以下、本発明の実施形態に係る車両に搭載された伝達比可変操舵装置(以下、単に操舵装置という)について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る操舵装置の構成を概略的に示している。
この操舵装置は、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を転舵するために、運転者によって回動操作される操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は、操舵入力軸12の上端に固定されており、操舵入力軸12の下端は、伝達比可変アクチュエータ20に接続されている。
伝達比可変アクチュエータ20は、操舵入力軸12と転舵出力軸13とを相対回転可能に接続し、操舵入力軸12の回転量(または回転角)に対して、接続された転舵出力軸13の回転量(または回転角)を適宜変更するものである。このため、伝達比可変アクチュエータ20は、電動モータ21(以下、この電動モータをVGRSモータ21という)と、同電動モータ21の回転を許容(アンロック)または規制(ロック)するロック機構22と、減速機23とを備えている。
VGRSモータ21は、例えば、三相交流ブラシレスモータなどであり、モータハウジング21aが操舵入力軸12と一体的に接続されていて、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に従って一体的に回転するようになっている。そして、VGRSモータ21の駆動シャフト21bの基端側はモータハウジング21a内にて固定されたロック機構22に接続されており、一方、駆動シャフト21bの先端側は減速機23に接続されている。なお、以下の説明においては、VGRSモータ21のモータハウジング21aを操舵入力軸12に対して一体的に(直接的に)接続して実施するが、例えば、操舵入力軸12に一体的に接続されたケーシング部材にVGRSモータ21を固定的に収容して実施することも可能である。
ロック機構22は、図2に示すように、駆動シャフト21bの外周に固定されたロックホルダ22aと、ロックホルダ22aに対して当接または離間するロックレバー22bとを備えている。ロックホルダ22aは、駆動シャフト21bと一体的に回転する円盤状の部材であり、その外周に複数の浅溝部22a1が形成されるとともに、この浅溝部22a1のいずれか一端部に深溝部22a2が形成されている。ロックレバー22bは、その先端部分にロックホルダ22aに形成された浅溝部22a1または深溝部22a2に係合する係合部22b1が形成されている。
また、ロックレバー22bは、その略中央部分にて、モータハウジング21aに対して一端部が一体的に固定されて、駆動シャフト21bの軸線方向と平行な方向に延出するロックピン22cの他端部側に回転摺動可能に組み付けられている。さらに、ロックレバー22bは、その基端部分にて、ソレノイド22dに接続されている。ソレノイド22dは、後述する作動制御に基づいて、通電状態により収縮動作する。
そして、ロック機構22は、ソレノイド22dへの通電が遮断された状態において、ロックレバー22bが図示省略のバネの付勢力によってロックピン22cの軸線回りに回転し、係合部22b1がロックホルダ22aの浅溝部22a1または深溝部22a2に対して係合する。なお、以下の説明において、この係合状態をロック状態という。一方、ロック機構22は、ソレノイド22dに通電された状態において、ロックレバー22bがソレノイド22dの収縮動作によってロックピン22cの軸線回りに回転し、係合部22b1がロックホルダ22aの浅溝部22a1または深溝部22a2から離間する。なお、以下の説明において、この離間状態をアンロック状態という。
減速機23は、所定のギア機構(例えば、ハーモニックドライブ(登録商標)機構または遊星ギア機構など)によって構成されており、転舵出力軸13の一端側はこのギア機構に接続されている。これにより、減速機23は、VGRSモータ21の回転力が駆動シャフト21bを介して伝達されると、所定のギア機構によって駆動シャフト21bの回転を適宜減速して転舵出力軸13に回転を伝達する。したがって、伝達比可変アクチュエータ20は、VGRSモータ21の駆動シャフト21bを介して、操舵入力軸12と転舵出力軸13とを相対回転可能に連結しており、操舵入力軸12の回転量(または回転角)に対する転舵出力軸13の回転量(または回転角)の比、すなわち、操舵入力軸12から転舵出力軸13への回転の伝達比を適宜変更することができる。
また、転舵装置は、転舵出力軸13の他端側に接続された転舵ギアユニット30を備えている。転舵ギアユニット30は、例えば、ラックアンドピニオン方式を採用したギアユニットであり、転舵出力軸13に一体的に組み付けられたピニオンギア31の回転がラックバー32に伝達されるようになっている。また、転舵ギアユニット30には、運転者によって操舵ハンドル11に入力される操舵力(操舵トルク)を軽減するための電動モータ33(以下、この電動モータをEPSモータ33という)が設けられており、EPSモータ33の発生するトルク(アシスト力)がラックバー32に伝達されるようになっている。
この構成により、転舵出力軸13の回転力が一体的に回転するピニオンギア31を介してラックバー32に伝達されるとともに、EPSモータ33のアシスト力がラックバー32に伝達される。これにより、ラックバー32は、ピニオンギア31からの回転力およびEPSモータ33のアシスト力によって軸線方向に変位する。したがって、ラックバー32の両端に接続された左右前輪FW1,FW2は、左右に転舵されるようになっている。
さらに、操舵装置は、車速センサ41、操舵角センサ42、回転角センサ43、トルクセンサ44およびモータ電流値検出センサ45を備えている。車速センサ41は、車両の車速Vを検出して出力する。操舵角センサ42は、操舵入力軸12の回転量すなわち操舵ハンドル11の回転量を検出して回転角θs(操舵ハンドル11の操舵角に対応)として出力する。回転角センサ43は、VGRSモータ21のモータハウジング21aに組み付けられていて、操舵入力軸12(すなわちモータハウジング21a)の回転量に対する駆動シャフト21bの回転量を検出して回転角θmとして出力する。トルクセンサ44は、転舵出力軸13に発生する捩れを検出して同発生した捩れに対応するトルクTを出力する。モータ電流値検出センサ45は、VGRSモータ21に流れる電流値Iを検出して出力する。
次に、上述した伝達比可変アクチュエータ20(詳しくは、VGRSモータ21とソレノイド22d)および転舵ギアユニット30(詳しくは、EPSモータ33)の作動を制御する電気制御装置50について説明する。
電気制御装置50は、伝達比可変アクチュエータ20のVGRSモータ21およびロック機構22のソレノイド22dの作動を制御する電子制御ユニット51(以下、この電子制御ユニットをVGRSECU51という)と、転舵ギアユニット30のEPSモータ33の作動を制御する電子制御ユニット52(以下、この電子制御ユニットをEPSECU52という)とを備えている。これらVGRSECU51およびEPSECU52は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものである。そして、VGRSECU51およびEPSECU52は、例えば、車両内に構築された通信回線Aを介して、互いに通信可能とされている。
