JP3774322B2 - 表面多孔体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、バイオセンサー、化学センサー、診断薬、バイオリアクター、クロマトグラフなどの分析用具、生化学研究用具、人工肝臓等の人工臓器、などに有用な表面多孔体の製造方法に関し、更に詳しくは、各々の空隙細胞が互いに連通している細孔を有する多孔質層部と非多孔質支持体部が一体になった表面多孔体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
抗原、抗体、酵素、触媒、呈色試薬、オルガネラ、細胞、微生物などの物質を非多孔質体からなる基材に保持させて特定の反応を行った場合、表面積が極端に小さいため、上記物質の保持量が少なく、効率が低かった。即ち、例えば、センサーにおいては検出感度が不十分となり、リアクターにおいては反応速度が不十分であった。
【0003】
この欠点を改良する目的で、基材として多孔質体を用いることにより、多孔質体の表面積の多さを利用して、反応性物質を多量に保持させる方法が知られている。例えば、「アレルギー」(第38巻第6号第478頁(1989年))には、多孔質体として綿糸を用いたマストイムノシステムズ社製マルチアレルゲン診断薬の例が記載されている。しかしながら、この場合、反応に寄与しにくい多孔質体の内部まで反応性物質が保持されてしまい、たとえ反応しても、反応生成物を多孔質体の内部から離脱させることが困難となるため、効率の低下を招いていた。即ち、例えば、センサーにおいては、検出工程における洗浄に長時間を要し、検出作業の非効率を招く、という問題点があり、リアクターにおいては、通常は反応阻害剤となる反応生成物が離脱しにくいため、反応効率の低下を招く、という問題点があった。また、基材に固定する物質が高価なものや貴重なものである場合、多孔質体の内部にまで固定されるという無駄があるため、装置・器具の高価格化を招く、という問題点があった。さらに、被検体が少量の場合には高感度の測定ができない、という問題点があった。
【0004】
基材として多孔質体を用いる場合、多孔質体のみを用いるほか、非多孔質体に多孔質体を貼り付けたものを用いる場合もあり得る。しかしながら、後者の場合も基材として多孔質体のみを用いる場合と同じ問題点を有する上、剥離や間隙を生じず、かつ多孔質部の構造変化を生じずに接着することは相当に困難であり、また、厚さ50μm以下、特に30μm以下の多孔質膜を取り扱うことは相当に困難であった。また、多孔質体部分の寸法をミリメートルオーダー以下まで小さくしたり、形状の複雑な多孔質部を形成する必要のある場合、上述の貼り付けによる基材の製造は相当に困難であった。
【0005】
一方、このような多孔質基材の欠点を避ける方法として、非多孔質体の表面を研磨して表面を粗面化する方法も知られていたが、非多孔質体に対する表面積の増加量は不十分である上、性能のばらつきや生産性に問題があった。更に、表面研磨部の寸法をミリメートルオーダー以下まで小さくしたり、パターニングする必要のある場合には、研磨法による基材の製造は相当に困難であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、(1)非多孔質体の表面に極薄い厚さの多孔質層を有する表面多孔体の製造方法を提供すること、(2)物質の固定量を十分に大きくすると共に、洗浄の容易な多孔質構造を形成できる表面多孔体の製造方法を提供すること、(3)微細なパターニング構造を有する表面多孔質層を形成できる表面多孔体の製造方法を提供すること、(4)表面多孔質部とその下の非多孔質部が一体化していて、その境界で剥離することがない表面多孔体の製造方法を提供すること、にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決する方法について鋭意検討した結果、ポリマー(P)で構成された成形物に、溶剤(S)と溶剤(S)に溶解するポリマー(Q)を希薄濃度で含有する溶液(I)を塗布した後、該成形物を、ポリマー(P)及びポリマー(Q)の両者を溶解しない凝固液(N)と接触させることにより、上記の課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は上記課題を解決するために、ポリマー(P)で構成された成形物に、溶剤(S)及び溶剤(S)に溶解するポリマー(Q)を含有する溶液(I)を塗布した後、該成形物を、ポリマー(P)及びポリマー(Q)の両者を溶解しない凝固液(N)と接触させことにより、該成形物の表面に多孔質層を形成することからなる表面多孔体の製造方法であって、(イ)溶剤(S)がポリマー(P)を溶解又は膨潤させ得る溶剤であること、及び(ロ)溶液(I)のポリマー(Q)含有量が0.1〜10重量%の範囲にあることを特徴とする表面多孔体の製造方法を提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法において用いられるポリマー(P)は、これを溶解又は膨潤し得る溶剤(S)と、これを溶解又は膨潤しない凝固液(N)が存在するものであれば、特に限定されない。
【0010】
