JP5102739B2 - 燐のミクロ偏析が分散された鋼および連続鋳造鋳片 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼の種々の特性に悪影響を及ぼす燐のミクロ凝固偏析が分散された鋼に関し、さらに詳しくは、溶鋼段階でNdが添加され、凝固段階でデンドライト樹間のみにNdおよびPを含有する介在物が晶出し、Pのミクロ偏析が分散された鋼と、その鋼を連続鋳造法によって製造する際に得られる連続鋳造鋳片に関する。
連続鋳造により製造された鋼材料の組織と品質は、凝固過程において不可避的に生じる偏析の程度により大きく影響される。鋼中に固溶した燐(P)(以下、「固溶P」とも記す)は、結晶粒界あるいは鋳片中心部などにおいて濃化し、鋼材の高温延性、耐食性、溶接性などの特性を著しく悪化させるため、鋼中の固溶P濃度を低減することが重要とされている。固溶Pは、鋼中において単体の元素として存在するが、この固溶Pは、溶鉄中では溶解したP(以下、「溶解P」とも記す)として存在している。
この鋼中のPは、固相と液相との間における分配係数が小さいため、凝固過程において形成される樹枝状の凝固組織(デンドライト)において樹間部に偏析し、ミクロ偏析を形成する。また、固相の多結晶組織を有する鋼においても、鋼に固溶したPは結晶粒界に偏析する。Pの偏析は、割れの起点や伝播経路など脆化要因の主因となって鋼の基本性能や品質を著しく劣化させる場合も少なくない。したがって、Pは、鋼を溶製する際に、優先的に除去すべき有害元素の一つとされている。
そのため、脱燐効率をより高めるとともに、より低い溶解P濃度まで脱燐することを目的として、多数の溶銑脱燐技術および溶鋼脱燐技術が開発されてきた。一方、近年、鋼材に対する要求性能が高まると同時に、高級鋼の需要が増加している。この要求性能と需要に対応するためには、より簡便な方法により鋼中の固溶P濃度を従来以上に低減する必要が生じてきた。
従来から、鋼中の固溶P濃度を低減する方法として、製鋼段階において溶鋼から溶解Pを除去する脱燐処理が用いられており、例えば、脱燐に適したスラグあるいはフラックスを溶鋼に添加し、酸化雰囲気下で溶鋼中のPを酸化物としてスラグまたはフラックスに移行吸収させる方法が採用されている。
従来の脱燐処理方法には以下の課題がある。第一の課題は、低減可能なP濃度には限界があることである。現実的な製造コストを考慮すると、通常の炭素鋼の脱燐処理による到達可能なP濃度の下限は、0.002質量%程度である。また、高合金鋼やステンレス鋼では、炭素鋼よりも熱力学的に脱燐処理が難しく、到達可能なP濃度の下限はさらに高くなる。
第二の課題は、副次生成スラグの問題である。従来の脱燐処理方法では、上述のようにスラグやフラックスを使用するため、目標P濃度を低くすればするほど、大量のスラグまたはフラックスを消費するばかりでなく、脱燐処理後に不可避的に発生する副次生成スラグ量も増加する。つまり、過剰な脱燐処理を行うと、環境負荷の増大を招く。したがって、こうした溶鋼の脱燐方法に代わり、鋼中のPの偏析を抑制できる新たなPの無害化手法が必要となってきた。
鋼中のPを無害化する新たな方法として、特許文献1〜4および非特許文献1には、溶鋼中に希土類金属(REM)を添加し、REMとPを含む介在物を形成させ、鋼中のPの偏析を抑制する方法が開示されている。
特許文献1には、質量%で、P:31/233×(REM+0.021)%以上0.04%以下、Cr:18%以上28%以下、Ti:0.02%以上(0.03+4C+24/7×N)%以下、Al:4.5%以上6.5%以下、REM:0.06%を超え0.15%以下を含有する耐熱、耐酸化性Fe−Cr−Al系合金鋼が開示されており、さらに、上記の合金鋼中において、Ceが燐化物として存在することが記載されている。
特許文献2には、Pを0.05〜0.5質量%ならびにCeおよびLaの一種または二種を0.005〜0.5質量%含有し、CaおよびCaの燐化物を微細に析出させ、γ粒径を微細にすることにより表面割れを少なくした炭素鋼の鋳片が開示されている。
また、非特許文献1には、溶接金属の凝固割れ感受性におよぼすREMの影響として、CeおよびLaは、粒界割れに有害であるPとともに、デンドライト樹間に濃化し、REMの燐化物を形成することにより、Pの偏析を軽減し、割れ感受性を低下させることが記載されている。
このように、特許文献1、2および非特許文献1では、主としてCeおよびLaを含むREMとPとの反応により、鋼中にREMの燐化物を介在物として形成させて、割れの抑制をはじめとする鋼の改質を行っている。
しかしながら、CeおよびLaのいずれかまたは両方を含むREMを鋼に添加する場合には、添加量が過剰になると低融点の共晶を生じやすく、これにより、REMの凝固偏析や、鋼の粒界割れを誘起するおそれがある。
例えば、非特許文献1では、REMを過剰に添加すると、そのREMがデンドライト樹間で濃化する際に粒界に凝固偏析して再び割れ感受性が高まることが指摘されている。これは、鉄中におけるREMの固溶限度が極めて低いことから、凝固時に過剰なREMが粒界に偏析した場合には、わずかな偏析量であっても固相線温度が急激に低下すること、および、共晶反応または包晶反応が生じる程度の偏析量になると、さらに粒界の凝固終了温度が低下することに起因するとされている。
