にあり、いずれも好ましくない。
貫通穴を多数有する基材がパンチングフィルムやパンチングメタルの場合は、表面開孔率が20〜80%程度であり、好ましくは30〜70%程度である。表面開孔率の数値が低すぎる場合には気体や液体の透過性が悪くなりやすく、数値が高すぎる場合は強度が低下しやすく取扱性に劣る傾向がありいずれも好ましくない。
貫通穴を多数有する基材が金網の場合は、表面開孔率が20〜80%程度であり、好ましくは25〜70%程度である。表面開孔率の数値が低すぎる場合には、気体や液体の透過性が悪くなりやすく、数値が高すぎる場合は強度が低下しやすく取扱性に劣る傾向があり、いずれも好ましくない。
貫通穴を多数有する基材がエキスパンドメタルの場合は、表面開孔率が20〜80%程度であり、好ましくは25〜70%程度である。表面開孔率の数値が低すぎる場合には気体や液体の透過性が悪くなりやすく、数値が高すぎる場合は強度が低下しやすく取扱性に劣る傾向があり、いずれも好ましくない。
基材は単層であってもよく、同一又は異なる素材からなる複数の層からなる複合フィルムであってもよい。複合フィルムは、複数のフィルムを必要に応じて接着剤等を用いて積層した積層フィルムであってもよく、コーティング、蒸着、スパッタ等の処理が施されて得られるものでもよい。
本発明における基材は、多孔質層の形成に用いる高分子溶液(塗布液)を塗布した時に、フィルムが溶解したり激しく変形するなどの膜質の変化が生じないか極めて少ないものが好ましい。
本発明における貫通穴を多数有する基材は、市販品を利用できる。例えばSEFAR社製のメッシュクロスには、素材とする樹脂に応じて多くの種類が存在し、具体的には、ポリエステルメッシュクロス(商品名「PETEX」)、ナイロンメッシュクロス(商品名「NYTAL」)、カーボンメッシュクロス(商品名「CARBOTEX」)、テフロン(登録商標)メッシュクロス(商品名「FLUORTEX」)、ポリプロピレンメッシュクロス(商品名「PROPYLTEX」)、シルクメッシュクロス(商品名「SILK」)等の他、ポリエチレンメッシュクロス等が市販されている。メッシュクロス等の基材を構成する樹脂の種類は、耐熱性や耐薬品性等に応じて選択できる。
基材には、粗化処理、易接着処理、静電気防止処理、サンドブラスト処理(サンドマット処理)、コロナ放電処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、シランカップリング剤処理等表面処理が施されていてもよく、このような表面処理が施された市販品も使用可能である。このような基材としては、例えばカーボンコーティングされたナイロンやポリエステルのメッシュクロス等が挙げられる。
また、上記表面処理を複数を組み合わせて行うことも可能である。例えば、基材に対し、まず、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理等の何れかの処理を施した後、シランカップリング剤処理を行う方法等を利用できる。基材の種類によっては、上記方法は、シランカップリング剤の単独処理と比較して処理が強化される場合があり、特にポリイミド系基材等で高い効果が期待できる。シランカップリング剤としては、信越化学工業社製やジャパンエナジー社製の製品を挙げることができる。
基材の厚みは、例えば1〜1000μmである。より詳しくは、樹脂フィルム基材の場合には、1〜300μmの基材厚みが好ましく、金属箔基材の場合には、1〜300μmの基材厚みが好ましく、貫通穴を多数有する基材の場合には、1〜1000μmの基材厚みが好ましい。厚みが薄くなりすぎると取り扱いが困難になり、一方厚すぎる場合には柔軟性が低下する場合がある。
多孔質層は、主成分が例えば高分子成分で構成されている。多孔質層を構成する高分子成分としては、上記テープ剥離試験により多孔質層と界面剥離を生じない基材を形成可能であれば特に限定されず、基材を構成する材料に応じて適宜選択できる。前記高分子成分としては、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエステル系樹脂、液晶性ポリエステル系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリベンゾオキサゾール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、ポリベンゾチアゾール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂等のプラスチック等が挙げられる。これらの高分子成分は単独で又は2種以上混合して使用してもよく、また、上記樹脂の共重合体(グラフト重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体等)を単独で又は組み合わせて用いることも可能である。さらに、上記樹脂の骨格(ポリマー鎖)を主鎖又は側鎖に含む重合物を用いることも可能である。このような重合物の具体例として、ポリシロキサンとポリイミドの骨格を主鎖に含むポリシロキサン含有ポリイミド等が挙げられる。
なかでも、多孔質層を構成する高分子成分として好ましい例として、耐熱性があり、熱成形が可能で、機械的強度、耐薬品性、電気特性に優れているポリアミドイミド系樹脂又はポリイミド系樹脂を主成分とするものが挙げられる。ポリアミドイミド系樹脂は、通常無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応、又は無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応により重合した後、イミド化することによって製造することができる。ポリイミド系樹脂は、例えば、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との反応によりポリアミック酸を得て、それをさらにイミド化することにより製造することができる。多孔質層をポリイミド系樹脂で構成する場合には、イミド化すると溶解性が悪くなるために、まずポリアミック酸の段階で多孔膜を形成してからイミド化(熱イミド化、化学イミド化等)されることが多い。
多孔質層の厚みは、基材が樹脂フィルム又は金属箔の場合は、例えば0.1〜100μm、好ましくは0.5〜70μm、さらに好ましくは1〜50μmである。厚みが薄くなりすぎると安定して製造するのが困難になり、一方厚すぎる場合には孔径分布を均一に制御することが困難になる。
多孔質層の厚みは、基材が貫通穴を多数有する基材の場合は、例えば0.1〜1000μm、好ましくは0.5〜500μm、さらに好ましくは1〜200μmである。厚みが薄くなりすぎると安定して製造するのが困難になり、一方厚すぎる場合には孔径分布を均一に制御することが困難になる。
本発明の多孔膜積層体は、基材と多孔質層とが他の層を介することなく直接的に、上記テープ剥離試験で界面剥離が起こらない程度の層間密着強度で積層されている。基材と多孔質層との密着性を向上させる手段としては、例えば、基材における多孔質層を積層する側の表面に、サンドブラスト処理(サンドマット処理)コロナ放電処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、シランカップリング剤処理等の適宜な表面処理を施す方法;基材と多孔質層とを構成する成分として、良好な密着性(親和性、相溶性)を発揮しうる素材を組み合わせて用いる方法等が挙げられる。シランカップリング剤としては、上記に例示のものを用いることができる。前記表面処理は、複数を組み合わせて施されてもよく、基材によっては、シランカップリング剤処理と、その他の処理を組み合わせて施されることが好ましい。
基材と多孔質層との密着性の観点から、本発明の多孔膜積層体は、例えば、多孔質層を構成する高分子成分が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、芳香族ポリアミド系、及びポリアミド系樹脂から選択される少なくとも一種であり、基材を構成する材料が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、液晶性ポリエステル系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂から選択される少なくとも一種で構成されていることが好ましい。同様の観点から、多孔膜積層体の好ましい態様として、基材と多孔質層を構成する各成分の一部又は全部が同一、例えば両層を構成する高分子化合物のモノマー単位の少なくとも一部が共通である構成が挙げられる。このような多孔膜積層体には、例えば、基材/多孔質層を構成する材料が、ポリイミド/ポリイミド、ポリアミドイミド/ポリイミド、ポリイミド/ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド/ポリイミド、ポリイミド/ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド/ポリエーテルイミド、ポリエーテルイミド/ポリアミドイミドなどの組み合わせからなる積層体が含まれる。
本発明における多孔質層は、連通性の低い独立した多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径(=フィルム内部の平均孔径)が0.01〜10μmである。微小孔の平均孔径は、好ましくは0.05〜5μmである。平均孔径が上記範囲外である場合には、用途に応じた所望の効果が得られにくい点で空孔特性に劣り、例えばサイズが小さすぎる場合には、クッション性能の低下、断熱性の低下等を引き起こす場合があり、大きすぎる場合には比誘電率が場所によって不均質になる場合がある。
多孔質層の内部の平均開孔率(空孔率)は、例えば30〜80%、好ましくは40〜80%、さらに好ましくは45〜80%、特に好ましくは50〜80%である。空孔率が上記範囲外である場合には、用途に対応する所望の空孔特性が得られにくく、例えば空孔率が低すぎると、誘電率が上がったり、クッション性能が低下したり、断熱性が低下したりする場合があり、空孔率が高すぎると、強度や耐折性に劣る可能性がある。また、多孔質層の表面の開孔率(表面開孔率)としては、例えば48%以下(例えば0〜48%)であり、好ましくは0〜30%程度である。表面開孔率が高すぎると強度、耐折性が低下しやすくなったり、銅箔等との接着時に接着剤が中に浸透して比誘電率を低下させたり、エッチング時にエッチング液が多孔質層内部に浸透して内部からの好ましくないエッチングが起こったりするおそれがある。多孔質層の表面の開孔率が低いことは基本的に好ましいが、多孔質層を形成するときに使用するときに使用する水溶性極性溶媒、水溶性ポリマーを十分に洗浄するためには適度な開口は好ましい場合もある。また、多孔質層の表面にめっきや印刷を施す場合には、アンカー効果を発揮させめっきやインクとの密着性を確保するために、適度な開孔は好ましいこともある。
多孔質層は、基材の少なくとも片面に形成されていればよく、両面に形成することもできる。基材の両面に多孔質層が形成することにより、その空孔特性を生かして、両面に低誘電率性、クッション性、断熱性等が付与された多孔膜積層体を得ることができる。さらに、表面を機能化させることにより、回路用基板、放熱材(ヒートシンク、放射板)、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、低誘電率材料、アンテナ、セパレーター、クッション材、絶縁材、断熱材、細胞培養基材等、広範囲な基板材料としての利用が可能である。
本発明の多孔膜積層体は、多孔質層に耐薬品性の付与処理が施されていてもよい。多孔膜積層体に耐薬品性を付与することにより、多孔膜積層体の多様な利用形態において、溶剤、酸、アルカリ等に接触した場合に、層間剥離、膨潤、溶解、変質等の不具合を避けることができる点で有利である。耐薬品性の付与処理としては、熱、紫外線、可視光線、電子線、放射線等による物理的処理;多孔質層に耐薬品性高分子等を被覆する化学的処理等が挙げられる。
