JP5093883B2 - 分離膜の改質方法および装置、その方法により改質された分離膜、並びに分離膜の運転方法および装置 - Google Patents

分離膜の改質方法および装置、その方法により改質された分離膜、並びに分離膜の運転方法および装置 Download PDF

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Description

本発明は、分離膜、特に逆浸透膜(RO膜)またはナノろ過膜(NF膜)を特定の物質を用いて改質し、抗菌性能を付与することによって、分離膜における菌類の発生を防ぎ、安定した長期運用を実現するための分離膜の改質方法および装置、その方法により改質された分離膜、並びに分離膜の運転方法および装置に関するものである。
従来、海水の淡水化や超純水、各種製造プロセス用水を得る方法として、例えばRO膜やNF膜を分離膜とするモジュールを用い、原水中からイオン成分や低分子成分を分離する方法が知られている。以前と比較すると、RO膜やNF膜の性能は格段に向上し、高阻止性能・低圧力運転が可能な膜も使われている。
しかし、恒常的な問題として、分離膜モジュールにおいて、微生物をはじめとする生物汚染の発生がある。特にスライムの発生として知られている現象であるが、例えばスパイラル型膜エレメントにおいてスライムが発生すると、原水と濃縮水の圧力差、すなわち通水差圧が上昇し、特に複数のエレメントを直列に配置した装置の場合、後方のエレメントに行けば行くほど、圧力が低くなってしまい、所定の透過水量が得られなくなってしまう。さらに極端に通水差圧が上昇すると、エレメントそのものが破損する恐れすらある。また、スライムの発生までに至らなくても、エレメント内の汚染物質の腐敗が進行し、臭気が発生する場合もある。
生物汚染の発生を抑止するために、酸化剤による殺菌をすることが考えられるが、現在主流のポリアミド系素材をスキン層に持つRO膜やNF膜は、酸化劣化しやすく、特に、原水中に次亜塩素酸ナトリウムをはじめとする酸化性の物質が含まれる場合や、原水のORPが高い場合、膜の劣化が早まり、寿命を短くする原因となっている。そのため、RO膜やNF膜を酸化剤によって殺菌をすることは事実上不可能である。酸化作用が比較的緩やかなクロラミンを用いる例もあるが、酸化剤であることには変わりなく、膜の劣化は避けられない。酸化劣化に比較的強い、ピペラジンアミド系の膜もあるが、性能が十分ではない。
ところで、銀イオンは昔より抗菌作用を持つ物質として良く知られている物質であり、幅広い分野で利用されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、高分子素材へ抗菌性金属を配位させる方法が示されており、タンニン酸などのポリフェノール類に金属イオンが配位することが知られている。一方本発明者らは、既に公開されている特許文献3において、分離膜にポリフェノール類を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上させる方法を提供している。
特許文献4には、RO膜へ銀電解水を供給することで、膜を殺菌する方法が示されている。しかしこの方法では、規模の大きい装置では必要とされる銀電解水量も多量となってしまい、装置が大掛かりかつ高コストなものとなるし、銀イオンが分離膜に固定化されないため、銀電解水を供給していない間は菌類繁殖の懸念が残る。また、特許文献5には、RO膜の後段へ銀イオンを担持した活性炭を設置し殺菌する方法が示されている。しかしこの方法では、RO膜そのものを殺菌することはできず、RO膜における菌類繁殖の懸念がある。さらに、特許文献6には、0.1μm以下の細孔径を持つ分離膜に供給する水を、銀系無機抗菌剤を導入した配管を通した上で、分離膜へ供給する方法が示されている。しかしこの方法では、分離膜への供給水の殺菌はできるものの、銀イオンが分離膜に固定化されないため、分離膜そのものが抗菌作用を持つかどうかに疑問が残る。
特開2000-73277号公報 特開2000-204182号公報 特開2006-223963号公報 特開平8-294689号公報 特開2000-288539号公報 特開2005-313151号公報
上記のような従来技術に対し、未だ出願未公開の段階にあるが、本発明者らは、特願2006-330414において、ポリフェノール類と銀イオンを用いた分離膜の抗菌化技術を提示した。ここでは加水分解型タンニン酸、特に五倍子タンニン酸を使用しており、抗菌作用は示すものの、銀イオンの固定量が少なく、長期的な安定性に問題が残されていた。
