JP5107286B2 - ホスホニルイミデートを求核剤とする方法 - Google Patents
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このような有機化合物の製造においては、新しい有機化合物の合成手法の開発が望まれてきている。求核反応は有機化合物を製造する際の代表的な化学反応のひとつとして知られており、多くの産業分野で利用されてきている。特に、求核付加反応は、新たなC−C結合やC−N結合を生成させるための化学反応として開発が進められてきている(非特許文献1〜8参照)。しかし、これらの反応にはほぼ等量という多量の塩基が必要とされたり、また求核反応基質化合物の反応性を確保するために反応サイトに隣接する位置に電子吸引基を有していることが必要とされてきた(例えば、非特許文献9〜11参照)。
このために本発明者らは、スルホニルイミデートを用いた触媒的マンニッヒ型反応やパラジウムの存在下の触媒的アリル位置換反応などを報告してきた(非特許文献12及び13参照)。
また、ホスホニルイミデートは、リン系の殺虫剤としても使用されているが、求核試薬としては使用されていなかった。
で表されるホスホニルイミデートを、塩基の存在下で求核反応基質化合物と反応させて求核反応生成物を製造する方法に関する。
また、本発明は、前記した本発明の方法で製造された求核反応生成物のホスホニルイミデート部分を、加水分解又は還元的加水分解して、対応するエステル、アミド、又はアルデヒドを製造する方法に関する。
さらに、本発明は、前記一般式(1)で表されるホスホニルイミデートを、求核反応における求核試薬(求核剤)として使用する方法に関する。また、本発明は、前記一般式(1)で表されるホスホニルイミデートの、求核反応における求核試薬(求核剤)として使用に関する。さらに本発明は、求核反応における求核試薬(求核剤)としての前記一般式(1)で表されるホスホニルイミデートに関する。
[1]前記一般式(1)で表されるホスホニルイミデートを、塩基の存在下で求核反応基質化合物と反応させて求核反応生成物を製造する方法。
[2]求核反応基質化合物が、次の一般式(2)
Y=Z−R5 (2)
(式中、YはR6−CH、R7−C(R8)、R9O−CO−N、又はR9−CO−Nを表し、ZはN、又はC−CO−OR10を表し、R5は置換基を有してもよい炭化水素基、−CORa、−COORa、又は−SO2−Ra(式中、Raは置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)を表し、R6、R7、及びR8は、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭化水素基を表し、R9及びR10はそれぞれ独立して置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)
で表される不飽和化合物であって、求核反応生成物が次の一般式(3)
である化合物である前記[1]に記載の方法。
[3]求核反応基質化合物が、次の一般式(4)
であって、求核反応生成物が次の一般式(5)
で表されるアミノ化合物である前記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]一般式(4)で表されるイミン化合物が、アルデヒドと一般式H2N−R12(式中、R12は前記一般式(4)で示したものと同じである。)で表されるアミノ化合物から、反応系中で生成されるものである前記[3]に記載の方法。
[5]求核反応基質化合物が、次の一般式(6)
であって、求核反応生成物が次の一般式(7)
で表されるカルボニル化合物である前記[1]又は[2]に記載の方法。
[6]求核反応基質化合物が、次の一般式(8)
であって、求核反応生成物が次の一般式(9)
で表されるヒドラジン化合物である前記[1]又は[2]に記載の方法。
[7]塩基が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド又はヘキサアルキルジシラジドである前記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]塩基が、アルカリ金属ヘキサアルキルジシラジドである前記[7]に記載の方法。
[9]塩基の量が、一般式式(1)で表されるホスホニルイミデートに対して0.01〜20モル%である前記[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]求核反応生成物が、立体選択的生成物である前記[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]前記[1]〜[10]いずれかに記載の方法で製造された求核反応生成物のホスホニルイミデート部分を加水分解又は還元的加水分解して、対応するエステル、アミド、又はアルデヒドを製造する方法。
[12]前記一般式(1)で表されるホスホニルイミデートを、求核反応における求核試薬として使用する方法。
したがって、本発明の方法は、前記一般式(1)で表されるホスホニルイミデートからなる求核試薬(求核剤)を用いる全ての方法を包含するものであり、本発明における求核反応基質化合物としては、求核反応において本発明の求核試薬との反応性を有する化合物のことを意味する。
本発明の方法における好ましい求核反応としては、マンニッヒ型反応やミカエル付加反応のような求核付加反応が挙げられる。本発明の求核付加反応における、付加される不飽和結合としては、C=C結合、C=N結合、及びN=N結合などが挙げられる。
本発明の方法における好ましい求核反応基質化合物としては、前記した一般式(2)で表される化合物が挙げられる。より好ましい求核反応基質化合物としては、当該一般式(2)で表される化合物のうちの前記した一般式(4)、一般式(6)、又は一般式(8)で表される化合物が挙げられる。さらに好ましい求核反応基質化合物としては、一般式(4)で表されるイミノ型の化合物が挙げられる。
アルキル基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、炭素数1〜10の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、などが挙げられる。