本発明の多孔膜積層体は、例えば多孔質層が耐薬品性高分子により被覆されていてもよい。このような多孔膜積層体は、例えば多孔質層の表面に耐薬品性の被膜が形成され、耐薬品性を有する積層体を構成しうる。ここで、薬品とは、従来の多孔性フィルムを構成する樹脂を溶解、膨潤、収縮、分解して、多孔性フィルムとしての機能を低下させるものとして公知のものであり、多孔質層及び基材の構成樹脂の種類によって異なり一概に言うことは出来ないが、このような薬品の具体例として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、シクロヘキサノン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロルエタン、テトラヒドロフラン(THF)等の強い極性溶媒;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩;トリエチルアミン等のアミン類;アンモニア等のアルカリを溶解した水溶液や有機溶媒等のアルカリ溶液;塩化水素、硫酸、硝酸等の無機酸;酢酸、フタル酸等のカルボン酸を持つ有機酸等の酸を溶解した水溶液や有機溶媒等の酸性溶液;及びこれらの混合物等が挙げられる。
耐薬品性高分子化合物としては、強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品に優れた耐性を有していれば特に制限されないが、例えば、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、アルキド系樹脂、トリアジン系樹脂、フラン系樹脂、不飽ポリエステル、エポキシ系樹脂、ケイ素系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂などの熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂;ポリビニルアルコール、酢酸セルロース系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、フッ素系樹脂、フタル酸系樹脂、マレイン酸系樹脂、飽和ポリエステル、エチレン−ビニルアルコール共重合体、キチン、キトサンなどの熱可塑性樹脂等が挙げられる。これらの高分子化合物は、一種または二種以上混合して使用することができる。また、高分子化合物は、共重合物でもよく、グラフト重合物であってもよい。
このような耐薬品性高分子により被覆された多孔質層で構成されている多孔膜積層体は、前記強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品と接触した場合にも、多孔質層が溶解したり、膨潤して変形するなどの変質が全く生じないか、使用目的や用途に影響のない程度に変質を抑制することができる。例えば、多孔質層と薬品とが接触する時間が短い用途では、その時間内で変質しない程度の耐薬品性が付与されていればよい。
なお、前記耐薬品性高分子化合物は、同時に耐熱性を有する場合が多いため、多孔質層が耐薬品性高分子化合物で被覆される前と比較して耐熱性が低下するおそれは少ない。
本発明の多孔膜積層体は、十分な強度を有する基材に柔軟な多孔質膜が積層された構成であるため、上記のような優れた空孔特性を有すると同時に十分な耐折性を備えている。耐折性は、下記条件に基づく折り曲げ試験を繰り返し行い、被検材が切断されるまでの回数が10回以上である場合に耐折性を有すると評価する。また、切断までの折り曲げ回数が高いほど優れた耐折性を有すると判断され、例えば電子材料等で繰り返し折り曲げが要求される用途においては切断までの回数が100回以上程度の耐折性を備えていることが好ましい。折曲げ試験は、東洋精機製作所製MIT耐揉疲労試験機MIT−Dを使用し、サンプル形状15×110mm、折り曲げ角度135°、折り曲げ面の曲率半径(R)0.38mm、折り曲げ速度175cpm、張力4.9Nの条件下、JIS C 5016の耐折性試験に準じて行われる。
本発明の多孔膜積層体によれば、折り曲げ回数が20000回でも切断されず、極めて優れた耐折性を有しているものも含まれる。このため、優れた加工性、成形性を発揮でき、多様な形態で広範な用途に利用できる。
本発明の好ましい形態は、基材が樹脂フィルム又は金属箔の場合、基材の片面又は両面が多孔質層により被覆されており、連通性が低い独立した微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層を有する多孔膜積層体であり、その多孔質層の厚みが0.1〜100μmであり、空孔率が30〜80%であって、基材の厚みが1〜300μmである。このような多孔膜積層体は、多孔質層及び基材を構成する材料や厚み、製造条件(例えば、加湿条件)等を適宜設定することにより製造できる。
このような多孔膜積層体は、例えば、高分子溶液を基材上へフィルム状に流延し、凝固液に接触させて多孔化処理を施した後、そのまま乾燥に付して基板と多孔質層との積層体を得る方法;前記多孔化処理を施した後、支持体等の表面に転写して乾燥に付すことにより多孔性フィルムが支持体に積層した積層体を得る方法等により製造できる。本発明では以下に詳述するように前者の方法が好ましく用いられる。
本発明の多孔膜積層体の製造方法は、高分子溶液を基材上へフィルム状に流延した後、凝固液に導き、次いで乾燥に付して基材の少なくとも片面に多孔質層を積層することにより多孔膜積層体を得ることを特徴としている。この方法によれば、湿式相転換法を用いて基材上に多孔質層を形成した後、そのまま乾燥に付すため、多孔質層の形成と同時に基材表面に密着して積層することができるため、製造効率を向上することができる。また、多数の微小孔を有する多孔質層は柔軟なため、多孔質層を構成するフィルム単体では取扱にくく積層工程が困難であるが、製膜と同時に積層する本発明の製造方法によれば、このような問題を回避でき、優れた空孔特性を有する多孔質層と基材とが直接積層された多孔膜積層体を容易に得ることができる。
前記凝固液の温度は、特に制限されないが、例えば0〜100℃とするとよい。凝固液の温度が0℃未満であると、溶剤等の洗浄効果が低下しやすい。凝固液の温度が100℃を超えると、溶剤や凝固液が揮発して、作業環境が損なわれる。凝固液としては、コスト、安全性、毒性などの観点から、水が好ましく用いられる。凝固液としては水を用いた場合には、水の温度5〜60℃程度が適当である。前記凝固液中への浸漬時間は、特に制限されないが、溶剤、水溶性ポリマーが十分に洗浄される時間を適宜選択するとよい。洗浄時間が短すぎると、残存した溶剤により、乾燥工程で多孔質構造が壊れるおそれがある。洗浄時間が長すぎると、製造効率が低下し、製品コストの上昇に繋がる。洗浄時間は、多孔質の厚み等にもよるので一概には言えないが、0.5〜30分間程度が適当である。
前記高分子溶液を基材上にフィルム状に流延した後、相対湿度70〜100%、温度15〜90℃の雰囲気下に0.2〜15分間保持し、その後、これを凝固液中に浸漬することが好ましい。
基材としては、凝固液に接触した場合に劣化しにくいものが好ましく用いられ、例えば、多孔膜積層体を構成する基材を形成する材料として上記に例示のものが挙げられる。
流延に付す高分子溶液としては、例えば、多孔質層を構成する素材となる高分子成分、水溶性極性溶媒、必要に応じて水溶性ポリマー、必要に応じて水を含んでなる混合溶液等を用いることができる。
多孔質層を構成する素材となる高分子成分としては、水溶性極性溶媒に溶解性を有し相転換法によりフィルムを形成しうるものが好ましく、上記に例示のものを一種又は二種以上混合して利用できる。また、多孔質層を構成する高分子成分の代わりに、該高分子成分の単量体成分(原料)や、そのオリゴマー、イミド化や環化等の前の前駆体等を用いてもよい。
流延に付す高分子溶液への水溶性ポリマーや水の添加は、膜構造をスポンジ状に多孔化するために効果的である。水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、多糖類等やその誘導体、及びこれらの混合物などが挙げられる。なかでもポリビニルピロリドンは、フィルム内部におけるボイドの形成を抑制し、フィルムの機械的強度を向上しうる点で好ましい。これらの水溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。多孔化の観点から、多孔化のためには、水溶性ポリマーの分子量は200以上が良く、好ましくは300以上、特に好ましくは400以上(例えば、400〜20万程度)であり、特に分子量1000以上であってもよい。水の添加によりボイド径を調整でき、例えばポリマー溶液への水の添加量を増やすとボイド径を大きくすることが可能となる。
水溶性ポリマーは、膜構造をスポンジ状にするのに非常に有効であり、水溶性ポリマーの種類と量を変更することにより多様な構造を得ることが可能である。このため、水溶性ポリマーは、所望の空孔特性を付与する目的で、多孔質層を形成する際の添加剤として極めて好適に用いられる。一方、水溶性ポリマーは、最終的には多孔質層を構成しない、除去すべき不要な成分である。湿式相転換法を利用する本発明の方法においては、水溶性ポリマーは水等の凝固液に浸漬して相転換する工程において洗浄除去される。これに対し、乾式相転換法においては、多孔質層を構成しない成分(不要な成分)は加熱により除去され、水溶性ポリマーは通常加熱除去に不向きであるため添加剤として利用することは極めて困難である。このように、乾式層転換法によっては多様な空孔構造を形成することは困難であるのに対し、本発明の製造方法は、所望の空孔特性を有する多孔膜積層体を容易に製造することが可能である点で有利である。
ただし、水溶性ポリマーの量を増やしていくと、孔の連通性が高くなる傾向がある。よって、本発明のように連通性が低い方がよい場合、水溶性ポリマーの量は最小量とするのが好ましい。必要が無い場合は、水溶性ポリマーを使用しないことも可能である。
水溶性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド,N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン及びこれらの混合物などが挙げられ、前記高分子成分として使用する樹脂の化学骨格に応じて溶解性を有するもの(高分子成分の良溶媒)を使用することができる。
流延に付すポリマー溶液としては、多孔性フィルムを構成する素材となる高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー0〜10重量%、水0〜10重量%、水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液などが好ましい。この際に、高分子成分の濃度が低すぎると多孔質層の厚みが不十分となったり、所望の空孔特性が得られにくく、また高すぎると空孔率が小さくなる傾向にある。水溶性ポリマーは、フィルム内部を均質なスポンジ状の多孔構造にするために添加するが、この際に濃度が高すぎるとフィルム内部の孔の連通性を高くしてしまう。水の添加量はボイド径の調整に用いることができ、添加量を増やすことで径を大きくすることが可能となる。
高分子溶液をフィルム状に流延する際に、該フィルムを相対湿度70〜100%、温度15〜90℃からなる雰囲気下に0.2〜15分間保持した後、高分子成分の非溶剤からなる凝固液に導くのが望ましい。流延後のフィルム状物を上記条件におくことにより、多孔質層を均質な状態にすることができる。この理由としては、加湿下に置くことにより水分がフィルム表面から内部へと侵入し、高分子溶液の相分離を効率的に促進するためと考えられる。特に好ましい条件は、相対湿度90〜100%、温度30〜80℃であり、相対湿度約100%(例えば、95〜100%)、温度40〜70℃である。空気中の水分量がこれよりも少ない場合は、空孔率が充分でなくなる不具合が発生する場合がある。
