JP5108173B2 - 歯科用表面改質無機フィラー - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機高分子材料をレジンマトリックスとする組成物、特に歯科用組成物中に充填材として使用するのに好適な無機フィラー、およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯科分野で近年多用されている複合修復材には以下のような特性が求められている。咀嚼時の高い咬合圧に耐え得る機械的強度、過酷な条件下での耐久性、歯質と同程度の熱膨張率、重合硬化時に歯質からの剥離を防ぐための低重合収縮率等の機械的特性、天然歯に適合する色調及び透明性、研磨時に認められる表面滑沢性および光沢性等の光学的特性、さらには非毒性、非溶解性および低吸水性等の生体親和性などが挙げられる。また、特に最近では、歯質を強化および二次う蝕を抑制するフッ素徐放性や治療後のう蝕の再発状況を確認し歯質のエナメル質と識別できるエックス線造影性等も要求されてきている。
【0003】
従来から歯牙欠損部の修復や補綴、人工歯根、その他の用途に重合可能な重合性単量体、重合開始剤および無機物、有機物または有機無機複合物等の充填材等により構成される複合修復材が使用されている。これら構成成分の中でも充填材に関しては、これまで多くの報告がある。これは複合修復材中に占める充填材の割合が多いことから充填材の特性が複合修復材の特性に影響を与えるものと考えられているからである。
【0004】
初期の複合修復材に用いられていた充填材は、平均粒子径が数μmから数百μmのα―石英や種々のガラスで、大きな塊を粉砕して製造した破砕型充填材が主流であった。これらの充填材を用いた場合、適度な粘度と操作性、機械的強度、少ない重合収縮、歯牙に近い熱膨張係数等の諸性質を複合修復材に付与することができる。
しかし、平均粒子径が大きいことに由来して、研磨性が良好ではなく、特に研磨後の表面平滑性や表面光沢性に劣る等の欠点がある。この問題を解決するために、平均粒子径をできるだけ細かくしようとする試みがなされているが、未だ不十分である。
この欠点を克服するために、熱分解法や気相反応法により合成された平均粒子径0.01〜0.1μmの超微粒子、例えば噴霧熱分解法シリカやヒュームドシリカを充填材として用いた複合修復材が提案されており、これらはMFRという一般略称で広く愛用されてきた。この複合修復材は研磨性が良好で、且つ表面平滑性や表面光沢性に優れる。しかし、これら超微粒子を重合性単量体中に分散させた時、比表面積が大きいことから、得られるペーストの粘稠度が非常に上がり、このため充填量を非常に低く抑えなければならない。このため複合修復材の機械的特性、特に曲げ強度が劣ったものになる。また、ペーストが硬化する時の重合収縮が比較的大きいこと、また硬化物の熱膨張係数も非常に大きくなるなどの問題点も有していた。
他の充填材としては有機金属化合物から出発するゾル-ゲル法等の溶液反応から合成された粒度分布が狭く球状で、且つ平均粒子径が0.1μmから数μmのシリカまたはシリカ複合酸化物等が挙げられる。これら充填材は、特開昭59−101409号公報等に開示されている。この充填材は乾燥工程で凝集を生じることから充填材への表面処理が均一に行えず、機械的強度や吸水による材料劣化等の耐久性に問題がある。
【0005】
最近では、研磨性や表面滑択性等の光学的特性に焦点を当てた充填材がいくつか提案されており、例えば有機−無機複合充填材または複合充填材と一般に呼ばれるものがある。これらは無機粒子を重合可能な単量体と予め混合して、一度重合させた後、その重合物を粉砕して複合充填材としたものである。これら充填材は特開昭54−107187号公報、特公平3−12043号公報および特開平8−143747号公報等に開示されいる。これら充填材は、仕上げ研磨後の表面滑沢性および光沢性等の光学的特性は優れているものの、充填材表面に有機成分が多く存在するため、表面処理の効果が不十分で、重合性単量体との濡れ性が悪くなり機械的特性に大きな問題を抱えていた。
また、それぞれの充填材の長所を併せ持たせようという考えのもとに、超微粒子シリカと比較的大きな無機充填材を組み合わせたハイブリッド型の複合修復材が提案されている。例えば、特開昭57―82303号公報、特表昭57−500150号公報、特開昭61−148109号公報等に開示されている。しかし、これらハイブリッド型では機械的特性の向上は充分であるものの、ペーストが粘って操作性が悪いこと、さらに仕上げ研磨後の平滑さがMFRに比較すると不足していること等が問題である。
そこで、複合修復材に必要な諸特性を満たす目的で、以前から粒子の微細化および凝集化の技術や表面処理技術により高密度に充填する試みが多数報告されている。例えば、研磨性を向上させる目的で特開平7-196428号公報には金属化合物とシリカゾルの溶液状態から凝集体を得る方法が、特開平7-196431号公報には平均粒子径が0.05μm以上1μm以下の金属酸化物を凝集させる方法が記載されている。これらは研磨性は向上するものの、凝集している部分にシランカップリング剤等の表面処理剤が作用せず、吸水による耐久性の低下が生じる。
【0006】
本発明者らの研究の結果によれば、十分な研磨性や耐久性および機械的強度等の機械的特性を得るためには、無機充填材の素材の選択、微粒子化および表面処理が重要な要素である反面、様々な問題を引き起こすことが判明した。従来から行われている微粒子化の方法としては、振動ミル、ボールミルおよびジェットミル等の機械的方法による乾式粉砕法がある。この方法では平均粒子径が3μm以下の粒子を得ることは困難であり、かつ粒度分布が広いことから分級等の複雑な工程が必要となる。また、それらの設備を用いた湿式粉砕では平均粒子径が1μm以下まで粉砕が可能になるものの、乾燥工程で粒子の凝集が生じる。この凝集体を適切な解砕機具を用いて解砕を行っても一次粒子にまで解砕することは不可能であった。別の微粒子化の方法としては、ゾル−ゲル法技術を用いた溶液状態からの微粒子の製造があるが、この方法においても乾燥工程を必要とするため凝集体が生成する。これらの凝集体は均一に表面処理が行なえないために充填材として複合修復材中に用いた場合、耐久性に問題があることも判明した。また、従来から無機充填材の素材としてはシリカが主流であったが、硬度が高く、研磨性や対合歯の摩耗等に問題があった。そのため無機充填材に多くの特性を付与させる必要性などから素材も多様化してきている。しかし、その反面、一般に使用されている表面処理剤であるシランカップリング剤の効果が乏しくなり、機械的強度等に影響を与えていることも判明した。また微粒子化を行うことにより、研磨性や表面滑沢性は改善できるものの、比表面積増大により複合修復材中への高充填が難しくなり、機械的強度に影響を与えることも考えられる。
以上のことから複合修復材の要求特性を満たすためには粒子径制御と凝集物のない均一な単分散の確保が重要な課題であり、かつ表面が均一に表面処理剤等で処理される必要がある。
【0007】
一般に、歯科分野においては、公知の表面処理剤としてシランカップリング剤が知られている。しかしながら、この処理剤はいずれの無機充填材にも効果的に作用するものではなく、シリカのような表面に多数のOH基が存在する無機充填材に対しては効果的であるが、OH基の量が少なくなるとその効果は減少する。特公平5-67656号公報には、アルミナの表面処理には重合性芳香族カルボン酸化合物が、特許公報第2695479号には、無機充填材の表面処理剤としてジカルボン酸化合物が、特許公報第2925155号には、無機充填材の表面処理剤として有機リン化合物が記載されている。これらのように、使用する無機充填材の種類により、表面のOH基の量が異なるため、処理されるべき無機充填材の種類に応じて種々の表面処理剤を使用する必要があった。このため、表面処理に用いる表面処理剤の種類により、樹脂との濡れ性が異なり、得られる複合修復材の特性だけでなく硬化前のペーストの性状または操作性が変化する等、種々の特性に悪影響を及ぼす恐れがある。また、特公平6-99136号公報には、長鎖および短鎖2種のシランカップリング剤、また特許公報第2690364号には、大きな疎水基を有するシランカップリング剤を用いた表面処理が記載されており、いずれも表面処理効率を上げることを目的としている。しかし、研磨性や耐久性が十分でかつ他の諸特性を満足させる凝集物がなく、単分散でかつ均一に表面処理された無機充填材は得られていなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、歯冠材料、充填材料、補綴材料、接着材料等の歯科用分野において用いられる歯科用組成物に使用することのできる充填材であって、特に充填材料として要求される優れた研磨性や表面滑沢性などの光学的特性を維持した上で、機械的強度、耐摩耗性および耐着色性を共に付与することのできる充填材およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究の結果、平均粒子径が0.01〜5μmの無機微粒子の表面がポリオルガノシロキサンで被覆された無機フィラーを提供することにより、この課題を解決するに至った。すなわち、本発明者らは本願において以下の発明を提供する。
