JP4271800B2 - 歯科用多機能性フィラー - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、無機フィラー、特に有機高分子材料をマトリックスとする組成物、特に歯科用組成物中に充填材として使用するに好適な無機フィラー、およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯科分野で近年多用されている複合修復材には以下のような特性が求められている。咀嚼時の高い咬合圧に耐え得る機械的強度、過酷な条件下での耐久性、歯質と同程度の熱膨張率、重合硬化時に歯質からの剥離を防ぐための低収縮率等の機械的特性、天然歯に適合する色調および透明性や研磨時に認められる表面滑沢性等の光学的特性、さらには非毒性、非溶解性および低吸水性等の生体親和性などが挙げられる。また、特に最近では歯質を強化しう蝕を予防する目的でのフッ素徐放性や治療後のう蝕の再発状況を確認し歯質のエナメル質と識別できるエックス線造影性等も要求されてきている。
【0003】
従来からう蝕の治療に使用される複合修復材は、重合可能な樹脂成分と無機物、有機物または有機無機複合物等の充填材によって大部分が構成されている。これらの組み合わせによりこれまで多くの複合修復材が報告されてきた。これは複合材料中には多量の充填材が含まれることから充填材の特性が複合修復材の特性に影響を与えるものと考えられるからである。
【0004】
充填材を大きく分類すると無機充填材と無機-有機複合充填材に分けられる。
無機充填材には、(1)シリカを主成分とするガラスを粒子径が数μmから数百μmに粉砕したもの、(2)熱分解法や気相反応法により合成された一次粒子径が0.1μm未満のシリカ、(3)ゾル-ゲル法等の溶液反応から合成された0.1μmから数μmのシリカまたはシリカ複合酸化物等が挙げられる。しかし、これらはそれぞれ次のような欠点を有する:(1)のタイプは複合材料中に多量の充填材を充填することが可能であるため、機械的特性には優れるものの粒子径が大きいことに由来して仕上げ研磨後の表面滑沢性および光沢等の光学的特性に劣る、(2)のタイプは光学的特性には優れるものの、比表面積が大きいため充填量が制限され機械的強度が不十分である、(3)のタイプは乾燥工程で凝集を生じることから充填材への表面処理が均一に行えず吸水による材料劣化等の耐久性に劣る。
【0005】
一方、無機-有機複合充填材は、仕上げ研磨後の表面滑沢性および光沢等の光学的特性は優れているものの、無機-有機複合充填材に対する表面処理の効果が不十分で、樹脂成分との濡れ性が悪くなり機械的特性に大きな問題を抱えていた。
そこで上記複合材料に対して、必要な諸特性を満たす目的で、以前から粒子の微細化や凝集化の技術および表面処理技術により高密度に充填することが試みられてきた。また充填材の種類や粒径の種類を変える試みも行われてきた。例えば、特開昭57-82303号公報においては平均粒径0.2〜20μmと平均粒径10〜50μmの粒径の異なるそれぞれの無機粉体を組み合わせ、最密充填を行い、機械的強度を向上させている。また特開昭61-134307号公報では0.05μmのヒュームドシリカと平均粒径5μmのシリカの組み合わせが開示されている。これらは機械的特性は十分満たすものの、素材であるシリカの硬度が高いこと、また粒子径が大きいことから研磨性が不充分である。そこで研磨性を向上させる目的で特開平7-196428号公報には金属化合物とシリカゾルの溶液状態から凝集体を得る方法が、特開平7-196431号公報には平均粒径が0.05μm以上1μm以下の金属酸化物を凝集させる方法が記載されている。これらは研磨性は向上するものの凝集している部分にシランカップリング剤等の表面処理剤が付与されず、吸水による耐久性低下が生じる。
【0006】
歯科分野において、フッ素のう蝕予防効果はよく知られている。従来用いられてきたフッ素徐放性の歯科材料には、グラスアイオノマーセメントあるいはグラスポリアルケノエートセメントとして知られるセメント材料がある。しかし、この材料は耐久性に劣り、1年程度の短期間で色調が変化したり破折を起こすなど、そのフッ素徐放能の利点よりも材料自体の材質に問題があった。また、歯科材料へのフッ素化合物配合としてフッ化ナトリウム等の金属フッ化物を配合する試み(特開平2-258602号公報)があるが、フッ素量は多いものの短期間で多量のフッ素が溶出してしまうとともに、材料自体の機械的強度も低下する欠点があった。アクリル酸またはメタクリル酸の酸フルオライド成分を有するポリマーを配合した報告(特開昭57-88106号公報、特開昭62-12706号公報および特許公報第2678108号)があるが、長期間にわたり少量のフッ素が放出されるものの高い荷重のかかる部位には適用できないこと、またレジン成分であることから配合割合が少なく、フッ素の効果が期待できない。特開平11-209213号公報および特開平10-36116号公報には金属フッ化物をポリシロキサンコーティングしたものが報告されている。金属フッ化物の溶解性を制御してフッ素放出量をコントロールすることを目的としているが、複合材料のような材料強度が要求される材料には配合することができない。
【0007】
また特開平7-206470号公報および特開平11-268929号公報には、酸処理なしにガラスからフッ素が放出されているが、これはガラス自体が水に対して溶解していることであり長期的な耐久性に問題がある。WO94/23687号公報にはポリアルケン酸と含フッ素ガラスとの粉末状反応生成物からフッ素イオン徐放性プレフォームドグラスアイオノマーフィラーが記載されている。これは溶出崩壊を伴わずにフッ素が徐放されていることを特徴としている。しかしこのフィラーはガラス表面がポリアルケン酸と反応していることから、表面処理の効果も乏しく、機械的特性や耐久性に問題がある。また透過光の拡散性や研磨性に一切言及していない。また最近ではグラスアイオノマーセメントとコンポジットの中間的な材料としてコンポマーが注目を浴びている。これはグラスアイオノマー用ガラスと酸性基含有モノマーを含んだ1ペーストタイプで高いフッ素放出能を示すが、水との長期接触で機械的強度が低下する。これらのようにフッ素放出能を有し、長期的に水中でも安定で、且つ高い咬合圧等にも耐えられる機械的特性を有する歯科修復材料が望まれている。
【0008】
従来からう蝕の充填治療にはアマルガムが、歯冠形成には金合金が使われてきたが、近年、天然歯に近い色調が比較的容易に達成できることから、複合材料が急速に普及してきた。最近では審美性も高いレベルで要求されてきており、研磨面による光沢や色調、そして透明性が重要な要素として位置付けられている。
これまで複合材料の外観を天然歯に近づけるため、顔料添加量を調整して材料の色および半透明性を天然歯に近付けてきた。
例えば、特開平11-100305号公報はコロイドシリカの粒径および屈折率と重合性単量体の屈折率を制御することにより天然歯と同じ色調および質感が得られることを報告している。また、特公平7-45373号公報は重合前後の色調変化が少なくなることを記載している。特開平7-196429号公報は材料の透明性をコントラスト比で評価し、その値で適応部位を見極めている。しかし以上のことだけで審美性を表現するのは不十分である。例えばフィラーを微細化していくに従って硬化物の光透過性が非常に強くなり、天然歯を修復した際に背景の色や材質および観察する方向によって異物感が非常に強くなるという問題が発生していた。
【0009】
そこで透明性や色調に加え、材料の質感も審美性というものを表現する上で重要な要素である。材料を通過した透過光の分布状況から、入射した光が材料内でどのような挙動を示すか、つまり質感を評価することができる。例えば、特開平9−169613は透過光の分布を拡散度(D)に数値化して評価しているが、材料の報告にとどまっており、材料中に配合されているフィラーに関しては一切触れていない。また特開平9−255510はフィラーとマトリックスの屈折率を調整し、フィラーの凝集体を用いることにより、ある一定の拡散度を有した審美性に優れる硬化体が得られるとしている。しかし、凝集体が複合材料中に存在すると耐久性に問題があることは明らかである。
