以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、説明に先立って、A4サイズ紙の短辺、A3サイズ紙の短辺をそれぞれの用紙の幅方向と定義し、それぞれの用紙の長辺を用紙の長さ方向と定義する。
図1は、画像形成装置の概略構成図である。
画像形成装置1は、読み取り対象の画像を読み取る画像読取部2と画像を形成する画像形成部3を備える。また画像形成装置1の上部には、タッチパネル式の表示部6と各種の操作キー7とを有する操作パネル5が設けられる。
操作パネル5の操作キー7は、例えば、テンキー、リセットキー、ストップキー、スタートキー等を有する。また、表示部6では、用紙サイズやコピー枚数、印刷濃度設定、綴じ処理等の各種処理の入力が行われる。
画像読取部2は、透過性の原稿載置台8、キャリッジ9、露光ランプ10、反射ミラー11、反射光を収束する結像レンズ12、反射光を取り込み光による画像情報をアナログ信号に変換するCCD13(Charge Coupled Device)を備える。
画像形成部3は、感光体16、感光体16上に静電潜像を形成するレーザユニット14、感光体16の周囲に順次に配役された帯電装置18、現像装置20、転写装置22、クリーナ24、除電ランプ26を備える。
原稿載置台8におかれた原稿、もしくは自動原稿送り装置28によって送られてくる原稿にキャリッジ9とキャリッジ9に設けられた露光ランプ10とを有する露光手段によって原稿載置台8の下方から光が当てられると、原稿からの反射光は反射ミラー11によって誘導され、結像レンズ12で収束され、反射光像がCCD13に投影される。CCD13に取り込こまれた画像情報はアナログ信号で出力されたのち、デジタル信号に変換され、画像処理が施された後レーザユニット14へ送信される。
画像形成部3において画像形成が始まると、帯電装置18は回転する感光体16の外周面に電荷を供給する。帯電装置18によって軸方向に均一の電位に帯電された感光体16の外周面に、CCD13から送信されてきた画像情報に従ってレーザユニット14からレーザービームを照射する。レーザービームの照射によって感光体16の外周面に原稿の画像情報に対応した静電潜像が形成・保持されると、現像装置20によって感光体16の外周面に現像剤(例えばトナー)が提供され、静電潜像はトナー像に変換される。
この現像装置20は、回転自在に設けられた現像ローラを備えており、この現像ローラが感光体16に対向配置されて回転することにより、感光体16へトナーが供給される。感光体16の外周面にトナー画像が形成されると、搬送路31を通って給紙装置30より搬送されてきた用紙上に、転写装置22によってトナー画像が静電的に転写される。また、転写されずに残った感光体上のトナーは、転写装置22よりも感光体16の回転方向の下流に位置するクリーナ24によって除去され、さらに、感光体16の外周面の残留電荷が、除電ランプ26によって除去される。
一方、トナー像が転写された用紙は搬送ベルト32を経由して定着装置34に搬送され、用紙上に転写されたトナー画像は定着装置34によって用紙上に定着される。トナー画像が定着されることで画像形成が完了した用紙は、排出ローラ35により画像形成装置1から排出されて用紙後処理装置4へ送られる。用紙後処理装置4は、画像形成装置1から搬出された用紙を画像形成装置1の操作パネルからの入力指示やPC(Personal Computer)からの処理指示に従って後処理するものであり、特開2007−76862号公報に記載された後処理装置をはじめ周知の技術を利用することができる。なお、ここでいう用紙とは、例えば、普通紙、厚紙、薄紙、光沢紙またはOHPシートなどをいう。
一方、転写されずに残った感光体上のトナーが、転写装置22よりも感光体16の回転方向の下流に位置するクリーナ24によって除去され、さらに、感光体16の外周面の残留電荷が、除電ランプ28によって除去される。
次に、定着装置34について詳述する。図2は、定着装置の概略断面図である。
定着装置34は、発熱部材である発熱ローラ40と、発熱ローラ40に圧接してニップ部を形成する加圧ローラ(加圧部材)42と、発熱ローラ40よりも用紙の搬送方向下流に配置される巻架ローラ44と、発熱ローラ40と巻架ローラ44とに所定の張力を持って巻架され矢印Aの方向に回転可能なベルト46と、発熱ローラ40を励磁する誘導加熱部材48とを備える。
発熱ローラ40は、直径40mm、厚さ0.5mmの透磁性を有する整磁合金部材40aと、導電性部材40bとを有する。また、本実施の形態では、整磁合金部材40aは、鉄・ニッケル・クロムの複合合金からなり、強磁性から常磁性へ移る転移温度であるキュリー温度が制御温度になるように調整されたものである。ここで、発熱ローラ40の整磁合金部材40aのキュリー温度TCは、例えば、定着制御温度(以下、定着温度)180℃に対して40℃高い220℃とする。
加圧ローラ42は、直径40mmであり、芯金の周囲に厚さ2mmの、例えば、シリコンゴムや他のフッ素ゴム、フッ素樹脂等の耐熱性樹脂やゴムを有し、加圧スプリング41によって、ベルト46を挟んで発熱ローラ40に圧接され、一定のニップ幅を形成する。したがって、本実施の形態では発熱ローラ40が直接用紙と接触することのない構造となる。また、加圧ローラ42の外周面には、耐摩耗性や用紙の離型性を高めるために、PFA(Perfluoro Alkoxyl Alkane)、やPTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)等の樹脂を被覆しても良い。
巻架ローラ44は、直径15mm、厚さ0.5mmのセラミック製のローラである。巻架ローラ44は、発熱ローラ40とともにベルト46を走行させる。なお、巻架ローラ44には、他にも鉄、SUS(Stainless Used Steel)430、SUS304、その他の樹脂等や、熱伝達素子であるヒートパイプ、または、これらを組み合わせたものなどを用いても良い。
ベルト46は、基材として厚さ50μmのポリイミド樹脂を用いたエンドレスベルトで、その外側に厚さ300μmのシリコンゴムの弾性層、最外周に厚さ40μmのPFAやPTF等の離型層を有する。
