JP5097616B2 - リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の製造方法 - Google Patents

リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の製造方法に関する。
リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体は、例えば電池を安全に高出力化できる点で、リチウムイオン二次電池、特にリチウム−空気電池やリチウム−海水電池等のリチウム電池の固体電解質等として着目されている。固体電解質に限らず、各用途に使用するためには、その用途に応じた形状にリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体を研磨する必要がある。
通常の研磨は、研磨液を供給しつつ、研磨パッドを被研磨物に擦りつけることでなされる。研磨の精度及び効率を向上するため、研磨液に関する研究がなされている。例えば特許文献1には、化学反応性が高い酸化セリウムを用いて、β石英又はβ石英固溶体を主結晶相とするガラスセラミックス(結晶化ガラス)を研磨する技術が開示されている。
特開2006−312230号公報
しかし、研磨対象素材であるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体を研磨する場合に前述の研磨液を用いても、研磨効率が悪いという問題が生じていた。つまり、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体を固体電解質として使用する際には、そのリチウムイオン伝導の抵抗を少なくするため、ガラスセラミックス体を非常に薄く(例えば350μm以下が好ましい)加工する必要があるところ、研磨工程の前段階である研削工程では、ガラスセラミックス体をこのような厚み以下には薄くできない。これにより、研磨工程での取り代が多量となるため、研磨加工時間の長期化が特に顕著であった。ゆえに、従来の研磨方法では、ガラスセラミックス体を所望の厚みにするまでに、1回の研磨工程で十数時間を要することもあり、工業的な生産性が満足されなかった。
また、研磨後のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体では、その表面にピットと呼ばれる微小な凹みが観察され、かかる凹みが原因になって、固体電解質として使用した際に電極と良好な接触界面を形成できないという問題が生じていた。
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、固体電解質用途として工業的な生産効率の要求に対応でき、且つ電極との接触界面を形成できる表面性状を有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、研磨液中の添加剤及び分散剤の量をある一定の値以下とすることで、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体表面のピットの発生が少なくなり、固体電解質用途として使用しうる表面性状が得られること、及び研磨材の新モース硬度を特定の範囲内にすることで、要求される表面性状を満足しつつ、研磨効率を飛躍的に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
(1) 研磨液を供給しつつ、研磨パッド又は定盤と、研磨対象素材であるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体(以下、「素材体」という)とを相対移動することで、前記素材体を研磨加工する研磨加工工程を有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の製造方法であって、
前記研磨液には、新モース硬度が10〜15の研磨材を添加し、且つ、添加剤及び分散剤の含有量を、前記研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和に対して1.0質量%以下とする製造方法。
(2) 前記研磨材の平均粒子径は、0.02μm以上1.0μm以下である(1)記載の製造方法。
(3) 前記研磨材は酸化アルミニウムである(1)又は(2)記載の製造方法。
(4) 酸化アルミニウムの純度を98%以上とする(3)記載の製造方法。
(5) 前記研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和を、前記研磨液の総質量に対して10.0質量%以上30.0質量%以下とする(1)から(4)いずれか記載の製造方法。
(6) 前記研磨パッドの表面には、20mm以下の間隔で溝が設けられている(1)から(5)いずれか記載の製造方法。
(7) 前記研磨加工工程は、両面研磨機を用い、前記素材体を上側の研磨パッド及び下側の研磨パッドで研磨する工程を有し、
前記上側の研磨パッドにおける溝の間隔は、下側の研磨パッドにおける溝の間隔よりも小さい(1)から(6)いずれか記載の製造方法。
(8) 前記研磨パッドは、JIS K 6253における硬度が80以上である(1)から(7)いずれか記載の製造方法。