そのようなポリマー(P)としては、例えば、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレンの如きスチレン系ポリマー;ポルスルホン、ポリエーテルスルホンの如きポリスルホン系ポリマー;ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルの如きポリ(メタ)アクリレート系ポリマー;ポリカーボネート系ポリマー;酢酸セルロース、メチルセルロースの如きセルロース系ポリマー;ポリウレタン系ポリマー;塩化ビニル、塩化ビニリデンの如き塩素含有ポリマー;ポリアミド系ポリマー;ポリイミド系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレンの如きポリオレフィン系ポリマー;ポリフッ化ビニリデンの如きフッ素含有ポリマー;ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィドの如きポリエーテル系又はポリチオエーテル系ポリマー;ポリアリレートの如きポリエステル系ポリマー等を挙げることができる。これらの中でも、成形のし易さ、固定すべき物質及び被検体中の物質との親和性のバランスなどから、ポリスチレン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリイミド系ポリマーが好ましく、ポリスチレン、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミドが特に好ましく、安価であることからポリスチレンが最も好ましい。ポリマー(P)は単独種のポリマーであっても良いし、共重合体であっても、ブレンド物であっても良く、さらに、ポリマー中に改質剤、着色剤、無機物等の添加剤が混入されていても良い。
【0011】
本発明の製造方法において用いられるポリマー(P)で構成された成形物は、その表面に溶液(I)の塗膜を形成することができるものであれば何等限定されるものではない。ポリマー(P)で構成された成形物の形状としては、例えば、フィルム状(シート状を含む)、板状、棒状、糸状、中空糸状、管状、円管状、粒状、カプセル状、容器状(ウェル状を含む)、などが挙げられるが、パターニングする用途の場合には、その容易さからフィルム状、板状又は棒状が好ましい。リアクターとして使用する場合には、糸状、中空糸状、織物状、編物状、不織布状、粒状等が好ましい。
【0012】
本発明の製造方法において用いられる溶剤(S)は、ポリマー(P)を溶解又は膨潤させ得る溶剤であれば特に制約はなく使用できる。ここで言う「溶解させる」とは、ポリマーを5重量%以上溶解させることを言い、「膨潤させる」とは25℃においてポリマー中に溶剤を5重量%以上吸蔵させることを言う。溶剤(S)として、ポリマー(P)を溶解又は膨潤させ得るものを使用することによって、ポリマー(P)から構成された成形物の表面の少なくとも一部が溶解し、成形物の表面に塗布された溶液(I)中のポリマー(Q)が溶着する結果、支持体成形物と剥離しない表面多孔質構造を得ることができる。
【0013】
そのような溶剤(S)としては、例えば、ジクロロメタン、1,1,2−トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−クロロフェノール、p−クロロフェノール、ジクロロフェノールの如き塩素系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンの如きアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド、スルホランの如き硫黄含有系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチルの如きエステル系溶剤;ヘキサメチルリン酸トリアミドの如き燐酸系溶剤;アセトン、2−ブタノン、γ−ブチロラクトンの如きケトン系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテルの如きエーテル系溶剤、などが挙げられる。
【0014】
これらの溶剤(S)の中でも、工業的には、水に可溶な溶剤が好ましく、また、成形中に溶剤が蒸発することにより、多孔質層表面の細孔径が必要以上に小さくなることを防ぐために、高沸点溶剤が好ましい。好ましく用いられる溶剤(S)としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドの如き水溶性の高沸点有機溶剤が挙げられる。溶剤(S)は、混合溶剤であって良く、この場合、単独ではポリマー(P)を溶解させない成分を含有していても良いが、溶剤(S)中に含有する成分は、後述の凝固液(N)に溶解するものであることが必要である。
【0015】
本発明の製造方法において用いられるポリマー(Q)は、使用する溶剤(S)に可溶であり、且つ、使用する凝固液(N)に不溶であれば任意のものが使用できる。
【0016】