また、特許文献1および2に記載の方法では、過剰なREMを固定するために、REM量に応じてさらにPを添加して燐化合物を形成させる必要もある。
特許文献3には、少量のNdを添加することにより燐化合物を生成させて、溶鉄中の溶解P濃度を低減し、且つ連続鋳造性に優れた清浄度の高い溶鉄を製造することができる溶鉄の処理方法が提案されている。この方法は、P:0.0001%以上0.5%以下、S:0.005%以下およびO:0.005%以下を含有する溶鉄にNdを添加した後に、溶鉄中のP濃度、S濃度およびO濃度に応じて下記(3−1)式および(3−2)式で表される関係を満足するように溶鉄中のNd濃度を制御した後、溶鉄にCaを添加して、溶鉄中のNd濃度に応じて下記(3−3)式の関係を満足するように溶鉄中のCa濃度を制御する方法である。
A=0.24[P]+0.82[S]+0.85[O] ・・・(3−1)
A+0.005≦[Nd]≦A+0.03 ・・・(3−2)
1.2×10-2×[Nd]2/3≦[Ca]≦1.6×10-2×[Nd]2/3+0.015 ・・・(3−3)
ここで、[P]、[S]、[O]、[Nd]および[Ca]は、溶鉄中における各元素の濃度(質量%)を表す。
このように、特許文献3に記載の方法では、溶鉄中のP、SおよびOの濃度に応じたNdおよびCaを添加する処理を行っている。この方法では、特にCaの揮発性が高いために、その添加歩留まりが低く、CaとNdの双方について精度よく組成を制御することが難しい点が課題である。また、溶解Pを固定するために、溶鉄中でCaまたはNdの燐化物を晶出させると、これらの燐化物と同時に晶出する酸硫化物が粗大化するという問題もある。
特許文献4では、溶鉄中のP濃度に応じて、下記(4)式の関係を満たす量のNdを添加することにより、Ndの燐化合物を形成させて、鋼中に溶解または固溶するPを低減する方法が提案されている。
4.8×10-5/[P]≦[Nd]≦9.6×10-3/[P] ・・・(4)
上記の(4)式は、溶鉄中でのNdの燐化物の溶解度積を4.8×10-5程度であると推定したものである。しかしながら、本発明者らが種々の実験を行ったところ、この溶解度積の値は、Ndの燐化物として、完全液相である溶鉄から晶出するものと、溶鉄の凝固過程で晶出するものの双方を含んだものであることがわかった。また、Ndの燐化物が晶出するか否かの溶質の濃度条件はさまざまであり、濃度積[Nd]・[P]が4.8×10-5を超えても、晶出しない場合があることも確認した。
特開平2−254136号公報(特許請求の範囲および第4頁右下欄) 特開2005−298909号公報(特許請求の範囲および段落[0017]) 特開2007−327122号公報(特許請求の範囲および段落[0016]) 特開2007−186722号公報(特許請求の範囲および段落[0016]) 中尾、外1名、「完全オーステナイト化したSUS316鋼電子ビーム溶接金属の凝固割れ感受性の改善」、溶接学会論文集、社団法人溶接学会、第4巻(1986)第2号、p.393−399 IMAGUMBAI、外1名、「Influence of Calcium-treatment on Sulfide- and Oxide-inclusions in Continuous-cast Slab of Clean Steel−Dendrite Structure and Inclusions」、ISIJ International、社団法人日本鉄鋼協会、第34巻(1994)第7号、p.574−583
上述のとおり、特許文献1、2および非特許文献1に記載の技術、すなわち溶鋼中に主としてCeおよびLaを含むREMを添加して鋼中のPを無害化する従来の技術には、凝固時におけるPのミクロ偏析を分散させる際に、添加するREMが過剰になると、低融点の共晶が生じやすく、粒界割れを誘起するおそれがあるという弊害があった。また、特許文献3に記載の、NdとCaを添加して溶解Pを低減する溶鉄の処理技術には、添加精度を確保することが困難であり、また、燐化物の晶出と同時に晶出する酸硫化物の粗大化が生じやすいという問題があった。さらに、Ndの燐化物の溶解度積は特許文献4に記載の値と異なる場合もあることが確認されており、Ndの燐化物の晶出条件をさらに追求すべき必要性も分かった。
本発明は、上記の問題を解決し、Ndの添加のみでPの偏析を鋼の内部に分散させることにより、Pを従来にない低い水準まで無害化させた鋼を提供することを目的としている。
REMは、鋼中のOおよびSとの化学的親和力が強いため、主に脱酸剤および脱硫剤として用いられている。さらに、Pとも化学的親和力を有し、高温で燐化物を形成する。REMのうち、資源量が豊富で入手が容易であり、実用鋼に添加可能なものは、La、CeおよびNdに限られる。
REMに属する元素はそれぞれ化学的性質が類似しているため、Pとの化学的親和力のREM種による差異もないと考えられていた。そのため、溶鋼に添加するREMとしては、単体ではなく、CeおよびLaを主成分とするREM混合物であるミッシュメタルもよく用いられてきた。
ところが、背景技術の項において説明したように、Pに対して過剰にREMを添加すると、REMが結晶粒界で濃化して、粒界割れを生じさせるおそれがある。そこで、本発明者らは、母相である鉄と添加物であるREMとの熱力学的関係に着目して検討を行い、Pを無害化するために最も有効なREMとして、Ndを選択した。