誘導加熱部材48は、励磁コイル50と芯材52とを有し、発熱ローラ40の外周に沿ったかたちで発熱ローラ40の回転軸方向のほぼ全長にわたり配置される。
励磁コイル50は、線径0.5mmの被覆銅線材を複数本束ねたリッツ線を有する。なお、本実施の形態では16本の線材を束ねたものであり、励磁コイル50の被覆線は、耐熱性のポリアミドイミドを用いる。また、芯材52には、フェライトやパーマロイ等を用いることができる。
励磁コイル50に電流供給回路から高周波電流を印加して磁束を発生させ、発熱ローラ40の加熱を行なう。この際、ローラ全体の温度分布を均一にするために、発熱ローラ40を回転させてローラ全周面に一定の熱量を与える。また、加圧ローラ42、巻架ローラ44、ベルト46は発熱ローラ40の回転に従動して回転する。
この発熱ローラ40の表面温度が定着温度に達すると画像形成が開始し、矢印B方向へ用紙Pが搬送され、加圧ローラ42と、ベルト46とのニップ部を圧接されて通過することで、用紙P上のトナーが定着される。
ここで、発熱ローラ40の誘導加熱の原理について説明する。図3に、発熱ローラ40の電気特性を説明するための簡易モデルを示す。励磁コイル50に対応するモデルとして、一次側コイル200と、励磁コイル50の損失を表す一次側抵抗201と、が直列回路を形成する。また、発熱ローラ40に対応する被励磁体のモデルとして、二次側コイル210と、その抵抗を表す負荷抵抗211とが直列閉回路を形成する。
一次側コイル200では、電流供給回路から高周波電流を印加されることにより、高周波磁界が発生する。二次側コイル210では、この磁界の磁束の変化を妨げる方向に磁束を発生するように渦電流Ieが発生する。
この渦電流Ieは、表皮効果により一次側コイル200側の被励磁体の表面に集中して流れる。したがって、被励磁体は、表皮抵抗Rsに比例した電力で発熱する。
ここで、回路の高周波電流の角周波数をω[rad/s]、周波数をf[Hz]、被励磁体の透磁率をμ[H/m]、比透磁率をμr、被励磁体の負荷抵抗211を抵抗率ρ[Ω・m]とすると、表面に集中する電流に対して1/eの大きさの電流が流れる深さを示す表皮深さδおよび表皮抵抗Rsは、一般的に数式〔数11〕、〔数12〕で示される。
また、被励磁体に発生する電力は
で表せる。したがって、被励磁体の発熱量を増加させるためには渦電流Ieを大きくするか表皮抵抗Rsを大きくすればよいことになる。なお、上式から、表皮抵抗Rsは、一次側コイル200に印加する交流電流の周波数を高くするか、被励磁体に高透磁率の、あるいは負荷抵抗211が大きい部材を用いることにより大きくすることができるといえる。
また、図3から一次側コイル200へ交流電流を供給する電流供給回路の入力インピーダンスZ
inは、一般的に式4で示される。ここで、Kは一次側コイル200と被励磁体の形状に依存する定数、nは一次側コイル200の巻数、Rcは一次側損失抵抗201とする。
したがって、電流供給回路の抵抗である入力インピーダンスZinは、被励磁体の表皮抵抗Rsによる影響が大きいといえる。例えば、被励磁体の透磁率μが小さい、あるいは抵抗率ρの低い被励磁体を用いることで表皮深さδが大きくなると、表皮抵抗Rsは小さくなるので、入力インピーダンスZinは小さくなる。
また、図4は、キュリー温度TCを220℃に設定した発熱ローラ40の整磁合金部材40aの温度と透磁率の関係を示すグラフの一例である。一般的に、強磁性体である整磁合金部材40aは、転移温度であるキュリー温度TCを境に、強磁性から常磁性へ移る。このキュリー温度TC近くまで温度が上昇すると、整磁合金部材40aの透磁率μが急激に低下し、キュリー温度TC以上では空気の透磁性とほぼ同じになるまで低下する。
ここで、図4に示すように、透磁率μは温度Tの関数となるため、数式〔数11〕から、表皮深さδは、
と表せる。したがって、ある一定の温度T以上で透磁率μが低下すると表皮深さδは大きくなる。
例えば、発熱ローラ40が、キュリー温度TCより温度が低く、且つ、高透磁率を有する場合には、整磁合金部材40a内に磁気を通しやすいため、図5の矢印Cに示すように、誘導加熱部材48から発生した磁束は、発熱ローラ40の整磁合金部材40a内を浸透する。一方、発熱ローラ40の温度がキュリー温度TC近傍、あるいは、キュリー温度TC以上になり、透磁率μが低下した場合には、矢印C’に示すように、誘導加熱部材48から発生した磁束は、発熱ローラ40を通り抜けるようになる。なお、キュリー温度未満の近傍では、磁束は矢印C,C’のように通る。
このように透磁率μが低下すると、数式〔数12〕、〔数15〕からも明らかなように、表皮深さδが大きくなり、表皮抵抗Rsが減少する。また、整磁合金部材40a内を通過する磁束Cも減少して、発熱ローラ40内で発生する渦電流Ieが減少する。結果、発熱ローラ40の発熱量は減少することになる。
ここで、A4−Rサイズ紙やB5サイズ紙のような小サイズ紙の連続通紙を行なう場合を考える。
図6に示すように、発熱ローラ40の中央の小サイズ紙の搬送方向Dに交差する用紙の幅方向に対応する部分を中央部(第1の部分)54、A3サイズ紙のような大サイズ紙に対応可能であり、中央部54と異なる発熱ローラ40の部分を端部(第2の部分)56とする。なお、用紙は発熱ローラ40の端を基準にして通紙してもよい。また、58Aおよび58Bは、それぞれ発熱ローラ40の中央部54および端部56の表面温度を検知する非接触のサーモパイル式の温度センサ(温度検知部材)である。厳密には温度センサ58A、58Bが検知する温度は、ベルト46の表面温度であるが、本実施の形態ではこれを発熱ローラ40の表面温度として用いる。
制御部60は、CPUやメモリ等を有し、画像読取部2、画像形成部3、操作パネル5等を総合的に制御するもので、定着装置34では、発熱ローラ40を回転させるモータMの駆動や、発熱ローラ40を励磁する励磁コイル50の駆動等を制御する。制御部60はさらに、画像データの補正、あるいは圧縮・伸張などの画像処理のほか、圧縮処理された画像データや印刷データ等の記憶、および画像形成装置1の外部にあるPC(Personal Computer)100とのデータ通信等を行う。