上記方法によれば、例えば、連通性が低い独立した多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層を容易に成形することができる。本発明における多孔膜積層体を構成する多孔質層の微小孔の径、空孔率、開孔率は、上記のように、高分子溶液の構成成分の種類や量、水の使用量、流延時の湿度、温度及び時間などを適宜選択することにより所望の値に調整することができる。
相転換法に用いる凝固液としては、高分子成分を凝固させる溶剤であればよく、高分子成分として使用する高分子の種類によって適宜選択されるが、例えば、ポリアミドイミド系樹脂又はポリアミック酸を凝固させる溶剤であればよく、例えば、水;メタノール、エタノール等の1価アルコール、グリセリン等の多価アルコールなどのアルコール;ポリエチレングリコール等の水溶性高分子;これらの混合物などの水溶性凝固液などが使用できる。
本発明の製造方法においては、凝固液に導いて基材表面に多孔質層を成形した後、そのまま乾燥に付すことにより、基材の表面に多孔質層が直接積層された構成を有する多孔膜積層体が製造される。乾燥は、凝固液等の溶剤成分を除去しうる方法であれば特に限定されず、加熱下でもよく、室温による自然乾燥であってもよい。加熱処理の方法は特に制限されず、熱風処理、熱ロール処理、あるいは、恒温槽やオーブン等に投入する方法でもよく、多孔膜積層体を所定の温度にコントロールできるものであればよい。加熱温度は、例えば室温〜600℃程度の広範囲から選択することができる。加熱処理時の雰囲気は空気でも窒素や不活性ガスでもよい。空気を使用する場合が最も安価であるが、酸化反応を伴う可能性がある。これを避ける場合は、窒素や不活性ガスを使用するのがよく、コスト面からは窒素が好適である。加熱条件は、生産性、多孔質層及び基材の物性等を考慮して適宜設定される。乾燥に付すことにより、基材表面に多孔質層が直接成形された多孔膜積層体を得ることができる。
こうして得られた多孔膜積層体には、さらに、熱、可視光線、紫外線、電子線、放射線等を用いて架橋処理を施してもよい。前記処理により、多孔質層を構成する前駆体の重合、架橋、硬化等が進行して高分子化合物を形成し、高分子多孔質層が高分子化合物で構成されている場合には架橋や硬化等が進行し、剛性や耐薬品性等の特性が一層向上した多孔質層を有する多孔膜積層体を得ることができる。例えば、ポリイミド系前駆体を用いて成形した多孔質層には、さらに熱イミド化あるいは化学イミド化等を施すことによりポリイミド多孔質層を得ることができる。ポリアミドイミド系樹脂を用いて成形された多孔質層には熱架橋を施すことができる。なお、熱架橋は、凝固液に導いた後、乾燥に付すための加熱処理と同時に施すことも可能である。
上記の架橋処理は、場合により高分子多孔質層と基材フィルムの間でも架橋反応を引き起こすことがある。これにより、基材フィルムと多孔質層との密着性が向上する。例えば、ポリイミド系前駆体の多孔質層を形成したポリイミドフィルムを熱処理すると、前駆体はポリイミドになると同時にポリイミドフィルムに密着する。また、ポリアミドイミド樹脂の多孔質層を形成したポリイミドフィルムを熱処理すると多孔質層はポリイミドフィルムに密着する。
本発明の製造方法によれば、基材フィルムの片面、又は両面が高分子多孔質層により被覆されており、高分子多孔質層は連通性の低い独立した多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層を有するフィルムを容易に得ることができる。
本発明の多孔膜積層体は、基材の少なくとも片面に多孔質層が積層されていればよく、基材の両面に多孔質層を有していてもよい。さらに、多孔膜積層体には、所望の特性を付与するため、必要に応じて熱処理や被膜形成処理を施されていてもよい。
本発明の多孔膜積層体は、上記構成を有するため、広範な分野において多様な用途に適用できる。具体的には、多孔質層が有する空孔特性をそのまま利用して、例えば、低誘電率材料、セパレーター、クッション材、インク受像シート、試験紙、絶縁材、断熱材等として利用できる。さらに、多孔膜積層体に他の層(金属メッキ層、磁性メッキ層等)を積層した複合材料として、例えば回路用基板、放熱材(放熱板等)、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、細胞培養基材等として利用可能である。
また、本発明の積層体は、上記本発明の多孔膜積層体を構成する少なくとも一つの多孔質層の表面に、金属メッキ層及び/又は磁性メッキ層が積層されていることもある。このような積層体を、本明細書において複合材料と称することがある。
金属メッキ層は、例えば、多孔質層表面に薄い金属被覆として形成されていてもよい。金属メッキ層を構成する金属としては、例えば、銅、ニッケル、銀、金、すず、ビスマス、亜鉛、アルミニウム、鉛、クロム、鉄、インジウム、コバルト、ロジウム、白金、パラジウムやこれらの合金等を挙げることができる。さらにニッケル−りん、ニッケル―銅―りん、ニッケル―鉄―りん、ニッケル―タングステン―りん、ニッケル―モリブデン―りん、ニッケル―クロム―りん、ニッケル―ホウ素―りん等多種多様の金属以外の元素を含む合金皮膜も挙げることができる。金属メッキ層は、上記の金属を単独で又は複数を組み合わせて用いてもよく、単層であってもよく、複数の層を積層してもよい。
磁性メッキ層を構成する材料としては、磁性を有する化合物であれば特に限定されず、強磁性体及び常磁性体の何れであってもよく、例えばニッケル−コバルト、コバルト−鉄−りん、コバルト−タングステン−りん、コバルト−ニッケル−マンガン等の合金;メトキシアセトニトリル重合体等のラジカルを発生し得る部位を有する化合物、デカメチルフェロセンの電荷移動錯体等の金属錯体系化合物、グラファイト化途上炭素材料であるポリアクリロニトリルなどの化合物からなる有機磁性体等が例示できる。
このような複合材料は、上記本発明の多孔膜積層体の多孔質層表面に、金属や有機化合物を用いて層を形成する方法として公知の方法を利用して製造することができる。
金属メッキ層の形成には、例えば無電解メッキ及び電解メッキ等の公知の方法を利用できる。本発明の多孔膜積層体においては、多孔質層が高分子成分で構成されている点で、後述する無電解メッキが好ましく用いられ、無電解メッキと電解メッキを組み合わせて用いることもできる。
金属メッキ層の形成に用いるメッキ液は、各種の組成のものが知られており、メーカーが販売しているものを入手することもできる。メッキ液の組成は特に制限されず、各種の要望(美観、硬さ、耐磨耗性、耐変色性、耐食性、電気伝導性、熱伝導性、耐熱性、摺動性、撥水性、ぬれ性、半田ぬれ性、シール性、電磁波シールド特性、反射特性等)に合ったものを選択すればよい。
本発明の複合材料の製造方法は、上記本発明の多孔膜積層体を構成する少なくとも一つの多孔質層表面に、光により反応基を生成する化合物からなる感光性組成物を塗布して感光層を設ける工程、前記感光層にマスクを介して露光し、露光部に反応基を生成させる工程、及び露光部に生成された反応基を金属と結合させて導体パターンを形成する工程を含む方法、又は上記本発明の複合材料の製造方法において、光により反応基を生成する化合物の代わりに光により反応基を消失する化合物を用い、露光部に反応基を消失させる工程、未露光部に残る反応基を金属と結合させて導体パターンを形成する工程を含む方法で行われる。
光により反応基を生成する化合物としては、金属(金属イオンを含む)と結合形成可能な反応基を分子内に生成する化合物であれば特に限定されず、例えば、オニウム塩誘導体、スルフォニウムエステル誘導体、カルボン酸誘導体およびナフトキノンジアジド誘導体から選択される少なくとも1種の誘導体を含有する感光性化合物等が挙げられる。これらの感光性化合物は、汎用性に富み、光照射により金属と結合可能な反応基を容易に生成しうるため、微細なパターンを有する導電部を精度良くできる。
光により反応基を消失する化合物としては、例えば、金属(金属イオンを含む)と結合形成可能な反応基を有する化合物であって、光の照射により該反応基が疎水性官能基を生成して、水に溶解あるいは膨潤しにくくなる化合物などが挙げられる。
上記光により生成又は消失する反応基とは、前記金属(金属イオンを含む)と結合形成可能な反応基であれば特に限定されず、例えば金属イオンとイオン交換可能な官能基などが例示でき、好ましくは陽イオン交換性基が挙げられる。陽イオン交換性基には、例えば−COOX基、−SO3 X基あるいは−PO3 X2 基等の酸性基(但し、Xは水素原子、アルカリ金属やアルカリ土類金属及び周期律表I、II族に属する典型金属、アンモニウム基)等が含まれる。なかでも、pKa値が7.2以下の陽イオン交換性基によれば、単位面積当たりに十分な金属との結合を形成しうるため、所望の導電性を容易に得ることができ好ましい。このような反応基は、次工程において、金属イオン交換され、金属還元体や金属微粒子による安定した吸着能を発揮することができる。
照射光としては、反応基の生成又は消失を促進できれば特に限定されず、例えば280nm以上の波長の光を用いることができるが、多孔膜積層体の露光による劣化を避けるため、好ましくは波長が300nm以上(300〜600nm程度)、特に350nm以上の光が好ましく用いられる。
マスクを介して光照射後、必要に応じて洗浄することにより、露光部又は未露光部に反応基で構成されたパターンを形成できる。こうして多孔質層表面に設けられた反応基を、以下に示す方法により金属と結合させて導体パターンが形成される。
本発明では、反応基を金属と結合する方法として無電解メッキによる方法が好ましく用いられる。無電解メッキは、一般的にプラスチック等で形成された樹脂層に金属を積層する方法として有用であることが知られている。多孔膜積層体の多孔質膜表面は、金属との密着性を向上する目的で、予め脱脂、洗浄、中和、触媒処理等の処理が施されてもよい。前記触媒処理としては、例えば被処理面に金属の析出を促進しうる触媒金属を付着させる触媒金属核形成法等を利用できる。触媒金属核形成法は、触媒金属(塩)を含むコロイド溶液に接触させた後、酸若しくはアルカリ溶液又は還元剤に接触させて化学メッキを促進させる方法(キャタライザー(触媒)−アクセレータ(促進剤)法);触媒金属の微粒子を含むコロイド溶液に接触させた後、加熱等により溶媒や添加剤等を除去して触媒金属核を形成する方法(金属微粒子法);還元剤を含む酸又はアルカリ溶液に接触させた後、触媒金属の酸又はアルカリ溶液に接触させてアクチベーティング(賦活化)液を接触させて触媒金属を析出させる方法(センシタイジング(感作)−アクチベーティング(賦活化)法)等が挙げられる。
キャタライザー−アクセレータ法における触媒金属(塩)含有溶液としては、例えばすず−パラジウム混合溶液、硫酸銅等の金属(塩)含有溶液などを用いることができる。キャタライザー−アクセレータ法は、例えば多孔膜積層体を硫酸銅水溶液中に浸漬した後、必要に応じて過剰な硫酸銅を洗浄除去し、次いで水素化ホウ素ナトリウムの水溶液に浸漬することにより、多孔膜積層体の多孔質層表面に銅微粒子からなる触媒核を形成できる。金属微粒子法は、例えば、銀のナノ粒子が分散したコロイド溶液を多孔質層表面に接触させた後、加熱して界面活性剤やバインダー等の添加剤を除去することにより、多孔質層表面に銀粒子からなる触媒核を析出させることができる。センシタイジング−アクチベーティング法は、例えば、塩化すずの塩酸溶液に接触させた後、塩化パラジウムの塩酸溶液に接触させることによりパラジウムからなる触媒核を析出させることができる。これらの処理液に多孔膜積層体を接触させる方法としては、金属メッキ層を積層させる多孔質層表面に塗布する方法、多孔膜積層体を処理液に浸漬する方法等を用いることができる。