図1は、熱力学計算ソフトThermoCalcおよび熱力学データベースSSOL4を用いて作成したFe−Nd二元系の計算状態図であり、(a)は全体図、(b)はFe側高温部の部分拡大図を示す。Ndは、LaおよびCeに比べて単体での融点が高く、鉄との化合物を形成する際の共晶点温度も高い。さらに、高温の鉄中における固溶限度も大きく、たとえば1200℃のγ相(オーステナイト相)における固溶限度は5質量%程度に達する。
このように、同じランタノイド系列のREMであっても、Ndは、LaおよびCeと比べて、高温の鉄中における固溶限度が高く、凝固時の偏析により濃化して溶質Pに対して過剰となった場合においても鉄に固溶しやすい。したがって、溶鋼に添加するREMを、Nd単体とすることにより、低融点の共晶を形成しにくくし、粒界脆化を起こしにくくすることができると考えられる。
1.凝固過程における溶質の濃化現象を考慮したNd濃度の適正範囲
さらに、本発明者らは、溶鋼の凝固過程における溶質の濃化現象に着目した。溶鋼の凝固が進行する過程では、樹枝状の固相が成長し、樹枝間の液相において溶質が濃化する。このような濃化は、主要な偏析元素であるPだけでなく、Ndにおいても生じる。したがって、凝固段階での濃化現象を利用して、ミクロ凝固組織であるデンドライトの樹間部において濃化したPとNdとを化合させることにより、Ndの燐化物を含有する介在物を樹間に分散させることが可能となり、溶鋼全体が溶解している段階で過剰な燐化物を生じさせる必要がなくなるとともに、介在物の粗大化を抑制することができる。
また、Pを無害化する形態としては、形成される燐化物は、微細に分散させるのが鋼の高温延性をはじめとする特性の劣化を防止する観点から好ましい。鋳造実験により、微細に分散した燐化物の適正な形成条件を種々検討した結果、以下の知見が得られた。
(1)溶鋼段階で過剰なNd系介在物が生成すると、溶鋼の清浄度が低下し、連続鋳造の際に溶鋼を注入するノズルの閉塞を助長するので好ましくない。また、溶鋼段階でNdの燐化物が晶出すると、これと同時に生成するNdの硫酸化物が粗大化し、さらにノズルの閉塞を助長するので好ましくない。
(2)Ndの添加により生成した介在物は、可能な限り浮上分離によって除去させることが好ましく、鋳造段階に至る以前の溶鋼中ではNdは溶質として存在させ、Nd系介在物などを形成させないことがより好ましい。
さらに、Pが有害作用を示すか否かは、凝固にともなうPのミクロ偏析の程度に依存する。そこで、本発明者らは、EPMA(Electron Probe Microanalyzer、X線マイクロアナライザ)による物理分析によって、Pのミクロ偏析の程度を評価した。
ミクロ偏析の程度を表す指標としては、「濃化部面積率」および「偏析スポット径」の二つを用い、いずれもEPMAによって得られるPの二次元濃度マッピングデータから算出した。各指標の定義については後述するが、「濃化部面積率」とは、インゴットまたは連続鋳造された鋳片の任意の断面においてP濃度が平均P濃度の2倍を超える偏析部分の占める面積の割合を意味し、また、「偏析スポット径」とは、前記濃化部面積率を測定した断面と同一の断面においてP濃度が平均P濃度の7倍を超える偏析部分が連続する領域ごとにその大きさを測定したときの最大の長さを意味する。
上記指標は、いずれも、その値が大きいほど鋼の高温割れ感受性が高まることを意味する。そして、本発明者らの調査の結果、濃化部面積率が20%未満であり、かつ偏析スポット径が一次デンドライトアーム間隔の50%未満の場合に、Pが無害化されることが判明した。
本発明者らは、さらに、Cを0.1〜0.3%含有し、凝固初晶がフェライト相でありかつ固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する鋼について調査実験を行い、凝固組織のデンドライト樹間でのみNdの燐化物を晶出させ、Pの偏析を分散するのに必要な条件を明らかにした。
Ndの燐化物は、溶鉄中の溶質であるNdとPとの反応によって生成するため、Ndの燐化物が晶出するためにはNdおよびPの濃度積がNdの燐化物の溶解度積を超える必要がある。したがって、溶鋼中へのNdの添加量は、溶鋼の含有P量に応じて決定されねばならない。
まず、前記知見(1)から、晶出物の粗大化を抑制するために、完全液相の溶鋼中では燐化物を晶出させないことが重要である。そのために、溶鋼中のP濃度([P](質量%))に対して下記(5)式を満たすようにNd濃度([Nd](質量%))の上限を定める。
[Nd]≦3.5×10-3/[P] ・・・(5)
溶鋼中のNd濃度が3.5×10-3/[P]を超えると、溶鋼中に燐化物が晶出し、これと同時に生成する硫酸化物の粗大化を招くおそれがある。
次に、凝固過程において、固相の占める体積率(以下、「固相率」という)fsがfs≦0.85(すなわち、液相の占める体積率(以下、「液相率」という)fL≧0.15)を満たす期間内に液相において燐化物を晶出させる。
そのため、溶鋼中のP濃度に対して下記(6)式を満たすようにNd濃度の下限を定める。
[Nd]≧2.5×10-4/[P] ・・・(6)
[Nd]<2.5×10-4/[P]であると、凝固過程で溶鋼中のNdが濃化しても濃度積[Nd]・[P]が燐化物の溶解度積に達せず、燐化物が晶出しないか、または晶出したとしても固相率fsが0.85を超え、ほぼ1に近くなった凝固末期に限定されるので、所期の目的である偏析の分散効果が得られない。