加えて、従来のフィラーを使用した歯科用組成物の場合、フィラーに光拡散能が乏しいため、このような歯科用組成物を修復剤または補綴剤等として充填した場合、入射した光の拡散強度が異なるため観察する方向により色調が異なって見え、色合せをした効果が十分に発揮できない等、満足のいくものではなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、歯科用修復材料、接着剤等の歯科用分野において用いられる複合材料に使用することのできる充填材であって、歯科用材料として要求される機械的強度や硬度等の特性を損なうことなく、歯科用複合材料に、優れた色調再現性を付与でき、更にまたフッ素徐放性をも付与することができる。また入射した光に対して拡散能を有し、且つフッ素徐放性を有する充填材およびその製造方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、酸反応性元素を含む無機微粒子の表面にセメント反応相が形成され、更にその外側がポリシロキサンで被覆された無機フィラーに関する。
本発明は、また無機微粒子がガラスである上記の無機フィラーに関する。
本発明は、更にまた、無機微粒子がフッ素を含むガラスである上記の無機フィラーに関する。
【0012】
また、本発明は、ポリシロキサンで被覆された酸反応性元素を含む無機微粒子(以下、ポリシロキサン被覆無機微粒子とも略記することもある)に酸性ポリマーを反応させることを特徴とする上記無機フィラーの製造方法に関する。
詳しくは、本発明は、ポリシロキサンで被覆された酸反応性元素を含む無機微粒子が、酸反応性元素を含む無機微粒子を含む水性分散体中で、一般式(I)
【化4】
(式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、m、Lは0から4の整数で、n+m+L=4である)
で表されるシラン化合物を加水分解または部分加水分解し、次いで得られたシラノール化合物を縮合する工程、によって得られることを特徴とする上記の無機フィラーの製造方法に関する。
更にまた、本発明は、ポリシロキサンで被覆された酸反応性元素を含む無機微粒子が、酸反応性元素を含む無機微粒子を含む水性分散体中で、一般式(I)
【化5】
(式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、m、Lは0から4の整数で、n+m+L=4である)
で表されるシラン化合物を部分加水分解して低縮合させて得た低縮合シラン化合物を縮合する工程、によって得られることを特徴とする上記の無機フィラーの製造方法に関する。
なおまた、本発明は、上記のいずれかの無機フィラーをその表面が、一般式(II)
【化6】
(式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は炭素数が6以下の有機基、pは1または2の整数、a、bおよびcはいずれも0〜3の整数で、a+b+c+p=4である)
で表されるオルガノシラン化合物で処理された状態で含む歯科用組成物に関する。
特に、本発明は、(a)上記いずれかの無機フィラー、(b)重合性単量体、および(c)重合開始剤、を含有してなる歯科用組成物に関する。
【0013】
上記本発明により以下の諸効果がもたらされる:
▲1▼ 本発明の無機フィラーは、その芯となる無機微粒子の表面がセメント反応相を形成し、更にその外側がポリシロキサンで被覆された三層構造となっているため、本無機フィラーに当たった光は広い角度範囲に拡散されるという特徴を有する。したがって、本無機フィラーを配合した歯科用組成物は、入射光が各方向に均一性よく拡散されるため色調の観察角度依存性が少なく、歯に充填したのちどの方向から見ても意図した同じ色として観察することができる。
▲2▼本発明の無機フィラーのセメント反応相は多孔質であるため、芯を構成する無機微粒子としてフッ素含有ガラスを使用することにより、本発明の無機フィラーを含有する歯科用組成物にフッ素徐放性能を付与することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の無機フィラーは、無機微粒子の表面がセメント反応相で被覆され、更にその外側をポリシロキサンで被覆されており、特に三層構造になっているところに特徴がある。
無機フィラーの芯を構成する無機微粒子は、その表面にセメント反応相を本発明の方法によって形成するために、酸反応性元素を含むものが好ましい。より好ましくは、周期律表第I族、第II族、第III族に属する金属元素であり、特に好ましくはナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、ランタン、アルミニウム等が挙げられる。またこのような無機粒子の例としては酸反応性元素を含有するものであれば何等制限なく用いることができる。また無機粒子の性質も特に問題なく、水溶性や非水溶性、粒子径、形状等、何等制限なく用いることができる。これら無機粒子を具体的に例示すると、アルミニウムシリケート、酸化アルミニウム、種々のガラス類(溶融法によるガラス、気相反応により生成したガラス、ゾルゲル法による合成ガラスなどを含む)、フッ化ストロンチウム、炭酸カルシウム、カオリン、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、チッ化アルミニウム等が挙げられる。特に好ましくはガラス類である。ガラス類はシリカ化合物に較べ硬度が低く、光透過性に優れること、またX線を遮断する元素やフッ素を含むことが可能であること等から、歯科組成物として必要な機能を付与できる点で好ましい。
【0015】
最も好ましくはストロンシウム、バリウム、ランタン等の重金属およびフッ素を含むアルミナシリケートガラス、ボロシリケート、アルミナボレート、ボロアルミナシリケートガラスである。また、本発明に用いる無機微粒子の平均粒子径は0.01〜50μmの範囲がよく、より好ましくは0.01〜20μm、特に好ましくは0.01〜10μmである。
【0016】
本発明の無機フィラーがフッ素徐放性能を有するためには、芯となる無機微粒子がフッ素を含有する必要があり、この場合には無機微粒子として、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、カルシウム含有フルオロアルミナシリケートが用いられる。また本発明の無機フィラーがX線造影性能を有するためには、芯となる無機微粒子が重金属を含有する必要があり、この場合には無機微粒子として、例えば、フッ化ストロンチウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、ランタン含有フルオロアルミナシリケート、ストロンチウム含有フルオロアルミナシリケートが用いられる。
【0017】
本発明で使用する無機微粒子は、通常充填材として使用される市販の原料無機粒子を加工することなく使用してもよい。また所望の粒子径が必要な場合は、粉砕により得ることができる。粉砕は特別な方法を必要とするものでなく、湿式法または乾式法でも特に制限はなく、業界で一般に使用されている方法を採用し、行うことができる。例えばハンマーミルやターボミル等の高速回転ミル、ボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、サンドグライダーやアトライタ等の媒体撹拌ミル、ジェットミル等が挙げられ、必要な無機微粒子の平均粒子径に応じて適宜選定することができる。また無機微粒子の平均粒子径は0.01μm〜50μmの範囲がよく、より好ましくは0.01〜20μm、特に好ましくは0.01〜10μmである。これら無機微粒子の平均粒子径は次のポリシロキサン皮膜形成工程に大きく影響を与える。なぜならばポリシロキサン皮膜形成工程は乾式法でも湿式法でも行うことができるが、湿式法の方が均一なポリシロキサン皮膜を形成することが可能である。また粒子径が小さくなればなるほど、凝集体を生じることから乾式法での均一なポリシロキサン皮膜の形成は困難である。一方、粒子径が大きくなると湿式法では無機微粒子が沈澱する恐れがあることから、大きな平均粒子径の場合は乾式法の方が適切である。
【0018】