そのようなポリマー(Q)としては、例えば、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレンの如きスチレン系ポリマー;ポルスルホン、ポリエーテルスルホンの如きポリスルホン系ポリマー;ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルの如きポリ(メタ)アクリレート系ポリマー;ポリカーボネート系ポリマー;酢酸セルロース、エチルセルロースの如きセルロース系ポリマー;ポリウレタン系ポリマー;塩化ビニル、塩化ビニリデンの如き塩素含有ポリマー;脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミドの如きポリアミド系ポリマー;芳香族ポリイミド、ポリエーテルイミドの如きポリイミド系ポリマー;ポリフェニレンオキサイドの如きポリエーテル系やポリチオエーテル系ポリマー、などが挙げられる。これらの中でも、成形のし易さ、固定すべき物質及び被検体中の物質との親和性のバランスなどから、ポリスチレン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリイミド系ポリマーが好ましく、ポリスチレン、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドが特に好ましい。ポリマー(Q)は、単独種のポリマーであっても良いし、共重合体であっても、混合物であっても良い。
【0017】
また、ポリマー(Q)は、ポリマー(P)と同一であっても、異なっていても良いが、固定すべき物質及び被検体中の物質との親和性を多孔質層各部で同一にするためには、ポリマー(Q)とポリマー(P)が同一種であることが好ましい。また、ポリマー(Q)とポリマー(P)が同一種である場合、平均分子量や分子量分布は異なっていても良い。ポリマー(Q)とポリマー(P)が異なる種のポリマーである場合、多孔質層は、ポリマー(Q)単独で構成される場合もあり得るし、成形物を構成するポリマー(P)が一部溶解することにより、ポリマー(P)とポリマー(Q)の混合ポリマーで構成される場合もあり得る。固定すべき物質及び被検体中の物質との親和性を多孔質層各部で同一にする必要がそれほど無い場合には、ポリマー(P)として安価な素材を用い、ポリマー(Q)として固定すべき物質や被検体中の物質との親和性が好適なポリマーを選択することが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法において用いられる溶液(I)は、溶剤(S)及びポリマー(Q)を含有する溶液であり、ポリマー(Q)の含有量が0.1〜10%の範囲にあるものである。溶液(I)には、その他の成分として、例えば、酸、アルカリ、塩、増粘剤、最終成形物の物性改良剤、強化材、着色剤等を含有させることもでき、バイオセンサーとして使用する場合には、センサー機能を有し、且つ、多孔質部分に固定又は担持される物質を含有させることもできる。
【0019】
溶液(I)に含有させることができる酸としては、例えば、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸の如きカルボン酸;フェノール類;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸の如きアルキルスルホン酸;塩酸、硫酸の如き無機酸、などが挙げられる。
【0020】
溶液(I)に含有させることができるアルカリとしては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムの如き無機あるかり;4級アンモニウムの如き有機アルカリが挙げられる。
【0021】
溶液(I)に含有させることができる塩としては、例えば、リチウム、カリウム、ナトリウム、カルシウムの如き金属の有機酸塩や無機酸塩;四級アンモニウム塩、などが挙げられる。
【0022】
溶液(I)に含有させることができる増粘剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンの如き凝固液(N)に溶解するポリマーなどが挙げられる。
【0023】
溶液(I)に含有させることができる最終成形物の物性改良剤として機能する成分としては、例えば、湿潤剤として機能するグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、界面活性剤、などが挙げられる。
【0024】
溶液(I)に含有させることができる最終成形物の強化材として機能する成分としては、例えば、各種ポリマーや炭素材料のステープル、クレイなどの無機粉末、などが挙げられる。
【0025】
溶液(I)に含有させることができる最終成形物の着色剤として機能する成分としては、例えば、ブルーデキストリンのほか、公知の染料、顔料、蛍光色素、などが挙げられる。
【0026】