本発明は、平均粒子径0.01〜5μmの無機微粒子の表面がポリオルガノシロキサンで被覆され、
ポリオルガノシロキサンが一般式(I):
【化5】
(式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはHO-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、mおよびLは0〜4の整数であって、n+m+L=4である)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物と、
一般式(II):
【化6】
(式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはHO-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は有機基、pは1〜3の整数、a、bおよびcはいずれも0〜3の整数であって、a+b+c+p=4である)
で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物との共存下で加水分解または部分加水分解された共縮合物である無機フィラーを提供する。
さらには、ポリオルガノシロキサンが一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物と一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物とを金属化合物の共存下で加水分解または部分加水分解された共縮合物である無機フィラーを提供する。
また、本発明は、(1)原料無機粒子を平均粒子径0.01〜5μmの無機微粒子に微粉砕する湿式粉砕工程、または一次粒子が平均粒子径0.01〜5μmであり、かつ凝集した無機微粒子凝集体を一次粒子に解砕させる湿式分散工程、および(2)得られた無機微粒子の表面にポリオルガノシロキサン皮膜を形成する工程、を含む上記無機フィラーの製造方法を提供する。
さらに詳しくは、本発明は、ポリオルガノシロキサン皮膜を形成する工程が、(2−1)水性媒体中に分散した上記無機微粒子の存在下で、一般式(I):
【化7】
(式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはHO-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、mおよびLは0〜4の整数であって、n+m+L=4である)
で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物と、
一般式(II):
【化8】
(式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはHO-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は有機基、pは1〜3の整数、a、bおよびcはいずれも0〜3の整数であって、a+b+c+p=4である)
で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物とを共存下で加水分解または部分加水分解し、次いで、得られたシラノール化合物を共縮合する工程、または
一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物と一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物とを金属化合物の共存下で加水分解または部分加水分解し、次いで、得られたシラノール化合物を共縮合する工程、(2−2)得られた水性分散体を熱処理する工程、および(2−3)熱処理固化物を平均粒子径0.01〜5μmに解砕する工程とを含むことを特徴とする上記の無機フィラーの製造方法を提供する。
さらに、本発明は、(a)上記無機フィラー、(b)重合性単量体、および(c)重合開始剤、を含有してなる歯科用組成物を提供する。
【0010】
上記本発明により以下の諸効果がもたらされる:
▲1▼微粒子化または分散化技術により微細化された無機微粒子の表面にポリオルガノシロキサン皮膜を形成することにより、二次凝集することなく0.01〜5μmの微粒子の状態で無機フィラーを得ることができる。
▲2▼得られた微細で均一な無機フィラーは二次凝集することなく一次粒子の状態で歯科用組成物中に分散させることができ、微粒子フィラーの特徴である優れた研磨性や表面滑沢性などの光学的特性が保持される。また、このポリオルガノシロキサン皮膜は無機微粒子の表面を改質しているのみであり、無機微粒子が元来有している特性は維持されている。
▲3▼無機フィラーはポリオルガノシロキサンで被覆されているため、従来から用いられているシランカップリング剤等のオルガノシラン化合物が無機微粒子の種類に関係なく効果的に作用することができ、レジンマトリックスとの濡れ性をさらに向上させることができる。このような無機フィラーは歯科用組成物中でより均一に分散し、かつポリオルガノシロキサン皮膜の形成効果とあいまって、微粒子フィラーであるにもかかわらず、組成物の機械的強度や耐摩耗性を向上させることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の無機フィラーは、平均粒子径が0.01〜5μmの無機微粒子であり、かつその表面がポリオルガノシロキサンで被覆されたものである。このように平均粒子径が小さくかつ粒度分布の狭い単分散性微粒子であることから、本発明の無機フィラーを含む歯科用組成物は、硬化後に研磨を施した場合に研磨面に優れた光沢を発現することのできる表面滑沢性を備えている。またこのような微粒子充填材を含有する場合は、分散性が悪いことに起因して耐摩耗性や耐久性に劣るが、本発明の無機フィラーは組成物中で凝集することなく均一に分散すると共に、ポリオルガノシロキサン皮膜の形成効果とあいまって優れた耐摩耗性や耐久性をも有する。
【0012】
本発明で使用される平均粒子径が0.01〜5μmの無機微粒子は特に限定されず、例えば、石英、無定形シリカ、アルミニウムシリケート、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、種々のガラス類(溶融法によるガラス、ゾルゲル法による合成ガラス、気相反応により生成したガラスなどを含む)、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、ゼオライト等が挙げられる。好ましくは、ストロンチウム、バリウム、ランタン等の重金属および/またはフッ素を含むアルミノシリケートガラス、ボロシリケート、アルミノボレート、ボロアルミノシリケートガラス等のガラス類である。但し、本発明に用いる平均粒子径0.01〜5μmの無機微粒子は、水性媒体中での湿式粉砕工程または湿式分散工程により得られることから、水溶性の無機微粒子、例えばフッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム等の金属フッ化物は好ましくない。
【0013】
