ところで、操舵入力軸の回転量(回転角)に対する転舵出力軸の回転量(回転角)の伝達比を適宜変更できる伝達比可変操舵装置においては、運転者による操舵ハンドルの操作に対する転舵輪の転舵量を適宜変更できることから、例えば、高速走行時における転舵量を小さくして車両の挙動を安定化させたり、低速走行時における転舵量を大きくして車両の取り回し性を向上させたりすることができる。このような利点を最大限に享受するためには、伝達比可変アクチュエータを介して連結された操舵入力軸と転舵出力軸とが常に適正な相対位置関係にあることが極めて重要である。すなわち、操舵入力軸の回転基準位置と転舵出力軸の回転基準位置間の相対位置関係が変化した場合には、運転者による操舵ハンドルの操作に応じて転舵輪が転舵して車両が旋回する際に、例えば、左右方向への転舵輪の転舵状態に差が生じて旋回状態に差異が生じる可能性がある。この場合、運転者は、車両の旋回状態に対して違和感を覚える可能性がある。
この点に関し、上記従来の舵角比可変装置においては、イグニッションスイッチがオン状態とされ車両が実際に走行を開始する前に操舵入力軸と転舵出力軸との間のずれを検出して操舵入力軸と転舵出力軸との間の位置関係を適正な状態に復帰させるものである。したがって、良好な旋回状態を確保するために、操舵入力軸と転舵出力軸との間の相対位置関係の変化を常に検出し、相対位置関係に変化が生じた場合には適切に対応することが望まれている。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、操舵入力軸と転舵出力軸間の相対的な位置関係の変化を検出し、良好な車両の旋回状態が得られる伝達比可変操舵装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、操舵ハンドルの回動操作に伴って一体的に回転する操舵入力軸と、転舵輪を転舵する転舵機構に接続される転舵出力軸と、前記操舵入力軸の回転量に対する前記転舵出力軸の回転量の伝達比を変更して前記転舵出力軸を回転させる伝達比可変アクチュエータと、前記伝達比可変アクチュエータの作動を制御するアクチュエータ制御装置とを備えた伝達比可変操舵装置において、前記アクチュエータ制御装置は、前記操舵入力軸の回転量を検出する入力回転量検出手段と、前記転舵出力軸の回転量を検出する出力回転量検出手段と、前記伝達比可変アクチュエータの作動量を検出するアクチュエータ作動量検出手段と、前記検出された操舵入力軸の回転量、前記検出された転舵出力軸の回転量および前記検出された伝達比可変アクチュエータの作動量を用いて、前記伝達比可変アクチュエータの作動基準位置と前記転舵出力軸の回転基準位置との間に予め定めた相対位置関係が成立するか否かを判定する相対位置関係判定手段とを備えることにある。この場合、前記伝達比可変アクチュエータが電動モータと減速機とで構成され、前記伝達比可変アクチュエータの作動基準位置が前記減速機の回転基準位置に設定されており、前記予め定めた相対位置関係は、前記減速機の回転基準位置と前記転舵出力軸の回転基準位置とが略一致する関係であるとよい。
また、この場合、前記相対位置関係判定手段は、前記検出された操舵入力軸の回転量および前記検出された伝達比可変アクチュエータの作動量を合算した合算量から前記検出された転舵出力軸の回転量を減じた差分量を計算する差分量計算手段を備えており、前記計算された差分量を用いて、前記予め定めた相対位置関係が成立するか否かを判定するとよい。また、前記相対位置関係判定手段は、前記伝達比可変アクチュエータの作動基準位置と前記転舵出力軸の回転基準位置との間で前記予め定めた相対位置関係が成立するための所定の許容値と、前記計算した差分量とを比較する比較手段を備えており、前記比較に基づき、前記差分量が前記所定の許容値以下であるときに前記予め定めた相対位置関係が成立すると判定するとよい。この場合、前記相対位置関係判定手段は、例えば、前記転舵出力軸に作用する外力を検出する外力検出手段と、前記検出された外力に基づいて前記所定の許容値を補正する許容値補正手段とを備えるとよい。
これらによれば、検出された操舵入力軸の回転量、検出された転舵出力軸の回転量および検出された伝達比可変アクチュエータの作動量を用いて、より詳しくは、検出された操舵入力軸の回転量および検出された伝達比可変アクチュエータの作動量を合算した合算量から検出された転舵出力軸の回転量を減じた差分量と所定の許容値とを比較することによって、伝達比可変アクチュエータの作動基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との間で予め定めた所定の相対位置関係が成立するか否かを判定することができる。ここで、操舵入力軸の回転基準位置を、例えば、伝達比可変ギア比アクチュエータを構成する減速機の回転基準位置に一致させることにより、操舵入力軸と転舵出力軸との相対位置関係も判定することができる。
したがって、予め定めた相対位置関係の成否に基づくことにより、伝達比可変アクチュエータの作動基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との相対位置関係の変化、あるいは、操舵入力軸の回転基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との相対位置関係の変化を確実に検出することができる。なお、伝達比可変アクチュエータの作動基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との相対位置関係が変化する場合としては、例えば、伝達比可変アクチュエータの減速機に過大な負荷が作用することによって減速機を構成するギア間に歯飛びが発生した場合などが考えられる。
また、検出された操舵入力軸の回転量、検出された転舵出力軸の回転量および検出された伝達比可変アクチュエータの作動量を用いて予め定めた相対位置関係の成否を判定することにより、車両が走行中であっても、伝達比可変アクチュエータの作動基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との相対位置関係の変化、あるいは、操舵入力軸の回転基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との相対位置関係の変化を検出することができる。したがって、常に、操舵入力軸の回転基準位置、伝達比可変アクチュエータの作動基準位置および転舵出力軸の回転基準位置の相対位置関係の変化を確実に検出することができる。