そこで本発明の課題は、このような現状に鑑み、より確実にかつ安定して分離膜に抗菌性能を付与できるようにし、効果的に分離膜を改質可能な分離膜の改質方法および装置、および、その方法により改質された分離膜、並びに、その分離膜の運転方法および装置を提供することにある。
上記のような実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、分離膜に抗菌作用を有する重金属イオン、特に銀イオン、及びバインダーとしての縮合型タンニン酸を膜に供給することによって、菌類やスライムの発生を著しく抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る分離膜の改質方法は、分離膜に、縮合型タンニン酸を含む有機物質および重金属イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して重金属イオンを固定化し、前記重金属イオンとして銀イオンを用いることを特徴とする方法からなる。この方法により、分離膜へ重金属イオンとしての銀イオンを効率よく固定できる。
より好ましくは、本発明に係る分離膜の改質方法は、上記重金属イオンとして銀イオンを用い、分離膜に、上記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に上記有機物質を介して銀イオンを固定化し、分離膜の抗菌作用を向上させることを特徴とする方法からなる。重金属イオンの中でも、銀イオンは強い抗菌作用を持ち、これをバインダーとしての縮合型タンニン酸を用いて分離膜に固定化することによって、分離膜は強力な抗菌作用を示す。銀イオンの固定形態は必ずしも明らかではないが、縮合型タンニン酸に固着する際に、還元されて金属銀の形になっていたり、銀イオンそのままの形で固着されたりする。金属銀の形態になった場合には、これが徐々に溶出することによって、抗菌作用を示すものと考えられる。
上記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する方法としては、縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを混合した混合液を、分離膜へ供給する方法を採用することができる。本方法により、1液で抗菌処理が可能となり簡便な抗菌処理が可能となる。
あるいは、上記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する方法として、縮合型タンニン酸を含む有機物質を含む水を分離膜へ供給後、銀イオンを含む水を分離膜へ供給する方法を採用することもできる。本方法により、分離膜に対して、縮合型タンニン酸および銀イオンの確実な固定化ができる。
上記分離膜としては、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜を使用することが好ましい。より好ましい阻止率の範囲は98%以下、さらに好ましくは10%以上99%以下、さらに好ましくは20%以上98.5%以下、さらに好ましくは30%以上98%以下である。この方法を用いることで、分離膜の高い抗菌処理効果が得られる。阻止率99%を超える膜には、抗菌処理の効果が不十分となる恐れがある。阻止率は、測定時の温度や透過流束によって異なるので、メーカーがその膜の性能を測定する標準的な条件を適用するか、スパイラル型膜エレメントの場合には、25℃、1.0m/dayの透過流束を目安に測定を行なうのが良い。本願中で言う阻止率とは、特に断りのない限り、この方法で測定されたものを指している。
なお、ここで言う「改質処理前」に阻止率99%以下の性能を持つ分離膜とは、新品時に上記性能を持つ膜の他、もともとは99%以上の阻止率を有していたが、使用した結果劣化して上記性能となった膜や、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を接触させて、強制的に酸化劣化させて上記性能とした膜なども含まれる。
また、上記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜を使用することが好ましい。この方法を用いることによって、特に高い抗菌処理効果が得られる。
また、上記分離膜として、スパイラル型膜エレメントを使用することが好ましい。スパイラル型膜エレメントは、コストも安く、汎用性も高いため、この構造の膜を用いるメリットは大きい。また、生物汚染によるトラブルが多いため、本発明方法の利点が特に活かされる。
