JP5099910B2 - 内燃機関用オイルリング - Google Patents

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Description

本件発明は、オイルリング本体とコイルエキスパンダとから成る2ピース構成の内燃機関用オイルリングに関する。
従来より、内燃機関においては、燃費を向上させるために、シリンダライナ内壁面とピストンリングとの間における摩擦の低減を実現することが重要となっている。そのため、シリンダを潤滑した後の余分なエンジンオイルを掻き取り、ピストン裏面に流下させる役割を持つ内燃機関用オイルリングに関しても同様に、シリンダライナ内壁面との間に生じる摩擦力を低減することによる燃費の向上と共にオイル消費の低減を図ることができるものが求められてきた。
そこで、この問題を解決するために、例えば特許文献1に記載されたようなオイルリングが提案されている。特許文献1には、「剛性の塊である上下のサイドレールとこれら両サイドレールを連結する多数のオイル孔を備えた、0.3mm以上で0.8mm以下の薄肉ウエブとから構成される断面略I形の鋼製オイル掻きリングを有し、該オイル掻きリングの外周には掻き取ったオイルを受容するための周溝が形成され、他方、内周には、環状のコイルエキスパンダを収容するための周溝が形成され、該コイルエキスパンダは横断面で見て上下のサイドレールと実質上二点のみで接触し、これら接触点以外の部分においてコイルエキスパンダは上記ウエブから隔てられ該ウエブとの間に所定の微小間隙が形成されていることを特徴とする」コイルエキスパンダ付オイルリングが開示されている。
特開昭61−45172号公報
しかしながら、特許文献1に記載されたオイルリング本体は、コイルエキスパンダが配置される内周側のシリンダ軸方向断面が角形状であり、当該内周側壁面が平面状であるため、オイルリング本体とコイルエキスパンダとが、シリンダ軸方向断面でみたときに二点のみで接触することとなり、例えオイルリングを鋼製としてもオイルリング本体の摩耗の促進を招きやすく、コイルエキスパンダの張力のバラツキを大きくしてしまうという問題があった。
コイルエキスパンダの張力が高くなり、オイルリングのシリンダライナ内壁面に対する押圧力が増大することで、当該内壁面への追従性を向上させ、オイル消費量を削減することは出来るが、当該張力が高くなり過ぎるとシリンダライナ内壁面とオイルリングとの間における摩擦が大きくなり過ぎて、ピストンのスムーズな往復運動を阻害することになる。また、オイルリングのシリンダライナ内壁面に対する押圧力が小さくなり過ぎるとオイル掻き性能が低下して、オイル消費量の増大を招いたり、オイル上がりが生じてエンジンのシリンダ燃焼室側にオイルが侵入することによって、オイルが一緒に燃焼されて黒煙が発生してしまう場合もある。そのため、オイルリングのシリンダライナ内壁面に対する押圧力は、ピストンのスムーズな往復運動を阻害せず、且つ、オイル掻き性能を低下させない状態で常に安定させておくことが重要である。
そして、オイルリングは、シリンダライナ内壁面に適切な油膜を形成すると共に、シリンダライナ内壁面の余分なオイルを掻き取り、掻き取ったオイルをピストン裏面のオイルパンに戻す、オイルのコントロール機能を担うものである。この機能は、オイル消費量の増大を防ぐ以外にも、ピストンの内側にオイルを押し出すことによってピストン本体を冷却するという重要な役割も担ってる。
以上のことから、オイルリングにおいては、内燃機関の駆動時のオイル消費量の低減化、及び、オイルリング自身の耐摩耗性の向上を図ることができ、また同時に、これら機能を高めるために必要なシリンダライナ内壁面に対する押圧力の安定化と設計自由度の向上化が求められている。
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、前記課題を解決するため、以下のような内燃機関用オイルリングを採用した。
本件発明の内燃機関用オイルリングは、シリンダ軸方向断面が略I字型のオイルリング本体と当該オイルリング本体内周側に配置されるコイルエキスパンダとからなり、当該オイルリング本体は、シリンダライナ内周壁と摺動する第1レールと、第2レールと、当該第1レール及び第2レールがシリンダライナの内周壁より掻き落としたオイルをピストン裏面へ流下させるための複数のオイル戻し孔を備えるウェブとで構成され、当該オイルリング本体は、窒化処理層を設けた部位の母材相である未窒化層の厚さが50μm以上であり、当該オイルリング本体は、その内周面に沿って、シリンダライナの軸方向断面が半円状のコイルエキスパンダ収容凹部を備え、更に、当該コイルエキスパンダ収容凹部の内周面には、その内周方向に沿って、掻き落としたオイルをピストン裏面へスムーズに戻すためのオイル戻し溝部が形成され、当該オイル戻し溝部は、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、当該コイルエキスパンダの外周を基準とした場合に、シリンダ径方向最小深さをAとし、当該ウェブのシリンダ径方向最小厚さをBとした場合、A/B=0.22〜0.77であり、且つ、当該オイル戻し溝部は、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ軸方向高さをXとし、当該コイルエキスパンダ収容凹部の半円状部の円弧長さをYとした場合、X/Y=0.04〜0.5であり、当該オイルリングのシリンダボア径に対する張力比が0.1N/mm〜0.5N/mmであることを特徴としている。
そして、本件発明の内燃機関用オイルリングは、前記オイルリング本体を構成するウェブのシリンダ径方向最小厚さBは、0.08mm以上であることが好ましい。
また、本件発明の内燃機関用オイルリングは、前記オイルリング本体を構成するウェブに設けるオイル戻し孔は、当該オイルリング本体の円周方向に沿った開口幅が1.0mm〜5.0mm、シリンダ軸方向に沿った開口高さが0.3mm〜0.8mmであることが好ましい。
また、本件発明の内燃機関用オイルリングは、前記オイルリング本体のシリンダ軸方向高さh1が1.0mm〜2.5mmであることが好ましい。