(9) 前記研磨パッドは、樹脂を主材料とする表面層を備える(1)から(8)いずれか記載の製造方法。
(10) 前記表面層には、無機物粒子が実質的に分散していない(1)から(9)いずれか記載の製造方法。
(11) 前記表面層のかさ密度は、0.3g/cm以上である(1)から(10)いずれか記載の製造方法。
(12) 前記素材体の表面に負荷する面荷重を50g/cm以上180g/cm以下とする(1)から(11)いずれか記載の製造方法。
(13) 前記研磨加工工程を、前記素材体の厚みが350μm以下になるまで行う(1)から(12)いずれか記載の製造方法。
(14) 前記研磨加工工程において、前記素材体が、前記研磨パッドを保持する定盤の端部からオーバーハングする距離を5mm以下にする(1)から(13)いずれか記載の製造方法。
(15) 前記素材体は、Li1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(式中、MはAl及び/又はGaであり、0<X≦0.6、0.2≦Y<0.8、0≦Z≦0.5である)からなる結晶相を含有する(1)から(14)いずれか記載の製造方法。
(16) 前記ガラスセラミックスは、酸化物基準の質量%で、LiOを3.5〜5.0%、Pを45〜55%、GeOを10〜40%、TiOを7〜22%、Mを5〜12%(MはAl及び/又はGaである)、SiOを0〜5%、ZrOを0〜5%の各成分を含有する(1)から(15)いずれか記載の製造方法。
本発明によれば、新モース硬度が10〜15と高い研磨材を添加したので、要求される表面性状を満足しつつ、研磨対象素材であるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の研磨効率を飛躍的に向上させることができる。また、添加剤及び分散剤の含有量を、研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和に対して1.0質量%以下としたので、化学反応性が低く、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体表面のピットの発生を少なくし、固体電解質用途として使用しうる表面性状が得られる。よって、固体電解質用途として工業的な生産効率の要求に対応でき、且つ電極との接触界面を形成できる表面性状を有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体を製造できる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本発明に係るリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の製造方法は研磨加工工程を有し、この研磨加工工程の前に、任意に加工工程及び研削工程からなる予備工程を更に有する。各工程の詳細を以下説明する。
〔予備工程〕
(加工工程)
加工工程では、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス又は結晶化前のガラスのブロックを、ダイヤモンドもしくは超硬合金等からなるカッター、バンドソーもしくは内周刃を用いて、切断、又はロータリー研削し、最終形状に近い形状に加工する。この加工工程の途中または最後に、結晶化前のガラスを結晶化する結晶化工程を行ってもよい。
(研削工程)
研削工程では、研磨対象素材の形状を所望の形状へと更に近似させるとともに、全体の反り等を修正して表面を略平坦化する。この工程では、両面加工機又は片面加工機を使用し、固定砥粒で粒度等を調節しながら研削加工を行う。ただし、場合によっては、一次研削及び二次研削のように段階的に研削加工を行ってもよい。固定砥粒としては、炭化ケイ素、アルミナ等からなる粒子を固化したものや、ダイヤモンドを、メタルボンド、レジンボンド、ビトリファイドボンド、又は電着によって固化したものをペレット状にしたものが使用される。また、研削工程の前後又は間に、NC加工機等を用いてチャンファー加工及びチャンファー研磨を行ってもよい。
〔研磨加工工程〕
研磨加工工程では、必要に応じて上記の予備工程を経た研磨対象素材であるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体(以下、「素材体」という)と、研磨パッド又は定盤とを相対移動することで、素材体を研磨加工する。
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法で使用される研磨加工装置10の要部断面図である。この研磨加工装置10は、対向配置された円盤状の上定盤11及び下定盤13を備え、これら上定盤11及び下定盤13の対向面には、上研磨パッド21,下研磨パッド23が貼着されている。また、下定盤13の中央にはサンギア14が配置される一方、下定盤13の外周にはインターナルギア15が配置され、これらサンギア14及びインターナルギア15は、複数のキャリア16が噛合されている。