また、VGRSECU51の入力側には、車速センサ41、操舵角センサ42、回転角センサ43およびモータ電流値検出センサ45が接続されており、EPSECU52の入力側には、操舵角センサ42およびトルクセンサ44が接続されている。これにより、VGRSECU51およびEPSECU52は、これら接続された各センサによる各検出値を用いて後述するプログラムを含む各種プログラムを実行し、VGRSモータ21、ソレノイド22dおよびEPSモータ33の作動をそれぞれ制御する。このため、VGRSECU51の出力側には、VGRSモータ21およびソレノイド22dを駆動させるための駆動回路53,54が接続され、EPSECU52の出力側には、EPSモータ33を駆動させるための駆動回路55が接続されている。
次に、上記のように構成した操舵装置の作動について説明する。図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、VGRSECU51は伝達比可変アクチュエータ20のVGRSモータ21を駆動させて伝達比Gを連続的に変更する伝達比可変制御を実行する。また、EPSECU52は、転舵ギアユニット30のEPSモータ33を駆動させて運転者による操舵ハンドル11の操作力を軽減するトルクアシスト制御を開始する。以下、VGRSECU51による伝達比可変制御とEPSECU52によるトルクアシスト制御を簡単に説明しておく。
まず、伝達比可変制御から説明すると、VGRSECU51は、車速センサ41から現在の車速Vを入力するとともに、例えば、図3に示すようなテーブルを参照して、検出された車速Vに応じた伝達比Gを決定する。なお、伝達比Gは、車速Vの増大に伴って非線形的にかつ連続的に小さくなる特性を有している。そして、車速Vに応じた伝達比Gが決定された状態において、運転者が操舵ハンドル11の回動操作を開始すると、操舵入力軸12、伝達比可変アクチュエータ20、転舵出力軸13およびピニオンギア31も回転を開始する。この運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴い、VGRSECU51は、操舵角センサ42によって検出された操舵入力軸12の回転角θsを入力する。そして、VGRSECU51は、入力した回転角θsと決定した伝達比Gとを乗算することにより、操舵入力軸12の回転角θs(すなわち操舵ハンドル11の操舵角)に対するピニオンギア31の目標回転角θph(すなわち左右前輪FW1,FW2の目標転舵角に対応)を計算する。
次に、VGRSECU51は、計算したピニオンギア31の目標回転角θphを実現するために必要なVGRSモータ21の作動量すなわち駆動シャフト21bの目標回転角θmhを計算する。具体的に説明すると、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴って、操舵入力軸12と一体的に接続されたVGRSモータ21のモータハウジング21aが回転する。このとき、VGRSECU51は、モータハウジング21aの回転に応じて転舵出力軸13に一体的に接続されたピニオンギア31を回転させるために、駆動回路53を制御してVGRSモータ21を駆動させる。このVGRSモータ21の駆動制御において、VGRSECU51は、操舵入力軸12の回転角θsに対してピニオンギア31が目標回転角θphになるように、目標回転角θmhを計算する。すなわち、VGRSECU51は、操舵入力軸12に対する駆動シャフト21bの目標回転角θmhを下記式1に従って計算する。
θmh=θph−θs=(G−1)・θs …式1
なお、以下の説明においては、前記式1中の(G−1)を可変アシスト比Kvともいう。
そして、VGRSECU51は、前記式1に従って目標回転角θmhを計算すると、回転角センサ43によって検出される回転角θmが目標回転角θmhとなるまでオーバーシュートさせることなく駆動回路53を制御して、VGRSモータ21の駆動シャフト21bを回転させる。これにより、転舵出力軸13に接続されたピニオンギア31は、操舵入力軸12の回転角θsに対して駆動シャフト21bの目標回転角θmh分だけ加算または減算された、言い換えれば、操舵入力軸12の回転角θsに対して伝達比Gとなる目標回転角θphに回転される。したがって、このピニオンギア31の回転に応じてラックバー32が軸線方向に変位することにより、左右前輪FW1,FW2は目標回転角θphに対応する目標転舵角に転舵される。
このように、左右前輪FW1,FW2が目標回転角θphに対応する目標転舵角に転舵されることによって、運転者は車速Vに応じて良好な操舵操作性(操舵フィーリング)を得ることができる。具体的には、検出車速Vが増大すると伝達比Gが小さく決定されることから、操舵入力軸12の回転方向に対してピニオンギア31は相対的に逆方向に回転する。すなわち、この場合には、ピニオンギア31の目標回転角θphは、操舵入力軸12(操舵ハンドル11)の回転角θsから駆動シャフト21bの目標回転角θmhを減じることによって計算される。このため、運転者による操舵ハンドル11の回動操作量に対して左右前輪FW1,FW2が小さく、言い換えれば、操舵ハンドル11の回動操作に対して左右前輪FW1,FW2が穏やかに転舵されるようになる。これにより、運転者は容易に操舵ハンドル11を操作することができるとともに、高速走行時における車両の挙動を安定させることができる。
一方、検出車速Vが減少すると伝達比Gが大きく設定されることから、操舵入力軸12の回転方向にて転舵出力軸13は相対的に多く回転する。すなわち、この場合には、ピニオンギア31の目標回転角θphは、操舵入力軸12(操舵ハンドル11)の回転角θsに駆動シャフト21bの目標回転角θmhを加算することによって計算される。このため、運転者による操舵ハンドル11の回動操作量に対して左右前輪FW1,FW2が大きく、言い換えれば、操舵ハンドル11の回動操作に対して左右前輪FW1,FW2が速やかに転舵される。これにより、例えば、車庫入れなどにおいては、運転者による操舵ハンドル11の回動操作量を少なくすることができて、運転者の操作負担を軽減することができる。
次に、トルクアシスト制御を説明する。EPSECU52は、運転者によって操舵ハンドル11の回動操作量とトルク(すなわち操舵トルク)の大きさに応じて、回動操作に必要な操舵トルクを軽減すべくEPSモータ33を駆動させて、ラックバー32にアシスト力を伝達する。すなわち、EPSECU52は、操舵角センサ42から回転角θsを入力するとともにトルクセンサ44からトルクTを入力し、これら入力した回転角θsおよびトルクTの大きさに応じてEPSモータ33を駆動させるための制御量を設定する。そして、EPSECU52は、設定した制御量に基づいて、オーバーシュートさせることなく、駆動回路55を制御して、EPSモータ33を駆動させる。これにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴う操舵トルクが軽減され、運転者の肉体的な負担を軽減することができる。
このように、伝達比可変アクチュエータ20を採用した操舵装置においては、上述したように、特に、検出車速Vが小さいときには、運転者による操舵ハンドル11の回動操作量を小さくして車両を良好に旋回させることができる。言い換えれば、検出車速Vが小さい状況においては、運転者による操舵ハンドル11の操舵角に対して左右前輪FW1,FW2の転舵角を大きくすることができる。したがって、検出車速Vが小さい状況においては、左右前輪FW1,FW2の転舵可能範囲を機械的に決定するメカストッパ位置に対応する最大角度(以下、この最大角度をメカエンド角θ_endという)までピニオンギア31の回転角θpが変化する頻度が高くなる。