したがって、上記(5)式および(6)式を満たすこと、すなわち下記(1)式を満たすことにより、完全液相の溶鋼中で燐化物を晶出させることがなく、また偏析を分散させることができる。
2.5×10-4/[P]≦[Nd]≦3.5×10-3/[P] ・・・(1)
2.溶鋼中のOおよびSを考慮したNd濃度の適正範囲
Ndの燐化物は、溶鉄中の溶質であるNdとPとの反応によって生成するため、Ndの燐化物が晶出するためにはNdおよびPの濃度積がNdの燐化物の溶解度積を超える必要がある。したがって、上述したように溶鋼中へのNdの添加量は、溶鋼の含有P量に応じて決定されねばならない。
ただし、Ndは、溶鋼中においてPと比べてOおよびSと優先的に反応する。そのため、Ndと反応するOおよびSの濃度を考慮することによって、より精度の高い偏析の制御を行うことが可能となる。
溶鋼中のOおよびSの濃度を考慮し、溶鋼中でPと反応可能なNd量を有効Nd濃度[eff.Nd]とする。この[eff.Nd]は、[Nd]、すなわち総Nd濃度を[tot.Nd]とすると、下記(7)式および(8)式より式で表される。
[tot.Nd]>6×([O]+[S])のとき、
[eff.Nd]=[tot.Nd]−6×([O]+[S]) ・・・(7)
[tot.Nd]≦6×([O]+[S])のとき、
[eff.Nd]=0 ・・・(8)
凝固過程におけるNdの燐化物の溶解度積は、溶質の濃化を考慮した局所濃度に対して、
[eff.Nd]・[P]=3.2×10-3 ・・・(9)
により表されることが本発明者らの実験により明らかとなった。この溶解度積の値は、従来考えられていた値である4.8×10-5よりも大きな値である。この理由としては、従来の値は、凝固過程で溶質が濃化した後に晶出するNdおよびPも含まれていたためと考えられる。
デンドライト樹間における溶質の濃度積[eff.Nd]fL・[P]fLは、液相率fLが1のときの濃度すなわち有効Nd濃度の平均値[eff.Nd]fL=1およびPの平均濃度[P]fL=1を用いて下記(10)式により与えられる。
[eff.Nd]fL・[P]fL
=[eff.Nd]fL=1・[P]fL=1×fL-1.57 ・・・(10)
ここで、fLの冪指数−1.57は、NdおよびPの平衡分配係数kNdおよびkPの和0.43を用いて、下記(11)式により算出されたものである。
(kNd−1)+(kP−1)=(kNd+kP)−2=0.43−2=−1.57 ・・・(11)
したがって、デンドライト樹間でのみNdの燐化物が晶出する際の濃度積[eff.Nd]fL・[P]fLの条件は、固相が生成し始めてから、液相率fLが0.01となるまでにNdの燐化物が晶出するとすると、
[eff.Nd]fL=1・[P]fL=1<3.2×10-3 ・・・(12)
[eff.Nd]fL=0.01・[P]fL=0.01≧3.2×10-3 ・・・(13)
である。
さらに、Ndの燐化物の好ましい晶出条件として、デンドライトの樹間のみで晶出させるとともに、Pの偏析を分散させるには、溶鋼の凝固過程において液相率fLが0.89〜0.15の範囲内で晶出させるのが有効である。この場合の濃度積[eff.Nd]fL・[P]fLの条件は、
[eff.Nd]fL=0.89・[P]fL=0.89≦3.2×10-3 ・・・(14)
[eff.Nd]fL=0.15・[P]fL=0.15≧3.2×10-3 ・・・(15)
である。
そして、fL=0.89のときにfL-1.57の値が0.89-1.57=1.2、fL=0.15のときにfL-1.57の値が0.15-1.57=20であることから、(14)式および(15)式は、(10)式を変形することにより、[eff.Nd]fL=1および[P]fL=1を用いて、下記(16)式および(17)式のように表すことができる。
[eff.Nd]fL=1・[P]fL=1
=[eff.Nd]fL=0.89・[P]fL=0.89/1.2
≦3.2×10-3/1.2=2.7×10-3 ・・・(16)
[eff.Nd]fL=1・[P]fL=1
=[eff.Nd]fL=0.15・[P]fL=0.15/20
≧3.2×10-3/20=1.6×10-4 ・・・(17)
と表すことができる。
(16)式および(17)式を整理すると、デンドライトの樹間のみでNdの燐化物が晶出するとともに、Pの偏析を分散させる条件は、下記(18)式のようになる。
1.6×10-4≦[eff.Nd]fL=1[P]fL=1≦2.7×10-3 ・・・(18)
(18)式の各辺を[P]fL=1により除し、(7)式を代入すると、下記(19)式が得られる。
6×([O]+[S])+(1.6×10-4/[P]fL=1)≦[tot.Nd]fL=1≦6×([O]+[S])+(2.7×10-3/[P]fL=1) ・・・(19)
上記(19)式を、溶鋼中におけるO、S、PおよびNdの各組成[O]、[S]、[P]および[Nd]により表せば、下記(2)式が得られる。
6×([O]+[S])+1.6×10-4/[P]≦[Nd]≦6×([O]+[S])+2.7×10-3/[P] ・・・(2)