誘導加熱部材48は、発熱ローラ40の表面温度が定着温度の180℃になるように発熱ローラ40へ一様に磁束を与えている。上記状態で、A3サイズの大サイズ紙が用紙の長さ方向に進んでニップ部を通過すると、この大サイズ紙によって発熱ローラ40全幅にわたって熱が奪われる。したがって、制御部60は、発熱ローラ40の表面温度が定着温度180℃に保たれるように入力電力を制御する。例えば、表面温度が低下した段階、あるいは連続通紙が始まった段階で電力を少し増加させる制御、あるいは、入力電力を増加させ、誘導加熱部材48への通電時間を、表面温度が上昇したら短く、下降したら長くする制御、といった既存の定温保持制御を用いることができる。
一方、小サイズ紙が用紙の長さ方向に進んで中央部54のニップ部を通過すると、この小サイズ紙によって発熱ローラ40の中央部54付近の熱が奪われる。ここで、発熱ローラ40の中央部54の温度を定着温度180℃に維持するために励磁すると端部56も発熱するが、小サイズ紙が通過しない範囲である端部56では用紙によって熱が奪われないため、端部56の温度は中央部54の温度に比して上昇する。
また、発熱ローラ40は整磁合金部材40aであるため、励磁コイル50を一定の周波数で駆動して、例えば、上記のように小サイズ紙を連続通紙すると、端部56の温度が上昇してキュリー温度Tcに近づき、透磁率μが急激に低下して励磁コイル50による磁束が整磁合金部材40a内で収まらずに透過する。したがって、端部56の発熱が抑えられ、ホットオフセット等が抑制される。
しかしながら、この端部56の透磁率μが低下して励磁コイル50による磁束が整磁合金部材40a内で収まらず透過するようになると、発熱ローラ40の端部56の表皮抵抗が急激に減少し始める。ここで、発熱ローラ40の整磁合金部材40a全体の表皮抵抗をRsa、中央部54の表皮抵抗をRsc、端部56の表皮抵抗をRseとすると、表皮抵抗Rseの減少に伴い表皮抵抗Rsaも減少するので、電流供給回路のインピーダンスは減少する。すなわち、電流供給回路を流れる電流は増加することになる。さらに、発熱ローラ40の温度がキュリー温度を超えて電流供給回路のインピーダンスが減少し続けると、回路を流れる電流が許容値を超えてしまう虞がある。回路を流れる電流が許容値を超えてしまうと、回路を構成する部品等に不具合が生じてしまう。したがって、通常は、発熱ローラ40へ与える電力を減らす、あるいは回路の駆動をオフにして発熱ローラ40への電力の供給を止めるといった制御がなされる。しかしながら、このような制御では発熱ローラ40の中央部54の発熱を弱く、または停止することになり、ニップ部の温度が低下して定着不良が発生する虞があるため定着を継続できない。また、再び発熱ローラ40の温度を定着温度へ復帰させるのに時間がかかることになる。
そこで、電流供給回路の駆動を止めるといった制御ではなく、一定の周波数(第1の駆動周波数)で励磁コイルを駆動していたものを、より高周波数(第2の駆動周波数)へ切り替えて駆動する。
例えば、励磁コイル50を第1の駆動周波数、約25kHz一定で駆動して約1100Wの電力を与え、発熱ローラ40を定着温度180℃に励磁し、A4−Rサイズ紙を連続通紙した場合を考える。端部56の温度が上昇してキュリー温度Tcを超えた状態では、透磁率μは急激に低下し、励磁コイル50による磁束が発熱ローラ40の整磁合金部材40a内で収まらずに透過する。この時、端部56での表皮抵抗Rseは、中央部54の表皮抵抗Rscと比して非常に小さく、ほぼ無視できるので、発熱ローラ40の整磁合金部材40a全体の表皮抵抗Rsaは定着温度に維持される中央部54での負荷分となる。したがって、例えば、発熱ローラ40の長手方向の長さが300mmで、A4−Rサイズ紙の短辺210mmの範囲が中央部54にあたる場合には、発熱ローラ40の整磁合金部材40a全体の表皮抵抗Rsaは、定常状態の表皮抵抗Rsaと比べて約2/3倍となり、電流供給回路のインピーダンスは減少する。
この状態で電流供給回路を駆動すると、インピーダンスの減少に伴って回路を流れる電流が増加する。そこで、本願では、この電流が回路の許容電流未満に収まるように、より高い第2の駆動周波数で励磁コイルを駆動して発熱ローラ40の表皮抵抗Rsaを増加させ、回路のインピーダンスを増加させる。
表1には、一例として式2、式5に基づいて周波数を25kHzから50kHzへ切り替えた際の表皮深さを求めた計算結果を示す。なお、整磁合金部材40aの抵抗率、比透磁率の物性値については、一般的な値を用いており、ここでいう比透磁率とは、整磁合金部材40aの透磁率μと真空の透磁率μ
0との比μ/μ
0である。また、図7(a)、図7(b)、図7(c)、図7(d)は、それぞれ表1の列I、II、III、IVに対応する。
まず、〔表1〕の列Iに示すように、励磁コイル50が周波数25kHz(第1の駆動周波数)で駆動し、発熱ローラ40の温度が定着温度180℃である場合には、表皮深さδは約0.12mmとなる。従って、例えば、整磁合金部材40aの厚さdが0.5mmである場合、図7(a)のように、励磁コイル50により発生した磁束Eは、導電性部材40bには届かずに整磁合金部材40a内を貫通し、発生する渦電流Ieによって整磁合金部材40aが発熱する。これが通常の定着可能な状態である。
また、表1の列IIに示すように、励磁コイル50が周波数25kHzで駆動する状態で小サイズ紙が連続通紙され、端部56の温度が上昇してキュリー温度220℃になると、表皮深さδは約1.2mmとなる。従って、励磁コイル50により発生した磁束Eは、図7(b)のように、厚さ0.5mmの整磁合金部材40aを超えて導電性部材40bにまで発散するので、渦電流Ieが整磁合金部材40a内で流れなくなり整磁合金部材40aの発熱が抑制される。この状態が、電流供給回路に許容電流を越える電流が流れる虞がある状態である。
ここで、励磁コイル50の周波数を25kHzから切り替えて、より高い周波数の50kHz(第2の駆動周波数)で駆動すると、温度がキュリー温度220℃である端部56での表皮深さδは、表1の列IIIに示すように、約0.87mmとなる。すなわち、キュリー温度220℃である端部56では、50kHzで駆動しても、図7(c)のように、発生した磁束Eが導電性部材40bにまで発散するので、渦電流Ieが整磁合金部材40a内で流れないため整磁合金部材40aの発熱を抑制することができる。