本発明の無機フィラーは平均粒子径が比較的小さく、その芯となる無機微粒子の表面に均一なセメント反応相を形成し、さらにその外側に均一なポリシロキサン皮膜を形成した三層構造をとっていることから、均一なポリシロキサン皮膜を形成できる湿式法の方が適切といえる。そのためポリシロキサン皮膜形成の前工程が湿式粉砕や湿式分散等の無機微粒子が均一に分散した状態の方がスムーズに移行でき、また均一なポリシロキサン皮膜の形成はもとより、作業性やコスト面等においても有利である。ここでは湿式粉砕工程を経たポリシロキサン皮膜形成工程について述べる。
【0019】
湿式粉砕は、様々な業界で一般に知られている方法を採用して行うことができ、ボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミルや、サンドグラインダー、アンラーミル、タワーミル等の粉砕媒体ミル等を用いて原料無機粒子を水性媒体存在下で微細化すればよい。また水性媒体としては、水単独または必要に応じて水と相溶するアルコール類やアセトン等のケトン類を混合して用いてもよい。これら水以外の水性媒体を用いた場合、乾燥後の固化物の凝集力が弱まり、容易に解砕が行える。湿式粉砕条件は原料無機粒子の大きさや硬さ、仕込量、水または水性媒体の添加量、または粉砕機の種類等により異なるが、必要な無機微粒子の平均粒径に応じて粉砕運転時間も含め、適宜選ぶことができる。
【0020】
本発明の無機フィラーの最外層はポリシロキサンによって皮膜が形成されている。
ポリシロキサン皮膜は、例えば次の方法によって形成することができる。
湿式粉砕によって所望の平均粒径に微粉砕された無機微粒子を含有する水性分散体中に、一般式(I)
【化7】
(式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、m、Lは0から4の整数で、n+m+L=4である)
で表されるシラン化合物を混合し、これを系中で加水分解または部分加水分解してシラノール化合物を経て、次いでこれを縮合させ、ポリシロキサン皮膜を形成させることができる。
【0021】
上記のポリシロキサン皮膜形成方法は、シラン化合物の加水分解及び縮合と無機微粒子表面へのポリシロキサン皮膜形成を同一系内で同時進行して行っているが、シラン化合物の加水分解及び縮合を別の系で行い、低縮合シラン化合物(オリゴマー)を生成し、それを湿式粉砕工程で得られた無機微粒子の水性分散体に混合するポリシロキサン皮膜形成方法の方が効率よく無機粒子表面にポリシロキサン皮膜を形成することが可能である。より好ましくは市販の低縮合シラン化合物(オリゴマー)を用い、低縮合生成過程を経ず混合するポリシロキサン皮膜形成方法である。この方法が好ましい理由としては、シラン化合物単量体を用いる場合はポリシロキサン皮膜形成工程で多量の水が存在することから、縮合が3次元的に起こり、自己縮合が優位に進行し、均一なポリシロキサン皮膜を無機微粒子表面に形成することができないと考えられる。
【0022】
一方低縮合シラン化合物(オリゴマー)を用いる場合は、ある長さのポリシロキサン主鎖を有するユニット単位で無機微粒子表面にポリシロキサン皮膜を均一に形成することが可能と考えられる。またこの低縮合シラン化合物(オリゴマー)の形状は特に制限はないが3次元体のものよりも直鎖状の方が良く、またその重合度においても長いものほど縮合反応性が劣り、無機粒子表面へのポリシロキサン皮膜の形成が悪くなることから好ましい重合度は2〜20の範囲であり、より好ましくは2〜6である。その時の分子量は500〜600の範囲である。また別の系において直鎖状の低縮合シラン化合物(オリゴマー)を調整する場合に関しては、シラン化合物単量体の加水分解及び縮合が部分的に進行するように少量の水で行う必要があり、その時酸、アルカリまたは他のゾル−ゲル法に用いられる触媒を用いることにより可能である。
これにより系は縮合シラン化合物、即ちポリシロキサンが分散した水性媒体中に無機微粒子が会合することなく微分散した状態となる。
【0023】
上記水性分散体中でのシラン化合物の加水分解または部分加水分解は比較的低速の撹拌状態下で行われ温度は室温から100℃の範囲、より好ましくは室温から50℃の範囲で撹拌時間は通常数分から数十時間、より好ましくは30分〜4時間の範囲で行われる。撹拌は特別な方法を必要とするものではなく、一般業界で通常に使用されている設備を採用して行うことができる。例えば万能混合撹拌機やプラネタリーミキサー等のスラリー状のものを撹拌できる撹拌機を用いて撹拌すればよい。撹拌温度は水性媒体の沸点以下の温度であれば何等問題はない。
【0024】
またシラン化合物の添加量は無機微粒子の粒子径に依存するが、無機微粒子に対してSiO2換算で0.1〜10重量%の範囲であり、好ましくは0.1〜4重量%である。添加量が0.1重量%以下の場合は、ポリシロキサン皮膜形成の効果がなく、一次粒子まで解砕できず凝集したものになり、10重量%以上では乾燥後の固化物が硬すぎて解砕することができない。
【0025】
次にこのようなゲル状態にある系を、乾燥し水性媒体を除去して固化させる。乾燥は、熟成と焼成の2段階からなり、前者はゲル構造の生長と水性媒体の除去を、後者はゲル構造の強化を目的としている。前者はゲル構造にひずみを与えず、かつ水性媒体を除去することから静置で行う必要があり、箱型の熱風乾燥器等の設備が好ましい。熟成温度は室温から100℃の範囲で、より好ましくは40〜80℃の範囲である。温度がこの範囲以下の場合は、水性媒体除去が不十分であり、範囲以上の場合は急激に揮発し、ゲル構造に欠陥が生じたり、無機微粒子表面から剥離したりする恐れがある。熟成時間は乾燥器等の能力にもよるため、水性媒体が充分除去できる時間ならば何等問題はない。
【0026】
一方焼成工程は昇温と係留に分かれ、前者は目標温度まで徐々に長時間かけて昇温する方がよく、急激な温度はゲル分散体の熱伝導が悪いため、ゲル構造内にひずみが生じる可能性がある。後者は一定温度での焼成である。焼成温度は100〜350℃の範囲であり、よりこのましくは100〜200℃である。この温度は無機微粒子の素材に影響を与えない程度に、また多孔質のゲル構造を無孔化しない程度に適宜選択しなければならない。
【0027】
以上のように乾燥によりゲルから水性媒体を除去し、収縮した固化物が得られる。固化物は無機微粒子の凝集状態ではあるが、単なる無機微粒子の凝集物ではなく、個々の微粒子の境界面には縮合により形成されたポリシロキサン皮膜が介在している。したがって次の工程としてこの固化物をポリシロキサン処理前の無機微粒子相当に解砕すると、その表面がポリシロキサンで被覆された個々の無機微粒子、即ちポリシロキサン被覆無機粒子が得られる。ここで「ポリシロキサン処理前の無機微粒子相当に解砕する」とは、無機微粒子の一次粒子に解砕することであり、元の無機微粒子と異なる点は個々の微粒子がポリシロキサンで被覆されていることである。ただし、問題ない程度なら2次凝集物を含んでもよい。固化物の解砕は、せん断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては、例えばヘンシェルミキサー、クロスロータリミキサー、スーパーミキサー等を用いて行いことができる。
【0028】
一般式(I)で表されるシラン化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2-エチルヘキシロキシ)シラン、トリメトキシクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリイソプロポキシクロロシラン、トリメトキシヒドロキシシラン、ジエトキシジクロロシラン、テトラフェノキシシラン、テトラクロロシラン、水酸化ケイ素(酸化ケイ素水和物)、テトライソシアネートシラン、エトキシシラントリイソシアネート等が例示でき、より好ましくはテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランである。
【0029】
また一般式(I)で表されるシラン化合物の低縮合体であることがより好ましい。例えばテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランを部分加水分解して縮合させた低縮合シラン化合物である。これらの化合物は単独または組み合わせて使用することができる。