ところで、ピニオンギア31の回転角θpがメカエンド角θ_endまで変化したときには、左右前輪FW1,FW2の転舵動作がメカストッパによって強制的に停止される。このため、VGRSECU51は、例えば、左右前輪FW1,FW2の強制的な停止に伴って入力する外力が可変ギア比アクチュエータ20に与えるダメージを低減するために、ロック機構22をロック状態となるように作動制御する。このVGRSECU51による作動制御に従って、ロック機構22は、ロックホルダ22aの外周上に形成された少なくとも複数の浅溝部22a1のうちの1つに対してロックレバー22bに形成された係合部22b1を係合させてロック状態に移行する。ここで、ロック機構22がロック状態に移行する際においては、特に、ロックホルダ22aが高速で回転していると、ロックレバー22bとロックホルダ22aとの当接に伴う打音(以下、この打音をロック音という)が発生し、このロック音が運転者によって耳障りな音として認識される可能性がある。
このため、VGRSECU51は、図4に示すロック機構作動制御プログラムを実行し、ピニオンギア31の回転角θpがメカエンド角θ_endまで変化する転舵状態にあるときには、ロック機構22をロック状態に移行させるとともにロック音が運転者によって認識されにくくする。以下、このロック機構作動制御プログラムを具体的に説明する。
VGRSECU51は、図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、ロック機構作動制御プログラムの実行をステップS10にて開始し、ステップS11にて、操舵角センサ42から操舵入力軸12の回転角θsを入力するとともに回転角センサ43からVGRSモータ21の駆動シャフト21bの回転角θmを入力する。そして、VGRSECU51は、各検出値を入力すると、ステップS12に進む。
ステップS12においては、VGRSECU51は、ピニオンギア31の回転角θpを、前記ステップS11にて入力した回転角θsおよび回転角θmを用いた下記式2に従って計算する。
θp=θs+θm・Kb …式2
ただし、前記式2中のKbは減速機23のギア比を表す。
続くステップS13においては、VGRSECU51は、計算した回転角θpの絶対値がメカエンド角θ_endよりも小さく設定されたロック作動開始回転量としてのロック角θ_lock以上であるか否かを判定する。ここで、ロック角θ_lockは、ロック機構22がロック状態に移行するために必要な駆動シャフト21bの回転量、より詳しくは、ロックホルダ22aの浅溝部22a1の形成間隔に基づいて、予め実験的に設定される定数である。そして、VGRSECU51は、計算した回転角θpの絶対値がロック角θ_lock以上であれば、「Yes」と判定してステップS14に進む。
一方、VGRSECU51は、計算した回転角θpの絶対値がロック角θ_lock未満であれば、ロック機構22をアンロック状態に維持するために「No」と判定する。そして、VGRSECU51は、回転角θpの絶対値がロック角θ_lock以上となるまで「No」と判定し続け、ステップS11およびステップS12の各ステップ処理を繰り返し実行する。
ステップS14においては、VGRSECU51は、運転者による操舵ハンドル11の
操舵角速度ωsの絶対値が予め設定されたロック作動開始操作速度としてのロック操舵角速度ω_lock以上であるか否かを判定する。ここで、ロック操舵角速度ω_lockは、ソレノイド22dの応答時間やロックホルダ22aの浅溝部22a1の形成間隔などを考慮して、ピニオンギア31の回転角θpがロック角θ_lockからメカエンド角θ_endに到達する直前に、ロック機構22がロック状態に移行できるように実験に基づいて設定される定数である。
具体的にステップS14の処理を説明すると、VGRSECU51は、例えば、前記ステップS11にて入力した操舵入力軸12すなわち操舵ハンドル11の回転角θsを時間微分して操舵角速度ωsを計算する。そして、VGRSECU51は、計算した操舵角速度ωsの絶対値がロック操舵角速度ω_lock以上であれば、直ちにロック機構22をロック状態に移行させるために「Yes」と判定してステップS15に進む。
ステップS15においては、VGRSECU51は、ロック機構22をロック状態とするために、駆動回路54を介してソレノイド22dに供給する電流値(以下、この電流値をロック電流値I_lockという)を「0」に設定し、ソレノイド22dへの給電を遮断する。これにより、ソレノイド22dの収縮動作が解除され、ロックレバー22bは図示省略のバネの付勢力によってロックピン22cの軸線回りに回転する。そして、ロックレバー22bの先端部分に形成された係合部22b1がロックホルダ22aの外周上に形成された浅溝部22a1に係合し、ロック機構22がロック状態となる。
ここで、運転者によって操舵ハンドル11が回動操作されると、伝達比可変アクチュエータ20のVGRSモータ21は、この運転者の回動操作に追従して転舵出力軸13に接続されたピニオンギア31を回転させて左右前輪FW1,FW2を転舵させる。したがって、運転者によって操舵ハンドル11が大きな操舵角速度ωsで回動操作された場合には、VGRSモータ21は高速で回転して左右前輪FW1,FW2を速やかに転舵させる。このため、VGRSモータ21が高速で回転している状況において、ロック機構22がロック状態に移行すると、発生するロック音は大きくなる。
一方で、左右前輪FW1,FW2がメカエンド角θ_endに対応する最大転舵角まで転舵される状況において、左右前輪FW1,FW2の転舵動作が強制的に停止されると、この停止に伴う打音(以下、この打音をエンド当たり音という)が必然的に発生する。そして、このエンド当たり音も、左右前輪FW1,FW2が速やかに転舵されるほど大きくなる。
ところで、ロック操舵角速度ω_lockは、高速で回転するピニオンギア31の回転角θpがメカエンド角θ_endに到達する直前にロック機構22がロック状態に移行するように設定される。したがって、操舵角速度ωsの絶対値がロック操舵角速度ω_lock以上となったときには、ロック音が発生するタイミングとエンド当たり音が発生するタイミングとを略一致させることができる。これにより、運転者にとって耳障りなロック音を必然的に発生するエンド当たり音に紛れ込ますことができ、運転者がロック音として認識し難くすることができる。
このように、ロック機構22を直ちにロック状態へ移行させると、VGRSECU51は、ステップS17に進む。
一方、計算した操舵角速度ωsの絶対値がロック操舵角速度ω_lock未満であれば、VGRSECU51は、ステップS14にて「No」と判定してステップS16に進む。このように、操舵角速度ωsの絶対値がロック操舵角速度ω_lock未満である状況では、VGRSモータ21は比較的ゆっくりと回転しており、発生するロック音は比較的小さくなる。ステップS16においては、VGRSECU51は、例えば、VGRSモータ21に流れる駆動電流値Imの最大値Im_maxを制限した状態で、通常ロック作動制御により、ロック機構22をロック状態に移行させる。