本件発明の内燃機関用オイルリングは、コイルエキスパンダ収容凹部の内周面には、その内周方向に沿って、掻き落としたオイルをピストン裏面へスムーズに戻すためのオイル戻し溝部が形成され、当該オイル戻し溝部は、オイルリング本体の径方向断面において、当該コイルエキスパンダの外周を基準とした場合に、シリンダ径方向最小深さをAとし、当該ウェブのシリンダ径方向最小厚さをBとした場合、A/B=0.22〜0.77であり、且つ、当該オイル戻し溝部は、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ軸方向高さをXとし、当該コイルエキスパンダ収容凹部の半円状部の円弧長さをYとした場合、X/Y=0.04〜0.5となるように設定したものである。
オイルリング本体の寸法形状を、上述の設定条件を具備したものとすることにより、ピストン裏面へのオイル戻りをスムーズに行うことができ、更に、オイルリングのシリンダライナ内壁面に対する押圧力のバラツキを抑えることができる。すなわち、本件発明に係るオイルリングを用いることで、主に自動車に使用されるガソリン用内燃機関、ディーゼル用内燃機関のオイル消費量を確実に削減できると共に燃費の向上を図ることができるようになる。
以下、本件発明の実施の形態を図を用いて説明する。図1は、本件発明の一実施の形態を示す内燃機関用オイルリング1のシリンダ軸方向断面図である。図1における、この内燃機関用オイルリング1は、ピストン10のオイルリング溝11に装着されている。また、この内燃機関用オイルリング1は、2ピース構成のオイルリングであり、オイルリング本体2と、コイルエキスパンダ3とから構成されている。
オイルリング本体2は、図2に示すように摺動方向側からみて略円形で、且つ、シリンダ軸方向断面が略I字状に形成されており、合口部2aを備えている。そして、このオイルリング本体2は、第1レール21と、第2レール22と、ウェブ23とが一体化して構成されている。
第1レール21及び第2レール22は、摺動方向側からみて略円形状に形成されている。図1に示すように、この第1レール21及び第2レール22の各々は、オイルリング本体2の上側部分及び下側部分を構成している。そして、第1レール21及び第2レール22の摺動方向に対して垂直となる外表面が、ピストン10の往復動作の際に、ピストン10のオイルリング溝11に当接する。また、第1レール21及び第2レール22の各々の外周摺動面211,221は、シリンダライナ50の内周壁51と油膜を介して接触し、ピストン軸方向に摺動する。
また、ウェブ23は、図2に示すように摺動方向側からみて略円形状であって、双方の第1及び第2レール21,22よりも薄肉状に形成されている。そして、このウェブ23は、図1に示すように、第1レール21と第2レール22とを連結してオイルリング本体2の中間部分を構成している。また、図2や図3から明らかなように、このウェブ23には、貫通形成されたオイル戻し孔231が周方向に複数配置した状態で形成されている。
また、この内燃機関用オイルリング1では、オイルリング本体2の外表面に窒化処理層を設けた部位の母材相である未窒化層の厚さを50μm以上に設定している。オイルリング本体2は、窒化処理を施すことで外表面を硬化させて耐久性を向上させることができる。これは、最近の自動車用内燃機関の高速、高負荷化により、オイルリング本体2についてもより高い耐摩耗性が要求されている背景があるためである。オイルリング本体2は、その材質に主に鉄鋼材料が用いられ、オイルリング本体2に窒化処理を行うことでクロムや鉄と反応して作られる窒化物からなる極めて硬い窒化層を備えることとなる。すなわち、オイルリング本体2は、その表面に窒化層を形成することで、耐摩耗性及びシリンダライナに対する耐スカッフ性に優れたものとなり、より過酷な状況下での使用に耐え得る内燃機関用オイルリングを提供することが可能となる。しかし、窒化処理を行うことによって、オイルリング本体2の母材全体が窒化されることとなると、オイルリング本体2は硬くなり過ぎて脆くなり、耐折損性を低下させてしまう。そのため、本件発明のオイルリングにおいて窒化を施す場合には、窒化処理層を設けた部位の母材相である未窒化層の厚さを50μm以上に設定することが好ましい。
そして、図1に示すように、オイルリング本体2の内周面には、第1及び第2レール21,22及びウェブ23により、コイルエキスパンダ収容凹部2bが周方向に形成されている。当該コイルエキスパンダ収容凹部は、シリンダ軸方向断面でみたときに半円状となっている。また、オイルリング本体2の外周面側には、双方の第1及び第2レール21,22及びウェブ23により、シリンダ軸方向断面でみたときに凹字状の外周溝2cが周方向に形成されている。
一方、前記コイルエキスパンダ3は、スプリングのように螺旋状の形態のコイルを用いて、これを円弧状としたものである。そして、このコイルエキスパンダ3は、オイルリング本体2の内周側においてコイルエキスパンダ収容凹部2b内に安定して配置されている。そして、コイルエキスパンダ3は、シリンダ軸方向断面でみてオイルリング本体2の第1及び第2レール21,22とで形成される半円状部内に包み込まれる状態で収容されており、この状態でオイルリング本体2をシリンダライナ50の内周壁51に対して押圧している。なお、図示はしないが、コイルエキスパンダ3には、当該コイルエキスパンダの合口部を接続し円環状のコイルとするために、当該合口部にジョイント用の芯線が用いられている。
そして、図1に示すように、コイルエキスパンダ3とオイルリング本体2との間には、オイル戻し溝部40が形成されている。なお、ここで言うコイルエキスパンダは、断面が丸形状の線材、断面が矩形状の線材等の従来から使用されてきた線材を用いて製造することができる。このとき、オイルリングの薄幅化が進む現状をふまえ、コイルエキスパンダ自体の太さを細くし、且つ、要求張力を満たすことの容易性を考慮すると、シリンダ軸方向断面が矩形状の線材を用いることが好ましい。オイルリングの薄幅化が過剰に進むと、要求張力を満たすことが困難となるため、コイルエキスパンダの形状をコイル軸方向が厚くなるように、断面を矩形状にしなければならなくなる。しかし、コイルエキスパンダの断面が矩形状となると、コイルエキスパンダの外周部によってオイル戻し孔を塞ぐ面積が大きくなるため、オイルリングが掻き落としたオイルがオイル孔を通ってオイルリングの外周溝から内周溝へ流れにくくなり、その結果、シリンダライナの内周壁に付着している余分なオイルをピストン裏面へ掻き出す効果は減少してしまう。