また、上記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜を使用することが好ましい。より好ましくは全芳香族ポリアミド、さらに好ましくは架橋全芳香族ポリアミドである。ポリアミド系素材は、酸化剤による劣化が起こりやすく、通常は酸化剤による殺菌を行なうことができないため、特に生物汚染のトラブルが多い。本発明方法によると、従来不可能であった、ポリアミド系素材のRO膜やNF膜の殺菌が可能となるため、画期的な技術を提供できる。
銀イオン源としては、硝酸銀、硫酸銀のうち、少なくともいずれか一つを含む物質を用いることができる。銀イオン源としては特に限定されないが、一般的に入手しやすいものとして、硝酸銀、硫酸銀などが挙げられ、これらを用いることが汎用性、コストの面でも望ましい。
本発明は、上記のような分離膜の改質方法により改質された分離膜についても提供する。
また、本発明に係る分離膜の運転方法は、分離膜に原水を供給し原水を透過水と濃縮水とに分離する運転中に、請求項1〜10のいずれかに記載の方法により、連続的または断続的に縮合型タンニン酸を含む有機物質および重金属イオンを含む水を分離膜へ供給することにより分離膜を改質し、膜性能を安定させて運転するようにし、前記重金属イオンとして銀イオンを用いることを特徴とする方法からなる。本方法により、水処理システム中にて使用されている分離膜であっても、インライン処理にて改質処理を実施することが可能となる。
本発明に係る分離膜の改質装置は、分離膜に、縮合型タンニン酸を含む有機物質および重金属イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して重金属イオンを固定化する手段を有し、前記重金属イオンとして銀イオンを用いることを特徴とするものからなる。
本発明に係る分離膜の改質装置は、好ましくは、上記重金属イオンとして銀イオンを用い、分離膜に、上記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に上記有機物質を介して銀イオンを固定化し、分離膜の抗菌作用を向上させる手段を有することを特徴とするものからなる。
上記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段としては、縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを混合した混合液を、分離膜へ供給する手段とすることができる。
また、上記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段として、縮合型タンニン酸を含む有機物質を含む水を分離膜へ供給後、銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段とすることもできる。
上記分離膜としては、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜が使用されることが好ましい。
また、上記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜が使用されることが好ましい。
また、上記分離膜として、スパイラル型膜エレメントが使用されることが好ましい。
また、上記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜が使用されることが好ましい。
銀イオン源としては、硝酸銀、硫酸銀のうち、少なくともいずれか1つを含む物質が用いられることが好ましい。
さらに、本発明に係る分離膜の運転装置は、分離膜に原水を供給し原水を透過水と濃縮水とに分離する運転中に、上記のような分離膜の改質装置を用いて、連続的または断続的に縮合型タンニン酸を含む有機物質および重金属イオンを含む水を分離膜へ供給することにより分離膜を改質し、膜性能を安定させて運転するようにし、前記重金属イオンとして銀イオンを用いたことを特徴とするものからなる。
本発明によれば、市販の分離膜、特に従来殺菌剤を使用することができなかった、RO膜やNF膜を抗菌化することが可能となり、長年の懸案であった生物汚染のトラブルに対処することが可能となる。幅広い産業での利用価値が高く、特に医製薬産業や食品産業、浄水場、家庭用浄水器など、菌類の繁殖や臭気を確実に避けなければならない分野への適用が広がることが想定され、産業上の利用価値は極めて高い。