具体的に説明すると、VGRSECU51は、例えば、図5に示すように、前記ステップS12にて計算されたピニオンギア31の回転角θpの絶対値がロック角θ_lock未満のときに設定される駆動電流値Imの最大値Im_max(一定値)に対して、回転角θpの絶対値がロック角θ_lock以上のときには、回転角θpの絶対値の増加に伴って最大値Im_maxを線形的に小さく変更する。これにより、ピニオンギア31の回転角θpの絶対値がメカエンド角θ_endまで変化する状況においては、VGRSECU51は、変更した最大値Im_maxとモータ電流値検出センサ45によって検出された
電流値Iとに基づき、駆動回路53を制御してVGRSモータ21をよりゆっくりと回転させる。そして、VGRSECU51は、VGRSモータ21がゆっくりと回転している状態で、例えば、回転角θpの絶対値がメカエンド角θ_endと一致したときに、ロック電流値I_lockを「0」に設定してロック機構22をロック状態に移行させる。これにより、ロック状態への移行に伴って発生するロック音を小さくすることができ、運転者がロック音を認識し難くすることができる。
このように、ロック機構22をロック状態に移行させると、VGRSECU51は、ステップS17に進む。
前記ステップS15または前記ステップS16の各処理によってロック機構22をロック状態に移行させると、VGRSECU51は、ステップS17にて、運転者が操舵ハンドル11を介して入力しているトルクTを操舵角センサ42から入力する。以下、このことについて詳細に説明する。
ステップS17以降の各ステップ処理が実行される状況は、左右前輪FW1,FW2が最大転舵角まで転舵している状態、言い換えれば、ピニオンギア31の回転角θpがメカエンド角θ_endまで変化している状態で、ロック機構22がロック状態に移行している状況である。この状況においては、VGRSモータ21は左右前輪FW1,FW2を最大転舵角で維持するために必要なトルクを発生しており、VGRSモータ21のモータハウジング21aが一体的に接続された操舵入力軸12には反作用によってVGRSモータ21が発生しているトルクと絶対値が等しく逆向きのトルク(以下、この逆向きのトルクをロックトルクという)が入力される。したがって、運転者は、左右前輪FW1,FW2を最大転舵角まで転舵させたときには、操舵ハンドル11を介して、操舵入力軸12に入力されるロックトルクを反力として知覚し、このロックトルクに等しいトルク(操舵トルク)を入力していることになる。すなわち、左右前輪FW1,FW2が最大転舵角まで転舵している状況では、運転者が入力するトルク(操舵トルク)とVGRSモータ21が発生しているトルク(ロックトルク)とが釣り合うトルクバランスが成立しているといえる。
したがって、上記トルクバランスが成立している状況においては、例えば、運転者が操舵ハンドル11をより大きく回動操作しようとすると、左右前輪FW1,FW2はエンドストッパによってそれ以上の転舵が規制されているために、操舵ハンドル11の回動操作に追従して駆動するVGRSモータ21が発生するトルクが増大する。このため、ロックトルクも増大することになり、その結果、運転者が操舵ハンドル11を回動操作するために入力するトルク(操舵トルク)が増大するため、操舵ハンドル11のそれ以上の回動操作が規制される。
ところが、VGRSモータ21が発生し得るトルクすなわちロックトルクよりも大きなトルク(操舵トルク)が操舵ハンドル11を介して入力されると、上記トルクバランスが崩れて操舵ハンドル11がより回動操作されることになる。この場合、操舵入力軸12に一体的に接続されたモータハウジング21aも回転するため、このモータハウジング21aの回転開始に伴ってVGRSモータ21の駆動シャフト21bは反作用により逆転するようになる。すなわち、運転者によって入力されるトルク(操舵トルク)がVGRSモータ21が発生し得る最大トルク以下であれば上記トルクバランスが維持されてVGRSモータ21は適切なロックトルクを発生するものの、運転者によって入力されるトルク(操舵トルク)がVGRSモータ21が発生し得る最大トルクを超えると上記トルクバランスが崩れると同時にVGRSモータ21は急激に逆転するようになる。ここで、VGRSモータ21の逆転は、VGRSモータ21の最大トルク、言い換えれば、ロックトルクが大きいほど急激に逆転する傾向にある。
ところで、ロック機構22がロック状態にあるときには、図2に示したように、ロックレバー22bの先端部分に形成された係合部22b1がロックホルダ22aに形成された浅溝部22a1の一方の立壁面と係合して、VGRSモータ21の駆動シャフト21bの一方向への回転をロックする。しかし、上述したように、トルクバランスが崩れてVGRSモータ21の駆動シャフト21bが急激に逆転する状況では、駆動シャフト21bが浅溝部22a1の形成幅分だけ回転し、図6に示すように、ロックレバー22bの係合部22b1が浅溝部22a1の他方の立壁面と当接して打音が発生し、運転者によって耳障りな音として認識される可能性がある。
このように発生する打音を運転者によって認識され難くすべく、VGRSECU51は、ロック機構22をロック状態に移行させた後に、運転者によって入力されるトルクT(操舵トルク)の大きさに応じて積極的にVGRSモータ21が発生するロックトルクの大きさ、すなわち、VGRSモータ21の急激な逆転を制御するために、ステップS17にて、トルクTを入力する。そして、VGRSECU51は、検出トルクTを入力すると、ステップS18に進む。
ステップS18においては、VGRSECU51は、VGRSモータ21が最大のロックトルクを発生するときの駆動電流値Im(以下、この駆動電流値をロック駆動電流値Im_lockという)を制限するための電流制限ゲインKiを、前記ステップS17にて入力した検出トルクTの大きさに応じて決定する。具体的に説明すると、VGRSECU51は、図7に示すように、前記ステップS17にて入力した検出トルクTの増大に伴って線形的に増大して変化する電流制限ゲインKiを決定する。なお、電流制限ゲインKiは「1」よりも小さな値に決定されることはいうまでもない。そして、VGRSECU51は、検出トルクTの大きさに応じて電流制限ゲインKiを決定すると、ステップS19に進む。
ここで、図7に示すように、電流制限ゲインKiは、所定の検出トルクTの範囲に対して、不感帯(オフセット幅)を設定しておくとよい。これにより、トルクセンサ44によるトルクTの検出誤差に伴う電流制限ゲインKiの変化を防止することができる。なお、この実施形態においては、電流制限ゲインKiを検出トルクTに対し、1つの傾きを有して線形的に変化するように実施するが、例えば、2つ以上の傾きを有して線形的に変化するように実施したり、不感帯(オフセット)の設定を省略して実施することも可能である。また、電流制限ゲインKiを検出トルクTに対して線形的に変化させることに代えて、例えば、検出トルクTに対して上に凸または下に凸となるように電流制限ゲインKiが非線形的に変化するように実施することも可能である。
ステップS19においては、VGRSECU51は、前記ステップS18にて決定した電流制限ゲインKiを用いた下記式3に従い、ロック機構22がロック状態に移行した後のVGRSモータ21に供給する駆動電流値Imを計算する。
Im=Im_lock・Ki …式3