かかる構成において、図1を参照しつつ、内燃機関用オイルリング1の機能を詳しく説明する。図1に示すように、ピストン10が往復動する際に、オイルリング本体2の双方の第1及び第2レール21,22の外周摺動面211,221が、シリンダライナ50の内周壁51に付着している余分なオイルを掻き落とす。掻き落とされたオイルは、オイルリング本体2の外周溝2c内に一時的に滞留受容された後、オイル戻し孔231を通ってコイルエキスパンダ収容凹部2bに流れる。コイルエキスパンダ収容凹部2bに流されてきたオイルは、オイルリング溝11内に設けられているオイルドレイン穴24を通ってピストン10の裏面に流下し、オイルパンに戻される。
そして、この内燃機関用オイルリング1では、オイルリング本体2とコイルエキスパンダ3との間にオイル戻し溝部40が形成されていることにより、例えオイルリング本体2のコイルエキスパンダ配置側の形状が半円状であったとしても、オイル戻し溝部40の存在により、内燃機関用オイルリング1の掻き落としたオイルは、すばやくオイルリングの背面側に設けられたオイルドレイン穴24に逃がすことができ、オイル消費量を低減させることが可能となる。
この内燃機関用オイルリング1では、オイル戻し溝部40は、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、当該コイルエキスパンダの外周を基準とした場合に、シリンダ径方向最小深さをAとし、ウェブ23の径方向最小厚さをBとした場合、A/Bを0.22〜0.77に設定している。ここで、当該A/Bが0.22未満の場合には、オイル戻し溝部40の当該ウェブ23のシリンダ径方向最小厚さBに対する径方向深さが浅くなり過ぎて、ピストン裏面へのオイル戻し機能を十分に発揮することができない。すなわち、内燃機関用オイルリング1におけるオイル戻し溝部40の占める割合が小さくなるため、オイルリング本体2のウェブ23に形成されるオイル戻し孔231の大部分が塞がれてしまい、オイル戻し孔231を通過したオイルが内燃機関用オイルリング1の内周側にスムーズに排出されないおそれがある。一方、当該A/Bが0.77を超える場合には、オイル戻し溝部40の当該ウェブ23のシリンダ径方向最小厚さBに対する径方向深さが深くなり過ぎて、ウェブ23のシリンダ径方向断面厚さが薄くなり、オイルリング本体2の耐久性が低下してしまう。
また、この内燃機関用オイルリング1では、オイル戻し溝部40は、図4に示すようにシリンダ軸方向断面におけるオイルリング本体2のシリンダ軸方向高さをXとし、当該コイルエキスパンダ収容凹部の半円状部の円弧長さをYとした場合、X/Y=0.04〜0.5に設定している。ここで、当該X/Yが0.04未満の場合には、オイル戻し溝部40のシリンダ軸方向への高さが高くなり過ぎて、ウェブ23全体の厚さが薄くなることによる強度の低下を招いてしまう。仮に、当該ウェブ23のシリンダ径方向の厚さを厚くすることで当該強度の低下を防ごうとすると、コイルエキスパンダ3によりオイルリング本体2をシリンダライナ50の内周壁51に安定して押圧し続けることが困難となる。そのため、内燃機関用オイルリング1は、シリンダライナ内壁面51の余ったオイルを十分に掻き落とすことができず、エンジンオイルを燃焼室へ進入させてしまい、結果としてオイルの消費量が増大してしまうこととなる。一方、当該X/Yが0.5を超える場合には、オイル戻し溝部40のシリンダ軸方向への高さが低くなり過ぎて、内燃機関用オイルリング1におけるオイル戻し溝部40の占める割合が小さくなるため、オイル戻し孔231を通過したオイルが内燃機関用オイルリング1の内周側にスムーズに排出されないおそれがある。
また、この内燃機関用オイルリング1では、シリンダボア径(図示せず)に対する張力比([オイルリングの張力(N)]/[シリンダボア径(mm)]で算出される値)を、0.1N/mm〜0.5N/mmに設定している。ここで、シリンダボア径に対する張力比が0.1N/mmよりも小さい場合には、オイルリング本体2の外周摺動面211,221のシリンダライナ50の内周壁51に対する押圧力が不十分となる。したがって、当該外周摺動面211,221は余分なオイルを十分に掻き落とすことができず、オイル消費量が増大するおそれがある。また、シリンダボア径に対する張力比が0.5N/mmよりも大きい場合には、当該外周摺動面211,221のシリンダライナ50の内周壁51に対する押圧力が大きくなり過ぎて摩擦力が高くなり、燃費が低下するおそれがある。一般的に、シリンダライナとオイルリングとの摩擦力は、オイルリングの張力の大きさに比例する傾向にある。
このように、本実施の形態の内燃機関用オイルリング1においては、オイル戻し溝部40の寸法形状、ウェブ23のシリンダ径方向最小厚さB、オイル戻し孔231の開口幅C及び開口高さD、オイルリング本体の軸方向高さh1、シリンダボア径(図示せず)に対する張力比をそれぞれ適切な範囲に設定することにより、オイル消費量の低減を図ることができるとともに、耐久性及び燃費が低下するのを抑えることができる。
また、オイルリングの耐久性は、オイルリング外周摺動面とシリンダ内壁面との摩擦力の大きさに影響するため、上述したように、オイルリングの張力の大きさを考慮するが、摺動する金属の組み合わせ方によっても影響を受ける。例えば、摺動する金属の材質をクロム同士やアルミ同士にすると焼き付きを起こし易くなる。そこで、当該金属の材質を考えた上で、耐摩耗性に優れたコーティングを施すのが一般的であり、オイルリング本体の外表面に窒化処理を施すのも同じ理由によるものである。また同様に、オイルリング外周摺動面には、必要に応じ、クロム窒化物(Cr N、CrN)からなる皮膜や、クロム窒化物(Cr N、CrN)とクロム(Cr)の混合物からなるイオンプレーティング皮膜を形成することも耐摩耗性の観点からみるとより好ましい。その他、オイルリング外周摺動面に、クロム−ボロンよりなる窒化物(Cr−B−N)、DLC(ダイヤモンド ライク カーボン)等の皮膜を形成することによってもオイルリングの耐久性の向上を図ることができる。