平均粒子径0.01〜5μmを持つこの無機微粒子は、通常、充填材等として使用される市販の原料無機粒子を湿式粉砕して得ることができる。湿式粉砕は特別の方法を必要とするものではなく、当該分野で一般に使用されている方法を採用して行うことができる。例えば、原料無機粒子を水性媒体存在下にボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、アトライター、サンドグラインダー、アニラーミル、タワーミル等の粉砕媒体撹拌ミル等を用いて微細化すればよい。水性媒体としては、水単独または水の一部または全部を必要に応じてアルコール類、アセトン等のケトン類やエーテル類等の水性溶媒で置換したものを用いてもよい。これら水性溶媒を用いた場合、熱処理後の固化物の凝集力が弱まり、容易に解砕が行える。湿式粉砕条件は、原料無機粒子の大きさや硬さ、仕込量、水性溶媒の添加量、または粉砕機の種類等により異なるが、必要な無機微粒子の平均粒子径に応じて粉砕条件も含め、適宜選択することができる。また平均粒子径0.01〜5μmの無機微粒子の別の製造方法としては、一次粒子が0.01〜5μmである無機微粒子凝集体を水性媒体存在下で湿式分散させることにより得ることができる。湿式分散は特別の方法を必要とするものではなく当該分野で一般に使用されている方法を採用して行うことができる。例えば、凝集した無機微粒子体を水性媒体存在下にディゾルバーやホモジナイザー等の湿式分散機を用いて分散させればよい。分散条件は凝集した無機微粒子の大きさや硬さ、仕込量、水性溶媒の添加量、または粉砕機の種類等により異なるが、必要な無機微粒子の平均粒子径に応じて分散時間や撹拌具および回転数等の分散条件を適宜選択することができる。
【0014】
得られた無機微粒子は次のようにして、その表面にポリオルガノシロキサン皮膜を形成する。所望の平均粒子径に粉砕または分散された時点で、得られた無機微粒子を含む水性分散体中に、一般式(I):
【化9】
(式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはHO-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、mおよびLは0〜4の整数であって、n+m+L=4である)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物と
一般式(II):
【化10】
(式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはHO-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は有機基、pは1〜3の整数であって、a、bおよびcはいずれも0〜3の整数で、a+b+c+p=4である)
で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物とを共存させ、この系中で加水分解または部分加水分解し、シラノール化合物を経て、共縮合させ皮膜を形成させる。または一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物と一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物とを金属化合物の共存下で加水分解または部分加水分解し、シラノール化合物を経て、共縮合させ皮膜を形成させる。これにより系は縮合オルガノシラン化合物、即ちポリオルガノシロキサンが分散した水性分散体中に平均粒子径0.01〜5μmの無機微粒子が会合することなく微分散した状態となる。
上記ポリオルガノシロキサン皮膜の形成において水性分散体中に添加する化合物の形態は特に制限はなく、単量体、単量体が部分加水分解して低(共)縮合した低(共)縮合物(オリゴマー)およびそれらの混合物のいずれの形態でも用いることができる。
水性分散体中への添加方法に関しては特に制限はなく、添加する化合物を別々にまたは予め混合して、一括または断続的に分割して添加することができる。しかし、添加の均一性を高めるために、水性分散体に相溶する有機溶媒を用いて添加する化合物を希釈し断続的に分割して添加する方法が好ましい。
また、ポリオルガノシロキサン皮膜の形成に低共縮合物(オリゴマー)を用いる場合、その形状には何等制限はないが、三次元状よりは直鎖状の形状の方が好ましい。またその重合度においても大き過ぎると無機微粒子表面への共縮合反応性が劣り、ポリオルガノシロキサン皮膜の形成状態が悪くなることがある。
また、ポリオルガノシロキサン皮膜の別の形成方法としては、上記のポリオルガノシロキサン皮膜の前駆体を含む溶液を予め調製し、その溶液中に得られた無機微粒子を含む水性分散体を混合し、均一に分散させた状態で皮膜を形成する方法でも何等制限はない。
【0015】
一般式(I)および一般式(II)中のZは加水分解によりシラノール基を生成し得るRO基、R1O基またはOCN基、Xはハロゲン、YはOH基を表す。RおよびR1は炭素数が8以下の有機基であり、具体的に例示すると、メチル、エチル、2-クロロエチル、アリル、アミノエチル、プロピル、イソペンチル、ヘキシル、2-メトキシエチル、フェニル、m-ニトロフェニル、2,4-ジクロロフェニル等のアルキル基またはアルキル誘導体基等が挙げられる。加水分解速度やポリオルガノシロキサン皮膜内でのカーボン残留による変色などから、好ましくは、メチルおよびエチルである。また、ハロゲンは塩素,臭素が挙げられ、好ましくは塩素である。
また、一般式(II)中のR2は有機基であれば特に制限はないが、有機基の主鎖が短いものの方がポリオルガノシロキサン皮膜の構造的な強度を維持できる点で好ましい。
一般式(I)で表されるシラン化合物を具体的に例示すると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2-エチルヘキシロキシ)シラン、トリメトキシクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリイソプロポキシクロロシラン、トリメトキシヒドロキシシラン、ジエトキシジクロロシラン、テトラフェノキシシラン、テトラクロロシラン、水酸化ケイ素(酸化ケイ素水和物)、テトライソシアネートシラン、エトキシシラントリイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、より好ましくはテトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランである。
また、一般式(I)で表されるシラン化合物の低縮合物であることがより好ましく、具体的にはテトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランを部分加水分解して縮合された低縮合シラン化合物である。これらシラン化合物は単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物を具体的に例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート等が挙げられる。また、これらオルガノシラン化合物の低縮合物も使用する事ができる。
これらオルガノシラン化合物の中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニル(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等が好ましく、より好ましくはγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランである。これらオルガノシラン化合物は単独または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0016】
