JP5102547B2 - 絶縁電線及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、導体と絶縁皮膜との密着性を向上させた絶縁電線及びその製造方法に関する。
近年、世界的な省エネルギー政策の推進に伴い、高効率モータの開発が進んでいる。モータの高効率化に効果的なのは、スロット部に挿入するエナメル線の占積率を向上させることである。一方、スロット部に挿入するとき、エナメル線は大きな機械的力を受けるため、絶縁皮膜に傷が発生しやすくなる。この問題を解決するため、例えば、絶縁皮膜表面の滑り性を向上させること、および、絶縁皮膜と導体の密着性を向上させることなどが効果的である。
従来、密着性を向上させる手段の例として、シランカップリング剤を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
特開2001−93340号公報 特開2001−256835号公報 特開平10−88104号公報
従来のシランカップリング剤としては、例えば、メルカプトアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、エポキシアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、アリルアルコキシシランなどが挙げられる。
しかしながら、従来のシランカップリング剤では、初期(常温)での密着性向上には効果があるが、熱劣化後は密着性の低下が大きいという問題点があった。
例えば、モータ作製時、処理ワニスを硬化させる際に、150〜160℃で数時間加熱する場合があり、このような場合、熱劣化後の密着性が重要となる。
そこで、本発明の目的は、上記の従来技術の問題点を解決し、初期の密着性が良好で、かつ熱劣化後における密着性の低下が少ない絶縁電線及びその製造方法を提供することにある。
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、導体の外周に、アゾールシラン化合物からなる皮膜が被覆されており、その皮膜の外周に、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリウレタンのいずれかを含む樹脂組成物からなるエナメル塗料を塗布、焼付して絶縁皮膜が被覆されており、上記アゾールシラン化合物は、アゾール環とアルコキシシリル基、またはアゾール環とベンゼン環の縮合環とアルコキシシリル基とを1分子中に有するイミダゾールシラン、ベンズイミダゾールシラン、ベンゾトリアゾールシランまたはそれらの誘導体から選択された1種以上の化合物である絶縁電線である。
請求項の発明は、導体の外周に絶縁体を設けた絶縁電線の製造方法において、導体の外周に、アゾール環とアルコキシシリル基、またはアゾール環とベンゼン環の縮合環とアルコキシシリル基とを1分子中に有するイミダゾールシラン、ベンズイミダゾールシラン、ベンゾトリアゾールシランまたはそれらの誘導体から選択された1種以上の化合物であるアゾールシラン化合物からなる皮膜を形成し、その皮膜の外周に、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリウレタンのいずれかを含む樹脂組成物からなるエナメル塗料を塗布、焼付して絶縁皮膜を被覆する絶縁電線の製造方法である。
請求項の発明は、上記導体の外周に、上記アゾールシラン化合物を水またはアルコールからなる溶剤に溶解させたアゾールシラン溶液を塗布し、その後加熱乾燥して上記溶剤を除去する請求項に記載の絶縁電線の製造方法である。
請求項の発明は、上記アゾールシラン溶液を吸液性材に吸収させ、その吸液性材を上記導体に接触させて塗布する請求項に記載の絶縁電線の製造方法である。
本発明によれば、導体と絶縁皮膜の密着性(初期および熱劣化後とも)に優れた絶縁電線を提供できる。
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態を示す絶縁電線の横断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る絶縁電線1は、導体2の外周に、アゾールシラン化合物をコーティングして形成したアゾールシラン化合物皮膜3が設けられ、そのアゾールシラン化合物皮膜3の外周に、エナメル樹脂皮膜4が設けられたものである。
