従来、車両の直進性の評価を行う方法として、車両の前輪を回転可能に載置する前輪載置部と車両の後輪を回転可能に載置する後輪載置部とを備える台上試験機を用いる方法が知られている。
前記台上試験機は、例えば、図5に示す構成を備えている。図5に示す台上試験機31は、車両2の左右の前輪3を載せる前輪載置部としての左右1対の前輪載置ベルト4と、左右の後輪5を載せる後輪載置部としての左右1対の後輪載置ベルト6と、車両2が各ベルト4,6に載置されたときに車両2を拘束する拘束装置(図示せず)とを備えている。前輪載置ベルト4は、ギア支持枠10に支持された駆動ギア11と従動ギア12とに掛け渡され、駆動ギア11に設けられたモータ13により回転駆動される。また、後輪載置ベルト6は、同様にギア支持枠14に支持された駆動ギア11と従動ギア12とに掛け渡され、駆動ギア11に設けられたモータ13により回転駆動される。
各ギア支持枠10,14は、架台32上に設けられたスライドレール33に沿って車両2の左右方向(車幅方向)に移動自在に支持され、各ベルト4,6に作用する左右方向の移動力を各ギア支持枠10,14を介して検出するロードセル等の検出器34が設けられている。
台上試験機31では、車両2の左右の前輪3を左右1対の前輪載置ベルト4に載せると共に、左右の後輪5を左右1対の後輪載置ベルト6に載せ、図示しない前記拘束装置により車両2を拘束した後、各ベルト4,6を回転駆動させることにより、車両2を擬似的走行状態とすることができる。そして、各ベルト4,6に作用する左右方向の移動力を検出器34により横力として検出する。
ところで、車両の直進性の評価の基準として、定常円旋回時の旋回半径をみるものがある。前記台上試験機31により前記定常円旋回時の旋回半径を求めるために、ステアリングを離した(フリーにした)状態で、車両2の車体角を変えて、重心回りのモーメントが0になる点を探すことが考えられる。重心回りのモーメントが0になる点が判明すれば、この点における横力から前記定常円旋回時の旋回半径を求めることができる。
一方、前記台上試験機31において、車体角を変えるために、各架台32に図示しない旋回手段を備え、図5に矢示するように、各架台32をそれぞれ鉛直軸回りに旋回自在とすることが知られている(例えば特許文献1参照)。各架台32を旋回自在とした台上試験機31によれば、前記旋回手段により車両2の車体角を変更することができるので、重心回りのモーメントが0になる点を探すことにより前記定常円旋回時の旋回半径を求めることができると考えられる。
しかしながら、各架台32を旋回自在とした台上試験機31では、4つの架台32それぞれに前記旋回手段が設けられているので、車両2の左右の前輪3及び左右の後輪5の切り角が同一になるように各架台32を旋回させるためには、各旋回手段の旋回角度を高い精度で位置決めする必要があり、複雑な制御を必要とするという不都合がある。
特許第3476530号公報
本発明は、かかる不都合を解消して、車両の直進性を台上試験機により容易に評価することができる方法を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために、本発明の第1の態様は、車両の直進性を評価する方法であって、車両の前輪を回転可能に載置する前輪載置部と車両の後輪を回転可能に載置する後輪載置部とを備える台上試験機に測定車両を載せ、該前輪載置部及び該後輪載置部の中心線と該測定車両の中心線とが平行になるように該測定車両を拘束した後、前輪及び後輪を回転させて該測定車両の走行状態を擬似的に再現する工程と、擬似的走行状態の該測定車両の各車輪の横力を測定し、該横力から該測定車両の回転モーメントを求める工程と、回転モーメントが発生しているときに、該測定車両を鉛直軸回りに、該回転モーメントと同方向に旋回させ、該回転モーメントが0になる角度を求める工程と、該回転モーメントが0になる角度における各車輪の横力を測定し、該横力から該測定車両の定常円旋回時の旋回半径を求め、該旋回半径により車両の直進性を評価する工程とを備えることを特徴とする。