そして、VGRSECU51は、ロック機構22がロック状態に移行した後において、駆動回路53を介して、計算した駆動電流値ImをVGRSモータ21に供給する。これにより、例えば、運転者が操舵ハンドル11を介してロックトルクよりも大きなトルクT(操舵トルク)を入力した場合であっても、ロックトルクの大きさが適切に制限されるため、VGRSモータ21は比較的ゆっくりと逆転する。したがって、ロックレバー22bの係合部22b1とロックホルダ22aの浅溝部22a1の立壁面とが当接することにより発生する打音を小さくすることができ、運転者がこの打音を認識し難くすることができる。なお、図6に示した状態においては、VGRSモータ21が逆転した後、ロックレバー22bの係合部22b1はロックホルダ22aに形成された深溝部22a2内に収容されて係合する。
このように、ロック機構22がロック状態に移行した後のVGRSモータ21に供給する駆動電流値Imを計算し、この駆動電流値ImをVGRSモータ21に供給すると、VGRSECU51は、ステップS20に進んで本プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い時間の経過後、ふたたび、ロック機構作動制御プログラムの実行をステップS10にて開始する。
ここで、ロック機構作動制御プログラムの実行によって、ロック機構22がロック状態にある状態において、例えば、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴ってピニオンギア31の回転角θpの絶対値がロック角θ_lock未満になると、VGRSECU51は、ロック機構22をアンロック状態に移行させる。すなわち、VGRSECU51は、駆動回路54を制御して、ソレノイド22dに対して所定の大きさに設定されたロック電流値I_lockの供給を開始する。これにより、ソレノイド22dは、収縮動作を開始し、図示省略のバネの付勢力に抗してロックレバー22bをロックピン22cの軸線回りに回転させる。したがって、ロックレバー22bの係合部22b1とロックホルダ22aの浅溝部22a1または深溝部22a2とが互いに離間し、ロック機構22は係合が解除されたアンロック状態に移行する。
以上の説明からも理解できるように、この実施形態によれば、VGRSECU51は、ロック機構作動制御プログラムのステップS13にて転舵出力軸13と一体的に回転するピニオンギア31の回転角θpの絶対値がロック角θ_lock以上であると判定し、かつ、ステップS14にて操舵ハンドル11の操舵角速度ωsの絶対値がロック操舵角速度ω_lock以上であると判定したときには、ステップS15にてロック機構22を直ちにロック状態に移行させることができる。これにより、ロック状態への移行に伴って発生するロック音と左右前輪FW1,FW2がメカエンドストッパに当接することによって発生するエンド当たり音の発生タイミングを略同時とすることができる。
これにより、左右前輪FW1,FW2がメカエンドストッパに当接する直前にロック機構22をロック状態に移行させることができるため、伝達比可変アクチュエータ20を良好に保護できる。そして、左右前輪FW1,FW2がメカエンドストッパに当接することによって必然的に発生するエンド当たり音に対して、ロック機構22の作動に伴うロック音を紛れ込ますことができるため、運転者によって耳障りな音を知覚され難くすることができる。
さらに、ロック機構22がロック状態に移行した後、操舵ハンドル11を介して入力されるトルクTの大きさに応じて、伝達比可変アクチュエータ20のVGRSモータ21の出力を制限する、言い換えれば、「1」よりも小さい電流制限ゲインKiをVGRSモータ21が最大のロックトルクを発生するときのロック駆動電流値Im_lockに対して乗算した制御量としての駆動電流値Imを用いることにより、VGRSモータ21の急激な逆転現象を防止することができる。したがって、ロック機構22がロック状態に移行した後であっても、運転者によって耳障りな音を知覚され難くすることができる。
変形例
上記実施形態においては、VGRSモータ21を運転者による操舵ハンドル11の速い回動操作に追従させた状態でロック機構作動制御プログラムを実行し、発生するロック音をエンド当たり音に紛れ込ますことによって、運転者がロック音を認識し難くなるように実施した。しかし、VGRSモータ21が高速で回転している状態において、ロックレバー22bの係合部22b1とロックホルダ22aの溝部22a1との当接状態によっては、ロック音が極めて大きくなる場合があり、運転者によってロック音が認識される可能性がある。
したがって、この変形例では、メカエンド角θ_endに向けて左右前輪FW1,FW2が転舵する状況において、操舵入力軸12と駆動シャフト21bとの間で相対的な回転変位が生じないようにVGRSモータ21の回転速度を制御した状態で、ロック機構22をロック状態に移行させる。以下、この変形例を詳細に説明するが、上記実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
この変形例においては、VGRSモータ21の回転速度を転舵出力軸13と一体的に回転するピニオンギア31の回転角θpの絶対値の大きさに応じて適切に制御するために、VGRSECU51は、図8に示すモータ回転速度制御プログラムを実行する。このモータ回転速度制御プログラムは、図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、所定の短い時間間隔によって繰り返し実行されるものである。
具体的に説明すると、VGRSECU51は、モータ回転速度制御プログラムをステップS30にて開始し、続くステップS31にて、各センサによって検出された検出値を入力する。すなわち、VGRSECU51は、車速センサ41から車速V、操舵角センサ42から回転角θsおよび回転角センサ43から回転角θmをそれぞれ入力する。そして、各検出値を入力すると、VGRSECU51はステップS32に進む。
ステップS32においては、VGRSECU51は、ピニオンギア31の回転角θpを、上述した実施形態において説明した式2に従って計算する。そして、VGRSECU51は、回転角θpを計算すると、ステップS33に進む。
ステップS33においては、VGRSECU51は、計算した回転角θpの絶対値が、ロック角θ_lockよりも小さく設定された維持作動開始回転量としてのモータ回転固定角θ_lim以上であるか否かを判定する。ここで、モータ回転固定角θ_limは、操舵入力軸12に対してVGRSモータ21の駆動シャフト21bが相対的な回転変位を生じないように、言い換えれば、操舵入力軸12と駆動シャフト21bとの間に相対的な回転角速度差を生じないように、VGRSモータ21の駆動制御を開始するために予め設定される定数である。
すなわち、VGRSECU51は、計算した回転角θpの絶対値がモータ回転固定角θ_lim以上であれば、「Yes」と判定してステップS34に進み、操舵入力軸12と駆動シャフト21bとの相対的な回転変位を維持してVGRSモータ21を駆動制御する維持駆動制御ルーチンを実行する。一方、VGRSECU51は、計算した回転角θpの絶対値がモータ回転固定角θ_lim未満であれば、「No」と判定してステップS35に進み、操舵入力軸12と駆動シャフト21bとの相対的な回転変位を許容してVGRSモータ21を駆動制御する通常駆動制御ルーチンを実行する。以下、この維持駆動制御ルーチンと通常駆動制御ルーチンを具体的に説明するが、理解を容易とするために、まず、通常駆動制御ルーチンから説明する。