さらに、伝達比可変アクチュエータの作動基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との間で予め定めた相対位置関係が成立するか否かを判定するための所定の許容値を、転舵出力軸に作用する外力に基づいて補正することができる。これにより、伝達比可変アクチュエータの作動基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との相対位置関係の変化、あるいは、操舵入力軸の回転基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との相対位置関係の変化をより正確に検出することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記アクチュエータ制御装置が、前記相対位置関係判定手段によって前記予め定めた相対位置関係が成立しないと判定されたとき、前記伝達比可変アクチュエータによる前記操舵入力軸の回転量に対する前記転舵出力軸の回転量の伝達比の変更を停止する伝達比変更停止手段を備えたことにもある。
これによれば、伝達比可変アクチュエータの作動基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との相対位置関係の変化、あるいは、操舵入力軸の回転基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との相対位置関係の変化が生じ、予め設定された相対位置関係が成立しないときには、伝達比可変アクチュエータによる伝達比の変更を停止させることができる。これにより、運転者による操舵ハンドルの操作に応じて転舵輪が転舵して車両が旋回する際に、例えば、左右方向への転舵輪の転舵状態に差が生じることを防止することができる。したがって、運転者が覚える車両の旋回状態に対して違和感を抑制することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記アクチュエータ制御装置が、前記操舵入力軸の回転基準位置と前記転舵出力軸の回転基準位置との間の相対位置関係を検出する入出力軸相対位置関係検出手段と、前記相対位置関係判定手段によって前記予め定めた相対位置関係が成立しないと判定されたとき、前記検出された前記操舵入力軸の回転基準位置と前記転舵出力軸の回転基準位置との間の相対位置関係を予め定めた入出力軸相対位置関係に補正する入出力軸相対位置関係補正手段を備えたことにもある。この場合、入出力軸相対位置関係補正手段は、前記入出力軸相対位置関係検出手段によって検出された相対位置関係に基づいて伝達比可変アクチュエータを作動させ、前記操舵入力軸の回転基準位置と前記転舵出力軸の回転基準位置との間の相対位置関係を前記予め定めた入出力軸相対位置関係に補正するとよい。
また、この場合、前記入出力軸相対位置関係検出手段を、例えば、車両の運動状態を判定する運動状態判定手段と、前記判定された車両の運動状態に応じて、前記操舵入力軸の回転基準位置と前記転舵出力軸の回転基準位置との間の相違量を検出する相違量検出手段とで構成するとよい。そして、前記運動状態判定手段は、車両の加速度、ヨーレートおよび前記操舵入力軸の回転量のうちの少なくとも一つに基づいて、車両が直進状態または旋回状態であるか否かを判定するとよい。
これらによれば、伝達比可変アクチュエータの作動基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との間の相対位置関係に変化が生じて予め定めた相対位置関係が成立しないときには、操舵入力軸の回転基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との間の相対位置関係を予め定めた入出力軸相対位置関係となるように補正することができる。これにより、操舵入力軸の回転基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との間の相違量に起因して発生する操舵ハンドルの中立位置変化(すなわち操舵ハンドルのオフセンター)を良好に補正することができる。
ここで、操舵入力軸の回転基準位置と転舵出力軸の回転基準位置との間の相対位置関係を予め定めた入出力軸相対位置関係となるように補正する場合には、車両の運動状態すなわち車両が直進状態であるか旋回状態であるかに応じて、適切に補正することができる。したがって、操舵ハンドルのオフセンターが発生した場合には、速やかにかつ安全に補正することができて、運転者が覚える違和感を抑制することができる。
以下、本発明の第1実施形態に係る車両に搭載された伝達比可変操舵装置(以下、単に操舵装置という)について図面を用いて詳細に説明する。図1は、第1実施形態に係る操舵装置を概略的に示している。
この操舵装置は、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を転舵するために、運転者によって回動操作される操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は、操舵入力軸12の上端に固定されており、操舵入力軸12の下端は、伝達比可変アクチュエータとしての可変ギア比アクチュエータ20に接続されている。可変ギア比アクチュエータ20は、電動モータ21(以下、この電動モータをVGRSモータ21という)および減速機22を備えており、操舵入力軸12の回転量(または回転角)に対して、減速機22に接続された転舵出力軸13の回転量(または回転角)を適宜変更するものである。
VGRSモータ21は、そのモータハウジングが操舵入力軸12と一体的に接続されており、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に従って一体的に回転するようになっている。また、VGRSモータ21の駆動シャフト21aは減速機22に接続されており、VGRSモータ21の回転力が駆動シャフト21aを介して減速機22に伝達されるようになっている。減速機22は、所定のギア機構(例えば、ハーモニックドライブ(登録商標)機構や遊星ギア機構など)によって構成されており、転舵出力軸13はこのギア機構に接続されている。これにより、減速機22は、VGRSモータ21の回転力が駆動シャフト21aを介して伝達されると、所定のギア機構によって駆動シャフト21aの回転を適宜減速して転舵出力軸13に回転を伝達することができる。したがって、可変ギア比アクチュエータ20は、VGRSモータ21の駆動シャフト21aを介して、操舵入力軸12と転舵出力軸13とを相対回転可能に連結しており、減速機22によって操舵入力軸12の回転量(または回転角)に対する転舵出力軸13の回転量(または回転角)の比、すなわち、操舵入力軸12から転舵出力軸13への回転の伝達比(ギア比)を適宜変更することができる。