また、金属化合物としては単独で加水分解または部分加水分解し、縮合してポリオルガノシロキサン皮膜の骨格を形成するものや、ポリオルガノシロキサン皮膜の骨格を形成する他の化合物との共存下で修飾的に骨格に対し寄与するもののいずれにおいても特に制限なく使用することができる。それら金属化合物を具体的に例示すると、金属ハロゲン化物、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属アンモニウム塩、有機金属化合物、アルコキシ金属化合物またはこれら金属化合物の誘導体等が挙げられる。金属化合物は単独または2種以上を混合して使用することができる。これら金属化合物を構成する金属元素としては、周期律表第I族〜第V族の各元素が挙げられる。また、これら金属化合物の中でも単独で加水分解・縮合して三次元的な骨格を形成できる周期律表第III族〜第V族の金属元素からなる金属化合物が好ましい。さらに好ましくは、ZrまたはTiからなる金属化合物である。これら2種の金属元素からなる金属化合物を共存させてポリオルガノシロキサンを形成させた本発明の無機フィラーを歯科用組成物の充填材として用いた場合、その組成物に補足的ではあるがX線造影性を付与することができる。ZrまたはTiからなる金属化合物を具体的に例示すると、四塩化チタン、硫酸チタニル、メチルトリクロロチタン、ジメチルジクロロチタン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシテタン、テトライソブトキシチタン、テトラ(2−エチルヘキシロキシ)チタン、ジエトキシジブトキシチタン、イソプロポキシチタントリオクタレート、ジイソプロポキシチタンジアクリレート、トリブトキシチタンステアレート、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムラクテート、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等が挙げられる。また上記金属化合物の誘導体を使用することもできる。金属化合物の誘導体としては、例えば、ハロゲン、NO3、SO4、アルコキシ基、アシロキシ基等の加水分解基の一部をジカルボン酸基、オキシカルボン酸基、β―ジケトン基、β―ケトエステル基、β―ジエステル基、アルカノールアミン基等のキレート化合物を形成しうる基で置換した金属化合物が挙げられる。また、金属化合物を部分加水分解し低縮合して得られた低縮合金属化合物(オリゴマーまたはポリマー)も用いることができる。
【0017】
上記水性分散体中に添加した化合物の加水分解または部分加水分解は比較的低速の撹拌状態下で行われる。攪拌温度は10℃から100℃の範囲、より好ましくは25℃から50℃の範囲であり、水性媒体の沸点以下の温度であれば何等制限はない。撹拌時間は通常数分から数十時間、より好ましくは30分〜4時間の範囲であり、添加する化合物の種類および添加量、無機微粒子の種類、平均粒子径およびその水性分散体中に占める割合、水性媒体の種類および水性分散体中に占める割合等により、調節することができる。撹拌は特別な方法を必要とするものではなく、当該分野で通常に使用されている設備を採用して行うことができる。例えば、万能混合撹拌機やプラネタリーミキサー等のスラリー状のものを撹拌できる撹拌機を用いて撹拌すればよい。
また加水分解または部分加水分解および共縮合の速度を速める目的により、酸およびアルカリ、有機金属化合物、金属アルコキシド、金属キレート化合物等のゾル−ゲル触媒の添加は好ましい態様である。具体的な触媒としては、例えば、塩酸、酢酸、硝酸、ギ酸、硫酸、リン酸等の無機酸、パラトルエンスルホン酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸等の有機酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等のアルカリ触媒が挙げられる。またポリオルガノシロキサン皮膜の形成工程に用いる水性溶媒としては、水および/または水と相溶する有機溶媒であれば何等制限なく使用することができる。特に好ましくは、アルコール類、ケトン類およびエーテル類から適宜選択することができる。これら溶媒はポリオルガノシロキサンの形成工程において用いる種々の化合物の相溶性を向上させるためだけでなく、熱処理工程において粒子の凝集性を軽減させ、より解砕性を向上させる多大な効果がある。これら溶媒を具体的に例示すると、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらの溶媒は、単独または2種以上を使用してもよい。好ましくは、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールが好適に使用される。
【0018】
またシラン化合物およびオルガノシラン化合物の添加量は、特に限定されず、皮膜形成の方法や無機微粒子の種類および平均粒子径等に応じて適宜選択でき、無機微粒子100重量部に対してSiO2換算量(シラン化合物およびオルガノシラン化合物の合計量)で0.1〜20重量部の範囲である。好ましくは0.1〜10重量部の範囲であり、より好ましくは0.1〜5重量部の範囲である。また、ポリオルガノシロキサン皮膜中のシラン化合物とオルガノシラン化合物との共存割合はSiO2換算量の重量比で99:1〜20:80、好ましくは99:1〜30:70、更に好ましくは99:1〜40:60である。
また、金属化合物の共存下でポリオルガノシロキサン皮膜を形成する場合は、全SiO2換算量100重量部に対して金属化合物の金属酸化物換算量が0.1〜500重量部の範囲で共存さすことができ、より好ましくは0.1〜200重量部の範囲である。
【0019】
次に、このような状態にある系を、熱処理し、水性媒体を除去して固化させる。熱処理は熟成と焼成の2段階からなり、前者はポリオルガノシロキサン皮膜の成長と水性媒体の除去を、後者は構造的な強化を目的としている。前者は皮膜構造にひずみを与えず、かつ水性媒体を除去することから静置で行う必要があり、箱型の熱風乾燥機等の設備が好ましい。熟成温度は室温から100℃の範囲、より好ましくは40〜80℃の範囲である。温度がこの範囲より低い場合は、水性媒体の除去が不十分であり、この範囲より高い場合は急激に揮発し、ポリオルガノシロキサン皮膜に欠陥が生じたり、無機微粒子表面から剥離したりする恐れがある。熟成時間は乾燥機等の能力等にもよるため、水性媒体が十分除去できる時間ならば何ら制限はない。一方、焼成工程は昇温と係留に分かれ、前者は目標温度まで徐々に長時間かけて昇温する方がよく、急激な昇温はポリオルガノシロキサン皮膜内にひずみが生じるため好ましくない。後者は一定温度での焼成であり、その時間は10時間〜100時間、より好ましくは10時間〜50時間である。焼成温度は100〜350℃の範囲であり、より好ましくは100〜200℃である。この温度は無機微粒子の素材に影響を与えない程度に、また多孔質のポリオルガノシロキサン皮膜を無孔化しない程度に適宜選択しなければならない。以上のように熱処理により水性媒体を除去し、収縮した固化物が得られる。固化物は無機微粒子の凝集状態ではあるが、単なる無機微粒子の凝集物ではなく、個々の微粒子の境界面には共縮合により形成されたポリオルガノシロキサン皮膜が介在している。従って、次の工程としてこの固化物をポリオルガノシロキサン皮膜形成前の無機微粒子相当に解砕すると、その表面がポリオルガノシロキサンで被覆された個々の無機微粒子、すなわち本発明の無機フィラーが得られる。ここで「ポリオルガノシロキサン皮膜形成前の無機微粒子相当に解砕する」とは、無機微粒子に解砕することであり、元の無機微粒子と異なる点は、個々の無機微粒子がポリオルガノシロキサンで被覆されていることである。但し、問題ない程度であれば二次凝集物を含んでいてもよい。固化物の解砕は、剪断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、クロスロータリーミキサー、スーパーミキサー等を用いて行うことができる。
【0020】
かくして得られた本発明の無機フィラーは、平均粒子径が0.01〜5μmであり、その表面がポリオルガノシロキサンで被覆されている。表面にポリオルガノシロキサンを被覆した無機フィラーの平均粒子径および粒度分布はレーザー回折式粒度測定機により確認することができる。その結果、水性分散体中で無機微粒子が均一に分散した状態での平均粒子径および単分散の粒度分布と同一であることから、均一に分散した状態で本発明の無機フィラーが粉末化されていることが認められる。一方、ポリオルガノシロキサンで被覆されていない無機微粒子の平均粒子径は大きい側にシフトしており、かつ凝集体存在による多分散の粒度分布を示した。またこれらの分散状態は電子顕微鏡観察において確認することができる。また、本発明の無機フィラーの表面積はBET法によって測定することができ、無機フィラーの比表面積はポリオルガノシロキサン皮膜形成により増大していることが認められる。また、皮膜表面には多数のOH基が存在しているにもかかわらず、フィラーの流動性または分散性が良好であるのは皮膜表面の凹凸により、微粒子間の接触が点接触であるためと考えられる。ポリオルガノシロキサン皮膜の厚みはシラン化合物およびオルガノシラン化合物の添加量にも影響するが、500nm以下、より好ましくは100nm以下である。またこの無機フィラーを歯科用組成物に用いると、ポリオルガノシロキサン皮膜表面の凹凸に樹脂成分が侵入し、嵌合効果により、機械的特性が向上することが認められた。また同時に、研磨性も向上することが認められた。また、この無機フィラーを高充填するためには、一般式(II):