本発明において、「濃化部面積率」とは、インゴットまたは連続鋳造された鋳片の任意の断面においてP濃度が平均P濃度の2倍を超える偏析部分の占める面積の割合を意味し、また、「偏析スポット径」とは、前記濃化部面積率を測定した断面と同一の断面においてP濃度が平均P濃度の7倍を超える偏析部分が連続する領域ごとにその大きさを測定したときの最大の長さを意味する。さらに、「Pが無害化されたこと」の判断は、濃化部面積率が20%未満であり、かつ偏析スポット径が0.25mm未満であることを指標として行った。
本発明が対象としている「Cを0.10〜0.30質量%、Pを0.005〜0.030質量%含有する、凝固初晶がフェライト相でありかつ固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する鋼」では、その他の合金組成によらず、一次デンドライトアーム間隔S1(μm)はインゴットまたは連続鋳造鋳片の表面からの距離X(mm)に対して、S1=A・Xnの関係が成り立つ。(例えばA=36、n=0.64、非特許文献2)
一般的な連続鋳造法における鋳片の厚さが200〜350mmであることを考慮し、その代表的な鋳片厚において該鋳片の表面からの代表距離を60mmとすると、その場合のS1値はおよそ500μmである。ここで、偏析スポットの最大径はS1値の50%未満とするのが適当なため、鋳片内でのS1値の変化をも考慮して本発明が対象とする鋳片の代表的なS1値が500μmと想定すると、本発明において「Pが無害化されたこと」の判断に用いるべき偏析スポット径の指標は0.25mm未満ということになる。
上記指標を用いて、ミクロ偏析の評価を行うに際して、デンドライト組織の測定視野としては1mm×1mm以上の広さが必要であり、1本の一次デンドライトアーム内で少なくともその領域を20区分程度に区分できる分析分解能が必要となる。そこで、本検討では、後述する実施例を含めて、EPMAによる測定条件を、加速電圧15kV、ビーム電流2〜4μA、ビーム径2μm、移動ステップ距離2μm、空間分解能2μm、分析領域1.8mm×1.2mmとした。
また、本発明において、「固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する鋼」とは、(凝固開始時の晶出相に関わらず)凝固が完了する時に溶鋼から晶出する固相がオーステナイト相である鋼、すなわち、(1)凝固の開始から終了までオーステナイト相(γ相)単相で凝固が進行する鋼、および(2)凝固開始時の初晶はフェライト相(δ相)であるが、凝固途中でフェライト相がオーステナイト相に変態(いわゆる包晶凝固)する鋼の双方を意味する。一般に、オーステナイト相と液相との間では、固相と液相との間でのPの分配係数が小さく、Pの偏析が顕著になる。
以下の説明では、鋼の成分組成についての「質量%」を、単に「%」とも表記する。
本発明の鋼は、固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する鋼であって、P濃度に応じて溶鋼段階でNdが添加され、凝固段階でデンドライト樹間のみにNdおよびPを含有する介在物が晶出し、Pのミクロ偏析が分散されているため、割れ感受性が従来にない低い水準にまで抑制され、耐脆化特性が著しく改善された鋼である。また、本発明の鋼は、一般の脱燐処理とは異なる簡便な方法により、極めて高いPの無害化効果を付与された鋼である。
本発明の鋼は、Cを0.10〜0.30質量%、Pを0.005〜0.030質量%含有する、凝固初晶がフェライト相でありかつ固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する鋼であって、該P含有濃度に応じて下記(1)式の関係を満足する量のNdが添加されたことによって、凝固段階でデンドライト樹間のみにNdおよびPを含有する介在物が晶出し、Pのミクロ偏析が分散されたことを特徴とする鋼である。
2.5×10-4/[P]≦[Nd]<3.5×10-3/[P] ・・・(1)
あるいは、Cを0.10〜0.30質量%、Pを0.005〜0.030質量%含有する、凝固初晶がフェライト相でありかつ固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する鋼であって、さらにOを0.005質量%以下、Sを0.005質量%以下含有し、前記含有P、OおよびS濃度に応じて下記(2)式の関係を満足する量のNdが添加されたことによって、凝固段階でデンドライト樹間のみにNdおよびPを含有する介在物が晶出し、Pのミクロ偏析が分散されたことを特徴とする鋼である。
6×([O]+[S])+1.6×10-4/[P]≦[Nd]≦6×([O]+[S])+2.7×10-3/[P] ・・・(2)
これは、溶鋼の凝固過程における溶質の濃化現象に注目したもので、デンドライト樹間において濃化するPと添加したNdとを化合させて、Pを鋼中に微細に分散させて、無害化するものである。
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
溶鋼に添加するREMは、Nd単体とする。その理由は、Ndは、LaおよびCeと比較して、高温での鉄中における固溶限度が大きく、しかも鉄との共晶点温度が高いため、凝固偏析により濃化して、溶鋼中の溶質Pに対して過剰となっても割れ感受性を高める可能性が低いからである。