本発明の製造方法で得られる表面多孔体の多孔質部の構造は、溶液(I)の成分及び組成を調節することにより、種々の構造を得ることができる。抗原、抗体等を保持させ診断デバイスとして利用する場合、高い診断感度を得るために、単位面積当たりの吸着物質の吸着量が高いこと、すなわち同一の素材であれば多孔質部の表面積が大きいことが好ましく、また、洗浄の効率が良いことが求められるため、多孔質部の構造は連結微粒子構造又は網目構造の上に連結微粒子が融着した構造であることが好ましく、次いで、網目状構造であることが好ましい。井戸型や独立気泡型の多孔質構造は、表面積と洗浄性とのバランスの面から好ましくない。溶液(I)中のポリマー(Q)の濃度が高すぎると連結粒子構造は形成されず、網目構造であっても多孔質部分の空隙が減少し、緻密化してしまうか、井戸型細孔又は独立気泡型細孔と成りやすい傾向にあるため、本発明で使用する溶液(I)中のポリマー(Q)の濃度は、0.1〜10%の範囲が好ましく、中でも、連結粒子型構造を形成しやすく、十分に多孔質部分の空隙が存在し、表面積が大きい構造が得られる点から、溶液(I)中のポリマー(Q)の濃度は、0.5〜5.0重量%の範囲が特に好ましい。溶液(I)中のポリマー(Q)の濃度が、0.1重量%未満では、連結粒子状構造が形成されにくい上、工業的に安定した製造が困難となる傾向にあるので、好ましくない。
【0027】
本発明の製造方法において用いられる凝固液(N)は、溶剤(S)と混和し、ポリマー(P)及びポリマー(Q)を溶解させない液体であって、溶液(I)の賦形物と接触させることによりポリマー(Q)を多孔体状に凝固させるものであれば、任意のものが使用できる。溶液(I)の賦形物と接触させることによりポリマー(Q)を多孔体状に凝固させるかどうかは、溶剤(S)とポリマー(Q)との組み合わせにより異なるため、一般的な分類はできないが、簡単な実験により確認することができるので、使用する溶剤(S)とポリマー(Q)に応じて選択すればよい。
【0028】
そのような凝固液(N)としては、例えば、デカン酸メチルの如き脂肪酸エステル類;ジイソブチルケトンの如きジアルキルケトン類;液状ポリエチレングリコール;ポリエチレングリコールのモノエステル;ポリエチレングリコールのモノエーテル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノールの如きアルコール;水、などがあげられる。水は、水溶性溶剤、界面活性剤、ポリマー、酸、アルカリ、塩等を溶解した水溶液であり得る。これらの凝固液(N)の中でも、水又は水溶液が、工業的生産性の面から好ましい。
【0029】
本発明の製造方法における溶液(I)の塗布方法には特に制限がなく、バーコーター;スプレー;刷毛塗り;カーテンコートの如きノズルからの押し出し;溶液(I)中への成形物の浸漬;スクリーン印刷、グラビヤ印刷、インクジェット法の如き印刷法、などが挙げられる。また、溶液(I)を任意のパターンに塗布しても良く、その場合の塗布方法にも特に制限がなく、上記した印刷など任意の方法が挙げられる。溶液(I)の塗布厚も任意であるが、バイオセンサーとして使用する場合、好適な構造や孔径を有する多孔質構造を形成するためには、50〜200μmの範囲が好ましい。1つの成形物の複数の領域に溶液(I)を塗布する場合、各領域において、溶剤(S)の種類、ポリマー(Q)の種類、濃度、添加物などが異なる組成の溶液(I)を用いることもできる。
【0030】
また、薄く均一に塗布する必要がある場合あるいは形状が複雑な成形物の表面に塗布する場合には、溶液(I)に、溶剤(S)よりも沸点の低い溶剤(S′)を添加して塗布し、溶剤(S′)を揮発させた後に凝固液(N)と接触させる方法を用いても良い。溶剤(S′)は、溶液(I)に添加することでポリマー(Q)が析出しないものであれば如何なるものでも良い。
【0031】
溶液(I)が塗布された成形物を凝固液(N)と接触させる方法は任意であり、例えば、凝固液(N)への浸漬、凝固液(N)のシャワーとの接触、凝固液(N)のミストとの接触、凝固液(N)の液膜との接触等であり得るが、浸漬が最も好ましい。勿論、凝固液(N)との接触は、成形物全体である必要はなく、溶液(I)が塗布された部分のみであっても良く、また、溶液(I)が塗布された部分の一部であっても良い。
【0032】
表面多孔質層部の構造は、先に述べたように、溶液(I)中のポリマー(Q)濃度の他、ポリマー(P)とポリマー(Q)との組み合わせ、溶剤(S)と凝固液(N)の種類、溶液(I)を塗布した後、凝固液(N)との接触までの時間、塗布膜厚、温度を適宜選択することで、幅広く調節をすることができる。例えば、凝固液(N)のポリマー(Q)に対する溶解度が低いほど、表面多孔質層部の構造は、細かい粒子構造と成りやすい。
【0033】
本発明で得られる表面多孔体の多孔質部分の厚さは、洗浄工程を有する用途に使用する場合、多孔質層部分が厚すぎると洗浄に長時間を必要とするため薄い方が好ましいが、薄すぎると反応性物質の固定又は担持量の低下をもたらす。よって両者のバランスから、表面多孔体の多孔質部分の厚さは、1〜50μmの範囲にあることが好ましく、3〜20μmの範囲にあることがさらに好ましい。多孔質層の厚さは、溶液(I)の塗布厚、溶液(I)中のポリマー(Q)濃度、溶液(I)を塗布した後の凝固液(N)との接触までの時間、温度等の条件によって調節することができる。例えば、溶剤(S)のポリマー(P)に対する溶解度が高い場合、凝固液との接触までの時間が長い場合、あるいは温度が高い場合には、表面多孔質層の厚さが厚くなる傾向にある。
【0034】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、例中の「%」及び「部」は、特に断りがない限り、「重量%」及び「重量部」をそれぞれ表わすものとする。
【0035】
[実施例1]