一方、温度が定着温度180℃である中央部54での表皮深さδは、表1の列IVに示すように、約0.09mmであるので、図7(d)のように、発生した磁束Eは導電性部材40bには届かず、整磁合金部材40a内を貫通する。したがって、より高い周波数で駆動することにより、中央部54の表皮抵抗Rscが増加し、その結果、発熱ローラ40全体の表皮抵抗Rsaが増加するので電流供給回路のインピーダンスが増加し、回路を流れる電流の量を抑えることができる。また、中央部54の表皮抵抗Rscを増加させるため中央部54での発熱量を維持することができ、定着動作を継続することができる。
さらに、図7の状態を数式〔数16〕乃至数式〔数19〕を用いて説明する。数式〔数16〕乃至数式〔数19〕は、発熱ローラ40の整磁合金部材40aの厚さdと表皮深さδ関係を表す。まず、第1の駆動周波数f
1で駆動する場合に、厚さdと表皮深さδが等しくなる状態は、
で表せる。すなわち、第1の駆動周波数f
1で駆動する場合において、数式〔数16〕を満たす温度T
THよりも低い温度を第1の温度T1、温度T
THよりも高い温度を第2の温度T2と定義できる。ここで、温度T
THは定着温度より大きい温度とする。なお、数式〔数16〕を満たす温度T
THはキュリー温度に限定されるものではない。
したがって、発熱ローラ40の温度がT
THよりも低い第1の温度T1である図7(a)の状態は数式〔数17〕、発熱ローラ40の温度がT
THよりも高い第2の温度T2である図7(b)の状態は数式〔数18〕で表せる。
ここで、発熱ローラ40が、透磁率が減少して数式〔数18〕で表す状態になった場合には、第1の駆動周波数f1よりも高い周波数の第2の駆動周波数f2で回路を駆動して、発熱ローラ40の温度が第2の温度T2である範囲を図7(c)の状態に、発熱ローラ40の温度が第1の温度T1である範囲を図7(d)の状態にする。したがって、この第2の駆動周波数f2は、数式〔数19〕を満たすものとする。
すなわち、第2の駆動周波数f2は、発熱ローラ40の温度が第2の温度T2となり、透磁率μが低下した範囲、例えば、端部56における表皮深さδが、発熱ローラ40の整磁合金部材40aの厚さdよりも大きくなる周波数とする。実際の制御には、この第2の駆動周波数は、予め用紙サイズ別に実験を行い、数式〔数19〕を満たすデータを取得する、あるいは数式〔数19〕を満たす理論式から算出、あるいは算出するためのプログラムを予め制御部60のメモリ等に格納し、これに基づいて制御部60で制御すれば良い。
なお、第2の駆動周波数は、理想的には、発熱ローラ40の表皮抵抗Rsの減少した分を増加させるだけの駆動周波数に切り替えることが望ましいが、少なくとも、切り替えた後の電流値が許容電流値未満となればよい。また、逆をいえば、発熱ローラ40の整磁合金部材40aの厚さdも、変化する透磁率μや周波数fに対して数式〔数16〕乃至数式〔数19〕を満たす厚さとなる。また、発熱ローラ40の温度が第1の温度T1である範囲、例えば、中央部54では、第2の駆動周波数で駆動した場合、当然表皮深さδは、整磁合金部材40aの厚さdよりも小さくなる。
また、第2の駆動周波数で電流供給回路を駆動させて定着動作を継続すると、発熱が抑制されている端部56の温度は徐々に低下する。したがって、発熱ローラ40の温度が式6を満たす温度T
THよりも低くなると、端部56における表皮深さδが発熱ローラ40の整磁合金部材40aの厚さdよりも小さくなる。ここで、厳密には、整磁合金部材40aはヒステリシス・ループを描くので、数式〔数16〕を満たす温度T
THは、発熱ローラ40の温度が上昇する場合と下降する場合とでは、下降する場合の方が低くなる場合がある。したがって、第2の駆動周波数f
2で励磁される発熱ローラ40の温度が第2の温度T2から第1の温度T1へと下降する場合に、整磁合金部材40aの厚さdと表皮深さδが等しくなる状態は、数式〔数20〕で表せる。
ただし、T
TH’≦T
TH
したがって、発熱ローラ40の端部56の温度が式10を満たす温度TTH’よりも低くなり、図7(a)に示す状態に戻る場合、今度は電流供給回路のインピーダンスが高すぎて回路を流れる電流が過度に抑制されてしまうので、第2の駆動周波数、例えば、50kHzから、それよりも低い第3の駆動周波数で駆動して、発熱ローラ40の発熱量を確保する。
上記の定着装置34では、整磁合金部材40aの、例えば、端部56の温度が式6を満たす温度TTHよりも高い温度となり、表皮深さδが整磁合金部材40aの厚さよりも大きくなり、第1の駆動周波数で駆動する電流供給回路へ過剰に電流が流れても、式9を満たし、第1の駆動周波数より高い第2の駆動周波数で駆動することにより、電流供給回路を流れる電流を減少させて許容電流値を超えることなく、正常な電流値の範囲内で使用することが可能となる。したがって、電流供給回路の電力供給を遮断することなく、電力を安定供給して定着を継続することができる。なお、図6では、発熱ローラ40のニップ部を通過する用紙は、用紙の幅方向において中央を基準としており、整磁合金部材40aは両端の端部56の温度が上昇するがこれに限定されるものではない。例えば、発熱ローラ40の一方の端へ寄った片側を基準としても良い。この場合には、小サイズ紙が通紙する際、用紙が寄る側とは反対側の端部の温度が上昇することになる。
〔電流供給回路の一例〕
続いて、電流供給回路の一例について説明する。図8は、電流供給回路の電気的な概略構成図である。この電流供給回路64は、交流電源66と、交流電力を整流する整流回路68、インバータ回路76とを有する。
整流回路68は、ダイオードブリッジ型であり、交流入力端子には交流電源66が接続される。直流出力端子の正極にはチョークコイル70が直列に接続され、チョークコイル70の他端と整流回路68の直流出力端子の負極との間に平滑コンデンサ72が接続される。また、平滑コンデンサ72の両端とインバータ回路76とが直流母線73、74を介して接続される。