また、縮合型タンニン酸を含む有機物質および重金属イオン(とくに、銀イオン)を含む水を、連続的または断続的に分離膜へ供給することによって、分離膜の酸化劣化が起こりやすい原水においても、安定した性能で運転を継続することができ、かつその改質処理中であっても、後段への影響を最小限とすることができ、産業上の利用価値は、非常に高いものである。
以下に、本発明の望ましい実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明の内容を制限するものではない。
本発明の第1の実施の形態(オフライン処理)に係る分離膜の改質方法を図1を参照して説明する。図1は本例の処理方法を実施する、膜改質装置の機器系統図である(圧力計、流量計、弁などは適宜省略してある)。1は分離膜供給水タンク(原水タンク)、2は加圧ポンプ、3は分離膜モジュール、4は圧力調節弁、5〜9はボール弁からなる弁を、それぞれ示している。なお、分離膜モジュール3は、分離膜そのものである膜エレメント31と、膜エレメントを格納するための耐圧容器であるベッセル32から成る。
ベッセル32内に膜エレメント31を装填後、弁5を閉の状態でタンク1に水を十分量入れ、弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ水を補給しながら、分離膜モジュール3を水洗する。なお、本発明でいう圧力がかからない状態とは、透過水が得られないほどの低圧の状態をいう。
次にポンプ2停止後、弁5を閉として、タンク1に水を所定量入れ、改質薬品である有機物質および銀イオンを所定量加えて、十分に溶解する。弁7、9を閉、弁5、6、8を開、弁4を所定の圧力になるように開として、ポンプ2を起動する。
所定時間経過後、ポンプ2を停止し、弁9を開けてタンク1内の薬液を排出する。水でタンク1を水洗後、弁9を閉として水を貯留する。弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ水を補給しながら、分離膜モジュール3を水洗する。また弁6も開として、循環ラインの水洗も適宜行なう。
本形態は、縮合型タンニン酸と銀イオンを混合して処理する場合を示したが、別々に用いることもできる。その場合には、有機物質→銀イオンの順番で用い、それぞれの処理の間に、水洗工程を設ける。
水洗工程は、弁5を閉の状態でタンク1に水を十分量入れ、弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ水を補給しながら、分離膜モジュール3を水洗する。
改質処理後の分離膜は、水処理装置全体のシステム中で用いることができる。例えば、原水を凝集沈殿、砂ろ過、膜ろ過等の方法で除濁処理後、改質処理をした分離膜を用いたり、後段にEDIを用いたりすることもできる。
タンク1に供給する水は、純水が好ましいが、純水が利用できない場合は、SDI値が5以下の除濁水を用いてもよい。
処理時間は、特に限定されないが、縮合型タンニン酸と銀イオンの混合物による処理、または縮合型タンニン酸による処理、および銀イオンを含む水溶液による処理それぞれに、5分〜24時間、好ましくは30分〜6時間であることが、効率の良い処理をするために好ましい。5分未満では処理の効果が薄く、24時間を超えるとファウリングを起こしたり、抗菌処理効果のさらなる向上が望めなかったりする場合があり、好ましくない。
本発明の第2の実施の形態(インライン処理)における分離膜モジュールの運転方法を図2を参照して説明する。図2は本例の運転方法を実施する、分離膜装置の機器系統図である(圧力計・流量計・弁などは適宜省略してある)。1は分離膜供給水タンク、2は加圧ポンプ、3は分離膜モジュール、4は圧力調節弁、5〜9はボール弁、10、20は薬液タンク、11、21は薬注ポンプを示している。なお、分離膜モジュール3は、分離膜そのものである膜エレメント31と、膜エレメントを格納するための耐圧容器であるベッセル32から成る。また、12は水質計、例えば導電率計からなり、検出した水質に応じて電気信号を薬注ポンプ11、21に送ることができるようになっている場合の例を示している。
通常の運転時は、前段からの水、例えば除濁処理された原水を、供給水タンク1に受ける。弁5、7を開、弁4を所定の圧力になるように開、弁6、8、9を閉として、加圧ポンプ2にて加圧された原水を、分離膜モジュール3で濃縮水と透過水に分離し、濃縮水はブロー、透過水は後段の装置へ送水される。なお、ボール弁6および7を適宜調整し、濃縮水を一部循環する場合もある。