また、この内燃機関用オイルリング1は、オイル戻し溝部40におけるオイルリング本体2を構成するウェブ23のシリンダ径方向最小厚さBを0.08mm以上に設定している。ここで、当該オイル戻し溝部40におけるウェブ23のシリンダ径方向最小厚さBが0.08mm未満となると、当該ウェブ23の厚さが薄くなり過ぎてオイルリング本体2の強度が低くなり、当該オイルリングを内燃機関用として用いた場合に十分な耐久性を得ることができない。
また、この内燃機関用オイルリング1では、オイルリング本体2を構成するウェブ23に設けるオイル戻し孔231は、図3に示すように、当該オイルリング本体2の円周方向に沿った開口幅Cを1.0mm〜5.0mm、シリンダ軸方向に沿った開口高さDを0.3mm〜0.8mmに設定している。ここで、当該開口幅Cが1.0mmより小さく、当該開口高さDが0.3mmより小さい場合には、オイル戻し孔231の開口面積が小さすぎて掻き落としたオイルを速やかにオイルリングの背面側に設けられたオイルドレイン穴24へ排出することができない。また、当該開口幅Cが5.0mmより大きく、当該開口高さDが0.8mmより大きい場合には、オイル戻し孔231の面積が大きすぎてオイルリング本体2の強度が低下してしまう。なお、オイル戻し孔231の形状は、図3に示すような、長方形形状の両端部の開口高さDに相当する辺を一定の曲率半径Rを備える弧状辺として形成したものに限定されない。例えば、オイルリングとしての要求特性を満たす限りにおいて長方形、円形状、楕円形状、開口高さDに相当する辺を曲線形状としたもの等の種々の形状を適宜選択して使用することができる。
また、この内燃機関用オイルリング1では、オイルリング本体2のシリンダ軸方向高さh1を1.0mm〜2.5mmに設定している。ここで、オイルリング本体2のシリンダ軸方向高さh1が1.0mmよりも低い場合には、外周摺動面211,221においてシリンダライナ50の内周壁51に対する接触面積が小さくなると共に、オイルリング本体2の強度の低下を招く恐れがあるため、オイル戻し孔231の開口面積を広く取ることが出来なくなり、掻き落としたオイルがオイル戻し孔231を通ってオイルリング本体2の外周溝から内周溝へ流れにくくなるため、結果として、オイル消費量が増大してしまう。また、内燃機関用オイルリング1のオイルリング本体2のシリンダ軸方向高さh1が2.5mmよりも高い場合には、コイルエキスパンダ3の張力を高くしないとオイルリング本体2のシリンダライナ内壁面51への押圧力が低下するため、オイル消費量が増大してしまう。
以下、実施例および比較例を示して本件発明を具体的に説明する。なお、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1では、排気量が2000cc、シリンダボア径が86mmの4気筒ガソリンエンジンの実機試験を行い、オイルリングのコイルエキスパンダ収容凹部の内周面にオイル戻し溝部が有るものと無いものとでオイル消費量に違いが生じるか否かについての確認を行った。なお、エンジンの運転条件は、全負荷(WOT)で回転数5000rpmで10時間行った。そして、ピストンリングの組み合わせは、1stリング、2ndリング、オイルリングとした。このときの1stリングは、10Cr鋼からなるシリンダ軸方向高さ(h1)1.2mm、シリンダ径方向厚さ(a1)2.9mmのものにガス窒化処理を施したものを用いた。2ndリングは、FC材からなる軸方向高さ(h1)1.2mm、径方向厚さ(a1)3.4mmのものを用いた。
なお、念のために1stリングを構成する10Cr鋼及び2ndリングを構成するFC材に関して述べておく。ここで言う10Cr鋼は、炭素0.50質量%、ケイ素0.21質量%、マンガン0.30質量%、クロム10.1質量%、リン0.02質量%、硫黄0.01質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備え、且つ、ガス窒化処理を施したものである。そして、ここで言うFC材とは、炭素3.41質量%、ケイ素2.05質量%、マンガン0.65質量%、リン0.30質量%、硫黄0.08質量%、クロム0.10質量%、銅0.10質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備えるFC250材相当のものである。
そして、オイルリングは、上述の実施の形態で述べた2ピース構成の内燃機関用オイルリングを使用した。なお、オイルリング本体のシリンダ径方向の厚さ(a1)は、2.0mmであり、コイルエキスパンダ配置後のオイルリングのシリンダ径方向厚さ(a12)は2.75mmであるものを用いた。実施例1で使用するオイルリング内周面のコイルエキスパンダ収容凹部に形成されるオイル戻し溝部の寸法形状は、溝幅(X)0.5mm、溝のシリンダ径方向最小深さ(A)0.20mmとなるものを使用した。ここで、実施例1のオイルリングは、当該オイル戻し溝部が、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ径方向最小深さをAとし、当該ウェブのシリンダ径方向最小厚さをBとした場合、A/Bが0.5となり、本件発明の条件であるA/Bが0.22〜0.77となる条件を満足するものである。また、実施例1のオイルリングは、当該オイル戻し溝部が、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ軸方向高さをXとし、当該コイルエキスパンダ収容凹部の半円状部の円弧長さをYとした場合、X/Yが約0.33となり、本件発明の条件であるX/Yが0.04〜0.5となる条件を満足するものである。なお、オイルリング本体の当該オイル戻し溝部以外の形状は、以下に示す実施例2、比較例1、比較例2についても全て同じ形状のものを使用した。実施例1で用いるオイルリングの形状は、具体的には下記に示す仕様のものである。
オイル戻し溝部のシリンダ径方向最小深さ(A) :0.20mm
ウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B) :0.40mm
オイル戻し溝部のシリンダ軸方向高さ(X) :0.5mm