上記触媒金属核形成法において、一方の表面が基材、他の表面が多孔質層で構成されている多孔膜積層体を処理液に浸漬させる場合には、基材が均質な層で形成されていることが好ましい。均質な基材を片面に有する多孔膜積層体を処理液に浸漬した場合、多孔膜積層体の多孔質層表面のみならず、基材表面にも触媒核が形成されるが、表面積が大きい多孔質層表面には多量の触媒核が付着し、しかも保持されやすいのに対し、均質な基材には、基材フィルム表面は平滑であるため触媒核が析出しにくく、また脱落しやすい。こうして触媒核が十分量形成された多孔質層表面には、続く無電解メッキにより金属メッキ層を選択的に形成することが可能となる。
無電解メッキに用いられる主な金属としては、例えば、銅、ニッケル、銀、金、ニッケル−りん等を挙げることができる。無電解メッキに用いるメッキ液には、例えば、上記金属又はその塩が含まれている他、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、次亜リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、グリオキシル酸等の還元剤、酢酸ナトリウム、EDTA、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グリシン等の錯化剤や析出制御剤等が含まれており、これらの多くは市販されており簡単に入手することができる。無電解メッキは、上記のメッキ液に上記処理を施した多孔膜積層体を浸漬することにより行われる。なお、多孔膜積層体の片面に保護シートを貼った状態で無電解メッキを施すことにより、他の面にのみ無電解メッキが施されるため、例えば基材等への金属の析出を防止することができる。
金属メッキ層の厚みは、特に限定されず用途に応じて適宜選択でき、例えば0.01〜20μm程度、好ましくは0.1〜10μm程度である。金属メッキ層の厚みを効率よく厚くするため、例えば無電解メッキと電解メッキとを組み合わせて金属メッキ層を形成する方法が行われる場合がある。すなわち、無電解メッキにより金属被膜が形成された多孔質層表面は導電性が付与されるため、次いでより効率のよい電解メッキを施すことによりにより短時間で厚い金属メッキ層を得ることが可能となる。
上記方法は、特に回路基板、放熱材又は電磁波制御材に用いられる複合材料を得る方法として好適である。
回路基板は、一般にガラス・エポキシ樹脂やポリイミド等を素材とする基板表面に銅箔を貼り合わせ、エッチングにより銅箔の不要な部分を除去することにより配線を形成する方法により製造されていた。しかし、このような従来法では、高密度化する回路基板に対応しうる微細な配線の形成が困難になりつつあった。配線の微細化を進めるためには、非常に薄い銅箔をガラス・エポキシ樹脂やポリイミド等を素材とする基板に強く密着させる必要があるが、薄い銅箔は取扱性にきわめて劣り、基板への積層工程が非常に困難であった。また、薄い銅箔の製造はそれ自体が困難で、高価であり、しかも、基材の素材に用いられるガラス・エポキシ樹脂やポリイミドと銅箔はもともと密着力が大きくないため、微細化を進めると配線が基板から剥離してしまうという問題があった。
このような背景において、本発明の複合材料によれば、多孔膜積層体の多孔質層表面に微細な開口部を形成することも可能なので、その場合、金属メッキ層と十分な密着力を確保でき、微細配線を有する回路基板用材料に好適である。回路基板用材料を構成する場合には、金属メッキ層は、銅、ニッケル、銀等で構成されていることが好ましい。
本発明の多孔膜積層体は、多孔質層表面に直接微細配線を形成する方法で製造される回路基板として極めて有用である。このような回路基板を製造する方法としては、上記本発明の複合材料の製造方法として記載されている方法を利用できる。この方法によれば、本発明の多孔膜積層体を用いるため、多孔質層に強固に絡みついた微細配線を形成することができ、しかも露光技術を用いて精度よく簡単に配線を形成することができる。片面に多孔質層を有するフィルムでは片面配線を形成できるし、両面に多孔質層を有するフィルムでは両面配線を形成できる。両面をつなぐビア配線が必要な場合は従来から用いられているドリル又はレーザーにより穴を開け、導電ペーストの充填やメッキにより形成することができる。これまで、多孔体に無電解メッキ法を用いて配線を形成する方法が知られているが、従来の多孔体は強度が弱いため取扱性に劣り、製造工程中に破損するなどの問題があった。これに対し、本発明の多孔膜積層体を用いる場合には、多孔質層が基材に密着して成形されるため、十分な強度を確保することができ、取扱性に優れた回路基板を提供することができる。
電磁波制御材は、電磁波を遮断(シールド)又は吸収する材料として、周囲の電磁環境に及ぼす影響や、機器自体が周囲の電磁環境から受ける影響を軽減又は抑制するために利用されている。デジタル電子機器の普及、パソコンや携帯電話など、われわれの身近には、電気・電子機器や無線機器、システムなど、多くの電磁波発生源が存在し、それらは様々な電磁波を放射している。これらの機器から放射される電磁波は、周囲の電磁環境に影響を及ぼす可能性があり、また、機器自体も周囲の電磁環境から影響を受ける。これらの対策として電磁波シールド材料、電磁波吸収体材料等の電磁波制御材が年々重要となってきている。本発明の複合材料は、例えば、金属メッキ層による導電性の付与によって電磁波を遮断して電磁波シールド性を付与でき、また、多孔質層を構成する空孔に電磁波吸収材料を充填して電磁波吸収性を付与できるため、優れた電磁波制御材として極めて有用である。
電磁波制御材を構成する金属メッキ層は、導電性を付与することができるものが好ましく、例えば、ニッケル、銅、銀等で形成されることが効果的である。また、複合材料が、無電解メッキで多孔質層表面に磁性メッキ層が成形された層構成を有する場合には電磁波吸収体材料として有用である。無電解メッキにより磁性メッキ層を形成する際に用いる材料としては、例えば、ニッケル、ニッケル−コバルト、コバルト−鉄−りん、コバルト−タングステン−りん、コバルト−ニッケル−マンガン等の合金等の磁性材料が挙げられる。本発明の複合材料は、非常に薄く柔軟性の高いものが得られ、メッキにより形成された金属や磁性体は多孔質層に絡み付いているため、メッキ層が剥離しにくく、折り曲げ耐性(耐折性)を改善することができる。このような複合材料は、電子機器の任意の場所に設置したり、貼り付けたりして使用することができる。
本発明の多孔膜積層体や多孔性フィルムは、低誘電率材料としても有用である。ブロードバンド時代の到来により、大容量の情報を高速で伝達する必要が生じている。そのため、電子機器で使用される周波数も高まってきており、その中で使われる電子部品も高周波信号に対応する必要がある。これまでの配線基板(主にガラスエポキシ樹脂)を高周波回路に使用すると、(1)高い誘電率による伝達信号の遅れや、(2)高い誘電損失による、信号の混信・減衰の発生、消費電力の増加、回路内の発熱などの問題が生じる。これらの問題を解決するための高周波用配線基板材料としての多孔性の材料が有用であるとされている。それは、空気の比誘電率は1と低いのに対して、多孔性の材料にすれば、低い比誘電率を達成可能なためである。このため、従来、多孔性基板材料が必要とされてきたが、低誘電率にするためには空孔率を上げる必要があり、その結果、基板としての強度が低下してしまうという問題があった。本発明の多孔膜積層体は、多孔質層が基材に積層されており、低誘電率特性を持っているのみならず、多孔質層が基材に密着しているため取り扱う上で十分な強度を確保することができ、低誘電率材料として好ましい媒体である。
本発明の多孔膜積層体や多孔性フィルムを低誘電率な回路基板材料として使用する場合、上記したように、多孔膜積層体や多孔性フィルム表面に銅箔を貼り合わせ、エッチングにより銅箔の不要な部分を除去することにより配線を形成する方法により製造することが考えられる。配線の微細化、高密度化は困難になりつつあるが、現在でもこの従来法でほとんどの回路基板が作られており、本発明の多孔膜積層体や多孔性フィルムもこの方法で使用することができる。非常に要求が強くなってきている基板の低誘電率化に対応しうる有用な材料と言える。多孔質層の連通性が低いため、銅箔をエッチングする時に、エッチング液が多孔質層の中に入り難く、好ましくない銅箔の裏側からのエッチングが起こりにくく、連通性の低い独立した多孔質層の特徴を生かすことが可能である。
インク受像シートは、印刷メディアとも呼ばれ、印刷技術においてしばしば使用されてる。一方、現在、多くの印刷法が実用化、利用されており、このような印刷技術として、例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ディスペンサ印刷、凸版印刷(フレキソ印刷)、昇華型印刷、オフセット印刷、レーザープリンタ印刷(トナー印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、コンタクト印刷、マイクロコンタクト印刷等を挙げることができる。使用されるインクの構成成分としては、特に制限されないが、例えば導電体、誘電体、半導体、絶縁体、抵抗体、色素等が挙げられる。
電子材料を印刷法で作成するメリットとしては、(1)シンプルなプロセスで製造できる、(2)廃棄物の少ない低環境負荷プロセスである、(3)低エネルギー消費によって短時間で製造できる、(4)初期投資額が大幅に低減できる等があるが、その一方、これまでにない高精細な印刷が要求され、技術的に困難であることもこと実である。従って、特に電子材料の製造に利用される印刷に関しては、印刷機械の性能だけでなく、インクやインク受像シートの特性が印刷結果に大きな影響を与える。本発明の多孔膜積層体は、多孔質層が基材に密着しており、多孔質層の微細な多孔構造はインクを吸ったり、インクを精密に固定することができるため、これまでにない高精細な印刷を達成することができ、非常に好ましく用いられる。また、多孔質層が基材に密着しているため、取り扱う上で十分な強度を確保することができ、例えば、ロールツーロールで連続的に印刷することもでき、生産効率を著しく向上することができる。
電子材料を印刷により製造する場合、印刷法としては上述の方法を利用できる。印刷により製造される電子材料の具体例としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、ICカード、ICタグ、太陽電池、LED素子、有機トランジスタ、コンデンサー(キャパシタ)、電子ペーパー、フレキシブル電池、フレキシブルセンサ、メンブレンスイッチ、タッチパネル、EMIシールド等を挙げることができる。
上記電子材料を製造する方法は、例えば導電体、誘電体、半導体、絶縁体、抵抗体等の電子素材を含むインクを多孔質層(基板)表面に印刷する工程を含んでいる。例えば多孔質層(基板)表面に誘電体を含むインクで印刷することにより、コンデンサー(キャパシタ)を形成できる。このような誘電体としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等を挙げることができる。また、半導体を含むインクで印刷することにより、トランジスタ等を形成することができる。半導体としては、ペンタセン、液状シリコン、フルオレン−ビチオフェンコポリマー(F8T2)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)等を挙げることができる。