また、操舵装置は、転舵出力軸13の下端に接続された転舵ギアユニット30を備えている。転舵ギアユニット30は、例えば、ラックアンドピニオン式を採用したギアユニットであり、転舵出力軸13の下端に一体的に組み付けられたピニオンギア31の回転がラックバー32に伝達されるようになっている。また、転舵ギアユニット30には、運転者によって操舵ハンドル11に入力される操舵力(操舵トルク)を軽減するための、操作力軽減アクチュエータとしての電動モータ33(以下、この電動モータをEPSモータ33という)が設けられており、EPSモータ33の発生するトルク(アシスト力)がラックバー32に伝達されるようになっている。この構成により、転舵出力軸13の回転力がピニオンギア31を介してラックバー32に伝達されるとともに、EPSモータ33のアシスト力がラックバー32に伝達される。これにより、ラックバー32は、ピニオンギア31からの回転力およびEPSモータ33のアシスト力によって軸線方向に変位する。したがって、ラックバー32の両端に接続された左右前輪FW1,FW2は、左右に転舵されるようになっている。
次に、上述した可変ギア比アクチュエータ20(詳しくは、VGRSモータ21)および転舵ギアユニット30(詳しくは、EPSモータ33)の作動を制御する、アクチュエータ制御装置としての電気制御装置40について説明する。電気制御装置40は、車速センサ41、操舵角センサ42、回転角センサ43、転舵角センサ44およびトルクセンサ45を備えている。
車速センサ41は、車両の車速Vを検出して出力する。操舵角センサ42は、操舵ハンドル11の回転量すなわち操舵入力軸12の回転量を検出して回転角θa(操舵ハンドル11の操舵角に対応)として出力する。回転角センサ43は、VGRSモータ21の駆動シャフト21aの回転量を検出して回転角θbとして出力する。転舵角センサ44は、転舵出力軸13の回転量を検出して回転角θc(左右前輪FW1,FW2の実転舵角に対応)として出力する。なお、回転角θa、回転角θbおよび回転角θcは、中立位置を「0」とし、左方向の回転を正の値で表すとともに、右方向の回転を負の値で表す。トルクセンサ45は、転舵出力軸13に発生する捩れを検出して同発生した捩れに対応するトルクTを出力する。
また、電気制御装置40は、可変ギア比アクチュエータ20のVGRSモータ21の作動を制御する電子制御ユニット46(以下、この電子制御ユニットをVGRSECU46という)と、転舵ギアユニット30のEPSモータ33の作動を制御する電子制御ユニット47(以下、この電子制御ユニットをEPSECU47という)とを備えている。これらVGRSECU46およびEPSECU47は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものである。そして、VGRSECU46およびEPSECU47は、例えば、車両内に構築された通信回線Aを介して、互いに通信可能とされている。
また、VGRSECU46の入力側には、車速センサ41、操舵角センサ42、回転角センサ43、転舵角センサ44およびトルクセンサ45が接続されており、EPSECU47の入力側には、操舵角センサ42およびトルクセンサ45が接続されている。これにより、VGRSECU46およびEPSECU47は、これら各センサ41〜45によって検出された各検出値を用いて各種プログラムを実行して、VGRSモータ21およびEPSモータ33の作動をそれぞれ制御する。このため、VGRSECU46およびEPSECU47の出力側には、それぞれ、VGRSモータ21およびEPSモータ33を駆動するための駆動回路48,49が接続されている。
次に、上記のように構成した操舵装置の作動について説明する。図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、VGRSECU46は可変ギア比アクチュエータ20を駆動させることによって伝達比を連続的に変更する伝達比可変制御を開始し、EPSECU47は転舵ギアユニット30のEPSモータ33を駆動させることによって運転者による操舵ハンドル11の操作力を軽減するトルクアシスト制御を開始する。以下、VGRSECU46による伝達比可変制御とEPSECU47によるトルクアシスト制御を具体的に説明する。
まず、伝達比可変制御から説明すると、VGRSECU46は、車速センサ41から現在の車速Vを入力するとともに、例えば、図2に示すようなテーブルを参照して、検出された車速Vに応じた伝達比Gを決定する。なお、伝達比Gは、車速Vの増大に伴って非線形的にかつ連続的に小さくなる特性を有している。そして、伝達比Gが決定された状態において、運転者によって操舵ハンドル11の回動操作が開始されると、操舵入力軸12、可変ギア比アクチュエータ20および転舵出力軸13も回転を開始する。この運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴い、VGRSECU46は、操舵角センサ42によって検出された操舵入力軸12の回転角θaを入力し、同入力した回転角θaと決定した伝達比Gとを乗算することによって、操舵入力軸12の回転角θa(すなわち操舵ハンドル11の操舵角)に対する転舵出力軸13の目標回転角θch(すなわち左右前輪FW1,FW2の目標転舵角)を計算する。
次に、VGRSECU46は、計算した転舵出力軸13の目標回転角θchを実現するために必要なVGRSモータ21の作動量すなわち駆動シャフト21aの目標回転角θbhを計算する。具体的に説明すると、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴って、操舵入力軸12と一体的に接続されたVGRSモータ21のモータハウジングが回転する。このとき、VGRSECU46は、モータハウジングの回転に応じて転舵出力軸13を回転させるため、駆動回路48を制御してVGRSモータ21を駆動させる。このVGRSモータ21の駆動制御において、VGRSECU46は、操舵入力軸12の回転角θaに対して、転舵出力軸13が目標回転角θchになるように目標回転角θbhを計算する。すなわち、VGRSECU46は、駆動シャフト21aの目標回転角θbhを下記式1に従って計算する。
θbh=θch−θa …式1