インバータ回路76は、2つのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の第1および第2のスイッチング素子78、80を有し、第1および第2のスイッチング素子78、80は、直流母線73、74間に直列に接続される。この第1および第2のスイッチング素子78、80のコレクタ−エミッタ間には、第1および第2のダイオード82、84が並列接続される。また、第1のスイッチング素子78および第2のスイッチング素子80の接続中点からは、励磁コイル50と共振コンデンサ86が直列に接続され、共振コンデンサ86の他端は直流母線74へ接続される。
整流回路68の交流入力側と交流電源66との間にはトランス88が配置され、このトランス88に繋がれた入力電力検出部90が入力電力を検出する。入力電力検出部90は、CPUやメモリ等を有する制御部60と接続され、検出した入力電力の情報を制御部60へ送信する。また、第1のスイッチング素子78および第2のスイッチング素子80の接続中点と励磁コイル50との間には、インバータ回路76を流れる電流を検知する電流検知部92が設けられており、電流検知部92は検知した電流値の信号を制御部60へ送信する。制御部60は、入力電力検出部90や電流検知部92、あるいは温度センサ58A、58Bからの信号を受け、励磁コイル50へ与える電力のフィードバック制御が可能である。また、制御部60は発振器94や出力制御回路96を制御する。
発振器94は、固定された所定の周波数で発振を行い、その発振出力を第1の駆動回路98を制御する出力制御回路96および第2の駆動回路99へ出力する。ここで、出力制御回路96は、制御部60の制御により、第1の駆動回路98へ出力する出力パルス幅を変化させ、第1の駆動回路98を介して第1のスイッチング素子78のオン・オフ時間を可変し、回路の出力を0〜100%の範囲で制御する。一方、第2の駆動回路は、発振器94から直接発振出力を受け取り、第2のスイッチング素子80をオン・オフさせる。このオン・オフ動作により、励磁コイル50に高周波電流が流れ、所定の磁界が発生する。
図9に示すように、例えば、発振器94が周波数約25kHzに相当する周期Tの間にT/2幅のパルスを出力制御回路96および第2の駆動回路99へ出力する(図9(a))。ここでウォームアップ時やスリープモードからの復帰時、あるいは用紙をニップ部へ通紙させてトナーを定着させる動作時といった大電力で駆動する場合には、出力制御回路96は、T/2幅のパルスよりも若干短いt1時間幅のパルスを第1の駆動回路98へ出力する(図9(b))。一方、第2の駆動回路99は、発振器94から直接T/2幅のパルスを受け取る(図9(c))。したがって、第1および第2の駆動回路98、99は、それぞれの入力パルスに対応する時間幅のオン信号を第1および第2のスイッチング素子78、80へそれぞれ出力する。また、待機時のように小電力で駆動する場合には、出力制御回路96は、t1時間幅よりもさらに短いt1’時間幅のパルスを第1の駆動回路98へ出力する(図9(d))。一方、第2の駆動回路99が発振器94から受け取るパルスは、変わらずT/2幅である(図9(e))。
上記のように、本実施の形態の電流供給回路64は、出力制御を周波数の変化で行うのではなく、インバータ回路76の駆動周波数を固定し、第1のスイッチング素子78のみのオン時間を長く、あるいは短く制御して励磁コイル50の出力制御を行うものである。なお、駆動周波数を固定してコイルの出力制御を行う電流供給回路としては、他にも第1のスイッチング素子78の通電時間を短くするとともに第2のスイッチング素子80の通電時間を長くする制御といった特開平10−92564号公報に記載されたインバータ回路をはじめ周知の技術を利用することができる。
〔加熱制御の実施の形態1〕
図10は、発熱ローラ温度制御の例を示すフローチャートである。図10(a)は、発熱ローラの透磁率が低下する場合の制御の一例である。また、図10(b)は、低下していた透磁率が回復する場合の制御の一例である。なお、発熱ローラ40の温度がキュリー温度を超えず発熱ローラ40の透磁率が十分高いときの励磁コイル50を流れる電流の最大値は約60Aとし、また、インバータ回路76の許容電流値を約80Aとする。
まず、ウォームアップ時やスリープモードからの復帰時といった発熱ローラ40の表面温度を定着温度まで昇温させる立ち上げ時には、制御部60は、発振機94および出力制御回路96を制御し、発振機94から20〜30kHzの周波数、例えば、約25kHzの第1の駆動周波数を出力制御回路96および第2の駆動回路99へ出力させ、励磁コイル50へ約1100Wの電力を与える(ステップS1)。この時、回路を流れる電流は第1の電流値(例えば、60A以下)である。
また、温度センサ58A、58Bが発熱ローラ40の表面温度を監視しており、発熱ローラ40の温度が定着温度180℃に達したと検知した場合(ステップS2)には、制御部60によって制御される画像形成部3が画像形成を開始し、定着装置34が定着動作を行う(ステップS3)。発熱ローラ40のニップ部を通過する用紙サイズがA3サイズ紙の場合には(ステップS4)、発熱ローラ40は、局所的な温度上昇が発生することなく定着温度180に維持され、定着動作が継続される(ステップS5)。
一方、発熱ローラ40のニップ部を、例えば、A4−Rサイズといった小サイズ紙が連続して通過する場合(ステップS4)、制御部60は、温度センサ58Aからの信号に基づき、発熱ローラ40の中央部54の温度を定着温度180℃に維持する。小サイズ紙が通過しない端部56では熱が用紙に奪われないため、端部56の温度は上昇する。
端部56の温度が上昇してキュリー温度に近づき、発熱ローラ40の端部56の透磁率が低下して励磁コイル50による磁束が整磁合金部材40a内で収まらずに透過するようになると、発熱ローラ40全体の表皮抵抗をRsaが減少し、インバータ回路76のインピーダンスが減少する。したがって、励磁コイル50、インバータ回路76を流れる電流が増加することになる。