薬液タンク10には、あらかじめ所定の濃度とした縮合型タンニン酸水溶液を、薬液タンク20には、あらかじめ所定の濃度とした銀イオン水溶液を貯留しておく。断続的に添加を行なう場合で、一定時間毎に添加を行なうケースでは、一定時間毎に、自動または手動で、薬注ポンプ11を起動し、所定時間経過後停止、続けて薬注ポンプ21を起動し、所定時間経過後停止すればよい。断続的に添加を行う場合で、水質計12からの電気信号によって添加を行うケースでは、水質計12がある基準値以下となったら、薬注ポンプ11へ電気信号が送られ、ポンプが起動する。注入開始後、水質計12がある基準値以上となったら、薬注ポンプ11へ電気信号が送られ、ポンプが停止する。続いてポンプ21が起動し、所定時間経過後にポンプ21が停止する。また、連続的に添加を行なう場合には、薬注ポンプ11、21は常に起動しておくか、所定時間毎に交互に起動すればよい。
縮合型タンニン酸の添加中、後段への支障がなければ、通常の運転を停止する必要はない。縮合型タンニン酸の透過水への漏えいが見られる場合で、後段への支障が生じ得る場合は、添加中に弁5を閉、弁9を開として、透過水をブローすることもできるし、もしくは弁5を閉、弁8を開として、透過水を循環することもできる。循環とする場合には、弁7を閉、弁6を開として、濃縮水も循環しても良い。この場合には、薬液濃度が一定濃度に達した時点で、薬注ポンプ11、21を停止する。
上記実施の形態では、1モジュールの形態を例示したが、クリスマスツリー配置、2段ROなど、複数エレメントを含む複数モジュールで構成される分離膜装置にも適用できる。例えば図3に示すように、分離膜モジュール3a〜3cを多段に(図示例では2段に)クリスマスツリー状に配置し、各モジュール3a〜3cを、分離膜そのものである膜エレメント31a〜31cと、膜エレメントを格納するための耐圧容器であるベッセル32a〜32cから成る構成とすることができる。
また、上記図2に示した実施の形態では、薬液タンクを2つ用いる例を示したが、両者を混合し、1液として添加してもよい。1液として用いる場合は、処理を実施する現場にて2液を混合してもよいし、現場へ持ち込む前の段階、すなわち薬液の製造過程・製造工場にて混合し、その混合液を現場で使用してもよい。この場合には、例えば図4に示すように、1つの薬液タンク10と1つの薬注ポンプ11を備えていればよい。
薬注時間は、特に限定されないが、縮合型タンニン酸と銀イオンの混合物の薬注、または縮合型タンニン酸の薬注、および銀イオンを含む水溶液の薬注それぞれに、5分〜24時間、好ましくは30分〜6時間であることが、効率の良い処理をするために好ましい。5分未満では処理の効果が薄く、24時間を超えるとファウリングを起こしたり、抗菌処理効果のさらなる向上が望めなかったりする場合があり、好ましくない。
薬注を断続的に実施する場合の薬注間隔は、特に限定されないが、縮合型タンニン酸と銀イオンの混合物の薬注、または縮合型タンニン酸の薬注、および銀イオンを含む水溶液の薬注それぞれにおいて、1年に1回以上1日に1回以下、好ましくは3ヶ月に1回以上1週間に1回以下とすることが、抗菌作用を維持するために好ましい。1年に1回を下回ってしまうと、抗菌効果が薄れる恐れがあり、1日に1回を超えると処理頻度が高すぎ、薬品コストが高くなってしまう。
改質薬品である縮合型タンニン酸の濃度は、特に限定されないが、分離膜モジュール入口において0.1〜200mg/L、好ましくは0.5〜100mg/Lであることが、効率良い処理をするために好ましい。0.1mg/L未満では効果が薄く、200mg/Lを超えるとファウリングを起こす場合があり、好ましくない。
銀イオンの濃度は、特に限定されないが、分離膜モジュール入口において0.01〜200mg/L、好ましくは0.02〜100mg/Lであることが、効率良い処理をするために好ましい。0.01mg/L未満では効果が薄く、200mg/Lを超えると、薬品コストがかさみ、好ましくない。
加圧通水時の透過流束は、0.3〜5.0m/dayの範囲とすることが、好適な改質効果を得るために望ましい。好適な透過流束の範囲は、0.3〜5.0m/day、好ましくは0.5〜3.0m/day、さらに好ましくは0.7〜2.0m/dayである。 0.3m/day未満では、縮合型タンニン酸の吸着効果が低く、抗菌処理効果が見込めない。5.0m/dayを超えると、ファウリングを起こす場合があり、好ましくない。
上記縮合型タンニン酸を含む水に酸を添加し、pHを1〜5としてもよい。pHを上記範囲にコントロールすることにより、有機物質の沈殿を防ぎ、処理を適切に実施することができる。酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、カルボン酸、などを用いることができ、特にクエン酸は入手が容易で、毒性も低いことから用いやすく、操作性が良い。
