JP3369795B2 - F種の回転電気装置 - Google Patents

F種の回転電気装置

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、F種(155℃)絶縁
に適合する回転電気装置に係り、特に,巻線部に耐摩耗
性の自己潤滑性エナメル線を用い、対地間絶縁物,相間
絶縁物として2種の有機絶縁物を貼合わせた絶縁シート
用い、さらに耐熱性に優れた絶縁ワニスを用いた回転電
気装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ステータを保持するハウジングと、ロー
タを有する回転電気装置のステータの鉄心スロット内に
乱巻巻線が収納された回転電気装置の従来のF種絶縁巻
線構造の一例について説明する。
【0003】図1に示すように、鉄心1の半閉スロット
2内に、例えば、全芳香族ポリアミド(duPont社
製:Nomex)単体、または、ポリエチレンテレフタ
レート(PET)シート等で構成された断面がほぼU字
形を成すスロット絶縁物3を設け、このスロット絶縁物
3内に、エステルイミド線、または、ポリエステルアミ
ドイミド線等の合成樹脂エナメル線を用いて構成された
乱巻の巻線4を収納し、その上部にNomex等の断面
がほぼ円弧状に形成した絶縁クサビ5を打込み、巻線4
の固定と、ステータ鉄心1との間の絶縁処理を行い、ス
テータ部を作製する。また、打抜きけい素鋼板からなる
ロータの鉄心を用いたアルミダイカスト製のロータ部を
作製する。
【0004】次に、加熱して膨張させた鋳物製のハウジ
ングの内側に、前記のステータ部を挿入し、焼きばめを
行い、さらに前記ロータ部を組込んで回転電気装置を完
成する。
【0005】前記の巻線4は、スチレン、トルエン、キ
シレン等の有機溶剤を含む溶剤型絶縁ワニス、または、
無溶剤型絶縁ワニスを浸漬含浸処理し、スロット2の内
部および巻線端部分(図示省略)に絶縁ワニス10を含
浸し、加熱硬化させて一体に固着形成されている。
【0006】特開昭59−4002号,特開昭59−4
003号,特開昭59−63944号公報には、絶縁シ
ートと水溶性絶縁ワニスとを組合せて、汎用モートル用
のF種絶縁の電気巻線が開示されている。
【0007】しかし、特開昭59−4002号公報は、
絶縁シートとしてポリエステルシートと四ふっ化エチレ
ンシートの貼合わせたものを、また、特開昭59−40
03号公報は、ポリエステルシートとポリプロピレンシ
ートの貼合わせたものを使用し、また、特開昭59−6
3944号公報は、ポリエステルシートにアラミド樹脂
を塗布,焼付けした絶縁シートを用いている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】前記従来技術はいづれ
も水溶性絶縁ワニスを用いることを特徴にしており、加
熱硬化に長時間を要すること、および、硬化後に水分が
残存する恐れがあり、特に、密閉型モートルにおいて問
題となる。
【0009】回転電気装置の小型軽量化によるコイル占
積率(巻線の断面積とスロット断面積の比)の向上やコ
イルエンドにおける曲率の向上に伴い、図1の絶縁構成
においてはエナメル線の滑りが悪いと、コイル巻線時に
スロット部で擦られ易く、また、コイルの高占積率化に
伴いエナメル線が挿入しにくく、損傷も大きいと云う問
題があった。
【0010】また、絶縁物がNomexシート単体の場
合、耐熱的には問題はないが、剛性が比較的低いために
スロット内への機械挿入性が悪く、材料コストが高いと
云う問題があった。また、PETシートの場合は、スロ
ット内への機械挿入性はよいが耐熱性はB種絶縁が限界
である。
【0011】本発明の目的は、耐熱性自己潤滑性のエナ
メル線と、F種絶縁の耐熱性を満足し、かつ、スロット
内への機械挿入性のよい絶縁シートを用い、さらに耐熱