ポリマー(Q)としてポリスチレン[大日本インキ化学工業(株)製の「ディックスチレン XC−520」]1部及び溶剤(S)としてN,N−ジメチルアセトアミド[東京化成工業(株)製]99部を混合して溶液(I−1)を得た。
【0036】
ポリマー(P)で構成された成形物として、ポリスチレン[大日本インキ化学工業(株)製の「ディックスチレン XC−520」]からなる厚さ約0.2mmの2軸延伸シートを用い、温度25℃にて溶液(I−1)を該成形物上にカラス口にて、塗布厚さ150〜200μm、幅約1mmの線状に塗布し、30秒後に凝固液(N)である蒸留水中へ投入したところ、塗布部分は白色化し、非塗布部分は透明のままであった。その後、該フィルムを流水で1時間洗浄した後、16時間以上自然乾燥させて、幅約1mmの線状の表面多孔質層を持った表面多孔体(1)を得た。
【0037】
表面多孔体(1)の表面多孔質層には、乾燥後の剥離が見られず、表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、直径約0.1μmの凝集粒子の下に、孔径2〜5μmの網目状の構造があり、さらにその下に直径約1μm深さ約0.5μmの井戸状の細孔からなる、厚さ約5μmの多孔質構造が観察された。一方、この表面多孔体(1)の透明部分には、細孔は全く観察されず、非多孔質の状態を保っていることが確認された。また、この基材を水銀ポロシメーター(カルロエルバ社製2000型)にて細孔測定を行ったところ、約5.4μmに孔径分布のピークが存在した。さらに、この表面多孔体の多孔質部分を液体窒素中で破断したところ、表面多孔質層とその下の非多孔質部の境界における剥離は認めれなかった。
【0038】
[応用例1]
▲1▼実施例1で得た多孔質層が形成された基材をハサミで切断し、約7mm幅の短冊状にした後、短冊状に切断した基材の多孔質層に、カラス口を用いて、ヤケヒョウヒダニより抽出したアレルゲンエキス(鳥居製薬社製)を1mm幅の線状に塗布した。そのまま室温にて静置して、十分乾燥させて多孔質層にアレルゲンを固定した。次に、アレルゲンを固定した短冊状の多孔質層を有する基材を約7mm角に切断した。
【0039】
▲2▼これを細胞培養用24穴ウェル(コーニング社製)に、多孔質層を上にして入れた。1ウェルあたり500μLの10%ウシ胎児血清/リン酸緩衝液を入れ、30分間振とうしてアレルゲンの固定していない部分をブロッキングした。ブロッキング終了後、溶液をアスピレーターを用いて吸い出した。
【0040】
▲3▼次いで、1ウェルあたり500μLの1%「ツイーン(Tween)20」(ワコー社製)/リン酸緩衝液(以下、これを洗浄液と称する)を加えて、振とうして洗浄した。アスピレーターを用いて洗浄液を吸い出し、洗浄は1回当たり3分で2回繰り返えすことによってヤケヒョウダニに特異的な免疫グロブリンE(IgE)を検知するセンサーを得た。
【0041】
▲4▼洗浄後、3%ウシ血清アルブミン(生化学工業(株)製)/リン酸緩衝液(0.1M、pH7.2)を1ウェルあたり235μL加え、更にヤケヒョウヒダニに特異的な免疫グロブリンE(IgE)を含むヒト血清を1ウェルあたり15μL加えた。また、対照として、ヤケヒョウヒダニに対するIgE抗体を含まないヒト血清も用いた。ウェルをシールして溶液の蒸発を防ぎ、一昼夜室温にて振とう反応させた。
【0042】
▲5▼反応終了後、1ウェルあたり500μLの洗浄液を加えて洗浄した。洗浄液はアスピレーターを用いて吸い出し、洗浄は1回当たり3分で4回繰り返した。
【0043】
▲6▼洗浄終了後、ペルオキシダーゼを結合させた抗ヒトIgE抗体(KPL社製)を3%ウシ血清アルブミン(生化学工業(株)製)/リン酸緩衝液(0.1M、pH7.2)にて稀釈したものを1ウェルあたり250μL加えた。ウェルをシールして室温にて2時間振とう反応させた。
【0044】
▲7▼反応終了後、1ウェルあたり500μLの洗浄液を加えて洗浄した。洗浄液はアスピレーターを用いて吸い出し、洗浄は1回当たり3分で4回繰り返した。
【0045】
▲8▼洗浄終了後、ペルオキシダーゼの基質として、ECLキット(アマシャム社製)を用いた。キットの第1液と第2液を等量混合したものを準備し、これを1ウェルあたり250μL加え、3分間振とう反応させた。
【0046】
▲9▼反応終了後、ウェルから多孔質層を取り出して濾紙に「セロテープ」(ニチバン社製のセロファン粘着テープ)を用いて固定し、それをフィルム現像用のカセットホルダーに「セロテープ」で固定した。暗室内で化学発光検出用フィルム(アマシャム社製)を、反応の終了した多孔質層に重ねた後、カセットホルダーをしっかりと閉じた。10〜30分間反応させた後、暗室内でカセットホルダーからフィルムを取り出し、X線フィルム用現像液及び停止液を使用して現像処理した。既知濃度のヤケヒョウヒダニ特異IgE抗体を持つ検体のシグナル強度とゼロ濃度の検体のシグナルを比較することにより、特異IgEの検出感度を測定した。その結果、特異IgEの検出感度は1IU/mlであった。
【0047】
[実施例2]
実施例1において、ポリマー(Q)としてポリエーテルイミド(帝人アモコ(AMOCO) 社製の「ULTEM1000」)5部を使用し、溶剤(S)の使用量を95部に減量した以外は、実施例1と同様にして、溶液(I−2)を得た。
【0048】
