JP5083148B2 - マグネシウム合金部材 - Google Patents
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Description
本発明部材の基材を構成するマグネシウム合金は、Mgに添加元素を含有した種々の組成のもの(残部:Mg及び不純物)が利用でき、特に限定されない。例えば、Mg−Al系、Mg−Zn系、Mg−RE(希土類元素)系、Y添加合金などが挙げられる。特に、Alを含有するMg−Al系合金は、耐食性が高く好ましい。Mg−Al系合金としては、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg−Al−Zn系合金、Zn:0.2〜1.5質量%)、AM系合金(Mg−Al−Mn系合金、Mn:0.15〜0.5質量%)、AS系合金(Mg−Al−Si系合金、Si:0.6〜1.4質量%)、Mg−Al−RE(希土類元素)系合金、これらMg−Al系合金に更にBi、Sn、Pb、Ca及びBeからなる群から選択される1種以上の元素を添加した合金などが挙げられる。Alの含有量は、1.0質量%以上11質量%以下が好ましく、Al量が多くなるに従って耐食性や強度といった機械的特性に優れるが、多過ぎると塑性加工性が低下し易いため、耐食性、機械的特性及び成形性を考慮すると、8質量%以上11質量%以下がより好ましい。特に、Alを8〜11質量%、Znを0.2〜1.5質量%含有するMg−Al系合金、代表的にはAZ80や、AZ91相当材(例えば、AZ91E;8.3〜9.2質量%のAlを含有、AZ91D;Al8.5〜9.5質量%のAlを含有)が好適に利用できる。特にAZ91相当材は耐食性が高く、染料を使用した塗装の場合でも、塗装部からの水分の浸透があっても基材表面の腐食が進行しにくい。
基材は、代表的には、鋳造材を圧延した圧延材、この圧延材に更に熱処理やレベラー加工、研磨加工などを施した加工材、これら圧延材や加工材に更にプレス加工や曲げ加工、鍛造加工といった塑性加工を施した塑性加工材が挙げられる。圧延やプレス加工などの塑性加工が施された基材は、結晶粒径が細かく、鋳造材よりも強度といった機械的特性に優れるだけでなく、引け巣や空隙(ポア)といった内部欠陥や表面欠陥が少なく、良好な表面性状を有する。圧延材は、鋳造材に比べて表面欠陥が少ないことから、下塗層の形成前に、欠陥のパテ埋め(欠陥補正)や表面研磨の工程を低減できる、或いは行わなくてもよく、また、欠陥補正の不十分による不良品の発生を低減できるため、製品歩留まりの向上に寄与することができる。以下、鋳造条件及び圧延条件を説明する。
鋳造材は、双ロール法といった連続鋳造法、特に、WO/2006/003899に記載の鋳造方法で製造することが好ましい。連続鋳造法は、急冷凝固が可能であるため、酸化物や偏析などを低減でき、圧延といった塑性加工性に優れる鋳造材が得られる。また、この鋳造材に圧延を施すことで、その後のプレス加工などの塑性加工に悪影響を及ぼすような欠陥、例えば、粒径10μm以上といった粗大な晶析出物を消滅させられる。特に、AZ系合金では、Al量が多くなるほど晶析出物が生成され易い傾向にあるが、上記連続鋳造材に圧延を施すことで、合金組成にかかわらず上記欠陥が少ない圧延材が得られる。得られた鋳造材には、組成を均質化するための熱処理(溶体化処理、加熱温度:380〜420℃、加熱時間:60〜600分)や時効処理などを施してもよい。特に、AZ系合金の場合、Alの含有量が高いものは長時間溶体化を行うことが好ましい。鋳造材の大きさは特に問わないが、厚過ぎると偏析が生じ易いため、10mm以下が好ましい。
圧延は、加工対象の加熱温度を200〜400℃、圧延ロールの加熱温度を150〜250℃、1パスあたりの圧下率を10〜50%の条件で複数パス行うことが好ましい。また、所望の厚さの圧延材が得られるように、上記各条件を適宜組み合わせることが好ましい。上記各温度、及び1パスあたりの圧下率、パス数の条件を適宜組み合わせることで、例えば、圧延前の板厚が3〜8mmの加工対象を1mm以下、具体的には0.2mmの厚さまで圧延することが可能である。