性、耐クラック性が良好で、しかもエナメル線との相性
がよく、接着強度が良好な絶縁ワニスを用いたF種絶縁
に適合する回転電気装置を提供することにある。
【0012】本発明の他の目的は、ハウジングがアルミ
合金ダイカストの上記F種絶縁に適合する回転電気装置
を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成する本発
明の要旨は次のとおりである。
【0014】ステータを保持するハウジングと、ロータ
を有する回転電気装置において、巻線部が自己潤滑性エ
ナメル線により構成され、前記巻線部の対地間および相
間の絶縁がポリエチレン−2,6−ナフタレート(以下
PENと称す)フィルムと芳香族ポリアミド不織布とを
貼合わせた絶縁シート、または、ポリエチレンテレフタ
レート(以下PETと称す)フィルムの両面にポリフェ
ニレンスルフィド(以下PPSと称す)フィルムを貼合
わせた絶縁シートで絶縁されており、前記巻線部および
絶縁シートが含浸,硬化した絶縁ワニス硬化物で保持さ
れている回転電気装置。
【0015】前記PENフィルムと芳香族ポリアミド不
織布とを貼合わせた絶縁シートの厚さが0.05〜0.3
5mmで、かつ、PENフィルムが全体の厚さの64〜
82%の膜厚を有するものが望ましい。
【0016】また、前記PETフィルムの両面にPPS
フィルムを貼合わせた絶縁シートの厚さが0.05〜0.
35mmで、かつ、PPSフィルムの両面の厚さが全体
の厚さの20〜45%であるものが望ましい。
【0017】前記絶縁ワニスとしては、耐クラック性が
良好でエナメル線との相性がよく、接着強度が良好な絶
縁ワニスを含浸し加熱硬化処理をすることによってF種
絶縁にも適用し得るもので、例えば、不飽和ポリエステ
ル樹脂または不飽和エポキシエステル樹脂の絶縁ワニス
が望ましい。また、前記絶縁ワニスは、その硬化物のガ
ラス転移温度が120℃以下、線膨張係数が7.0×1
0~5/℃以下で、かつ、室温における初期弾性率が10
0〜350kg/mm2のものが望ましい。
【0018】自己潤滑性エナメル線としては、特に、限
定されないが、耐熱性、耐薬品性、表面滑性、または、
耐摩耗性に優れスロット内への機械挿入性の優れたF種
絶縁に適合するものがよい。
【0019】また、前記ステータを保持するハウジング
がアルミ合金ダイカストで構成されているものがよい。
【0020】
【作用】エナメル線として前記自己潤滑性エナメル線を
用いたことにより、エナメル線皮膜の損傷が少なく、耐
熱性とコストを両立することができる。
【0021】PENと芳香族ポリアミド不織布とを貼合
わせた絶縁シート、または、PETの両面にPPSを貼
合わせた絶縁シートを用いことにより、これらの剛性が
PETとほぼ同等となるため、PET並みのスロット内
への機械挿入性が得られる。
【0022】また、前記の絶縁シートは、いずれも前記
絶縁ワニスとの相性がよく、熱劣化による特性の低下が
少ない。これは初期的には、絶縁シートが絶縁ワニス中
のスチレン等に対する耐薬品性がよく、しかも、PEN
フィルムと芳香族ポリアミド不織布とを貼合わせた絶縁
シートの場合、芳香族ポリアミド不織布により耐熱性が
保持され、PENフィルムが全体の剛性を向上して機械
挿入性が向上する。
【0023】また、PETフィルムの両面にPPSフィ
ルムを貼合わせた絶縁シートの場合、PETをPPSで
サンドイッチしたことで、PPS単独では小さい引き裂
き強度が改善され、また、PETへの酸素の供給を遮断
して熱劣化を抑制することができる。これらによって、
絶縁シート全体としてF種絶縁の耐熱性を満足するもの
が得られるものと考える。
【0024】また、回転電気装置の固定子巻線に働く機
械力の中で、特に重要な運転時のストレスを考えると、
ヒートサイクルによる応力と電磁力が挙げられる。ヒー
トサイクルによる劣化は絶縁層と導体の熱膨張の差に起