電流検知部92は、インバータ回路76を流れる電流を検知する。この電流が、インバータ回路76の許容電流値80Aよりも低く設定される第2の電流値、例えば、70A以上であることを検知すると(ステップS6)、制御部60は、駆動周波数をより高い40〜60kHzの第2の駆動周波数、例えば、50kHzに変更してインバータ回路76を駆動する(ステップS7)。第2の駆動周波数で駆動することで、上記のように、発熱ローラ40の中央部54を流れる渦電流Ieは、磁束の表皮効果によって中央部54の表面の浅い領域に集中して流れ、中央部54の表皮抵抗Rscが増加し、発熱ローラ40全体の表皮抵抗をRsaが見かけ上大きくなる。したがって、インバータ回路76を電流が過剰に流れるようになった際に、駆動周波数を高くすることで、インバータ回路76に流れる電流を減少させ正常な電流値範囲内で駆動することが可能となり、発熱ローラ40の中央部54を加熱し定着を継続することができる。ただし、第2の駆動周波数f2は、数式〔数19〕を満たすものとする。
ステップS8において、電流検知部92が検知するインバータ回路76を流れる電流が第2の電流値70A未満に減少した場合には、定着動作が継続される(ステップS9)。
一方、ステップS8において、第2の駆動周波数50kHzで駆動したにもかかわらず、インバータ回路76を流れる電流が第2の電流値70A未満に下がらない場合には、制御部60は、回路にエラーが発生したと判断し、第1および第2のスイッチング素子78、80の駆動をオフにする(ステップS10)。
続いて、ステップS9において定着動作が継続されると、発熱ローラ40の中央部54付近は励磁コイル50からの磁束を受けて発熱し、表面温度を定着温度に維持する。一方、発熱ローラ40の端部56は、徐々に表面温度が低下していく。
発熱ローラ40の温度が式6を満たす温度TTHよりも低くなると、表皮深さδが発熱ローラ40の整磁合金部材40aの厚さdよりも小さくなる。すなわち、回路のインピーダンスが増加してインバータ回路76に流れる電流が減少する(ステップ11)。したがって、電流検知部92が検知する励磁コイル50を流れる電流が、励磁コイル50へ定着動作を継続するために必要な電力を供給するのに必要な第3の電流値以下になると(ステップS12)、制御部60は、駆動周波数を第2の駆動周波数50kHzよりも低い第3の駆動周波数に変更し、発熱ローラ40の発熱量を確保する。ここでは、第3の駆動周波数として、例えば、第1の駆動周波数25kHzに変更してインバータ回路76を駆動する(ステップS13)。なお、第3の駆動周波数は、50kHzから25kHzへ大きく変更するのではなく、例えば、5kHz毎といったように段階的に減少させても、徐々に減少させても良い。
上記実施の形態1の定着装置34によれば、発熱ローラ40に整磁合金部材40aを用いるため、幅の狭い用紙を連続して通紙しても、用紙が通過しない部分が異常に高温になることがなく、その後、幅の広い用紙を通紙してもホットオフセットすることが無い。
また、発熱ローラ40の用紙が通過しない部分の温度が数式〔数16〕を満たす温度TTHよりも高い温度となって表皮深さδが整磁合金部材40aの厚さdよりも大きくなり、第1の駆動周波数で駆動するインバータ回路76へ過剰に電流が流れても、数式〔数19〕を満たし、第1の駆動周波数よりも高い第2の駆動周波数で駆動することにより、インバータ回路76に流れる電流を減少させて許容電流値を超えることなく、正常な電流値の範囲内で使用することが可能となる。したがって、インバータ回路76の電力供給を遮断することなく、電力を安定供給して定着を継続することができる。
また、出力の制御を周波数の変化ではなく、スイッチング素子の通電時間の変化で行なうインバータ回路76によって上記制御を行うため、特殊な部材を別途設けることがないので、装置が大型化することが無い。また、余計な部材を設けないため、励磁コイル50等の配置の設計の自由度もさがることがない。
また、分割コイルを用いなくとも上記発熱ローラ40の軸方向の温度ムラを抑制する制御が可能となるので、インバータ回路76の数も少なくてすみコストを抑えることができる。なお、分割コイルを用いても良い。
なお、第1乃至第3の電流値や第1乃至第3の駆動周波数等は、予め実験あるいは計算等によりメモリ等に格納しておいても、算出するためのプログラムを予め制御部60のメモリ等に格納し、これに基づいて制御部60が制御しても良い。
〔加熱制御の実施の形態2〕
図11は、発熱ローラ温度制御の別の例を示すフローチャートである。以下、図10で示した例と同一部分には同一符号を付し、本例の特徴部分のみを説明する。
図11において、図10との相違は、ステップS8のNo以降の制御である。本例では、ステップ8において、例えば、50kHzの第2の駆動周波数で駆動したにもかかわらず、インバータ回路76を流れる電流が第2の電流値70A未満に下がらない場合に、制御部60は、さらに周波数の増加が可能かを判断する(ステップS14)。
第2の駆動周波数よりも大きい増加後の駆動周波数をfxとし、このfxが次式〔数21〕を満たせば、さらに周波数の増加が可能であるといえる。
数式〔数21〕を満たす場合には、現在の駆動周波数から所定の周波数(例えば5kHz)増加させる。再びステップS8へ戻り、以上のステップを繰り返す。ステップS14において、増加後の駆動周波数fxが数式〔数21〕を満たさないと判断した場合には、回路にエラーが発生したものとして、第1および第2のスイッチング素子78、80の駆動をオフにする(ステップS16)。なお、制御部60は、第2の温度T2に対応する透磁率として、予め設定しておいた目標温度に対応する透磁率を用いて判断しても良いし、現在の温度を検知し、それに対応する透磁率を用いて数式〔数21〕から判断してもよい。または、予め数式〔数21〕を満たす駆動周波数fxの最大値を実験や理論計算から求めてメモリ等に格納しておき、これに基づいて増加後の駆動周波数fxが最大値以下になるように制御してもよい。
上記の実施の形態2の定着装置34によれば、加熱制御の実施の形態1の定着装置と同様の効果を得ることができることに加え、いきなりスイッチング素子をオフにせず段階を置いて回路のエラーを判断できる。したがって、頻繁に定着動作を停止しないため、ユーザーの使い勝手が良い。
〔加熱制御の実施の形態3〕
図12は、発熱ローラ温度制御のさらに別の例を示すフローチャートである。図12(a)は、発熱ローラの透磁率が低下する場合の制御の一例である。また、図12(b)は、低下していた透磁率が回復する場合の制御の一例である。以下、図10で示した例と同一部分には同一符号を付し、本例の特徴部分のみを説明する。