アルケニル基としては、炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜15、炭素数2〜10の直鎖状又は分枝状のアルケニル基が挙げられる。このようなアルケニル基の例としては、ビニル基、1−メチル−ビニル基、2−メチル−ビニル基、n−2−プロペニル基、1,2−ジメチル−ビニル基、1−メチル−プロペニル基、2−メチル−プロペニル基、n−1−ブテニル基、n−2−ブテニル基、n−3−ブテニル基などが挙げられる。
シクロアルキル基としては、炭素数3〜15、好ましくは炭素数3〜10の飽和又は不飽和の単環式、多環式又は縮合環式の脂環式炭化水素基が挙げられる。このようなシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、ビシクロ[1.1.0]ブチル基、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプチル基、ビシクロ[3.2.1]オクチル基、ビシクロ[2.2.2.]オクチル基、アダマンチル基(トリシクロ[3.3.1.1]デカニル基)、ビシクロ[4.3.2]ウンデカニル基、トリシクロ[5.3.1.1]ドデカニル基、などが挙げられる。
アリール基としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基が挙げられる。このようなアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、などが挙げられる。
アラルキル基としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基(アリール基)に、前記した炭素数1〜20のアルキル基が結合した、炭素数7〜40、好ましくは炭素数7〜20、炭素数7〜15のアラルキル基(炭素環式芳香脂肪族基)が挙げられる。このような基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、α−ナフチル−メチル基などが挙げられる。
アリールアルケニル基としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基(アリール基)に、前記した炭素数2〜20のアルケニル基が結合した、炭素数8〜40、好ましくは炭素数8〜20、炭素数8〜15のアリールアルケニル基が挙げられる。このような基としては、例えば、スチリル基、2−ナフチル−ビニル基などが挙げられる。
また、本発明における炭化水素基は、求核反応に悪影響を与えない範囲で、前記してきた炭化水素基における1個又は2個以上の炭素原子が、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子などの異種原子で置換されたものであってもよい。
これらの炭化水素基や複素環基は、求核反応に悪影響を与えない各種の官能基で置換されていてもよい。このような置換基としては、例えば、前記してきたアルキル基、前記してきたアルケニル基、前記してきたシクロアルキル基、前記してきたアリール基、前記してきたアラルキル基、塩素原子などのハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有する複素環基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数2〜21のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数7〜37のアリール−カルボニルオキシ基、炭素数8〜41のアラルキルカルボニルオキシ基、炭素数2〜21のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜37のアリールオキシカルボニル基、炭素数8〜41のアラルキルオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアミノ基、アルキルシリル基、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
一般式(1)における好ましいR2及びR3としては、それぞれ独立して水素原子又は前記したアルキル基が挙げられる。
一般式(1)における好ましいR4としては、それぞれ独立して炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、炭素数1〜10、さらに好ましくは炭素数1〜5の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、などが挙げられる。
これらの基はアルキル基、ハロゲン、アルケニル基、などの置換基で置換されていてもよい。
一般式(2)におけるR7及びR8、及び一般式(6)におけるR13及びR14の好ましい基としては、水素原子又は炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、炭素数1〜10の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられる。
一般式(2)における−OR9、及び一般式(8)におけるR17の好ましい基としては、炭素数1〜20のアルキル基に酸素原子結合したアルコキシ基が挙げられる。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基などが挙げられる。
一般式(2)における−OR10、及び一般式(6)におけるR16の好ましい基としては、炭素数1〜20のアルキル基に酸素原子結合したアルコキシ基が挙げられる。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基などが挙げられる。
一般式(2)における好ましい=Z−R5としては、一般式(4)における=N−R12基、一般式(6)における=C−R15基、及び一般式(8)における=N−COR18基が挙げられる。
一般式(4)における好ましいR12としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基からなるアリールホスホニル基;炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基などが挙げられる。より好ましくは、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基が挙げられる。これらの基はアルキル基、ハロゲン、アルケニル基、などの置換基で置換されていてもよい。
一般式(6)における好ましいR15としては、水素原子又はアルキル基が挙げられる。