因する。また、電磁力による絶縁層の摩耗、剥離等があ
るが通常運転時の電磁振動が考えられる。
【0025】前記ストレスに対しては、絶縁ワニスとし
て、高接着強度、耐クラック性、耐薬品性等が優れた不
飽和エポキシエステル樹脂または不飽和ポリエステル樹
脂を使用することにより満足するものを提供できる。
【0026】絶縁ワニス硬化物の線膨張係数を7.0×
10~5/℃以下、さらに室温における初期弾性率を10
0〜350kg/mm2、かつ、ガラス転移温度が12
0℃以下のものを選択することにより、絶縁ワニスで処
理された巻線のヒートサイクル中に発生する熱応力を、
より低減することができ、F種絶縁の耐熱性を達成する
ことができる。
【0027】従来の回転電気装置のハウジングは鋳鉄製
であるが、アルミ合金ダイカスト製ハウジングは鋳鉄製
のものより熱放散性(熱伝導率)がよいため、同じF種
絶縁材料を用いてもよりコンパクトな絶縁で対応できる
ので、鋳鉄製ハウジングより一段小さなグレードのハウ
ジングでよいので、ハウジングの小型化を図ることがで
きる。
【0028】また、ダイカスト製法によれば、設計値通
りの薄肉および厚肉の部分を精度よく形成できるので、
機械加工等もあまり必要とせず、製造工程の短縮を図る
ことが可能である。しかもアルミ合金は鋳鉄に比べて比
重が小さいため軽量化を計ることができる。
【0029】
【実施例】
〔実施例 1〕図1に本発明における回転電気装置のハ
ウジングに挿入されるステータのスロット部の断面模式
図を示す。また、図2に本実施例で用いた絶縁シート1
1の断面構成図を示す。
【0030】膜厚125μmのPENフィルム12の片
面に、厚さ50μmの芳香族ポリアミド不織布13を貼
合わせた絶縁シート11をほぼU字形に成形し、スロッ
ト絶縁物3としてスロット2内に設ける。
【0031】上記スロット絶縁物3の内部に、自己潤滑
性アミドイミドオーバーコートエステルイミド線(日立
電線製:1AI−EIW−E)からなる巻線4を挿入
し、さらに、上記絶縁シート11を断面ほぼ円弧状に成
形してなる絶縁クサビ5を打ち込み、スロット2内部お
よび巻線端部分へ不飽和エポキシエステルワニス(日東
電工製:NV−5502)10を含浸処理した後、10
0〜160℃で加熱硬化させて鉄心1との間を一体に固
着しステータを作製した。
【0032】次いで、打ち抜きけい素鋼板からなるロー
タの鉄心をアルミダイカスト製法により作製し、これを
加熱(120〜250℃),膨張させた鋳物製ハウジン
グの内側に挿入することにより焼き嵌めし、さらに上記
ロータ部を組み込んで回転電気装置を完成した。
【0033】また、前記スロット絶縁シート11(12
5μmのPENフィルム12の片面に50μmの芳香族
ポリアミド不織布13を貼り合わた構成)を上記の回転
電気装置の作製条件と同じ条件で絶縁ワニス処理を施
し、引張り試験用の試験片を作製した。
【0034】上記絶縁シート11の引張り強度の劣化特
性を図4の特性Aとして、また、各劣化温度における初
期の引張り強度の50%になるまでの時間を寿命とした
時のアレニウスプロットを同じく特性Aとして図6に示
す。
【0035】図4の特性Aに示すように、後述の比較例
1と比べて強度低下が著しく改善され、図6の2万時間
に相当する耐熱温度は155℃以上で十分F種絶縁の耐
熱性を有することが確認された。
【0036】なお、絶縁シートの引張試験は、幅15m
m×長さ200mmの試験片を、島津製作所製DSS−
5000型オートグラフを用い、チヤック間距離100
mm,引張速度200mm/分で行なった。また、劣化
試験は、熱風循環式恒温槽内に試験片を吊り下げ、所定
時間経過後取り出し、上記引張試験を行った。なお、引
張試験は25℃における5本の試験片の平均値で示し
た。
【0037】〔実施例 2〕膜厚175μmのPENフ