改質処理を実施する前に、分離膜を薬品洗浄しても良い。特に分離膜に汚染が見られる場合には、改質効果が低減する場合があり、適切な薬品洗浄を実施することが望ましい。薬品洗浄の方法としては、特に限定されないが、酸またはアルカリを用いた洗浄方法を用いることができる。汚染の状態に応じて、どちらか一方のみを用いた洗浄を実施してもよいし、両者を順番に用いて洗浄を実施してもよい。酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、カルボン酸、などを用いることができ、特にシュウ酸やクエン酸は洗浄効果が高く、望ましい。アルカリとしては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、亜硫酸ナトリウムなどを用いることができ、特に水酸化ナトリウムは、汎用性の観点から望ましい。
タンニンはタンニン酸、タンニン類とも呼ばれ、混同して用いられるが、本願中では全て同義で用いている。
タンニン酸には、加水分解型と縮合型がある。前者の原料の例としては、五倍子、没食子、チェストナット(Chestnut)、オーク(Oak Wood)、ユーカリプタス(Eucalyptus)、ディビディビ(Divi-Divi)、タラ(Tara)、スマック(Sumac)、ミラボラム(Myrabolam)、アルガロビア(Algarobilla)、バロニア(Valonea)、胡桃、栗、木苺、グミ、ザクロ、アカメガシワ、ウルシ科、サンシュユ、ゲンノショウコ、などが挙げられる。後者の原料の例としては、ケブラチョ(Quebracho)、ビルマカッチ(Burma Cutch)、ワットル(Wattle)、ミモザ(Mimosa)、スプルース(Spruse)、ヘムロック(Hemlock)、マングローブ(Mangrove)、カシワ樹皮(Oak bark)、アバラム、ガンビア(Gambier)、茶、柿渋、ユキノシタ、ブドウ、リンゴ、蓮根、コーヒー、しそ、ボケ、椿、ローズマリー、パセリ、サルビアの花、ヒマワリ、などが挙げられる。なお、加水分解型はピロガロール型(Hydrolyzable Tannin)、縮合型はカテコール型(Condensel Tannin)とも呼ばれる。
本発明においては、とくに縮合型タンニン酸を含む有機物質が用いられる。縮合型タンニン酸とは、構造中に加水分解が可能なエステル結合を持たず、多数の多価フェノール類が、エーテル結合や炭素間結合等によって結合し、化学構造を形成するものである。縮合型タンニン酸の構造式には、多種のものが存在し、特に限定されないが、例えば化1のような構造式を有するものが挙げられる。
Figure 0005093883
上記化1において、Rは、Hまたはガロイル基または炭化水素基を示している。
次に、以下の実験に基づく実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
実験例1
〔実験1A〕
まず、以下の手順にて表1に示す4種類の膜(膜A〜D)を準備した。膜は日東電工製LES90を、銀イオンは硝酸銀水溶液を、縮合型タンニン酸はケブラチョを原料としたものを用いた。
Figure 0005093883
上記膜それぞれを純水で水洗後、104個/mLの菌類を含む水へ膜を浸漬し、25℃で3日間放置した。その後、浸漬液の菌数を測定した。結果を表2に示す。
Figure 0005093883
表2に示すように、有機物質および銀イオンで処理をした膜Dおよび膜Eのみ高い殺菌作用を示した。したがって、本発明の分離膜の抗菌効果は非常に大きいものである。
〔実験1B〕
実験1Aで用いた膜を用いて、図1に示した通水装置にて3ヶ月間運転を実施後、それぞれの膜を104個/mLの菌類を含む水へ膜を浸漬し、25℃で3日間放置した。その後、浸漬液の菌数を測定した。結果を表3に示す。
Figure 0005093883
表3に示すように、抗菌処理直後と比較して、五倍子タンニン酸を用いた比較例1-4Bの抗菌作用が減少しているのに対し、縮合型タンニン酸を用いた実施例1Bでは、抗菌作用が持続している。したがって、五倍子タンニン酸を用いるよりも、縮合型タンニン酸を用いた方が、優れた抗菌作用を示すと言える。
実験例2
〔実験2〕
<実施例2>