本実施の形態では、インバータ回路76の駆動周波数を変える制御を、励磁コイル50を流れる電流を検知し、それに基づいて行うのではなく、発熱ローラ40の表面温度を検知して行う。
まず、制御部60は、発振機94および出力制御回路96を制御し、発振機94から20〜30kHzの第1の駆動周波数、例えば、約25kHzの周波数を出力制御回路96および第2の駆動回路99へ出力させ、励磁コイル50へ約1100Wの電力を与える(ステップS17)。また、上記実施の形態と同様、第1の駆動周波数f1で駆動する場合において、定着温度より大きく、且つ、式6を満たす温度をTTH、温度TTHよりも低い温度を第1の温度、温度TTHよりも高い温度を第2の温度とする。
また、発熱ローラ40の表面温度を監視する温度センサ58A、58Bが、発熱ローラ40の温度が定着温度180℃に達したと検知した場合(ステップS18)には、制御部60によって制御される画像形成部3が画像形成を開始し、定着装置34が定着動作を行う(ステップS19)。発熱ローラ40のニップ部を通過する用紙サイズがA3サイズ紙の場合には(ステップS20)、発熱ローラ40は、局所的な温度上昇が発生することなく定着温度180℃に維持され、定着動作が継続される(ステップS21)。
一方、発熱ローラ40のニップ部を、例えば、A4−Rサイズといった小サイズ紙が連続して通過する場合(ステップS20)、制御部60は、温度センサ58Aからの信号に基づき、発熱ローラ40の中央部54の温度を定着温度180℃に維持する。小サイズ紙が通過しない端部56では熱が用紙に奪われないため、端部56の温度は上昇する。
端部56の温度が上昇して発熱ローラ40の端部56の透磁率が低下し、励磁コイル50による磁束が整磁合金部材40a内で収まらずに透過すると、インバータ回路76のインピーダンスが減少する。このため、励磁コイル50、インバータ回路76を流れる電流が増加する。制御部60は、この電流を、インバータ回路76の許容電流値を超えないよう、以下のように制御する。
制御部60は、温度センサ52Bが検知する発熱ローラ40の端部56の温度が、数式〔数16〕を満たす温度TTHよりも低い第1の温度か、温度TTHよりも高い第2の温度かを判断する(ステップS22)。端部56の温度が第2の温度である場合、制御部60は、駆動周波数をより高い40〜60kHzの第2の駆動周波数、例えば、50kHzに変更してインバータ回路76を駆動する(ステップS23)。なお、温度TTHは、予め実験あるいは計算等により温度を求めメモリ等に格納しても、計算プログラムをメモリ等に格納し、それに基づいて判断してもよい。また、第2の温度は、回路の許容電流以下の所定の電流値(第2の電流値)がインバータ回路76を流れる際の温度を用いてもよい。上記のように、第2の駆動周波数で駆動することで、正常な電流値範囲内で駆動することが可能となり、発熱ローラ40の中央部54を加熱して定着を継続することができる。
ステップS24において、電流検知部92が検知するインバータ回路76を流れる電流が所定の電流値未満に減少した場合には、定着動作が継続される(ステップS25)。
一方、ステップS24において、第2の駆動周波数50kHzで駆動したにもかかわらず、インバータ回路76を流れる電流が所定の電流値未満に低下しない場合には、制御部60は、回路にエラーが発生したと判断し、第1および第2のスイッチング素子78、80の駆動をオフにする(ステップS26)。
ステップS25において定着動作が継続されると、中央部54は励磁コイル50からの磁束を受けて発熱し、表面温度を定着温度に維持する。一方、発熱ローラ40の端部56は、徐々に表面温度が低下していく(ステップS27)。すなわち、回路のインピーダンスが増加してインバータ回路76に流れる電流が徐々に減少する。
温度センサ58Bが検知する発熱ローラ40の端部56の温度が式10を満たす温度TTH’よりも低くなり、表皮深さδが発熱ローラ40の整磁合金部材40aの厚さdよりも小さくなる(ステップS28)と、制御部60は、駆動周波数を第2の駆動周波数50kHzよりも低い第3の駆動周波数、例えば、25kHzで駆動して発熱ローラ40の発熱量を確保する(ステップS29)。なお、第3の駆動周波数は、50kHzから25kHzへ一度に変更するのではなく、例えば、5kHz毎といったように段階的に減少させても、徐々に減少させても良い。
上記実施の形態3の定着装置34によれば、実施の形態1の定着装置と同様の効果を得ることができる。
なお、ステップS24では、電流値を検知して定着を継続するか否かの判断をするとしているが、これに限定されるものではない。例えば、電流値の代わりに、端部56の温度を温度センサ58Bで検知して継続するか否かの判断をしてもよい。すなわち、温度センサ58Bが検知する端部56の温度が、所定の温度、例えば、第2の駆動周波数に切り替えた時の温度よりも低くなった場合に定着を継続しても良い。また、所定の温度は上記所定の電流値が回路に流れる時に対応する温度であっても良く、実験等あるいは計算から予め求めてメモリ等に格納しておけばよい。
〔加熱制御の実施の形態4〕
図13は、発熱ローラ温度制御のさらに別の例を示すフローチャートである。以下、図12で示した例と同一部分には同一符号を付し、本例の特徴部分のみを説明する。
本実施の形態においても、実施の形態2と同様、ステップS24以降に、図13に示すようなステップS30乃至ステップS32を用いることができる。
すなわち、ステップ24において、例えば、50kHzの第2の駆動周波数で駆動したにもかかわらず、インバータ回路76を流れる電流が所定の電流値70A未満に下がらない場合に、制御部60は、さらに周波数の増加が可能かを判断する(ステップS30)。第2の駆動周波数よりも大きい増加後の駆動周波数をfxとし、このfxが数式〔数21〕を満たせば、さらに周波数の増加が可能であるといえる。