【0030】
またポリシロキサン皮膜形成時に一般式(I)で表されるシラン化合物の一部としてオルガノシラン化合物も添加することができる。具体的にオルガノシラン化合物を例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γメルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート等が例示でき、特に好ましくはメチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシランである。これらの化合物は単独または組み合わせて使用することができる。しかしこれらはポリシロキサン皮膜内において有機基が存在するため、ポリシロキサン皮膜形成時のひずみを受ける可能性があり、機械的強度に問題が生じることがある。このため少量の添加にとどめておく必要がある。またポリシロキサン皮膜形成時に一般式(I)で表されるシラン化合物の一部として、他の金属のアルコキシド化合物、ハロゲン化物、水和酸化物、硝酸塩、炭酸塩も添加することができる。
【0031】
こうして得られたポリシロキサン被覆無機粒子の平均粒子径及び粒度分布はレーザー回折式粒度測定機により確認できる。その結果、水性媒体中での分散時に測定した平均粒子径および単分散の粒度分布と同じであり、均一に分散した状態で粉末化されていることが認められた。この分散状態は電子顕微鏡観察において確認できる。
【0032】
シラン化合物の添加量にもよるが、ポリシロキサン皮膜の厚みは500nm以下、より好ましくは100nm以下である。またこの無機フィラーを歯科用組成物として用いると、ポリシロキサン皮膜表面の凸凹に樹脂成分が浸入し、嵌合効果により、機械的特性が向上することが認められた。また同時に研磨性も向上することが認められた。
【0033】
本発明の無機フィラーの表面にセメント反応相が形成され、更にその外側をポリシロキサンで被覆された無機フィラーであり、例えば上記のような方法で得られたポリシロキサンで被覆された無機粒子に酸性ポリマーを反応させることによって製造することができる。
セメント反応は乾式流動型の撹拌機であれば業界で一般に使用されている設備を用いることができ、ヘンシルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー等が挙げられる。ポリシロキサンで被覆された酸反応性元素を含む無機微粒子への酸性ポリマーの反応は、単に該無機微粒子に酸性ポリマー溶液を含浸等により接触させることにより行うことができる。例えばポリシロキサン被覆無機粒子を乾式流動させ、その流動させた状態で上部から酸性ポリマー溶液を分散させ、十分撹拌するだけでよい。このとき酸性ポリマー溶液の分散法は特に制限はないが、均一に分散できる滴下またはスプレー方式がより好ましい。また反応は室温付近で行うことが好ましく、温度が高くなると酸反応性元素と酸性ポリマーの反応が速くなり、セメント相の形成が不均一になる。
【0034】
熱処理後、熱処理物の解砕は剪断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては上記反応に用いた設備などで行うことができる。
【0035】
反応に用いる酸性ポリマー溶液の調製に用いる溶媒は、酸性ポリマーが溶解する溶媒であれば何等問題はなく、水、エタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。これらの中で特に好ましいのは水であり、これは酸性ポリマーの酸性基が解離し、芯である無機粒子の表面と均一に反応することができる。一方他の溶媒は芯である無機粒子の表面との反応が不十分であり、残存未反応酸性基があるために、この無機フィラーを歯科用組成物に配合した場合、重合性単量体の重合阻害や、硬化体の吸水により材料劣化等を引き起こす原因になる。
【0036】
酸性ポリマー溶液中に溶解したポリマーの重量分子量は2000〜50000の範囲であり、より好ましくは5000〜40000の範囲にある。2000未満の重量平均分子量を有する酸性ポリマーはセメント反応相の強度が低くなり易く、材料強度を低下さす傾向にある。50000を超える重量平均分子量を有する酸性ポリマーは酸性ポリマー溶液の粘性が上がり、ポリシロキサン皮膜(多孔質)を拡散しにくく、残存未反応酸性基が残り、悪影響を与える傾向にある。また酸性ポリマー溶液中に占める酸性ポリマー濃度は3〜25wt%の範囲が好ましく、より好ましくは8〜20wt%の範囲である。酸性ポリマー濃度3wt%未満になると上記で述べたセメント相の強度が弱くなると共に、水の影響によりポリシロキサン被覆無機粒子の流動性が悪くなり、均一なセメント反応相が形成されない。また酸性ポリマー濃度が25wt%を超えるとポリシロキサン皮膜(多孔質)を拡散しにくくなる反面、芯の無機粒子に接触すると酸−塩基反応が速く、反応中に硬化が始まり凝集が起こる等の問題が生じる。またポリシロキサン被覆無機粒子に対する酸性ポリマー溶液の添加量は6〜40wt%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜30wt%である。この添加量で換算するとポリシロキサン被覆無機粒子に対する酸性ポリマー量は1〜7wt%、また水量は10〜25wt%の範囲が最適値である。
【0037】
この反応は芯の無機粒子の表面積に影響を受け、表面積が小さいと酸−塩基反応は遅く、大きくなると反応は速くなる。つまり粒度分布が重要であり、単分散の粒度分布を有する無機粒子はセメント反応相が同時に起こる可能性があるため、むしろ酸性ポリマーの分子量分布は多分散である方が逐次的に反応が起こり、効率よくかつ均一にセメント反応相を形成できると考えられる。ポリシロキサン被覆無機粒子は単分散の粒度分布を有することから酸性ポリマーの分子量分布は単分散よりも多分散の方が効果的であると考えられる。また最外殻のポリシロキサン皮膜の役割は多くある。酸性ポリマーがポリシロキサン皮膜の表面に到達し、多孔質中を拡散して芯である無機粒子表面に到達するまでの時間をコントロールしており、これにより均一なセメント反応相を形成できる。ポリシロキサン皮膜が存在しない場合は、無機粒子表面に酸性ポリマーが接触するやいなや反応が始まり、粒子間のブリッジを起こすが、それも防止している。
【0038】
反応後熱処理を行うことにより、セメント反応相内の水分が気化し、セメント反応相が多孔質になっているため強度的に不利となるが、それをこのポリシロキサン皮膜がカバーして強化している。またこのセメント反応相は有機-無機の複合層でシランカップリング材とのぬれ性が悪く、表面処理効果があらわれないが、ポリシロキサン皮膜の存在により表面に多数存在するOH基の効果により、表面処理効果があらわれる。
【0039】
上記の方法により無機微粒子の表面にセメント反応相を形成するために用いることのできる酸性ポリマーは、酸性基として、リン酸残基、ピロリン酸残基、チオリン酸残基、カルボン酸残基、スルホン酸基等の酸性基を有する重合性単量体の共重合体または単独重合体である。これら酸性基を有する重合性単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、グルタコン酸、シトラコン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物、5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-ジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル2'-ブロモエチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、ピロリン酸ジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート等が列挙できる。この重合体は上記重合性単量体に加えて酸性基を含まない重合性単量体を、本発明のセメント反応相の形成に支障をきたさない範囲で含んでもよい。