アゾールシラン化合物は、アゾール環とアルコキシシリル基とを、またはアゾール環とベンゼン環の縮合環とアルコキシシリル基とを1分子中に有するものである。
ここで、アゾール環またはアゾール環とベンゼン環の縮合環は、硬化促進作用、防錆作用などを付与する。一方、アルコキシシリル基は、加水分解によってシロキサン結合を生じることにより、無機材料(導体2)と有機材料(エナメル樹脂皮膜4)との密着性を向上させる。さらに、シロキサンネットワークを形成することによって耐熱性・耐湿性も付与する。
エナメル樹脂皮膜4は、ポリエステルイミド、あるいはポリアミドイミド、あるいはポリイミド、あるいはポリエステル、あるいはポリウレタンを含む樹脂組成物からなるエナメル塗料をアゾールシラン化合物皮膜3の周囲に塗布し、焼付硬化したものである。
アゾールシラン化合物は、イミダゾールシラン、ベンズイミダゾールシラン、ベンゾトリアゾールシランまたはそれらの誘導体から選択された1種以上の化合物であるとよい。
次に、本実施形態に係る絶縁電線1の製造方法を説明する。
絶縁電線1の製造方法は、まず、導体2の外周に、アゾールシラン化合物をコーティングしてアゾールシラン化合物皮膜3を形成する。
シラン化合物は一般に希釈して用いる。アゾールシラン化合物は、水またはアルコールに溶解するので、好ましくは、水またはアルコールなどの溶剤に溶解させ、アゾールシラン溶液として用いるとよい。
アゾールシラン溶液を導体2表面に塗布した後、これを加熱乾燥して溶剤を除去することによりアゾールシラン化合物皮膜3が得られる。
ここで、導体2表面へのアゾールシラン溶液の塗布方法としては、アゾールシラン溶液をフェルト等の吸液性材に吸収させ、その吸液性材を上記導体に接触させて塗布するとよい。ただし、これに限定されず、ダイス塗装、刷毛塗り、噴霧などにより塗布してもよいし、導体2をアゾールシラン溶液に浸漬させてもよい。
アゾールシラン化合物皮膜3を形成した後、ポリエステルイミド、あるいはポリアミドイミド、あるいはポリイミド、あるいはポリエステル、あるいはポリウレタンを含む樹脂組成物からなるエナメル塗料を塗布し、焼付けすると、絶縁電線1が得られる。
本実施形態に係る絶縁電線1の作用を説明する。
本実施形態に係る絶縁電線1は、導体2の外周に、アゾールシラン化合物をコーティングしてアゾールシラン化合物皮膜3が被覆され、その外周に、ポリエステルイミド、あるいはポリアミドイミド、あるいはポリイミド、あるいはポリエステル、あるいはポリウレタンを含む樹脂組成物からなるエナメル塗料を塗布、焼付してエナメル樹脂皮膜4が被覆されて、構成されている。
アゾールシラン化合物は硬化促進作用、耐熱性、耐湿性などを付与するため、従来のシランカップリング剤を用いた場合と比較して、導体2とエナメル樹脂皮膜4との初期(常温)での密着性および熱劣化後の密着性がともに向上する。このため、例えば、高温での処理が必要なモータなどに絶縁電線1を用いるとき、その信頼性を向上することができる。同様の理由により、自動車、電車、電気機器などにも有用である。
導体2は、共通に、直径1mmの銅線を用いた。
アゾールシラン化合物は、イミダゾールシランを用いた。このイミダゾールシランを2wt%メタノール溶液に溶解させ、その溶液に導体2を浸漬した後、メタノールを乾燥・除去した。イミダゾールシラン化合物の分子構造を以下に示す。
Figure 0005102547
比較する従来のシランカップリング剤として、代表的メルカプトシランである、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを用いた。これも同様に2wt%のメタノール溶液に溶解させ、その溶液に導体2を浸漬した後、メタノールを乾燥・除去した。
絶縁電線1の密着性評価は、以下の方法に従って実施した。
絶縁電線1の直線状サンプルを同軸上で250mm離れた2つのクランプに固定し、サンプルの長さ方向に平行な2辺の皮膜を導体2に達するまで取り除く。その後、常温において、一方のクランプを回転させ、皮膜が浮いた時点の回転回数を測定することにより初期の密着性を得た。