縮合型タンニン酸としてケブラチョを原料としたものを、銀イオンとして硝酸銀水溶液用いて、図2に示す装置にて、第2の実施の形態に示す方法により連続運転および抗菌処理を行った。タンク1に受けた原水は、前段の膜除濁装置にて除濁処理された地下水であり、運転期間中の導電率は平均20mS/m前後、TOCは平均2mg/L程度で安定していた。膜は日東電工製ES-10-D8を用いた。縮合型タンニン酸および銀イオン濃度は、分離膜モジュールの入口で10mg/Lとなるように調整し、添加間隔は2週間に1回、添加時間はそれぞれ1時間とした。
<比較例2−1>
実施例2において、縮合型タンニン酸や銀イオンを用いずに、つまり抗菌処理を行わずに、実施例2と同じ方法にて連続運転を行った。
<比較例2−2>
実施例2において、銀イオンを用いずに縮合型タンニン酸のみを用いた以外は、実施例2と同じ方法にて連続運転および抗菌処理を行った。
<比較例2−3>
実施例2において、縮合型タンニン酸を用いずに銀イオンのみを用いた以外は、実施例2と同じ方法にて連続運転および抗菌処理を行った。
上記条件にて連続運転および抗菌を実施し、運転初期、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後それぞれの性能評価を行った。なお阻止率は、導電率を基準に計算した。透過水量は、運転初期を100とした相対値で示した。結果を表4に示す。
Figure 0005093883
表4に示すように、縮合型タンニン酸および銀イオンによる定期的な抗菌処理を実施した実施例2では、性能の変化がなく、安定した運用が可能であった。一方、抗菌処理を実施しなかった比較例2−1では、経時的な阻止率・透過水量の低下、通水差圧の上昇が発生し、分離膜のスライム汚染が推察された。縮合型タンニン酸のみで処理をした比較例2−2も同様であった。また銀イオン処理のみを実施した比較例2−3では、何も処理をしない比較例2−1よりは改善されたものの、効果は不十分であった。
本発明に係る分離膜の改質方法および装置、その方法により改質された分離膜、並びに分離膜の運転方法および装置は、分離膜の抗菌性能の改善のための分離膜の効果的な改質が要求されるあらゆる用途に適用でき、とくに逆浸透膜やナノろ過膜を改質するのに好適なものである。
本発明の第1の実施の形態に係る分離膜の改質装置の機器系統図である。 本発明の第2の実施の形態に係る分離膜の運転装置の機器系統図である。 本発明における分離膜の改質装置の別の形態例を示す機器系統図である。 本発明における分離膜の運転装置の別の形態例を示す機器系統図である。
符号の説明
1 分離膜供給水タンク(原水タンク)
2 加圧ポンプ
3 分離膜モジュール
4、5、6、7、8、9 弁
10、20 薬液タンク
11、21 薬注ポンプ
12 水質計
31、31a、31b、31c 膜エレメント
32、32a、32b、32c 耐圧容器としてのベッセル

Claims (21)

  1. 分離膜に、縮合型タンニン酸を含む有機物質および重金属イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して重金属イオンを固定化し、前記重金属イオンとして銀イオンを用いることを特徴とする、分離膜の改質方法。
  2. 離膜に、前記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して銀イオンを固定化し、分離膜の抗菌作用を向上させることを特徴とする、請求項1に記載の分離膜の改質方法。
  3. 前記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する方法として、縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを混合した混合液を、分離膜へ供給することを特徴とする、請求項1または2に記載の分離膜の改質方法。
  4. 前記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する方法として、縮合型タンニン酸を含む有機物質を含む水を分離膜へ供給後、銀イオンを含む水を分離膜へ供給することを特徴とする、請求項1または2に記載の分離膜の改質方法。
  5. 前記分離膜として、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜を使用することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
  6. 前記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜を使用することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