数式〔数21〕を満たす場合には、現在の駆動周波数から所定の周波数(例えば5kHz)増加させる。再びステップS24へ戻り、以上のステップを繰り返す。ステップS30において、増加後の駆動周波数fxが数式〔数21〕を満たさないと判断した場合には、回路にエラーが発生したものとして、第1および第2のスイッチング素子78、80の駆動をオフにする(ステップS32)。したがって、いきなりスイッチング素子をオフにせず段階を置いて回路のエラーを判断できるので、頻繁に定着動作が停止せず、ユーザーの使い勝手が良い。
〔加熱制御の実施の形態5〕
本実施の形態では、定着する小サイズ紙の連続通紙する枚数をカウントし、カウントした枚数が一定の値を超えた場合にインバータ回路76の駆動周波数を変える制御を行う。以下、上記実施の形態と同一部分には同一符号を付し、本実施の形態の特徴部分のみを説明する。
図14に示すように、定着装置34の搬送方向上流あるいは下流に、マイクロセンサやマイクロアクチュエータを有する用紙検知手段102が配置される。用紙検知手段102は搬送される用紙を検知する。制御部60は、小サイズ紙が定着される際に、用紙検知手段102で検知した用紙の枚数をカウントする。
図15は、本実施の形態の発熱ローラ温度制御の例を示すフローチャートである。なお、ステップS32乃至ステップS36は、図10のステップS1乃至ステップS5や図12のステップS17乃至ステップS21と同様であるので説明を省略する。
発熱ローラ40のニップ部を、例えば、A4−Rサイズといった小サイズ紙が連続して通過する場合(ステップS35)、制御部60は、搬送される小サイズ紙の枚数のカウントを開始する(ステップS37)。なお、搬送される用紙サイズが小サイズ紙であるか否かは、例えば、制御部60が操作パネル5やPC100からの入力指示に基づき判断する。また、制御部60は、温度センサ58Aからの信号に基づき、発熱ローラ40の中央部54の表面温度が定着温度180℃に保たれるように入力電力を制御する。小サイズ紙が通過しない端部56では熱が用紙に奪われないため、端部56の温度は上昇する。
制御部60は、ステップS38において、小サイズ紙のカウント枚数が所定の枚数を超えたかを判断し、超えた場合には、駆動周波数をより高い40〜60kHzの第2の駆動周波数、例えば、50kHzに変更してインバータ回路76を駆動し(ステップS39)、定着動作を継続する(ステップS40)。なお、第2の駆動周波数へ切り替えるための所定の枚数は、端部56の温度が式6を満たす温度TTHよりも高い第2の温度になる時の、通紙枚数を実験等あるいは計算から予め求めてメモリ等に格納しておけばよい。
上記実施の形態5の定着装置34によれば、小サイズ紙を連続通紙した際に、第1の駆動周波数より高い第2の駆動周波数で駆動することにより、インバータ回路76を流れる電流を正常な電流値の範囲内で使用することが可能となる。したがって、電流供給回路の電力供給を遮断することなく、電力を安定供給して定着を継続することができる。
〔加熱制御の実施の形態6〕
本実施の形態では、定着する小サイズ紙のジョブ開始からの時間を計測し、連続通紙時間が一定時間経った場合にインバータ回路76の駆動周波数を変える制御を行う。以下、上記実施の形態と同一部分には同一符号を付し、本実施の形態の特徴部分のみを説明する。
図16に示すように、ジョブ開始からの時間を計測する時間計測手段であるタイマー104が、制御部60に接続される。タイマー104は、制御部60の指示によって、画像形成の開始からの時間を計測する。あるいは、画像形成部3内の用紙搬送路中に配置された用紙検知手段102によって用紙を検知してからの時間を計測してもよい。また、タイマー104は、制御部60が有していても良い。
図17は、本実施の形態の発熱ローラ温度制御の例を示すフローチャートである。なお、ステップS41乃至ステップS45は、図10のステップS1乃至ステップS5や図12のステップS17乃至ステップS21と同様であるので説明を省略する。
制御部60は、搬送される用紙サイズが小サイズ紙であるか否かを、例えば、操作パネル5やPC100からの入力指示に基づき判断する(ステップS44)。タイマー104は、制御部60の指示によって時間計測を開始する(ステップS46)。また、制御部60は、温度センサ58Aからの信号に基づき、発熱ローラ40の中央部54の表面温度が定着温度180℃に保たれるように入力電力を制御する。小サイズ紙が通過しない端部56では熱が用紙に奪われないため、端部56の温度は上昇する。
制御部60は、ステップS47において、時間計測の開始から所定時間経ったと判断した場合には、駆動周波数をより高い40〜60kHzの第2の駆動周波数、例えば、50kHzに変更してインバータ回路76を駆動し(ステップS48)、定着動作を継続する(ステップS49)。なお、第2の駆動周波数へ切り替えるための所定時間については、例えば、小サイズ紙の画像形成を開始してから、あるいは、用紙検知手段102が小サイズ紙を検知してから、端部56の温度が数式〔数16〕を満たす温度TTHよりも高い第2の温度になるまでの時間を、実験あるいは計算から予め求めてメモリ等に格納しておけばよい。
上記第実施の形態6の定着装置34によれば、小サイズ紙を連続通紙した際に、第1の駆動周波数より高い第2の駆動周波数で駆動することにより、電流供給回路を流れる電流を正常な電流値の範囲内で使用することが可能となる。したがって、インバータ回路76の電力供給を遮断することなく、電力を安定供給して定着を継続することができる。
なお、上記の実施の形態では、第1の駆動周波数から第2の駆動周波数へ大きく変更する形態を挙げたがこれに限定されるものではない。例えば、温度センサ58Bあるいは電流検知部92の信号をフィードバックし、徐々にあるいは段階的に周波数を増加させても良い。
また、上記実施の形態の定着装置34の構成として、トナーの定着が行なわれるニップ部は、発熱ローラ40に加圧ローラ42が圧接されて形成される構成を挙げたがこれに限定されるものではない。例えば、加圧ローラ42の位置が発熱ローラ40からずれた位置において、発熱ローラ40によって暖められたベルト46へ圧接させてニップ部を形成するとしても良い。また、ベルト46を用いず、発熱ローラ40と加圧ローラ42とが直接ニップ部を形成しても良い。
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、種々、変形し、組み合わせて実施することが可能である。