導電体を含むインクで印刷することにより、配線を形成することができるため、フレキシブル基板やTAB基板、アンテナ等を製造することができる。前記導電体としては、銀、金、銅、ニッケル、ITO、カーボン、カーボンナノチューブ等の導電性を有する無機粒子;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性の有機高分子からなる粒子を挙げることができる。前記ポリチオフェンとしては、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等を挙げることができる。これらは、溶液やコロイド状のインクとして用いることができる。なかでも、無機粒子からなる導電体粒子が好ましく、特に電気特性やコストのバランスから、銀粒子や銅粒子が特に好ましく用いられる。粒子の形状としては、球状、鱗片状(フレーク状)等が挙げられる。粒子サイズは、特に限定されないが、例えば平均粒径数μm程度のものから、数nmのいわゆるナノ粒子も使用できる。これらの粒子は複数の種類を混合して使用することもできる。導電性のインクとして、容易に入手可能な銀インク(銀ペースト)を例に挙げて以下に説明するが、これに限定されず、他の種類のインクも適用可能である。
銀インクは、その構成成分として、一般に銀粒子、界面活性剤、バインダー、溶剤等が含まれている。また、他の例として、酸化銀が加熱により還元される性質を利用して、酸化銀の粒子を含むインクを印刷し、後で加熱還元して銀配線とするものもある。さらに他の例として、有機銀化合物を含むインクを印刷し、後で加熱分解して銀配線とするものもある。有機銀化合物には、溶剤に溶解するものも利用できる。銀インクを構成する粒子として、銀粒子、酸化銀、有機銀化合物等は単独で又は複数を組み合わせて用いてもよく、また異なる粒子径のものを混合して用いることもできる。銀インクを用いて印刷後、インクを硬化させる際の温度(焼成温度)は、インクの組成、粒子径等に応じて適宜選択できるが、通常、100〜300℃程度の範囲内であることが多い。本発明の多孔膜積層体は有機材料であるため、劣化を回避するため焼成温度は比較的低温であることが好ましいが、配線の電気抵抗を小さくするため、一般に高温で焼成されることが好ましく、適当な硬化温度をもつインクを選択して用いる必要がある。このような銀インクの市販品としては、大研化学工業(株)製の商品名「CA−2503」、藤倉化成(株)製の商品名「ナノ・ドータイトXA9053」、ハリマ化成(株)製の商品名「NPS」、「NPS−J」(平均粒子径約5nm)、日本ペイント(株)製の商品名「ファインスフェアSVW102」(平均粒子径約30nm)等が知られている。配線基板に要求される電気抵抗と配線密着性のバランスを考慮して、インクに添加する導電体等の粒子径の大きさや粒度分布、混合比率を選択することが好ましい。
スクリーン印刷の場合は、粘度が低すぎるとスクリーンにインクを保持しにくいので、むしろ粘度がある程度高い方が好ましく、インクに含まれる粒子の粒子径は大きくても特に問題はなく、また、粒子径が小さい場合は溶剤量を低減することが好ましい。従って、前記粒子径が0.01〜10μm程度であるのが好ましい。
配線は、多孔質層の片面のみに形成されてもよく、両面に形成されてもよい。両面に配線を形成する場合は、必要に応じて、両面の配線をつなぐビアを形成することもできる。ビアホールはドリルで形成してもよいし、レーザーで形成してもよい。ビアホール内の導電体は、導電ペーストで形成してもよいし、メッキで形成してもよい。
また、導電性のインクで形成した配線表面をメッキ又は絶縁体で被覆して使用することができる。特に、銀配線は、銅配線と比較したときに、エレクトロマイグレーションやイオンマイグレーションを起こしやすいとの指摘がある(日経エレクトロニクス2002.6.17号75頁)。そのため、配線の信頼性を向上する目的で、銀インクで形成した配線表面をメッキで被覆することが有効である。メッキとしては、銅メッキ、金メッキ、ニッケルメッキ等が挙げられる。メッキは公知の方法で行うことができる。
さらに、導電性のインクで形成した配線表面を樹脂で被覆して使用することもできる。上記構成は、配線の保護、配線の絶縁、配線の酸化やマイグレーションの防止、屈曲性向上などの目的に好適に利用できる。例えば、銀配線は酸化により酸化銀に、銅配線は酸化銅となって導電性が低下していくおそれがあるが、配線表面を前記樹脂で被覆することにより、配線が酸素や水分と接触するのを回避でき、導電性の低下を抑制することができる。配線表面を選択的に樹脂被覆する方法としては、例えば、被覆する樹脂として後述する硬化性樹脂や可溶性樹脂を用いた、スポイト、ディスペンサ、スクリーン印刷、インクジェット等の方法が挙げられる。
配線が形成された後の多孔質部は空孔のままの場合は、多孔質部は低誘電率となるため、高周波用配線基板として好ましく用いられる。
本発明の多孔質積層体の用途としては、多孔質層の空孔がそのまま残されているものを用いる場合の他に、本発明の多孔質積層体について溶剤処理により多孔質層の空孔構造を失わせて、それを用いる場合も考えられる。
配線を被覆する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、無溶剤で用いられる硬化性樹脂や、溶剤に溶解して利用される可溶性樹脂等が挙げられる。可溶性樹脂を使用する場合には、溶剤が揮発したときの体積減少分を考慮して被覆する必要がある。
硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、アクリル系樹脂、ビニルエーテル樹脂等を挙げることができる。
エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型やビスフェノールF型等のビスフェノール系、フェノールノボラック型やクレゾールノボラック型等のノボラック系等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂及びこれらの変性樹脂等の多様な樹脂が含まれる。エポキシ樹脂の市販品としては、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社の「アラルダイト」、ナガセケムテックス社の「デナコール」、ダイセル化学工業社の「セロキサイド」、東都化成社の「エポトート」等を利用できる。エポキシ樹脂硬化物は、例えば、エポキシ樹脂に硬化剤を混合して得た硬化性樹脂組成物により硬化反応を開始させ、加熱により反応を促進させる方法により得ることができる。前記エポキシ樹脂の硬化剤には、例えば有機ポリアミン、有機酸、有機酸無水物、フェノール類、ポリアミド樹脂、イソシアネート、ジシアンジアミド等を利用できる。
エポキシ樹脂硬化物は、また、エポキシ樹脂に潜在性硬化剤と言われる硬化触媒を混合して得た硬化性樹脂組成物に、加熱又は紫外線などの光照射によって硬化反応を開始させる方法により得ることもできる。前記潜在性硬化剤としては、三新化学工業社の「サンエイドSI」等の市販品を利用できる。
エポキシ樹脂硬化物として、可撓性の高いものを用いれば、フレキシブル基板のような柔軟性のあるものとすることができる。また、耐熱性や高い寸法安定性が要求される場合は、硬化性樹脂組成物として硬化後に硬度が高くなる組成物を用いることで、リジッド基板(硬質基板)として用いることも可能である。
エポキシ樹脂を被覆に使用する時、硬化性樹脂組成物は低粘度であると取り扱いやすい。このような特徴を持つものとして、ビスフェノールF系の組成、脂肪族ポリグリシジルエーテル系の組成を挙げることができる。
オキセタン樹脂としては、東亞合成社の「アロンオキセタン」等をあげることができる。オキセタン樹脂硬化物は、オキセタン樹脂に、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のカチオン系光重合開始剤「IRGACURE 250」等を混合し、紫外線照射することで硬化反応を開始させる方法により得ることができる。
可溶性樹脂としては、三菱ガス化学社製の低誘電性樹脂「オリゴ・フェニレン・エーテル」、東洋紡績社製のポリアミドイミド樹脂「バイロマックス」、宇部興産社製のポリイミドインク「ユピコート」、東都化学工業製のポリイミドインク「エバーレック」、エヌアイマテリアル社製のポリイミドインク「ULIN COAT」、ピーアイ技術研究所製のポリイミドインク「Q−PILON」、日本合成化学社製の飽和ポリエステル樹脂「ニチゴーポリエスター」、アクリル溶剤型粘着剤「コーポニール」、紫外線・電子線硬化型樹脂「紫光」等の市販品を用いることができる。
充填時に用いられる可溶性樹脂を溶解する溶剤としては、公知の有機溶剤から樹脂の種類に応じて適宜選択して用いることができる。可溶性樹脂を溶剤に溶解した樹脂溶液(可溶性樹脂溶液)の代表的な例としては、例えば、「オリゴ・フェニレン・エーテル」をメチルエチルケトンやトルエンなどの汎用溶剤に溶解した樹脂溶液;「バイロマックス」をエタノール/トルエン混合溶媒に溶解した樹脂溶液(商品名「HR15ET」);「ユピコート」をトリグライムに溶解した樹脂溶液等を用いることができる。
配線を樹脂で被覆する方法としては、特に限定されないが、スポイト、さじ、ディスペンサ、スクリーン印刷、インクジェット等の手段を用いて、上記の硬化性樹脂組成物や可溶性樹脂溶液を多孔質層表面へ展開(塗布)し、必要に応じてヘラ等で余分な樹脂を除去する方法等を用いることができる。前記ヘラとして、例えば、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のフッ素系樹脂、シリコーンゴム等のゴム、ポリフェニレンサルファイド等の樹脂製;ステンレス等の金属製のものを使用できる。なかでも、配線や多孔質層を傷つけにくい点で樹脂製のヘラが好ましく用いられる。また、ヘラ等を使用することなく、スポイト、ディスペンサ、スクリーン印刷、インクジェット等の吐出量をコントロール可能な手段を用いて、適量を多孔質層表面に滴下する方法も可能である。
多孔質層の表面に樹脂をスムーズに展開するため、未硬化の樹脂として粘度の低いものが好ましく用いられる。また、粘度が高い樹脂は、適温で加熱するなどの手段を用いて粘度を下げて用いることにより取り扱い性を上げることが可能である。但し、硬化性樹脂を用いる場合には、加熱により硬化反応速度を上昇させてしまうため、必要以上の加熱は作業性を悪化させるため好ましくない。
上記樹脂成分を多孔質層表面へ展開した後、樹脂の硬化を促進したり、溶剤を揮発する目的で加熱処理が施されることが好ましい。加熱方法は、特に限定されないが、急激な加熱は、樹脂や硬化剤が揮発したり、溶剤が激しく揮発することによりムラができるおそれがあるため、穏やかに昇温する方法が好ましい。昇温は、連続的、逐次的のいずれであってもよい。硬化や乾燥における温度及び時間は、樹脂や溶剤の種類に応じて適宜調整することが好ましい。
本発明の複合材料は、上記以外の構成として、溶剤処理により多孔質層の空孔構造が失われている構成であってもよい。具体的には、多孔質層上に配線パターンを形成後、多孔質層を溶剤に濡らし、膨潤・軟化させた後、乾燥することにより、多孔構造を消失させることができる。
本発明の多孔膜積層体は、多孔質層の空孔率を上げたり、孔径を微小化していくと、多孔構造ゆえに、多孔質層部の強度が弱くなったり、基材との密着強度が低下したりする場合がある。上記の方法により、多孔構造を消失させることで、この層の強度を強くしたり、基材との密着強度を上げることが可能となる場合がある。また、多孔構造を消失させることで、可視光の乱反射をおさえ、透明にすることができる。
一般に、溶剤処理前の多孔質層は、層内の空孔に可視光が乱反射して不透明を呈し、透明性が低いため片側から反対側を透視できない構成を有している。これに対し、溶剤処理された多孔質層は、乱反射を起こさないため透明になる場合が多い。透明な多孔質層は、例えば配線基板に用いた場合に配線の検査を容易にすることができ、また配線基板をデバイスに組み付ける際には部品の位置関係を認識しやすいなどの取扱性に優れる点で有利である。さらに、多孔膜積層体を、PET、PEN等の無色透明の基材で構成した場合には、配線部以外の領域の透明度が非常に高い。このような多孔膜積層体によれば、ディスプレイ画面自体に配線や回路を形成できるため、回路基板を省略してディスプレイ自体の薄型化が可能となり、また、構造の簡略化によりコストダウンを図ることが可能となる。