これらの重合体の中でも酸反応性元素との酸-塩基反応が比較的遅い、α-β不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体が好ましい。より好ましくはアクリル酸重合体、アクリル酸-マレイン酸共重合体、アクリル酸-イタコン酸共重合体である。
【0040】
上記の本発明無機フィラーは、有機高分子材料を主成分とするマトリックス中に特徴ある充填材として用いることができる。特に好ましくは、歯科用修復材のような歯科用組成物中に使用して組成物に優れた特性を付与することができる。具体的には、本発明の無機フィラーを含む歯科用組成物は、入射した光に対する拡散能を有するため、色調に方向性が現れず、どの方向からも一定の色調が観察される。更に無機微粒子としてフッ素含有ガラスを用いることによりこの無機フィラーを含有する歯科用組成物にフッ素徐放性を付与することができる。また更にはセメント反応相の存在により、優れた研磨性および研磨後の光沢も付与することができる。
上記本発明の無機フィラーを含む歯科用組成物のひとつの態様は、(a)本発明の無機フィラー、(b)重合性単量体および(c)重合開始剤を含有する歯科用組成物である。
【0041】
組成物中、本発明の無機フィラーは有機高分子材料を主成分とするマトリックス中に、その最外殻にあるポリシロキサン皮膜の存在によって、非凝集状態で均一分散することができるとともに、有機マトリックスとの高い親和性によって組成物硬化体は優れた物性を発現するという特徴を有する。
更に、本発明の無機フィラーを充填材として含む歯科用組成物の硬化体は、充填材が微細であることによる本来の優れた研磨後の優れた光沢が得られることに加えて、このような微細なフィラーであるにもかかわらず、優れた耐摩耗性を有する。この優れた耐摩耗性は、無機フィラーの表面に存在するポリシロキサン皮膜とマトリックス中へ分散するにあたって添加されるオルガノシラン化合物の作用により、フィラーが強い親和性をもってマトリックスと相互作用を有することによってもたらされるためであると考えられる。
【0042】
また、この無機フィラーを組成物中に高充填するためには、一般式(II)
【化8】
(式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は炭素数が6以下の有機基、pは1または2の整数、a、bおよびcはいずれも0〜3の整数で、a+b+c+p=4である)
で表されるオルガノシラン化合物で最外殻のポリシロキサン皮膜を更に処理することにより高充填が可能になり、歯科組成物として必要な諸特性を満たすことが可能になった。
【0043】
一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物を具体的に例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート等が挙げられる。
これらオルガノシロキサン化合物の中でも歯科分野でシランカップリング剤として公知の化合物であるビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニル(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等が効果があり、より好ましくはγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。これらのオルガノシラン化合物は単独でまたは複数併用して使用することができる。
これらのオルガノシラン化合物により、樹脂成分との親和性が高められたのは、ポリシロキサン皮膜上に存在する多数のOH基との反応により、オルガノシラン化合物が効率よく、且つ均一に処理されたためである。
【0044】
本発明の無機フィラーとともに、歯科用組成物中に使用することのできる重合性単量体は、一般に歯科用組成物として用いられている公知の単官能および多官能の重合性単量体の中から使用することができる。
【0045】
一般に好適に使用される代表的な重合性単量体を例示すれば、アクリル基/またはメタクリル基を有する重合性単量体である。なお本明細書においては(メタ)アクリルをもってメタクリルとアクリルの両者を包括的に表記する。
具体的に例示すれば次の通りである。
【0046】
酸性基を有しない重合性単量体類として、
単官能性単量体:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のエステル化合物、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のシラン化合物、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の窒素含有化合物、
【0047】
芳香族系二官能性単量体:2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン等、
【0048】
脂肪族系二官能性単量体:エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジ−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート等、
【0049】
三官能性単量体:トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等、
四官能性単量体:ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
【0050】
本発明において、重合性単量体とは単一成分の場合のみならず、複数の重合性単量体からなる重合性単量体混合物を含む。重合性単量体を複数種類用いる場合、この重合性単量体が室温で粘度が極めて高いもの、あるいは固体である場合には、低粘度の重合性単量体と組み合わせて使用するの方が好ましい。この組合せは2種類に限らず、3種類以上であってもよい。
【0051】
また、単官能性重合性単量体だけの重合体は架橋構造を有しないので、一般に重合体の機械的強度が劣る傾向にある。そのために、重合性単量体を使用する場合は多官能性重合性単量体と共に使用するのが好ましい。重合性単量体の最も好ましい組合せは、二官能性重合性単量体の芳香族化合物を主成分として二官能性重合性単量体の脂肪族化合物と組み合わせる方法である。具体的に示すと、2,2−ビス(4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン(Bis−GMA)とトリエチレングリコールジメタクリレート(3G)の組合せである。
【0052】
また歯科組成物に接着性能を付与する場合は、重合性単量体の一部または全部としてリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸基を分子内に含有した重合性単量体を、また貴金属接着を向上させるには、硫黄原子を分子内に含有した重合性単量体を使用することも本発明にとって有効である。これら接着能を有する重合性単量体として具体的に例示すれば次の通りである。
カルボン酸基含有重合性単量体:(メタ)アクリル酸、1,4−ジ(メタ)アクリロキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクリロキシナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物、4−(メタ)アクリロキシブチルトリメリット酸及びその無水物、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、p−ビニル安息香酸等が挙げられる。リン酸基含有単量体:2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ジハイドロジェンフォスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル ジハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル) ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニル ハイドロジェンフォスフェート等が挙げられる。