得られた圧延材には、圧延材のうねりや結晶粒の配向などを矯正するためのレベラー加工や圧延材の表面を平滑化するための研磨加工を施すことが好ましい。レベラー加工は、例えば圧延材をローラーレベラーに通すことで行い、研磨加工は、湿式ベルト式研磨が代表的である。砥粒は♯240以上が好ましく、更に♯320以上、特に♯600が好ましい。上記予備加工が施された圧延材や、この圧延材にプレス加工といった塑性加工を施した塑性加工材は、後述のプライマーや染料等の層を形成しやすい。
プレス加工、深絞り加工、鍛造加工、ブロー加工、曲げ加工といった塑性加工は、圧延材の組織が再結晶化して、圧延材の機械的特性が大きく変化しないような温度範囲、具体的には300℃以下の温度、特に200〜300℃の温間で行うことが好ましい。このような温度で圧延材に塑性加工を行うと、塑性変形していない箇所の結晶粒の大きさがほとんど変化しないため、この箇所の強度は、塑性加工の前後で変化し難く、高強度を維持することができ、高強度な塑性加工材が得られる。
防食処理は化成処理、陽極酸化処理等により行われる。防食処理を行うと、基材表面のマグネシウムが酸化して、マグネシウムの酸化物が生成され、この酸化物からなる層が防食層として機能する。この防食層は、プレス加工といった塑性加工前に形成してもよいし、塑性加工後に形成してもよい。塑性加工前に防食層を具えると、塑性加工時にこの層が潤滑剤として機能する場合もある。更に、この防食層は、微細なクラック(ひび)が生じた状態を生じるため、そのクラックに下塗層の構成材料が入り込むことで、下塗層との密着性が高くなる。
下塗層は、水分等の腐食要因を基材へ浸透させない耐食性向上と、マグネシウム合金上の塗装膜の付着性および下塗層上の染料層あるいは散乱層との密着性をあげることを目的として配される。下塗層は樹脂剤によって形成される。樹脂剤とすることで染料層等と良好な密着性が得られる。使用される樹脂として、アルキド樹脂、アクリル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、アミド樹脂、エポキシ/アクリレート樹脂等があげられる。エポキシ樹脂系を使用する場合は、焼付型、二液型、一液型のものをスプレー法、ディップ法、または刷毛塗り法で塗布する。種類によって60〜180℃×10〜120分の熱処理(乾燥)を行って形成する。粉体塗料、または水性塗料でも付着性と耐食性が満たされるものであれば使用できる。下塗層は、厚さが10μm以上で30μm以下であることが好ましい。10μm未満では、均一な塗布が難しく、塗装膜全体で付着性、耐食性が満たされない場合があり好ましくない。また30μmを超えると、全体の塗装膜厚が大きくなり、付着性が悪くなる、製品の外形寸法が大きくなる、塗装コストが大きくなる、等の問題があり好ましくない。
マグネシウム合金部材に深みのある色彩感を与えるために、染料を含んだ層が下塗層の上に配される。染料層とは、染料を含んだ溶液を塗布することで形成される層である。着色方法としては、顔料を含んだ層を設けることも可能であるが、より深みのある色彩感を得るため、さらに自由度の高い良好な彩色を施すために染料を着色剤として用いる。染料層は、直接染料、酸性染料、含金属錯塩染料、油溶性染料等を各種溶媒に溶かしたものをスプレー法等で塗布し、50〜120℃×10〜100分の熱処理(乾燥)を行って形成する。染料層は、厚さが15μm以上で30μm以下であることが好ましい。15μm未満では、染料を用いても深みのある色彩感を得にくく、膜厚ばらつきによって色ムラとなるため好ましくない。また30μmを超えると、下塗層同様、全体の塗装膜厚が大きくなり、付着性が悪くなる、製品の外形寸法が大きくなる、塗装コストが大きくなる、等の問題があり好ましくない。