多孔膜積層体における多孔質層の空孔に対して溶剤処理して透明化することにより、上述のような用途へ展開する可能性が生まれる。透明性に優れた多孔膜積層体を得るためには、多孔質層は、構成する樹脂自体の色が薄いもの、層の厚みが薄いものが好ましく用いられる。
一方、PDP等のディスプレイからは電磁波が発生し、周辺機器への悪影響(ノイズ)を生じさせる。このような電磁波を防止(シールド)するため、PDP前面に配置されるフィルターには、電磁波遮蔽機能を付与することが必要とされており、このようなフィルターとして、格子状の配線が設けられたフィルムが用いられている。
上記用途の電磁波シールドフィルムは、一般に、高い透明性を有するフィルム(高透明フィルム)に金属層が積層された構成を有している。このようなフィルムは、例えば高透明フィルムに金属層をスパッタリングで設ける方法;高透明フィルムに銅箔等を貼り付けた後にエッチングを行って金属メッシュを設ける方法等により形成できる。このような電磁波シールドフィルムの一例としては、線幅20〜30μmでピッチ(繰り返し間隔)約300μmの格子状パターンのものを挙げることができる。
本発明によれば、多孔膜積層体に格子状の配線を形成した後に溶剤処理することにより、上記構成の電磁波シールドフィルムを提供することができる。この際、スクリーン印刷などの印刷法を用いて配線を付与するなど簡単に作成することで、コストダウンを図ることが可能になると考えられる。
さらに、透明(可視光の透過率が約90%)な導電体であるITO(酸化インジウムスズ)インクを用いて印刷することでさらに配線部の透明度を上げることも可能となる。シーアイ化成社製のITOインクやアルバックマテリアル社製のITOインク「ナノメタルインク」等を使用することができる。透明な導電体を使用することで、液晶パネルや有機ELなどのフラット・パネル・ディスプレイ、太陽電池、抵抗膜方式のタッチパネル等に使用できる可能性がある。他の透明な導電体として酸化亜鉛インクを用いて配線を形成する方法を挙げることもできる。
本発明の複合材料は、多孔質層の空孔がそのまま残されている構成であってもよい。多孔質層の空孔がそのまま残されている複合材料とは、多孔質層が多孔体としての特性を備えていることを意味しており、具体的には、例えば、複合材料が、印刷技術により導電体が形成された時点における多孔質層と同程度の空孔構造を保持していることを意味している。このような複合材料は、多孔質層が多孔体としての特性を保持可能な範囲で、他の層が積層されたり、種々の処理が施された構成であってもよい。また、このような複合材料は、溶剤処理等により多孔質層の空孔構造が失われている複合材料を含むものではない。
例えば、低誘電率化等のために多孔質層の空孔をそのまま残す場合は、溶剤処理は行わない。ただし、配線の保護、配線の絶縁、配線の酸化防止、屈曲性向上の目的のために、上記に例示の方法で配線部だけを樹脂で被覆してもよい。
多孔質層の透明化は、例えば、配線を形成した多孔膜積層体を溶剤に濡らすことで多孔質層部が膨潤・軟化し、さらにその後乾燥させることで多孔質部の空孔構造が消失することにより実現される。多孔膜積層を溶剤に濡らす方法としてはディッピングでもいいし、スプレーによる噴霧でもよいし、スポンジローラーによる方法でもよい。溶剤に濡らした後の乾燥は、自然乾燥でもよいし、加熱によるものでも構わない。溶剤の沸点等を考慮して選択すればよい。均質に透明化するためにはゆっくり乾燥させていくのが好ましい。
多孔構造を消失させるのに適当な溶剤は多孔質層の樹脂によって違っており一概には言えないが、多孔質層の樹脂を膨潤・軟化できるものであれば制限されない。しかし、多孔質層の樹脂を完全に溶解し、流動化してしまうものは好ましくないので、避けなければならない。多孔質上に形成された配線パターンが崩壊してしまうからである。溶剤は必ずしも単一のものである必要は無く、二種以上の溶剤を混合したものでも構わない。むしろ、溶剤を混合することにより、適当なレベルで膨潤・軟化させることが可能となる。
具体例として、例えば多孔質層に使用することができるポリアミドイミドは、多くの溶剤に対して難溶であるが、幾つかの極性溶剤(NMP、DMF、DMSO、DMAc等)には可溶である。多孔膜積層体をこれらの極性溶剤そのものに濡らすと多孔質層が溶解し、配線パターンが崩壊してしまうが、これらの極性溶媒と混合でき、多孔質層を溶解しない溶剤(水、アセトン、THF、メタノール、エタノール、IPA、メチルエチルケトン等)と混合することで、多孔質層を膨潤・軟化することができるようになる。
このような混合溶剤系では二段階で乾燥することもできる。例えば、低沸点の溶剤(水、アセトン、THF、メタノール、エタノール、IPA、メチルエチルケトン等)を自然乾燥又は相対的に低い温度で乾燥させた後に、高沸点の溶剤(NMP、DMF、DMSO、DMAc等)を乾燥機等で高温で乾燥させることが考えられる。最終的な乾燥温度と時間は、高沸点の溶剤が十分に揮発する条件を選択すればよい。他の方法として、室温からゆっくりと昇温していく方法を挙げることができる。ディスプレイ用途などで高い透明性を要求される場合は、多孔質層にはより無色で透明度の高い樹脂を選択するのが好ましいし、多孔質層の厚みも極力薄いものを選択する方が好ましい。さらに基材もPETやPEN等のような透明度の高いものを選択するのが好ましい。
多孔質層を溶剤で膨潤・軟化させて多孔構造を消失させてしまう場合、多孔膜積層体の基材は使用する溶剤に対して不溶または難溶なものが好ましい。多孔質層と同じように基材が膨潤・軟化を起こすと基材の変形が起こり、配線基板としての寸法安定性を低下させてしまうことになるからである。基材によって不適切な溶剤は違っており一概には言えないが、PETやPEN、ポリイミドは多くの溶剤に対して不溶又は難溶であるために好ましいものである。
多孔質層への樹脂充填のところで述べたように、透明な導電体であるITOや酸化亜鉛のインクを用いて配線を形成すればさらに透明度を上げることも可能となり、そのような特性が要求される用途への展開が図れるようになる。上記の方法で多孔構造を消失させて透明化することができるが、この場合、配線は裸のままである恐れがある。これまで述べてきたような樹脂による被覆をしたり、カバーレイを形成したりしてきちんと絶縁することが好ましい。
配線基板は、通常、電気を流すためにハンダやコネクタ等で他の部品や基板と接合される。よってその接点部分は、マスキングをした状態で樹脂充填したり、接点部分を避けて樹脂で被覆したりしなければならない。このような樹脂としては、配線を被覆する樹脂として上記例示の硬化性樹脂や可溶性樹脂を用いることができる。
また、配線基板は配線だけで形成されるだけではなく、TABやCOF等のように半導体チップ、コンデンサ、抵抗などをハンダやワイヤー・ボンディング等で配線基板上に接合することができる。さらに、配線形成や部品実装は多孔膜積層体の片面だけではなく両面にすることもできるし、基板を複数積層して多層化することも可能である。
本発明の複合材料は、また、多孔質層上にカバーレイが積層されていてもよい。例えば、フレキシブル基板の場合は、一般的に配線は、配線の保護、配線の絶縁、配線の酸化防止、屈曲性向上の目的で、ポリイミドフィルムやPETフィルム等の樹脂フィルムからなるカバーレイで覆われることが多い。このようなカバーレイ用フィルムとしては、ニッカン工業社製の「ニカフレックス」や有沢製作所製の製品を挙げることができる。
カバーレイを積層する方法としては、例えば、多孔質層への溶剤処理後に、ポリイミドフィルムやPETフィルム等のカバーレイの片面に接着剤が塗布されたカバーレイ用フィルムを加熱圧着する方法等が挙げられる。カバーレイ用フィルムの接着剤としては、公知のものを用いることができ、取り扱いやすいように、半硬化(Bステージ)の状態である場合が多い。
多孔質層上の配線の樹脂被覆だけで十分に配線の保護、配線の絶縁、配線の酸化防止、屈曲性確保ができる場合は、必ずしもカバーレイは必要というわけではなく、省略することも可能である。
本発明の多孔膜積層体や多孔質膜は、より高周波特性の優れたアンテナに利用することができる。
最近では、多くの無線機器が使われており、信号の送受信にはアンテナが必要となる。携帯電話、無線LAN、ICカードなどの普及は著しい。低誘電率の材料をアンテナに使用することはアンテナゲインを増大させることができ、好ましいことである。例えば、ICカード等にはループ状のRFIDアンテナが使われており現状これらは、サブトラクティブ法(エッチング法)により作られている。
従来から使用されているPET基板等を本発明の多孔膜積層体や多孔性フィルムに置き換えることで、より高周波特性の優れたアンテナを製造することができる。製造法はサブトラクティブ法を用いることができる。具体的には、低誘電率な回路基板の製造法で示したのと同様に、樹脂フィルムを基材とした多孔膜積層体や多孔性フィルム表面に銅箔を貼り合わせ、レジストパターン形成後、エッチングにより銅箔の不要な部分を除去することにより行うことができる。また、他の方法としては、銅などの金属箔を基材とした多孔膜積層体にレジストパターンを形成した後に、エッチングして、銅箔の不要な部分を除去することにより行うことができる。そして、従来から行われているサブトラクティブ法は工程が長く、手間とコストがかかる方法である。インク受像シートのところで述べたのと同様に、導電体を含むインクで印刷してアンテナを形成する方法を適用すると、より簡単に低コストで製造することができる。
次に、本発明の多孔質層単層からなる多孔質膜について説明する。
本発明の多孔質膜は、高分子で構成されている多孔質膜であって、
前記多孔質膜における微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜80%であり、
前記多孔質膜の厚みが5〜200μmであり、且つ
ガーレー値で表して30秒/100cc以上の透気度を有する、多孔質膜である。
この多孔質膜は、前記多孔質膜を構成すべき高分子成分を含んでいる高分子溶液を、基材上にフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、高分子成分からなる層を前記基材から剥離し、次いで、前記高分子成分からなる層を乾燥に付すことを含む、多孔質膜の製造方法によって、得ることができる。
前記高分子溶液を基材上にフィルム状に流延した後、相対湿度70〜100%、温度15〜90℃の雰囲気下に0.2〜15分間保持し、その後、これを凝固液中に浸漬することが好ましい。
前記高分子溶液は、前記多孔質膜を構成すべき高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー0〜10重量%、水0〜10重量%、及び水溶性極性溶媒30〜82重量%を含んでいる混合溶液が好ましい。
高分子成分、基材、及び凝固液については共に、上記の積層体において説明したものと同様のものから選択して用いるとよい。
高分子成分からなる層の基材からの剥離工程は、高分子成分からなる層を基材から強制的に剥離してもよいし、あるいは、多孔質層を構成する高分子成分と基材材料との組み合わせを選択して、凝固液中に浸漬すると自然と高分子成分からなる層が基材から剥離するようにしてもよい。
強制的な剥離は、多孔質層の厚みを均一にできる傾向があるが、強く引っ張ると多孔質層を破損してしまうおそれがあるので注意が必要となる。
自然と剥離するようにした方が、製造は容易であるが、多孔質層の厚みに厚みむらが生じる傾向がある。多孔質層と基材が凝固液に導かれると自然と剥離するようにするためには、基材として撥水性の高いものを使用することが好ましい。例えば、フッ素系フィルム(例えば、テフロン(登録商標)フィルム)、フッ素系樹脂を張り合わせたり、コーティングしたフィルム等を用いることができる。