そして、VGRSECU46は、前記式1に従って目標回転角θbhを計算すると、回転角センサ43によって検出される回転角θbが目標回転角θbhとなるまでオーバーシュートさせることなく駆動回路48を制御して、VGRSモータ21の駆動シャフト21aを回転させる。これにより、転舵出力軸13は、操舵入力軸12の回転角θaに対して駆動シャフト21aの目標回転角θbh(すなわち回転角θb)分だけ加算または減算された、言い換えれば、操舵入力軸12の回転角θaに対して伝達比Gとなる目標回転角θchに回転される。したがって、転舵出力軸13に一体的に組み付けられたピニオンギア31も目標回転角θchに回転し、このピニオンギア31の回転に応じてラックバー32が軸線方向に変位することにより、左右前輪FW1,FW2は目標回転角θchに対応する目標転舵角に転舵される。
このように、左右前輪FW1,FW2が目標回転角θch(すなわち回転角θc)に対応する転舵角で転舵されることによって、運転者は車速に応じて良好な操舵フィーリングを得ることができる。具体的には、検出車速Vが増大すると伝達比Gが小さく決定されることから、操舵入力軸12の回転方向に対して転舵出力軸13は相対的に逆方向に回転される。すなわち、この場合には、回転角θaから回転角θbを減じることによって転舵出力軸13を回転角θcに回転させるため、運転者による操舵ハンドル11の回動操作量に対して左右前輪FW1,FW2が小さく、言い換えれば、操舵ハンドル11の回動操作に対して左右前輪FW1,FW2が緩やかに転舵されるようになる。これにより、運転者は容易に操舵ハンドル11を操作することができるとともに、高速走行時における車両の挙動を安定させることができる。
また、検出車速Vが減少すると伝達比Gが大きく決定されることから、操舵入力軸12の回転方向にて転舵出力軸13は相対的に多く回転される。すなわち、この場合には、回転角θaに回転角θbを加えることによって転舵出力軸13を回転角θcに回転させるため、運転者の操舵ハンドル11の回動操作量に対して左右前輪FW1,FW2が大きく、言い換えれば、操舵ハンドル11の回動操作に対して左右前輪FW1,FW2が速やかに転舵される。これにより、例えば、車庫入れなどにおいては、運転者による操舵ハンドル11の回動操作量を少なくすることができて、運転者の操作負担を軽減することができる。
次に、トルクアシスト制御を説明する。EPSECU47は、運転者によって操舵ハンドル11の回動操作量とトルク(すなわち操舵トルク)の大きさに応じて、入力された操舵トルクを軽減すべくEPSモータ33を駆動させて、ラックバー32にアシスト力を伝達する。すなわち、EPSECU47は、操舵角センサ42から回転角θaを入力するとともにトルクセンサ45からトルクTを入力し、これら入力した回転角θaおよびトルクTの大きさに応じてEPSモータ33を駆動させるための制御量を設定する。そして、EPSECU47は、設定した制御量に基づいて、オーバーシュートさせることなく駆動回路49を制御して、EPSモータ33を駆動させる。これにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴う操舵トルクが軽減され、運転者の肉体的な負担が軽減される。
このように、可変ギア比アクチュエータ20を採用した操舵装置においては、上述したように、VGRSECU46が、伝達比可変制御を実行することによって伝達比Gを連続的に変更して決定し、この決定した伝達比Gを用いて操舵入力軸12の回転角θa(すなわち操舵ハンドル11の操舵角)に対する転舵出力軸13の回転角θc(すなわち左右前輪FW1,FW2の転舵角)を決定する。そして、VGRSECU46は、VGRSモータ21を駆動させることにより、転舵出力軸13を操舵入力軸12に対して相対的に回転させて、転舵出力軸13を回転角θcまで回転させる。
したがって、操舵入力軸12の回転に対して転舵出力軸13を適正量だけ回転させるためには、転舵出力軸13を相対的に回転させるときの基準位置、より詳しくは、操舵入力軸12の回転に対して可変ギア比アクチュエータ20の減速機22が転舵出力軸13に回転を出力するときの出力基準位置が常に一定であることが重要である。ここで、本実施形態における減速機22の出力基準位置すなわち回転基準位置は、初期状態において、操舵入力軸12の回転角θaが「0」であり、VGRSモータ21の駆動シャフト21aの回転角θbが「0」であるときに、転舵出力軸13の回転角θcが「0」となる減速機22の回転位置、言い換えれば、中立位置に設定される。
ところで、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置が変化すると、操舵入力軸12の回転角θaに対して伝達比Gとなるように転舵出力軸13の回転角θcが得られず、その結果、運転者は、操舵ハンドル11の回動操作に対する車両の旋回態様に違和感を覚える可能性がある。このことを、例えば、減速機22の出力基準位置が中立位置から右方向(左右前輪FW1,FW2が右方向に転舵される方向)に変化した場合を想定して具体的に説明する。
車速Vが小さい状況で、運転者が操舵ハンドル11を左方向に回動操作すると、この回動操作に伴って操舵入力軸12の回転角θaが検出される。そして、検出された回転角θaと決定された大きな伝達比Gとを用いて転舵出力軸13の目標回転角θchが計算され、この目標回転角θchを実現するために、前記式1に従ってVGRSモータ21の駆動シャフト21aの目標回転角θbhが決定される。そして、VGRSモータ21は、中立位置から目標回転角θbhに相当する分だけ駆動シャフト21aを回転させる。
ところが、減速機22の出力基準位置が右方向に変化している状況では、VGRSモータ21が目標回転角θbhに相当する分だけ駆動シャフト21aを回転させても、転舵出力軸13が目標回転角θchと一致する回転位置まで回転しない。すなわち、転舵出力軸13は、減速機22の出力基準位置が変化した分だけ回転量が不足するため、目標回転角θchまで回転しない。したがって、運転者は、操舵ハンドル11を左方向に回動操作したときには、車両の旋回量が不足するように知覚する。
一方、運転者が操舵ハンドル11を右方向に回動操作すると、減速機22の出力基準位置が右方向に変化している状況では、転舵出力軸13が目標回転角θchよりも大きく回転する。すなわち、この場合には、転舵出力軸13は、減速機22の出力基準位置が変化した分だけ回転量が過剰であるため、目標回転角θchよりも大きく回転する。したがって、運転者は、操舵ハンドル11を右方向に回動操作したときには、車両の旋回量が過剰であるように知覚する。