コイルエキスパンダ収容凹部の円弧長さ(Y) :1.5mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :1.4mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.5mm
シリンダボア径に対する張力比 :0.23N/mm
ここで言うオイルリングを構成するオイルリング本体は、炭素0.65質量%、ケイ素0.38質量%、マンガン0.35質量%、クロム13.50質量%、モリブデン0.3質量%、リン0.01質量%、硫黄0.01質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成の所謂13Cr鋼(SUS410相当)を用い、且つ、ガス窒化処理を施しているものを用いた。なお、ガス窒化処理を施した際に、シリンダ軸方向断面にてウェブ部の窒化層と母材とを確認した結果、70μmの窒化層が形成され、50μm以上の母材相が存在していることを確認した。そして、コイルエキスパンダは、炭素0.55質量%、ケイ素1.41質量%、マンガン0.65質量%、クロム0.68質量%、銅0.06質量%、リン0.01質量%、硫黄0.01質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備えるSWOSC−V材相当の素材を用いた。
実施例1において、オイルリング本体の材質に所謂13Cr鋼(SUS410相当)を用いたが、通常、車種等によって用いられる材質は使い分けられる。例えば、13Cr鋼は主にディーゼル車に用いられるものであり、更にクロム含有量を増加した17Cr鋼(SUS440相当)は主にエンジンがより高負荷にさらされるディーゼル車に用いられる。なお、オイルリングの材質としては、今回実施例1で用いた13Cr鋼及び上述した17Cr鋼の他に、8Cr鋼、SK材(工具鋼)等が好適に用いられるが、これらの材質に限定されるものではない。
ここで、本件発明のオイルリングに窒化を施した場合、オイルリングにどのような影響を及ぼすかについて述べておく。例えば、13Cr鋼や17Cr鋼に窒化処理を施すと、窒素原子が表面から鋼中に侵入、拡散して窒化層を形成する。窒化層中の窒化物は、主にクロム、バナジウム、モリブデンとの化合物又は鉄を固溶したそれらの化合物である。鋼中のクロムは、母材中に固溶する他、クロム炭化物として存在するが、炭素よりも窒素との親和力が大きいため、窒化処理により表面から拡散してくる窒素とクロム炭化物が反応してクロム窒化物を生成する。13Cr鋼や17Cr鋼はクロム含有量が多いため、上述の理由により硬いクロム窒化物が多く分散することで比較的硬度の高い窒化層が得られると共に、優れた耐摩耗性、耐スカッフィング性を備える。また窒化処理は、その処理コストが安価であり、クロムめっきに比べて環境へ及ぼす影響も小さい。上述した窒化処理は、その方法として液体窒化(塩浴窒化)法やガス窒化法等が挙げられる。なお、本件発明において窒化処理を施す場合には、安価なガス窒化法を用いることが好ましい。また、オイルリング本体の一部分にのみ窒化層を形成する場合は、オイルリング本体の全面に窒化層を形成した後、後処理により不必要な部分の窒化層を除去する方法や、マスキング処理として、例えば予め窒化層を形成しない部分にリン酸亜鉛等を付着させ、その後窒化処理を施す方法等により、窒化層を部分的に形成することが可能である。
また、この実施例1では、シリンダボア径に対する張力比を0.23N/mmとしたオイルリングを使用して、オイル消費量の確認を行った。当該オイル消費量の確認において、実施例2、比較例1及び比較例2との対比を行うにあたり、1stリング及び2ndリングは全て同様なリングを用い、オイルリング本体の内周にオイル戻し溝部を形成しない仕様のオイルリングを用いて実機試験をして得られたオイル消費量を基準となる1とした。その結果、実施例1のオイル消費量比は0.8となった。
実施例2は、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させてオイル消費量の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、1stリング、2ndリング、オイルリングを組み合わせたものを使用した。1stリング及び2ndリングは実施例1で使用したものと同じものである。また、実施例2のオイルリング本体は、ガス窒化処理を施しているものを用いた。なお、ガス窒化処理を施した際に、シリンダ軸方向断面にてウェブ部の窒化層と母材とを確認した結果、100μmの窒化層が形成され、50μm以上の母材相が存在していることを確認した。実施例2で用いるオイルリングの形状は、具体的には下記に示す仕様のものである。
オイル戻し溝部のシリンダ径方向最小深さ(A) :0.10mm
ウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B) :0.45mm
オイル戻し溝部のシリンダ軸方向高さ(X) :0.1mm
コイルエキスパンダ収容凹部の円弧長さ(Y) :2.5mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :1.4mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.5mm
シリンダボア径に対する張力比 :0.23N/mm
ここで、実施例2のオイルリングは、当該オイル戻し溝部が、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ径方向最小深さをAとし、当該ウェブのシリンダ径方向最小厚さをBとした場合、A/Bが約0.222となり、本件発明の条件であるA/Bが0.22〜0.77となる条件を満足するものである。また、実施例2のオイルリングは、当該オイル戻し溝部が、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ軸方向高さをXとし、当該コイルエキスパンダ収容凹部の半円状部の円弧長さをYとした場合、X/Yが約0.04となり、本件発明の条件であるX/Yが0.04〜0.5となる条件を満足するものである。
そして、この実施例2では、実施例1と同様にシリンダボア径に対する張力比を実施例1と同じ条件となる0.23N/mmのものを用いて、オイル消費量の確認を行った。その結果、実施例2のオイル消費量比は約0.93となった。