スルホン酸基含有単量体:2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゼンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0053】
硫黄原子を含有する重合性単量体:トリアジンチオール基を有する(メタ)アクリレート、メルカプト基を有する(メタ)アクリレート、ポリスルフィド基を有する(メタ)アクリレート、チオリン酸基を有する(メタ)アクリレート、ジスルフィド環式基を有する(メタ)アクリレート、メルカプトジアチアゾール基を(メタ)アクリレート、チオウラシル基を有する(メタ)アクリレート、チイラン基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0054】
本発明の無機フィラーとともに、歯科用組成物中に使用することのできる重合開始剤は特に限定されず、公知のラジカル発生剤が何等制限なく用いられる。
重合開始剤は一般に熱重合開始剤と光重合開始剤に分類される。
熱重合開始剤として具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン、2,5−ジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエード等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物類が好適に使用される。
【0055】
また、上記有機過酸化物とアミンを組み合わせて用いる事により重合を常温で行う事も可能であり、この様なアミンとしてはアミン基がアリール基に結合した第二級又は第三級アミンが硬化促進の点で好ましく用いられる。例えば、N,N’−ジメチル−p−トルイジン、N,N’−ジメチルアニリン、N’−β−ヒドロキシエチル−アニリン、N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−アニリン、N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N−メチル−アニリン、N−メチル−p−トルイジンが好ましい。
【0056】
上記有機過酸化物とアミン化合物の組合せに、さらにスルフィン酸塩またはボレートを組み合わせることも好適である。かかるスルフィン酸塩類としては、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等が挙げられ、ボレートとしてはトリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などが挙げられる。また、酸素や水との反応によりラジカルを発生するトリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等の有機ホウ素化合物類は有機金属型の重合開始剤としても使用することができる。
【0057】
また、光重合開始剤として、光照射によりラジカルを発生する光増感剤を用いる事も好ましい態様であり、光重合触媒は、空気の混入が少ない状態で硬化性組成物を重合させることができる点で最も好適に使用される。
紫外線に対する光増感剤の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン化合物系、ベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物系、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-メトキシチオキサントン、2-ヒドロキシチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系化合物が挙げられる。又、可視光線で重合を開始する光増感剤は、人体に有害な紫外線を必要としないためより好適に適用される。これらの例として、ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p’−ジメトキシベンジル、p,p’−ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα−ジケトン類等が挙げられる。中でもカンファーキノンが最も好ましく用いられる。
【0058】
また上記光増感剤に光重合促進剤を組み合わせて用いる事も好ましい。
かかる光重合促進剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェニルアルコール、p−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第3級アミン類;5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズビス(メルカプト酢酸イソオクチルエステル)塩、テトラメチル−1,3−ジアセトキシジスタノキサン等のスズ化合物類等が好適に使用できる。また第3級アミン類を促進剤として用いる場合には、特に芳香族基に直接窒素原子が置換した第3級アミン類がより好適に用いられる。これらの光重合促進剤のうち少なくとも一種を選んで用いることができ、さらに二種以上を混合して用いることもできる。
上記重合開始剤の添加量は、適宜決定すればよい。一般には、重合性単量体に対して0.1〜5重量%の範囲から選べば良い。
【0059】
更に光重合促進能の向上のために、第3級アミンに加えてクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、α−オキシイソ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等のオキシカルボン酸類の添加が効果的である。
【0060】
歯科用組成物として該無機フィラー以外に第2のフィラーとして配合することができる第2のフィラーとしては歯科用フィラーとして公知なもの例えば石英、無定形シリカ、クレー 酸化アルミニウム、タルク、雲母、カオリン、ガラス、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、チッ化ケイ素、チッ化アルミニウム、チッ化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭酸化カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等の無機物;ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポスチレン、ポリエステル、ナイロン等の高分子またはオリゴマー等の有機物;および有機−無機の複合フィラー等が好適に使用できる。また第2のフィラーは通常、公知として用いられるチタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤やγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤で表面処理したものを使用するのが好ましい。第2のフィラーの混合割合は必要に応じて適宜選択でき、例えば1〜90重量%の割合となる範囲から選べばよい。
【0061】
また、歯科用組成物の中には、2−ヒドロキシ−4−メチルベンゾフェノンのような紫外線吸収剤、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,5−ジタ−シャリ−ブチル−4−メチルフェノール等の重合禁止剤、変色防止剤、抗菌材、着色顔料、その他の従来公知の添加剤等の成分を、必要に応じて任意に添加できる。
【0062】
本発明の歯科用組成物の包装形態は、特に限定されず、重合開始剤の種類、又は使用目的により、1パック包装形態及び2パック包装形態、又はそれ以外の形態のいずれも可能であり、用途に応じて適宜選択することができる。
【0063】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより詳細に、且つ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下の実施例において採用した歯科用組成物の性能評価法は次の通りである。