このように、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置が変化すると、運転者は、車両を左右方向に旋回させたときの旋回態様が不均一であることを知覚し、その結果、違和感を覚える可能性がある。ここで、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置が変化する状況としては、例えば、減速機22に対して過大な負荷が作用することによるギアの歯飛び(ラッチェッティング)などがある。
このため、VGRSECU46は、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22の出力基準位置に変化が生じているか否かを検出するために、図3に示す出力基準位置変化検出プログラムを繰り返し実行する。以下、この出力基準位置変化検出プログラムについて詳細に説明する。
この出力基準位置変化検出プログラムは、図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、VGRSECU46がステップS10にてその実行を開始する。そして、VGRSECU46は、ステップS11にて、イグニッションスイッチがオン状態であるか否かを判定し、イグニッションスイッチがオン状態である限り「Yes」と判定して、ステップS12に進む。なお、イグニッションスイッチがオフ状態にされると「No」と判定してステップS16に進み、プログラムの実行を終了する。ステップS12においては、VGRSECU46は、操舵角センサ42から操舵入力軸12の回転角θa、回転角センサ43からVGRSモータ21の駆動シャフト21aの回転角θbおよび転舵角センサ44から転舵出力軸13の回転角θcをそれぞれ入力して、ステップS13に進む。
ステップS13においては、VGRSECU46は、減速機22に対して入力側に位置する操舵入力軸12の回転角θaおよびVGRSモータ21の駆動シャフト21aの回転角θbを合算した回転角(以下、この回転角を入力側回転角という)と、減速機22から出力側に位置する転舵出力軸13の回転角θc(以下、この回転角を出力側回転角ともいう)との差分の絶対値を表す差分値θsを下記式2に従って計算する。
| (θa+θb)−θc|=θs …式2
ただし、前記式2中のθaは前記ステップS12にて操舵角センサ42から入力した回転角θaを表し、θbは前記ステップS12にて回転角センサ43から入力した回転角θbを表す。また、前記式2中のθcは前記ステップS12にて転舵角センサ44から入力した回転角θcを表す。そして、VGRSECU46は、差分値θsを計算すると、ステップS13に進む。
ステップS14においては、VGRSECU46は、前記ステップS13にて計算した差分値θsが予め設定された所定の許容値θsoよりも大きいか否かを判定する。すなわち、VGRSECU46は、差分値θsが所定の許容値θso以下であれば、入力側回転角と出力側回転角との間にずれが生じていない、言い換えれば、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置に変化が生じていないため、操舵入力軸12の回転角θaに対して決定された伝達比Gとなる回転角θcに転舵出力軸13が回転している。このため、VGRSECU46は「No」と判定してふたたびステップS11以降の各処理を実行する。このように、差分値θsが所定の許容値θso以下である状況では、左右前輪FW1,FW2は運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対応して適切に転舵しているため、運転者は良好な操舵フィーリングを知覚することができる。
一方、差分値θsが所定の許容値θsoよりも大きければ、入力側回転角と出力側回転角との間にずれが生じている、言い換えれば、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置に変化が生じているため、操舵入力軸12の回転角θaに対して伝達比Gとならない回転角θcに転舵出力軸13が回転している。このため、VGRSECU46は「Yes」と判定してステップS15に進む。そして、この状況においては、上述したように、減速機22における出力基準位置の変化方向に応じて、運転者は車両の左右方向の旋回態様に対して違和感を覚える可能性がある。
このため、VGRSECU46は、ステップS15にて、伝達比可変制御を停止する。ここで、伝達比可変制御を停止するにあたり、VGRSECU46は、運転者によって操舵ハンドル11が中立位置近傍まで回動されるときに、例えば、操舵入力軸12(操舵ハンドル11)の回転速度dθa/dtに合わせて伝達比Gを連続的に「1」に変化させて、制御を停止するようにするとよい。なお、伝達比可変制御が停止された状態においては、伝達比Gを「1」に固定するため、VGRSECU46は、運転者による操舵ハンドル11の回動操作すなわち操舵入力軸12の回転に合わせて転舵出力軸13が回転するように、可変ギア比アクチュエータ20のVGRSモータ21を駆動制御する。これにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して直接的に左右前輪FW1,FW2が転舵するようになるため、運転者は、操舵ハンドル11の回動操作に合った車両の旋回態様を知覚することができる。そして、VGRSECU46は、ステップS16にて、出力基準位置変化検出プログラムの実行を終了する。
以上の説明からも理解できるように、この第1実施形態によれば、出力基準位置変化検出プログラムを実行することによって、車両が走行中であっても可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置の変化を確実に検出することができる。そして、出力基準位置が変化した場合には、伝達比可変制御を停止することができる。これにより、出力基準位置が変化した状態で伝達比可変制御が実行されるときに発生する、車両を左右方向に旋回させたときの旋回態様の不均一さを抑制することができ、車両の旋回態様に関する運転者の覚える違和感を大幅に低減することができる。
上記第1実施形態においては、出力基準位置変化検出プログラムにおけるステップS14にて、差分値θsと所定の許容値θsoとを比較し、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置が変化したか否かを判定するように実施した。ところで、転舵出力軸13は、一端部が可変ギア比アクチュエータ20の減速機22に接続され、他端部がピニオンギア31を介してラックバー32に接続されている。このため、左右前輪FW1,FW2を転舵するために転舵出力軸13が回転する場合には、一般的に、ラックバー32を介して外力(例えば、路面反力など)が作用するため、転舵出力軸13に捩りが発生する。そして、転舵出力軸13に捩りが発生することにより、前記式2に従って計算される差分値θsが大きくなる場合がある。このため、所定の許容値θsoを予め設定しておく場合には、転舵出力軸13に発生する捩れを考慮する必要があり、その結果、所定の許容値θsoの値を大きく設定する必要がある。