比較例
[比較例1]
比較例1は、実施例との対比用として用いる。比較例1では、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させてオイル消費量の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、1stリング、2ndリング、オイルリングを組み合わせたものを使用した。1stリング及び2ndリングは実施例1で使用したものと同じものである。また、比較例1のオイルリング本体は、ガス窒化処理を施しているものを用いた。なお、ガス窒化処理を施した際に、シリンダ軸方向断面にてウェブ部の窒化層と母材とを確認した結果、100μmの窒化層が形成され、50μm以上の母材相が存在していることを確認した。比較例1で用いるオイルリングの形状は、具体的には下記に示す仕様のものである。
オイル戻し溝部のシリンダ径方向最小深さ(A) :0.05mm
ウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B) :0.45mm
オイル戻し溝部のシリンダ軸方向高さ(X) :0.05mm
コイルエキスパンダ収容凹部の円弧長さ(Y) :2.5mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :1.4mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.5mm
シリンダボア径に対する張力比 :0.23N/mm
ここで、比較例1のオイルリングは、当該オイル戻し溝部が、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ径方向最小深さをAとし、当該ウェブのシリンダ径方向最小厚さをBとした場合、A/Bが約0.11となり、本件発明の条件であるA/Bが0.22〜0.77となる条件を満足していないものである。また、比較例1のオイルリングは、当該オイル戻し溝部が、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ軸方向高さをXとし、当該コイルエキスパンダ収容凹部の半円状部の円弧長さをYとした場合、X/Yが約0.02となり、本件発明の条件であるX/Yが0.04〜0.5となる条件を満足していないものである。
そして、この比較例1では、実施例1と同様にシリンダボア径に対する張力比を実施例1と同じ条件となる0.23N/mmのものを用いて、オイル消費量の確認を行った。その結果、比較例1のオイル消費量比は約0.99となった。
[比較例2]
比較例2は、実施例との対比用として用いる。比較例2では、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させてオイル消費量の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、1stリング、2ndリング、オイルリングを組み合わせたものを使用した。1stリング及び2ndリングは実施例1で使用したものと同じものである。また、比較例2のオイルリング本体は、ガス窒化処理を施しているものを用いた。なお、ガス窒化処理を施した際に、シリンダ軸方向断面にてウェブ部の窒化層と母材とを確認した結果、100μmの窒化層が形成され、50μm以上の母材相が存在していることを確認した。比較例2で用いるオイルリングの形状は、具体的には下記に示す仕様のものである。
オイル戻し溝部のシリンダ径方向最小深さ(A) :0mm
ウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B) :0.45mm
オイル戻し溝部のシリンダ軸方向高さ(X) :0mm
コイルエキスパンダ収容凹部の円弧長さ(Y) :2.5mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :1.4mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.5mm
シリンダボア径に対する張力比 :0.23N/mm
ここで、比較例2のオイルリングは、当該オイル戻し溝部が、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ径方向最小深さをAとし、当該ウェブのシリンダ径方向最小厚さをBとした場合、A/Bが0となり、本件発明の条件であるA/Bが0.22〜0.77となる条件を満足していないものである。また、比較例2のオイルリングは、当該オイル戻し溝部が、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ軸方向高さをXとし、当該コイルエキスパンダ収容凹部の半円状部の円弧長さをYとした場合、X/Yが0となり、本件発明の条件であるX/Yが0.04〜0.5となる条件を満足していないものである。
そして、この比較例2では、実施例1と同様にシリンダボア径に対する張力比を実施例1と同じ条件となる0.23N/mmのものを用いて、オイル消費量の確認を行った。その結果、比較例2のオイル消費量比を基準として「1」とした。
[実施例と比較例との対比]
実施例と比較例との対比: 図5には、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2のそれぞれのオイル消費量比の対比結果を示している。この図5のオイル消費量比は、比較例2のオイルリング(オイル戻し溝部なし)を用いたときのオイル消費量(g/h)の数値を1.00とした場合の比率である。これらの結果を対比可能なように、図5に纏めて示す。図5より、実施例1のオイルリングのオイル戻し溝部の溝幅が0.50mmで溝のシリンダ径方向最小深さが0.20mmのオイルリングが最もオイル消費量が少ないことが分かった。その次にオイル消費量が少ないのが実施例2のオイルリングのオイル戻し溝部の溝幅が0.10mmで溝のシリンダ径方向最小深さが0.10mmのオイルリングとなった。またその次にオイル消費量が少ないのが比較例1のオイルリングのオイル戻し溝部の溝幅が0.05mmで溝のシリンダ径方向最小深さが0.05mmのオイルリングであり、オイル戻し溝部のない比較例2のオイルリングがこれらの中では最もオイル消費量が多くなる結果となった。この結果より、オイル戻し溝部が大きくなるほどオイル消費量は少なくなることが分かった。