NdとPを含有する介在物(以下、「Nd−P系介在物」とも記す)の溶鋼中における晶出形態について説明する。Nd−P系介在物とは、Ndの燐化物を主体とする介在物であり、O、SおよびAlを含有してもよい。Nd−P系介在物の晶出する部位は、デンドライト樹間のみとする。ここで、Nd−P系介在物が晶出を始める時期は、溶鋼の凝固過程で生成する固相率fsが0.11に達したとき以降とする。Nd−P系介在物が晶出する部位をデンドライト樹間のみとする理由は次のとおりである。
固相が生成していない、完全液相の溶鋼中では、Ndの添加によりNdとPとの濃度積が、Ndの燐化物の溶解度積を超えると、両者が反応してNdの燐化物が生成し、Nd−P系介在物が形成される。こうして形成されたNd−P系介在物は、本来は溶鋼から除去すべきものであり、浮上分離させて溶鋼から除去できればNdによって脱燐できたことになる。
しかし、Nd−P系介在物は、比重が溶鋼に近く、溶鋼上面まで浮上しにくいため、特別な処理を施さない限り、溶鋼から分離することは困難である。分離されない場合には、Nd−P系介在物は溶鋼中に浮遊したまま、鋳造の際に鋳片に取り込まれ、粗大化して鋳塊中に残存することとなる。このとき、Nd−P系介在物は、デンドライトの幹および樹間の区別なく、凝固組織に捕捉される。
また、鋳造に至るまでの溶鋼保持中には、Nd−P系介在物の肥大や凝集が生じることもあり、特に液相率が高い状態では、Nd−P系介在物が粗大化しやすい。溶鋼中のNd−P系介在物は、鋼質を低下させる原因となり、連続鋳造時の溶鋼注入用ノズルの閉塞や、溶鋼の清浄度低下をもたらす。したがって、デンドライトの幹が形成されていない段階で、Nd−P系介在物が形成されることは好ましくない。
溶鋼が完全液相である時期には、Nd−P系介在物が晶出せず、かつ晶出する部位をデンドライト樹間のみとするためには、上記(1)式または(2)式を満足するように溶鋼中のP濃度に応じた量のNdを添加する必要がある。
また、凝固過程において最もPのミクロ偏析を低減できるのは、固相率fsが、0.6〜0.9程度のときである。なぜなら、溶質平均濃度は一般に固相率0.6〜0.7付近での固相側凝固界面での溶質濃度であって、この固相率以上での凝固進行部分において溶質の濃化が進むからである。本発明において、固相率fsが0.85を超えてから(すなわち、液相率fL<0.15の段階で)、Nd−P系介在物の晶出が始まっても、それ以前に液相中での溶質の濃化が進んでいるためにPのミクロ偏析の低減効果は得られにくくなるのである。
さらに、デンドライト樹間でのPのミクロ偏析を低減するには、固相率fsが0.3以上0.75以下(すなわち、液相率fLが0.7以下0.25以上)でNdの燐化物を晶出させることが一層好ましい。
その条件は、望ましくは固相率fsが0.3未満(液相率fLが0.7以上)ではNd−P系介在物が生成しないことであるから、
[eff.Nd]fL=0.7・[P]fL=0.7≦3.2×10-3 ・・・(20)
であり、fL=0.7のときにfL-1.57の値が0.7-1.57=1.75であるから、
[Nd]≦6×([O]+[S])+1.8×10-3/[P] ・・・(21)
である。
加えて、望ましくは固相率fsが0.75以下(液相率fLが0.25以上)でNd−P系介在物が生成することであるから、
[eff.Nd]fL=0.25・[P]fL=0.25≧3.2×10-3 ・・・(22)
であり、fL=0.25のときにfL-1.57の値が0.25-1.57=8.82であるから、
[Nd]≧6×([O]+[S])+3.6×10-4/[P] ・・・(23)
である。
このように、Nd−P系介在物をデンドライト樹間でのみ晶出させることにより、デンドライトの幹および樹枝によって、Nd−P系介在物の凝集・肥大による粗大化を阻止することができるとともに、Pのミクロ偏析を分散させることができる。
溶鋼は、Ndを添加する前に予備精錬されている必要がある。Nd添加前の溶鋼が具備しているべき成分の範囲、およびその好ましい組成は以下のとおりである。
C:0.10〜0.30%
この範囲で以下に示す諸成分に関し、所定の成分範囲に予備精錬された諸成分の濃度とそれに応じたNd添加量との関係が、Pのミクロ偏析の分散化に及ぼす効果を確認した。このC濃度範囲では、大概の場合に「凝固初晶がフェライト相でありかつ固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する鋼」であるという基本的な特徴がある。
P:0.005〜0.030%
Pは、本発明において、そのミクロ偏析の分散化を目指す対象成分である。Nd添加によってNd−P系介在物をデンドライト樹間でのみ晶出させるための条件を、この範囲で調査した。
Pは、鋼材の高温延性、耐食性、溶接性などの特性を悪化させる不純物元素であり、その濃度は低いほど好ましい。しかし、現実には、材料特性などの面から固溶P濃度が0.005%未満においてさらに溶解P濃度の低減を必要とすることは殆どないことから、対象とする溶鉄のP濃度を,0.005%以上とすることが好ましい。一方、P濃度が0.030%を超えて高い場合は、本発明の方法では対処することが難しい。また、0.030%までは通常の脱燐処理により容易に低下させることもできる。上記の理由から、P濃度の対象範囲を0.005〜0.030%とした。