これに対して、許容値θsoをトルクセンサ45によって検出されるトルクTに基づいて補正することによって、より精度よく可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置が変化したか否かを判定することができる。以下、この第1実施形態の変形例を説明する。
この変形例においては、上記第1実施形態の場合に比して、出力基準位置変化検出プログラムのステップS14において、VGRSECU46が用いる所定の許容値θsoを補正する点でのみ異なる。すなわち、この変形例においては、VGRSECU46は、出力基準位置変化検出プログラムのステップS14にて、トルクセンサ45からトルクTを入力する。そして、入力したトルクTに基づき、図4に示す補正テーブルを参照することにより、転舵出力軸13に発生した捩れを考慮した許容値θsoを決定する。
具体的に説明すると、捩れを考慮した許容値θsoは、トルクセンサ45によって検出されたトルクTが小さいほど小さな値として決定され、トルクTが大きいほどある程度大きな値に決定される。これにより、転舵出力軸13の回転状態すなわち転舵出力軸13に作用するトルクT(外力)の大きさに応じて許容値θsoを補正することができるため、適切にかつより精度よく差分値θsと所定の許容値θsoとを比較することができる。したがって、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置が変化したか否かをより精度よく判定することができる。
また、この変形例に代えてまたは加えて、EPSモータ33によるアシスト力を適宜変更して実施することも可能である。すなわち、トルクセンサ45によって検出されたトルクTが大きい場合には、EPSモータ33によるアシスト力を大きくすることによって転舵出力軸13に作用するトルクT(外力)を小さくすることができる。これにより、差分値θsを適切に計算することができる。また、転舵出力軸13に作用するトルクT(外力)を小さくできるため、図4に示した補正テーブルを参照することによって、より小さな許容値θsoを決定することもできる。したがって、この場合にも、適切にかつより精度よく差分値θsと所定の許容値θsoとを比較することができ、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置が変化したか否かをより精度よく判定することができる。
b.第2実施形態
上記第1実施形態においては、出力基準位置変化検出プログラムの実行によって、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置に変化が生じると伝達比可変制御を停止するように実施した。この場合、入力側回転角が「0」すなわち操舵入力軸12(操舵ハンドル11)の回転角θaとVGRSモータ21の駆動シャフト21aの回転角θbがともに「0」であるときには、出力側回転角すなわち転舵出力軸13の回転角θcが差分値θsと等しくなる。したがって、車両を直進状態に維持するためには、操舵ハンドル11を差分値θsに相当する分だけ回動した位置で維持する必要があり、その結果、操舵ハンドル11の中立位置がずれる状態、所謂、オフセンターが生じる。このように、操舵ハンドル11にオフセンターが生じた状態では、運転者は違和感を覚える。
このため、この第2実施形態においては、上記第1実施形態の出力基準位置変化検出プログラムの実行によって出力基準位置の変化が検出された場合に、操舵ハンドル11に生じるオフセンターを修正する。以下、この第2実施形態を詳細に説明するが、上記第1実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
この第2実施形態における操舵装置は、図1にて破線で示すように、横加速度センサ51、ヨーレートセンサ52およびモータ電流値検出センサ53を備えている。横加速度センサ51は、車両に発生した横加速度Gを検出して出力する。ヨーレートセンサ52は、車両に発生したヨーレートγを検出して出力する。モータ電流値検出センサ53は、VGRSモータ21に流れる電流値を検出してモータ電流値Iとして出力する。そして、これらセンサ51〜53は、VGRSECU46の入力側に接続されている。
そして、この第2実施形態においては、VGRSECU46は、図5に示すオフセンター修正プログラムを実行し、車両が直進状態であるときに操舵ハンドル11のオフセンターを修正する。ここで、このオフセンター修正プログラムにおけるステップS31〜34は、上記第1実施形態にて説明した出力基準位置変化検出プログラムのステップS11〜14と全く同じであるため、詳細な説明を省略する。
VGRSECU46は、ステップS30にて、オフセンター修正プログラムの実行を開始し、ステップS31にてイグニッションスイッチがオン状態であるか否かを判定し、イグニッションスイッチがオン状態であれば「Yes」と判定してステップS32に進み、オフ状態であれば「No」と判定してステップS42にてプログラムの実行を終了する。ステップS32においては、操舵角センサ42、回転角センサ43および転舵角センサ44からそれぞれ回転角θa,回転角θbおよび回転角θcを入力し、ステップS33にて、前記式2に従って差分値θsを計算する。そして、VGRSECU46は、ステップS34にて、差分値θsと所定の許容値θsoとを比較し、差分値θsが所定の許容値θso以下であれば「No」と判定してステップS31以降の各処理を繰り返し実行し、差分値θsが所定の許容値θsoよりも大きければ「Yes」と判定してステップS35に進む。
ステップS35においては、VGRSECU46は、横加速度センサ51から横加速度Gを入力するとともに、ヨーレートセンサ52からヨーレートγを入力し、ステップS36に進む。ステップS36においては、VGRSECU46は、現在車両が直進状態であるか否かを判定する。以下、この直進判定処理を具体的に説明する。