なお、実施例1及び実施例2でオイル消費量の確認をするために用いたオイルリングは、オイル戻し溝部の溝幅が0.50mmで溝のシリンダ径方向最小深さが0.20mmの寸法のものと、オイル戻し溝部の溝幅が0.10mmで溝のシリンダ径方向最小深さが0.10mmの寸法のものとを使用したが、当該寸法が本件発明の条件に基づくオイルリングの形状としてふさわしいものである根拠を以下の試験結果を元に示す。
[オイルリングを構成するウェブのシリンダ径方向最小厚さに対する発生応力確認試験]
オイルリングを構成するウェブのシリンダ径方向最小厚さBと発生応力との関係を確認するために、実施例1と同じ運転条件でエンジンを稼働させた場合にオイルリングにかかる荷重を想定し、当該荷重をオイルリングに負荷したときに発生する応力σを測定した。具体的には、コイルエキスパンダを配置した状態でオイルリングをシリンダに装着した時に、ウェブに発生する応力とオイル戻し溝部のシリンダ径方向最小深さ(A)との関係を算出した。
図6に、上述した応力測定方法に基づいて試験を実施し、オイルリングを構成するウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B)と発生応力との関係についての結果を示した。図6に示すように、当該ウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B)が0.06mmのときの発生応力は約550MPa、当該ウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B)が0.20mmのときの発生応力は約250MPa、当該ウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B)が0.45mmのときの発生応力は約220MPaとなった。図6には、ここで得られた各データを平滑線でつないだものを示している。
内燃機関用オイルリングに必要とされる耐久性を考慮した場合、オイルリング本体に発生する応力は500MPa以下であることが好ましい。図6より、オイルリング本体に発生する応力が500MPaを超えるのは、オイルリングを構成するウェブのシリンダ径方向厚さ(B)が約0.08mm未満となるときであることが分かる。この結果より、オイルリングを構成するウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B)は0.08mm以上の厚さが必要であることが分かる。過酷な条件下での使用を考慮すると、オイルリングを構成するウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B)は0.10mm以上あることがより好ましい。但し、オイルリングに窒化を施すことを考慮した場合には、未窒化部分の厚さが50μm以上なければ材質が硬くなり過ぎて脆くなってしまうため、オイルリングを構成するウェブのシリンダ径方向最小厚さBはそれを考慮した厚さであることが必要となる。実施例1のオイルリングは、ウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B)が0.40mmで、オイルリングのオイル戻し溝部のシリンダ径方向最小深さ(A)が0.20mmであることから、A/Bは0.5であり、且つ、オイル戻し溝部の高さ位置におけるウェブのシリンダ径方向厚さ(B−A)も0.20mmとなり、厚さの条件(0.08mm以上)も満足していることになる。また、実施例2のオイルリングは、ウェブのシリンダ径方向最小厚さ(B)が0.45mmで、オイルリングのオイル戻し溝部のシリンダ径方向最小深さ(A)が0.10mmであることから、A/Bは約0.222であり、且つ、オイル戻し溝部の高さ位置におけるウェブのシリンダ径方向厚さ(B−A)も0.35mmとなり、厚さの条件(0.08mm以上)も満足していることになる。
[オイルリングに形成されるオイル戻し溝部の高さ割合に対する発生応力確認試験]
オイルリングに形成されるオイル戻し溝部の高さ割合(オイルリングのコイルエキスパンダ収容凹部円弧長さに対するオイル戻し溝部のシリンダ軸方向高さ)と発生応力比との関係について確認を行った。具体的には、コイルエキスパンダを配置した状態でオイルリングをシリンダに装着した時に、オイルリング本体とコイルエキスパンダ間に発生する接触応力を算出した。図7には、当該オイル戻し溝部の高さ割合が0%(オイル戻し溝部なし)のときの発生応力(0.8MPa)を1とした場合の比率として、各オイル戻し溝部高さ割合毎の発生応力を示した。図7は、ここで得られた各データを平滑線でつないだものである。
図7に示すように、オイルリングのオイル戻し溝部の高さ割合が15%のときの発生応力比は1、当該溝高さ割合が35%のときの発生応力比は1.2、当該溝高さ割合が50%のときの発生応力比は1.5、当該溝高さ割合が60%のときの発生応力比は3.2、当該溝高さ割合が65%のときの発生応力比は6.2となった。図7より、当該溝高さ割合が50%を超えたあたりからオイルリング本体−コイルエキスパンダ間に発生する接触応力が急激に増大していることが分かる。この結果から、オイルリング本体とコイルエキスパンダとの耐久性を考慮した場合、当該溝高さ割合は50%以下となることが好ましい。
以上の試験結果より、オイルリングのオイル戻し溝部におけるウェブのシリンダ径方向最小厚さBは、0.08mm以上であることが好ましく、オイルリングのオイル戻し溝の溝高さ割合も50%以下であることが好ましいことが分かった。以上の結果をふまえて、実施例1のオイルリングには、オイルリングのオイル戻し溝部の寸法形状が溝幅0.5mm、溝深さ0.2mmのものを用いた。