素材体Mをキャリア16に支持させた状態で、サンギア14及びインターナルギア15を回転すると、各キャリア16がサンギア14の周囲を自転及び公転して、上研磨パッド21及び素材体Mが互いに相対移動する。かかる相対移動を、上定盤11及び下定盤13の間に研磨液を供給しつつ行えば、素材体が研磨液の存在下で研磨パッドに擦られるため、研磨加工されたリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体が製造されることになる。
ここでは、いわゆる両面研磨機で研磨パッド及び定盤を併用したが、これに限られず、片面研磨機でもよいし、研磨パッド又は定盤の一方のみを使用してもよい。後述の研磨材として酸化アルミニウムやダイヤモンドを使用する場合、片面研磨機で金属(通常、スズ)製の定盤のみを用いてもよいが、研磨速度の点から両面研磨機を用いることがより好ましい。
本発明に係る製造方法は、以上の研磨加工工程において、以下の研磨液を用いることで、効率的且つ高精度に研磨されたリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体を製造できる。
(研磨液)
本発明で使用される研磨液には、新モース硬度が10〜15の研磨材を添加し、且つ、添加剤及び分散剤の含有量を、研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和に対して1.0質量%以下とする。
新モース硬度が10以上15以下の研磨材を添加することで、研磨対象素材であるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の機械的研磨が効果的に行われ、研磨効率を向上できる。新モース硬度が過小になると、機械的研磨が不充分になり、研磨効率が大幅に悪化する。また、機械的研磨の不充分さを化学的研磨で補完するべく、化学的反応性に富む研磨液を用いると、表面が不均一に溶解されて、平坦性の低い凸凹形状になってしまう。新モース硬度の下限は、より好ましくは11、最も好ましくは12である。新モース硬度の上限は、素材体の損傷を抑制できる点で、より好ましくは14、最も好ましくは13である。ここで新モース硬度とは、鉱物関係において用いられる硬さであり、次の15種の鉱物の各々で対象物を順次ひっかいた際に傷が付けば、この対象物はその鉱物より硬さが低いものとする。新モース硬度の低い方から順に、1.滑石、2.石膏、3.方解石、4.蛍石、5.りん灰石、6.正長石、7.溶融石英、8.水晶、9.黄玉、10.ざくろ石、11.溶融ジルコニア、12.鋼玉、13.炭化ケイ素、14.炭化ホウ素、15.ダイヤモンドが該当する。
添加剤及び分散剤の含有量を、研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和に対して1.0質量%以下とすることで、添加剤及び分散剤に豊富に含まれる化学反応性の高い成分量を低減できる。これにより、研磨後のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体表面のピットの発生を抑制できる。添加剤及び分散剤の含有量は、研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和に対して、より好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくはゼロである。
上記の研磨材の具体例としては、新モース硬度11の酸化ジルコニウム、12の酸化アルミニウム、13の炭化ケイ素、14の炭化ホウ素、15のダイヤモンド等が挙げられる。これらの中でも、水分散性に優れるために添加剤及び分散剤の必要量を極めて低下できる(ゼロも含む)点、及び研磨効率が飛躍的に高まる効果を得つつも、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体表面のスクラッチ(微小な傷)の発生を抑制できる点で、酸化アルミニウムが好ましい。
酸化アルミニウムの純度は98%以上とすることが好ましい。これにより、化学反応性の高い成分量が低下し、高い研磨効率を維持しつつ、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の平坦性の悪化(ピットやスクラッチの発生)をより抑制できる。酸化アルミニウムの純度は、より好ましくは99%以上、最も好ましくは99.9%以上である。
かかる研磨材の平均粒子径は、0.02μm以上1.0μm以下であることが好ましい。平均粒子径が過小になると、研磨効率が悪化しやすい一方、過大になると素材体の表面にスクラッチが発生しやすくなる。研磨効率をより向上できる点で、平均粒子径の下限は、より好ましくは0.05μm、最も好ましくは0.1μmである。スクラッチの発生をより抑制できる点で、平均粒子径の上限は、より好ましくは0.8μm、最も好ましくは0.6μmである。