O:0.005%以下、S:0.005%以下
OおよびSは、Ndとの反応性がPよりも高いため、OおよびSの溶鋼中での濃度が高すぎると、NdがPと反応する以前にOおよびSとの反応により消費されてしまい、NdによるPとの反応の効果が得られにくくなる。したがって、OおよびSの濃度は、それぞれ、0.005%以下とすることが好ましい。
Al:0.02%〜0.2%
Alは、脱酸作用を有する元素であり、溶鋼中のO濃度を低減させる。したがって、Ndの添加効率を確保するため、すなわちPと化合することが可能なNdを増加させるためにはAlを0.02%以上含有させることが好ましい。一方、Al濃度が0.2%を越えて過剰に添加されても溶鋼中のO濃度はあまり低下しなくなる。更に、連続鋳造に際して、溶鋼中に過剰に含有するAlは鋳型内に添加するモールドパウダーと反応してパウダー成分を変質させ、鋳型と鋳片間の潤滑不良を招く恐れがある。したがって、Al濃度の上限は、0.2%とするのが好ましい。
本発明に係る鋼の効果を確認するため、以下に示す試験を実施して、その結果を評価した。
(実施例1)
〔鋳造方法〕
C、Si、Mn、sol.Al、O、SおよびPの各成分が表1の組成を初期組成とする溶鋼を試験対象とした。本組成の鋼は、凝固初晶がフェライト相でありかつ固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する。予めC、Si、Mn、SおよびPの各成分を表1の組成に調整した母材鋼2kgをAr雰囲気内の高周波誘導炉により溶解した後、金属Alを1g添加して脱酸を行ってsol.AlおよびOを表1の組成に調整し、小型のインゴットに鋳造した。その結果を表2に示す。本発明例のNo.1−1では金属Ndを2g添加し、比較例のNo.1−2では金属Ndは無添加とした。本実施例は、小型のインゴットを用いて冷却速度4℃/sという急冷条件で行った。そのため、デンドライトアーム自体が小さく、偏析スポット径も、後述する実施例2における「一般的なスラブ相当(大型鋳塊)の条件」よりも小さくなっている。
Figure 0005102739
Figure 0005102739
〔評価結果〕
これらのインゴットを切断し、EPMAによる二次元濃度マッピングにより、内部の凝固組織についてPの偏析を評価した。二次元濃度マッピングは、1.8mm×1.2mmの分析領域に対して、加速電圧15kV、ビーム電流2〜4μA、ビーム径2μm、移動ステップ距離2μm、および空間分解能2μmの条件で行った。評価項目は、偏析サイズの指標として、濃化部面積率、デンドライトの樹枝間隔およびPの偏析スポット径を採用し、評価結果は表2に示した。
同表において、濃化部面積率とは、上述したように、インゴットの任意の断面においてP濃度が平均P濃度の2倍を超える偏析部分の占める面積の割合をいう。また、Pの偏析スポット径とは、前記濃化部面積率を測定した断面と同一の断面においてP濃度が平均P濃度の7倍を超える偏析部分が連続する領域ごとにその大きさを測定したときの最大の長さを意味する。
図2は、本発明例であるNo.1−1のインゴット内部の凝固組織についてのEPMAによるPの二次元濃度マッピング結果を示す図である。同図に示すように、本発明例のNo.1−1の凝固組織は、デンドライトの樹間に微細なNd−P系介在物が晶出した、樹間の偏析幅が小さい組織であり、濃化部面積率は、わずか17%であった。また、Pのミクロ偏析は、主として5μm程度以下のNd−P系介在物の分散により形成されていた。
さらに、一次デンドライトアーム間隔の平均値は180μmであったのに対して、偏析スポット径は最大でもそのアーム間隔の50%未満の80μmに留まっていた。このように、本発明例のNo.1−1の凝固組織は、濃化部面積率が20%未満であり、かつ偏析スポット径が一次デンドライトアーム間隔の50%未満であるという、「Pが無害化されていることの条件」を満たしていた。
一方、図3は、比較例であるNo.1−2のインゴット内部の凝固組織についてのEPMAによるPの二次元濃度マッピング結果を示す図である。図3に示すように、デンドライト樹間には、明らかに広い帯状のPの濃化領域が観察され、濃化部面積率は、28%であった。また、ミクロ偏析が点在しており、一次デンドライトアーム間隔の平均値(220μm)の2倍を超える、長さ500μm以上、幅1000μm以上の粗大なものも多く観察され、Pの著しい偏析が認められた。
(実施例2)
〔鋳造方法〕
下記の表3に示す成分組成に調製した鋼をそれぞれ1000kg溶解し、溶鋼温度を1565℃に調整した。これらの溶鋼を、鋳型内寸法が幅400mm×厚さ300mm×高さ1000mmの鋳型に注湯し、冷却速度0.2℃/sにて冷却し、インゴットを得た。この冷却速度0.2℃/sという条件は、一般的な連続鋳造法における鋳片サイズ(幅400〜2500mm、厚さ200〜350mm)の中心部付近の冷却速度に相当する。なお、表3に記載する鋼はいずれも、凝固初晶がフェライト相でありかつ固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する。
Figure 0005102739
〔評価結果〕