得られる多孔質膜は、前記多孔質膜における微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜80%であり、前記多孔質膜の厚みが5〜200μmであり、且つガーレー値で表して30秒/100cc以上の透気度を有するものとなる。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。テープ剥離試験、平均孔径、空孔率は以下の方法で測定した。
1.テープ剥離試験:
(i) 積層体の多孔質層表面に24mm幅の寺岡製作所社製マスキングテープ[フィルムマスキングテープNo.603(#25)]をテープ一端から50mmの長さ分貼り付け、貼り付けられた前記テープを、直径30mm、200gf荷重のローラー(Holbein Art Materials Inc.社製、耐油性硬質ゴムローラーNo.10)で圧着する。
(ii) 万能引張試験機[(株)オリエンテック社製、商品名「TENSILON RTA−500」]を用いてテープ他端を剥離速度50mm/分で引っ張り、T型剥離を行う。
(iii) 多孔質層と基材との界面剥離の有無を観察する。
多孔質層の平均孔径及び空孔率は以下の方法で算出した。これらの平均孔径及び空孔率は、電子顕微鏡写真に見えている微小孔のみを対象として求められている。
2.平均孔径
電子顕微鏡写真から、積層体の表面又は断面の任意の30点以上の孔についてその面積を測定し、その平均値を平均孔面積Saveとした。孔が真円であると仮定し、下記式を用いて平均孔面積から孔径に換算した値を平均孔径とした。ここでπは円周率を表す。
表面又は内部の平均孔径[μm]=2×(Save/π)1/2
3.空孔率
多孔質層内部の空孔率は下記式より算出した。Vはフィルムの体積[cm3 ]、Wは多孔質層の重量[g]、ρは多孔質層素材の密度[g/cm3 ]を示す。ポリアミドイミドの密度は1.45[g/cm3 ]、ポリイミドの密度は1.42[g/cm3 ]とした。 また、基材上に多孔質層が積層された積層体の場合は、基材の体積、重量を差し引いて、多孔質層内部の空孔率を算出した。
空孔率[%]=100−100×W/(ρ・V)
[実施例1:積層体]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスN−100H」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、溶液粘度350dPa・s/25℃)を製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ51μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。多孔質層の厚みは約15μmであり、積層体の総厚みは約115μmであった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.2μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は65%であった。
[実施例2:積層体]
実施例1において、基材として、SタイプPETフィルムの代わりに、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン100H」、厚み25μm)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。得られた多孔質層の厚みは約15μmであり、積層体の総厚みは約40μmであった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がポリイミドフィルムに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.2μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は65%であった。
[実施例3:積層体]
実施例1において、基材として、SタイプPETフィルムの代わりに、表面処理圧延銅箔(福田金属箔粉工業社製の商品名RCF−T5B−18、厚み18μm)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。得られた多孔質層の厚みは約19μmであり、積層体の総厚みは約37μmであった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層が銅箔に密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.4μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は65%であった。
[実施例4:積層体]
実施例1において、基材として、SタイプPETフィルムの代わりに、PET不織布(日本バイリーン社製の商品名MF―80K、厚み約100μm)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。得られた多孔質層の厚みは約13μmであり、積層体の総厚みは約113μmであった。また、PET不織布内の空間にも、ポリアミドイミド系樹脂溶液が含浸して多孔質層が入り込むように形成されていた。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPET不織布に密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約2.0μmの独立した微小孔が存在していた。
[実施例5:積層体]
実施例1において、基材として、SタイプPETフィルムの代わりに、PET製メッシュクロス(SEFAR社製の商品名PETEX PET64HC、厚み約50μm)を用いた点以外は実施例1と同様の操作を行い、基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。得られた多孔質層の厚みは約6μmであり、積層体の総厚みは約56μmであった。また、メッシュクロス内の空間にも、ポリアミドイミド系樹脂溶液が含浸して多孔質層が入り込むように形成されていた。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPET製メッシュクロスに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、片面にわずかに孔が見られるだけで、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約2.0μmの独立した微小孔が存在していた。
[実施例6:単層多孔性フィルム]
実施例1において、基材として、SタイプPETフィルムの代わりに、帝人デュポン社製PETフィルム(HS74ASタイプ、厚み100μm)の易接着面を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。水中に浸漬して凝固させていると、自然と基材から多孔質層が剥離した。その後、室温下で自然乾燥することによって多孔質層だけからなるシートを得た。得られた多孔質層だけからなるシートの厚みは約21μmであった。
この多孔性フィルムを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.2μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は68%であった。
[実施例7:単層多孔性フィルム]
実施例1において、基材として、SタイプPETフィルムの代わりに、帝人アドバンストフィルム社製アラミドフィルム(アラミカ 160RC、厚み16μm)を用いた点以外は実施例1と同様の操作を行った。水中に浸漬して凝固させていると、自然と基材から多孔質層が剥離した。その後、室温下で自然乾燥することによって多孔質層だけからなるシートを得た。得られた多孔質層だけからなるシートの厚みは約32μmであった。
この多孔性フィルムを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、片面にわずかに孔が見られるだけで、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.4μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は68%であった。
[実施例8:積層体]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスN−100H」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP、溶液粘度350dPa・s/25℃)に溶剤のNMPを追加混合し、固形分濃度15重量%、NMP濃度85%とし、これを製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ51μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。多孔質層の厚みは約15μmであり、積層体の総厚みは約115μmであった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約2.0μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は69%であった。
[実施例9:積層体]
実施例8において、基材として、SタイプPETフィルムの代わりに、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン100H」、厚み25μm)を用いたこと以外は実施例8と同様の操作を行い、基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。得られた多孔質層の厚みは約15μmであり、積層体の総厚みは約40μmであった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がポリイミドフィルムに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約2.0μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は69%であった。
[実施例10:積層体]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスHR11NN」;固形分濃度15重量%、溶剤NMP、溶液粘度20dPa・s/25℃)を製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材であるポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン100H」、厚み25μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ76μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に3分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。多孔質層の厚みは約32μmであり、積層体の総厚みは約57μmであった。図1は、多孔質層表面の電子顕微鏡写真であり、図2は、積層体の断面の電子顕微鏡写真である。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がポリイミドフィルムに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、わずかに孔が見られるだけで、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約4.0μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は68%であった。