本発明の第1の態様では、まず、測定車両の前輪を前記前輪載置部に載置すると共に、後輪を前記後輪載置部に載置し、該前輪載置部及び該後輪載置部の中心線と該測定車両の中心線とが平行になるように該測定車両を拘束する。次に、前記前輪載置部及び前記後輪載置部により前記測定車両の前輪及び後輪を回転させて、該測定車両を擬似的走行状態とする。
次に、前記擬似的走行状態の前記測定車両の各車輪の横力を測定し、該横力から該測定車両の回転モーメントを求める。ここで、車両では、定常円旋回時には、重心回りのモーメントが0になっている。
そこで、次に、前記回転モーメントが発生しているときに、前記測定車両を鉛直軸回りに、該回転モーメントと同方向に旋回させ、該回転モーメントが0になる角度を求める。そして、前記回転モーメントが0になる角度における各車輪の横力を測定し、該横力から前記測定車両の定常円旋回時の旋回半径を求める。
本発明の第1の態様によれば、前記前輪載置部と前記後輪載置部とをそれぞれ旋回させることなく、前記測定車両自体を旋回させるので、前記測定車両の定常円旋回時の旋回半径を容易に求めることができ、該旋回半径により車両の直進性を評価することができる。
また、本発明の第2の態様は、車両の直進性を評価する方法であって、車両の前輪を回転可能に載置する前輪載置部と車両の後輪を回転可能に載置する後輪載置部とを備える台上試験機に測定車両を載せ、該前輪載置部及び該後輪載置部の中心線と該測定車両の中心線とが平行になるように該測定車両を拘束した後、前輪及び後輪を回転させて該測定車両の走行状態を擬似的に再現する工程と、擬似的走行状態の該測定車両の各車輪の横力としての第1の横力を測定し、第1の横力から該測定車両の回転モーメントを求める工程と、回転モーメントが発生しているときに、該測定車両を鉛直軸回りに、該回転モーメントと同方向に任意の角度に旋回させ、該角度における各車輪の横力としての第2の横力を測定する工程と、第1の横力と第2の横力とから、該角度に対する横力の変化量を求める工程と、該横力の変化量から該回転モーメントが0になる角度を求める工程と、該回転モーメントが0になる角度における各車輪の横力を求めると共に、該横力から該測定車両の定常円旋回時の旋回半径を求め、該旋回半径により車両の直進性を評価する工程とを備えることを特徴とする。
本発明の第2の態様では、まず、前記第1の態様と同一にして、前記測定車両を擬似的走行状態とする。
次に、前記擬似的走行状態の前記測定車両の各車輪の第1の横力を測定し、第1の横力から該測定車両の回転モーメントを求める。上述のように、車両では、定常円旋回時には、重心回りのモーメントが0になっている。
そこで、次に、前記回転モーメントが発生しているときに、前記測定車両を鉛直軸回りに、該回転モーメントと同方向に任意の角度に旋回させ、該角度における各車輪の横力としての第2の横力を測定する。次いで、第1の横力と第2の横力とから、該角度に対する横力の変化量を求め、該横力の変化量から該回転モーメントが0になる角度を求める。
次に、前記回転モーメントが0になる角度が求められたならば、該角度における各車輪の横力を求める。前記回転モーメントが0になる角度における各車輪の横力は、前記横力の変化量から求めることができる。
そして、前記回転モーメントが0になる角度における各車輪の横力から前記測定車両の定常円旋回時の旋回半径を求める。
本発明の第2の態様では、前記前輪載置部と前記後輪載置部とをそれぞれ旋回させることなく、前記測定車両自体を旋回させればよいのみならず、該測定車両自体を前記回転モーメントが0になるまで旋回させることなく、任意の角度に旋回させればよい。従って、本発明の第2の態様によれば、前記測定車両の定常円旋回時の旋回半径をさらに容易に求めることができ、該旋回半径により車両の直進性を評価することができる。