実施例1において、溶液(I−1)に代えて、溶液(I−2)を使用した以外は、実施例1と同様にして表面多孔体(2)を得た。
【0049】
この表面多孔体(2)の表面及び断面をSEMを用いて観察したところ、多孔質層は、直径約0.1μmの粒子が凝集して形成され網目構造が観察され、その隙間として与えられる平均直径約0.5μmの細孔からなる厚さ約8μmの多孔質であることが確認された。また、実施例1と同様にして、水銀ポロシメーターを用いて細孔測定を行った結果、約0.7μmに孔径分布のピークが存在した。更に、実施例1と同様にして、低温破断試験を実施した結果、表面多孔体(2)の表面多孔質層とその下の非多孔質部の境界における剥離は認めれなかった。
【0050】
[応用例2]
応用例1において、表面多孔体(1)に代えて、実施例2で得た表面多孔体(2)を用いた以外は、応用例1と同様にして、免疫診断デバイスとしてのブランクテストを行った結果、特異IgEの検出感度は1IU/mlであった。
【0051】
[実施例3]
実施例1において、ポリマー(Q)としてポリスルホン(帝人アモコ(AMOCO) 社製の「P−1700NT」)8部を使用し、溶剤(S)の量を92部に減量した以外は、実施例1と同様にして、溶液(I−3)を得た。
【0052】
実施例1において、溶液(I−1)に代えて、溶液(I−3)を使用した以外は、実施例1と同様にして、表面多孔体(3)を作成した。
【0053】
この表面多孔体(3)の表面及び断面をSEMを用いて観察したところ網目構造が観察され、直径平均0.2μmの細孔からなる厚さ約16μmの多孔質層が形成されていることが確認された。また、実施例1と同様にして、水銀ポロシメーターを用いて細孔測定を行った結果、約0.3μmに孔径分布のピークが存在した。更に、実施例1と同様の低温破断試験の結果、表面多孔体(3)の表面多孔質層とその下の非多孔質部の境界における剥離は認められなかった。
【0054】
[応用例3]
応用例1において、表面多孔体(1)に代えて、実施例3で得た表面多孔体(3)を用いた以外は、応用例1と同様にして、免疫診断デバイスとしてのテストを行った結果、比較的高いバックグラウンド(非特異的シグナル)が観察され、特異IgEの検出感度は5IU/mlであった。このバックグラウンドを十分に下げ、検出感度を高めるには、応用例1における▲5▼及び▲7▼の洗浄において、洗浄時間を各6分×4回にする必要があったが、この条件で洗浄を行なうことにより、特異IgEの検出感度を1IU/mlに上げることができた。
【0055】
[実施例4]
実施例1において、ポリマー(Q)として、ポリスチレン(大日本インキ化学工業株式会社製の「ディックスチレン XC−520」)3部を使用し、溶剤(S)としてN−メチルピロリドン97部を使用した以外は、実施例1と同様にして、溶液(I−4)を得た。
【0056】
ポリマー(P)で構成された成形物として厚さ200μmのポリスチレン製シート[大日本インキ化学工業(株)製の「クリアパクトシート」]を使用し、該シート上に溶液(I−4)を設定厚さ50μmのアプリケーターで面状に塗布し、直ちに凝固液(N)であるエタノール中に投入した後、該シートを流水中で1時間洗浄し、一晩自然乾燥させて、面状の表面多孔質層を有する表面多孔体(4)を得た。
【0057】
この表面多孔体(4)の表面及び断面をSEMを用いて観察したところ、直径約1μmの微粒子が凝集又は連結し融着した多孔質とその下に形成された井戸状の細孔とを有する厚さ約5μmの表面多孔質層であることが確認された。また、凝集粒子の疎な部分の孔径は1〜3μmであった。また、実施例1と同様にして水銀ポロシメーターを用いて細孔測定を行った結果、約3μmと1μmに孔径分布のピークが存在した。更に、実施例1と同様の低温破断試験の結果、多孔質層と支持部との剥離は認められなかった。
【0058】
[応用例4]
応用例1において、表面多孔体(1)に代えて、実施例4で得た表面多孔体(4)を用いた以外は、応用例1と同様にして、免疫診断デバイスとしてのブランクテストを行った結果、特異IgEの検出感度は1IU/mlであった。
【0059】
[実施例5]
実施例1において、ポリマー(Q)としてポリスチレン(大日本インキ化学工業株式会社製の「ディックスチレン XC−520」)1部を使用し、溶剤(S)としてN−メチルピロリドン99部を使用した以外は、実施例1と同様にして、溶液(I−5)を得た。
【0060】
実施例4において、溶液(I)として溶液(I−5)を使用した以外は、実施例4と同様にして、成形物の一方の全表面に表面多孔質層を有する表面多孔体(5)を得た。
【0061】
この表面多孔体(5)の表面及び断面をSEMを用いて観察したところ、直径約4μmのほぼ円形のへこみ(井戸型細孔)を有する構造の上に、直径約1μmの微粒子の凝集体又は連結体が分散し融着した、厚さ約3μmの表面多孔質層を有することが確認された。表面多孔体(5)の表面に存在する微粒子の数は、実施例4で作製した表面多孔体(4)と比較して多量であり、また、凝集粒子の疎な部分の孔径は5〜10μmであった。また、実施例1と同様にして、水銀ポロシメーターを用いて細孔測定を行った結果、約3.5μmに孔径分布のピークが存在した。更に、実施例1と同様の低温破断試験の結果、多孔質層と支持部との剥離は認められなかった。