本発明で使用する研磨液は、一般に、上記の研磨材等を水に分散したスラリーである。ここで、研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和を、研磨液の総質量に対して10.0質量%以上30.0質量%以下とすることが好ましい。研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和が過小になると、研磨効率が大幅に悪化しやすくなる一方、過剰になると、研磨材の分散性が低下して研磨材が凝集することにより、スクラッチが発生しやすい。研磨液の総質量に対する研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和の下限は、より好ましくは12.0質量%、最も好ましくは14.0%である。研磨液の総質量に対する研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和の上限は、より好ましくは28.0質量%、最も好ましくは26.0%である。
(研磨パッド)
図2は図1の上定盤11に貼着された上研磨パッド21の平面図であり、図3は図1の下定盤13に貼着された下研磨パッド23の平面図である。上研磨パッド21,下研磨パッド23は、その表面211,231に溝が設けられている。これにより、素材体の各部に万遍なく研磨液が供給されやすくなり、研磨効率を向上できる。
溝の配置は、特に限定されず規則的又は不規則的のいずれであってもよいが、研磨をより均等に行うことができる点で規則的であることが好ましい。本実施形態では、縦溝213,233及び横溝215,235が格子状に設けられているが、これに限られず、縦溝213,233及び横溝215,235の一方のみが整列していてもよい。また、溝の形状は直線状に限られず、曲線状であってもよい。
リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の主な用途はリチウムイオン電池の固体電解質であり、その平面の面積は100mm〜25000mm程度である。このような大きさの素材体を研磨する場合、溝が設けられる間隔が過剰であると、研磨液の供給が不充分になって研磨効率が悪化しやすい。また、溝が設けられる間隔が過小であっても、単位時間あたりの研磨パッドと素材体との接触面積が少なくなるために、研磨効率が悪化しやすい。これらの点を考慮してリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の製造に適する点で、研磨パッドの溝は、20mm以下の間隔で設けられていることが好ましい。これにより、研磨液が充分に行き渡り、研磨効率を向上できる。溝の間隔の上限は、より好ましくは18mm、最も好ましくは16mmである。一方、溝の間隔の下限は、好ましくは5mm、より好ましくは7mm、最も好ましくは9mmである。なお、溝の間隔とは、溝の繰り返し単位の幅(換言すれば、ある溝の幅と、溝同士の間に介在する部分の幅との和)の最大値と最小値との中間値を指し、図2の場合にはP〜Pが該当する。
溝の幅が過剰であると、単位時間あたりの研磨パッドと素材体との接触面積が少なくなるために研磨効率が悪化しやすい。また、溝の幅が過小であっても、研磨液の供給が不充分になるために研磨効率が悪化しやすい。これらの点を考慮しリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の製造に適する点で、研磨パッドの溝の幅の上限は3mmであることが好ましく、2.7mmであることがより好ましく、2.2mmであることが最も好ましい。これにより、研磨パッドと素材体との必要な接触面積を確保できる。一方、溝の幅の下限は1mmであることが好ましく、1.2mmであることがより好ましく、1.5mmであることが最も好ましい。これにより、必要な研磨液の供給量を確保できる。
ここで、上側の上研磨パッド21における溝213,215の間隔P,Pは、下研磨パッド23における溝233,235の間隔P,Pよりも小さいことが好ましい。これにより、素材体に当接する部分である、上研磨パッド21の表面211が、下研磨パッド23の表面231よりも小さくなるため、素材体は上研磨パッド21よりも下研磨パッド23に付着しやすい。このため、研磨加工工程後のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体を上研磨パッド21,下研磨パッド23から取り外す際、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体は上研磨パッド21には付着しにくく、上研磨パッド21から脱落して下方に落下して損傷するような事態を抑制できる。
研磨パッドは、JIS K 6253における硬度が80以上であることが好ましい。これにより、機械的研磨が促進され、研磨効率を向上できる。JIS K 6253における硬度の下限は、より好ましくは83、最も好ましくは85である。もっとも、JIS K 6253における硬度が過剰になると、素材体の表面にスクラッチが発生しやすくなることから、JIS K 6253における硬度の上限は、好ましくは100、より好ましくは97、最も好ましくは95である。
研磨パッドは、樹脂を主材料とする表面層を備えることが好ましい。ここで、表面層とは研磨パッドの少なくとも表面に位置する層を指し、研磨パッドは必ずしも他の層(例えば基層)を有している必要はなく、表面層のみからなってもよい。
樹脂としては、ポリウレタン樹脂が耐磨耗性に優れ、原料組成を調節することで所望の物性が容易に得られる点で好ましい。ポリウレタン樹脂は、イソシアネート成分、ポリオール成分(高分子量ポリオール、低分子量ポリオール等)、及び鎖延長剤からなるものである(例えば、特開2008−698334号公報参照)。