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本発明の車両の直進性評価方法に用いる台上試験機の構成を示す説明的側面図、図2は図1に示す台上試験機における拘束手段の旋回手段の構成を示す説明的平面図であり、図3は本発明の車両の直進性評価方法の第1の実施形態を示すフローチャート、図4は本発明の車両の直進性評価方法の第2の実施形態を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態の台上試験機1は、車両2の左右の前輪3を載せる前輪載置部としての左右1対の前輪載置ベルト4と、左右の後輪5を載せる後輪載置部としての左右1対の後輪載置ベルト6と、車両2が各ベルト4,6に載置されたときに車両2を拘束する拘束装置7と、拘束装置7を旋回させる旋回装置8とを備えている。
前輪載置ベルト4は、ギア支持枠10に支持された駆動ギア11と従動ギア12とに掛け渡され、駆動ギア11に設けられたモータ13により回転駆動される。また、後輪載置ベルト6は、同様にギア支持枠14に支持された駆動ギア11と従動ギア12とに掛け渡され、駆動ギア11に設けられたモータ13により回転駆動される。
各ギア支持枠10,14は、荷重センサ15を介してベースプレート16上に設けられている。荷重センサ15は3軸力を検出できる荷重センサであり、各ギア支持枠10,14の四隅に設けられている。そこで、横力測定装置1は、各前輪3及び後輪5について、4個の荷重センサ15の車幅方向の荷重の合計から横力(LFD)を算出することができる。また、横力測定装置1は、4個の荷重センサ15の出力から、前後力(TFD)、回転力(SAT)、荷重(RFD)も算出することができ、検査することができる。
ベースプレート16は、架台17上に設けられたスライドレール18に沿って車両2の左右方向(車幅方向)に移動自在に支持されている。架台17は床19上に設けられており、図示しない揺動装置により、車幅方向で揺動してカント角を調整できるようになっている。また、従動ギア12には、その回転速度を検出する速度計20が設けられている。
前記拘束装置7は、箱状に形成された枠体21と、該枠体21の上面の四隅に設けられた車両支持ピン22とを備え、図示しない昇降手段により上方に移動されて、車両支持ピン22が車両2の下面側に設けられた図示しない水抜き孔またはタイダウンフックに係合されることにより、車両2を拘束する。
また、図2に示すように、前記拘束装置7は枠体21を鉛直軸回りに旋回自在とする回転軸23を備えると共に、枠体21の側面に取着された腕部材24を介して、サーボモータ25により回転駆動されるネジ軸26に取着されたボールネジ27に接続されている。腕部材24には先端部に長孔28が設けられており、ボールネジ27に設けられた係合部材29が長孔27に係合されている。腕部材24及びボールネジ28は、拘束装置7を旋回させる旋回装置8を構成するものであり、拘束装置7は、ボールネジ28により腕部材24が前進または後退せしめられることに伴って、回転軸23回りに左右に旋回する構成となっている。
さらに、台上試験機1は、図示しないコンピュータ等の制御装置を備えており、該制御装置は、モータ13、サーボモータ25、ボールネジ28を駆動すると共に、荷重センサ15、速度計20、ボールネジ28等からの入力信号により横力等を算出する。
次に、図3及び図4を参照して、台上試験機1を用いた車両の直進性評価方法について説明する。
まず、本発明の第1の実施形態では、図3のSTEP1で、車両2の左右の前輪3を前輪載置ベルト4に載せ、車両2の左右の後輪5を後輪載置ベルト6に載せる。
次に、STEP2で、拘束装置7の枠体21を図示しない昇降手段により上方に移動し、車両支持ピン22を車両2の下面側に設けられた図示しない水抜き孔またはタイダウンフックに係合する。これにより、車両2は、ベルト4,6の中心線Cbと車両2の中心線Caとが平行になるようにされた状態で拘束される。
次に、STEP3で、モータ13により駆動ギア11を回転駆動することにより、ベルト4,6を介して前輪3及び後輪5を回転させる。これにより、車両2を擬似的走行状態とする。次に、従動ギア12の回転から速度計20により平均速度を検出し、予め設定された範囲内の速度、例えば30km/時となるように、車両2の速度を安定させる。
車両の速度が安定したならば、次に、STEP4でステアリングを離し、計測を開始する。