(1)フッ素放出量の測定
評価目的:
歯科用組成物試験体のフッ素放出特性を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型(15φ×1mm:円盤状)に充填した後、両面にカバーグラスを置きガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて1試料につき5ヶ所30秒間ずつ光照射を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出し、それを試験体とした。この試験体を5mlの蒸留水が入ったプラスチック製容器に入れ、密封後37℃恒温器中に1日放置した。1日放置後試験体を取り出し、新しい蒸留水に入れ、上記の操作を90日間繰り返し、累積放出量を求めた。溶出したフッ素量をフッ素イオン複合電極(Model 96-09:オリオンリサーチ社製)およびイオンメーター(Model 720A:オリオンリサーチ社製)を用いて測定した。測定時にイオン強度調整剤としてTISABIII(オリオンリサーチ社製)を0.5ml添加した。また検量線の作成は0.02、0.1、1、10、50ppmの標準液を用いて行った。
【0064】
(2)透過光分光測定
評価目的:
歯科用組成物試験体による透過光の拡散分布特性を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型(15φ×1mm:円盤状)に充填した後、両面にカバーガラスを置き、ガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて1試料につき5ヶ所30秒間ずつ光照射を行い硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、サンドペーパー#600番および#1200番を順に用いて厚みを0.8mmに調整し、それを試験体とした。その後試験体表面をバフで鏡面仕上げした後、三次元変角光度計(GP-200:村上色彩技術研究所社製)の測定治具に取り付けて透過光の光度分布を測定した。
測定データ(図1)は、入射方向を中心に+90°〜−90°にわたる透過光強度の分布を表している。
【0065】
(3)曲げ試験
評価目的:
歯科用組成物試験体の曲げ強度を評価する。
評価方法:
調整した歯科用組成物をステンレス製金型(25×2×2mm:直方体型)に充填した後、両面にカバーガラスを置きガラス練板で圧接した後光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて1試料につき5ケ所30秒間ずつ光照射を行い硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、37℃、24時間水中に浸漬したものを試験体とした。
曲げ試験の測定はインストロン万能試験機(インストロン5567,インストロン社製)を用い支点間距離20mm,クロスヘッドスピード1mm/minにて曲げ強度を測定した。
【0066】
(4)研磨性試験
評価目的
歯科用組成物の表面滑沢性を評価する。
評価方法
調整した歯科用組成物をステンレス製金型(4φ×6mm:円柱型)に充填した後、両面にカバーガラスを置きガラス練板で圧接した後光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて両面を30秒間づつ光照射を行い硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後シリコンポイント(松風製)及びワングロススーパーバフ(松風製)を用いて研磨しその研磨面を評価した。
【0067】
(5)耐久性試験
1.長期水中浸漬歯ブラシ摩耗試験
評価目的
歯科用組成物試験体の長期水中浸漬後における耐摩耗性を評価する。
評価方法
調整した歯科用組成物を歯ブラシ摩耗試験機用ステンレス製金型(15×15×2.6mm及び25×15×2.6mm)にそれぞれ4個づつ充填した後カバーガラスを置きガラス練板で圧接した後光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて1試料につき6ケ所30秒間ずつ光照射を行い硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後サンドペーパー#600番及び#1200番を順に用いて厚みを2.5mmに調整し、それを試験体とした。その後試験体表面をバフ研磨で鏡面仕上げを行った後、37℃、3週間水中に浸漬した。試験体を歯ブラシ摩耗試験機用(松風社製)に取り付け、歯ブラシ(ペリオH:サンスター製)及びペースト(ホワイト:サンスター製)を用いて30000サイクル約3時間歯ブラシ摩耗試験を行った。試験体の評価は試験体の摩耗による重量減から算出し4個の平均値を求めた。
【0068】
2.長期水中浸漬曲げ試験
評価目的:
歯科用組成物試験体の長期水中浸漬後における曲げ強度を評価する。
評価方法:
調整した歯科用組成物をステンレス製金型(25×2×2mm:直方体型)に充填した後、両面にカバーガラスを置きガラス練板で圧接した後光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて1試料につき5ケ所30秒間ずつで光照射を行い硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、37℃、3週間水中に浸漬したものを試験体とした。
曲げ試験の測定はインストロン万能試験機(インストロン5567,インストロン社製)を用い支点間距離20mm,クロスヘッドスピード1mm/minにて曲げ強度を測定した。
【0069】
〔原料ガラスの製造〕
シリカ43重量%、酸化アルミニウム20重量%、フッ化ナトリウム5重量%、フッ化カルシウム10重量%、リン酸カルシウム5重量%、炭酸ストロンチウム17重量%の割合にてそれぞれの原料を十分混合し、1400℃の高温エレマ炉中に投入係留して原料を溶融した。溶融後冷却してガラスを得た。
製造したガラスをボールミルを用いて12時間粉砕し、200メッシュ篩を通過させて、平均粒径約10μmの湿式粉砕用のガラス粉体Aを得た。
【0070】
実施例 1:無機フィラー「PAA処理粉体1」の調製
(湿式粉砕による無機微粒子の調製)
4連式振動ミルのアルミナポット(内容積3.6リットル)中に直径6mmφのアルミナ玉石4kgを投入後、上記で得たガラス粉体A540g及びイオン交換水1リットルをそれぞれ投入して15時間湿式粉砕を行った。粉砕後、粉砕スラリー中の平均粒度及び粒度分布をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)を用いて測定した結果、平均粒子径が3.2ミクロンでかつ単分散の粒度分布を示した。なお、粉砕後アルミナポット中のアルミナ玉石と粉砕スラリーを分離しガラス無機微粒子スラリーを得た。
(ポリシロキサン処理)
万能混合攪拌機中に上で得たガラス無機微粒子スラリー1.5kgを投入し、シラン化合物の低縮合物である「MS51SG1」(SiO2 含量16%、重合度2〜6:三菱化学社製)を21.7g添加し約90分間攪拌混合した。所定時間混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、150℃まで昇温して6時間係留し、それから冷却させて熱処理物を得た。得られた熱処理物をヘンシェルミキサー中に入れ1800rpmにて5分間解砕を行った。解砕後流動性の良い、表面がポリシロキサンで被覆された「PS処理フィラー1」を得た。この粉体の粒度及び粒度分布をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)を用いて測定した結果、平均粒子径が3.2ミクロンでかつ単分散の粒度分布を示した。
【0071】
(酸性ポリマー処理)