熱劣化後の密着性は、直線状サンプルを160℃の恒温槽中で6時間加熱した後、初期と同様の方法にて皮膜が浮いた時点の回転回数を測定したものである。
(実施例1)
導体2に、イミダゾールシラン化合物を表面処理し、その外周に、ポリエステルイミド塗料を皮膜厚30μmとなるように塗布および焼付けした。しかる後に、初期および熱劣化後の密着性を評価した結果、初期が90回、熱劣化後が86回と、ともに優れていた。
(実施例2)
導体2に、イミダゾールシラン化合物皮膜を表面処理し、その外周に、ポリアミドイミド塗料を皮膜厚30μmとなるように塗布および焼付けした。しかる後に、初期および熱劣化後の密着性を評価した結果、初期が60回、熱劣化後が55回と、ともに優れていた。
(比較例1)
導体に、ポリエステルイミド塗料を皮膜厚30μmとなるように塗布および焼付けした。しかる後に、初期および熱劣化後の密着性を評価した結果、初期が81回、熱劣化後が82回であった。
(比較例2)
導体に、メルカプトシラン化合物皮膜を表面処理し、その外周に、ポリエステルイミド塗料を皮膜厚30μmとなるように塗布および焼付けした。しかる後に、初期および熱劣化後の密着性を評価した結果、初期が93回と優れていたが、熱劣化後が44回と、非常に劣っていた。
(比較例3)
導体に、ポリアミドイミド塗料を皮膜厚30μmとなるように塗布および焼付けした。しかる後に、初期および熱劣化後の密着性を評価した結果、初期が49回、熱劣化後が51回であった。
(比較例4)
導体に、メルカプトシラン化合物皮膜を表面処理し、その外周に、ポリアミドイミド塗料を皮膜厚30μmとなるように塗布および焼付けした。しかる後に、初期および熱劣化後の密着性を評価した結果、初期が62回と優れていたが、熱劣化後が31回と、非常に劣っていた。
実施例1、2および比較例1〜4の実験結果をまとめて表1に示す。
Figure 0005102547
表1より、実施例1、2の絶縁電線1は、比較例1〜4の絶縁電線と比較して初期密着性および熱劣化後の密着性が高いことが確認できた。
本発明の好適な実施形態を示す絶縁電線の横断面図である。
符号の説明
1 絶縁電線
2 導体
3 アゾールシラン化合物皮膜
4 エナメル樹脂皮膜

Claims (4)

  1. 導体の外周に、アゾールシラン化合物からなる皮膜が被覆されており、その皮膜の外周に、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリウレタンのいずれかを含む樹脂組成物からなるエナメル塗料を塗布、焼付して絶縁皮膜が被覆されており、上記アゾールシラン化合物は、アゾール環とアルコキシシリル基、またはアゾール環とベンゼン環の縮合環とアルコキシシリル基とを1分子中に有するイミダゾールシラン、ベンズイミダゾールシラン、ベンゾトリアゾールシランまたはそれらの誘導体から選択された1種以上の化合物であることを特徴とする絶縁電線。
  2. 導体の外周に絶縁体を設けた絶縁電線の製造方法において、導体の外周に、アゾール環とアルコキシシリル基、またはアゾール環とベンゼン環の縮合環とアルコキシシリル基とを1分子中に有するイミダゾールシラン、ベンズイミダゾールシラン、ベンゾトリアゾールシランまたはそれらの誘導体から選択された1種以上の化合物であるアゾールシラン化合物からなる皮膜を形成し、その皮膜の外周に、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリウレタンのいずれかを含む樹脂組成物からなるエナメル塗料を塗布、焼付して絶縁皮膜を被覆することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
  3. 上記導体の外周に、上記アゾールシラン化合物を水またはアルコールからなる溶剤に溶解させたアゾールシラン溶液を塗布し、その後加熱乾燥して上記溶剤を除去する請求項に記載の絶縁電線の製造方法。
  4. 上記アゾールシラン溶液を吸液性材に吸収させ、その吸液性材を上記導体に接触させて塗布する請求項に記載の絶縁電線の製造方法
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