市販の研磨パッドには、研磨材である無機物粒子が分散されたものが存在するが、この分散する無機物粒子の平均粒子径が研磨液中の無機物粒子よりも大きいと、研磨効果を及ぼすのが研磨パッドに分散する無機物粒子が主になり、研磨液中の研磨材は研磨パッドと被研磨物との間に浮遊する状態となるため、研磨効率が悪化しやすい。ここで、研磨パッドに分散される研磨材の平均粒子径は所望の平均粒子径でない場合が多いため、本発明で使用する研磨パッドにおいては、表面層に無機物粒子が分散しているパッド全てを否定するものではないが、表面層に無機物粒子が実質的に分散していないことが好ましい。これにより、研磨液中の研磨材の研磨効果が充分に発揮される。また、研磨パッドの表面層に分散する無機物粒子の化学的反応性が強い場合、この無機物粒子が化学的反応性を発揮してリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の平坦性が悪化するのを抑制できる。ここで「実質的に分散していない」とは、意図的(例えば均一)に分散していないことを指し、若干量が混入することを除外するものではない。
また、表面層のかさ密度は0.3g/cm以上であることが好ましい。これにより、表面形状及び表面粗さのバラツキを最小限に抑え、安定した品質を得ることができる。表面層のかさ密度の下限は、より好ましくは0.4g/cm、最も好ましくは0.5g/cmである。もっとも、表面層のかさ密度が過剰になると、スクラッチが発生しやすい。そこで、表面層のかさ密度の上限は、好ましくは0.9g/cm、より好ましくは0.8g/cm、最も好ましくは0.7g/cmである。
以上のような研磨液等を用いて研磨加工を行う際、素材体Mの表面に負荷する面荷重を50g/cm以上180g/cm以下とすることが好ましい。面荷重が過小になると研磨効率が大幅に悪化しやすい一方、過剰になると、素材体Mが薄い(通常500μm以下)ために研磨加工の過程で割れやすい。素材体Mの表面に負荷する面荷重の下限は、より好ましくは55g/cm、最も好ましくは60g/cmである。また、素材体Mの表面に負荷する面荷重の上限は、より好ましくは160g/cm、最も好ましくは140g/cmである。
以上の研磨加工工程は、素材体Mの厚みが350μm以下になるまで行うことが好ましい。これにより、リチウムイオン二次電池、特にリチウム−空気電池やリチウム−海水電池等のリチウム電池の固体電解質として有用なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体を製造できる。研磨加工工程は、素材体Mの厚みがより好ましくは300μm以下、最も好ましくは250μm以下になるまで行うことが好ましい。このようなレベルまで素材体Mの厚みが減少していく過程では、素材体Mの厚みにあわせて、素材体Mを支持するキャリア16を段階的に薄くすることが好ましい。これにより、キャリア16から素材体Mが離脱するのを抑制できる。
定盤又は研磨パッドを回転して研磨する場合、通常、加工によって定盤又はパッドの平坦性が損なわれないように、素材体Mが定盤11,13の端部から外側をはみ出して通過するように、キャリアの穴位置を設定し定盤上にセットする。この定盤の端部からの素材体のはみ出しをオーバーハングといい、一般的なガラス材料の研磨においてはオーバーハングの距離が5mmを超え、1cm程度であることが多い。しかし、上述のように素材体Mは薄いため、オーバーハングする距離が過剰になると、研磨加工の過程で素材体Mが安定せずに割れやすい。そこで、素材体Mが、研磨パッド21,23を保持する定盤11,13の端部からオーバーハングする距離OHを5mm以下にすることが好ましく、より好ましくは4mm以下、最も好ましくは3mm以下にする。また、オーバーハングする距離OHの下限は、0mmに近ければ近い程好ましい。
素材体は、Li1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(式中、MはAl及び/又はGaであり、0<X≦0.6、0.2≦Y<0.8、0≦Z≦0.5である)からなる結晶相を含有することが好ましい。これにより、製造されるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体は、高いリチウムイオン伝導性を発現するため、リチウムイオン二次電池、特にリチウム−空気電池やリチウム−海水電池等のリチウム電池の固体電解質として有用である。
また、ガラスセラミックスは、酸化物基準の質量%で、LiOを3.5〜5.0%、Pを45〜55%、GeOを10〜40%、TiOを7〜22%、Mを5〜12%(MはAl及び/又はGaである)、SiOを0〜5%、ZrOを0〜5%の各成分を含有することが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体は、高いリチウムイオン伝導性を発現するため、リチウムイオン二次電池、特にリチウム−空気電池やリチウム−海水電池等のリチウム電池の固体電解質として有用である。