通常駆動制御ルーチンは、図9に示すように、ステップS50にて、その実行が開始される。そして、VGRSECU51は、ステップS51にて、操舵入力軸12の回転に対するVGRSモータ21の目標回転角θmhを、前記式1と同様に表される下記式4に従って計算する。
θmh=Kv・θs …式4
ただし、前記式4中のKvは可変アシスト比を表す。
このように、VGRSECU51は、目標回転角θmhを計算すると、続くステップS52にて、VGRSモータ21をフィードバック制御するために、目標回転角θmhと回転角センサ43によって検出された実回転角θmとの差分を計算することによって、駆動シャフト21bの角度偏差Δθmを下記式5に従って計算する。
Δθm=θmh−θm …式5
また、VGRSECU51は、今回通常駆動制御ルーチンを実行して計算した偏差Δθm(t)と前回ルーチンを実行したときに計算した偏差Δθm(t-1)との差分を計算することによって、駆動シャフト21bの回転角速度偏差Δωを下記式6に従って計算する。
Δω=Δθm(t)−Δθm(t-1) …式6
そして、VGRSECU51は、角度偏差Δθmおよび回転角速度偏差Δωを計算すると、ステップS53に進む。
ステップS53においては、VGRSECU51は、VGRSモータ21をフィードバック制御するためのフィードバックゲインを設定する。すなわち、VGRSECU51は、図10に示す特性テーブルを参照して角度偏差Δθmおよび回転角速度偏差Δωに対応するフィードバックゲインPfbおよびDfbを小さな値に設定する。これにより、例えば、リップル変動幅を小さく抑制することができVGRSモータ21を安定して駆動制御することができる。なお、この通常駆動制御ルーチンにおいては、フィードバックゲインPfb,Dfbの変化特性を車速Vに対して一定として実施するが、制御状態に応じて、フィードバックゲインPfb,Dfbの変化特性を車速Vに対して変化させて実施可能であることはいうまでもない。そして、VGRSECU51は、フィードバックゲインPfb,Dfbを設定すると、ステップS54に進む。
ステップS54においては、VGRSECU51は、VGRSモータ21を駆動させるための駆動電流値Imを、前記ステップS52にて計算した角度偏差Δθmおよび回転角速度偏差Δωと、前記ステップS53にて設定したフィードバックゲインPfb,Dfbとを用いた下記式7に従って計算する。
Im=Δθm・Pfb+Δω・Dfb …式7
そして、VGRSECU51は、続くステップS55にて、モータ電流値検出センサ45によって検出された電流値Iに基づき、VGRSモータ21に駆動電流値Imが適切に流れるように駆動回路53を制御し、VGRSモータ21を通常駆動させる。
これにより、駆動シャフト21bは前記式4に従って計算した目標回転角θmhまで操舵入力軸12に対して相対的に回転し、転舵出力軸13に接続されたピニオンギア31は、回転角θsと目標回転角θmh(すなわち回転角θm)との和で表される回転角θpに回転する。その結果、左右前輪FW1,FW2は伝達比Gとなるように転舵され、運転者は良好な操舵フィーリングを得ることができる。
このようにVGRSモータ21を通常駆動させると、VGRSECU51は、ステップS56にて、通常駆動制御ルーチンの実行を終了する。そして、VGRSECU51は、モータ回転速度制御プログラムに戻り、ステップS38にて、同プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短時間の経過後、ふたたびステップS30にて、モータ回転速度制御プログラムに実行を開始する。
次に、維持駆動制御ルーチンを説明する。維持駆動制御ルーチンは、図11に示すように、ステップS70にて、その実行が開始される。そして、VGRSECU51は、ステップS71にて、VGRSモータ21の駆動シャフト21aの目標回転角θmhを固定値としての固定目標回転角θmhfに設定する。
具体的に説明すると、VGRSECU51は、モータ回転速度制御プログラムの前記ステップS33にて「Yes」と判定した後に初めて維持駆動制御ルーチンを実行するときには、この「Yes」判定の直前に実行した通常駆動制御ルーチンの前記ステップS51にて計算した目標回転角θmhを固定目標回転角θmhfとして設定する。また、この維持駆動制御ルーチンを2回目以降に実行するときには、前回ルーチンの実行時に設定した固定目標回転角θmhfを引き続き維持する。このように、固定目標回転角θmhfを設定することによって、操舵入力軸12の回転位置とVGRSモータ21の駆動シャフト21bの回転位置との相対的な回転位置関係を固定、より具体的には、操舵入力軸12の回転角速度と駆動シャフト21bの回転角速度とを略一致させることができる。
続いて、VGRSECU51は、ステップS72にて、VGRSモータ21をフィードバック制御するために、前記ステップS71にて設定した固定目標回転角θmhfと回転角センサ43によって検出された実回転角θmとの角度偏差Δθmfを下記式8に従って計算する。
Δθmf=θmhf−θm …式8
また、VGRSECU51は、今回維持駆動制御ルーチンを実行して計算した偏差Δθmf(t)と前回ルーチンを実行したときに計算した偏差Δθmf(t-1)との差分を計算することによって、駆動シャフト21bの回転角速度偏差Δωfを下記式9に従って計算する。
Δωf=Δθmf(t)−Δθmf(t-1) …式9
そして、VGRSECU51は、角度偏差Δθmfおよび回転角速度偏差Δωfを計算すると、ステップS73に進む。
ステップS73においては、VGRSECU51は、VGRSモータ21をフィードバック制御するためのフィードバックゲインを設定する。すなわち、VGRSECU51は、図10に示す特性テーブルを参照して角度偏差Δθmfおよび回転角速度偏差Δωfに対応するフィードバックゲインPfbおよびDfbを、上述した通常駆動制御ルーチンの実行時に比して大きな値に設定する。
これにより、例えば、操舵入力軸12の回転変化に対してVGRSモータ21の駆動シャフト21bを極めて応答性よく、言い換えれば、操舵入力軸12と駆動シャフト21bとの相対回転速度差を略「0」にして、VGRSモータ21を維持駆動制御することができる。なお、この維持駆動制御ルーチンにおいては、フィードバックゲインPfb,Dfbの変化特性を車速Vに対して一定として実施するが、制御状態に応じて、フィードバックゲインPfb,Dfbの変化特性を車速Vに対して変化させて実施可能であることはいうまでもない。そして、VGRSECU51は、フィードバックゲインPfb,Dfbを設定すると、ステップS74に進む。
ステップS74においては、VGRSECU51は、操舵入力軸12の回転変化に対して、VGRSモータ21を維持駆動させるための維持駆動電流値ΔImを、前記ステップS72にて計算した角度偏差Δθmfおよび回転角速度偏差Δωfと、前記ステップS73にて設定したフィードバックゲインPfb,Dfbとを用いた下記式10に従って計算する。
ΔIm=Δθmf・Pfb+Δωf・Dfb …式10
そして、VGRSECU51は、維持駆動電流値ΔImを計算すると、ステップ75に進む。