ィルムを用いた他は実施例1と同様にしてステータ部を
作製した。また、不飽和エポキシエステルワニス(日東
電工製:NV−5502)を処理硬化した絶縁シートの
引張り強度の劣化特性を図4特性Bに示す。
【0038】また、各劣化温度における初期の引張り強
度の50%になるまでの時間を寿命とした時のアレニウ
スプロットを同じく特性Bとして図6に示す。
【0039】図4の特性Bに示すように、後述の比較例
1と比べて強度低下が改善され、図6の2万時間に相当
する耐熱温度は155℃以上で十分F種絶縁の耐熱性を
有することが確認された。
【0040】〔実施例 3〕 本実施例で用いた絶縁シート18の断面図を図3に示
す。膜厚188μmのPETフィルム19の両面に50
μmのPPSフィルム20を貼合わせた絶縁シート18
をスロット絶縁物3として用いた他は、実施例1と同様
にして作製した試験片を用いて測定した引張り強度の劣
化特性を図5の特性Dに示す。また、各劣化温度におけ
る初期の引張り強度の50%になるまでの時間を寿命と
した時のアレニウスプロットを図6の特性Dに示す。
【0041】図5の特性Dから分かるように後述の比較
例2と比べて強度の低下が著しく改善され、図6の2万
時間に相当する耐熱温度は155℃以上あり、十分F種
絶縁の耐熱性を有することが確認された。
【0042】〔実施例 4〕188μmのPETフィル
ム19の両面に38μmのPPSフィルム20を貼合わ
せた絶縁シート18をスロット絶縁物3として用いた他
は、実施例1と同様にして作製した絶縁シートの引張り
強度の劣化特性を図5の特性Eに示す。また、各劣化温
度における初期の引張り強度の50%になるまでの時間
を寿命とした時のアレニウスプロットを図6の特性Eに
示す。
【0043】図5の特性Eから分かるように後述の比較
例2と比べて強度の低下が改善され、図6の2万時間に
相当する耐熱温度は155℃以上であり、十分F種絶縁
の耐熱性を有することが確認された。
【0044】〔実施例 5〕188μmのPETフィル
ム19の両面に25μmのPPSフィルム20を貼合わ
せた絶縁シート18をスロット絶縁物3として用いた他
は、実施例1と同様にして作製した絶縁シートの引張り
強度の劣化特性を図5の特性Fに示す。また、各劣化温
度における初期の引張り強度の50%になるまでの時間
を寿命とした時のアレニウスプロットを図6の特性Fと
して示す。
【0045】図5の特性Fから分かるように後述の比較
例2と比べて強度の低下が改善され、図6の2万時間に
相当する耐熱温度では155℃以上であり、十分F種絶
縁の耐熱性を有することが確認された。
【0046】〔比較例 1〕260μmのPENフィル
ムをスロット絶縁物として用いた他は、実施例1と同様
にして作製した絶縁シートの引張り強度の劣化特性を図
4の特性Cに示す。また、各劣化温度における初期の引
張り強度の50%になるまでの時間を寿命とした時のア
レニウスプロットを図6の特性Cに示す。
【0047】図4の特性Cから分かるように強度の低下
が大きく、図6の2万時間に相当する耐熱温度は140
℃となりF種絶縁の耐熱性を有していないことが確認さ
れた。
【0048】〔実施例 6〕188μmのPETフィル
ムの両面に16μmのPPSフィルム20を貼合わせた
絶縁シート18をスロット絶縁物3として用いた他は、
実施例1と同様にして作製した絶縁シートの引張り強度
の劣化特性を図5の特性Gに示す。また、各劣化温度に
おける初期の引張り強度の50%になるまでの時間を寿
命とした時のアレニウスプロットを図6の特性Gに示
す。
【0049】図5の特性Gから分かるように強度の低下
が前記実施例1〜5に比べてやや大きく、図6の2万時
間に相当する耐熱温度は149℃でありF種絶縁の耐熱
性にはいくぶん低いことが確認された。
【0050】これはPETフィルムの両面に貼合わせた
PPSフィルムの厚さが16μmと薄いために、熱劣化