このインゴットの鋳造組織を調査した結果を表3に成分組成と併せて示す。同表において、Nd−P系介在物の欄の溶鋼中とは、完全液相の溶鋼におけるNd−P系介在物の晶出の有無を示し、樹間とは、デンドライトの樹間におけるNd−P系介在物の晶出の有無を示す。[eff.Nd]は、溶鋼中のOおよびSの濃度を考慮して求められる、溶鋼中でPと反応可能なNd量(有効Nd濃度)であり、前記の(7)式または(8)式により算出したものである。
表3において、[Nd]は総Nd濃度[tot.Nd]を意味する。さらに、(1)式の満足性または(2)式の満足性の欄における○印は、(1)式または(2)式の関係を満足することを示し、×印は、(1)式または(2)式の関係を満足しないことを示す。
そして、Pのミクロ偏析分散の欄における○印は、Pのミクロ偏析が分散されていることを、また×印は、分散されていないことを示す。ここで、Pのミクロ偏析が分散されているとは、溶鋼中で長さが10μmを超える粗大な燐化物が生成しておらず、かつP濃度が平均P濃度の7倍を超えるPの偏析スポット径の最大値が一次デンドライトアーム間隔の50%未満に分散されていることを意味する。
表3の結果からわかるように、本発明例であるNo.2−1〜2−4では、総Nd濃度および有効Nd濃度はともに、前記(1)式および(2)式を満足する値であり、デンドライト樹間においてNd−P系介在物の存在が確認されるとともに、Pのミクロ偏析が分散され、Pが無害化されていることも確認された。
本発明例であるNo.2−5および2−6では、総Nd濃度が前記(1)式を満足する値であり、デンドライト樹間においてNd−P系介在物の存在が確認されるとともに、Pのミクロ偏析が分散され、Pが無害化されていることも確認された。
一方、比較例であるNo.2−7では、デンドライト樹間におけるNd−P系介在物の存在は確認されたものの、濃度積の値が(1)式および(2)式のいずれをも満たさず、溶鋼中で晶出したものと考えられる長さが10μmを超える粗大なNd−P系介在物の存在も同時に確認された。
比較例であるNo.2−8〜2−11では、Nd濃度が低いため、[eff.Nd]が0となり、デンドライト樹間におけるNd−P系介在物の存在は確認できず、Pの粗大なミクロ偏析が残存していることが確認された。
本発明の鋼は、固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する鋼であって、P濃度に応じて溶鋼段階でNdが添加され、凝固段階でデンドライト樹間のみにNdおよびPを含有する介在物が晶出し、Pのミクロ偏析が分散されているため、割れ感受性が従来にない低い水準にまで抑制され、耐脆化特性が著しく改善された鋼である。また、本発明の鋼は、一般の脱燐処理とは異なる簡便な方法により、極めて高いPの無害化効果を付与された鋼である。したがって、本発明の鋼は、高い生産性と経済性とを具備し、高温延性、耐食性、溶接性などの特性に優れた鋼として広範に利用できる。
熱力学計算ソフトThermoCalcおよび熱力学データベースSSOL4を用いて作成したFe−Nd二元系の計算状態図を示し、(a)は全体図、(b)はFe側高温部の部分拡大図を表す。 本発明例のNo.1−1のインゴット内部の凝固組織についてのEPMAによるPの二次元濃度マッピング結果を示す図である。 比較例のNo.1−2のインゴット内部の凝固組織についてのEPMAによるPの二次元濃度マッピング結果を示す図である。

Claims (3)

  1. Cを0.10〜0.30質量%、Pを0.005〜0.030質量%含有する、凝固初晶がフェライト相でありかつ固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する鋼であって、該P含有濃度に応じて下記(1)式の関係を満足する量のNdが添加されたことによって、Pのミクロ偏析が分散されたことを特徴とする鋼。
    2.5×10-4/[P]≦[Nd]<3.5×10-3/[P] ・・・(1)
    ここで、[P]および[Nd]は、それぞれ溶鋼中におけるPおよびNdの濃度(質量%)を表す。
  2. Cを0.10〜0.30質量%、Pを0.005〜0.030質量%含有する、凝固初晶がフェライト相でありかつ固相線温度でオーステナイト相にて凝固を完了する鋼であって、さらにOを0.005質量%以下、Sを0.005質量%以下含有し、前記含有P、OおよびS濃度に応じて下記(2)式の関係を満足する量のNdが添加されたことによって、Pのミクロ偏析が分散されたことを特徴とする鋼。
    6×([O]+[S])+1.6×10-4/[P]≦[Nd]≦6×([O]+[S])+2.7×10-3/[P] ・・・(2)
    ここで、[O]、[S]、[P]および[Nd]は、それぞれ溶鋼中におけるO、S、PおよびNdの濃度(質量%)を表す。
  3. 請求項1または請求項2に記載の鋼を連続鋳造法によって製造する際に得られる連続鋳造鋳片であって、
    前記連続鋳造鋳片の任意の断面において、
    P濃度が前記含有P濃度の2倍を超える偏析部分の面積が、該断面の全断面積に対して20%未満であって、かつ、
    P濃度が前記含有P濃度の7倍を超える偏析部分が連続する領域ごとにその大きさを測定したとき、前記各領域の最大の長さが0.25mm未満であること
    を特徴とする、ミクロ偏析が分散された連続鋳造鋳片。
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