散乱層は、下塗層と染料層の間に配される。散乱層とは、金属粉末を含んだ溶液を塗布することで形成される層である。この散乱層は染料層を透過した光を乱反射させることを目的としている。透過光が乱反射することで、より深みのある色彩が得られる。散乱層は、Al、Ti、Ag等の金属微粉末を分散させた塗料をスプレー法等で塗布し、50〜120℃×10〜100分の熱処理(乾燥)を行って形成する。散乱層は、厚さが10μm以上で20μm以下であることが好ましい。10μm未満では、均一な塗装が難しく、上の染料層の透過光の散乱状態が均一でなくなり、色ムラとなって好ましくない。また20μmを超えると、付着性が悪くなる、製品の外形寸法が大きくなる、塗装コストが大きくなる、等の問題があり好ましくない。
透明層は、染料層の上に配される。この透明層は透明であり、かつ染料層との密着性に優れ、ある程度耐食性や表面硬度に優れるものであれば特に問わない。例えば、透明のアクリル樹脂などの樹脂を用いた公知のクリア塗装や透明のフッ素樹脂を利用することができる。上記樹脂などを利用して透明層を形成するには、湿式法(浸漬法、スプレー塗装、電着塗装など)、乾式(PVD法、CVD法)のいずれを利用してもよい。また、各種の紫外線硬化樹脂を用いることもできる。透明層を配することで染料層を保護すると共に、深みのある色彩感を得ることができる。透明層は、厚さが20μm以上で200μm以下であることが好ましい。20μm未満では薄すぎて深みのある色彩感が得られにくく、また保護層としての役目を果たしにくい。また200μmを超えると、付着性が悪くなり、染料層の色彩感がぼやけてしまう恐れがある。
マグネシウム合金からなる鋳造材、圧延材を作製し、下塗層、染料層の被覆処理を施し、外観についてのパネル試験、耐食性試験、付着性試験を行った。
酸エッチング:5%有機リン酸溶液の攪拌下、40℃、1分
脱スマット:10%KOH溶液の超音波攪拌下、60℃、5分
表面調整:pH8に調整した炭酸水溶液の攪拌下、60℃、5分
化成処理:10%リン酸を主成分とするA社製P系処理液+1%KOHを処理液として使用し、攪拌下、30℃、2分
乾燥:150℃、5分
下地処理までは試験例1と同様の処理を施した材料を用意し、被覆層の構成を下塗層、散乱層、染料層、透明層とした試験材を作製した。
得られた試験材について、任意の10人を対象としてパネルテストを実施した。10人中9人以上が深みのある色彩感があり、意匠性に優れるという回答を得た場合を◎、7人〜8人の場合を○、5人〜6人の場合を△、4人以下の場合を×と評価した。その結果を表1に示す。なお、パネルテストの対象は、パソコンや携帯電話などのマグネシウム合金部材を用いる製品のターゲット層(例えば、20歳代パソコン好きのグループなど)に応じて選ぶこともできる。
JIS Z2371(塩水噴霧試験方法)に準じ、各試験材に5%塩水を240時間噴霧した後の腐食発生の有無を評価した。
JIS K5600−5−6(付着性(クロスカット))に準じ、付着性試験を行い、塗布層の付着性を評価した。すなわち、塗布膜に1mm間隔で縦横に11本ずつ切り込みを入れ、その上に粘着テープを貼り付けて剥離し、マグネシウム合金表面から剥離した塗付膜の個数を数える。100個全てが剥離しないものを◎、剥離する数が10個以下の物を○、11個以上剥離する物を×とする。
11 下塗層
12 染料層
13 散乱層
14 透明層
Claims (4)
- 圧延されたマグネシウム合金材の少なくとも一表面に下塗層を有し、前記下塗層の上に染料層を有しているマグネシウム合金部材であって、前記下塗層と前記染料層の間にさらに散乱層を有していることを特徴とするマグネシウム合金部材。
- 前記染料層の上にさらに透明層を有していることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金部材。
- 前記マグネシウム合金材は、Mg−Al系マグネシウム合金で構成され、Alを8質量%以上11質量%以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載のマグネシウム合金部材。
- 前記Mg−Al系マグネシウム合金は、AZ91系であることを特徴とする請求項3に記載のマグネシウム合金部材。
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