時に内部のPETフィルムへの酸素の拡散を十分に遮断
することができなかったためと思われる。
【0051】〔実施例 7〕図1のスロット2内部およ
び巻線端部へ含浸硬化する絶縁ワニスを不飽和ポリエス
テルワニス(日立化成工業製:WP−435H)に変更
した他は、実施例1と同様にして作製した絶縁シートの
引張り強度の劣化特性を測定した。
【0052】本実施例の引張り強度は、各劣化温度にお
いて比較例1より明かに低下が少なく、各劣化温度にお
ける引張り強度が初期値の50%になるまでの時間を寿
命とし、アレニウスプロットにより求めた2万時間の耐
熱温度は157℃であった。
【0053】〔実施例 8〕図1のスロット2内部およ
び巻線端部へ含浸硬化する絶縁ワニスを不飽和ポリエス
テルワニス(日立化成工業製:WP−435H)を用い
た他は、実施例3と同様に作製した絶縁シートの引張り
強度の劣化特性を検討した。
【0054】本実施例の引張り強度は、各劣化温度にお
いて比較例1より明らかに低下が少なく、各劣化温度に
おける引張り強度が、初期値の50%になるまでの時間
を寿命とし、アレニウスプロットにより求めた2万時間
の耐熱温度は158℃であった。
【0055】〔実施例 9〕絶縁ワニスで処理した巻線
導体のヒートサイクル中に発生する熱応力を測定するた
めに、自己潤滑性アミドイミドオーバーコートエステル
イミド線(日立電線製:1AI−EIW−E)でバイフ
ァラーコイルを作製し、これに不飽和エポキシエステル
ワニス(日東電工製:NV−5502)を含浸処理し、
150℃で2時間硬化した。
【0056】このバイファラーコイルを155℃/2時
間⇔−40℃/2時間を1サイクルとするヒートサイク
ル試験を行った。その結果、すべてのバイファラーコイ
ルにクラックの発生は認められなかった。
【0057】これとは別に、上記と同一の硬化条件でN
V−5502により樹脂板を作製した。樹脂板は機械加
工し、8mm角で長さ15mmの試験片Aを、また幅4
mm×厚さ1mm×長さ35mmの試験片Bを作製し
た。真空理工製熱物理試験装置TMA−3000型を用
い、試験片Aのガラス転移温度(Tg)とTg以下の線
膨張係数(α)を、また、レオロジー製粘弾性測定装置
DVE−V4型を用いて試験片Bの室温の引張り弾性率
を求めた。
【0058】本実施例の樹脂硬化物のTgは115℃,
αは6.9×10~5/℃、室温における引張り弾性率は
345kg/mm2であった。
【0059】〔実施例 10〕バイファイラーコイルに
浸漬含浸処理する絶縁ワニスとして不飽和ポリエステル
ワニス(日立化成工業製:WP−435H)を用い、1
20℃で3時間硬化した他は、実施例9と同様にしてバ
イファイラーコイルを作製し、ヒートサイクル試験、T
g、αおよび室温の引張り弾性率を測定した。ヒートサ
イクル試験の結果は良好であり、Tgは66℃、αは
5.8×10~5/℃、室温の引張り弾性率は105kg
/mm2であった。
【0060】〔比較例 2〕バイファイラーコイルに浸
漬含浸処理する絶縁ワニスとして無水酸硬化エポキシワ
ニスを用い、150℃/1時間硬化した他は実施例9と
同様にしてバイファイラーコイルを作製し、ヒートサイ
クル試験、Tg、αおよび室温の引張り弾性率を測定し
た。
【0061】その結果、ヒートサイクル試験では5サイ
クル目で5本のバイファイラーコイルの内2本にクラッ
クが発生した。また、本実施例の樹脂硬化物のTgは1
25℃、αは7.2×10~5/℃、室温の引張り弾性率
は370kg/mm2であった。
【0062】〔比較例 3〕絶縁シートとしてはPET
フィルムを、また、巻線にはエステルイミド線を用いた
他は実施例1と同様にし、ステータを保持するハウジン
グが鋳鉄製である3.7kwの4pの回転電気装置を製
造し、重量および容積を測定した。これを後述の実施例
11と比較した。