ステップS75においては、VGRSECU51は、VGRSモータ21を維持駆動させる。具体的に説明すると、VGRSECU51は、操舵入力軸12の回転位置とVGRSモータ21の駆動シャフト21bの回転位置との相対的な回転位置関係を維持するための駆動電流値Imf(t)を、維持駆動電流値ΔImを用いた下記式11に従って計算する。
Imf(t)=Imf(t-1)+ΔIm …式11
ただし、前記式11中のImf(t-1)は、前回、維持駆動制御ルーチンを実行したときに、操舵入力軸12と駆動シャフト21bとの相対的な回転位置関係を維持するために計算した駆動電流値を表す。
そして、VGRSECU51は、モータ電流値検出センサ45によって検出された電流値Iに基づき、VGRSモータ21に駆動電流値Imf(t)が適切に流れるように駆動回路53を制御し、VGRSモータ21を維持駆動させる。これにより、VGRSモータ21の駆動シャフト21bは、操舵入力軸12の回転に対する相対的な回転角速度差を極めて小さくした状態、所謂、操舵入力軸12に連れ回る状態で回転することができる。
前記ステップS75にてVGRSモータ21を維持駆動させると、VGRSECU51は、ステップS76にて、各センサによって検出されたVGRSモータ21の維持駆動後における検出値を入力する。すなわち、VGRSECU51は、車速センサ41から車速V、操舵角センサ42から回転角θsおよび回転角センサ43から回転角θmをそれぞれ入力する。そして、各検出値を入力すると、VGRSECU51はステップS77に進む。ステップS77においては、VGRSECU51は、VGRSモータ21の維持駆動後における現在のピニオンギア31の回転角θpを前記式2に従って計算する。
このようにVGRSモータ21を維持駆動制御すると、VGRSECU51は、ステップS78にて、維持駆動制御ルーチンの実行を終了する。そして、VGRSECU51は、モータ回転速度制御プログラムに戻り、ステップS36にて、維持駆動制御ルーチンの前記ステップS77にて計算したピニオンギア31の回転角θpの絶対値がロック角θ_lock以上であるか否かを判定する。すなわち、回転角θpの絶対値がロック角θ_lock未満であれば、VGRSECU51は「No」と判定してステップS33に戻り、ふたたび、回転角θpがモータ回転固定角θ_lim以上であるか否かを判定する。
一方、ピニオンギア31の回転角θpの絶対値がロック角θ_lock以上であれば、ロック機構22をロック状態とするために、VGRSECU51は「Yes」と判定し、ステップS37にて、上記実施形態において説明したロック機構作動制御プログラムの実行を開始する。なお、この変形例において上述したロック機構作動制御プログラムを実行する際には、ステップS11〜ステップS13の各ステップ処理を省略して実施可能である。そして、VGRSECU51は、ステップS38にてモータ速度制御プログラムプログラムの実行を一旦終了し、所定の短時間の経過後、ふたたび、ステップS30にて同プログラムの実行を開始する。
ここで、この変形例におけるロック機構作動制御プログラムの実行に際しては、VGRSモータ21は、操舵入力軸12と相対回転速度差が生じないように維持駆動制御されている。これにより、駆動シャフト21b(ロックホルダ22a)が比較的ゆっくりと回転しているため、ロック機構22がロック状態に移行するときに発生するロック音は大幅に低減される。したがって、運転者にとって耳障りなロック音を必然的に発生するエンド当たり音により良好に紛れ込ますことができ、運転者がロック音をほとんど認識できないようにすることができる。
また、この変形例においては、VGRSECU51は、上述したように、ロック機構22をロック状態に移行させた後、運転者による操舵ハンドル11の中立位置方向への回動操作に伴って、ロック状態にあるロック機構22をアンロック状態とし、VGRSモータ21を維持駆動制御から通常駆動制御へスムーズに移行させる。このため、VGRSECU51は、図12に示す復帰制御プログラムを実行する。以下、この復帰制御プログラムを具体的に説明する。
図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、VGRSECU51は、所定の短い時間間隔によって、復帰制御プログラムの実行をステップS90にて開始する。そして、VGRSECU51は、続くステップS91にて、各センサによって検出された検出値を入力する。すなわち、VGRSECU51は、車速センサ41から車速V、操舵角センサ42から回転角θsおよび回転角センサ43から回転角θmをそれぞれ入力する。そして、各検出値を入力すると、VGRSECU51はステップS92に進む。
ステップS92においては、VGRSECU51は、現在のピニオンギア31の回転角θpを、上述した実施形態において説明した式2に従って計算する。そして、VGRSECU51は、ステップS93に進む。ステップS93においては、VGRSECU51は、計算した回転角θpの絶対値が、メカエンド角θ_endよりも小さく設定されたロック角θ_lock以上であるか否かを判定する。
そして、計算した回転角θpの絶対値がロック角θ_lock以上であれば、引き続きロック機構22をロック状態に維持する必要があるため、VGRSECU51は「Yes」と判定してステップS94に進む。ステップS94においては、VGRSECU51は、駆動回路54を制御して、ロック機構22のソレノイド22dに対するロック電流値I_lockの通電を遮断した状態で維持し、ロック機構22をロック状態に維持する。一方、VGRSECU51は、前記ステップS92にて計算した回転角θpの絶対値がロック角θ_lock未満であれば、ロック機構22をアンロック状態に移行させるため、VGRSECU51は「No」と判定してステップS95に進む。
ステップS95において、VGRSECU51は、駆動回路54を制御し、ロック機構22のソレノイド22dに対して、所定の大きさに設定されたロック電流値I_lockの供給を開始する。これにより、ソレノイド22dは、収縮動作を開始し、図示省略のバネの付勢力に抗してロックレバー22bをロックピン22cの軸線周りに回転させる。したがって、ロックレバー22bの係合部22b1とロックホルダ22aの溝部22a1とが互いに離間し、ロック機構22は係合が解除されたアンロック状態に移行する。
ステップS96においては、VGRSECU51は、維持駆動制御ルーチンを実行する。なお、この維持駆動制御ルーチンは、上述したとおりであるため、その説明を省略する。そして、VGRSECU51は、維持駆動制御ルーチンの実行後、ステップS97にて、同ルーチンにおける前記ステップS77にて計算されたピニオンギア31の回転角θpの絶対値がモータ回転固定角θ_lim以上であるか否かを判定する。すなわち、VGRSECU51は、回転角θpの絶対値がモータ回転固定角θ_lim以上であれば、ロック機構22のアンロック状態下でVGRSモータ21を維持駆動させるために「Yes」と判定し、ステップS93,95およびステップS96の各ステップ処理を実行する。
一方、回転角θpの絶対値がモータ回転固定角θ_lim未満であれば、VGRSモータ21を維持駆動制御から通常駆動制御に切り替えるために「No」と判定し、ステップS98に進む。ステップS98においては、VGRSECU51は、通常駆動制御ルーチンを実行する。なお、この通常駆動制御ルーチンも、上述したとおりであるため、その説明を省略する。そして、VGRSECU51は、通常駆動制御ルーチンの実行後、ステップS99にて、復帰制御プログラムの実行を終了する。