【0062】
[応用例5]
応用例1において、表面多孔体(1)に代えて、実施例5で得た表面多孔体(5)を用いた以外は、応用例1と同様にして、免疫診断デバイスとしてのブランクテストを行った結果、特異IgEの検出感度は1IU/mlであった。
【0063】
[実施例6]
実施例1において、ポリマー(Q)としてポリスルホン(帝人アモコ(AMOCO) 社製の「P−1700NT」)2部を使用し、溶剤(S)としてN−メチルピロリドン98部を使用した以外は、実施例1と同様にして、溶液(I−6)を得た。
【0064】
実施例4において、溶液(I)として溶液(I−6)を使用した以外は、実施例4と同様にして、成形物の一方の全表面に表面多孔質層を有する表面多孔体(6)を得た。
【0065】
この表面多孔体(6)の表面及び断面をSEMを用いて観察したところ、直径約4μmのほぼ円形のへこみ(井戸型細孔)を有する構造の上に、直径約1μmの微粒子の凝集体又は連結体が分散し融着した、厚さ約4μmの多孔質層を有することが確認された。表面多孔体(6)の表面に存在する微粒子の数は、実施例4で得た表面多孔体(4)と比較して多量であり、また、凝集粒子の疎な部分の孔径は3〜6μmであった。また、実施例1と同様にして水銀ポロシメーターを用いて細孔測定を行ったところ、約4.4μmに孔径分布のピークが存在した。更に、実施例1と同様の低温破断試験の結果、多孔質層と支持部との剥離は認められなかった。
【0066】
[実施例7]
実施例1において、ポリマー(Q)としてポリエーテルスルホン(アモコ社製)の「レーデル A300」)2部を使用し、溶剤(S)としてN−メチルピロリドン98部を使用した以外は、実施例1と同様にして、溶液(I−7)を得た。
【0067】
実施例4において、溶液(I)として溶液(I−7)を使用したこと以外は、実施例4と同様にして、成形物の一方の全表面に表面多孔質層を有する表面多孔体(7)を得た。
【0068】
この表面多孔体(7)の表面及び断面をSEMを用いて観察したところ、実施例6で作製した表面多孔体6と同様の構造が観察された。また、実施例1と同様にして水銀ポロシメーターを用いて細孔測定を行った結果、約4.3μmに孔径分布のピークが存在した。更に、実施例1と同様の低温破断試験の結果、多孔質層と支持部との剥離は認められなかった。
【0069】
[応用例7]
応用例1において、表面多孔体(1)に代えて、表面多孔体(7)を用いた以外は、応用例1と同様にして、免疫診断デバイスとしてのブランクテストを行った結果、特異IgEの検出感度は1IU/mlであった。
【0070】
[実施例8]
実施例4において、溶液(I−4)を設定厚さ127μmのアプリケーターを用いて塗布した以外は、実施例4と同様にして、面状の表面多孔質層を有する表面多孔体(8)を得た。
【0071】
この表面多孔体(8)の表面及び断面をSEMを用いて観察したところ、表面多孔体(4)と比較して、疎らな井戸型の多孔質の上に、直径約1μmの微粒子が凝集又は連結し融着した厚さ約10μmの多孔質層であることが確認された。表面多孔体(8)の表面に存在する微粒子の量は、表面多孔体(4)と比較して分散している間隔が広くなっており、溶液(I)の塗布膜厚によって構造が異なることが確認された。
【0072】
[実施例9]
実施例4において、凝固液(N)として蒸留水を使用した以外は、実施例4と同様にして、面状の表面多孔質層を有する表面多孔体(9)を得た。
【0073】
この表面多孔体(9)の表面及び断面をSEMを用いて観察したところ、実施例6で作製した表面多孔体(4)とは異なり、表面全面にほぼ均一に凝集した凝集粒子構造が観察され、その隙間として与えられる直径約0.5μm以下の細孔からなる多孔質表面であることが確認された。凝固液(N)の種類によって構造が異なることがわかる。
【0074】
[比較例1]
実施例1において、ポリマー(Q)としてポリスルホン(帝人アモコ(AMOCO) 社製の「P−1700NT」)15部を使用し、溶剤(S)の量を85部に減量とした以外は、実施例1と同様にして、溶液(I−比1)を得た。
【0075】
実施例1において、溶液(I−1)に代えて、溶液(I−比1)使用した以外は、実施例1と同様にして、表面多孔体(比1)を得た。
【0076】
この表面多孔体(比1)の表面をSEMを用いて観察したところ、断面には厚さ約55μmの井戸型もしくは独立気泡型の細孔が形成された多孔質層が観察されたが、表面に開口している細孔は疎らであった。また、実施例1と同様にして、水銀ポロシメーターを用いて細孔測定を行った結果、約0.4μmに孔径分布のピークが存在した。
【0077】
[比較応用例1]
応用例1において、表面多孔体(1)に代えて、表面多孔体(比1)を用いた以外は、応用例1と同様にして、免疫診断デバイスとしてのブランクテストを行った結果、高いバックグラウンド(非特異的シグナル)が観察された。このバックグラウンドを十分に下げ、検出感度を高めるには、応用例1における▲5▼及び▲7▼の洗浄において、洗浄時間を各15分×4回にする必要があったが、この条件で洗浄を行なうことにより、特異IgEの検出感度を1IU/mlまで上げることができた。
【0078】
[比較例2]