【化11】
(式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはHO-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は炭素数が6以下の有機基、pは1または2の整数、a、bおよびcはいずれも0〜3の整数であって、a+b+c+p=4である)
で表されるオルガノシラン化合物でポリオルガノシロキサン皮膜をさらに処理することが効果的である。その結果、高充填が可能になり、歯科用組成物として必要な諸特性を満たすことができる。
【0021】
上記オルガノシラン化合物の中でも、歯科分野で公知であるシランカップリング剤が効果的であり、具体的に例示するとビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニル(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。より好ましくはγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランである。これらのオルガノシラン化合物は単独でまたは複数併用して使用することができる。
これらのオルガノシラン化合物により、樹脂成分との親和性が高められたのは、ポリオルガノシロキサン皮膜上に存在する多数のOH基との反応により、オルガノシラン化合物が効率よく、かつ均一に表面処理されたためである。
【0022】
本発明のもう1つの態様は、上記本発明の無機フィラーを含む歯科用組成物である。特に、(a)本発明の無機フィラー、(b)重合性単量体および(c)重合開始剤を含有する歯科用組成物である。
組成物中、本発明の無機フィラーは有機高分子材料を主成分とするマトリックス中に、その表面に有するポリオルガノシロキサン皮膜の存在によって、非凝集状態で均一分散することができると共に、有機マトリックスとの高い親和性によって組成物の硬化体は優れた物性を発現するという特徴を有する。さらに、本発明の無機フィラーを充填材として含む歯科用組成物の硬化体は、充填材が微細であることによる本来の優れた研磨後の優れた光沢が得られることに加えて、このような微細なフィラーであるにもかかわらず、優れた耐摩耗性を有する。この優れた耐摩耗性は、無機フィラーの表面に存在するポリオルガノシロキサン皮膜とマトリックス中へ分散するにあたって添加されるオルガノシラン化合物との作用により、フィラーが強い親和性をもってマトリックスと相互作用を有すること、およびマトリックスがポリオルガノシロキサン皮膜に侵入した勘合効果によりもたらされるためであると考えられる。
【0023】
本発明の無機フィラーと共に、歯科用組成物中に使用することのできる重合性単量体は、一般に歯科用組成物として用いられている公知の単官能性および多官能性の重合性単量体のうちから使用することができる。
一般に好適に使用される代表的なものを例示すれば、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する重合性単量体である。なお、本発明においては(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリロイルをもってアクリロイル基含有重合性単量体とメタクリロイル基含有重合性単量体の両者を包括的に表記する。
具体的に例示すれば次の通りである。
酸性基を有しない重合性単量体類として、
単官能性単量体:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のシラン化合物類、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の窒素含有化合物、
芳香族系二官能性単量体:2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン等、
脂肪族系二官能性単量体:2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等、
三官能性単量体:トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等、
四官能性単量体:ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、ウレタン系重合性単量体として具体的に例示すると;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;3−クロロー2−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような水酸基を有する重合性単量体とメチルシクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルメチルベンゼン、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物との付加物から誘導される二官能性または三官能性以上のウレタン結合を有するジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記(メタ)アクリレート系重合性単量体以外に歯科用組成物の目的に応じて他の重合性単量体、例えば分子内に少なくとも1個以上の重合性基を有する単量体、オリゴマーまたはポリマーを用いても何等制限はない。また、酸性基やフルオロ基等の置換基を同一分子内に有していても何等問題はない。
本発明において、重合性単量体とは単一成分の場合のみならず、複数の重合性単量体からなる重合性単量体の混合物も含む。また、重合性単量体の粘性が室温で極めて高い場合、または固体である場合は、低粘度の重合性単量体と組み合わせ重合性単量体の混合物として使用するのが好ましい。この組合せは2種類に限らず、3種類以上であってもよい。また、単官能性重合性単量体だけの重合体は架橋構造を有しないので、一般に重合体の機械的強度が劣る傾向にある。そのために、重合性単量体を使用する場合は、多官能性重合性単量体と共に使用するのが好ましい。重合性単量体の最も好ましい組合せは、二官能性重合性単量体の芳香族化合物を主成分として二官能性重合性単量体の脂肪族化合物と組み合わせる方法である。具体的に示すと、2,2−ビス(4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン(Bis−GMA)とトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)の組合せである。
本発明の無機フィラーを含んだ歯科組成物に歯質または卑金属接着性を付与する場合は、重合性単量体の一部または全部としてリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸基を分子内に含有した重合性単量体を用いることが効果的である。また、貴金属接着を向上させるには、硫黄原子を分子内に含有した重合性単量体を使用することも本発明にとって有効である。これら接着能を有する重合性単量体として、具体的に例示すれば次の通りである。
カルボン酸基含有重合性単量体:(メタ)アクリル酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその無水物、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、p−ビニル安息香酸等が挙げられる。
リン酸基含有単量体:2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート等が挙げられる。