以上の説明からも理解できるように、この変形例によれば、VGRSECU51は、モータ回転速度制御プログラムにおけるステップS33にて転舵出力軸13と一体的に回転するピニオンギア31の回転角θpの絶対値がロック角θ_lockよりも小さく設定されたモータ回転固定角θ_lim以上であると判定されると、維持駆動制御ルーチンを実行する。そして、VGRSECU51は、同ルーチンのステップS75にてVGRSモータ21の駆動シャフト21bの回転角θmと操舵入力軸12の回転角θsとの間の相対的な回転位置関係を維持した状態でVGRSモータ21を維持駆動させる。
これにより、上述したロック機構作動制御プログラムの実行により、転舵出力軸13と一体的に回転するピニオンギア31の回転角θpの絶対値がロック角θ_lock以上となりかつ操舵ハンドル11の操舵角速度ωsの絶対値がロック操舵角速度ω_lock以上となったときに、直ちに、ロック機構22をロック状態に移行させることによって、より小さなロック音を左右前輪FW1,FW2がメカエンドストッパに当接することによって発生するエンド当たり音に紛れ込ますことができる。したがって、運転者によって耳障りな音をより知覚され難くすることができる。
また、VGRSECU51は、復帰制御プログラムを実行することにより、同プログラムのステップS93にて転舵出力軸13と一体的に回転するピニオンギア31の回転角θpの絶対値がロック角θ_lock以上であればロック機構22をロック状態に維持し、ピニオンギア31の回転角θpの絶対値がロック角θ_lock未満となればステップS95にてロック機構22をアンロック状態に移行させることができる。また、VGRSECU51は、転舵出力軸13と一体的に回転するピニオンギア31の回転角θpの絶対値がロック角θ_lock未満でありモータ回転固定角θ_lim以上であれば、ステップS96にて維持駆動制御ルーチンを実行してVGRSモータ21を維持駆動させる。また、VGRSECU51は、転舵出力軸13と一体的に回転するピニオンギア31の回転角θpの絶対値がモータ回転固定角θ_lim未満となれば、ステップS98にて通常駆動制御ルーチンを実行してVGRSモータ21を通常駆動させることができる。
これにより、ロック機構22がアンロック状態からロック状態に移行するときと、ロック状態からアンロック状態に移行するときとで、VGRSモータ21の作動状態を同一とすることができる。これにより、ロック機構22の作動切り換えを極めてスムーズに行うことができるとともに、同作動切り換えに伴う操舵ハンドル11の操作感を極めてスムーズに変化させることができる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態および変形例においては、ピニオンギア31の実回転角θpを、操舵角センサ42によって検出された操舵入力軸12の実回転角θsおよび回転角センサ43によって検出されたVGRSモータ21の駆動シャフト21bの実回転角θmを用いた前記式2に従って計算するように実施した。しかしながら、例えば、操舵装置に転舵出力軸13すなわちピニオンギア31の回転角θpを検出可能なセンサ(例えば、転舵出力軸13の回転を検出する回転角センサやラックバー32の軸線方向変位を検出する変位センサ、左右前輪FW1,FW2の転舵角を検出する転舵角センサなど)が設けられている場合には、このセンサによって検出された実回転角θpを用いて実施することができる。この場合であっても、上記説明したロック機構作動制御プログラムをまったく同様に実施することができ、その結果、同様の効果を得ることができる。
また、上記実施形態および変形例においては、ロックホルダ22aに対して深溝部22a2を浅溝部22a1内に一つ形成するように実施したが、深溝部22a2の形成個数に関しては、限定されるものではない。また、上記実施形態においては、深溝部22a2を浅溝部22a1の一端近傍に形成するように実施したが、深溝部22a2の形成箇所に関しては、限定されるものではない。
また、上記実施形態および変形例においては、ロック機構作動制御プログラムにおけるステップS17にてトルクセンサ44によって検出されたトルクTを入力し、ステップS18にてこの検出トルクTの大きさに応じた電流制限ゲインKiを決定するように実施した。しかし、検出トルクTの大きさに応じて電流制限ゲインKiを決定することに代えて、例えば、操舵角速度ωsの大きさに応じて電流制限ゲインKiを決定するように実施することも可能である。すなわち、ロック機構22がロック状態に移行した後、さらに、運転者が大きな操舵角速度ωsによって操舵ハンドル11を回動操作している場合には、大きなトルクTを操舵ハンドル11に入力している可能性が高いため、操舵角速度ωsに応じて電流制限ゲインKiを決定することによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
また、上記実施形態および変形例においては、ロック機構作動制御プログラムを、操舵装置に設けられた伝達比可変アクチュエータ20のVGRSモータ21およびロック機構22の制御に適用して実施した。しかし、電動モータの回転量に応じてロック機構を作動制御する他の構成の装置(例えば、ステアリングバイワイヤ方式の操舵装置や操舵ハンドルロック装置など)に、上記プログラムを適用して実施可能であることはいうまでもない。このように、他の構成の装置に上記プログラムを適用して実施した場合であっても、ロック状態に移行したときに発生するロック音を認識され難くすることができる。
また、上記実施形態および変形例においては、転舵ギアユニット30にEPSモータ33を設けてラックバー32にアシスト力を伝達するように構成して実施した。しかし、EPSモータ33の配置については、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対してアシスト力を伝達可能であれば、例えば、アシスト力を転舵出力軸13に伝達するように配置するなど、いかなる態様で配置してもよい。また、上記実施形態においては、転舵ギアユニット30にラックアンドピニオン方式を採用して実施したが、例えば、ボールねじ機構を採用して実施することも可能である。
さらに、上記変形例においては、VGRSモータ21を維持駆動制御するときに、通常駆動制御に比して大きなフィードバックゲインPfb,Dfbを設定し、VGRSモータ21の駆動シャフト21bを操舵入力軸12の回転に対して応答性よく追従させるように実施した。これに対して、例えば、VGRSモータ21の各相に同一の電流値を無条件に供給(所謂、相固定)することによって、操舵入力軸12と駆動シャフト21bとの間の相対的な回転変位関係が変化しないように実施することも可能である。これにより、維持駆動制御内容を簡略化することができる。
FW1,FW2…前輪、11…操舵ハンドル、12…操舵入力軸、13…転舵出力軸、20…可変ギア比アクチュエータ、21…VGRSモータ、21a…モータハウジング、21b…駆動シャフト、22…ロック機構、22a…ロックホルダ、22b…ロックレバー、22d…ソレノイド、23…減速機、30…転舵ギアユニット、31…ピニオンギア、32…ラックバー、33…EPSモータ、41…車速センサ、42…操舵角センサ、43…回転角センサ、44…トルクセンサ、45…モータ電流値検出センサ、51…VGRSECU、52…EPSECU、53,54,55…駆動回路