ヘンシェルミキサーに上で得た「PS処理フィラー1」2,500gを投入して、攪拌しつつ、上からポリアクリル酸水溶液 (ポリマー濃度13重量%、重量平均分子量 20,000; ナカライ社製)575gを噴霧した。噴霧後、ヘンシェルミキサーから取り出した粉体を熱風乾燥機中で、100℃で3時間加熱した。粉体を冷却後、ヘンシェルミキサーに500g投入して攪拌し、攪拌下に、シランカップリング剤である3-メタクリロイルオキシプロピルメトキシシラン60gをエタノール60gに溶解して調製した溶液を噴霧した。噴霧後、ヘンシェルミキサーから取り出した粉体を熱風乾燥機中で、100℃で3時間加熱処理を行って、本発明の無機フィラーであるポリアクリル酸処理粉体1(PAA処理粉体1と略称する)を得た。この粉体の粒度及び粒度分布をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)を用いて測定した結果、平均粒子径が3.2ミクロンでかつ単分散の粒度分布を示した。
【0072】
実施例2:無機フィラー「PAA処理粉体2」の調製
(湿式粉砕による無機微粒子の調製)
4連式振動ミルのアルミナポット(内容積3.6リットル)中に直径6mmφのアルミナ玉石4kgを投入後、上記で得たガラス粉体A540g及びイオン交換水1リットルをそれぞれ投入して8時間湿式粉砕を行った。粉砕後、粉砕スラリー中の平均粒度及び粒度分布をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)を用いて測定した結果、平均粒子径が7.3ミクロンでかつ単分散の粒度分布を示した。なお、粉砕後アルミナポット中のアルミナ玉石と粉砕スラリーを分離しガラス無機微粒子スラリーを得た。
(ポリシロキサン処理)
万能混合攪拌機中に上で得たガラス無機微粒子スラリー1.5kgを投入し、シラン化合物の低縮合物である「MS51SG1」(SiO2 含量16%、重合度2〜6:三菱化学社製)を10.8g添加し約90分間攪拌混合した。所定時間混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、150℃まで昇温して6時間係留し、それから冷却させて熱処理物を得た。得られた熱処理物をヘンシェルミキサー中に入れ1800rpmにて5分間解砕を行った。解砕後流動性の良い、表面がポリシロキサンで被覆された「PS処理フィラー2」を得た。この粉体の粒度及び粒度分布をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)を用いて測定した結果、平均粒子径が7.3ミクロンでかつ単分散の粒度分布を示した。
【0073】
(酸性ポリマー処理)
ヘンシェルミキサーに上で得た「PS処理フィラー2」2,500gを投入して、攪拌しつつ、上からポリアクリル酸水溶液 (ポリマー濃度13重量%、重量平均分子量 20,000; ナカライ社製)575gを噴霧した。噴霧後、ヘンシェルミキサーから取り出した粉体を熱風乾燥機中で、100℃で3時間加熱した、粉体を冷却後、ヘンシェルミキサーに500g投入して攪拌し、攪拌下に、シランカップリング剤である3-メタクリロイルオキシプロピルメトキシシラン60gをエタノール60gに溶解して調製した溶液を噴霧した。噴霧後、ヘンシェルミキサーから取り出した粉体を熱風乾燥機中で、100℃で3時間加熱処理を行って、本発明の無機フィラーであるポリアクリル酸処理粉体2(PAA処理粉体2と略称する)を得た。この粉体の粒度及び粒度分布をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)を用いて測定した結果、平均粒子径が7.3ミクロンでかつ単分散の粒度分布を示した。
【0074】
実施例3:無機フィラー含有組成物の調製
下記の組成割合で組成物Aを調整した。
〔組成物A〕
・2,2-ビス(4-(3-メタクリロイルオキシ‐2-ヒドロキシプロ
ポキシ)フェニル)プロパン(Bis−GMA) 60重量部
・トリエチレングリコールメタクリレート(3G) 40重量部
・カンファーキノン 1重量部
・p-N,N‐ジメチルアミノ安息香酸エチル 1重量部
・超微粉末シリカ(レジン成分増粘剤) 8重量部
組成物A100重量部に対し、実施例1で得られた無機フィラー「PAA処理粉体1」を350重量部配合した歯科用組成物1を調整した。組成物1を上記評価に従って硬化させ、フッ素放出量、曲げ試験、研磨性試験、耐久性試験及び透過光分布を測定した。透過光分布の測定結果を図1(a)に、フッ素放出量の結果を図2に、また曲げ試験、研磨性試験、耐久性試験の結果を表1に示した。
【0075】
実施例4:無機フィラー含有組成物の調製
無機フィラー「PAA処理粉体1」の代わりに、無機フィラー「PAA処理粉体2」を用いた以外は実施例3と同様にして組成物2を調製した。組成物2を上記評価に従って硬化させ、フッ素放出量、曲げ試験、研磨性試験、耐久性試験を測定した。フッ素放出量の結果を図2に、曲げ試験、研磨性試験、耐久性試験の結果を表1に示した。
【0076】
比較例1
無機フィラー「PAA処理粉体1」の代わりに、実施例1の酸性ポリマー処理を施す前のポリシロキサン処理フィラー「PS処理粉体1」に、実施例1のシラン処理を施したフィラーを用いる以外は、実施例3と同様にして組成物3を調製した。実施例3の組成物1と同様にしてフッ素放出量、曲げ試験、研磨性試験、耐久性試験及び透過光分布を測定した。透過光分布の測定結果を図1(b)に、フッ素放出量の結果を図2に、また曲げ試験、研磨性試験、耐久性試験の結果を表1に示した。
【0077】
比較例2
無機フィラー「PAA処理粉体2」の代わりに、実施例2の酸性ポリマー処理を施す前のポリシロキサン処理フィラー「PS処理粉体2」に、実施例2のシラン処理を施したフィラーを用いる以外は、実施例3と同様にして組成物4を調製した。実施例4の組成物2と同様にしてフッ素放出量、曲げ試験、研磨性試験、耐久性試験を測定した。フッ素放出量の結果を図2に、曲げ試験、研磨性試験、耐久性試験の結果を表1に示した。
【0078】
参考例
フッ素を徐放する材料として知られる市販のコンポマーである、ダイラクトAP(デンツプライ社製)を用いて上記評価に従って硬化させ、フッ素放出量、曲げ試験、研磨性試験、耐久性試験を測定した。フッ素放出量の結果を図2に、曲げ試験、研磨性試験、耐久性試験の結果を表1に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
【発明の効果】
歯科用組成物において、充填材として本発明の無機フィラーを配合することにより、歯科用組成物としての他の必要特性を損なうことなく、優れた透過光分布性(透過光の均一な方向分布)およびフッ素放徐放性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 フィラー含有組成物を透過した透過光強度の角度分布実測図:(a)本発明(実施例2)、(b)比較例1。
【図2】 累積フッ素放出量を示すグラフ。
Claims (11)
- 酸反応性元素を含む無機微粒子がポリシロキサンで被覆され、更に、前記無機微粒子の表面に、酸性ポリマーと前記酸反応性元素との反応によるセメント反応相が形成されている無機フィラー。
- 無機微粒子がガラスである請求項1に記載の無機フィラー。
- 無機微粒子がフッ素を含むガラスである請求項1に記載の無機フィラー。
- 酸反応性元素が周期律表第I、IIまたはIII族元素から選ばれる請求項1、2または3に記載の無機フィラー。
- ポリシロキサンで被覆された酸反応性元素を含む無機微粒子に酸性ポリマーを反応させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無機フィラーの製造方法。
- ポリシロキサンで被覆された酸反応性元素を含む無機微粒子への酸性ポリマーの反応を、該無機微粒子に酸性ポリマー溶液を含浸させることにより行う請求項5〜7のいずれかに記載の無機フィラーの製造方法。
- 無機フィラーが非凝集状態で分散含有されている請求項9に記載の歯科用組成物。
- (a)請求項1〜4のいずれかに記載の無機フィラー、(b)重合性単量体、および(c)重合開始剤、を含有してなる請求項9または10に記載の歯科用組成物。
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