スルホン酸基含有単量体:2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシベンゼンスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸等が挙げられる。
硫黄原子を含有する重合性単量体:トリアジンチオール基を有する(メタ)アクリレート、メルカプト基を有する(メタ)アクリレート、ポリスルフィド基を有する(メタ)アクリレート、チオリン酸基を有する(メタ)アクリレート、ジスルフィド環式基を有する(メタ)アクリレート、メルカプトジアチアゾール基を(メタ)アクリレート、チオウラシル基を有する(メタ)アクリレート、チイラン基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。これら重合性単量体は単独または2種以上を混合して使用しても何等問題はない。
【0024】
本発明の無機フィラーと共に、歯科用組成物中に使用することのできる重合開始剤は特に限定されず、公知のラジカル発生剤が何等制限なく用いられる。
重合開始剤は一般に使用直前に混合することにより重合を開始させるもの(化学重合開始剤)、加熱や加温により重合を開始させるもの(熱重合開始剤)、光照射により重合を開始させるもの(光重合開始剤)に大別される。
化学重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物または有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩、有機過酸化物/アミン化合物/ボレート化合物からなるレドックス型の重合開始系、酸素や水と反応して重合を開始する有機金属型の重合開始剤系が挙げられ、さらにはスルフィン酸塩類やボレート化合物類は酸性基を有する重合性単量体との反応により重合を開始させることもできる。
上記有機過酸化物として具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン、2,5−ジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエード等が挙げられる。
上記アミン化合物としては、アミン基がアリール基に結合した第二級または第三級アミンが好ましく、具体的に例示するとp−N,N’−ジメチル−トルイジン、N,N’−ジメチルアニリン、N’−β−ヒドロキシエチル−アニリン、N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−アニリン、p−N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−トルイジン、N−メチル−アニリン、p−N−メチル−トルイジン等が挙げられる。
上記スルフィン酸塩類としては具体的に例示すると、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等が挙げられる。
上記ボレート化合物としては、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などが挙げられる。また、上記有機金属型の重合開始剤としては、トリフェニルボラン、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等の有機ホウ素化合物類等が挙げられる。また加熱や加温による熱重合開始剤としては、上記有機過酸化物の他にアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物類が好適に使用される。
一方、光重合開始剤としては、光増感剤からなるもの、光増感剤/光重合促進剤等が挙げられる。
上記光増感剤として具体的に例示すると、 ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p’−ジメトキシベンジル、p,p’−ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα−ジケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−ヒドロキシチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類、2−ベンジル―ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル―ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1等のα-アミノアセトフェノン類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジル(2−メトキシエチルケタール)等のケタール類、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス[2,6−ジフルオロ−3−(1−ピロリル)フェニル]−チタン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(ペンタンフルオロフェニル)−チタン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ジシロキシフェニル)−チタン等のチタノセン類等が挙げられる。
上記光重合促進剤として具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、p−N,N−ジメチル−トルイジン、m−N,N−ジメチル−トルイジン、p−N,N−ジエチル−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、p−N,N−ジヒドロキシエチル−トルイジン、p−ジメチルアミノフェニルアルコール、p−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、N−フェニルグリシン等の第二級アミン類、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズビス(メルカプト酢酸イソオクチルエステル)塩、テトラメチル−1,3−ジアセトキシジスタノキサン等のスズ化合物類、ラウリルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド化合物類、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサリチル酸等の含イオウ化合物等が挙げられる。さらに、光重合促進能の向上のために、上記光重合促進剤に加えて、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、α−オキシイソ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等のオキシカルボン酸類の添加が効果的である。
これらの重合開始剤は単独または2種以上を混合して用いることができる。また、重合形態や重合開始剤の種類に関係なく、組み合わせて用いることもできる。
重合開始剤の添加量は、使用用途に応じて適宜選択すればよい。一般には、重合性単量体に対して0.1〜10重量部の範囲から選べば良い。
上記に述べた重合開始剤の中でも、光照射によりラジカルを発生する光重合開始剤を用いる事が好ましい態様であり、空気の混入が少ない状態で歯科用組成物を重合させることができる点で最も好適に使用される。また、光重合開始剤の中でも、α−ジケトンと第三級アミンの組み合わせがより好ましく、カンファーキノンとp−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル等のアミノ基がベンゼン環に直結した芳香族アミンまたはN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の分子内に二重結合を有した脂肪族アミン等の組み合わせが最も好ましい。
また、使用用途に応じて他に、クマリン系、シアニン系、チアジン系等の増感色素類、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、ジフェニルヨードニウム塩化合物等の光照射によりブレンステッド酸またはルイス酸を生成する光酸発生剤、第四級アンモニウムハライド類、遷移金属化合物類等も適宜使用することができる。