【0063】〔実施例 11〕ステータを保持するハウ
ジングがアルミ合金ダイカスト製である以外は実施例1
と同様の3.7kwの4p回転電気装置を製造した。
【0064】アルミ合金ダイカスト製のハウジングは、
従来の鋳鉄製ハウジングに比較し、熱伝導率が高く、さ
らにCAE(Computer Aided Engineering)を用いた設
計に基づき強度を保持しながら余分な部分をなくした高
効率の製品について可能な限り小型、軽量化を進めたハ
ウジングを組み込み回転電気装置を作製した。
【0065】重量と容積を測定し比較例3と比較した。
【0066】比較例の重量、容積をそれぞれ100と
すると、本実施例のものは重量で70、容積で90とい
ずれも大幅に低減することができた。
【0067】〔実施例 12〕ステータを保持するハウ
ジングがアルミ合金ダイカスト製である以外は、実施例
11と同様の3.7kwの4p回転電気装置を作製し
た。比較例4の重量、容積を100とすると本実施例の
ものは重量で71、容積で89と大幅に低減することが
できた。
【0068】前記各実施例について総括すると、実施例
1および3は、特性図で示すように絶縁シートの特性が
著しく改善された。また、実施例2は、PENフィルム
の片面に芳香族ポリアミド不織布が貼合わされているた
めに、比較例1のPENフィルム単体に比較して耐熱特
性が改善される。
【0069】また、図6のアレニウスプロットによる2
万時間相当の耐熱温度では、比較例のものよりも約25
℃以上の向上が見られF種絶縁を満足するものである。
【0070】実施例4および実施例5からは、PETフ
ィルムの両面に25μm程度のPPSフィルムを貼合わ
せることにより、熱劣化時のシート内部への酸素の拡散
を抑制され、耐熱性を向上できる。
【0071】なお、比較例1で用いたPEN単独フィル
ムからなるスロット絶縁物は、絶縁ワニス中に含まれる
スチレン等の有機溶剤または水等の影響を受け易く、図
4の特性Cの如く引張り特性が短時間に低下し、折り曲
げに対しても割れが生じ易くなり、実用上問題がある。
【0072】巻線端部分等に発生する熱応力に関しては
実施例8,9のヒートサイクル試験結果から明らかなよ
うに、含浸された絶縁ワニスとして、その硬化物のTg
が120℃以下、線膨張係数αは7.0×10~5/℃以
下で、室温での引張り弾性率が100〜350kg/m
2のものを与える絶縁ワニスを用いことにより、熱応
力を低減することができる。
【0073】回転電気装置のスロツト内への機械挿入性
も、本実施例の絶縁シートはいずれもPET単独フィル
ムを用いた場合と同等以上であった。
【0074】また、アルミ合金ダイカスト製ハウジング
と本発明のF種絶縁材料とを組合せた回転電気装置と、
鋳物製ハウジングと本発明のF種絶縁材料とを組合せた
回転電気装置について、容積および重量を比較してみる
と、アルミ合金ダイカスト製ハウジングを用いた回転電
気装置は、鋳物製ハウジングのものに比較して容積比で
約10%、重量比で約30%低減することが可能であ
る。
【0075】
【発明の効果】スロット絶縁物を構成する絶縁シートは
耐熱性に優れ、PET単独フィルム並みのスロット内へ
の機械挿入性がよく、自己潤滑性エナメル線は、スロッ
ト部あるいはコイルエンド部のエナメル皮膜の損傷が少
ない。また、絶縁ワニスは絶縁シートおよびエナメル線
との相性もよいので、F種絶縁としての耐熱性を満足す
る回転電気装置を提供することができる。
【0076】さらにアルミ合金ダイカスト製ハウジング
と組合せることにより、小型,軽量の回転電気装置を提
供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の回転電気装置のスロットの断面模式図
である。
【図2】本発明の絶縁シートの一例を示す断面図であ
る。
【図3】本発明の絶縁シートの一例を示す断面図であ