ここで、ガラスセラミックスとは、ガラスを熱処理してガラス相を析出させることで得られる材料であり、具体的には非晶質固体及び結晶からなる。かかるガラスセラミックスは、イオン伝導を妨げる空孔や結晶粒界をほとんど有しないため、イオン伝導性及び化学的安定性に優れる点で好ましい。なお、ガラスセラミックスには、全ガラス相が結晶相に相転移した材料、つまり、材料中の結晶量(結晶化度)が100質量%のものも包含される。
(研磨対象素材であるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの作製)
原料として、日本化学工業株式会社製のHPO、Al(PO、及びLiCO、株式会社ニッチツ製のSiO、堺化学工業株式会社製のTiO、住友金属鉱山社製のGeO、日本電工社製のZrOを使用した。各原料を、酸化物換算の質量%で表1に示す組成になるように秤量して均一に混合した後に、白金ポット内に入れ、電気炉中1350℃の温度で撹拌しながら3時間に亘り加熱及び熔解してガラス融液を得た。その後、このガラス融液を、ポットに取り付けた白金製のパイプから、加熱しながら、300℃に加熱したINCONEL(登録商標)600製の金属型に流し込んだ。その後、ガラスをその表面温度が600℃以下になるまで放冷した後、550℃に加熱した電気炉内に入れ、室温まで徐冷することで、熱的な歪が取り除かれたガラスブロックを作製した。
Figure 0005097616
(加工工程)
結晶化前のガラスブロック(縦130mm横150mm厚さ10.0mm)をロータリー研削工程で厚さを8.0mmまで削り、次に切断工程で縦60mm横60mmに切断し、次に丸め工程でφ55mmの円形に丸め、最後にスライス工程で厚さ1.0mmになるようにスライス切断を実施した。
(結晶化工程)
得られたガラスブロックをアルミナ製のセッターに挟み、890℃にて12時間熱処理を行ない、結晶化処理を行なった。
サンユー電子社製のクイックコータを用い、金をターゲットとしてガラスセラミックスの両面にスパッタを行うことで、金電極を取り付けた。ソーラートロン社製のインピーダンスアナライザSI−1260を用い、交流二端子法による複素インピーダンス測定により25℃におけるリチウムイオン伝導度を算出した。また、フィリップス社製の粉末X線回折測定装置を用いてガラスセラミックスに析出した結晶を同定したところ、いずれのガラスセラミックスもLi1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Ga)が主結晶相であることが確認された。
(加工工程)
結晶化後のガラスブロック(径55.0mm、厚さ1.0mm)に対して、径50.8mm、厚さ1mmになるように芯取り(直径を減じながら円形度を向上させる加工)を施した。
(研削工程)
スピードファム社製の12B両面加工機、八千代マイクロサイエンス社製のペレット#1000を使用し、面荷重30gf/cm、回転数20rpmにて、芯取り後の素材体に対して、厚み0.3mmになるまで研削加工を施した。加工キャリアの厚さは、研削加工前の素材体の厚さの1/2以上であることが好ましいため、加工キャリアを、加工途中で薄いものへと段階的に交換した。1段目は、厚み0.6mmの加工キャリアを使用し、素材体の厚さが0.6mmになるまで行い、2段目は、厚さ0.4mmの加工キャリアを使用し、素材体の厚さが0.4mmになるまで行い、3段目では、厚さ0.25mmの加工キャリアを使用し、素材体の厚さが0.3mmになるまで研削を行った。
(研磨加工工程)
1バッチ30枚に対して同時に研磨加工工程を行った。つまり、1枚の加工キャリアに5枚の素材体をセットし、加工キャリア6枚を研磨機にセットした。研磨機としてはスピードファム社製の12B両面研磨機を使用し、その他は表2、表3及び表4に示す条件で、研磨液を供給しながら素材体の厚みが目標の厚みになるまで研磨を行った。
[評価]
ピットの有無の確認、及び研磨レートの算出を行った。また、30枚中の1枚を抜き取り、その表面粗さをZygo社製のNewView5020を用いて測定した。これらの結果を表2及び3に示す。また、実施例1(酸化アルミニウム)、実施例5(酸化ジルコニウム)、及び比較例2(酸化セリウム)での研磨レートをグラフ化したものを、図4に示す。
Figure 0005097616
Figure 0005097616
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※ 表2〜4において、「A」は、研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和に対する添加剤及び分散剤の含有量和であり、「B」は、研磨液の総質量に対する研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和の割合である。また、表中の添加剤、分散剤の含有量は、研磨材、添加剤、及び分散剤の含有量和に対する質量%である。