歯科用組成物として本発明の無機フィラー以外に第2のフィラーを配合することができる。第2のフィラーとしては、歯科用フィラーとして公知なもの、例えば、石英、無定形シリカ、クレー 酸化アルミニウム、タルク、雲母、カオリン、ガラス、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等の無機物;ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン等の高分子またはオリゴマー等の有機物;および有機−無機の複合物等が好適に使用できる。第2のフィラーは単独または2種以上を使用しても何等問題はない。またこの第2のフィラーは通常、公知として用いられているチタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤やシランカップリング剤で表面処理したものを使用するのが好ましい。第2のフィラーの混合割合は必要に応じて適宜選択でき、例えば、1〜90重量部の割合となる範囲から選べばよい。
また、歯科用組成物の中には、2−ヒドロキシ−4−メチルベンゾフェノンのような紫外線吸収剤、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,5−ジタ−シャリ−ブチル−4−メチルフェノール等の重合禁止剤、変色防止剤、抗菌材、着色顔料、その他の従来公知の添加剤等の成分を、必要に応じて任意に添加できる。
本発明の歯科用組成物の包装形態は、特に限定されず、重合開始剤の種類、または使用目的により、1パック包装形態および2パック包装形態、またはそれ以外の形態のいずれも可能であり、用途に応じて適宜選択することができる。
【0025】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより詳細に、かつ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下の実施例において採用した歯科用組成物の性能評価法は次の通りである。
(1)歯ブラシ摩耗試験
評価目的:
歯科用組成物試験体の耐摩耗性を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物を歯ブラシ摩耗試験用ステンレス製金型にそれぞれ4個ずつ充填した後、両面にカバーグラスを置きガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて6ヵ所30秒間ずつ光照射を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物(15×15×2.6mmおよび25×15×2.6mmの矩形金型)を取り出し、サンドペーパー#600番および#1200番を順に用いて研磨して厚みを2.5mmに調整し、それを試験体(15×15×2.5mmおよび25×15×2.5mmの矩形金型)とした。次いで試験体表面をバフ研磨で鏡面仕上げを行った後、試験体重量を測定した。その後、その試験体を歯ブラシ摩耗試験機に取り付け、歯ブラシ(ペリオH:サンスター社製)およびペースト(ホワイト:サンスター社製)を用いて20000サイクル(約3時間)の条件にて歯ブラシ摩耗試験を行った。摩耗量(wt%)は摩耗による試験体の重量減/試験前の試験体重量×100から算出した。なお、試験は試験体数4個で行い、その平均値により評価した。
【0026】
(2)研磨性試験
評価目的:
歯科用組成物試験体の表面滑沢性を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーガラスを置き、ガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて両面から光照射(片面:30秒間)を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出しそれを試験体(4φ×6mm:円柱型)とした。その試験体をシリコンポイント(松風社製)およびワングロススーパーバフ(松風社製)を用いて順番に研磨し、その研磨面の状況を目視にて評価した。なお試験は試験体数10個で行い,総合的な評価をした。
【0027】
(3)耐着色性試験
評価目的:
歯科用組成物試験体の耐着色性を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーガラスを置き、ガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて6ヵ所30秒間ずつ光照射を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、両面をサンドペーパーで#1200番を用いて軽く研磨し、レジン層を除去したものを試験体(15φ×1mm:円盤型)とした。その後、その試験体を分光測色計(CM-2002、ミノルタ製)を用いて測色した後インスタントコーヒー(ネスカフェ)の5.0%水溶液中に37℃、24時間浸漬した。24時間浸漬後、試験体を取り出し水洗後、再び測色した。浸漬前後の測色値をもって色差(ΔE*ab)を算出した。なお試験は試験体数5個で行い、その平均値により評価した。
【0028】
(4)曲げ試験
評価目的:
歯科用組成物試験体の曲げ強度を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーガラスを置き、ガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて5ヵ所30秒間ずつ光照射を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、再び同様に裏面も光照射を行い、それを試験体(25×2×2mm:直方体型)とした。その試験体を37℃、24時間水中に浸漬した後、曲げ試験を行った。曲げ試験はインストロン万能試験機(インストロン5567、インストロン社製)を用い支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minにて行った。なお試験は試験体数10個で行い、その平均値をもって評価した。
【0029】
〔原料無機粒子の製造〕
シリカ43重量部、酸化アルミニウム20重量部、フッ化ナトリウム5重量部、フッ化カルシウム10重量部、リン酸カルシウム5重量部および炭酸ストロンチウム17重量部の割合でそれぞれの原料を十分混合し、1400℃の高温エレマ炉中に投入して5時間係留し、原料を溶融させた。溶融後冷却してフィラー原料となるガラスを製造した。製造したガラスをボールミルで12時間粉砕し、200メッシュ篩を通過させて湿式粉砕用原料無機ガラス粒子を得た。原料無機ガラス粒子の平均粒子径は約10ミクロンであった。
【0030】
実施例 1:ポリオルガノシロキサン被覆無機フィラー「シラン処理POSフィラー1 」の調製
(湿式粉砕)
4連式振動ミルのアルミナポット(内容積3.6リットル)中に直径6mmφのアルミナ玉石4kgを投入後、上記で得た原料無機ガラス粒子540重量部およびイオン交換水1000重量部をそれぞれ投入して40時間湿式粉砕を行った。
粉砕後、粉砕スラリー中に含まれる無機微粒子の平均粒子径および粒度分布をレーザー回折式粒度測定機(「マイクロトラックSPA」;日機装社製)を用いて測定した結果、平均粒子径が1.2ミクロンでかつ単分散の粒度分布を示した。なお、粉砕後アルミナポット中のアルミナ玉石と粉砕スラリーを分離し水性分散体である「粉砕スラリー1」を得た。
【0031】
(ポリオルガノシロキサン皮膜の形成:POS処理)
T.K.コンビミックスの容器中に「粉砕スラリー1」1500重量部を投入して50℃に保った後、シラン化合物の低縮合物「MS51SG1」(SiO2含量16%、重合度2〜6;三菱化学社製)を54.1重量部、3-メタクロイルオキシプロピルメトキシシランを8.7重量部それぞれ添加し、約90分間撹拌混合した。混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、120℃まで昇温して6時間係留し、その後冷却させ熱処理固化物を得た。得られた熱処理固化物をヘンシェルミキサー中に入れ、1800rpmで5分間解砕を行い、表面がポリオルガノシロキサンで被覆されたPOSフィラー1を得た。この解砕時におけるPOSフィラー1の流動性を評価すると共に、レーザ回折式粒度測定機「マイクロトラックSPA」を用いて平均粒子径および粒度分布を測定した。その結果、フィラーの流動性は良く、また平均粒子径は1.2ミクロンでかつ単分散の粒度分布を示した。