る。
【図4】絶縁シートの特性図である。
【図5】絶縁シートの特性図である。
【図6】絶縁シートのアレニウスプロットの特性図であ
る。
【符号の説明】
1…鉄心、2…スロット、3…スロット絶縁物、4…巻
線、5…絶縁クサビ、6…ステータ、10…絶縁ワニ
ス、11,18…絶縁シート、12…PENフィルム、
13…芳香族ポリアミド不織布、19…PPSフィル
ム、20…PETフィルム。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 関根 昭裕 千葉県習志野市東習志野七丁目1番1号 株式会社日立製作所 産業機器事業部 内 (72)発明者 小俣 剛 千葉県習志野市東習志野七丁目1番1号 株式会社日立製作所 産業機器事業部 内 (72)発明者 大原 周一 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号 株式会社日立製作所 日立研究所内 (56)参考文献 特開 平2−299437(JP,A) 特開 平7−131960(JP,A) 特開 平7−336921(JP,A) 特開 昭60−84939(JP,A) 特開 昭60−84936(JP,A) 特開 昭50−139905(JP,A) 特開 昭51−130900(JP,A) 実開 昭64−6754(JP,U) 実開 昭56−83958(JP,U) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H02K 3/30 H02K 3/34

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ステータを保持するハウジングと、ロー
    タを有するF種の回転電気装置において、巻線部が自己
    潤滑性エナメル線により構成され、前記巻線部の対地間
    および相間の絶縁がポリエチレン−2,6−ナフタレー
    トフィルムと芳香族ポリアミド不織布とを貼合わせた絶
    縁シートでありその厚さが0.05〜0.35mmで、かつ、前記ポリエ
    チレン−2,6−ナフタレートフィルムが全体の厚さの
    64〜82%の厚さを有する 絶縁シートで絶縁されてお
    り、 前記巻線部および絶縁シートが不飽和ポリエステル樹脂
    または不飽和エポキシエステル樹脂で含浸,硬化した絶
    縁ワニス硬化物で保持されていることを特徴とするF種
    回転電気装置。
  2. 【請求項2】 ステータを保持するハウジングと、ロー
    タを有するF種の回転電気装置において、巻線部が自己
    潤滑性エナメル線により構成され、前記巻線部の対地間
    および相間の絶縁がポリエチレンテレフタレートフィル
    ムの両面にポリフェニレンスルフィドフィルムを貼合わ
    せた絶縁シートであり、その厚さ0.05〜0.35mm
    で、かつ、前記ポリフェニレンスルフィドフィルムの両
    面の厚さが全体の厚さの20〜45%の厚さを有する
    縁シートで絶縁されており、前記巻線部および絶縁シー
    トが不飽和ポリエステル樹脂または不飽和エポキシエス
    テル樹脂で含浸,硬化した絶縁ワニス硬化物で保持され
    ていることを特徴とするF種の回転電気装置。
  3. 【請求項3】 前記絶縁ワニス硬化物がガラス転移温度
    120℃以下、線膨張係数7.0×10-5/℃以下で、
    かつ、室温における初期弾性率が100〜350kg/
    mm2である請求項1または2に記載のF種の回転電気
    装置。
  4. 【請求項4】 前記ステータを保持するハウジングがア
    ルミ合金ダイカストである請求項1または2に記載の
    種の回転電気装置。
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