  7. 前記分離膜として、スパイラル型膜エレメントを使用することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
  8. 前記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜を使用することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
  9. 銀イオン源として、硝酸銀、硫酸銀のうち、少なくともいずれか1つを含む物質を用いることを特徴とする、請求項〜8のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の分離膜の改質方法により改質された分離膜。
  11. 分離膜に原水を供給し原水を透過水と濃縮水とに分離する運転中に、請求項1〜のいずれかに記載の方法により、連続的または断続的に縮合型タンニン酸を含む有機物質および重金属イオンを含む水を分離膜へ供給することにより分離膜を改質し、膜性能を安定させて運転するようにし、前記重金属イオンとして銀イオンを用いることを特徴とする、分離膜の運転方法。
  12. 分離膜に、縮合型タンニン酸を含む有機物質および重金属イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して重金属イオンを固定化する手段を有し、前記重金属イオンとして銀イオンを用いることを特徴とする、分離膜の改質装置。
  13. 離膜に、前記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を加圧通水し、分離膜に前記有機物質を介して銀イオンを固定化し、分離膜の抗菌作用を向上させる手段を有することを特徴とする、請求項12に記載の分離膜の改質装置。
  14. 前記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段が、縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを混合した混合液を、分離膜へ供給する手段からなることを特徴とする、請求項12または13に記載の分離膜の改質装置。
  15. 前記縮合型タンニン酸を含む有機物質および銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段が、縮合型タンニン酸を含む有機物質を含む水を分離膜へ供給後、銀イオンを含む水を分離膜へ供給する手段からなることを特徴とする、請求項12または13に記載の分離膜の改質装置。
  16. 前記分離膜として、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜が使用されることを特徴とする、請求項12〜15のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
  17. 前記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜が使用されることを特徴とする、請求項12〜16のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
  18. 前記分離膜として、スパイラル型膜エレメントが使用されることを特徴とする、請求項12〜17のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
  19. 前記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜が使用されることを特徴とする、請求項12〜18のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
  20. 銀イオン源として、硝酸銀、硫酸銀のうち、少なくともいずれか1つを含む物質が用いられることを特徴とする、請求項12〜19のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
  21. 分離膜に原水を供給し原水を透過水と濃縮水とに分離する運転中に、請求項12〜20のいずれかに記載の装置を用いて、連続的または断続的に縮合型タンニン酸を含む有機物質および重金属イオンを含む水を分離膜へ供給することにより分離膜を改質し、膜性能を安定させて運転するようにし、前記重金属イオンとして銀イオンを用いたことを特徴とする、分離膜の運転装置。
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