得られたポリオルガノシロキサンで被覆されたPOSフィラー1を更にオルガノシラン化合物である3-メタクロイルオキシプロピルメトキシシランを用いて9重量部シラン処理を行い、「シラン処理POSフィラー1」を得た。
【0032】
実施例2および3
実施例1でPOS処理に用いた3-メタクロイルオキシプロピルメトキシシランの量を17.4重量部または26.1重量部にした以外は実施例1と同様にし、シラン処理POSフィラー2および3を得た。
実施例4
実施例1でPOS処理に用いた3-メタクロイルオキシプロピルメトキシシランの代わりにメチルトリエトキシシラン14.3重量部を用いた以外は実施例1と同様にし、シラン処理POSフィラー4を得た。
【0033】
実施例 5:ポリオルガノシロキサン被覆無機フィラー「シラン処理POSフィラー5」の調製
実施例1の湿式粉砕において粉砕時間を8時間にした以外は同様に行い水性分散体である「粉砕スラリー2」を得た。この粉砕スラリー2中に含まれる無機微粒子の平均粒子径および粒度分布をレーザー回折式粒度測定機(「マイクロトラックSPA」;日機装社製)を用いて測定した結果、平均粒子径が3.2ミクロンでかつ単分散の粒度分布を示した。
【0034】
(ポリオルガノシロキサン皮膜の形成:POS処理)
T.K.コンビミックスの容器中に「粉砕スラリー2」1500重量部を投入し、シラン化合物の低縮合物「MS51SG1」(SiO2含量16%、重合度2〜6;三菱化学社製)を54.1重量部、3-メタクロイルオキシプロピルメトキシシランを8.7重量部それぞれ添加し、約90分間撹拌混合した。混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、150℃まで昇温して6時間係留し、その後冷却させ熱処理固化物を得た。得られた熱処理固化物をヘンシェルミキサー中に入れ、1800rpmで5分間解砕を行い、表面がポリオルガノシロキサンで被覆されたPOSフィラー5を得た。この解砕時におけるPOSフィラー5の流動性を評価すると共に、レーザ回折式粒度測定機「マイクロトラックSPA」を用いて平均粒子径および粒度分布を測定した。その結果、フィラーの流動性は良く、また平均粒子径は3.3ミクロンでかつ単分散の粒度分布を示した。得られたPOS処理フィラー5を更にオルガノシラン化合物である3-メタクロイルオキシプロピルメトキシシランを用いて6重量部シラン処理を行い、シラン処理POSフィラー5を得た。
【0035】
比較例 1および2
実施例1および5で湿式粉砕して得たそれぞれの粉砕スラリー1および2を、それぞれポリオルガノシロキサン処理を行わずに熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、120℃まで昇温して6時間係留し、その後冷却させ熱処理固化物を得た。得られた熱処理固化物をヘンシェルミキサー中に入れ、1800rpmで5分間解砕を行い、POS無処理フィラー1および2を得た。この解砕時におけるPOS無処理フィラー1および2の流動性を評価すると共に、レーザ回折式粒度測定機「マイクロトラックSPA」を用いて平均粒子径および粒度分布を測定した。その結果を表1に示した。得られたそれぞれのPOS無処理フィラーをオルガノシラン化合物である3-メタクロイルオキシプロピルメトキシシランを用いて9重量部または6重量部シラン処理を行い、シラン処理POS無処理フィラー6および7を得た。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例 6〜10および比較例 3〜4
下記の組成割合でレジン組成物を調製した。
〔レジン組成物〕
・2,2-ビス(4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)
フェニル)プロパン(Bis-GMA) 60重量部
・トリエチレングリコールメタクリレート(TEGDMA) 40重量部
・カンファーキノン 1重量部
・p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル 1重量部
・超微粉末シリカ(レジン成分増粘剤) 18重量部
レジン組成物100重量部に対し、実施例1〜4で得られたシラン処理POSフィラー1〜4、比較例1で得られたシラン処理POS無処理フィラー6をそれぞれ296重量部配合して歯科用組成物A−1〜A−4(実施例6〜9)および歯科用組成物A−5(比較例3)をそれぞれ調製した。
また、実施例5で得られたシラン処理POSフィラー5および比較例2で得られたシラン処理POS無処理フィラー7をレジン組成物100重量部に対し、372重量部配合して歯科用組成物A−6(実施例10)および歯科用組成物A−7(比較例4)を調製した。
これら歯科用組成物を用いて歯ブラシ摩耗試験、研磨性試験、耐着色性試験および曲げ試験を行い、結果を表2に示した。
【0038】
実施例11
また、実施例1で得られたPOSフィラー(シラン無処理)を用いた以外は実施例6〜9と同じ配合量で同様に歯科用組成物A−8を調製し、各種試験を行った。結果を表2に示した。
【0039】
【表2】
【0040】
【発明の効果】
歯科用組成物において、充填材として本発明の無機フィラーを配合することにより、優れた研磨性や表面滑沢性等の光学的特性を維持した上で、機械的強度、耐摩耗性および耐着色性を向上させることができる。
Claims (3)
- 平均粒子径0.01〜5μmのガラスである無機微粒子の表面がポリオルガノシロキサンで被覆され、
該ガラスがストロンチウム、バリウムまたはランタンおよび/またはフッ素を含むアルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボレートガラス、またはボロアルミノシリケートガラスであり、
該ポリオルガノシロキサンが、テトラメトキシランであるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物と、3−メタクリロイルオキシプロピルメトキシシランまたはメチルトリエトキシシランであるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物との共存下で加水分解または部分加水分解された共縮合物である無機フィラー。 - (1)ストロンチウム、バリウムまたはランタンおよび/またはフッ素を含むアルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボレートガラス、またはボロアルミノシリケートガラスである原料ガラス無機粒子を平均粒子径0.01〜5μmのガラス無機微粒子に微粉砕する湿式粉砕工程または、一次粒子が平均粒子径0.01〜5μmであり、かつ凝集したガラス無機微粒子凝集体を一次粒子に解砕させる湿式分散工程、および(2)得られたガラス無機微粒子の表面にポリオルガノシロキサン皮膜を形成する工程を含み、該ポリオルガノシロキサン皮膜を形成する工程が、(2−1)水性媒体中に分散した上記ガラスである無機微粒子の存在下で、テトラメトキシランであるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物と、3−メタクリロイルオキシプロピルメトキシシランまたはメチルトリエトキシシランであるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物とを共存下で加水分解または部分加水分解し、次いで、得られたシラノール化合物を共縮合する工程、(2−2)得られた水性分散体を熱処理する工程、および(2−3)熱処理固化物を一次粒子に解砕する工程とを含むことを特徴とする、請求項1記載の無機フィラーを製造するための製造方法。
- (a)請求項1記載の無機フィラーおよび請求項2記載の製造方法により得られた無機フィラーのうちいずれか1つの無機フィラー、(b)重合性単量体、および(c)重合開始剤、を含有してなる歯科用組成物。
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