なお、オイルリングのコイルエキスパンダを配置する内周側の径方向断面形状が角形状とすれば、オイルリングの内周側にオイル戻し溝部を設けなくとも十分な空間を確保することができ、掻き取ったオイルをスムーズにピストン裏面に流下させることができるが、当該径方向断面形状を半円形状とした場合に比して、オイルリングのシリンダライナ内壁面に対する押圧力のバラツキが大きくなってしまう問題がある。この理由としては、オイルリングのコイルエキスパンダを配置する内周側の径方向断面形状が角形状の場合、当該オイルリングと当該コイルエキスパンダとはシリンダ軸方向断面でみたときに二点のみで接触しているために、当該接触部で摩耗の促進を招きやすいことが考えられる。そのため、内周側のシリンダ軸方向断面形状が角形状のオイルリングを使用した場合には、当該シリンダ軸方向断面形状が半円形状のオイルリングを使用した場合に比して摩耗量が増大するため、コイルエキスパンダの収容状態が不安定となり易く、オイルリングのシリンダライナ内壁面に対する押圧力のバラツキが大きくなるために、当該押圧力の設定を当該バラツキを含めて調整する必要が生じてしまう。
ここで、コイルエキスパンダの張力は、なるべく低い方が燃費が向上する傾向がある。その理由は、当該張力が高くなるとオイルリングとシリンダライナ内壁面との摩擦が大きくなり、ピストンの往復運動に要する力が大きくなるためである。但し、コイルエキスパンダの張力が低下し過ぎると、オイルリングのオイル掻き性能が低下して、オイル消費量が増大してしまう。すなわち、コイルエキスパンダの張力は、オイル消費量の増大を招かない範囲で、且つ、低めに設定することが好ましい。
このように、オイル消費と燃費との双方を満足させるには、コイルエキスパンダの張力を低めに常に安定した状態で設定させておくことが好ましいが、上述したように、シリンダ径方向断面形状が角形状のオイルリングの場合は、当該張力にバラツキが生じやすく、当該張力を低めに常に安定した状態で設定させておくことは難しい。本件発明のオイルリングは、シリンダ軸方向断面形状が半円形状であり、コイルエキスパンダの収容状態が不安定になりにくくオイルリング内周部に摩耗が生じ難いため、オイルリングの張力をオイル消費量の増大を招かない範囲で、且つ、当該範囲の低めに設定することが可能となるため、オイルリングの設計の自由度が大きくなる。
本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、あらゆる内燃機関に適用可能なものであり、このオイルリングを用いることで、内燃機関の駆動時のオイル消費量の低減化、及び、オイルリング自身の耐摩耗性能の向上を図ることができ、また同時に、これら機能を高めるために必要なシリンダライナ内壁面に対する押圧力の安定化と設計自由度の向上化を図ることができる。従って、自動車用内燃機関に本件発明に係る内燃機関用オイルリングを用いることで、オイル供給頻度の低減と資源の有効利用、環境負荷の低減化が可能となり好ましい。
本件発明の一実施の形態を示す内燃機関用オイルリングの軸方向断面図である。 同実施の形態を示すオイルリング本体の斜視図である。 同実施の形態を示すオイルリング本体の要部拡大図である。 本件発明のオイルリングに形成されるオイル戻り溝部を示す要部拡大図である。 オイル戻し溝部シリンダ軸方向断面形状とオイル消費量比との関係を示すグラフである。 オイルリングを構成するウェブのシリンダ径方向最小厚さと発生応力との関係を示すグラフである。 オイル戻し溝部高さ割合と、オイルリングとコイルエキスパンダとの間の接触応力比との関係を示すグラフである。
1 内燃機関用オイルリング
2 オイルリング本体
2a 合口部
2b コイルエキスパンダ収容凹部
2c 外周溝
3 コイルエキスパンダ
10 ピストン
21 第1レール
22 第2レール
23 ウェブ
24 オイルドレイン穴
40 オイル戻し溝部
50 シリンダライナ
51 内周壁
231 オイル戻し孔
A オイル戻し溝部のシリンダ径方向最小深さ
B ウェブのシリンダ径方向最小厚さ
C オイル戻し孔の開口幅
D オイル戻し孔の開口高さ
h1 オイルリング本体の軸方向高さ

Claims (4)

  1. シリンダ軸方向断面が略I字型のオイルリング本体と当該オイルリング本体内周側に配置されるコイルエキスパンダとからなり、
    当該オイルリング本体は、シリンダライナ内周壁と摺動する第1レールと、第2レールと、当該第1レール及び第2レールがシリンダライナの内周壁より掻き落としたオイルをピストン裏面へ流下させるための複数のオイル戻し孔を備えるウェブとで構成され、
    当該オイルリング本体は、窒化処理層を設けた部位の母材相である未窒化層の厚さが50μm以上であり、
    当該オイルリング本体は、その内周面に沿って、シリンダライナの軸方向断面が半円状のコイルエキスパンダ収容凹部を備え、
    更に、当該コイルエキスパンダ収容凹部の内周面には、その内周方向に沿って、掻き落としたオイルをピストン裏面へスムーズに戻すためのオイル戻し溝部が形成され、
    当該オイル戻し溝部は、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、当該コイルエキスパンダの外周を基準とした場合に、シリンダ径方向最小深さをAとし、当該ウェブのシリンダ径方向最小厚さをBとした場合、A/B=0.22〜0.77であり、
    且つ、当該オイル戻し溝部は、オイルリング本体のシリンダ軸方向断面において、シリンダ軸方向高さをXとし、当該コイルエキスパンダ収容凹部の半円状部の円弧長さをYとした場合、X/Y=0.04〜0.5であり、
    当該オイルリングのシリンダボア径に対する張力比が0.1N/mm〜0.5N/mmであることを特徴とする内燃機関用オイルリング。
  2. 前記オイルリング本体を構成するウェブのシリンダ径方向最小厚さBは、0.08mm以上である請求項1に記載の内燃機関用オイルリング。
  3. 前記オイルリング本体を構成するウェブに設けるオイル戻し孔は、当該オイルリング本体の円周方向に沿った開口幅が1.0mm〜5.0mm、シリンダ軸方向に沿った開口高さが0.3mm〜0.8mmである請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用オイルリング。
  4. 前記オイルリング本体のシリンダ軸方向高さh1が1.0mm〜2.5mmである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の内燃機関用オイルリング。
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