このステップS36における直進判定処理が実行されるのは、前記ステップS34にて「Yes」と判定される場合である。すなわち、前記ステップS34にて「Yes」と判定されるのは、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置が変化している場合である。このように、減速機22における出力基準位置が変化している状況では、上述したように、操舵ハンドル11(操舵入力軸12)を中立位置に維持したときに転舵出力軸13の回転角θcが差分値θsに等しくなる。このため、車両を直進状態に維持する、より具体的には、車両に発生する横加速度Gおよびヨーレートγがほぼ「0」となるように車両の運動状態を維持するためには、操舵ハンドル11を差分値θsに相当する分だけオフセンターさせて維持する必要がある。
したがって、ステップS36において、VGRSECU46は、前記ステップS35にて入力した横加速度Gの絶対値がほぼ「0」であり、かつ、ヨーレートγの絶対値がほぼ「0」であり、かつ、前記ステップS32にて入力した操舵入力軸12の回転角θaの絶対値が「0」よりも大きいか否かを判定することによって、車両が直進状態であるか否かを判定する。具体的には、横加速度G、ヨーレートγおよび回転角θaの全てが前記条件を満たしていなければ、車両が直進状態ではないため「No」と判定する。そして、横加速度G、ヨーレートγおよび回転角θaの全てが前記条件を満たしており、車両が直進状態であると判定するまで、すなわち、「Yes」と判定するまで、繰り返しステップS35およびステップS36を実行する。
ステップS36の直進判定処理によって車両が直進状態であると判定すると、VGRSECU46はステップS37に進む。ステップS37においては、VGRSECU46は、所定の許容値θsoに対する差分値θsのずれ量θzを、下記式3に従って計算する。
θs−θso=θz …式3
そして、VGRSECU46は、ずれ量θzを計算すると、ステップS38に進む。
ステップS38においては、VGRSECU46は、前記ステップS37にて計算したずれ量θzをVGRSモータ21の駆動シャフト21aの回転基準位置の変更によって吸収するために、下記式4に従ってモータ補正角θmを計算する。
θm=θz・Kv …式4
ただし、前記式4中のKvは、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22の減速比を表すものである。このように、モータ補正角θmを計算することにより、操舵入力軸12と転舵出力軸13との相対的な回転位置を一致させることができる。そして、VGRSECU46は、モータ補正角θmを計算すると、ステップS39に進む。
ステップS39においては、VGRSECU46は、VGRSモータ21をモータ補正角θmまで駆動するために、下記式5に従って目標駆動電流Imを計算する。
Im=θm・Km …式5
ただし、前記式5中のKmはVGRSモータ21を駆動させるための駆動定数である。
このように、目標駆動電流Imを計算すると、VGRSECU46は、続くステップS40にて、VGRSモータ21を駆動させる。具体的に説明すると、VGRSECU46は、モータ電流値検出センサ53からモータ電流値Iを入力し、同モータ電流値Iが目標駆動電流Imとなるように、駆動回路48を制御する。そして、VGRSECU46は、回転角センサ43によって検出される駆動シャフト21aの回転角θbがモータ補正角θmとなるまでVGRSモータ21を駆動させる。これにより、操舵入力軸12の回転角θaと転舵出力軸13の回転角θcとの間の差分値が「0」となるように、転舵出力軸13(または操舵入力軸12)が回転されることによって、操舵ハンドル11のオフセンターが修正される。そして、VGRSECU46は、モータ補正角θmを駆動シャフト21aの回転基準位置として設定する。
このように、操舵ハンドル11のオフセンターを修正すると、VGRSECU46は、ステップS41にて、伝達比可変制御を停止する。なお、このステップS41における伝達比可変制御の停止処理は、上述した第1実施形態における出力基準位置変化検出プログラムのステップS15にて実行した伝達比可変制御の停止処理と同様に実行されるものである。そして、VGRSECU46は、ステップS42にて、オフセンター修正プログラムの実行を終了する。
以上の説明からも理解できるように、この第2実施形態によれば、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置に変化が生じた場合に発生する操舵ハンドル11のオフセンターを確実に修正することができる。これにより、運転者は、操舵ハンドル11のオフセンターに起因する違和感を覚えることがない。また、その他の効果については、上記第1実施形態と同様である。
ここで、上記第2実施形態においては、オフセンター修正プログラムを実行することによって、直進状態にあるときに操舵ハンドル11のオフセンターを修正するように実施した。しかし、車両が旋回状態にあるときにも操舵ハンドル11のオフセンターを修正することが可能である。以下、この第2実施形態の変形例を説明する。なお、この変形例の説明にあたっては、上記第2実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
この変形例におけるオフセンター修正プログラムは、図6に示すように、上述した第2実施形態のオフセンター修正プログラムにおけるステップS36およびステップS37が省略されるとともに、ステップS50〜S52が追加されて変形されている。
すなわち、VGRSECU46は、ステップS35にて、横加速度センサ51から横加速度Gを入力するとともに、ヨーレートセンサ52からヨーレートγを入力すると、ステップS50に進む。ステップS50においては、現在車両が旋回状態にあるか否かを判定する。
具体的に説明すると、VGRSECU46は、前記ステップS35にて入力した横加速度Gの絶対値がαよりも大きく、かつ、ヨーレートγの絶対値がβよりも大きく、かつ、前記ステップS32にて入力した操舵入力軸12の回転角θaの絶対値がεよりも大きいか否かを判定することによって、車両が旋回状態であるか否かを判定する。ここで、横加速度Gの大きさを判定するためのα、ヨーレートγの大きさを判定するためのβおよび回転角θaの大きさを判定するためのεは、それぞれ、車両の旋回状態を判定するために予め設定される定数である。
具体的には、横加速度G、ヨーレートγおよび回転角θaの全てが前記条件を満たしていなければ、車両が旋回状態ではないため「No」と判定する。そして、横加速度G、ヨーレートγおよび回転角θaの全てが前記条件を満たしており、車両が旋回状態であると判定するまで、すなわち、「Yes」と判定するまで、繰り返しステップS35およびステップS50を実行する。