[実施例11:積層体]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスHR11NN」;固形分濃度15重量%、溶剤NMP、溶液粘度20dPa・s/25℃)100重量部に、水溶性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(分子量5万)5重量部を加えて製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ51μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。多孔質層の厚みは約15μmであり、積層体の総厚みは約115μmであった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、わずかに孔が見られるだけで、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約4.0μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は70%であった。
[比較例1]
実施例6において、水中浸漬中に剥離した多孔質層をポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン100H」、厚み25μm)上に転写した後、乾燥することによって多孔フィルムを得た。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、テープと多孔質層の界面で剥離する前に、ポリイミドフィルムと多孔質層とが界面剥離を起こした部分があった。これは、多孔質層をポリイミドフィルムに転写する際に、薄い多孔質層を取扱う過程でシワが生じ、多孔質層とポリイミドフィルムとの層間に空隙を含む部位が複数箇所生じていたためと思われる。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がポリイミドフィルムに密着していない部分が複数個所見られた。多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.2μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は68%であった。
[実施例12:積層体]
ポリイミド前駆体のポリアミック酸溶液(宇部興産社製の商品名「U―ワニス―A」;固形分濃度18重量%、溶剤NMP、溶液粘度5Pa・s/30℃)を製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材であるポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン100H」、厚み25μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ76μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に3分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく温度100℃の温度槽で乾燥した。次いで、260℃の温度槽の中で60分間加熱して多孔質層を構成するポリアミック酸をイミド化することによって、基材上にポリイミドからなる多孔質層が積層された積層体を得た。260℃加熱前の多孔質層の厚みは約28μmであり、積層体の総厚みは約53μmであった。260℃加熱後の多孔質層の厚みは約27μmであり、積層体の総厚みは約52μmであった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がポリイミドフィルムに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、わずかに孔が見られるだけで、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約2.5μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は62%であった。
[実施例13:積層体]
実施例2で得た積層体(基材/多孔質層がポリイミド/ポリアミドイミド)を270℃の温度槽の中で60分間加熱処理を施すことにより、多孔質層を構成するポリアミドイミドを熱架橋させて不溶化させ、多孔質層に耐薬品性を付与した。加熱処理により耐溶剤性が付与された多孔質層を有する積層体は、NMPに浸漬して10分後でも溶解しなかったのに対し、実施例2で得た積層体(加熱処理前)はNMPに浸漬して数秒以内に溶解してしまった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がポリイミドフィルムに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.2μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は63%であった。
[実施例14:単層多孔性フィルム]
ポリエーテルイミド系樹脂溶液(日本GEプラスチック製、商品名「ウルテム1000」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP)を調整し製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(HS74ASタイプ、厚み100μm)の易接着面を上にしてテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ102μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に2分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させていると、自然と基材から多孔質層が剥離した。その後、室温下で自然乾燥することによって多孔質層だけからなるシートを得た。得られた多孔質層だけからなるシートの厚みは約27μmであった。
この多孔性フィルムを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、わずかに孔が見られるだけで、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.0μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は60%であった。
[実施例15:積層体]
積層体として実施例2で得た積層体[基材/多孔質層がポリイミドフィルム(25μm)/ポリアミドイミド(15μm)]に、導電インク[藤倉化成株式会社製銀ペースト、ナノ・ドータイトXA9053]で、印刷スピードは30mm/sec、印圧0.1MPaの条件で、200μmのラインアンドスペース(L/S=200μm/200μm)の配線パターンを用いてスクリーン印刷方式にて印刷を行った。使用したスクリーン印刷機はニューロング精密工業株式会社製LS−25TVAであった。印刷後、180℃で30分間保持し、導電インクを硬化させて配線を形成した。使用したインクは酸化銀が加熱により還元されて銀になるタイプのものであって、印刷直後は黒色であったが、加熱後には金属銀の光沢を示した。電子顕微鏡で観察したところ、L/S=200μm/200μmの配線パターンが形成されていた。
[実施例16:積層体]
実施例15において、積層体として実施例12で得た積層体[基材/多孔質層がポリイミドフィルム(25μm)/ポリイミド(27μm)]を用いた点以外は実施例15と同様の操作を行い、L/S=200μm/200μmの配線パターンを用いてスクリーン印刷方式にて印刷を施して配線基板を製造した。得られた配線基板を電子顕微鏡で観察したところ、L/S=200μm/200μmの配線パターンが形成されていた。
[実施例17:積層体]
ポリエーテルスルホン系樹脂溶液(住友化学社製の商品名「スミカエクセル5200P」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP)を調整し製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ102μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。多孔質層の厚みは約28μmであり、積層体の総厚みは約128μmであった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、わずかに孔が見られるだけで、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約3.0μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は68%であった。
[比較例2:積層体]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスN−100H」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP、溶液粘度350dPa・s/25℃)を製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ51μmの条件でキャストした。キャスト後、加湿することなく、速やかに、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。多孔質層の厚みは約12μmであり、積層体の総厚みは約112μmであった。
実施例1の積層体は黄白色で不透明なのに対して、得られた積層体は黄白色ではあるが若干反対側が透けて見えるくらいの透明度を持っていた。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層の表面には約6μmの厚いスキン層が形成されており、厚いスキン層の下部に多孔構造は見られるものの不均質なものであった。図3は、多孔質層表面の電子顕微鏡写真であり、図4は、積層体の断面の電子顕微鏡写真である。
[透気度試験]
実施例4〜7、14で作製した各サンプルの透気度を測定した。透気度は、テスター産業株式会社製のガーレー式デンソメーターB型を用い、JIS P8117に準じて測定した。秒数はデジタルオートカウンターで測定した。
測定結果を次に示す。なお、比較のために、厚み93μmの普通紙(国際紙パルプ商事株式会社製「オゾン100リサイクルPPC用紙」)について、同一条件での透気度測定を行った。本発明の各サンプルの透気性は低く、多孔質層内の微小孔の連通性が低いことが確認された。
サンプル 透気度
実施例4の積層体 60秒 (本発明の範囲外)
実施例5の積層体 3300秒
実施例6の単層多孔性フィルム 2100秒
実施例7の単層多孔性フィルム 4000秒以上(秒数測定限界)
実施例14の単層多孔性フィルム 4000秒以上(秒数測定限界)
(比較)厚み93μmの普通紙 23秒
[透気度試験]
実施例1〜3、8〜12、17で作製した各サンプルにおいて、多孔質膜を基材から剥離させ、剥離後の多孔質膜の透気度を測定した。透気度の測定は上記のとおりである。測定結果を次に示す。本発明の各サンプルの透気性は低く、多孔質層内の微小孔の連通性が低いことが確認された。
サンプル 透気度
実施例1の積層体 1600秒 (本発明の範囲外)
実施例2の積層体 1600秒 (本発明の範囲外)
実施例3の積層体 2100秒
実施例8の積層体 1500秒 (本発明の範囲外)
実施例9の積層体 1500秒 (本発明の範囲外)
実施例10の積層体 4000秒以上(秒数測定限界)
実施例11の積層体 4000秒以上(秒数測定限界)
実施例12の積層体 1700秒 (本発明の範囲外)
実施例17の積層体 4000秒以上(秒数測定限界)