次に、STEP5で、左右の前輪3、左右の後輪5の各輪の横力から、車両2の重心回りの回転モーメントを算出する。前記回転モーメントを算出するときには、前記横力と共に、荷重センサ15により検出される各輪にかかる荷重を用いてもよい。
次に、STEP6で、前述のようにして算出された回転モーメントを評価する。ここで、前記回転モーメントが約0でなかったときには、STEP7で、サーボモータ25を駆動してボールネジ28を前進または後進せしめ、拘束装置7を回転軸23回りに、前記回転モーメントと同方向に旋回させる。尚、本明細書で「回転モーメントが約0である」とは、前記回転モーメントが0±8N・mの範囲にある状態をいう。そして、STEP6,7を繰り返すことにより、前記回転モーメントが約0になるまで、拘束装置7を旋回させる。
次に、STEP6で前記回転モーメントが約0になったならば、拘束装置7を停止して、STEP8に進み、拘束装置7の停止位置における車体角(ベルト4,6の中心線と車両2の中心線との成す角)に対する前記各輪の横力から、定常円旋回時の旋回半径を求める。前記旋回半径を求めるときには、前記回転モーメントを算出するときと同様に、前記横力と共に、荷重センサ15により検出される各輪にかかる荷重を用いてもよい。
尚、STEP6で前記回転モーメントが約0であるときには、そのままSTEP8に進み、STEP5における前記各輪の横力から、定常円旋回時の旋回半径を求める。
次に、本発明の第2の実施形態では、図4のSTEP1〜6は、図3のSTEP1〜6と全く同一にして行う。
そして、STEP6で前記回転モーメントが約0でなかったときには、STEP7でさらに、該回転モーメントの値の正負を判断する。そして、前記回転モーメントの値が正であったときには、右回り(時計回り)の回転モーメントが発生しているものと判断し、STEP8で、このときの各輪の横力を第1の横力として記録すると共に、このときの車体角を記録する。
次に、STEP9で、サーボモータ25を駆動してボールネジ28を前進せしめ、拘束装置7を回転軸23回りに右回りに、任意の角度で旋回させる。前記任意の角度は、例えば、前記回転モーメントが確実に左回りになる角度とすることができる。そして、STEP10で、このときの各輪の横力を第2の横力として記録すると共に、このときの車体角を記録する。
次に、STEP11で、前記第1及び第2の横力と、それぞれの横力に対応する車体角から、車体角に対する横力の変化量を算出し、該横力の変化量から回転モーメントが0になる車体角を算出する。
次に、STEP12で、前述のようにして算出された車体角に対する前記各輪の横力を求め、STEP13で、該横力から、定常円旋回時の旋回半径を求める。
また、STEP7で、前記回転モーメントの値が負であったときには、左回り(半時計回り)の回転モーメントが発生しているものと判断し、STEP14で、このときの各輪の横力を第1の横力として記録すると共に、このときの車体角を記録する。
次に、STEP15で、サーボモータ25を駆動してボールネジ28を後退せしめ、拘束装置7を回転軸23回りに左回りに、任意の角度で旋回させる。前記任意の角度は、例えば、前記回転モーメントが確実に右回りになる角度とすることができる。そして、STEP16で、このときの各輪の横力を第2の横力として記録すると共に、このときの車体角を記録する。
そして、以下、STEP11〜13では、前記回転モーメントの値が正であったときと、同一の手順により、前記横力から、定常円旋回時の旋回半径を求める。
尚、STEP6で前記回転モーメントが約0であるときには、そのままSTEP13に進み、STEP5における前記各輪の横力から、定常円旋回時の旋回半径を求める。
この結果、前記各実施形態によれば、前記定常円旋回時の旋回半径から車両2の直進性を評価することができる。
尚、本実施形態の横力測定装置1では、ベルト4,6は、モータ13の回転駆動力を駆動ギア11、従動ギア12により伝達して回転駆動されるようになっているが、駆動ギア11、従動ギア12に代えて、モータ13の回転駆動力をプーリにより伝達するようにしてもよい。