表1及び2に示されるように、実施例1〜10では研磨レートが0.40μm/min以上であり、比較例2の研磨レートに比べて顕著に高く、工業的生産に対応できることが確認された。比較例1の研磨レートは0.40と比較的高いものの、比較例1〜2で製造したリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体にはピットが観察された。これに対して、実施例1〜10で製造したリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体には、ピットが観察されなかった。よって、実施例1〜10のように、新モース硬度が10〜15の研磨材を添加し、且つ、添加剤及び分散剤の含有量を、研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和に対して1.0質量%以下とすることで、固体電解質用途として工業的な生産効率の要求に対応でき、且つ電極との接触界面を形成できる表面性状を有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体を製造できることが分かった。
図4に示されるように、実施例1及び実施例5での研磨レートは比較例2よりもはるかに優れるとともに、特に実施例1での研磨レートが抜群であった。また、表1及び2に示されるように、実施例1〜4で製造したリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の表面粗さは特に平滑であった。これにより、研磨材として酸化アルミニウムを用い、又は無機物粒子が実質的に分散していない研磨パッドを用いることで、研磨効率を格段に向上でき且つより優れた表面性状を形成できることが分かった。
本発明の一実施形態に係る製造方法で使用される研磨加工装置の要部断面図である。 図1の上定盤に貼着された研磨パッドの平面図である。 図1の下定盤に貼着された研磨パッドの平面図である。 本発明の実施例に係る製造方法の研磨効率を示すグラフである。
符号の説明
10 研磨加工装置
11 上定盤
13 下定盤
14 サンギア
15 インターナルギア
16 キャリア
21 上研磨パッド
23 下研磨パッド

Claims (16)

  1. 研磨液を供給しつつ、研磨パッド又は定盤と、研磨対象素材であるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体(以下、「素材体」という)とを相対移動することで、前記素材体を研磨加工する研磨加工工程を有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス体の製造方法であって、
    前記研磨液には、新モース硬度が10〜15の研磨材を添加し、且つ、添加剤及び分散剤の含有量を、前記研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和に対して1.0質量%以下とする製造方法。
  2. 前記研磨材の平均粒子径は、0.02μm以上1.0μm以下である請求項1記載の製造方法。
  3. 前記研磨材は酸化アルミニウムである請求項1又は2記載の製造方法。
  4. 酸化アルミニウムの純度を98%以上とする請求項3記載の製造方法。
  5. 前記研磨材、添加剤及び分散剤の含有量和を、前記研磨液の総質量に対して10.0質量%以上30.0質量%以下とする請求項1から4いずれか記載の製造方法。
  6. 前記研磨パッドの表面には、20mm以下の間隔で溝が設けられている請求項1から5いずれか記載の製造方法。
  7. 前記研磨加工工程は、両面研磨機を用い、前記素材体を上側の研磨パッド及び下側の研磨パッドで研磨する工程を有し、
    前記上側の研磨パッドにおける溝の間隔は、下側の研磨パッドにおける溝の間隔よりも小さい請求項1から6いずれか記載の製造方法。
  8. 前記研磨パッドは、JIS K 6253における硬度が80以上である請求項1から7いずれか記載の製造方法。
  9. 前記研磨パッドは、樹脂を主材料とする表面層を備える請求項1から8いずれか記載の製造方法。
  10. 前記表面層には、無機物粒子が実質的に分散していない請求項1から9いずれか記載の製造方法。
  11. 前記表面層のかさ密度は、0.3g/cm以上である請求項1から10いずれか記載の製造方法。
  12. 前記素材体の表面に負荷する面荷重を50g/cm以上180g/cm以下とする請求項1から11いずれか記載の製造方法。
  13. 前記研磨加工工程を、前記素材体の厚みが350μm以下になるまで行う請求項1から12いずれか記載の製造方法。
  14. 前記研磨加工工程において、前記素材体が、前記研磨パッドを保持する定盤の端部からオーバーハングする距離を5mm以下にする請求項1から13いずれか記載の製造方法。
  15. 前記素材体は、Li1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(式中、MはAl及び/又はGaであり、0<X≦0.6、0.2≦Y<0.8、0≦Z≦0.5である)からなる結晶相を含有する請求項1から14いずれか記載の製造方法。
  16. 前記ガラスセラミックスは、酸化物基準の質量%で、LiOを3.5〜5.0%、Pを45〜55%、GeOを10〜40%、TiOを7〜22%、Mを5〜12%(MはAl及び/又はGaである)、SiOを0〜5%、ZrOを0〜5%の各成分を含有する請求項1から15いずれか記載の製造方法。
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