一般式(8)における好ましいR18としては、炭素数1〜20のアルキル基に酸素原子結合したアルコキシ基が挙げられる。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基などが挙げられる。
本発明の好ましい塩基としてはアルカリ金属ヘキサアルキルジシラジド、アルカリ土類金属ヘキサアルキルジシラジドなどが挙げられる。好ましいジシラジドとしては、ヘキサメチルジシラジドが挙げられる。
本発明の好ましい塩基の例としては、カリウムヘキサメチルジシラジド(KHMDS)、Sr(HMDS)2などが挙げられる。なお、HMDSはヘキサメチルジシラジド基を示す。
また、本発明の方法は、モレキュラーシーブ(好ましく4オングストロームのもの)の存在下に行うこともできる。
塩基の使用量は特に制限はないが、従来の方法のように等量使用する必要が無いことが本発明の方法の特徴のひとつである。好ましい塩基の量は、一般式(1)で表されるホスホニルイミデートに対して0.01〜20モル%、より好ましくは1〜15モル%程度である。
本発明の方法は溶媒の存在下で行うのが好ましい。好ましい溶媒としては、DMF(ジメチルホルムアミド)、DCM(ジクロロメタン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMA(ジメチルアセトアミド)、THF(テトラヒドロフラン)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
一般式(2)などで表される求核反応基質化合物は、一般式(1)で表されるホスホニルイミデートに対して等量で行うことができるが、好ましくは0.8〜2当量、0.9〜1.5当量で行うことができる。
反応温度は、特に制限はなく−45℃〜溶媒の沸点までの範囲で選択することができる。好ましい反応温度は0〜室温が上げられる。反応時間は適宜選定することができるが、反応温度が低い場合には10〜50時間程度、好ましくは24〜48時間程度が挙げられる。
本発明の方法で製造された生成物は、クロマトグラフィーなどの精製手段により適宜精製することができる。
−C(OR1)=N−PO(OR4)2 → −CO−NH−PO(OR4)2
−C(OR1)=N−PO(OR4)2 → −COOR1
−C(OR1)=N−PO(OR4)2 → −CHO
N−ホスホニルアミドとする場合には、本発明の方法よる生成物を、含水アルコール(例えば、i−Prアルコール)中で硫酸などの酸の存在下で、加水分解することにより製造することができる。
エステルとする場合には、本発明の方法よる生成物を、酸又は塩基の存在下で加水分解することにより製造することができる。
アルデヒドとする場合には、水素化ジイソブチルアルミニウムなどの還元剤の存在下に反応させることにより製造することができる。
このようにして製造されたN−ホスホニルアミド、エステル、アルデヒドは、β位に本発明の方法により導入された窒素原子又は炭素原子を有しており、β−アミノ酸誘導体などとすることができ、本発明の方法により産業上有用な化合物を簡便に製造することができる。さらに、前記したように本発明の方法は立体選択的に行うことができるので、片方の異性体を選択的に製造することができる。
また、ホスホニルイミデートは殺虫剤として使用されている化合物であり、本発明の方法により簡便にその誘導体の合成が可能になるため、殺虫剤などに有用となる新規な有用物質の探索を簡便に高収率で立体選択的に行うことができるようになる。
さらに、本発明の方法は、使用する塩基の量が触媒量でも反応が進行するため、工業的な製造にも適している。
1H−NMRと13C−NMRは、JEOL JNM−ECX−400、JNM−ECX−500又はJNM−ECX−600を使用し、CDCl3を溶媒とし(他の溶媒を使用した場合は個別に記載)、テトラメチルシラン(δ=0、1H−NMR)又はCDCl3(δ=77.0、13C−NMR)を内部標準物質として測定した。
IRスペクトルの測定はJASCO FT/IR−610を使用した。
旋光度の測定はJASCO P−1010を使用した。
融点測定にはYAZAWA BY−1を使用した。
カラムクロマトグラフィーにはSilica gel 60(Merck)を、調製用薄層クロマトグラフィーにはWakogel B-5Fを使用した。
全ての反応はアルゴン雰囲気下で実施し、溶媒は定法に従い蒸留したものを使用した。
イミデートHCl塩の製造
次に示す反応式にしたがって各種のイミデート塩酸塩を製造した。
ホスホニルイミデートの製造
次に示す反応式にしたがってホスホニルイミデートを製造した。
次に示す反応式にしたがってホスホニルイミデートの求核反応を行った。
主生成物は、次式、
1H−NMR(C6D6)δ=
7.61 (1H, d, J = 9.7 Hz), 7.51 (2H, app d, J = 7.5 Hz),
7.06 (2H, app t, J = 7.5 Hz), 6.97 (1H, app t, J = 7.5 Hz),
5.18 (1H, app quint, J = 6.3 Hz), 5.00 (1H, dd, J = 9.7, 9.7 Hz),
4.11-4.22 (2H, m), 3.88-4.03 (3H, m), 1.32 (9H, s),
1.21-1.28 (6H, m), 1.06 (3H, d, J = 6.3 Hz),
1.03 (3H, t, J = 6.9Hz), 0.94 (3H, d, J = 6.9 Hz)
Claims (5)
- 次の一般式(1)
- 一般式(4)で表されるイミン化合物が、アルデヒドと一般式H2N−R12(式中、R12は前記一般式(4)で示したものと同じである。)で表されるアミノ化合物から、反応系中で生成されるものである請求項1に記載の方法。
- 塩基が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド又はヘキサアルキルジシラジドである請求項1又は2に記載の方法。
- 塩基の量が、一般式(1)で表されるホスホニルイミデートに対して0.01〜20モル%である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 求核反応生成物が、立体選択的生成物である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
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