ステップS50の旋回判定処理によって車両が旋回状態であると判定すると、VGRSECU46はステップS51に進む。ステップS51においては、VGRSECU46は、図7に示すように、車両に発生するヨーレートγに応じて変化する転舵出力軸13の回転角θcの変化特性を表すテーブルを参照し、検出ヨーレートγに対応する目標回転角θcrと検出回転角θcとの間のずれ量θzの絶対値を計算する。ここで、このテーブルは、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置に変化が生じていないときに、操舵ハンドル11(操舵入力軸12)の回動操作に伴って発生するヨーレートγに対応する転舵出力軸13の回転角θcを実測して収集したデータの集合である。そして、VGRSECU46は、ずれ量θzを計算すると、ステップS52に進む。
ステップS52においては、VGRSECU46は、前記ステップS51にて計算したずれ量θzの絶対値が所定の許容値θzoよりも大きいか否かを判定する。これは、車両の走行環境によって検出ヨーレートγが変化し易いため、目標回転角θcrと検出回転角θcとの間のずれ量θzの絶対値も変化しやすい。このため、ずれ量θzの絶対値と所定の許容値θzoとを比較することによって、確実なずれ量θzのみを検出することができる。したがって、VGRSECU46は、ずれ量θzの絶対値が所定の許容値θzo以下であれば「No」と判定し、ずれ量θzの絶対値が所定の許容値θzoよりも大きいと判定するまですなわち「Yes」と判定するまで、繰り返しステップS35,S50,S51を実行する。
そして、ステップS52の判定処理によってずれ量θzの絶対値が所定の許容値θzoよりも大きいと判定すると、VGRSECU46は、上述した第2実施形態と同様に、ステップS38以降の各処理を実行する。ただし、この変形例においては、車両が旋回状態にあるときに操舵ハンドル11のオフセンターを修正するものである。このため、ステップS40にてVGRSモータ21の駆動シャフト21aをモータ補正角θmまで回転させる場合には、例えば、運転者による操舵ハンドル11の回動操作状態、すなわち、操舵入力軸12の回転速度dθa/dtに合わせて駆動シャフト21aを回転させるとよい。これにより、操舵ハンドル11のオフセンターの修正に伴って、運転者が違和感を覚えることを効果的に抑制することができる。
したがって、この第2実施形態の変形例の説明からも理解できるように、車両が旋回状態であっても、良好に操舵ハンドル11のオフセンターを修正することができる。その他の効果については、上記第1実施形態および第2実施形態と同様である。
さらに、上記第2実施形態による操舵ハンドル11のオフセンターの修正と、前記変形例による操舵ハンドル11のオフセンターの修正とを切り替え可能としてもよい。この場合、運転者の意思により、または、車両の運動状態(直進状態または旋回状態)に応じて自動的に切り替えるようにするとよい。
c.その他の変形例
上記第1,第2実施形態および各変形例においては、最終的に伝達比可変制御を停止するように実施した。しかしながら、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置の変化すなわち差分値θsを、VGRSモータ21の目標回転角θbhに加味することによって、伝達比可変制御を継続することも可能である。
この場合には、操舵入力軸12の回転角θaと決定された伝達比Gとを用いて転舵出力軸13の目標回転角θchを計算する。そして、この目標回転角θchを実現するために、前記式1に従って計算されるVGRSモータ21の駆動シャフト21aの目標回転角θbhに対して、出力基準位置の変化方向に応じて差分値θsを加算または減算するようにすれば、操舵入力軸12の回転角θaに対して伝達比Gとなる目標回転角θchまで転舵出力軸13を回転することができる。したがって、減速機22の出力基準位置が変化した場合であっても、高速走行時における車両の挙動を安定させたり、操舵ハンドル11の回動操作量を少なくして運転者の操作負担を軽減することができる。
また、上記第1,第2実施形態および各変形例においては、可変ギア比アクチュエータ20の減速機22における出力基準位置の変化が検出された場合に、運転者に対して、検出された出力基準位置の変化を報知するように実施することも可能である。具体的には、例えば、車室内のメータクラスタ内に設けた警告灯を点灯させたり、スピーカから音声を出力して報知するとよい。これにより、運転者は、車両に発生した異常を容易に把握することができ、適切な対処を施すことができる。
また、本発明の実施にあたっては、上記第1,第2実施形態および各変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記第1,第2実施形態および各変形例においては、転舵出力軸13に転舵角センサ44を組み付けるように構成し、転舵出力軸13の回転角θcを直接的に検出するように実施した。しかし、ラックバー32の軸線方向変位が検出できる場合には、この軸線方向変位に対応させて転舵出力軸13の回転角θcを計算するように実施することも可能である。この場合においても、上記上記第1,第2実施形態および各変形例と同様の効果が期待できる。
また、例えば、上記上記第1,第2実施形態および各変形例においては、転舵ギアユニット30にEPSモータ33を設けてラックバー32にアシスト力を伝達するように構成して実施した。しかし、EPSモータ33の配置については、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対してアシスト力を伝達可能であれば、例えば、アシスト力を転舵出力軸13に伝達するように配置するなど、いかなる態様で配置してもよい。また、上記上記第1,第2実施形態および各変形例においては、転舵ギアユニット30にラックアンドピニオン式を採用して実施したが、例えば、ボールねじ機構を採用して実施することもできる。
FW1,FW2…前輪、11…操舵ハンドル、12…操舵入力軸、13…転舵出力軸、20…可変ギア比アクチュエータ、21…VGRSモータ、21a…駆動シャフト、22…減速機、30…転舵ギアユニット、31…ピニオンギア、32…ラックバー、33…EPSモータ、40…電気制御装置、41…車速センサ、42…操舵角センサ、43…回転角センサ、44…転舵角センサ、45…操舵トルクセンサ、46…VGRSECU、47…EPSECU、48,49…駆動回路、51…横加速度センサ、52…ヨーレートセンサ、53…モータ電流値検出センサ