実施例4において、ポリマー(P)成形物として、溶剤(S)であるN−メチルピロリドンに25℃で溶解も膨潤もしないポリエチレンテレフタレート製シートを使用した以外は、実施例4と同様にして、表面多孔体(比2)を得た。ただし、この時、凝固液中に粒子が分散し、凝固液が白濁した。
【0079】
この表面多孔体(比1)の表面をSEMを用いて観察したところ、直径約1μmの粒子が少量付着していた。しかし、表面を手でこすると、この粒子は容易に剥離した。溶剤(S)がポリマー(P)を溶解も膨潤もさせないものである場合には、表面多孔質層の付着強度が著しく劣ることがわかる。
【0080】
[比較応用例2]
応用例1において、表面多孔体(1)に代えて、厚さ約140μm、平均孔径1.2μmのポリアミド多孔質膜[ザルトリウス社製の「SM11903」]を用いた以外は、応用例1と同様にして、免疫診断デバイスとしてのテストを行ったところ、高いバックグラウンド(非特異的シグナル)が観察された。このバックグラウンドを十分に下げ、検出感度を高めるには、応用例1における▲5▼及び▲7▼の洗浄において、各30分×4回の洗浄を行なう必要があったが、この条件で洗浄を行なうことにより、特異IgEの検出感度を1IU/mlまで上げることができた。
【0081】
[比較応用例3]
応用例1において、表面多孔体(1)に代えて、厚さ約125μm、孔径0.8μmの酢酸セルロース多孔質膜[アドバンテック東洋(株)製の「C080A」]を用いた以外は、応用例1と同様にして、免疫診断デバイスとしてのテストを行ったところ、高いバックグラウンド(非特異的シグナル)が観察された。このバックグラウンドを十分に下げ、検出感度を高めるには、応用例1における▲5▼及び▲7▼の洗浄に於いて、各30分×4回の洗浄を行なう必要があったが、この条件で洗浄を行なうことにより、特異IgEの検出感度を1IU/mlまで上げることができた。
【0082】
[比較応用例4]
応用例1において、表面多孔体(1)に代えて、実施例1で使用したものと同じポリスチレン製の2軸延伸シート上に、トルエンを用いて、太さ約0.5mmの木綿糸を貼り付けたものを用いた以外は、応用例1と同様にして、免疫診断デバイスとしてのテストを行ったところ、高いバックグラウンド(非特異的シグナル)が観察された。このバックグラウンドを十分に下げ、検出感度を高めるには、応用例1における▲5▼及び▲7▼の洗浄において、各30分×4回の洗浄を行なう必要があったが、この条件で洗浄を行なうことにより、特異IgEの検出感度を1IU/mlに高めることができた。
【0083】
[比較応用例5]
応用例1において、表面多孔体(1)に代えて、実施例1で使用したポリスチレンシートを340番サンドペーパーで擦ることにより表面を荒らした成形物を用いた以外は、応用例1と同様にして、免疫診断デバイスとしてのテストを行ったところ、応用例1と同様の3分×4回で完全に洗浄された。しかしながら、IgE検出感度は5IU/mlであった。
【0084】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、極薄い厚さの表面多孔質層と、その下の非多孔質部との境界における剥離が見られない表面多孔体が容易に製造できる。また、本発明の製造方法によれば、成形性が高く、多孔質部分の厚さを任意に調整できるだけでなく、広範囲の形状を有する成形物の表面に、表面多孔質層を形成することができる。
【0085】
本発明の製造方法で得られる表面多孔体を基材として用いることにより、洗浄時間が短縮され、検査効率が高い診断デバイスを得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、印刷等の手法を利用してパターニング成型物や微細な構造を有する表面多孔体が得られるので、繁雑な組立工程を踏むことなく、バイオセンサーや化学センサーの基材として応用することができる。
Claims (6)
- ポリマー(P)で構成された成形物に、溶剤(S)及び溶剤(S)に溶解するポリマー(Q)を含有する溶液(I)を塗布した後、該成形物を、ポリマー(P)及びポリマー(Q)の両者を溶解しない凝固液(N)と接触させことにより、該成形物の表面に多孔質層を形成することからなる表面多孔体の製造方法であって、
(イ)溶剤(S)がポリマー(P)を溶解又は膨潤させ得る溶剤であること
及び
(ロ)溶液(I)のポリマー(Q)含有量が0.1〜10重量%の範囲にあること
を特徴とする表面多孔体の製造方法。 - ポリマー(P)が、ポリスチレン系ポリマーである請求項1記載の製造方法。
- ポリマー(P)が、ポリスチレンである請求項2記載の製造方法。
- ポリマー(Q)が、ポリスチレン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー及びポリイミド系ポリマーからなる群から選ばれたポリマーである請求項1、2又は3記載の製造方法。
- ポリマー(Q)が、ポリスチレン、ポリスルホン又はポリエーテルイミドである請求項4記載の製造方法。
- 溶液(I)の塗布厚が50〜200μmの範囲にある請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
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